(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】難燃性ポリカーボネート樹脂組成物、及びそれを含む樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20220622BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20220622BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20220622BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20220622BHJP
C08K 5/524 20060101ALI20220622BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20220622BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20220622BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220622BHJP
H01M 10/00 20060101ALI20220622BHJP
H01M 50/10 20210101ALI20220622BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K3/30
C08K5/42
C08K5/49
C08K5/524
C08L27/12
C08L51/04
C08L83/04
H01M10/00
H01M50/10
(21)【出願番号】P 2018164567
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】温井 紳二
(72)【発明者】
【氏名】川野 恵一
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-040202(JP,A)
【文献】特開2011-231138(JP,A)
【文献】特開2011-168633(JP,A)
【文献】特開2007-314766(JP,A)
【文献】特開2000-327897(JP,A)
【文献】特開2017-066235(JP,A)
【文献】特開2011-256303(JP,A)
【文献】特開2006-124517(JP,A)
【文献】特開2010-65164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08K 3/30
C08K 5/42
C08K 5/49
C08K 5/524
C08L 27/12
C08L 51/04
C08L 83/04
H01M 10/00
H01M 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が19000~30000のポリカーボネート樹脂(A)100重量部、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、又は芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(B)0.01~2.0重量部、繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)0.1~1.0重量部、金属塩(D)0.1~10重量部、ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(E)0.05~5.0重量部、及びリン系酸化防止剤(F)0.001~0.2重量部を含有
し、
前記金属塩(D)が、芳香族硫黄化合物の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩、及び硫酸二価金属塩を含み、前記ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、芳香族硫黄化合物の金属塩が0.001~0.3重量部、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩が0.01~0.3重量部、硫酸二価金属塩が0.01~5.0重量部であり、
前記芳香族硫黄化合物の金属塩がパラトルエンスルホン酸ナトリウムであり、前記硫酸二価金属塩が硫酸バリウムであることを特徴とする、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、又は芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.1~1.8重量部である、請求項1記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(E)が、メチル・メタクリレート及びブタジエンを必須成分とするコアシェル型グラフト共重合体である、請求項1記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記リン系酸化防止剤(F)が、亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物である、請求項1記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか一項記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を含む樹脂成形品。
【請求項6】
蓄電池用部品及び蓄電池用筐体として使用される、請求項
5記載の樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐衝撃性、耐熱性、熱安定性を保持したまま、高いレベルの衝撃強度と難燃性のバランスに優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを含む成形品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等に優れた熱可塑性樹脂であり、電気、電子、ITE、機械、自動車などの分野で広く用いられている。ポリカーボネート樹脂は、自己消火性を備えた難燃性の高いプラスチック材料ではあるが、前述の各分野では、難燃化の要望が強く、更に安全上の要求を満たすため、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠した難燃性の評価において、UL94V-OやV-1相当の一層高い難燃性が求められている。
【0003】
近年では、特にモバイル型の端末の普及が進んだことから、電気電子やITEの機器について落下時の破損防止の観点からプラスチック材料へ更に高い衝撃強度が要望されている。モバイル型の端末には内部に蓄電池を内蔵していることから、UL94V-OやV-1を要望されると供に内蔵される電池の保護のため高い衝撃強度も同時に達成することが求められている。
【0004】
