(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】気体成分から少なくとも1つの液体成分を分離する気液分離器
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04291 20160101AFI20220622BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20220622BHJP
B01D 45/12 20060101ALI20220622BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
H01M8/04291
H01M8/04 N
B01D45/12
B01D53/22
(21)【出願番号】P 2020528102
(86)(22)【出願日】2018-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2018079075
(87)【国際公開番号】W WO2019105656
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-05-21
(31)【優先権主張番号】102017221302.7
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】クルツ ミヒャエル
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-042607(JP,A)
【文献】特開2016-072183(JP,A)
【文献】特開2002-008693(JP,A)
【文献】特開昭58-186422(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0083817(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04- 8/0668
B01D 45/00-45/18
B01D 53/22-53/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口(16)を介して媒体が供給される少なくとも1つの容器(6)を備える、気体成分H2から少なくとも1つの液体成分H2Oを分離する気液分離器(2)であって、前記少なくとも1つの容器(6)において前記媒体の前記少なくとも1つの液体成分の分離が行われ、前記媒体の前記分離された成分が前記少なくとも1つの容器(6)から排出弁(46)を介して排出され、前記媒体の残った気体成分H2が、第1出口(18)を介して流出管路(5)へ戻される、気液分離器
(2)において、前記液体成分H2Oに加えて気体成分N2が前記気液分離器(2)によって前記媒体から分離され、
前記少なくとも1つの容器(6)は容器壁(17)と仕切壁(8)と仕切縁(15)と鎮静室(12)とリザーバ(14)と出口流路(20)とを有し、前記仕切壁(8)は前記容器壁(17)に向いた側にノズル先端(13)を有し、前記容器壁(17)は湾曲領域(23)を有
し、前記仕切縁(15)は先のとがった先端領域を有し、
前記仕切壁(8)の前記ノズル先端(13)と前記容器壁(17)の前記湾曲領域(23)との間に前記媒体の流通する流通路が形成され、当該流通路の前記媒体の流れ方向下流側の出口に前記仕切縁(15)の前記先端領域が配置される、
ことを特徴とする、気液分離器。
【請求項2】
前記成分H2O、N2は、遠心原理によって前記媒体から分離されることを特徴とする、請求項1に記載の気液分離器(2)。
【請求項3】
前記媒体は、
前記入口(16)と接続される前記鎮静室(12)から来て前記湾曲領域(23)および/または前記ノズル先端(13)に沿って流れ方向Vに流過する際に、前記成分H2O、N2がその程度にもとづいてより小さく偏向され、成分H2がその程度にもとづいてより大きく偏向されるように偏向されることを特徴とする、請求項1に記載の気液分離器(2)。
【請求項4】
