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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】内視鏡システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20220622BHJP
   A61B 1/045 20060101ALI20220622BHJP
   A61B 1/06 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
A61B1/00 551
A61B1/045 610
A61B1/06 610
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020523889
(86)(22)【出願日】2018-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2018021597
(87)【国際公開番号】W WO2019234831
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】進士 翔
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-231498(JP,A)
【文献】特開2014-188222(JP,A)
【文献】Shree K. Nayar, et al.,Fast Separation of Direct and Global Components of a Scene using High Frequency Illumination,ACM transactions on Graphics,2006年,vol.25, Issue 3,pp.935-944
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光を被写体に照射し、前記照明光が、光軸に垂直な光束断面において明部および暗部が空間的に繰り返される強度分布を有する、照明部と、
前記照明光の前記強度分布における前記暗部の幅と、前記明部および前記暗部の位置を変化させる強度分布変更部と、
前記暗部の幅が相互に異なる照明光で照明されている前記被写体の少なくとも第1照明画像および第2照明画像の複数のを取得し、同一の組の前記第1照明画像と前記第2照明画像は、前記明部および前記暗部が相互に入れ替わる2つの時刻でそれぞれ撮影される、撮像部と、
前記第1照明画像および前記第2照明画像の複数の組の各々に対応する第1の分離画像および第2の分離画像の複数の組を作成し、少なくとも各組の前記第1照明画像および前記第2照明画像の、前記暗部に対応する領域の画素の強度値に基づいて各組に対応する前記第1の分離画像を作成し、少なくとも各組の前記第1照明画像および前記第2照明画像の、前記明部に対応する領域の画素の強度値、または前記第1照明画像および前記第2照明画像の前記明部と前記暗部の間の強度値を有する部分に対応する領域の画素の強度値、に基づいて各組に対応する前記第2の分離画像を作成し、前記第1の分離画像が、前記被写体の深層の情報を前記第2の分離画像よりも多く含む、分離処理部と、
前記複数の照明画像から作成された複数の前記第1の分離画像および複数の前記第2の分離画像に基づいて前記被写体内の特徴部の深さ情報を算出する演算部とを備え
記演算部が、前記複数の第1の分離画像間の変化および前記複数の第2の分離画像間の変化に基づいて前記特徴部の深さ情報を算出する内視鏡システム。
【請求項2】
前記照明部が、前記撮像部と前記被写体との間の撮影距離に比例して前記被写体上での前記明部および前記暗部のパターンが拡大されるように、前記照明光を発散光束として射出する請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項3】
前記撮像部と前記被写体との間の撮影距離を計測する撮影距離計測部を備え、
前記強度分布変更部は、前記被写体上での前記照明光の強度分布が前記撮像部と前記被写体との間の距離に依らずに一定となるように、前記撮影距離に基づいて前記強度分布における前記明部と暗部との周期を変更する請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項4】
前記照明光が、互いに異なる波長を有する複数の光からなり、該複数の光は、波長が長い程、前記明部と前記暗部との周期が小さくなる前記強度分布を有する請求項1から請求項3のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項5】
前記照明光の前記強度分布は、帯状の前記明部および前記暗部が幅方向に交互に繰り返される縞状である請求項1から請求項4のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項6】
前記照明光の前記強度分布の、前記明部および前記暗部の前記幅方向における強度プロファイルが、略正弦波形状である請求項5に記載の内視鏡システム。
【請求項7】
前記照明光の偏光状態を制御する偏光制御部と、
