(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】抑制電極の熱変形を制御するための装置及びイオンビームの均一性を制御するための装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/04 20060101AFI20220622BHJP
H01J 27/02 20060101ALI20220622BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
H01J37/04
H01J37/04 A
H01J27/02
H01J37/08
(21)【出願番号】P 2019539933
(86)(22)【出願日】2017-11-16
(86)【国際出願番号】 US2017061915
(87)【国際公開番号】W WO2018140119
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2019-10-09
(32)【優先日】2017-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239188
【氏名又は名称】ヴァリアン セミコンダクター イクイップメント アソシエイツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100134577
【氏名又は名称】石川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス ピー ブオノドノ
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-225508(JP,A)
【文献】特表2009-540534(JP,A)
【文献】特開2008-034230(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0265855(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/04
H01J 37/08
H01J 37/317
H01J 27/00-27/26
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の熱変形を制御するための装置であって、該装置は、
イオン源チャンバーを画定し引出しアパーチャを有する複数のチャンバー壁を有するイオン源と、
前記イオン源チャンバーの外側に配置される前記電極であって、アパーチャと、前記アパーチャの近くに配置される光学エッジと、前記アパーチャから最も遠くに配置される遠位エッジと、を有する、前記電極と、
前記電極の前記遠位エッジを加熱するヒーターと、
前記ヒーターに電力を供給するヒーター電源と、
前記ヒーター電源と通信するコントローラと、を備え
、
前記コントローラは、前記遠位エッジと前記光学エッジとの間の温度の差異により引き起こされる前記電極の熱変形を制御するために、
少なくとも前記光学エッジの温度に基づいて前記電極の前記遠位エッジの温度を制御す
る、装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記電極の前記遠位エッジの前記温度を制御するために、オープンループ制御を利用する、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記ヒーターは、前記電極の上に配置される、請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記ヒーターは、前記電極と、直接、接触しない、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記電極の少なくとも一部の温度を測定するために、前記コントローラと通信する熱センサを更に備える、請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記熱センサは前記光学エッジの温度を測定するために用いら
れる、請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記熱センサは前記光学エッジ及び前記遠位エッジの温度を測定するために用いられ、前記コントローラは、前記光学エッジ及び前記遠位エッジの温度の差に基づいて、前記遠位エッジの前記温度を制御する、請求項5記載の装置。
【請求項8】