前記媒体は、前記湾曲領域(23)および/または前記ノズル先端(13)に沿って流過した後に前記仕切縁(15)に当たり、前記成分H2は、前記出口流路(20)への流れ方向VIIに方向転換され、前記成分H2O、N2は、前記リザーバ(14)への流れ方向VIに方向転換されることを特徴とする、請求項3に記載の気液分離器(2)。
【請求項5】
複数の容器(6a、b)を有し、第1容器(6a)は前記入口(16)と少なくとも1つの管(35)と鎮静室(12)とを有し、前記管(35)は前記第1容器(6a)内に配置されており、第2容器(6b)は、リザーバ(14)とセンサ系(22)とを有し、前記管(35)は、前記第1容器(6a)の前記入口(16)および前記第2容器(6b)の前記リザーバ(14)と流体的に結合されていることを特徴とする、請求項1に記載の気液分離器(2)。
【請求項6】
前記管(35)は管壁(36)を形成し、前記管壁(36)は膜(34)として形成されており、前記膜(34)は前記媒体の成分H2に対して透過性であり、前記膜(34)は前記媒体の成分H2O、N2に対して不透過性であることを特徴とする、請求項5に記載の気液分離器(2)。
【請求項7】
前記媒体の成分H2の前記管(35)から外への移動が行われるのに対して、前記媒体の前記成分H2O、N2の前記管(35)から外への移動が阻止されることを特徴とする、請求項6に記載の気液分離器(2)。
【請求項8】
前記管(35)の内部領域と外部領域との間に圧力差が生じ、それによって前記媒体の成分H2の前記管(35)の外への移動が支援されることを特徴とする、請求項7に記載の気液分離器(2)。
【請求項9】
少なくとも2つの管(35)が1つの管束(37)に統合され、前記管(35)はそれぞれ、前記第1容器(6a)の前記入口(16)および前記第2容器(6b)のリザーバ(14)と流体的に結合されていることを特徴とする、請求項7または8に記載の気液分離器(2)。
【請求項10】
燃料電池(30)への水素供給および/または燃料電池からの水素排出を制御するための、請求項1~9のいずれか1項に記載の気液分離器(2)を備える燃料電池アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入口を介して媒体が供給される、気体成分から少なくとも1つの液体成分を分離する気液分離器に関し、特に、燃料電池駆動装置を有する車両の燃料電池システムにおいて使用するために、少なくとも1つの容器において媒体の少なくとも1つの液体成分の分離が行われる。
【背景技術】
【0002】
車両分野においては、将来的に液体燃料と並んで気体燃料の役割が益々重要になる。特に燃料電池駆動装置を有する車両では水素ガス流を制御する必要がある。この場合、ガス流は、液体燃料を噴射するときのように断続的に制御されなくなり、ガスが少なくとも1つの高圧タンクから取り出され、中圧配管システムの流入管路を介してエジェクタユニットに導かれる。このエジェクタユニットは、ガスを低圧配管システムの接続管路を介して燃料電池へ送る。特に未使用の水素と不活性分、特に水および窒素とからなる燃料電池の排ガスは再循環路を介して再循環される。
【0003】
特許文献1から、燃料電池によって放出される気体成分、特に排ガスから液体成分、特に水を分離するための気液分離器が知られている。その際、この気液分離器は、導入管を介して排ガスが供給されるケースを有する。ケースにおいて、排ガス中に含まれる水が排ガスから分離される。その後、以下にH2と呼ばれる水素などの物質を含む排ガスが出口管を介して燃料電池に戻される。さらにケースは排ガス出口を有し、分離および貯留された水は、この排ガス出口を介してケースから外に放出される。
【0004】
特許文献1から公知の気液分離器には多少の欠点がある。
【0005】
導入管を介してケースに導入される燃料電池の排ガスは、水成分と並んで他の重い成分、特に、以下にN2と呼ばれる特に気体窒素も含むので、水素と並んでこの成分が、例えば出口管を介してケースから再び燃料電池へ搬送される。それにより気液分離器には、略純粋な水素だけではなく、他の重い成分、例えばN2も燃料電池に戻されるという欠点がある。それにより燃料電池の、したがって燃料電池システムの効率が低下する。これに代えて、気体N2成分を排出するために、例えば吐出弁(Ablassventil)の形態の付加的なコンポーネントが燃料電池システムに必要であろう。しかしそのような吐出弁は、N2の放出時にはいつもH2分の分離もされるという欠点を有する。その一方で、特に吐出弁の形態の付加的コンポーネントを燃料電池システムに設ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許出願公開第102014220891号明細書