前記被写体から前記撮像部に入射する光の偏光状態を選択する偏光選択部とを備える請求項1から請求項6のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項8】
前記演算部は、前記暗部の幅と、前記第1の分離画像と前記第2の分離画像との間の分離深さとが相互に対応付けられた対応表に基づいて前記特徴部の深さ情報を算出する請求項1から請求項7のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項9】
前記演算部が、前記複数組の第1および第2の分離画像の各々のコントラストを算出し、該コントラストおよび前記対応表に基づいて前記特徴部の深さ情報を算出する請求項8に記載の内視鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘモグロビンの吸光特性が異なる3つの波長帯域の画像信号の比を利用して、観察範囲内にある血管の太さおよび深さを算出する内視鏡システムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-174836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内視鏡検査によって病変部が発見されたとき、病変部がどの程度深くまで到達しているかを知ることが、その後の対応の決定に重要である。特許文献1の技術は、ヘモグロビンの吸光特性を利用しているため、深さを算出できる組織が血管に限られる。すなわち、正常部と比べて血管の変化が少ない病変部および血管を含まない病変部の深さを、特許文献1の技術によって算出することはできないという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、被写体内の特徴部の深さ情報を特徴部の吸収特性に関わらず取得することができる内視鏡システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、照明光を被写体に照射し、前記照明光が、光軸に垂直な光束断面において明部および暗部が空間的に繰り返される強度分布を有する、照明部と、前記照明光の前記強度分布における前記暗部の幅と前記明部および前記暗部の位置を変化させる強度分布変更部と、前記暗部の幅が相互に異なる照明光で照明されている前記被写体の少なくとも第1照明画像および第2照明画像の複数のを取得し、同一の組の前記第1照明画像と前記第2照明画像は、前記明部および前記暗部が相互に入れ替わる2つの時刻でそれぞれ撮影される、撮像部と、前記第1照明画像および前記第2照明画像の複数の組の各々に対応する第1の分離画像および第2の分離画像の複数の組を作成し、少なくとも各組の前記第1照明画像および前記第2照明画像の、前記暗部に対応する領域の画素の強度値に基づいて各組に対応する前記第1の分離画像を作成し、少なくとも各組の前記第1照明画像および前記第2照明画像の、前記明部に対応する領域の画素の強度値、または前記第1照明画像および前記第2照明画像の前記明部と前記暗部の間の強度値を有する部分に対応する領域の画素の強度値、に基づいて各組に対応する前記第2の分離画像を作成し、前記第1の分離画像が、前記被写体の深層の情報を前記第2の分離画像よりも多く含む、分離処理部と、前記複数の照明画像から作成された複数の前記第1の分離画像および複数の前記第2の分離画像に基づいて前記被写体内の特徴部の深さ情報を算出する演算部とを備え、前記演算部が、前記複数の第1の分離画像間の変化および前記複数の第2の分離画像間の変化に基づいて前記特徴部の深さ情報を算出する内視鏡システムである。
【0007】
本発明の一態様によれば、散乱体である被写体に照明光が照射されたときに、被写体の表面において鏡面反射された鏡面反射光(スペキュラ光)と、被写体内部の表層での散乱を経て被写体の表面から射出された表面散乱光と、被写体内部の深層での散乱を経て被写体の表面から射出された内部散乱光とが生じる。照明部から空間的に非一様な強度分布を有する照明光を被写体に照射することで、内部散乱光がスペキュラ光および表面散乱光とは空間的に分離される。すなわち、明部ではスペキュラ光、表面散乱光および内部散乱光が生じるのに対し、暗部では、明部から暗部まで回り込んだ内部散乱光が支配的に生じる。
【0008】
したがって、撮像部によって取得された照明画像内の暗部に対応する領域は、深層の情報を多く含み、明部に対応する領域は表面および表層の情報を多く含む。情報とは、生体組織に入射し、生体組織やその内部の構造物によって散乱、吸収などの変調を受けて生体組織から射出される光の光量などを意味する。分離処理部は、明部、暗部および明部と暗部の間の強度を有する部分のそれぞれと対応する画素の強度値のうち、少なくとも2つの強度値に基づいて、異なる深さの情報を多く含む第1および第2の分離画像を作成することができる。
【0009】
具体的には、分離処理部は、暗部に対応する領域の画素の強度値に基づいて、被写体の深層の情報を多く含む第1の分離画像(深層画像)を作成することができる。
