(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】コロナ放電処理面に抗菌性の被覆層を有する食品容器、成型用シート、フィルムとその応用
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20220622BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20220622BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20220622BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20220622BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220622BHJP
B05D 3/04 20060101ALI20220622BHJP
B05D 7/04 20060101ALI20220622BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220622BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220622BHJP
B65D 81/28 20060101ALI20220622BHJP
B65D 85/50 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
B32B27/36
A01N25/10
A01N25/30
A01N25/34 A
A01P3/00
B05D3/04 C
B05D7/04
B05D7/24 302C
B05D7/24 303E
B32B27/00 H
B65D81/28 Z
B65D85/50 100
(21)【出願番号】P 2019098591
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2021-10-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000111133
【氏名又は名称】ニッポー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】新井 義信
(72)【発明者】
【氏名】増田 浩典
(72)【発明者】
【氏名】南雲 恵一
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/044321(WO,A1)
【文献】特開2002-194324(JP,A)
【文献】特開昭62-025962(JP,A)
【文献】特表2015-517827(JP,A)
【文献】特表2012-515726(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0001582(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
B65D 81/00-85/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレー
トを基材とする、シート、容器または包装フィルムであって、
少なくとも一部の表面が、
コロナ放電処理され、さらに
0.40mg/m
2
以上のプロタミンまたはその塩
、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルからなる層で被覆されている、
シート、容器または包装フィルム。
【請求項2】
食品包装材として許容される材料を基材とする、シート、容器または包装フィルムであって、
少なくとも一部の表面が、
コロナ放電処理され、さらに
抗菌性成分としてプロタミンまたはその塩
のみを含む層で被覆されている、
シート、容器または包装フィルム。
【請求項3】
プロタミンまたはその塩を含む層がさらに乳化剤を含む、請求
項2に記載の、シート、容器または包装フィルム。
【請求項4】
乳化剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、またはサポニンからなる群より選択されるいずれかである、請求項3に記載の、シート、容器または包装フィルム。
【請求項5】
基材が、ポリエチレンテレフタレートである、請求項
2~4のいずれか1項に記載の、シート、容器または包装フィルム。
【請求項6】
ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリスチレンを基材とする、原反シートまたはフィルムの少なくとも一方の表面に、コロナ放電処理する工程;
コロナ放電処理した表面を、
抗菌性成分としてプロタミンまたはその塩
のみを含む水溶液で被覆する工程;ならびに
水溶液が塗布された原反シートまたはフィルムを、乾燥する工程
を含む、シート、容器または包装フィルムの、製造方法。
【請求項7】
食品包装材として許容される材料を基材とする、原反シートまたはフィルムの少なくとも一方の表面に、コロナ放電処理する工程;
コロナ放電処理した表面を、
抗菌性成分としてプロタミンまたはその塩
のみを含む水溶液で被覆する工程;ならびに
水溶液が塗布された原反シートまたはフィルムを、乾燥する工程
を含む、シート、容器または包装フィルムの、製造方法。
【請求項8】
プロタミンまたはその塩を含む水溶液が、乳化剤を含む、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品容器または食品包装フィルムに関し、より詳細には、抗菌性を有する食品容器または食品包装フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プロタミン(しらこたん白抽出物、しらこたん白、しらこ分解物、核蛋白ということもある。)は、魚類の精巣から抽出され、塩基性アミノ酸であるアルギニンを多く含む、塩基性の比較的低分子のタンパク質である。プロタミンは、細菌類の他、カビ、酵母などの真菌類にも有効であり、広い抗菌性を有していることが知られている。プロタミンは、食品添加物として、食品の保存性を高めるために食品に添加して使用されている。
