(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】植物油けん化物組成物
(51)【国際特許分類】
A23K 20/163 20160101AFI20220622BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20220622BHJP
A23K 20/24 20160101ALI20220622BHJP
A23K 20/189 20160101ALI20220622BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20220622BHJP
【FI】
A23K20/163
A23K20/158
A23K20/24
A23K20/189
A23K10/30
(21)【出願番号】P 2018022027
(22)【出願日】2018-02-09
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】堀 周
(72)【発明者】
【氏名】岸 瑤介
(72)【発明者】
【氏名】蓮野 裕貴
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-138564(JP,A)
【文献】特開平03-047043(JP,A)
【文献】特開平02-234684(JP,A)
【文献】特開昭63-313547(JP,A)
【文献】特開2015-204823(JP,A)
【文献】特開2018-011535(JP,A)
【文献】特開平08-336360(JP,A)
【文献】特開平04-053454(JP,A)
【文献】油脂の脂肪酸組成表|カネダ株式会社,2017年05月09日,https://web.archive.org/web/20170509214954/https://www.kaneda.co.jp/jigyou/oils_composition.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 20/00 - 20/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)全構成脂肪酸質量に対して不飽和脂肪酸を60質量%以上含む油脂A、飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bからなる群より選択される1種類の油脂または2種類以上の油脂の混合物、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)リパーゼ、
(e)抗酸化性を有するカラメル
(f)その他任意の成分
を下記条件を満たす比率で混合し、
[条件:油脂Aと油脂Bの合計質量は前記(a)~(f)の合計質量に対し、65~85質量%であり、油脂Aと油脂Bの質量比が10:0~7:3であり、前記(a)~(f)の合計質量に占める油脂Bの含有量をX(質量%)、前記(a)~(f)の合計質量に占める各種脂肪酸の含有量から下記計算式によって表される酸化難易度をY、前記(a)~(f)の合計質量に占める(e)抗酸化性を有するカラメルの含有量をZ(質量%)とした際、Zが下記式(1)及び(2)を満たす、
(1)(i) 0≦X<35の場合:0<Z≦5
(2)(i) 0≦Y<0.3の場合:0<Z≦5
(ii) 0.3≦Y<1.05の場合:1.8Y-0.54≦Z≦5
(iii) 1.05≦Y<3.9の場合:-1/(4(Y-0.95))+2Y+1.75≦Z≦5
酸化難易度Y=1価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×0.89×10
-3
+2価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×21×10
-3
+3価以上の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×39×10
-3]
30~80℃の温度で反応させて得られる脂肪酸カルシウム塩を含む飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項2】
前記(a)のうち、油脂Aと油脂Bの質量比が9
:1~7:3である、請求項1記載の飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項3】
前記(a)~(f)の合計質量に対する、(a)油脂の含有量が65~85質量%、(b)水酸化カルシウムの含有量が5~15質量%、及び(c)水の含有量が2~15質量%であり、(a)油脂100gに対し、(d)リパーゼの添加量が20~10000Uである、請求項1または請求項2のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項4】
前記(e)カラメルが、0.5以上の抗酸化性(抗酸化性は、0.5mMの1,1-ジフェニル-2-プクリルヒドラジル(DPPH)エタノール溶液と35℃で30分間反応した後のカラメル1mg当たりの517nmの吸光度の減少量として定義される)を有する、請求項1~3のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項5】
粉末状あるいは粒子状である、請求項1~4のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項6】