前記熱センサは、前記電極の上に配置される、請求項5記載の装置。
【請求項9】
前記熱センサは、前記電極と、直接、接触しない、請求項5記載の装置。
【請求項10】
イオンビームの均一性を制御するための装置であって、該装置は、
イオン源チャンバーを画定しイオンビームがそこを通って引出される引出しアパーチャを有する複数のチャンバー壁を有するイオン源と、
前記イオン源チャンバーの外側に配置される電極であって、アパーチャと、前記アパーチャの近くに配置される光学エッジと、前記アパーチャから最も遠くに配置される遠位エッジと、を有する、前記電極と、
前記電極の前記遠位エッジを加熱するヒーターと、
前記ヒーターに電力を供給するヒーター電源と、
前記電極から下流に配置されるビーム均一性プロファイラと、
前記ヒーター電源と通信するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記電極の前記遠位エッジを加熱することにより、前記イオンビームの均一性を制御するために、前記ビーム均一性プロファイラからの情報を利用する、装置。
【請求項11】
前記ヒーターは、前記電極の上に配置される、請求項10記載の装置。
【請求項12】
前記ヒーターは、前記電極と、直接、接触しない、請求項10記載の装置。
【請求項13】
前記ビーム均一性プロファイラは、前記イオンビームの電流又は電荷をX-Yの位置の関数として決定するように配置される、複数の電流又は電荷収集器を備える、請求項10記載の装置。
【請求項14】
イオンビームの均一性を制御するための装置であって、該装置は、
イオン源チャンバーの外側に配置される電極であって、アパーチャと、前記アパーチャの近くに配置される光学エッジと、前記アパーチャから最も遠くに配置される遠位エッジと、を有し、イオン源からのイオンは前記アパーチャを通過する、前記電極と、
前記電極の前記遠位エッジを加熱するヒーターと、
前記ヒーターに電力を供給するヒーター電源と、を備え、
前記光学エッジと前記遠位エッジとの間の温度の差異により引き起こされる前記電極の熱変形を制御するために、供給される前記電力
を、少なくとも前記光学エッジの温度に基づいて決定
する、装置。
【請求項15】
前記電極の
前記光学エッジの前記温度を測定するために、熱センサを更に備える、請求項14記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、イオン源に近い電極の熱変形を最小にするための装置及び方法に関し、特に、電極の加熱部分に対して、引出されたイオンビームにより発生した熱を補償するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンは、注入、アモルファス化、蒸着、及びエッチンングのプロセスなどの複数の半導体プロセスにおいて用いられる。これらのイオンは、イオン源チャンバー内部で創生することができ、イオン源チャンバーの引き出しアパーチャを通して引き出すことができる。
【0003】
イオンは、イオン源チャンバーの外側で近くに配置された光学系により、引き出しアパーチャを通して引き付けることができる。イオン源の典型的な光学要素は、引き出しアパーチャを含むイオン源チャンバーの壁となり得る引き出し電極を含む。他の光学要素は、抑制電極及び接地電極を含む。抑制電極は、イオン源チャンバー内部で創生されたイオンを引き付けるために、電気的にバイアスをかけることができる。例えば、抑制電極は、イオン源チャンバー内部から正のイオンを引き付けるために、負にバイアスをかけることができる。特定の実施形態において、集束レンズ、及び、追加の接地電極の追加と共に、最大5つの電極までにすることができる。
【0004】
電極は、各々、その中に配置されたアパーチャを有する単一の導電コンポーネントにすることができる。あるいは、各電極は、2つのコンポーネントの間にアパーチャを創生するように、相隔たる2つのコンポーネントを備えることができる。両方の実施形態において、イオンビームは各電極のアパーチャを通過する。アパーチャの近くにある電極の部分は光学エッジということができる。アパーチャから最も遠くの電極の部分は遠位エッジということができる。
【0005】
