(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】地盤改良方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/046 20060101AFI20220622BHJP
E02D 3/08 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
E02D3/046
E02D3/08
(21)【出願番号】P 2018041434
(22)【出願日】2018-03-08
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391019740
【氏名又は名称】三信建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390002185
【氏名又は名称】大成ロテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000194756
【氏名又は名称】成和リニューアルワークス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中西 誉
(72)【発明者】
【氏名】廻田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】木脇 太郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 聖一
(72)【発明者】
【氏名】武田 耕造
(72)【発明者】
【氏名】関 昌則
(72)【発明者】
【氏名】新坂 孝志
(72)【発明者】
【氏名】本谷 洋二
(72)【発明者】
【氏名】青木 政樹
(72)【発明者】
【氏名】湯川 誠二郎
(72)【発明者】
【氏名】大高 信雄
【審査官】山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-279565(JP,A)
【文献】特開昭62-197513(JP,A)
【文献】特開平03-208908(JP,A)
【文献】特開2002-322638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/046
E02D 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平振動を発生させるバイブロフロットと、改良杭造成用の透水性材料が供給されるフィーダーと、が併設されてなるバイブロツールを、水平振動を発生させながら地盤の所定深度まで貫通させる貫通工程と、
前記バイブロツールを所定の引抜き長さだけ上方に引抜き、この引抜きによって生じた空洞に前記フィーダーを介して前記透水性材料を充填して充填体を造成する、引抜き充填工程と、
前記バイブロツールを前記引抜き長さよりも短い所定の戻し長さだけ下方に戻し、この戻しによって前記充填体が拡径された拡径体を造成する、戻し工程と、
を有し、
前記引抜き充填工程と前記戻し工程を繰り返すことによって所定径の改良杭を造成
し、
前記所定の引抜き長さと前記所定の戻し長さのいずれか一方もしくは双方を変化させることにより、前記改良杭の前記所定径を変化させることを特徴とする、地盤改良方法。
【請求項2】
水平振動を発生させるバイブロフロットと、改良杭造成用の透水性材料が供給されるフィーダーと、が併設されてなるバイブロツールを、水平振動を発生させながら地盤の所定深度まで貫通させる貫通工程と、
前記バイブロツールを所定の引抜き長さだけ上方に引抜き、この引抜きによって生じた空洞に前記フィーダーを介して前記透水性材料を充填して充填体を造成する、引抜き充填工程と、
前記バイブロツールを前記引抜き長さよりも短い所定の戻し長さだけ下方に戻し、この戻しによって前記充填体が拡径された拡径体を造成する、戻し工程と、
を有し、
前記引抜き充填工程と前記戻し工程を繰り返すことによって所定径の改良杭を造成
し、
前記引抜き充填工程と前記戻し工程を繰り返すことにより、最初に造成された前記充填体の高さ位置まで徐々に拡径された前記拡径体を造成していき、該拡径体の高さ位置にて前記所定径の改良杭の一部を造成し、以浅の地盤内に連続した前記所定径の改良杭を造成することを特徴とする、地盤改良方法。
【請求項3】
前記貫通工程において、前記所定径に満たない径を有する下方の拡径体を余造成部とし、該余造成部の長さと前記改良杭の設計長さを加算して前記貫通工程における前記所定深度とすることを特徴とする、請求項
2に記載の地盤改良方法。
【請求項4】
前記透水性材料が、フライアッシュもしくはベントナイトからなる造粒物、もしくは砕石のいずれか一種からなることを特徴とする、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の地盤改良方法。
【請求項5】
水平振動を発生させるバイブロフロットと、改良杭造成用の透水性材料が供給されるフィーダーと、が併設されてなるバイブロツールを、水平振動を発生させながら地盤の所定深度まで貫通させる貫通工程と、
前記バイブロツールを所定の引抜き長さだけ上方に引抜き、この引抜きによって生じた空洞に前記フィーダーを介して前記透水性材料を充填して充填体を造成する、引抜き充填工程と、
前記バイブロツールを前記引抜き長さよりも短い所定の戻し長さだけ下方に戻し、この戻しによって前記充填体が拡径された拡径体を造成する、戻し工程と、
を有し、
前記引抜き充填工程と前記戻し工程を繰り返すことによって所定径の改良杭を造成
し、
前記透水性材料として造粒物と砕石を使用し、前記改良杭を、中心領域にある砕石からなる耐荷体と、外周領域にある造粒物からなる排水体とを有する複合構造体として造成することを特徴とする、地盤改良方法。
【請求項6】
