(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】透明導電膜
(51)【国際特許分類】
C23C 18/18 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
C23C18/18
(21)【出願番号】P 2016233161
(22)【出願日】2016-11-30
【審査請求日】2019-11-19
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】森 美穂
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 翔平
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】宮部 裕一
【審判官】平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-016496(JP,A)
【文献】特開2008-297386(JP,A)
【文献】特開2013-008760(JP,A)
【文献】特開2016-098429(JP,A)
【文献】特開2015-138453(JP,A)
【文献】特開2008-231381(JP,A)
【文献】特開2016-025036(JP,A)
【文献】特開2006-182958(JP,A)
【文献】特開2009-263700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材
全面に、高分子微粒子とバインダーを含むめっき下地層を設け、
該めっき下地層上に線幅が20μm以下のパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜を設けた透明導電膜であって、
めっき下地層における高分子微粒子とバインダーの質量比が、高分子微粒子:バインダー=1:5~1:50であり、
前記バインダーが、メラミン系樹脂であり、
該めっき下地層の厚みが10~100nmであり、
全光線透過率が85%を超えるものであることを特徴とする透明導電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タッチパネル等で用いられる透明導電膜において、金属膜をパターニングする技術が知られている。
例えば透明導電膜の用途では、一般的にITO膜がよく使用されているが、抵抗値がより低い膜として、銅などの金属膜をメッシュ状にパターニングするメタルメッシュ法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1記載の公報には、基材フィルム上に還元性ポリマー微粒子とバインダーとが分散された塗料をコーティングしてポリマー層を形成し、該ポリマー層にマスクパターンを介して紫外線を照射して紫外線が照射された部分の還元性ポリマーの共役鎖を切断することにより該部分の還元力を低下させておき、その後、無電解めっき法により紫外線が照射されなかった部分のみに金属膜を形成させることによる、パターン化された金属膜が形成されためっきフィルムの製造方法が開示されている。
この方法は、還元性ポリマー微粒子を用いることにより、簡易な操作でパターン化された金属膜が形成されためっきフィルムが製造できるという点において優れた方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の方法で製造されるめっきフィルムは、以下のような問題点を有することが分った。
(1)特許文献1記載のめっきフィルムにおけるポリマー層は、その一部を失活させるために紫外線を多く照射する。そして、例えば開口幅が20μm以下のマスクを使用し、該マスクを介してポリマー層の一部に紫外線を照射した場合、該マスクの下に位置するポリマー層にも紫外線が回り込んで照射され、結果、20μm以下の細線幅を有する金属めっき膜を精度よく得ることができなかった。
(2)また、特許文献1記載のめっきフィルムにおけるポリマー層は、その一部が紫外線により照射される。その結果、ポリマー層におけるバインダーがダメージを受け、耐擦傷性や密着性が低下していた。
(3)また、例えば透明導電膜の用途としては、全光線透過率が85%を超える、すなわち高い全光線透過率を有するものが要求されており、特許文献1記載のめっきフィルムではそのような要求を満たすことができていなかった。
【0006】
従って、本発明は、上記課題を解決し得る、即ち、本発明は,線幅が20μm以下の細線幅を有する金属めっき膜であって、高い全光線透過率を有し、すなわち高透明な透明導電膜であると共に、耐擦傷性や密着性に優れる透明導電膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、
基材上に、高分子微粒子とバインダーを含むめっき下地層を設け、該めっき下地層上に線幅が20μm以下のパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜を設けた透明導電膜であって、
めっき下地層における高分子微粒子とバインダーの質量比が、高分子微粒子:バインダー=1:5~1:50であり、
該めっき下地層の厚みが10~100nmであることを特徴とする透明導電膜である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、線幅が20μm以下の金属めっき膜であって、高い全光線透過率を有し、すなわち高透明な透明導電膜であると共に、耐擦傷性や密着性に優れる透明導電膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の透明導電膜を製造するための一例を説明する概略図である。
