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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】アルコール安定性に優れる乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20220622BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20220622BHJP
【FI】
A23L5/00 L
C12G3/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018079222
(22)【出願日】2018-04-17
(65)【公開番号】P2019180372
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100106769
【氏名又は名称】新井 信輔
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 詩歩
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 結希
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 温子
(72)【発明者】
【氏名】和田 聖己
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 篤志
(72)【発明者】
【氏名】山根 健也
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-051886(JP,A)
【文献】特開2008-136487(JP,A)
【文献】特開2010-126718(JP,A)
【文献】特開2017-112915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00
C12G 3/04
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリソルベートとレシチンと液糖と油溶性物質を含む、アルコール安定性に優れる乳化組成物であって、ポリソルベート100質量部に対して、レシチンが27質量部以下であることを特徴とする乳化組成物。
【請求項2】
ポリソルベート100質量部に対して、レシチンが13.5質量部以下である、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
ポリソルベートがポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートである、請求項1又は2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
アルコール安定性が油溶性物質をアルコール飲料に透明に分散させる乳化安定性であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項5】
アルコール飲料の透明度が比濁値0.6~11.7である、請求項4に記載の乳化組成物。
【請求項6】
アルコール濃度が80vol%以下である高濃度アルコール組成物中に添加しても安定な、請求項1~5のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項7】
アルコール濃度が40~80vol%である高濃度アルコール組成物中に添加しても安定な、請求項1~6のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の乳化組成物を含む、高濃度アルコール含有アルコール飲料用濃縮液。
【請求項9】
アルコール濃度が40~80vol%である、請求項8に記載の高濃度アルコール含有アルコール飲料用濃縮液。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のアルコール飲料用濃縮液を水又は炭酸水で希釈することで、ア
ルコール飲料を製造する方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の乳化組成物を含む、アルコール濃度80vol%以下のアルコール溶液。
【請求項12】
ポリソルベートとレシチンと液糖と油溶性物質を含む、高濃度アルコール用の乳化組成物であって、ポリソルベート100質量部に対して、レシチンが27質量部以下であることを特徴とする乳化組成物。