地表から前記所定深度までの間に硬質層がある場合に、該硬質層をプレボーリングするプレボーリング工程をさらに有し、該プレボーリング工程に続いて前記貫通工程を行うことを特徴とする、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良方法には密度増大工法と間隙水圧消散工法があり、前者の代表的な工法としてサンドコンパクションパイル工法(以下、SCP工法と言う)が挙げられ、後者の代表的な工法としてグラベルドレーン工法(以下、GD工法と言う)が挙げられる。SCP工法は、所定の設計深度までケーシングを貫通させた後、ケーシング内に砂を補給しながらケーシングよりも大径の砂杭を地盤内に圧入打設し、ケーシングを上方に引抜きながら上方に砂杭を造成することにより、地盤を締固めて密度増大を図る工法である。このように、SCP工法は砂杭を強制的に地盤に打ち込む方法ゆえに、改良杭の直径はせいぜい700mm程度に留まる。また、SCP工法は、ケーシングの頂部に低周波のバイブロを装着し、ケーシングを上下に振動させることによって砂杭を地盤に打ち込むことから、地表面における騒音や振動が著しく大きくなるといった課題を有している。さらに、SCP工法では、三点式の杭打ちベースマシンといった特殊機械を要する。なお、騒音や振動の低減を図ることのできる、静的締固め砂杭工法もあるが、この工法も三点式の杭打ちベースマシン等の特殊機械を要することに変わりはなく、また、SCP工法に比べて一般に工費が嵩む。そして、SCP工法も静的締固め砂杭工法も、強制的に砂杭を地盤に打ち込む方法であることから、地盤内に打ち込みきらない分の砂が地表を盛り上げてしまい、この盛り上がり分の土砂の処分が必要になる。
一方、GD工法は、地盤内に透水係数の大きな砕石(グラベル)からなる改良杭を造成し、地盤内に発生する過剰間隙水圧の上昇を抑制して例えば液状化を防止する工法である。GD工法は、工事中の騒音や振動が比較的少ない一方で、地盤内に排水層を設けるのみで地盤そのものを改良するわけでないことから、SCP工法のように造成後のN値で対策効果を確認することができない。また、GD工法もSCP工法等と同様に、三点式の杭打ちベースマシン等の特殊機械を要する。以上のことより、特殊機械を使用することなく、地盤の密度増大と間隙水圧消散の双方を図ることのできる地盤改良方法の開発が望まれる。
ここで、頂部に上下振動を与える起振装置を備え、下部に水平振動を与える起振装置を備えたケーシングと、ケーシングに取り付けられたバキュームパイプから構成される砂質地盤の振動締固め装置が提案されている。この振動締固め装置をクレーンにて垂下させ、ケーシングを上下左右に振動させながら地盤内に貫入させてバキュームパイプから地下水を吸引排水する。そして、ケーシングの周辺地盤が不飽和状態になった段階で砕石等を投入し、改良杭を造成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の振動締固め装置を用いたとしても、改良杭を所望する改良径にて造成することはできない。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、改良杭を所望する改良径にて造成することのできる地盤改良方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成すべく、本発明による地盤改良方法の一態様は、水平振動を発生させるバイブロフロットと、改良杭造成用の透水性材料が供給されるフィーダーと、が併設されてなるバイブロツールを、水平振動を発生させながら地盤の所定深度まで貫通させる貫通工程と、
前記バイブロツールを所定の引抜き長さだけ上方に引抜き、この引抜きによって生じた空洞に前記フィーダーを介して前記透水性材料を充填して充填体を造成する、引抜き充填工程と、
前記バイブロツールを前記引抜き長さよりも短い所定の戻し長さだけ下方に戻し、この戻しによって前記充填体が拡径された拡径体を造成する、戻し工程と、
前記引抜き充填工程と前記戻し工程を繰り返すことによって所定径の改良杭を造成することを特徴とする。
【0007】
本態様によれば、地盤の所定深度から上方に向かって、バイブロツールを引抜くことにより形成された空洞に透水性材料を充填しながら充填体を造成し、充填体を側方に拡径させながら拡径体を造成し、これを繰り返して拡径体を徐々に拡径させながら改良杭を造成していくことから、改良杭を所望する改良径にて造成することができる。また、所謂ボトムフィード方式の改良方法であることから、透水性材料の投入量を管理し易く、このことによって精度の高い出来形の改良杭を造成することができる。
また、地盤に水平振動を付与しながら地盤内に透水性材料を供給し、充填体を横方向に拡径させながら拡径体が造成されることから、振動方向と拡径体の造成方向(拡径方向)が一致していることにより、施工効率の高い改良方法となる。また、三点式の杭打ちベースマシン等の特殊機械を使用することなく、移動式クレーン等でバイブロツールを垂下した状態で地盤改良を行うことができる。また、透水性材料からなる改良杭を水平振動するバイブロツールの自重で締固めながら造成することにより、地盤の密度増大と間隙水圧消散の双方を図ることが可能になる。
【0008】
また、バイブロフロットによって水平振動を生じさせて改良杭を造成することから、SCP工法と異なり、騒音レベルと振動レベルの双方を低いレベルに抑えることができ、環境適応性に優れた改良方法となる。このことに関し、本発明者等の検証によれば、本態様の地盤改良方法は、一般の静的締固め砂杭工法と同程度の騒音レベルかつ振動レベルであることが分かっている。
【0009】
また、戻し工程において、引抜き充填工程におけるバイブロツールの引抜き長さよりも短い戻し長さだけバイブロツールを下方に戻すことにより、充填体を拡径させて拡径体を造成することができる。そして、充填体の造成(透水性材料の補給)とこの充填体の拡径と、これに起因する充填体の周囲の拡径体の拡径とを繰り返すことにより、拡径体を徐々に拡径させることができる。
【0010】
この戻し工程では、バイブロツールの垂下状態を解除することにより、既に造成されている拡径体の内側に充填された充填体にバイブロツールの自重を付与した際に、充填体が拡径しながら締固められることにより、バイブロツールが下方に戻される。この戻し工程の際にもバイブロツールを水平振動させることにより、所定の戻し長さを確保することができ、所定径の拡径体を造成することができる。すなわち、最終的に造成される所定径の改良杭は、このように造成径が都度管理された拡径体を徐々に拡径させることによって造成される。
【0011】
