(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】イオン源及びイオン注入機
(51)【国際特許分類】
H01J 27/02 20060101AFI20220623BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20220623BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
H01J27/02
H01J37/08
H01J37/317 Z
(21)【出願番号】P 2019504018
(86)(22)【出願日】2017-10-27
(86)【国際出願番号】 IB2017001495
(87)【国際公開番号】W WO2018087594
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-09-15
(32)【優先日】2016-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】ハフト サミ ケー
(72)【発明者】
【氏名】サッコ ジョージ
【審査官】牧 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-095452(JP,A)
【文献】特開2013-098003(JP,A)
【文献】特開2008-059759(JP,A)
【文献】特開平11-337699(JP,A)
【文献】特表2009-540531(JP,A)
【文献】特開2012-195077(JP,A)
【文献】特開平08-148106(JP,A)
【文献】特開平02-239559(JP,A)
【文献】特開2014-183042(JP,A)
【文献】特開平03-263745(JP,A)
【文献】特開2013-97958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/00 - 27/26
H01J 37/00 - 37/36
H05H 1/00 - 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを供給するガス源と、
貫通する長手軸を規定するとともに、側壁に沿った射出口を有するイオン化チャンバであって、複数のイオンを生成するプラズマを前記ガスから形成するように構成されたイオン化チャンバと、
前記イオン化チャンバの前記射出口に設けられて、前記イオン化チャンバからイオンビームを引き出す複数の引き出し電極とを具備し、
前記複数の引き出し電極の並び方向に沿って前記イオン化チャンバから前記イオンビームが引き出されるように構成されており、
前記
複数の引き出し電極は
それぞれ、複数のスリットを形成するとともに、前記イオン化チャンバからの前記イオンビームの電流の増大又は前記イオンビームの引き出し角度の制御の少なくとも何れかを可能とする間欠的に設けられた棒状部材群を備えており、
間欠的に設けられた前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材は、前記イオン化チャンバの前記長手軸に平行
な長尺状をなすものであり、
最も前記イオン化チャンバの近くに位置している前記引き出し電極が備える前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材の
長手方向に直交する断面である横断面
の形状が、別の前記引き出し電極が備える前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材の
前記長手方向に直交する断面である横断面
の形状と同じであり、
前記複数の引き出し電極が備える前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材の前記横断面の形状が、正方形であり、
最も前記イオン化チャンバの近くに位置している前記引き出し電極が備える前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材の前記横断面の形状が、別の前記引き出し電極が備える前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材の前記横断面の形状に対して45度傾いており、
前記別の引き出し電極が備える前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材の前記横断面の形状が、前記イオン化チャンバから引き出される前記イオンビームの引き出し方向に平行な辺を有する正方形である、イオン源。
【請求項2】
前記
複数の引き出し電極のうちの少なくとも1つの引き出し電
極に間欠的に設けられた前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材の
前記長手方向における一端部は、固定されており、間欠的に設けられた前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材の
前記長手方向における他端部は、摺動可能である、請求項1記載のイオン源。
【請求項3】
前記複数の引き出し電極の
うち、最も前記イオン化チャンバの近くに位置するプラズマ電極と最も前記イオン化チャンバから遠くに位置する接地電極との間に設けられたプラー電極又は抑制電極が、内側に前記イオン源が設けられた真空チャンバに接続された導電性棒状部材に物理的に接触するように構成されており、前記導電性棒状部材が、前記
プラー電極又は前記抑制電極の電圧を設定するように構成されている、請求項1記載のイオン源。
【請求項4】
前記導電性棒状部材の第1端部が、前記
プラー電極又は前記抑制電極と物理的に接触するとともに、前記導電性棒状部材の第2端部が、前記導電性棒状部材を介して前記
プラー電極又は前記抑制電極に力を与える弾性部材と連動している、請求項3記載のイオン源。
【請求項5】
請求項1記載のイオン源を備え、
前記イオンビームは、第1端部と第2端部との間で曲線軌道を規定するチャンバを備えた分析マグネットに導入され、
前記イオン源が、前記第1端部に近接するように、前記分析マグネットの外部に配置されている、イオン
注入機。
【請求項6】
前記分析マグネットが、前記第2端部に近接するように前記チャンバ内に配置された質量分析スリットを備えている、請求項
5記載のイオン
注入機。
【請求項7】
前記分析マグネットが、少なくとも一部が前記チャンバの外側に設けられた磁気集束レンズを具備し、前記磁気集束レンズが、前記質量分析スリットを前記イオンビームが通過した後に、当該イオンビームを非分散型平面で集束、発散、又は蛇行させるように構成されている、請求項
6記載のイオン
注入機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年11月11日に出願された、米国仮特許出願第62/420,889号に基づく優先権及び利益を主張するもので、本出願の譲受人に譲渡されており、その全内容は、参照により本願明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、概してイオン源に関するものであり、より詳細には、低エネルギーで高ドーズ量のイオンビームの生成に用いられるイオン源に関するものである。
【背景技術】
【0003】
イオン注入は、半導体デバイスの製造における根幹技術であり、現在はトランジスタのpn接合の製造を含む多くのプロセスに用いられており、特にメモリやロジックチップ等のCMOSデバイスの製造に用いられている。トランジスタを製造するために必要なドーパント元素を含み正電荷を帯びたイオンをシリコン基板中に生成することで、イオン注入機は、トランジスタ構造に導かれるエネルギー(すなわち、注入深さ)とイオン電流(すなわち、ドース量)との両方を選択的に制御することができる。