【
図2】本発明の透明導電膜を製造するための別の例を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明のめっき物は、基材上に、高分子微粒子とバインダーを含むめっき下地層を設け、該めっき下地層上に線幅が20μm以下のパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜を設けた透明導電膜であって、
めっき下地層における高分子微粒子とバインダーの質量比が、高分子微粒子:バインダー=1:5~1:50であり、
該めっき下地層の厚みが10~100nmであることを特徴とする。
【0011】
[基材]
本発明の基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ガラス、金属等が挙げられる。
また、基材の形状は、特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状が挙げられる。他にも、基材として、例えば、射出成形などにより樹脂を成形した樹脂成形品が挙げられる。とりわけ、例えばポリイミド樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂からなるフィルム上に、線幅が20μm以下のパターン状金属めっき膜を設けることにより、透明導電膜として好適に使用できる。
【0012】
[めっき下地層]
本発明のめっき下地層は、前記基材上に設けた高分子微粒子とバインダーを層であると共に、めっき下地層における高分子微粒子とバインダーの質量比が、高分子微粒子:バインダー=1:5~1:50であり、該めっき下地層の厚みが10~100nmの範囲とする。
また、めっき下地層における高分子微粒子とバインダーの質量比が、高分子微粒子:バインダー=1:5~1:50の範囲を逸脱すると、例えば全光線透過率が85%以下となる、或いは、金属めっき膜の析出性が低下する。
また、めっき下地層の厚さが10~100nmの範囲を逸脱すると、例えば全光線透過率が85%以下となる、或いは、金属めっき膜の析出性が低下する。
【0013】
また、本発明のめっき下地層における高分子微粒子は、高分子微粒子上に触媒金属が吸着され、最終的に、導電性の高分子微粒子となる。したがって、めっき下地層を形成する際は、該樹脂層上に、例えば導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗料、或いは、還元性高分子微粒子とバインダーを含む塗料のいずれかを塗布し、適宜後述する脱ドープ処理を行って、触媒金属を吸着させ、結果的に、導電性の高分子微粒子となる。
【0014】
(導電性高分子微粒子)
上記の導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗料における導電性高分子微粒子とは、導電性を有する粒子であって、具体的には、0.01S/cm以上の導電率を有する粒子である。
また、導電性高分子微粒子としては、球形の微粒子であるものが挙げられ、その平均粒径(レーザー回析/散乱法により求められる値)は、10~100nmとするのが好ましい。
導電性高分子微粒子としては、導電性を有するΠ-共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
導電性高分子微粒子は、Π-共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性高分子微粒子を使用することもできる。
【0015】
(還元性高分子微粒子)
上記の還元性高分子微粒子とバインダーを含む塗料における還元性高分子微粒子としては、0.01S/cm未満の導電率を有するΠ-共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、黒色で光線反射率が低いポリピロールが挙げられる。
また、還元性高分子微粒子としては、0.005S/cm以下の導電率を有する高分子微粒子が好ましい。
還元性高分子微粒子は、Π-共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性高分子微粒子を使用することもできる。
また、還元性高分子微粒子としては、球形の微粒子であるものが挙げられ、その平均粒径(レーザー回析/散乱法により求められる値)は、10~100nmとするのが好ましい。
【0016】
本発明のめっき下地層における高分子微粒子としては、上記導電性高分子微粒子又は還元性高分子微粒子が挙げられ、これら高分子微粒子は、通常、有機溶媒に分散された分散液として使用されるが、これら高分子微粒子は、分散液中における分散安定性を維持するために、固形分として該分散液の質量の10質量%以下(固形分比)となるようにするのが好ましい。
そして、高分子微粒子を分散する有機溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n-オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n-オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0017】
(バインダー)
