(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-21
(45)【発行日】2022-06-29
(54)【発明の名称】照明装置
(51)【国際特許分類】
H01J 63/06 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
H01J63/06
(21)【出願番号】P 2021083223
(22)【出願日】2021-05-17
【審査請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2020152299
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504302945
【氏名又は名称】釜原 董隆
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】釜原 董隆
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-098679(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088283(WO,A1)
【文献】特開平04-249850(JP,A)
【文献】特開2013-073891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 63/06
H01J 61/00
H01J 65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エミッタと、
前記エミッタが放出する電子を受けて蛍光を光照射面に向けて発光する蛍光体と、
前記蛍光体を支持するもので、熱伝導率が蛍光体と同一かそれ以上の固体からなる支持体と、
を有し、
前記蛍光体は、前記支持体の一部が前記蛍光体の微小な隙間に露出する状態となるまで薄くした状態で、熱伝導率が蛍光体と同一かそれ以上の固体からなる前記支持体の表面に設けられており、
前記エミッタと前記支持体と前記蛍光体とを覆う透明封止体をさらに備え、
前記支持体の両端が前記透明封止体を貫通して
照明装置の外部に突出しており、
前記支持体と前記透明封止体との間の隙間は封止されて当該透明封止体の内部が密封されており、
前記支持体は、両端が開放された筒状をしており、かつ、前記両端が、当該照明装置の外部に突出しており、前記支持体の内部空間は、前記両端それぞれを介して前記外部に露出しており、
当該支持体は、前記内部空間で生じた暖気が上昇する方向である上下方向に沿って設置される
ことを特徴とする、照明装置。
【請求項2】
前記エミッタは、前記蛍光体と前記光照射面との間に設けられている、
請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記固体は、アルミニウム等の金属である、
請求項1または2に記載の照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド発光素子を使用した照明装置において、発光体が、高電圧下の温度上昇によって短期間で発光しなくなる現象を抑制することができる構成に関する。
【背景技術】
【0002】
人工照明には白熱電球や蛍光灯やメタルハライド・ランプ、そして水銀灯やハロゲンランプなど種々ある。しかし、これらはいずれも、消費電力が多い、水銀等の有害物質を使用している為に、環境破壊につながる、といった問題を有している。そのため、現状の人工照明の全ては、いずれ使用が禁止される方向に進んでいる。
【0003】
これらの人工照明に変わって、今後は、ダイヤモンド発光素子を使った照明装置である Field Emission Lamp(以下、FELと略す)が着目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FELは、高輝度の次世代照明装置として期待されているものの、照明装置としての寿命が1ヶ月程度しかないという問題を有している。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、FELの寿命が短い原因として現在特定されている問題を解決して、FELの寿命を1ヶ月以上に延命する事を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
FELでは点灯時において蛍光体に非常に高い電圧をかけるために蛍光体が温度上昇して早期に破壊されてしまう。この蛍光体破壊がFELの寿命を短くしている。本発明では、蛍光体の温度上昇を、熱の対流と放射と伝導を利用して冷却することで抑制している。
【0008】
具体的には、本発明の照明装置は、
エミッタと、
前記エミッタが放出する電子を受けて蛍光を光照射面に向けて発光する蛍光体と、
前記蛍光体を支持するもので電気伝導率と熱伝導率とが良好な物質からなる支持体と、を有し、
前記蛍光体は、前記支持体の一部が前記蛍光体の微小な隙間に露出する状態となるまで、つまり、前記蛍光体の間に垣間見える状態となるまで薄くした状態で、前記支持体の表面に設けられていることが好ましい。
【0009】
また、前記蛍光体は、蛍光体の量を獲得可能な最小限の量に近い極薄い層を有しており、かつ、前記蛍光体は、前記支持体の一部が前記蛍光体の間に垣間見える状態となるまで薄くして前記支持体の表面に設けられていることが好ましい。
【0010】
この構成を備えることで本発明の照明装置は、発光時に蛍光体に生じる熱を伝導と放射とを利用して支持体から照明装置の外部に効率よく放熱することができる。
【0011】
ここで、本発明における蛍光体の量を別の表現で規定すると、次のようになる。すなわち、前記蛍光体の量は、当該蛍光体に要求される蛍光量、つまり、明るさを獲得する事が可能な最小限の量に近い量を有している。
【0012】
また、前記電気伝導率と熱伝導率とが共に良好な物質は、金属であるのが好ましい。
【0013】
本発明には、
