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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】工事現場用の飛散防止シート
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/32 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
E04G21/32 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018103954
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019206887
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000200666
【氏名又は名称】泉株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】清酒 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】松浦 亮
(72)【発明者】
【氏名】上條 宏明
(72)【発明者】
【氏名】中西 篤志
(72)【発明者】
【氏名】永野 敬三
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3123454(JP,U)
【文献】特開2015-127462(JP,A)
【文献】特開2008-175028(JP,A)
【文献】実開昭54-167529(JP,U)
【文献】特開2014-097654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/24-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事現場で用いる飛散防止シートであって、
少なくとも2つの織布を組み合わせた織布組合体を有して成り、
前記織布組合体では一方の織布と他方の織布とが互いに周縁を堅固に合わせられており、
前記周縁より内側となる非堅固領域においては、前記一方の織布と前記他方の織布との間に介在して織布同士を離隔させる介在離隔物は設けられておらず、前記一方の織布が840kgf/3cm以上850kgf/3cm以下の引張強度を有し、前記他方の織布が540kgf/3cm以上850kgf/3cm以下の引張強度を有する、工事現場用の飛散防止シート。
【請求項2】
前記非堅固領域において、前記一方の織布と前記他方の織布とが互いに部分的に結合されている、請求項に記載の工事現場用の飛散防止シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛散防止シートに関する。より詳細には、工事現場で好適に用いられる飛散防止シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場および解体現場などの工事現場では、建築・建造物および土木構造物などの各種構造物が一般に扱われるが、かかる構造物から意図しない飛散物が生じることがある。例えば解体現場を例にとると、対象となる構造物の破砕に伴って破砕片などが周囲に飛び散り易い。
【0003】
より具体的には、コンクリート建造物や鉄骨造を解体するに際してはボルト、ナット、リベット、コンクリートガラおよび/または鉄筋の破片などがランダムに周囲に飛び散ることがある。特に、金属製の留め具であるボルト、ナットおよび/またはリベットなどは、破砕機による破砕作業に伴ってその一部または全部が勢いよく飛び散ることがあり、危険である(図15)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-17285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような工事現場における危険を防止するために、飛散物を途中で阻止するシートを設置することが考えられる。つまり、ボルト、ナット、リベット、コンクリートガラおよび/または鉄筋の破片などの飛び散りを受けるシートを使用することが考えられる。
【0006】
本願発明者らは、通常のシートでは飛散物の危険防止の点で克服すべき課題が依然あることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者らは見出した。
【0007】
解体現場における飛散物は、あくまでも破砕機による破砕作業に伴って生じるものであり、飛散速度が大きく、その重量も小さいとはいえない。よって、常套的に屋外で使用されるシート(例えば、いわゆる“ブルーシート”など)では、危険防止の便に有効に供し得ず、貫通してしまう虞がある。また、貫通防止力を高めるべく金属板(例えば、鉄板や金網などの防護金属品)を用いることも考えられるが、重量が大きく、かつ、高い剛性ゆえ適宜に曲げたり、適当なサイズに切断したりすることが一般に困難であり、使いやすさの点では難がある。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、工事現場の飛散物による危険を好適に防止するのに資するシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、工事現場で用いる飛散防止シートであって、
少なくとも2つの織布を組み合わせた織布組合体を有して成り、
織布組合体では一方の織布と他方の織布とが互いに周縁を堅固に合わせられており、周縁より内側となる非堅固領域においては、一方の織布と他方の織布との間に介在して織布同士を離隔させる介在離隔物は設けられていない飛散防止シートが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の飛散防止シートは、工事現場における飛散物の危険をより好適に防止できる。
【0011】
具体的には、本発明の飛散防止シートでは、互いに周縁を堅固に合わせられた織布組合体から構成されているとともに、周縁より内側となる非堅固領域にて一方の織布と他方の織布との間に介在して織布同士を離隔させる介在離隔物は設けられておらず、速度の大きい工事現場の飛散物が衝突してもシート貫通が生じにくい。
【0012】
また、本発明のシートは、あくまでも織布を構成要素とし、金属板などと比べて軽量であり、かつ、可撓性を呈する。また、織布ゆえに切断しやすく適当なサイズに調整し易い。よって、実際の工事現場での使い易さの点で本発明の飛散防止シートは優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の飛散防止シートの構成を模式的に示した斜視図(および部分拡大図)
図2】“周縁の堅固な合わせ”および“非堅固領域”を説明するための模式的な斜視図および断面図
図3】“周縁”を説明するための模式的な斜視図および平面図・側面図
図4】非堅固領域のランダムな局所的離隔を説明するための模式的な斜視図および断面図
図5】“周縁の堅固な合わせ”を説明するための模式的な斜視図および断面図(図5(a)~5(c):縫合接合による堅固な合わせ、図5(d)~5(e):機械的手段による堅固な合わせ、図5(f):接着接合による堅固な合わせ)
図6】織布のある好適な織構造を説明するための模式図(図6(A):より高い目付けの織布構造、図6(B):より低い目付けの織布構造)
図7】“好適な引張強度を有する織布”の態様を説明するための模式的斜視図
図8】非堅固領域の“部分的な結合”(縫い付けによる結合)を説明するための模式的斜視図
図9】“部分的な結合”として縫い目ラインが非堅固領域の全体的に設けられている態様を示した模式的斜視図
図10】非堅固領域の“部分的な結合”(含浸接着剤による結合)を説明するための模式的斜視図
図11】ハトメ設置の態様を説明するための模式的斜視図
図12】保護フィルム設置の態様を説明するための模式的斜視図
図13】複数の飛散防止シートを組み合わせた使用例を示した模式的斜視図
図14】飛散防止シートの使用例を示した模式的斜視図
図15】工事現場における飛散を説明するための模式的斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照して本発明の工事現場用の飛散防止シートをより詳細に説明する。図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0015】