また、分離処理部は、明部に対応する領域の画素の強度値に基づいて被写体の表面および表層の情報を多く含む第2の分離画像(表層画像)を作成することができる。あるいは、分離処理部は、明部と暗部の間の強度値を有する部分に対応する領域の画素の強度値に基づいて、深層よりも浅く表層よりも深い位置の情報を多く含む第2の分離画像を作成することができる。
【0010】
この場合に、被写体に照射される照明光の暗部の幅が、強度分布変更部によって変更され、暗部の幅が相互に異なる照明光で照明されている被写体の複数の照明画像が撮像部によって取得される。第1および第2の分離画像間の分離深さは、被写体における暗部の幅が大きい程、深くなる。分離深さとは、第1および第2の分離画像に含まれる情報の深さの大まかな境目である。すなわち、第1の分離画像は、分離深さよりも深い層の情報を主に含み、第2の分離画像は、分離深さよりも浅い層の情報を主に含む。暗部の幅が小さい程、第1の分離画像は、より浅い層の情報を含み、暗部の幅が大きい程、第2の分離画像は、より深い層の情報を含む。したがって、複数の照明画像から作成された複数の第1の分離画像の変化および第2の分離画像の変化に基づいて、被写体内の特徴部の深さ情報を取得することができる。また、特徴部による散乱光に基づく照明画像を用いることによって、特徴部の吸収特性に関わらず特徴部の深さ情報を取得することができる。
【0011】
上記態様においては、前記照明部が、前記撮像部と前記被写体との間の撮影距離に比例して前記被写体上での前記明部および前記暗部のパターンが拡大されるように、前記照明光を発散光束として射出してもよい。
この構成によって、撮影距離を変更するだけで被写体上での暗部の幅を変更させることができる。
【0012】
上記態様においては、前記撮像部と前記被写体との間の撮影距離を計測する撮影距離計測部を備え、前記強度分布変更部が、前記被写体上での前記照明光の強度分布が前記撮像部と前記被写体との間の距離に依らずに一定となるように、前記撮影距離に基づいて前記強度分布における前記明部と暗部との周期を変更してもよい。
この構成によって、照明部での暗部の幅と被写体上での暗部の幅との関係を、撮影距離に依らずに一定にすることができる。
【0013】
上記態様においては、前記照明光が、互いに異なる波長を有する複数の光からなり、該複数の光は、波長が長い程、前記明部と前記暗部との周期が小さくなる前記強度分布を有していてもよい。
被写体内に入射した光は、波長が長い程、深い位置まで到達するので、より長い波長の光の内部散乱光は、より深い層の情報を含む。波長が長い程、明部と暗部との周期を小さくすることによって、波長の違いによる情報の深さの違いを低減することができる。
【0014】
上記態様においては、前記照明光の前記強度分布は、帯状の前記明部および前記暗部が幅方向に交互に繰り返される縞状であってもよい。
この構成によって、簡便な明暗パターンで内部散乱光を効果的に分離することができる。また、解像度の高い第1および第2の分離画像の作成には、明部および暗部の位置が相互に異なる照明光で照明されている被写体の2枚以上の照明画像が使用される。強度分布を縞の幅方向にのみ変化させることによって、明部と暗部との位置を簡単に時間変化させることができる。
【0015】
上記態様においては、前記照明光の前記強度分布の、前記明部および前記暗部の前記幅方向における強度プロファイルが、略正弦波形状であってもよい。
正弦波状に強度が空間的に変化する照明光を被写体に照射することによって、最も強度の高い光が当てられているときの第2の分離画像用の強度値と、最も強度が低い光が当てられているときの第1の分離画像用の強度値とを、位相シフト法によって計算することができる。これにより、解像度の高い第1および第2の分離画像を少ない枚数の照明画像から作成することができる。
【0016】
上記態様においては、前記照明光の偏光状態を制御する偏光制御部と、前記被写体から前記撮像部に入射する光の偏光状態を選択する偏光選択部とを備えていてもよい。
被写体に照明光が照射されたときに、表面散乱光および内部散乱光に加えて、鏡面反射光(スペキュラ光)も発生し得る。スペキュラ光は、被写体の表面において鏡面反射された光であり、第2の分離画像に含まれる。スペキュラ光は照明光と同一の偏光状態を有するのに対し、表面散乱光および内部散乱光は特定の偏光状態を有しない。したがって、偏光選択部によってスペキュラ光以外の光を選択的に撮像部に入射させることにより、スペキュラ光を含まない第2の分離画像を作成することができる。そして、スペキュラ光を含まない第2の分離画像に基づいて、特徴部のより正確な深さ情報を取得することができる。
【0017】
上記態様においては、前記演算部は、前記暗部の幅と、前記第1の分離画像と前記第2の分離画像との間の分離深さとが相互に対応付けられた対応表に基づいて前記特徴部の深さ情報を算出してもよい。
この構成によって、各分離画像がどの程度の深さの層の情報を含んでいるかを、対応表において暗部の幅と対応付けられている分離深さから知ることができる。したがって、特徴部を含む分離画像の分離深さを対応表から取得することによって、特徴部の深さ情報を簡単に算出することができる。
【0018】