前記エミッタは、前記蛍光体と前記光照射面との間に設けられている、
という態様がある。
【0014】
この態様によれば、蛍光体で生じた光が蛍光体を通過することなく蛍光体表面から光照射面に向けて照射されるので、照明装置の光照射効率が向上する。
【0015】
本発明には、
前記エミッタと前記支持体と前記蛍光体とを覆う透明封止体をさらに備え、
前記支持体の両端のうち少なくとも一端が、前記透明封止体を貫通して当該照明装置の外部に突出しており、
前記支持体と前記透明封止体との間の隙間は封止されて当該透明封止体の内部が密封されている、
という態様がある。
【0016】
本発明には、
前記支持体の両端が、前記透明封止体を貫通して当該照明装置の外部にそれぞれ突出している、
という態様がある。
【0017】
この態様によれば、支持体の両端が照明装置の外部に露出しているので、支持体を介して装置外部空間へ放熱(放射)する際において重要となる熱の対流が効率良く発生するようになって、伝導と放射を利用した放熱効果がさらに向上する。
【0018】
本発明には、
前記支持体は、上下方向に沿って当該照明装置に設けられている、
という態様がある。
【0019】
この態様によれば、支持体を上下方向に沿って配置するので、支持体に接触して温度が高温となり軽くなった空気が上昇する。そうすると、下部から新しい低温の空気が支持体に接触し、温度が高温となり軽くなった空気が上昇する。この状態が繰り返されて、支持体を介して装置外部空間へ放熱(放射)する際において重要となる熱の対流がさらに効率良く発生するようになって、放熱効果がさらに向上する。
【0020】
本発明には、
前記支持体は、両端のうちの一端が開放された筒状をしており、かつ、前記一端が当該照明装置の外部に突出しており、
前記支持体の筒内空間は、前記一端を介して装置外部に露出している、
という態様がある。
【0021】
この態様によれば、照明装置内部の封止を妨げることなく、支持体の筒内空間が装置外部に露出するので、装置外部に露出する支持体の表面積が増加して、放熱効果がさらに向上する。
【0022】
本発明には、
前記支持体は両端が開放された筒状をしており、かつ、前記両端が当該照明装置の外部に突出しており、
前記支持体の筒内空間は、前記両端それぞれを介して装置外部に露出している、
という態様がある。
【0023】
この態様によれば、支持体による照明装置内部の封止を妨げることなく、支持体の筒内空間が装置外部に露出するので、装置外部に露出する支持体の表面積が増加して、放熱効果がさらに向上する。さらには、筒内空間の両端が装置外部に露出するので、装置外部に露出する筒内空間と装置外部空間との間で空気循環が生じる。そのため、装置内外で生じる熱対流が空気循環を介してさらに効率良く生じて、放熱効果がさらに向上する。
【発明の効果】
【0024】
従来の照明装置には、蛍光体の温度上昇が原因で、蛍光体が短期開で発光しなくなるという問題があったが、本発明によれば、発光時に生じる蛍光体の熱を支持体を介して速やかに装置外部に伝導せしめる事が可能になった。これにより、蛍光体の温度上昇を抑制して、蛍光体の寿命を伸ばす事が出来る。
【0025】
また、従来の照明装置では、蛍光体の発光により生じた光は、発光しない蛍光体の隙間を抜けて出て行かねばならず、そのため発光した光は減衰してしまう。これに対して、本発明の照明装置では、発光した光の全てが照明装置の表面にまで届くため、従来のものよりも明るい照明装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の形態1のFELの概略構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態1のFELの要部を示す要部拡大断面図である。
【
図3】本発明のFELにおける放熱の説明に供する概念図である。
【
図4】本発明のFELの製造の説明に供する概念図である。
【
図5】本発明の実施の形態2のFELの要部を示す要部拡大断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態3のFELの要部を示す要部拡大断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態4のFELの要部を示す要部拡大断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態5のFELの要部を示す要部拡大断面図である。
【
図9】従来例のFELの要部を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態を説明する前に、従来のFEL100について簡単に説明する。従来のFEL100は、
図9に示されるように、装置の中央部にエミッタ101が配置され、光照射面となる外装ガラス102の内面102bに蛍光体103が塗布されており、蛍光体103と光照射面(外装ガラス102)とは一体となっている。
【0028】
以上の構成を備えた従来のFEL100では、装置径方向中心部位に配置されたエミッタ101から装置径方向外側方向(矢印Aの方向)に沿って蛍光体103に向かって飛び出した電子eは、蛍光体103の最内層部位に位置する蛍光体粒子103aのみに衝突してこの部位の蛍光体粒子103aを発光させる。四方八方へ発光した光の内で、装置径方向外側に向けて照射しようとしてさらに蛍光体103内部を通過したうえで光照射面102aから装置外部に照射される。その際、光は蛍光体103の内部で衝突-反射を繰り返し、減衰を重ねたうえで装置外部に照射される。
【0029】
この様に、発光した蛍光体粒子103aで生じた光は、発光しない蛍光体粒子103の隙間を抜けることで減衰した状態でFEL100の外側へ出て行かざるを得ない。しかしながら、これは説明するまでもなく照明装置として効率が悪い。
【0030】
一方、本発明のFEL1は、
図1、
図2に示される。
図1は、本発明のFEL1の概略立体図であり、
