(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】ポリマー材料をコーティング前に媒染するための製剤
(51)【国際特許分類】
C23C 18/24 20060101AFI20220622BHJP
C09K 13/04 20060101ALI20220622BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20220622BHJP
【FI】
C23C18/24
C09K13/04
C08J7/04 Z
(21)【出願番号】P 2020518627
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 ES2018070575
(87)【国際公開番号】W WO2019063859
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-27
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519438556
【氏名又は名称】エスアールジー グローバル リリア ソシエダッド リミターダ
(73)【特許権者】
【識別番号】520106530
【氏名又は名称】アヴァンツァーレ イノヴァシオン テクノロジカ ソシエダッド リミターダ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス コルドン フリオ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス マルティネス ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】オタノ ヒメネス ルイス
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-126745(JP,A)
【文献】特開昭48-070689(JP,A)
【文献】特開昭51-052384(JP,A)
【文献】特開平03-115584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/24
C09K 13/04
C08J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性、熱硬化性、又はエラストマーのポリマー材料を酸エッチングする方法であって、
前記熱可塑性、熱硬化性、又はエラストマーのポリマー材料を、酸及びCr(III)配位錯体を含むエッチング浴でエッチングする工程であって、前記エッチング浴中の前記酸の濃度が、20重量%~98重量%である、前記工程;及び
金属化コーティング又は有機コーティングを、エッチングした前記熱可塑性、熱硬化性、又はエラストマーのポリマー材料に適用する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記Cr(III)配位錯体が、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子、又はこれらの組合せを介してクロムに配位する、一座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、五座配位子、六座配位子、又は架橋配位子から選ばれる少なくとも1つ又はそれより多数の配位子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記配位子が、ホルメート、アセテート、プロパノエート、ブタノエート、ベンゾエート、フェニルアセテート、フェニルプロピオネート、シアナメート、アルキルベンゾエート、ピルベート、レブリネート、シトレート、イソシトレート、アコニテート、トリメリタート、グリシネート、バリネート、ロイシネート、トレオニネート、リシネート、トリプトファネート、ヒスチダネート、フェニルアラニネート、イソロイシネート、アルギニネート、メチオニネート、アラニネート、プロリネート、セリネート、システイネート、アスパラギネート、グルタミネート、チロシネート、アスパルテート、ポリアスパラテート、グルタメート、ホモシステイネート、オルミチネート、ニコチネート、オキサレート、プロパノジオエート、ブタンジオエート、ペンタノジオエート、ヘキサノジオエート、マレエート、フマレート、フタレート、イソフタレート、テレフタレート、タルトレート、イタコネート、メサコネート、シトラコネート、グリコレート、ラクテート、マンデレート、サリチレート、グルコネート、エチレンジアミンテトラアセテート、ニトリロトリアセテート、イミノジスクシネート、エチレノ(ethyleno)ジアミンジスクシネート、メチルグリシンジアセテート、N,N,グルタメートジアセテート、シクロヘキシレンジニトリロテトラアセテート、ジエチレノトリアミナペンタアセテート(diethylenotriamainapentaacetate)、アミノエチルエチレングリコールテトラアセテート、トリエチレンテトラミナヘキサアセテート(tryethylentetraminahexaacetate)、ジヒドロキシエチルグリシネート、イミノジアセテート、オキサメート、ニトリロトリプロピオネート、エチレノジアミンジプロピオネート、チオジプロピオネート、ジチオジプロピオネート、アミノプロパノエート、アミノペンタノエート、アミノヘキサノエート、2-アミノベンゾエート、3-アミノベンゾエート、4-アミノベンゾエート、3-シクロヘキシルアミン-プロピルアミン、エチレノジアミン、1,3-ジアミノプロパン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ビス(3-アミノプロピル)-メチルアミン、ジエチレノトリアミン、ジプロピレノライミン(dipropylenotraimine)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレノペンタミン(tetraethylenopentamine)、ポリアミン、3-(2-アミノエチル)アミノ-プロピルアミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレノジアミン、ネオペンタンテジアミン(neopentante