(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】ドライバトルク推定装置およびそれを備えた操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220623BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2018134213
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018079319
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モレヨン マキシム
(72)【発明者】
【氏名】田村 勉
(72)【発明者】
【氏名】フックス ロバート
(72)【発明者】
【氏名】小路 直紀
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-113512(JP,A)
【文献】特開2011-063130(JP,A)
【文献】特開2015-033942(JP,A)
【文献】特開2017-206071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を操舵するためのステアリングホイールが連結された第1軸と、
前記第1軸にトーションバーを介して連結された第2軸と、
前記トーションバーに加えられているトーションバートルクを検出するためのトルク検出部と、
前記第2軸の回転角を取得する回転角取得部と、
前記トーションバートルクと前記第2軸の回転角とに基づいて、外乱オブザーバによって基本ドライバトルクを推定する基本ドライバトルク推定部と、
前記ステアリングホイールの回転角を用いて、前記ステアリングホイールの重心に作用する重力によって前記第1軸に与えられる重力トルクを演算する重力トルク演算部と、
前記基本ドライバトルク推定部によって推定される前記基本ドライバトルクと、前記重力トルク演算部によって演算される前記重力トルクとを用いて、ドライバトルクを推定するドライバトルク推定部とを含む、ドライバトルク推定装置。
【請求項2】
前記基本ドライバトルク推定部は、前記基本ドライバトルクを推定するとともに、前記ステアリングホイールの回転角を推定するように構成されており、
前記重力トルク演算部は、前記基本ドライバトルク推定部によって推定される前記ステアリングホイールの回転角を用いて、前記重力トルクを演算するように構成されている、請求項1に記載のドライバトルク推定装置。
【請求項3】
前記ステアリングホイールの角速度を用いて、前記ステアリングホイールおよび前記第1軸に作用するクーロン摩擦トルクを演算する摩擦トルク演算部をさらに含み、
前記ドライバトルク推定部は、前記基本ドライバトルク推定部によって推定される前記基本ドライバトルクと、前記重力トルク演算部によって演算される前記重力トルクと、前記摩擦トルク演算部によって演算される前記クーロン摩擦トルクとを用いて、ドライバトルクを推定するように構成されている、請求項1に記載のドライバトルク推定装置。
【請求項4】
前記基本ドライバトルク推定部は、前記基本ドライバトルクを推定するとともに、前記ステアリングホイールの回転角および前記ステアリングホイールの角速度を推定するように構成されており、
前記重力トルク演算部は、前記基本ドライバトルク推定部によって推定される前記ステアリングホイールの回転角を用いて、前記重力トルクを演算するように構成されており、
前記摩擦トルク演算部は、前記基本ドライバトルク推定部によって推定される前記ステアリングホイールの角速度を用いて、前記クーロン摩擦トルクを演算するように構成されている、請求項3に記載のドライバトルク推定装置。
【請求項5】
前記ステアリングホイールの回転中心位置を通る鉛直線が前記ステアリングホイールの回転平面となす角をステアリングホイール傾き角とし、前記車両の向きが直進方向となるステアリングホイール位置を中立位置として当該中立位置からの前記ステアリングホイールの回転量および回転方向に応じた角度をステアリングホイール回転角とすると、
前記重力トルク演算部は、前記ステアリングホイールの重心位置と回転中心位置との間の距離と、前記ステアリングホイールの質量と、前記ステアリングホイール回転角の正弦値と、前記ステアリングホイール傾き角の余弦値との積を、前記重力トルクとして演算するように構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のドライバトルク推定装置。
【請求項6】
舵角制御用の電動モータと、
手動操舵指令値を生成する手動操舵指令値生成部と、
自動操舵指令値に前記手動操舵指令値を加算して、統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部と、
前記統合角度指令値に基づいて、前記電動モータを角度制御する制御部とを含み、
前記手動操舵指令値生成部は、請求項1~5のいずれか一項に記載の前記ドライバトルク推定装置によって推定されたドライバトルクを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、操舵装置。
【請求項7】
前記手動操舵指令値生成部は、前記ドライバトルク推定部によって推定されたドライバトルクに基づいて、アシストトルク指令値を設定するアシストトルク指令値設定部を含み、
前記手動操舵指令値生成部は、前記ドライバトルクと前記アシストトルク指令値とを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、請求項6に記載の操舵装置。
【請求項8】
舵角制御用の電動モータと、
手動操舵指令値を生成する手動操舵指令値生成部と、
自動操舵指令値に前記手動操舵指令値を加算して、統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部と、
前記統合角度指令値に基づいて、前記電動モータを角度制御する制御部とを含み、
前記手動操舵指令値生成部は、請求項1~5のいずれか一項に記載の前記ドライバトルク推定装置によって推定されたドライバトルクの絶対値が所定値以上の場合にのみ、前記トルク検出部によって検出されるトーションバートルクを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、操舵装置。
【請求項9】
前記手動操舵指令値生成部は、前記トルク検出部によって検出されるトーションバートルクに基づいて、アシストトルク指令値を設定するアシストトルク指令値設定部を含み、
前記手動操舵指令値生成部は、前記ドライバトルク推定部によって推定されたドライバトルクの絶対値が所定値以上の場合にのみ、前記トーションバートルクと前記アシストトルク指令値とを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、請求項8に記載の操舵装置。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一項に記載の前記ドライバトルク推定装置よって推定されたドライバトルクに基づいて、ハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかを判定するハンズオン/オフ判定部と、
舵角制御用の電動モータと、
手動操舵指令値を生成する手動操舵指令値生成部と、
自動操舵指令値に前記手動操舵指令値を加算して、統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部と、
前記統合角度指令値に基づいて、前記電動モータを角度制御する制御部とを含み、
前記手動操舵指令値生成部は、前記ハンズオン/オフ判定部によってハンズオン状態であると判定されている場合にのみ、前記トルク検出部によって検出されるトーションバートルクを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、操舵装置。
【請求項11】
前記手動操舵指令値生成部は、前記トルク検出部によって検出されるトーションバートルクに基づいて、アシストトルク指令値を設定するアシストトルク指令値設定部を含み、
前記手動操舵指令値生成部は、前記ハンズオン/オフ判定部によってハンズオン状態であると判定されている場合にのみ、前記トーションバートルクと前記アシストトルク指令値とを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、請求項10に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、運転者によってステアリングホイールに加えられるドライバトルクを推定することが可能なドライバトルク推定装置およびそれを備えた操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ステアリングホイールが連結された入力軸と、入力軸にトーションバーを介して連結された出力軸と、出力軸に減速機を介して連結された電動モータとを含む車両用操舵装置におけるハンドル操作状態判定装置が開示されている。特許文献1に記載のハンドル操作状態判定装置は、トーションバーに加えられているトーションバートルクと出力軸の回転角とに基づいて、外乱オブザーバによって、ドライバトルクを推定するドライバトルク推定部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の目的は、高精度にドライバトルクを推定できるドライバトルク推定装置およびそれを備えた操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、車両を操舵するためのステアリングホイール(2)が連結された第1軸(8)と、前記第1軸にトーションバー(10)を介して連結された第2軸(9)と、前記トーションバーに加えられているトーションバートルクを検出するためのトルク検出部(11)と、前記第2軸の回転角を取得する回転角取得部(25)と、前記トーションバートルクと前記第2軸の回転角とに基づいて、外乱オブザーバによって基本ドライバトルクを推定する基本ドライバトルク推定部(62)と、前記ステアリングホイールの回転角を用いて、前記ステアリングホイールの重心に作用する重力によって前記第1軸に与えられる重力トルクを演算する重力トルク演算部(63)と、前記基本ドライバトルク推定部によって推定される前記基本ドライバトルクと、前記重力トルク演算部によって演算される前記重力トルクとを用いて、ドライバトルクを推定するドライバトルク推定部(51)とを含む、ドライバトルク推定装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0006】