上記態様においては、前記演算部が、前記複数組の第1および第2の分離画像の各々のコントラストを算出し、該コントラストおよび前記対応表に基づいて前記特徴部の深さ情報を算出してもよい。
特徴部を含む分離画像のコントラストは、特徴部を含まない分離画像のコントラストに比べて高くなる。したがって、特徴部を含む分離画像をコントラストに基づいて容易に特定することができる。そして、特定された分離画像の暗部の幅と対応付けられている分離深さを対応表から取得することによって、特徴部の深さ情報を算出することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被写体内の特徴部の深さ情報を特徴部の吸収特性に関わらず取得することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る内視鏡システムの全体構成図である。
図2】照明光の明暗パターンの時間変化の一例を示す図である。
図3】分離処理部による表層画像および深層画像の作成方法を説明する図である。
図4A】照明光の暗部の幅と分離深さとの関係を説明する図である。
図4B】照明光の暗部の幅と分離深さとの関係を説明する図である。
図5A】生体組織に照射される照明光の明暗パターンのピッチと、分離深さとの関係を示す図である。
図5B図5Aの生体組織の表層画像および深層画像を示す図であり、分離深さと表層画像および深層画像のコントラストとの関係を説明する図である。
図6】分離深さと、表層画像および深層画像のコントラストとの関係を示すグラフである。
図7】照明光の明暗パターンのピッチと、表層画像および深層画像のコントラストとの関係を示すグラフである。
図8】照明光の明暗パターンのピッチと、分離深さとの関係を示すグラフである。
図9図1の内視鏡システムの動作を示すフローチャートである。
図10A】照明部および強度分布変更部の他の構成例を示す図である。
図10B図10Aの照明部によって生成される照明光の明暗パターンおよびその時間変化を説明する図である。
図10C】照明部および強度分布変更部の他の構成例を示す図である。
図11A】照明光の強度分布の時間変化の他の例を説明する図である。
図11B図11AのI-I線における照明光の強度の空間プロファイルを示す図である。
図12】偏光制御部および偏光選択部を備える内視鏡システムの変形例の部分構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態に係る内視鏡システム1について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る内視鏡システム1は、図1に示されるように、体内を観察する内視鏡2と、内視鏡2の基端に接続された本体部3とを備えている。
また、内視鏡システム1は、体内の生体組織(被写体)Aを明暗パターンを有する照明光Lで照明する照明部4と、照明光Lの明暗パターンを変化させる強度分布変更部5と、照明光Lで照明されている生体組織Aの照明画像を取得する撮像部6と、照明画像から表層画像(第2の分離画像)および深層画像(第1の分離画像)を作成する分離処理部7と、表層画像および深層画像に基づいて生体組織A内の特徴部E(図5A参照。)の深さの情報を算出する演算部8とを備えている。特徴部Eは、生体組織A内に存在する組織であり、例えば、血管または病変部である。
【0022】
照明部4は、光軸に垂直な光束断面において空間的に非一様な強度分布を有する照明光Lを生成し、内視鏡2の先端から生体組織Aに向かって照明光Lを射出する。照明光Lは、例えば、白色光、赤外光等の単波長光、赤、緑、青等の単色光、または、波長が異なる複数の光の混合光である。照明光Lは、一般に、光束の中心から周縁に向かって明るさが漸次低下する強度の勾配を有する。このような光束断面の全体的な強度勾配とは別に、照明光Lは、光束断面において、高強度の明部と該明部よりも低強度の暗部とが交互に繰り返される明暗パターンを有する。明暗パターンは、図2に示されるように、真っ直ぐな帯状の明部および暗部が、明部および暗部の長手方向に直交する幅方向にのみ交互に繰り返される縞パターンである。図2において、白い領域は明部を表し、黒い領域は暗部を表す。図2の明暗パターンでは、明部の幅と暗部の幅が相互に等しいが、明部の幅と暗部の幅は相互に異なっていてもよい。
【0023】
照明部4は、図1に示されるように、本体部3に設けられた発光部4a、リフレクタ4bおよびマスク4cを備えている。また、照明部4は、内視鏡2に設けられたイメージガイドファイバ4dおよび投影レンズ4eを備えている。発光部4aから出力された光は、リフレクタ4bによって集光され、マスク4cを照明する。マスク4cは、光を透過させる透光領域と、光を遮断する遮光領域とを有し、明暗パターンに対応する投影パターンが透光領域および遮光領域から形成されている。光がマスク4cを透過することによって明暗パターンを有する照明光Lが生成される。マスク4cは、光が入射する入射領域内の各位置の光透過率を電気的に制御することができる液晶素子である。マスク4cによって生成された照明光Lは、明暗パターンを保存しながらイメージガイドファイバ4dによって導光され、投影レンズ4eによって内視鏡2の先端から射出される。
【0024】