本発明のめっき下地層は、高分子微粒子と共にバインダーを含んだ層であってもよい。バインダーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリ(N-ビニルカルバゾール)系樹脂、炭化水素系樹脂、ケトン系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチルセルロース系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ABS系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂等が挙げられる。また、好ましくは、メラミン系樹脂であり、その理由としては無電解めっき法による金属めっき膜の析出性が良好となるからである。
【0018】
また、本発明のめっき下地層を形成する塗料は、導電性高分子微粒子(或いは、還元性高分子微粒子)とバインダー樹脂に加えて、溶媒等を含み得る。更には、用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n-オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n-オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。また、メチルセルソルブ等の多価アルコール誘導体溶媒、ミネラルスピリット等の炭化水素溶媒、ジヒドロターピネオール、D-リモネン等のテルペン類に分類される溶媒を用いることもできる。なお、バインダーを若干溶解する成分を含んだ溶媒を用いて、めっき下地層を形成するのがよい。
【0019】
[製造方法]
本発明における基材上に、パターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が設けられた透明導電膜の製造方法は、例えば以下の方法(
図1や
図2)が挙げられる。
先ず、
図1に示す透明導電膜の製造方法は、
1)基材上1に、高分子微粒子(導電性高分子微粒子又は還元性高分子微粒子)と、バインダーとを含む塗料を塗布してめっき下地層2を形成する工程(a)、
2)続いて、前記めっき下地層2上に、PR(フォトレジスト)樹脂を含む塗料を塗布してPR樹脂層3を形成する工程(b)、
3)続いて、前記PR樹脂層3をパターン状のマスク4を介して露光する工程(c)、
4)続いて前記露光後、現像によりパターンに従ってPR樹脂層3の一部分を除去する工程(d)、
5)続いて、前記現像により露出しためっき下地層3の上に、無電解めっき法により金属めっき膜5を設ける工程(e)、
6)続いて、パターン状に形成された金属めっき膜5同士の間に残っていた前記PR樹脂層3を剥離除去する工程(f)からなる製造方法である。
なお、工程(f)後に黒化処理を適宜行っても良い。
【0020】
1)工程(a)
工程(a)は、基材1上に、高分子微粒子(導電性高分子微粒子又は還元性高分子微粒子)と、バインダーとを含む塗料を塗布してめっき下地層2を形成する工程である。
なお、導電性高分子微粒子又は還元性高分子微粒子と、バインダーとを含む塗料を、樹脂層全面に印刷する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、スクリーンオフセット法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インプリント印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられ、また、印刷方法は、各印刷機を用いる通常の印刷法によって行うことができる。
また、上述したように、形成されるめっき下地層2は、その厚みが10nm~100nmであり、めっき下地層における高分子微粒子とバインダーの質量比が、高分子微粒子:バインダー=1:5~1:50である。
【0021】
2)工程(b)
工程(b)は、前記めっき下地層2上に、PR樹脂を含む塗料を塗布してPR樹脂層3を形成する工程である。
PR樹脂は、ポジ型、ネガ型の何れであってもよく、
図1に示す製造方法では、ポジ型のPR樹脂を使用し、後述する
図2に示す製造方法では、ネガ型のPR樹脂を使用している。
なお、PR樹脂含む塗料を、めっき下地層2全面に印刷する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、スクリーンオフセット法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インプリント印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられ、また、印刷方法は、各印刷機を用いる通常の印刷法によって行うことができる。
【0022】
3)工程(c)
工程(c)は、工程(b)で形成したPR樹脂層3をパターン状のマスク4を介して露光する工程である。
具体的には、マスクパターンを介して前記PR樹脂層3に紫外線等の光を照射することにより達成され得る。
マスクパターンは、ネガ型、ポジ型の何れでも適用できる。
照射する紫外線の光源としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、殺菌灯等の一般的に用いられる光源を用いることが出来る。
【0023】
4)工程(d)
工程(d)は、工程(c)における露光後、現像によりパターンに従ってPR樹脂層3の一部を除去する工程である。
