(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】マイクロ波プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/30 20060101AFI20220623BHJP
C23C 16/511 20060101ALI20220623BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
H05H1/30
C23C16/511
H01L21/302 101D
(21)【出願番号】P 2018171481
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】593030923
【氏名又は名称】株式会社ニッシン
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】本田 剛
(72)【発明者】
【氏名】坂本 旭
(72)【発明者】
【氏名】小谷 一哉
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-172044(JP,A)
【文献】特開2010-192421(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002590(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/30
C23C 16/511
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波によるプラズマ処理を行うマイクロ波プラズマ処理装置であって、
周波数を可変にして特定の周波数のマイクロ波を発振する半導体発振器と、
当該半導体発振器から発振したマイクロ波を伝送する同軸ケーブルと、
当該同軸ケーブルに電気的に接続された給電線,マイクロ波放射によりプラズマを発生するアンテナ,プラズマ励起ガスを通す誘電体管およびそれらを収容する導体製の筐体からなる共振器と
を備え、
前記給電線と前記アンテナとが物理的に非接触であって、
共振周波数のときのみ前記給電線を介して前記半導体発振器が前記アンテナに磁界結合されるように構成された
マイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ波プラズマ処理装置において、
前記共振器の反射電力を測定する検波器と、
周波数を掃引しながら得られた前記検波器による反射電力の測定結果から、プラズマ着火時の周波数になるように前記半導体発振器を制御する制御手段と
を備えた
マイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載のマイクロ波プラズマ処理装置において、
前記検波器によって反射電力を測定し、プラズマ着火時の反射電力が極小となる周波数になるように前記制御手段は前記半導体発振器を制御する
マイクロ波プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波によるプラズマ処理を行うマイクロ波プラズマ処理装置に係り、特に、大気圧~数Torrの圧力下でプラズマ処理を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のマイクロ波プラズマ処理装置として、大気圧~数Torrの圧力下でプラズマ処理を行う装置がある(例えば、特許文献1~4参照)。特許文献1:特開2008-041495号公報や特許文献2:特開2005-293955号公報では、プラズマ励起ガスをトーチ内の誘電体管に通して、例えば2.45GHzのマイクロ波をトーチ内のアンテナに供給し、アンテナの先端におけるマイクロ波放射によりプラズマ励起ガスが励起されてプラズマを発生する。一方、特許文献3:特開2009-032545号公報や特許文献4:特開2013-165064号公報では、アンテナをトーチの外部に露出して設け、プラズマ励起ガスをアンテナの露出端部に向けて吐出して、当該露出端部にてプラズマを発生する。
【0003】