【0004】
図1は、従来の先行技術であるイオン注入機100を示している。稼動時には、イオン源110内で生成されたプラズマイオンが、静電光学系(不図示)によって引き出され得、数keVから約100keVまでのエネルギー幅のある高エネルギーのイオンビーム112が生成される。イオンビーム112は、イオン源110の下流且つ外側に設けられた質量分析マグネット120によって輸送及び集束される。質量分析マグネット120は、質量電荷比に応じてイオン種を空間的に分離又は分散するように構成されている。ひとたび空間的に分離されると、イオンビーム112は、質量分析マグネット120の下流且つ外側にある質量分析器(MRA)又は質量分析スリット(MRS)122によって遮蔽される。MRS122は、細長い穴を具備し、この穴で遮断されなかったイオンのみが、注入機の下流に導かれ、イオンビーム112は、加速器124によって所望のエネルギーまで加速され、最終的に被処理物126に衝突して、選択されたイオンによる注入が行われる。被処理物126は、ターゲットチャンバ128内に配置され得る。従来のイオン注入機100の短所は、サイズ(すなわち、設置面積)が比較的大きいことであり、従って稼動させるには相当の大きさの設備が必要となる。さらに、イオン注入機100は、実際のスループットにおいて、1keV El 6のような高ドーズ量の注入をなし得ない。仮に、今日のイオン注入システムが、理論上この高ドース量を実現できたとしても、これらのシステムには純種及び純エネルギーが必要であり、実現するのは非現実的である。従って、改良されたイオン注入機には、よりコンパクトな設計で、比較的低いエネルギー且つ比較的高いドーズ量のイオンビームプロファイルを生成できるようにする必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一実施形態において、質量分析マグネットの内側に設けられて配置されたイオン源を有する改良されたイオン注入機を提供するものであり、そのイオン源の内部では質量分析マグネットの磁場がプラズマの生成に用いられている。一実施形態において、質量分析スリットも、質量分析マグネットの内側に設けられている。さらに本発明は、大電流のリボンビームを生成可能であり、且つ、イオンビームの引き出し角度を制御可能な改良されたイオン源を提供するものである。従って、本発明の機構は、従来のイオン注入機(例えば、
図1のイオン注入機100)と比べて、より大きいビーム電流を輸送することが可能な短尺化されたイオンビームを生成することを可能とするものである。
【0006】
一態様において、イオン注入機が提供される。前記イオン注入機は、イオンビームを生成するように構成されたイオン源と、内側に磁場を有するチャンバを定めた分析マグネットとを具備している。前記チャンバは、当該チャンバの第1端部及び第2端部の間に曲線軌道を設けてある。前記イオン源は、前記第1端部に隣接するように、分析マグネットのチャンバ内に配置されている。前記分析マグネットは、前記イオンビーム中の1つ又は複数のイオン種を空間的に分離させるように、前記イオン源からの前記イオンビームを前記チャンバ内において前記曲線軌道に沿って曲げるように構成されており、前記イオン源は、前記分析マグネットの磁場に曝されている。
【0007】
一実施形態において、前記イオン注入機の前記イオン源は、前記分析マグネットの前記チャンバ内に設けられて、前記イオン源から前記イオンビームを引き出すための1つ又は複数の引き出し電極を備えている。少なくとも1つの前記引き出し電極は、当該少なくとも1つの引き出し電極内に複数のスリットを形成する間欠的に設けられた棒状部材群を備えている。
【0008】
一実施形態において、前記質量分析マグネットの前記チャンバは、頂壁、底壁、及び複数の側壁を備えている。前記頂壁、前記底壁、及び前記側壁は、それぞれ前記第1端部及び前記第2端部の間を延在し、協同して前記曲線軌道を定めている。前記チャンバの前記頂壁、前記底壁、及び前記側壁の少なくとも1つは、前記質量分析マグネットの内側に配置される前記イオン源を受け取るように構成されたポートを備え得る。
【0009】
別の態様において、イオン源が提供される。前記イオン源は、ガスを供給するガス源と、貫通する長手軸を規定するとともに、側壁に沿った射出口を有するイオン化チャンバを具備する。前記イオン化チャンバは、前記ガスからプラズマ形成するように構成されている。前記イオン化チャンバは、複数のイオンを生成する。また、前記イオン源は、前記イオン化チャンバの前記射出口に設けられて、前記イオン化チャンバから前記複数のイオンを前記イオンビーム状に引き出す1つ又は複数の引き出し電極を具備している。少なくとも1つの前記引き出し電極は、当該少なくとも1つの引き出し電極に複数のスリットを形成するとともに、前記イオン化チャンバからの前記イオンビームの電流の増大又は前記イオンビームの引き出し角度の制御の少なくとも何れかを可能とする間欠的に設けられた棒状部材群を備えている。間欠的に設けられた前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材は、前記イオン化チャンバの前記長手軸に平行である。
【0010】
一実施形態において、前記イオン源の前記イオンビームは、第1端部及び第2端部の間で前記曲線軌道を規定するチャンバを備えた分析マグネットに導かれる。前記イオン源は、前記第1端部に隣接するように、前記分析マグネットの外側に配置され得る。一実施形態において、磁気集束レンズが、前記第2端部に隣接するように、前記分析マグネットの前記チャンバの外側に配置される。一実施形態では、第2の磁気集束レンズが、前記第1端部に隣接するように、前記分析マグネットの前記チャンバの外側に配置される。一実施形態において、質量分析スリットが、前記第1の磁気集束レンズ及び前記第2の磁気集束レンズの間に配置される。
【0011】
上述のいずれかの態様は、以下の1つ又は複数の特徴を備え得る。一実施形態において、前記少なくとも1つの引き出し電極用に間欠的に設けられた棒状部材群それぞれの棒状部材の一端部は、固定されており、間欠的に設けられた前記棒状部材群それぞれの棒状部材の他端部は、摺動可能となり得る。一実施形態において、前記棒状部材それぞれの横断面は、正方形である。一実施形態において、前記1つ又は複数の引き出し電極にプラズマ電極が含まれる。前記プラズマ電極用に間欠的に設けられた前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材の横断面は、別の引き出し電極用に間欠的に設けられた前記棒状部材群のそれぞれの棒状部材の横断面に対して、ある角度をなした状態である。前記角度は45度であり得る。
【0012】
一実施形態において、前記1つ又は複数の引き出し電極の少なくとも1つが、内側に前記イオン源が設けられる真空チャンバに接続された導電性弾性部材と物理的に接触するように構成されており、前記導電性弾性部材が、前記少なくとも1つの電極の電圧を設定するように構成されている。前記少なくとも1つの電極は、抑制電極又はプラー電極の少なくとも1つであり得る。
【0013】
一実施形態において、前記1つ又は複数の引き出し電極の少なくとも1つが、前記分析マグネットの前記チャンバに接続された導電性棒状部材に物理的に接触するように構成されている。前記導電性棒状部材が、前記少なくとも1つの電極の電圧を設定するように構成されている。前記少なくとも1つの引き出し電極は、抑制電極又はプラ―電極の少なくとも1つであり得る。一実施形態において、前記導電性棒状部材の第1端部が、前記少なくとも1つの電極と物理的に接触するとともに、前記導電性棒状部材の第2端部が、前記導電性棒状部材を介して前記少なくとも1つの電極に力を与えることで、前記少なくとも1つの電極の位置を調整するように構成された弾性部材と連動している。
