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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】納豆用被膜材
(51)【国際特許分類】
   B65D 85/50 20060101AFI20220622BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
B65D85/50 160
B65D65/02 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018025941
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019142518
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502435454
【氏名又は名称】株式会社SNT
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 歩
(72)【発明者】
【氏名】橋本 香奈
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 世明
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132055(JP,A)
【文献】特許第3882001(JP,B1)
【文献】特許第4614471(JP,B1)
【文献】特開2012-041049(JP,A)
【文献】特開2014-218007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 85/50
B65D 65/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に充填された納豆の上面を覆う納豆用被膜材であって、
樹脂製の基材と、
前記基材の少なくとも一方の表面に形成された撥水層と、を備え、
前記撥水層は、疎水性微粒子と、
前記疎水性微粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径をもつ少なくとも1種類以上の粗大粒子と、
前記基材に対する前記粗大粒子および前記疎水性微粒子のバインダーとしての極性基を有する熱可塑性樹脂と、を含んで形成され、
前記撥水層の表面における水接触角が140度以上であり
前記撥水層の表面粗さ(Ra)が0.5~2.5μmの範囲にあり、
前記撥水層において前記粗大粒子を含まない部分の表面粗さ(Ra)が0.15~0.2μmの範囲にあることを特徴とする納豆用被膜材。
【請求項2】
前記粗大粒子の平均粒径が2~15μmであることを特徴とする請求項に記載の納豆用被膜材。
【請求項3】
前記撥水層に含まれる前記熱可塑性樹脂は、極性基を有する変性ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の納豆用被膜材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、納豆用被膜材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種形状の納豆容器に煮豆を収容し、これに納豆菌を接種して煮豆を発酵させて納豆を製造する際に、納豆の乾燥を防止すると共に異物の混入を防止するため納豆用被膜が使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-330718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
煮豆が発酵することにより納豆が製造されると、納豆の表面に粘質物、いわゆる糸が生じる。この糸が、納豆用被膜に付着することにより、納豆用被膜を納豆から引き剥がした際に、豆が被膜に付着して糸引きが発生し、豆や伸びた糸が指先や納豆容器の周囲あるいは衣服等に付着して汚れてしまう不具合を生じる場合があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、納豆および納豆の糸の付着を効果的に防止できる納豆用被膜材製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、発明者らが納豆用被膜材について鋭意研究した結果、疎水性微粒子を含むコーティング剤を用いて、納豆との接触面に所定の水接触角および表面粗さの撥水層を形成したところ、納豆および納豆の糸の付着を効果的に防止できることを知見し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の納豆用被膜材は、