ポリカーボネート樹脂に難燃剤を付与させる手法として、従来、難燃剤として塩素や臭素化合物、或いはリン系化合物を配合する方法が採用されている。しかし、塩素や臭素系難燃剤は、優れた難燃効果を示すものの、射出成形時に成形機スクリューや製品金型を腐食させる等の問題があった。又、リン系難燃剤は縮合リン酸エステル系難燃剤を中心に使用されているが、耐熱性或いは衝撃強度の極端な低下が発生するという問題があった。これら著しい物性低下や環境面の配慮から、臭素や塩素等のハロゲン系化合物及びリン系化合物を含有しない難燃剤の使用が望まれている。
【0005】
上記の難燃剤を使用せず難燃化する方法として、芳香族スルホン酸金属塩を添加する方法(特許文献1)やパーフルオロアルカンスルホン酸アリウムを添加する方法(特許文献2)、又、シリコーン樹脂を添加する方法(特許文献3)などの提案がされてきた。これらの手法を用いることにより、UL94試験に準拠した難燃性の評価において、燃焼時間の減少効果及び燃焼時における樹脂の滴下(ドリッピング)抑制効果はある程度認められるものの、製品安全上の規格を満たすには充分ではなく、より一層優れた難燃性を有する材料の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭50-98546号公報
【文献】特公昭47―40445号公報
【文献】特開平10―139964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、臭素や塩素等のハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤を使用せずとも高い難燃性を備え、かつ高いレベルの衝撃強度と難燃性のバランスに優れる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを含む成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題に鑑み鋭意研究を行った結果、特定のシリコーン化合物により難燃化されたポリカーボネート樹脂に、繊維形成型の含フッ素ポリマー、特定の金属塩、ゴム変性(メタ)アクリル系重合体及びリン系酸化防止剤を配合することにより、高い衝撃強度と難燃性とをバランス良く向上させることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、粘度平均分子量が19000~30000のポリカーボネート樹脂(A)100重量部、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、又は芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(B)0.01~2.0重量部、繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)0.1~1.0重量部、金属塩(D)0.1~10重量部、ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(E)0.05~5.0重量部、及びリン系酸化防止剤(F)0.001~0.2重量部を含有することを特徴とする、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを含む成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリカーボネート組成物及び成形品は、優れた難燃性のみならず、高い衝撃特性を有している。電気電子やITE機器の筐体に適しており、特に、蓄電池ハウジングや蓄電池の周辺部品や筐体にも適している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0012】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホンのような、ジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0013】
これらは単独又は2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′-ジヒドロキシジフェニル等を混合し
て使用してもよい。
【0014】
更に、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタン及び2,2-ビス-〔4,4-(4,4′-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル〕-プロパンなどが挙げられる。
【0015】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、強度面から19000~30000が好ましい。このような粘度平均分子量のポリカーボネート樹脂を用いることで、高い衝撃強度を備えるポリカーボネート樹脂組成物が得られる。成形加工と強度面からは20000~30000がより好ましい。更に好ましくは21000~28000である。30000を超える場合は、加工性が悪くなる場合がある。又、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0016】
本発明にて使用されるシリコーン化合物(B)は、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基が芳香族基からなるか、又は芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなり、下記一般式(1)にて示される。
一般式(1)
【0017】
【化1】
ここで、R
1、R
2及びR
3は主鎖の有機官能基を、Xは末端の官能基を表わす。
すなわち、分岐単位としてT単位(RSiO1.5)及び/又はQ単位(SiO2.0)を持つことを特徴とする。これらは全体のシロキサン単位(R3~0SiO2~0.5)の20モル%以上含有することが好ましい。(Rは有機官能基をあらわす。)又、シリコーン化合物(B)は、含有される有機官能基のうち芳香族が20モル%以上であることが好ましい。
【0018】
この含有される芳香族基としては、フェニル、ビフェニル、ナフタレン又はこれらの誘導体であるが、フェニル基が好適に使用できる。
【0019】
シリコーン化合物(B)中の有機官能基で、主鎖や分岐した側鎖に付いたもののうち芳香族基以外の有機基としては、炭素数4以下の炭化水素基が好ましく、メチル基が好適に使用できる。更に、末端基はメチル基、フェニル基、水酸基の内から選ばれた1種又はこれらの2種から3種までの混合物であることが好ましい。
【0020】
シリコーン化合物(B)の平均分子量(重量平均)は、好ましくは3000~500000であり、更に好ましくは5000~270000である。
【0021】
シリコーン化合物(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、0.01~2.0重量部である。配合量が0.01重量部未満であると難燃性に劣り、
配合量が2.0重量部を越えると成形品表面に表層剥離が発生し外観に劣るので好ましく
