IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニック株式会社の特許一覧 ▶ 三洋電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-非水電解質二次電池 図1
  • 特許-非水電解質二次電池 図2
  • 特許-非水電解質二次電池 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20220622BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220622BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220622BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220622BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220622BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/48
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019557139
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2018042202
(87)【国際公開番号】W WO2019107158
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2017230619
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】宮地 良和
(72)【発明者】
【氏名】上原 幸俊
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晋也
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-531285(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047020(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084288(WO,A1)
【文献】特表2014-523101(JP,A)
【文献】特開2014-067490(JP,A)
【文献】国際公開第2008/102638(WO,A1)
【文献】特開2008-041366(JP,A)
【文献】特開2015-050280(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050114(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0569
H01M 10/052
H01M 4/38
H01M 4/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して交互に積層されてなる電極体と、非水溶媒を含む非水電解液とを備えた非水電解質二次電池であって、
前記電極体は、前記正極及び前記負極の組を8層以上有し、
前記非水電解液は、前記非水溶媒の総体積に対して、25℃において、10~40体積%のフルオロエチレンカーボネートと、15~40体積%の炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルとを含む、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極は、負極活物質として、リチウムと合金化する金属、当該金属を含有する合金、及び当該金属を含有する酸化物から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記鎖状カルボン酸エステルは、プロピオン酸エチルである、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記非水溶媒は、さらに、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートから選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、負極表面での金属リチウムの析出を抑制するために、電解液にフルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加した非水電解質二次電池が開示されている。リチウムの析出が発生すると、サイクル特性が低下し、異常発生時の発熱が大きくなる傾向があるため、リチウムの析出を防止することは重要な課題である。また、特許文献2には、高容量で且つ優れたサイクル特性を実現すべく、電解液成分として、特定のカルボン酸エステル及びフッ素化環状カーボネートを含むコイン型の非水電解質二次電池が開示されている。また、特許文献3においても、高容量で優れたサイクル特性及び高温保存特性を実現すべく、電解液成分として、フッ素化環状カーボネート及びカルボン酸エステル、非ハロゲン化カーボネートを含むコイン型及び円筒形の非水電解質二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-218967号公報
【文献】特開2008-41366号公報
【文献】特表2017‐530500号公報
【発明の概要】
【0004】
上述のように、FECの添加は、リチウムの析出抑制に効果があることが知られている。しかし、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極体を備えた非水電解質二次電池では、電極端部の浮き、若しくは電極端部の電界集中によってリチウムの析出が起こり易く、FECを添加した電解液を用いても十分な効果を得ることができない。また、非水電解質二次電池において、漏液等の異常発生時における引火を抑制することは重要な課題である。
【0005】