図2はその要部拡大概略横断面図である。このFEL1は、装置の径方向中心部位に熱伝導度の高いアルミニウム等の金属の棒体からなる支持体2が配置され、装置径方向外側外周部に光照射面5aとなる透明封止ガラス5が設けられており、支持体2と光照射面5aとの間にエミッタ3が配置されている。蛍光体4は、装置の中央部に位置する支持体2の軸方向中央部位の周面に塗布されている。支持体2は、蛍光体塗布部位である軸方向中央部分を装置内に収納したうえで、軸方向両端部位を装置外部に突出させている。装置外部から突出している支持体2の両端部分と、透明封止ガラス5との間は封止されている。なお、支持体2は一体の金属棒体から構成してもよいし、蛍光体塗布部位と装置突出部位とを別々に形成したうえでそれらを一体化してもよい。
【0031】
FEL1では、装置の径方向中間位置に設けられたエミッタ3から放出された電子eは、装置径方向内側に向かって進み蛍光体4に到達する。到達した電子は、蛍光体4の最外層に位置する蛍光体粒子4aに衝突して、この部位の蛍光体粒子4aを発光させる。発光した光は、蛍光体4内部の他の蛍光体粒子を通過することなく、蛍光体最外層部位から装置径方向外側に向けて照射されたのち、透明封止ガラス5(光照射面5a)を介して装置外部に照射される。なお、光照射面5aは、上述したように、FEL1の内部を密封封止する透明封止ガラス5から構成されている。
図1中において、符号6は、エミッタ3と蛍光体4とに給電する電源である。
【0032】
以上の構成を備えたFEL1では、光は蛍光体4の内部で衝突-反射の繰り返しによる減衰を生じさせることなく装置外部に照射される。以上のことから明らかなように、本発明のFEL1は、従来のものに比べて効率よく照明を行うことができる。
【0033】
次に、本発明のFEL1が耐久性において従来例に比して優れている理由を説明する。
【0034】
まず、第1の理由を説明する。本発明では、FEL1の点灯時において蛍光体4に発生する熱を金属からなる支持体2を介してFEL1の外部に伝導放熱することができるので、蛍光体4の温度上昇を効率よく抑制する事が出来る。
【0035】
次に、第2の理由を説明する。本発明のFEL1では、蛍光体4の量と層の厚さを特定の値に設定することで、蛍光体4の温度上昇を抑制している。具体的には、本発明のFEL1においては、蛍光体4は、蛍光体の量を獲得可能な最小限の量に可及的に近い極薄い層を有しており、さらには、蛍光体4の層の厚さを、支持体2の表面全面を覆うことなく支持体2の地肌が蛍光体4の間に垣間見える程度の状態となるまで、出来得る限り薄くしている。また、蛍光体4の量を別の表現で規定すると、次のようになる。すなわち、蛍光体4の量は、当該蛍光体に要求される蛍光量つまり明るさを獲得する事が可能な、最小限の量に可及的に近い量に設定されている。蛍光体4をこの程度の厚さと量にすることで、蛍光体の量は減る事になり、発光時における蛍光体4の温度上昇が抑制される。しかし、量が減るからといって、支持体の地肌が蛍光体から露出する状態にならない限りは、FELの明るさ、つまりルーメン、カンデラなどの数値が変化する訳ではない。
【0036】
上記の様に、支持体の地肌が蛍光体の間に垣間見える状態にならない限りは、蛍光体の量が増えても減ってもFELの明るさは同じである。
【0037】
上記の様に、支持体の地肌が蛍光体から露出すれば、その露出した地肌の面積だけの蛍光体が減少するので、その分だけ暗くなる。
【0038】
支持体の全表面に万遍なく蛍光体を塗布した状態と、蛍光体の量を増加させて塗布した状態との違いは、蛍光体の量が多い方の蛍光体の層が厚くなるだけで、FELの明るさは同じである。
【0039】
上記の様に、支持体の全表面に万遍なく蛍光体を塗布した状態であれば、蛍光体の量が増えても減っても支持体の表面に隙間なく塗布されているのだから、エミッタからの電子は支持体の全表面に衝突し発光するので、FELの明るさは同じである。ただし、蛍光体の量が増えればその層は厚くなり、減ったら薄くなる、というだけの事である。
【0040】
後述する様に、蛍光体の熱伝導率は低いので、層が厚い場合は電子の衝突により発熱した熱を支持体にまで伝導させる前に、次の電子の衝突により発熱してしまい、次々と層内に蓄熱されて高温となり、蛍光体の温度消光温度に到達し発光しなくなる。
【0041】
この様に、蛍光体の層が厚くても薄くても、FELの点灯初期の明るさは同じである。しかし、蛍光体の層の厚さが厚くなればなるほど、発熱した熱を支持体に伝導させることが出来ないので、蛍光体は発光しなくなる。層の厚さが従来のFELと同レベルならば寿命は1ヶ月であるが、層の厚さを薄くすると寿命は1ヶ月よりも当然長くなる。
【0042】
ここで蛍光体を支持体の表面である地肌に薄く塗布して長寿命を実現させる為に、蛍光体を支持体の地肌が垣間見える程度の薄さに塗布すれば、層が厚すぎて電子の衝突で発熱した熱を温度消光温度に到達する前に支持体にまで熱伝導出来ない厚い層が大幅に減少する筈である。
【0043】
傾向として蛍光体の層が薄すぎて支持体の地肌が見えている所の周囲とは限らないが、支持体の地肌が垣間見える様に蛍光体を塗布した部分には、必ず電子によって発熱した熱を次の衝突までに支持体へ伝導させる事の可能な薄い層が存在する。
【0044】
この様な薄い層が少ない様に塗布された蛍光体では、厚すぎる層は順次消光して暗くなる。そして、長寿の薄い層のみが残る事となり、長寿だが暗いFELとなる。しかしこの様な薄い層が多くなる様に塗布された場合でも、厚すぎる層は有るので、その部分は順次消光する。しかし結果としては長寿の薄い層が多く残る事となり、より明るくて長寿命なFELを作ることが出来る。
【0045】
本発明のFEL1において蛍光体4の塗布構造は、従来のものを使用可能である。蛍光体4の材料についても本発明は、汎用されているP22-X(r)、P22-X(r)、P22-X(g)、P22-X(b)等を使用可能である。
【0046】
これらの蛍光体材料の特性ならびに粒度分布におけるピーク粒度サイズ (単位μm)は、以下の通りである。
