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特許7093524蛍光標識多糖、およびその調製方法と用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】蛍光標識多糖、およびその調製方法と用途
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/00 20060101AFI20220623BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20220623BHJP
   C08B 37/06 20060101ALI20220623BHJP
   C08B 37/08 20060101ALI20220623BHJP
   C08B 31/00 20060101ALI20220623BHJP
   A61K 51/06 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C08B15/00
C08B37/00 P
C08B37/06
C08B37/08 A
C08B31/00
A61K51/06 200
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019526322
(86)(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 CN2018090781
(87)【国際公開番号】W WO2019227528
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】201810535573.2
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519170302
【氏名又は名称】蘇州百源基因技術有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】車 団結
【審査官】東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031394(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104893710(CN,A)
【文献】特開昭62-036469(JP,A)
【文献】特許第5559529(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第1702118(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識多糖であって、式Iに示される構造を有する蛍光染料が多糖に共有結合されてなることを特徴とする蛍光標識多糖。
【化1】

(式中、Xはハロゲンであり、R、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基および複素環基から選ばれる1種である。)
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光標識多糖の調製方法であって、
多糖を水に溶解した後、飽和臭化シアン溶液を加えて、3-20分間反応させ、反応が終了して得られた溶液を純化処理するステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた純化溶液を乾固するまで濃縮させて、0.1-0.3Mのホウ砂溶液で溶解させ、式Iに示される蛍光染料を加えて、遮光下で反応させ、蛍光標識多糖を得るステップ(2)とを含む、ことを特徴とする調製方法。
【請求項3】
前記ステップ(1)では、前記反応がpH>10の条件下で行われ、および/または、反応時間が5-10分間に制御される、ことを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
【請求項4】
前記ステップ(2)では、前記ホウ砂溶液の濃度が約0.2Mであり、前記ホウ砂溶液の使用量と前記多糖の使用量の比(mL:mg)が(0.1~1):1である、ことを特徴とする請求項またはに記載の調製方法。
【請求項5】
前記式Iに示される蛍光染料は、
フェニルヒドラジンを氷酢酸に加えて撹拌し、フェニルヒドラジンと3-メチル-2-ブタノンのモル比が1:(1.0-1.2)となるように、3-メチル-2-ブタノンをゆっくりと滴下して、滴下終了後、60-65℃に加熱して、3-4時間反応させ、抽出、濃縮、精製をして、中間体I’-1を得る、中間体I’-1を調製するステップ(1)と、
