(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】手摺用自在連結キット
(51)【国際特許分類】
E04F 11/18 20060101AFI20220623BHJP
【FI】
E04F11/18
(21)【出願番号】P 2018154005
(22)【出願日】2018-08-20
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000113779
【氏名又は名称】マツ六株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大喜多 未来子
(72)【発明者】
【氏名】松浦 朱里
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-019583(JP,A)
【文献】特開平11-006267(JP,A)
【文献】特開2001-355320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側に半球面状の凹面部が設けられた連結部材と、一端に手摺部材の端部に嵌装可能な手摺接合部が設けられる一方他端に前記凹面部に嵌まり込む凸面部が設けられた一対の可動部材とを備え、これら各可動部材の前記凸面部には案内孔が形成されて、この案内孔に貫挿された軸部材が前記連結部材の凹面部の中央付近に結合されることにより、前記連結部材と前記可動部材とが、互いの凹面部と凸面部とを球面接触させながら、両者の連結角度を一定の範囲内で変化させ得る自在連結具と、
一端に前記可動部材の手摺接合部に着脱可能な嵌着部が設けられる一方他端に手摺部材の端部を受ける手摺受部が設けられるとともに、前記嵌着部の軸心と直交する開口面と前記手摺受部の軸心と直交する開口面とのなす開口面開き角度が所定の角度に設定された少なくとも1個の角度調整アダプタと、
を備えたことを特徴とする手摺用自在連結キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状または管状の手摺部材を角度可変に連結する手摺用自在連結キットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば階段など、壁面の屈曲箇所に沿って手摺を設置するにあたり、直線状の手摺部材同士を、該屈曲箇所で向きを変えながら連結する必要が生じる。そのような箇所に利用する手摺用自在連結具が、例えば特許文献1~3等に開示されている。
【0003】
これらの文献に開示された手摺用自在連結具の基本的構造は、両側に半球面状の凹面部が設けられた連結部材と、一端に前記凹面部に嵌まり込む半球殻状の凸面部が設けられた一対の可動部材とを備え、各可動部材の凸面部には案内孔が形成されて、この案内孔に貫挿された軸部材が連結部材の凹面部の中央付近に結合されることにより、可動部材と連結部材とが、互いの凸面部と凹面部とを球面接触させながら、両者の連結角度を一定の範囲内で変化させることができるように構成されている。
【0004】
各可動部材の他端には円筒状の手摺接合部が設けられ、その手摺接合部に棒状または筒状の手摺部材が装着され、ネジ等によって止め付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-6267号公報
【文献】特開2001-254496号公報
【文献】実開平5-35940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の手摺用自在連結具の構造では、凸面部に形成される案内孔が長孔(特許文献1、2)または十字孔(特許文献3)として形成されているので、連結部材に対する可動部材の可動方向は、該長孔または十字孔内を軸部材が移動しうる2次元的な(平面的な)範囲に限定される。しかも、可動部材の可動範囲(可動角度)は案内孔の長さにより規定されるところ、可動部材を動かしたときに案内孔が連結部材の凹面部から露出すると意匠上好ましくないことから、案内孔の長さには自ずと限度があるので可動部材の最大可動角度は45°までに制限される。したがって、連結部材の軸心に対する手摺部材の接続角度が45°を超えることの多い、例えば回り階段では、可動部材の最大可動角度が45°までに制限される上記従来の連結具で対応できないといった不都合が生じていた。