(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】潤滑剤及びその製造方法、潤滑剤用品、潤滑剤エアゾール、潤滑剤付き部材及び潤滑剤付き可動部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 103/02 20060101AFI20220623BHJP
C10M 103/04 20060101ALI20220623BHJP
C10M 103/06 20060101ALI20220623BHJP
C10M 107/28 20060101ALI20220623BHJP
C10N 50/04 20060101ALN20220623BHJP
【FI】
C10M103/02 Z
C10M103/04
C10M103/06 F
C10M103/06 E
C10M103/06 D
C10M107/28
C10N50:04
(21)【出願番号】P 2018516364
(86)(22)【出願日】2017-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2017009113
(87)【国際公開番号】W WO2017195449
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2016096357
(32)【優先日】2016-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520062801
【氏名又は名称】株式会社ユーパテンター
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】本多 祐二
(72)【発明者】
【氏名】三上 由佳利
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-321978(JP,A)
【文献】特開2003-028174(JP,A)
【文献】特開2003-193084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 171/06
C10M 103/04
C10M 103/02
C10M 103/06
C10N 20/06
C10N 30/06
C10N 40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤及び微粒子を有
し、且つ油を含まない潤滑剤であり、
前記微粒子は、粒子と、前記粒子を被覆するDLC膜を有し、
前記粒子は、樹脂又は鉱物を含み、
前記DLC膜は、0.4以下の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤。
【請求項2】
請求項1において、
前記樹脂は、PMMA(Polymethyl methacrylate)であり、
前記鉱物は、マイカ又はアパタイトであることを特徴とする潤滑剤。
【請求項3】
溶剤及び微粒子を有
し、且つ油を含まない潤滑剤であり、
前記微粒子は、銀粒子と、前記銀粒子を被覆するSiを含む物質を含む膜と、前記Siを含む物質を含む膜を被覆するDLC膜を有し、
前記DLC膜は、0.4以下の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項において、
前記微粒子の表面の水の接触角は60°以上であることを特徴とする潤滑剤。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一項において、
前記微粒子の粒径は100μm以下であることを特徴とする潤滑剤。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の潤滑剤と、
前記潤滑剤を収容する容器と、
を具備することを特徴とする潤滑剤用品。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の潤滑剤と、有機溶剤と、噴射剤を充填した噴射容器を有し、
前記有機溶剤は沸点が40℃以上であることを特徴とする潤滑剤エアゾール。
【請求項8】
可動部材と、
前記可動部材の表面に付着した
油を含まない溶剤及び微粒子
を有する潤滑剤と、
を具備し、
前記微粒子は、粒子と、前記粒子を被覆するDLC膜を有し、
前記粒子は、樹脂又は鉱物を含み、
前記DLC膜は、0.4以下の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤付き部材。
【請求項9】
請求項
8において、
前記樹脂は、PMMA(Polymethyl methacrylate)であり、
前記鉱物は、マイカ又はアパタイトであることを特徴とする潤滑剤付き部材。