0.125mm以下の直径を有する粒子が10質量%以下、2.8mm超過の直径を有する粒子が10質量%以下である、請求項5に記載の飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項7】
50℃で1週間保存した際の過酸化物価が1meq/kg以下である、請求項5または請求項6のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項8】
(a)不飽和脂肪酸を主成分とする油脂A、飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bからなる群より選択される1種類の油脂または2種類以上の油脂の混合物、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)リパーゼ、
(e)抗酸化性を有するカラメル、及び
(f)その他任意の成分
を、下記条件を満たす比率で混合し、
[条件:前記(a)~(f)の合計質量に占める油脂Bの含有量をX(質量%)、前記(a)~(f)の合計質量に占める各種脂肪酸の含有量から下記計算式によって表される酸化難易度をY、前記(a)~(f)の合計質量に占める(e)抗酸化性を有するカラメルの含有量をZ(質量%)とした際、Zが下記式(1)及び(2)を満たす、
(1)(i) 0≦X<35の場合:0<Z≦5
(ii) 35≦X<60の場合:0.004(X-35)
2≦Z≦5
(iii) 60≦X<100の場合:2.5≦Z≦5
(2)(i) 0≦Y<0.3の場合:0<Z≦5
(ii) 0.3≦Y<1.05の場合:1.8Y-0.54≦Z≦5
(iii) 1.05≦Y<3.9の場合:-1/(4(Y-0.95))+2Y+1.75≦Z≦5
酸化難易度Y=1価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×0.89×10
-3
+2価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×21×10
-3
+3価以上の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×39×10
-3]
30~80℃の温度で反応させること、及び反応生成物の硬度が、4000gf以上11000gfを超えないことを特徴とする、脂肪酸カルシウム塩を含む飼料用植物油けん化物組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飼料用植物油けん化物組成物に関する。
【0002】
畜産用飼料に、エネルギー源としてトリグリセリド、脂肪酸などの脂質を混合して用いることは広く行われているが、その中でも植物油のけん化物である脂肪酸の金属塩、特に脂肪酸カルシウムをエネルギー源として供給すると効率的であることが報告されており、特許文献1には、脂肪酸カルシウムを含む飼料の供給により、養殖魚介類の生存率を向上させることが報告されている。
畜産動物の中でもウシ、ヤギ、ヒツジのような反芻動物では、脂肪の多給は第1胃(ルーメン)に悪影響を及ぼし、第1胃内での消化率を低下させると共に食欲減退を招くという問題がある。そのため、第1胃で溶解または消化せず第4胃やそれ以降の小腸内で消化されるようにしたいわゆるバイパス油脂が必要とされており、そのようなバイパス油脂の1つとして脂肪酸カルシウムが知られている。
飼料に添加する脂質は、給餌作業や他飼料との混合作業等の観点から、顆粒状あるいは粒子状の形態が望ましい。
また、脂肪酸の金属塩を含む顆粒状粒子の構造について特許文献2に報告があるが、この文献に記載される方法で作製された脂肪酸金属塩の顆粒状粒子は、臭い及び嗜好性に劣るという問題がある。
一方、脂質の中でも多価不飽和脂肪酸は栄養機能に優れているが、酸化安定性が悪く、酸化劣化が起こりやすいという問題があり、酸化劣化を起こすと風味が著しく悪くなり、畜産飼料の臭い及び嗜好性を悪くするうえ、家畜の健康に悪影響を与えるという問題がある。そのため、飼料においては、エトキシキンなどの合成酸化防止剤が使用されているが、慢性毒性や発がん性試験の結果から、一日摂取許容量が設定されている(0.06mg/kg体重)。
特許文献3には、不飽和脂肪酸を含有する脂肪酸カルシウム塩に抗酸化性を有するカラメルを添加する例が挙げられているが、そのようなカラメルをある濃度以上添加すると得られる脂肪酸金属塩の付着性が増してしまい、顆粒状あるいは粒子状にするべく粉砕した際、粉砕機に付着し歩留まりが悪くなるという問題がある。
また、特許文献3に記載の飽和脂肪酸含量の高い、常温で固体脂であるパーム油を配合した脂肪酸カルシウムは、粉砕時に粒子が細かくなり過ぎ、飛散して作業環境を悪化させるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-266793号
【文献】特表2002-543806号
【文献】特開平6-315350号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決することである。すなわち、反芻動物を含む家畜一般において効率的なエネルギー源として給与できる飼料用植物油けん化物組成物であって、毒性の強いエトキシキンなどの合成酸化防止剤を添加せずとも保存安定性が高く、粉砕時に飛散せず、粉砕機に付着せず、歩留まりも良好な飼料用植物油けん化物組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、油脂、水酸化カルシウム、水、リパーゼ、所定量の抗酸化性を有するカラメルを加えて、所定温度で反応を行うことにより、上記課題を達成する飼料用植物油けん化物組成物を製造できることを見出し、本発明を完成した。
本発明者らは、特に、油脂中の飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bの量と(e)抗酸化性を有するカラメルの含有量の関係により、反応混合物の硬度が変化すること、さらに反応混合物を破砕する時の粒子の飛散状況が異なることに気がついた。理論に拘束されるものではないが、これは油脂Bの量が多いと、生成する飼料用植物油けん化物組成物の脂肪酸部分の多くが飽和脂肪酸となるため硬度が高くなり、破砕時に粒子は細かくなるが、抗酸化性を有するカラメルを特定の量で含ませることにより、脂肪酸カルシウムの周りをコーティングして、硬度を低くし、また、粒子同士が結着するために飛散が抑制されるためと考えられる。
また、各種脂肪酸の含有量から算出される酸化難易度に対し、抗酸化性を有するカラメルを特定の量で含ませることにより、一定の酸化安定性を達成することも見いだした。
【0006】
すなわち、本発明は以下を提供する。
<1>
(a)不飽和脂肪酸を主成分とする油脂A、飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bからなる群より選択される1種類の油脂または2種類以上の油脂の混合物、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)リパーゼ、
(e)抗酸化性を有するカラメル、及び
(f)その他任意の成分
を下記条件を満たす比率で混合し、
[条件:前記(a)~(f)の合計質量に占める油脂Bの含有量をX(質量%)、前記(a)~(f)の合計質量に占める各種脂肪酸の含有量から下記計算式によって表される酸化難易度をY、前記(a)~(f)の合計質量に占める(e)抗酸化性を有するカラメルの含有量をZ(質量%)とした際、Zが下記式(1)及び(2)を満たす、
(1)(i) 0≦X<35の場合:0<Z≦5
(ii) 35≦X<60の場合:0.004(X-35)2≦Z≦5
(iii) 60≦X<100の場合:2.5≦Z≦5
(2)(i) 0≦Y<0.3の場合:0<Z≦5
(ii) 0.3≦Y<1.05の場合:1.8Y-0.54≦Z≦5
(iii) 1.05≦Y<3.9の場合:-1/(4(Y-0.95))+2Y+1.75≦Z≦5
酸化難易度Y=1価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×0.89×10-3
+2価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×21×10-3
+3価以上の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×39×10-3]
30~80℃の温度で反応させて得られる、脂肪酸カルシウム塩を含む飼料用植物油けん化物組成物。
<2>
前記(a)のうち、不飽和脂肪酸を主成分とする油脂Aと飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bの質量比が10:0~2:8である、<1>記載の飼料用植物油けん化物組成物。
<3>
前記(a)~(f)の合計質量に対する、(a)油脂の含有量が65~85質量%、(b)水酸化カルシウムの含有量が5~15質量%、及び(c)水の含有量が2~15質量%であり、(a)油脂100gに対し、(d)リパーゼの添加量が20~10000Uである、<1>~<2>のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
<4>
前記(e)カラメルが、0.5以上の抗酸化性(抗酸化性は、0.5mMの1,1-ジフェニル-2-プクリルヒドラジル(DPPH)エタノール溶液と35℃で30分間反応した後のカラメル1mg当たりの517nmの吸光度の減少量として定義される)を有する、<1>~<3>のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
<5>
粉末状あるいは粒子状である、<1>~<4>のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
<6>
0.125mm以下の直径を有する粒子が10質量%以下、2.8mm超過の直径を有する粒子が10質量%以下である、<5>に記載の飼料用植物油けん化物組成物。
<7>
50℃で1週間保存した際の過酸化物価が1meq/kg以下である、<5>または<6>のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
<8>
(a)不飽和脂肪酸を主成分とする油脂A、飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bからなる群より選択される1種類の油脂または2種類以上の油脂の混合物、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)リパーゼ、
(e)抗酸化性を有するカラメル、及び
(f)その他任意の成分
を、下記条件を満たす比率で混合し、
[条件:前記(a)~(f)の合計質量に占める油脂Bの含有量をX(質量%)、前記(a)~(f)の合計質量に占める各種脂肪酸の含有量から下記計算式によって表される酸化難易度をY、前記(a)~(f)の合計質量に占める(e)抗酸化性を有するカラメルの含有量をZ(質量%)とした際、Zが下記式(1)及び(2)を満たす、