【0047】
P22-X(r) Y202S;Eu 7.5μm
P22-X(r) YVO4;Eu 5.0μm
P22-X(g) ZnS;Cu,Au,Al 8.0μm
P22-X(b) ZnS;Ag 8.0μm
最もピーク粒度の大きい蛍光体材料は、P22-X(g)、P22-X(b)であり、そのピーク粒度は8.0μmである。このような形状を有する蛍光体4を金属からなる支持体2に、従来と同様、0.2mmの厚さで塗布したとする。そうすると、その積層状態の概略は、次の(1)式により推定できる。
【0048】
0.2mm÷0.008mm=25‥(1)
すなわち、蛍光体4を支持体2に0.2mmの厚さで塗布したFEL1の構成では、約25個の蛍光体粒子4aが層状になって支持体2表面に配置されていると推定できる。
【0049】
本発明者は、FELの寿命の延命を図るに際して、FELと類似の蛍光体が使用されており、しかもその構造研究が進んでいるLEDに着目した。白色LEDランプにおいては、70~100°Cに達したLEDチップによって蛍光体が加熱され、その熱によって、蛍光体の発光強度が著しく減少する現象が知られている。この現象はFELにおいても同様に生じる。この現象は蛍光体の温度消光と呼ばれている。発光時に蛍光体に生じる70~100°C程度の熱に起因して発光強度が劣化しており、このような発光強度の劣化により従来のFELでは、実用可能な寿命を得ることが出来なかった。
【0050】
蛍光体の温度消光モデルはこれまでに幾つか提示されている。それらのモデルでは、基本的に、発光イオンの熱振動の振る舞いやその価数変化などが、温度消光に関連していると見なされている。しかしながら、これらのパラメーターの中で、具体的にどのパラメーターが蛍光体の温度消光に関連しているかは明らかにされていない。
【0051】
本発明では、蛍光体の温度消光に強く相関するパラメーターを探し出し、蛍光体の温度消光の改善を図ることで、FELの寿命の延命を図っている。以下、説明する。
【0052】
FELにおける蛍光体の劣化原因については、次のように考えることもできる。すなわち、高電圧をかけて電子を蛍光体に超高速で衝突させることで生じる温度上昇によって蛍光体が融点以上に加熱されてしまい、その高温状態に起因する蛍光体の破壊によって温度消光が発生する。しかしながらこの説で温度消光を説明することは適切ではない。その理由を合金Y203:Euを主原料とする蛍光体を例にして説明する。この蛍光体の構成要素の一つである酸化イットリウムY203の融点は2410°Cであり、もう一つの構成要素であるユウロピウムEuの融点は826°Cである。したがって、これらの金属の合金であるY203:Euを主原料とする蛍光体4の融点が、前述した70~100°C程度の加熱温度まで下降することはなく、したがって、70~100°C程度の加熱により溶融して温度消光が生じる、という説も適切ではない。FELでは、蛍光体においてその融点以下の70~100°C程度の比較的低温度の加熱が加えられても、その加熱によって温度消光が生じている。
【0053】
図3は一粒の蛍光体粒子4aからなる蛍光体4が金属からなる支持体2の表面に設けられてなる、蛍光体4の模式図である。この構成では、支持体2の熱伝導率が高いために、蛍光体4において高速電子eの衝突で発熱が生じても、その熱は支持体2に直接接触している蛍光体4から支持体2に速やかに伝導する。そのため、電子eが次々と衝突して蛍光体4で発熱が生じても、その熱は効率よく支持体2に伝導(伝搬)するため、蛍光体4で蓄熱は生じない。その熱は蛍光体4から支持体2に伝導されてここで蓄積が生じ始めるものの、その熱はさらに支持体2端部から装置外部に速やかに放熱されるため、蓄熱により支持体2の蛍光体接触部位が温度消光温度(70~100°C程度)まで温度上昇することは生じにくい。
【0054】
しかし、比較的蓄熱量が大きく(熱容量が大きく)、かつ熱伝導性が良い金属製の支持体2を設けることによって高効率に外部への放熱を可能とした本発明の構成であっても、電子eの衝突を受ける蛍光体粒子4aの塗布層が従来のFELの様に25層もある場合は、その分厚い蛍光体4の層内に発生した熱を速やかに支持体2へ伝導させる事ができなければ、熱が蓄熱して蛍光体4全体の単位時間あたりの総蓄熱量が、支持体2による単位時間あたりの最大放熱量を上回ってしまって、支持体2での蓄熱維持ならびに蓄熱の増加は避けられなくなってしまう。さらにはこの状態で、つまり、熱伝導率の小さい蛍光体4を24層もの厚さに塗布した為に電子の衝突によって発熱した熱を支持体2へ伝導させる前に次の電子が衝突して発熱する。これが繰り返されて例え熱が支持体2へ伝導されたとしても、蛍光体4の熱伝導率が不充分であれば、電子が衝突する蛍光体4が最も高温である。従って、蛍光体粒子4aのエミッタに面する表層が温度消光温度に晒される事になってしまい、その結果、蛍光体4aは破壊する。従来のFELの寿命が1ヶ月しか持たない理由を、もう一方の角度から説明する。
【0055】
蛍光体に電子が衝突すると発熱する。発生したその熱は蛍光体中を支持体2に向かって伝導する。蛍光体の一例として、酸化イットリウム:Y203を例にして説明する。Y203の熱伝導率は下記計算式によって13.35W/m・°Cである事が解かった。
【0056】
Y203;酸化イットリウム,3.19×10^-2(cal/cm/sec/°C)
3.19×10^-2=3.19×0.01=0.0319
0.0319(cal/cm・sec・°C)=0.0319[(cm・sec・°C)]×100[cm/m]×1[°C/゜K]×4.184[J/cal]=(0.0319×4.184)×100≒13.35W/m・°C
Eu;ユウロピウムの熱伝導率は13.9W/m・°C