この構成では、ステアリングホイールの重心に作用する重力によって第1軸に与えられる重力トルクを考慮して、ドライバトルクが演算されるため、高精度にドライバトルクを推定できる。
請求項2に記載の発明は、前記基本ドライバトルク推定部は、前記基本ドライバトルクを推定するとともに、前記ステアリングホイールの回転角を推定するように構成されており、前記重力トルク演算部は、前記基本ドライバトルク推定部によって推定される前記ステアリングホイールの回転角を用いて、前記重力トルクを演算するように構成されている、請求項1に記載のドライバトルク推定装置である。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記ステアリングホイールの角速度を用いて、前記ステアリングホイールおよび前記第1軸に作用するクーロン摩擦トルクを演算する摩擦トルク演算部(64)をさらに含み、前記ドライバトルク推定部は、前記基本ドライバトルク推定部によって推定される前記基本ドライバトルクと、前記重力トルク演算部によって演算される前記重力トルクと、前記摩擦トルク演算部によって演算される前記クーロン摩擦トルクとを用いて、ドライバトルクを推定するように構成されている、請求項1に記載のドライバトルク推定装置である。
【0008】
この構成では、ステアリングホイールの重心に作用する重力によって第1軸に与えられる重力トルクの他、第1軸およびステアリングホイールに作用するクーロン摩擦トルクをも考慮して、ドライバトルクが演算されるため、より高精度にドライバトルクを推定できる。
請求項4に記載の発明は、前記基本ドライバトルク推定部は、前記基本ドライバトルクを推定するとともに、前記ステアリングホイールの回転角および前記ステアリングホイールの角速度を推定するように構成されており、前記重力トルク演算部は、前記基本ドライバトルク推定部によって推定される前記ステアリングホイールの回転角を用いて、前記重力トルクを演算するように構成されており、前記摩擦トルク演算部は、前記基本ドライバトルク推定部によって推定される前記ステアリングホイールの角速度を用いて、前記クーロン摩擦トルクを演算するように構成されている、請求項3に記載のドライバトルク推定装置である。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記ステアリングホイールの回転中心位置を通る鉛直線が前記ステアリングホイールの回転平面となす角をステアリングホイール傾き角とし、前記車両の向きが直進方向となるステアリングホイール位置を中立位置として当該中立位置からの前記ステアリングホイールの回転量および回転方向に応じた角度をステアリングホイール回転角とすると、前記重力トルク演算部は、前記ステアリングホイールの重心位置と回転中心位置との間の距離と、前記ステアリングホイールの質量と、前記ステアリングホイール回転角の正弦値と、前記ステアリングホイール傾き角の余弦値との積を、前記重力トルクとして演算するように構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のドライバトルク推定装置である。
【0010】
請求項6に記載の発明は、舵角制御用の電動モータ(18)と、手動操舵指令値を生成する手動操舵指令値生成部(141)と、自動操舵指令値に前記手動操舵指令値を加算して、統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部(142)と、前記統合角度指令値に基づいて、前記電動モータを角度制御する制御部(143)とを含み、前記手動操舵指令値生成部は、請求項1~5のいずれか一項に記載の前記ドライバトルク推定手段(51)によって推定されたドライバトルクを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、操舵装置である。
【0011】
この構成では、自動操舵指令値に手動操舵指令値が加算されて、統合角度指令値が演算され、この統合角度指令値に基づいて電動モータが制御される。これにより、手動操舵制御と自動操舵制御との間で切り替えを行うことなく、自動操舵制御主体での操舵制御を行いながら手動操舵が可能な協調制御を実現できる。これにより、手動操舵制御と自動操舵制御との間での移行をシームレスに行うことができるので、運転者の違和感を低減することができる。
【0012】
また、この構成では、運転者がハンドルを操作していない可能性が高い場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値が設定されるのを抑制することができる。
請求項7に記載の発明は、前記手動操舵指令値生成部は、前記ドライバトルク推定手段によって推定されたドライバトルクに基づいて、アシストトルク指令値を設定するアシストトルク指令値設定部(151)を含み、前記手動操舵指令値生成部は、前記ドライバトルクと前記アシストトルク指令値とを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、請求項6に記載の操舵装置である。
【0013】
請求項8に記載の発明は、舵角制御用の電動モータ(18)と、手動操舵指令値を生成する手動操舵指令値生成部(141A)と、自動操舵指令値に前記手動操舵指令値を加算して、統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部(142)と、前記統合角度指令値に基づいて、前記電動モータを角度制御する制御部(143)とを含み、前記手動操舵指令値生成部は、請求項1~5のいずれか一項に記載の前記ドライバトルク推定手段(51)によって推定されたドライバトルクの絶対値が所定値以上の場合にのみ、前記トルク検出手段によって検出されるトーションバートルクを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、操舵装置である。
【0014】
この構成では、手動操舵制御と自動操舵制御との間で切り替えを行うことなく、自動操舵制御主体での操舵制御を行いながら手動操舵が可能な協調制御を実現できる。これにより、手動操舵制御と自動操舵制御との間での移行をシームレスに行うことができるので、運転者の違和感を低減することができる。
また、この構成では、運転者がハンドルを操作していない場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値が設定されるのを抑制することができる。
【0015】
請求項9に記載の発明は、前記手動操舵指令値生成部は、前記トルク検出手段によって検出されるトーションバートルクに基づいて、アシストトルク指令値を設定するアシストトルク指令値設定部(151A)を含み、前記手動操舵指令値生成部は、前記ドライバトルク推定手段によって推定されたドライバトルクの絶対値が所定値以上の場合にのみ、前記トーションバートルクと前記アシストトルク指令値とを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、請求項8に記載の操舵装置である。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項1~5のいずれか一項に記載の前記ドライバトルク推定装置よって推定されたドライバトルクに基づいて、ハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかを判定するハンズオン/オフ判定部(52)と、舵角制御用の電動モータ(18)と、手動操舵指令値を生成する手動操舵指令値生成部(141B)と、自動操舵指令値に前記手動操舵指令値を加算して、統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部(142)と、前記統合角度指令値に基づいて、前記電動モータを角度制御する制御部(143)とを含み、前記手動操舵指令値生成部は、前記ハンズオン/オフ判定手段(42)によってハンズオン状態であると判定されている場合にのみ、前記トルク検出手段によって検出されるトーションバートルクを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている操舵装置である。
【0017】
この構成では、手動操舵制御と自動操舵制御との間で切り替えを行うことなく、自動操舵制御主体での操舵制御を行いながら手動操舵が可能な協調制御を実現できる。これにより、手動操舵制御と自動操舵制御との間での移行をシームレスに行うことができるので、運転者の違和感を低減することができる。
また、この構成では、運転者がハンドルを操作していない場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値が設定されるのを抑制することができる。
【0018】
請求項11に記載の発明は、前記手動操舵指令値生成部は、前記トルク検出手段によって検出されるトーションバートルクに基づいて、アシストトルク指令値を設定するアシストトルク指令値設定部(151B)を含み、前記手動操舵指令値生成部は、前記ハンズオン/オフ判定手段によってハンズオン状態であると判定されている場合にのみ、前記トーションバートルクと前記アシストトルク指令値とを用いて、前記手動操舵指令値を生成するように構成されている、請求項10に記載の操舵装置である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るドライバトルク推定装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】ECUの電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】ハンドル操作状態判定部の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】コラム式EPSの物理モデルの構成を示す模式図である。
