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  • 特許-微酸性次亜塩素酸水の生成方法 図1
  • 特許-微酸性次亜塩素酸水の生成方法 図2
  • 特許-微酸性次亜塩素酸水の生成方法 図3
  • 特許-微酸性次亜塩素酸水の生成方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】微酸性次亜塩素酸水の生成方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/26 20060101AFI20220623BHJP
   C02F 1/461 20060101ALI20220623BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20220623BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C25B1/26 C
C02F1/461 Z
C25B15/00 302Z
C25B15/08 302
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018080020
(22)【出願日】2018-04-18
(65)【公開番号】P2019189887
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】509266789
【氏名又は名称】株式会社微酸研
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】土井 豊彦
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-047362(JP,A)
【文献】特表2015-510029(JP,A)
【文献】特開2007-283167(JP,A)
【文献】特開2005-138001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽内の塩酸を含む原料に設定電圧を印加して設定電流を流すことで電気化学反応を起こすことによって微酸性次亜塩素酸水を生成する生成方法であって、
前記電気化学反応中に、前記設定電圧を印加しても前記設定電流が流れない場合に、
前記電解槽に流れる電流値が前記設定電流に達するまで、前記電解槽の電極に印加する電圧を第1の変化率で上昇させる電圧上昇工程と、
前記電流値が前記設定電流に達した後、前記電解槽の電極に印加する電圧を前記設定電圧まで第2の変化率で下降させる電圧下降工程と
前記電圧下降工程中に、前記電流値が前記設定電流を下回った場合に前記原料を供給する原料供給制御工程と
を含むことを特徴とする、生成方法。
【請求項2】
前記原料供給制御工程において、前記電流値が前記設定電流を上回った場合に前記原料の供給を停止することを特徴とする、請求項に記載の生成方法。
【請求項3】
前記第1の変化率および前記第2の変化率は、前記電極に印加する電圧が段階的に変化することを特徴とする、請求項1または2に記載の生成方法。
【請求項4】
前記第1の変化率および前記第2の変化率は、前記電極に印加する電圧が連続的に変化することを特徴とする、請求項1または2に記載の生成方法。
【請求項5】
前記電圧上昇工程を実行している間は、原料の供給を行わないことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微酸性次亜塩素酸水(通称、微酸性電解水)として参照される殺菌水の製造技術に関し、より具体的には、電気分解による微酸性次亜塩素酸水の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遊離次亜塩素酸を殺菌成分とする微酸性次亜塩素酸水は、殺菌対象が広く、殺菌速度が速いうえに、無毒、無刺激であることから、厚生労働省により食品添加物に指定されている。また、微酸性次亜塩素酸水は、現在広く使用されている次亜塩素酸ナトリウム溶液などに比べて、低濃度においても実用的な殺菌効果を示す一方で、殺菌成分は比較的短時間で分解消失すること、食品等の有機物に接触した場合に次亜塩素酸ナトリウムと異なりトリハロメタンを生成しないことから、食品に混入しても、ごく短時間で分解消失し、その品質に悪影響を与えないことが確認されている。このような特徴から微酸性次亜塩素酸水は、食品生産現場を始め、水産、農業、医療介護など幅広い分野において利用されている。
【0003】