また、ラジアルラインスロットアンテナのスロット板と同軸導波管の内部導体に取り付けられたテーパー状のコネクタ部(すなわち給電線)とが非接触の状態であって、テーパー状のコネクタ部とスロット板とを弾性体によって電気的に接続するマイクロ波プラズマ処理装置がある(例えば、特許文献5参照)。特許文献5の装置によれば、テーパー状のコネクタ部とスロット板とが非接触の状態であるので、熱膨張によるコネクタ部の上方への変位を弾性体が吸収しながら、当該コネクタ部とスロット板とを電気的に接続し、昇温後であってもコネクタの下面とスロット板の遅波板の下面とは同一面内に位置付けられる(段落番号「0014」,「0025」,「0056」を参照)。これにより、空隙が変動せず、マイクロ波のモードを安定させ、プラズマを均一に生成することができる(同段落番号を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-041495号公報
【文献】特開2005-293955号公報
【文献】特開2009-032545号公報
【文献】特開2013-165064号公報
【文献】特開2010-027601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、特許文献1~4の装置は、給電線とアンテナとが繋がっているので、各部品において熱膨張による変位が生じる。その結果、特許文献5の段落番号「0010」にも記載されているように、マイクロ波のモードが不安定になり、プラズマの不均一を招く。特許文献5の装置は、給電線とアンテナとが物理的に非接触であるので、熱膨張による変位を弾性体が吸収することができる。しかし、特許文献5の装置では、弾性体を介して給電線とアンテナとを電気的に接続するので、必ず弾性体を設けなければならず、装置が製作しにくくなるという主たる課題がある。
【0006】
また、主たる課題とは別に、プラズマ着火時の周波数は、アンテナの形状や、プラズマ励起ガスを通す誘電体管の形状や、プラズマ励起ガスの種類や、プラズマ励起ガスの供給量や、アンテナ周辺の温度によって変化するという課題もある。したがって、適切な周波数でないとプラズマが発生しなくなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、熱膨張による変位が生じたとしても、プラズマの均一生成が可能な装置を容易に製作することができるマイクロ波プラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係るマイクロ波プラズマ処理装置は、マイクロ波によるプラズマ処理を行うマイクロ波プラズマ処理装置であって、周波数を可変にして特定の周波数のマイクロ波を発振する半導体発振器と、当該半導体発振器から発振したマイクロ波を伝送する同軸ケーブルと、当該同軸ケーブルに電気的に接続された給電線,マイクロ波放射によりプラズマを発生するアンテナ,プラズマ励起ガスを通す誘電体管およびそれらを収容する導体製の筐体からなる共振器とを備え、前記給電線と前記アンテナとが物理的に非接触であって、共振周波数のときのみ前記給電線を介して前記半導体発振器が前記アンテナに磁界結合されるように構成されたものである。
【0009】
[作用・効果]本発明に係るマイクロ波プラズマ処理装置によれば、周波数を可変にして特定の周波数のマイクロ波を発振する半導体発振器を備えている。(半導体発振器から発振したマイクロ波を伝送する同軸ケーブルに電気的に接続された)給電線と(マイクロ波放射によりプラズマを発生する)アンテナとが物理的に非接触である。また、共振周波数のときのみ給電線を介して半導体発振器がアンテナに磁界結合されるように構成されている。給電線とアンテナとが物理的に非接触であるので、熱膨張による変位が生じたとしても、プラズマを均一に生成することができる。共振周波数のときのみ給電線を介して半導体発振器がアンテナに磁界結合されるように構成されているので、弾性体を設ける必要がなく装置を容易に製作することができる。その結果、熱膨張による変位が生じたとしても、プラズマの均一生成が可能な装置を容易に製作することができる。
【0010】
本発明に係るマイクロ波プラズマ処理装置において、共振器の反射電力を測定する検波器と、周波数を掃引しながら得られた検波器による反射電力の測定結果から、プラズマ着火時の周波数になるように半導体発振器を制御する制御手段とを備えるのが好ましい。共振周波数から離れた周波数のマイクロ波を発振した場合、マイクロ波のほとんどが反射電力となりプラズマを発生することができない。
【0011】
