(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】コンクリートの発熱特性試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/20 20060101AFI20220622BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
G01N25/20 Z
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2018244975
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-07-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人土木学会、土木学会第73回年次学術講演会講演概要集、第797~798頁、平成30年8月1日 土木学会第73回年次学術講演会、平成30年8月29日 公益社団法人プレストレストコンクリート工学会、プレストレストコンクリート工学会第27回シンポジウム論文集、第543~548頁、平成30年10月 プレストレストコンクリート工学会第27回シンポジウム、平成30年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】臺 哲義
(72)【発明者】
【氏名】樋口 正典
(72)【発明者】
【氏名】大野 寛太
(72)【発明者】
【氏名】梶 貢一
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-292387(JP,A)
【文献】特開平1-313746(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/223512(US,A1)
【文献】特開平2-300662(JP,A)
【文献】特開2014-163770(JP,A)
【文献】特開2015-135257(JP,A)
【文献】特開平8-247978(JP,A)
【文献】特開平11-23504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00-25/72
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一配合のコンクリートを第1及び第2の容器に充填することと、
前記コンクリートが充填された前記第1の容器と前記第2の容器の少なくともいずれかを加温または冷却し、前記第1及び第2の容器に充填されたコンクリートを互いに異なる温度に調整することと、
前記コンクリートの温度が調整された後、前記第1の容器を前記第1の容器より熱伝達率の低い第1の保温容器に収容し、前記第2の容器を前記第2の容器より熱伝達率の低い第2の保温容器に収容することと、
前記第1の容器が前記第1の保温容器に収容された状態で、前記第1の容器に充填されたコンクリートの水和反応による発熱特性を測定し、前記第2の容器が前記第2の保温容器に収容された状態で、前記第2の容器に充填されたコンクリートの水和反応による発熱特性を測定することと、を有するコンクリートの発熱特性試験方法。
【請求項2】
前記加温または冷却は、前記第1の容器と前記第2の容器の少なくともいずれかを環境温度と異なる温度の水に浸漬することによって行われる、請求項1に記載のコンクリートの発熱特性試験方法。
【請求項3】
前記第1及び第2の容器は、前記水和反応が開始される前にそれぞれ前記第1及び第2の保温容器に収容される、請求項1または2に記載のコンクリートの発熱特性試験方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の保温容器は発泡スチロールからなる、請求項1から3のいずれか1項に記載のコンクリートの発熱特性試験方法。
【請求項5】
前記第1及び第2の保温容器は、中央領域を貫通する穴が設けられた本体部と、前記穴の長手方向中央部が前記第1及び第2の容器の収容空間となるように前記穴の両端部を塞ぐ一対の蓋部と、からなる、請求項4に記載のコンクリートの発熱特性試験方法。
【請求項6】
前記同一配合のコンクリートは同一バッチのコンクリートである、請求項1から5のいずれか1項に記載のコンクリートの発熱特性試験方法。
【請求項7】
前記第1及び第2の容器の外面に熱流センサを設置し、前記熱流センサによって前記第1及び第2の容器からの放熱量を求め、測定された発熱特性から算出されたコンクリートの積算発熱量を前記放熱量で補正する、請求項1から6のいずれか1項に記載のコンクリートの発熱特性試験方法。