【発明の概要】
【0007】
請求項1に関連して、液体成分、特に以下にH2Oと呼ばれる水に加えて、気体成分N2が媒体から分離される気液分離器を提示する。このようにすることで、特に燃料電池からの再循環媒体の廃棄物である媒体の複数の望ましくない成分を気液分離器によって同時に分離するという利点を得ることができる。それにより燃料電池、特にアノード側でエネルギーを生成するために必要とされる媒体の気体成分の分量が増える。これは特に、気液分離器の貫流が行われた後に再び燃料電池に戻されるH2である。このことは燃料電池および/または燃料電池システムの効率を高くする一方で、燃料電池の運転時の副産物および/または廃棄物として生じる望ましくない成分が気液分離器によって分離され、したがって燃料電池におけるエネルギー生成のために必要とされる比較的多くの分量の成分を燃料電池に戻すことができるという利点を提供する。さらに、請求項1に記載の気液分離器の本発明による実施形態によって、燃料電池システムにおいて気体N2を排出するための、例えば吐出弁の形態の付加的コンポーネントの必要がなくなる。なぜなら気液分離器がこの仕事を引き受けるからである。このようにすることで、付加的コンポーネントである吐出弁の必要がなくなるのでコストを節減できるという利点を得ることができる。さらに燃料電池システムの運転時のH2の必要量を低減することができ、そのこともまた運転コストにおけるコスト節減につながる。
【0008】
従属請求項は本発明の好ましい展開形態に該当する。
【0009】
特に有利な一実施形態では、本発明による気液分離器の実施形態によって、成分H2O、N2が遠心原理によって媒体から、特に媒体の成分H2から分離される。このようにすることで成分H2から成分H2O、N2を分けるために、特に燃料電池システムによって、および/または上位システムである車両によって付加的エネルギーが提供される必要がない、ならびに/あるいはごくわずかな量のエネルギーが提供されさえすればよいという利点を得ることができる。このことは、入口を介して少なくとも1つの容器に供給される媒体が、遠心原理によって成分を分けるために必要な流入速度をすでに有しており、エネルギー付加により媒体を加速させる必要がないということにもとづく。したがって媒体へのエネルギー、特に運動エネルギーのさらなる導入は必要でなくなる。それにより燃料電池システムの効率を高めることができ、運転コストを削減することができる。
【0010】
有利な一展開形態では、少なくとも1つの容器は、容器壁と仕切壁と仕切縁と鎮静室とリザーバと出口流路とを有し、仕切壁は、容器壁に向いた側にノズル先端を有し、容器壁は湾曲領域を有する。このようにすることで、媒体から成分H2O、N2をほぼ完全に分離することが可能であるという、および/または媒体から少なくとも大部分の成分H2O、N2が分離されるという利点を得ることができる。それによって第1出口を介して少なくとも1つの容器から流出管路を通って燃料電池に戻される媒体が、略完全に、または少なくとも大部分が成分H2からなることを保証することができる。それにより、特に燃料電池のアノード領域におけるエネルギー生成に必要なのはほとんどH2のみであることから、燃料電池の効率を高めることができる。さらに、オプションで少なくとも1つの容器と燃料電池との間にあり、かつ燃料電池への連続的な搬送流をもたらす再循環ポンプと組み込まれたジェットポンプの効率も高めることができる。このことは、燃料電池システム全体の能率および/または効率を改善することができ、それにより運転コストを削減できるという利点を提供する。
【0011】