【0014】
一実施形態において、イオン注入機は、前記第2端部に隣接するように、前記分析マグネットの前記チャンバ内に配置された質量分析スリットをさらに具備している。一実施形態では、前記イオン注入機は、その一部が前記分析マグネットの前記チャンバの外側に設けられた磁気集束レンズをさらに具備している。前記磁気集束レンズは、前記質量分析スリットを前記イオンビームが通過した後に、当該イオンビームを非分散型平面で集束、発散、又は蛇行させるように構成されている。
【0015】
一実施形態において、前記磁気集束レンズは、一対の上側磁気コイルを有する上側領域と、一対の下側磁気コイルを有する下側領域とを備えている。一実施形態において、前記分析マグネットの前記チャンバは、曲線状のビーム中心軸を定めており、前記曲線状のビーム中心軸に直交する前記チャンバの幅が、前記第1端部の幅の方が前記第2端部の幅よりも長くなるように、前記曲線状のビーム中心軸に沿って変化する。前記磁気集束レンズは、より狭い方の前記第2端部に近接している。一実施形態において、前記一対の上側磁気コイル又は前記一対の下側磁気コイルに印加される電流又は磁場の少なくとも一方の向きが、前記集束、前記発散、又は前記蛇行としての機能を発揮するように調整可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の他の目的及び利点は、例だけでなく、本発明の原理を例示している添付図面を併せ読むことにより、以下の詳細の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
上述の技術の利点は、更なる利点とともに、添付の図面と合わせて次の説明を参照することでより深く理解され得る。図面は、必ずしも寸法通りではないが、その代わりに概して技術の原理を例示することに重点がおかれている。
【
図1】
図1は、イオン注入機の従来の先行技術の模式図を示している。
【
図2a】
図2aは、本発明の一実施形態において、イオン注入機の代表的な斜視図示している。
【
図2b】
図2bは、本発明の一実施形態において、イオン注入機の代表的な上面図を示している。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン注入機のイオン源の代表的な構造図を示している。
【
図4a】
図4aは、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン源の引き出し機構の代表的な構成の上面図を示している。
【
図4b】
図4bは、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン源の引き出し機構の代表的な構成の側面図を示している。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態において、棒状部材の一端部がガタなくはめこまれるとともに、該棒状部材の他端部が摺動可能に係合するように構成された
図4a及び
図4bの引き出し電極の電極フレームを示している。
【
図6a】
図6aは、本発明の一実施形態において、分析マグネットの底壁からイオン源を受け取って取り外すように構成された
図2a及び
図2bのイオン注入機の代表的な実施例を示している。
【
図6b】
図6bは、本発明の一実施形態において、分析マグネットの頂壁からイオン源を受け取って取り外すように構成された
図2a及び
図2bのイオン注入機の代表的な実施例を示している。
【
図6c】
図6cは、本発明の一実施形態において、分析マグネットの側壁からイオン源を受け取って取り外すように構成された
図2a及び
図2bのイオン注入機の代表的な実施例を示している。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン注入機の分析マグネット内のイオン源の引き出し電極をバイアスするためのバイアス部材を示している。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン注入機の分析マグネット内に配置されたイオン源の引き出し電極をバイアスするための別の代表的なバイアス部材を示している。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン注入機の集束レンズの代表的な構成を示している。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態において、入射イオンビームを集束させるための
図9の集束レンズの構成を示している。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態において、入射イオンビームを発散させるための
図9の集束レンズの構成を示している。
【
図12a】
図12aは、本発明の一実施形態において、入射イオンビームを蛇行させるための
図9の集束レンズの構成を示している。
【
図12b】
図12bは、本発明の一実施形態において、入射イオンビームを蛇行させるための
図9の集束レンズの構成を示している。
【
図13】
図13は、本発明の一実施形態において、イオン源が分析マグネットの外側に設置されている別の代表的なイオン注入機の構成を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図2a及び
図2bはそれぞれ、本発明の一実施形態に係る代表的なイオン注入機200の一部の斜視図及び上面図である。図示されているように、このイオン注入機200は、その内側が磁場に曝されたチャンバ204を画定する分析マグネット202を具備している。分析マグネット202のチャンバ204は、第1端部206及び第2端部208間に、曲線状のビーム中心軸220に沿った曲線状のビーム軌道を規定するものである。例えば、分析マグネット202のチャンバ204は、曲線軌道を規定する第1端部206及び第2端部208の間に伸びる底壁、頂壁、そして複数の側壁を具備し得る。第1端部206は、分析マグネット202の入口近傍に位置し、イオンビームの進行方向におけるチャンバ204の上流端部に相当する。第2端部208は、分析マグネット202の出口近傍に位置し、イオンビームの進行方向におけるチャンバ204の下流端部に相当する。一実施形態では、曲線軌道の角度203は、約40度である。一実施形態では、チャンバ204において曲線状のビーム中心軸220と直交する幅は、第1端部206の幅が第2端部208の幅よりも長くなるように、曲線状のビーム中心軸220に沿って変化する。
【0019】
図2bに示されている形態では、イオン源210は、第1端部206に隣接するように、分析マグネット202のチャンバ204内に配置されており、イオン源210は、イオンビームを生成するように構成されている。具体的には、イオン源210の引き出し機構320は、イオン源210のイオン化チャンバ302からイオンビームを引き出し、分析マグネットチャンバ204を通過するように進行させる。別の実施形態では、イオン源210は、第1端部206に隣接するように、分析マグネット202の外側に配置される。分析マグネット202は、イオンビーム中の1つ又は複数のイオン種を空間的に分離するように、イオン源210(チャンバ204の内側又は外側のいずれかに位置する)からのイオンビームを、曲線軌道の第1端部206から第2端部208に沿って曲げるように構成されている。
概して、イオン源210又は質量分析スリット(MRS)212の少なくともいずれか一方は、分析マグネット202のチャンバ204内に配置される。
【0020】