【請求項10】
可動部材と、
前記可動部材の表面に付着した
油を含まない溶剤及び微粒子
を有する潤滑剤と、
を具備し、
前記微粒子は、銀粒子と、前記銀粒子を被覆するSiを含む物質を含む膜と、前記Siを含む物質を含む膜を被覆するDLC膜を有し、
前記DLC膜は、0.4以下の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤付き部材。
【請求項11】
溶剤及び微粒子を有
し、且つ油を含まない潤滑剤を用意し、
第1の可動部材と第2の可動部材を互いに接触させて動かしながら、前記潤滑剤を前記第1の可動部材と前記第2の可動部材との接触部に供給することで、前記第1の可動部材及び前記第2の可動部材それぞれの表面に前記微粒子を付着させ、
前記微粒子は、粒子と、前記粒子を被覆するDLC膜を有し、
前記粒子は、樹脂又は鉱物を含み、
前記DLC膜は、0.4以下の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤付き可動部材の製造方法。
【請求項12】
請求項
11において、
前記樹脂は、PMMA(Polymethyl methacrylate)であり、
前記鉱物は、マイカ又はアパタイトであることを特徴とする潤滑剤付き可動部材の製造方法。
【請求項13】
溶剤及び微粒子を有
し、且つ油を含まない潤滑剤を用意し、
第1の可動部材と第2の可動部材を互いに接触させて動かしながら、前記潤滑剤を前記第1の可動部材と前記第2の可動部材との接触部に供給することで、前記第1の可動部材及び前記第2の可動部材それぞれの表面に前記微粒子を付着させ、
前記微粒子は、銀粒子と、前記銀粒子を被覆するSiを含む物質を含む膜と、前記Siを含む物質を含む膜を被覆するDLC膜を有し、
前記DLC膜は、0.4以下の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤付き可動部材の製造方法。
【請求項14】
請求項
11乃至
13のいずれか一項において、
前記第1の可動部材及び前記第2の可動部材それぞれの表面に付着した前記微粒子が潰されていることを特徴とする潤滑剤付き可動部材の製造方法。
【請求項15】
断面の内部形状が円形または多角形であるチャンバー内に粒子を収容し、
前記チャンバーの内面に対向させた対向電極を前記チャンバー内に配置し、
前記チャンバーにアースを接続し、
前記チャンバー内を真空排気し、
前記断面に対して略垂直方向を回転軸として前記チャンバーを回転又は振り子動作させ、
前記チャンバー内に原料ガスを導入し、
前記対向電極に高周波電力を供給することにより、前記チャンバー内の粒子を攪拌あるいは回転させながらプラズマCVD法により、該粒子の表面にDLC膜を被覆することで微粒子を作製し、
油を含まない溶剤と前記微粒子とを混合し、
前記DLC膜は、0.4以下の摩擦係数を有し、
前記粒子は、樹脂又は鉱物を含むことを特徴とする潤滑剤の製造方法。
【請求項16】
請求項
15において、
前記樹脂は、PMMA(Polymethyl methacrylate)であり、
前記鉱物は、マイカ又はアパタイトであることを特徴とする潤滑剤の製造方法。
【請求項17】
断面の内部形状が円形または多角形であるチャンバー内に銀粒子を収容し、
前記チャンバーの内面に対向させた対向電極を前記チャンバー内に配置し、
前記チャンバーにアースを接続し、
前記チャンバー内を真空排気し、
前記断面に対して略垂直方向を回転軸として前記チャンバーを回転又は振り子動作させ、
前記チャンバー内に第1の原料ガスを導入し、
前記対向電極に高周波電力を供給することにより、前記チャンバー内の銀粒子を攪拌あるいは回転させながらプラズマCVD法により、該銀粒子の表面にSiを含む物質を含む膜を被覆し、
前記第1の原料ガスの前記チャンバー内への導入を停止し、
前記チャンバー内に第2の原料ガスを導入し、
前記対向電極に高周波電力を供給することにより、前記チャンバー内の前記銀粒子を攪拌あるいは回転させながらプラズマCVD法により、該銀粒子の前記Siを含む物質を含む膜の表面にDLC膜を被覆することで微粒子を作製し、
油を含まない溶剤と前記微粒子とを混合し、
前記DLC膜は、0.4以下の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤の製造方法。
【請求項18】
請求項
15乃至
17のいずれか一項において、