中間体I’-1と1,2-ジブロモエチレンのモル比が1:(1.5-2.0)となるように、中間体I’-1と1,2-ジブロモエチレンをトルエンに加えて、窒素ガスで保護し、加熱還流反応を16-18時間行い、冷却させて固体として中間体I’-2を析出させる、中間体I’-2を調製するステップ(2)と、
シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、オキシ塩化リンのモル比が1:(1.0-1.1):(1.0-1.05)となるように、乾燥させたN,N-ジメチルホルムアミドを乾燥ジクロロメタンに加えて、氷浴下でオキシ塩化リンのジクロロメタン溶液を加えて撹拌し、シクロヘキサノンを加えて氷浴を取り除き、加熱還流反応を2-3時間行い、反応液を砕氷に注入して、一晩静置し、固体として中間体I’-4を析出させる、中間体I’-4を調製するステップ(3)と、
中間体I’-2と中間体I’-4をn-ブタノールとトルエンの混合液に加えて、加熱還流を2-3時間行い、固体を析出させて、濾過して中間体I’-5を得る、中間体I’-5を調製するステップ(4)と、
中間体1’-5とBr-R-NHをアミノ置換反応させて、反応過程にNaOHを加えて化合物Iを製造する、化合物Iを調製するステップ(5)とによって調製され、
合成スキームは以下に示される、ことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の調製方法。
【化2】
【請求項6】
前記多糖を臭化シアンで活性化させて、前記多糖のヒドロキシ基位置にシアノ基を連結させ、前記シアノ基を前記蛍光染料のアミノ基に連結させる、ことを特徴とする請求項に記載の方法
【請求項7】
前記XはBrである、ことを特徴とする請求項に記載の方法
【請求項8】
前記蛍光染料は式B~式Gに示される構造を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の方法
【化3】

【請求項9】
前記多糖は、グルカン、キトサン、ペクチン多糖、マイタケ多糖、霊芝多糖、シイタケ多糖およびスピルリナ多糖から選ばれる少なくとも1種である、ことを特徴とする請求項に記載の方法
【請求項10】
請求項1に記載の蛍光標識多糖の蛍光プローブの製造における使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用生物学的検出の技術分野に関し、具体的には、蛍光標識多糖、およびその調製方法と用途に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光標識技術とは、蛍光を発光可能な物質が共有結合または物理吸着などの手段により研究対象分子のある基に標識されて、その蛍光特性を利用して研究対象の情報を示すことである。蛍光標識試薬は研究対象(多糖、核酸、タンパク質、ポリペプチドなど)と吸着または共有結合すると、その蛍光特性が変化して、係る研究対象の性能に関する情報を示す。現代医学、生物学技術の継続的な発展、新規蛍光標識染料の開発および各種の先端蛍光検出技術や機器、たとえばフローサイトメトリー(FCM)、レーザー走査型共焦点顕微鏡(LSCM)などの適用に伴い、非放射性標識技術である蛍光標識は、操作しやすく、安定性が高く、感度が高く、選択性に優れたなどの特徴を有し、細胞内外物質の検出、組織および生きている動物の標識イメージング、薬物分析、病理モデル研究や疾患早期診断などに幅広く使用され得、生物医学研究の分野において重要な役割を果たす。
【0003】
多糖は、複数の単糖分子を脱水重合して、グリコシド結合を介して連結させた糖鎖である。多糖は、重要な生体高分子であり、生体においてエネルギーを貯蔵したり構造を構成したりする役割を果たす。近年、糖化学および糖鎖生物学の継続的な発展に伴い、植物、海洋生物や菌類など、様々な漢方薬由来の多糖は生物学的活性を有する天然物の重要なタイプとして現れる。大量の研究を重ねた結果、漢方薬由来の多糖が細胞内の様々な生命活動の調節に関与して媒介し、抗腫瘍、抗菌、免疫調節、血糖降下、抗ウイルス、酸化防止、血中脂質降下、抗凝固、抗低酸素、抗老化などの生物学的活性を有するとともに、生体への毒性や副作用が小さいことを見出した。このため、多糖検出は糖類に基づく薬物研究や開発にとって大きな意義がある。蛍光検出法は、感度が高く、選択性に優れて、動的応答範囲が広く、生体内で検出できるなどの利点を有するので、多糖検出に幅広く使用されている。多糖そのものは発光基と蛍光基がないため、多糖の蛍光検出には、蛍光を発光する物質を多糖の還元末端に連結して、蛍光物質を検出することにより多糖に対する定性・定量的研究を行う。