イオン源210が分析マグネットチャンバ204内にある
図2bの実施形態では、イオン源210は、分析マグネット202の磁場に実質的に曝されており、そのイオン源210の磁場は、分析マグネット202の磁場と共通している。この共通の磁場は、イオンビームがイオン源210から射出した時に、そのイオンビームを曲線軌道に沿って曲げるだけでなく、イオン源210内にプラズマを生成するためのイオン源210の外部磁場としても用いられる。例えば、この共通の磁場は、(例えば、イオン源210の電子銃によって)イオン源210から放出されたイオン化電子を捕捉し得る。このようにして捕捉された電子のライフタイムは延び、電子がドーパントガス分子に衝突する可能性が高まり、イオン源210によってプラズマが生成される効率が向上する。概して、分析マグネット202のチャンバ204内の磁場は、実質的に均一となり得、及び/又は、実質的に垂直方向(すなわち
図2a中に符号づけられているy軸に沿った方向)を向き得る。この磁場の強度は、約500ガウス(G)から約600Gであり得る。一実施形態では、磁場の強度は調整し得る。例えば、チャンバ204の1つ又は複数の箇所は、磁気の強度を下げるようにスチールシールドで遮蔽され得る。
【0021】
イオン源210は、分析マグネット202を通過して、例えば半導体ウエハにイオンビームを注入するイオン注入機チャンバ(不図示)に輸送されるイオンビームを生成するように構成され得る。一実施形態では、イオン源210は、概して、米国特許出願第8,994,272号に記載されているイオン源と実質的に類似しており、それは本出願の譲受人に譲渡され、その全内容は、参照により本願明細書に組み込まれている。
図3は、本発明に係る一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン注入機200におけるイオン源210の代表的な構成図を示すものである。図示されているように、イオン源210は、イオン化チャンバ302の長辺に沿って長手軸318を規定するイオン化チャンバ302を具備している。具体的には、イオン化チャンバ302は、長尺状をなし得、長手軸318が、イオン化チャンバ302の長辺方向に伸びている。イオン源210は、複数のガス導入部310と複数の流量制御装置(MFC)312とを備えるガス供給システムを具備し得るものであり、これらのガス導入部310及び流量制御装置312は、ガス源314からガス化された材料をイオン化チャンバ302に導入するとともに、その導入量を制御するように構成されている。イオン化チャンバ302の両側に設けられた一対の電子銃304により生成された電子ビームの電子衝撃によってガス分子がイオン化され、イオン化チャンバ302内には初期プラズマが生成される。一実施形態では、電子銃304は、イオン化チャンバ302に更なるイオンを導入し得る。イオン化チャンバ302内のイオンは、引き出し口(不図示)を介して引き出され、引き出し機構320を用いて高エネルギーのイオンビーム316を形成し得る。長手軸318は、イオンビーム316の進行方向に対してほぼ垂直であり得る。
【0022】
概して、イオン化チャンバ302は、縦方向318の方が、それと交差するX軸に沿った横方向よりも長い矩形状である。イオン化チャンバ302として、その他の形状もあり、例えば円筒形などがそれにあたる。イオン化チャンバ302の縦方向318に沿った長さは約450mmであり得る。各電子銃304が長手の両端部に位置しているのに対し、引き出し口(不図示)は、イオン化チャンバ302の長手方向に沿って位置し得る。引き出し口は、イオン化チャンバ302の端から端まで延在し得るものであり、その長さは、例えば約450mmである。
【0023】
図4a及び
図4bはそれぞれ、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン源210の引き出し機構320の代表的な構成の上面図と側面図である。引き出し機構320は、イオン源210が分析マグネットチャンバ204内に配置されている場合には、分析マグネットチャンバ204内に位置し得、接地電極402、抑制電極404、プラー電極406、及びプラズマ電極408などの1つ又は複数の引き出し電極を具備している。これらの引き出し電極は、絶縁材料によって互いに一定の間隔(例えば5mm間隔で離れて)を保ち得、イオンビームの進行方向(すなわちz軸)に沿って実質的に平行に配置され得る。図示されているように、プラズマ電極408は、イオン化チャンバ302の最も近くに位置しており、その後段にプラー電極406、抑制電極404、及び接地電極402が配置されている。各電極は、実質的に矩形状であり、その長辺がイオン化チャンバ302の長手軸318に(すなわち、符号づけられているy軸に沿って)平行である。各電極の長さ(すなわち、y軸に沿った長さ)は、イオン化チャンバ302の長寸法と実質的に同じであり得る。
【0024】
イオン化チャンバ302からイオンを引き出し、注入されたイオンのエネルギーを決定するべく、イオン源210は、電力供給源(不図示)によって、例えば1kVから80kVの間の比較的高い正の電源電圧に保持されている。一実施形態では、プラズマ電極408は、イオン化チャンバ302と電気的に接続されていて、イオン化チャンバ302の電位と同程度になるようにプラズマ電極408へバイアス電圧が印加され得る。そのバイアス電圧は、プラズマ電位、イオンの滞留時間、及び/又はプラズマ内のイオン種の相対拡散特性など、イオン化チャンバ302内で生成されるプラズマの特性に作用を及ぼすように設定されている。1つ又は複数のさらなる付加電極が、イオンビームの引き出し効率の向上や集束性の改善に用いられている。引き出し電極は、異なる電位に保持され得る。一実施形態では、ターミナルを接地よりも低く浮かせることが望ましい場合を除いて接地される接地電極は、ある種のイオン注入システムのようにターミナル電位に保持され得る。抑制電極404は、正の荷電イオンビームを生成する場合、プラス側にバイアスされたイオン源210に引きつけられ得る不必要な電子をはねのける又は抑制するために、接地電極402に対して約5kV程度マイナス側にバイアスされる。プラ―電極406は、接地電極402に対して、例えば約20kV程度プラス側にバイアスされる。プラズマ電極408は、接地電極402に対して、例えば約20kVから25kV程度プラス側にバイアスされる。概して、これらの電極は、個別の注入プロセスにおいて所望するイオンビームを生成するように、幅広いレンジの電圧で操作されて性能が最適化され得る。
【0025】
図4bに示されているように、各引き出し電極は、中央に凹状の矩形開口部412が形成された矩形状のフレーム410を具備している。複数(例えば2つ)の棒状部材414が、一定の間隔で凹状の矩形開口部412内に間欠的に設けられており、これらの棒状部材414は、イオンビームが通過する複数のスリット416(例えば2つの棒状部材に対して3つのスリットなど)を形成している。これらの棒状部材414はそれぞれ、実質的に各電極の長手に沿って延在しており、これによりイオン化チャンバ302の長手軸318に対して実質的に平行である。各スリット416も同様に、実質的に各電極の長手に沿って延在しており、イオン化チャンバ302の長手軸318に対して実質的に平行である。従って、イオン源210の引き出し機構320は、z軸に沿って進行する複数の長尺状のビームセグメントを生成するように構成されており、それらのビームセグメントはy軸に沿って平行である。引き出し電極のこれらの棒状部材414及びスリット416は、引き出されるイオンの電流レベルを維持しながら、引き出されるイオンビームの角度の制御性を高めている。具体的には、仮に大型の引き出し口が、イオン化チャンバ302から引き出すことのできるイオンの量を増大させることができたとしても(すなわち、生成されたイオンビームが大電流であったとしても)、大型の引き出し口は、イオンビーム引き出し角度の制御の点において困難を伴う。引き出し電極の棒状部材414及びスリット416は、イオンビームを生成する電流とイオンビーム引き出しの角度の制御性との両方を最適化することにより、これら2つの条件を両立している。
