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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】鉄道車両の空調ダクトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B61D 27/00 20060101AFI20220622BHJP
   F24F 13/02 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
B61D27/00 N
F24F13/02 E
F24F13/02 A
F24F13/02 H
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019140873
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021024308
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000163372
【氏名又は名称】近畿車輌株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】寺村 弘
(72)【発明者】
【氏名】王子 義明
(72)【発明者】
【氏名】森戸 大海
(72)【発明者】
【氏名】龍溪 昇
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103465920(CN,A)
【文献】特開2017-048980(JP,A)
【文献】実開昭59-172938(JP,U)
【文献】特開2000-185544(JP,A)
【文献】特開平10-197040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 27/00
F24F 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の断熱材の長手方向に5か所の折り目をつけ、第1から第6までの6つの領域に分ける工程と、
前記第1の領域にプレナムダクトと圧縮空気ダクトを連通させる連通孔を設ける工程と、
前記第2の領域にプレナムダクトから客車にむけて開く開口部を設ける工程と、
前記各領域を内側に折りながら、
前記第1の領域の端部を前記第4の領域に接続する工程と、
前記第6の領域の端部を前記第1の領域の下端に接続する工程を有することを特徴とする鉄道車両の空調ダクトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道車両の空調ダクトとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ダクト構造102を有する鉄道車両の天井ユニット100が開示されている。図6に鉄道車両の天井部分の断面図を示す。天井ユニット100のダクト構造102は、側面から上面を覆う天板部104と下面パネル106を一体化し、下面パネル106と天板部104の間に隔壁板108をアルミや鉄材といった強度部材によって設けることで、空調風130が流通可能なダクト構造102が形成されている。
【0003】
また、ダクト構造102内には、風量調節板110が立てられ、ダクト構造102内をプレナムダクト112と圧縮空気ダクト114に分けている。プレナムダクト112は客室側に向かって空調風が噴き出す開口116が設けられる。また、プレナムダクト112と圧縮空気ダクト114の間は風量調節板110と天板部104との隙間で連通している。そして、ダクト構造102内には断熱材118が貼り付けられている。
【0004】
また、ダクト構造を鉄板などの強度体で形成し、内側に断熱材を貼り付ける構造では、重量が重くなるという課題を有することは知られている(特許文献2)。ここでは、無機質断熱材の材料をケイ酸ナトリウム溶液と共に混錬し、加圧成形した後に養生させ、無機質断熱材でダクト体を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-138638号公報