(1)(i) 0≦X<35の場合:0<Z≦5
(ii) 35≦X<60の場合:0.004(X-35)2≦Z≦5
(iii) 60≦X<100の場合:2.5≦Z≦5
(2)(i) 0≦Y<0.3の場合:0<Z≦5
(ii) 0.3≦Y<1.05の場合:1.8Y-0.54≦Z≦5
(iii) 1.05≦Y<3.9の場合:-1/(4(Y-0.95))+2Y+1.75≦Z≦5
酸化難易度Y=1価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×0.89×10-3
+2価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×21×10-3
+3価以上の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×39×10-3]
30~80℃の温度で反応させることを特徴とする、脂肪酸カルシウム塩を含む飼料用植物油けん化物組成物の製造方法。
<9>
30~80℃の温度における反応開始から48時間後における反応生成物の硬度が、4000gf以上11000gfを超えないことを特徴とする、<8>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、保存安定性が高く、粉砕時に飛散せず、粉砕機に付着しない、飼料用植物油けん化物組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】油脂Bの含有量Xと抗酸化性を有するカラメルの含有量Zが、生成物の飛散に及ぼす効果を示すグラフである。
【
図2】酸化難易度Yと抗酸化性を有するカラメルの含有量Zが、生成物の保存安定性に及ぼす効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の飼料用植物油けん化物組成物は以下のとおりである。
(a)不飽和脂肪酸を主成分とする油脂A、飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bからなる群より選択される1種類の油脂または2種類以上の油脂の混合物、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)リパーゼ、
(e)抗酸化性を有するカラメル、及び
(f)その他任意の成分
を下記条件を満たす比率で混合し、
[条件:前記(a)~(f)の合計質量に占める油脂Bの含有量をX(質量%)、前記(a)~(f)の合計質量に占める各種脂肪酸の含有量から下記計算式によって表される酸化難易度をY、前記(a)~(f)の合計質量に占める(e)抗酸化性を有するカラメルの含有量をZ(質量%)とした際、Zが下記式(1)及び(2)を満たす、
(1)(i) 0≦X<35の場合:0<Z≦5
(ii) 35≦X<60の場合:0.004(X-35)2≦Z≦5
(iii) 60≦X<100の場合:2.5≦Z≦5
(2)(i) 0≦Y<0.3の場合:0<Z≦5
(ii) 0.3≦Y<1.05の場合:1.8Y-0.54≦Z≦5
(iii) 1.05≦Y<3.9の場合:-1/(4(Y-0.95))+2Y+1.75≦Z≦5
酸化難易度Y=1価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×0.89×10-3
+2価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×21×10-3
+3価以上の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×39×10-3]
30~80℃の温度で反応させて得られる脂肪酸カルシウム塩を含む飼料用植物油けん化物組成物。
【0010】
本明細書において、「飼料用植物油けん化物組成物」とは、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの反芻動物、ニワトリなどの家禽、ブタなど、畜産動物全般の飼料に添加する植物油けん化物組成物である。特に反芻動物では、脂肪の多給は第1胃(ルーメン)に悪影響を及ぼし、第1胃内での消化率を低下させると共に食欲減退を招くという問題があるが、本発明の飼料は、脂肪酸カルシウムのような脂肪酸金属塩を含むことにより、第1胃で溶解または消化せず第4胃やそれ以降の小腸内で消化されるため、反芻動物にも問題なく給与することができる。また顆粒状あるいは粒子状の形態である場合は、飼料に均一に混合することができ、また保存安定性も良く、匂い、嗜好性に関しても優れた飼料用植物油けん化物組成物を提供することができる。
本発明の飼料用植物油けん化物組成物は、一般的な畜産飼料に添加して使用することができる。飼料の製造段階に添加して、本発明の飼料用植物油けん化物組成物を含む畜産飼料組成物を製造してもよく、あるいは給餌段階で一般的な畜産飼料に添加して使用してもよい。飼料用植物油けん化物組成物は飼料に均一に混合することができるという観点から、顆粒状あるいは粒子状であることが好ましい。
飼料用植物油けん化物組成物の原料や他の添加剤は、一般に使用されているものであれば特に制限はない。
【0011】
本明細書において(a)「不飽和脂肪酸を主成分とする油脂A」とは、不和飽和脂肪酸を主たる構成脂肪酸として含む油脂を意味し、「飽和脂肪酸を主成分とする油脂B」とは、飽和脂肪酸を主たる構成脂肪酸として含む油脂を意味する。