このため、従来は、手摺部材の連結角度が45°を超えても対応できるように予め角度を付けた複数種類の連結部材を用意することで対応していたが、それでは製造コストにロスが生じるとともに出荷管理が煩瑣になり、また施工現場でも連結部材の取捨選択をする必要があるため施工性にも劣るといった問題があった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、角度の異なる複数種類の連結部材を用意しておく必要がなく、一種類の連結部材で、連結部材の軸心に対する手摺部材の連結角度が45°を超える場合にも対応することのできる手摺用自在連結キットを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するために本発明の手摺用自在連結キットは、自在連結具と少なくとも1個の角度調整アダプタとを含むものである。
【0009】
自在連結具は、両側に半球面状の凹面部が設けられた連結部材と、一端に手摺部材の端部に嵌装可能な手摺接合部が設けられる一方他端に前記凹面部に嵌まり込む凸面部が設けられた一対の可動部材とを備え、これら各可動部材の前記凸面部には案内孔が形成されて、この案内孔に貫挿された軸部材が前記連結部材の凹面部の中央付近に結合されることにより、前記連結部材と前記可動部材とが、互いの凹面部と凸面部とを球面接触させながら、両者の連結角度を一定の範囲内で変化させ得るものである。
【0010】
一方、角度調整アダプタは、一端に前記可動部材の手摺接合部に着脱可能な嵌着部が設けられる一方他端に手摺部材の端部を受ける手摺受部が設けられるとともに、前記嵌着部の軸心と直交する開口面と前記手摺受部の軸心と直交する開口面とのなす開口面開き角度が所定の角度に設定されたものである。
【0011】
この特定事項により、連結部材の軸心に対する手摺部材の連結角度が、自在連結具単独での連結可能角度を超えた場合でも、自在連結具の可動部材に角度調整アダプタを装着することにより対応することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
前述のように構成される本発明の手摺用自在連結キットは、角度の異なる複数種類の連結部材を用意しておく必要がなく、一種類の連結部材で、連結部材の軸心に対する手摺部材の連結角度が45°を超える場合にも対応できる手摺用自在連結キットを提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る手摺用自在連結キットの全体構成を示す平面図である。
【
図2】
図1におけるII-II線に沿う断面図である。
【
図3】手摺用自在連結キットの自在連結具の斜視図である。
【
図8】手摺用自在連結キットと手摺部材との接続状態を示す分解斜視図である。
【
図9】手摺用自在連結キットを使用して回り階段に手摺を設置した例を示す斜視図である。
【
図10】
図9におけるA部及びB部の拡大斜視図である。
【
図12】他の形態の壁面取付アダプタを取り付けた手摺用自在連結キットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1~
図12は、本発明の実施の形態に係る手摺用自在連結キットを示す。例示した手摺用自在連結キット1は、
図9~
図11に示すように、回り階段の壁面に手摺を設置する場合において、階段室の出隅側に取り付けられて使用されるものである。
【0015】
手摺用自在連結キット1は、
図1,2,4,8,12図に示すように、自在連結具2と少なくとも1個の角度調整アダプタ3とを含むものであり、自在連結具2は、連結部材4と、一対の可動部材5,5と、ブラケット6とを備えている。以下、各部材について詳述する。
【0016】
連結部材4は、
図1に示すように、その両側の開口面41の成す角度αが90°とされたエルボとされており、これら両側には、
図2に示すように、半球面状の凹面部42が設けられている。凹面部42は、連結部材4の両側に設けられた凹陥部43の底部から開口面41に向けて立ち上げ形成された台座部44の頂面に相当し、開口面41の縁部41aを含む球面状の仮想曲面Cの中央に位置する。台座部44の中心部には雌ネジ孔45が形成されるとともに、この雌ネジ孔45の開口周縁部に、
図3に示すように、後述する可動部材5の案内孔55と係合して可動部材5の可動領域を規定するための矩形状又は平行する対辺を有する多角形状の係止凸部46が突設されている(
図3では矩形状の例を示す)。さらに、凹面部42には可動部材5との摺動を円滑にするための潤滑板47が係止凸部46に外嵌されることで配設されている。この潤滑板47の素材としては、可動部材5の摺動を円滑に行わせるに足りる材質ものであればよく、例えばポリアセタール樹脂やシリコン樹脂、或いはナイロン樹脂等が挙げられる。