【文献】実開平03-055996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の方法によれば、断熱材のみでダクト体を構成できるため、鉄板などの強度体を省略できるので、軽量化には資することができる。しかし、鉄道車両の天井に設けるダクトは、車外に取り付けられた空調機からの空気を引き込むための吸い込み口や、客車内に空調風を噴き出すための開口等が必要である。
【0007】
また、客車の上面に取り付けられた1台若しくは2台の空調機で長い客車全体に均一に空調風をおくるため、鉄道車両のダクト構造は、プレナムダクトと圧縮空気ダクトの2領域構造を形成する必要がある。このような複雑な形状のダクトに対して、特許文献2のような方法で、ダクト体を形成するのは、作製が容易ではなかった。
【0008】
また、断熱材だけで鉄道車両用の空調ダクトを形成しようとすると、プレナムダクトと圧縮空気ダクトを仕切る仕切り壁が一端支持となる。すると圧縮空気ダクト内の圧力で、仕切り壁部分の断熱材が、風圧で曲がってしまうという課題も想定された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、アルミなどの金属板によって構成されていたダクト構造を断熱材だけで構成し、しかも一定の強度を有する鉄道車両の空調ダクトの製造方法を提供するものである。
【0011】
発明に係る鉄道車両の空調ダクトの製造方法は、
長尺の断熱材の長手方向に5か所の折り目をつけ、第1から第6までの6つの領域に分ける工程と、
前記第1の領域にプレナムダクトと圧縮空気ダクトを連通させる連通孔を設ける工程と、
前記第2の領域にプレナムダクトから客車にむけて開く開口部を設ける工程と、
前記各領域を内側に折りながら、
前記第1の領域の端部を前記第4の領域に接続する工程と、
前記第6の領域の端部を前記第1の領域の下端に接続する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る鉄道車両の空調ダクトは、空調ダクトの上壁と、下壁と、対向する側壁がそれぞれ接続され、断面箱型に形成されるので、断熱材だけで形成されていても一定の強度を有する。また、プレナムダクトと圧縮空気ダクトを仕切る仕切り壁の上端と下端を、上壁と下壁に接続するので、さらに強度が高められる。
【0013】
また、本発明に係る鉄道車両の空調ダクトの製造方法であれば、長尺の板状断熱材を折り曲げることで、形成することができる。そのため、予め客車側に開口するプレナムダクトの開口部と、プレナムダクトと圧縮空気ダクトの間に設けられる連通孔を形成した後に、折り曲げ、角部を固定するだけで簡単に、空調ダクトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る鉄道車両の空調ダクトの斜視図を示す。
図2】空調ダクトを形成する部材を示す部品斜視図である。
図3】空調ダクトの組み立て図である。
図4】他の製造方法で空調ダクトを形成する際の部品図である。
図5】他の製造法による空調ダクトの組み立て工程を示す図である。
図6】従来の鉄道車両の空調ダクトの断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明に係る鉄道車両の空調ダクトについて図面を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0016】
図1(a)に本発明に係る鉄道車両の空調ダクト1の斜視図を示す。また、図1(b)には、空調ダクト1の断面図を示す。空調ダクト1は、天井ユニットの上方からの支持体50と左右の側構体側からの支持体52で構成される棚構造に載置される。支持体50の間には、送風機等が取り付けられる。
【0017】
空調ダクト1は、上壁10と下壁12、および、これらを支持する対向した一方の側壁14および他方の側壁16が互いに端部で接続されることで、断面箱型状態に形成されている。また、側壁14および側壁16とは別に、上壁10と下壁12の間に挟み込まれた仕切り壁18が設けられる。
【0018】
図1(b)に示すように、仕切り壁18は、上壁10と下壁12に設けた溝部10aおよび溝部12aに上端18aおよび下端18bを嵌合させることで固定されているのが好適である。なお、後述するように、仕切り壁18は上壁10および下壁12に端部(上端18aおよび下端18b)が固定されていればよく、嵌合されていなくてもよい。
【0019】
この仕切り壁18で上壁10、下壁12、および対向する側壁14および側壁16によって、形成される内側の空間は、2つに分けられる。一方を圧縮空気ダクト20とよび、他方をプレナムダクト22と呼ぶ。圧縮空気ダクト20の方が、断面積が大きく設定されている。
