(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】電気的保護を改善した廃水処理用の電気化学セル
(51)【国際特許分類】
C02F 1/461 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
C02F1/461 101A
C02F1/461 101C
(21)【出願番号】P 2019550769
(86)(22)【出願日】2018-04-19
(86)【国際出願番号】 US2018028401
(87)【国際公開番号】W WO2018195331
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-03-12
(32)【優先日】2017-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513305179
【氏名又は名称】アクシン ウォーター テクノロジーズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Axine Water Technologies Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ウッド,ブレンダン
(72)【発明者】
【氏名】クラソヴィク,ジュリア,リン
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-522309(JP,A)
【文献】特表2020-508849(JP,A)
【文献】特開2006-291329(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0156642(US,A1)
【文献】米国特許第05980718(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00- 11/097
C25B 1/00- 9/77
C25B 13/00- 15/08
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
H01M 8/04- 8/0668
C02F 1/46- 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水処理用の電気化学セルであって、
a.固体高分子電解質膜と、
b.前記固体高分子電解質膜の第1の面に隣接するアノード触媒層、および前記固体高分子電解質膜の第1の面と反対側の第2の面に隣接するカソード触媒層と、
c.前記アノード触媒層に隣接する第1の開孔メッシュ、および前記カソード触媒層に隣接する第2の開孔メッシュと、
d.前記第1の開孔メッシュに隣接する第1の圧縮フレーム、および前記第2の開孔メッシュに隣接する第2の圧縮フレームであって、各圧縮フレームが、フレームの外周で区切られた領域内に広がる圧縮アームを有し、それら圧縮アームが接続部位で互いに連結されている、第1および第2の圧縮フレームと、
e.前記第1および第2の圧縮フレームの圧縮アームの接続部位に設けられた穴と、前記第1および第2の開孔メッシュに設けられた穴と、前記固体高分子電解質膜およびアノード触媒層およびカソード触媒層とを通って突き出る留め具とを備え、
前記留め具が、2つの圧縮フレーム間の固体高分子電解質膜、触媒層および開孔メッシュを圧縮する力を提供し、前記第1の開孔メッシュおよび第2の開孔メッシュの各々が、平坦面と、この平坦面から隆起したエンボス面とを含むことを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
前記第1の開孔メッシュおよび前記第2の開孔メッシュの各エンボス面がエンボス領域を含み、各エンボス領域が、開孔メッシュに設けられた穴を取り囲むこと、及び前記開孔メッシュの穴を取り囲むエンボス領域が、隆起した平坦領域と、前記隆起した平坦領域を前記開孔メッシュの平坦面に接続する傾斜領域とを含むことを特徴とする電気化学セル。
【請求項3】
請求項2に記載の電気化学セルにおいて、
前記第1の開孔メッシュの穴を取り囲むエンボス領域と前記アノード触媒層との間に配置されるスペーサ、および/または前記第2の開孔メッシュの穴を取り囲むエンボス領域と前記カソード触媒層との間に配置されるスペーサをさらに含むことを特徴とする電気化学セル。
【請求項4】
請求項2に記載の電気化学セルにおいて、
前記第1の開孔メッシュおよび前記第2の開孔メッシュの各エンボス面が、横断エンボス領域をさらに含み、各横断エンボス領域が、穴をそれぞれ取り囲む2つのエンボス領域を接続し、かつ組立後の電気化学セルにおいて圧縮アームに隣接して配置されること、及び前記開孔メッシュの各横断エンボス領域が、隆起した平坦領域と、前記隆起した平坦領域を前記開孔メッシュの平坦面に接続する傾斜領域とを含むことを特徴とする電気化学セル。
【請求項5】
請求項2または4に記載の電気化学セルにおいて、
前記第1の開孔メッシュおよび前記第2の開孔メッシュの各エンボス面が、開孔メッシュの外周に沿ってその縁部に配置される周辺エンボス領域をさらに含み、この周辺エンボス領域が、隆起した平坦領域と、前記隆起した平坦領域を前記開孔メッシュの平坦面に接続する傾斜領域とを含むことを特徴とする電気化学セル。
【請求項6】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
前記固体高分子電解質膜には、前記留め具の貫通を可能にする穴が設けられていること、及び前記開孔メッシュの穴が、固体高分子膜の穴および/または圧縮アームの穴よりも大きいことを特徴とする電気化学セル。
【請求項7】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
前記第1および第2の開孔メッシュの材料の弾力性と、前記留め具によってアセンブリに加えられる圧縮力と、前記第1および第2の開孔メッシュの厚さとに基づいて、前記エンボス面の寸法が設定されていることを特徴とする電気化学セル。
【請求項8】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
前記第1の圧縮フレームが、フレームの一側に第1の周辺領域を備え、前記第2の圧縮フレームが、フレームの一側に第2の周辺領域を備え、各周辺領域には、少なくとも1つの穴が設けられ、組立後の電気化学セルにおいて、前記第1の周辺領域が、前記第2の周辺領域とは反対方向に延び、各周辺領域が、反対側の圧縮フレームを越えて延びることを特徴とする電気化学セル。
【請求項9】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
前記固体高分子電解質膜がアニオン固体高分子電解質またはカチオン固体高分子電解質であることを特徴とする電気化学セル。
【請求項10】
請求項1に記載の電気化学セルを
複数個含む、廃水処理用の電気化学セルのスタック。
【請求項11】
請求項10に記載のスタックにおいて、
前記電気化学セルが少なくとも1本のロッドを介して接続され、2つの隣接する電気化学セル間に空間を形成するように配置され、前記空間が電気化学セル間で生成ガスの流れを可能にすることを特徴とするスタック。
【請求項12】
請求項11に記載のスタックにおいて、
1つの電気化学セルのアノード側が、スタック内の隣接する電気化学セルのアノード側を向いていること、または1つの電気化学セルのアノード側が、スタック内の隣接する電気化学セルのカソード側を向いていることを特徴とするスタック。
【請求項13】
電気化学セルの少なくとも1つのスタックを含む廃水処理用のシステムであって、
各スタックが、反応器タンク内に入れられた請求項8に記載
の電気化学セルを
複数個含み、
スタック内の電気化学セルの圧縮フレームの周辺領域が、前記反応器タンクの対向する壁に設けられたスロット内に位置することにより、両側に隣接して配置される電気化学セルから予め設定された距離で電気化学セルが配置され、それにより、隣接する電気化学セル間に空間が形成されて、前記空間が電気化学セル間で生成ガスの流れを可能にすることを特徴とするシステム。
【請求項14】
廃水を処理する方法であって、
a.請求項1に記載の少なくとも1つの電気化学セルを提供するステップであって、電気化学セルが、処理される廃水を含む反応器タンク内に入れられる、ステップと、
b.電気化学セルに電圧を印加するステップと、