ない。好ましくは0.1~1.8重量部の範囲である。
【0022】
本発明にて使用される繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)としては、ポリカーボネート樹脂(A)中でフィブリル状構造を形成するものがよく、例えばポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、等)、米国特許第4379910号に示される様な部分フッ素ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート等が挙げられる。とりわけ、分子量1000000以上で二次粒子径100μm以上のフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好適に使用される。例えば、ダイキン工業社製
ネオフロンFA500として入手できる。又、ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体も繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)として好適に使用される。当該ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体は、例えば、三菱レイヨン社製メタブレンA3800として入手できる。
【0023】
繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部あたり0.1~1.0重量部である。配合量が0.1重量部未満では滴下防止性に劣り、又1.0重量部を越えると表面外観や造粒性が悪化するので好ましくない。好ましくは0.2~0.6重量部、より好ましくは0.25~0.5重量部の範囲である。
【0024】
本発明に使用される金属塩(D)は、芳香族硫黄化合物の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩、硫酸二価金属塩からなる群から選択される少なくとも1種以上の金属塩が好ましい。金属塩(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.1~10重量部が好ましい。
【0025】
芳香族硫黄化合物の金属塩としては、アルカンスルホン酸の金属塩があげられ、好適には、4-メチル-N-(4-メチルフェニル)スルフォニル-ベンゼンスルフォンアミドのカリウム塩、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン-3-3'-ジスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム等が使用できる。芳香族硫黄化合物の金属塩の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.001~0.3重量部である。配合量がこの範囲外であると何れも充分な耐燃性を備えた難燃効果が得られないので好ましくない。
【0026】
パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩とは、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられる。なかでも、パーフルオロブタンスルホン酸のカリウム塩が好適に使用できる。
【0027】
パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.01~0.3重量部が好ましい。
【0028】
硫酸二価金属塩は、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム等が挙げられ、これらは単独で使用又は二種以上を併用してもよい。なかでも、硫酸バリウムが好適に使用できる。
【0029】
硫酸二価金属塩の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.01~5.0重量部が好ましい。
【0030】
本発明にて使用される金属塩(D)は、芳香族硫黄化合物の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩、及び硫酸二価金属塩を併用することも出来る。この場合の芳香族硫黄化合物の金属塩の配合量は、0.001~0.3重量部、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩0.01~0.3重量部、硫酸二価金属塩0.01~5.0重量部が好ましい。芳香族硫黄化合物の金属塩0.01~0.05重量部、かつパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩0.03~0.15重量部がより好ましい。
【0031】
本発明にて使用されるゴム変性(メタ)アクリル系重合体(E)とは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを必須成分とし、更に所望によってはスチレンなどの芳香族ビニル、ブタジエンなどの不飽和炭化水素、その他共重合可能な単量体から構成される重合体である。更に、そのモルフォロジーは問わないが、ハードセグメントが連続層でソフトセグメントが分離層、或いはその逆の層からなるコア・シェル型であっても良い。
【0032】
好適には、コアーシェル型のメチルメタアクリレート・ブタジエンゴム・メチルメタアクリレート・グリシジルメタアクリレート・スチレン・アクリル酸エステルゴム及びメチルメタアクリレート・スチレン・シリコン・アクリル酸エステルゴムが使用できる。
【0033】
ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(E)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.05~5重量部である。0.05を下回ると耐衝撃性に劣り、5重量部を越えると耐熱性に劣るので好ましくない。より好ましくは0.3~3重量部、更に好ましくは0.5~3重量部である。この範囲では、低温雰囲気下での衝撃強度と耐熱性のバランスがより一層良好となる。
【0034】
ゴム変性(メタ)アクリル系重合体としては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製、「パラロイドEXL2602」、「パラロイドEXL2603」、「パラロイドEXL2655」、カネカ社製「カネエースM511」、「カネエースM711」等のコアシェル型グラフト共重合体が挙げられる。
【0035】
本発明にて使用されるリン系酸化防止剤(F)としては、亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物が好ましく、例えば、下記一般式2、3、4及び5で表わされる化合物のうち1種又はそれ以上からなるものが挙げられる。
【0036】
下記式(2)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0037】