【0003】
プロタミンの抗菌性を食品以外に応用することも検討されている。例えば、特許文献1は、カチオン性ポリペプチドを含有する水溶液に繊維製品を浸漬する工程を含む、繊維製品の制菌加工方法であって、前記水溶液のカチオン性ポリペプチド濃度が250ppm以上であり、前記水溶液の液温が25℃以上であり、前記浸漬時間が20分以上であることを特徴とする、繊維製品の制菌加工方法を提案する。カチオン性ポリペプチドとしては、ε-ポリリジンおよびプロタミンを用いることを提案するが、実際にプロタミンを用いた実験結果は示されていない。また特許文献2は、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)にプロタミンシリカを混入し、金型で成型したことを特徴とする抗菌性のマウスピースを提案する。
【0004】
抗菌性を示すポリペプチドとしてはプロタミン以外に、ポリリジン、ナイシン等があり、これらを包装に応用した例としては、特許文献3~5がある。
【0005】
本発明者らは、食品容器または食品包装フィルムの表面を、安全性の高い抗菌剤で抗菌処理することにより、スポンジケーキなどの半生菓子の日持ちを向上させる容器の開発を検討してきた。そして種々の抗菌剤の中からプロタミンに着目し、それにより食品容器または食品包装フィルムの基材として汎用なポリプロピレン等の樹脂表面を被覆する方法を検討してきた(特許文献7、本出願の時点では未公開)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-127243号公報
【文献】特開2016-174890号公報
【文献】特開2002-194324号公報
【文献】特開2002-96825号公報
【文献】特表2015-517827号公報
【文献】特願2017-228104(本出願時には未公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らの検討によると、プロタミンまたはその塩を含む水溶液を材料表面に塗布しようとすると、通常の食品包装材として許容される基材の多くが濡れ性に劣るために、塗布することが非常に困難であることが分かった。またこの点を改善するために、プロタミンまたはその塩を含む水溶液に食品として許容される乳化剤を含有させることを試みたが、塗布性は改善されるものの、乾燥後に形成された層が白濁して見えるという外観上の難点が生じた。さらに乾燥した層が剥離しやすく、この点は食品容器成型用シートであれば、熱成型の際に改善されうることが分かったが、シートの状態では剥離した粉塵が飛散するなど、工場内では非常に扱いにくい材料となった(
図1~3)。
【0008】
プロタミンまたはその塩を用い、上記のような不都合な点が改善された、食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムが得られれば望ましいことはいうまでもない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、当初、被覆した層が剥離しやすいのは、シートが生乾きの状態であり、容器成型時に剥離すると考え、シートの乾燥炉の温度を引き上げることを試みたが、シート幅が収縮する一方で、表面の白濁は変わらなかった。そこで、乾燥炉の温度を通常の温度に戻し、シートにコロナ放電処理を行ってみたところ、特定の条件でコロナ放電処理することにより、剥離せずにプロタミンまたはその塩を含む被覆層が密着した透明なシートを製造することができ、またシートは抗菌性が十分にあり、かつシートからの抗菌剤の溶出が少ないことを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下を提供する。
[1] 食品包装材として許容されるポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリスチレンを基材とする、食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムであって、
少なくとも一部の表面が、
コロナ放電処理され、さらに
0.40mg/m2以上のプロタミンまたはその塩、および0.97mg/m2以上の食品添加物として許容される乳化剤を含む層で被覆されている、
食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルム。
[2] 食品添加物として許容される乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、またはサポニンからなる群より選択されるいずれかである、1に記載の、食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルム。
[3] 基材が、ポリエチレンテレフタレートである、1または2に記載の、食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルム。
[4] 使い捨て用である、1~3のいずれか1項に記載の食品容器または食品包装フィルム。
[5] 1~4のいずれか1項に記載の食品容器または食品包装フィルムを用いた、食品包装体。
[6] ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリスチレンを基材とする、原反シートまたはフィルムの少なくとも一方の表面に、コロナ放電処理する工程;
コロナ放電処理した表面に、プロタミンまたはその塩、および食品として許容される乳化剤を含む水溶液を塗布する工程;ならびに
水溶液が塗布された原反シートまたはフィルムを、乾燥する工程