イオン源から引出されたイオンビームのいくつかの部分が、抑制電極に当たり、光学エッジに沿って加熱させることは、まれではない。しかしながら、抑制電極の全ての部分が、引出されたイオンにより等しく衝突されるとは限らない。その結果、抑制電極は、これらの引出されたイオンにより、不均一に加熱され得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特定の実施態様において、抑制電極の不均一な加熱は問題となり得る。この問題は、抑制電極の長さが増大するにつれて、悪化し得る。したがって、この不均一な加熱により引き起こされる熱変形を補償し又は制御する装置及び方法があれば、有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
イオンビームの均一性を向上するための装置を開示する。該装置は、抑制アパーチャから最も遠くに配置される抑制電極のエッジを加熱するヒーターを含む。動作において、前記抑制アパーチャに最も近い前記抑制電極の前記エッジは前記イオンビームにより加熱され得る。この熱により、前記抑制電極が変形されることを引き起こし、前記イオンビームの前記均一性に影響を与える。前記抑制電極の前記遠位エッジを加熱することにより、前記抑制電極の前記熱変形を制御することができる。他の実施態様において、前記抑制電極の前記遠位エッジを加熱し、もっと均一なイオンビームを創生する。前記抑制電極から下流の前記イオンビームの前記均一性をビーム均一性プロファイラの使用によるなどのモニタリングにより、コントローラは、前記遠位エッジに加えられる熱を調整することができ、所望のイオンビームの均一性を達成する。
【0008】
一実施態様により、抑制電極の熱変形を制御するための装置を開示する。該装置は、イオン源チャンバーを画定し引出しアパーチャを有する複数のチャンバー壁を有するイオン源と、前記イオン源チャンバーの外側に配置される抑制電極であって、抑制アパーチャと、前記抑制アパーチャの近くに配置される光学エッジと、前記抑制アパーチャから最も遠くに配置される遠位エッジと、を有する、抑制電極と、前記抑制電極の前記遠位エッジを加熱するヒーターと、前記ヒーターに電力を供給するヒーター電源と、前記抑制電極の前記遠位エッジの温度を制御するように、前記ヒーター電源と通信するコントローラと、を備える。特定の実施態様において、前記コントローラは、前記抑制電極の前記遠位エッジの前記温度を制御するために、オープンループ制御を利用する。特定の実施態様において、前記ヒーターは、前記抑制電極の上に配置される。他の実施態様において、前記ヒーターは、前記抑制電極と、直接、接触しない。いくつかの実施態様において、前記ヒーターはLED又は加熱ランプを備える。特定の実施態様において、前記装置は、前記抑制電極の少なくとも一部の温度を測定するために、前記コントローラと通信する熱センサを備える。いくつかの実施態様において、前記熱センサは前記光学エッジの温度を測定するために用いられてもよく、前記コントローラは、前記光学エッジの前記温度に基づいて、前記遠位エッジの前記温度を制御する。いくつかの実施態様において、前記熱センサは前記光学エッジ及び前記遠位エッジの温度を測定するために用いられ、コントローラは、前記光学エッジ及び前記遠位エッジの温度の差に基づいて、前記遠位エッジの前記温度を制御する。特定の実施態様において、前記熱センサは、前記抑制電極の上に配置される。他の実施態様において、前記熱センサは、前記抑制電極と、直接、接触しない。
【0009】
別の実施態様により、イオンビームの均一性を制御するための装置を開示する。該装置は、イオン源チャンバーを画定しイオンビームがそこを通って引出される引出しアパーチャを有する複数のチャンバー壁を有するイオン源と、前記イオン源チャンバーの外側に配置される抑制電極であって、抑制アパーチャと、前記抑制アパーチャの近くに配置される光学エッジと、前記抑制アパーチャから最も遠くに配置される遠位エッジと、を有する、抑制電極と、前記抑制電極の前記遠位エッジを加熱するヒーターと、前記ヒーターに電力を供給するヒーター電源と、前記抑制電極から下流に配置されるビーム均一性プロファイラと、前記ヒーター電源と通信するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記抑制電極の前記遠位エッジを加熱することにより、前記イオンビームの均一性を制御するために、前記ビーム均一性プロファイラからの情報を利用する。特定の実施態様において、前記ビーム均一性プロファイラは、前記イオンビームの電流又は電荷をX-Yの位置の関数として決定するように配置される、複数の電流又は電荷収集器を備える。
【0010】