本明細書において「工事現場」とは、広義には、建築・建設分野および土木分野などにおける種々の工事を指しており、狭義には、比較的大型の構造物・工作物の解体および/またはその建設(代表的な一例を挙げれば、ビル解体やビル建設)のことを指している。
【0016】
また、本明細書において「飛散防止シート」とは、周囲に対する飛散りを制限するためのシートである。より具体的には、飛散防止シートは、工事現場における解体および/または建設に伴って偶発的に生じる非所望な飛散物を受け止めるためのシートである。
【0017】
本明細書で直接的または間接的に説明される“上下”の方向は、飛散防止シートの主面に基づいている。より具体的には、シート主面に対する法線方向が上下方向に相当する。端的にいえば、図1などに示される形態に合わせた方向に基づいており、かかる図面における「上方向」および「下方向」がそれぞれシートの上方向および下方向に相当し、左右方向も同様である。
【0018】
[本発明の工事現場用シート]
本発明の対象は、工事現場のための飛散防止シートである(以下では本発明に係るシートを「工事現場用の飛散防止シート」、「飛散防止シート」または単に「本発明のシート」等とも称する)。本発明に係る飛散防止シートは、その構成に特徴を有し、特にサブ・シートとなる布の組合せ形態に特徴を有している。
【0019】
図1に示すように、本発明の工事現場用の飛散防止シート100は、少なくとも2つの織布50A,50Bを組み合わせた織布組合体100’を有して成る。図示する形態から分かるように、飛散防止シート100では、互いに重ね合わさるように2つの織布50A,50Bが組み合わされている。より具体的には、一方の織布50Aの主面50A’と、他方の織布50Bの主面50B’とが互いに直接対向するように織布同士が組み合わされている。織布自体(50A,50B)は可撓性を有するところ、織布組合体100’もまた可撓性を有している。織布組合体100’において一方の織布50Aと他方の織布50Bとは同一であってよいし、あるいは、互いに異なるものであってもよい。なお、本明細書において「少なくとも2つの織布」とは、一方の織布50Aと他方の織布50Bとから構成される織布組合体100’に付加的な布材が別途設けられてもよいことを意味している。
【0020】
本発明では織布組合体の要素である一方の織布50Aと他方の織布50Bとが、互いに周縁を堅固に合わせられた状態となっている。つまり、本発明の飛散防止シート100における織布組合体100’は、織布同士(50A,50B)が互いに重ねられているだけでなく、その重ねられた織布の周縁部分が堅固に合わせられている(図2参照)。
【0021】
周縁が堅固に合わせられていることによって、本発明の飛散防止シートは、織布組合体として好適な一体性を呈し、飛散防止に寄与し得る。特に、一方の織布の周縁と、他方の織布の周縁とが互いに堅固な合わせ部(すなわち、互いに緊密な合わせ部)となることで、2枚の織布が互いに好適な一体性を呈し、速度が大きい工事現場の飛散物が衝突してもシート貫通が生じにくくなる。
【0022】
本明細書において「互いに周縁を堅固に合わせられている」とは、広義には、主面同士が対向するように一方の織布と他方の織布とを重ねた際、その互いに重複する領域の輪郭近傍が堅固に合わせられていることを意味している。一方の織布と他方の織布とのそれぞれの主面サイズが同一または略同一である場合、一方の織布と他方の織布の各々の周縁部同士が堅固に合わせられていることになる。また、本明細書における「堅固」とは、互いに緊密に取り付けられている態様を意味しており、特に一方の織布と他方の織布とが外力を加えられても実質的にずれない態様を意味している。
【0023】
本発明に係る工事現場用の飛散防止シートは、その周縁が堅固領域となっているのに対して、その内側は非堅固領域になっていることが好ましい。つまり、織布組合体100’の周縁では、一方の織布50Aと他方の織布50Bとが互いに緊密に合わせられているのに対して、その内側については、一方の織布50Aと他方の織布50Bとが互いに緊密に合わせられていない(図2参照)。これは、織布組合体100’の周縁部分のみが堅固又は緊密に合わせられていることを意味している。
【0024】
ここで、本明細書でいう「周縁」とは、図3に示すように、織布または織布組合体の平面視にて最外に位置する局所領域を指している。より具体的には、織布または織布組合体における主面の最大寸法を“L”と仮定した場合(図3参照)、かかる織布または織布組合体の最外エッジから0.01L~0.1Lに至るまでの局所領域(すなわち、幅寸法として0.01L~0.1Lを有する局所領域)が「周縁」に相当する。
【0025】
周縁よりも内側となる非堅固領域では、一方の織布と他方の織布との間に介在して織布同士を離隔させる介在離隔物は設けられていないことが好ましい。ここでいう「介在離隔物」とは、一方の織布の主面と他方の織布の主面との間でそれらに挟まれるように存在し、織布主面同士の間に空間・隙間を強制的にもたらすもの(織布を構成する要素とは異なる別の材料・部材であって、比較的硬質またはヤング率が比較的高いもの)を指しているが、本発明の飛散防止シートでは、そのような介在離隔物が存在していない。かかる特徴は、工事現場用の織布組合体として好適な特徴であるといえ、速度が大きく高重量の飛散物が衝突してもシート貫通を引き起こさない本発明のシート特性に有効に寄与し得る。なお、本明細書でいう「高重量の飛散物」とは、例えば“破断したボルトとナット”(図15参照)など、工事現場で想定される金属製部材のことを指している。
【0026】
非堅固領域は、織布組合体において周縁よりも内側に位置する大域的な領域である(図3参照)。つまり、図3に示す平面視から分かるように、好ましくは周縁の堅固な合わせ領域以外の残り全ての領域が非堅固領域に相当する。このような非堅固領域では、一方の織布と他方の織布とが互いに密接維持(すなわち緊密維持)されていない。密接維持されていないので、一方の織布と他方の織布とが対向するシート内部側の主面は、全体的に非拘束面あるいは自由面を通常成している。これは、織布組合体では、それを構成する織布の周縁の局所領域が密接維持されているのに対して、その内側の大域的な領域が密接維持されておらず、織布の主面同士(周縁部分以外の大域部分の主面同士)が擦れ合い面を成し得ることを意味している。このような特徴は、工事現場用の織布組合体として好適であり、速度が大きく高重量の飛散物が衝突してもシート貫通が生じにくいといった本発明のシート特性に有効に寄与し得る。
【0027】
ある好適な態様では、非堅固領域は、一方の織布と他方の織布とが互いに局所的にランダムに離隔する部分を含んでいる(図4参照)。つまり、かかる好適な態様に従った非堅固領域では、一方の織布が他方の織布に対して所々で僅かに浮いているような形態となっている。かかる“局所的にランダムに離隔する部分”は、非堅固領域の特性に起因してもたらされ、上記“介在離隔物”が存在していない場合であっても発現し得る。これは、比較的大型の主面サイズを有する織布・織布組合体の場合に特に当てはまることである。例えば、本発明の飛散防止シートは、工事現場用のシートゆえ、その主面サイズが数mmオーダというよりも、むしろ数十cmオーダ、さらにいえばmオーダのサイズとなっている。このような比較的大型のシートとなる場合、それを構成する織物の撓みなども関係し、織布組合体において織布同士が互いに局所的にランダムに離隔する部分が特にもたらされ易くなる。
【0028】
あくまでも工事現場用ゆえ、飛散防止シート100はそれに適した形状を好ましくは有している。具体的には、本発明のシートの主面形状は、制限するわけではないが、正方形または矩形状等となっていてよい。そのような正方形または矩形状の場合、その一辺は、好ましくは30cm以上200cm以下、より好ましくは35cm以上150cm以下、更に好ましくは40cm以上100cm以下(例えば45cm以上90cm以下)などとなっていてよい。また、本発明のシートの厚さ(すなわち、2つの織布から成る織布組合体100’としての厚さ)は、飛散防止シートの可撓性を過度に阻害しないものであれば、いずれの厚さであってよい。あくまでも1つの例示にすぎないが、かかるシート厚さは好ましくは1.5mm以上8mm以下、より好ましくは1.5mm以上6mm以下、更に好ましくは1.5mm以上4mm以下(例えば1.8mm以上3.5mm以下)である。なお、本発明のシートは、金属板などと比べて軽量であるところ、2つの織布から成る織布組合体の目付(重量)は、例えば1000g/m以上2000g/m以下(より具体的には1300g/m以上1900g/m以下程度)である。