【請求項13】
ポリソルベートとレシチンと液糖と油溶性物質を含む、高濃度アルコール用の乳化組成物であって、ポリソルベート100質量部に対して、レシチンが13.5質量部以下である、請求項12に記載の乳化組成物。
【請求項14】
アルコール濃度が40~80vol%である、請求項12又は13に記載の高濃度アルコール用の乳化組成物。
【請求項15】
工程1:アルコール濃度が40~80vol%であるアルコール飲料用濃縮液に乳化組成物を添加する工程、ここで、乳化組成物は、ポリソルベートとレシチンと液糖と油溶性物質(香料を含んでいてもよい)を含み、ポリソルベート100質量部に対して、レシチンが27質量部以下である、及び、
工程2:工程1で得られるアルコール飲料用濃縮液を、水又は炭酸水で希釈する工程、を含んでなり、
アルコール濃度を9.5vol%に希釈した場合の比濁値が0.6~3.8である透明アルコール飲料の製造方法。
【請求項16】
ポリソルベートと液糖と油溶性物質を含み、アルコール安定性に優れる乳化組成物を含む、アルコール濃度80vol%以下のアルコール溶液を含む消毒薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールに対する安定性に優れ、アルコール飲料に適した乳化組成物、それを含有するアルコール飲料、および高濃度アルコールを含有するアルコール飲料用の濃縮液(濃縮シロップ)、並びに、アルコール含有消毒薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料の嗜好性の多様化に伴い、飲食店ではビールなどの醸造酒以外に、アルコール(エタノール)濃度の高い蒸留酒(焼酎、ウイスキー、ウオッカ、ジンなど)をベースとするチューハイやカクテルなどのアルコール飲料の需要が多くなっている。
飲料の保管スペース、物流コスト削減、一定品質のアルコール飲料の提供などを目的として、飲食店におけるチューハイやカクテルなどの提供には、高濃度アルコールを含む濃縮液(濃縮シロップあるいはコンクとも呼ばれる)に炭酸水や水を加えて希釈したものを来店客に提供するドリンクディスペンサー方式が使用されている。
また、飲食店のみならず一般家庭でも同様に、コンクタイプと称する濃縮酒を購入し、飲酒時に消費者自身が、水、炭酸水、茶などソフトドリンクで希釈し、好みのアルコール度数にして飲用することも増えている。
【0003】
チューハイやカクテルなど、それぞれの味や香りに特徴のあるアルコール飲料に特有の風味・香味を付与する方法として、油溶性香料を乳化させた乳化香料が広く使用されている。その理由は、乳化香料が強くかつ持続性のある風味・香味を付与することができるからである。
また、最近の健康志向の高まりにより、機能性素材を含有するアルコール飲料の需要も増加している。機能性素材には油溶性物質が多く存在し、飲料にこれらの油溶性物質を配合する場合においては、乳化組成物として添加されることがある。
【0004】
しかし、アルコール飲料に添加される乳化組成物は、アルコール飲料の製造工程においてアルコール飲料の数倍の濃縮シロップに添加される場合があるため、高濃度のアルコール溶液中での高い乳化安定性が求められる。
通常、濃縮シロップの濃縮倍率は3倍から6倍程度であるため、例えばアルコール濃度が9%のチューハイの場合、5倍濃縮シロップのアルコール濃度は45vol%となる。
【0005】
一方、アルコール飲料中では乳化安定性が不安定になることが知られている。これは、アルコールが油相にも水相にも相互に溶解するためであると考えられている。
【0006】
そこで、アルコール飲料用の乳化組成物には、高濃度のアルコール溶液中でも安定な乳化力が要求されるため、これまでに種々のアルコール飲料用の乳化組成物が提案されている。
アルコール飲料又は炭酸飲料用の透明乳化香料として、酵素分解レシチンを0.1~2質量%、ポリグリセリン脂肪酸エステルを3~10質量%、ショ糖脂肪酸エステルを1~5質量%、多価アルコールを50~85質量%、水を1~10質量%、および香料を1~10質量%含む乳化組成物(特許文献1)が提案されている。
また、透明性が高く、酸、熱およびアルコールに対する耐性を有する乳化香料として、HLBが10以上である親水性ポリグリセリン脂肪酸エステル、HLBが8以下である親油性ポリグリセリン脂肪酸エステル、およびリゾレシチンを含む乳化香料組成物(特許文献2)も提案されている。
【0007】
さらに、耐アルコール性に優れる水中油型エマルションを製造するための乳化剤組成物
