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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】ショートアーク型放電ランプ
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/073 20060101AFI20220622BHJP
   H01J 61/20 20060101ALI20220622BHJP
   H01J 61/88 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
H01J61/073 B
H01J61/20 V
H01J61/88 U
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018121306
(22)【出願日】2018-06-26
(65)【公開番号】P2020004548
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和正
(72)【発明者】
【氏名】太田 一秀
(72)【発明者】
【氏名】本多 友彦
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-110355(JP,A)
【文献】特開2004-362861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/073
H01J 61/20
H01J 61/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管と、
前記発光管内に対向配置される一対の電極とを備え、
前記電極が、
電極先端側に向けて縮径する溶融先端部と、
前記溶融先端部の電極後端側において、電極芯棒周りに複数のコイルが層状に形成されたコイル部と、
前記コイル部の電極芯棒と接する内側コイルと接し、前記電極芯棒の少なくとも一部を覆う環状部材とを備え、
前記内側コイルの電極後端側端部に、エッジ部分を境界にもつ平坦面が、前記電極芯棒の周全体に渡って形成され、
前記環状部材の外径が、前記内側コイルの外径よりも大きいことを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
前記環状部材の外径が、前記コイル部の最も外側のコイルの外径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項3】
前記環状部材の前記電極の軸に沿って前記コイル部と向かい合う部分は、曲面形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項4】
前記環状部材が、前記電極芯棒を周方向全体に渡って覆うリング状部材で構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項5】
前記環状部材おいて、前記電極芯棒の周全体に渡って平坦な端面が、電極後端側に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項6】
前記環状部材の断面半径が、前記内側コイルのコイル断面外径より小さいことを特徴とする請求項に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項7】
前記発光管内に、0.15mg/mm以上の水銀と、希ガスと、1×10-6~1×10-2μmol/mmの範囲のハロゲンとが封入され、
前記一対の電極の距離間隔が、2mm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のショートアーク型放電ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電ランプに関し、特に、ショートアーク型放電ランプの電極構造に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタ、露光装置などの光源として使用されるショートアーク型放電ランプでは、発光管内に一対の電極を非常に短い間隔(例えば数ミリ程度)で配置し、発光管両端には発光管と一体的に繋がる封止管がそれぞれ形成される。そして、発光管内に水銀とハロゲンと希ガスが封入される。電極対に電圧を印加することでアーク放電が生じ、発光管内の圧力が高圧(例えば100気圧以上)になることで、アーク放電が電極対の電極先端の間に安定し、反射鏡などによってアーク放電より放射される光が所定方向へ導かれる。