【0029】
上記の説明から分かるように、本発明のシートは、織布組合体において周縁領域の堅固と、その内側の大域部分の非堅固といった相反する構成を備える点で特徴を有している。このように周縁領域の“堅固”と内側大域部分の“非堅固”とが互いに相俟うことによって、本発明のシートは、工事現場用の織布組合体として好適なものとなり得、速度が大きい高重量の飛散物が衝突してもシート貫通が生じにくいシートとなり得る。
【0030】
ここで、本発明に係る“周縁領域の堅固”について詳述しておく。本発明の工事現場用の飛散防止シートは、一方の織布の周縁と他方の織布の周縁とが互いに堅固に合わせられているが、その具体的な形態は、特に限定されない。例えば、織布組合体の周縁の縫合接合、機械的接合および/または接着接合の少なくとも1種によって“周縁領域の堅固”が為されていてよい(図5参照)。つまり、周縁領域を堅固に合わせるために、一方の織布の周縁と他方の織布の周縁とが互いに縫い付けられてよい。かかる場合、飛散防止シートにおいて、織布組合体の周縁領域に縫い目が存在することになる(図5(a)~5(c)に示すように、縫い目は単一に限らず、2つ又は3つなどの複数であってもよい)。また、周縁領域を堅固に合わせるために、一方の織布の周縁と他方の織布の周縁とが互いに機械的接合の形態となっていてよい。特に、織布組合体の周縁領域に対して外部から締付け力が付与されるような機械的作用を利用して周縁を堅固に合わせてよい。特に限定するわけではないが、例えばクリップ、クランプ、ボルト・ナットなどの機械的手段を用いることができる(図5(d)および5(e)参照)。さらには、周縁領域を堅固に合わせるために、一方の織布の周縁と他方の織布の周縁とが互いに接着接合されてもよい(図5(f)参照)。これは、周縁領域において一方の織布と他方の織布とを接着剤を用いて互いに接合してよいし、あるいは、かかる周縁領域を熱圧着に付して互いに接合(織布材料の融着で接合)してもよいことを意味している。このような接合の場合、織布組合体の周縁領域には接着剤が存在していたり、織布の融着部が存在していたりする。ここでの具体的な接着剤自体は、後述する“含浸接着剤”について挙げる接着剤から適宜選択して使用してよい。
【0031】
本発明のシートにおいて“周縁領域の堅固”は、必ずしも周縁の全てが堅固に合わせられている必要はない。より具体的には、巨視的にみて、織布組合体が周縁領域の堅固と、その内側の大域部分の非堅固といった相反する構成を有するのであれば、一方の織布の周縁と、他方の織布の周縁とは、その全ての周縁領域が堅固に合わせられていなくてもよい。つまり、本明細書でいう「互いに周縁を堅固に合わせられる」とは、織布組合体の周縁領域の少なくとも一部が堅固に合わせられていればよいことを意味している(例えば、織布の周縁を成す辺のうち、少なくとも1つの辺のみが堅固に合わせられていてよい。また、周縁を成す各辺のなかでも、全ての部分が堅固に合わせられている必要はなく、対象となる辺の一部分のみが堅固に合わせられていてもよい)。かかる態様であっても、織布組合体における周縁領域の堅固と、その内側の大域部分の非堅固といった相反する構成に起因して、本発明のシートが、工事現場用の織布組合体として好適なものになり得、速度が大きい高重量の飛散物が衝突しても貫通が生じにくいシートがもたらされ得る。
【0032】
ある好適な態様では、一方および他方の織布において周縁を成す全ての辺が堅固に合わせられている。図1に示す形態でいえば、織布組合体の主面輪郭を成す4つの辺の全てが堅固に合わせられている(かかる場合、1つ辺のなかで少なくとも一部分の領域が堅固に合わせられていてよく、各辺につき必ずしも全ての部分が堅固に合わせられている必要はない)。このような全ての辺が堅固に合わせられている態様では、織布組合体における周縁領域の堅固と、その内側の大域部分の非堅固といった相反する構成がより顕在化することになる。よって、本発明のシートが工事現場用の織布組合体としてより好適なものとなり易く、速度が大きい高重量の飛散物が衝突しても貫通が生じにくいシートとなり易い。
【0033】
本発明に係る工事現場用の飛散防止シートにおいて、織布組合体を構成する布は、あくまでも“織布”である。つまり、織布組合体を構成する布は、編布(すなわち、糸が屈曲するように編み込まれた布)でなく、また、不織布(例えば、ニードルパンチ布またはスパンボンド布)でもない。織布ゆえ、いわゆる経糸と緯糸とが交差するように織り込まれた構成を有する布から飛散防止シートが構成されているといえる。
【0034】
特に好ましくは、織布の中でも、平織り構造を有するものが好ましい(図1の一部拡大図参照)。平織り布は、経糸と緯糸とが交互に1本ずつ上下の位置を変えて織られたものであるが、そのような布から織布組合体が構成されてよい。換言すれば、織布組合体を構成する布は、“綾織り布”や“朱子織り布”等といった特殊な織構造を有するというよりも、むしろシンプルな織構造を有している。ある好適な態様では、一方の織布と他方の織布の双方が平織り構造を有していてよい。これにより、よりシンプルな織布組合体でありつつも、工事現場における飛散物の阻止に資するより好適なシートがもたらされる。なお、本発明における織布は、二重織りや三重織りの構成を有するものであってもよい。
【0035】
織布を構成する繊維自体は、例えば化学繊維及び/又は天然繊維であってよい。化学繊維は、特に制限するわけではないが、合成繊維、半合成繊維、再生繊維および無機繊維から成る群から選択される少なくとも1種であってもよい。合成繊維としては、脂肪族ポリアミド系繊維(例えば、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維)、芳香族ポリアミド系繊維(例えば、アラミド)、ポリビニルアルコール系繊維(例えば、ビニロン繊維)、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維(例えば、ポリエステル繊維、PET繊維、PBT繊維、ポリアリレート繊維)、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリウレタン系繊維、フェノール系繊維およびポリフルオロエチレン系繊維などを挙げることができる。半合成繊維としては、セルロース系繊維および蛋白質系繊維などを挙げることができる。再生繊維としては、レーヨン繊維、キュプラ繊維およびリヨセル繊維などを挙げることができる。そして、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維および金属繊維などを挙げることができる。天然繊維は、植物繊維、動物繊維またはそれらの混合繊維であってもよい。植物繊維としては、綿および麻(例えば、アマ、ラミー)などを挙げることができる。動物繊維としては、毛(例えば、羊毛、アンゴラ、カシミヤ、モヘヤ)、絹および羽毛(例えば、ダウン、フェザー)などを挙げることができる。織布に用いられる繊維自体は、短繊維であっても長繊維であってもよく、さらには中空繊維であってもよい。なお、織布に用いられる繊維の形態についていえば、糸形態であることが好ましい。特に、繊維を撚り合わせた撚糸の形態が好ましい。繊維、繊維からなる糸または撚糸は、それ自体が弾性特性を有していてもよい。
【0036】
ある好適な態様では、織布を構成する繊維は化学繊維である。かかる態様では織布組合体を構成する布の少なくとも一方が、化学繊維織布となっている。好ましくは、織布組合体を構成する織布の全てが化学繊維織布となっている。化学繊維織布の場合、織布がポリエステル織布であることが好ましく、それゆえ、布の繊維材質としてポリエステル(例えばテトロン(登録商標))を含んで成るものが好ましい。より具体的には、織布がそのようなポリエステル・フィラメントから構成されていることが好ましい。
【0037】
図6(A)および(B)を参照して、織布組合体に用いられる化学繊維織布(特にポリエステル繊維布)の態様について詳述しておく。本発明の飛散防止シートに用いられる織布は、例示にすぎないが以下の“糸使い”および“密度”を有していることが好ましい。