として、平均重合度5~15のポリグリセリンと炭素原子数8~22の脂肪酸とのエステルであるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖と炭素原子数8~22の脂肪酸とのエステルであるショ糖脂肪酸エステル、およびレシチン
を含む乳化剤組成物であって、ポリグリセリン脂肪酸エステル100重量部に対し、ショ糖脂肪酸エステルを5~35重量部、レシチンを2~25重量部の量で含むことを特徴とする乳化剤組成物(特許文献3)も提案されている。
【0008】
しかし、上記の乳化組成物、乳化香料組成物又は乳化剤組成物を用いても、より高濃度(たとえばアルコール濃度40vol%以上)のアルコール溶液中で乳化安定性が劣り、高濃度のアルコール濃縮シロップを、飲用時にまで希釈した後の飲料の透明性の実現が不十分であった。
【0009】
一方、精油を透明に可溶化するために、精油をポリソルベート80とアルコールと水と混合する精油含有組成物が提案されている(特許文献4)が、適用例にアルコール飲料は記載されておらず、高濃度のアルコール下での乳化安定性については、何の示唆も記載もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-136487号公報
【文献】特開2015-44号公報
【文献】特開2008-245588号公報
【文献】特開2007-23065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
嗜好の多様化に伴い、様々な風味のアルコール飲料が開発されている。同時に、アルコール度数の高いアルコール飲料の需要も伸びている。
そのため、アルコール飲料の製造工程などにおいて高アルコール濃度の濃縮シロップに添加した場合でも浮遊物や沈殿を生じず、安定な乳化状態を保ち、アルコール飲料に透明な外観を与えることが可能な、アルコール飲料に適した乳化組成物の提供が求められている。
一方、高濃度のアルコール下での乳化安定性については、飲食品分野だけでなく、アルコールを含有する消毒液の分野においても要望されている。
本発明の目的は、そうしたアルコール安定性に優れる乳化組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行ったところ、乳化剤として、ソルビタン脂肪酸エステルにエチレンオキシドが約20分子縮合したポリソルベート、特に脂肪酸が主にラウリン酸である、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(=ポリソルベート20)を用いることが望ましいことを見出した。
さらに検討を進めた結果、液糖と油溶性物質、場合によりさらにレシチンを混合し、これらを乳化させることで、高アルコール濃度下でも安定な乳化組成物を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ポリソルベートと液糖と油溶性物質を含む、アルコール安定性に優れる乳化組成物。
(2)さらにレシチンを含む上記1の乳化組成物。
(3)ポリソルベートがポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートである、上記1又は2の乳化組成物。
(4)ポリソルベート100質量部に対して、レシチンが27質量部以下である、上記2又は3に記載の乳化組成物。
(5)アルコール濃度が80vol%以下である高濃度アルコール組成物中に添加しても安定な、上記1~4の乳化組成物。
(6)上記1~5の乳化組成物を含む、高濃度アルコール含有アルコール飲料用濃縮液。
(7)上記6のアルコール飲料用濃縮液を水又は炭酸水で希釈することで、アルコール飲料を製造する方法。
(8)上記1~5の乳化組成物を含む、アルコール濃度80vol%以下のアルコール溶液。
(9)上記8のアルコール溶液を含む消毒薬。
(10)ポリソルベートと液糖と油溶性物質を含む、高濃度アルコール用の乳化組成物。
(11)さらにレシチンを含む上記10の乳化組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアルコール安定性に優れる乳化組成物を用いることにより、油溶性物質をアルコール飲料に透明に分散させることができる。
本発明の好ましい態様によれば、本発明のアルコール飲料用乳化組成物を用いることにより、アルコール飲料製品の透明性などの外観を損なわず、嗜好性の高いアルコール飲料を提供することができる。