Y203とEuの合金Y203:Euを主成分とする蛍光体の熱伝導率は、アルミニウムAlの250W/m・°C、亜鉛Znの116W/m・°C、銅Cuの401W/m・°C等の金属には敵わないが、モルタルの1.73W/m・°Cや石2~7W/m・°Cよりもかなり良好で、ステンレス鋼が16W/m・°Cである事を勘案すれば、先ず先ずの熱伝導率であると思われる。しかし、蛍光体の粒径は0.008mmだから、溶液の厚さが前述したように、0.2mmの時、25層にもなる。しかもこの25層は点接触で層を作っているのだから、エミッタ側の蛍光体に電子が次々に衝突して発熱し、その熱は点接触部位を伝導して、光照射面のガラスに到達する。
【0057】
しかし、ガラスの熱伝導率(板ガラス0.96W/m・°C、ガラス1.05W/m・°C)はモルタルや石よりも劣悪である。そのガラスを介しての放熱に手間取っている間にエミッタ側の蛍光体へは次々と電子が衝突して発熱し蓄熱される。ガラスの熱伝導率は劣悪である。しかも、このガラスへ蛍光体を直接塗っているのだから、厚さ0.2mmの蛍光体の熱容量は小さすぎる。
【0058】
この仕組みで寿命が1ヶ月しか持たなかった事は従来のFELで証明されている。FELの寿命1ヶ月を超えて延命することを課題としている本発明のFELは上記の問題点を尽く解決し改善した。
【0059】
(改善1)
改善は、支持体2と蛍光体4の改善である。支持体2の改善は、従来のFELが蛍光体4を光照射面のガラスへ塗布したのに対して、本発明のFEL1は熱伝導率と電気伝導率が良好な支持体2(金属)へ塗布している事である。これは、発生した熱が蛍光体4を伝導してガラスへ到達したとしても、そしてガラスをどんなに厚くして其の熱容量を大きくして、蛍光体4で発生した熱を吸収しようとしても、ガラスの熱伝導率が劣悪で有る為に蛍光体4からガラスへの熱伝導が緩やかに進行する。蛍光体4からガラスへの熱の移動が手間取っている時も、次々と電子は衝突し発熱している。その為に、発生した熱は蛍光体4に蓄熱されて温度上昇してしまい、FELの寿命が延びないのである。
【0060】
これから蛍光体4の改善について説明する。
【0061】
蛍光体4を支持体2に0.2mmの厚さで塗布した従来のFELの構成では、約25個の蛍光体粒子4aが層状になって支持体2表面に配置されていると推定される、という問題点がある。
【0062】
この問題を改善するには、層を25層から1層に近づければ良い。1層であれば、
図3に示す様に電子が衝突して発熱し、次々と次々と衝突し発熱しても、発熱しても、支持体2の金属へスムーズに次から次へと、スムーズにその発熱の毎に熱が伝導する。従来のFELは24層で1ヶ月程度の寿命であった。それなら20層、10層、5層、3層、1層と少なくすればする程、蛍光体と電子の衝突による熱は、蛍光体層へ蓄熱せずに支持体2へ伝導して支持体2へ蓄熱される。
【0063】
一方、支持体2と電子が衝突する事によって発熱した熱は支持体2に蓄熱される。この蓄熱量は、20層、10層、5層、3層、1層と少なくすればする程、支持体2の地肌がむき出しになる為に、衝突量が増えて発熱による蓄熱量も大きくなる。従って、蛍光体4は層が少ない程、つまり薄い程良くて、支持体2の地肌がむき出しになっている面積は小さい程良い、という事になる。この事については議論の余地のない事実である。
【0064】
この様に、蛍光体4を支持体2へ塗布する時の規制を次に示す。本発明では、蛍光体4の総量を、蛍光体4が支持体2のエミッタ側表面全体を覆うことなく蛍光体4の間に垣間見える状態で蛍光体4が支持体2に塗布される程度、すなわち、蛍光体4を塗布しても、支持体2の表面の一部の部位2aが露出する程度の厚みにする。
【0065】
実際に蛍光体を塗る時は、本発明の目的が、従来のFELの寿命が1ヶ月であったから、この寿命を1ヶ月を超える様にする。であるから、先ず従来のFELで使用した蛍光体濃度(1:1.8=蛍光体:溶液)を基準にせねばならない。
【0066】
溶液が同一溶液だから、同一粘度である。従って塗った時の塗膜厚さは殆ど同一になる。従来のFELの蛍光体はP22を使用している。P22と呼ばれる蛍光体(R,G,B)のそれぞれの組成は以下の通りである。
【0067】
赤-Y203:Eu、緑-ZnS:Cu,Au,Al、青-ZnS:Ag,Al
R,G,B配合比率は重量比で41:33:26である。
【0068】
従来のFELの蛍光体と溶液の配合比率は、
蛍光体:溶液=1:1.8(wt)であり、その溶液の内訳は
溶剤:酢酸ブチル=1.686
バインダー:ニトロセルロース=0.014
接着剤:0.1
1.686+0.014=溶剤+バインダーは1.7である。
【0069】
この10倍溶液を作るとすれば、1.7g:0.1g=17g:xとなり、10倍溶液の結着剤はx=1gとなる。試験用の試料へ塗る溶液は10g程度で十分である。
【0070】
従って、17g:0.1g=10g:xg
x=0.059g
1:1.8=x:10.059g
x=5.59g=溶液10g程度の時の蛍光体量、つまり従来のFELの蛍光体:溶液=1:1.8における、蛍光体:溶液=1:1.8=5.59:10.059である。
【0071】
蛍光体は乾燥した粉末であるから、混入量の変化が溶液の粘度に影響を与える事はない。従って、一塗り0.2m厚さの時、max25層となる事が基準である。基準の25層の時の蛍光体濃度は、溶液10gとすると、
蛍光体:溶液=1:1.8
1:1.8=x:10
x=5.56
溶液10gの時、蛍光体5.56g この時、25層で、0.2mm厚である。
溶液10gの時、蛍光体2.78g この時、12.5層で、0.2mm厚である。
溶液10gの時、蛍光体1.39g この時、6.25層で、0.2mm厚である。
溶液10gの時、蛍光体0.7g この時、3.125層で、0.2mm厚である。
溶液10gの時、蛍光体0.34g この時、1.56層で、0.2mm厚である。
溶液10gの時、蛍光体0.17g この時、0.78層で、0.2mm厚である。
溶液10gの時、蛍光体0.087g この時、0.39層で、0.2mm厚である。
【0072】
上記の1層前後の蛍光体溶液を作って、支持体2と同じ金属片へ塗りそれを顕微鏡で確認する。この方法によって適切な蛍光体濃度を決めれば良い。
【0073】