を含む、1~4のいずれか1項に記載の食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムの、製造方法。
[7] 食品包装材として許容されるポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリスチレンを基材とする、食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムであって、
少なくとも一部の表面が、
コロナ放電処理され、さらに
プロタミンまたはその塩を含む層で被覆されている、
食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルム。
[8] ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリスチレンを基材とする、原反シートまたはフィルムの少なくとも一方の表面に、コロナ放電処理する工程;
コロナ放電処理した表面に、プロタミンまたはその塩を含む水溶液を塗布する工程;ならびに
水溶液が塗布された原反シートまたはフィルムを、乾燥する工程
を含む、請求項7に記載の食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムの、製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法より、銀、銅、亜鉛等の金属化合物を使用することなく、既に食品保存料として使用されている成分で、食品容器または食品包装フィルムの表面を被覆することができる。練り込み方式とは異なり、食品容器または食品包装フィルムの強度を低下させることなく、またより少ない量で抗菌活性を付与することができる。
【0012】
本発明により、従来、強度やコストの問題から実用化が見送られていた、汎用プラスチックを基材とする使い捨ての食品容器または食品包装フィルム容器への抗菌性能の付与が実現できる。また本発明による食品容器または食品包装フィルムに抗菌性を付与する方法は、汎用プラスチック以外の基材への応用が期待できる。
【0013】
本発明の食品容器または食品包装フィルムにより、食品をより長期間、微生物学的に清浄に保つことができる。
【0014】
本発明により、プロタミンまたはその塩を含む被覆層を有する食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムにおいて、剥離せずにプロタミンまたはその塩を含む被覆層が密着した透明なシートを製造することができる。シートからの抗菌剤の溶出を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】工場内写真。硫酸プロタミンおよび乳化剤を含む水溶液を塗工し、乾燥させて得た食品容器成型用シート(コロナ放電処理なし)からは、製造装置へ硫酸プロタミンが移行する。
【
図2】硫酸プロタミンおよび乳化剤を含む水溶液を塗工し、乾燥させて得た食品容器成型用シート(コロナ放電処理なし)の一部の写真。均一に塗工されない場合がある。
【
図3】硫酸プロタミンおよび乳化剤を含む水溶液を塗工し、乾燥させて得た食品容器成型用シート(コロナ放電処理なし)を巻き取ったロールの写真。被覆層がシートから剥離し、脱落する。
【
図4】本発明の抗菌シート(コロナ放電処理あり)の例の写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルム]
本発明は、食品包装材として許容される材料を基材とする、食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムであって、少なくとも一部の表面が、抗菌上有効量の保存料を含む層で被覆されている、食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムを提供する。
【0017】
(プロタミンまたはその塩)
本発明のシート、容器またはフィルムの被覆層は、プロタミンまたはその塩を含有する。
プロタミン(protamine)は、しらこたん白抽出物、しらこたん白、しらこ分解物、核蛋白と称されることもあるが、魚類の成熟精巣から抽出される、塩基性アミノ酸を多く含む分子量3000~10000のタンパク質である。アミノ酸組成に占めるアルギニン含量は約70%(モル%)である。プロタミンは、サケ由来のSalmin、二シン由来のClupeine、チョウザメ由来のSturine、サバ由来のScombrine、ボラ由来のMugiline、ニジマス由来のIridine、マガツオ由来のGlymosine等の総称である。本発明においては、食品添加物として許容されるものであれば、いずれであっても用いることができる。
【0018】
プロタミンは水溶性である。また塩基性であるため、各種の酸と塩を形成する。本発明には、食品添加物として許容されるプロタミンまたはプロタミンの塩を用いることができる。プロタミンの塩には、硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、ギ酸塩、トリクロロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、メシチレンスルホン酸塩およびナフタレンスルホン酸塩が含まれる。本発明においては、水への溶解度が比較的高く、食品添加物(保存料)としてすでに広く用いられているとの観点からは、硫酸プロタミンを用いることが好ましい。
【0019】
プロタミンまたはその塩は、いずれかを単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。またプロタミンまたはその塩は、食品添加物として許容されるグレードのものが市販されており、入手可能である。
【0020】