さらに、本発明のアルコール安定性に優れる乳化組成物は、アルコール飲料の製造工程においてアルコール飲料に含まれるアルコールの数倍の濃度のアルコールを含む濃縮シロップと混合した場合でも浮遊物や沈殿を生じず、安定な乳化状態を保持することができる。
また、高濃度のアルコールを含有する消毒液においても、同様に優れた乳化安定性が発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ポリソルベート、液糖、油溶性物質と水、場合によりさらにレシチンを含む混合物を均一に混合処理して得られた液状の乳化組成物である。以下、詳説する。
〔A〕ポリソルベート
本発明に用いられるポリソルベートは、食品添加物として、ミルク又はクリーム代替品、ドレッシング等に使用される親水性の乳化剤であり、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65及びポリソルベート80が市販されている。
【化1】
【0016】
上記の化学式において、ポリソルベート20、60、65及び80は、いずれもエチレ
ンオキシド単位の合計、w+x+y+z=約20であり、ソルビタン脂肪酸エステルにエチレンオキシドが約20分子縮合していることを意味する。
上記式中、RCO-は、ポリソリベート20では主としてラウリン酸CH3(CH210CO-である。ポリソルベート60と65では、主としてステアリン酸CH3(CH216CO-である。ポリソルベート80では、主としてオレイン酸CH3(CH27CH=CH(CH27CO-である。
ポリソルベートの中で、ポリソルベート20は同60、同65、同80に比べて親水性がより強い。
【0017】
本発明においては、ポリソルベートの中でも、脂肪酸がラウリン酸であるポリソルベート20[英名:Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monolaurate、Polysorbate 20、別名:モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、Tween 20(商品名)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、CAS番号:9005-64-5]が、高濃度エタノールに対する安定性の点で特に好ましい。
本発明者は、ポリソルベートにおけるソルビタン脂肪酸エステル中の脂肪酸の炭素数が高アルコール濃度下での安定性に寄与することを見出したからである。
ポリソルベート20は、ソルビトール及び無水ソルビトールの水酸基の一部を主としてラウリン酸でエステル化し、エチレンオキシド約20分子を縮合させることにより製造される。
【0018】
ポリソルベートの乳化組成物中の配合量は、油溶性成分に対して多すぎるとポリソルベート由来の苦味を生じ、少なすぎると乳化組成物が不安定化してしまう場合がある。このため、ポリソルベートの乳化組成物中の配合量は、油溶性物質100質量部に対して1~200質量部、好ましくは5~150質量部、より好ましくは10~120質量部となるように配合するのが適当である。
【0019】
〔B〕液糖
本発明に用いられる液糖としては、食用であれば特に限定されるものではなく、例えば異性化糖、転化糖、水あめ、蜂蜜、オリゴ糖などが挙げられる。より好ましくは、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合異性化液糖などの液糖が挙げられ、これらを単独或いは2種以上混合して用いることができる。
糖類の乳化組成物中の配合量は、40.0重量%未満では、乳化組成物の粘度が低く不安定化してしまう場合がある。一方、90.0重量%を超えると、粘度が高くなり乳化組成物の製造上の問題が生じる。このため、糖類の配合量は、40.0~90.0重量%、好ましくは45.0~87.0重量%、より好ましくは50.0~85.0重量%となるように配合するのが適当である。
【0020】
〔C〕油溶性物質
本発明に用いられる油溶性物質とは、食用に用いられる水に不溶な物質を意味し、具体的には、油脂、油溶性ビタミン、油溶性香料、脂質などが挙げられる。
油脂としては、動物、植物、微生物を原料とする油脂または化学反応・酵素反応により得られる油脂などを使用することができる。
油溶性ビタミンとしては、具体的には、たとえば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE(トコフェロール)などが挙げられる。