例えば、最初に造成される充填体の長さが1mに設定され(従って、所定の引抜き長さを1mに設定)、バイブロツールを例えば80cm戻すことにより(所定の戻し長さを80cmに設定)、バイブロツール80cm分の体積が充填体の拡径に寄与して拡径体が造成される。この時の拡径体の径は、計算から正確に求められる。そして、その後も同様にバイブロツールの例えば1mの引抜きと、この引抜きによって形成された空洞への透水性材料の充填、さらにバイブロツールの例えば80cmの戻しを繰り返すことにより、都度、造成される拡径体の径が計算から正確に求められる。なお、地盤の硬軟の程度や透水性材料の材料種により、拡径体の拡径の程度も変化し得る。すなわち、計算によって求められる拡径体の径と実際に造成される拡径体の径に相違が生じ得る。そのため、好ましくは、施工エリアにおいて実施工に使用される透水性材料を用いた試験施工を実施し、一セットの引抜き充填工程と戻し工程によって拡径体の拡径がどの程度になるかを確認するのが好ましい。
【0012】
ここで、バイブロフロットにて発生される水平振動は、30乃至100Hz程度の高周波振動であるのが好ましい。このような高周波の水平振動を地盤に付与することにより、一般に振動エネルギーが大きくなり、地盤内に充填された透水性材料の締固め効率を高めることができる。また、高周波振動ゆえに振動の伝播が抑制でき、周辺環境への影響をより一層低減できる。
【0013】
なお、本明細書において「拡径」とは、断面が円形の杭の直径が拡大して面積が大きくなることや、断面が矩形もしくは矩形の角部が湾曲したトラック状の断面の面積が拡大して面積が大きくなることなど、地盤内に造成された充填体や拡径体の断面積が拡大することの全般を含む意味である。また、改良杭の「所定径」とは、設計にて設定される改良杭の直径もしくは半径を意味しており、所定の改良率を満たすための例えば直径となる。
【0014】
また、本発明による地盤改良方法の他の態様は、前記所定の引抜き長さと前記所定の戻し長さのいずれか一方もしくは双方を変化させることにより、前記改良杭の前記所定径を変化させることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、バイブロツールの引抜き長さと戻し長さのいずれか一方もしくは双方を変化させることにより、バイブロツールの引抜きと戻しの繰り返しによって都度造成される拡径体の径も、最終的に造成される改良杭の所定径も所望に変化させることができる。本態様の地盤改良方法によれば、例えば直径800mm乃至1500mm程度の、広範囲に亘り、かつ例えば1000mm以上の大径の改良杭を造成することが可能になる。なお、バイブロフロットを水平振動させるべく、バイブロフロット内に偏心モータ等を内蔵する場合において、この偏心モータの電流値(偏心モータに対する負荷の値)は地盤の強度に応じて増加することを利用し、施工時における偏心モータの電流値を読み取り、地盤性状を電流値で判定してもよい。そして、この電流値による判定により、改良杭の径を地盤性状に応じて変化させる方法を適用することもできる。この方法では、例えば、バイブロツールを貫入した際に所定の電流値に満たなかった場合は対象地盤を軟弱地盤と判定し、再度同じ箇所にてバイブロツールを貫入することにより、改良杭を当初設定している所定径よりも大きな径に造成する。一方、バイブロツールを貫入した際に所定の電流値以上を示す場合は対象地盤を強固な地盤と判定し、その位置で造成を中止することにより、改良杭を当初設定している所定径よりも小さな径に造成する。このように、例えば電流値を用いて実際の地盤性状を判定し、地盤性状に応じて改良杭の径を適宜変更することにより、対象地盤に応じた合理的かつ経済的な地盤改良を実現できる。
【0016】
また、本発明による地盤改良方法の他の態様は、前記引抜き充填工程と前記戻し工程を繰り返すことにより、最初に造成された前記充填体の高さ位置まで徐々に拡径された前記拡径体を造成していき、該拡径体の高さ位置にて前記所定径の改良杭の一部を造成し、以浅の地盤内に連続した前記所定径の改良杭を造成することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、引抜き長さと戻し長さの差分長さの累計が最初に造成された充填体の高さとなった段階で、所望する所定径の改良杭の下方部分(所定径の改良杭の一部)が造成される。最初に造成された充填体の高さが例えば1mで、引抜き長さと戻し長さの差分長さが例えば20cmの場合、引抜き充填工程と戻し工程のセットを5回繰り返すことにより、所望する所定径の拡径体が造成される。また、引抜き長さと戻し長さの差分長さが例えば25cmの場合は、引抜き充填工程と戻し工程のセットを4回繰り返すことにより、所望する所定径の拡径体が造成される。そして、所望する所定径の拡径体が造成された以後は、地盤の上方に向かって、同様に引抜き充填工程と戻し工程のセットを繰り返し行うことにより、所定径の拡径体を例えば地表面まで造成することができる。
【0018】
また、本発明による地盤改良方法の他の態様は、前記貫通工程において、前記所定径に満たない径を有する下方の拡径体を余造成部とし、該余造成部の長さと前記改良杭の設計長さを加算して前記貫通工程における前記所定深度とすることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、所定径に満たない径を有する下方の拡径体を余造成部として改良杭の長さ(設計長さ)から除外することにより、所定径の改良杭をより一層高い精度で造成することができる。最初に造成された充填体の高さが例えば1mで、引抜き長さと戻し長さの差分長さが例えば20cmの場合に、引抜き充填工程と戻し工程のセットのうち、最初の4セットの繰り返しによって造成される長さ80cmの拡径体は未だ所定径未満の径を有している。そこで、下方80cmの拡径体を余造成部とし、予め、改良杭の設計長さにこの80cmを加算した長さを所定深度として、この所定深度までバイブロツールを貫通させる貫通工程を行うものである。
【0020】
また、本発明による地盤改良方法の他の態様は、前記透水性材料が、フライアッシュもしくはベントナイトからなる造粒物、もしくは砕石のいずれか一種からなることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、造粒物もしくは砕石(リサイクル材もしくはバージン材)からなる透水性材料を使用することにより、材料に応じた固有の効果を期待することができる。まず、造粒物は、その径を所望に調整することが可能である。そして、例えば均一径の造粒物を透水性材料として使用することにより、戻し工程において、水平振動するバイブロツールが空洞に充填されている透水性材料内にスムーズに入り込み易くなる。
【0022】
一方、ベントナイトからなる造粒物の場合は、ベントナイトの膨潤性能を利用することができ、ベントナイトが地盤内の水分によって膨潤して改良杭の内部から周辺の地盤に対して押込力を付与し、改良杭周辺の地盤に対するより一層の締固め効果を発揮できる。