強度分布変更部5は、図2に示されるように、明暗パターンにおける明部および暗部の位置と、明暗パターンのピッチ(明部および暗部の周期)Pとを時間変化させる。ピッチP(P1,P2,P3)の変化によって、暗部の幅Wdが変化する。
具体的には、強度分布変更部5は、明暗パターンを明部および暗部の幅方向に時間変化させ、明部と暗部の位置を相互に入れ替える。図2において、横方向が時間の流れを表している。これにより、生体組織Aの表面B上の照明光Lの照射範囲内の各位置には、明部および暗部が投影される。強度分布変更部5は、明部および暗部の位置を時間変化させた後、ピッチPを変更し、明部および暗部の位置を再び時間変化させる。強度分布変更部5は、ピッチPの変更と、明部および暗部の位置の変更とを繰り返す。
【0025】
強度分布変更部5は、マスク4cの入射領域内の各位置の光透過率を制御する制御素子を備える。液晶素子からなるマスク4cは、任意の投影パターンを形成することができ、任意の投影パターンを自由に時間変化させることができる。強度分布変更部5は、予め設定されたプログラムに従ってマスク4cの各位置の光透過率を制御することによって、照明光LのピッチPおよび幅Wdを時間変化させる。
【0026】
撮像部6は、内視鏡2の先端に設けられ生体組織Aからの光を集める撮像レンズ6aと、撮像レンズ6aによって形成された生体組織Aの像を撮影する撮像素子6bとを備えている。撮像素子6bによって取得された照明画像は、撮像素子6bから分離処理部7に送信される。
【0027】
ここで、生体組織Aに照射される照明光Lの強度分布は、図2に示されるように強度分布変更部5によって時間変化する。撮像素子6bは、明暗パターンのピッチが相互に異なる複数組の第1照明画像および第2照明画像を取得する。第1照明画像および第2照明画像は、暗部と明部とが相互に入れ替わっている照明光Lで照明されている生体組織Aの画像である。したがって、図3に示されるように、第1照明画像および第2照明画像は、明部の投影領域と暗部の投影領域とが相互に反転し、明部の投影領域同士および暗部の投影領域同士が補完し合う画像である。図3の第1照明画像および第2照明画像において、白い領域は明部の投影領域を表し、黒い領域は暗部の投影領域を表す。
したがって、強度分布変更部5による強度分布の変更のタイミングと撮像素子6bによる撮影のタイミングとが互いに同期するように、強度分布変更部5および撮像素子6bの動作は、本体部3内に設けられた図示しない制御装置によって制御される。
【0028】
分離処理部7は、図3に示されるように、各組の第1照明画像および第2照明画像から1組の表層画像および深層画像を作成する。第1および第2照明画像の各位置の画素について、明部が投影されているときの強度値Imaxと、暗部が投影されているときの強度値Iminとが取得される。分離処理部7は、下式(1)から表層画像の各画素の強度値Isを算出し、強度値Isを有する表層画像を作成する。また、分離処理部7は、下式(2)から深層画像の各画素の強度値Idを算出し、強度値Idを有する深層画像を作成する。
Is=Imax-Imin …(1)
Id=Imin×2 …(2)
【0029】
散乱体である生体組織Aに明暗パターンを有する照明光Lが照射されたときに、生体組織Aからは、鏡面反射光(スペキュラ光)、表面散乱光および内部散乱光が発生する。
スペキュラ光は、生体組織Aの表面Bで鏡面反射された照明光Lの反射光であり、明部の投影領域において発生する。
表面散乱光は、明部の投影領域から生体組織A内に入射し、散乱を繰り返しながら表層Cを通過し、表面Bから射出された照明光Lの散乱光である。表面散乱光のほとんどは、明部の投影領域から射出される。
内部散乱光は、明部の投影領域から生体組織A内に入射し、散乱を繰り返しながら深層Dを通過し、表面Bから射出された照明光Lの散乱光である。内部散乱光の一部は明部の投影領域から射出され、他の部分は暗部の投影領域まで伝播して暗部の投影領域から射出される。
【0030】
すなわち、第1および第2照明画像内の暗部の投影領域の強度値Iminは、主に内部散乱光に基づいており、深層Dの情報を主に含む。したがって、強度値Iminに基づく深層画像は、深層Dの情報を主に含む画像である。一方、第1および第2照明画像内の明部の投影領域の強度値Imaxは、スペキュラ光、表面散乱光および内部散乱光に基づいており、表面B、表層Cおよび深層Dの情報を含む。したがって、強度値Isに基づく表層画像は、深層Dの情報が除去され表面Bおよび表層Cの情報を主に含む画像である。
分離処理部7は、撮像部6によって取得された複数組の第1照明画像および第2照明画像から複数枚の深層画像および複数枚の表層画像を作成する。作成された表層画像および深層画像は、演算部8に送信される。
【0031】
ここで、図4Aおよび図4Bに示されるように、表層画像と深層画像との分離深さは、生体組織Aの表面B上での暗部の幅Wdに依存する。分離深さとは、表層画像に含まれる情報の深さと深層画像に含まれる情報の深さとの大まかな境目である。すなわち、表層画像は、表面Bから分離深さまでの層の情報を主に含み、深層画像は、分離深さよりも深い層の情報を主に含む。暗部の幅Wdが大きい程、分離深さの位置は深くなる。
【0032】