前記微粒子の表面の水の接触角は60°以上であることを特徴とする潤滑剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤及びその製造方法、潤滑剤用品、潤滑剤エアゾール、潤滑剤付き部材及び潤滑剤付き可動部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品等の可動部材(例えば歯車等)の表面にDLC(Diamond Like Carbon)膜を成膜することで、可動部材(例えば歯車)が他の可動部材(例えば歯車)と接触する接触部の摩擦を低減させる技術がある。
上記の可動部材の表面にDLC膜を成膜するには、プラズマCVD装置の真空チャンバー内に可動部材を導入し、その真空チャンバー内で可動部材にDLC膜を成膜する処理を行う方法がある(例えば特許文献1参照)。
しかし、被成膜物である可動部材が非常に大きい場合(例えば非常に大きい歯車にDLC膜を成膜する場合)、プラズマCVD装置の真空チャンバーに可動部材を導入することができないため、その可動部材の表面にDLC膜を成膜することができないことがある。
また、被成膜物が小さくても、プラズマCVD装置を用いてDLC膜を成膜するより簡易な方法で、可動部材の表面に潤滑剤を付着させることも産業界から求められている。
また、可動部材の表面に付着させる潤滑剤に油が含まれていると、油がミストとなって飛んでしまうので、半導体工場や食品工場などのクリーンルームでは使用することができない。他にも、銅や真鍮等で電極用の部品や導電性が必要な部品を成型する際は、油を有する潤滑剤を使用すると導電性が低下してしまうため、成形品に付着した油を脱脂する工程が必要となっている。そのため、様々な分野で油を含まない潤滑剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一態様は、部材の表面に簡易に付着させることができる潤滑剤及びその製造方法、潤滑剤用品、潤滑剤エアゾールのいずれかを提供することを課題とする。
また、本発明の一態様は、表面に潤滑剤を付着させた潤滑剤付き部材または潤滑剤付き可動部材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下に、本発明の種々の態様について説明する。
[1]微粒子を有する潤滑剤であり、
前記微粒子は、粒子と、前記粒子を被覆する第1の膜または物質を有し、
前記第1の膜または物質は、0.4以下の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤。
[2]微粒子を有する潤滑剤であり、
前記微粒子は、粒子と、前記粒子を被覆する第2の膜と、前記第2の膜を被覆する第1の膜または物質を有し、
前記第1の膜または物質は、0.4以下の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤。
[3]上記[2]において、
前記第2の膜は、0.4以下の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤。
[4]上記[1]乃至[3]のいずれか一項において、
前記第1の膜または物質は、0.05以上0.3以下(好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤。
[4-1]上記[3]において、
前記第2の膜または物質は、0.05以上0.3以下(好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤。
[5]上記[1]乃至[4]、[4-1]のいずれか一項において、
前記微粒子の表面の水の接触角は60°以上であることを特徴とする潤滑剤。
[6]上記[1]乃至[4]、[4-1]、[5]のいずれか一項において、
前記粒子は、金属、セラミックス、樹脂及び鉱物からなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする潤滑剤。
[7]上記[1]乃至[4]、[4-1]、[5]、[6]のいずれか一項において、
前記粒子及び前記第1の膜の少なくとも一方が250℃以上の耐熱性を有することを特徴とする潤滑剤。
[8]上記[2]または[3]において、
前記粒子、前記第1の膜及び前記第2の膜のうち少なくとも一つが250℃以上の耐熱性を有することを特徴とする潤滑剤。
[9]上記[1]乃至[4]、[4-1]、[5]乃至[8]のいずれか一項において、
前記粒子は0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有する物質を含むことを特徴とする潤滑剤。
[10]上記[1]乃至[4]、[4-1]、[5]乃至[8]のいずれか一項において、
前記粒子は、銀、インジウム、スズ、テルル、アンチモン及びビスマスからなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする潤滑剤。