糸使い
・タテ(経糸):ポリエステル繊維2本~5本撚り(直径約200μm以上600μm以下の糸の2~5本撚り)
・ヨコ(緯糸):ポリエステル繊維2本~5本撚り(直径約200μm以上600μm以下の糸の2~5本撚り)

密度
・タテ:10~30本(図中のY方向の1吋において撚り糸として10~30本)
・ヨコ:10~30本(図中のX方向の1吋において撚り糸として10~30本)

※1吋:25.4mm

なお、図6(A)と図6(B)とは上記密度が互いに異なる織構造を例示している。あくまでも1つの例示に過ぎないが、それらの織布は以下の如くの“糸使い”および“密度”を有し得る。


図6(A)の織布
糸使い
・タテ(経糸):テトロン(登録商標)繊維3本撚り(直径約392μmの糸の3本/見掛け直径1176μm)
・ヨコ(緯糸):テトロン(登録商標)繊維3本撚り(直径約392μmの糸の3本/見掛け直径1176μm)

密度
・タテ:20本/吋(図中のY方向の1吋において撚り糸として20本)
・ヨコ:20本/吋(図中のX方向の1吋において撚り糸として20本)


図6(B)の織布
・タテ(経糸):テトロン(登録商標)繊維3本撚り(直径約392μmの糸の3本/見掛け直径1176μm)
・ヨコ(緯糸):テトロン(登録商標)繊維3本撚り(直径約392μmの糸の3本/見掛け直径1176μm)