「不飽和脂肪酸を主成分とする」あるいは「不飽和脂肪酸を主たる構成脂肪酸として含む」とは、全構成脂肪酸質量に対して不飽和脂肪酸を50質量%を超える量で含むことを意味する。また、「飽和脂肪酸を主成分とする」あるいは「飽和脂肪酸を主たる構成脂肪酸として含む」とは、全構成脂肪酸質量に対して飽和脂肪酸を50質量%を超える量で含むことを意味する。
飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bは、全構成脂肪酸質量に対して飽和脂肪酸を好ましくは55質量%以上含み、より好ましくは60質量%以上である。70質量%以上、75質量%以上、あるいは80質量%以上であってもよい。
不飽和脂肪酸を主成分とする油脂Aは、全構成脂肪酸質量に対して不飽和脂肪酸を好ましくは55質量%以上含み、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、よりさらに好ましくは80質量%以上であってもよい。
【0012】
不飽和脂肪酸は分子内の炭素結合のうち、少なくとも1つ以上の不飽和結合を含む脂肪酸である。炭素数16以上、さらに好ましくは炭素数18以上の長鎖不飽和脂肪酸であることが好ましい。
不飽和脂肪酸の価数は1分子内に含まれる不飽和結合の数を指し、例えば1価の不飽和脂肪酸は1分子内に1つの不飽和結合を有する。不飽和脂肪酸の主成分は、2価以上の脂肪酸が好ましく、3価以上の脂肪酸がより好ましい。最も好ましくは、n-3系脂肪酸、ドコサヘキサエン酸などが挙げられる。構成脂肪酸として上述した不飽和脂肪酸を含む油脂としては、菜種油、大豆油、コーン油、ヒマワリ油、亜麻仁油、エゴマ油、パームオレイン、パームダブルオレイン、魚油、牛脂、豚脂、などが挙げられる。
飽和脂肪酸は分子内の炭素結合の全てが飽和結合によって構成される脂肪酸である。炭素数12以上、さらに好ましくは炭素数16以上の長鎖飽和脂肪酸であることが好ましい。構成脂肪酸として上述した飽和脂肪酸を含む油脂としては、パーム油、パームミッドフラクション、パームステアリン、ヤシ油、パーム核油、パーム核オレイン、各種極度硬化油などが挙げられる。
【0013】
原料油脂としては、上述した不飽和脂肪酸を主成分とする油脂A,飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bからなる群より選択される1種類の油脂または2種類以上の油脂の混合物を含むものであれば良い。例えば、油脂Aと油脂Bの配合比が10:0~2:8のもの、より好ましくは9:1~3:7のもの、更に好ましく9:1~7:3のものが挙げられる。
【0014】
(a)「不飽和脂肪酸を主成分とする油脂Aと飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bの混合物」の合計質量は、上述の(a)~(f)成分の合計質量に対し、65~85質量%であることが好ましく、70~80質量%であることがさらに好ましい。
【0015】
(b)「水酸化カルシウム」(Ca(OH)2)(消石灰)を上記(a)混合油脂に対し添加する。「酸化カルシウム」(CaO)(生石灰)は、水の存在により水酸化カルシウムになるため、「水酸化カルシウム」の変わりに「酸化カルシウム」を添加してもよい。
上述の(a)~(f)成分の合計質量に対し、好ましくは5~15質量%の(b)「水酸化カルシウム」を添加する。より好ましくは7~13質量%であり、さらに好ましくは8~12質量%である。「水酸化カルシウム」の代わりに「酸化カルシウム」を添加する場合には、分子量から「水酸化カルシウム」(分子量74)に換算して上記量となるように「酸化カルシウム」(分子量56)を添加することが好ましい。
【0016】
本明細書において(c)「水」は、反応溶媒としての役割も果たす。また、酸化カルシウムを使用した場合には、酸化カルシウムと反応して水酸化カルシウムを提供するものである。「水」は蒸留水、脱イオン水、水道水など適宜使用することができる。上述の(a)~(f)成分の合計質量に対し、2~15質量%添加することが好ましい。
【0017】
本発明品は、上記及び後述する(a)~(f)成分を混合した後、その後ケン化反応を行うことによって得られる。このとき、油脂100gに対し、20~10000Uのリパーゼを添加することが好ましい。反応条件あるいはリパーゼの活性等により異なるが、より好ましくは200~2000Uである。
ケン化工程は、30~80℃で行うことができ、好ましくは30~60℃、より好ましくは30~45℃に加温しながら均一に混合、攪拌して反応させる。
本明細書において(d)「リパーゼ」とは、動物、植物、微生物起源、いずれのリパーゼも使用することができ、限定されないが、アルカリ性において油脂分解力が強く、耐熱性が高いものが好ましい。
【0018】
本明細書において(e)「抗酸化性を有するカラメル」とは、糖類を加熱処理することにより得られる抗酸化性を有するカラメルであり、特開平10-150949号に記載されるカラメルを代表的なものとして挙げることができる。
(e)「抗酸化性を有するカラメル」の量Z(質量%)は、下記条件を満たす範囲で添加することができる。
(条件)
前記(a)~(f)の合計質量に占める油脂Bの含有量をX(質量%)、前記(a)~(f)の合計質量に占める各種脂肪酸の含有量から下記計算式によって表される酸化難易度をY、前記(a)~(f)の合計質量に占める(e)抗酸化性を有するカラメルの含有量をZ(質量%)とした際、Zが下記式(1)及び(2)を満たす、