【0004】
従来、市販蛍光染料は、多数あり、スペクトル分布範囲が極めて広く、青色から赤色までカバーしているとともに、市販品として入手できる。しかし、従来の蛍光染料には、複数の問題が存在し、たとえば、蛍光染料のストークスシフトが一般に30nm以下であるため、蛍光染料が消光しやすく、信号が不安定で、且つ異なる蛍光信号を区別しにくく、それによって糖分子への蛍光検出が制限されてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、本発明が解決しようとする技術的課題は、ストークスシフトが小さく、蛍光信号が不安定で、異なる蛍光信号を効果的に区別できないという従来技術による蛍光標識多糖の欠陥を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明は、式Iに示される構造を有する蛍光染料が多糖に共有結合されてなる蛍光標識多糖を提供する。
【化1】
【0007】
(式中、Xはハロゲンであり、Rは水素、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基および複素環基から選ばれる1種である。)
上記した蛍光標識多糖において、前記多糖を臭化シアンで活性化させて、前記多糖のヒドロキシ基位置にシアノ基を連結させ、前記シアノ基を前記蛍光染料のアミノ基に連結されるようにしてもよい。
上記した蛍光標識多糖において、前記XはBrであるようにしてもよい。
【0008】
上記した蛍光標識多糖において、前記蛍光染料は、式A~式Gに示される構造を有するようにしてもよい。
【化2】
【0009】
上記した蛍光標識多糖において、前記多糖は、グルカン、キトサン、ペクチン多糖、マイタケ多糖、霊芝多糖、シイタケ多糖およびスピルリナ多糖から選ばれる少なくとも1種であるようにしてもよい。
本発明は、
多糖を水に溶解した後、飽和臭化シアン溶液を加えて3-20分間反応させ、反応が終了して得られた溶液を純化処理するステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた純化溶液を乾固するまで濃縮させて、0.1-0.3Mのホウ砂溶液を溶解させ、式Iに示される蛍光染料を加えて、遮光下で反応させ、蛍光標識多糖を得るステップ(2)とを含む、上記蛍光標識多糖の調製方法を提供する。
【0010】
上記した調製方法において、前記ステップ(1)では、前記反応がpH>10の条件下で行われ、および/または、反応時間が5-10分間に制御されるようにしてもよい。
【0011】
上記した調製方法において、前記ステップ(2)では、前記ホウ砂溶液の濃度が約0.2Mであり、前記ホウ砂溶液の使用量と前記多糖の使用量の比(mL:mg)が(0.1~1):1であるようにしてもよい。
【0012】
上記した調製方法において、前記式Iに示される蛍光染料は、
フェニルヒドラジンと3-メチル-2-ブタノンのモル比が1:(1.0-1.2)となるように、フェニルヒドラジンを氷酢酸に加えて撹拌し、3-メチル-2-ブタノンをゆっくりと滴下して、滴下終了後、60-65℃に加熱して、3-4時間反応させ、抽出、濃縮、精製をして、中間体I’-1を得る、中間体I’-1を調製するステップ(1)と、
中間体I’-1と1,2-ジブロモエチレンのモル比が1:(1.5-2.0)となるように、中間体I’-1と1,2-ジブロモエチレンをトルエンに加えて、窒素ガスで保護し、加熱還流反応を16-18時間行い、冷却させて固体として中間体I’-2を析出させる、中間体I’-2を調製するステップ(2)と、
シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、オキシ塩化リンのモル比が1: (1.0-1.1):(1.0-1.05)となるように、乾燥させたN,N-ジメチルホルムアミドを乾燥ジクロロメタンに加えて、氷浴下でオキシ塩化リンのジクロロメタン溶液を加えて撹拌し、シクロヘキサノンを加えて氷浴を取り除き、加熱還流反応を2-3時間行い、反応液を砕氷に注入して、一晩静置し、固体として中間体I’-4を析出させる、中間体I’-4を調製するステップ(3)と、
中間体I’-2と中間体I’-4をn-ブタノールとトルエンの混合液に加えて、加熱還流を2-3時間行い、固体を析出させて、濾過して中間体I’-5を得る、中間体I’-5を調製するステップ(4)と、