プロタミンまたはその塩は、抗菌上有効量で、本発明により提供される食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルム(以下、「製品」ということもある。)の少なくとも一部の表面を、抗菌上有効量で被覆している。抗菌上有効量とは、下方で説明する抗菌力を評価する試験方法により、抗菌力があると評価できる量をいう。抗菌上有効量は、当業者であれば、用いる抗菌性成分、対象となる菌、食品が保存される環境、保存期間等に応じて適宜決定できるが、本発明者らの検討によると、硫酸プロタミンの0.2%水溶液を約0.972g/m2で(硫酸プロタミン量として、1.944mg/m2と計算される。)塗布した場合に十分な効果が得られたことから、抗菌上有効量は、0.40mg/m2以上であり、好ましくは0.80mg/m2以上であり、より好ましくは1.4mg/m2以上であり、さらに好ましくは1.8mg/m2以上である。被覆層における抗菌成分の量は、被覆層からその成分を抽出して測定することができるが、製品表面に塗布する水溶液における抗菌成分の濃度および塗布量から、計算することもできる。
【0021】
(コロナ放電処理)
本発明により提供される製品の少なくとも一方の表面は、コロナ放電処理されている。コロナ放電処理工程については、後述する。
【0022】
(乳化剤等)
本発明により提供される製品の表面の被覆層は、プロタミンまたはその塩以外の他の成分、例えば、後述するように、プロタミン等の水溶液を塗布することにより被覆層を形成する際に、水溶液の塗布を補助する成分を含んでいてもよい。塗布を補助する成分の例は、界面活性剤のうち、乳化剤、界面活性低下剤、消泡剤、剥離剤、または防曇剤として用いられている成分である。
【0023】
好ましい態様においては、被覆層は、食品添加物として許容される乳化剤を含む。食品添加物として許容される乳化剤として、食品衛生法による食品添加物表示において「乳化剤」と用途名表示される対象となる物質を用いることができる。このような乳化剤の具体例として、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、サポニンを例示できる。本発明により提供される製品の表面の被覆層に含まれる、プロタミン等以外の成分は、いずれかを単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。各種の乳化剤はいずれも、食品、化粧品、または医薬への添加剤として許容されるグレードのものが市販されており、入手可能である。
【0024】
本発明者らの検討によると、様々な乳化剤が、プロタミンまたはその塩の水溶液の塗布を補助するために利用できることがわかっている。例えば、以下の成分については、実験により、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリスチレンの表面へ、プロタミンまたはその塩の水溶液の塗布を補助するために利用できることが確認されている。
非イオン性界面活性剤に分類される、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(具体的には、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンオレイン酸エステル(ポリソルベート80)、テトラオレイン酸ソルベス-40、テトラオレイン酸ソルベス-60);ポリグリセリン脂肪酸エステル(具体的には、ラウリン酸ポリグリセリル-6、ラウリン酸ポリグリセリル-10、ミリスチン酸ポリグリセリル-10、オレイン酸ポリグリセリル-10、ジステアリン酸ポリグリセリル);ショ糖脂肪酸エステル(具体的には、ラウリン酸スクロース、ステアリン酸スクロース)ポリオキシエチレン硬化ひまし油(具体的には、PEG-20 水添ひまし油、PEG-40 水添ひまし油、PEG-50 水添ひまし油、PEG-60 水添ひまし油);ポリオキシエチレンアルキルエーテル(具体的には、ラウレス-4、ラウレス-9、セテス-10、セテス-15);
両性界面活性剤に分類される、レシチンおよびレシチン誘導体(具体的には、水添レシチン)、酢酸ベタイン型両性界面活性剤(具体的には、コカミドプロピルベタイン);イミダゾリン型両性界面活性剤(具体的には、ココアンホ酢酸Na);
カチオン性界面活性剤に分類される、アルキルアンモニウム塩(具体的には、ベンザルコニウムクロリド、ステアルトリモニウムクロリド、ベヘントリウムクロリド);
アニオン性界面活性剤に分類される、N-アシルタウリン塩(具体的には、ココイルメチルタウリンNa、ステアロイルメチルタウリンNa)
【0025】
乳化剤のうち、特に好ましい例の一つは、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、より具体的には、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンオレイン酸エステル(ポリソルベート80)である。
【0026】
乳化剤の被覆層における量は、当業者であれば、用いる抗菌性成分等に応じて適宜決定できる。本発明者らの検討によると、硫酸プロタミンの塗布を補助するとの観点からは、乳化剤は、例えば0.97mg/m2以上とすることができ、1.3mg/m2以上であることが好ましく、1.8mg/m2以上であることがより好ましく、3.6mg/m2以上であることがさらに好ましい。被覆層における成分の量は、被覆層からその成分を抽出して測定することができるが、後述するように、製品表面に塗布する水溶液における成分の濃度および塗布量から、計算することができる。
【0027】
(食品包装材として許容される材料)
本発明によって提供される製品等の材料は、食品包装材として許容される材料である。このような材料の例は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリスチレンである。なお本発明に関してポリスチレンというときは、スチレンおよびその誘導体を主体とする重合体をいい、発泡ポリスチレン、スチレンブタジエンブロック共重合体、スチレンイソプレンブロック共重合体を含まない。
【0028】