別の実施態様により、イオンビームの均一性を制御するための装置を開示する。該装置は、イオン源チャンバーの外側に配置される抑制電極であって、抑制アパーチャと、前記抑制アパーチャの近くに配置される光学エッジと、前記抑制アパーチャから最も遠くに配置される遠位エッジと、を有し、イオン源からのイオンは前記抑制アパーチャを通過する、抑制電極と、前記抑制電極の前記遠位エッジを加熱するヒーターと、前記ヒーターに電力を供給するヒーター電源と、を備える。特定の実施態様において、前記ヒーターは抵抗体を備える。他の実施態様において、前記ヒーターはLED又は加熱ランプを備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明のより良い理解のために、参照により本明細書に組み込まれる添付図面を参照する。
【0012】
【
図1】一実施形態による熱変形を制御するための装置を示す。
【
図2B】引き出されたイオンビームにより打たれた後の抑制電極を示す。
【
図3】別の実施形態による熱変形を制御するための装置を示す。
【
図4】第3の実施形態による熱変形を制御するための装置を示す。
【
図5】第4の実施形態による熱変形を制御するための装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、抑制電極200の熱変形を制御するために用いることができる装置の第1の実施形態を示す。本実施形態において、RFイオン源100が例示される。RFイオン源100は、イオン源チャンバー110を画定する複数のチャンバー壁111を備える。RFアンテナ120をイオン源チャンバー110内部に配置することができる。RFアンテナ120は、銅などの導電材料を備えることができる。RFアンテナ120は、石英などの誘電材料から作ることができる中空管125の中に入れることができる。RF電源130は、RFアンテナ120と電気通信する。RF電源130はRFアンテナ120へRF電圧を供給することができる。RF電源130により供給される電力は0.5kWと60kWとの間にすることができ、5MHzと15MHzとの間などの任意の適切な周波数にすることができる。さらに、RF電源130により供給される電力はパルスを発することができる。
【0014】
図は、イオン源チャンバー110内部の中空管125の中に入れられたRFアンテナ120を示すが、他の実施形態も可能である。例えば、チャンバー壁111の内の1つは誘電材料から作ることができ、RFアンテナ120は、イオン源チャンバー110の外側で誘電壁の近くに配置することができる。さらに他の実施形態において、プラズマは、ベルナス(Bernas)イオン源又は傍熱型陰極(IHC)によるなどの異なる方法で発生する。プラズマを発生する方法は本開示により限定されない。
【0015】
特定の実施形態において、チャンバー壁111は、導電にすることができ、金属を材料として作ることができる。特定の実施形態において、これらのチャンバー壁111は電気的にバイアスをかけることができる。特定の実施形態において、チャンバー壁111は接地することができる。他の実施形態において、チャンバー壁111は、バイアス電源140により、ある電圧でバイアスをかけることができる。特定の実施形態において、バイアス電圧は一定の(DC)電圧にすることができる。他の実施形態において、バイアス電圧はパルスを発することができる。チャンバー壁111に印加するバイアス電圧は、イオン源チャンバー110内部のプラズマの電位を確立する。プラズマの電位と抑制電極200の電位との間の差異は、引出されたイオンが有するエネルギーを決定することができる。
【0016】
引出し電極112といわれる1つのチャンバー壁は、引出しアパーチャ115を含む。引出しアパーチャ115は、イオン源チャンバー110で発生したイオンがそこを通って引き出され、ワークピース10の方へ向けられる開口にすることができる。引出しアパーチャ115は任意の適切な形状にすることができる。特定の実施形態において、引出しアパーチャ115は、楕円形、又は、長さの第1の次元が高さの第2の次元よりはるかに大きい長方形にすることができる。特定の実施形態において、引出しアパーチャ115の長さは2メートル以上の大きさにすることができる。特定の実施形態において、引出し電極112のみが導電であり、バイアス電源140と電気通信することができる。残りのチャンバー壁111は、誘電材料から作ることができる。他の実施形態において、引出し電極112及びチャンバー壁111の全ては、導電にすることができる。バイアス電源140は、他の電圧も本発明の範囲内であるけれども、1kVと5kVとの間の電圧において、引出し電極112にバイアスをかけることができる。