【請求項8】
前記第1及び第2の容器は円筒形状を有し、3つの前記熱流センサが前記第1及び第2の容器のそれぞれに設けられ、前記3つの熱流センサは感熱部の中心位置が前記第1及び第2の容器の高さ方向中心位置と一致する高さで、周方向に120°間隔で設けられる、請求項7に記載のコンクリートの発熱特性試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリートの発熱特性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マスコンクリート構造物の施工においては、セメントの水和発熱に起因する温度ひび割れに対して、温度応力解析による事前照査が行われる。温度応力解析ではコンクリートの発熱速度が入力データとして使用される。土木学会コンクリート標準示方書(2012年制定)によれば、「コンクリートの温度解析に使用するコンクリートの発熱速度は、材齢と、場所ごとに異なるコンクリート温度を考慮してモデル化することを原則とする」とされている。このため、発熱速度は温度の関数として求められ、この関数は温度依存型水和発熱速度式とも呼ばれる。温度依存型水和発熱速度式を算出するためには温度履歴の異なる少なくとも2種類のコンクリートを対象に断熱温度上昇試験を行い、コンクリートの発熱特性を求めることが必要となる。このため、一般的には同一配合で打ち込み温度が異なるコンクリートを対象に断熱温度上昇試験を行い、その結果からコンクリートの発熱特性を求めている。
【0003】
特許文献1にはコンクリートの発熱特性を求めるための試験方法が開示されている。ヒーターが設置された格納容器の内部に、コンクリートが充填された試験槽が収容される。試験槽に充填されたコンクリートと格納容器の温度は温度計で測定される。コンクリートの水和反応の進行に従いコンクリートの温度が上昇すると、格納容器の温度がコンクリートの温度に追従するようにヒーターが作動する。これによって、コンクリートが断熱状態に保たれ、断熱温度上昇量が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法で断熱温度上昇試験を行う場合、1回の試験では1種類の試験体の断熱温度上昇量しか求めることができない。これは打ち込み温度の異なるコンクリートでは発熱特性が異なり、温度上昇パターンが異なるため、複数の試験体に対して同時に断熱状態を維持することができないためである。従って、打ち込み温度の異なる複数のコンクリートを対象に断熱温度上昇試験を行う場合、試験体の数だけ試験を行う必要があり、迅速なデータ取得の制約となっている。
【0006】
本発明は、打ち込み温度の異なる複数のコンクリートの発熱特性をより迅速に求めることができるコンクリートの発熱特性試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコンクリートの発熱特性試験方法は、同一配合のコンクリートを第1及び第2の容器に充填することと、コンクリートが充填された第1の容器と第2の容器の少なくともいずれかを加温または冷却し、第1及び第2の容器に充填されたコンクリートを互いに異なる温度に調整することと、コンクリートの温度が調整された後、第1の容器を第1の容器より熱伝達率の低い第1の保温容器に収容し、第2の容器を第2の容器より熱伝達率の低い第2の保温容器に収容することと、第1の容器が第1の保温容器に収容された状態で、第1の容器に充填されたコンクリートの水和反応による発熱特性を測定し、第2の容器が第2の保温容器に収容された状態で、第2の容器に充填されたコンクリートの水和反応による発熱特性を測定することと、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によればコンクリートの発熱特性を測定する前に、第1の容器と第2の容器の少なくともいずれかを加温または冷却することにより、第1及び第2の容器に充填されたコンクリートを互いに異なる温度に調整している。これによって打ち込み温度の異なる複数のコンクリートが模擬される。第1及び第2の容器はそれぞれ第1及び第2の保温容器に収容されるため、第1及び第2の容器に充填されたコンクリートの発熱特性を並行して測定することが可能である。従って、本発明のコンクリートの発熱特性試験方法によれば、打ち込み温度の異なる複数のコンクリートの発熱特性をより迅速に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のコンクリートの発熱特性試験方法と温度依存型水和発熱速度式の推定方法の概略フロー図である。