【0023】
また、砕石を透水性材料に使用する場合は、砕石の再硬化性能を利用することができ、砕石が水分を吸収して再硬化することにより、硬度の高い改良杭を造成することができる。改良地盤に対して、例えば耐液状化性に加えて地耐力が要求される場合に好適な透水性材料である。なお、その他、透水性材料として砂を適用することもできる。
【0024】
また、本発明による地盤改良方法の他の態様は、前記透水性材料として造粒物と砕石を使用し、前記改良杭を、中心領域にある砕石からなる耐荷体と、外周領域にある造粒物からなる排水体とを有する複合構造体として造成することを特徴とする。本態様によれば、耐荷重性と排水性の双方に優れた改良杭を造成することができる。改良地盤に対して、例えば耐液状化性に加えて地耐力が要求される場合に、好適な構造の改良杭となる。
【0025】
また、本発明による地盤改良方法の他の態様は、地表から前記所定深度までの間に硬質層がある場合に、該硬質層をプレボーリングするプレボーリング工程をさらに有し、該プレボーリング工程に続いて前記貫通工程を行うことを特徴とする。本態様では、所定深度までの間に硬質層がある場合は、この硬質層までを先行削孔機等で先行削孔し、硬質層以深にバイブロツールを案内することより、バイブロツールを使用した引抜き充填工程と戻し工程の繰り返しによる地盤改良方法の実施を担保することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の地盤改良方法によれば、特殊機械を使用することなく、改良杭を所望する改良径にて造成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る地盤改良方法に適用される地盤改良装置の一例を示す装置構成図である。
【
図2】(a)はバイブロツールの一例の側面図であり、(b)は
図2(a)のb-b矢視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る地盤改良方法を説明する工程図である。
【
図4】(a)、(b)、(c)ともに、造成される改良杭の実施形態を示す縦断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る地盤改良方法をより詳細に説明する工程図であって、上段は各工程におけるバイブロツールと造成された改良杭の縦断面図であり、上段における矢視図であって各工程において造成された改良杭の断面積を示す図である。
【
図6】
図5に続いて、本発明の実施形態に係る地盤改良方法をより詳細に説明する工程図である。
【
図7】試験施工時の施工深度と過剰間隙水圧に関する時刻歴波形である。
【
図8】試験施工時のバイブロツールの水平振動による周辺地盤の加速度に関する時刻歴波形である。
【
図9】試験施工時の地盤改良前後の地盤の深度ごとのN値を示す図である。
【
図10】実施例及び比較例の各地盤改良方法における、振源からの距離と振動レベルを測定した結果を示す図である。
【
図11】実施例及び比較例の各地盤改良方法における、振源からの距離と騒音レベルを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る地盤改良方法について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0029】
[実施形態に係る地盤改良方法]
<地盤改良装置>
はじめに、
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態に係る地盤改良方法に適用される地盤改良装置の一例を説明する。ここで、
図1は、本発明の実施形態に係る地盤改良方法に適用される地盤改良装置の一例を示す装置構成図である。また、
図2(a)はバイブロツールの一例の側面図であり、
図2(b)は
図2(a)のb-b矢視図である。
【0030】
図1に示すように、地盤改良装置100は、バイブロツール30とバケット35をワイヤWにて垂下させたクローラクレーン10と、硬質層をプレボーリングするための先行削孔機20と、を有する。また、図示を省略するが、その他、土砂や砕石を運搬もしくは搬送するためのホイールローダ等を地盤改良装置100が備えていてもよい。なお、図示例の地盤改良方法では、地盤改良深度となる所定深度までの間に硬質層が存在する地盤Gを改良対象としていることから、先行削孔機20を地盤改良装置100の構成要素としているが、このような硬質層が存在しない地盤を改良対象とする場合、先行削孔機20は不要となる。
【0031】
図2に示すように、バイブロツール30は、バイブロフロット31とフィーダー32を相互に併設した態様で有し、これらの頂部にホッパー33が装着されて構成されている。
図2(b)に示すように、バイブロフロット31とフィーダー32による断面形状はトラック状であり、合計の断面積はA1である。
図1に示すようにバケット35にてホッパー33に投入された充填材は、フィーダー32を介して地盤内に提供され、提供された充填体の当初の断面形状もトラック状であり、断面積はA1となる。なお、バイブロフロット31とフィーダー32による断面形状はトラック状以外にも、円形、楕円形、矩形など、様々な断面形状が適用できる。
【0032】
バイブロフロット31はケーシングパイプからなり、その先端に偏心モータ34を内蔵している。偏心モータ34は、例えば周波数30乃至100Hz程度の高周波の振動を発生可能なモータである。この偏心モータ34は、バイブロフロット31を水平方向(横方向)に高周波振動させるモータである。
【0033】
このように、高周波(従って高出力)の偏心モータ34を適用することにより、振動エネルギーを大きくすることができ、高効率にて地盤内に充填される充填材を締固めることができる。また、従来の低振動でかつ鉛直振動を地盤に付与するSCP工法に比べて、水平方向の高周波振動を地盤に付与しながら地盤改良を行うことから、地盤への振動伝播を抑制することができ、改良域の周辺環境への影響を可及的に低減することができる。
【0034】
また、地盤改良装置100は、クローラクレーン10にてバイブロツール30を垂下した構成を有することから、SCP工法やGD工法のように、三点式の杭打ちベースマシン等の特殊機械を構成要素としない。そのため、汎用性のある重機を用いた地盤改良施工を実現でき、工費の節減にも繋がる。
【0035】