容器に充填された納豆の上面を覆う納豆用被膜材であって、
樹脂製の基材と、
前記基材の少なくとも一方の表面に形成された撥水層と、を備え、
前記撥水層は、疎水性微粒子と、
前記疎水性微粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径をもつ少なくとも1種類以上の粗大粒子と、
前記基材に対する前記粗大粒子および前記疎水性微粒子のバインダーとしての極性基を有する熱可塑性樹脂と、を含んで形成され、
前記撥水層の表面における水接触角が140度以上であり
前記撥水層の表面粗さ(Ra)が0.5~2.5μmの範囲にあり、
前記撥水層において前記粗大粒子を含まない部分の表面粗さ(Ra)が0.15~0.2μmの範囲にあることを特徴とする。
ここで、前記粗大粒子の平均粒径が2~15μmであることが好しい。
また、前記撥水層に含まれる前記熱可塑性樹脂は、極性基を有する変性ポリオレフィン樹脂であることがより好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、納豆および納豆の糸の付着が効果的に防止できる納豆用被膜材製品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例に係る納豆用被膜材の拡大断面図である。
図2】実施例1~9および比較例5,6に係るサンプルの耐摩耗試験の方法を説明するための図である。
図3】(A)~(C)は、本発明の様々な実施例に係る納豆用被膜材の拡大断面図であり、形成されるエアースポットの大きさを説明するための図である。
図4】比較例6に係るサンプルの耐摩耗性試験後の撥水層表面についてのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る納豆用被膜材について、図面を用いて説明する。
【0010】
図1に納豆用被膜材の拡大断面図を示す。基材フィルムの一方の表面に、疎水性微粒子を含有するコーティング剤を塗布し、加熱乾燥することにより、撥水層が形成されている。基材フィルムとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂を用いることができる。
【0011】
基材フィルムには少なくとも一方の面に撥水層が形成されている。撥水層の表面は、撥水剤としての疎水性微粒子と、バインダーとしての樹脂成分とにより、微細な凹凸構造が形成され、撥水性が付与されている。疎水性微粒子としては、無機物質、有機物質のいずれでも良いが、より変質しにくい無機物質が好ましい。微粒子化し易いことからシリカ、アルミナ等の無機酸化物が好ましく、特にシリカが好ましい。疎水性微粒子の平均粒径は1~100nmであることが好ましく、2~50nmであることがより好ましい。疎水性微粒子には、高級脂肪酸、シリコーンオイル、シランカップリング剤等で疎水性を付与することが好ましい。
【0012】
本発明においては、撥水層の表面の凹凸構造により、表面の水接触角が140°以上となっている。また、表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.15~2.5μmの範囲に入っていることが好ましく、0.16~2.2μmであることがより好ましい。水接触角と表面粗さ(Ra)を前述のように構成することにより、納豆および納豆の糸が納豆用被膜材に付着することを防止し、糸引きを減少させることができるとともに、実用的な耐摩耗性を具備した納豆用被覆材を提供することができる。
【0013】
撥水層の撥水性をより向上させるには、撥水層に少なくとも1種類以上の粗大粒子を含有させるとよい。その粗大粒子の平均粒径は2~15μmであることが好ましい。このような粒径の粗大粒子を含有することにより、適切な表面粗さの撥水面を効果的に形成することができ、撥水性が向上する。粗大粒子としてはアクリルビーズ、アルミナビーズ、シリカ、シリコーン、セルロース等の粒子を用いることができる。例えば、表面を疎水化したアクリルビーズなどを追加する疎水性粒子としてもよい。
【0014】
ここで、上記の疎水性微粒子、または、疎水性微粒子および粗大粒子に、熱可塑性樹脂と有機溶剤を混ぜて構成されるコーティング剤について説明する。コーティング剤は、バインダー樹脂成分として、熱可塑性樹脂であり極性基を有する変性ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。