有利な一実施形態では、媒体は鎮静室から来て湾曲領域および/またはノズル先端に沿って流れ方向Vに流過する際に、成分H2O、N2がその程度(Maβe)にもとづいてより小さく偏向され、軽い成分H2がその程度にもとづいてより大きく偏向されるように偏向される。このようにすることで、成分H2O、N2およびH2がノズル先端に沿って流過するときの加速によって、より重い成分H2O、N2を軽い成分H2から、特に遠心原理によってより良く分離できるように加速および偏向されるという利点を得ることができる。それにより、気液分離器の能率と、したがって燃料電池システム全体の効率とを高めることができる。
【0012】
特に有利な一展開形態では、媒体は、湾曲領域および/またはノズル先端に沿って流過した後に仕切縁に当たり、軽い成分H2は、出口流路への流れ方向VIIに方向転換され、成分H2O、N2は、リザーバへの流れ方向VIに方向転換される。このようにすることで、分離プロセスにおいて媒体と媒体の異なった成分とが、仕切縁がない場合の媒体の比較的強い制動と比べて、仕切縁によってそれほど強く制動されない。したがって仕切縁は、特に遠心原理による媒体のより軽い成分H2からのより重い成分H2O、N2の分離プロセスを支援する。それによりリザーバへのH2O、N2の、かつ第1出口へのH2の効率の良い、かつ流れ損失の少ない流れが可能になる。さらに、H2含分が高い媒体は、そこから流れ方向に流出管路を通ってさらに移動することができ、その際、少なくとも1つの容器の領域において、H2含分が高い媒体の移送を可能にするポンプまたはファンなどのさらなる流体搬送コンポーネントの必要がない。それにより少なくとも1つの容器の領域における、または少なくとも1つの容器における、特に電気的に駆動されるポンプまたはファンといったさらなる流体搬送コンポーネントを作動させるためのエネルギーを低減することができる。それによって燃料電池システムの効率を高めることができ、運転コストを削減することができる。
【0013】
有利な一展開形態では、気液分離器は複数の容器を有し、第1容器は入口と少なくとも1つの管と鎮静室とを有し、管は第1容器内に配置されている。さらに、第2容器は、リザーバとセンサ系とを有し、管は、第1容器の入口および第2容器のリザーバと流体的に結合されている。さらに、管は管壁を形成し、管壁は膜として、特に半透過性膜として形成されており、特にそれぞれの成分の分子サイズにもとづいて、膜は媒体の成分H2に対して透過性であり、膜は媒体の成分H2O、N2に対して不透過性である。このようにすることで、媒体から、特にH2から成分H2O、N2を略完全に分離されるように気液分離器による分離プロセスが改善されるという利点を得ることができる。それによって、可能な限り高いH2分量を燃料電池に、特に流出管路と流入管路とを通して戻し、それにより燃料電池の効率および/または能力を高めることができることを確保することができる。
【0014】
有利な一展開形態では、媒体の成分H2の管から外への、特に管壁を通って鎮静室への移動が行われる。その間、媒体の成分H2O、N2の管から外への、特に管壁を通る移動は阻止される。このようにすることで、流出管路を通って再循環ポンプへ、および/または組み込まれたジェットポンプへH2O、N2がほとんど流れることができないか、またはごくわずかな分量のH2O、N2しか流れることができないという利点を得ることができる。それにより再循環路における腐食しやすい部品および/または可動部品が成分H2O、N2によって損なわれる危険を排除することができるか、または少なくとも低減することができる。さらに再循環ポンプおよび/または組み込まれたジェットポンプの電気部品がH2O、N2の導入によって損なわれ、このことが、特に電気的短絡による損傷の形態で起こり、それによって燃料電池システム全体に損害が及ぼされかねないという危険が排除されるか、または少なくとも低減される。それにより再循環ポンプおよび/または組み込まれたジェットポンプおよび/または燃料電池システム全体の寿命を延ばすことができ、燃料電池システム全体の故障の可能性を低減することができる。
【0015】