そこで、周波数を掃引しながら得られた検波器による反射電力の測定結果から、プラズマ着火時の周波数になるように半導体発振器を制御することで、プラズマ着火時の周波数においてプラズマを発生することができる。したがって、内部の環境(アンテナの形状や、プラズマ励起ガスを通す誘電体管の形状や、プラズマ励起ガスの種類や、プラズマ励起ガスの供給量や、アンテナ周辺の温度)に左右されずにプラズマを発生することができる。
【0012】
図5に示すように、プラズマ着火時の周波数が変化する。また、
図6に示すように、ユーザが予め設定した閾値Thに応じてプラズマ着火時の周波数の範囲(a)は変動する。このように、閾値Thよりも低い反射電力での周波数をプラズマ着火時の周波数とすることができる。閾値Thが高くなるのにしたがってプラズマ着火時の周波数の範囲(a)は広くなり、閾値Thが低くなるのにしたがってプラズマ着火時の周波数の範囲(a)は狭くなる。
【0013】
よって、検波器によって反射電力を測定し、プラズマ着火時の反射電力が極小となる周波数になるように制御手段は半導体発振器を制御するのがより一層好ましい。プラズマ着火時の反射電力が極小となる周波数(すなわち、共振周波数)では、マイクロ波のほとんどがプラズマ点灯に用いられるので、効率良くプラズマを最大限に発生することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るマイクロ波プラズマ処理装置によれば、給電線とアンテナとが物理的に非接触であるので、熱膨張による変位が生じたとしても、プラズマを均一に生成することができる。共振周波数のときのみ給電線を介して半導体発振器がアンテナに磁界結合されるように構成されているので、弾性体を設ける必要がなく装置を容易に製作することができる。その結果、熱膨張による変位が生じたとしても、プラズマの均一生成が可能な装置を容易に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例に係るマイクロ波プラズマ処理装置の概略図である。
【
図2】放電管を十字型に開口したときの共振器の概略図であって、(a)は共振器の平面図、(b)は(a)のA-A矢視断面図である。
【
図3】放電管を楕円形状に開口し、アンテナの先端を楕円形状としたときの共振器の概略図であって、(a)は共振器の平面図、(b)は(a)のB-B矢視断面図である。
【
図4】放電管を楕円形状に開口し、アンテナの先端を楕円形状としたときの共振器を複数並べたライン型マイクロ波プラズマ処理装置の平面図である。
【
図5】周波数を変化させたときの電力強度のシミュレーション結果である。
【
図6】プラズマ着火時の周波数の範囲の説明に供する、周波数を変化させたときの電力強度の模式図である。
【実施例】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は、実施例に係るマイクロ波プラズマ処理装置の概略図であり、
図2は、放電管を十字型に開口したときの共振器の概略図であって、
図2(a)は、共振器の平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)のA-A矢視断面図であり、
図3は、放電管を楕円形状に開口し、アンテナの先端を楕円形状としたときの共振器の概略図であって、
図3(a)は、共振器の平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のB-B矢視断面図であり、
図4は、放電管を楕円形状に開口し、アンテナの先端を楕円形状としたときの共振器を複数並べたライン型マイクロ波プラズマ処理装置の平面図である。なお、
図1では、同軸コネクタを除く共振器のみ断面図で図示する。
【0017】
マイクロ波プラズマ処理装置1は、
図1に示すように、半導体発振器2と同軸ケーブル3と共振器4と検波器5とコントローラ6とを備えている。共振器4は、給電線41とアンテナ42と放電管43と外部導体44と同軸コネクタ45とを備えている。外部導体44は導体製の筐体であって、給電線41,アンテナ42および放電管43を収容している。放電管43は、本発明における誘電体管に相当し、外部導体44は、本発明における導体製の筐体に相当し、コントローラ6は、本発明における制御手段に相当する。
【0018】