【0020】
プレナムダクト22は、車両の中心から見て、枕木方向に離れた方に設定される。プレナムダクト22の下面22dおよび上面22uは、空調ダクト1の上壁10および下壁12の一部である。側面22sは空調ダクト1の一方の側壁14と、仕切り壁18で構成されている。プレナムダクト22の下面22dには、客室側へ空調風を流すための開口部24が設けられる。開口部24は、閉じた形状で構成されている。すなわち、開口部24の縁をたどれば、必ず元の位置に戻ってくる。
【0021】
圧縮空気ダクト20の上面20uおよび下面20dは、空調ダクト1の上壁10および下壁12の一部である。また、側壁20sは空調ダクト1の他方の側壁16と、仕切り壁18で構成される。圧縮空気ダクト20は、閉じた空間として構成される。ただし、上面20uには、客車の空調機(図6参照)からの空調風を取り入れる取り入れ口26が設けられる。
【0022】
取り入れ口26は、客車の屋根に搭載された空調機の数だけ設けることができる。通常は1両の客車には、1台若しくは2台の空調機が搭載される。したがって、空調ダクト1の取り入れ口26も1か所若しくは2か所設けられる。
【0023】
仕切り壁18は、プレナムダクト22と圧縮空気ダクト20を仕切る壁である。ここには、圧縮空気ダクト20からプレナムダクト22へ連通する連通孔28が設けられる。連通孔28は、仕切り壁18に一定の間隔で構成されるのが望ましい。圧縮空気ダクト20内の圧力を陽圧にすることで、どの連通孔28からも一定の空調風を放出することができ、長い客車に均一に空調風を供給することができるからである。
【0024】
次に、空調ダクト1の製造方法について説明する。図2(a)を参照して、空調ダクト1に使用するのは、板状の断熱材40であって、難燃性フィラを含む本体40bの一方の面に、アルミ層や樹脂層といった防水層や、酸化チタンなどの抗菌物質を含ませた抗菌層等(以下「表面層40a」と呼ぶ)が設けられたものが好適に利用できる。
【0025】
この断熱材40を所定の幅で切断し、空調ダクト1の上壁10、下壁12および側壁(側壁14、側壁16)、仕切り壁18を構成する部品を作製する。なお、仕切り壁18は表面層40aを裏表の両面に構成してもよい。仕切り壁18は両面とも空調ダクト1の内面を構成するからである。図2(b)では、側壁14および側壁16は省略した。図2(a)と同じだからである。
【0026】
次に、下壁12と上壁10に仕切り壁18を嵌合させる溝部12aと溝部10aを表面層40aが施された側に設ける。また、下壁12には、プレナムダクト22(図1参照)の開口部24となる部分に貫通孔を形成する。上壁10には、取り入れ口26となる部分に貫通孔を形成する。
【0027】
また、仕切り壁18には、連通孔28を設ける。また、これらの貫通孔の縁は、樹脂等でシールして、断熱材40のチップや粉くずが生じないようにする。なお、空調ダクト1自体は、客車の天井からの支持体50で支持される。したがって、その支持体50との接続のために、下壁12にねじ止め用のネジ孔30を設けておいてもよい。
【0028】
次に、図3(a)を参照して、下壁12に側壁14と側壁16と仕切り壁18を突き合わせ、突き合わせ部分G1、G2、G3を接着剤で接合する。そののち、上壁10をのせ、側壁14と側壁16と仕切り壁18との接合箇所G4、G5、G6を接着剤で接合する(図3(b)参照)。以上のようにして、本発明に係る空調ダクト1を構成することができる。
【0029】
次に、空調ダクト1の他の製造方法を説明する。図4を参照する。断熱材40の一枚板材を用意し、一方の端から仕切り壁18、プレナムダクト22の下面22d(以後「プレナムダクト下面22d」ともいう。)、一方の側壁14、上壁10、他方の側壁16、圧縮空気ダクト20の下面20d(以後「圧縮空気ダクト下面20d」ともいう。)の6つの領域に分ける(図4(a))。
【0030】
ここでは、仕切り壁18を第1領域61、プレナムダクト下面22dを第2領域62、一方の側壁14を第3領域63、上壁10を第4領域64、他方の側壁16を第5領域65、圧縮空気ダクト下面20dを第6領域66とした(図4(b))。
【0031】
なお、断熱材40の一枚板材は表面層40aを有しており、以後の折り曲げで表面層40aは空調ダクト1の内側に向かうように配置されている。なお、仕切り壁18の部分は、裏表に表面層40aが形成されていてもよい。