[11]上記[1]乃至[4]、[4-1]、[5]乃至[10]のいずれか一項において、
前記第1の膜または物質は、銀、インジウム、スズ、テルル、アンチモン、ビスマス、DLC、グラファイト、BN、BC、WBN、CrN、TiN、二硫化モリブデン及び二硫化タングステンからなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする潤滑剤。
[12]上記[2]、[3]及び[8]のいずれか一項において、
前記第2の膜は、銀、インジウム、スズ、テルル、アンチモン、ビスマス、DLC、グラファイト、BN、BC、WBN、CrN、TiN、二硫化モリブデン、二硫化タングステン及びSiを含む物質からなる群から選択された少なくとも一つを含み、前記第1の膜とは異なる膜であることを特徴とする潤滑剤。
[13]上記[1]乃至[4]、[4-1]、[5]乃至[12]のいずれか一項において、
前記潤滑剤は、溶剤を含むことを特徴とする潤滑剤。
なお、前記溶剤は、炭酸水素系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、グリコール系、グリコールエステル系、グリコエーテル系、グライム系、ハロゲン系、特殊溶剤等の群から選択された少なくとも一つを含むとよい。
[14]上記[1]乃至[4]、[4-1]、[5]乃至[13]のいずれか一項において、
前記微粒子の粒径は100μm以下であることを特徴とする潤滑剤。
[15]上記[1]乃至[4]、[4-1]、[5]乃至[14]のいずれか一項において、
前記潤滑剤を収容する容器と、
を具備することを特徴とする潤滑剤用品。
[16]上記[1]乃至[4]、[4-1]、[5]乃至[14]のいずれか一項に記載の潤滑剤と、有機溶剤と、噴射剤を充填した噴射容器を有し、
前記有機溶剤は沸点が40℃以上であることを特徴とする潤滑剤エアゾール。
[17]可動部材と、
前記可動部材の表面に付着した微粒子と、
を具備し、
前記微粒子は、粒子と、前記粒子を被覆する第1の膜または物質を有し、
前記第1の膜または物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤付き部材。
[18]可動部材と、
前記可動部材の表面に付着した微粒子と、
を具備し、
前記微粒子は、粒子と、前記粒子を被覆する第2の膜と、前記第2の膜を被覆する第1の膜または物質を有し、
前記第1の膜または物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤付き部材。
[19]上記[18]において、
前記第2の膜は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤付き部材。
[19-1]
上記[17]乃至[19]のいずれか一項において、
前記微粒子の表面の水の接触角は60°以上であることを特徴とする潤滑剤付き部材。
[19-2]
上記[17]乃至[19]、[19-1]のいずれか一項において、
前記粒子は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有する物質を含むことを特徴とする潤滑剤付き部材。
[19-3]
上記[17]乃至[19]、[19-1]、[19-2]のいずれか一項において、
前記可動部材の表面に付着した前記微粒子が潰されていることを特徴とする潤滑剤付き部材。
[20]微粒子を有する潤滑剤を用意し、
第1の可動部材と第2の可動部材を互いに接触させて動かしながら、前記潤滑剤を前記第1の可動部材と前記第2の可動部材との接触部に供給することで、前記第1の可動部材及び前記第2の可動部材それぞれの表面に前記微粒子を付着させ、
前記微粒子は、粒子と、前記粒子を被覆する第1の膜または物質を有し、
前記第1の膜または物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤付き可動部材の製造方法。
[21]微粒子を有する潤滑剤を用意し、
第1の可動部材と第2の可動部材を互いに接触させて動かしながら、前記潤滑剤を前記第1の可動部材と前記第2の可動部材との接触部に供給することで、前記第1の可動部材及び前記第2の可動部材それぞれの表面に前記微粒子を付着させ、
前記微粒子は、粒子と、前記粒子を被覆する第2の膜と、前記第2の膜を被覆する第1の膜または物質を有し、
前記第1の膜または物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤付き可動部材の製造方法。
[22]上記[21]において、
前記第2の膜は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤付き可動部材の製造方法。
[22-1]