【0003】
このようなショートアーク型放電ランプでは、いわゆるコイル溶融電極が一般的に用いられる。コイル溶融電極は、電極芯棒にコイルを巻き付け、電極先端部側をレーザ等で加熱溶融することにより形成される。溶融部分は椀状、半球状などに形成されて電極先端部として構成される一方、溶融されていないコイル部分が、先端部と一体的に繋がって形成される。
【0004】
放電ランプでは、アーク放電が不安定な状態となると、電極先端部以外でアーク放電が生じる場合がある。特に、点灯直後は電極の温度が低く、封入物の蒸発も少なく発光管内のガス圧も低いことから、アーク放電が不安定な状態となり、コイル部分への電界集中などの理由により電極後端部(コイル部分)を起点としてアーク放電が生じる。
【0005】
電極後端側にアーク放電が生じると、アーク放電の起点が発光管に近いことによって発光管が変形し、失透が生じる。これを防ぐため、コイル部分の後端部の表面全体に対して丸みをもたせる電極形状が知られている(特許文献1参照)。これにより、点灯始動後の電極後端部を起点とするアーク放電を持続させないようにし、アーク放電の起点を電極先端部の突起部へ向けて移行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-362861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アーク放電が電極芯棒付近で生じると、アーク放電が電極芯棒に近接したり、アーク放電の起点が電極芯棒あるいはその傍まで移動することで、アーク放電の熱によって電極芯棒が消耗し、また、封止管に対しても影響を与える。ランプ点灯が繰り返されることで、電極芯棒や封止管が損傷する恐れがある。
【0008】
したがって、コイル溶融電極において、アーク放電が電極芯棒や封止管に影響を与えないようにすることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のショートアーク型放電ランプは、発光管と、発光管内に対向配置される一対の電極とを備え、電極が、電極先端側に向けて縮径する溶融先端部と、溶融先端部の電極後端側において、電極芯棒周りに複数のコイルが層状に形成されたコイル部と、コイル部の電極芯棒と接する内側コイルと接し、電極芯棒の少なくとも一部を覆う環状部材とを備える。そして、環状部材の外径が、内側コイルの外径よりも大きい。
【0010】
例えば、発光管内に、0.15mg/mm以上の水銀と、希ガスと、1×10-6~1×10-2μmol/mmの範囲のハロゲンとが封入され、一対の電極の距離間隔は2mm以下である。内側コイルの電極後端側端部は、エッジ部分を境界にもつ平坦面が、電極芯棒の周全体に渡って形成することが可能である。
【0011】
環状部材は、様々なサイズ、外面形状をもつ部材として構成することができる。例えば、環状部材の外径は、コイル部の最も外側のコイルの外径よりも小さくすることが可能である。また、環状部材の電極の軸に沿ってコイル部と向かい合う部分は、曲面形状にすることが可能である。
【0012】
環状部材は、電極芯棒を周方向全体に渡って覆うリング状部材で構成することができる。また、環状部材おいて、電極芯棒の周全体に渡って平坦な端面が、電極後端側に形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ショートアーク型放電ランプにおいて、安定したアーク放電を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態であるショートアーク型放電ランプの概略的構成図である。
図2】電極の平面図である。
図3図2の電極の電極軸に沿った断面図である。
図4】第2の実施形態である電極の平面図である。
図5図4の電極の電極軸に沿った断面図である。
図6】第2の実施形態の電極の変形例となる平面図である。
図7】第3の実施形態である電極の平面図である。
図8図7の電極の電極軸に沿った断面図である。
図9図8の電極の一部を拡大した図である。
図10】第3の実施形態の電極の変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態であるショートアーク型放電ランプの概略的構成図である。
【0016】