ケーシングパイプからなるバイブロフロット31は、地盤改良深度となる所定深度までの長さを有している。なお、この「所定深度」は、以下の地盤改良方法にて説明するように、所定径(設計径)の改良杭の長さである設計長さと、所定径に満たない径を有する下方の余造成部の長さを加算した深度となる。
【0036】
<地盤改良方法>
次に、
図3を参照して、本発明の実施形態に係る地盤改良方法について説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る地盤改良方法を説明する工程図であり、
図3の左図から右図に向かって一連の工程図となる。すなわち、同じ地表位置において、その直下の地盤内に改良杭を造成するまでの工程を、左図(工程(A))から右図(工程(G))にかけて順に示している。なお、
図3における工程(B)乃至工程(G)ではクローラクレーンの図示を省略し、ワイヤWにてバイブロツール30が垂下されている状態のみを示している。
【0037】
図3に示す改良対象の地盤Gは、表層から順に、軟弱層G1,硬質層G2,軟弱層G3乃至G5の地盤性状の異なる複数の層の積層構造を有する。そして、表層から軟弱層G5の途中レベルまでを、地盤改良深度となる所定深度h(工程(B)参照)とする。
【0038】
改良対象の地盤Gが表層の軟弱層G1の下方に硬質層G2を有することから、まず、
図3の工程(A)に示すように、先行削孔機20を用いて硬質層G2の下端までX1方向に、オーガーを回転させながらプレボーリングを行う(プレボーリング工程)。
【0039】
プレボーリング工程にて硬質層G2の下端まで先行削孔した後、工程(B)に示すように、先行削孔機20を退避させ、クローラクレーン10にてワイヤWを介してバイブロツール30を垂下し、その先端を地盤G内に挿入する。そして、必要に応じてバイブロフロット31の先端から圧縮空気や圧縮水を地盤G内に吐出しながら、バイブロツール30の自重にて地盤G内にバイブロツール30をX1方向に自沈させ、バイブロツール30を所定深度hまで貫通させる(貫通工程)。
【0040】
バイブロツール30が所定深度まで貫通した後、工程(C)に示すように、バケット35にてホッパー33に対して改良杭造成用の透水性材料を投入する。そして、工程(D)に示すように、バイブロツール30を所定の引抜き長さh1だけ上方のX2方向に引抜き、この引抜きによってバイブロツール30の下方に生じた空洞に対して、フィーダー32を介してホッパー33に投入されている透水性材料を充填する。
【0041】
このバイブロツール30の引抜きは、偏心モータ34を駆動させてバイブロツール30を水平方向であるY1方向に高周波振動させながら行う。このバイブロツール30の引抜きによって形成された空洞に透水性材料が充填されることにより、充填体C1を造成する。造成された充填体C1は、
図2(b)に示す断面積A1と引抜き長さh1を乗じてなる体積を有する。例えば、所定長さhが5m乃至10m程度の場合に、引抜き長さh1を1m程度に設定することができる(以上、引抜き充填工程)。
【0042】
断面積A1と引抜き長さh1を乗じてなる体積を有する充填体C1が造成された後、工程(E)に示すように、バイブロツール30を引抜き長さh1よりも短い所定の戻し長さh2だけ下方のX3方向に戻す。このバイブロツール30の戻しも、偏心モータ34を駆動させてバイブロツール30を水平方向であるY1方向に高周波振動させながら行う。
【0043】
バイブロツール30の戻しは、バイブロツール30を水平方向に高周波振動させながら、バイブロツール30の自沈にて行う。例えば、引抜き長さh1が1m程度に設定されている場合に、戻し長さh2を50cm乃至85cm程度に設定することができる。
【0044】
バイブロツール30を引抜き長さh1よりも短い戻し長さh2だけ下方に戻すことにより、充填体C1がバイブロツール30の自重にて側方に押されて拡径し、拡径体C2が造成される。例えば、引抜き長さh1が1mに設定され、戻し長さh2が85cmに設定されている場合、拡径体C2は当初の高さ1mを保持しながら、バイブロツール30が内部に押し込まれた上方85cmの高さ領域においては挿入されたバイブロツール30の体積分だけ側方に拡径し、図示例のように段状の拡径体C2が造成される。
【0045】
このように、拡径体C2は、バイブロツール30の自重にて充填体C1が上方から押し込まれて側方に拡径しながら造成されるが、この際に、バイブロツール30が水平方向に高周波振動しながら充填体C1を押し込むことから、バイブロツール30の振動方向と拡径体C2の造成方向(拡径方向)が一致していることにより、施工効率の高い改良方法となる(以上、戻し工程)。
【0046】
上記する工程(C)乃至工程(E)、すなわち、透水性材料の充填準備から引抜き充填工程、及び戻し工程までを1セットとし、このセットを
図3の工程(F)のように所定回数繰り返す。この施工により、下端から所定の高さh4までは徐々に拡径するものの、所定径φに満たない径を有する余造成部C3を有し、その上方に所定径φを有する改良杭の一部C4が造成されていく。この引抜き充填工程と戻し工程の繰り返し施工の際には、バイブロツール30の水平方向であるY1方向の高周波振動は絶えず実行され、この高周波振動が地盤に付与されることにより、改良杭の上方への造成が行われる。
【0047】
工程(G)に示すように、所定径φの改良杭C5が例えば地表まで造成されることにより、改良エリアの一箇所における改良杭の造成が完了する。工程(G)で造成される改良杭C6は、高さh4の余造成部C3と高さh3で所定径φの改良杭C5を有する。そこで、造成された全体の改良杭C6から、所定径φを満たさない余造成部C3を除いた改良杭C5の高さh3を所定の設定長さ(当初の改良杭の設計長さ)とする。すなわち、工程(B)の貫通工程にて貫通された所定深度hは、所定径φの改良杭C5の設計長さh3と余造成部C3と高さh4が加算された深度である。
【0048】
このように、余造成部C3の高さh4を見込んで貫通工程における所定深度hを設定することにより、設計長さに亘って所定径φを有する改良杭C5を精度よく造成することができる。施工エリアにおいて、所定の改良率に応じた改良ピッチにて各改良杭C6が造成されることにより、施工エリアにおいて所望する液状化強度や地耐力等を備えた改良地盤を造成することができる。
【0049】