【0026】
一実施形態では、フレーム410の矩形開口部412内における棒状部材414とスリット416との位置及びサイズは、それぞれの電極において互いに実質的に同じである。代表的な構成としては、矩形開口部412のx軸に沿った幅(W)は、約13mmであり、矩形開口部412のy軸に沿った長さ(L)は、約45mmである。一実施形態では、各棒状部材414は、グラファイト及び/又はタングステンからなる。
【0027】
図4bに示されているように、1つの引き出し電極に着目すると、各棒状部材414の両端部418は、電極のフレーム410に取り付けられている。棒状部材414の一端部418は、フレーム410に固定され得、他端部418は、フレーム410に沿って摺動可能である。例えば、棒状部材414の摺動可能な端部418は、フレーム410に取り付けられるとともに、(例えばフレーム410の長手方向に沿って)伸縮し得る。
【0028】
図5は、本発明の一実施形態において、
図4a及び
図4bの引き出し電極の電極フレーム410であり、棒状部材414の一端部418aがガタなくはめこまれ、棒状部材414の他端部418bが摺動可能に係合するように構成されものを示している。上述したように、電極フレーム410は、中央に位置する開口部412を有し、その開口部412の内側に棒状部材414が配置される。棒状部材414は、電極フレーム410の長手方向に沿って縦長に延在するように設けられている。棒状部材414の第1端部418aは、電極フレーム410の開口溝502に若干の隙間をあけて収まるように設けられていて、その開口溝502の幅Aは、第1端部418aがフレーム410の長手に沿って縦方向に摺動できるように(例えば伸長または収縮)、棒状部材414の幅よりも広くなっている。棒状部材414の他端部418bは、電極フレーム410の閉塞溝504にガタなく収まるように設けられていて、第2溝504の幅Bは、棒状部材の幅とほぼ同じか、又は少しだけ広い。従って、開口溝502の幅Aは、棒状部材414の第1端部418aが自在に摺動できるように、閉口溝の幅Bよりも広くなっている。この設計はメリットがある。なぜならば、イオン源の稼働中にイオン源210から生成される大量の熱によって棒状部材414が伸長する傾向にあるためである。別の実施形態では、棒状部材414が両端部418a、418bがガタなく収まるように、溝502及び504の両方が閉塞している。
図5の引き出し電極の実施形態では、に棒状部材414が1つだけ例示されているが、例えば2つ又は4つ以上のさらなる棒状部材414が、電極フレーム410内に間欠的に配置され得る。
【0029】
一実施形態では、棒状部材414の断面図は、矩形(例えば正方形)であり、この場合、溝502、504の断面図もまた矩形(例えば正方形)である。これは棒状部材414をフレーム410に収容するとともに固定するためである。一実施形態では、棒状部材414の断面図は、上辺と下辺がわずかに異なる台形であり、この場合、溝502、504の断面図も同様に台形である。これは棒状部材414をフレーム410に収容するとともに固定するためである。具体的には、溝502、504の横断面における台形の長辺は、フレーム410内に位置するのに対して、溝502、504の横断面における台形の短辺は、フレーム410の表面に位置している。この形状によって棒状部材414がフレーム410から落下するのを防ぎ、棒状部材414をフレーム内に収めることができる。棒状部材414及び溝502、504は、円形断面などの他の断面形状もあり得る。
【0030】
一実施形態では、プラズマ電極408用に間欠的に設けられた棒状部材群のそれぞれの棒状部材414の横断面は、
図4aに示されているように、別の引き出し電極用のそれぞれの棒状部材の横断面に対してある角度をなした状態である。その角度は、約45度であり得る。プラズマ電極408用の棒状部材414が回転角度は、電極の強度、ビーム電流、引き出されたイオンビームの質を含む様々なファクターをバランスさせつつ最適化するよう設定されている。
【0031】
別の態様では、イオン源210は、幾通りもの多様な方法で分析マグネット202内に取り付けられ得る。
図6a-cは、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン注入機200であり、イオン源210を分析マグネット202の底壁、頂壁、及び側壁それぞれから受け取って取り外すように構成されたものを示している。
図6aに示されるように、イオン源210は、分析マグネット202の底壁に設けられた底部ポート604を介して当該イオン源210を分析マグネット202に取り付けたり、又は、分析マグネット202から取り外したりするリフター602に載置されている。底部ポート604は、分析マグネット202の入側端部206に近接配置されている。作業時には、リフター602は、y軸に沿って垂直に移動し、底部ポート604を介してイオン源210を分析マグネットに取り付けたり、分析マグネット202から取り外したりするように構成されている。この底部での取り付け及び取り外し構成は、分析マグネット202のターボポンプ606内に薄片が落下するのを防ぐ上で利点となっている。
【0032】
別の方法として、
図6bに示されるように、イオン源210は、分析マグネット202の上壁に設けられている頂部ポート612を介して当該イオン源210を分析マグネット202に取り付けたり、又は、分析マグネット202から取り外したりする巻き上げクレーン610を介して、天井608に取り付けられている。頂部ポート612は、分析マグネット202の入側端部206に近接配置されている。具体的には、天井608に固定された巻き上げクレーン610は、y軸に沿って垂直に移動し、頂部ポート612を介してイオン源210を分析マグネット202に取り付けたり、又は、分析マグネット202から取り外したりするように構成されている。一実施形態では、巻き上げクレーン610がハンドリフター602からイオン源210を持ち上げて分析マグネット202に取り付ける前に、
図6aのリフター602に類似しているリフター620が、イオン源210を巻き上げクレーン610に対して整列して配置させるために用いられる。
【0033】
別の方法として、
図6cに示されているように、イオン源210は、分析マグネット202の側壁に設けられた側部ポート616を介してイオン源210を分析マグネット202に取り付けたり、又は、分析マグネット202から取り外したりする格納式取り付けフランジ614に取り付けられている。側部ポート616は、例えば、分析マグネット202の第1端部/入側端部206が設けられている側壁に設けられている。作業時には、取り付けフランジ614は、z軸(すなわち、イオンビームの進行方向)に沿って水平に移動して、側部ポート616を介してイオン源210を分析マグネット202に取り付けたり、又は、分析マグネット202から取り外したりするように構成されている。一実施形態では、取り付けフランジ614及び側部ポート616は、実質的に矩形状である。取り付けフランジ614は、イオン源210をチャンバ204に取り付けた後、その分析マグネットチャンバ204の一部となり得る。例えば、チャンバ204の内部にイオン源210が設けられると、取り付けフランジ614は、分析マグネットチャンバ204の側方から取り付けられて、側部ポート616を密封する。概して、イオン源210は、分析マグネット202の側方から取り付けられるので、このような配置は、分析マグネットチャンバ204の上面や底面の外側を取り囲むように巻き付けられた磁気コイルに干渉しない。故に、