c.電気化学セルを予め設定された電流密度で動作させ、それにより廃水中の汚染物質を分解するステップとを含み、
廃水が、圧縮フレームの圧縮アームの間および開孔メッシュを通って流れて、触媒層に到達し、廃水中の汚染物質を分解する反応を生じることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
前記電気化学セル
に1.3
~10Vの電圧を印加するステップと、及
び0.05
~1.0A/cm
2の動作電流密度で電気化学セルを動作させるステップを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物質の除去率を向上させた廃水処理用の電気化学セルに関し、特に、電気的保護を改善した、固体高分子電解質膜および集電およびセル圧縮システムを含む有機および無機汚染物質除去用の電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
人口の増加および生成される廃水の量の増加、厳格な廃水品質規制、清浄水のコストの増加および水不足、清浄水源の保護に対する認識および老朽化した廃水処理インフラの交換によって、新しい廃水処理の需要が大幅に増加している。業界は、厳しい排出基準とコスト圧力の両方を強いられており、排出前に厄介な廃水汚染物質を除去し、オンサイトの水再利用およびリサイクルシステムを採用して、給水および排水のコスト上昇を回避している。その要件は、化学物質の追加を必要とせず、二次汚染を引き起こさず、厳格な水質基準に準拠し、最小限の運転要件およびメンテナンス要件を持つ、費用対効果の高い持続可能な水処理システムに対するものである。
【0003】
産業廃水は有機化合物を含むことがあり、その多くは毒性がありかつ難分解性であり、従来の生物学的および化学的廃水処理に抵抗する。厄介な廃水を処理するための好ましいアプローチは、汚染物質を無機化し、廃棄物の有機負荷と毒性を減らすことができる電気化学的酸化などの非化学的酸化技術によるものである。電気化学的酸化は、持続可能で安全であり、残留性有機汚染物質、ダイオキシン、窒素種(例えば、アンモニア)、医薬品、病原体、微生物、重点汚染物質および殺虫剤の大部分など、多種多様な汚染物質を除去する高い処理効果を有している。廃水の電気化学的処理の分野では、廃水中の汚染物質を酸化するための2つの主要なアプローチがある。第1の方法は、アノード表面上に直接ある有機および/または無機汚染物質の直接電気化学酸化である。第2の方法は、化学的酸化種(ヒドロキシル、塩素、酸素または過塩素酸塩ラジカル、次亜塩素酸塩、オゾン、過酸化水素などの化合物)の現場生成による有機および/または無機汚染物質の間接電気化学酸化である。これらの化学的酸化種は、アノード表面で直接生成され、その後、廃水溶液内の汚染物質を酸化する。
【0004】
直接および間接電気化学的廃水処理のために、フロースルー平行板、分割チャンバ、充填床電極、積層ディスク、同心円筒、移動床電極およびフィルタプレスを含む様々なセル構造が開発されてきた。しかしながら、それら電気化学セル構造のすべてに共通するのは、高いエネルギー消費および/または低い汚染物質除去率につながる不十分な操作効率と性能である。
【0005】
国際公開第99/01382号は、廃水処理用の電解槽の性能を高めるために、例えば、処理される流体に1または複数の化学物質(例えば、酸、二酸化炭素、アルカリ、過酸化水素または塩)を添加することを開示している。
【0006】
支持電解質の添加の要件を排除するアプローチは、電解槽で固体高分子電解質(SPE)を使用することである。SPE技術は、水の電気分解による水素の生産や、高分子電解質膜燃料電池を使用したエネルギー生成などを含む、他の目的のために開発されてきた。
【0007】
一般に、廃水処理に用いられる固体高分子電解質(SPE)を使用する電気化学セルは、膜によって分離されたアノードおよびカソードと、廃水をアノードおよびカソードにそれぞれ供給する2つの流れ場プレートとを含む。そのような配置は、燃料電池および電解槽で使用されるセル設計と同様である。燃料電池および電解槽では、膜は、カソード側を流れる電解質をアノード側を流れる電解質から分離する必要がある。廃水処理に使用される電気化学セルは、アノード側とカソード側の完全な分離を必ずしも必要としないという点で、水素製造用の燃料電池および電解槽とは区別される。燃料電池と電解槽では、アノードとカソードの流れの混合を防ぐために膜の穿孔を避け、アノードとカソードのコンパートメント間のガス漏れを防ぐ必要がある。燃料電池と電解槽のもう1つの特徴は、圧力を失わずに流体がセルのアクティブ領域を通って、またはアクティブ領域にわたって移動できるようにするために、そのようなセルでアセンブリの気密性および液密性が必要なことである。
【0008】
固体高分子電解質(SPE)を使用する廃水処理用の電解槽の1つの構成が、例えば、本出願人の国際公開第2012/167375号に記載されている。このシステムは、カソードガス拡散層およびカソード触媒層を有するカソードと、アノード拡散層およびアノード触媒層を有するアノードと、アノード層とカソード層を分離する固体高分子膜電解質とを含む電解槽を備えている。廃水は、アノード流体送達層の隣に配置されたアノード流れ場プレートに設けられた流れ場チャネルを介して誘導することにより、アノード流体送達層との間で均一に送達される。廃水の電気化学的処理中に生成された水素ガスは、カソードから収集され、カソード流体送達層の隣に配置された流れ場プレートに設けられた流れ場チャネルを介して電解槽の外に導かれる。このシステムは、スタックに直列および/または並列配置された複数の電解槽を含むことができ、陰極液または他の支持電解質なしで動作することができる。
【0009】
支持電解質を使用せずに低伝導性廃水を処理するための別のアプローチが、国際公開第2005095282号/米国特許第7,704,353号に開示されている。このシステムは、低伝導性廃水の単一チャンバ内に配置されたアノード電極とカソード電極の間に挟まれた固体高分子電解質を使用する。電極は、例えば、ドープされたダイヤモンド層でコーティングされたエキスパンドメタルグリッドであり、電極とその間の高分子固体電解質によって形成されたアセンブリの四隅の領域に配置されたボルトによって高分子固体電解質の方向にクランプされ、ボルトが、槽の縁部で電極および固体電解質を通って突き出ている。いくつかの実施形態では、電極が、ドープされたダイヤモンド層でコーティングされた金属板であり、高分子電解質が、互いに離れて配置され電極間に配置された垂直ストリップに形成されている。この先行技術文献で使用されるシステムは、高分子固体電解質に作用する電極の比較的低い接触圧力と、電極の比較的低い機械的安定性とに依存している。圧力は、アセンブリの四隅の領域に配置されたねじボルトによって、高分子固体電解質の方向に2つの電極をクランプすることによって加えられる。この配置は、高分子固体電解質と電極との間の接触が特定の領域、例えばアセンブリの中心で維持することができず、それが、このシステムの動作効率に悪影響を及ぼすという欠点を示している。さらに、高分子固体電解質材料のストリップを含む解決策は、導電性領域を減らすことによりシステムの動作効率も低下させる。このセットアップの汚染物質の無機化のエネルギー消費は、必要とされる高電圧のために高く、それは、この槽アセンブリの高い抵抗損失を示しており、本出願人によって認識されていなかった事実である。
【0010】
従来技術からの廃水処理用の電気化学セルの別の例は、Goncalves等により、Electrochimica Acta 121(2014)1-14に開示されており、この文献は、酸化層がステンレス鋼の微細メッシュ基板上に支持されているSb-SnO2電極を使用するSPE(固体高分子電解質)フィルタプレスセルについて述べている。SPEセルの望ましい構成を得るために、ステンレス鋼メッシュを電極(アノードとカソード)の間に配置し、ステンレス鋼製の穴あき集電体を使用して、集電体の縁部に固定したスプリングを介してSPEに均一に圧力が分散されるようにしている。電極/SPE/水の界面での十分な機械的/電気的接触を促進するために、集電体に固定されたばね荷重ネジを締めることにより、0.5kgfcm-2の圧力がかけられた。ばね荷重ネジは、活性領域を取り囲むように、集電体の縁部に固定された。この開示は、「この手順により、SPEの適切な圧縮が確保され、ゼロギャップに必要な条件が提供された」および「これにより膜の破裂も防止された」と述べている。このアセンブリは水に浸された。この先行技術文献は、SPEフィルタプレス反応器の使用によって電極の不活性化を防止することはできなかった、すなわち酸化物バルク内の導電率の漸進的低下により電極が不活性化された、と結論付けている。