一般式(2):
【化2】
(式中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す)
【0038】
前記式(2)において、R1は、炭素数1~20のアルキル基であるが、更には、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。
【0039】
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好適であり、例えば、BASF社製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)として商業的に入手可能である。
【0040】
又、下記一般式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0041】
一般式(3):
【化3】
(式中、R
2、R
3、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。R
4は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR
7-(ここで、R
7は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR
8-(ここで、R
8は、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0042】
一般式(3)において、R2、R3、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。
【0043】
ここで、炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-メチル-4-i-プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0044】
前記R2、R3及びR5は、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R2及びR5は、それぞれ独立して、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-オクチル基等のt-アルキル基、シクロヘキシル基又は1-メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、R3は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t-ブチル基又はt-ペンチル基であることが更に好ましい。
【0045】
前記R6は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることが更に好ましい。
【0046】
一般式(3)において、R4は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R2、R3、R5及びR6の説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、R4は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることが更に好ましい。
【0047】
一般式(3)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR7-で表される基を示す。ここで、式:-CHR7-中のR7は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基及び炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれ前記R2、R3、R5及びR6の説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることが更に好ましい。
【0048】
一般式(3)において、Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR8-で表される基を示す。炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。又、式:*-COR8-におけるR8は、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示す。R8を示す炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、前記Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。R8は、単結合又はエチレン基であることが好ましい。又、式:*-COR8-における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0049】
一般式(3)において、Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α-メチルベンジルオキシ基、α,α-ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R2、R3、R5及びR6の説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0050】
一般式(3)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、特に光学特性が求められる分野に、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いる場合には、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適であり、例えば、住友化学(株)製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)として商業的に入手可能である。
【0051】
一般式(4)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0052】
一般式(4):
【化4】
(式中、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【0053】
一般式(4)で表される化合物としては、例えば、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトは、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-24G」として商業的に入手可能である。(株)ADEKA製のアデカスタブPEP-36(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0054】
一般式(5)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0055】