上記[20]乃至[22]のいずれか一項において、
前記微粒子の表面の水の接触角は60°以上であることを特徴とする潤滑剤付き可動部材の製造方法。
[22-2]
上記[20]乃至[22]、[22-1]のいずれか一項において、
前記粒子は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有する物質を含むことを特徴とする潤滑剤付き可動部材の製造方法。
[23]上記[20]乃至[22]、[22-1]、[22-2]において、
前記第1の可動部材及び前記第2の可動部材それぞれの表面に付着した前記微粒子が潰されていることを特徴とする潤滑剤付き可動部材の製造方法。
[24]断面の内部形状が円形または多角形であるチャンバー内に粒子を収容し、
前記チャンバーの内面に対向させた対向電極を前記チャンバー内に配置し、
前記チャンバーにアースを接続し、
前記チャンバー内を真空排気し、
前記断面に対して略垂直方向を回転軸として前記チャンバーを回転又は振り子動作させ、
前記チャンバー内に原料ガスを導入し、
前記対向電極に高周波電力を供給することにより、前記チャンバー内の粒子を攪拌あるいは回転させながらプラズマCVD法により、該粒子の表面に第1の膜または物質を被覆することで微粒子を作製し、
溶剤と前記微粒子とを混合し、
前記第1の膜または物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤の製造方法。
[25]断面の内部形状が円形または多角形であるチャンバー内に粒子を収容し、
前記チャンバーの内面に対向させた対向電極を前記チャンバー内に配置し、
前記チャンバーにアースを接続し、
前記チャンバー内を真空排気し、
前記断面に対して略垂直方向を回転軸として前記チャンバーを回転又は振り子動作させ、
前記チャンバー内に第1の原料ガスを導入し、
前記対向電極に高周波電力を供給することにより、前記チャンバー内の粒子を攪拌あるいは回転させながらプラズマCVD法により、該粒子の表面に第2の膜を被覆し、
前記第1の原料ガスの前記チャンバー内への導入を停止し、
前記チャンバー内に第2の原料ガスを導入し、
前記対向電極に高周波電力を供給することにより、前記チャンバー内の前記粒子を攪拌あるいは回転させながらプラズマCVD法により、該粒子の前記第2の膜の表面に第1の膜または物質を被覆することで微粒子を作製し、
溶剤と前記微粒子とを混合し、
前記第1の膜または物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有し、
前記第2の膜は、0.4以下(好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤の製造方法。
[26]重力方向に対してほぼ平行な断面の内部形状が多角形である真空容器内に粒子を収容し、
前記断面に対してほぼ垂直方向を回転軸として前記真空容器を回転させることにより該真空容器内の粒子を攪拌あるいは回転させながらスパッタリングを行うことで、該粒子の表面に第1の膜または物質を被覆することで微粒子を作製し、
溶剤と前記微粒子とを混合し、
前記第1の膜または物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤の製造方法。
[27]重力方向に対してほぼ平行な断面の内部形状が多角形である真空容器内に粒子を収容し、
前記断面に対してほぼ垂直方向を回転軸として前記真空容器を回転させることにより該真空容器内の粒子を攪拌あるいは回転させながらスパッタリングを行うことで、該粒子の表面に第2の膜を被覆し、
前記断面に対してほぼ垂直方向を回転軸として前記真空容器を回転させることにより該真空容器内の前記粒子を攪拌あるいは回転させながらスパッタリングを行うことで、前記第2の膜の表面に第1の膜または物質を被覆することで微粒子を作製し、
溶剤と前記微粒子とを混合し、
前記第1の膜または物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤の製造方法。
[28]上記[25]または[27]において、
前記第2の膜は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする潤滑剤の製造方法。
[29]上記[24]乃至[28]のいずれか一項において、
前記微粒子の表面の水の接触角は60°以上であることを特徴とする潤滑剤の製造方法。
[30]上記[24]乃至[29]のいずれか一項において、
前記粒子は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有する物質を含むことを特徴とする潤滑剤の製造方法。
[31]上記[24]乃至[30]のいずれか一項において、