本開示の目的は、積層型の電極体を備えた非水電解質二次電池において、引火性を低く抑えながら、リチウムの析出を抑制することである。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して交互に積層されてなる電極体と、非水溶媒を含む非水電解液とを備えた非水電解質二次電池であって、前記電極体は、前記正極及び前記負極の組を8層以上有し、前記非水電解液は、前記非水溶媒の総体積に対して、25℃において、10~40体積%のフルオロエチレンカーボネートと、15~40体積%の炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルとを含むことを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様によれば、積層型の電極体を備えた非水電解質二次電池において、引火性を低く抑えながら、リチウムの析出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の斜視図である。
図2図1中のAA線断面図である。
図3】非水溶媒中のFECとプロピオン酸エチル(EP)の含有割合による、電解液の引火点と負極におけるリチウム析出有無の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述のように、積層型の電極体を備えた非水電解質二次電池では、例えば電極端部の浮きが発生し易く、電極端部で正負極間の距離が変化する場合がある。また、電極端部の電界集中も起こり易い。電極端部の浮きや、電界集中が起こると、負極表面にリチウムが析出し易くなり、電池のサイクル特性が低下して、異常発生時の発熱が大きくなることが懸念される。
【0010】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、非水溶媒の総体積に対して、10~40体積%のFECと、15~40体積%の炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルとを添加した電解液を用いることにより、正極及び負極の組を8層以上有する積層型の電極体を備えた非水電解質二次電池において、引火性を低く抑えながら、リチウムの析出を抑制することに成功した。かかる効果は、FECのみの添加では得られず、FECと炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルとを特定の割合で混合した場合にのみ特異的に得られるものである。
【0011】
リチウムの析出は、充放電に伴う体積変化が大きな負極活物質(例えば、後述のSi含有酸化物)を用いた場合にいっそう起こり易くなるが、本開示に係る非水電解質二次電池によれば、このような場合でも十分に効果を発揮できる。また、負極活物質の充填密度が1.4g/cm3以上1.7g/cm3以下のように高密度に負極活物質が充填されている負極板に対しても効果を発揮する。
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率等は、現物と異なる場合がある。具体的な寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0013】
図1は実施形態の一例である非水電解質二次電池10の外観を示す斜視図、図2図1中のAA線断面図である。本明細書では、図1の紙面縦方向を「上下方向」と、後述する電極体30において正極33及び負極36の積層された方向を「積層方向」と、上下方向及び積層方向のそれぞれに直交する方向を「長手方向」とする。また、本明細書において、「端部」の用語は対象物の端及びその近傍を意味するものとする。図2では、負極側の端子接続構造を図示しているが、本実施形態において、正極側の端子接続構造は、負極側と同様の構成を有する。
【0014】
図1及び図2に例示するように、非水電解質二次電池10は、外装体として電池ケース12を備える。電池ケース12の内部には、発電要素である電極体30と、非水電解液(図示せず)とが収容されている。電極体30は、複数の正極33及び複数の負極36がセパレータ50を介して交互に積層された構造を有する。電池ケース12は、有底筒状で開口を有する容器であるケース本体13と、ケース本体13の上端開口部を塞ぐ蓋板14とで構成され、略直方体形状を有する。例えば、ケース本体13及び蓋板14は、アルミニウムを主成分とする金属から形成され、ケース本体13と蓋板14とは溶接等によって接合される。このような電池ケース12を備えた非水電解質二次電池10は、一般的に角形電池と呼ばれる。
【0015】
電池ケース12の上面(蓋板14)には、負極端子16が長手方向端部の一方に設けられ、正極端子17が長手方向端部の他方に設けられている。負極端子16は、外部の要素と負極36とを電気的に接続させる機能を有し、正極端子17は、外部の要素と正極33とを電気的に接続させる機能を有する。また、図示しないが、蓋板14には、電解液を注液するための注液孔、注液孔を封止する封止栓、電池内部のガスを電池外部に排出するためのガス排出弁等が設けられる。
【0016】
図2に例示するように、電極体30は、絶縁性のホルダ15により側面及び底面が覆われた状態で電池ケース12に収容される。これにより、電池ケース12は、正極33及び負極36から絶縁されている。ホルダ15は、例えば樹脂等により形成され、電池ケース12の内壁に沿っており、直方体の上端が開口した箱状のもの、又は上端が開口した袋状のものを用いることが好ましい。
【0017】
電池ケース12の上部に設けた蓋板14の一端部には、負極端子16を挿入する貫通孔14aが形成されている。負極端子16は、蓋板14の貫通孔14aに挿入された状態で、上側結合部材19により蓋板14に固定される。中間部材18a,18bは、例えば樹脂製のガスケットである。また、負極端子16の下端部は、負極接続部41の上端板部42に電気的に接続され、上端板部42と蓋板14との間には絶縁部材20が配置されている。よって、負極端子16と蓋板14との間は、上側結合部材19と蓋板14との間に配置される絶縁性の中間部材18a,18b、及び負極接続部41と蓋板14との間に配置される絶縁部材20により絶縁される。
【0018】
負極接続部41は、金属製の板材により形成され、電池ケース12の蓋板14と略平行な上端板部42と、上端板部42から略直角に折れ曲がって連続する下側板部43とを含む、断面コの字形状を有する。負極接続部41の下側板部43には、後述の負極タブ37が集まって形成された負極タブ積層体38が溶接等によって接合される。これにより、負極36と負極端子16とが電気的に接続される。