半導体発振器2は、周波数を可変にして特定の周波数のマイクロ波を発振する。本実施例では、半導体発振器2は、2.45GHzを中心とした2.4GHz~2.5GHzの範囲で周波数を変化させてマイクロ波を発振する。単体で周波数変調を行うのが困難なマグネトロン(magnetron)と異なり、半導体発振器の場合には周波数変調を行うことができる。
【0019】
同軸ケーブル3は、半導体発振器2から発振したマイクロ波を伝送する。同軸ケーブル3と共振器4の給電線41とを共振器4の同軸コネクタ45によって電気的に接続することで、給電線41は同軸ケーブル3に電気的に接続されている。
【0020】
共振器4のアンテナ42は、マイクロ波放射によりプラズマを発生する。アンテナ42は、共振器4の放電管43に収容されている。また、給電線41とアンテナ42とが物理的に非接触となるようにそれぞれが設置されている。後述するように、共振周波数のときのみ給電線41を介して半導体発振器2がアンテナ42に磁界結合されている。よって、磁界結合が有効に発揮されるのは、給電線41とアンテナ42との距離が数mm程度である。給電線41とアンテナ42との距離が数mmよりも長くなると、磁界結合し難くなる。
【0021】
共振器4の放電管43は、プラズマ励起ガスを通す誘電体管で構成されている。放電管43は、ガス導入口43aに接続されている。このガス導入口43aからプラズマ励起ガスを導入することにより、プラズマ励起ガスを放電管43に通す。共振器4の外部導体44は、円筒形である。
【0022】
上述したように、給電線41とアンテナ42とが物理的に非接触であって、共振周波数のときのみ給電線41を介して半導体発振器2がアンテナ42に磁界結合されている。したがって、給電線41とアンテナ42とが物理的に非接触であっても、共振周波数のときに半導体発振器2から発振したマイクロ波を、アンテナ42に伝送することができる。その結果、給電線41とアンテナ42とが物理的に非接触であっても、共振周波数のときにアンテナ42でのマイクロ波放射によりプラズマを発生することができる。
【0023】
また、検波器5は、半導体発振器2に電気的に接続されており、共振器4の反射電力を検波器5が測定する。検波器5は、コントローラ6にも電気的に接続されている。したがって、周波数を掃引しながら得られた検波器5による反射電力の測定結果を、コントローラ6を介して、モニタ(図示省略)に表示したり、RAM(Random Access Memory)などに代表される記憶媒体(図示省略)に書き込んで記憶することができる。
【0024】
コントローラ6は、半導体発振器2に電気的に接続されている。コントローラ6から電力や周波数制御信号を半導体発振器2に送り込むことによって、任意の振幅(電力)を有したマイクロ波や任意の周波数のマイクロ波を半導体発振器2が発振するようにコントローラ6は制御する。したがって、半導体発振器2から周波数を掃引しながら各々のマイクロ波をそれぞれに発振するようにコントローラ6は制御することができる。コントローラ6は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。
【0025】
ここで、アンテナ42や放電管43の形状については、
図1に限定されない。
例えば、
図2に示すように放電管43を十字型に開口してもよい。
図2の場合には、十字型の開口を通して、アンテナ42から発生したプラズマを十字形状にすることができる。また、
図3に示すように放電管43を楕円形状に開口し、アンテナ42の先端を楕円形状としてもよい。
図3の場合には、アンテナ42の楕円形状の先端から発生したプラズマを、楕円形状の開口を通して楕円形状にすることができる。
【0026】
また、
図4に示すように共振器4の外部導体44を直方体とし、
図3と同様に放電管43を楕円形状に開口し、アンテナ42の先端を楕円形状とし、共振器4を複数並べてもよい。
図4の場合には、直方体の外部導体44からなる共振器4を複数並べることにより、各アンテナ42から発生したプラズマをライン形状にすることができる。
【0027】
次に、周波数の変化によるプラズマ発生の制御について、
図5および
図6を参照して説明する。
図5は、周波数を変化させたときの電力強度のシミュレーション結果であり、
図6は、プラズマ着火時の周波数の範囲の説明に供する、周波数を変化させたときの電力強度の模式図である。
【0028】
半導体発振器2(
図1を参照)から、2.45GHzを中心とした2.4GHz~2.5GHzの範囲で周波数を変化させてマイクロ波を発振するように、コントローラ6(