本発明の食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムは、特に好ましい態様においては、基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)が用いられる。本明細書においては、本発明を、このような好ましい態様を例に説明することがあるが、当業者であれば、その説明を、他の基材を用いる場合にも当てはめて理解することができる。
【0029】
(用途、その他)
本発明の食品容器成型用シートは、食品容器を成型するために特に好適に用いることができる。本発明により提供される食品容器、または食品包装フィルムにより食品を包装すれば、表面の抗菌上有効量の保存料を含む層に含まれるプロタミン等の成分が、食品と接触することにより食品に対して抗菌力を発揮し、食品の保存性を高めることができる。したがって、本発明により提供される食品容器または食品包装フィルムは、製造後、一定時間が経過した後に食されるものに適している。このような食品の例としては、弁当、中食用の惣菜、集団給食用の惣菜、土産物の菓子等の加工食品が挙げられる。
【0030】
また本発明により提供される食品容器、または食品包装フィルムは、使い捨てのものとして用いるのに適している。
【0031】
[製造方法]
本発明はまた、下記の工程を含む、食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムの製造方法を提供する:
ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリスチレンを基材とする、原反シートまたはフィルムの少なくとも一方の表面に、コロナ放電処理し、
コロナ放電処理された表面に、プロタミンまたはその塩を含む水溶液を塗布し、そして
水溶液が塗布された原反シートまたはフィルムを、乾燥する
【0032】
(コロナ放電処理工程)
コロナ放電処理では、電極および対極ロールを備えるコロナ放電処理装置を用い、前記電極と前記対極ロールとの間に基材を通し、これらの間に高周波の高電圧を印加する。高周波の高電圧の印加によって、コロナ放電が生じる。
【0033】
本発明において、コロナ放電処理に使用される前記電極は、金属棒を誘電体で被覆した誘電体被覆電極である。金属棒としては、アルミニウム棒、ステンレス棒等が挙げられ、誘電体としては、セラミック、クオーツ等が挙げられる。誘電体被覆電極の中でも、導電性高分子分散液の濡れ性、帯電防止性塗膜の耐水性および耐溶剤性がより高くなることから、アルミニウム棒をセラミックで被覆した誘電体被覆電極が好ましい。
【0034】
対極ロールは、基材が巻き掛けられるロールであり、安定かつ均一にコロナ放電処理が施されるように、前記電極に対して任意の間隔で設置されるロールである。対極ロールとしては、アルミニウム、ステンレス等の金属製ロールに、セラミック、シリコーンゴム、エチレン・プロピレン・共役ジエン共重合体ゴム(EPTゴム)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等がライニングされているロールや、クロムなどのメッキが施されたロールが用いられる。これらの中でも、パーティクル汚染やケミカル汚染を考慮すると、クロムメッキのステンレスロールが適している。
【0035】
電極と対極ロールとの間隔は1~3mmであることが好ましく、1.5~2.5mmであることがより好ましい。電極と対極ロールとの間隔がこの範囲であれば、処理ムラが起こりにくくなって塗膜が均一になりやすく、また、電極との接触による基材の傷付きを防止できる。
【0036】
コロナ放電処理における放電量は、当業者であれば、用いる基材に応じて適宜設定できる。例えば、基材がポリエチレンテレフタレートの場合、10~30W・分/m2とすることができ、基材が高密度ポリエチレン(High Density Polyethylene、HDPE)の場合、10~60W・分/m2とすることができ、基材がリニアポリエチレン(Linear Low Density Polyethylene、LLDPE)の場合、20~80W・分/m2とすることができ、基材が二軸延伸ポリプロピレン(Oriented Polypropylene、OPP)の場合、10~100W・分/m2とすることができ、基材が低密度ポリエチレン(Low Density Polyethylene、LDPE)の場合、10~80W・分/m2とすることができる。
【0037】
放電量を前記の範囲とすることにより、基材の表面をプロタミンまたはその塩を含む水溶液によって充分に濡らすことができ、またプロタミンまたはその塩を含む被覆層との密着性を向上させることができる。また、基材の表面に傷が付くことを防止できる。
【0038】
本発明者らの検討によると、基材の表面にコロナ放電処理することにより、硫酸プロタミンまたはその塩がブリードアウトすることを抑制できる。一般には、コロナ放電処理は、帯電防止性塗膜との密着性を向上させず、むしろ後退させると考えられている。コロナ放電処理により硫酸プロタミンまたはその塩の基材への密着性が向上することを開示するのは、本願が初めてである。
【0039】
コロナ放電処理は、空気雰囲気下、窒素ガス雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、窒素と酸素の混合ガス雰囲気下等で行うことができる。これらのうちでも、生産コストが低いことから、空気雰囲気下で行うことが好ましい。
【0040】
コロナ放電処理における放電の周波数は5~50kHzであることが好ましく、20~45kHzであることがより好ましい。周波数が前記下限値以上であれば、コロナ放電処理の均一性が向上し、処理ムラを抑制できる。一方、周波数が前記上限値以下であれば、低出力でコロナ放電処理する場合でも安定に処理できる。
【0041】