【0017】
一対の可動部材5,5は、両方とも同一の部材であり、それぞれ一端には手摺部材Hの端部に嵌装可能な略筒状の手摺接合部51を備え、他端には連結部材4の凹面部42に連結される凸面部52を備えている。
【0018】
例示形態では、手摺部材Hの断面形状が円形であり、これに合わせて手摺接合部51も略円筒状に形成されている。手摺接合部51と手摺部材Hとは、
図8に示すように、手摺接合部51の側面2~3ヶ所に配した止めネジ53によって固定される。例示形態では、止めネジ53として丸皿の木ネジが利用され、手摺接合部51の側面に対向して形成された2ヶ所の止めネジ孔54に止め付けられる。
【0019】
凸面部52は、
図2に示すように、略一定の肉厚を有する半球殻状の部位で、その外表面は、連結部材4の凹面部42と略同径の半球状凸面をなし、十分滑らかに仕上げられている。また、凸面部52の内表面は外表面と同心で、やや小径の半球状凹面をなしている。凸面部52と手摺接合部51とは、互いの軸心を合致させて一体的に形成されている。
【0020】
凸面部52には、長孔状の案内孔55が形成され、この案内孔55に前述の係止凸部46が係合される。案内孔55は、凸面部52の中央(半球状凸面を正面から見た円の中心/可動部材5の軸方向における先端に突出した部分)を含んで非対称に、つまり該中央から片側に長く、他側に短く延びるように形成されている。ここで、連結部材4の凹面部42における係止凸部46が矩形の場合、
図3に示すように、案内孔55の両側縁は、係止凸部46の2組の対辺のうちいずれか1組の対辺と摺接することになるので、可動部材5の可動領域を雌ネジ孔45周りに90°変更することができる。すなわち、
図2に示す状態では、案内孔55の両側縁が紙面と平行な係止凸部46の対辺と摺接しているので、可動部材5は紙面と平行する面内で回動するが、案内孔55の両側縁を紙面と直交する係止凸部46の対辺と摺接させると、可動部材5は紙面と直交する面内で回動する。なお、係止凸部46の形状を矩形以外の、例えば六角形や十二角形など対辺が平行な多角形とすれば、可動部材5の可動領域の変更度合いをさらに細かく設定することもできる。
【0021】
上記のようになる可動部材5は、
図2に示すように、その案内孔55を連結部材4の凹面部42の係止凸部46に係合させた状態で、例えば六角穴付きボルトからなる軸部材7を可動部材5の内側からバネ座金71及び球面座金72を介して凸面部52の案内孔55に貫挿し、その脚先を連結部材4の台座部44に形成された雌ネジ孔45に螺入することで、連結部材4の凹面部42に、円弧状に摺動可能に締結される。軸部材7の着脱や締め付け加減の調整は、凸面部52の内面側、すなわち手摺接合部51側から六角レンチ等の工具を挿し入れて行う。ここで、手摺接合部51に手摺部材Hが接合される際、可動部材5は、軸部材7を締め付けることにより所定の向きに位置決めされるが、この状態で手摺接合部51に手摺部材Hの一端部を接合してから手摺部材Hの他端部を持って手摺部材Hを最終的な姿勢にもっていくことで、てこの原理により可動部材5が摺動されてその向きが最終的に確定される。このとき、前述したように、凹面部42には可動部材5との摺動を円滑にするための潤滑板47が配設されているので、軸部材7による締め付けが強くともこのことによって可動部材5の摺動が阻害されることはない。なお、
図3では、軸部材7の図示を省略している。
【0022】
ブラケット6は、両側に可動部材5,5を備えた連結部材4を壁面Wに支持固定するためのものである。このブラケット6は、
図5に示すように、略直角に屈曲されるとともに先端が連結部材4の下面に、バネ座金67が装着されたネジ62で固定される腕杆61と、この腕杆61の外周側開口部63を開閉自在に閉蓋する着脱可能な化粧カバー64と、腕杆61の基端に着脱可能に設けられる壁面取付アダプタ65とから構成されている。
【0023】
壁面取付アダプタ65は、例示のものにあっては、
図9~
図11に示すように、回り階段室の内周側における壁面Wの出隅部Eに取り付けられるので、
図1,3に示すように、壁面Wへの取付面65aが略直角に凹んでいる。これとは逆に、壁面の入隅部に取り付ける場合は、
図12に示すように、取付面65aが外方へ突出された壁面取付アダプタ65が使用される。また、壁面取付アダプタ65の上記取付面65aの反対側は、腕杆61の基端部が嵌入される嵌入部65bとされている。
【0024】
このようになる壁面取付アダプタ65は、