【0015】
ポリオレフィン樹脂は、無極性(すなわち疎水性)を示すため、そのままでは溶媒に溶け難く、他材料との密着性に劣る。また、塗料に含有させる疎水性微粒子との親和性があり、塗料に微粒子を均一に分散させるという点では適切と言えるが、微粒子を所定の凝集体として塗料に分散させたい場合には不適切である。さらに、形成される塗膜においては微粒子が樹脂に覆われてしまうことになり、疎水性微粒子による非付着性が発現することの支障になってしまうという問題がある。
【0016】
これに対して、極性を有する熱可塑性樹脂を用いれば、上記の問題を解決することができる。すなわち、溶媒に可溶であり、他材料との密着性がある。また、微粒子を所定の凝集体として塗料に分散させることができて、さらに、形成される塗膜においては微粒子が樹脂によって不必要に覆われてしまうことがなく、適度に露出させることができて、疎水性微粒子による非付着性を発現させることができる。
また、樹脂成分は、基材フィルムに粗大粒子を保持させるのにも役立つ。粗大粒子が基材フィルムの表面に分布した状態で保持され、しかも、疎水性微粒子が粗大粒子の表面および基材フィルムの表面に保持されることによって、基材フィルムの表面には複雑で微細な凹凸構造が形成されている。
【0017】
本実施形態に使用可能な変性ポリオレフィン樹脂は、炭素数2~10の不飽和炭化水素(オレフィン)を重合して得られた高分子に酸官能基やハロゲン原子等の極性基を導入したものである。ポリオレフィン構造中の水素原子を部分的に塩素等のハロゲン原子あるいはマレイン酸等の酸含有化合物で変性することによって、極性基を有する変性ポリオレフィン樹脂が形成される。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリヘプテン、ポリオクテン、ポリノネン、ポリデセン、あるいはこれらの混合物を主骨格ポリマーとして用いることができる。分子量は特に限定されるものではないが、通常、10,000~1,000,000程度である。
【0018】
変性ポリオレフィン樹脂としては、特に、塩素化ポリオレフィン樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂に対する疎水性微粒子の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して50~150質量部であることが好ましい(以下、前記量単位をPHR[Per-Hundred-Resin]と表記する場合がある)。より好ましくは、60~120質量部である。
また、熱可塑性樹脂に対する粗大粒子の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して例えば40~100質量部程度である。
疎水性微粒子または粗大粒子の添加量が多すぎると、加熱・乾燥後の熱可塑性樹脂によるバインダー力が不足して、塗膜が基材から容易に剥落してしまう等、塗膜の耐摩耗性が低下する場合がある。また、チキソトロピー(thixotropy)性が高くなり、塗装ムラが出やすくなる。一方、疎水性微粒子または粗大粒子の添加量が少なすぎると、撥水性を発現することができない場合がある。疎水性微粒子および粗大粒子の添加量を前記範囲に調整することによって、塗膜表面の樹脂マトリックスから疎水性微粒子または粗大粒子が略半球状に突出して外部に突出した状態となり、これによって優れた撥水性を発揮することができると考えられる。
【0019】
塩素化ポリオレフィンの塩素化率は、樹脂全量に対して通常10~54質量%であり、好ましくは、20~35質量%である。塩素化率が10質量%以上であれば、有機溶剤に対して十分な溶解性を発現することができる。一方、塩素化率が54質量%以下であることにより、基材フィルムへの密着性を良好に保つことが出来る。
【0020】
コーティング剤の溶媒に用いる有機溶剤としては、公知の有機溶剤から適宜選択できるが、熱可塑性樹脂を溶解し、かつ疎水性微粒子を分散可能なものが好ましい。例としては、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、イソプロピルアルコール(IPA)等が挙げられる。
【0021】