ショートアーク型放電ランプ(以下、放電ランプとする)10は、露光装置などに使用可能な放電ランプであり、透明な石英ガラス製の略球状発光管12を備える。発光管12内には、一対の電極20、30が、所定距離間隔(ここでは、2mm以下)で対向配置される。発光管12の両側には、石英ガラス製の封止管14A、14Bが発光管12と連設し、一体的に形成されている。
【0017】
発光管12内の放電空間Sには、水銀とハロゲンとアルゴンガスなどの希ガスが封入されている。ここでは、0.15mg/mm以上の水銀と、希ガスと、1×10-6~1×10-2μmol/mmの範囲のハロゲンとが封入されている。ハロゲンは、水銀やその他の物質との化合物として封入されている。
【0018】
放電ランプ10は、ここでは所定の定格電力(例えば100~500W)が供給される交流点灯ランプであり、電圧が一対の電極20、30に印加されると、電極間でアーク放電が発生し、発光管12の外部に向けて光が放射され、反射鏡(図示せず)によって所定方向へ導かれる。交流電圧が一対の電極20、30に印加されるため、極性(陰極、陽極)が交互に入れ替わる。
【0019】
図2は、電極30の平面図である。図3は、図2の電極30の電極軸に沿った断面図である。図2、3を用いて、電極30の構成について説明する。なお、電極20も同様の構成になっている。
【0020】
電極30は、電極芯棒32にコイルを巻き付けて先端部を溶融させた電極(以下、コイル溶融電極という)によって構成されている。すなわち、電極芯棒32周りにコイルを巻き付けた後、電極先端側をレーザ溶融などによって溶融することにより、図2に示す電極30の外観形状が形成される。電極30は、ここでは電極芯棒32を含めてタングステンによって構成されている。
【0021】
電極30は、略半球状の電極先端部(以下、溶融先端部という)40と、溶融されていないコイル部50とを備える。溶融先端部40は、コイルが溶融した部分に該当し、溶融先端部40の表面40Sは滑らかな曲面状であって、電極先端側に向けて先細くなっている。また、溶融によって溶融先端部40は電極芯棒32と一体化している。溶融先端部40の端部には、アーク放電時の起点となる椀状の突起部42が形成されている。
【0022】
コイル部50は、図3に示すように、複数のコイルが電極芯棒32周りに巻かれることによって層状に形成されている。ここでのコイル部50は、電極芯棒32と接する断面円状の内側コイル層52と、内側コイル層52よりも電極芯棒32の径方向外側に位置する断面円状の外側コイル層54の2層から構成される。内側コイル層52と外側コイル層54は溶接されておらず、内側コイル層52の外径は、外側コイル層54よりも小さい。ただし、内側コイル層52、外側コイル層54の外径を同じにしてもよい。
【0023】
外側コイル層54は、そのコイル軸に垂直な切断面54Sを有する。一方、内側コイル層52の端部52Eは、一部カット(切断)されている。具体的には、エッジ部分52Dを境界にもつ平坦な端面(平坦面、切断面)52Sが、電極軸Xに垂直な方向に沿って周全体に渡って形成されている。内側コイル層52の端部52Eは、電極軸Xに沿って外側コイル層54の端部54Eよりも電極後方側に位置する。
【0024】
エッジ部分52Dをもつ切断面(平坦面)52Sを設けることにより、内側コイル層52の端部52Eは、外側コイル層54の端部54Eのように全体が曲面状(管状)ではなく、曲面部分と平坦面(切断面52S)とが両方存在する形状となっている。そして、平坦面境界にエッジ部分52Dが存在することによって、曲面部分と切断面52Sとの間は滑らか(連続的)になっていない。また、内側コイル層52の端部52Eの電極軸Xに沿った位置は、外側コイル層54の端部54Eとは異なり、周方向に関してどの箇所においても実質的に同じになる。さらに、内側コイル層52の端部52Eを電極軸Xに垂直な方向で周全体に渡ってカットすることで、エッジ部分52Dの一部は必ず鋭角なエッジとなる。
【0025】
電極芯棒32は、その一部がカバー部材60によって覆われている。コイル部50は、カバー部材60よりも径方向外側に位置し、カバー部材60の電極先端側端部60E1は、溶融先端部40と一体的に繋がっている。また、カバー部材60は、電極軸Xに沿って溶融先端部40から電極芯棒32の端部32E付近まで延び、電極後端側端部60E2を含めてその一部が、封止管14B内に埋設されている(図1参照)。カバー部材60は、電極芯棒32を周方向全体に渡って覆い、電極芯棒32と接触している。
【0026】
カバー部材60は、ここでは断面円状のコイルによって構成され、互いに密に接触しながら巻かれたコイル形状を有する。ここでは、カバー部材60のコイル断面の外径(線外径)が、内側コイル層52および外側コイル層54のコイル断面の外径(線外径)よりも小さい。