具体的には、現像液に工程(c)で露光されたものを浸漬し、後述する金属めっき膜によるパターン部以外のPR樹脂層3を除去することにより達成される。
即ち、工程(b)でネガ型のフォトレジストを用いた場合は、露光されなかった部分のPR樹脂層3を除去して、パターンを形成し、ポジ型のフォトレジストを用いた場合は、露光された部分のフォトレジスト層を除去して、パターン状のPR樹脂層3を形成するものである。
【0024】
5)工程(e)
工程(e)は、工程(d)により露出しためっき下地層2上に無電解めっき法により金属めっき膜5を設ける工程である。
該工程において、導電性高分子微粒子を用いて形成されためっき下地層2は、脱ドープ処理を行った後に、無電解めっき法により金属めっき膜5が設けられ、また、還元性高分子微粒子を用いて形成されためっき下地層2は、脱ドープ処理を行うことなく無電解めっき法により金属めっき膜5が設けられる。
【0025】
脱ドープ処理としては、パターン化されためっき下地層が形成された基材を、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液で処理して還元する方法、又は、アルカリ性溶液で処理する方法が挙げられる。
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で処理するのが好ましい。
特に、導電性高分子微粒子を含むめっき下地層は非常に薄いものであるため、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。
例えば、1M 水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。
上記脱ドープ処理により、めっき下地層中に存在する導電性高分子微粒子は、還元性高分子微粒子となる。
【0026】
無電解めっき法としては、通常知られた方法に従って行うことができる。
即ち、導電性高分子微粒子を用いて形成されためっき下地層については、工程(d)の後に脱ドープ処理を行った後に、また、還元性高分子微粒子を用いて形成されためっき下地層は工程(d)の後に脱ドープ処理を行うことなく、露出しためっき下地層が形成された基材を、塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬した後、水洗等を行い、無電解めっき浴に浸漬することにより金属めっき膜を設けることができる。
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。
好ましい、具体的な触媒液としては、0.05%塩化パラジウム-0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。
上記の操作により、めっき下地層中の還元性高分子微粒子上に触媒金属が吸着され、最終的に、導電性の高分子微粒子となる。
【0027】
上記で処理された基材は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これによりパターン状の金属めっき膜が形成される。
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。
即ち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。
無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。
得られためっき品は、使用した基材のTgより低い温度範囲において、数時間以上、例えば、2時間以上養生するのが好ましい。
形成されるパターン状の金属めっき膜の厚さは、0.1ないし5μmの範囲とするのが好ましく、0.2ないし3μmの範囲とするのがより好ましい。
【0028】
5)工程(f)
工程(f)は、パターン状に形成された金属めっき膜4同士の間に残っていた前記PR樹脂層3を剥離除去する工程である。
除去する方法としては、例えばアルカリ水溶液や有機溶剤に浸漬する方法が挙げられる。
なお、基材の両面にパターン状の金属めっき膜を形成する場合は、例えば上記工程(a)~工程(f)の操作を繰り返すことにより達成され得る。
【0029】
また、必要に応じて、無電解めっき法により形成されたパターン状の金属めっき膜上に、電解めっき法による金属めっき膜を形成してもよく、また、工程(f)後、適宜黒化処理を行ってもよい。パターン状の金属めっき膜表面に対する黒化処理は、酸化処理(例えば、亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及びリン酸三ナトリウムの水溶液を用いる酸化処理)等を行って、例えば、CuO膜を形成することにより達成され、それ故に基材における金属めっき膜が形成されていない側から見た場合、金属光沢がなく、視認性が向上する。
【0030】
また、別の透明導電膜の製造方法としては、
図2に示すように、
1)基材上1に、高分子微粒子(導電性高分子微粒子又は還元性高分子微粒子)と、バインダーとを含む塗料を塗布してめっき下地層2を形成する工程(a)’、
2)続いて、めっき下地層2の上に、無電解めっき法により金属めっき膜5を設ける工程(b)’、
3)前記金属めっき膜5上に、PR(フォトレジスト)樹脂を含む塗料を塗布してPR樹脂層3を形成する工程(c)’、
4)続いて、前記PR樹脂層3をパターン状のマスク4を介して露光する工程(d)’、