密度
・タテ:14本/吋(図中のY方向の1吋において撚り糸として14本)
・ヨコ:14本/吋(図中のX方向の1吋において撚り糸として14本)
【0038】
本発明は、種々の態様で具現化することができる。以下これについて説明する。
【0039】
(好適な引張強度を有する織布)
本発明の飛散防止シートは、あくまでも工事現場用のシートゆえ、それに好適な引張強度を有し得る。これにつき、本発明の飛散防止シートは、一方の織布が830kgf/3cm以上860kgf/3cm以下の引張強度を有し、他方の織布が530kgf/3cm以上860kgf/3cm以下の引張強度を有することが好ましい(図7参照)。つまり、織布組合体を構成する2つの布の引張強度の各々は、830kgf/3cmまたは530kgf/3cmを下限としつつ少なくとも860kgf/3cm以下の引張強度を好ましくは有する。このような引張強度では、本発明のシートが工事現場用の織布組合体としてより好適なものとなり易く、速度が大きい高重量の飛散物が衝突しても貫通が生じにくいシートがよりもたらされ易くなる。更に好ましくは、一方の織布が835kgf/3cm以上855kgf/3cm以下の引張強度(例えば840kgf/3cm以上850kgf/3cm以下の引張強度)を有し、他方の織布が535kgf/3cm以上855kgf/3cm以下の引張強度(例えば、540kgf/3cm以上850kgf/3cm以下の引張強度)を有している。
【0040】
なお、少なくとも860kgf/3cm以下の引張強度を有する2つの織布のうち、そのうち一方は、他方よりも低い引張強度を有する織布であってもよい。例えば、織布組合体のうち、飛散物が直接的に接することになる側に、より高い引張強度の織布を配し、飛散物が直接的には接しない側により低い引張強度の織布が配されるように織布組合体を構成してよい。これについて、例えば一方の織布が830kgf/3cm以上860kgf/3cm以下の引張強度(例えば840kgf/3cm以上850kgf/3cm以下の引張強度)を有するのに対して、他方の織布が530kgf/3cm以上560kgf/3cm以下の引張強度(例えば540kgf/3cm以上560kgf/3cm以下の引張強度)を有するように構成された織布組合体であってよい。830kgf/3cm以上860kgf/3cm以下の引張強度を有する織布は、上記で図6(A)を参照して具体的に言及した上記“糸使い”および“密度”の条件を有し得る一方、530kgf/3cm以上560kgf/3cm以下の引張強度を有する織布は、図6(B)を参照して具体的に言及した上記“糸使い”および“密度”の条件を有し得る。
【0041】
ある好適な態様では、同じ又は略同じ程度の引張強度を有する2つの織布から構成された織布組合体となっていてよい。例えば、一方の織布および他方の織布の双方が830kgf/3cm以上860kgf/3cm以下の引張強度(より具体的には、835kgf/3cm以上855kgf/3cm以下の引張強度、または、840kgf/3cm以上850kgf/3cm以下の引張強度など)を有していてよい。かかる場合、織布組合体は、いずれの側面でも同じ引張強度を有するので、異方性がより減じられ、使用時の自由度がより高い飛散防止シートとなり得る。また、そのような実質的に同一の引張強度を有する織布から構成される織布組合体では、飛散物に対する阻止力の点でもより向上したものとなり得る。
【0042】
本明細書でいう「引張強度」は、JIS-L-1096に基づいて測定される値(より具体的には「JIS-L-1096 織物及び編物の生地試験方法」の“8.14 引張強さ及び伸び率”により測定される値)のことを指している。なお、かかる引張強度の測定について、供試される織布は「乾」または「湿」のいずれの状態であってもよく、また、そのような織布が、いわゆる「タテ」または「ヨコ」のいずれかの方向で測定されることを前提としている。
【0043】
なお、上記のような引張強度を有する2つの織布は、その各々が平織り構造を好ましくは有する。同様にして、上記の引張強度を有する2つの織布は、その各々が、化学繊維織布であってよく、好ましくはポリエステル系繊維織布(例えば、テトロン(登録商標)のフィラメントから成る織布)である。工事現場の飛散物に対して貫通がより生じにくいシートとなり得るからである。
【0044】
(非堅固領域における部分的結合)
本発明の飛散防止シートは、周縁領域の内側で大域的な領域を成す非堅固領域を備えるが、その非堅固領域が“部分的な結合形態”を有していてもよい。
【0045】
具体的には、非堅固領域において、一方の織布と他方の織布とが互いに部分的に結合されていてよい。つまり、織布が互いに重ねられている織布組合体では、それらの周縁が堅固に合わせられているが、内側の非堅固領域において、部分的な結合、すなわち、局所的な結合が為されていてよい。このような非堅固領域における“部分的な結合形態”の場合、本発明のシートが、速度のより大きい飛散物(例えば、速度100~125m/sの飛散物(飛散物重量:100g以上300g以下程度で、特には150g以上250g以下又は175g以上225g以下))が衝突しても貫通が生じない耐衝突性のより向上したシートとなり得る。
【0046】
ここでいう「部分的な結合」とは、非堅固領域の全て又は全領域というよりも、むしろ一部のみが結合状態にある形態を指している。換言すれば、周縁の堅固領域の内側において広範な領域を成す非堅固領域は介在離隔物(一方の織布と他方の織布との間に介在して織布同士を強制的に離隔させる介在離隔物)を備えていないが、そのような非堅固領域の一部の局所的箇所で一方の織布と他方の織布とが互いに結合されている。
【0047】
図8に示すように、“部分的な結合”は、例えば一方の織布および他方の織布に縫い付けられた糸によって為されていてよい。つまり、非堅固領域の一部の局所的箇所において一方の織布と他方の織布とが互いに縫い付けられていてよい。
【0048】