図5Aは、照明光Lの明暗パターンのピッチ(P1、P2、P3、P4、P5)と、生体組織A内の分離深さ(d1、d2、d3、d4、d5)との関係を示している。図5Bは、各ピッチP1,P2,P3,P4,P5の照明光Lに基づく表層画像および深層画像の例を示している。図5Bに示されるように、分離深さよりも浅い位置の特徴部Eは、表層画像に含まれるが深層画像には含まれない。一方、分離深さよりも深い位置の特徴部Eは、深層画像には含まれるが表層画像には含まれない。
【0033】
演算部8は、分離処理部7から複数枚の深層画像および複数枚の表層画像を受け取り、複数枚の深層画像および複数枚の表層画像の各々のコントラストを算出する。図6に示されるように、特徴部Eを含む表層画像のコントラストは、特徴部Eを含まない表層画像のコントラストに比べて大きくなる。同様に、特徴部Eを含む深層画像のコントラストは、特徴部Eを含まない深層画像のコントラストに比べて大きくなる。図6において、破線で囲まれている範囲が、特徴部Eが存在する深さの範囲を示している。図7は、明暗パターンのピッチPとコントラストとの関係を表している。図8は、明暗パターンのピッチPと分離深さとの関係を表している。図7および図8から、図6の分離深さとコントラストとの関係が得られる。
【0034】
演算部8は、分離深さに対する表層画像のコントラストの変化に基づいて、特徴部Eの浅い側(表面B側)の端の深さを算出する。例えば、特徴部Eを含まない分離深さd1の表層画像と、特徴部Eを含む分離深さd2の表層画像との間でコントラストが大きく変化する。演算部8は、このコントラストの大きな変化に基づき、特徴部Eの浅い側の端の深さがd1とd2との間であると算出する。
【0035】
また、演算部8は、分離深さに対する深層画像のコントラストの変化に基づいて、特徴部Eの深い側の端の深さを算出する。特徴部Eを含む分離深さd3の深層画像と、特徴部Eを含まない分離深さd4の深層画像との間でコントラストが大きく変化する。演算部8は、このコントラストの大きな変化に基づき、特徴部Eの深い側の端の深さがd3とd4との間であると算出する。
演算部8によって算出された特徴部Eの深さ情報は、例えば、本体部3に接続された表示装置(図示略)に表示される。
【0036】
本体部3内の図示しない記憶装置に、暗部の幅Wdと分離深さとが相互に対応付けられた対応表が記憶されていてもよい。演算部8は、記憶装置から対応表を読み出し、各深層画像および各表層画像の分離深さを、暗部の幅Wdに基づいて対応表から取得する。表層画像および深層画像の暗部の幅Wdの情報は、例えば、制御装置から演算部8に送信される。
【0037】
次に、演算部8は、図6に示されるように、分離深さと表層画像のコントラストの関係を表すグラフを作成し、分離深さと深層画像のコントラストの関係を表すグラフを作成する。次に、演算部8は、表層画像のグラフにおいてコントラストが急激に増加する分離深さをグラフの傾きに基づいて検出し、検出された分離深さを特徴部Eの浅い側の端と特定する。また、演算部8は、深層画像のグラフにおいてコントラストが急激に減少する分離深さをグラフの傾きに基づいて検出し、検出された分離深さを特徴部Eの深い側の端と特定する。
【0038】
演算部8は、表層画像全体および深層画像全体のコントラストを算出してもよいが、表層画像の一部分および深層画像の一部分のコントラストを算出してもよい。この場合、コントラストを算出する範囲を術者が指定することができるように構成されることが好ましい。例えば、本体部3が、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)を備える。術者は、GUIを使用して、特徴部Eを含む所望の範囲を指定することができる。
【0039】
分離処理部7および演算部8は、例えばコンピュータによって実行されるプログラムとして実現される。すなわち、本体部3には、中央演算処理装置のようなプロセッサ、RAMのような主記憶装置、およびハードディスクドライブのような補助記憶装置が内蔵される。分離処理部7および演算部8による上述の処理をプロセッサに実行させるためのプログラムは、補助記憶装置に記憶されている。プログラムが、補助記憶装置から主記憶装置にロードされ、プログラムに従ってプロセッサが処理を実行することによって、分離処理部7および演算部8の上述の機能が実現されるようになっている。
【0040】
次に、このように構成された内視鏡システム1の作用について図9を参照して説明する。
本実施形態に係る内視鏡システム1を使用して生体組織A内の特徴部Eの深さ情報を取得するためには、内視鏡2を体内に挿入し、生体組織Aの照明画像を取得する。具体的には、照明部4から生体組織Aに照明光Lが照射される(ステップS1)。照明光Lの明部および暗部の位置は、強度分布変更部5によって時間変化する。明部および暗部が相互に入れ替わる2つの時刻で撮像部6によって生体組織Aの撮影が実行され、1組の第1照明画像および第2照明画像が取得される(ステップS2)。次に、照明光LのピッチPが強度分布変更部5によって変更され(ステップS4)、もう1組の第1照明画像および第2照明画像が撮像部6によって取得される(ステップS2)。予め設定されている全てのピッチPの照明光Lに基づく第1照明画像および第2照明画像が取得されるまで(ステップS3のYES)、ステップS4、S1,S2が繰り返される。