中間体I’-5とBr-R-NHをアミノ置換反応させて、反応過程にNaOHを加えて化合物Iを製造する、化合物Iを調製するステップ(5)とを含み、
合成スキームは以下のとおりである。
【化3】
【0013】
本発明は、上記した蛍光標識多糖の蛍光プローブの製造における用途を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の技術案は、下記利点を有する。
【0015】
1.本発明に係る蛍光標識多糖は、式Iに示される構造を有する蛍光染料が多糖に共有結合されてなる。蛍光標識多糖は、血清などの検出環境での安定性が高く、また生体適合性が高く、毒性が低いため、細胞内外、組織や生きている動物に対する多糖検出に幅広く適用でき、多糖吸収、代謝排泄の検出や薬理学的研究などの分野において重要な意義がある。
式Iに示される蛍光染料が大きなストークスシフトを有し、蛍光染料分子の発光波長と励起波長をさらに分けるため、蛍光標識多糖は、蛍光検出に用いられる合、優れた蛍光安定性、高蛍光量子収率、またイメージング結果の高信号対雑音比といった利点を有する。また、長いストークスシフトは各種蛍光染料分子の区別し易さの向上に寄与し、多重蛍光検出に適用でき、このため、異なる蛍光で標識された複数種の多糖分子の検出を実現できる。また、本発明に係る蛍光標識多糖は、液相チッププローブとして生体内外の糖類分子を検出することに適しており、液相チップの検出対象や蛍光標識プローブの種類を増やす。
【0016】
2.本発明に係る蛍光標識多糖の調製方法は、合成用の原料を入手しやすく、反応条件が温和で、操作しやすく、反応の選択性が高く、反応して調製された蛍光標識多糖は、高蛍光収率、高蛍光安定性および生物学的活性を兼ね備える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の実施形態または従来技術における技術案をより明瞭に説明するために、以下、実施形態または従来技術の説明に使用される図面を簡単に説明するが、勿論、以下の説明における図面は本発明の実施方式の一部に過ぎず、当業者であれば、創造的な努力を必要とせずに、これら図面に基づいてほかの図面を想到しうる。
図1】実施例1における化合物Bの1H核磁気スペクトルである。
図2】各濃度の本発明の実験例2において調製された蛍光標識グルカンによるHEK-293T細胞の細胞活性への影響の検出ヒストグラムである。
図3】各濃度の本発明の実験例3において調製された蛍光標識キトサンによるHEK-293T細胞の細胞活性への影響の検出ヒストグラムである。
図4】本発明の実験例2において調製された蛍光標識グルカンの、PBSまたは血清で各時間インキュベートしたときの化学純度図である。
図5】本発明の実験例3において調製された蛍光標識キトサンの、PBSまたは血清で各時間インキュベートしたときの化学純度図である。
図6】蛍光標識多糖のHEK-293T細胞での蛍光強度の検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の技術案を明瞭かつ完全に説明するが、勿論、説明される実施例は本発明の実施例の一部に過ぎず、すべての実施例ではない。本発明における実施例に基づいて、当業者が創造的な努力を必要とせずに想到しうるすべてのほかの実施例は本発明の保護範囲に含まれる。また、互いに矛盾しない限り、以下に説明される本発明の各種実施形態における技術的特徴は組み合わせることができる。
【0019】
本発明の実施例に使用される試薬などの基礎化学原料はすべて、中国国内の化学品市場から購入したり、関連する中間体製造工場に依頼して調製させたりすることができる。
【0020】
核磁気共鳴装置(Bruker DRX-500)、高速液体クロマトグラフィー(Waters2445)、γカウンタ(Perkin-Elmer1470)、元素分析計(Perkin-Elmer240C)、酵素結合免疫吸着アッセイ(米国Bio-Rad)、高速遠心分離機(米国ベックマン・コールター製J2-HS)。下記実施例における細胞はすべて上海生命科学研究院細胞所から購入される。
【0021】
実施例1
【0022】
本実施例は、下記式Bに示される構造を有する蛍光染料を提供する。
【化4】
【0023】
式Bに示した蛍光染料の合成スキームは以下のとおりである。
【化5】
【0024】
(1)中間体I’-1の調製
フェニルヒドラジンと3-メチル-2-ブタノンのモル比が1:1.1となるように、フェニルヒドラジンを氷酢酸に加えて撹拌し、3-メチル-2-ブタノンをゆっくりと滴下して、滴下終了後、62.5℃に加熱して、3-4時間反応させ、抽出、濃縮、精製をして、中間体I’-1を得た。