縫い付けは、特に制限されるわけではないが、縫い目60がある方向に沿って延在するような形態であってよい(図8参照)。端的な例でいえば、縫い付けが直線的に為されていてよい。例えば織布・織布組合体のエッジ(主面の輪郭線)に対して実質的に平行に延在するように縫い付けが為されてよい。そのような縫い付けでは、縫い目ライン60が少なくとも2つ設けられていてもよい。かかる場合、2本の縫い目ライン60の互いの離隔距離(ピッチ)は、1mm以上50mm以下程度であってよく、好ましくは3mm以上40mm以下、より好ましくは5mm以上30mm以下である。縫い糸は、特に制限されず、化学繊維(合成繊維)や天然繊維から成るものであってよく、更には金属製(金属ワイヤー)などであってもよい。縫い付け手法も特に制限されず、一方の織布と他方の織布との結合に資するものであれば、いずれの縫い付けであってもよい。あくまでも例示にすぎないが、例えば、いわゆる“ミシン縫い”が為されてもよく、ミシン縫いにおける“上糸”と“下糸”とが互いに係合することで一方の織布と他方の織布との結合が為される形態であってよい。なお、図8に示すように縫い目ライン60が非堅固領域の真ん中寄り又は中央寄りに設けられていてよいし、あるいは、図9に示すように縫い目ライン60が非堅固領域の全体に設けられてもよい。更には、図12を参照して後述する「保護フィルム」を使用する態様では、保護フィルム90A,90Bを設けた織布組合体に対して縫い付けを施してもよい。
【0049】
図10に示すように、“部分的な結合”は、含浸接着剤70によって為されていてもよい。具体的には、一方の織布50Aおよび他方の織布50Bの少なくとも一方に含浸された含浸接着剤70によって部分的な結合が為されてよい。つまり、かかる場合、非堅固領域の一部の局所的箇所に位置付けられた含浸接着剤で、一方の織布と他方の織布とが互いに結合された状態となっている。
【0050】
本明細書にいう「含浸接着剤」とは、織布の隙間に入り込んだ接着剤のことを指している。織布は、経糸と緯糸とを交差させた構造を有し、布自体に隙間が設けられている。つまり、織布は、巨視的には空間はないものの、微視的にみれば微小隙間が形成されている。含浸接着剤は、このような織布の微細隙間に入り込んだものであり、そのように入り込みつつも織布の表面を成す経糸と緯糸と実質的に面一になっている。よって、本発明における「含浸接着剤」は、“介在離隔物”(一方の織布と他方の織布との間に介在して織布同士を強制的に離隔させる介在離隔物)には相当しない。
【0051】
あくまでも一例であるが、含浸接着剤は、一方の織布と他方の織布とを接着剤を用いた圧着処理または熱圧処理などに付すことで設けることができる。より具体的な含浸接着剤は、特に制限されるわけではないが、「接着・解体技術総覧-資源・環境・エネルギー」(発行者:倉田豊、編集者:久木田圭、発行所:(有)エヌジーティー、2011年5月16日 第1版第1刷 発行,第115頁~第247頁)に挙げられている接着剤であってよい。具体的には、水系接着剤、化学反応系接着剤、ホットメルト接着剤、溶剤形接着剤および/または天然系接着剤などを挙げることができる。水系接着剤は、ユリア樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、レゾルシノール樹脂系接着剤、水性高分子-イソシアネート系接着剤、α-オレフィン無水マレイン酸樹脂接着剤、酢酸ビニルエマルジョン接着剤、EVA樹脂エマルジョン接着剤、アクリル樹脂系エマルジョン接着剤およびラテックス系接着剤から成る群から選択される少なくとも1種であってよい。化学反応系接着剤は、エポキシ樹脂系接着剤、シアノアクリレート系樹脂剤、嫌気性接着剤、第二世代アクリル系接着剤(SGA)、紫外線硬化型接着剤、ポリウレタン樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、変性シリコーン樹脂系接着剤およびシリル化ウレタン系接着剤から成る群から選択される少なくとも1種であってよい。ホットメルト接着剤は、EVA系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリエステル系接着剤、エラストマー系接着剤、オレフィン系接着剤および反応性接着剤から成る群から選択される少なくとも1種であってよい。溶剤形接着剤は、ウレタンエラストマー系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)系接着剤、ブチルゴム系接着剤、天然ゴム系接着剤、再生ゴム系接着剤、熱可塑性エラストマー系接着剤などのエラストマー系接着剤、ならびに、酢酸ビニル樹脂系接着剤および塩化ビニル樹脂系接着剤などの熱可塑性樹脂系接着剤から成る群から選択される少なくとも1種であってよい。天然系接着剤は、にかわ系接着剤およびカゼイン系接着剤から成る群から選択される少なくとも1種であってよい。含浸接着剤として用いる水系接着剤、化学反応系接着剤、ホットメルト接着剤、溶剤形接着剤および天然系接着剤について、それらが互いに明瞭に区別されたものでなくてよく、含浸接着剤は、それらのいずれか1つの範疇に属しつつ他方の範疇にも属するようなものであってもよい(さらにいえば、含浸接着剤は、上記のいずれにも明確に属しないような接着剤であってもよい)。ある好適な態様では、含浸接着剤としてホットメルト型の接着剤が用いられ、接着剤の適用に際して織布への含浸がより容易になされ得ることになる。また、あくまでも1つの例示にすぎないが、主成分に塩化ビニル樹脂およびウレタン樹脂を含んで成る接着剤が含浸接着剤として用いられてもよい。
【0052】
(ハトメ設置)
本発明の飛散防止シートは、工事現場用のシートゆえ、それに適した構造を有している。例えば、本発明の飛散防止シートは、ハトメ80を有して成る(図11参照)。ハトメ80は、糸や紐などを通すための環状の工具であるところ、そのような工具が飛散防止シートに設けられてよい。ハトメを利用することによって、工事現場で飛散防止シートをより好適に設置し易くなる。つまり、ハトメを介して飛散防止シートを支持体に取り付けたりすることができ、飛散防止シートを鉛直方向に立つように設置することができる。これにより、本発明のシートが工事現場の飛散物をより効果的に受け止め易くなる。
【0053】