【0011】
このフィルタプレスに使用される金属支持体は、チタンの代わりにステンレス鋼であり、これが電極の不活性化および性能低下を引き起こした可能性がある。著者が認識していなかったこのセルの性能低下の別の原因は、穴あき集電体の使用である可能性があり、それが、燃料電池または電解槽のようなアセンブリの流れ場と同様に、プレートの固体部分の下の触媒反応部位の閉塞により、高レベルの触媒失活をもたらし得る。Goncalves等によって提示されたフィルタプレスは、活性領域の縁部のみでばね荷重ネジを使用する圧縮システムが原因で、スケールアップして、大量の廃水の処理を達成することができなかった。これは、膜の破裂を防ぐことを目的として行われたものであった。スケールアップしたシステムでは、そのような圧縮システムが、縁部からさらに離れた活性領域の部分(例えば、活性領域の中心部)における電極間に大きなギャップを生じさせる。
【0012】
本出願人は、国際公開第2017/123969号に開示されているように、電気化学セルのスタックが、処理される廃水を含む反応器タンク内に入れられたシステムも開発しており、このシステムにおいて、各電気化学セルが、固体高分子電解質(SPE)膜、アノードおよびカソード触媒層を含み、各触媒層が、固体高分子電解質膜の一方の面に隣接し、かつ開孔メッシュも含み、各開孔メッシュが触媒層に隣接している。このシステムは、圧縮フレームをさらに備え、各フレームが、開孔メッシュに隣接し、その外周で区切られた領域内に広がる圧縮アームを有し、圧縮アームが、接続部位で互いに接続されている。このシステムはさらに留め具を含み、この留め具が、接続部位における圧縮フレームのアームに設けられた穴と、開孔メッシュに設けられた穴と、触媒被覆膜を介して突き出して、2つの圧縮フレーム間の、固体高分子電解質膜、触媒層および開孔メッシュを圧縮している。このシステムは、流れ場プレートとランダムで不均一な多孔質媒体(ガス拡散層)の除去により、低い運転コストでより高い汚染物質除去率を達成することが実証されている。このシステムは低電圧動作とエネルギー消費を提供し、様々な排水流量で動作することができる。
【0013】
本出願人の係属中の特許出願に記載のシステムでは、電気化学セルの開孔メッシュおよび圧縮フレームが、電流収集のために、導電性材料でできている。そのようなシステムでは、セル構成要素間、例えば、触媒被覆膜の両側の2つの開孔メッシュ間の電流の短絡を防止する必要がある。
【0014】
本出願人の係属中の出願に記載の電気化学セルのスタックのシステム性能は大幅に改善されているが、電流短絡に対するセルのより安全な保護を提供することにより、システムをさらに改善する必要がある。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、廃水処理用の電気化学セルを記載し、この電気化学セルが、固体高分子電解質膜と、固体高分子電解質膜の第1の面に隣接するアノード触媒層と、固体高分子電解質膜の第1の面と反対側の第2の面に隣接するカソード触媒層とを備える。電気化学セルはさらに、アノード触媒層に隣接する第1の開孔メッシュと、カソード触媒層に隣接する第2の開孔メッシュと、第1の開孔メッシュに隣接する第1の圧縮フレームと、第2の開孔メッシュに隣接する第2の圧縮フレームとを備え、各圧縮フレームが、フレームの外周で区切られた領域内に広がる圧縮アームを有し、各圧縮アームが接続部位で互いに連結されている。留め具は、第1および第2の圧縮フレームの圧縮アームの接続部位に設けられた穴と、第1および第2の開孔メッシュに設けられた穴と、固体高分子電解質膜およびアノード触媒層およびカソード触媒層とを通って突き出している。留め具は、2つの圧縮フレーム間の固体高分子電解質膜、触媒層および開孔メッシュを圧縮する力を提供する。各開孔メッシュは、平坦面と、この平坦面から隆起したエンボス面とを含む。
【0016】
第1の開孔メッシュおよび第2の開孔メッシュの各エンボス面は、個別のエンボス領域を含み、各エンボス領域が、開孔メッシュに設けられた穴を取り囲む。第1の開孔メッシュおよび第2の開孔メッシュのエンボス面は、横断エンボス領域をさらに含むことができ、各横断エンボス領域が、開孔メッシュの穴を取り囲む2つのエンボス領域を接続し、かつ組立後の電気化学セルにおいて圧縮フレームの圧縮アームに隣接して配置される。第1および第2の開孔メッシュのエンボス面は、各開孔メッシュの外周に沿ってその縁部に配置される周辺エンボス領域をさらに含むことができる。
【0017】
第1および第2の開孔メッシュに設けられた穴を取り囲む開孔メッシュのエンボス領域、組立後の電気化学セルの圧縮アームの下に適合する横断エンボス領域、および/または開孔メッシュの外周に沿ってその縁部に配置される周辺エンボス領域の各々は、隆起した平坦領域と、このエンボス領域の隆起した平坦領域を開孔メッシュの平坦面に接続する傾斜領域とを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、電気化学セルが、アノードを向く開孔メッシュの穴を取り囲むエンボス領域とアノード触媒層との間に配置されるスペーサ、および/またはカソードを向く開孔メッシュの穴を取り囲むエンボス領域とカソード触媒層との間に配置されるスペーサをさらに含む。スペーサは、ゴム、例えばEPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)、Buna-N(ニトリルゴム)またはViton(商標)で作ることができる。
【0019】
好ましい実施形態では、固体高分子電解質膜に、留め具の貫通を可能にする穴が設けられている。開孔メッシュの穴は、好ましくは、固体高分子膜の穴よりも大きく、かつ/または圧縮アームの穴よりも大きい。
【0020】
開孔メッシュのエンボス面は、開孔メッシュの材料の弾力性と、CCM、開孔メッシュおよび圧縮フレームにより形成されるアセンブリに留め具によって加えられる圧縮力と、開孔メッシュの厚さとに基づいて、寸法が設定されている。開孔メッシュのエンボス面は、留め具によって加えられる圧縮力の下で、2つの開孔メッシュが互いに接触しないように、寸法が設定されている。
【0021】
好ましい実施形態では、電気化学セルの各圧縮フレームが、フレームの一側に周辺領域を含み、その周辺領域が、電気化学セルの反対側の圧縮フレームを越えて延びるとともに、少なくとも1の穴を有しており、電気化学セルが反応器タンクの壁のスロットに取り付けられたときに、処理される廃水が、その穴を通って、電気化学セルの一方の側から他方に流れることができる。組立後の電気化学セルでは、一方の圧縮フレームの周辺領域が、セルの他方の圧縮フレームの周辺領域とは反対の方向に延び、両方の周辺領域が、反応器タンクの対向壁に設けられたスロットに嵌入される。
【0022】
いくつかの実施形態では、電気化学セルの各圧縮フレームが、フレームの両側の各々に周辺領域を含み、それら周辺領域が反応器タンクのスロットに嵌入し、各周辺領域が少なくとも1の穴を備え、そのような電気化学セルのスタックが反応器タンク内に入れられると、タンク内の廃水溶液が、圧縮フレームの周辺領域に設けられた穴を通って、電気化学セルの一方の側から反対側に流れることができる。
【0023】
好ましい実施形態では、アノード触媒層およびカソード触媒層の各々が、固体高分子電解質膜のそれぞれの面上に置かれて、触媒被覆膜(CCM)を形成する。
【0024】
他の実施形態では、アノード触媒層が、固体高分子電解質膜の一方の面上に置かれ、カソード触媒層が、膜の反対側の面を向く開孔メッシュの面上に置かれる。同様に、他の実施形態では、カソード触媒層が、固体高分子電解質膜の一方の面上に置かれ、アノード触媒層が、膜の反対側の面を向く開孔メッシュの面上に置かれる。さらに、他の実施形態では、アノード触媒層が、第1の開孔メッシュの一方の面上に置かれ、カソード触媒層が、第2の開孔メッシュの一方の面上に置かれ、触媒層でコーティングされた開孔メッシュの各面が、膜の反対側を向いている。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、固体高分子電解質膜が周辺部分を有し、この周辺部分が、触媒層を越えて延びるとともに、第1および第2の圧縮フレームの間に突き出して2つのフレーム間を電気的に絶縁する。