前記粒子は、金属、セラミックス、樹脂及び鉱物からなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする潤滑剤の製造方法。
[32]上記[24]乃至[31]のいずれか一項において、
前記粒子及び前記第1の膜の少なくとも一方が250℃以上の耐熱性を有することを特徴とする潤滑剤の製造方法。
[33]上記[25]、[27]及び[28]のいずれか一項において、
前記粒子、前記第1の膜及び前記第2の膜のうち少なくとも一つが250℃以上の耐熱性を有することを特徴とする潤滑剤の製造方法。
本発明の一態様によれば、部材の表面に簡易に付着させることができる潤滑剤及びその製造方法、潤滑剤用品、潤滑剤エアゾールのいずれかを提供することができる。
また、本発明の一態様によれば、表面に潤滑剤を付着させた潤滑剤付き部材または潤滑剤付き可動部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1(A)は本発明の一態様に係る潤滑剤に用いられる微粒子を示す断面図、
図1(B)は本発明の他の一態様に係る潤滑剤に用いられる微粒子を示す断面図である。
図2(A)~(D)は、種々の形状の粒子を示す図である。
図3は、本発明の一態様に係る潤滑剤エアゾールを示す断面図である。
図4(A)は本発明の一態様に係る潤滑剤を製造する際に用いるプラズマCVD装置を示す断面図、
図4(B)は
図4(A)に示す200-200線に沿った断面図である。
図5は、粒子に膜を被覆する際に用いる多角バレルスパッタ装置の概略を示す構成図である。
図6(A)は、本発明の一態様に係る潤滑剤付き部材の一部を示す断面図、
図6(B)は本発明の他の一態様に係る潤滑剤付き部材の一部を示す断面図である。
図7は、本発明の一態様に係る潤滑剤付き可動部材の製造方法を説明するための断面図である。
図8は、実施例1の微粒子のSEM画像である。
図9は、
図8に示す微粒子に加工用保護膜を被覆し、その微粒子の切断面を撮像したSEM画像である。
図10は、実施例2の微粒子のSEM画像である。
図11は、
図10に示す微粒子に加工用保護膜のPt膜とW膜を被覆し、その微粒子の切断面を撮像したSEM画像である。
図12は、
図10に示す粒径50μmのDLC膜付PMMA微粒子を含む潤滑剤のサンプルを示す写真である。
図13は、実施例4のサンプルの写真である。
図14は、実施例4のサンプルの写真である。
図15(A)~(D)は実施例5の写真である。
図16は、実施例5の写真である。
図17(A)は実施例6によるガラス基板に潤滑剤を塗布した写真、
図17(B)は実施例6の水の接触角を測定した様子を示す写真である。
図18(A)はガラス基板を示す写真、
図18(B)は比較例の水の接触角を測定した様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
<潤滑剤>
図1(A)は、本発明の一態様に係る潤滑剤に用いられる微粒子を示す断面図である。
図2(A)~(D)は、種々の形状の粒子を示す図である。
図1(A)に示す微粒子53は、粒子51に第1の膜52または物質が被覆されたものである。第1の膜52または物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有するとよい。これにより、微粒子53に潤滑剤としての機能を持たせることができる。第1の膜52または物質の摩擦係数は低いほど潤滑剤としての機能を高めることができる。また、微粒子53の表面の水の接触角は60°以上であるとよい。これにより、微粒子53の潤滑剤としての機能を高めることができる。また、粒子は、0.4以下(0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有する物質を含むとよい。また、微粒子53の粒径L1は、100μm以下であるとよく、70μm以下であってもよい。なお、本明細書において「粒径」とは、微粒子53の外径のなかで最も長い径を意味する。
粒子51は、種々の形状の粒子を用いることができ、例えば、
図2(A)に示す不定形状の粒子、
図2(B)に示す球形状の粒子、
図2(C),(D)に示す突起形状の粒子などを用いることができる。
第1の膜52の膜厚は微粒子53の粒径L1の1/20以下であるとよい。第1の膜52の膜厚が微粒子53の粒径の1/20より厚いと第1の膜52が微粒子53から剥がれやすくなるからである。