【
図5】拡張状態オブザーバの構成を示すブロック図である。
【
図6A】ステアリングホイールの重心位置と第1軸の中心軸線とを示す図解的な正面図である。
【
図7】ステアリングホイール回転角θ
swと重力トルクT
gとの関係の一例を示すグラフである。
【
図8】フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)とクーロン摩擦トルクT
fとの関係の一例を示すグラフである。
【
図9】フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)とクーロン摩擦トルクT
fとの関係の他の例を示すグラフである。
【
図10】ハンズオン/オフ判定部の動作を説明するための状態遷移図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る操舵装置が適用された電動パワーステアリングシステムの概略構成を示す模式図である。
【
図12】モータ制御用ECUの電気的構成を説明するためのブロック図である。
【
図13】
図12の手動操舵指令値生成部の構成を示すブロック図である。
【
図14】ドライバトルクT
dに対するアシストトルク指令値T
acの設定例を示すグラフである。
【
図15】指令値設定部で用いられるリファレンスEPSモデルの一例を示す模式図である。
【
図16】手動操舵指令値生成部の変形例を示すブロック図である。
【
図17】モータ制御用ECUの変形例を示すブロック図である。
【
図18】
図17の手動操舵指令値生成部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るドライバトルク推定装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
この電動パワーステアリング装置(車両用操舵装置)1は、コラム部に電動モータと減速機とが配置されているコラムアシスト式電動パワーステアリング装置(以下、「コラム式EPS」という)である。
【0021】
コラム式EPS1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール(ハンドル)2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6、第1ユニバーサルジョイント28、中間軸7および第2ユニバーサルジョイント29を介して機械的に連結されている。
【0022】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された第1軸8と、第1ユニバーサルジョイント28を介して中間軸7に連結された第2軸9とを含む。第1軸8と第2軸9とは、トーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。
ステアリングシャフト6の周囲には、トルクセンサ11が設けられている。トルクセンサ11は、第1軸8および第2軸9の相対回転変位量に基づいて、トーションバー10に加えられているトーションバートルクTtbを検出する。トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbは、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)12に入力される。
【0023】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸13は、第2ユニバーサルジョイント29を介して中間軸7に連結されている。ピニオン軸13の先端には、ピニオン16が連結されている。
【0024】
ラック軸14は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、転舵輪3を転舵することができる。
【0025】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助力を発生するための電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを増幅して転舵機構4に伝達するための減速機19とを含む。この実施形態では、電動モータ18は、三相ブラシレスモータである。減速機19は、ウォームギヤ20と、このウォームギヤ20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。減速機19は、ギヤハウジング22内に収容されている。以下において、減速機19の減速比(ギヤ比)をNで表す場合がある。減速比Nは、ウォームホイール21の角速度ωwwに対するウォームギヤ20の角速度ωwgの比ωwg/ωwwとして定義される。
【0026】
ウォームギヤ20は、電動モータ18によって回転駆動される。ウォームホイール21は、第2軸9に一体回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォームギヤ20によって回転駆動される。
電動モータ18は運転者の操舵状態に応じて駆動され、電動モータ18によってウォームギヤ20が回転駆動される。これにより、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6にモータトルクが付与されるとともにステアリングシャフト6(第2軸9)が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォームギヤ20を回転駆動することによって、電動モータ18による操舵補助が可能となっている。
【0027】
電動モータ18のロータの回転角は、レゾルバ等の回転角センサ25によって検出される。また、車速Vは車速センサ26によって検出される。回転角センサ25の出力信号および車速センサ26によって検出される車速Vは、ECU12に入力される。電動モータ18は、ECU12によって制御される。
図2は、ECU12の電気的構成を示す概略図である。
【0028】
ECU12は、マイクロコンピュータ40と、マイクロコンピュータ40によって制御され、電動モータ18に電力を供給する駆動回路(3相インバータ回路)31と、電動モータ18に流れる電流(以下、「モータ電流」という)を検出するための電流検出部32とを備えている。
マイクロコンピュータ40は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、モータ制御部41と、ハンドル操作状態判定部42とが含まれる。
【0029】
モータ制御部41は、車速センサ26によって検出される車速V、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtb、回転角センサ25の出力に基づいて演算されるロータ回転角および電流検出部32によって検出されるモータ電流に基づいて、駆動回路31を駆動制御することによって、操舵状況に応じた適切な操舵補助を実現する。
具体的には、モータ制御部41は、トーションバートルクTtbおよび車速Vに基づいて、電動モータ18に流れるモータ電流の目標値である電流指令値を設定する。電流指令値は、操舵状況に応じた操舵補助力(アシストトルク)の目標値に対応している。そして、モータ制御部41は、電流検出部32によって検出されるモータ電流が電流指令値に近づくように、駆動回路31を駆動制御する。
【0030】
ハンドル操作状態判定部42は、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクT
tbおよび回転角センサ25の出力に基づいて演算されるロータ回転角に基づいて、運転者がステアリングホイール2を握っているハンズオン状態であるか運転者がステアリングホイール2を握っていないハンズオフ状態(手放し状態)であるかを判定する。
図3は、ハンドル操作状態判定部42の電気的構成を示すブロック図である。
【0031】
ハンドル操作状態判定部42は、ドライバトルク推定部51と、ハンズオン/オフ判定部52とを含む。ドライバトルク推定部51は、回転角センサ25の出力信号と、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbとに基づいて、ドライバトルクTdを推定する。ハンズオン/オフ判定部52は、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルク(推定ドライバトルク)Tdに基づいて、ハンズオン状態かハンズオフ状態かを判定する。
【0032】
まず、ドライバトルク推定部51について説明する。
トーションバートルクTtbは、次式(1)によって表される。
Ttb=Td-Jsw・d2θsw/dt2+Tc+Tg+Tf…(1)
Jsw:ステアリングホイール慣性
θsw:ステアリングホイール回転角
d2θsw/dt2:ステアリングホイール角加速度
Jsw・d2θsw/dt2:ステアリングホイール慣性トルク
Tc:ステアリングホイール2に作用する粘性摩擦トルク
Tg:ステアリングホイール2の重心に作用する重力によって第1軸8に与えられる重力トルク
Tf:第1軸8およびステアリングホイール2に作用するクーロン摩擦トルク
トーションバートルクTtbおよびドライバトルクTdの符号は、この実施形態では、左操舵方向のトルクの場合には正となり、右操舵方向のトルクの場合には負となるものとする。ステアリングホイール回転角θswは、ステアリングホイール2の中立位置からの正逆回転量を表し、この実施形態では、中立位置から左方向への回転量が正の値となり、中立位置から右方向への回転量が負の値となるものとする。