【0026】
圧縮フレーム間の膜、触媒層および開孔メッシュにより形成されたアセンブリを圧縮するために使用される留め具は、非導電性材料により形成されている。
【0027】
本発明の電気化学セルの圧縮フレームおよび開孔メッシュは、導電性材料により形成されている。例えば、圧縮フレームは金属またはセラミック材料により形成されている。
【0028】
本発明の電気化学セルでは、開孔メッシュが、処理される廃水の触媒反応部位への容易なアクセスを可能にし、かつ生成ガスの容易な除去も可能にする多孔率を有する。好ましい実施形態では、開孔メッシュが、約30~約95%の多孔率を有する。
【0029】
いくつかの実施形態では、固体高分子電解質膜がアニオン固体高分子電解質である。他の実施形態では、固体高分子電解質膜がカチオン固体高分子電解質である。
【0030】
本発明は、本明細書に記載の少なくとも1の電気化学セルを含む廃水処理用の電気化学セルのスタックにも関する。一部の小規模用途では、スタックが6以下の電気化学セルで構成される。好ましくは、廃水処理用の電気化学セルのスタックは、本明細書に記載のアーキテクチャを有する50個の電気化学セルを含む。一般に、廃水処理用の電気化学セルのスタックは、最大500個の電気化学セルを含むことができる。
【0031】
スタック内の電気化学セルは、少なくとも1本のロッドを介して接続され、2つの隣接する電気化学セル間に空間を生成するように配置され、この空間がセル間で生成ガスの流れを可能にする。電気化学セルの各圧縮フレームに、少なくとも1の穴を有する周辺領域が設けられた電気化学セルを含むスタックの場合、電気化学セルは、ロッドを介してセルを接続する代わりに、圧縮フレームの周辺領域を、反応器タンクの対向壁に設けられたスロット内に取り付けることにより、反応器タンク内に配置される。スロットは互いに一定の距離で配置され、これにより、スタック内の隣接する電気化学セル間に適切な空間を確保して、スタック内の電気化学セル間で生成ガスが流れることを可能にする。
【0032】
いくつかの実施形態では、スタックが、いくつかの電気化学セルを備え、1つの電気化学セルのアノード側が、スタック内の隣接する電気化学セルのアノード側を向いている。いくつかの他の実施形態では、スタック内の1つの電気化学セルのアノード側が、隣接する電気化学セルのカソード側を向いている。
【0033】
本発明は、処理される廃水を含む反応器タンク内に入れられた電気化学セルの少なくとも1のスタックを含む廃水処理用のシステムに関し、スタック内の電気化学セルが、本明細書に記載の構成要素および構造を有する。スタックは、直列または並列に接続することができる。
【0034】
本システムの反応器タンクは、ガス排出ポートを有する蓋を備え、スタック動作中に生成された生成ガスが、ガス排出ポートを通って反応器タンクの外側に流れる。好ましくは、反応器タンクはレベルセンサを含む。
【0035】
廃水を処理する方法も記載されており、この方法が、
a.本明細書に記載の構造を有する電気化学セルを提供するステップであって、電気化学セルが、処理される廃水を含む反応器タンク内に入れられる、ステップと、
b.電気化学セルに電圧を印加するステップと、
c.電気化学セルを予め設定された電流密度で動作させ、それにより廃水中の汚染物質を分解するステップとを含み、
廃水が、圧縮フレームの圧縮アームの間および開孔メッシュを通って流れて、触媒層に到達し、廃水中の汚染物質を分解する反応を生じる。
【0036】
好ましい実施形態では、この方法が、電気化学セルに約1.3~約10Vの電圧を印加するステップを含む。さらに、いくつかの実施形態では、この方法が、約0.05~約1.0A/cm2の動作電流密度で電気化学セルを動作させるステップをさらに含む。
【0037】
本発明の方法は、電気化学セルの動作中の予め設定された時間に反応器タンク内の廃水からサンプルを採取するステップと、そのサンプルが水純度要件を満たす場合に、廃水を排出タンクに排出するステップとをさらに含む。反応器タンク内の廃水からサンプルを採取するための予め設定された時間は、処理される廃水の量と、実験的に判定される汚染物質除去率とに基づいて、決定することができる。
【0038】
廃水処理用の電気化学セルを組み立てる方法も開示されており、この方法が、
a.固体高分子電解質膜と、固体高分子電解質膜の第1の面に隣接するアノード触媒層と、固体高分子電解質膜の第1の面と反対側の第2の面に隣接するカソード触媒層とを提供するステップと、
b.アノード触媒層に隣接する第1の開孔メッシュと、カソード触媒層に隣接する第2の開孔メッシュとを配置するステップであって、第1および第2の開孔メッシュの各々が、平坦面と、この平坦面から隆起したエンボス面とを含む、ステップと、
c.第1の開孔メッシュに隣接する第1の圧縮フレームと、第2の開孔メッシュに隣接する第2の圧縮フレームとを配置するステップであって、各圧縮フレームが、導電性材料により形成されるとともに、接続部位で互いに接続された圧縮アームを有し、圧縮アームが、フレームの外周で区切られた領域内に広がる、ステップと、
d.第1および第2圧縮フレームの圧縮アームの接続部位に設けられた穴、第1および第2の開孔メッシュに設けられた穴、および固体高分子電解質膜およびアノード触媒層およびカソード触媒層を介して、留め具を挿入するステップと、
e.留め具によって提供される圧縮力により、接続部位において、固体高分子膜、第1の開孔メッシュ、第2の開孔メッシュ、第1の圧縮フレームおよび第2の圧縮フレームを圧縮するステップとを含み、
圧縮フレームによって区切られた電気化学セルの領域にわたって実質的に均一な圧縮力を提供するように、接続部位が、フレームの外周によって区切られた領域内に分布する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図面は、本発明の特定の好ましい実施形態を示しているが、決して本発明の主旨または範囲を制限するものと見なされるべきではない。
【
図1】
図1は、本発明に係る廃水処理用の電気化学セルの分解図を示している。
【
図2】
図2は、組み立てられた状態の電気化学セルの概略図を示し、セル構成要素が、2つの圧縮フレーム間で圧縮され、ねじ荷重ボルトおよびナットを使用して一緒に組み立てられている。
【
図3】
図3は、
図2に示す電気化学セルアセンブリの線分A-Aに沿った断面を示している。
【
図4】
図4は、本発明の別の実施形態の断面を示しており、留め具の近くのエンボス加工された開孔メッシュを支持するためのスペーサを含む。
【
図5】
図5は、穴の周囲のエンボス領域、横断エンボス領域および周辺エンボス領域を有するエンボス開孔メッシュ、および電流伝導リードを一つのみ有する圧縮フレームを含む、本発明の電気化学セルの別の実施形態を示している。
【
図6】
図6は、
図5に示す実施形態に係るエンボス加工された開孔メッシュを示している。
【
図7】
図7は、
図5に示す電気化学セルの線分B-Bに沿った断面を示している。
【
図8】
図8は、本発明に係る構造を有する電気化学セルのスタックの概略図を示している。
【
図9】
図9は、反応器タンクと、本発明に係る構造を有する電気化学セルのスタックとを含む廃水処理用のモジュールの分解図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書では特定の用語が使用されるが、それらは以下に与えられる定義に従って解釈されることを意図している。また、「a」や「comprises」などの用語は、オープンエンドと見なされる。さらに、本明細書で引用したすべての米国特許公報および他の文献は、引用によりそれらの全体が援用されることを意図している。
【0041】
本明細書において、SPEは、固体高分子電解質を表し、Nafion(登録商標)などの任意の適切なイオン伝導性イオノマー(アニオンまたはカチオン、有機または無機形態の何れか)であり得る。したがって、SPE電気化学セルは、電気エネルギーが供給されて所望の電気化学反応をもたらす(セルのアノードに正電圧が印加される)、電解質としてSPEを含むセルである。
【0042】
本明細書において、数値に言及する場合、「約」という用語は、特に明記しない限り、言及されている値のプラスまたはマイナス10%以内の値の範囲を含むと解釈されることを意図している。
【0043】
本発明に係る廃水処理用の例示的な電気化学セルが、