【0027】
このような電極20、30に対して交流電圧を印加することで、以下説明するように点灯始動する。
【0028】
点灯直後においては、電極温度が低く、封入物の蒸発も少なくガス圧も低いため、アーク放電は突起部42以外で生じる。内側コイル層52は、外側コイル層54とは異なり、内側コイル層52の端部52Eにエッジ部分52Dを有する切断面52Sが形成されている。そのため、切断面52Sのエッジ部分52D、特にエッジ部分52Dの鋭角な部分に電界が集中する。これにより、コイル部50のレーザ溶融による微小な突起の有無に関わらず、アーク放電が端部52E(エッジ部分52D)を起点として必然的に生じる。
【0029】
上述したように、内側コイル層52は外側コイル層54と溶接していないために一体的に繋がっておらず、互いにその表面が部分的に接している。そのため、内側コイル層52の熱は、外側コイル層54へ伝搬しにくい。一方、内側コイル層52は、溶融先端部40と溶接し、溶融先端部40と一体化している。したがって、内側コイル層52の熱は、外側コイル層54よりも溶融先端部40へ伝搬しやすい。
【0030】
ランプ軸が水平になるように放電ランプ10を配置した場合、ランプ消灯直後の電極温度は、電極上方側がより高くなる。一方で、切断面52Sが周方向全体に渡って形成されているため、放電ランプ10を設置したときの回転位置(軸回り方向の位置)に関わらず、内側コイル層52の端部52Eにおいてアーク放電が確実に生じ、外側コイル層54の端部54Eや、外側コイル層54表面に生じたレーザ溶融による微小な突起にアーク放電が発生することを抑制する。
【0031】
他方、カバー部材60が電極芯棒32を被覆しているため、内側コイル層52の端部52Eに生じたアーク放電が電極芯棒32と接しない。特に、平坦な切断面52Sの電極径方向外側端部から径方向内側端部へアーク輝点が移動しても、カバー部材60があることによって電極芯棒32にアーク放電が接したり、アーク放電が電極芯棒32に移動することが防止される。その一方で、カバー部材60はコイル部50に包まれているため、カバー部材60の電極側先端側でアーク放電が生じることもない。
【0032】
さらに、カバー部材60の電極後端側端部60E2が封止管14B内に埋設されているため、アーク放電がカバー部材60の電極後端側端部60E2付近で発生することがなく、封止管14Bの破損の恐れがない。また、カバー部材60のコイル断面外径(線外径)がコイル部50のコイル断面外径(線外径)よりも小さいため、電極全体の体積増加が抑えられ、ハロゲンサイクルなどへの影響が生じない。加えて、カバー部材の熱膨張量も抑制されるため、封止管内に埋設された電極後端側端部60E2と封止管との熱膨張差が抑制され、封止管にクラックが生じることが無い。
【0033】
以上のことから、内側コイル層52の端部52Eの切断面52S(エッジ部分52D)にアーク放電が生じることで生じた熱は、外側コイル層54ではなく溶融先端部40に伝搬し、点灯時は外側コイル層54より溶融先端部40の方が高温となる。アーク放電は一般的に高温箇所に生じやすい(移動しやすい)ことから、内側コイル層52の端部52Eに生じたアーク放電の起点は、外側コイル層54の外表面、すなわちコイル部50の側面に移動することなく、すみやかに溶融先端部40へ移動する。
【0034】
このように内側コイル層52の切断面52Sにおいて最初にアーク放電を生じさせるとともに、電極芯棒32に沿って内側コイル層52を媒体に熱を溶融先端部40へ伝搬することで、速やかなアーク放電の移動を行うことができる。また、コイル部50の側面から発光管12、また、電極芯棒32へ向けてアーク放電が生じないため、発光管12および電極芯棒32の変形、失透が生じるのを抑えることができる。
【0035】
以上説明した電極30は、様々な製造方法によって製造することができる。例えば、電極芯棒にカバー部材となるコイルを圧入する。このとき、電極芯棒に対してコイル全体をスポット電極で挟み込み、スポット溶接を行う。次に、あらかじめ切断面を形成してあってコイリング(巻き回された)内側コイル層を電極芯棒に圧入し、その後、外側コイル層を圧入する。そして、電極先端側をレーザ溶融することによって、溶融先端部とコイル部から成る電極を成形する。封止工程では、コイルが封止管内に埋設するように封止する。切断面は、レーザ、研磨などによって形成することが可能である。コイル部に対して平坦な切断面を形成することで、特別な工程を設けることなく、エッジ部分が電極芯棒周りに沿って形成される。