図1を参照)は半導体発振器2に各々の周波数制御信号を送り込んで、半導体発振器2を制御する。そして、半導体発振器2は2.4GHz~2.5GHzの範囲で周波数を掃引しながら、各々の周波数毎に共振器4(
図1を参照)の反射電力を検波器5(
図1を参照)が測定する。2.4GHz~2.5GHzの範囲で周波数を掃引しながら得られた検波器5による反射電力の測定結果は、
図5に示す通りである。
【0029】
ここで、
図5は、円筒形の共振器4(
図1を参照)の外部導体44(
図1を参照)をモデル化して、模擬プラズマを設定したとき(
図5の「プラズマ有り:A」を参照),模擬プラズマを設定しなかったとき(
図5の「プラズマ無し:B」を参照)それぞれにおける、周波数を変化させたときの電力強度のシミュレーション結果であるが、実際にプラズマを点灯させたときも、
図5と同様の結果になることに留意されたい。
図5の横軸は周波数であって、
図5の縦軸は電力強度[dB]である。電力強度[dB]は、底が10である対数(すなわち常用対数)で、入射電力に対する反射電力の比率をデシベル計算したものであって、10×log
10(反射電力/入射電力)で電力強度[dB]を表すことができる。
【0030】
「課題を解決するための手段」の欄でも述べたように、共振周波数から離れた周波数のマイクロ波を発振した場合、マイクロ波のほとんどが反射電力となりプラズマを発生することができない。したがって、共振周波数から離れた周波数のマイクロ波を発振した場合には、反射電力/入射電力=1であるので、0[dB]である。そして、周波数が共振周波数に近づくにしたがって、反射電力/入射電力が1よりも小さくなって、電力強度[dB]も小さくなる。
【0031】
以上の理由により、共振周波数のときに反射電力が極小となって、電力強度[dB]も極小となる。共振周波数のときに反射電力が極小となる理由は、共振周波数のときにマイクロ波のほとんどがプラズマ点灯に用いられるからである。「課題を解決するための手段」の欄でも述べたように、プラズマ着火時の周波数が変化する。
【0032】
このことから、効率良くプラズマを最大限に発生するためには、周波数を掃引しながら得られた検波器5による反射電力の測定結果において、プラズマ着火時の反射電力が極小となる周波数(すなわち、共振周波数)になるように、コントローラ6は半導体発振器2を制御するのが最も好ましい。しかし、ユーザの設定に応じて、必ずしも共振周波数になるように制御する必要はない。
図6に示すように、電力強度[dB]が、ユーザが予め設定した閾値Thよりも低ければ、プラズマ点灯として用いるのに十分であるとして、閾値Thよりも低い反射電力での周波数をプラズマ着火時の周波数とすることができる。
【0033】
本実施例に係るマイクロ波プラズマ処理装置1によれば、周波数を可変にして特定の周波数(本実施例では2.45GHzを中心とした2.4GHz~2.5GHzの範囲)のマイクロ波を発振する半導体発振器2を備えている。(半導体発振器2から発振したマイクロ波を伝送する同軸ケーブル3に電気的に接続された)給電線41と(マイクロ波放射によりプラズマを発生する)アンテナ42とが物理的に非接触である。また、共振周波数のときのみ給電線41を介して半導体発振器2がアンテナ42に磁界結合されるように構成されている。給電線41とアンテナ42とが物理的に非接触であるので、熱膨張による変位が生じたとしても、プラズマを均一に生成することができる。共振周波数のときのみ給電線41を介して半導体発振器2がアンテナ42に磁界結合されるように構成されているので、弾性体を設ける必要がなく装置を容易に製作することができる。その結果、熱膨張による変位が生じたとしても、プラズマの均一生成が可能な装置を容易に製作することができる。
【0034】
上記の効果以外に、本実施例では下記のような効果をも奏する。
・放電管43からのプラズマ噴出(プラズマジェット)の強度を、電力だけでなく、アンテナ42の共振特性を利用して半導体発振器2の周波数調整により変化させることができる。
・発熱による損傷が少ない。発熱は主にアンテナ42の先端部であるが、放電管43の内部とアンテナ42との間の空間に対してプラズマ励起ガスを流しているので、当該プラズマ励起ガスの吹き付けによって冷却することが可能である。
・長時間のプラズマの点灯が可能である。なお、10分程度のプラズマ点灯の実績が確認されている。