【0032】
次に連通孔28、開口部24、取り入れ口26、ネジ孔30となる貫通孔を形成し、貫通孔の縁をシールする。次に、6つの領域の境目に90度の切り欠き42を入れる(図4(b))。図4(b)では切り欠き42aから切り欠き42eである。ここで、切り欠き42は、断熱材40を切断するほどには入れない。また、上壁10に、仕切り壁18との溝部10aを設けてもよい。
【0033】
このように組み立て前の準備を行い、図5に示すように、各領域を折りたたみながら組み立てる。図5(a)を参照して、第1領域61(仕切り壁18)の部分と、第2領域62(プレナムダクト下面22d)との間の切り欠き42aに接着剤を入れ、第1領域61(仕切り壁18)を90度曲げる。
【0034】
次に図5(b)を参照して、第2領域62(プレナムダクト下面22d)と第3領域63(一方の側壁14)との間の切り欠き42bに接着剤を入れ、第2領域62(プレナムダクト下面22d)と第3領域63(一方の側壁14)を90度曲げる。
【0035】
さらに、図5(c)を参照して、第3領域63(一方の側壁14)と第4領域64(上壁10)の間の切り欠き42cおよび上壁10の溝部10aに接着剤を入れ、第3領域63(一方の側壁14)と第4領域64(上壁10)を90度曲げると共に、仕切り壁18(第1領域61)の上端18a(図1(b)参照)を溝部10aに入れ接着する。
【0036】
続いて、図5(d)を参照して、第4領域64(上壁10)と、第5領域65(他方の側壁16)との切り欠き42dに接着剤を入れ、90度曲げる。
【0037】
そして、図5(e)を参照して、第5領域65(他方の側壁16)と、第6領域66(圧縮空気ダクト下面20d)との間の切り欠き42eに接着剤を入れ、90度曲げる。圧縮空気ダクト下面20dの端部20dtは、仕切り壁18と、プレナムダクト下面22dの屈曲部に突き当て、接着剤で接合する。この部分の接合にはステイプルを用いてもよい。
【0038】
以上の工程で、本発明に係る空調ダクト1を形成することができる。この方法では、下壁12は、プレナムダクト下面22dと圧縮空気ダクト下面20dの2つの部分から構成されているが、下壁12を有していると言ってよい。また、この方法は、各領域を内側(表面層40aが設けられた側)に折りながら、第1領域61の端部を前記第4領域64に接続し、第6領域66の端部を前記第1領域61の下端に接続して組み立てるということができる。なお、この方法は、板状断熱材40を切断する必要がなく、簡単に空調ダクト1を形成することができる。すなわち、上壁10、下壁12、側壁14、側壁16および仕切り壁18は断熱材40の1枚板材を折り曲げて形成されている。
【0039】
なお、上記の製造工程において、断熱材40の1枚板材を、下壁12、一方の側壁14、上壁10、他方の側壁16の4つの領域に分け、それぞれの領域の境界に切り欠き42(42a~42e)を設け、折り曲げることで箱体を形成しながら別途形成しておいた仕切り壁18を挟み込むようにしてもよい。すなわち、上壁10、下壁12と側壁14および側壁16は断熱材40の1枚板材を折り曲げて形成されている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、鉄道車両の空調ダクトに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 空調ダクト
10 上壁
10a 溝部
12 下壁
12a 溝部
14 側壁
16 側壁
18 仕切り壁
18a 上端
18b 下端
20 圧縮空気ダクト
20u 上面
20d 下面(圧縮空気ダクト下面)
20s 側壁
20dt 端部
22 プレナムダクト
22d 下面(プレナムダクト下面)
22u 上面
22s 側面
24 開口部
26 取り入れ口
28 連通孔
30 ネジ孔
40 断熱材
40b 本体
40a 表面層
42(42a~42e) 切り欠き
50 支持体
52 支持体
61 第1領域
62 第2領域
63 第3領域
64 第4領域
65 第5領域
66 第6領域
100 天井ユニット
102 ダクト構造
104 天板部
106 下面パネル
108 隔壁板
110 風量調節板
112 プレナムダクト
114 圧縮空気ダクト
116 開口
118 断熱材
130 空調風
図1
図2
図3
図4
図5
図6