【
図4】温度依存型水和発熱速度式の求め方を示す説明図である。
【
図5】log
H
∞
(Q)と-E(Q)/Rの測定例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明のコンクリートの発熱特性試験方法とその結果を用いた温度依存型水和発熱速度式の推定方法の一実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るコンクリートの発熱特性試験方法と温度依存型水和発熱速度式の推定方法の概略フローを示している。本発明はあらゆるコンクリートに適用できるが、マスコンクリート構造物、特にコンクリート標準示方書にて温度ひび割れに対する温度応力解析が要求されるマスコンクリート構造物に使用されるコンクリートに好適に適用できる。
【0011】
(1)ステップ1(S1)
まず、コンクリートを所定の配合で作成する。コンクリートは施工対象のコンクリート構造物に使用されるコンクリートと同一配合、すなわちセメント、骨材、混和材、水セメント比、細骨材比、スランプ、空気量などが同じであることが望ましい。
【0012】
(2)ステップ2(S2)
次に、作成されたコンクリートを第1~第3の容器11~13に充填する。その理由については後述する。コンクリートは第1~第3の容器11~13にほぼ同量充填される。第1~第3の容器11~13はすべて同じ形状、寸法であり同一材料から形成されているため、以下の説明は第1の容器11について行う。
図2(a)は第1の容器11の斜視図、
図2(b)は
図2(a)のA-A線で切った断面図である。第1の容器11は上部が開口したブリキ製の円筒形容器であり、コンクリートの試験体を収容する収容容器としてだけでなく、コンクリートの型枠としての機能も有する。第1の容器11の寸法は、一例では直径約150mm、高さ約300mmである。第1~第3の容器11~13に充填されるコンクリート1~3は同一配合のコンクリートであることが望ましいが、同一バッチのコンクリートであることがさらに望ましい。第1~第3の容器11~13の形状は円筒形に限定されず、上下方向中心線と垂直な断面が正方形などの多角形である形状であってもよい。
【0013】
第1の容器11の外面には熱流センサHS1~HS3が設置される。熱流センサHS1~HS3は放熱面すなわち第1の容器11の外面と直交する方向に放熱される熱量密度を測定する。熱流センサHS1~HS3は熱伝導性両面テープによって第1の容器11の外面に貼り付けられる。熱流センサは1箇所だけに設けてもよいが、複数個所に設けるほうが好ましい。本実施形態では、感熱部の中心位置が第1の容器11の高さ方向中心位置と一致する高さで、周方向に120°間隔で3つの熱流センサHS1~HS3が設けられている。3つの熱流センサHS1~HS3を設けることで、一つの熱流センサが異常値を示したときに当該熱流センサが異常であるとみなし、当該熱流センサを除いた残りの2つの熱流センサの測定値だけを採用することができる。熱流センサの設置位置及び設置個数はこれに限定されず、例えば第1の容器11の底面に設置することもできる。あるいは、第1の容器11の上部開口に蓋をし、蓋に熱流センサを設置することもできる。第1の容器11の内部にはコンクリートの温度を測定する温度計Tが設置される。温度計TとしてはT型熱電対が使用される。温度計Tはアラミドロッドを用いて第1の容器11に固定される。温度計Tは好ましくは第1の容器11の径方向中心且つ高さ方向中心の位置に設置される。コンクリート1~3の温度は第1~第3の容器11~13に充填された直後から測定される。この際、充填後の経過時間も測定される。従って、コンクリート1~3の温度Tは充填後の経過時間tの関数として取得される。
【0014】
(3)ステップ3(S3)