要点1、以上説明した様に、蛍光体4層全体の熱伝導を改善して、電子の衝突で発生した熱が蛍光体4に蓄熱される事なく、速やかに支持体2に伝導する事。
【0074】
要点2、支持体2の体積(熱容量)を、其々の照明器具としての用途に耐えるマックスの体積にする。例えば、家庭用照明なら、直径6cmで長さ15cm位の支持体2であり、作業用照明なら直径20cmで長さ20cm位の支持体2が想定される。
【0075】
要点3、従来のFELは、熱伝導率が劣悪な薄いガラスに、蛍光体4が分厚く塗布されたものであり、寿命は1ヶ月である。
【0076】
要点1と2とを備えていれば、支持体2の体積分だけ蛍光体4の熱を吸収するので、其の分だけ蛍光体4の寿命を延ばす。従来のFELは上記の要点3であり寿命は1ヶ月である。
【0077】
従って、支持体2の一部を当該照明装置の外部に露出して、装置内で発生した熱を大気へ放熱しなくても、寿命は1ヶ月を充分に超えるのは当然の事である。
【0078】
(改善2)
従来のFELの蛍光体は光照射面のガラスへ直接塗っているという問題点がある。ガラスの熱伝導率は、板ガラス0.96W/m・°C、ガラス1.05W/m・°Cである。これはモルタル1.73W/m・°Cや石2~7W/m・°Cよりも劣悪である。
【0079】
蛍光体の熱を大気に放熱させる時、ガラスを介するのは効率が悪い。この問題を改善する為に、本発明の構成は、光照射面5aと蛍光体4の間にエミッタ3を配置している。そして蛍光体4は、電気伝導率と熱伝導率の高い金属の表面へ塗っている。
【0080】
この構成によって、蛍光体で発生した熱は効率良く金属製の支持体2に伝導し蓄熱される。支持体2に蓄熱された熱を大気中に放熱させる構成は、支持体2の中心部分に通気孔を作り、通気孔の両端が光照射面のガラスを貫通して大気中へ突出している。ガラスを貫通した貫通部分の支持体とガラスは接着して真空封止が完成している。
【0081】
従来のFELは、熱伝導率の悪い光照射面のガラスに蛍光体を直接塗っていた為に、大気との熱交換が直接行われる。一方、蛍光体の方は、分厚い蛍光体の層内で蓄積された熱を、熱伝導率の悪いガラスを介して大気へ放出することが出来にくい。更に、蛍光体自体も熱伝導率が悪いことに加えて、粉末の蛍光体は、点接触で層状に重なっている為に熱伝導率が非常に悪い。そういう状況下でエミッタから電子が次々と衝突して蛍光体が発熱する。この状態が連続した為に従来のFELでは蛍光体が熱で壊れて1ヶ月程度しか寿命が無かったのである。
【0082】
しかし、ここでガラスへ塗らずに、蛍光体を熱伝導率の良い金属へ塗った場合は、エミッタから電子が次々と衝突して発熱する。そして、其の熱は蛍光体と金属との接触面で金属に伝導する。この金属の熱伝導率が良好な場合は、蛍光体から伝導してきた熱は、すぐに金属全体に熱伝導し拡散して蛍光体と金属との接触面の温度は上昇しない。金属の体積は熱容量であるから、この金属の体積が大きい程、金属と蛍光体との接触面の温度を上昇させるには長時間が必要となる。
【0083】
しかし、熱伝導率の悪いガラスへ蛍光体を塗った場合は、エミッタから電子が次々と衝突し発熱する。そして、其の熱は蛍光体とガラスとの接触面でガラスへ伝導する。ガラスの熱伝導率は、石やモルタル並みであるから熱伝導は緩やかである。しかし、エミッタからの電子は次々と衝突し発熱する為に蛍光体とガラスとの接触面の温度は上昇し、従来のFELは熱で蛍光体が壊れて1ヶ月しか寿命が持たなかったのである。
【0084】
ここで、蛍光体の層を非常に薄くする事によって、エミッタから電子が次々と衝突し発熱しても、其の熱を即座に熱伝導率の良い金属に移動させることが出来るように、蛍光体は、金属製の支持体の一部が前記蛍光体の微小な隙間に露出する状態となるまで出来る限り薄くした状態、つまり、前記支持体の一部が前記蛍光体の間に垣間見える状態で、前記支持体の表面に設けられている。前記支持体の体積は、熱容量であるから支持体の体積を大きくすればするほど、支持体と蛍光体との接触面の温度を上昇させるには長時間が必要となる。つまり寿命が長くなるのである。
【0085】
この様に、蓄積した熱を大気中に放熱しなくても、寿命を1ヶ月以上に延命させる事が出来る。しかし、蓄熱した熱を大気へ放熱することが出来れば定期的に電源を切って消灯し、冷却させなくても、つまり長時間連続的に点灯させ続ける事が可能となる。
【0086】
支持体2に蓄熱された熱を大気中へ放熱させる構成は、支持体2の中心部分に通気孔を作り、通気孔の両端が光照射面のガラスを貫通して大気中へ突出している。ガラスを貫通した貫通部分の支持体とガラスは接着して真空封止が完成している。
【0087】
なお、「蛍光体は、金属製の支持体の一部が前記蛍光体の微小な隙間に露出する状態となるまで出来る限り薄くした状態、つまり、前記支持体の一部が前記蛍光体の間に垣間見える状態」について、以下、さらに詳しく説明する。
(1)支持体の地肌が見える部分、
(2)蛍光体の層の厚さが蛍光体粒子1粒~3粒の部分、
(3)蛍光体の層の厚さが蛍光体粒子4粒~7粒の部分、
(4)蛍光体の層の厚さが蛍光体粒子8粒~24粒の部分
のそれぞれの構成を仮定する。
【0088】
前記(1)の部分は、エミッタからの電子が支持体に衝突して発熱する。この部分は、電子を遮るものが無いため、支持体の温度を上昇させ続ける。蛍光体からの熱も支持体に伝導するので、前記(1)による熱と、蛍光体からの熱との合計熱量よりも、FELの大気への放出熱量が多い場合は、其のFELの寿命は、永久である。しかし、前記合計熱量よりも、大気への放出熱量が少なければ少ない程FELの寿命は短くなる。
【0089】
前記(2)の部分は、エミッタからの電子の衝突による発熱の殆どは支持体へ伝導しているので、蛍光体の層内には熱は殆ど、こもってないはずである。其の理由は、上述した段落[0055]と[0056]に記載されている。従って、支持体内の前記(1)の部分の発熱量が、FELの大気へ放出する熱量よりも、大きければ大きい程寿命は短くなるが、前記(1)の部分の発熱量がFELの大気へ放出する熱量よりも小さければ、その寿命は永久ではないが、永久といっても過言ではない。