【0036】
このように本実施形態によれば、溶融先端部40とコイル部50とを備えた電極30(電極20)を備えたショートアーク型放電ランプ10において、内側コイル層52の端部52Eに、エッジが存在するように切断面52Sが電極芯棒32周りに沿って形成されている。それとともに、電極芯棒32を覆うカバー部材60が、溶融先端部40から封止管側まで延び、その外側にコイル部50が設けられている。
【0037】
切断面52Sについては、その全体が電極軸Xに垂直でなくてもよく、電極芯棒32周りの周方向に沿って形成されればよい。また、周全体ではなくその一部であってもよい。例えば、電極30を水平配置した場合、内側コイル層52の上方側でアーク放電が生じやすい。そのため、切断面52Sが周方向半分に渡って形成し、切断面52Sがその上方側に位置するように電極配置することで、内側コイル層52の端部52Eにおいて確実に生じさせることができる。さらに、電極配置の状態および高温状態の箇所がある程度把握できれば、より少ない周方向に沿った範囲で切断面を形成することも可能であり、その範囲の周方向長さで平坦面を形成してもよい。また、切断面52Sと曲面部分との境界すべてに対してエッジ部分52Dを形成するのではなく、部分的にエッジが存在するように形成してもよく、例えば、部分的に鋭角なエッジ部分を形成することで、より確実に端部52Eにアーク放電を生じさせることができる。
【0038】
コイル部50については、2層以外の層状コイルによって形成することが可能である。また、内側コイル層と外側コイル層を別のコイルで形成せず、1つのコイルを電極芯棒に巻いた電極構造であってもよい。この場合でも、最も内側のコイル層が溶融先端部側と一体的に繋がっている一方、その溶融先端部を通じて外側のコイル層が繋がっているため、先に溶融先端部が加熱され、アーク放電が電極芯棒に沿って移動する。
【0039】
カバー部材60については、電極軸Xに沿ったコイル状部材で構成する代わりに、リングを電極軸方向に沿って密に並べた構成、筒状部材、箔部材などによって構成することも可能である。コイル部よりも電極後端側において電極芯棒を部分的あるいは全体的に覆うような軸方向長さを有する部材で構成することができる。
【0040】
次に、図4、5を用いて第2の実施形態であるショートアーク型放電ランプについて説明する。第2の実施形態では、コイル部が電極芯棒と接し、カバー部材がコイル部よりも電極後端側に設けられている。
【0041】
図4は、第2の実施形態である電極の平面図である。図5は、図4の電極の電極軸に沿った断面図である。
【0042】
電極30’は、溶融先端部40とコイル部150とを備え、コイル部150は電極芯棒32と接しながら電極芯棒32を覆っている。コイル状のカバー部材160は、電極芯棒32を被覆する。第1の実施形態同様、カバー部材160の一部は封止管14B内に埋設されている。
【0043】
カバー部材160の電極先端側端部160E1は、コイル部150の内側コイル層152の切断面152Sと電極軸Xに沿って所定距離間隔Lだけ離れている。ここでは、所定距離間隔Lは、内側コイル層152のコイル断面外径(線外径)Kの1/2以下に定められている。切断面(平坦面)152Sのエッジ部分152Dで生じたアーク放電は弧を描くように生じる(図5のRを参照)が、内側コイル層152の切断面(平坦面)152Sと電極先端側端部160E1との間、すなわち電極芯棒32が放電空間Sに露出している距離が所定距離間隔L以下にすることで、カバー部材60によってアーク放電が電極芯棒32(の放電空間Sに露出した部分)に接することを防止でき、電極芯棒32が消耗するのを抑えることができる。
【0044】
図6は、第2の実施形態の電極の変形例となる平面図である。電極30’のカバー部材160’は、コイル部150の切断面152Sと接している。これにより、アークが電極芯棒32と接するのをより確実に防ぐことができる。また、切断面152Sの径方向外端部から径方向内側端部にアークが移動するのを抑制することができる。
【0045】
第2の実施形態の電極も任意の製造方法を適用することが可能であり、第1の実施形態で説明した製造方法に従って製造することが可能である。
【0046】
次に、図7、8を用いて第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、カバー部材が、環状部材によって構成される。
【0047】
図7は、第3の実施形態であるショートアーク型放電ランプの電極の平面図である。図8は、図7の電極の電極軸に沿った断面図である。