図6cに示されているように、分析マグネット202の入側206と出側208は、それぞれ従来のサドル形状の磁気コイル618a、618bで覆われ得る。反対に、
図6a及び
図6bの分析マグネットの構成においては、出側208の磁気コイルのみが従来のサドル形状である。
【0034】
一実施形態において、分析マグネット202へのイオン源210の取り付けは、
図6a-cの上方、下方、又は側方の取り付け構成の何れかの態様に自動化され得る。例えば、イオン源210の配置や、イオン源を移送するための装備(例えばリフター602、天井608、巻き上げクレーン610、取り付けフランジ614など)の配置に関する位置データは、取り付けの工程を自動制御すべく、コンピューター数値制御装置(CNC)によってプログラム化されるとともに、トラッキングされ得る。移送装置の手動操作によっても、イオン源210を分析マグネット202に取り付けることができる。
【0035】
別の態様では、イオン源210がチャンバ204の内側に配置されたまま、分析マグネット202のチャンバ204の外側に、イオン源210の引き出し機構320における1つ又は複数の電極をバイアスする1つ又は複数の電圧バイアス部材が設けられている。
図7は、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bにおけるイオン注入機200の分析マグネット202の内側に配置されたイオン源210の引き出し電極をバイアスするための代表的なバイアス部材700を示している。一実施形態では、このバイアス部材700は、
図6cに示されている分析マグネット202の側方取り付け構成に適用される。すなわち、このバイアス部材700は、イオン源210が側部ポート616を介して分析マグネット202に取り付けられる場合に用いられ得る。バイアス部材700は、分析マグネットチャンバ204の内側に設けられている弾性導電性部材702(例えば、導電性のばね)を具備している。弾性導電性部材702の一端部は、抑制電極404やプラー電極406などの引き出し電極のフレーム410に物理的に接触するように構成されている。弾性導電性部材702の他端部は、分析マグネットチャンバ204の側壁708を貫通して取り付けられた電圧フィードスルー部材704に接続されている。電圧フィードスルー部材704は、弾性導電性部材702を介して接続されている分析マグネットチャンバ204内の引き出し電極(すなわち、抑制電極404やプラー電極406)に所望量の電圧を供給するように、オペレータによって壁708の外側から調整可能なものである。
【0036】
一実施形態において、弾性導電性部材702がx軸に沿って延在する場合、弾性導電性部材702に接続するように構成された引き出し電極のフレーム410は、弾性導電性部材702の接続を容易にすべく、x軸に沿った幅(w)が他の電極フレームの幅に比べて広い。具体的には、引き出し機構320の電極が、配置方向(すなわち、z軸)に沿って重なっているので、対象の電極をx方向に伸ばすことで、その対象の電極のみと弾性導電性部材702とを物理的に確実に接触させることができる。しかしながら、仮に弾性導電性部材702が、分析マグネットチャンバ204の頂壁又は底壁に設けられるとともに、y軸に沿って伸びており、イオン源210が、例えば
図6a及び
図6bの取り付配置に示されているように、y軸に沿って取り付けられる場合には、対象の電極の長さを伸ばす必要はない。
【0037】
一実施形態では、2つのバイアス部材が、抑制電極404及びプラー電極406を同時にバイアスするために用いられる。従って、一方の弾性導電性部材702が抑制電極404に接続され得るとともに、他方の弾性導電性部材(不図示)がプラー電極406に接続され得る。これらの弾性導電性部材は、分析マグネットチャンバ204の同じ側に配置される必要はない。例えば、図示されているように、バイアス部材700用の弾性導電性部材702が右側壁708に配置され得るのに対して、他のバイアス部材(不図示)用の弾性導電性部材は、チャンバ204の左側壁に配置され得るし、チャンバ204の頂壁或いは底壁にも配置され得る。
【0038】
図8は、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン注入機200の分析マグネット202の内側に配置されているイオン源210の引き出し電極をバイアスするための別の代表的なバイアス部材800を示している。一実施形態では、バイアス部材800は、
図6cに示されている分析マグネット202の側方取り付け構成に適用される。すなわち、このバイアス部材800は、イオン源210がz軸方向に側部ポート616を介して分析マグネット202の内側に配置される場合に用いられ得る。バイアス部材800は、分析マグネットチャンバ204の内側に設けられた導電性棒状部材802(例えば、ステンレス鋼製)を具備している。導電性棒状部材802は、チャンバ204内の抑制電極404やプラー電極406などの引き出し電極のフレーム410に物理的に接触するように構成された近傍端部806aを有している。導電性棒状部材802の遠方端部806bは、分析マグネットチャンバ204の第1端部/入側端部206における側壁を貫通して(例えば、側部ポート616を覆うフランジ614を貫通して)取り付けられた電圧フィードスルー部材804に接続されている。すなわち、導電性棒状部材802は、分析マグネット202のz軸に沿って延在する。電圧フィードスルー部材804は、導電性棒状部材802を介して接続されている分析マグネットチャンバ204内の引き出し電極(すなわち、抑制電極404やプラ―電極406)に所望量の電圧を供給するように、オペレータによって分析マグネットチャンバ204の外側から調整可能なものである。一実施形態では、導電性棒状部材802は、当該棒状部材802の両端部806a及び806bのみが電気的に露出するように、絶縁材によって覆われている(例えば、アルミニウムガイドチューブ内に設けられている)。
【0039】
一実施形態では、導電性棒状部材802は、他の電極それぞれに設けられた孔を通過して対象の電極まで延びている。例えば、
図8に示されるように、プラー電極406に物理的に接触するように、導電性棒状部材802は、プラズマ電極408のフレーム410に形成された孔810を通過している。導電性棒状部材802は、絶縁ガイドチューブ808に覆われているため、この導電性棒状部材802は、孔810を通過するうえでプラズマ電極408とは絶縁され、プラー電極406にのみ導通している。
【0040】
一実施形態では、弾性体(例えば、ばね)812が、分析マグネットチャンバ204内に設けられている。弾性体812がz軸方向に力を導電性棒状部材802へ与えるように、弾性体812は、チャンバ204内に設けられた導電性棒状部材802の遠方端部806bと物理的な接触を保っている。この力は、導電性棒状部材802が確実に物理的な接触を保つように、導電性棒状部材802を引き出し電極方向に対して押している。具体的には、対象の引き出し電極と導電性棒状部材802との間の物理的な接触は、例えば引き出し機構320をイオン化チャンバ302へ組み込んだ後に、非接触となり得る。もしこのようなことが起こると、導電性棒状部材802を介して引き出し機構320の引き出し電極に電圧を印加するのは不可能となるであろう。従って、弾性体812は、電極の電圧設定のために良好な電気的接続を保つべく、導電性棒状部材802と対象の引き出し電極との適切な位置を担保するものである。具体的には、弾性体812は、オペレータが引き出し機構320をイオン源チャンバ340に組み込んだ際に、対象の電極と導電性棒状部材802との接触が自動的に保たれることを物理的に担保するものである。