【0019】
電極体30は、複数の平板状の正極33、複数の平板状の負極36、及び複数のセパレータ50を含む。セパレータ50は、長尺状の多孔性樹脂シートを蛇腹状に折り曲げて構成されてもよいが、本実施形態では正極33と負極36との間のそれぞれにセパレータ50が挿入されているものとする。電極体30は、正極33及び負極36がセパレータ50を介して積層されてなる積層型の電極体である。正極33、負極36、及びセパレータ50は、例えばいずれも略矩形形状を有し、それらの積層体である電極体30は略直方体形状を有する。なお、負極36は、充電時のリチウムの受け入れ性の観点から、正極33よりも一回り大きく形成される。
【0020】
正極33は、正極集電体と、当該集電体上に形成された正極合材層とを有する。正極集電体には、アルミニウムなどの正極33の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質と、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)等の導電材と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着材とを含み、正極集電体の両面に形成されることが好ましい。
【0021】
正極33には、正極集電体の上端辺の長手方向端部から正極集電体の一部が延出してなる正極タブが形成されている。ここで、正極タブと正極合材層が形成された方形状領域とが接する部分には、絶縁層又は正極集電体より電気抵抗が高い保護層を設けることが好ましい。なお、正極タブは、正極集電体と同じ又は異なる材料で構成された別部材であってもよく、溶接等により正極集電体に接合されてもよい。
【0022】
正極活物質には、リチウム金属複合酸化物を用いることが好ましい。リチウム金属複合酸化物を構成する金属元素は、例えばMg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Sn、Sb、W、Pb、及びBiから選択される少なくとも1種である。中でも、Co、Ni、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。好適なリチウム金属複合酸化物の一例としては、Co、Ni、及びMnを含有するリチウム金属複合酸化物、Co、Ni、及びAlを含有するリチウム金属複合酸化物が挙げられる。
【0023】
負極36は、負極集電体と、当該集電体上に形成された負極合材層とを有する。負極集電体には、銅などの負極36の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質と、結着材とで構成され、負極集電体の両面に形成されることが好ましい。負極活物質の導電性が低い場合、負極合材層に導電材が含まれていてもよい。結着材には、正極33の場合と同様に、PTFE、PVdF等を適用できるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いてもよい。
【0024】
負極36には、負極集電体の上端辺の長手方向端部であって、正極タブが設けられている端部とは異なる長手方向端部から負極集電体の一部が延出してなる負極タブ37が形成されている。なお、負極タブ37は、負極集電体と同じ又は異なる材料で構成された別部材であってもよく、溶接等により負極集電体に接合されてもよい。
【0025】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料が挙げられる。負極36は、負極活物質として、Si、Sn等のリチウムと合金化する金属、当該金属を含有する合金、及び当該金属を含有する酸化物から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。中でも、Si含有酸化物が好ましい。好適な負極合材層は、負極活物質として、黒鉛及びSi含有酸化物を含む。負極合材層におけるSi含有酸化物等の含有量は、負極活物質の総質量に対して、例えば3~15質量%である。
【0026】
Si含有酸化物は、Siを含有する酸化物であれば特に限定されないが、好ましくはSiOx(0.5≦x≦1.5)で表される酸化物である。SiOxの粒子表面には、SiOxよりも導電性の高い材料から構成される導電被膜が形成されていることが好ましい。SiOxの平均粒径(Dv50)は、例えば1μm~15μmであって、黒鉛粒子のDv50よりも小さい。
【0027】
SiOxは、例えば、非晶質のSiO2マトリックス中にSiが分散した構造を有する。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてSiOxの粒子断面を観察すると、分散したSiの存在が確認できる。SiOxは、粒子内にリチウムシリケート(例えば、Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表されるリチウムシリケート)を含んでいてもよく、リチウムシリケート相中にSiが分散した構造を有していてもよい。
【0028】
上記導電被膜は、炭素被膜が好適である。炭素被膜は、SiOx粒子の質量に対して0.5~10質量%で形成されてもよい。炭素被膜の形成方法としては、コールタール等をSiOx粒子と混合し、熱処理する方法、炭化水素ガス等を用いた化学蒸着法(CVD法)などが例示できる。また、カーボンブラック、ケッチェンブラック等をバインダーを用いてSiOx粒子の表面に固着させることで炭素被膜を形成してもよい。
【0029】
セパレータ50には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ50の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好ましい。セパレータ50は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。また、セパレータ50の表面には、無機化合物のフィラーを含有する多孔質層、アラミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂で構成される多孔質層などが形成されていてもよい。
【0030】