微酸性次亜塩素酸水は、塩化水素溶液または塩化水素溶液と塩化ナトリウム溶液の混合物を電気分解することで生成されるものであると定義されている。そして、塩分を含まず、高い殺菌作用を有する微酸性次亜塩素酸水を得る方法として、塩化水素溶液のみを電気分解し、遊離次亜塩素酸の溶液を生成する方法が本発明者により実用化されている。
【0004】
微酸性次亜塩素酸水が強い殺菌力を安定的に保ち、かつ高い安全性を具備するように、有効塩素濃度の範囲は10~80mg/L、pHの範囲は5.0~6.5とされている(平成24年4月26日 厚生労働省告示 第345号)。
【0005】
ところで、微酸性次亜塩素酸水の品質は、電解槽の性能に依存するところが大きい。特に、電解槽の主要部品である電極の性能は、微酸性次亜塩素酸水の品質の他、生成効率などの経済性にも影響を与えることから、安定した品質の微酸性次亜塩素酸水を生成するためには、電極の劣化を抑制することが求められている。しかし、電極は常時高濃度の電解物中に浸漬されている。次亜塩素酸生成に使用される電極は、高濃度で、高酸化性で、かつ低pH溶液に浸漬され、電極表面は極度の酸化ストレスに曝されており、徐々に劣化し、触媒能が低下する。その結果次亜塩素酸生成能力は低下し、短い時間で電解性能が低下してしまう。従って実用的な電解槽に求められるのは、電極面の酸化劣化を極力抑える技術や、短時間で酸化劣化を回復させる技術である。例えば、特開2016-69859号公報(特許文献1)では、電極の劣化を防止するために、定常運転時とは逆の極性の電圧を電極に印加する技術が開示されている。特許文献1によれば、スケールの発生を抑制しつつ、電極の劣化を防止することができるとしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、電極の劣化を回復するために電極に印加する極性を逆転させる必要があり、そのため電圧制御が複雑化するという課題に加えて、電極極性を逆転させるためには、電極表面の触媒の種類が限定され、生成効率を優先した電極設計が困難であるという問題がある。したがって、電極劣化に対応して短時間での電極劣化回復技術が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、電解停止中、および電解中に発生した電極の短期劣化を回復させて微酸性次亜塩素酸水を効率的に生成する生成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、目的品質の微酸性次亜塩素酸水を安定して生成する方法であって、電解電流値が設定電流値を下回った時に原料希塩酸を供給し、電解電流値が設定電流値に達した時に希塩酸の供給を止める制御を実行中に、原料希塩酸の供給開始後一定時間内に電流値が設定値に達しなかった場合に、電圧を所定の変化率で上昇させ、電流値が設定値に達した後、電圧を所定の変化率で下降させ設定電圧に達したとき、電圧の下降を停止する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明によれば、電解中及び電解停止後に発生した電極の劣化を短時間で回復させて微酸性次亜塩素酸水を安定的に生成する生成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】微酸性次亜塩素酸水の生成装置の実施形態例を示す図。
図2】本実施形態における動作制御例を示すタイミングチャート。
図3】他の実施形態の電圧制御の例を示すタイミングチャート。
図4】各実施例によって生成された微酸性次亜塩素酸水の品質を比較した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態によって説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではない。図1は、微酸性次亜塩素酸水の電解装置(以下、単に電解装置として参照する)の実施形態の一例を示す図である。
【0012】
図1に示す電解装置は、電解槽4を含んで構成され、電解槽4は、電解槽外殻5の中に電解槽内殻6が囲繞された二重構造となっており、電解槽内殻6の内部には、複数の電極板7が含まれる。電極板7は、それぞれ平行に、かつ等間隔に固定され、最外部に配される2つの電極7-1(給電電極)が、給電端子棒8と接続される。給電端子棒8は、給電配線14を介して直流電源10と接続され、最外部の給電電極7-1はそれぞれ異なる極性の電極として作用する。また、最外部の給電電極7-1が給電端子棒8および直流電源10によって電圧が印加されることによって、最外部以外の電極板7-2(非給電電極)は、一方の面が陽極として作用し、もう一方の面が陰極として作用する。このようにして、表裏で異なる極性の電極反応を実現する複極式電解槽を形成することができる。なお、電極板7は、平行に配置固定され、均一な電界を形成することができる限り平板に限定されるわけではなく、平行曲面を形成する形状とされていても良い。