有利な一実施形態では、管の内部領域と外部領域との間に圧力差が生じ、それによって媒体の成分H2の管から外への、特に管壁を通って鎮静室への移動が支援される。このようにすることで、成分H2O、N2からH2を分離するための付加的エネルギーが気液分離器に必要となることを阻止することができる。なぜなら燃料電池の運転中は接続管路を通る後続媒体(nachstroemende Medium)によって圧力差が維持されるからである。それによって燃料電池システムの効率を高めることができ、運転コストを削減することができる。
【0016】
特に有利な一展開形態では、少なくとも2つの管が1つの管束に統合され、これらの管はそれぞれ、第1容器の入口および第2容器のリザーバと流体的に結合されている。こうすることで、膜のより大きい表面積を利用可能にすることができ、それによってより大きい体積の媒体を処理することができるという利点を得ることができる。その際、膜の比較的大きい表面積増加と比べて、必要とされる追加の構造空間はごくわずかである。さらに、膜の表面積増加によって、圧力差がより小さい場合でも媒体の成分の分離を達成することができる。それにより、燃料電池システムの効率を高めることができ、運転コストを削減することができる。さらに気液分離器をコンパクトで省スペース的な構造方式で実現することができる。
【0017】
以下、本発明の実施例を添付の図面を参照しながら詳しく説明する。図面において、
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施例による本発明の気液分離器を有する燃料電池システムの模式図である。
【
図2】気液分離器の、
図1にIIIで示されたノズルの断面図である。
【
図3】第2実施例による本発明の気液分離器を有する燃料電池システムの模式図である。
【
図5】気液分離器の、
図3にIVで示された管束の断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1および
図2の図示は、本発明による気液分離器2の第1実施例を有する燃料電池システム1を示し、気液分離器2は、液体成分、特にH
2Oに加えて気体成分N
2を媒体から分離する。その際、成分H
2O、N
2は、本発明による気液分離器2を用いて媒体から、特に媒体の成分H
2から遠心原理によって分離される。
【0020】
図1において、燃料電池30と、気液分離器2と、オプションの再循環ポンプ9とが管路によって互いに流体的に結合された燃料電池システム1が示される。燃料電池30は、アノード領域31とカソード領域32とを有し、特に車両において水素、すなわちH
2と酸素、すなわちO
2との反応によってエネルギーを生成するために用いられる。この場合、エネルギーを電気エネルギーの形で生成することができる。その際、本発明による気液分離器2は接続管路4を介してアノード領域31と流体的に結合されている。その際、特に燃料電池30のアノード領域31からの再循環媒体である媒体は、再循環させるために気液分離器2へ導かれる。この場合、再循環媒体は略完全に、燃料電池30内で酸素と化学的または電気的に反応しなかった未使用のH
2と、燃料電池30内のエネルギー取得プロセスからの廃棄物H
2O、N
2とからなる。その際、媒体は、アノード側の流れ方向IIに接続管路4を通って気液分離器2の入口16へ流れ込む。これに代えて、成分H
2O、N
2は不活性ガス分と呼ぶこともでき、これらの成分は、燃料電池30のアノード領域31においてエネルギー取得のために用いることができない。したがって、燃料電池システム1の運転全体の効率が再循環路における成分H
2O、N
2によって低下する。なぜならこれらの成分が気液分離器2によって分離されないと、これらの成分が全アノード路を通じて、特に接続管路4と流出管路5と再循環ポンプ9とオプションで設けられた組み込まれたジェットポンプ10と流入管路3とを通って一緒に送られることになるからである。したがって、その場合、燃料電池30におけるエネルギー取得のために必要な成分H
2が搬送および/または再循環される程度および/または体積も少なくなり得る。
【0021】
気液分離器2は、入口16の他に少なくとも1つの容器6と第1出口18とを有する。その際、少なくとも1つの容器6は、容器壁17と仕切壁8と仕切縁15と鎮静室12とリザーバ14と出口流路20とを有し、仕切壁8は、容器壁17に向いた側にノズル先端13を有し、容器壁17は湾曲領域23を有している。