図4に示すように、取付面65aに4箇所に亘って形成されたネジ挿通孔65cを介して、図示しない固定ネジにより壁面Wに固定される。そして、壁面Wに固定された壁面取付アダプタ65の嵌入部65bに腕杆61の基端部が嵌入されるとともに、
図5に示すように、外周側開口部63側から3本のネジ66を螺入することにより、壁面取付アダプタ65と腕杆61とが合体、固定される。
【0025】
角度調整アダプタ3は、
図6及び
図7に示すように、一端に可動部材5の手摺接合部51に着脱可能な嵌着部31が設けられる一方、他端に手摺部材Hの端部を受ける手摺受部32が設けられている。嵌着部31は略筒状に形成されており、その外径は可動部材5の手摺接合部51の内径と略等しくされている。また、嵌着部31の周壁には、2箇所に亘って雌ネジ孔31aが設けられており、可動部材5の手摺接合部51内に嵌着された状態で手摺接合部51の外側から螺入される連結ネジ36がこれら雌ネジ孔31aに螺入されることにより、可動部材5の手摺接合部51に角度調整アダプタ3が連結、一体化される。手摺受部32は、可動部材5の手摺接合部51と同形状に形成されており、その周面には複数箇所に亘ってネジ孔33が形成されている。このネジ孔33は、可動部材5の手摺接合部51に設けられた止めネジ孔54と同形状とされており、手摺部材Hを固定するための止めネジ53を共用することができるようになっている。
【0026】
また、
図7に示すように、角度調整アダプタ3の嵌着部31の軸心31aと直交する開口面34と手摺受部32の軸心32aと直交する開口面35とのなす開口面開き角度βは、本例の場合、45°に設定されている。これによって、可動部材5の可動最大角度も45°に設定されている場合は、連結部材4の軸心4a(
図2参照)に対する手摺部材Hの連結角度が90°になる場合でも対応することが可能となる。なお、可動部材5の可動最大角度及び角度調整アダプタ3の開口面開き角度βは上記した例に限るものではないが、可動部材5の可動最大角度は、45°を超えると案内孔55の端部が連結部材4の開口面41の縁部41aから露出することになるので、45°以下とされる。
【0027】
このようになる角度調整アダプタ3は、連結部材4及び可動部材5と同じ材料で形成され、可動部材5に取り付けられた際に外観が可動部材5と一体化するようになっている。角度調整アダプタ3は、手摺部材Hの連結角度に応じて、両方の可動部材5に取り付けてもよいし何れか一方の可動部材5にのみ取り付けてもよい。
【0028】
図8~
図11は、上記のようになる手摺用自在連結キット1を用いて、回り階段室の内周側の壁面Wに手摺部材Hを取り付ける例を示している。
図8は、手摺用自在連結キット1と手摺部材Hとの接続状態を示す分解斜視図、
図9は、手摺用自在連結キット1を使用して回り階段に手摺部材Hを設置した例を示す斜視図、
図10は、
図9におけるA部及びB部の拡大斜視図、
図11は、
図9に示す設置例の平面図である。
【0029】
この例では、出隅部に手摺用自在連結キット1を取り付け、一対の可動部材5,5のうち一方の可動部材5の手摺接合部51に手摺部材Hの端部を嵌装するとともに、他方の可動部材5の手摺接合部51に取り付けた角度調整アダプタ3にもう一方の手摺部材Hを嵌装することで、回り階段に沿って手摺部材が配設される。
【0030】
なお、上記の実施形態では、連結部材4は、その両側の開口面41の成す角度αが90°とされたエルボとされているが、これに限らず、両側の開口面が平行なストレートとされてもよい。また、手摺部材Hの形状は、断面円形のいわゆる丸棒や管材に限らず、楕円でもその他の形状であってもよい。その場合、可動部材5の手摺接合部51の形状及び角度調整アダプタ3の嵌着部31と手摺受部32の各形状もそれぞれ手摺部材Hの形状に合致した形状とされる。さらに、上記の実施形態では、ブラケット6は、入隅や出隅に対応したものとしているが、平滑な壁面に対応するものであってもよい。また、上記の実施形態では、自在連結具2はブラケット6を備えたものであるが、ブラケット6は必須ではなく、連結部材4と一対の可動部材5,5とから構成されたものでもよく、その場合、例えば、床面に立設された支柱の上端に連結部4が載置固定されるなど、自在連結具2はその連結部材4を介して任意の支持部材に直接取り付けられる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 手摺用自在連結キット
2 自在連結具
3 角度調整アダプタ
31 嵌着部
32 手摺受部
34 嵌着部の開口面
35 手摺受部の開口面
4 連結部材
42 凹面部
5 可動部材
51 手摺接合部
52 凸面部
β 開口面開き角度