実施形態に係る地盤改良方法において、バイブロツール30の引抜き長さと戻し長さのいずれか一方もしくは双方を変化させることにより、バイブロツール30の引抜きと戻しの繰り返しによって都度造成される拡径体の径も、最終的に造成される改良杭の所定径も所望に変化させることができる。例えば、所定の引抜き長さを1mに設定したとしても、所定の戻し長さを80cmに設定する施工と85cmに設定する施工では造成される拡径体の径が相違する。また、所定の戻し長さを80cmに設定したとしても、所定の引抜き長さを1mに設定する施工と1.5mに設定する施工では造成される拡径体の径が相違する。従って、地盤の硬軟の程度等に応じて、最適な締固め管理が実行できるように、バイブロツール30の引抜き長さと戻し長さを設定して所定径の改良杭を造成するのが好ましい。
【0050】
本態様の地盤改良方法によれば、例えば直径800mm乃至1500mm程度の、広範囲に亘り、かつ例えば1000mm以上の大径の改良杭を造成することが可能になる。従って、直径の上限が700mm程度の改良杭を造成するSCP工法と同程度の改良率にて改良杭を造成する場合であっても、本態様による地盤改良方法では改良杭のピッチを大きくすることができ、このことによって工期短縮と工費削減を図ることが可能になる。
【0051】
例えば一例として、SCP工法と実施形態に係る地盤改良方法にて同程度の改良率の改良杭を造成する場合、SCP工法では1.9mピッチで改良杭を造成する必要があるのに対して、実施形態に係る地盤改良方法では2.8mピッチで改良杭を造成することができ、50%もピッチを広げることが可能になる。
【0052】
また、バイブロツール30の引抜き長さと戻し長さを例えばそれぞれ1m、80cm等に設定することにより、これらの工程にて造成される拡径体の径は計算から正確に求められる。そして、その後も同様にバイブロツール30の1mの引抜きと、この引抜きによって形成された空洞への透水性材料の充填、さらにバイブロツールの80cmの戻しを繰り返すことにより、都度、造成される拡径体の径が計算から正確に求められる。
【0053】
なお、地盤Gの硬軟の程度により、拡径体の拡径の程度も変化し得る。すなわち、計算によって求められる拡径体の径と実際に造成される拡径体の径に相違が生じ得る。そのため、好ましくは、施工エリアにおいて試験施工を実施し、一セットの引抜き充填工程と戻し工程によって拡径体の拡径がどの程度になるかを確認するのが好ましい。すなわち、施工エリアにおいて所定の透水性材料を使用して試験施工を実施し、造成される拡径体の径の実測値と設計値との比率から補正係数を求めておくのがよい。
【0054】
この補正係数は、施工エリアの地盤の性状(地盤の締まり易さ、硬軟の程度等)と使用される透水性材料とによって決定され得る。また、図示例のように、施工エリアにおいて、地表から改良深度hの範囲に複数種の地層(G1乃至G5)が積層している場合は、地層G1乃至G5ごとに補正係数を求めておくのがより好ましい。実施工の際には、地層G1乃至G5ごとに改良杭の所定径(設計値)に対して地層固有の補正係数を乗じて算定された施工管理径の改良杭を造成することにより、所定深度に亘って、より一層高い精度の出来形の改良杭を造成することができる。
【0055】
なお、図示例の地盤改良方法は、設計長さh3に亘って、同一の所定径φの改良杭C5を造成するものであるが、各地層G1乃至G5ごとに、所定径φが異なる改良杭を造成してもよい。この場合、試験施工にて予め地層ごとに設定されている補正係数を用いて、実施工の際の各地層における施工管理径を設定し、各地層に固有の施工管理径の改良杭が積層された改良杭を造成することができる。
【0056】
このように、実施形態に係る地盤改良方法によれば、クローラクレーン10にてバイブロツール30を引抜くことにより形成された空洞に透水性材料を充填して充填体C1を造成し、水平方向に高周波振動するバイブロツール30の自沈にて充填体C1を側方に拡径させながら拡径体C2を造成し、これを繰り返して拡径体C1を徐々に拡径させながら(C3の造成)、改良杭C4が造成される。そのため、特殊機械を使用することなく、地盤の密度増大と間隙水圧消散の双方を図ることのできる改良杭C4を造成することができる。
【0057】
ここで、
図4を参照して、使用する透水性材料に応じた改良杭について説明する。
図4(a)、(b)、(c)はともに、造成される改良杭の実施形態を示す縦断面図である。
図4(a)は、透水性材料として、フライアッシュもしくはベントナイトからなる造粒物Zを使用した場合の改良杭を示す図である。
【0058】
透水性材料として造粒物Zを使用する場合は、透水性材料の径を所望に調整することが可能になる。そして、例えば均一径の造粒物Zを透水性材料として使用することにより、戻し工程において、水平振動するバイブロツール30が空洞に充填されている透水性材料内にスムーズに入り込み易くなる。また、造粒物ゆえにその強度を所望の強度に調整することが可能になる。また、SCP工法のように上下方向の締固めと異なり、バイブロツール30を水平方向に振動させて拡径することから、透水性材料の粒子破砕を防止することができ、良好な透水性を確保することができる。
【0059】
造粒物Zがフライアッシュからなる場合は、例えば10N/mm2程度の強度を期待することができる。また、10mm乃至20mm程度の粒径の造粒物Zを製造することができる。例えば均一径の粒状の造粒物Zを使用することにより、改良杭自体の体積減少(負のダイレイタンシー)を抑制することができ、従って、地盤内に造成した充填体をバイブロツール30にて押し込んだ分が拡径体の拡径に繋がり、周辺地盤の締固め効果を一層向上させることができる。
【0060】
さらに、石炭火力発電所から大量に発生するフライアッシュ(石炭灰)を造粒して地盤改良材として使用する場合、発生するフライアッシュを有効に使用することが可能になる。例えば、本態様の地盤改良方法を石炭火力発電所の敷地内における地盤改良に適用することにより、敷地内で発生する大量のフライアッシュを当該敷地内における地盤改良材として使用することができる。
【0061】
また、造粒物Zがベントナイトからなる場合は、ベントナイトの膨潤性能を利用することができる。すなわち、改良杭C6を形成するベントナイトからなる透水性材料の内部に浸透してきた水分によってベントナイトが膨潤し、このベントナイトの膨潤により、改良杭C6の内部から周辺の地盤に対して押込力を付与することができ、改良杭C6周辺の地盤に対するより一層の締固め効果を期待することができる。
【0062】
一方、