塗膜の形成方法としては、コーティング剤を基材フィルムの表面に塗布する。塗付量は、乾燥重量で5~100mg/dmとすることが好ましい。塗付量がこの範囲よりも少ないと、撥水効果が得られない場合があり、一方で塗付量を前記範囲より多くしても、それ以上の撥水効果の向上が見られないため、経済性の点から望ましくない。塗布方法についても特に限定されず、グラビア印刷、スプレーコート、ロールコート等、適宜選択できる。塗布後、例えば、50℃~300℃の温度で、3秒間以上加熱乾燥することで塗膜を形成できる。加熱方法についても、従来公知の方法を適宜選択できる。
【0022】
本実施形態の納豆用撥水層においては、疎水性微粒子の凝集体(二次粒子)が複数積み重なって微細な凸部を形成し、その凸部が基材フィルム表面に並んで撥水層を形成している。また、納豆用撥水層が粗大粒子を含む場合は、疎水性微粒子の凝集体による凸部が、粗大粒子表面および基材フィルム表面に形成されて、より複雑で微細な凹凸構造が形成されている。疎水性微粒子の凝集体による凸部は熱可塑性樹脂によって完全には覆われず、半分以上が露出して凹凸を形成している。これにより、蓮の葉の表面に類似した撥水性の表面構造を形成している。本発明の納豆用被膜材を作成するには、上述の疎水性微粒子、粗大粒子、樹脂成分を溶剤と所定の割合で混合し、所定量を基材フィルムに塗布して、加熱し、溶剤成分を揮発させることにより形成できる。形成された撥水層に納豆の糸が接触した場合、隣り合う凸部間にエアーポケットが形成され、このエアーポケットの存在によって納豆の糸の付着防止性が向上するものと考えられる。
【0023】
以上の納豆用被膜材の構成では、基材フィルムの表面に直接、撥水性塗膜が塗布形成されて、基材との密着性が十分に確保される。しかし、疎水性微粒子による撥水性を向上させると、基材に対する塗膜の密着性が低下する場合がある。ここでは、良好な撥水性を維持したまま、基材に対する密着性を更に向上させるためのアンカーコート層(AC層)について、説明する。
【0024】
AC層は、極性のある熱可塑性樹脂と有機溶剤を混合した塗料(AC剤)を用いて形成される。AC剤は、極性のある熱可塑性樹脂と有機溶剤とを混ぜた塗料であり、その樹脂成分に微量(5phr以下)の異種ポリマーや添加物などを、性能に問題が無い程度に混合してもよい。異種ポリマーは、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などである。添加物は、可塑剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤などが挙げられるが、これらに限られない。ただし、AC剤は疎水性微粒子および粗大粒子を含んでいない。
【0025】
例えば、撥水性塗料が、熱可塑性樹脂として「塩素化ポリオレフィン樹脂」を含む場合、AC剤にも同じ種類の塩素化ポリオレフィン樹脂を用いるとよい。或いは、撥水性塗料とは異なる種類の塩素化ポリオレフィン樹脂を用いてもよいし、異なる種類の熱可塑性樹脂(極性)を用いても構わない。
有機溶剤は、熱可塑性樹脂に応じて適宜選択すればよい。熱可塑性樹脂が撥水性塗料とAC剤とで共通する場合は、有機溶剤も共通のものを選択するとよい。
【0026】
アンカーコート層(AC層)を有するフィルムの形成手順を説明する。まず、上記のAC剤を、基材表面に、0.1~0.5g/mの塗付量で塗布し、所定条件で乾燥させることで、AC層が得られる。その後、撥水性塗料をAC層の上に塗布・乾燥させることで、AC層を有するフィルムが得られる。
【0027】
AC剤の塗布量の範囲については、塗布量が0.1g/mよりも少ないと、密着性が高まらない。塗布量が0.5g/mよりも多いと、密着性は十分に高まるが、疎水性微粒子および粗大粒子を含まない層の厚みが大きくなる。そうすると、AC層の上に撥水性塗料を塗工・乾燥する際に、疎水性微粒子および粗大粒子がAC層に沈み込んでしまう現象が発生しやすくなる。撥水性塗膜の表面に位置すべき疎水性微粒子および粗大粒子が、下方に沈んでしまうと、撥水性能が低下する。従って、上記のAC剤の塗布量の範囲が好ましい。
【実施例1】
【0028】
基材フィルムとして、高密度ポリエチレンフィルム(HDPEフィルム、厚さ10μm:三共化成社製)を使用し、疎水性微粒子として平均粒径12nmの疎水性シリカ微粒子(日本アエロジル社製)を使用し、表1に示す樹脂成分、溶媒、粗大粒子を適宜混合し、コーティング剤を調整した。このコーティング剤を表1に示す基材フィルムに塗付量20mg/dmとなるように塗布し、加熱して、納豆用被膜材の各サンプル(実施例1~9)を作成した。
実施例1~3では、疎水性シリカ微粒子による撥水層が形成されたサンプルであり、表面粗さRaが0.15~0.2μmの範囲に入り、かつ、水接触角が140°以上であるサンプルについて評価した。