油溶性香料としては、レモン、オレンジ、ライム、グレープフルーツ、ユズやスダチ等の柑橘系(シトラス系)の精油、スパイス系精油、植物系油脂、動物油脂、合成香料のいずれも使用することができる。
その他脂質などの例としては、具体的には、たとえば、DHA、グリコシルセラミド、オクタコサノール、フィトステロール、コエンザイムQ10、α-リポ酸、リコピン、ベータカロテン、ルテインなどが挙げられる。
【0021】
〔D〕レシチン
乳化組成物の安定性や透明性をより一層高めるためには、さらにレシチンを配合することが好適である。
本発明に用いられるレシチンとしては一般に食用であれば特に限定されるものではなく、具体的には、ひまわりレシチン、大豆レシチン、菜種レシチン、卵黄レシチンおよび酵素分解レシチンなどを用いることが出来る。本発明に好ましく用いられるレシチンとしては、例えば、GIRALEC Premium(商品名、Lasenor社製)、レシチンCL(商品名、J-オイルミルズ社製)、SLP-ホワイト(商品名、辻製油社製)などが挙げられる。
レシチンの乳化組成物中の配合量は、ポリソルベートに対して多すぎるとレシチン由来の異味・異臭を生じ、少なすぎると乳化組成物が不安定化してしまう場
合がある。このため、レシチンの乳化組成物中の配合量はポリソルベート100質量部に対して27質量部以下、好ましくは0.1~25質量部、より好ましくは0.5~20質量部となるように配合するのが適当である。
【0022】
〔E〕乳化組成物の製造
本発明の乳化組成物は、乳化組成物の調製に用いられる公知の技術を利用して製造することができる。
具体的には、ホモミキサーおよび高圧ホモジナイザー等の攪拌装置を用いて、油溶性成分と水溶性成分を攪拌および混合する方法が挙げられる。攪拌および混合の際には、任意で冷却又は加温してもよい。
【0023】
〔F〕乳化組成物の適用対象
本発明の乳化組成物の適用対象は、蒸留酒(焼酎、ウイスキー、ウオッカ、ジンなど)をベースとするチューハイやカクテルなどのアルコール飲料や、その製造・提供時に使用される高濃度アルコールを含む濃縮液(「濃縮シロップ」、「コンク」とも呼ばれる)であり、アルコール濃度1~80%以下のアルコール飲料または濃縮液に添加して使用することができる。
【0024】
さらに、飲食品以外にも適用することができ、アルコール濃度80%以下、好適には40~80%の消毒薬、消毒液や殺菌剤に添加することができる。特に食品添加物として認められている成分のみで構成され、高濃度のアルコール中で安定な乳化性を維持できるため、食器、食卓、調理器具をはじめ、衣類や寝具、口腔衛生用品などの日常生活用消毒剤として応用範囲が広い。
【実施例
【0025】
試験例、試作例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の試験例、試作例に限定されるものではない。
【0026】
〔試験例1〕
各種のポリソルベート類の中で本発明に好適なものを検討した。
(1)試験用サンプルの作成
ポリオキシエチレンソルビタンに結合する脂肪酸が異なる種々のポリソルベート(ポリソルベート20 、同60、同80)を用い、表1の配合例にて乳化組成物1~6を作成した。
【0027】
ポリソルベート20(花王社製「エマゾール L-120V」(商品名)) 3.7gを、80gの液糖及び11.3gの水からなる溶液に加温溶解した。得られた溶液へ油性香料(レモン香料/小川香料社製)5.0gを投入し、ハイフレックスホモジナイザー(SMT社製)にて18000rpmで15分間乳化処理を行い、乳化組成物1を調製した。
【0028】
乳化組成物1で使用した乳化剤を、ポリソルベート60(花王社製「エマゾール S-120V」(商品名))、ポリソルベート80(花王社製「エマゾール O-120V」(商品名))、ポリソルベート20と60を質量比で1:1で併用したもの、ラウリン酸が結合したポリグリセリン脂肪酸エステル(日光ケミカルズ社製「デカグリン 1-LVEX」(商品名))、ミリスチン酸が結合したポリグリセリン脂肪酸エステル(日光ケミカルズ社製「デカグリン 1-MVEX」(商品名))に変更した他は乳化組成物1と同様にして、乳化組成物2~6を調製した。
【0029】
【表1】
【0030】
(2)アルコール耐性試験
95%エタノール50mlと水50mlを加えて撹拌した後に、表1の乳化組成物 0.25gを加えて撹拌し、アルコール濃度が47.5vol%の試験品を作成した。
これらの試験品のアルコール耐性を評価した。
ついで、各試験品を5倍希釈したときの透明性を評価した。