【0041】
次に、分離処理部7によって、複数組の第1照明画像および第2照明画像から、分離深さが相互に異なる複数組の表層画像および深層画像が生成される(ステップS5)。次に、演算部8によって、各表層画像および各深層画像のコントラストが算出される(ステップS6)。次に、演算部8によって、分離深さに対する表層画像のコントラストの変化および分離深さに対する深層画像のコントラストの変化に基づいて、生体組織A内の特徴部Eの深さ情報が算出される。
【0042】
このように、本実施形態によれば、暗部の幅Wdが相互に異なる照明光Lを用いて複数組の第1照明画像および第2照明画像が取得され、複数組の第1照明画像および第2照明画像から分離深さが相互に異なる複数組の表層画像および深層画像が生成される。そして、複数枚の表層画像のコントラストおよび複数枚の深層画像のコントラストに基づいて、生体組織A内の特徴部Eの深さ情報を算出することができるという利点がある。また、第1および第2照明画像は、生体組織Aおよび特徴部Eの散乱光に基づく画像である。したがって、第1および第2照明画像から、特徴部Eの吸収特性に関わらず特徴部Eの深さ情報を取得することができるという利点がある。
【0043】
表層画像における深層Dの情報量と深層画像における深層Dの情報量との良好なバランスを確保するために、生体組織Aの表面B上での暗部の幅Wdは0.005mm以上25mm以下であることが好ましい。
暗部の幅Wdが0.005mm未満である場合、明部の投影領域から暗部の投影領域へ回り込む内部散乱光の割合が増大し、その結果、強度値Imaxと強度値Iminとの差が小さくなって表層画像に含まれる表層Cの情報が不足し得る。一方、暗部の幅Wdが25mmよりも大きい場合、内部散乱光が暗部の投影領域の中央まで到達することができず、その結果、強度値Iminがゼロに近づいて深層画像に含まれる深層Dの情報が不足し得る。
【0044】
本実施形態においては、照明部4が、縞状の強度分布を有する照明光Lで生体組織Aを照明することとしたが、照明光Lの強度分布のパターンはこれに限定されず、明部と暗部とが空間的に繰り返される他の分布であってもよい。例えば、照明光Lの強度分布は、市松模様、ドット、またはランダムドットであってもよい。
【0045】
本実施形態においては、照明部4が、明暗パターンを有する照明光Lを液晶素子4cによって生成し、強度分布変更部5が、液晶素子4cを制御することによって明暗パターンを変化させることとしたが、照明部4および強度分布変更部5の構成はこれに限定されるものではない。図10Aから図10Cに、照明部4および強度分布変更部5の他の構成例を示す。
【0046】
図10Aの照明部4は、光の干渉縞を明暗パターンとして利用する。照明部4は、レーザ光源4fと、レーザ光源4fから出力された光を2つに分岐し2つの光を射出する光路4gとを備えている。光路4gは、例えば、光ファイバから構成されている。光路4gから射出された2つの光が相互に干渉することによって、図10Bに示されるような正弦波状の強度プロファイルを有する干渉縞が明暗パターンとして生成される。
【0047】
図10Aの強度分布変更部5は、分岐された2つの光のうち一方の光路長を変化させることによって、図10Bに示されるように、干渉縞の位置を照明光の光軸に直交する方向にシフトさせる。したがって、強度分布変更部5は、2つの光のうちの一方の光路に設けられ、光路長を変化させる光学素子を備える。また、強度分布変更部5は、レーザ光の波長を変化させることによって、干渉縞のピッチを変化させ、それにより暗部の幅Wdを変化させる。したがって、例えば、レーザ光源4fは、波長可変レーザ光源であり、強度分布変更部5は、レーザ光源4fの出力波長を制御する制御素子を備える。
【0048】
図10Cの照明部4は、影絵のようにして明暗パターンを生体組織Aの表面B上に形成する。照明部4は、内視鏡2の先端部に設けられた発光部4hおよびマスク4iを備えている。
発光部4hは、例えば、キセノンランプ、LED(RGB)、白色LED、赤外光源などの光源である。発光部4hは、本体部3の外部に配置された光源に接続された光ファイバの射出端であってもよい。
【0049】
マスク4iは、白色光を透過させる透光領域と、白色光を遮断する遮光領域とを有し、明暗パターンに対応する投影パターンが透光領域および遮光領域から形成されている。マスク4iは、例えば、透光領域としての開口が形成された遮光性の基板、または、遮光領域としての遮光膜が形成された透明な基板である。発光部4hから出力された光は、マスク4iを透過することで、明暗パターンを有する照明光Lへと生成される。
発光部4hとマスク4iとの間には、生体組織Aに照射される照明光Lの発散角を調整するレンズ4jが配置されている。
【0050】