【0017】
引出しアパーチャ115の外側で近くに配置されるのは、抑制電極200である。抑制電極200は、その中に配置される抑制アパーチャ205を有する単一の導電コンポーネントにすることができる。あるいは、抑制電極200は、2つのコンポーネントの間に抑制アパーチャ205を創生するように、相隔たる2つの導電コンポーネントを備えることができる。抑制電極200は、チタンなどの金属にすることができる。抑制電極200は、抑制電源220を用いて、電気的にバイアスをかけることができる。抑制電極200は、引出し電極112よりもっと負になるように、バイアスをかけることができる。特定の実施形態において、抑制電極200は、-3kVと-15kVとの間の電圧においてなどの抑制電源220により、負にバイアスをかけることができる。
【0018】
抑制電極200に近接して配置されるのは、接地電極210にすることができる。抑制電極200のように、接地電極210は、その中に配置される接地アパーチャ215を有する単一の導電コンポーネントにすることができ、又は、2つのコンポーネントの間に接地アパーチャ215を創生するように、相隔たる2つのコンポーネントを備えることができる。接地電極210は、接地に電気的に接続することができる。もちろん、他の実施形態において、接地電極210は別個の電源を用いてバイアスをかけることができる。引出しアパーチャ115、抑制アパーチャ205及び接地アパーチャ215は、全て、整列している。
【0019】
ワークピース10は接地電極210から下流に位置付けられる。特定の実施形態において、ワークピース10は、
図1.3、4及び5に示すように、接地電極210の直後に位置付けられる。質量分析器、コリメータ磁石、加速及び減速ステージなどの追加のコンポーネントは、接地電極210とワークピース10との間に配置することができる。
【0020】
動作において、ガス貯蔵容器150からの供給ガスは、ガス注入口151を通って、イオン源チャンバー110へ導入される。RFアンテナ120はRF電源130によりエネルギーを与えられる。このエネルギーは供給ガスを励起し、プラズマの創生を引き起こす。そのプラズマのイオンは、通常は、正に帯電している。抑制電極200は、引出し電極112より、もっと負にバイアスをかけられるため、イオンは、イオンビーム1の形状で引出しアパーチャ115を通って出る。イオンビーム1は、引出しアパーチャ115、抑制アパーチャ205及び接地アパーチャ215を通過し、ワークピース10の方へ進む。
【0021】
抑制アパーチャ205の近くに配置された高さの次元の抑制電極200の部分は、光学エッジということができる。抑制アパーチャ205から最も遠くの高さの次元の抑制電極200の部分は、遠位エッジということができる。
【0022】
引出しアパーチャ115を通って引出されるイオンビーム1からのイオンは、通常は、光学エッジの近くの抑制電極200を打つことができる。抑制電極200の光学エッジは、イオンの照射により、熱くなるので、抑制電極200の長さは増大し得る。この長さの増大は、抑制電極200を創生するために用いた材料の熱膨張係数に基づいて決定することができる。しかしながら、長さの増大は、抑制電極200の全体にわたって、等しくなることはできない。例えば、抑制電極200を作るために用いた材料の熱伝導抵抗により、直接、イオンに当たっていない抑制電極200の遠位エッジは、抑制電極200の光学エッジほど熱くなくなることはできない。これにより、抑制電極200の光学エッジに、遠位エッジよりもっと膨張させ、抑制電極200が、ゆがみ、又は、変形することを引き起こす。
【0023】
図2Aは2つのコンポーネント
(コンポーネント201a、
コンポーネント201b
)から成る抑制電極200を示す。2つのコンポーネント
(コンポーネント201a、
コンポーネント201b
)の間の間隙は抑制アパーチャ205を画定する。イオンビーム1が引出される前に、これらの2つのコンポーネント
(コンポーネント201a、
コンポーネント201b
)は変形されず、2つのコンポーネント
(コンポーネント201a、
コンポーネント201b
)の光学エッジ
(光学エッジ202a、
光学エッジ202b
)はそれぞれ、互いに平行である。
【0024】
イオンビーム1が引出されるときに、イオンはコンポーネント
(コンポーネント201a、
コンポーネント201b
)の光学エッジ
(光学エッジ202a、
光学エッジ202b