・共振器4におけるリアクタ(reactor)内部(主に給電線41やアンテナ42や放電管43)も簡易な構成であるので、装置のメンテナンス性に優れている。給電線41とアンテナ42とが物理的に非接触であることによる非接触給電の場合、各部品(給電線41,アンテナ42,放電管43)が分解可能な構造であり、各部品の交換が容易である。
・放電管43の開口部を直径1mm(Φ1mm)以下にすると、Φ1mm以下のプラズマを発生することができる。したがって、ブラインド・ビア・ホール(BVH: Blind Via Hole)やスルーホール・ビア(THV: Through Hole Via)のような基板加工時に発生するスミア除去や樹脂材の切断加工時に発生するバリ取りなど微小な領域に対する処理に活用することができる。
ここで、「スミア」とは、多層基板のドリル工程で、樹脂が溶けてスルホール内部に付着したものである。スミアを除去せずにそのままスルーホールメッキをすると表層と内層パターンとの導通がとれなくなる。そこで、メッキ前にスミア除去を行う。「バリ取り」とは、樹脂や金属の加工時に発生する不要な突起を研磨する作業のことである。
【0035】
本実施例において、マイクロ波プラズマ処理装置1は、共振器4の反射電力を測定する検波器5と、周波数を掃引しながら得られた検波器5による反射電力の測定結果から、プラズマ着火時の周波数になるように半導体発振器2を制御する制御手段(本実施例ではコントローラ6)とを備えるのが好ましい。上述したように、共振周波数から離れた周波数のマイクロ波を発振した場合、マイクロ波のほとんどが反射電力となりプラズマを発生することができない。
【0036】
そこで、周波数を掃引しながら得られた検波器5による反射電力の測定結果から、プラズマ着火時の周波数になるように半導体発振器2を制御することで、プラズマ着火時の周波数においてプラズマを発生することができる。したがって、内部の環境(アンテナ42の形状や、プラズマ励起ガスを通す誘電体管で構成された放電管43の形状や、プラズマ励起ガスの種類や、プラズマ励起ガスの供給量や、アンテナ42周辺の温度)に左右されずにプラズマを発生することができる。
【0037】
上述したように、プラズマ着火時の周波数が変化する(
図5の「プラズマ有り:A」および「プラズマ無し:B」を参照)。また、
図6に示すように、ユーザが予め設定した閾値Thに応じてプラズマ着火時の周波数の範囲(a)は変動する。このように、閾値Thよりも低い反射電力での周波数をプラズマ着火時の周波数とすることができる。閾値Thが高くなるのにしたがってプラズマ着火時の周波数の範囲(a)は広くなり、閾値Thが低くなるのにしたがってプラズマ着火時の周波数の範囲(a)は狭くなる。
【0038】
よって、検波器5によって反射電力を測定し、プラズマ着火時の反射電力が極小となる周波数になるように制御手段(コントローラ6)は半導体発振器2を制御するのがより一層好ましい。プラズマ着火時の反射電力が極小となる周波数(すなわち、共振周波数)では、マイクロ波のほとんどがプラズマ点灯に用いられるので、効率良くプラズマを最大限に発生することができる。
【0039】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0040】
(1)上述した実施例では、2.45GHzを中心とした2.4GHz~2.5GHzの範囲で周波数を変化させてマイクロ波を発振したが、一般的にマイクロ波の周波数は、300MHz~300GHzの範囲で、マイクロ波プラズマ処理に用いられるマイクロ波の周波数は、1GHz~30GHzの範囲である。よって、上記の範囲(1GHz~30GHzの範囲)であれば、マイクロ波の周波数については、特に限定されない。
【0041】
(2)マイクロ波プラズマ処理であれば、アッシングやエッチングなどの表面改質処理や、表面成膜処理等に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明は、アッシングやエッチングなどの表面改質処理や、表面成膜処理等に適している。
【符号の説明】
【0043】
1 … マイクロ波プラズマ処理装置
2 … 半導体発振器
3 … 同軸ケーブル
4 … 共振器
41 … 給電線
42 … アンテナ
43 … 放電管
44 … 外部導体
5 … 検波器
6 … コントローラ