図10Cの強度分布変更部5は、発光部4hおよびマスク4iを、明部および暗部の幅方向に相対移動させることによって、強度分布を時間変化させる。したがって、強度分布変更部5は、発光部4hおよびマスク4iのうち少なくとも一方を移動させるアクチュエータを備える。また、強度分布変更部5は、発光部4hとマスク4iとの光軸方向の間隔を変化させることによって、明暗パターンのピッチPおよび暗部の幅Wdを変化させる。したがって、強度分布変更部5は、発光部4hおよびマスク4iの少なくとも一方を移動させるアクチュエータを備える。発光部4hとマスク4iとの間隔が大きい程、生体組織Aの表面B上における明暗パターンのピッチPが小さくなる。
【0051】
本実施形態においては、強度分布変更部5が、照明光Lの強度分布を、明部および暗部が相互に反転した2つの明暗パターンの間で連続的に変化させてもよい。
明暗パターンを連続的に変化させる場合、撮像部6は、図11Aに示されるように、明部および暗部の位置が相互に異なる3つ以上の時刻で撮影を実行し、明部の投影領域および暗部の投影領域の位置が相互に異なる3枚以上の照明画像を取得してもよい。分離処理部7は、3枚以上の照明画像から表層画像および深層画像を作成してもよい。この場合、各位置の画素について3つ以上の強度値が得られるので、最大強度値をImaxとして、最小強度値をIminとして用いて、強度値Is,Idが算出される。
【0052】
図11Bに示されるように、正弦波状の明暗パターンの照明光Lを照射する場合、3つ以上の適切な条件で照明画像を撮像することによって、位相シフト法を用いて、各画素についてImaxとIminを算出することができる。
【0053】
本実施形態においては、生体組織Aの表面B上に投影される明暗パターンが生体組織Aと撮像部6との間の撮影距離に比例して拡大されるように、照明部4が、発散光束の照明光Lを生体組織Aに向けて射出することが好ましい。
この構成によって、生体組織Aに対して内視鏡2を長手方向に移動させるだけで、生体組織Aの表面B上での明暗パターンを拡大または縮小させ暗部の幅Wdを変化させることができる。
【0054】
本実施形態においては、生体組織Aと撮像部6との間の撮影距離を計測する撮影距離計測部をさらに備え、強度分布変更部5が、撮影距離に依らずに生体組織Aの表面B上での明部と暗部との空間的な周期(明暗パターンのピッチP)が一定に維持されるように、撮影距離に基づいて明暗パターンにおける明部と暗部との空間的な周期を調整してもよい。
このようにすることで、撮影距離に依らずに、所定の深さの情報を含む深層画像を作成することができる。
【0055】
撮影距離計測部としては、生体組織Aに非接触で撮影距離を計測することができる公知の任意の手段を採用することができる。明暗パターンが、図11Bに示される、正弦波状に強度が変化する直線状の縞パターンである場合、撮影距離計測部は、位相シフト法を用いて、撮像部6によって取得された照明画像から撮影距離を計算することができる。
【0056】
本実施形態においては、照明部4が、波長が互いに異なる複数の光から構成された照明光Lで生体組織Aを照明してもよい。例えば、照明光Lは、赤、緑および青の3つの光が混合された白色光であってもよい。
波長が互いに異なる複数の光を照明光Lとして使用する場合、波長が長い程、明部と暗部との周期が小さくなるように、波長に応じて各光の強度分布を異ならせてもよい。
【0057】
一般に、光は、波長が短い程、散乱体によって強く散乱される。したがって、赤い光に比べて青い光は生体組織Aの深層Dまで届き難く、青い光の内部散乱光に含まれる情報は、赤い光の内部散乱光に比べて浅い位置の情報となる。そこで、波長が長い程、明部と暗部との周期を小さくすることで、赤、緑および青のいずれの内部散乱光も同一の深さの情報を有するように、各色の内部散乱光に含まれる情報の深さを制御することができる。
【0058】
本実施形態においては、図12に示されるように、照明部4から射出される照明光Lの偏光状態を制御する偏光子(偏光制御部)9と、生体組織Aから撮像部6に入射する光の偏光状態を選択する偏光子(偏光選択部)10とがさらに設けられていてもよい。偏光子9および偏光子10は、例えば、内視鏡2の先端に設けられる。
照明光Lの照射によって、生体組織Aの表面Bではスペキュラ光が生じる。第1および第2照明画像に含まれるスペキュラ光は、表層画像に分離される。したがって、スペキュラ光は、表層画像のコントラストに影響を与える。
【0059】
スペキュラ光は照明光Lと同一の偏光状態を有し、表面散乱光および内部散乱光は特定の偏光状態を有しない。したがって、偏光子9の偏光方向に対して偏光子10の偏光方向を直交させることによって、表面散乱光および内部散乱光を含みスペキュラ光を含まない第1および第2照明画像を取得することができる。これにより、スペキュラ光の影響を受けることなく特徴部Eに基づく表層画像のコントラストを算出することができ、特徴部Eの深さ情報の算出精度を向上することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 内視鏡システム
2 内視鏡
3 本体部
4 照明部
5 強度分布変更部
6 撮像部
7 分離処理部
8 演算部
A 生体組織(被写体)
B 生体組織の表面
C 表層
D 深層
E 特徴部
Wd 暗部の幅
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12