)を打ち、これにより、これらの光学エッジが膨張することを引き起こす。しかしながら、上記のように、コンポーネント
(コンポーネント201a、
コンポーネント201b
)の遠位エッジ203a、203bは、温度の差異により、同じ程度に膨張することはできない。その結果、抑制電極200は、
図2Bに示すように、変形される。この変形は、例示の目的のために、誇張している。この図において、光学エッジ
(光学エッジ202a、
光学エッジ202b
)は膨張し、各コンポーネント
(コンポーネント201a、
コンポーネント201b
)がゆがむことを引き起こす。特定の実施形態において、各光学エッジ
(光学エッジ202a、
光学エッジ202b
)の長さの次元の中央部分は、他の光学エッジ
(光学エッジ202a、
光学エッジ202b
)に向かってたわむ。これにより、抑制アパーチャ205の形状が不規則になることを引き起こし、抑制アパーチャ205が、長さの次元において、他の部分においてよりも中央部分において、より狭くなり得るようになる。したがって、イオンビーム1のビーム電流は、長さの関数として、不均一になり、これは問題になり得る。さらに、抑制電極200の長さが増大するので、熱膨張により引き起こされる変形は悪化させられ得る。
【0025】
この望ましくない変形を補償するために、抑制電極200の遠位エッジを加熱するために、ヒーター310を用いることができる。
【0026】
図1は、ヒーター310が抵抗体であり得る一実施形態を示す。これらの抵抗体は抑制電極200の遠位エッジの上に配置される。これらの抵抗体はヒーター電源300と連通することができる。抵抗体は1つのタイプのヒーター310であるが、本発明は本実施形態に限定されない。抑制電極200の遠位エッジに熱を供給することができる任意の装置を利用することができる。
【0027】
ヒーター電源300はコントローラ350と通信することもできる。コントローラ350は、処理装置及び記憶素子を含むことができる。記憶素子は、半導体メモリ(例えば、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュRAM、DRAMなど)、磁気メモリ(例えば、ディスク・ドライブ)、又は、光メモリ(例えば、CDROM)などの任意の適切な持続性メモリ装置にすることができる。記憶素子は命令を含むために用いることができ、命令がコントローラ350の処理装置により実行されるとき、命令により、ヒーター310に、抑制電極200の熱変形を制御させる。
【0028】
特定の実施形態において、1つのヒーター310を抑制電極200の上に配置する。他の実施形態において、複数のヒーター310を抑制電極200の上に配置することができる。多数のヒーター310を利用する実施形態において、これらのヒーター310は、多数のヒーター電源の使用によるなどのコントローラ350により、独立に制御することができ、又は、共通に制御することができる。例えば、特定の実施形態において、長さの次元において、抑制電極200の中心に近く位置付けられたヒーター310は、外縁に近く配置されたヒーター310よりも、より大きい程度に加熱することができる。
【0029】
コントローラ350は、ヒーター310を制御するために、様々な技術を利用することができる。第1の実施形態において、抑制電極200の温度を、時間の関数としてマッピングする実験データを収集する。例えば、光学エッジの温度を時間の関数として記載する表を創生するために、そのデータを用いることができる。あるいは、光学エッジと遠位エッジとの間の温度の差異を時間の関数として記載する表を創生するために、そのデータを用いることができる。特定の実施形態において、ヒーター310へ供給するための電力量を時間の関数として画定する表を創生するために、そのデータを用いることができる。この情報は、次いで、コントローラ350の記憶素子に格納することができる。本実施形態において、コントローラ350は、ヒーター310へ加えられる電力を制御するために、命令をヒーター電源300へ供給する。コントローラ350からヒーター電源300への命令は、時間の関数として変わり得る。したがって、本実施形態は、抑制電極200の熱変形を制御するために、オープンループ制御を利用する。
【0030】
別の実施形態において、熱センサ320を抑制電極200の上又は近くに配置することができる。特定の実施形態において、熱センサ320は、光学エッジ及び遠位エッジの両方の近くに、配置される。他の実施形態において、熱センサ320は、これらの2つのエッジの内の1つの近くにのみ配置される。これらの熱センサ320は、熱電対、抵抗温度検出器(RTD)又は他のタイプの熱センサにすることができる。