【0031】
(3)評価方法
(a)乳化組成物の安定性の評価
乳化組成物を常温(25℃)に8週間静置保管し、乳化組成物の安定性を判断した。結果を表1に示した。
◎:作成直後からの変化がなく、安定性は非常に高い。
○:作成直後からやや変化し白濁傾向にあるが、安定性は高い。
△:表面に油滴が見られており、安定性が低い。
×:オイルが分離しており、安定性がない。
【0032】
(b)高濃度でのアルコール耐性の評価
試験品を冷蔵(5℃)と常温(25℃)に8日間静置保管し、乳化剤由来の沈殿の有無を目視で確認し、アルコール耐性の有無を判断した。
上記の保管条件で外観が異なった場合は、より悪い外観を評価した。結果を表2に示した。
◎:沈殿がなく透明であり、アルコール耐性が非常に高い。
○:わずかに濁っているが沈殿はなく、アルコール耐性は高い。
△:乳化剤が不溶化して、わずかに沈殿しており、アルコール耐性が低い。
×:沈殿物が多く、アルコール耐性がない。
【0033】
(c)希釈後の透明性評価
試験品を5倍希釈し、希釈液の透明度を目視と比濁計により測定した。結果を表2に示した。
◎:沈殿がなく透明であり、透明性が非常に高い。
○:わずかに濁っているが沈殿はなく、透明性が高い。
△:乳化剤が不溶化して、わずかに沈殿しており、透明性が低い。
×:沈殿物が多く透明性がない。
【0034】
比濁計
機器:HACH社製「比濁計(2100AN)」
測定方法:希釈後の溶液をサンプル容器の所定の線まで入れ、室温にて、HACH社製比濁計を用いて測定を行った。基準液はホルマジン溶液を使用した。
【0035】
【表2】
【0036】
試験例1の結果より、ポリソルベートを使用した乳化組成物1~4は、乳化組成物の安定性は低いが、アルコール耐性と希釈時の透明性は高いことが示された。
特に、ポリソルベート20を使用した乳化組成物1は、最もアルコール耐性が高かった。ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した乳化組成物5、6は、乳化組成物の安定性は高かったが、アルコール耐性が低いことが示された。
【0037】
〔試験例2〕(乳化剤の配合組成の検討)
(1)試験用サンプルの作成
ポリソルベート20とレシチンの配合比を検討するために、表3の配合例にて添加濃度を変えた乳化組成物7~9(ポリソルベートとレシチンを併用)、乳化組成物10(レシチンのみ)を作成した。また、試験例1で作成した乳化組成物1(ポリソルベートのみ)についても評価した。
【0038】
(2)アルコール耐性試験
95%エタノール50mlと水50mlを加えて撹拌した後に、上記乳化組成物 0.25gを加えて撹拌し、アルコール濃度が47.5vol%の試験品を作成した。
これらの試験品のアルコール耐性を評価した。ついで、各試験品を5倍希釈したときの透明性を評価した。
【0039】
(3)評価方法
(a)乳化組成物の安定性の評価
乳化組成物を常温(25℃)に8週間静置保管し、乳化組成物の安定性を判断した。結果を表3に示した。
◎:作成直後からの変化がなく、安定性は非常に高い。
○:作成直後からやや変化し白濁傾向にあるが、安定性は高い。
△:表面に油滴が見られており、安定性が低い。
×:オイルが分離しており、安定性がない。
【0040】
(b)高濃度でのアルコール耐性の評価
試験品を冷蔵(5℃)と常温(25℃)にて8日間静置保管し、乳化剤由来の沈殿の有無を目視判断した。結果を表4に示した。
上記の保管条件で外観が異なった場合は、より悪い外観を評価した。
◎:沈殿がなく透明であり、アルコール耐性が非常に高い。
○:わずかに濁っているが沈殿はなく、アルコール耐性は高い。
△:乳化剤が不溶化して、わずかに沈殿しており、アルコール耐性が低い。
×:沈殿物が多く、アルコール耐性がない。
【0041】
(c)希釈後の透明性評価
試験品を5倍希釈し、希釈液の透明度を目視と比濁計により測定した。結果を表4に示した。
◎:沈殿がなく透明であり、透明性が非常に高い。
○:わずかに濁っているが沈殿はなく、透明性は高い。
△:乳化剤が不溶化して、わずかに沈殿しており、透明性が低い。
×:沈殿物が多く透明性がない。
【0042】
比濁計
機器:HACH社製「比濁計(2100AN)」
測定方法:希釈後の溶液をサンプル容器に入れ、HACH社製比濁計を用いて測定を行った。基準液はホルマジン溶液を使用した。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