図4(b)は、透水性材料として砕石Sを使用した場合の改良杭を示す図である。砕石Sは、リサイクル材であってもバージン材であってもよい。透水性材料として砕石Sを使用する場合は、砕石Sが水分を吸収して再硬化することにより、SCP工法のように改良材料を地盤内に圧入することなく、高強度の改良杭C6を造成することができる。従って、改良された地盤に耐液状化性に加えて地耐力が要求される場合などにおいては、砕石Sを透水性材料に使用して本態様の地盤改良方法を行うのがよい。
【0063】
一方、
図4(c)は、透水性材料として造粒物Zと砕石Sの双方を使用した場合の改良杭を示す図である。造成される改良杭C6は、中心領域にある砕石Sからなる耐荷体と、外周領域にある造粒物Zからなる排水体とを有する複合構造体である。図示する改良杭C6によれば、耐荷性と排水性(耐液状化性)の双方に優れた改良杭が提供できる。例えば、液状化地盤上に高層ビル等を造成する場合等において、好適な改良杭となる。
【0064】
<地盤改良方法の実施例>
次に、
図5及び
図6を参照して、地盤改良方法の実施例について説明する。
図5及び
図6は順に、本発明の実施形態に係る地盤改良方法をより詳細に説明する工程図であって、上段は各工程におけるバイブロツールと造成された改良杭の縦断面図であり、上段における矢視図であって各工程において造成された改良杭の断面積を示す図である。なお、図中の数値はmm単位である。
【0065】
本実施例では、引抜き充填工程におけるバイブロツール30の引抜き長さを1m(図中の1000が相当)とし、従って、造成される充填体の高さは1mであり、断面積はバイブロツール30の断面積であるA1である。また、引抜き充填工程におけるバイブロツール30の戻し長さを80cm(図中の800が相当)とし、引抜き長さとの差分値は20cmとする(図中の200が相当)。
【0066】
図5の工程(A)は貫通工程であり、表層から所定深度hまでバイブロツール30を貫通させる。次いで、工程(B)において、バイブロツール30を1m引抜くことによって高さ1mの空洞を形成させ、バイブロツール30のフィーダー32から透水性材料をこの空洞に充填することにより、断面積A1で高さ1mの充填体P1が造成される。
【0067】
次に、工程(C)において、バイブロツール30を水平方向に高周波振動させながら80cm下方に戻すことにより、バイブロツール30が自重及び水平振動にて高さ80cm分の体積を充填体P1内に埋設する。この施工により、当初の充填体P1の高さ1mを維持しながら、バイブロツール30の80cm高さ相当の体積分だけ充填体P1が側方に拡径し、断面積A2の拡径体P1'が造成される。
【0068】
すなわち、本実施例では、バイブロツール30を充填体P1内に所定の戻し長さだけ戻した際に、このバイブロツール30が充填体P1内に埋め込まれた分の体積が、充填体P1を側方に拡径させる体積増分に充てられるものとして拡径体P1'の断面積を算定するものである。なお、実際には、充填体P1の高さ(図示例では1m)に対して、拡径体P1'の高さが1m以上になる(すなわち、高さ方向にも拡大する)ことも想定されるが、縦横二方向に拡大するとした場合は計算が煩雑になることから、本実施例では横方向の拡径にのみバイブロツール30の戻し分の体積が寄与するものとする。
【0069】
工程(C)において、拡径体P1'の断面積(図中のドーナツ状の部分の断面積)は、地盤性状と透水性材料による補正係数を加味して設定されるのがよい。この補正係数は、施工エリアにおいて、実施工にて使用される透水性材料を用いた試験施工を行うことにより、実際の拡径体の断面積を測定し、設計値と実測値の比率を求めること等により設定される。この補正係数は、地盤性状によっても使用する透水性材料によっても変化し得ることから、施工エリアの地盤と使用する透水性材料の組み合わせによって一義的に設定される。そして、より詳細には、
図3に示すように複数の地層が積層している地盤の場合には、試験施工にて地層ごとに拡径体の断面積を測定し、地層ごとの補正係数を特定しておくのが好ましい。地層ごとに、固有の補正係数に応じた施工管理径を算定しておき、この施工管理径に基づいて改良杭を造成することにより、地盤性状の異なる多層地盤においても所望径の改良杭を高い出来形の下で造成することができる。なお、試験施工を実施せず、従って補正係数を使用せずに拡径体の断面積を算定してもよい。
【0070】
次に、工程(D)において、バイブロツール30を1m引抜くことによって高さ1mの空洞を形成させ、バイブロツール30のフィーダー32から透水性材料をこの空洞に充填することにより、拡径体P1'のドーナツ状部分の内側において、断面積A1で高さ1mの充填体P2が造成される。ここで、所定深度hから充填体P2の上端までの高さは1.2mとなる。
【0071】
次に、工程(E)において、バイブロツール30を水平方向に高周波振動させながら80cm下方に戻すことにより、バイブロツール30が自重及び水平振動にて高さ80cm分の体積を充填体P2内に埋設する。この施工により、当初の充填体P2の高さ1.2mを維持しながら、バイブロツール30の80cm高さ相当の体積分だけ充填体P2が側方に拡径して拡径体P2'が造成されることにより、その外側の拡径体P1'が外側に押し出される。そして、工程(F)にて空洞に断面積A1で高さ1mの充填体P3が造成されることにより、断面積A3の拡径体P1'と拡径体P2'と充填体P3のユニット体が造成される。以後の工程(G)及び
図6の工程(H)により、断面積A4を有する、拡径体P1',P2'、P3'と充填体P4からなる拡径体が造成される。以後、順に工程(I)乃至工程(L)まで、バイブロツール30の1mの引抜きと、空洞への充填体の造成、及びバイブロツール30の80cmの戻しによる拡径体の造成を繰り返す。
【0072】
工程(K)は、工程(C)における1回目のバイブロツール30の戻しから数えて、5回目のバイブロツール30の戻し工程となる。すなわち、工程(B)にて1回目に造成された充填体P1の高さが1m、バイブロツール30の引抜き1mと戻し80cmの差分量が20cmであることから、1m÷20cm=5回分となる。そして、工程(K)にて造成される拡径体P1'乃至P5'のユニット体の上端は所定深度hから1mの高さとなり、全拡径体の断面積は工程(L)にて示すように断面積A6となる。以後、6回目のサイクルとなる、工程(L)及び工程(M)にてさらに拡径体P6'を造成しても、全拡径体の断面積はA6のままとなる。つまり、図示する実施例では、5回目のサイクルにて設計の断面積の拡径体が造成され、それよりも地表面側には以後同じ断面積の拡径体が造成されることにより、工程(N)に示す改良杭P7が造成される。この断面積A6は、設計断面積であり、設計段階で改良杭P7に設定された断面積である。