【0031】
図3に示す別の実施形態において、熱センサ320は抑制電極200の上に配置しなくすることができる。例えば、熱センサ320は赤外線カメラにすることができ、赤外線カメラは、抑制電極200の温度を遠隔に測定することができるような位置に配置することができる。赤外線カメラは、任意のこれらの実施形態において、RTD又は熱電対と互いに交換可能で用いることができる。
【0032】
これらの実施形態の全てにおいて、熱センサ320は、コントローラ350が、抑制電極200の実際の温度についての情報を得るように、コントローラ350と通信することができる。いくつかの実施形態において、コントローラ350は、ヒーター310へ供給すべき電力を決定するために、光学エッジの温度と遠位エッジの温度との間の差異を利用する。他の実施形態において、コントローラ350は、ヒーター310へ供給すべき電力を決定するために、光学エッジ及び遠位エッジの実際の温度を用いる。特定の実施形態において、コントローラ350は、ヒーター310へ供給するための電力を決定するために、光学エッジ及び遠位エッジの内の1つ用の実際の温度データを用いる。
【0033】
コントローラ350は、次いで、ヒーター310へ加えるべき電力を決定するために、この実際の温度のデータを用いる。コントローラ350は、抑制電極200の温度の連続モニタリングに基づいて、命令をヒーター電源300へ連続して供給することができる。他の実施形態において、コントローラ350は、ヒーター電源300への命令を、1分ごとに1回、又は、任意の他の適切な間隔などの周期的に、更新する。さらに、特定の実施形態において、抑制電極200は、一定の分数が過ぎたら定常状態に達することができ、コントローラ350からの更新は、それが生じた後は、もはや提供することができない。
【0034】
図4は、ヒーター310が抑制電極200の上に配置されない別の実施形態を示す。例えば、ヒーター310は、LED又は加熱ランプにすることができる。本実施形態において、ヒーター310からの熱が抑制電極200の遠位エッジを標的にして届くように、ヒーター310は抑制電極200の近くに配置される。コントローラ350は、LED又は加熱ランプに供給すべき電力レベルを供給するために、ヒーター電源300と通信することができる。これらのLED又は加熱ランプは、任意のこれらの実施形態において、抵抗体の代わりに、用いることができる。例えば、これらのLED又は加熱ランプは、オープンループ構成で用いることができる。あるいは、
図4に示すように、これらのLED又は加熱ランプは、抑制電極200の上に配置された熱センサ320と共に用いることができる。さらに、これらのLED又は加熱ランプは、
図3に示すものなどの抑制電極200の上に配置されない熱センサと共に用いることができる。したがって、LED又は加熱ランプは、
図1及び3に示す抵抗体と互いに交換可能で用いることができる。
【0035】
したがって、
図1、3及び4は、抑制電極200に直接、接触することができる、又は、抑制電極200に近接して配置することができる、熱センサ320を用いて、抑制電極200の1つ以上のエッジの温度を測定する、実施形態を示す。これらの熱センサ320からの情報は、次いで、ヒーター310に加えるための電力量を決定するために、コントローラ350により用いられる。熱センサ320のように、ヒーター310は、抑制電極200に直接、接触することができる、又は、抑制電極200に近接して配置することができる。したがって、熱センサ320、コントローラ350、ヒーター電源300及びヒーター310は、抑制電極200の熱変形を制御するために用いることができる閉じた制御ループを形成する。
【0036】
これらの図の実施形態は、抑制電極200の1つ以上のエッジの測定した温度に基づいて、抑制電極200の閉じたループ制御を示す。しかしながら、閉じたループ制御は他の方法で同様に達成することができる。
【0037】
図5は別の実施形態を示す。本実施形態において、熱センサ320は用いない。むしろ、コントローラ350は、ヒーター310を制御するために、イオンビーム1の均一性に関する情報を用いる。例えば、複数の電流又は電荷収集器361を備えることができるビーム均一性プロファイラ360を、ワークピース10が、通常、設けられるステーションの近くに配置することができる。特定の実施形態において、ビーム均一性プロファイラは、イオンビーム1の全体の長さにわたって伸びることができる。他の実施形態において、電流又は電荷収集器361は、イオンビーム1の長さにわたってスキャンすることができる。