diamine)、シクロヘキサノジアミン、ヘキサノ-1,6-ジアミン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチル-イミダゾール、N-(3-アミノプロピル)-イミダゾール、ピラゾール、ニシアナミド(nicyanamide)、ビピリジン、フェナントロリンから選ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記Cr(III)配位錯体の濃度が、2mM~2Mの範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記エッチング浴中の前記酸が、硫酸、アミノ硫酸(スルファミン)酸、リン酸、二リン酸、メタリン酸、ポリリン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、イセチオン酸、過塩素酸、塩素酸、硝酸、トリフルオロフルオロメタスルホン酸、トリフルオロ酢酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロケイ酸、フッ化水素酸、ホウ酸、又はこれらの混合物から選ばれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
酸の重量パーセントが、
40%~
95%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
エッチング温度が、10℃~95℃である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
エッチング時間が、30秒~1時間である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマー材料の前記有機コーティングが、有機ベースの塗料、ワニス、又はコーティングによるものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオンCr(III)の塩及び/又は錯体の使用に基づいて、先行技術分野において既知であり、説明されている技術を使用して、ポリマーの金属化又はコーティングの前の、ポリマーのエッチング処理浴に関係する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリマー、主にABS、並びにABSポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、及び熱安定性ポリマーなどのポリマーのブレンドの前処理浴、処理、及びエッチングの技術開発及び工業用途は、ポリマー生地中の無機装填物及び他の添加物の添加の有無にかかわらず、酸化状態VIで、クロム塩を含有する水性浴の使用に基づく。浴は、概して、硫酸及びクロム(VI)化合物、主にクロム酸、クロムトリオキシド、又はジクロメートを、最大400gr/lの濃度で含有する。
【0003】
この表面処理加工又はエッチングは、初期の重要な処理であり、次いで、活性化、促進、無電解ニッケルの析出、銅、銅電着、ニッケル、及び更にクロム仕上げの複数の官能化層のシステムが、それらの対応する中間洗浄と共に適用され、その表面上で金属化されたプラスチックをもたらす。
【0004】
有機又は塗装コーティングを用いて、上に記載されるエッチング表面処理の初期の重要な加工の後、プラスチックは、先行技術で現在利用可能な異なる方法のうちの1つを使用してコーティング又は塗装される。
【0005】
適切な前処理又はエッチングと、いくつかの更なる理想的な処理との組み合わせのみが、必要とされるそれぞれの用途に必要な全ての重要な要件を提供し、初期のエッチング処理は、加工全体の必須因子である。
【0006】
エッチングに使用される酸化状態VIのクロム塩は、人間に対して有毒で発癌性があることが証明されており、これらのクロム(VI)塩の任意の使用、具体的には、ポリマー処理及びエッチング浴におけるそれらの使用に取って代わるものへの関心につながっている。
【0007】
米国特許第8603352(B1)号及び米国特許出願公開第20130186774号に示されるように、他の化学酸化体のためのCr塩(VI)、主に、酸性及び塩基性媒体中のMn(VII)、Mn(VI)の塩、並びに更にはMn(III)の塩を含有する浴の代わりとなる、異なる選択肢が提案されている。
【0008】
しかしながら、Mn塩に基づくこれらのシステムは、同じ接着性を生み出さず、ポリマー片の金属化又は後期のコーティングがもたらされ、Mn塩の還元生成物を除去する必要があるため、非常に複雑な洗浄を必要とする。浴はまた、経時的に不安定であり、工業用途では短い時間持続する。
【0009】
代替的に、ドイツ特許第19740431(C1)号のような過酸化水素、米国特許第6559242(B1)号のような鉄及び/又は銅の過酸化物及び塩、遷移金属の塩化物配位子とのアニオン性錯体(米国特許第4568571(A)号)、有機溶媒中の遷移金属の有機金属化合物(欧州特許第0081129(A1)号)、及び弱酸性水性媒体中で錯体を使用しない遷移金属のクロライド又はニトレートの塩(米国特許出願公開第20070099425(A1)号)に基づくシステムが提案されている。
【0010】