次に、第1の容器11を加温し、第3の容器13を冷却することによって、第1~第3の容器11~13に充填されたコンクリート1~3を互いに異なる温度に調整する。第2の容器12は加温も冷却もせず、第1の容器11の加温と第3の容器13の冷却が完了するまで環境温度下で保管する。加温及び冷却の温度は特に限定されないが、水和反応が開始される前にコンクリート内部までの加温及び冷却を終了させるため、あまり大きな温度差を付けることは好ましくない。また、温度差が小さいとコンクリートの発熱特性の測定精度が低下するため、互いの温度差は5~15℃程度とするのが好ましい。例えば、温度差が10℃で環境温度が20℃である場合、第1の容器11に充填されたコンクリート1の温度は30℃、第2の容器12に充填されたコンクリート2の温度は20℃、第3の容器13に充填されたコンクリート3の温度は10℃とすることができる。第1の容器11に充填されたコンクリート1と第3の容器13に充填されたコンクリート3はそれぞれ全域で一定温度となるように調整される。通常、第1及び第3の容器11,13の中心部の温度変化が最も緩慢であるため、コンクリート1,3の全域が所定の温度に調整されたことは、第1及び第3の容器11,13の中心部の温度を測定する温度計Tの測定値から確認することができる。なお、一旦所定の温度に調整された後は、第1の容器11内のコンクリート温度はほぼ均一である。第1~第3の容器11~13に充填されたコンクリート1~3が互いに異なる温度となるように調整される限り、冷却と加熱の組み合わせは特に限定されない。例えば、第1の容器11と第2の容器12を加温し、第3の容器13を冷却してもよいし、第1の容器11と第2の容器12を加温し、第3の容器13は加熱も冷却もせず環境温度下で保管してもよい。すなわち、コンクリートが充填された第1~第3の容器11~13の少なくともいずれか2つを加温または冷却すればよい。
【0015】
第1の容器11の加温は環境温度より温度の高い温水、具体的には目標温度と同じ温度の温水に第1の容器11を浸漬することによって行われる。例えば第1の容器11に充填されたコンクリート1の温度を30℃に調整する場合、温水の温度は30℃とする。加温方法は限定されないが、水槽21に水を張り、水槽21の水を投込み式ヒーター(図示せず)で所定の温度まで加温する方法が挙げられる。この際、温度自動調整機能がついた投込み式ヒーターを用いることが好ましい。第3の容器13の冷却は環境温度より温度の低い冷水に第3の容器13を浸漬することによって行われる。冷却方法も限定されないが、水槽23に水を張り、水槽23の水を投込み式クーラー(図示せず)で所定の温度まで冷却する方法が挙げられる。例えば第3の容器13に充填されたコンクリート3の温度を10℃に調整する場合、冷水の温度は10℃とする。なお、局所的な過冷却による冷水の凍結防止のため、水槽23の内部に水循環用のポンプ(図示せず)を設けてもよい。このように、第1の容器11の加温と第3の容器13の冷却は環境温度と異なる温度の水にそれぞれの容器を浸漬することによって行われる。なお、水による加温及び冷却が最も簡便で現場での作業に適しているが、恒温槽に容器を入れて加温及び冷却を行うこともできる。
【0016】
(4)ステップ4(S4)
以上のようにしてコンクリートの温度が調整された第1~第3の容器11~13はそれぞれ第1~第3の保温容器31~33に収容される。第1~第3の保温容器31~33はすべて同じ形状、寸法であり同一材料から形成されているため、以下の説明は第1の保温容器31について行う。
図3(a)は第1の保温容器31の側面図、
図3(b)は
図3(a)のA-A線で切った断面図である。第1の保温容器31は発泡スチロールからなる中空の容器である。具体的には、円筒形形状の発泡スチロールの塊に径方向中央領域314を貫通する円筒形状の穴315をあける。次に穴315のあいた発泡スチロールの塊を反転させ、くり抜いた円筒部を長さ方向に3分割し、3分割した円筒部のうち下側にあった部分312Bを元の位置に戻す。次に、発泡スチロールの塊を再度反転させ、穴315の部分312Bと反対側の開口から穴315に第1の容器11を挿入する。次に、3分割した円筒部のうち上側にあった部分312Aを元の位置に戻す。従って、第1の保温容器31は、中央領域314を貫通する穴315が設けられた本体部311と、穴315の長手方向中央部が第1の容器11の収容空間313となるように穴315の両端部を塞ぐ一対の蓋部312A,312Bとからなる。収容空間313の径は第1の容器11の径より10~20mm程度大きいことが好ましく、収容空間313の上下方向高さは第1の容器11の上下方向高さより20~30mm程度大きいことが好ましい。保温性能が全方向にできるだけ均等に得られるように、収容空間313の上下方向中心線は第1の保温容器31の上下方向中心線と一致し、且つ収容空間313の上下方向中心位置は第1の保温容器31の上下方向中心位置と一致するのが好ましい。第1の保温容器31の材料は第1の容器11より熱伝達率が低い限り限定されず、グラスウール、ロックウール、ウレタンなど一定の保温性能を有する材料を用いることもできる。
【0017】