図1の分解図に示されている。電気化学セル100は、触媒被覆膜102(CCM)を備え、この触媒被覆膜が、その両側のそれぞれに触媒層106でコーティングされた固体高分子電解質膜104から構成されている。膜の第1の面上の1つの触媒層106のみが
図1に示されており、例えば、これはアノード触媒層であり得るが、当業者であれば、膜の反対面も触媒層でコーティングされており、それが、この実施例ではカソード触媒層であり、アノード触媒層と実質的に同じ面積を有することができることを容易に理解するであろう。これに関連して、本開示では、電気化学セルのアノード活性領域は、アノード側の触媒層でコーティングされた膜(または、代替的な実施形態においていさらに述べる開孔メッシュ)の領域として定義され、カソード活性領域は、カソード側の触媒層でコーティングされた膜(または開孔メッシュ)の領域として定義される。図示の実施形態では、固体高分子電解質膜104に、さらに後述するように、電気化学セルの組立中に留め具122が膜を通って延びることを可能にする穴105が設けられている。別の実施形態では、固体高分子電解質膜104に、穴が予め形成されておらず、その場合、電気化学セルの組立プロセス中に留め具が膜を貫通する。
【0044】
電気化学セルは、触媒被覆膜102に隣接してCCMの各面に配置された開孔メッシュ108、110と、開孔メッシュ108、110にそれぞれ隣接して配置された圧縮フレーム112、114とをさらに含む。開孔メッシュ108、110は、メッシュの相対的大きな多孔率を可能にする開孔が設けられたメッシュであり、電気化学セルの組立中に留め具122の貫通を可能にする穴115、116をそれぞれ有し、それら穴の周りにエンボス領域150、160がそれぞれ設けられている。個別のエンボス領域を含む開孔メッシュ108、110のより詳細な図は、後述する
図3に示されている。開孔メッシュ108、110のそれぞれの面積は、膜の触媒被覆領域である電気化学セルのアノードおよびカソードそれぞれの活性領域と実質的に同じである。CCM(102)の周辺の領域128は、その外周に沿って、触媒でコーティングされておらず、電気的遮蔽機能を持っている。
【0045】
図示の例では4辺を有する矩形状の圧縮フレーム112、114は、それぞれ、接続部位120、121で互いに接続された圧縮アーム107、118を有し、それら圧縮アームが、圧縮フレームの四辺間の領域内に延びている。電気化学セルの組立中に留め具122の貫通を可能にするために、圧縮フレームの接続部位120、121に穴119、123がそれぞれ設けられている。接続部位は、各圧縮フレームの4辺の間の領域内に分散配置されている。圧縮フレーム112、114には、セルを電源、一般的にはDC電源に接続するためのリード130、131がそれぞれ設けられている。当業者であれば、圧縮フレーム112、114が本図に示される矩形状とは異なる形状を有することができ、圧縮アーム107、118および接続部位120、121が、各圧縮フレームについて、その外周によって区切られる領域内に分散配置されることを理解するであろう。矩形状の圧縮フレームの場合、フレームの外周はその辺によって定義される。
【0046】
図1、
図2、
図3、
図8、
図9では、留め具122が、必要な圧縮力を確保するためにナット126と協働するねじ付きボルトとして示されているが、当業者であれば、他の任意の留め具、例えば、
図4に示すようなリベットが、開孔メッシュおよびCCM上に圧縮フレームによって加えられる圧縮力を与えるために使用されるようにしてもよく、そのような留め具が、必要とされる圧縮力を確保するために如何なる追加の要素も必要としないことを理解するであろう。
【0047】
開孔メッシュ108、110は、触媒層上の反応部位に対する汚染水および処理水の容易なアクセスを可能にするとともに、触媒層に隣接して形成されるガスの容易な除去を可能にする相対的に高い多孔率を有する。本発明において、多孔率は、開口面積とメッシュの体積との間の比として定義される。使用できるメッシュのタイプには、250~550ミクロンのメッシュ厚、22~50ミクロンの繊維直径、50~85%の気孔率を有するBekaertによって提供される焼結チタン繊維メッシュと、10~5,000ミクロンのメッシュ厚、0.04~0.055インチのストランド幅、30~95%の気孔率、1平方インチあたり約33~493の開口部、LWD(菱形の対角線長辺)において0.075~0.289インチ、SWD(菱形の対角線短辺)において0.032~0.2インチの寸法の菱形の開口部を有し、例えば供給者のウェブサイトに記載されているように、LWDおよびSWDが菱形開口部の対角線の寸法である、Dexmetにより提供されるエキスパンドメタルメッシュとが含まれるが、それらに限定されるものではない。好ましくは、開孔メッシュは、10~5000ミクロンの厚さおよび約30~95%の多孔率を有する導電性金属またはセラミックでできている。
【0048】
電気化学セルは、留め具122を使用して、開孔メッシュ108と110の間、および圧縮フレーム112と114の間でCCM102を圧縮することにより、一緒に組み立てられ、留め具は、圧縮アーム107、118の接続部位120、121に設けられた穴119、123、開孔メッシュ108、110に設けられた穴115、116、触媒層106、および固体高分子電解質膜104に設けられた穴105を通って延びる。固体高分子電解質膜104が如何なる穴も含まない場合は、留め具122は、電気化学セルが組み立てられるときに、膜を直接貫通することができる。留め具122には、留め具から圧縮アーム107に圧縮力を拡散するワッシャ124を設けることができ、代替的には、圧縮力を拡散することができる形状を有することができる。
【0049】
留め具122、ワッシャ124およびナット126は、非導電性材料で作られている。本発明の電気化学セルでは、留め具122が、圧縮フレームの全領域にわたって分布する接続部位、開孔メッシュおよびCCMを貫通して、電気化学セルの活性領域全体にわたる圧縮力の実質的に均一な分布を確保するとともに、電極間の減少したギャップを維持する。これは、電気化学セルの圧縮を、セルの周囲に配置されたばね荷重ボルトを介したフレームの周辺圧縮のみによって達成し、圧縮手段のSPE膜の貫通を回避するようにした既存の先行技術に記載の圧縮システムとは異なる。
【0050】
SPE膜104は、本圧縮システムにより、電極(膜のアノード側およびカソード側の触媒層)間のギャップを減少させる。図示の電気化学セルは、触媒層を支持するためのガス拡散層を含んでおらず、電極は、この実施形態では膜の一方の面にそれぞれ置かれたアノードおよびカソード触媒層106のみを含み、それが、より低い運転コストに寄与している。他の実施形態では、触媒層の各々を開孔メッシュ108、110の一方の面上に、より具体的には膜104に面する開孔メッシュの側に、置くことができる。開孔メッシュ108、110は、ローカル電流収集を提供する。圧縮フレーム112、114は、開孔メッシュ108、110の外周電流収集を可能にし、それらの圧縮アーム107、118は、主に圧縮アームとそれぞれの接続部位の分布により、開孔メッシュ、膜および触媒層の実質的に均一な圧縮をそれぞれアノード活性領域とカソード活性領域の全体にわたって達成する。圧縮フレーム112、114は、例えば、0.5~5mmの厚さを有する導電性金属またはセラミックでできている。当業者は、接続部位の数および圧縮フレームのアスペクト比が変わる可能性があり、開孔メッシュおよびCCMの実質的に均一な圧縮を可能にするとともに、市販の異なるサイズの固体高分子膜に対応するように構成することができることを理解するであろう。例えば、
図5は、
図1、
図2、
図8、
図9に示す圧縮フレームの1つとは異なる矩形状の圧縮フレームの様々なアスペクト比、および接続部位の様々な分布を示している。
【0051】
図1の電気化学セルは、その組み立てられた状態で
図2に示されている。触媒で被覆されていない固体高分子電解質膜の領域128は、圧縮フレームの間に突出し、それにより膜が圧縮フレーム間に電気的遮蔽を提供する。
【0052】
図2の電気化学セルアセンブリのA-A断面が
図3に示されている。触媒被覆膜(CCM)102は、開孔メッシュ108、110間に配置されている。留め具122は、圧縮フレーム112、114の穴119、123、開孔メッシュ108、110の穴115、116、CCM102の穴105を通って突き出し、ナット126と協働して、アセンブリ全体の圧縮を確保する。
【0053】