現在、いずれの場合も、とりわけ、Cr(VI)塩に基づく処理によって得ることができる、自動化セクタによって要求される最終接着要件に適用可能な結果は得られていない。この論題に関する査読記事が最近公開された。Plating on acrylonitrile-butadiene-styrene(ABS)plastic:A review.Journal of Materials Science 2016,51,3657-3674。したがって、先行技術分野では、ポリマーに対する他の種類の金属化又はコーティングをもたらす接着、時間及び使用に対する浴の安定性、安全特性、人々及び環境に対する非毒性、回復の容易さ、リサイクル、又はそれらの処理浴の環境的に適切な条件でのCr(VI)なしでの除去の点で効率的なエッチング浴が必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、酸性媒体中に塩及び/又はクロム(III)錯体を含有する水溶液の使用によるポリマーの前処理、処理、及び/又はエッチングである。
【0012】
本発明は、塩のように添加され、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子を介してクロムに配位する、少なくとも1つ若しくはいくつかの一座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、五座配位子、六座配位子、又は架橋配位子に化学的に配位する、カチオンCr(III)を使用することに基づく。
【0013】
本処理は、物理的及び化学的の両方で有機ポリマーの表面を改質するために有機ポリマーに適用され、その結果、ポリマーの表面上で、先行技術分野において現在説明されている技術によって被着されるか、又は金属化され得るコーティングを作製することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ポリマーの、化学浴を介した金属によるコーティング、又は有機コーティングによるコーティングは、エッチング処理を事前に必要とするため、コーティングされるポリマーの表面は、最終生成物の用途要件を満たすように、十分被着性がある。
【0015】
このエッチング処理加工が使用されるポリマーは、ABSのような熱可塑性ポリマー、ポリカーボネート、ポリアミド、PVC、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリオレフィンなどの他のポリマーとのABSブレンド、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステルエポキシ樹脂などの熱安定性ポリマー、又はSBR及びEPDMゴムなどのエラストマー若しくは市場で入手可能な異なるタイプの熱可塑性エラストマーポリマーである。ポリマーは、石英、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、シリケート、タルクなどの異なるタイプの無機充填物、並びにそれらの加工のために、押出、射出、ホットプレート上での成形、又は熱安定性ポリマー若しくはエラストマーポリマー中で物体、プレート、若しくは形態を製造するために使用される異なる技術で必要な対応する添加物を含有し得る。
【0016】
ポリマー表面処理又はエッチング加工は、処理又はエッチング浴のある特定の組成物、並びに制御された温度及び時間でのこれらの浴の作用又は処理など、いくつかの先行要件を有する加工である。
【0017】
エッチング加工の必要条件:
あらかじめ処理される基材の表面は、汚染物質、グリース、腐食性生成物、及び他の材料を含まないものとする。したがって、ベース基材の適切な調製は、加工前の推奨可能な要件であるが、厳密に必要なものではない。基材の用事調製は、先行技術分野において周知である。
【0018】
エッチング加工で使用される浴の組成物は、水性浴である。
浴は、塩又はクロム(III)錯体を添加することによって調製され、配位子の酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子を介してクロムに配位する、少なくとも1つ若しくはいくつかの一座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、五座配位子、六座配位子、又は架橋配位子の使用に基づく。
【0019】
とりわけ、酸化状態(III)でクロムに使用され得る配位子は、ホルメート、アセテート、プロパノエート、ブタノエート、ベンゾエート、フェニルアセテート、フェニルプロピオネート、シアナメート、アルキルベンゾエート、ピルベート、レブリネート、シトレート、イソシトレート、アコニテート、トリメリタート、グリシネート、バリネート、ロイシネート、トレオニネート、リシネート、トリプトファネート、ヒスチダネート、フェニルアラニネート、イソロイシネート、アルギニネート、メチオニネート、アラニネート、プロリネート、セリネート、システイネート、アスパラギネート、グルタミネート、チロシネート、アスパルテート、ポリアスパラテート、グルタメート、システイネート、ホモシステイネート、オルミチネート、ニコチネート、オキサレート、プロパノジオエート、ブタンジオエート、ペンタノジオエート、ヘキサノジオエート、マレート、フマレート、フタレート、イソフタレート、テレフタレート、タルトレート、イタコネート、メサコネート、シトラコネート、グリコレート、ラクテート、マンデレート、サリチレート、グルコネート、エチレンジアミンテトラアセテート、ニトリロトリアセテート、イミノジスクシネート、エチレノ(ethyleno)ジアミンジスクシネート、メチルグリシンジアセテート、N,N,グルタメートジアセテート、シクロヘキシレンジニトリロテトラアセテート、ジエチレノトリアミナペンタアセテート(diethylenotriamainapentaacetate)、アミノエチルエチレングリコールテトラアセテート、トリエチレンテトラミナヘキサアセテート(tryethylentetraminahexaacetate)、ジヒドロキシエチルグリシネート、イミノジアセテート、オキサメート、ニトリロトリプロピオネート、エチレノジアミンジプロピオネート、チオジプロピオネート、ジチオジプロピオネート、アミノプロパノエート、アミノペンタノエート、アミノヘキサノエート、2-アミノベンゾエート、3-アミノベンゾエート、4-アミノベンゾエート、3-シクロヘキシルアミン-プロピルアミン、エチレノジアミン、1,3-ジアミノプロパン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ビス(3-アミノプロピル)-メチルアミン、ジエチレノトリアミン、ジプロピレノライミン(dipropylenotraimine)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレノペンタミン(tetraethylenopentamine)、ポリアミン、3-(2-アミノエチル)アミノ-プロピルアミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレノジアミン、ネオペンタンテジアミン(neopentante diamine)、シクロヘキサノジアミン、ヘキサノ-1,6-ジアミン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチル-イミダゾール、N-(3-アミノプロピル)-イミダゾール、ピラゾール、ニシアナミド(nicyanamide)、ビピリジン、フェナントロリン、又はそれらのブレンドである。
【0020】
使用される配位子は、好ましくは、ホルメート、アセテート、プロピオネート、グリシネート、アルギニネート、アスパルテート、ポリアスパラテート、グルタメート、ニコチネート、オキサレート、プロパノジオエート、ブタンジオエート、ペンタノジオエート、ヘキサノジオエート、マレート、フマレート、フタレート、サリチレート、タルトレート、シトレート、グリコレート、ラクテート、エチレンジアミンテトラアセテート、ニトリロトリアセテート、2-アミノベンゾエートである。使用される配位子は、最も好ましくは、オキサレート、プロパノジオエート、ブタンジオエート、マレート、フマレート、フタレート、グリコレート、ラクテート、サリチレート、グリコレート、グルタメート、又はそれらのブレンドである。
【0021】
浴中に含有されるクロム(III)錯体は、例えば、「Complex Ions of Chromium.III.Reactions between Hexaquochromium(III)and Oxalate lons」、Randall E.Hamm、Robert E.Davis J.Am.Chem.Soc.,1953、75、pp3085-3089(1953)に記載のオキサレートタイプの錯体ついての科学文献において示唆されているように、上記の配位子との調製及び単離されたクロム(III)錯体の形態で浴に添加され得る。
【0022】
Cr(III)錯体はまた、例えば、米国特許第3900689号に記載のフマレートタイプの錯体について示唆されているように、必要な錯体を構成するクロム(III)塩及び配位子の別個の添加によって、浴中でその場で形成され得る。
【0023】
クロム(III)錯体をその場で形成する場合、これらの錯体の出発塩は、無機アニオン又は有機アニオン塩、例えば、クロライド、ブロマイド、ペルクロレート、ヒドロキシド、オキシド、スルフェート、スルファイト、スルフィド、ニトレート、ニトライト、ホスファート、ジホスファート、メタホスファート、ポリホスファート、ボレート、シリケート、ホルメート、アセテート、ラクテート、メタンスルホネート、エタンスルホネート、プロパンスルホネート、ブタンスルホネート、カルボキレート、アルキルホスフェート、又はそれらのブレンドであり得る。これらの塩が水浴に添加されると、錯体を形成するために、この浴に、それらのプロトン化した形態、又はアルカリ若しくはアルカリ土類金属の塩の形態、あるいは遊離形態で、この浴に添加される。このようにして、エッチング浴に必要とされるクロム(III)錯体が得られる。
【0024】
最後に、化学反応又は使用される配位子の還元形態、及びCr(VI)化合物の浴への添加によって、エッチング浴中で必要とされるCr(III)錯体を得ることも可能であり、これは、錯体が還元剤である場合に共に形成される配位子の直接作用によって、あるいはアスコルビン酸、アスコルベート、チオスルフェート、スルフィート、スルフィド、ニトリート、フォスファイト、ハイポホスファイト、ホルムアルデヒドスルホキシレート、ジチオナイト、オキサレート、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のカルボキレート、ヒドラジン及びその誘導体、ヒドロキシルアミン、又は従来技術分野で既知の任意の他の還元剤などの異なる還元剤を配位子に添加することにより、酸化状態の錯体(III)に還元される。
【0025】
浴中に存在するCr(III)錯体の濃度は、2mM~2M、より好ましくは5mM~1M、更により好ましくは0.01M~0.4Mであり得る。
【0026】
示唆されるCr(III)錯体は、酸水性媒体中で使用され、エッチング浴中に含有される酸は、硫酸、アミノ硫酸(スルファミン)酸、リン酸、二リン酸、メタリン酸、ポリリン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、アルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、イセチオン酸、過塩素酸、塩素酸、硝酸、トリフルオロフルオロメタスルホン酸、トリフルオロ酢酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロケイ酸、フッ化水素酸、ホウ酸、又はそれらのブレンドであり得る。好ましくは、エッチング浴中に存在する酸は、硫酸、リン酸、二リン酸、メタリン酸、ポリリン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、又はそれらのブレンドであり得、より好ましくは、エッチング浴中に存在する酸は、硫酸、リン酸、又はそれらのブレンドであり得る。