本実施形態では、負極集電体の上端辺から上方に延出した負極タブ37の上端部が積層方向に積み重なって負極タブ積層体38が形成されている。負極タブ積層体38は、負極接続部41の下側板部43の積層方向を向いた面に溶接等により接合される。正極タブについても同様に、正極タブ積層体が正極接続部の下側板部の積層方向を向いた面に溶接等により接合される。
【0031】
図2に示すように、負極タブ37が接続される負極接続部41は電池ケース12の積層方向中央部に設けられているので、負極タブ37の少なくとも一部は大きく湾曲して歪んだ状態で負極接続部41に接続されている(正極タブについても同様)。このため、特に電極体30の上端部では、電極端部の浮きが発生し易くなり、リチウムの析出が起こり易くなる。非水電解質二次電池10では、このような構造を有する場合にも、リチウムの析出を十分に抑制できる。
【0032】
電極体30は、正極33及び負極36の組を8層以上、好ましくは10層以上、より好ましくは20層以上有する。電極積層数を多くすることで、電池の高容量化を図ることができる。電極積層数の上限は、特に限定されないが、非水電解質二次電池10内でのタブの取り回し易さを考慮して、例えば50層である。非水電解質二次電池10のリチウムの析出抑制効果は、当該積層数が10層以上である場合に特に顕著である。本実施形態では、電極体30の最も外側の電極として負極36が配置されている。これにより、正極33の両面に形成される正極合材層は、必ず負極36と対向することになる。
【0033】
なお、1つの電極体30の電極積層数を多くすると、上述のように非水電解質二次電池30内でのタブの取り回しが困難になり、非水電解質二次電池10の体積エネルギー密度を大きくすることが困難になる。しかし適度な電極積層数からなる2つ以上の電極体30を非水電解質二次電池10に収納することで、タブの取り回しを容易にし、かつ非水電解質二次電池10の体積エネルギー密度を大きくすることができる。
【0034】
電極体30は、正極33、負極36、及びセパレータ50が積層された状態で固定されていることが好ましい。例えば、絶縁テープ等の固定部材を電極体30に巻き付けて固定してもよく、セパレータ50に接着層を設けて、セパレータ50と正極33、セパレータ50と負極36をそれぞれ接着させることで積層状態を固定してもよい。
【0035】
以下、非水電解液について詳説する。
【0036】
非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解液は、25℃における非水溶媒の総体積に対して、10~40体積%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)と、15~40体積%の炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルとを含む。当該非水電解液を用いることにより、電池漏液時の引火性を低く抑えながら、リチウムの析出を特異的に抑制することができる。なお、かかる効果を損なわない範囲で、FEC及び鎖状カルボン酸エステル以外の非水溶媒を用いてもよい。
【0037】
FECとしては、4-フルオロエチレンカーボネート(モノフルオロエチレンカーボネート)、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,5-トリフルオロエチレンカーボネート、4,4,5,5-テトラフルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。これらのうち、4-フルオロエチレンカーボネートが特に好ましい。FECの含有量は、非水溶媒の総体積に対して、好ましくは10~40体積%である。なお、FECの含有量が10体積%を下回ると、リチウムの析出抑制効果が得られない。他方、FECの含有量が40体積%を超えると、非水電解液の粘度が高くなり過ぎて、充放電特性が大きく低下する。
【0038】
炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)等が挙げられる。なお、炭素数が5を超える鎖状カルボン酸エステルを添加しても、リチウムの析出抑制効果は得られない。炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルとしては、2種類以上を併用してもよいが、少なくともEPを用いることが好ましく、実質的にEPを単独で用いることがより好ましい。炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルの含有量は、非水溶媒の総体積に対して、好ましくは15~40体積%である。なお、当該鎖状カルボン酸エステルの含有量が15体積%を下回ると、リチウムの析出抑制効果が得られない。他方、含有量が40体積%を超えると、引火性を低く抑えることが難しくなる。上記4-フルオロエチレンカーボネートとプロピオン酸エチルにおける性能有効範囲、即ち引火性を低く抑えながら、負極表面におけるリチウムの析出を抑制することが可能な混合比率の範囲を図3に示す。
【0039】
FEC及び鎖状カルボン酸エステル以外の非水溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの水素をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体が挙げられる。これらは、1種類を使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
環状カーボネート類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等が挙げられる。これらのうち、PCが特に好ましい。鎖状カーボネート類の例としては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられる。これらのうち、DMC、EMCが特に好ましい。
【0041】
環状エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。鎖状エーテル類の例としては、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0042】