【0041】
概して、これらの電圧バイアス部材700、800は、イオン源チャンバ340内に配置されたイオン源210のメンテナンスを容易にしている。例えば、
図7のバイアス部材700の弾性導電性部材702や、
図8のバイアス部材800の導電性棒状部材802を用いたイオン源210の確かな接続を確立し、その接続をイオン源チャンバ340及び/又は分析マグネットチャンバ204の外側から調整可能としたり、設置時に自動調整可能としたりすることで、オペレータは、メンテナンスのためにイオン源チャンバ340の中に入る必要がなくなる。具体的には、プラー電極406又は抑制電極404の少なくとも一方を電圧バイアス部材700又は800に接続することで、各電極の電圧は、イオン源チャンバ340の中に入ることなく設定され得る。従って、イオン源チャンバ340は、従来のイオン源のチャンバと比べて小型化され得る。
【0042】
図2a及び
図2bを引き続き参照すると、一実施形態では、分析マグネット202は、第2端部/出側端部208に隣接するように、分析マグネットチャンバ204内に配置された質量分析スリット(MRS)212を備えている。MRS212は、図示されているように、分析マグネットチャンバ204内におけるイオン源210の下流に設けられている。MRS212が分析マグネット202内に位置することの利点の1つは、イオン源210から被処理物(不図示)へのビーム経路が、
図1のイオン注入機100などのMRS122が分析マグネット120の外側に配置されている従来のイオン注入機に比べて、短くなることである。
【0043】
一実施形態では、分析マグネット202は、少なくともその一部が分析マグネットチャンバ204の外側に配置されるとともに、第1端部/入側端部206より狭くなり得る第2端部/出側端部208に近接して配置された1つ又は複数の集束レンズ214を具備している。例えば、1つ又は複数の集束レンズ214は、全体が第2端部208の外側に配置され得る。具体的には、集束レンズ214の少なくとも一部は、分析マグネット204の外側におけるMRS212の下流に配置され、MRS212からのイオンビームを集束、発散、又は蛇行させる非分散型平面をなす。概して、分散型平面は、分析マグネットによってイオンビームが偏向される平面として規定されている。
【0044】
図9は、本発明の一実施形態において、
図2a及び
図2bのイオン注入機200の集束レンズ214の代表的な構成を示している。集束レンズ214は、一対の磁気コイル904、906を有する上側磁気コイル対902を備えた上側領域を具備し、それら一対の磁気コイル904、906は、x方向において互いに対向するとともに、イオンビームのy方向における上側半分を実質的に覆っている。集束レンズ214は、一対の磁気コイル910、912を有する下側磁気コイル対908を備えた下側領域をも具備している。これら一対の磁気コイル910、912は、x方向において互いに対向するとともに、イオンビームのy方向における下側半分を実質的に覆っている。上側の磁気コイル904、906は、直列接続されるとともに、DC電源(不図示)によって励磁されており、
図9に示すように、x方向に沿った磁場B1を形成している。下側の磁気コイル910、912は、直列されるとともに、DC電源(不図示)によって励磁されており、
図9に示すように、x方向に沿ってはいるが磁場B1とは反対向きの磁場B2を形成している。別の実施形態では、上側磁気コイル対及び下側磁気コイル対902、908の両方を励磁させるために、同じ電源が使用される。集束レンズ214内において、磁場B1、B2は、互いに反対向きであり、それぞれ上側磁気コイル対902の間隙914及び下側磁気コイル対908の間隙916に生じる。イオンビームは、間隙914、916内においてz方向に進む。一実施形態では、分析マグネット202の磁場に影響を及ぼすことがないように、上側磁気コイル対及び下側磁気コイル対902、908には、鉄製のヨークは用いられていない。
【0045】
一実施形態では、上側磁気コイル対902及び/又は下側磁気コイル対908の物理的及び/又は電気的なパラメータが、y方向においてイオンビームを集束、発散、又は蛇行させるために独立して調整される。例えば、上側磁気コイル対902(Li)の長さ及び下側磁気コイル対908(L2)の長さや、コイル対902、908に印加される電流の大きさ及び/又は向きは、y方向においてイオンビームを集束、発散、又は蛇行させるように独立して調整され得る。一実施形態では、コイル対902又は908の電流の向き及び/又は巻回方向が、結果として生じる磁場B1、B2の向きを決めて、イオンビームの偏向方向(すなわち、ビーム中心軸220から発散又はビーム中心軸220に収束)を決める。一実施形態では、イル対902、908に印加される電流量が、発散又は収束する角度を決めている。
【0046】
図10は、本発明の一実施形態において、出射イオンビームが入射イオンビームに対してy方向に集束するように、入射イオンビームをy方向に集束するための集束レンズ214の構成を示している。一実施形態では、上側及び下側の磁気コイル対902、908に印加される電流は、おおよそ同じ大きさであり、その電流によって、イオンビームは、集束レンズ214を通過することで、ビーム中心軸220に向かってy方向に対称的に曲げられる。一実施形態では、上側磁気コイル対902による集束角度(角度A)と、下側磁気コイル対908による収束角度(角度B)は、実質的に同じである。一実施形態では、入射イオンビーム及び射出イオンビームのビーム中心軸220は同じままである。入射イオンビームを集束させるレンズ214の操作は、イオンビームの進行角度を制御することとなり、例えば、発散している入射イオンビームを平行な出射ビームに変えるために用いることができる。
【0047】
図11は、本発明の一実施形態において、出射イオンビームが入射イオンビームに対してy方向に発散するように、入射イオンビームを発散させる集束レンズ214の構成を示している。
図11の発散例では、磁場B1、B2の向きが
図10の集束例の磁場の向きと逆になるように、DC電源を逆に接続することによって、コイル904、906、910、912に流れる電流の向きが、上述の
図10の集束例の電流の向きと逆となり得る。しかしながら、
図11の磁場B1、B2の方向はお互いに逆のままである。このように、
図10の集束構成の磁場の向きとは磁場B1、B2の向きを逆にすることは、イオンビームが、集束レンズ214を通過することで、ビーム中心軸220からy方向に(内側に曲がるのではなく)外側に離れるように発散することになる。一実施形態では、上側磁気コイル対902による発散角度(角度A)と、下側磁気コイル対908による発散角度(角度B)は、上側及び下側のコイル対902、908に印加される電流が同じであれば実質的に同じである。一実施形態では、入射イオンビーム及び出射イオンビームのイオン中心軸220は同じままである。入射イオンビームを発散させるレンズ214の操作は、イオンビームの進行角度を制御することとなり、例えば、集束する入射イオンビームを平行な出射ビームに変えるために用いることができる。
【0048】
図12a及び
図12bは、本発明の一実施形態において、入射イオンビームをy方向に蛇行させるための集束レンズ214の構成を示しており、この構成は、イオンビームの伝搬角度を調整(すなわち、イオンビームの集束や発散)しながらイオンビームのビーム中心軸を同時にシフトさせる。概して、大きさ及び向きが異なるコイル電流を、上側磁気コイル対902及び下側磁気コイル対902に印加することができ、これにより、出射イオンビームは、(i)イオンビームが集束レンズ214を通過することで、y方向に非対象に集束/収束して内側に曲がる、又は、イオンビームが集束レンズ214を通過することで、y方向に非対象に分散/発散して外側に曲がる。さらに、印加されるコイル電流の違いによって、上側磁気コイル対902による収束角度又は発散角度(角度A)は、下側磁気コイル対908による収束角度又は発散角度(角度B)と異なり、これにより、出射イオンビームのビーム中心軸920は、入射イオンビームの中心軸220に対してy方向にシフトする。