【0013】
また、電解槽内殻6には、原液供給配管3が接続されており、ポンプ2によってタンク1に貯蔵される電解原料液が電解槽内殻6内に供給される。電解原料液は、例えば、塩化水素溶液または塩化水素と塩化ナトリウムの混合溶液または塩化水素と塩化カリウムの混合溶液とすることができ、電解槽内殻6の内部で電気分解されて電解液が得られる。
【0014】
電解液は、排出口9から排出されると、電解槽外殻5と電解槽内殻6との間隙によって構成される空間を流下する希釈水によって希釈される。なお、希釈水は、開口12から供給され、電解液を希釈すると共に、電解槽4を直接冷却することができる。希釈され、所定濃度の次亜塩素酸を含有する電解液は、微酸性次亜塩素酸水として、電解槽4の排出口13から排出される。
【0015】
ポンプ2と直流電源10は、制御信号配線15を介して制御装置11と電気的に接続される。制御装置11は、ポンプ2の動作を制御することができる。また、制御装置11は、直流電源10の出力電圧や出力電流を制御することができる。制御装置11が出力するポンプ2や直流電源10の制御信号は、あらかじめ設定されたプログラムに基づいて出力されることができる。
【0016】
ところで、電極板7は、種々の材料から適切に選択され、本実施形態のものに限定するものではないが、電極板7の構成の一例としては、チタンまたはチタン合金を基材とし、表面を希少金属または不溶性金属塩で被覆したものを用いることができる。しかしながら、チタンやチタン合金は、一定濃度以上の塩化水素溶液に溶解するため、電解装置の累積稼働時間の経過に伴い経時的に消耗する。また、基材を被覆する触媒層の剥離消耗や、電極表面の水素吸蔵によっても劣化する。このような要因によって、電極板7が劣化すると、電解装置の性能が低下することとなる。さらに、電解装置が電気分解できなくなる程度まで電極板7の劣化が不可逆的に進行すると、電極の寿命となり、ひいては電解槽の寿命となる。
【0017】
また、上述した以外の要因によっても、電極板7が劣化し、電解槽4の性能を低下させることがある。例えば、電解動作の停止中のように電気的な極性が解除されている状態であっても、電極板7は、電解原料液や電解液などに浸漬されている。このとき、電極板7の表面には、酸化ストレス等による物理化学的な変化が生じ、電極板7の表面の電気抵抗が高くなる。この表面電気抵抗の上昇は、電解停止後から始まり、数十時間後に一定の抵抗値になる。
【0018】
このように表面電気抵抗値が高くなった電極板7は、電気分解を行うことで、元の抵抗値近くまで回復する。すなわち、抵抗値の上昇は、電気分解によって一部回復する準可逆的な劣化である。しかしながら、電極板7の抵抗値が高い状態で電気分解を行うと、設定された電流値を維持するために、電解原料液を過剰に供給することとなり、生成される電解液に余分な電解原料液が含まれることとなる。したがって、電極板7の抵抗値が回復するまでの間に生成される微酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度やpH値は、所定の範囲から外れることとなり、一方では電解装置の性能を低下させることともなる。したがって、微酸性次亜塩素酸水を生成するための電気分解開始時、または電解中に、上記の準可逆的な劣化からできるだけ短時間に回復させることが好ましい。
【0019】
そこで本実施形態では、以下のようにして、電解停止中や電解中に生じた電極の劣化を回復させることとした。すなわち、本実施形態では、停止状態から微酸性次亜塩素酸水を生成する電解を開始した場合、または、電解中における電流値の設定値への復帰遅延を検出した場合に、設定電圧から徐々に電圧を上昇させ、電流値が設定電流に達した後、徐々に電圧を低下させ設定電圧に戻す操作をする。図2は、本実施形態における第1の実施例の動作制御を示すタイミングチャートである。
【0020】
本実施形態では、電解開始時に設定電圧が印加されているにもかかわらず、電流値が一定時間内に設定電流値に到達しない場合、設定電圧(Vconst)で電気分解を行う定常運転の前に、電圧掃引運転工程を実行する。電圧掃引運転工程では、電圧値を設定電圧よりも高い所定の電圧(Vmax)まで段階的に上昇させ、電流値が設定電流値に達した後、電圧値を設定電圧まで段階的に下降させて、設定された電圧での定電圧運転にて電解を行う。本実施形態では、制御装置11が直流電源10の出力電圧値を制御することで、電圧掃引運転を行うことができる。なお、Vmaxは、あらかじめ設定された値でなくてもよく、電流値が設定電流値に達したときの値としてもよい。
【0021】