(1)(i) 0≦X<35の場合:0<Z≦5
(ii) 35≦X<60の場合:0.004(X-35)2≦Z≦5
(iii) 60≦X<100の場合:2.5≦Z≦5
(2)(i) 0≦Y<0.3の場合:0<Z≦5
(ii) 0.3≦Y<1.05の場合:1.8Y-0.54≦Z≦5
(iii) 1.05≦Y<3.9の場合:-1/(4(Y-0.95))+2Y+1.75≦Z≦5
酸化難易度Y=1価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×0.89×10-3
+2価の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×21×10-3
+3価以上の不飽和脂肪酸の含有量(質量%)×39×10-3
(1)(i)~(iii)式で表されるZの上限値を超えると(すなわち、カラメル含有量が5質量%を超えると)、ケン化反応によって得られる生成物の付着性が増し、後述する粉砕工程において粉砕機に付着するなどして、歩留低下の要因となる。また、(1)(i)~(iii)式で表されるZの下限値を下回ると、粉砕時に粒子が細かくなって周囲に飛散し、製造現場や取扱現場の環境を悪化させる要因となる。また、(2)(i)~(iii)式で表される範囲に満たない場合、得られる組成物の保存安定性が低下し、保存中に酸化劣化を引き起こす。
【0019】
「抗酸化性を有するカラメル」の量Z(質量%)は、油脂Bの含有量X(質量%)と粉砕工程における飛散抑制の観点から、さらに下記条件を満たす範囲で添加することがより好ましい。
(1A)(i) 0≦X<35の場合:0<Z≦5
(ii) 35≦X<52.5の場合:1.5≦Z≦5
(iii) 52.5<X<100の場合:2.5≦Z≦5
または
(1B)(i) 0≦X<22.5の場合:-0.13X+4≦Z≦5
(ii) 22.5≦X<37.5の場合:1≦Z≦5
(iii) 37.5≦X<52.5の場合:0.07X-1.5≦Z≦5
(iv) 52.5≦X<100の場合:0.04X-0.33≦Z≦5
または
(1C)(i) 15≦X<22.5の場合:-0.13X+4≦Z≦0.4X-4
(ii) 22.5≦X<37.5の場合:1≦Z≦5
(iii) 37.5≦X<52.5の場合:0.07X-1.5≦Z≦5
(iv) 52.5≦X<100の場合:0.04X-0.33≦Z≦5
または
(1D)(i) 22.5≦X<37.5の場合:-0.27X+11≦Z≦5
(ii) 37.5≦X<52.5の場合:0.07X-1.5≦Z≦5
(iii) X=52.5の場合:2≦Z≦5
【0020】
「抗酸化性を有するカラメル」の量Z(質量%)は、酸化難易度Yと保存安定性の観点から、さらに下記条件を満たす範囲で添加することがより好ましい。
(2A)(i) 0≦Y<0.3の場合:0<Z≦5
(ii) 0.3≦Y<0.65の場合:1≦Z≦5
(iii) 0.65≦Y<1.2の場合:7.27Y-3.77≦Z≦5
(iv) 1.2≦Y<3.9の場合:Z=5
または
(2B)(i) 0≦Y<0.43の場合:-3.13Y+3.34≦Z≦5
(ii) 0.43≦Y<0.64の場合:-4.76Y+4.05≦Z≦5
(iii) 0.64≦Y<0.85の場合:1≦Z≦5
(iv) 0.85≦Y<1.07の場合:4.55Y-2.86≦Z≦5
(v) 1.07≦Y<3.9の場合:-1/(4(Y-0.95))+2Y+1.75≦Z≦5
または
(2C)(i) 0≦Y<0.43の場合:-3.13Y+3.34≦Z≦5
(ii) 0.43≦Y<0.64の場合:-4.76Y+4.05≦Z≦5
(iii) 0.64≦Y<0.85の場合:1≦Z≦5
(iv) 0.85≦Y<1.07の場合:4.55Y-2.86≦Z≦-13.64Y+16.59
または
(2D)(i) 0.43≦Y<0.64の場合:-4.76Y+4.05≦Z≦5
(ii) 0.64≦Y<0.85の場合:19.05Y-11.19≦Z≦5
(iii)Y=0.85の場合:Z=5
ZとXあるいはZとYの関係を、上述の各式からそれぞれ選択して組み合わせてもよい。
【0021】
本明細書において、飼料用植物油けん化物組成物に含まれる油脂の各不飽和脂肪酸含量にそれぞれ特定の係数(1価…0.89×10-3、2価…21×10-3、3価…39×10-3)を乗じた数値の和をその飼料用植物油けん化物組成物の酸化難易度Yとした(参考文献:福沢健治、寺尾純二、脂質過酸化実験法、廣川書店)。
酸化難易度Yの範囲は、不飽和脂肪酸を含まない油脂を用いる場合には0であり、不飽和脂肪酸の含有量が多くなればなるほど高い値となるが、本明細書では、3価以上の不飽和脂肪酸の含有量が100質量%である場合(3.9)をYの理論的な最大値とみなしてその上限とする。酸化難易度の範囲は0.0~2.0、好ましくは0.0~1.8である。
【0022】
本明細書において、カラメルの抗酸化性は、カラメルと1,1-ジフェニル-2-プクリルヒドラジル(DPPH)との反応性(ラジカル捕捉能)により評価したもの、すなわちDPPHと反応性(ラジカル捕捉能)を有するものをいう。抗酸化性の測定の具体的な方法としては、異なる量のカラメルをエタノールに溶解し、それぞれに0.5mM DPPHエタノール溶液を加え、35℃で30分間保持した後、517nmの吸光度を測定し、カラメル量とカラメル添加による吸光度の減少量の回帰直線を作成し、カラメル1mg当たりの吸光度の減少量を求めて、これをカラメルの抗酸化性とした。この数値が大きいほど抗酸化性が優れているが、高過ぎるとカラメルの粘性が高くなり過ぎて作業性が低下するため、好ましくは0.5~1.0、より好ましくは0.6~1.0である。