【0033】
粘性摩擦トルクTcおよびクーロン摩擦トルクTfは、ステアリングホイール角速度dθsw/dtの方向とは反対方向に作用する。このため、粘性摩擦トルクTcおよびクーロン摩擦トルクTfの符号は、ステアリングホイール角速度dθsw/dtの符号とは反対となる。粘性摩擦トルクTcは、ステアリングホイール粘性をCswとすると、Tc=-Csw・dθsw/dtと表せる。重力トルクTgの符号は、ステアリングホイール回転角θswによって、ドライバトルクTdの方向と同じになる場合と反対になる場合とがある。
【0034】
前記式(1)から、ドライバトルクTdは、次式(2)で表される。
Td=Ttb+Jsw・d2θsw/dt2-Tc-Tg-Tf
=Tdo-Tg-Tf …(2)
ただし、Tdo=Ttb+Jsw・d2θsw/dt2-Tcである。Tdoは、ステアリングホイール慣性トルクJsw・d2θsw/dt2および粘性摩擦トルクTcは考慮されているが、重力トルクTgおよびクーロン摩擦トルクTfが考慮されていないドライバトルクである。Tdoは、本願発明の基本ドライバトルクの一例である。この実施形態では、Tdo=Ttb+Jsw・d2θsw/dt2-Tcで表されるTdoを、基本ドライバトルクという場合がある。
【0035】
ドライバトルク推定部51は、ウォームホイール回転角演算部61と、拡張状態オブザーバ(外乱オブザーバ)62と、重力トルク演算部63と、摩擦トルク演算部64と、推定ドライバトルク演算部65とを含む。
ウォームホイール回転角演算部61は、回転角センサ25の出力信号に基づいて、電動モータ18の出力軸の回転角(以下、「ロータ回転角θm」という。)を演算し、得られロータ回転角θmに基づいて、ウォームホイール21の回転角(以下、「ウォームホイール回転角θww」という。)を演算する。具体的には、ロータ回転角θmを減速機19の減速比Nで除算することにより、ウォームホイール回転角θwwを演算する。
【0036】
拡張状態オブザーバ62は、ウォームホイール回転角演算部61によって演算されるウォームホイール回転角θwwと、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbとから、基本ドライバトルクTdo、ステアリングホイール回転角θswおよびステアリングホイール角速度dθsw/dtを推定する。
拡張状態オブザーバ62は、コラム式EPSの物理モデルを使用して、基本ドライバトルクTdo、ステアリングホイール回転角θswおよびステアリングホイール角速度dθsw/dtを推定する。
【0037】
図4は、コラム式EPSの物理モデルの構成を示す模式図である。
図4の全体は、コラム式EPSの2慣性系モデルM2を表している。
図4の鎖線で示される部分は、コラム式EPSの1慣性系モデルM1を表している
1慣性系モデルM1は、ステアリングホイールを含む。ステアリングホイールには、ドライバトルクT
swが入力する。
【0038】
2慣性系モデルM2は、ステアリングホイールとロアーコラムとを含む。ロアーコラムは、アシストモータ、ウォームギヤおよびウォームホイールを含む。ウォームギヤおよびウォームホイールによって減速機が構成されている。ステアリングホイールには、ドライバトルクTswが入力する。ロアーコラムには、モータトルクTmsに減速機の減速比Nを乗算した値N・Tmsに相当するトルクと、転舵輪側からロアーコラムに加えられる負荷トルクTlsとが入力する。
【0039】
図4における各符号の意味は次の通りである。
J
sw:ステアリングホイール慣性
T
sw:ドライバトルク
T
tb:トーションバートルク
k
tb:トーションバー剛性
c
sw:ステアリングホイール粘性
N:減速比
θ
sw:ステアリングホイール回転角
dθ
sw/dt:ステアリングホイール角速度
J
eg:ロアコラム慣性
θ
ww:ウォームホイール回転角
dθ
ww/dt:ウォームホイール角速度
T
ls:負荷トルク(逆入力トルク)
この実施形態では、拡張状態オブザーバ62は、1慣性系モデルM1を使用し、拡張外乱状態オブザーバ(外乱オブザーバ)を用いてドライバトルクT
swを推定する。拡張状態オブザーバ62によって推定されるドライバトルクT
swは、後述するように、前述した基本ドライバトルクT
doに相当する。
【0040】
1慣性系モデルM1のステアリングホイール慣性についての運動方程式は、次式(3)で表される。
【0041】
【数1】
d
2θ
sw/dt
2は、ステアリングホイールの角加速度である。
式(3)において、k
tb(θ
sw-θ
ww)は、前記式(1)のトーションバートルクT
tbに相当し、c
sw・(dθ
sw/dt)は、前記式(1)の粘性摩擦トルクT
cに相当するので、式(3)のドライバトルクT
swは、前記式(2)のT
doに相当する。
【0042】
1慣性系モデルM1に対する状態方程式は、次式(4)で表わすことができる。
【0043】
【数2】
前記式(4)において、^x
e(ハット付きのxe)は、状態変数ベクトルであり、次式(5)で表される。
【0044】
【数3】
前記式(4)において、u1は、入力ベクトルであり、次式(6)で表される。
【0045】
【数4】
前記式(4)において、yは、出力ベクトル(測定値)であり、次式(7)で表される。前記式(4)において、^yは、出力ベクトル推定値である。
【0046】
【数5】
前記式(4)において、A
eは、システム行列であり、次式(8)で表される。
【0047】
【数6】
前記式(4)において、B
eは、入力行列であり、次式(9)で表される。
【0048】
【数7】
前記式(4)において、L
eは、オブザーバゲイン行列であり、次式(10)で表される。
【0049】
【数8】
前記(10)において、L1,L2,L3は、それぞれ第1、第2および第3オブザーバゲインであり、予め設定される。
前記式(4)において、C
eは、出力行列であり、次式(11)で表される。
【0050】
【数9】
前記式(4)において、D
eは、直達行列であり、次式(12)で表される。
【0051】
【数10】
拡張状態オブザーバ62は、前記式(4)で表される状態方程式に基づいて状態変数ベクトル^x
eを演算する。これにより、基本ドライバトルクT
do(=T
sw)が得られる。
【0052】
図5は、拡張状態オブザーバ62の構成を示すブロック図である。
拡張状態オブザーバ62は、D
e乗算器71と、C
e乗算器72と、第1加算器73と、L1乗算器74と、L2乗算器75と、L3乗算器76と、B
e乗算器77とを含む。拡張状態オブザーバ62は、さらに、-k
tb/J
sw乗算器78と、-c
sw/J
sw乗算器79と、1/J
sw乗算器80と、第2加算器81と、第3加算器82と、第4加算器83と、第1積分器84と、第2積分器85と、第3積分器86とを含む。
【0053】
ウォームホイール回転角演算部61によって演算されるウォームホイール回転角θww(入力ベクトルu1に相当する)は、De乗算器71に与えられるとともに、Be乗算器77に与えられる。
第1積分器84、第2積分器85および第3積分器86の出力が、それぞれ状態変数ベクトル^xe(前記式(5)参照)に含まれるステアリングホイール回転角θsw、ステアリングホイール角速度dθsw/dtおよび基本ドライバトルクTsw(=Tdo)となる。演算開始時には、θsw、dθsw/dtおよびTswとして初期値が与えられる。θsw、dθsw/dtおよびTswの初期値は、たとえば0である。
【0054】
-ktb/Jsw乗算器78は、θswに-ktb/Jswを乗算する。-csw/Jsw乗算器79は、dθsw/dtに-csw/Jswを乗算する。1/Jsw乗算器80は、Tdo(Tsw)に1/Jswを乗算する。第2加算器81は、これらの3つの乗算器78,79,80の乗算結果を加算する。
Ce乗算器72は、θswにktbを乗算する。つまり、Ce乗算器72は、前記式(4)におけるCe・^xeを演算する。De乗算器71は、ウォームホイール回転角演算部61によって演算されるウォームホイール回転角θwwに-ktbを乗算する。つまり、Ce乗算器72は、前記式(4)におけるDe・u1を演算する。
【0055】
第1加算器73は、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbである出力ベクトル(測定値)yから、Ce乗算器72の出力(Ce・^xe)およびDe乗算器71の出力(De・u1)を減算する。つまり、第1加算器73は、出力ベクトルyと出力ベクトル推定値^y(=Ce・^xe+De・u1)との差(y-^y)を演算する。
【0056】
L1乗算器74は、第1加算器73の出力(y-^y)に第1オブザーバゲインL1(前記式(10)参照)を乗算する。L2乗算器75は、第1加算器73の出力(y-^y)に第2オブザーバゲインL2を乗算する。L3乗算器76は、第1加算器73の出力(y-^y)に第3オブザーバゲインL3を乗算することにより、基本ドライバトルクTsw(=Tdo)の微分値を演算する。
【0057】
Be乗算器77は、ウォームホイール回転角演算部61によって演算されるウォームホイール回転角θwwにktb/Jswを乗算する。つまり、Be乗算器77は、前記式(4)におけるBe・u1を演算する。第3加算器82は、L1乗算器74の出力(L1・(y-^y))にdθsw/dtを加算することにより、ステアリングホイール回転角θswの微分値を演算する。第1積分器84は、θswの微分値を積分することにより、ステアリングホイール回転角θswを演算する。
【0058】
第4加算器83は、L2乗算器75の出力(L2・(y-^y))に、Be乗算器77の出力および第2加算器81の出力を加算することにより、ステアリングホイール角速度dθsw/dtの微分値を演算する。第2積分器85は、dθsw/dtの微分値を積分することにより、ステアリングホイール角速度dθsw/dtを演算する。
第3積分器86は、L3乗算器76の出力(L3・(y-^y))を積分することにより、基本ドライバトルクTsw(=Tdo)を演算する。