試験例2より、ポリソルベート20とレシチンを併用することで、乳化組成物の安定性及びアルコール耐性が高い乳化物となることが示された。
【0046】
〔試験例3〕(乳化剤の製造性の検討)
(1)試験用サンプルの作成
ポリソルベート20とレシチンをそれぞれ3.7重量%、0.5重量%として、表5の配合例にて液糖の添加濃度をかえた乳化組成物11~14を作成した。
【0047】
(2)評価方法
(a)乳化組成物の製造適性の評価
乳化する際のハンドリング性を指標にして、乳化組成物の製造適性を評価した。
ポリソルベート20、レシチン、液糖、油性香料、水を所定量混合し、ホモゲナイズ処理をして乳化組成物11~14を作成した。また、試験例2で作成した乳化組成物8についても製造適性を評価した。
これら、乳化処理のしやすさを勘案して、乳化組成物の製造適性を判断した。
表5に示す通り、乳化組成物8と11~13は乳化処理がしやすく、良好な製造適性を有していた。
【0048】
◎:ホモゲナイズ処理が容易で製造適性が高い。
○:ホモゲナイズ処理が可能であり、製造適性はある。
△:ホモゲナイズ処理がやや困難であり、製造適性は低い。
×:ホモゲナイズ処理が行えず、製造適正がない。
【0049】
【表5】
【0050】
〔試験例4〕(アルコール耐性の検討)
(1)アルコール耐性試験
表6の配合例にて95%エタノールと水を各アルコール濃度になるように加えて撹拌した後に、試験例2で作成した乳化組成物8を0.25gを加えて撹拌し、試験品を作成した。
これらの試験品のアルコール耐性を評価した。次いで、各試験品中を5倍希釈したときの透明性を評価した。
【0051】
(2)評価方法
(a)高濃度でのアルコール耐性の評価
試験品を冷蔵(5℃)と常温(25℃)に8日間静置保管し、乳化剤由来の沈殿の有無を目視判断した。
上記の保管条件で外観が異なった場合は、より悪い外観を評価した。
表6に示す通り、乳化組成物8は沈殿なく均一であり、良好なアルコール耐性を示した。
◎:沈殿がなく透明であり、アルコール耐性が非常に高い。
○:わずかに濁っているが沈殿はなく、アルコール耐性は高い。
△:乳化剤が不溶化して、わずかに沈殿しており、アルコール耐性が低い。
×:沈殿物が多く、アルコール耐性がない。
【0052】
【表6】
【0053】
(b)希釈後の透明性評価
試験品を5倍希釈し、希釈液の透明度を目視と比濁計により測定した。表7に示す通り、乳化組成物8は沈殿なく均一であり、良好な透明性を示した。
◎:沈殿がなく透明であり、透明性が非常に良い。
○:わずかに濁っているが沈殿はなく、透明性は良い。
△:乳化剤が不溶化して、わずかに沈殿しており、透明性が低い。
×:沈殿物が多く透明性がない。
【0054】
【表7】
【0055】
〔試作例1〕(チューハイの調製方法及びその評価)
濃縮シロップを調製し、次いで、該濃縮シロップを希釈してチューハイを作成して、評価(乳化安定性、透明性、香味)を行った。
(1)濃縮シロップの調製
表8の原料を配合したところへ試験例2で作成した乳化組成物8を配合し、濃縮シロップ(アルコール濃度47.5%、果汁含量13.5%)を得た。
この濃縮シロップは、冷蔵(5℃)と常温(25℃)にて8日間保管しても、沈殿や析出なく均一であった。
【0056】
【表8】
【0057】
(2)チューハイの作成
調製した濃縮シロップを表9の配合例にて水及び炭酸水で希釈してチューハイ(アルコール濃度9.5%、果汁含量2.7%)を作成し、飲用に供した。
【0058】
【表9】
【0059】
(3)チューハイの評価
透明性は以下の機器で測定した。
機器:HACH社製 比濁計(2100AN)
測定方法:チューハイ飲料をサンプル容器に入れ、HACH社製比濁計を用いて測定を行った。基準液はホルマジン溶液を使用した。
比濁値は1.1であり、均一・透明な外観であった。
香味は、フレッシュなレモンの香味を有し、良好な香味であった。
【0060】
〔試作例2〕(アルコール濃度79%消毒薬の調製)
表10に記載の処方で、アルコール水溶液に乳化組成物8を添加してから均一になるように撹拌して、レモン香を付与したアルコール消毒薬を調製した。
【0061】
【表10】
【0062】
消毒薬をスプレー噴霧したところ、噴霧した個所からフレッシュなレモンの香味が感じられた。香りの有無で、噴霧したかどうかが判別できた。
調製してから8日後であっても、乳化不安定化せず透明な外観を維持していたことから、高濃度のアルコール消毒薬中でも乳化香料が安定であることがわかった。
【0063】
〔試験例5〕(香料以外の油性物質を用いた製剤の検討)
(1)オイルの調製