一方、実施例4~9では、疎水性シリカ微粒子および粗大粒子(アクリルビーズ、シリカ粒子、シリコーン粒子、セルロース粒子、アルミナビーズ)による撥水層が形成されたサンプルであり、表面粗さRaが0.5~2.5μmの範囲に入り、かつ、水接触角が140°以上であるサンプルについて評価した。
なお、比較例1~3については、コーティング剤を塗布せず、基材フィルム(HDPE、PET、PPの3種類)のみの状態で評価した。
比較例4では、基材フィルムに樹脂のみの被膜を形成したサンプルを評価した。
比較例5では、疎水性シリカ微粒子による撥水層が形成されたサンプルであるが、表面粗さRaが0.15μm未満であり、かつ、水接触角が140°未満であるサンプルについて評価した。
また、比較例6では、疎水性シリカ微粒子および粗大粒子による撥水層が形成されたサンプルであり、水接触角も140°以上であるが、表面粗さRaが2.5μmを超えているサンプルについて評価した。
【0029】
なお、樹脂成分については、塩素化ポリオレフィン樹脂溶液(CA-PL01:桜宮化学社製)を用いた。
【0030】
<表面粗さ>
KEYENCE社製形状測定レーザー顕微鏡VK-X200を使用し、撥水層表面あるいはフィルム表面の表面粗さRaを測定した。倍率は150倍とし、カットオフ値はλsを2.5μm、λcを0.8mmとし、測定範囲は横90μm、縦67μmとした。
【0031】
<水接触角>
接触角計CA-DT(協和界面科学社製)を用いて、10マイクロリットルの水滴(純水)を撥水層表面、あるいはフィルム表面に滴下した直後の接触角をそれぞれ測定した。
【0032】
<納豆剥離性の評価>
各サンプルを100mm×100mmに切り出し、納豆(タカノフーズ社「おかめ納豆 旨み」)のパッケージの蓋を開けサンプルを納豆の上に敷き、そのまま蓋を閉めてサンプルと納豆を密着させる。5℃で3日間貯蔵後、サンプルの角からオートグラフで200mm/minの速度で垂直に引っ張りながらサンプルを剥がし、サンプルの質量を測定した。納豆付着前のサンプルの質量との差から付着量を算出した。この試験を5回繰り返し、平均値が0.03g未満のものを最良(◎)、0.03g以上0.04g未満のものを良好(○)、0.04g以上のものを不良(×)として判定した。
【0033】
<耐磨耗性の評価>
また、各サンプルについて、図2に示すように、トライボギア表面測定器TYPE:38(新東科学社製)を用いて、サンプルの塗膜と平面圧子の間にガーゼを挟み、平面圧子に10g/cmの荷重を負荷して塗膜を押圧し、200mm/minの速さで押圧面に平行に50mmの区間を1回だけ往復させた。往復させた50mmの区間から往復方向に5mm間隔で選択した10箇所の表面状態をSEMにより観察し、図4に示す脱落痕の発生状況を評価し、発生箇所が10箇所以下のものを最良(◎)、11箇所以上25箇所未満のものを良好(○)、26箇所以上のものを不良(×)として、耐摩耗性を判定した。この脱落痕は、撥水層の表面から粗大粒子が脱落した跡である。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すように、納豆剥離性の評価結果については、基材フィルムの表面に疎水性シリカ微粒子を含む撥水層が形成され、かつ、その撥水層の表面粗さ及び水接触角が所定の範囲に入っている実施例1~3で良好(○)であった。さらに、撥水層に粗大粒子が含まれている実施例4~9および比較例6では、納豆剥離性が一層良好(◎)であった。
なお、剥離性が良好(○)となった実施例1~3を比べると、実施例3では疎水性シリカ微粒子の配合量(120phr)を実施例1の2倍にしたが、表面粗さRaはほとんど変わらなかった。疎水性シリカ微粒子のみで撥水層を形成する場合の適正な表面粗さRaの範囲は、概ね、0.15~0.2μmであると言える。
以上のことから、撥水層の表面の疎水性シリカ微粒子による凸部の大きさには限度があり、疎水性シリカ微粒子の配合量を所定値(例えば100phr)以上に増やしてもメリットが小さいと言える。例えば、図3のイメージのように、疎水性シリカ微粒子の配合量については図3(A)よりも図3(B)の方が大きいが、撥水層の表面に形成される微細な凹凸構造の大きさはほとんど同じであり、エアースポットの大きさもほぼ同じになる。
そこで、実施例4~9では、疎水性シリカ微粒子の配合量を100phrの一定値にして、主に、粗大粒子の種類とその平均粒径の条件を幾通りか変えることによって、表面粗さRaの設定範囲を広げて、0.5~2.5μmとした。例えば、図3(C)のように、粗大粒子の表面にも疎水性シリカ微粒子による凸部が形成され、撥水層の表面全体として、大きなエアースポットが形成される。