本発明者らの検討によると、基材がポリエチレンテレフタレートシートの場合、コロナ放電処理を電圧85Vで行った場合に、硫酸プロタミンおよび乳化剤を含む水溶液を塗布し、乾燥させたシートが透明になった。そして、180Vの最大まで電圧を上げても顕著な変化は確認できなかった。したがって、透明なシートを得るとの観点からは、コロナ放電処理の電圧は85V以上とすればよい。またコロナ放電処理を93Vで行い、このとき電流 8.51A、放電電極長 1.150mm、シート送り速度 22.50m/分とすると、放電量は30.59W・分/m2と計算される。本発明者らの知見によると、放電量5~15W・分/m2で濡れ張力が49~54mN/mと急激に上昇する。そのため、プロタミンまたはその塩を含む被覆層をポリエチレンテレフタレートシートに固着するとの観点からは、比較的大きな電圧を印加するとよいと考えられる。
【0042】
(塗布工程)
続く工程では、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリスチレンを基材とする原反シートのコロナ放電処理された表面に、プロタミンまたはその塩を含む水溶液が塗布される。溶液におけるプロタミン等の濃度は、製造される食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムにおける抗菌力を考慮して決定することができる。具体的には、プロタミンまたはその塩の濃度(複数種類を用いる場合は、合計の濃度)は、例えば0.040%以上とすることができ、0.050%以上としてもよく、0.10%以上とすることが好ましく、0.20%以上とすることがより好ましく、0.50%とすることがさらに好ましい。なお、本発明に関し、成分の濃度を%で表すときは、特に記載した場合を除き、溶液の体積(mL)あたりの溶質の質量(g)×100(重量/体積:w/v%)で計算された値である。
【0043】
溶液は、基剤表面に溶液を均一に塗布するために、乳化剤を含んでいてもよい。乳化剤の濃度は、用いる基剤の種類や表面の性質にも拠るが、0.10%以上とすることができ、0.20%以上とすることが好ましい。多くの材料において、十分な濡れ性を確保するとの観点からは、0.30%以上とすることがより好ましく、0.50%以上とすることがさらに好ましい。
【0044】
溶液の基剤表面への塗布量は、製造される食品容器成型用シート、食品容器または食品包装フィルムにおいて、抗菌上有効量のプロタミン等が含まれるように、溶液中のプロタミン等の濃度を考慮して決定することができる。例えば、硫酸プロタミンの0.2%水溶液を用いる場合は、塗布量は0.20g/m2以上とすることができ、好ましくは0.30g/m2以上であり、より好ましくは0.40g/m2以上であり、さらに好ましくは0.70g/m2以上であり、さらに好ましくは0.90g/m2以上である。
【0045】
塗布方法は、特に制限されず、例えば、ディッピング法、ロールコーター、グラビアコーター、を用いた方法、スプレー加工、刷毛塗り等がある。
【0046】
(乾燥工程)
続く工程では、水溶液が塗布された原反シートまたはフィルムを、乾燥する。乾燥によって溶媒が気化し、抗菌層が形成される。乾燥のための温度および時間は、溶液に含まれるプロタミン等の抗菌力が損なわれない限り、適宜とすることができる。
【0047】
(その他の工程)
本発明の製造方法はまた、食品容器成型用シートを製造する場合は、シート成型工程を含んでもよく、食品容器を製造する場合は、熱成型工程を含んでもよい。使い捨てプラスチック容器は、量産性・加工性の観点から、汎用のポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン等の基剤を押出成型してシートを得て、このシートをさらに真空成型することにより製造されることが多い。食品容器成型用シートを製造するための好ましい態様においては、通常の工程によりシートを押出成型した後、シートの一方の、食品と接触する面にプロタミン等を含む溶液を均一に塗布し、乾燥し、そして必要に応じシートを巻き取る工程を含む。溶液を塗布するためには、既存の巻き取り後のシートの離型性を高める離型剤や防曇剤等を塗布するための装置がそのまま利用できる。
【0048】
[抗菌力]
本発明で抗菌力を有するというときは、対象となる材料をJIS Z 2801-2012に準じて評価したときに、適切なコントロールと比較して、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ菌(Salmonella enterica)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、枯草菌(Bacillus subtilis)、および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からなる群より選択される菌の少なくとも一つの増殖を抑制できることをいう。具体的な手順は、本明細書の実施例の項を参考にすることができる。
【0049】
本発明の製品等において発揮される抗菌作用は、グラム陽性菌、例えば、バチルス属、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、クロストリジウム属、リステリア属、マイクロコッカス属、プロピオニバクテリウム属、好ましくは、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、スタフィロコッカス・オーレウス、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、およびプロピオニバクテリウム・アクネスに属する微生物に対して抗菌活性を発揮しうる。