開孔メッシュ108のエンボス領域150および開孔メッシュ110のエンボス領域160は、隆起平坦領域154、164と、それら隆起平坦領域154、164を開孔メッシュの平坦面142、152にそれぞれ接続する傾斜領域156、166とを含む。開孔メッシュの隆起平坦領域154、164には、穴115、116が設けられている。エンボス領域150、160の隆起平坦領域および傾斜領域の絶対寸法および相対寸法は、開孔メッシュの厚さを考慮しながら、開孔メッシュの材料の弾力性と、留め具によりアセンブリに加えられる圧縮力とに基づいて計算することができる。何れにしても、エンボス領域の寸法は、留め具により加えられる圧縮力と開孔メッシュの材料の弾力性とに基づいて計算し、それによりCCMの一方の面上の開孔メッシュがCCMと留め具との間の空間を通って突き出さないように、かつCCMの反対側の面上の開孔メッシュと接触しないようにする必要がある。
【0054】
図3に示すように、開孔メッシュ108、110のエンボス領域150、160は、それぞれ平坦面142、152から隆起しているため、開孔メッシュ108、110は、留め具122を取り囲む領域において、CCM102に近付くことはなく、所定距離互いに分離される。これにより、2つの開孔メッシュの端部がCCMに接触または接近した場合、またはCCMに設けられた穴105を介して互いに接触した場合に発生する可能性のある電気的短絡を防止することができる。当業者は、
図3、
図4、
図7が、CCM、開孔メッシュおよび圧縮フレームにより形成されたアセンブリに留め具によって必要な圧縮力が加えられた、組立状態の電気化学セルを示していることを容易に理解するであろう。
【0055】
図4は、本発明のエンボス加工された開孔メッシュを含む電気化学セルの別の実施形態のA-A断面を示している。この実施形態は、
図3に示すものと同じ、同様の符号の構成要素を含む電気化学セルを示している。電気化学セルは、2つの開孔メッシュ208、210間、および2つの圧縮フレーム212、214間に配置されたCCM202を含む。留め具222は、電気化学セルの構成要素の圧縮を確保する。この実施形態では、留め具222がリベットであり、よって電気化学セルの圧縮を確保するために他の構成要素は不要である。
図3に示す実施形態と同様に、各開孔メッシュは、平坦面242、252およびエンボス領域250、260を含み、各エンボス領域が、隆起平坦領域254、264および傾斜領域256、266を含み、各傾斜領域が、開孔メッシュの平坦面を隆起平坦領域に接続する。
図4に示す実施形態は、開孔メッシュ208とCCM202との間に配置されたスペーサ270と、CCMの反対側であって、他の開孔メッシュ210とCCM202との間に配置されたスペーサ272とをさらに含む。スペーサ270、272は、開孔メッシュをCCMからある距離に保ち、それにより、アセンブリに圧縮力が加えられたときに2つの開孔メッシュ間の偶発的な接触を防止する。これは、開孔メッシュが薄くかつ/または非常に柔軟な材料で作られている場合に特に有用である。スペーサ270、272は、ゴム、例えば、EPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)、Buna-N(ニトリルゴム)またはViton(商標)から作られている。留め具222は、開孔メッシュ208、210の穴215、216、スペーサ270、272の穴213、217、CCMの穴205、および圧縮フレーム212、214の穴219、223を通って突き出し、組み立てられた状態での電気化学セルの圧縮を確保する。
【0056】
本発明のすべての実施形態では、開孔メッシュの穴が、触媒被覆膜の穴および圧縮フレームの穴よりも大きいものとして示されている。当業者は、留め具の貫通を可能にする開孔メッシュの穴が、CCMの穴および/または圧縮フレームの穴と同じサイズを有することができることを容易に理解するであろう。
【0057】
本発明に係る電気化学セルの別の実施形態の正面図が
図5に示されている。この実施形態は、CCM、開孔メッシュおよび圧縮フレームの全体的な相対的配置に関して
図1および
図2に示すものと同様であるが、圧縮アームとその接続部位の数と分布を含む圧縮フレームの設計、開孔メッシュの設計、留め具が通る開孔メッシュおよびCCMの穴の数、各圧縮フレームの電流伝導リードに関して、
図1および
図2に示す実施形態とは異なる。
【0058】
電気化学セル300は、圧縮アーム(例えば、307)を有する2つの圧縮フレーム312、314と、2つの開孔メッシュ(
図5では、1つの孔メッシュのみが開孔メッシュ308として示されている)間、および圧縮フレーム312、314間のCCM302の必要な圧縮を可能にする留め具322とを含む。リベットは、この電気化学燃料電池の圧縮を確保するための留め具として使用されている。
【0059】
この実施形態では、圧縮フレーム312、314の各々に、
図1に示す2つのリード130、131の代わりに、1つのリード330、332のみが設けられている。この代替的な実施形態の各圧縮フレームのリード330、332は、
図1に示すリード130、131の各々よりも幅が広いことが好ましい。
【0060】
さらに、各圧縮フレーム312、314は、それぞれ周辺領域311、313を含み、各々が、それぞれの圧縮フレームの片側に位置し、穴343、345がそれぞれ設けられている。電気化学セルが組み立てられるとき、
図5に示すように、フレーム312の周辺領域311は、圧縮フレーム314を超えて延び、圧縮フレーム314の周辺領域313は、圧縮フレーム312を超えて延びる。電気化学セル300は、圧縮フレームの周辺領域を、反応器タンクの対向する2つの壁に設けられたスロット内でスライドさせることにより、反応器タンクに取り付けることができる。複数の電気化学セルが反応器タンクに取り付けられる場合、反応器タンクの対向する2つの壁の各々のスロットは、スタック内の電気化学セル間の間隔を与えるために、互いに一定の距離に配置される。圧縮フレームの周辺領域の穴343、345は、電気化学セルがタンク内の廃水溶液によって実質的に取り囲まれるように、タンク内の廃水溶液が電気化学セルの一方の側から他方の側に循環することを可能にする。当業者は、いくつかの実施形態では、適切な寸法の、電気化学セルの圧縮フレームの周辺領域の各々にある1つの穴のみでも、所望の効果を達成するのに十分であることを容易に理解するであろう。さらに、いくつかの実施形態では、各圧縮フレーム312、314が、フレームの両側の各々に周辺領域を有することができ、圧縮フレームの周辺領域の穴が、電気化学セルの一方の側から他方の側に廃水が到達することを可能にする。
【0061】
図5の電気化学セルの一部として示す開孔メッシュ308は、
図6により詳細に示されている。開孔メッシュ308は、平坦面342およびエンボス面344を含む。エンボス面344は、開孔メッシュ308の外周に沿う周辺エンボス領域346と、組み立てられた電気化学セル内で圧縮フレーム312の圧縮アーム307に隣接して配置される横断エンボス領域348と、開孔メッシュに設けられた穴315を取り囲むエンボス領域350とを含む。横断エンボス領域は、穴315を取り囲むエンボス領域を、互いに、かつ周辺エンボス領域に接続する。
【0062】
穴315の周りの開孔メッシュ308のエンボス領域350は、
図3または
図4に示すエンボス領域150、160、250または260と同じように見え、隆起平坦領域および傾斜領域を含む。
図1に示す開孔メッシュ108と
図6に示す開孔メッシュ308との違いは、開孔メッシュ308が、横断エンボス領域348と、開孔メッシュの外周に沿った周辺エンボス領域346も含むことである。また、周辺エンボス領域346は、
図6に示すように、留め具を通す穴315も含む。
【0063】
圧縮フレームの圧縮アームに隣接する開孔メッシュの横断エンボス領域を含む、
図5の電気化学セル300の領域のB-B断面が、
図7に示されている。この断面図は、圧縮フレーム312、314の圧縮アーム307、318に隣接して配置された横断エンボス領域348、368を示している。CCM302は、2つの圧縮フレーム312、314間に配置された2つの開孔メッシュ308、310間に配置されている。各開孔メッシュ308、310は、それぞれ平坦面342、352および横断エンボス領域348、368を含み、各横断エンボス領域が、それぞれ隆起平坦領域354、364および傾斜領域356、366を含み、それら傾斜領域が、横断エンボス領域の隆起平坦領域を取り囲み、それを開孔メッシュの平坦面に接続する。