【0022】
少なくとも1つの容器6において、媒体は、鎮静室12から来て流れ方向Vに湾曲領域23および/またはノズル先端13に沿って流過するときに、成分H2O、N2がそれらの程度にもとづいてより小さく偏向され、軽い成分H2はその程度にもとづいてより大きく偏向されるように偏向される。それによって媒体の成分H2O、N2がリザーバ14へ導かれるのに対して、媒体の成分H2は、少なくとも1つの容器6における出口流路20の領域へ導かれる。
【0023】
さらに、
図1には、少なくとも1つの容器6がセンサ系22を有し、このセンサ系は、成分H
2O、N
2の濃度および/またはリザーバ14の領域における圧力を測定し、排出弁46と少なくとも間接的に接続されていることが示される。センサ系22が成分H
2O、N
2の濃度に関した特定の値および/または圧力を検出すると直ちに排出弁46の制御が行われ、成分H
2O、N
2は、排出弁46によって少なくとも1つの容器6から、特にリザーバ14の領域から放出および/または導出される。これに代えてセンサ系22は、所定のH
2O分量およびN
2分量で応答して排出弁46を開く。その際、気液分離器2の例示的実施形態では、排出弁46は、少なくとも1つの容器6の最深点に配置されていてもよく、それにより重力によって、および/または重力の支援によりリザーバ14を略完全に空にすることが保証される。
【0024】
出口流路20の領域にあり、成分H
2O、N
2から分かれた、特に湾曲領域23およびノズル先端13によって分けられたH
2は、これが出口流路20に到達した後に、さらに少なくとも1つの容器6の第1出口18へ流れ、そしてそこから流れ方向IIに流出管路5を介してさらに、燃料電池システム1におけるオプションの部品として設けられていてもよい再循環ポンプ9へ流れる。再循環ポンプ9およびは、媒体、特にH
2を搬送および/または圧縮するために用いられる。その際、再循環ポンプ9は、特に、媒体の搬送流が停止に至るかもしれない燃料電池システム31の動作点および/または動作状態において燃料電池30への媒体の連続的な搬送流を保証すべきである。媒体は再循環ポンプ9を通過した後に節点7に到達する。節点は、例えば組み込まれたジェットポンプ10(
図3に図示)として形成されていてもよく、媒体は、節点7から流れ方向IIに、かつ流入管路3を通って燃料電池30へ流れ、媒体は、特に流入管路3から燃料電池30のアノード領域31へ流れ込む。
【0025】
図2は、
図1に示された気液分離器2のノズル11の部分IIIを示す。媒体は、湾曲領域23および/または仕切壁8のノズル先端13に沿って流れ方向Vに流過した後に
仕切縁15に当たり、軽い成分H2は、出口流路20への流れ方向VIIに偏向され、成分H2O、N2はリザーバ14への流れ方向VIに偏向される。その際、湾曲領域23は容器壁17の一部である。さらに仕切縁15が先のとがった、および/またはくさび状の領域を有し、この領域が成分H2からの成分H2O、N2の分離を、特に遠心原理によって支援する。その際、残った媒体、特にH2からの成分H2O、N2の分離は、これらの成分の質量(Massen)が異なることにもとづいて行われ、成分H2O、N2は、より軽い成分H2よりも重い。その際、湾曲領域23に沿って流れ、ノズル先端13を通過するときに遠心力が成分に作用し、このこともまたより軽い成分H2からの成分H2O、N2の分離を、特に遠心原理によって容易にする。
【0026】