非水溶媒は、FEC、及び炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルに加えて、PC、EMC、及びDMCから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、良好な充放電特性を維持しながら、引火性を低く抑え、且つリチウムの析出を抑制することができる。好適な非水溶媒の一例としては、FEC、EP、PC、EMC、及びDMCを含む非水溶媒が挙げられる。FEC及びEPのトータルの含有量は、非水溶媒の総体積に対して、好ましくは25~80体積%、より好ましくは35~60体積%である。換言すると、非水電解液は、非水溶媒の総体積に対して、PC、EMC、及びDMCから選択される少なくとも1種を20~75体積%含むことが好ましい。
【0043】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C24)F4)、LiPF6-x(Cn2n+1x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li247、Li(B(C24)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF32、LiN(C12l+1SO2)(Cm2m+1SO2){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、例えば非水溶媒1L当り0.8モル~1.8モルである。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、LiNi0.55Mn0.20Co0.252で表されるリチウム金属複合酸化物を用いた。当該正極活物質と、アセチレンブラックと、PVdFとを、100:1:1の質量比で混合し、NMPを加えて正極合材スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、ロールプレス機により塗膜(正極合材層)を圧延した。その後、所定の電極サイズに裁断して、集電体の両面に合材層が形成された正極を得た。
【0046】
[負極の作製]
負極活物質として、96質量部の黒鉛、及び4質量部の炭素被膜を有するSiOx(x=0.94)を用いた。当該負極活物質と、SBRのディスパージョンと、CMCのナトリウム塩とを、100:1:1の質量比で混合し、水を加えて負極合材スラリーを調製した。次に、銅箔からなる負極集電体の両面に負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、ロールプレス機により塗膜(負極合材層)を圧延した。その後、所定の電極サイズに裁断して、集電体の両面に合材層が形成された負極を得た。
【0047】
[非水電解液の調製]
FECと、PCと、EPと、EMCと、DMCとを、25℃において、20:5:30:15:30の体積比で混合した混合溶媒に、1.0mol/Lの濃度となるようにLiPF6を添加し、さらに2体積%(溶媒比)のビニレンカーボネートを添加して非水電解液を調製した。
【0048】
[試験セルの作製]
セパレータを介して上記正極8枚及び上記負極9枚を、負極-正極-・・・-負極の順に交互に積層し、積層型の電極体を作製した。セパレータには、ポリプロピレン製セパレータを用いた。当該電極体をアルミニウムラミネートシートで構成される外装体に挿入して、上記非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して試験セルを作製した。
【0049】
<比較例1>
非水電解液の調製において、FECと、PCと、EPと、EMCと、DMCとを、20:5:10:35:30の体積比で混合した混合溶媒を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0050】
<比較例2>
非水電解液の調製において、FECと、PCと、EPと、EMCと、DMCとを、5:20:10:35:30の体積比で混合した混合溶媒を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0051】
<比較例3>
非水電解液の調製において、FECと、PCと、EPと、EMCと、DMCとを、5:20:30:15:30の体積比で混合した混合溶媒を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0052】
<比較例4>
非水電解液の調製において、FECと、PCと、EPと、EMCと、DMCとを、20:5:0:45:30の体積比で混合した混合溶媒を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0053】
実施例及び比較例の各試験セルについて、下記の方法で性能評価を行い、評価結果を表1に示した。
【0054】
[引火性の評価]
JIS K 2265-1のタグ密閉法を用いて引火点を測定した。
【0055】
[ハイレート充電時の充放電効率の評価]
25℃の温度環境下、2Cの定電流でセル電圧4.2Vまで充電し、10分休止した後、0.2Cの定電流でセル電圧2.5Vまで放電を行なった。このときの充電容量X及び放電容量Yを求め、下記の式に基づいて充放電効率を算出した。
【0056】
充放電効率(%)=(Y/X)×100
[リチウム析出の有無の評価]
上記充放電評価後の試験セルを分解して、負極表面を目視観察し、リチウム析出の有無を確認した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、実施例の試験セルは、引火性が低く、比較例の試験セルと比べてハイレート充電時の充放電効率が高い。ハイレート充電時の充放電効率は、リチウム析出の起こり易さを示す指標となり得る。実際、比較例の試験セルでは負極表面に析出したリチウムの存在が確認されたが、実施例の試験セルではリチウムの析出は確認されなかった。かかる効果は、FECのみの添加では得られず(比較例4参照)、FECと炭素数5以下の鎖状カルボン酸エステルとを特定の割合で混合した場合、具体的には図3に示す範囲においてのみ特異的に得られる。
【符号の説明】
【0059】
10 非水電解質二次電池
12 電池ケース
13 ケース本体
14 蓋板
14a 貫通孔
15 ホルダ
16 負極端子
17 正極端子
18a,18b 中間部材
19 上側結合部材
20 絶縁部材
30 電極体
33 正極
36 負極
37 負極タブ
38 負極タブ積層体
41 負極接続部
42 上端板部
43 下側板部
50 セパレータ
図1
図2
図3