【0027】
エッチング浴中の酸の濃度は、質量/質量パーセント中に含有される酸の合計を考慮すると、10%~最大98%、好ましくは40%~95%、より好ましくは55%~92%であり得、残部は、Cr(III)錯体及び水である。この酸の合計は、2つ以上の酸の混合物から構成され得る。
【0028】
エッチング浴の使用温度は、10℃~95℃、より好ましくは15℃~80℃、更により好ましくは20℃~75℃で変動し得る。作業温度に到達するために、処理槽は、その目的のために任意の適切な技術を適用することによって、理想的な作業温度が維持されるまで加熱又は冷却される。
【0029】
エッチング浴中で処理されるポリマーの任意の形状及びサイズの断片は、30秒~1時間、好ましくは1分~45分、又はより好ましくは2分~30分間の期間にわたってエッチング浴中に浸される。
【0030】
本発明で言及されるエッチング加工の後、必要な洗浄段階が、現在の先行技術において既知の特性を有する水、水溶液、又は有機液体で実施される。
【0031】
洗浄後、必要な特性を有する化学浴を通して、湿式加工を通して金属コーティングを得るために必要な加工が実施される。
【0032】
代替的に、洗浄後に、ワニス又は塗料などのポリマーコーティングが処理された断片上に置かれる場合には、断片を乾燥させても、乾燥させなくてもよい。
【実施例】
【0033】
以下の実施例で使用される基材は、対応する熱可塑性ポリマー:ABS、ABS-ポリカーボネート、ポリアミド6、20%のウォラストナイト無機充填物を有するポリアミド6、ポリプロピレン、又は20の%タルク無機充填物を有するポリプロピレンの注入によって得られる基材である。
【0034】
熱安定性基材は、従来技術分野において既知の方法によって硬化され、これらは、40%ガラス繊維を有する不飽和ポリエステル樹脂、及び40%ガラス繊維を有するエポキシ樹脂である。
【0035】
全ての場合において、基板をエッチング前に洗浄する。洗浄は、水の浴中、1%のナトリウムドデシルスルフェートの水溶液の浴中に浸漬し、その後2つの水浴中に浸漬して2回すすぐことによって行う。この洗浄の目的は、基材から汚れ及びグリースを除去すること、及び/又はエッチングのための表面を調製することである。断片を調製するための加工に応じて、この洗浄を回避することができる。
【0036】
エッチング処理は、以下の実施例で提示される対応する浴を用いて実施する。
【0037】
エッチング加工後、水浴中に浸漬することによって2回以上のすすぎ実施する。
【0038】
ポリマーをエッチングすると、無電解ニッケルとしても知られる自己触媒無電解ニッケルが、先行技術分野において既知の加工によって堆積される。
25℃で2分間、活性化浴中への浸漬による処理。水浴中でのすすぎ。25℃で2分間、促進剤浴中での処理。水浴中ですすぐ。無電解ニッケルの金属化のための、29℃で8分間の浸漬浴。水浴中に浸漬することによる2回の洗浄。
【0039】
同様に、エッチングを実施し、基材を乾燥させると、ポリマーが有機塩基又は塗料のコーティングで被覆される。
【0040】
実施例1
エッチング加工で得られた結果についての参照として、以下の組成物を含むCr(VI)塩の使用に基づいて、浴中でエッチングを実施する。
エッチング浴は、380gr/Lのクロム酸、及び400gr/Lの濃縮された硫酸を含有する。
【0041】
エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0042】
実施例2
クロムと配位する配位子がアセテートであり、62%のH2O;4%のクロムアセテート(III);34%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。
エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0043】
実施例3
ベンゾエートがクロムと配位した配位子であり、40%のH2O;3%のクロムベンゾエート(III);57%のメタンスルホン酸の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。
エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0044】
実施例4
クロムと配位した配位子がグリシネートであり、21%のH2O;2.5%のクロムギリシネート(III);65.5%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。
エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0045】
実施例5
アミノアルカノエートがクロムと配位した配位子であり、21%のH2O;2.2%のCrCl3・6H2O;1.3%のアミノヘキサン酸;36.5%のH3PO4(水中で75%の);39%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。
エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0046】
実施例6
クロムと配位した配位子がシトレートであり、17%のH2O;1.2%のCr(NO3)3.9H2O;2.6%のクエン酸;39.7%のH3PO4(水中で75%の);39.5%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。
エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0047】
実施例7
クロムと配位した配位子がトリエチレンテトラミンであり、19%のH2O;0.8%のCr(NO3)3.9H2O;1.1%のトリエチレンテトラミン;38.4%のH3PO4(水中で75%の);40.7%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。
エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0048】
実施例8
クロムと配位した配位子がチオジプロピオネートであり、18.5%のH2O;0.7%のCrCl3・6H2O;0.9%のチオジプロピオン酸;38%のH3PO4(水中で75%の);41.9%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0049】
実施例9
クロムと配位した配位子がエチレンジアミンテトラアセテート(ethylenediaminetetraacetate、EDTA)であり、18%のH2O;0.6%のCr(NO3)3.9H2O;0.3%のエチレンジアミン四酢酸;39.7%のH3PO4(水中で75%の);41.4%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0050】
実施例10
クロムと配位した配位子がエチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)であり、18.3%のH2O;0.6%のCr(NO3)3.9H2O;0.5%のエチレンジアミン四酢酸の二ナトリウム塩;39.2%のH3PO4(水中で75%の);41.4%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0051】
実施例11
クロムと配位した配位子がエチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)であり、18%のH2O;0.6%のCr(NO3)3.9H2O;0.3%のエチレンジアミン四酢酸;39.7%のH3PO4(水中で75%の);41.4%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。エッチングする断片を、40℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0052】
実施例12
クロムと配位した配位子がエチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)であり、18%のH2O;2%のCr(NO3)3.9H2O;1%のエチレンジアミン四酢酸;35.5%のメタンスルホン酸(水中で75%の);43.5%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0053】
実施例13
クロムと配位した配位子がフマレートであり、18%のH2O;0.6%のCr(NO3)3.9H2O;0.3%のフマル酸;39.7%のH3PO4(水中で75%の);41.4%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0054】
実施例14
クロムと配位した配位子が、18%のH2O;0.9%のCr(NO3)3.9H2O;0.6%のシュウ酸H2C2O4.2H2O;39.7%のH3PO4;40.8%のH2SO4の溶液によるオキサレート化合物である、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0055】
実施例15
クロムと配位した配位子が、17.7%のH2O;1.2%のCr(NO3)3.9H2O;0.6%シュウ酸H2C2O4.2H2O;39.7%のH3PO4(75%);40.8%のH2SO4の溶液によるオキサレート化合物である、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。エッチングする断片を、25℃の温度で15分間、浴中に留置する。
【0056】
実施例16
クロムと配位した配位子がサリチレートであり、18%のH2O;0.6%のCr2O3;0.8%のサリチル酸;39.7%のH3PO4(水中で75%の);40.9%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0057】
実施例17
クロムと配位した配位子がサリチレートであり、18%のH2O;0.6%のCr2O3;0.8%のサリチル酸;39.7%のH3PO4(水中で75%の);40.9%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。エッチングする断片を、60℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0058】
実施例18
クロムと配位した配位子がグルコネートであり、18%のH2O;0.6%のCr2(SO4)3・H2O;2%のカルシウムグルコネート;38%のH3PO4(水中で75%の);41.4%のH2SO4の溶液によって調製する、Cr(III)塩に基づくエッチング浴。
エッチングする断片を、25℃の温度で3分間、浴中に留置する。
【0059】
金属化された断片は、ポリマー上のコーティングの接着を決定するために一般的に使用される方法のうちの1つである、クロスカット試験(ISO 2409)による接着試験を受ける。接着結果は0~5にスコア付けされ、0は接着性に優れ、剥離法は標準DIN 53494に従う。
【0060】
断片のエッチング及び金属化後に得られた金属層の接着結果を以下の表に示す。
【0061】
【0062】
塗料又は有機コーティングでコーティングした断片を、40℃の気流で2時間、乾燥させることによって、浴処理後に調製し、次いで、エアブラシでコーティングする。使用する塗料は、トリエチレングリコールジアクリレートに基づく100%固体と呼ばれる標準的な種類であり、製造業者の推奨に従って塗布するUV硬化である。
【0063】
ISO2409試験を受けた塗料の接着結果:
【0064】