【0056】
(式中、R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基又はアルケニル基を示す。R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18とは、互いに結合して環を形成していても良い。R19~R22は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を示す。d~gは、それぞれ独立して、0~5の整数である。X1~X4は、それぞれ独立に、単結合又は炭素原子を示す。X1~X4が単結合である場合、R11~R22のうち、当該単結合に繋がった官能基は一般式(14)から除外される)
【0057】
一般式(5)で表される化合物の具体例としては、例えばビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが挙げられる。これは、Dover Chemical社製、商品名「Doverphos(登録商標) S-9228」、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-45」(ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)として商業的に入手可能である。
【0058】
下記のことから選択される少なくとも1を満たす、上述の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が好ましい:
【0059】
一般式(6)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0060】
一般式(6):
【化6】
(式中、R
23~R
26は炭素数1~20のアルキル基、又はアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す。)
【0061】
一般式(6)で表される化合物の具体例としては、例えば、[1,1´-ビフェニル]-4,4-ジイルビス[ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノキシ)フォスフィン] 等が挙げられ、例えば、BASF社製のイルガフォスP-EPQ(商品名)、クラリアントジャパン(株)製のサンドスタブP-EPQ(商品名)が商業的に入手可能である。
【0062】
リン系酸化防止剤(F)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.001~0.2である。0.2重量部を超えると色相の向上効果が十分ではないため好ましくない。好ましくは、0.02~0.1重量部の範囲である。
【0063】
更に、実施の形態に係るポリカーボネート樹脂組成物には、本発明における効果を損なわない範囲で、例えば、熱安定剤、他の酸化防止剤、着色剤、離型剤、軟化剤、帯電防止剤、衝撃性改良剤等の各種添加剤、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリマー等が適宜配合されていてもよい。
【0064】
本発明の実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)、シリコーン化合物(B)及び繊維形成型の含フッ素ポリマー(C)、金属塩(D)、ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(E)、及びリン系酸化防止剤(F)を混合し、必要に応じて、前記各種添加剤、及びポリカーボネート樹脂(A)以外のポリマー等を混合する製造方法を例示することができる。本発明が目的とするポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り、その製造方法は特に制限されることはなく、各成分の種類及び量を適宜調整することができる。成分の混合方法も特に制限されることはなく、例えば、タンブラー、及びリボンブレンダー等の公知の混合機にて混合する方法や、押出機にて溶融混練する方法を例示できる。これらの方法により、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを容易に得ることができる。
【0065】
本発明の実施形態の蓄電池用成形品は、上記のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得ることができる。
【0066】
本発明が目的とする成形品を得ることができる限り、成形品の製造方法は特に限定されることはなく、例えば、公知の射出成形法、圧縮成形法等によりポリカーボネート樹脂組成物を成形する方法が挙げられる。
【0067】
本発明に係る成形品は、電気電子やITE機器の筐体に適しており、特に、蓄電池ハウジングや蓄電池の周辺部品や筐体にも適している。
【0068】
以上のように、本発明の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本発明における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【実施例】
【0069】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特にことわりがない限り、「部」及び「%」はそれぞれ重量基準である。
【0070】
原料として以下のものを使用した。
1、ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAと塩化カルボニルとから合成されたポリカーボネート樹脂
1-1、住化ポリカーボネート社製SDポリカ200-3(商品名)(粘度平均分子量:28500):「SDポリカ」は住化ポリカーボネート(株)の登録商標、以下、「PC―1」と略称
1-2、住化ポリカーボネート社製SDポリカ200-13(商品名)(粘度平均分子量:21500):「SDポリカ」は住化ポリカーボネート(株)の登録商標、以下、「PC―2」と略称、
1-3、住化ポリカーボネート社製SDポリカ200-30(商品名)(粘度平均分子量:17600):「SDポリカ」は住化ポリカーボネート(株)の登録商標、以下、「PC―3」と略称、
【0071】
2、シリコーン化合物(B):
シリコーン化合物は、一般的な製造方法に従って製造した。すなわち、適量のジオルガノジクロロシラン、モノオルガノトリクロロシラン及びテトラクロロシラン、或いはそれらの部分加水分解縮合物を有機溶剤中に溶解し、水を添加して加水分解して、部分的に縮合したシリコーン化合物を形成し、更にトリオルガノクロロシランを添加して反応させることによって重合を終了させ、その後、溶媒を蒸留等で分離した。上記方法で合成したシリコーン化合物の構造特徴は、以下のとおり:
・主鎖構造のD/T/Q単位の比率:40/60/0(モル比)
・全有機官能基中のフェニル基の比率(*):60モル%
・末端基:メチル基のみ
・重量平均分子量(**):15000