【0064】
また、開孔メッシュ308の外周に沿ったその縁部にある周辺エンボス領域346は、
図7に示す隆起領域および傾斜領域と同様の隆起平坦領域および傾斜領域を含み、当業者は、周辺エンボス領域346が隆起平坦領域を含み、この隆起平坦領域が開孔メッシュの外周に沿って伸び、傾斜領域を介して開孔メッシュの平坦面に接続することを容易に理解するであろう。
【0065】
いくつかの実施形態では、各開孔メッシュが、メッシュに設けられた穴の周囲の個別のエンボス領域と周辺エンボス領域のみを含み、他の実施形態では、各開孔メッシュが、メッシュに設けられた穴の周囲の個別のエンボス領域と、穴の周りの個別のエンボス領域を接続する横断エンボス領域のみを含むことができる。すべての実施形態において、周辺エンボス領域は、留め具を通す穴も含む。
【0066】
図1に示す本発明の第1の実施形態に係る電気化学セルのスタックが
図8に示されている。スタック400は、上述した
図1および
図2に示すものと同じ構成を有する複数の電気化学セル100を含む。セルは、個々のセル100間に必要な間隔409を提供する少なくとも1本のロッド403を介して互いに接続されている。図示のスタックでは、電気化学セルを必要な間隔に配置するために2本のロッドが設けられている。図示のスタックは6個の電気化学セルを含むが、当業者は、本発明に係るスタックがより多くの電気化学セルを含むことができ、あるいは非常に小規模の用途では、6個未満の電気化学セルを含むことができることを理解するであろう。好ましい実施形態では、1つのスタックが50個のセルを含むが、スタックは約500個までの個々の電気化学セルを含むことができる。反応器タンク内に配置されたスタックの電気化学セルが、
図5に示す電気化学セル300の構成を有する場合、スタックを形成する電気化学セル300の各々は、反応器タンクの対向する壁に設けられた対応するスロットに配置されて、セル間に必要な空間が設けられ、それにより、廃水溶液がセル間の空間と、圧縮フレームの周辺領域に設けられた穴とを通って流れることができ、各セルが反応器タンク内の廃水溶液に実質的に浸されることとなる。
【0067】
電気化学セルは、スタックに組み立てられるときに、1つの電気化学セルのアノード側が隣接するセルのカソード側を向くように、または1つの電気化学セルのカソード側が隣接するセルのカソード側を向き、かつ1つの電気化学セルのアノード側が隣接するセルのアノード側を向くように配置されることができる。
【0068】
廃水処理用のモジュール500は、
図9の分解図に示すように反応器タンク内に入れられた電気化学セルのスタック400を含む。スタック400は、
図8に示すものと同様の設計を有するものであり、スタック内の各電気化学セルの電極が廃水および汚染物質に直接曝されるように、反応器タンク502内に収容されている。モジュール500は、供給口(図示省略)およびガス排出口514が設けられた外蓋504と、同様に供給口(図示省略)およびガス排出口516が設けられた内蓋506とをさらに備え、内蓋および外蓋の両方が、その上部で反応器タンク502を覆い、それにより廃水およびスタック400を収容するとともに、モジュールからの放出を制御する。モジュール500には、水位が所望の閾値を下回ったときにスタックの動作を停止させるためのレベルセンサ508も設けられ、それにより抵抗による焼損および不均一な水和から膜および電極システムが保護される。反応器タンク内では、反応器タンク内の水位を監視するために使用されるレベルセンサ508が、チューブ510内に収容されている。モジュール500には、タンク内のレベルが予め設定されたレベルに達したときに反応器タンク内への廃水の流れを止めるためのレベルスイッチ512がさらに設けられている。
【0069】
アノードおよびカソードがともに廃水、より具体的にはアンモニアを含む廃水に直接曝されている、電気化学セルのスタック内の個々の電気化学セルレベルで起こる反応の概略的な説明では、アノード上の電気化学的酸化プロセスが、使用されるSPEの種類、触媒の選択および廃水溶液の組成に依存する特定の反応を伴う、直接、間接表面媒介、および間接二次酸化剤媒介酸化のカテゴリに分類される。正の電荷キャリアはカチオンSPEを使用して移動されるが、負の電荷キャリアはアニオンSPEを使用して移動される。アノード側では、汚染された廃水がアノード触媒層に曝され、段階的な酸化プロセスが生じ、これには、カチオンSPEについては式1-式3、アニオンSPEについては式6および式7にそれぞれ示すように、直接、間接表面媒介、または間接二次酸化剤媒介酸化の何れかが含まれる。
【0070】
カチオンSPEベースのセルについては、廃水(例えば、アンモニア汚染物質を含む廃水)がアノード触媒層に曝されると、段階的な酸化プロセスがアノードで生じ、式1に示すような直接酸化、または式2(a)および2(b)または式3(a)および3(b)に示すような間接酸化の何れかを伴う。
【0071】
【0072】
式2:(a)水からのヒドロキシル表面種の生成および(b)ヒドロキシル表面種を介したアンモニアの酸化によるアンモニアの間接酸化(アノード半反応):
【0073】
式3:(a)NaClからの次亜塩素酸塩種の生成および(b)次亜塩素酸塩を介したアンモニアの間接酸化によるアンモニアの間接二次酸化剤媒介酸化(アノード半反応):
【0074】
アノード半反応が式1または式2に示されるカチオンSPEベースの電気化学セルの場合、カソード反応は、式4に示すように、SPEを横切って輸送されるプロトンからの水素の直接生成を伴う。
【0075】
アノード半反応が式3に示すようになるカチオンSPEベースの電気化学セルの場合、式5(a)に示すように、カソード反応は、SPEを横切るナトリウムイオンの輸送による水酸化ナトリウムの直接生成を伴う。その後、水酸化ナトリウムは、式5(b)に示すように、アノード反応の生成物と溶液中で反応し、塩と水を再形成する。
【0076】
【0077】
代替的には、廃水(この場合はアンモニア汚染物質)がアノード触媒層に曝されるアニオンSPEベースの電気化学セルの場合、式6および式7にそれぞれ示すようなヒドロキシル表面種または次亜塩素酸塩の何れか含む段階的な間接酸化プロセスがアノードで起こる。
【0078】
式6:表面ヒドロキシル種を介したアンモニアの間接酸化(アノード半反応):
【0079】
式7:(a)SPEを横切って輸送されるClイオンからの次亜塩素酸塩種の生成によるアンモニアの間接酸化および(b)次亜塩素酸塩を介したアンモニアの間接酸化(アノード半反応):
【0080】
アノード半反応が式6に示すアニオンSPEベースの電気化学セルの場合、カソード反応は、式8に示すように、水からのヒドロキシル電荷キャリアおよび水素の生成を伴う:
【0081】
アノード半反応が式7に示すアニオンSPEベースの電気化学セルの場合、カソード反応は、式9に示すように、NaClおよび水からの塩素イオン電荷キャリアおよび水素の生成を伴う:
【0082】
式1-式3、式6および式7にそれぞれ示す反応は、アノード半反応であるが、当業者であれば分かるように、多くの場合、反応には多数の中間ステップが存在し、結果として、多くの中間種が存在し得る。しかしながら、そのような中間種も酸化されて最終生成物となり、通常、炭素含有汚染物質についてはCO2、窒素含有汚染物質についてはN2、硫黄含有汚染物質についてはSOXを含む。
【0083】
カソードでは、汚染物質がカソード触媒層と接触すると減少し、そのような還元反応が、廃水汚染物質およびアノードで形成されるそれらの酸化中間化合物の段階的除去の助けにもなる。
【0084】
上記反応に見られるように、廃水処理中にアノードとカソードの両方でガスが生成され、汚染物質の濃度が高い廃水は、かなりの量のガスを生成する可能性がある。フロープレートを使用する従来の廃水処理システムでは、電気化学セルの動作中に生成される生成ガスが流れ場チャネルに蓄積する可能性があり、それにより、触媒反応部位への廃水のアクセスが妨げられて、電極不活性化領域が生成される。
【0085】
本発明において、アノードおよびカソードで生成された生成ガスは、例えば
図8に示される個々の電気化学セル間の空間409を通って自由に流れることができ、反応器タンク502内に設けられたヘッドスペースに蓄積することができ、その後に排気または捕捉される。いくつかの実施形態では、反応器タンクが、再循環ポンプまたは撹拌機構を含むことができ、または生成ガスを使用してタンク内の廃水の混合を助けることができる。