第1~第3の容器11~13は、水和反応が開始される前にそれぞれ第1~第3の保温容器31~33に収容される。第1の容器11の直径が約150mm、高さが約300mmの場合、20℃の外気温度の条件で10℃の温度差で加温及び冷却をするのに必要な時間は概ね1~2時間であった。また、第1~第3の容器11~13の第1~第3の保温容器31~33への収容はごく短時間で完了する。一方、コンクリートを練り終わってから3時間後にはコンクリートの温度はほとんど上昇しておらず、この時点でコンクリートの水和反応はまだ開始されていないと考えられる。従って、水和反応が開始される前に第1~第3の容器11~13にコンクリートを充填し、所定の温度に調整し、第1~第3の容器11~13を第1~第3の保温容器31~33に収容する時間的な余裕は十分に確保されている。
【0018】
(5)ステップ5(S5)
第1~第3の容器11~13はそれぞれ第1~第3の保温容器31~33に収容された状態に維持される。この間にコンクリート1~3の水和反応が開始され、コンクリート1~3が発熱する。第1~第3の保温容器31~33の中央に設置してある温度計Tで第1~第3の容器11~13に充填されているコンクリート1~3の温度が測定される。水和反応はほぼ均一に生じるため、コンクリート1~3の温度は全域でほぼ一定である。また、熱流センサHS1~HS3によって第1~第3の容器11~13からの放熱量Qdが測定される。放熱量Qdは例えば、熱流センサHS1~HS3で測定された熱流密度(単位時間に単位面積を横切る熱量)の平均値×容器11~13の表面積×時間として求めることができる。必要に応じ、外気温も測定される。
【0019】
(6)ステップ6(S6)
次に、以上のステップで求められた測定値を用いて温度依存型水和発熱速度式の推定を行う。
【0020】
温度依存型水和発熱速度式は以下のように表すことができる。
【0021】
【0022】
ここで、
H:単位重量当たりのセメントの水和発熱速度
Q:単位重量当たりのセメントの積算発熱量
H
∞
(Q):限界水和発熱速度(Q)
-E(Q)/R:セメントの温度活性
logH
∞
(Q)と-E(Q)/Rは測定値より求められる。具体的な手順は以下のとおりである。
【0023】
まず、試験結果より、第1~第3のコンクリート1~3をそれぞれ第1~第3の容器11~13に充填してからの経過時間tと、第1~第3のコンクリート1~3の温度上昇値ΔTとの関係を求める(
図4(a))。温度上昇値ΔTはステップ3で調整されたコンクリート温度との差分である。例えば、第1のコンクリート1の温度が30℃に調整された場合、第1のコンクリート1の温度上昇値ΔTは30℃に対する増分として求められる。図中の3つのグラフは第1~第3のコンクリート1~3に対する経過時間tと温度上昇値ΔTとの関係を示している。
【0024】
次に、温度上昇値ΔTと放熱量Qdから、経過時間tと積算発熱量Qの関係を求める(
図4(b))。積算発熱量Qは以下の式から求められる。
Q=cρΔT/C
*+Qd/C
*/V (式2)
ここで、
c:コンクリートの比熱
ρ:コンクリートの密度
C
*:単位セメント量
V:容器11~13の容積
第1~第3の保温容器31~33は完全な断熱容器ではないため、若干の放熱がある。従って、cρΔT/C
*をQdで補正することで(cρΔT/C
*にQdを加算することで)実際の積算発熱量Qを推定することができる。
【0025】
次に、温度上昇値ΔTと放熱量Qdから、経過時間tと発熱速度
Hとの関係を求める(
図4(c))。発熱速度
Hは以下の式から求められる。
【0026】
【0027】
次に、
図4(b)と
図4(c)から積算発熱量Qと発熱速度
Hの関係を求める(
図4(d))。この際、各積算発熱量Q1、Q2、・・に対する第1~第3のコンクリート1~3の温度T1~T3が
図4(a)と
図4(b)から求められる。
【0028】
次に、
図4(d)で求めた温度T1~T3と発熱速度
Hの関係を求める(
図4(e))。温度T1~T3は絶対温度として処理される。
図4(e)において、横軸は絶対温度の逆数(1/T)、縦軸は発熱速度
Hの対数log(
H)である。1/T1,1/T2,1/T3におけるlog(
H)を複数の積算発熱量Q1、Q2、・・に対してプロットし、各積算発熱量Q1、Q2、・・に対しlog(
H)の回帰直線を求める。このようにして求めた回帰直線の傾きが-E/Rであり、縦軸との交点がlog
H
∞
となる。
【0029】
これより、log
H
∞