5)続いて前記露光後、現像によりパターンに従ってPR樹脂層3の一部分を除去する工程(e)’、
6)続いて、前記現像により露出した金属めっき膜5の一部分をエッチング(除去)する工程(f)’、
7)続いて、残りの前記PR樹脂層3を剥離除去する工程(g)’からなる製造方法である。
なお、工程(g)’後に黒化処理を適宜行っても良い。
【0031】
図2に示す透明導電膜の製造方法において、
図1に示す透明導電膜の製造方法と異なる工程(b)’と工程(f)’について、以下に説明する。
それ以外の
図2に示す工程については、先ず工程(a)’は、前述の工程(a)の記載と同じになるため省略する。
次に、工程(c)’は、PR樹脂を含む塗料を、金属めっき膜5上に、塗布してPR樹脂層3を形成する工程以外は、前述の工程(b)の記載と同じになるため省略する。
次に、工程(d)’は、工程(c)の記載と概略同じになるため省略する。
次に、工程(e)‘は、工程(d)の記載と概略同じになるため省略する。
次に、工程(g)‘は、パターン状に形成された金属めっき膜5上に残っていた前記PR樹脂層3を剥離除去する工程以外は、工程(f)の記載と概略同じになるため省略する。
【0032】
工程(b)’
工程(b)’は、めっき下地層2上に無電解めっき法により金属めっき膜5を設ける工程である。
該工程において、導電性高分子微粒子を用いて形成されためっき下地層2は、脱ドープ処理を行った後に、無電解めっき法により金属めっき膜5が設けられ、また、還元性高分子微粒子を用いて形成されためっき下地層2は、脱ドープ処理を行うことなく無電解めっき法により金属めっき膜5が設けられる。
なお、脱ドープ処理、無電解めっき法については、
図1の工程(e)の説明と概略同じになるため省略する。
【0033】
工程(f)’
工程(f)’は、前記工程(e)’の現像により露出した金属めっき膜5の一部分をエッチング(除去)する工程である。
エッチング(除去)する方法としては、例えば塩化第二鉄水溶液、硫酸-過酸化水素水溶液、硫酸-過硫酸ナトリウム水溶液に浸漬する方法が挙げられる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
製造例1:めっき下地層用塗料の調製A
アニオン性界面活性剤ペレックスOT-P(花王(株)製)1.5mmol、トルエン10mL、イオン交換水100mLを加えて20に保持しつつ乳化するまで撹拌した。
得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間撹拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行った。
反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエンに分散した導電性ポリピロール微粒子を得た。ここで得られたトルエン分散液中の導電性ポリピロール微粒子の固形分は、約5.0%であった。なお、導電性ポリピロール微粒子の粒径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計 UPA-EX250(日機装(株)製))で測定した結果、最大粒径が100nmであった。
ここに、バインダーとしてスーパーベッカミンJ-820:メラミン系樹脂(DIC(株)製)を加え、固形分比で導電性ポリピロール微粒子:バインダー樹脂=1:20、かつ固形分が約5.0%となるようにめっき下地層用塗料Aを調製した。
【0035】
製造例2:めっき下地層用塗料の調製B
固形分比で導電性ポリピロール微粒子:バインダー樹脂=1:50となるように配合させた以外は、製造例1と同様の方法にてめっき下地層用塗料Bを調製した。
【0036】
製造例3:めっき下地層用塗料の調製C
固形分比で導電性ポリピロール微粒子:バインダー樹脂=1:5となるように配合させた以外は、製造例1と同様の方法にてめっき下地層用塗料Cを調製した。
【0037】
製造例4:めっき下地層用塗料の調製D
固形分比で導電性ポリピロール微粒子:バインダー樹脂=1:60となるように配合させた以外は、製造例1と同様の方法にてめっき下地層用塗料Dを調製した。
【0038】
製造例5:めっき下地層用塗料の調製E
固形分比で導電性ポリピロール微粒子:バインダー樹脂=1:3となるように配合させた以外は、製造例1と同様の方法にてめっき下地層用塗料Eを調製した。
【0039】
製造例6:めっき下地層用塗料の調整F
バインダーとして、バイロン240:ポリエステル系樹脂(東洋紡績(株)製)を用いた以外は、製造例1と同様の方法にてめっき下地層用塗料Fを調製した。
【0040】
実施例1
[工程a]
PETフィルム基材: コスモシャインA4100(東洋紡(株)製)上に、製造例1で調製しためっき下地層用塗料Aをバーコーターにて塗工し、120℃で5分間乾燥して、厚みが50nmのめっき下地層を形成した。
ここで、工程aで形成されためっき下地層の厚みについて、走査型電子顕微鏡 JSM-6700F(日本電子(株)製)にてめっき下地層断面を観察し、任意の10箇所の膜厚を測定し、その膜厚の平均値を「めっき下地層の厚み」とし、結果、厚みが50nmであった。 なお、実施例2~6、および比較例1~5の各「めっき下地層の厚み」についても、同様の方法にて測定し、平均値を算出した結果である。
【0041】
また、1)めっき下地層を設けた基材と、2)基材のみに対して、紫外・可視分光分析装置(日本分光(株)製のV-570)を用いて全光線透過率をそれぞれ測定した。
次に、以下(式1)に従ってめっき下地層の光線透過率を算出した。