【0090】
前記(3)の部分は、支持体内の前記(1)の部分の発熱量が、FELの大気へ放熱する熱量よりも小さい場合でも、寿命は永久とはならず、いずれ壊れる。なぜならば、蛍光体の層内に熱がこもり、其の熱が上昇し壊れて消えるからである。しかし、その寿命はかなり、長寿命となるはずである。
【0091】
前記(4)の部分は、従来のFELが蛍光体の層が24層程度でその寿命は1ヶ月である。蛍光体の層が8層~24層であれば、その寿命は少なくとも1ヶ月以上である。
【0092】
このように、前記(1)~前記(4)の状態が混在している。
【0093】
其の混在の状態は、前記(1)が最も少ないことが重要である。
【0094】
そして、次に、少なくするべきは前記(4)であり、大半が前記(2)と前記(3)が混在していることである。この混在の状態が、上述の「垣間見える」又は「微小な隙間に露出する」状態である。
【0095】
ここで、蛍光体を塗布するときの注意点について、具体的に説明する。
【0096】
蛍光体を塗布した時、蛍光体は厚い層と薄い層とがランダムに入り乱れた状態で塗布される。
【0097】
この場合、蛍光体を1層だけ表面に敷き詰める事は不可能である。2層だけ敷き詰めるとか、3層に敷き詰める事とかも不可能である。更に、3層以上8層以下の範囲で、つまり、3層ないし8層で隙間無く敷き詰める事も不可能である。この様に表面へ粉末を特定の範囲の厚さ、つまり、特定の範囲の層数だけ隙間無く敷き詰める事は不可能である。これを可能にする方法があるとするならば、その方法は特許となる技術である筈である。
【0098】
つまり、請求項の数値範囲として、蛍光体粒子の層数を使用することは出来ない。従って、塗布された蛍光体の厚さを特定し制限する手段として[蛍光体の厚さを、蛍光体が支持体の全表面を覆うことなく、支持体の一部が蛍光体の微小な隙間に露出する状態、つまり、蛍光体が支持体の全表面を覆うことなく、支持体の表面の一部が蛍光体の間に垣間見える状態にする。]という表現を使用した。
【0099】
これは、支持体の地肌が、蛍光体の間に垣間見える様になった時の(蛍光体の層数ではなくて)、蛍光体の厚い層の部分と薄い層の部分とがランダムに入り乱れて分布している状態において、支持体の地肌が蛍光体の間に垣間見える部分がある、と言う(蛍光体の分布の状態である)。つまり、蛍光体の微小な隙間に露出する、及び垣間見える部分が、1箇所でも、それ以上でも良い。
【0100】
この構成のFELを支持体2が地面に垂直になるように設置する。これによって支持体2に蓄熱されている熱は、通気孔の穴は大気であるから、この穴で放熱が行われる。支持体2の熱で加熱された通気孔内の大気は上昇し通気孔から出る。すると、穴の下部から冷たい大気が流入し、通気孔内に熱循環を起こして、支持体2の熱を大気へ放熱する。
【0101】
このようなFELにおける支持体での蓄熱を抑制するために、本実施形態のFEL1では、蛍光体粒子4aの総量を次のように規制している。すなわち、本発明では、蛍光体4の総量を、当該FEL1において蛍光体4は、蛍光体の量を獲得可能な最小限の量に可及的に近い極薄い層に設定しており、さらには、蛍光体4の厚みを、支持体2のエミッタ側表面全面を覆うことなく、蛍光体4は、支持体2の一部が蛍光体4の微小な隙間に露出する状態となっている。つまり、蛍光体4の間に垣間見える状態で塗布される程度、すなわち、蛍光体4を塗布しても、支持体2の表面の一部の部位2aが蛍光体4の間に垣間見える状態にしている。このように蛍光体4の薄さを規定することで本発明のFELは、電子eの衝突に起因する熱を、蛍光体の層の厚さを最小限に抑える事により、蛍光体の層に蓄熱する事なく、速やかに支持体2に伝導する事が出来る部分は非常に長寿命である。しかし、蛍光体の層が厚くて熱を層内に蓄熱してしまう部分は、高温になり発光しなくなる。一方の支持体の方は、蛍光体4の間に垣間見える部分に電子の衝突がつづき発熱しつづける事により、いずれ寿命が尽きる。さらには、蛍光体4によって支持体2の表面をその一部を除いてほぼ全面被覆することで、エミッタ3から放出される電子eが支持体2にダイレクトに衝突することを可能な限り防止している。
【0102】
以上の構成を有することにより、FEL1では、電子eを受けて発光して発熱する蛍光体4の蓄熱量、および電子eをダイレクトに受けて発熱する支持体自体の総熱量が抑制される。その結果、蛍光体4全体の単位時間あたりの総発熱量が、支持体2による単位時間あたりの装置外部への放熱量を上回ることがなくなる可能性が生じ、支持体2での蓄熱が大きく抑制される。そのうえ、電子eのダイレクト到達に起因する支持体2の直接加熱も抑制されるため、支持体2における蓄熱がさらに抑制される。この為に、本発明が課題としているFELの寿命を1ヶ月以上に延命する事が可能となるのである。
【0103】
したがって、この状態でFEL1での照明時間が長時間になっても、支持体2の蛍光体の部位4aの温度が温度消光温度(70~100°C程度)になることがほとんどなくなる、もしくは支持体2の蛍光体の部位4aでの温度が温度消光温度(70~100°C程度)になっている期間が長期に渡ることがなくなる。その結果、蛍光体4(蛍光体粒子4a)は劣化しにくくなる。
【0104】
このような効果を得るうえで、FEL1は、以下の構成をさらに備えている。すなわち、エミッタ3と支持体2と蛍光体4とを覆う透明封止ガラス5を備えており、支持体2の両端は、光照射面5aを構成する透明封止ガラス5を貫通してFEL1の外部に突出している。支持体2と透明封止ガラス5との間の隙間は封止されており、透明封止ガラス5の内部は密封されている。これにより、FEL1では、装置外部に突出している支持体2の外表面から放熱されることが可能となって、蛍光体4の劣化をさらに抑制することが可能となっている。
【0105】