(Q)と-E(Q)/Rの算出のためには互いに打ち込み温度が異なる少なくとも2つのコンクリートを用いる必要があることがわかる。これがステップ2(S2)で複数の容器にコンクリートを充填する理由である。打ち込み温度の異なるコンクリートの数が増えるほど
図4(e)におけるプロット数が増えるため、回帰直線の算定精度が高まる。本実施形態では、回帰直線の算定精度を確保するため、互いに打ち込み温度が異なる3つのコンクリート1~3を用いている。
【0030】
次に本実施形態の効果について述べる。上述のように、logH
∞
(Q)と-E(Q)/Rを求めるためには、打ち込み温度が互いに異なる少なくとも2種類のコンクリートを用いた断熱温度上昇試験を行う必要がある。また、打ち込み温度が互いに異なるコンクリートの数が多いほどlogH
∞
(Q)と-E(Q)/Rの算定精度は向上する。従来の積算発熱量Qを求める方法としては、例えば背景技術で述べたように、格納容器の温度がコンクリートの温度に追随するようにヒーターを作動させ、コンクリートを断熱状態に保つ方法が知られている。しかしこの方法は、前述のとおり1回に1つの試験体の試験しかできず、打ち込み温度の異なる複数の試験体の積算発熱量を求めるためには試験体の種類の数だけ試験を行う必要がある。また、この方法は断熱状態を保ちながら測定することが可能なため測定精度は高いが、装置が大型且つ高価である。従って、試験機関や研究所での使用には適しているが、生コン工場や現場での使用には適していない。これに対して本実施形態によれば、同一組成のコンクリートを複数の容器に分割して充填し、その後冷却または加温によって温度調整をし、これによって、互いに異なる打ち込み温度で作成されたコンクリートを簡易的に模擬している。冷却及び加温は別々の水槽を使うことによって同時に行うことができ、さらに温度測定も複数の試験体で同時に行うことができるため、従来と比べて迅速な測定が可能である。しかも、試験体の数が増えても容器の数を増やすことで対応できるため、測定精度を上げることが容易である。使用する機材は容器、発泡スチロールの保温容器、加温、冷却用の水槽などであり、安価且つ容易に調達可能なものであり、しかも大きな設置場所を必要としない。さらに、従来の方法では打ち込み温度の異なる複数の試験体の試験を行う際にその都度コンクリートの作成が必要となるが、本実施形態は同一バッチのコンクリートを使用することができるため、試験体の同一性という点でも有利である。
【0031】
また、本実施形態では放熱量Qdの測定に熱流センサHS1~HS3を用いているため、放熱量Qdを簡便に測定できるという特徴がある。例えば、放熱量Qdを求めるために、発泡スチロールの保温容器の中に試験体を入れて試験を実施した後、保温容器の熱伝達率を測定することも考えられる。具体的には試験体の試験終了後、試験体を保温容器から一旦取り出し、試験体を高温(例えば80℃)まで加熱し、保温容器に戻した後、恒温槽(例えば20℃)に入れ、試験体の温度降下量を測定することによって放熱量Qdを求めることができる。しかし、この方法は手間が掛かるだけでなく、恒温槽を必要とし、現場での作業には適していない。さらに、この方法はlog
H
∞
(Q)と-E(Q)/Rの算定精度がコンクリートの種類によってばらつく傾向がある。
図5にはQと-E/Rの関係及びQとlog
H
∞
の関係を示している。
図5(a)は早強ポルトランドセメントを用いた場合の-E/Rを、
図5(b)は普通ポルトランドセメントを用いた場合の-E/Rを、
図5(c)は高炉セメントB種を用いた場合の-E/Rを、
図5(d)は早強ポルトランドセメントを用いた場合のlog
H
∞
を、
図5(e)は普通ポルトランドセメントを用いた場合のlog
H
∞
を、
図5(f)は高炉セメントB種を用いた場合のlog
H
∞
の一例を示している。図中の「熱流密度」は本実施形態の熱流センサによって測定された熱流密度で放熱量Qdを算定した場合を、「熱伝導率」は上述の方法で保温容器の熱伝達率を求め、これより放熱量Qdを算定した場合を示している。早強ポルトランドセメントを用いた場合(
図5(a),(d))の-E/Rとlog
H
∞
は、両者で比較的一致しているが、普通ポルトランドセメントを用いた場合(
図5(b),(e))は差が生じ、高炉セメントB種を用いた場合(
図5(c),(f))はさらに差が拡大している。熱流センサHS1~HS3を用いる方法は熱流密度を用いているため、放熱量Qdの測定精度が高い。
【符号の説明】
【0032】
1~3 コンクリート
11~13 第1~第3の容器
21,23 水槽
31~33 第1~第3の保温容器
HS1~HS3 熱流センサ
T 温度計