【0073】
工程(N)において、工程(I)までに造成される拡径体は設計断面積を有していないことから、この拡径体は余造成部P8として改良杭P7から除外することができる。すなわち、初期の貫通工程では、バイブロツール30を貫通させる所定深度hを、改良杭P7の長さ(設計長さ)と余造成部P8の長さ(図示例では80cm)を加算して設定する。このように、設計断面積A6に満たない断面積を有する下方の拡径体を余造成部P8として改良杭P7の長さ(設計長さ)から除外することにより、設計断面積A6を有する改良杭P7をより一層高い精度で造成することができる。
【0074】
なお、余造成部P8を改良杭P7から除外することなく、改良杭P7に含めるとする設計思想の下で地盤改良が行われてもよい。また、地層ごとに断面積が変化する改良杭であってもよく、この場合には、地層ごとに、造成する充填体の体積やバイブロツール30の戻し量などを変化させながら地盤改良が行われる。
【0075】
[試験施工とその結果]
次に、本発明者等が実施した試験施工の概要とその結果について説明する。本発明者等は、ある地盤改良エリアにて試験施工を実施し、改良前後のN値の変化を測定するとともに、地盤改良施工時における騒音や振動等の測定を行い、実施形態に係る地盤改良方法の環境適応性に関する検証を行った。ここで、
図7は、試験施工時の施工深度と過剰間隙水圧に関する時刻歴波形であり、
図8は、試験施工時のバイブロツールの水平振動による周辺地盤の加速度に関する時刻歴波形である。また、
図9は、試験施工時の地盤改良前後の地盤の深度ごとのN値を示す図である。また、
図10及び
図11はそれぞれ、実施例及び比較例の各地盤改良方法における、振源からの距離と振動レベルを測定した結果を示す図、振源からの距離と騒音レベルを測定した結果を示す図である。
【0076】
図7に示すように、本試験施工では、表層下5mを地盤改良深度となる所定深度とし、3000秒前の段階で所定深度までバイブロツールを貫通させた際に、地中の過剰間隙水圧は最大となっている。以後、偏心モータにより、バイブロツールを50Hz程度の高周波で水平振動させ、バイブロツールの1mの引抜きとこの引抜きによってできた空洞への透水性材料の充填(充填体の造成)、バイブロツールの80cmの戻しとこの戻しによる拡径体の造成を繰り返した。この地盤改良施工では、バイブロツールの地盤内への貫通時に過剰間隙水圧が一時的に上昇するものの、バイブロツールの引抜きと戻しの施工サイクルの開始と同時に過剰間隙水圧が速やかに消散し、以後の引抜きと戻しの施工サイクルではほぼゼロで推移することが確認される。
【0077】
また、施工エリアにおいて加速度計を設置しておき、地盤改良施工途中の地表面における加速度を測定している。なお、
図8に示す加速度の時刻歴波形の時刻と、
図7に示す時刻歴波形の時刻は一致しておらず、
図8の時刻歴波形の時刻0秒は、
図7の時刻歴波形の時刻2400秒程度の時刻に対応している。すなわち、
図8の時刻歴波形が400秒程度後に加速度最大値を示しているが、これは、
図7においてバイブロツールを地盤内に貫通させた2800秒程度の時刻の加速度を示す。
【0078】
図8より、バイブロツールの地盤内への貫通と、その後の引抜き及び戻しのサイクルの過程において、地表面加速度は1500乃至2000gal程度と極めて大きくなっており、これは、高周波振動を地盤に付与することによるものであることが分かる。なお、高周波振動は、このように大きなエネルギーを地盤に付与して地盤を効率的に締固めるものの、その距離減衰性も高いことから、施工エリア周辺への影響は極めて少ない。
【0079】
図9より、施工エリアにおいて、改良深度5m以浅では全てN値の改善が見られ、さらに、改良深度5mよりも深層の深度6m周辺でもN値が大きく改善していることが確認されている。
【0080】
次に、
図10及び
図11の計測結果を参照して、実施形態に係る地盤改良方法の環境適応性について検証する。
図10及び
図11において、実施例は実施形態に係る地盤改良方法による結果であり、比較例1はSCP工法による結果であり、比較例2は静的締固め砂杭工法による結果である。なお、比較例1のSCP工法の結果、及び比較例2の静的締固め砂杭工法の結果は、「地盤改良工法における騒音・振動対策 基礎工 Vol.27 No.3 pp.6乃至pp.11 1991」に基づいている。
【0081】
まず、
図10に示すように、振源からの距離と振動レベルの関係に関しては、実施例は比較例1に比べて、いずれの振源からの距離においても25乃至30dB程度も振動レベルが低くなることが分かる。一方、実施例は比較例2に比べて、振源からの距離が100m程度までは比較例2よりも振動レベルが高いもののその差分は徐々に少なくなり、振源からの距離が100mを超える範囲では実施例の振動レベルが低くなることが分かる。このように、実施例の振動レベルは、比較例2の振動レベル程度であると言える。
【0082】
また、
図11に示すように、振源からの距離と騒音レベルの関係に関して、実施例の騒音レベルは、比較例1の騒音レベルは勿論のこと、比較例2の騒音レベルと比べても、いずれの振源からの距離においてもその値が低くなることが分かる。
【0083】
このように、実施例の地盤改良方法は、低騒音かつ低振動の汎用地盤改良方法である、静的締固め砂杭工法と同程度かそれよりも環境適応性に優れた地盤改良方法であることが実証されている。さらに、実施例の地盤改良方法では、静的締固め砂杭工法のように三点式の杭打ちベースマシン等の特殊機械は不要となる。さらに、静的締固め砂杭工法のように、強制的に砂杭を地盤に打ち込む改良方法でないことから、このように強制的な砂杭の打ち込みの際に地盤内に打ち込みきらない分の砂が地表に盛り上がり、この盛り上がり分の土砂の処分を要するといった問題も生じない。
【0084】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0085】
10:クローラクレーン、20:先行削孔機、30:バイブロツール、31:バイブロフロット、32:フィーダー、33:ホッパー、34:偏心モータ、100:地盤改良装置、G:地盤、C1:充填体、C2、C4:拡径体、C5,P7:改良杭、C3,P8:余造成部、Z:造粒物、S:砕石