【0049】
図12aに示されるように、出射イオンビームは、磁場B1、B2の向きが
図10の磁場の向きと同じであるため、入射イオンビームに比べて収束する。加えて、上側及び下側の磁気コイル対902、908に印加される電流の大きさが異なるため、上側磁気コイル対902による収束角度(角度A)は、下側磁気コイル対908による収束角度(角度A)よりも大きくなり、これにより出射ビームのビーム中心軸920が、入射イオンビームの中心軸220に比べてy方向において下方にシフトする。
図12bに示されるように、出射イオンビームは、B1、B2の磁場の向きが
図11の磁場の向きと同じであるため、入射イオンビームに比べて発散する。加えて、上側及び下側の磁気コイル対902、908に印加される電流の大きさが異なるため、上側磁気コイル対902による発散角度(角度A)は、下側磁気コイル対908による発散角度(角度B)よりも大きくなり、これにより出射ビームのビーム中心軸920が、入射イオンビームの中心軸220に比べてy方向において上方にシフトする。具体的には、
図12bの例では、DC電源を逆に接続することで、コイル904、906、910、912に流れる電流の向きを、
図12aの例における電流の流れる向きとは逆にすることができ、これによりイオンビームを発散する状態から集束する状態に変える。しかしながら、
図12bの磁場B1、B2の向きは互いに逆向きのままである。
【0050】
他の実施形態では、上側及び/又は下側の磁気コイル対902、908のコイル電流の大きさを適切に調整することで、角度Aを、角度B以下に設定することができ、これによって同様に、入射ビームのビーム中心軸220に対して出射ビームのビーム中心軸920がシフトする(すなわち、12aの例における上方及び12bの例における下方)。
図10-12bの例では、集束レンズ214に入射するときにy方向に平行な入射イオンビームを示したものの、他の実施形態では、入射イオンビームは、平行である必要はない。例えば、入射イオンビームを発散又は集束させることができ、集束レンズ214は、入射イオンビームを適切に集束又は発散させて、平行な出射イオンビームを生成し得る。一実施形態では、イオンビームプロファイルを所望の形状に調整するべく、集束レンズ214のコイル電流をフィードバックして調整するために、集束レンズ214の下流におけるビームプロファイルがモニタされる。
【0051】
図2a及び
図2bを引き続き参照すると、一実施形態において、イオン注入機200は、分析マグネット202のチャンバ204の外部であって下流に配置されて、チャンバの第2端部208に隣接するビーム減速エネルギーフィルタ222を具備している。ビーム減速エネルギーフィルタ222は、概して、例えばイオンビームのエネルギーを高エネルギーレベル(例えば約25keV)から低エネルギーレベル(例えば約3keV)に減少させるなど、分析マグネットチャンバ204からのイオンビームのエネルギーを変えるように構成されている。加えて、ビーム減速エネルギーフィルタ222は、イオンビームを偏向させ得、そうすることによってイオンビームから中性粒子を分離させる。エネルギーフィルタ222は、イオンビームを曲げることができ、これによりイオンビームから中性粒子を分離させる。
【0052】
別の態様では、
図13は、本発明の一実施形態において、他の代表的なイオン注入機300の構成を示しており、イオン源1310は、分析マグネット1302の外部に配置されている。概して、イオン注入機300は、イオン源1310が分析マグネット1302の外部に配置されている点を除いて、
図2a及び2bのイオン注入機200と実質的に同じである。具体的には、イオン源1310は、分析マグネット302の上流に配置されて分析マグネット1302の第1端部1306に近接しており、該イオン源1310は、被処理物(不図示)を処理及び移送するために、引き出されたイオビームを分析マグネット1302に供給する。図示されているように、イオン源1310の内部に磁場を生成するべく、イオン源1310は、真空のイオン源チャンバ1311の内部に設けられるとともに、ソースマグネット(不図示)に囲まれている。
【0053】
イオン源1310は、
図3-5、7及び8を参照しながら上述したイオン源210と実質的に同じであり得る。例えば、イオン源1310は、引き出し機構320を具備し、当該引き出し機構320の1つ又は複数の引き出し電極には、1つ又は複数のバイアス部材700、800が接続され得る。イオン源1310は、分析マグネット1302内に配置されていないので、バイアス部材700のフィードスルー704及び/又はバイアス部材800の電圧フィードスルー804(弾性部材812を含む)は、上述した分析マグネット202の壁への取り付けと同様の方法で、イオン源チャンバ1311に取り付けられ得る。従って、バイアス部材700の弾性導電性部材702は、イオン源チャンバ1311に接続され、バイアス部材800の導電性棒状部材802もまたイオン源チャンバ1311に接続される。
【0054】
分析マグネット1302は、イオン源が内部にあること以外は、分析マグネット202と実質的に同じ構成要素を具備し得る。一実施形態では、分析マグネット1302は、MRS212と構造、機能、及び配置がほとんど同じMRS1312を具備する。イオン注入機300も、一組の集束レンズ1314(少なくともその一部が、分析マグネット1302の外部に設けられて第2端部1308に近接する)を具備し得、その一組の集束レンズ1314は、
図9-12bを参照しながら上述した集束レンズ214と構造、機能、及び配置がほとんど同じである。一実施形態では、イオン注入機300は、分析マグネット1302の外部でその第1端部1306に設けられたもう一組の1つ又は複数の集束レンズ1324を具備しており、その第2の組の集束レンズ1324は、構造及び機能が集束レンズ1314と実質的に同じである。MRS1312は、一組の集束レンズ1314及び一組の集束レンズ1324の間に配置され得る。一実施形態では、イオン注入機300もまた、ビーム減速エネルギーフィルタ222とほとんど同じ構造、機能、及び配置のビーム減速エネルギーフィルタ1322を具備している。
【0055】
本発明のイオン注入機200、300にはさまざまな利点がある。分析マグネット内にイオン源またはMRSの少なくとも1つを配置することで、イオンビームの経路の長さは、
図1のイオン注入機100のような従来のイオン注入機と比べて短くなる。加えて、分析マグネット202内にイオン源210を有するイオン注入機200においては、そのイオン注入機200のイオンビームは、分析マグネット202による強磁場のおかげで、輸送中により安定する。従って、イオン注入機200、300によって生成されるイオンビームの電流レベルは、従来の注入機に比べて(例えば約30%)高い。
【0056】
当業者は、本発明が、その中心または主要な特徴から逸脱することなく、その他の様々な形態で実施されることが可能であることを理解するであろう。前述の実施形態は、発明の範囲を限定するものではなく、あらゆる点において例として提示したものであるとみなされる。故に、発明の範囲は、前述の記載ではなく、むしろ添付の請求項に示されている。従って、請求項における意味やその均等の範囲等の一切の変形は、請求項に含まれるものである。