(式1):[1)めっき下地層を設けた基材の全光線透過率 / 2)基材のみの全光線透過率]×100=めっき下地層の光線透過率とした。
その結果、めっき下地層の光線透過率は、100%であった。すなわち、実施例1におけるめっき下地層は、基材が有する全光線透過率を低下させるものではなかった。
なお、後述する実施例2~6、および比較例1~5におけるめっき下地層の光線透過率も同じ方法を用いて測定し、算出した値である。
【0042】
[工程b]
続いて、工程aで形成されためっき下地層上に、ネガ型感光性レジストOMR-83(東京応化工業(株)製)をバーコーターにて塗工し、85℃で30分間乾燥して、厚みが2μmのPR樹脂層を形成した。
【0043】
[工程c]
続いて、L/S=3μm/300μmの格子パターンを持つフォトマスクを介して、高圧水銀灯にて露光した。
【0044】
[工程d]
続いて、OMR現像液(東京応化工業(株)製)に1分間浸漬して現像を行い、パターン状のPR樹脂層を形成した。
【0045】
[工程e]
続いて、工程dでPR樹脂層の一部分が除去された、すなわち、めっき下地層が露出している部位に対して、1M水酸化ナトリウム溶液に35℃で5分間浸漬して表面処理(脱ドープ処理)を行った。
続いて、0.02%塩化パラジウム-0.01%塩酸水溶液に35℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗した。
続いて、無電解めっき浴ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し、線幅が3μmで、厚みが300μmの銅めっき膜を得た。
【0046】
[工程f]
続いて、工程(e)で形成された無電解めっき法による金属めっき膜同士の間に形成されたPR樹脂層を剥離し、具体的にはOMR剥離液502A(東京応化工業(株)製)に1分間浸漬して剥離し、基材上にパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が形成された透明導電膜を得た。
【0047】
実施例2
[工程a]において形成するめっき下地層の厚みを10nmとした以外は、実施例1と同様の方法にて、基材上にパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が形成された透明導電膜を得た。
【0048】
なお、実施例2におけるめっき下地層の光線透過率について、実施例1と同じ方法を用いて測定し、算出した結果、100%であった。
【0049】
実施例3
[工程a]において形成するめっき下地層の厚みを100nmとした以外は、実施例1と同様の方法にて、基材上にパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が形成された透明導電膜を得た。
【0050】
なお、実施例3におけるめっき下地層の光線透過率について、実施例1と同じ方法を用いて測定し、算出した結果、99%であった。
【0051】
実施例4
製造例2のめっき下地層用塗料Bを用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、基材上にパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が形成された透明導電膜を得た。
【0052】
なお、実施例4におけるめっき下地層の光線透過率について、実施例1と同じ方法を用いて測定し、算出した結果、100%であった。
【0053】
実施例5
製造例3のめっき下地層用塗料Cを用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、基材上にパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が形成された透明導電膜を得た。
【0054】
なお、実施例5におけるめっき下地層の光線透過率について、実施例1と同じ方法を用いて測定し、算出した結果、98%であった。
【0055】
実施例6
製造例6のめっき下地層用塗料Fを用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、基材上にパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が形成された透明導電膜を得た。
【0056】
なお、実施例6におけるめっき下地層の光線透過率について、実施例1と同じ方法を用いて測定し、算出した結果、100%であった。
【0057】
比較例1
[工程a]において形成するめっき下地層の厚みを5nmとした以外は、実施例1と同様の方法にて、基材上にパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が形成された透明導電膜を得た。
【0058】
なお、比較例1におけるめっき下地層の光線透過率について、実施例1と同じ方法を用いて測定し、算出した結果、100%であった。
【0059】
比較例2
[工程a]において形成するめっき下地層の厚みを150nmとした以外は、実施例1と同様の方法にて、基材上にパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が形成された透明導電膜を得た。
【0060】
なお、比較例2におけるめっき下地層の光線透過率について、実施例1と同じ方法を用いて測定し、算出した結果、94%であった。
【0061】