【0086】
廃水処理システムは、複数のモジュール500を含むことができる。汚染された廃水は、貯蔵タンクに格納することができ、そこから、汚染物質を除去するために処理されるモジュール500にポンプで送られる。システムが複数のモジュール500を含む場合、モジュール500内のスタックは、例えば本出願人の共有の米国特許出願公開第2015/0298998号に示すように、直列または並列に接続することができる。
【0087】
本明細書に示す実施形態では、電気化学セル100、300が、触媒被覆膜(CCM)102、302をそれぞれ含む。代替的な実施形態では、アノード触媒層およびカソード触媒層が、例えば、開孔メッシュの面上に置かれ、電気化学セルを組み立てたときに膜を向く。さらに、他の実施形態では、電気化学セルを互いに組み立てたときに、アノード触媒層が膜の一方の面上に置かれ、カソード触媒層が、膜の他方の面を向く開孔メッシュの面上に置くことができ、あるいは電気化学セルを互いに組み立てたときに、カソード触媒層が膜の一方の面上に置かれ、アノード触媒層が、膜の他方の面を向く開孔メッシュの面上に置くことができる。さらに別の実施形態では、膜がカチオン固体高分子電解質であって、式1、式2または式3に示す反応がアノードで起こり、式4または式5に示す反応がカソードで起こり、他の実施形態では、膜はアニオン固体高分子電解質であって、式6または式7に示す反応がアノードで起こり、式8または式9に示す反応がカソードで起こり得る。
【0088】
電気化学セルのアノードおよびカソードのそれぞれの活性領域は、約5~3,500cm2の範囲であり得る。
【0089】
すべての実施形態において、アノード触媒およびカソード触媒は様々な触媒材料を含むことができ、それには、プラチナ、イリジウムを含むプラチナ誘導合金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、コバルト、ニッケル、鉄および鉄合金、銅および銅合金、混合金属酸化物、ダイヤモンド、およびセラミック由来の触媒が含まれるが、それらに限定されるものではない。当技術分野で知られているように、担持触媒の使用は、触媒材料の分散を改善し、特定の触媒と担体との間の利用および相互作用が触媒活性と耐久性を高めることができる。本発明の触媒材料のリストと組み合わせて使用できる触媒担体の例には、チタン、ニオブ、ニッケル、鉄、グラファイト、混合金属酸化物およびセラミックが含まれる。アノード触媒およびカソード触媒は、ステンレス鋼またはグラファイトを含むこともできる。
【0090】
本発明の電気化学セルを動作させる方法も開示されている。この方法は、
a.電気化学セル、例えば
図1および
図2に示す電気化学セル100または上述した
図5に示す電気化学セル300に、汚染廃水の流れを供給するステップであって、汚染された廃水を含む反応器タンク502と同様の反応器タンク内に電気化学セルが入れられて、電気化学セルのアノード側とカソード側の両方に廃水が供給される、ステップと、
b.電気化学セルに電圧を印加するステップと、
c.電気化学セルを予め設定された電流密度まで動作させ、それにより廃水中の汚染物質を分解するステップとを含み、
廃水が、圧縮フレームの圧縮アームの間および開孔メッシュの開孔を通って流れて、触媒層に到達し、それにより廃水中の汚染物質を分解する反応を生じる。
【0091】
電気化学セルスタックの動作中の予め設定された時間に反応器タンクに含まれる廃水からサンプルを採取し、反応器タンク内のサンプル水が予め設定された純度値を満たす場合、水が反応器タンクから除去されて排出タンクに入れられる。反応器タンクから水サンプルを採取する予め設定された時間は、例えば実験的検査中に特定の廃水組成物について得られた汚染物質除去率に基づいており、処理される廃水の量にも依存する。反応器タンクへの廃水の供給および反応器タンクからの処理水の排出は、ポンプシステムを介して行うこともできる。
【0092】
好ましい実施形態では、単一の電気化学セルの動作電圧が約1.3~約10Vの範囲であり、動作電流密度が約0.05~約1.0A/cm2である。
【0093】
図1または
図5に関連して述べたような廃水処理用の電気化学セルを組み立てる方法も提供されており、この方法は、
a.固体高分子電解質膜を提供するステップであって、固体高分子電解質膜が、その第1の面上に置かれたアノード触媒層と、固体高分子電解質膜の第1の面と反対側の第2の面上に置かれたカソード触媒層とを有する、ステップと、
b.アノード触媒層に隣接する第1の開孔メッシュと、カソード触媒層に隣接する第2の開孔メッシュとを配置するステップであって、第1の開孔メッシュおよび第2の開孔メッシュの各々が、平坦面と、この平坦面から隆起したエンボス面とを含む、ステップと、
c.第1の開孔メッシュに隣接する第1の圧縮フレームと、第2の開孔メッシュに隣接する第2の圧縮フレームとを配置するステップであって、各圧縮フレームが、接続部位で互いに連結された圧縮アームを有し、それら圧縮アームが、フレームの外周で区切られた領域内に広がる、ステップと、
d.第1および第2圧縮フレームの圧縮アームの接続部位に設けられた穴、第1および第2の開孔メッシュに設けられた穴、および固体高分子電解質膜およびアノード触媒層およびカソード触媒層を介して、留め具を挿入するステップと、
e.留め具によって提供される圧縮力により、接続部位において、固体高分子膜、第1の開孔メッシュ、第2の開孔メッシュ、第1の圧縮フレームおよび第2の圧縮フレームを圧縮するステップとを含み、
圧縮フレームによって区切られた電気化学セルの領域にわたって実質的に均一な圧縮力を提供するために、接続部位が、フレームの外周によって区切られた領域内に分布する。
【0094】
廃水処理用の本電気化学セルの利点およびそれを操作する方法は、先行技術の解決策と比較して数多くある。電気化学セルは流れ場プレートを有しておらず、触媒反応部位との間の廃水の容易なアクセスを可能にし、個々のセルを介して反応器タンクの上部に向かう生成ガスの流れを可能にするため、ガスの蓄積による電極の不活性化が大幅に低減されて、触媒層の表面の汚染物質の濃度が増加し、高い汚染物質の除去率により電気システムの効率が向上し、高圧ポンプの必要がなくなる。さらに、本電気化学セルの利点は、電気化学セルの導電性構成要素間の偶発的な接続によって引き起こされる電気的短絡のリスクが防止されることである。
【0095】
以下の表1は、廃水を処理して様々な種類の汚染物質を除去するための本発明の電気化学セルの性能を要約している。
注:PGMは、白金族金属触媒の略であり、EGはエチレングリコールの略である。比較すると、従来の流れ場プレートを使用した電気化学セルの平均汚染物質除去率は、アンモニアで約6,000mg/m
2時間、メタノールで200,000mg/m
2時間である。
【0096】
電気化学セルの縁部にある従来の圧縮ハードウェアを、電気化学セルのアノードおよびカソードそれぞれの活性領域全体にわたって分布する圧縮アームおよび接続部位を有する本発明の圧縮フレームによって置き換えるようにしたため、実質的に均一な圧縮が達成され、それにより、約25~約50ミクロンの電極ギャップの一貫した減少と、固体高分子電解質と接触する触媒層の高い表面積とが可能になり、それが、このアーキテクチャの高い電気効率をもたらして、数ミリリットルから数千リットルまでの様々な排水流量で動作する、より大きな電気化学セルにスケールアップすることもできる。
【0097】
触媒層の活性領域を越えて延びるSPE膜の部分によって電気的遮蔽が行われるため、圧縮フレーム間の追加の絶縁層が不要となり、絶縁層の材料と処理中の廃水との不適合による以前の故障モードをなくすことができる。
【0098】
全体として、本システムは、流れ場プレートおよびガス拡散層の除去により、同じレベルの汚染物質除去を達成するのに、低い運転コスト、低いエネルギー消費、低電圧動作を実現するとともに、様々な廃水流量で動作することができる。
【0099】
2017年4月20日に出願された米国仮特許出願第62/487,827号の開示は、その全体が本明細書に援用されるものとする。
【0100】
本発明の特定の要素、実施形態および用途を開示および説明してきたが、特に上述した教示に鑑みて、本開示の主旨および範囲から逸脱することなく当業者によって変更を加えることができるため、当然のことながら、本発明はそれらに限定されるものではないことを理解されたい。そのような変更は、本明細書に添付される特許請求の範囲内で検討されるべきである