特に制限されるわけではないが、ハトメは、飛散防止シートの周縁、すなわち、織布組合体の周縁に設けられてよい。例えば、織布組合体の周縁の堅固領域がハトメ加工されていてよい。堅固領域は、一方の織布と他方の織布とが一体化しているので、ハトメ加工・ハトメ設置に好ましい。ハトメの個数は、単一に限らず、複数であってもよい。また、ハトメ自体は、例えば、リング形状を有する金属製からなるものであってよい。例示すると、柔らかく軽いものをより重視するならば、アルミ製などのハトメが好ましく、耐腐食性などをより重視するならば、真鍮製および/またはステンレス製などのハトメが好ましい。更にいえば、そのようなハトメは、いわゆる“片面ハトメ”であってよいし、あるいは、“両面ハトメ”であってもよい。
【0054】
(保護フィルム)
本発明の飛散防止シートは、織布組合体に対して保護層を付加的に備えたものであってもよい。具体的には、本発明のシートは、織布組合体の両外面の少なくとも一方にフィルム材を有して成るものであってよい。このようなフィルム材が保護層として設けられることよって、飛散防止シートは、工事現場で用いるシートとしてより好適になる。工事現場のシートは、屋外で使用されるところ、太陽光、風雨、温度変化などの条件下に晒され得るからである。なお、フィルム材は、あくまでも“フィルム”ゆえ、織布よりも厚さが小さく、1μm以上900μm以下程度、好ましくは10μm以上500μm以下、より好ましくは100μm以上300μm以下の厚さを有し得る。
【0055】
具体的には、図12に示すように、織布組合体100’の両外面に対してフィルム材(90A,90B)を設けてよい。フィルム材は、耐候性や水分透過防止などに資するものであれば、特に制限はない。例えば、保護層として設けられるフィルム材は、塩化ビニル樹脂を含んで成るものが好ましい。端的にいえば、織布組合体の両外面の少なくとも一方に設けられるフィルム材は、塩化ビニル樹脂フィルムであることが好ましい。このような塩化ビニル樹脂フィルムは、織布組合体の外面に接着剤を介して設けることができる。塩化ビニル樹脂フィルムは、いわゆる軟質塩ビフィルムであってよく、また、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。例えば、塩化ビニル樹脂フィルムに着色剤(1つ例示すると黒色の着色剤)が含まれていてもよい。黒色顔料などが含まれていると、飛散防止シートに長寿命化が好適にもたらされ得る。
【0056】
なお、“周縁領域の堅固な合わせ”は、フィルム材が未だ設けられていない織布・織布組合体に対して為されてよいし、あるいは、フィルム材が設けられた織布・織布組合体に対して為されてもよい。互いの縫い付けで“周縁の堅固な合わせ”を行う場合を例として挙げると、一方の織布の周縁と他方の織布の周縁とを互いに縫い付けて織布組合体を一旦作製した後でフィルム材を設けてよいし、あるいは、フィルム材が予め設けられた織布同士に対して、それらの周縁を互いに縫い付けてもよい。
【0057】
(解体現場用シート)
本発明の飛散防止シートは、工事現場のための飛散防止シートであるが、特に好ましくは解体現場で用いられるシートである。そのような現場では、コンクリート建造物や鉄骨造を解体する際、ボルト、ナット、リベット、コンクリートガラおよび/または鉄筋の破片などがランダムに周囲に飛び散ることがある。特に、ボルト、ナット、および/またはリベットは、鉄骨に用いられていている金属製の留め具であったところ、破砕機による破砕作業に伴ってその一部または全体が勢いよく飛び散ると危険である。よって、そのような危険を回避するシートとして本発明の飛散防止シートを用いることができる。
【0058】
解体作業は、屋外で為されるので、そういった意味でいえば、解体現場用の飛散防止シートは、上述の保護層(例えば、塩化ビニル樹脂フィルム)を好ましくは備えたシートであるといえる。また、解体作業に伴う飛び散りをより効果的に阻止する点でいえば、飛散防止シートの主面が鉛直方向に沿って設置されることが好ましく、それゆえ、解体現場用の飛散防止シートは、ハトメを好ましくは備えている。また、解体作業に伴う飛散物は、勢いよく飛び散ることがあるので、好適な貫通阻止力を供すべく、一方の織布が830kgf/3cm以上860kgf/3cm以下の引張強度を有し、他方の織布が530kgf/3cm以上860kgf/3cm以下の引張強度を有することが好ましい。また、同様にして、好適な貫通阻止力を供すべく、非堅固領域において、一方の織布と他方の織布とが互いに部分的に結合されていてもよい(例えば、非堅固領域で部分的に縫い付けがなされていたり、あるいは、非堅固領域で部分的に含浸接着剤が設けられていたりしてよい)。
【0059】
以上、本発明の実施態様について説明してきたが、本発明の適用範囲における典型例を示したに過ぎない。したがって、本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々の変更がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0060】
例えば、上記では、飛散防止シートは単一品として説明してきたが、本発明は必ずしもそれに限定されない。図13に示すように複数の飛散防止シート100を適宜組み合わせて使用することもできる。また、本発明の飛散防止シートは、破砕機に対して直接設けることも可能である。例えば特開2016-17285号公報における解体機の飛散防止装置のカバー材として用いることもできる(図14参照)。更には、工事現場で設置する足場に対しても本発明の飛散防止シートを利用することもできる(あくまでも1つの参考例にすぎないが、特開2015-078556号公報に開示されている態様にあるように足場にシートを設置してもよい)。このように、本発明の飛散防止シートは、実際の工事現場の状況に合わせてそのサイズおよび設置形態などを適宜調整することができ、使用に際する自由度は高い。
【実施例
【0061】
本発明に関連して実証試験を行った。具体的には、工事現場における飛散物を想定した試験を実施した。
【0062】
具体的には、防衛大学校(システム工学群機械工学科)の試験設備を用いて空気圧式衝突試験を実施した。衝突速度は、特に解体現場における飛散物速度を想定して75~125m/sとした。また、飛散物としては、解体現場を想定して金属鋼球(クロム鋼球SUJ-2)および「M22ナットおよび破断ボルト」を用いた。