第1の実施例においては、電圧の上昇過程では原料の供給を停止し、電圧の下降過程では、電流値が設定電流値を下廻った場合にのみ原料の供給を行い、電流値が設定値に達した場合に原料の供給を停止する操作を行うこともできる。
【0022】
さらに、第1の実施例においては、電圧が上昇する変化率または下降する変化率を、装置の停止時間の長さに応じて加減することも可能である。例えば、停止時間が長くなるほど、電圧の上昇速度や下降速度を遅くするなどの態様も可能である。
【0023】
さらにまた、電解途中でも、設定電流値への回帰が一定時間より長くなった場合に、電圧の上昇下降操作を行い、定常状態への回帰時間をより短くすることもできる。
【0024】
図2(a)は、時間の経過に伴う段階的な出力電圧値の制御を示している。図2(a)に示すように、電解装置は、経過時間が0の時点から電圧掃引運転を開始する。電圧掃引運転では、まず、電流値が設定電流値に到達するまで電圧を段階的に上昇させる工程を行う。なお、ここでは、電流値が設定電流値に達したときの電圧の値をVmaxとする。出力電圧値がVmaxに達した後、定常電圧(Vconst)になるまで、出力電圧値を段階的に下降させる工程を行う。出力電圧値がVconstになった後、定常運転工程を行う。出力電圧値を下降させる工程では、制御装置11は、電流値が設定電流値を下廻った場合に、ポンプ2を稼働させて電解原料液を供給し、電流値が設定電流値に達した場合に、ポンプ2を停止させるように制御することもできる。
【0025】
図2(b)は、時間の経過に伴う出力電流値を示している。制御装置11は、直流電源10の電圧を調節することによって出力電流値を制御することができる。電圧上昇工程では、出力電圧値を上昇させることによって、出力電流値が上昇するように制御される。出力電流値が定常電流値(Iconst)まで上昇すると、その後は、出力電流値がIconstに維持されるように制御され、定電流運転となる。ここで、Iconstは、定常運転時における出力電流値である。出力電流値を制御する方法としては、ポンプ2の駆動を制御して電解原料液を供給し、電解槽4内部の抵抗値を調整することで、出力電流値を一定とすることができる。例えば、出力電流値が所定の値を下回った場合には、制御装置11は、ポンプ2を駆動する制御信号を出力する。ここで、図2(c)は、電解原料液を供給するポンプ2を駆動する制御信号を示すタイミングチャートである。図2(b)に示すように出力電流値が低下すると、制御装置11は、図2(c)に示すようにポンプ2の駆動信号を出力してONとする。その後、出力電流値が所定の値に達すると、制御装置11は、ポンプ2の駆動を停止する。このようにして制御することで、定電流運転することができる。
【0026】
また、電圧掃引運転工程における出力電圧の制御は、図2(a)に示したように段階的に上昇、下降させるものに限らず、これ以外の態様で制御されてもよい。その他の態様の一例として、図3は、他の実施形態の電圧制御の例を示すタイミングチャートである。例えば図3に示すように、出力電圧をVmaxまで連続的に上昇させた後、定常電圧になるまで連続的に下降させてもよい。
【0027】
ここまで、本実施形態において電圧掃引運転を行うことで、電極板7に通電させ、電極の劣化を回復させる方法について説明した。また、本発明者は、本実施形態における上記の効果を確認すべく、以下の試験を実施した。
【0028】
ここでは、図2に示した電圧掃引運転工程を行った後、定常運転を行った場合に生成された微酸性次亜塩素酸水(試験例1)と、電圧掃引運転工程を行わずに定常運転して生成された微酸性次亜塩素酸水(従来例)とを比較した。具体的には、電解停止後20時間経過した電解装置を用いて、電圧掃引運転の有無による、微酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度およびpHの評価を行った。なお、電解槽は、5300時間以上の稼働実績があるものを用いた。本試験における電解装置の諸元を、下記の表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
また、定常運転時の電解電圧を31.5V、電解電流を4.0Aとし、電解原料液には9%の塩酸溶液を使用した。生成された微酸性次亜塩素酸水の評価には、プロミネント社製BT4bを使用した。また、オムロン社製のデータロガー(ZX-RX20)を使用して、生成開始からの時間経過に伴う生成された微酸性次亜塩素酸水の物性を評価した。
【0031】
試験例1における電圧掃引運転の条件を、下記の表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