【0025】
(2)中間体I’-2の調製
中間体1-1と1,2-ジブロモエチレンのモル比が1:1.75となるように、中間体I’-1と1,2-ジブロモエチレンをトルエンに加えて、窒素ガスで保護し、加熱還流反応を17時間行い、冷却させて固体として中間体1’-2を析出させた。
【0026】
(3)中間体I’-4の調製
シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、オキシ塩化リンのモル比が1:1.05:1.025となるように、乾燥させたN,N-ジメチルホルムアミドを乾燥ジクロロメタンに加えて、氷浴下でオキシ塩化リンのジクロロメタン溶液を加えて撹拌し、シクロヘキサノンを加えて氷浴を取り除き、加熱還流反応を2.5時間行い、反応液を砕氷に注入して、一晩静置し、固体として中間体1’-4を析出させた。
【0027】
(4)中間体I’-5の調製
中間体I’-2と中間体I’-4をn-ブタノールとトルエンの混合液に加えて、加熱還流を2.5時間行い、固体を析出させて、濾過して中間体I’-5を得た。
【0028】
(5)化合物Bの調製
中間体I’-5を原料として、一般的なアミノ置換反応を行った。中間体I’-5にBr-CH-NHを加えて反応させ、さらにNaOHを加えて、目的化合物Bを得た。化合物Bの核磁気スペクトルは図1に示される。
【0029】
元素分析の計算値:C35H39Br3N4
質量スペクトル(MS+):752.07(M+)
m/z:754.07(100.0%),756.07(97.7%),755.07(39.3%),757.07(38.7%),752.07(34.2%),758.07(32.0%),753.08(13.1%),759.07(12.2%),756.08(7.1%),758.08(7.0%),754.08(2.4%),760.07(2.4%)。
元素分析:C、55.65;H、5.20;Br、31.73;N、7.42。
【0030】
実施例2
【0031】
本実施例は蛍光標識多糖を提供し、多糖はグルカン(sigma社購入、
品番00268)、蛍光染料の分子構造は以下のとおりであった。
【化6】
【0032】
蛍光標識多糖の製造方法は、下記ステップを含む。
1、飽和臭化シアン溶液および0.2MのNaOH溶液を調製する。
2、グルカン20mgを秤量して、グルカンを蒸留水1mlに溶解し、十分に撹拌して溶解させ、臭化シアン溶液4mlを加えて、7min連続してNaOH溶液を1回ずつ25μI加えて(pH>10に保持)、溶液の変化を観察し、沈殿が見られると、実験に失敗したことを示し、再操作する。
3、前のステップで得られた反応液について蒸留水を1-2日間透析させ、2-3hごとに透析外液を交換し、袋内の溶液を乾固するまで濃縮させて、pH=8の0.2MNa.12HO(ホウ砂)5~10mlを加えて、濃縮物を溶解させた後、式Aに示される蛍光染料(約1.5mg)を少量加え、遮光下で一晩反応させる。前のステップで得られた溶液を40℃の水浴に移して、遮光下で24h反応させ続ける。反応終了後、遠心分離して、上澄みを用いて蒸留水を遮光下で2日間透析させ、遠心分離後、凍結乾燥させて、蛍光標識グルカンを得る。蛍光染料で多糖を標識する方法の模式図を以下に示す。
【化7】
【0033】
実施例3
【0034】
本実施例は蛍光標識多糖を提供し、多糖はキトサン(sigmaから購入、品番448869)であり、蛍光染料の分子構造は以下に示される。
【化8】
【0035】
蛍光標識多糖の調製方法は、下記ステップを含む。
1、飽和臭化シアン溶液および0.2MのNaOH溶液を調製する。
2、キトサン10mgを秤量して、キトサンを蒸留水1mlに溶解し、十分に撹拌して溶解させ、臭化シアン溶液4mlを加えて、9min連続してNaOH溶液を1回ずつ25μI加えて(pH>10に保持)、溶液の変化を観察し、沈殿が見られると、実験に失敗したことを示し、再操作する。
3、前のステップで得られた反応液について蒸留水を1-2日間透析させ、2-3hごとに透析外液を交換し、袋内の溶液を乾固するまで濃縮させ、pH=8の0.2M Na.12HO(ホウ砂)1~10mlを加えて、濃縮物を溶解させた後、式Aに示される蛍光染料(約1.5mg)を少量加え、遮光下で一晩反応させる。前のステップで得られた溶液を40℃の水浴に移して、遮光下で24h反応させ続ける。反応終了後、遠心分離して、上澄みを用いて蒸留水を遮光下で2日間透析させ、遠心分離後、凍結乾燥させて、蛍光標識キトサンを得る。
【0036】
実験例1 蛍光染料の蛍光性質検出
【0037】