【0059】
図3に戻り、拡張状態オブザーバ62によって演算されたステアリングホイール回転角θ
swは、重力トルク演算部63に与えられる。拡張状態オブザーバ62によって演算されたステアリングホイール角速度dθ
sw/dtは、摩擦トルク演算部64に与えられる。拡張状態オブザーバ62によって演算された基本ドライバトルクT
doは、推定ドライバトルク演算部65に与えられる。
【0060】
重力トルク演算部63は、拡張状態オブザーバ62によって推定されたステアリングホイール回転角θ
swに基づいて、重力トルクT
gを演算する。重力トルクT
gは、ステアリングホイール2の重心に作用する重力によって第1軸8に与えられる重力トルクである。
図6Aに示すように、ステアリングホイール2の回転平面における重心位置Gと、回転中心位置C(ステアリングホイール2の回転平面と第1軸8の中心軸線との交点)とは一致しない。ステアリングホイール2の回転平面における重心位置Gと回転中心位置Cとの間の距離をオフセット距離d
cgということにする。また、ステアリングホイール2の質量をmとし、重力加速度をg
cgとする。
【0061】
図6Aの一点鎖線は、ステアリングホイール2が中立位置から反時計方向にθ
swだけ回転した状態を示している。この状態では、ステアリングホイール2の重心Gに重力トルクT
gがかかり、本実施形態の場合、ステアリングホイール2は中立位置に戻ろうとする。したがって、ドライバトルク推定には、この重力トルクの影響を考慮しなければ、ドライバトルク推定値に誤差が生じることがわかる。
【0062】
さらに、
図6Bに示すように、ステアリングホイール2が車両に搭載された状態で、ステアリングホイール2の回転中心位置C(あるいは重心位置G)を通る鉛直線がステアリングホイール2の回転平面となす角をステアリングホイール傾き角δとする。重力トルクT
gは、ステアリングホイール2の重心Gに作用する重力m・g
cgによって第1軸8に与えられるトルクである。
【0063】
重力トルク演算部63は、次式(13)に基づいて重力トルクTgを演算する。
Tg=-Ggr・sin(θsw) …(13)
Ggrは、重力トルク係数であり、ステアリングホイール2の質量mと重力加速度gcgとオフセット距離dcgとステアリングホイール傾き角δの余弦値cos(δ)との積m・gcg・dcg・cos(δ)に応じた値である。sin(θsw)は、ステアリングホイール回転角θswの正弦値である。
【0064】
オフセット距離dcg、ステアリングホイール2の質量mおよびステアリングホイール傾き角δがわかっている場合には、重力トルク係数Ggrは、Ggr=m・dcg・gcg・cos(δ)の式から求めることができる。
重力トルク係数Ggrは、次のようにして求めることもできる。すなわち、手放し状態でステアリングホイール回転角θswをパラメータとして定常状態におけるトーションバートルクTtbを測定する。ステアリングホイール回転角θswが90度のときのトーションバートルクTtbの絶対値を、重力トルク係数Ggrとして求める。
【0065】
ステアリングホイール回転角θ
swと重力トルクT
gとの関係の一例を
図7に示す。ステアリングホイール2の重心に作用する重力m・g
cgは鉛直方向の力であるため、ステアリングホイール回転角θ
swが±90[deg]のときと、±270[deg]のときとに、その絶対値が最大となる。
図3に戻り、摩擦トルク演算部64は、拡張状態オブザーバ62によって推定されたステアリングホイール角速度dθ
sw/dtに基づいて、クーロン摩擦トルクT
fを演算する。
【0066】
クーロン摩擦トルクTfは、第1軸8およびステアリングホイール2に作用するクーロン摩擦トルクである。クーロン摩擦トルクTfは、第1軸8を支持する軸受等で発生する。
摩擦トルク演算部64は、式(14)に基づいてクーロン摩擦トルクTfを演算する。
Tf=-Gf・tanh(η・LPF(dθsw/dt)) …(14)
Gf:クーロン摩擦トルク係数
η:クーロン摩擦トルク変化勾配(絶対値)
LPF(dθsw/dt):ステアリングホイール角速度dθsw/dtに対して1次遅れ系のフィルタ処理が施された値(以下、「フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθsw/dt)」という)
クーロン摩擦トルク係数Gfは、次のようにして求めることができる。手放し状態で、電動モータ18により第2軸9に付与されるモータトルクを徐々に大きくし、ステアリングホイール角速度dθsw/dtの絶対値がゼロよりも大きくなった時点、即ち、ステアリングホイール2が動き始めた時点でのトーションバートルクTtbの絶対値をクーロン摩擦トルク係数Gfとして求める。クーロン摩擦トルク変化勾配ηについては、チューニングによって決定する。
【0067】
フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)とクーロン摩擦トルクT
fとの関係の一例を
図8に示す。クーロン摩擦トルクT
fは、フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)が正のときに負の値をとり、フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)が負のときに正の値をとる。クーロン摩擦トルクT
fの絶対値は、フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)の絶対値が0から大きくなると、LPF(dθ
sw/dt)の絶対値が小さい範囲では比較的大きな変化率で大きくなり、その後、クーロン摩擦トルク係数G
fの大きさに収束していく。フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)の絶対値が小さい範囲での、LPF(dθ
sw/dt)に対するクーロン摩擦トルクT
fの変化率は、クーロン摩擦トルク変化勾配ηが大きいほど大きくなる。
【0068】
なお、フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)とクーロン摩擦トルクT
fとの関係を表すマップを予め作成し、このマップに基づいてクーロン摩擦トルクT
fを演算するようにしてもよい。この場合、フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)とクーロン摩擦トルクT
fとの関係は、
図9に示すような関係であってもよい。この例では、フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)が-A以下の範囲では、クーロン摩擦トルクT
fは+G
fの値をとる。フィルタ処理後のステアリングホイール角速度LPF(dθ
sw/dt)が+A以上の範囲では、クーロン摩擦トルクT
fは-G
fの値をとる。LPF(dθ
sw/dt)が-Aから+Aまでの範囲では、クーロン摩擦トルクT
fは、ステアリングホイール角速度dθ
sw/dtが大きくなるにしたがって、+G
fから-G
fまで線形的に変化する。
【0069】
図3に戻り、推定ドライバトルク演算部65は、拡張状態オブザーバ62によって推定された基本ドライバトルクT
do(=T
sw)、重力トルク演算部63によって演算された重力トルクT
gおよび摩擦トルク演算部64によって演算されたクーロン摩擦トルクT
fを、前記式(2)に代入することにより、ドライバトルク(ドライバトルク推定値)T
dを演算する。
【0070】
次に、ハンズオン/オフ判定部52について説明する。
図10は、ハンズオン/オフ判定部52の動作を説明するための状態遷移図である。
ハンズオン/オフ判定部52は、ドライバのハンドル操作状態として、「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」と、「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」と、「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」と、「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」との4状態を識別する。
【0071】
「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」は、ドライバトルクTdの絶対値が所定の閾値α(>0)より大きいハンズオン状態である。「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」は、ドライバトルクTdの絶対値が閾値α以下であるハンズオン状態である。「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」は、ドライバトルクTdの絶対値が閾値α以下であるハンズオフ状態である。「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」は、ドライバトルクTdの絶対値が閾値αより大きいハンズオフ状態である。「閾値αは、たとえば、0.1[Nm]以上0.3[Nm]以下の範囲内の値に設定される。
【0072】
演算開始時において、ドライバトルクTdの絶対値が閾値αよりも大きいときには、ハンズオン/オフ判定部52は、ハンドル操作状態が「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」であると判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部52は、出力信号(out)を“1”に設定するとともにタイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。出力信号(out)は、判定結果を表す信号であり、“1”は判定結果がハンズオンであることを表し、“0”は判定結果がハンズオフであることを表す。
【0073】