その際、これに加えて、仕切壁8と容器壁17との間、特にノズル先端13と湾曲領域23との間の流れ通路が流れ方向Vに先細りになり、および/または仕切壁8と容器壁17との間の距離が流れ方向Vに小さくなることが有利に作用する。それによって、この時点ではまだすべての成分H2O、N2およびH2を有する媒体の流速を高め、それにより遠心力効果を大きくし、したがって分離を容易にすることができる。さらに、仕切縁15の配置が分離プロセスに有利に作用し、仕切縁の配置は、流れ方向Vの媒体を、つまり一方で重い成分H2O、N2をリザーバ14に向かう流れ方向VIに分割することを容易にし、他方、軽い成分H2を出口流路20に向かう流れ方向VIIに分割することを容易にする。その際、さらにこれに加えて、媒体の流れ方向Vおよび/または成分H2O、N2の流れ方向VIが少なくとも略重力の作用方向に延びるように気液分離器2および/または少なくとも1つの容器6および/またはノズル11が向けられているならば有利に作用する。その際、成分H2の流れ方向VIIは、特に仕切縁15に沿って通過が行われた後に重力の作用方向と少なくとも略逆に延びる。それによって、遠心原理によるより重い成分とより軽い成分の分離を、付加的に重力の作用によって支援することができ、したがってより効率の良い分離を達成することができる。
【0027】
図3は、第2実施例による本発明の気液分離器2を有する燃料電池システム1の模式図を示す。この場合、燃料電池30がアノード領域31とカソード領域32とを有することが示されている。カソード領域32には、吸引路29によってカソード側の流れ方向IVに空気、特にO
2が供給される。
図3において、特に燃料電池30のアノード領域31からの再循環媒体である媒体がアノード領域31から流れ方向IIに接続管路4を介して気液分離器2へ導かれることが示されている。その際、気液分離器2は複数の容器6a、bを有し、第1容器6aは、入口16と少なくとも1つの管35と鎮静室12とを有し、管35が第1容器6a内に配置されており、第2容器6bは、リザーバ14とセンサ系22とを有し、管35が第1容器6aの入口16および第2容器6bのリザーバ14と流体的に結合されている。気液分離器2の別の例示的実施形態では、少なくとも2つの管35が1つの管束37に統合されてもよく、これらの管35はそれぞれ、第1容器6aの入口16と、かつ第2容器6bのリザーバ14と流体的に結合されている。さらにセンサ系22は第2容器6b内のH
2O分量とN
2分量とを連続的に測定し、成分H
2O、N
2の濃度に関した特定の値および/または圧力を超えると直ちに排出弁46の制御が行われ、成分H
2O、N
2が排出弁46によって第2容器6bから、特にリザーバ14の領域から放出および/または導出される。成分H
2O、N
2が排出弁46によって第2容器6bから導出された後に、これらの成分は、戻し管路19を介して燃料電池システム1の吸引路29に到達する。そこから成分H
2O、N
2は、流れ方向IVに吸引路29を通ってさらにカソード領域32へ流れる。
【0028】
図3において、媒体が燃料電池30のアノード領域31から来て入口16を介して第1容器6aに流れ込むことが示され、この場合、媒体は、少なくとも1つの管35または気液分離器2の管束37に流れ込む。次いで管35または管束37を介して、残った媒体、特にH
2からの成分H
2O、N
2の分離が行われる。このことは管35または管束37の管壁36の透過性(Durchlaessigkeit)、特に浸透性(Permeabilitaet)によって可能にされ、その際、成分H
2は、特に成分H
2O、N
2よりも分子サイズが小さいことから管壁36を通って鎮静室12に拡散することができる。成分H
2O、N
2は、特に成分H
2よりも分子サイズが大きいことから管壁36を通り抜けて拡散することができず、それゆえ管35または管束37の全長を通って第2出口24を介して第2容器6bに導かれ、そこに集められる。気液分離器2の可能な一実施形態では、第2出口24は、成分H
2O、N
2が第2容器6bから第2出口24を介して管35または管束37へ流れ戻ることが阻止されるように形成されている。
【0029】
鎮静室12に集められた媒体、特に成分H
2は、最終的に流れ方向IIに流出管路5を通って再循環ポンプ9へ流れる。再循環ポンプ9によって行われる媒体の圧縮プロセスおよび加速プロセスが
図1の説明において詳しく解説されている。特に略完全にH
2である媒体は、再循環ポンプ9からさらに、組み込まれたジェットポンプ10に流れる。ジェットポンプ10内ではいわゆるジェットポンプ効果が生じる。そのために気体作動媒体、特にH