ベータカロテン(DSMニュートリションジャパン株式会社の「β-カロチン30%懸濁液」)、BASF社製の「DHA含有オイル(DHA Algal Oil)」、ベンジルアルコール(渡辺ケミカル株式会社製の「ベンジルアルコール特級」)を以下の表11の通り配合し、ベータカロテンオイル、DHA含有オイルを得た。
【0064】
【表11】
【0065】
(2)試験用サンプルの作成
ポリソルベート20(花王社製「エマゾール L-120V」(商品名))3.7g、レシチン0.5g(Lasenor Emul S.L.社製「GIRALEC PREMIUM」)を、80gの液糖及び10.8gの水からなる溶液に加温溶解した。
得られた溶液へオイル1を2.0gを投入し、ハイフレックスホモジナイザー(SMT社製)にて18000rpmで15分間乳化処理を行い、乳化組成物を調製した。
また、オイル1を、オイル2、dl-α-トコフェロール(三菱ケミカルフーズ製)に変えた以外は同様の製法にて、乳化組成物15~17を調製した。
【0066】
【表12】
【0067】
(3)アルコール耐性試験
95%エタノール50mlと水50mlを加えて撹拌した後に、上記乳化組成物0.25gを加えて撹拌し、アルコール濃度が47.5vol%の試験品を作成した。
これらの試験品のアルコール耐性を評価した。次いで、各試験品を5倍希釈したときの透明性を評価した。
【0068】
(4)評価方法
(a)高濃度でのアルコール耐性の評価
試験品を冷蔵(5℃)と常温(25℃)に8日間静置保管し、乳化剤由来の沈殿の有無を目視判断した。
上記の保管条件で外観が異なった場合は、より悪い外観を評価した。
表13に示した通り、乳化組成物15~17は均一であり、良好なアルコール耐性を示した。
◎:沈殿がなく透明であり、アルコール耐性が非常に高い。
○:わずかに濁っているが沈殿はなく、アルコール耐性は高い。
△:乳化剤が不溶化して、わずかに沈殿しており、アルコール耐性が低い。
×:沈殿物が多く、アルコール耐性がない。
【0069】
(b)希釈後の透明性評価
試験品を5倍希釈し、希釈液の透明度を目視と比濁計により測定した。
表13に示した通り、乳化組成物15~17は均一であり、良好な透明性を示した。
◎:沈殿がなく透明であり、透明性が非常に高い。
○:わずかに濁っているが沈殿はなく、透明性は高い。
△:乳化剤が不溶化して、わずかに沈殿しており、透明性が低い。
×:沈殿物が多く透明性がない。
【0070】
比濁計
機器:HACH社製「比濁計(2100AN)」
測定方法:希釈後の溶液をサンプル容器の所定の線まで入れ、室温にて、HACH社製比濁計を用いて測定を行った。基準液はホルマジン溶液を使用した。
結果を表13に示した。
【0071】
【表13】
【0072】
〔試作例3〕
濃縮シロップを調製し、次いで、該濃縮シロップを希釈してチューハイを作成して、評価(乳化安定性、透明性、香味)を行った。
【0073】
(1)濃縮シロップの調製
乳化組成物8を、乳化組成物15~17に変えた以外は試作例1の表8と同様にして、試作品の濃縮シロップを調製した。
乳化組成物15~17を添加した濃縮シロップは、冷蔵(5℃)と常温(25℃)にて8日間保管しても、沈殿や析出なく均一であった。
【0074】
(2)チューハイの作成
調製した濃縮シロップを水及び炭酸水で希釈し、試作例1の表9と同様な方法でチューハイを作成し、測定用に供した。
【0075】
(3)チューハイの評価
透明性は以下の機器で測定した。
機器:HACH社製 比濁計(2100AN)
測定方法:チューハイ飲料をサンプル容器に入れ、HACH社製比濁計を用いて測定を行った。基準液はホルマジン溶液を使用した。
乳化組成物15、16、17の比濁値はそれぞれ3.2、2.4、3.8であり、均一・透明な外観であった。
【0076】
乳化組成物8の油性香料に代えて、乳化組成物15~17のように他の油溶性物質(ベータカロテンオイル、DHAオイル、dl-α-トコフェロール)を使用しても、アルコール安定性に優れ、透明性の高い乳化組成物が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のアルコール安定性に優れる乳化組成物を用いることにより、嗜好性の高い透明な外観を有するアルコール飲料およびアルコール飲料用濃縮液(濃縮シロップ)を提供することができる。
また、食品添加物として認められている成分のみで構成され、高濃度のアルコール中で安定な乳化性を維持できるため安全性が高く、食器、食卓、調理器具や衣類など各種用途の消毒剤に適用できる。