*:フェニル基は、T単位を含むシリコーン中ではT単位にまず含まれ、残った場合がD単位に含まれる。D単位にフェニル基が付く場合、1個付くものが優先し、更にフェニル基が残余する場合に2個付く、末端基を除き、有機官能基は、フェニル基以外は全てメチル基である。
**:重量平均分子量は、有効数字2桁
(以下、「シリコーン化合物」と略記)
【0072】
3、繊維形成型の含フッ素ポリマー(C):
3-1、ポリテトラフルオロエチレン樹脂
ネオフロンFA500
ダイキン工業社製、(以下、「PTFE-1」と略称)
3-2、ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体
メタブレンA3800
三菱レイヨン社製、ポリテトラフルオロエチレン含有率:50%
(以下、「PTFE-2」と略称)
【0073】
4、金属塩(D):
4-1、芳香族硫黄化合物の金属塩:
パラトルエンスルホン酸ナトリウム(以下、「金属塩-1」と略記)
4-2,パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩:
パーフルオロアルカンスルホン酸のカリウム塩(以下、「金属塩-2」と略記)
4-3,硫酸二価金属塩:
硫酸バリウム B-55、堺化学工業社製、一次粒子径0.66μm、(以下、「金属塩-3」と略記)
【0074】
5,ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(E):
カネエースM711、カネカ社製、コアーシェル型メチルメタアクリレート・ブタジエンゴム(以下、「重合体」と略記)
【0075】
6.リン系酸化防止剤(F):
6-1.以下の式で表される、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン:環状亜リン酸エスエル系酸化防止剤
【化7】
[住友化学(株)製のスミライザーGP(商品名)、以下(AO-1)ともいう]
【0076】
6-2.以下の式で表される、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(IUPAC名:3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン)
【化8】
[ADEKA製のアデカスタブPEP-36(商品名)、以下(AO-2)ともいう]
【0077】
6-3.以下の式で表される、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト
【化9】
[BASF社製のイルガフォス168(商品名)、以下(AO-3)ともいう]
【0078】
6-4.以下の式で表される、[1,1´-ビフェニル]-4,4
´-ジイルビス[ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノキシ)フォスフィン]
【化10】
[式中、R
23~R
26は、2,4-ジ-t-ブチルフェニル基:クラリアントジャパン社製サンドスタブP-EPQ(商品名)、以下(AO-4)ともいう]
【0079】
(実施例1~22及び比較例1~15)
前述の各種配合成分を表2~8に示す配合比率にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製TEM37SS)を用いて、溶融温度280℃にて混練し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0080】
(難燃性の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ120℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J-100E2-P)を用いて設定温度280℃、射出圧力1600kg/cm2にて難燃性評価用の試験片(125x13x0.8mmと125x13x1.6mm)を作成した。
該試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間放置し、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠した難燃性の評価を行った。基準を表1に示す。
難燃性の評価は、V-1以上を良好とした。
【0081】
【0082】
(ノッチ付きシャルピー衝撃強度の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ120℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J-100E2-P)を用いて設定温度280℃、射出圧力1600kg/cm2にてISO試験法に準じた試験片を作成し、得られた試験片を用いてISO179-1、ISO75-2に準じノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。ノッチ付きシャルピー衝撃強度が50KJ/m2以上を良好とした。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表2~表5のとおり、ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を全て満足する場合(実施例1~22)にあっては、全ての評価項目にわたり良好な結果を示した。
【0091】
一方、表6~表8で示したとおり、ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足しない場合(比較例1~15)においては、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
比較例1は、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が19000より低い場合で、衝撃強度が劣っていた。
比較例2は、シリコーン化合物の配合量が規定量より少ない場合で、難燃性が劣っていた。
比較例3は、シリコーン化合物の配合量が規定量より多い場合で、難燃性が劣っていた。
比較例4及び6は、繊維型の含フッ素ポリマーの配合量が規定量より少ない場合で、難燃性が劣っていた。
比較例5は、繊維型の含フッ素ポリマーの配合量が規定量より多い場合で、衝撃強度が劣っていた。
比較例7は、金属塩の配合量が規定量より少ない場合で、難燃性が劣っていた。
比較例8は、金属塩の配合量が規定量より多い場合で、衝撃強度が劣っていた。
比較例9は、ゴム変性(メタ)アクリル系重合体が規定量より少ない場合で、衝撃強度が劣っていた。
比較例10は、ゴム変性(メタ)アクリル系重合体が規定量より多い場合で、難燃性が劣っていた。
比較例11は、リン系酸化防止剤が規定量より少ない場合で、難燃性が劣っていた。
比較例12~比較例15は、リン系酸化防止剤が規定量より多い場合で、難燃性と衝撃強度が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物及び成形品は、優れた難燃性のみならず、高い衝撃特性を有しており、電気電子やITE機器の筐体に適しており、特に、蓄電池筐体や蓄電池の周辺部品に適している。