2が、タンク27、特に高圧タンク27からジェットポンプ10の外部のタンク管路21を通ってジェットポンプ10に流れ込む。さらに再循環媒体が再循環ポンプ9からジェットポンプ10の吸引領域へ搬送される。次いで作動媒体は、高圧下で吸引領域に導入される。その際、気体作動媒体は、流れ方向IIの向きで流れる。高圧タンク27からジェットポンプ10の吸引領域へ流れ、かつ作動媒体として用いられるH
2は、吸引領域に流れ込む再循環媒体との圧力差を有し、その際、作動媒体は、特に少なくとも10barの比較的高い圧力を有する。ジェットポンプ効果が生じるようにするため、再循環媒体は、小さい圧力と小さい程度流(Maβenstrom)でジェットポンプ10の吸引領域に搬送される。その際、作動媒体は、上述の圧力差と、特に音速に近い高速で吸引領域に流れ込む。その際、作動媒体は、すでに吸引領域にある再循環媒体に当たる。高速および/または作動媒体と再循環媒体との間の圧力差にもとづいて、媒体間の内部摩擦と乱流が発生する。その際、高速の作動媒体とはるかに低速の再循環媒体との間の境界層にせん断応力が発生する。この応力が力積の伝達(Impulsuebertragung)をもたらし、再循環媒体が加速されて連れ去られる。運動量保存の原理(Prinzip der Impulserhaltung)により混合が行われる。その際、再循環媒体は流れ方向IIに加速され、再循環媒体についても圧力降下が生じ、それによって吸引作用が始まり、したがって再循環ポンプ9の領域からさらなる再循環媒体が追加搬送される。
【0030】
ジェットポンプ10において再循環媒体が作動媒体によって加速され、かつ2つの媒体が混合された後に、混合された媒体が流入管路3を通って燃料電池30へ、特にアノード領域31へ流れる。
【0031】
図4において、管壁36の膜34が示され、膜34が断面斜視図で示されている。この場合、膜34は半透過性膜34として形成されており、
図4に示されるように、特にそれぞれの成分の分子サイズにもとづいて、膜34は、媒体の成分H
2に対して透過性であり、膜34は、媒体の成分H
2O、N
2に対して不透過性である。その際、媒体の成分H
2O、N
2が膜34の構造、特に格子構造を通って拡散するには大きすぎるのに対して、媒体の成分H
2は、膜34の構造を通って拡散するのに十分に小さい。
【0032】
図5は、管35が管壁36を形成することを示し、その際、管壁36が膜34として形成され、特にそれぞれの成分の分子サイズにもとづいて、膜34は、媒体の成分H
2に対して透過性であり、膜34は、媒体の成分H
2O、N
2に対して不透過性である。その際、
図5において、複数の管35が1つの管束37に統合されていてもよいことが示されている。気液分離器2の可能な一実施形態では、管35は互いに平行に延びる。その際、媒体の成分H
2がそれぞれの管35から外へ、特に管壁36を通って鎮静室12へ移動するのに対して、媒体の成分H
2O、N
2の、特に管壁36を通って管35から外への移動は阻止されることが示されている。したがって成分H
2O、N
2は、第2出口24の方向にのみさらに流れることができ、成分H
2O、N
2は、第2出口24を通って第2容器6bへさらに流れる(
図3に図示)。気液分離器2の有利な一実施形態では、管35または管束37の内部領域と外部領域との間に圧力差が生じ、それによって媒体の成分H
2の管35または管束37から外へ、特に管壁36を通って鎮静室12への移動が支援される。
【0033】
本発明は、本明細書中に記載された実施例および本明細書中に強調された態様に限定されない。むしろ請求項に記載された範囲内で多数の変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 燃料電池システム
2 気液分離器
3 流入管路
4 接続管路
5 流出管路
6、6a、6b 容器
8 仕切壁
9 再循環ポンプ
10 ジェットポンプ
11 ノズル
12 鎮静室
13 ノズル先端
14 リザーバ
15 仕切縁
16 入口
17 容器壁
18 出口
20 出口流路
22 センサ系
23 湾曲領域
29 吸引路
30 燃料電池
31 アノード領域
32 カソード領域
34 膜
35 管
36 管壁
37 管束
46 排出弁
II、V、VI、VII 流れ方向