【0023】
「抗酸化性を有するカラメル」は例えば以下のように製造することができる。75~95質量%濃度のグルコース水溶液100質量部に対して、塩基性化合物1~10質量部の存在下、好ましくは100℃以上、より好ましくは120~150℃で加熱する。その後、当初のグルコース水溶液100質量部に対して30~50質量部の水を加えることで、糖度60~75、好ましくは65~70、pH3~5、好ましくは3.5~4.5、抗酸化性0.5~1.0のカラメルが得られる。加熱時間は、好ましくは1~10時間、より好ましくは2~8時間である。
【0024】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属水素塩、酢酸やクエン酸などの有機酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、またはアンモニウム塩、及び水酸化アンモニウムが挙げられ、これらの群より選択される1種類または2種類以上の混合物を使用することができる。
【0025】
加熱処理前の水溶液のpHは、好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上、より好ましくは9以上である。反応温度(加熱処理温度)が120℃より低いと反応が十分に進行しない。また、150℃より高いと反応系が固化・炭化する恐れが大きくなるだけでなく、得られたカラメルの抗酸化性が低くなるので好ましくない。好ましい反応温度は、125~135℃であり、より好ましくは130℃前後である。また、塩基性化合物の量が1質量部より少ないと反応が十分に進行しない。すなわち、抗酸化性を有するカラメルが得られない。また、10質量部より多いと、反応が激しく進行し、気泡が短時間で多量に発生し、反応容器から吹き零れる恐れがあるなど、危険性が生じる。加熱時間が1時間未満では、反応が十分に進行しない。また、加熱時間が長くなるにつれて、反応が進行して徐々に粘性が増加する。
【0026】
本発明品は、必要に応じて(a)~(e)以外の成分を含むことができる。例えば、嗜好性を高める目的では糖蜜が、保存安定性を高める目的では上記の抗酸化性を有するカラメル以外の抗酸化剤が例示される。(a)~(e)以外の成分の含量は、飼料用植物油けん化物組成物の合計質量に対し、0.5~10質量%であることが好ましく、より好ましくは1~9質量%である。
【0027】
本発明の飼料用植物油けん化物組成物の製造方法は以下のとおりである。
工程I)
(a)不飽和脂肪酸を主成分とする油脂A、飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bからなる群より選択される1種類の油脂または2種類以上の油脂の混合物、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)リパーゼ、及び
(e)抗酸化性を有するカラメル
を下記条件の比率で混合する。
工程II)
工程I)で得られた混合物を、30~80℃の温度で反応させて、脂肪酸カルシウム塩を含む組成物を生成する。
工程III)
必要に応じ、工程II)で得られた脂肪酸カルシウム塩を含む組成物を24~48時間、5~35℃で保管し、粉砕して、顆粒状あるいは粒子状の組成物を得る。
【0028】
本発明の飼料用植物油けん化物組成物は、好ましくは顆粒状あるいは粒子状である。好ましくは0.125mm以下の直径を有する粒子が10質量%以下、2.8mm超過の直径を有する粒子が10質量%以下である。粒子径がかかる範囲にあると、粉砕時に飛散せず、粉砕機に付着せず、歩留まりが良い。また、反芻動物におけるルーメンバイパス性が良く、第4胃での消化性も良好である。
【0029】
脂肪酸カルシウムを含む組成物を作製するに当たり、ブロック状に成形し、さらにかかる粒子径の粒子を得るためには、脂肪酸カルシウムを含み組成物を生成する工程での組成物の硬度が4000~11000gfであり、硬度が4000gfに満たないと付着性が高く粉砕機の壁面に付着し、11000gfを超えると硬過ぎて粉砕しにくい。表記硬度の組成物は、ハンマークラッシャーなどの粗砕機による粉砕が好ましい。(a)~(f)を含む成分を混合し、30~80℃の温度において反応を開始してから24~48時間内における反応生成物の硬度が、4000gf以上11000gfを超えないことが製造効率の観点から好ましい。
【実施例】
【0030】
以下実施例により本発明の実施の形態を説明する。以下の実施例において特に断らない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0031】
(抗酸化性を有するカラメル)
25質量部の水、80質量部の糖類(グルコース)、5質量部の塩基性化合物(クエン酸ナトリウム)を混合し、130℃で3時間加熱後、水40質量部を加え、カラメル120質量部を製造した。得られたカラメルの糖度、pH及び抗酸化性を下記のとおり測定したところ、糖度65、pH3.7、抗酸化性0.63であった。
糖度は、カラメルを20℃に温調し、糖度計(ATAGO社製、H-80)を用いて測定した。
pHは、カラメルを20℃に温調し、pHメーター(METTLER TOLEDPO社製、Seven2Go)を用いて測定した。