「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」において、ドライバトルクTdの絶対値が閾値α以下になると、ハンズオン/オフ判定部52は、ハンドル操作状態が「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」になったと判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部52は、出力信号(out)を“1”に設定する。また、ハンズオン/オフ判定部52は、「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」であると判定している場合には、所定時間Ts1[sec]が経過する毎に、タイムカウンタ値hod_timerを、現在値(hod_timer)にTs1を加算した値に更新する。
【0074】
「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」において、タイムカウンタ値hod_timerが所定のハンズオフ判定用閾値β(>0)に達する前に、ドライバトルクTdの絶対値が閾値αよりも大きくなると、ハンズオン/オフ判定部52は、ハンドル操作状態が「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」になったと判定し、タイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。
【0075】
「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」において、ドライバトルクTdの絶対値が閾値αよりも大きくなることなく、タイムカウンタ値hod_timerがハンズオフ判定用閾値βに達すると、ハンズオン/オフ判定部52は、ハンドル操作状態が「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」になったと判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部52は、出力信号(out)を“0”に設定するとともにタイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。ハンズオフ判定用閾値βは、たとえば、0.5[sec]以上1.0[sec]以下の範囲内の値に設定される。
【0076】
「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」において、ドライバトルクTdの絶対値が閾値αよりも大きくなると、ハンズオン/オフ判定部52は、ハンドル操作状態が「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」になったと判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部52は、出力信号(out)を“0”に設定する。また、ハンズオン/オフ判定部52は、「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」であると判定している場合には、所定時間Ts2[sec]が経過する毎に、タイムカウンタ値hod_timerを、現在値(hod_timer)にTs2を加算した値に更新する。Ts2は、前述のTs1と同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0077】
「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」において、タイムカウンタ値hod_timerが所定のハンズオン判定用閾値γ(>0)に達する前に、ドライバトルクTdの絶対値が閾値α以下になると、ハンズオン/オフ判定部52は、ハンドル操作状態が「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」になったと判定し、タイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。ハンズオン判定用閾値γは、たとえば、0.05[sec]以上0.1[sec]以下の範囲内の値に設定される。
【0078】
「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」において、ドライバトルクTdの絶対値が閾値α以下になることなく、タイムカウンタ値hod_timerがハンズオン判定用閾値γに達すると、ハンズオン/オフ判定部52は、ハンドル操作状態が「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」になったと判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部52は、出力信号(out)を“1”に設定するとともにタイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。
【0079】
なお、演算開始時において、ドライバトルクTdの絶対値が閾値α以下であるときには、ハンズオン/オフ判定部52は、ハンドル操作状態が「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」であると判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部52は、出力信号(out)を“0”に設定するとともにタイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。
前述の実施形態では、ステアリングホイール2の重心Gに作用する重力によって第1軸8に与えられる重力トルクTgを考慮して、ドライバトルクTdが演算されるため、高精度にドライバトルクを推定できる。また、この構成では、重力トルクTgの他、第1軸8およびステアリングホイール2に作用するクーロン摩擦トルクTfをも考慮して、ドライバトルクTdが演算されるため、より高精度にドライバトルクを推定できる。
【0080】
また、前述の実施形態では、ドライバトルク推定部51によって推定された高精度のドライバトルクTdに基づき、トルク閾値αとタイムカウンタ値hod_timerとを用いてハンズオン/オフ判定が行われる。このため、運転者がステアリングホイール2を握っているハンズオン状態であるか運転者がステアリングホイール2を握っていないハンズオフ状態であるかを高精度に判定できる。
【0081】
ハンズオン/オフ判定結果は、たとえば、運転モードとして自動運転モードと手動運転モードとが用意されている車両において、運転モードを自動運転モードから手動運転モードに切り替える際に、ハンズオン状態であることを確認してから、手動運転モードに切り替えるといったモード切替制御に利用することができる。
以上、本発明の第1実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。例えば、前述の実施形態では、重力トルク演算部63による重力トルクTgの演算に用いられるステアリングホイール回転角としては、拡張状態オブザーバ62によって推定されたステアリングホイール回転角θswが用いられている。また、摩擦トルク演算部64によるクーロン摩擦トルクTfの演算に用いられるステアリングホイール角速度としては、拡張状態オブザーバ62によって推定されたステアリングホイール角速度dθsw/dtが用いられている。しかしながら、ステアリングホイール2の回転角を検出する舵角センサを設けて、この舵角センサによって検出されるステアリングホイール回転角θswを、重力トルク演算部63による重力トルクTgの演算に用いるようにしてもよい。また、舵角センサによって検出されるステアリングホイール回転角θswを時間微分することによって得られるステアリングホイール角速度dθsw/dtを、摩擦トルク演算部64によるクーロン摩擦トルクTfの演算に用いるようにしてもよい。
【0082】
また、前述の実施形態では、電動モータ18は三相ブラシレスモータであったが、電動モータ18はブラシ付き直流モータであってもよい。
前述の実施形態では、この発明をコラム式EPSに適用した場合につい説明したが、この発明は、アシスト用の電動モータ18が減速機を介してピニオン軸13に連結されたピニオンアシスト式EPSにも適用することができる。この場合にも、
図4のモデルを使用できるので、ドライバトルクT
dを前述の実施形態と同様な方法によって推定することができる。
【0083】
ピニオンアシスト式EPSでは、電動モータ、減速機、トルクセンサおよびトーションバーが、ピニオン軸に設けられる。減速機は、例えば、電動モータによって回転されるウォームギヤと、ピニオン軸に設けられ、ウォームギヤと噛み合うウォームホイールとからなる。トーションバーは、ピニオン軸におけるウォームホイールよりもステアリングホイール側の部分に設けられる。電動モータのロータ回転角を検出する回転角センサの信号からウォームホイール回転角(ピニオン軸の回転角)が演算される。ピニオン軸のトーションバーに対してウォームホイール側にピニオン軸の回転角を検出するピニオン軸回転角センサを設け、ピニオン軸回転角センサの信号からピニオン軸の回転角を演算してもよい。ステアリングシャフトには、トーションバーや減速機は設けられない。
【0084】
このような構成を有するピニオンアシスト式EPSの場合は、電動モータの個数や減速機の構成(ウォームギヤ機構、ボールネジ機構、減速ベルト機構等)に関わらず、その物理モデルは
図4で表すことができる。なぜなら、一般的にトーションバーよりステアリングホイール側に設けられる中間軸、ユニバーサルジョイント、ステアリングシャフトの剛性は、
図4中のトーションバー剛性と比べて十分に高いからである。したがって、このような構成を有するピニオンアシスト式EPSのでは、前述の実施形態と同様にして高精度にドライバトルクを推定することができる。