1、測定対象化合物Bを正確に秤量して、50体積%のエタノール溶液を用いて濃度1.0×10-5mol/Lの溶液を調製し、その蛍光スペクトルを測定して、化合物の近赤外スペクトルにおける最大吸収波長λabsを得た。
【0038】
2、測定された近赤外スペクトルにおける最大吸収波長を、蛍光スペクトルの励起波長として、蛍光スペクトルを測定した。測定対象化合物を称量して、濃度1.0×10-6mol/Lのエタノール:水(50:50、v/v)溶液を調製し、その発光スペクトルの発光波長λemを測定して、ストークスシフトを算出して、表1に示した。
【0039】
3、蛍光染料のモル吸光係数の測定
紫外可視吸収スペクトルを利用して化合物のモル吸光係数を測定した。計算式は式(1)に示される。
【数1】
式中、Aは紫外吸収値、εはモル吸光係数、cは化合物の濃度、lは検出用の石英セルの厚みである。
【0040】
4、蛍光染料の蛍光量子収率の測定
20℃で蛍光染料の蛍光量子収率を測定して、硫酸キニーネ(溶媒0.1M HSO、量子収率0.56)を参照物とし、蛍光染料と参照物質の希溶液について同じ励起条件で得られた蛍光積分強度と該励起波長での紫外吸収値を測量することによって、蛍光量子収率を算出した。生成物を無水エタノールに溶解した。
計算式は式(2)に示される。
【数2】
式中、Φは被測定物の量子収率であり、下付き文字Rは参照物を示す。Iは蛍光積分強度、Aは紫外吸収値である。ηは溶媒屈折率である。一般的には、紫外吸収値A、Aがともに0.1未満であることが要求される。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から明らかなように、式Bに示される蛍光染料は、蛍光量子収率が>85%であり、ストークスシフトが大きく、多糖などの生物分子を標識して蛍光プローブを製造することに適し、蛍光性能が安定しており、蛍光量子率が高いとともに、イメージングの信号対雑音比が高い核酸分子検出を実現できた。
【0043】
実験例2 蛍光標識多糖の毒性検出
【0044】
1. 細胞毒性実験
実施例2で調製された蛍光標識グルカンと実施例3で調製された蛍光標識キトサンのHEK-293T(ヒト胚性腎細胞)における細胞毒性をMTT実験により測定し、測定には下記ステップを含む。
(1)1ウェルあたり5×10個の細胞/100μLの密度で、HEK-293T細胞を96ウェルプレートに接種して、培地をDMEMとし、5%COを含む37℃の恒温インキュベータにおいて一晩培養した。
(2)実施例2で調製された蛍光標識グルカン、および実施例3で調製された蛍光標識キトサンをジメチルスルホキシド(DMSO)で溶解させて、濃度0.1mol/Lの母液を調製し、DMEM培地を用いて希釈して、濃度がそれぞれ80μmol/L、40μmol/L、20μmol/L、10μmol/L及び5μmol/Lの溶液にして使用時まで保管し、別にDMEM培地を等体積の脱イオン水に加えて希釈し、ここで蛍光標識多糖の濃度を0μmol/Lにした。
(3)ステップ(1)の96ウェルプレートにおける原培地を上記ステップ(2)で調製された薬液濃度がそれぞれ0μmol/L、5μmol/L、10μmol/L、20μmol/L、40μmol/Lおよび80μmol/LのDMEM培地に交換し、1ウェルあたり200μLとし、各薬物濃度ごとに6個のウェルを設置した。次に、96ウェルプレートを5%C〇を含有する37℃の恒温インキュベータに入れて、それぞれ3h、6h、12hおよび24hインキュベートした。インキュベート終了後、各ウェルにMTT(5mg/mL)20μLを加えて4h培養し続けた。培養終了後、培地を吸い取り、1ウェルにDMSO 150μLを加えて、シェーカーにおいて、結晶が完全に溶解するまで10min振動させた。酵素標識法を用いて490nmでの各ウェルの吸光度値を測定し、実験結果を少なくとも三回の独立実験の平均値とした。
【0045】
各薬物濃度および各インキュベート時間では、蛍光標識グルカンによるHEK-293T細胞の生存率への影響のヒストグラムを図2に示し、蛍光標識キトサンによるHEK-293T細胞の生存率への影響のヒストグラムを図3に示した。薬物作用時間の延長および化合物濃度の増大に伴う細胞生存率の変化が有意ではなく、且つ24h内で、細胞生存率がすべて90%より大きく、このことから、蛍光標識多糖はHEK-293T細胞に対して安全で低毒性であり、優れた生体適合性を有すると判定できた。
【0046】
実験例3 蛍光標識多糖の安定性実験
【0047】