比較例3
製造例4のめっき下地層用塗料Dを用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、基材上にパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が形成された透明導電膜を得た。
【0062】
なお、比較例3におけるめっき下地層の光線透過率について、実施例1と同じ方法を用いて測定し、算出した結果、100%であった。
【0063】
比較例4
製造例5のめっき下地層用塗料Eを用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、基材上にパターン状の無電解めっき法による金属めっき膜が形成された透明導電膜を得た。
【0064】
なお、比較例4におけるめっき下地層の光線透過率について、実施例1と同じ方法を用いて測定し、算出した結果、85%であった。
【0065】
比較例5
アニオン性界面活性剤ペレックスOT-P(花王株式会社)0.42mmol、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤エマルゲン409P(花王株式会社)2.1mmol、トルエン50mL、イオン交換水100mLを加えて20℃に保持しつつ乳化するまで撹拌した。
得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間撹拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行った。反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエンに分散した還元性能を有するポリピロール微粒子を得た。なお、ポリピロール微粒子の導電率は0.001S/cmであった。 上記で得られたトルエン分散液中のポリピロールの固形分は、約1.3%であったが、ここに、バインダーとしてスーパーベッカミンJ-820(大日本インキ化学工業)を加え、ポリピロール:バインダー樹脂=1:3、固形分約5%となる還元性を有したポリピロール塗料を調製した。得られた塗料の分散安定性は良好であった。
上記で調製した塗料を、100μmの厚みのポリエステルフィルムにバーコーター(No.8)で、薄くコーティングし、120℃で5分乾燥し塗膜を作成した。この乾燥後の塗工膜の厚みは150nmの極めて薄い均一な膜であった。
この薄膜に、線幅20μm、ピッチ280μmに描いたポジフィルムマスクパターン(L/S=20μm/280μm)を重ね、2KWハロゲンランプで15分間光照射した。
このポリピロールパターンが形成されたフィルムを塩化パラジウム溶液中に室温で5分間浸漬後、水道水で水洗した。
次に、該フィルムを無電解銅めっき浴に浸漬すると、およそ10分程度で紫外線非照射部のパターン部にのみ銅めっきが施されたポリエステルフィルムが得られた。
【0066】
なお、比較例5におけるめっき下地層の光線透過率について、実施例1と同じ方法を用いて測定し、算出した結果、82%であった。
【0067】
試験例1
実施例1~6、および比較例1~5で得られた透明導電膜について、めっき析出性、全光線透過率、ヘーズ、耐擦傷性、密着性の各評価を行い、その結果を表1に示した。
なお、評価方法および評価基準は以下の通りとした。
【0068】
<めっき析出性>
[評価方法]
得られた透明導電膜から10cm×10cm角に切断して試験試料を得た。
次に、得られた試験試料の両端にテスターを当てての導通テストを任意の10点で実施した。
[評価基準]
○:任意の8点以上で導通が確認された。
△:任意の1~7点で導通が確認された。
×:任意の10点何れにおいても導通が確認されなかった。
【0069】
<全光線透過率>
[評価方法]
得られた透明導電膜に対して、紫外・可視分光分析装置(日本分光(株)製のV-570)を用いて、全光線透過率を測定した。
[評価基準]
○:全光線透過率が90%以上であった。
△:全光線透過率が85%を超えて90%未満であった。
×:全光線透過率が85%以下であった。
【0070】
<ヘーズ>
[評価方法]
得られた透明導電膜に対して、ヘーズメーターHZ-V3(スガ試験機(株)製)を用いて、ヘーズを測定した。
[評価基準]
○:ヘーズ値が1.5%以下であった。
△:ヘーズ値が1.5%を超えて2.0%未満であった。
×:ヘーズ値が2.0%以上であった。
【0071】
<耐擦傷性>
[評価方法]
得られた透明導電膜から、30mm×100mm以上の大きさに切断して試験試料を得た。次に、得られた試験試料の表面をスチールウール(日本スチールウール(株)製のボンスター♯0000)に200g荷重を掛けて30往復させ、傷の状況を目視で確認し、以下の基準に従って判断した。
[評価基準]
○:傷が全く無い。
△:細かな傷はあるが,視認性への影響は小さい。
×:明らかな傷があり,視認性を損なう。
【0072】
<密着性>
[評価方法]
JIS H8504に準じてテープ試験により引き剥がし試験を実施した。
引き剥がし試験を合格したものに関しては、2mmの正方形ができるように素地まで達する条痕を作り、テープ試験を実施した(碁盤目試験)。引き剥がしたテープの粘着面に、めっきの付着があった場合は不合格とした。
[評価基準]
◎:碁盤目試験合格
○:テープ試験合格、碁盤目試験不合格
×:テープ試験不合格
【0073】
【符号の説明】
【0074】
1:基材
2:めっき下地層
3:PR樹脂層
4:マスク
5:金属めっき膜