【0085】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図11は、本発明の一実施形態に係る操舵装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
図11において、前述の
図1の各部に対応する部分には同じ符号を付して示す。
図11の電動パワーステアリング装置1Aの機械的構成は、前述の
図1の電動パワーステアリング装置1の機械的構成と同様なので、その説明を省略する。
【0086】
車両には、車両の進行方向前方の道路を撮影するCCD(Charge Coupled Device)カメラ125、自車位置を検出するためのGPS(Global Positioning System)126、道路形状や障害物を検出するためのレーダー127および地図情報を記憶した地図情報メモリ128が搭載されている。
CCDカメラ125、GPS126、レーダー127および地図情報メモリ128は、自動支援制御や自動運転制御を行うための上位ECU(ECU:Electronic Control Unit)201に接続されている。上位ECU201は、CCDカメラ125、GPS126およびレーダー127によって得られる情報および地図情報を元に、周辺環境認識、自車位置推定、経路計画等を行い、操舵や駆動アクチュエータの制御目標値の決定を行う。
【0087】
この実施形態では、上位ECU201は、自動操舵のための自動操舵指令値θadacを設定する。この実施形態では、自動操舵制御は、例えば、目標軌道に沿って車両を走行させるための制御である。自動操舵指令値θadacは、車両を目標軌道に沿って自動走行させるための操舵角の目標値である。このような自動操舵指令θadacを設定する処理は、周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0088】
上位ECU201によって設定される自動操舵指令θadacは、車載ネットワークを介して、モータ制御用ECU202に与えられる。モータ制御用ECU202には、上位ECU201の他、トルクセンサ11、回転角センサ25等が接続されている。
トルクセンサ11は、第1軸8および第2軸9の相対回転変位量に基づいて、トーションバー10に加えられているトーションバートルクTtbを検出する。回転角センサ25は、電動モータ18のロータの回転角(以下、「ロータ回転角」という)を検出する。モータ制御用ECU202は、これらのセンサの出力信号および上位ECU201から与えられる情報に基づいて、電動モータ18を制御する。
【0089】
図12は、モータ制御用ECU202の電気的構成を説明するためのブロック図である。
モータ制御用ECU202は、マイクロコンピュータ140と、マイクロコンピュータ140によって制御され、電動モータ18に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)131と、電動モータ18に流れる電流(以下、「モータ電流I」という)を検出するための電流検出回路132とを備えている。
【0090】
マイクロコンピュータ140は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、ドライバトルク推定部51と、手動操舵指令値生成部141と、統合角度指令値演算部142と、制御部143とを含む。
【0091】
ドライバトルク推定部51は、回転角センサ25の出力信号と、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクT
tbとに基づいて、ドライバトルクT
dを推定する。ドライバトルク推定部51の構成は、前述した
図3のドライバトルク推定部51と同様なので、その詳細な説明を省略する。
手動操舵指令値生成部141は、運転者がハンドル2を操作した場合に、当該ハンドル操作に応じた操舵角(より正確には第2軸9の回転角θ)を手動操舵指令値θ
mdacとして設定するために設けられている。手動操舵指令値生成部141は、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクT
dを用いて手動操舵指令値θ
mdacを生成する。手動操舵指令値生成部141の詳細については後述する。
【0092】
統合角度指令値演算部142は、上位ECU201によって設定される自動操舵指令値θadacに手動操舵指令値θmdacを加算して、統合角度指令値θacmdを演算する。
制御部143は、統合角度指令値θacmdに基づいて、電動モータ18を角度制御する。より具体的には、制御部143は、操舵角θ(第2軸9の回転角θ)が統合角度指令値θacmdに近づくように、駆動回路131を駆動制御する。
【0093】
制御部143は、例えば、角度制御部144とトルク制御部(電流制御部)145とを含む。角度制御部144は、統合角度指令値θacmdと、回転角センサ25の出力信号に基づいて演算される操舵角θとの偏差に対するPD(比例微分)演算を行うことにより、電動モータ18のモータトルクの目標値であるモータトルク指令値Tmcを演算する。
トルク制御部145は、例えば、まず、モータトルク指令値Tmcを電動モータ18のトルク定数Ktで徐算することにより、電流指令値Icmdを演算する。そして、トルク制御部145は、電流検出回路132によって検出されるモータ電流Iが電流指令値Icmdに近づくように駆動回路131を駆動する。
【0094】
図13は、手動操舵指令値生成部141の構成を示すブロック図である。
手動操舵指令値生成部141は、アシストトルク指令値設定部151と、指令値設定部152とを含む。
アシストトルク指令値設定部151は、手動操舵に必要なアシストトルクの目標値であるアシストトルク指令値T
acを設定する。アシストトルク指令値設定部151は、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクT
dに基づいて、アシストトルク指令値T
acを設定する。ドライバトルクT
dに対するアシストトルク指令値T
acの設定例は、
図14に示されている。ドライバトルクT
dは、例えば左方向への操舵のためのトルクが正の値にとられ、右方向への操舵のためのトルクが負の値にとられている。また、アシストトルク指令値T
acは、電動モータ18から左方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには正の値とされ、電動モータ18から右方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには負の値とされる。
【0095】
アシストトルク指令値Tacは、ドライバトルクTdの正の値に対しては正をとり、ドライバトルクTdの負の値に対しては負をとる。そして、アシストトルク指令値Tacは、ドライバトルクTdの絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定される。
なお、アシストトルク指令値設定部151は、ドライバトルクTdに予め設定された定数を乗算することによって、アシストトルク指令値Tacを演算してもよい。
【0096】
指令値設定部152は、この実施形態では、リファレンスEPSモデルを用いて、手動操舵指令値θ
mdacを設定する。
図15は、指令値設定部152で用いられるリファレンスEPSモデルの一例を示す模式図である。
このリファレンスEPSモデルは、ロアコラムを含む単一慣性モデルである。ロアコラムは、第2軸9およびウォームホイール21に対応する。
図15において、J
cは、ロアコラムの慣性であり、θ
cはロアコラムの回転角であり、T
tbは、トーションバートルクである。ロアコラムには、トーションバートルクT
tb、電動モータ18から第2軸9に作用するトルクN・T
mcおよび路面負荷トルクT
rlが与えられる。路面負荷トルクT
rlは、ばね定数kおよび粘性減衰係数cを用いて、次式(15)で表される。
【0097】
T
rl=-k・θ
c-c(dθ
c/dt) …(15)
この実施形態におけるばね定数kおよび粘性減衰係数cは、予め実験・解析等で求められた所定値が設定されている。
リファレンスEPSモデルの運動方程式は、次式(16)で表される。
J
c・d
2θ
c/dt
2=T
tb+N・T
mc-k・θ
c-c(dθ
c/dt)…(16)
指令値設定部152は、この式(16)を利用して、手動操舵指令値θ
mdacを設定する。その際、N・T
mcとしては、アシストトルク指令値設定部151(
図13参照)によって設定されるアシストトルク指令値T
acが用いられる。
【0098】
式(16)のTtbにトルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbを代入して、式(16)の微分方程式を解くことによってコラム角度θcを演算し、得られたコラム角度θcを手動操舵指令値θmdacとして設定することが考えられる。しかしながら、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbには、運転者によってハンドル2に実際に加えられたドライバトルク以外の外乱も含まれている。このため、式(16)のTtbにトーションバートルクTtbを代入して手動操舵指令値θmdacを演算した場合には、運転者がハンドル2を操作していないときであっても、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値θmdacが設定されるおそれがある。
【0099】
そこで、この実施形態では、指令値設定部152は、前記式(16)のTtbに、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクTdを代入して、式(16)の微分方程式を解くことによってコラム角度θcを演算する。そして、指令値設定部152は、得られたコラム角度θcを手動操舵指令値θmdacとして設定する。これにより、運転者がハンドル2を操作していない場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値θmdacが設定されるのを抑制することができる。