(1)4つのPBS(pH=7.4)緩衝液800μLと実施例2で調製された蛍光標識グルカン溶液200μLとを準備してそれぞれ混合し、37℃で0.5h、1h、2h、3h、4h加熱した。少量の上記溶液を希釈して、放射性高速液体により標識生成物の安定性を検出し、高速液体条件として、水(濃度0.1体積%のTFA含有)を移動相A、CHCN(濃度0.1体積%のTFA含有)を移動相Bとして、0min→3min、移動相A:移動相Bの体積比80:20→80:20;3min→25min、移動相A:移動相Bの体積比80:20→10:90;25min→30min、移動相A:移動相Bの体積比10:90→80:20;移動相の流速を1mL/min、カラム温度を25℃に制御するようなプロセスに従って、勾配溶出を行った。次に、4つのマウス血清(Beyotime社から購入)800μLと実施例2で調製された式蛍光標識グルカン溶液200μLを準備してそれぞれ混合し、37℃で0.5h、1h、2h、3h、4h加熱し、次に、上記溶液100μLを取り、アセトニトリル100μLを加えて、高速遠心分離機を用いて10000gで5min遠心分離し、上層の澄み液について、高速液体クロマトグラフィーにより標識生成物の安定性を検出し、高速液体条件として、水(濃度0.1体積%のTFA含有)を移動相A、CHCN(濃度0.1体積%のTFA含有)を移動相Bとし、0min―3min、移動相A:移動相Bの体積比80:20→80:20;3min→25min、移動相A:移動相Bの体積比80:20→40:90;25min→30min、移動相A:移動相Bの体積比10:90→80:20;移動相の流速を1mL/min、カラム温度を25℃に制御するようなプロセスに従って、勾配溶出を行った。図4は、蛍光標識グルカンの、PBSまたは血清において各時間インキュベートしたときの液体クロマトグラフィーによる化学純度図である。
(2)ステップ(1)における検出方法を用いて、蛍光標識キトサンの、PBSまたは血清において各時間インキュベートしたときの化学純度を測定し、結果を図5に示した。
【0048】
図4および図5からわかるように、インキュベートの進行に伴い、蛍光標識キトサンと蛍光標識グルカンのPBSおよび血清での放射性化学純度がわずかに低下したが、4hになっても、PBSと血清での化学純度は95%より高かった。これは、蛍光標識アミノ酸が体外で優れた安定性を有し、さらなるインビボ実験研究に適することを示した。
【0049】
実験例4 蛍光標識多糖の蛍光強度検出図
【0050】
(1)HEK-293T細胞を5%CO、37℃のインキュベータにおいて対数期まで培養した。
(2)1×10個/ウェルで、スライド(スライドは75%エタノールに5min浸漬することで消毒し、Assitent社から購入したものである)を備えた12ウェルプレートに接種して、一晩培養した。
(3)細胞上清を吸い取り、培地で最終濃度1mg/mlに希釈された、実施例2で調製された蛍光標識グルカンと実施例3で調製された蛍光標識キトサンをそれぞれ加えて、細胞インキュベータにおいてさらに24h培養した。
(4)培養を停止して、ウェルプレートにおけるスライドを新しい12ウェルプレートに移し、PBST(0.1%のTween-20含有)を加えて3-4回リンスし、4%ポリオキシメチレンを加えて室温で15min固定し、PBSTで3-4回リンスし、最終濃度1μg/mlのDAPI(米国Cellsignaling社から購入)溶液を加えて、37℃で15minインキュベートし、PBSで3-4回リンスし、封入して、レーザー共焦点顕微鏡(日本オリンパス社から購入)下で観察した。
【0051】
図6は蛍光標識多糖のHEK-293T細胞での蛍光強度の検出結果を示しており、図中に、蛍光標識グルカンのHEK-293T細胞での蛍光検出結果、蛍光標識キトサンのHEK-293T細胞での蛍光検出結果、およびHEK-293T細胞のDAPI染色結果が左から右へ順次示されている。図6からわかるように、蛍光標識グルカンと蛍光標識キトサンでインキュベートした細胞のいずれにも、明らかな蛍光強度が検出されており、それは、HEK-293T細胞が上記蛍光標識多糖を取り込み、且つ多糖は蛍光染料により標識されると高蛍光発光強度を有することを示した。
【0052】
勿論、上記実施例は、明瞭に説明するために例示したものに過ぎず、実施形態を限定するものではない。当業者であれば、上記説明に基づいて様々な変化または改良をすることができる。ここですべての実施形態を説明するのが不可能なことである。これら実施形態に基づいて容易に想到しうる変化または改良も本発明の保護範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6