実施例および比較例に共通する試験条件を以下に示す。

・供試シートの主面サイズおよび形状:約600mm×約600mmの略正方形
・供試シートの設置:主面が鉛直方向に沿って延在するように設置/外周エッジの4辺固定
・織布の800T:東レ株式会社/トレシート(登録商標)/品番800T
・織布の500T:東レ株式会社/トレシート(登録商標)/品番500T
・織布の300T:東レ株式会社/トレシート(登録商標)/品番300T
・織布又は織布組合体の外側両主面に塩ビフィルム貼付(塩ビフィルム:株式会社カネカ製、塩ビ樹脂(グレード:S1001N)を主剤として成型した塩ビフィルム)

実施例1~7:周縁を堅固に合わせられた2枚の織布組合せをベースした試験
・実施例1:「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+540~560kgf/3cm(500T)の織布組合体」/周縁縫い付けの堅固合せ/介在離隔物無し/衝突面側800T
・実施例2:「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+840~850kgf/3cm(800T)の織布組合体」/周縁縫い付けの堅固合せ/介在離隔物無し
・実施例3:「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+840~850kgf/3cm(800T)の織布組合体」/周縁縫い付けの堅固合せ/介在離隔物無し/非堅固領域における部分結合有り(縫い付け糸:有限会社田中専商店製、エステルミシン#0番糸使用、ピッチ25mm)
・実施例4:「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+840~850kgf/3cm(800T)の織布組合体」/周縁縫い付けの堅固合せ/介在離隔物無し/非堅固領域における部分結合有り(縫い付け糸:有限会社田中専商店製、エステルミシン#0番糸使用、ピッチ12mm)
・実施例5:「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+840~850kgf/3cm(800T)の織布組合体」/周縁縫い付けの堅固合せ/介在離隔物無し/非堅固領域における部分結合有り(縫い付け糸:有限会社田中専商店製、エステルミシン#0番糸使用、ピッチ6mm)
・実施例6:「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+840~850kgf/3cm(800T)の織布組合体」/周縁縫い付けの堅固合せ/介在離隔物無し/非堅固領域における部分結合有り(含浸接着剤:3M社製、スコッチ(R)強力接着剤(多用途)使用)
・実施例7:「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+840~850kgf/3cm(800T)の織布組合体」/周縁縫い付けの堅固合せ/介在離隔物無し/非堅固領域における部分結合有り(含浸接着剤:3M社製、スコッチ(R)強力接着剤(多用途)使用)

比較例1~6:1枚織布又は2枚織布組合せに対する介在離隔物有りをベースにした試験
・比較例1:「引張強度310~320kgf/3cmの織布(300T)」/1枚織布
・比較例2:「引張強度540~560kgf/3cmの織布(500T)」/1枚織布
・比較例3:「引張強度840~850kgf/3cmの織布(800T)」/1枚織布
・比較例4:「引張強度840~850kgf/3cmの織布」(800T)/1枚織布
・比較例5:「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+840~850kgf/3cm(800T)の織布組合体」/2枚織布組合せに対する介在離隔物有り(両面テープ/織布間の離隔距離:約1mm)
・比較例6:「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+840~850kgf/3cm(800T)の織布組合体」/2枚織布組合せに対する介在離隔物有り(ボイド紙管/織布間の離隔距離:50mm)

【0063】
結果を表1に示す。
[表1]
【0064】
表1から以下の事項を把握することができた。

(a)周縁が堅固に合わせられた2枚の織布から構成される織布組合体は、工事現場で想定される飛散物を阻止できる。

(b)周縁が堅固に合わせられた2枚の織布から構成される織布組合体であって、特に介在離隔物が存在しないものは、工事現場で想定される飛散物を阻止できる。

(c)周縁が堅固に合わせられた2枚の織布から構成される織布組合体であって、特に「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+540~560kgf/3cm(500T)の織布組合体」は、工事現場で想定される飛散物を阻止できる。

(d)周縁が堅固に合わせられた2枚の織布から構成される織布組合体であって、特に「引張強度840~850kgf/3cm(800T)+840~850kgf/3cm(800T)の織布組合体」は、工事現場で想定される飛散物を阻止できる。

(e)上記(a)~(d)を総括的に捉えれば、周縁が互いに堅固に合わせられた「引張強度840~850kgf/3cm」の織布と「引張強度540~850kgf/3cm」の織布とから少なくとも成る織布組合体は、工事現場で想定される飛散物を阻止できる。

(f)周縁が堅固に合わせられた2枚の織布から構成される織布組合体であって、「非堅固領域における部分的結合(“縫い付け”又は“含浸接着剤”)」は、工事現場で想定される飛散物を阻止できる。特に、かかる“部分的な結合”は飛散物が100m/s以上と比較的大きい飛散速度(例えば100m/s以上125m/s以下の飛散速度(飛散物重量:100g以上300g以下程度で、特には150g以上250g以下又は175g以上225g以下))の条件下で阻止が求められ得る場合に有効である。

(g)上記(e)に関して換言すれば、飛散物が100m/s未満の比較的小さい飛散速度(例えば75m/s以上100m/s未満の飛散速度((飛散物重量:100g以上300g以下程度で、特には150g以上250g以下又は175g以上225g以下))の条件下で阻止が求められ得る場合、「非堅固領域における部分的結合」がない織布組合体でも飛散物を阻止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の飛散防止シートは、広義には、建築・建設分野および土木分野などにおける種々の工事現場において用いられる。限定されるわけではないが、コンクリート建造物や鉄骨造を解体する際にボルト、ナット、リベット、コンクリートガラおよび/または鉄筋の破片などがランダムに周囲に飛び散ることがあるが、そのような飛び散り物を受け止めて、危険を回避するための手段として本発明の飛散防止シートを用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
50A 一方の織布
50A’ 一方の織布の主面(対向面)
50B 他方の織布
50B’ 他方の織布の主面(対向面)
60 縫い目/縫い目ライン
70 含浸接着剤
80 ハトメ
90A 一方のフィルム材
90B 他方のフィルム材
100’ 織布組合体
100 飛散防止シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15