また、グラム陰性菌、例えば、エッシェリヒア属(Escherichia)、シュードモナス属、エンテロバクター属(Enterobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、シトロバクター属(Citrobacter)、プロテウス属(Proteus)、セラチア属、エルウィニア属(Erwinia)、ビブリオ属(Vibrio)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、サルモネラ (Salmonella)属、好ましくは、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に属する微生物に対しても抗菌活性を発揮しうる。また、抗菌成分としてプロタミン、またはその塩を用いた場合は、真菌に対しても抗菌活性を発揮しうる。真菌の例は、カンジダ属(Candida)、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Shizosaccharomyces)、ピキア属(Pichia)、クリベロマイセス属(Kluyveromyces)、ウィリオプシス属(Williopsis)、デバリオマイセス属(Debaryomyces)、ガラクトマイセス属(Galactomyces)、トルラスポラ属(Torulaspora)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、ヤロウィア属(Yarrowia)、ジゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、アスペルギルス属(Aspergillus)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、トリコフィトン属(Trichophyton)、ミクロスポルム属(Microsporum)、プネウモキスチス(ニューモシスティス)属(Pneumocystis)に属する微生物であり、より具体的な例としては、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラタ、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・クルセ、カンジダ・ズブリニエンシス、カンジダ・リポリティカ(Candida lypolitica)、カンジダ・ユーティリス(Candida utilis)、カンジダ・サケ(Candida sake)、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・サケ(Saccharomyces sake)、サッカロマイセス・ベティカス(Saccharomyces beticus)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・フラブス(A. flavus)、アスペルギルス・ニガー(A. niger)、クリプトコッカス・ネオホルマンス(Cryptococcus neoformans)、クリプトコッカス・アルビヅス(Cryptococcus albidus)、クリプトコッカス・ガティ(Cryptococcus gattii)、クリプトコッカス・ラウレンティ(Cryptococcus laurentii)、トリコフィトン・ルブルム(Trichophyton rubrum)、トリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)、トリコフィトン・トンスランス(Trichophyton tonsurans)、トリコフィトン・ベルコスム(Trichophyton verrucosum)、ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)、ミクロスポルム・ギプセウム(Microsporum gypseum)およびプネウモキスチス(ニューモシスティス)・ジロベシ(Pneumocystis jiroveci)が挙げられる。
【0050】
次に下記の実施例に基づき、但し全般的発明思想を限定することなく、本発明を説明する。
【実施例】
【0051】
[製造例1:ポリエチレンテレフタレートシートの製造]
ポリエステルの一種であるポリエチレンテレフタレート樹脂のペレットを2軸押出機に供給し、シリンダー温度255℃~295℃で溶融した後、2軸押出機先端に取り付けたTダイから溶融樹脂を吐出させ、その溶融樹脂を25℃~40℃のチルロールで冷却することで、厚み0.3mm、幅450mm~1200mmのシート状のポリエチレンテレフタレート樹脂シートを作製した。なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂原料は、FORMOSA INDUSTRIES(南亜)社製の品名:A1、品番:3802の100%バージン材料を用いた。
【0052】
[製造例2:コロナ放電処理したポリエチレンテレフタレート樹脂シートの製造]
実施例1で得たポリエチレンテレフタレート樹脂シートの一方の表面を、コロナ放電処理装置(春日電機(株)製)を用いて送り速度20.3m/分にて540W~1.79KWの放電量でコロナ放電処理をし、幅648mmに裁断した。本例においては、コロナ放電処理用の電極として、放電電極長1,150mmのアルミニウム棒をセラミックで覆った誘電体被覆電極を用い、その電極に対向する対極ロールとして、クロムめっきしたステンレスロールを用いた。
【0053】
[製造例3:抗菌性シート(コロナ放電処理あり)の製造]
実施例2で得たコロナ放電処理したポリエチレンテレフタレート樹脂シートの食品等が接触する面に、精製水に、0.5%となるように硫酸プロタミン(大和化成株式会社(神戸市兵庫区))、および0.7%となるようにポリソルベート80(花王株式会社)を溶解し、塗料タンクに充填し、送り速度20.3m/分でピックアップロールによって均一に巻き上げられた硫酸プロタミン水溶液をドクターロールで移送し均一な液膜に調整後、コーティングロールでコロナ放電したポリエチレンテレフタレート樹脂シート面に転写して硫酸プロタミンを塗工後、同軸上の製造ライン上同様方式で、もう一方の面に帯電防止性塗膜を塗工し、熱風式オーブンを用いて120℃の雰囲気温度で通過時間12秒の条件で水分を蒸発させた後、700mを巻き取った。巻き取ったロール上のポリエチレンテレフタレート樹脂の流れ方向(Machine Direction)の引張弾性率は3,1020.00Mpa、垂直方向(Transverse Direction)の引張弾性率は3,106.51Mpaであった。得られたシートの外観は、製造例1のコロナ放電前のシートと同じように透明であった。