【0100】
図11の電動パワーステアリング装置1Aでは、自動操舵指令値に手動操舵指令値が加算されて、統合角度指令値が演算され、この統合角度指令値に基づいて電動モータ18が制御される。これにより、手動操舵制御と自動操舵制御との間で切り替えを行うことなく、自動操舵制御主体での操舵制御を行いながら手動操舵が可能な協調制御を実現できる。これにより、手動操舵制御と自動操舵制御との間での移行をシームレスに行うことができるので、運転者の違和感を低減することができる。
【0101】
また、
図11の電動パワーステアリング装置1Aでは、前述したように、運転者がハンドル2を操作していない場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値θ
mdacが設定されるのを抑制することができる。
図16は、
図13の手動操舵指令値生成部の変形例を示すブロック図である。
手動操舵指令値生成部141Aは、アシストトルク指令値設定部151Aおよび指令値設定部152Aを含んでいる。指令値設定部152Aには、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクT
tbおよびアシストトルク指令値設定部151Aによって設定されたアシストトルク指令値T
acが入力する。アシストトルク指令値設定部151Aは、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクT
tbに基づいて、アシストトルク指令値T
acを設定する。トーションバートルクT
tbに対するアシストトルク指令値T
acの設定例は、
図14の横軸をドライバトルクT
dからトーションバートルクT
tbに置き換えたものを用いることができる。また、指令値設定部152Aには、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクT
dが与えられる。
【0102】
ドライバトルクTdの絶対値|Td|が所定の閾値ψ(ψ>0)以上である場合には、指令値設定部152Aは、前記式(16)のTtbおよびN・Tmcに、それぞれ指令値設定部152Aに入力されたトーションバートルクTtbおよびアシストトルク指令値Tacを代入して、式(16)の微分方程式を解くことによって、手動操舵指令値θmdac(=θc)を設定する。一方、ドライバトルクTdの絶対値|Td|が閾値ψ未満である場合には、前記式(16)のTtbおよびN・Tmcに、それぞれ零を代入して、式(16)の微分方程式を解くことによって、手動操舵指令値θmdac(=θc)を設定する。
【0103】
この手動操舵指令値生成部141Aでは、トーションバートルクTtbを用いて手動操舵指令値θmdacを設定しているが、ドライバトルクTdの絶対値|Td|が閾値ψ未満である場合には手動操舵指令値生成部141Aに入力されるトーションバートルクTtbが実質的に零にされる。これにより、運転者がハンドル2を操作していない場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値θmdacが設定されるのを抑制することができる。また、トーションバートルクTtbを用いて手動操舵指令値θmdacを設定しているので、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクTdを用いる場合に比べて、運転者のハンドル操作に対する手動操舵指令値θmdacの時間遅れを小さくできる。
【0104】
図17は、
図12のモータ制御用ECUの変形例を示すブロック図である。
図17において、前述の
図12の各部に対応する部分には、
図12と同じ符号を付して示す。
モータ制御用ECU202Aは、
図12のモータ制御用ECU202と比べて、マイクロコンピュータ140A内のCPUによって実現される機能処理部の構成が異なっている。マイクロコンピュータ140Aは、機能処理部として、ハンドル操作状態判定部42と、手動操舵指令値生成部141Bと、統合角度指令値演算部142と、制御部143とを含む。
【0105】
ハンドル操作状態判定部42は、回転角センサ25の出力信号およびトーションバートルクT
tbに基づいて、運転者がハンドルを握っているハンズオン状態であるか運転者がハンドルを握っていないハンズオフ状態であるかを判定する。ハンドル操作状態判定部42の構成は、前述した
図2および
図3のハンドル操作状態判定部42と同様なので、その詳細な説明を省略する。ハンドル操作状態判定部42は、ハンドル操作状態がハンズオン状態であると判定したときにはハンズオン状態信号を出力し、ハンドル操作状態がハンズオフ状態であると判定したときにはハンズオフ状態信号を出力するものとする。
【0106】
手動操舵指令値生成部141Bは、ハンドル操作状態判定部42の出力信号(ハンズオン/オフ状態信号)と、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbとを用いて手動操舵指令値θmdacを生成する。手動操舵指令値生成部141Bの詳細については後述する。
統合角度指令値演算部142は、上位ECU201によって設定される自動操舵指令値θadacに手動操舵指令値θmdacを加算して、統合角度指令値θacmdを演算する。
【0107】
制御部143は、統合角度指令値θ
acmdに基づいて、電動モータ18を角度制御する。制御部143の構成は、
図12の制御部143と同様なので、その詳細な説明を省略する。
図18は、手動操舵指令値生成部141Bの構成を示すブロック図である。
手動操舵指令値生成部141Bは、アシストトルク指令値設定部151Aと、指令値設定部152Bとを含む。
【0108】
アシストトルク指令値設定部151Aは、手動操舵に必要なアシストトルクの目標値であるアシストトルク指令値T
acを設定する。アシストトルク指令値設定部151Aの動作は、
図16のアシストトルク指令値設定部151Aの動作と同様なので、その詳細な説明を省略する。
指令値設定部152Bには、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクT
tbおよびアシストトルク指令値設定部151Aによって設定されたアシストトルク指令値T
acが入力する。また、指令値設定部152Bには、ハンドル操作状態判定部42の出力信号(ハンズオン/オフ状態信号)が与えられる。
【0109】
ハンドル操作状態判定部42の出力信号がハンズオン状態信号である場合には、指令値設定部152Bは、前記式(16)のTtbおよびN・Tmcに、それぞれ指令値設定部154Bに入力されたトーションバートルクTtbおよびアシストトルク指令値Tacを代入して、式(16)の微分方程式を解くことによって、手動操舵指令値θmdac(=θc)を設定する。一方、ハンドル操作状態判定部42の出力信号がハンズオフ状態信号である場合には、指令値設定部152Bは、前記式(16)のTtbおよびN・Tmcに、それぞれ零を代入して、式(16)の微分方程式を解くことによって、手動操舵指令値θmdac(=θc)をに設定する。
【0110】
この手動操舵指令値生成部141Bでは、トーションバートルクTtbを用いて手動操舵指令値θmdacを設定しているが、ハンドル操作状態判定部42の出力信号がハンズオフ状態信号である場合には手動操舵指令値生成部141Bに入力されるトーションバートルクTtbが実質的に零にされる。これにより、運転者がハンドル2を操作していない場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値θmdacが設定されるのを抑制することができる。また、トーションバートルクTtbを用いて手動操舵指令値θmdacを設定しているので、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクTdを用いる場合に比べて、運転者のハンドル操作に対する手動操舵指令値θmdacの時間遅れを小さくできる。
【0111】
以上、本発明の第2実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。例えば、前述の実施形態では、指令値設定部152、152A、152B(
図13、
図16、
図18参照)は、リファレンスEPSモデルに基づいて手動操舵指令値θ
mdacを設定しているが、指令値設定部152、152A、152Bは他の方法によって手動操舵指令値θ
mdacを設定してもよい。
【0112】
例えば、指令値設定部152、152A、152Bは、ドライバトルクT
d(
図13の場合)またはトーションバートルクT
tb(
図16または
図18の場合)と手動操舵指令値θ
mdacとの関係を記憶したマップを用いて、手動操舵指令値θ
mdacを設定してもよい。
また、前述第2実施形態では、この発明をコラムタイプEPSに適用した場合の例を示したが、この発明は、コラムタイプ以外のEPSにも適用することができる。また、この発明は、ステアバイワイヤシステムにも適用することができる。
【0113】
その他、この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0114】
1,1A…コラム式EPS、8…第1軸、9…第2軸、10…トーションバー、11…トルクセンサ、12…ECU、18…電動モータ、19…減速機、20…ウォームギヤ、21…ウォームホイール、25…回転角センサ、26…車速センサ、42…ハンドル操作状態判定部、51…ドライバトルク推定部、52…ハンズオン/オフ判定部、61…ウォームホイール回転角演算部、62…拡張状態オブザーバ(外乱オブザーバ)、63…重力トルク演算部、64…摩擦トルク演算部、65…推定ドライバトルク演算部、141,141A,141B…手動操舵指令値生成部、142…統合角度指令値演算部、143…制御部、151,151A…アシストトルク指令値設定部、152,152A,152B…指令値設定部、201…上位ECU、202…モータ制御用ECU