【0036】
一方、比較例1~5では十分な剥離性が得られなかった(×)。比較例1~3は基材フィルムのみのサンプルであり、いずれも水接触角が140°未満であった。比較例4は基材フィルムに樹脂成分のみを塗布したサンプルであり、その樹脂層によって表面粗さRaが小さくなっており、水に対しても完全な濡れ性を示している。比較例5では基材フィルムに疎水性シリカ微粒子による撥水層が形成されているが、疎水性シリカ微粒子の配合量が少なく、表面粗さRaおよび水接触角が所定の範囲に達していない。
【0037】
次に、撥水層を有するサンプル(実施例1~9、比較例5、6)についての耐摩耗性の評価結果について説明する。
耐摩耗性については、疎水性シリカ微粒子と粗大粒子とによる撥水層を有するサンプルのうち、表面粗さRaが比較的大きく、1.0を超え、2.5以下の範囲であるもの(実施例7~9)で良好(○)となった。
さらに、疎水性シリカ微粒子と粗大粒子とによる撥水層を有するサンプルのうち、表面粗さRaが比較的小さく、1.0以下の範囲(好ましくは、0.5以上、1.0以下の範囲)であるもの(実施例4~6)で耐摩耗性が一層良好(◎)であった。
いずれにしても、疎水性シリカ微粒子と粗大粒子とによる撥水層を有するサンプルで、表面粗さRaが0.5~2.5μmの範囲に入っているもの(実施例4~9)については、耐摩耗性が良好(○)または一層良好(◎)となった。
なお、上記の実施例4~9の粗大粒子の粒径は、いずれも2~15μmの範囲内であった。耐摩耗性が一層良好(◎)となった実施例4~6に関して言えば、粗大粒子の粒径の範囲は、2~7μmであった。なお、比較例6では、十分な耐摩耗性が得られず(×)、その表面粗さRaは2.5を超えていた。これは、比較例6での粗大粒子の粒径(16μm)が大きすぎて、図4の画像に示すような脱落痕(円形の黒い穴)が多く発生したためと言える。
【0038】
一方、疎水性シリカ微粒子での撥水層を有するサンプル(実施例1~3、比較例5)についても耐摩耗性が一層良好(◎)であった。
【0039】
総合的な判定としては、撥水層に疎水性シリカ微粒子と粗大粒子をともに添加したサンプルのうち、表面粗さRaの範囲が0.5以上、1.0以下であるもの(実施例4~6)が、最も適切なエアースポットの大きさとなって、納豆剥離性および耐摩耗性の両方において最も優れた性質を示した。
また、撥水層に疎水性シリカ微粒子だけを添加したサンプルのうち、表面粗さRaの範囲が0.15以上、0.2以下であるもの(実施例1~3)については、耐摩耗性について優れた性質を示し、納豆剥離性は良好であった。
また、撥水層に疎水性シリカ微粒子と粗大粒子をともに添加したサンプルのうち、表面粗さRaの範囲が1.0を超え、2.5以下であるもの(実施例7~9)については、納豆剥離性について優れた性質を示し、耐摩耗性は良好であった。
以上の実施例1~9のサンプルの水接触角については、いずれも140°~150°の範囲に入っていた。
一方、撥水層を形成しない比較例1~3、および、樹脂成分のみを塗布した比較例4では、十分な納豆剥離性が得られなかった。
その他、撥水層に疎水性シリカ微粒子だけを添加したサンプルではあるが、表面粗さRaおよび水接触角が所定の範囲に達していないもの(比較例5)については、耐摩耗性について優れた性質を示したが、納豆剥離性が不十分だった。
撥水層に粗大粒子を添加した比較例6については、優れた納豆剥離性を示したものの、粗大粒子の粒径が大きすぎて、表面粗さRaが所定の範囲を超えており、耐摩耗性に劣る結果となった。
【0040】
以上の実施例および比較例の結果は、撥水層の表面における水接触角が140度以上で、撥水層の表面粗さ(Ra)が0.15~2.5μmの範囲であることが、良好な納豆剥離性および耐摩耗性を得ることの条件であることを裏付けるものと言える。また、撥水層に平均粒径が2~15μmである粗大粒子を含有させることで、納豆剥離性が向上し、しかも必要な耐摩耗性が得られることを裏付けるものと言える。
【0041】
なお、納豆菌は、大豆のタンパク質を分解してグルタミ酸を産生し、これらが約3000個つながってポリグルタミ酸を生成する。このように、納豆の糸は、粘り成分の総称であるムチンの総量としては他の食品よりも多く、粘りも強い。本発明は納豆用の被膜材であるが、納豆ほど強い粘りではない他の食品、例えば、オクラ、山芋、なめこ、モロヘイヤ、つるむらさき、里芋などのムチンを比較的多く含む食品の粘り成分に対しても、剥離性および耐摩耗性の良好な被膜材となり得る。
図1
図2
図3
図4