なお、FEL1では、構造的に、金属からなる支持体2と透明封止ガラス5とを密着性高く接着して、透明封止ガラス5の内部を封止する必要がある。この構造は、支持体2に溜まる熱をFEL1の外部に効率よく放熱するためにも必要となる。しかしながら、金属製の支持体2と透明封止ガラス5とは体積収縮率が大きく相違するため、透明封止ガラス5を破損させることなく支持体2と透明封止ガラス5とを接着させて両者の隙間を封止するのは容易ではない。
【0106】
そこで、本実施形態では、以下のようにして、支持体2と透明封止ガラス5とを接着して、透明封止ガラス5の内部を封止している。その封止方法は、本実施形態では、接着剤を使用した。接着剤は支持体2としている物質と透明封止物質とを接着できるものであれば、どのようなものでも良い。例えば支持体2がアルミニウムで透明封止物質がガラスの時は、ボンドウルトラ多用途エスユー(Konishi Co.,Ltd.製の多用途タイプの弾性接着剤の商品名)を使用することが推奨される。
【0107】
支持体2と透明封止ガラス体5を接着する為に、支持体2の外周面形状と同一の穴形状だが、少し穴径の大きい支持体装着孔5e、5eを有する封止ガラス体5を別途用意する。なお、封止ガラス体5には、ジョイント部5fが設けられている。そして、
図4(c)に示されるように、支持体2の外周に封止ガラス体5の支持体装着孔5e、5eを挿入させて両者が近接した状態で、支持体2とジョイント部5fの支持体装着孔5eの隙間へ接着剤を流し込んで接着させる。その際、支持体2の両端(外端)2bは、透明封止ガラス5から装置外側に突出させておく。
【0108】
この状態で、支持体2とジョイント部5fを持つ透明封止ガラス5とを密着させて、支持体2の中央部分を含む透明封止ガラス5の内部を完全に密封封止させる。
【0109】
以上説明したように、実施の形態1の構成では、支持体2の放熱量を十分に確保して支持体2での蓄熱を生じにくくしている。しかしながら、本発明は、支持体の両端を透明封止ガラスを貫通して当該照明装置の外部にそれぞれ突出するものに限らない。
図5に示される実施の形態2のFEL10であっても本発明に含まれる。このFEL10では、支持体11の一端11aだけが透明封止ガラス5を貫通して当該照明装置10の外部に突出している。この構成であっても、支持体11の放熱量を確保して支持体11での蓄熱を生じにくくすることができる。
【0110】
また、上述したFEL10の変形例として、
図6に示される実施の形態3のFEL20がある。このFEL20が有する支持体21は、その一端21aだけが装置外部に突出して露出しているものの、装置外部に突出する支持体一部端部21aから長手方向中途部21bに渡って中空になっている。ただし、支持体21は筒状になっているものの中途部21bは有底状になっており、これにより、FEL20の筒内部の空間は封止されて、透明封止ガラス5よる装置内密封が維持されている。
【0111】
FEL20においては、その装置外部に露出する支持体21が有底の筒状となっているので、その外表面面積が大きくなって、支持体21の放熱量が増加している。そのため、支持体21の一端21aだけが装置外部に露出している支持体21の放熱量を補うことができて、支持体21で蓄熱が生じにくくなる。
【0112】
なお、中途部21bを有底の筒状にする構成は、支持体21の一端端部21aだけに設けるだけでなく、
図7に示される実施の形態4のように、両端31a、31bを装置から突出させた支持体31を有するFEL30において、両端31a、31bそれぞれを有底の筒状にしてもよい。この構成によれば、FEL30から外部に露出する支持体31の外表面面積がより大きくなって、支持体31の放熱量がさらに増加する。
【0113】
さらには、本発明の実施の形態としては、
図6、
図7に示された有底筒状の支持体だけでなく、
図8に示されるように、無底の筒状、すなわち、両端41a、41b間で相互貫通する無底の筒状体となった支持体41を有する、実施の形態5のFEL40がある。この構成によれば、装置内部の密封を維持したうえで、FEL40から外部に露出する支持体41の外表面面積をさらに大きくすることが可能となる。さらには、支持体41の内部空間41cと支持体41の両端41a、41bそれぞれに接している装置外部の空間との間で空気対流(気流循環)を生じさせることができる。これにより、支持体41から装置外部にさらに効率よく放熱することが可能となる。
【0114】
なお、
図8に示されるFEL40では、無底の筒状体とした支持体41を上下方向に沿って、透明封止ガラス5に設けている。これにより、支持体41の内部空間で生じた暖気が上昇して支持体41の上端から外部に放散しやすくなるうえ、暖気の外部放散に伴って、支持体41の下端から別途の空気(冷気)が支持体41内に流入しやすくなって、支持体41の内部空間41cと装置外部との間に生じさせる空気対流をより効率よく発生させることが可能となる。したがって、さらに効率よく放熱することができる。
【0115】
なお、上述した暖気の煙突効果を得るうえでは、支持体41を上下方向に配置するのが好ましいものの、本発明では、支持体41の配置向きは上下方向に限らないのはいうまでもない。横方向もしくは斜め方向に沿って支持体41を設けても、十分に放熱効果を得ることが出来るのはいうまでもない。
【0116】
本発明は、前述した実施の形態のものに限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて、任意に且つ適宜に変更・選択して採用することができるものである。
【符号の説明】
【0117】
1 FEL
2 支持体
2a 支持体の一部の部位
2b 支持体の両端
3 エミッタ
4 蛍光体
4a 蛍光体粒子
5 透明封止ガラス
5a 光照射面
5e 支持体装着孔
5f ジョイント部
6 電源
10 FEL
11 支持体
11a 支持体一端
20 FEL
21 支持体
21a 支持体一端
21b 支持体中途部
30 FEL
31 支持体
31a、31b 支持体両端
40 FEL
41 支持体
41a、41b 支持体両端