【0054】
[製造例4-1:抗菌性容器の製造]
製造例3で得られた、抗菌剤(硫酸プロタミン)と帯電防止性塗膜を塗工したコロナ放電処理ポリエチレンテレフタレート樹脂シートの塗布側を下にして熱盤圧空成型機にセットし、上側ヒーター温度115℃に設定した熱盤で過熱軟化させたシートを下側の凹型金型に引き付けながら、上側の熱盤から圧縮空機圧力を加え、ポリチレンテレフタレート樹脂シートを凹型金型内に押し付け2~3秒間保持し得られた成型品を取り出した。
【0055】
[製造例4-2:抗菌性容器の製造、一般的な熱盤圧空成型で、材質を非晶性ポリエチレンテレフタレート(A-PET)/ポリプロピレン(PP)/ポリスチレン(PS)等とした場合]
製造例3と同様にして、抗菌剤(硫酸プロタミン)と帯電防止性塗膜を塗工したコロナ放電処理樹脂シート(A-PET/PP/PS等)の塗布側を下にして熱盤圧空成形機にセットし、下側ヒーター温度100~180℃に設定した熱盤で過熱軟化させたシートを上側の凹型金型に引き付けながら、下側の熱盤から圧縮空気圧力を加え、樹脂シートを凹型金型内に押し付け、2~3秒間保持し得られた成形品を取り出す。なお、凸型金型を用いる場合、シートのセット方向を上下逆にすればよい。
【0056】
[製造例4-3:抗菌性容器の製造、真空成型]
製造例3で得られた、抗菌剤(硫酸プロタミン)と帯電防止性塗膜を塗工したコロナ放電処理樹脂シート(A-PET/PP/PS等)の塗布側を下にして真空成形機にセットし、シート表面温度を100~180℃になるまでヒーターゾーンで加熱軟化させたシートを成型ゾーン上側の凹型金型に真空で引き付けながら、下側のプラグアシストでシートを持ち上げ、樹脂シートを凹型金型内に2~15秒間密着保持し得られた成形品を取り出した。なお、凸型金型を用いる場合、シートのセット方向を上下逆にすればよい。
【0057】
[製造例4-4:抗菌性容器の製造、真空圧空成型]
製造例3で得られた、抗菌剤(硫酸プロタミン)と帯電防止性塗膜を塗工したコロナ放電処理樹脂シート(A-PET/PP/PS等)の塗布側を下にして真空圧空成形機にセットし、シート表面温度を100~180℃になるまでヒーターゾーンで加熱軟化させたシートを成型ゾーン上側の凹型金型に真空で引き付けながら、下側のプラグアシストでシートを持ち上げ、圧縮空気圧力を加え樹脂シートを凹型金型内に2~15秒間密着保持し、得られた成形品を取り出す。なお、凸型金型を用いる場合、シートのセット方向を上下逆にすればよい。
【0058】
[製造例5:抗菌性シート(コロナ放電処理なし)の製造]
下記の手順で、食品容器成型用の、硫酸プロタミンを含む被覆層を有するポリエチレンテレフタレートシートを製造した。
1.硫酸プロタミン0.5%、PS80 0.7%の水溶液8Lを調製した。
2.水溶液を、防曇剤を塗布するための既存の装置に投入し、実施例3と同様にして、200 m程度の抗菌性のポリエチレンテレフタレートを基材とするシートを製造した。得られたシートの外観は不透明で、かつ熱盤圧空成型機にセットした段階で硫酸プロタミンの脱落が見受けられた。
【0059】
[評価1:容器およびシートの透明度測定]
製造したシートについて、ヘーズメータHZ-V3(スガ試験機株式会社)を用いて透明度を測定した。試験は室温25℃、湿度45%の環境で行い、JIS K 7361、JIS K 7136に準じ、ダブルビーム方式、光源はD65光、測定孔径φ20mmの条件で測定した。測定は、各3回行った。
【0060】
結果を下表に示した。なお、表中、1は製造例1のシート(コントロール、コロナ放電なし、抗菌処理処理なし)、2は製造例5の抗菌性シート(コロナ放電処理なし)、3は製造例3の抗菌性シート(コロナ放電処理あり)を表す。
【0061】
【0062】
ヘーズ値から、コントロールが最も透明性が高く、コロナ放電処理ありの抗菌性シートは、コロナ放電処理なしの抗菌性シートより、透明性が高い結果であった。なお目視による外観は、既に述べたように、コントロールと抗菌性シート(コロナ放電処理あり)は透明性に差がなく、また抗菌性シート(コロナ放電処理なし)は不透明に見える。
【0063】
[評価2:溶出量の確認]
(目的)
製造例4-1で成型した容器(コロナ放電処理あり)と、製造例3で製造したシートを製造例4の方法で同様に成型した容器(コロナ放電処理なし)の表面に、一定流速で水を流し、溶出した抗菌剤の量を計測した。
【0064】
(試験方法)
1.容器1枚(約10.5cm×約5cm)を軽く折り曲げ、50mlプラスチックチューブに差し込み、固定する。
2.5ml用マイクロピペットを使い、20℃、5mlの精製水を、容器上部から内側を洗い流すように注ぎ、その駅について214nmでの吸光度を測定した。
【0065】
(結果)
それぞれの容器10枚について、測定した結果を下表に示した。
【0066】
【0067】
平均値の比較から、コロナ放電処理をした容器からの抗菌剤の溶出量が少ないことが分かった。また、コロナ放電処理なしの容器は、バラつきが大きく、また最大値と最小値の差(振れ幅)も大きかった。このことから、コロナ放電処理なしの容器は、被覆層が均一でなく、ムラが存在していると推測された。コロナ放電処理することにより、均一で、密着性が高い被覆層が形成されていると考えられた。
【0068】
[評価3:抗菌活性の確認]
JIS Z 2801に従い、大腸菌を用いてシートの抗菌活性を評価した。結果を下表に示した。
【0069】
【0070】
製造例3(コロナ放電処理あり)のシートは、製造例5(コロナ放電処理なし)のシートと同様、高い抗菌性を示した。