【0048】
ショートアーク型放電ランプの電極30”は、溶融先端部40とコイル部150とを備える。コイル部150は、第2の実施形態と同様に構成されている。カバー部材260は、ここでは断面円状の環状部材(以下、環状部材260)である。環状部材260は、電極芯棒32と接するとともに、コイル部150と接している。
【0049】
図9は、図8の電極の一部を拡大した図である。環状部材260は断面が略円形のリング状の部材であって、その断面外径(線外径)Wは、内側コイル層152のコイル断面外径(線外径)W1よりも大きい。一方、環状部材260のリング断面外径Wは、電極芯棒径方向に沿った電極芯棒32と外側コイル層154との最大距離Aよりも小さい。つまり、環状部材260の外径は内側コイル層152の外径より大きく、外側コイル層の外径より小さい。環状部材260は、内側コイル層152の切断面152Sと接触する。環状部材260が内側コイル層152の径方向外側のエッジ部分152D以外の切断面152Sで接触することで、エッジ部分152Dは放電空間Sに露出している。たとえば図9のように環状部材の断面半径(線半径)Tを内側コイル層152のコイル断面外径W1より小さくすることで、エッジ部分152Dは放電空間Sに露出させることができる。
【0050】
このようなリング状の環状部材260を設けることにより、内側コイル層152の径方向外側部分のエッジ部分152Dでアーク放電が生じやすくなる。そして、エッジ部分152Dで生じたアーク放電は、環状部材260が障害となって封止管側や電極芯棒側に向かって生じない。さらに、環状部材260と切断面152Sとの接触により、径方向内側のエッジ部分152D’でアーク放電が生じる、またはエッジ部分152D’にアーク放電が移動することが抑制される。また、環状部材260の表面、特に電極先端側の表面が曲面形状であり、エッジ部分等を形成していないため、アーク放電が環状部材に移動することが無く、さらに、エッジ部分152Dで生じたアーク放電が環状部材260の電極先端側の表面に接する(近接する)ことで、アーク放電の熱で環状部材260が消耗することを抑制できる。
【0051】
以上説明した電極30”は、様々な製造方法によって製造することができる。例えば、内側コイルおよび外側コイルを圧入し、環状部材260を圧入する。このとき、スポット溶接などで一部固定してもよい。そして、電極先端部を溶融する。
【0052】
図10は、第3の実施形態の電極の変形例を示した図である。カバー部材260’は、電極後端側において、電極軸Xに垂直な平坦な端面260’Sを有する。このような端面260’Sを設けることにより、環状部材260’の体積が削減され、体積増加による放電への影響を抑えることができる。さらに、平坦な端面260’Sのエッジ部分を260’Dが鈍角になるように平坦な端面260’Sを設けることで、鋭角な部分を有するエッジ部分152D’でより確実にアーク放電を生じるため、平坦な端面260’Sでアーク放電が生じることを防止できる。
【0053】
このように第3の実施形態によれば、溶融先端部40とコイル部150とを備えた電極30”を備えたショートアーク型放電ランプ において、内側コイル層152の端部152Eに、エッジが存在するように切断面152Sが電極芯棒32周りに沿って形成されている。それとともに、電極芯棒32を覆う環状のカバー部材260が、コイル部150の切断面152Sと接した状態で設けられている。
【0054】
環状部材260は、第1、第2の実施形態のカバー部材のように電極芯棒32の表面をできるだけ覆うのではなく、コイル部150の切断面152Sと接触させて、アーク放電が封止管側や電極芯棒側に向かって生じることを防止できる。したがって、環状部材260は、電極軸方向に長さを大きく確保する必要がなく、内側コイル層の巻き径より大きい断面外径を有すればよい。
【0055】
環状部材は、電極芯棒を周方向全体に渡って覆う必要はなく、一部切欠きのあるC型ワッシャ形状などの環状部材によって構成すればよい。また、コイル部の端部に平坦面を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 放電ランプ
20、30 電極
40 溶融先端部
50 コイル部
52 内側コイル層
52E 端部
52S 切断面(平坦面)
54 外側コイル層
60 カバー部材
150 コイル部
260 カバー部材(環状部材)
260’S 端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10