【0038】
ある時間帯に、イオンビーム1がビーム均一性プロファイラ360に当たるように、ワークピース10を除去することができる。電流又は電荷は、イオンビームのX-Yの位置の関数として収集することができる。したがって、抑制電極200の熱変形がない場合、電流又は電荷は、イオンビーム1の長さ及び高さにわたって均一であり得る。しかしながら、抑制電極200が変形になるにつれて、電流又は電荷は均一でなくなり得る。例えば、
図2Bに示す抑制電極200の使用により、イオンビーム1の両端において、より大きい電流又は電荷となり得て、イオンビーム1の中心において、低減した電流又は電荷となり得る。
【0039】
ビーム均一性プロファイラ360により収集される電流又は電荷の情報は、ヒーター310に加えるべき電力量を決定するために、コントローラ350により用いることができる。したがって、
図5は、ビーム均一性プロファイラ360、コントローラ350、ヒーター電源300及びヒーター310で構成される閉じた制御ループを用いる。本実施形態において、熱変形は、抑制電極200から下流のイオンビーム1を観察することにより、モニターされる。したがって、本実施形態は、
図1、3及び4で行ったように、抑制電極200の光学エッジ及び遠位エッジの温度を等しくすることを試みるよりもむしろ、イオンビーム1をモニターする。
【0040】
ビーム均一性プロファイラ360を利用するために、ワークピース10を装置から除去する。したがって、イオンビーム1の均一性を測定しているとき、ワークピース10を処理することはできず、効率性及びスループットの低減をもたらす。したがって、本実施形態において、ビーム均一性プロファイラ360は、規則的な間隔でなどの小出しに利用することができるだけである。例えば、ビーム均一性プロファイラ360は、N個のワークピース10を処理した後に利用することができる。別の実施形態において、ビーム均一性プロファイラ360は、一定の時間間隔で利用することができる。このように、熱変形は、スループットの低減を最小にしながら、制御することができる。
【0041】
本装置は、多くの優位性を有する。第1に、1つの実験において、抑制電極200の光学エッジの偏差を測定することにより決定された、熱変形の量を85%を超えて低減した。熱変形のこの低減により、イオンビームの均一性を向上する。したがって、抑制電極200の加熱により、イオンビームの均一性を制御するための別のチューニング機構となる。
【0042】
コントローラ350への入力を供給する手段としてのビーム均一性プロファイラ360の使用により、他の優位性を有することができる。例えば、特定の実施形態において、引出しアパーチャ115から引出されるイオンビーム1は、長さの次元において、均一であることはできない。例えば、ビーム電流は、イオンビーム1の中心において、より大きくなり得る。したがって、本実施形態において、イオンビーム1の中心におけるビーム電流を低減するために、一定量の熱変形を有することは有益であり得る。したがって、ヒーター310及びコントローラ350と共にビーム均一性プロファイラ360は、装置の他のコンポーネントにより引き起こされるイオンビーム1の不均一性を補償するために、また、用いることができる。この技術は、抑制電極200から下流で導かれる不均一性を補償するために、また、用いることができる。特定の実施形態において、抑制電極200の熱変形に対して、より細かい制御を発揮するために、複数の独立に制御されたヒーター310を利用することができる。
【0043】
本発明は、本明細書に記載された特定の実施形態によって範囲を限定されるものではない。実際に、本明細書に記載された実施形態に加えて、本発明の他の様々な実施形態および変更は、前述の記載および添付図面から当業者には明らかであろう。したがって、このような他の実施形態および変更は、本発明の範囲内に含まれるものと意図している。さらに、本発明は、特定の環境における特定の目的のための特定の実装の文脈にて本明細書中で説明したけれども、当業者は、その有用性はそれらに限定されるものでなく、本発明は任意の数の環境における任意の数の目的のために有益に実装し得ることを認識するであろう。従って、以下に記載する特許請求の範囲は本明細書に記載された本発明の全範囲及び精神に鑑みて解釈しなければならない。