試験例1では、電圧掃引運転時の電圧上昇工程において、1.4秒ごとに0.1Vずつ出力電圧が上昇するように制御した。また、Vmaxに達した後の電圧下降工程においては、10秒ごとに0.1Vずつ下降するように制御し、設定電圧に達するまで行った。また、電圧下降工程においては、電解電流が一定の値となるように、ポンプ2の駆動が制御された。試験例1では、上記の電圧掃引運転を行った後、定常運転を行い、生成される微酸性次亜塩素酸水について評価した。
【0034】
従来例では、電圧掃引運転を行わずに定常運転を開始し、生成される微酸性次亜塩素酸水について評価した。
【0035】
また、試験例1と比較するために、電圧上昇工程を行う時からポンプ2を駆動させ、その後の定常運転を行う第2の実施例を行い、第2の実施例によって生成される微酸性次亜塩素酸水(試験例2)についても評価した。試験例2における電圧掃引運転の条件を、下記の表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
試験例2は、電圧上昇工程時からポンプ2を駆動させる点で、試験例1と異なるが、その他の電圧掃引運転の条件は試験例1と同様である。試験例1では、上記の電圧掃引運転を行った後、定常運転を行い、全工程に亘って生成される微酸性次亜塩素酸水について評価した。
【0038】
上述した試験例1、試験例2、従来例の各実施例によって生成された微酸性次亜塩素酸水を比較し、評価した。図4は、各実施例によって生成された微酸性次亜塩素酸水の品質を比較した図である。
【0039】
図4(a)は、各実施例の方法で生成された微酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度を示すグラフであり、 図4(b)は、各実施例の方法で生成された微酸性次亜塩素酸水のpHを示すグラフである。また、図4において、濃い色の実線は試験例1を、濃い色の破線は試験例2を、薄い色の実線は従来例を、それぞれ示している。
【0040】
図4に示す従来例では、有効塩素濃度は、生成開始後しばらくしてから上昇を始め、45ppmを超えたあとに低下し始め、生成開始から3分ほど経過すると、有効塩素濃度は33ppm程度で安定した。この間の有効塩素濃度は、微酸性次亜塩素酸水の基準値内ではあるものの、変動幅が大きく、安定した品質で生成されなかった。また、従来例におけるpHは、生成開始後に大きく低下し、微酸性次亜塩素酸水の基準値であるpH5.0~6.5から外れた。その後、生成開始から3分ほど経過すると、pHは5.8程度で安定した。これは、電解装置停止中に生じた電極の可逆的な劣化による電極板7の抵抗値上昇により、出力電流値が所定の値よりも小さくなり、その間過剰な原料塩酸が供給されたためであると推定される。すなわち、電圧掃引運転による電極劣化の回復が行われていないため、従来例において生成された微酸性次亜塩素酸水は、品質が安定するまで時間がかかったものと考えられる。
【0041】
一方で、図4に示す試験例1では、電圧掃引運転を行いながら微酸性次亜塩素酸水を生成していることから、有効塩素濃度、pHともに定常運転開始直後から安定し、極短時間で所定の品質の微酸性次亜塩素酸水が生成された。
【0042】
また、図4に示す試験例2でも、試験例1と同様に電圧掃引運転を行いながら微酸性次亜塩素酸水を生成しており、定常運転開始直後に極短時間有効塩素濃度およびpHの変動がみられたものの、従来例と比べて短時間で安定し、短時間で所定の品質の微酸性次亜塩素酸水が生成された。
【0043】
ここまで説明した本発明の実施形態および上記の試験によって、電圧掃引運転を行うことで、電解停止中または電解中に発生する電極の可逆劣化が短時間で回復できることが示された。また、電圧制御による電流値の掃引運転を行う事により、電圧掃引運転工程中であっても安定した品質の微酸性次亜塩素酸水が生成できることが示された。
【0044】
以上、説明した本発明の実施形態によれば、電解停止後または電解中に発生した電極の可逆劣化を回復させて微酸性次亜塩素酸水を生成する生成方法を提供することができる。
【0045】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
1…タンク、
2…ポンプ、
3…原液供給配管、
4…電解槽、
5…電解槽外殻、
6…電解槽内殻、
7…電極板、
7-1…給電電極、
7-2…非給電電極、
8…給電端子棒、
9…排出口、
10…直流電源、
11…制御装置、
12…開口、
13…排出口、
14…給電配線、
15…制御信号配線
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【文献】特開2016-69859号公報
図1
図2
図3
図4