抗酸化性は、カラメル希釈液(カラメル0.3gを蒸留水5mlに定溶)を、それぞれ0(ブランク)、2、5、または8μlの量をとり、それぞれエタノール4mlに溶解し、それぞれに0.5mM DPPHエタノール溶液を1ml添加し、35℃の恒温槽で30分間反応させた後、517nmの吸光度を測定し、カラメル量とカラメル添加による吸光度の減少量の回帰直線を作成し、その傾きより、カラメル1mg当たりの吸光度の減少量として算出した。
【0032】
(実施例1)
<混合工程>
油脂A(亜麻仁油)75gに、消石灰(水酸化カルシウム)10.1gを加え、混合槽内で混合攪拌した。
前記混合物に、抗酸化性を有するカラメル5g、糖蜜5g、水4.9gを加えた。
さらに、上記混合物100gに対し、リパーゼ(アマノAK、20000U/g)0.015g(400U)を加えて、液温を50℃に加温し、さらに30分間攪拌し反応させた。
<静置工程>
上記混合工程で得られた混合物を、縦8cm、横22cm、高さ8cmの容器に流し込み、25℃で48時間静置して反応を進行させた。混合物の硬度を測定した結果を、表2に示した。
<粉砕工程>
さらに、上記混合物を容器から取り出し、ハンドミキサーを用い、細かく粉砕した。得られた粒状物の粒子径を篩分け法により測定したところ、表3の粒子径分布を示した。
【0033】
(実施例2~11)
油脂A、油脂B、抗酸化性を有するカラメル、及び水の量を表1に記載のとおり変えた以外は、実施例1と同様にして粒状物を作製した。
(比較例1~18)
油脂A、油脂B、抗酸化性を有するカラメル、及び水の量を表1に記載のとおり変えた以外は、実施例1と同様にして粒状物を作製した。
上記実施例及び比較例において油脂Aとして使用した「亜麻仁油」の(全構成脂肪酸量に対する)不飽和脂肪酸量は91質量%、「菜種油」の不飽和脂肪酸量は93質量%、油脂Bとして使用した「パームステアリン」の飽和脂肪酸量は67質量%であった。
【0034】
<硬度>
上記静置工程において、25℃で48時間静置した混合物を、レオメーター(島津製作所社製、EZTest/CE)により、突き刺し針治具(φ5)を15mm進入させ、その際の応力を硬度として測定し、以下のように評価した。
○:4000gf以上、11000gf以下
△:3000gf以上~4000gf未満、11000gf超過
<付着>
固化した混合物の粉砕後の状態を以下の基準で測定し、粒子の付着評価とした。
○:粉砕後、粒子径2.8mm超過が10質量%以下
△:粉砕後、粒子径2.8mm超過が10質量%超過、20質量%以下
×:粉砕後、粒子径2.8mm超過が20質量%超過、または、粉砕時に粉砕物同士が結着し、粒子状にならないもの
<飛散>
固化した混合物の粉砕機の処理状態を以下の基準で測定し、粒子の飛散評価とした。
○:粉砕後、粒子径0.125mm以下が10質量%以下
×:粉砕後、粒子径0.125mm以下が10質量%超過
【0035】
<保存安定性試験 過酸化物価(POV)>
上記粉砕工程で得られた粒状物から、篩分け法により0.5~1.0mmの粒子径を有する粒状物のみを回収し、透明なパウチ袋に充填し、50℃恒温槽にて保管した。1週間後、過酸化物価(POV)を測定した。測定は、日本油化学協会編、基準油脂分析試験法に準じた。
各POV値を指標として、保存安定性を以下のように評価した。
○:POV値が0meq/kg
△:POV値が0meq/kg超過、1meq/kg未満
×:POV値が1meq/kg以上
【0036】
<総合評価>
上記硬度、付着、飛散、保存安定性の評価結果から、総合評価を以下のように評価した。
A:全ての評価が○
B:×の評価がなく、△の評価が1つ
C:×の評価がなく、△の評価が2つ以上
D:×の評価が1つ
E:×の評価が2つ以上、または粉砕不可のもの
【0037】
上記評価結果を表2~4に記載した。また、表2~表4に示されるXとZ及び生成物の飛散評価、並びにYとZ及び保存安定性評価の関係を示すグラフを
図1及び
図2に示した。
飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bの含有量X、酸化難易度Y、抗酸化性を有するカラメルの含有量Zが、以下の式(1)及び(2)を満たす実施例1~11は、粉砕時に飛散せず、粉砕機に付着せず、保存安定性において優れたものであった。特に不飽和脂肪酸を主成分とする油脂Aと、飽和脂肪酸を主成分とする油脂Bの配合比が9:1~3:7の実施例4~9、とりわけ9:1~7:3の実施例4~6は、粉砕に適した硬度を有し、且つ飛散および付着のないものであった。
一方、以下の式(1)及び(2)の内、抗酸化性を有するカラメルの添加量Zが下記式(1)(i)~(iii)の上限値(5質量%)を超える比較例5、8、11、14、18は、粉砕時に粉砕物同士が結着して粒子状にならなかった。式(1)(i)~(iii)の下限値より小さい比較例10、12、13、15、16、17は粉砕時に粒子が細かくなって飛散し、式(2)(i)~(iii)を満たさない比較例1、2、3、4、6、7、9、10、12は、50℃1週間の保存で過酸化物価が1meq/kgを超え、保存安定性の悪いものであった。
(1)(i) 0≦X<35の場合:0<Z≦5
(ii) 35≦X<60の場合:0.004(X-35)
2≦Z≦5
(iii) 60≦X<100の場合:2.5≦Z≦5
(2)(i) 0≦Y<0.3の場合:0<Z≦5
(ii) 0.3≦Y<1.05の場合:1.8Y-0.54≦Z≦5
(iii) 1.05≦Y<3.9の場合:-1/(4(Y-0.95))+2Y+1.75≦Z≦5
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】