粒子51には、金属、セラミックス、樹脂及び鉱物からなる群から選択された少なくとも一つを含む粒子を用いるとよい。一般的に潤滑剤を用いる部材(例えば可動部材)が樹脂や金属である場合、粒子51には、250℃以上(好ましくは500℃以上)の耐熱性を有する材料を用いるとよい。潤滑剤を用いる部材の材料が高温の耐熱性を有する樹脂である場合、粒子51には、400℃近い耐熱性を有する材料を用いるとよく、金属である場合は1000℃近い耐熱性を有する材料を用いるとよい。これにより、潤滑剤を高温の環境で使用することも可能となる。また、粒子51に用いることができる金属の例としては、銀、インジウム、スズ、テルル、アンチモン及びビスマスなどが挙げられる。金属以外の例としては、黒鉛、マイカ、タルク、クレイ、アパタイト等、耐熱性及び断熱性の高い材料が望ましい。また、カオリン、シリカ等を粒子51に用いてもよい。
第1の膜52または物質は、銀、インジウム、スズ、テルル、アンチモン、ビスマス、DLC、グラファイト、BN、BC、WBN、CrN、TiN、二硫化モリブデン及び二硫化タングステンからなる群から選択された少なくとも一つを含むとよい。また、第1の膜52または物質は、250℃以上(好ましくは500℃以上)の耐熱性を有する材料であるとよい。なお、第1の膜52または物質は、粒子51と異なる材質であってもよいし、同じ材質であってもよい。
DLC膜は0.1~0.4の摩擦係数を有するものを用いるとよく、0.1以下の摩擦係数を有するものでもよい。DLC膜の表面は、鏡面のようにラフネスが低く、摩擦係数が低い。またDLC膜は65°~98°の水の接触角を有するものを用いるとよい。DLC膜にフッ素を含有させると、フッ素を含有しないDLC膜に比べて摩擦係数を下げることができる。また、DLCが550℃の耐熱性を有するため、粒子51に銀を用い、第1の膜52にDLCを用いた微粒子は500℃の耐熱性を有する。このような微粒子は、高い耐熱性が要求される潤滑剤に使用可能である。
DLC膜の水素含有量は30原子%以下(好ましくは20原子%以下、より好ましくは10原子%以下)であるとよい。このようにDLC膜の水素含有量を低くすることにより、DLC膜の摩擦係数を低くすることができる。DLC膜の水素含有量を20原子%以下とすることで、DLC膜の摩擦係数を0.15以下とすることができる。
図1(B)は、本発明の他の一態様に係る潤滑剤に用いられる微粒子を示す断面図である。
図1(B)に示す微粒子57は、粒子54に第2の膜55が被覆され、第2の膜55に第3の膜56または物質が被覆されたものである。第3の膜56または物質は、
図1(A)に示す第1の膜52または物質と同じものであってもよく、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有するとよい。これにより、微粒子57に潤滑剤としての機能を持たせることができる。第3の膜56または物質の摩擦係数は低いほど潤滑剤としての機能を高めることができる。また、微粒子57の表面の水の接触角は60°以上であるとよい。これにより、微粒子53の潤滑剤としての機能を高めることができる。また、第2の膜55は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有するとよい。また、微粒子57の粒径L2は、100μm以下であるとよく、70μm以下であってもよい。
第2の膜55には、
図1(A)に示す粒子51と同様の材料を用いてもよいが、例えば銀、インジウム、スズ、テルル、アンチモン、ビスマス、DLC、グラファイト、BN、BC、WBN、CrN、TiN、二硫化モリブデン、二硫化タングステン及びSiを含む物質からなる群から選択された少なくとも一つを含む材料を用いることができる。但し、第2の膜55は第3の膜56または物質とは異なる材料を用いた膜であることが好ましいが、第2の膜55が第3の膜56または物質と同一の材料を用いた膜であってもよい。また、第2の膜55には、250℃以上(好ましくは500℃以上)の耐熱性を有する材料を用いるとよい。
また、第2の膜55は、第3の膜56と粒子54との密着性を高めるための中間膜としての機能を有するとよく、例えば、第3の膜56がDLC膜の場合は第2の膜がSiを含む膜であるとよい。この膜はSiを含む原料ガスを用いてCVD法により成膜した膜である。Siを含む膜を中間膜とすることで、シランカップリング剤のように、Siによって有機材料と無機材料の密着性を向上させることができる。
第2の膜55及び第3の膜56それぞれの膜厚は微粒子57の粒径L2の1/20以下であるとよい。第2の膜55及び第3の膜56それぞれの膜厚が微粒子57の粒径の1/20より厚いと第2の膜55及び第3の膜56それぞれが微粒子53から剥がれやすくなるからである。
粒子54は樹脂の粒子であるとよく、その樹脂は例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂;Poly methyl methacrylate)、テフロン、PP、PE、ABSに代表される汎用樹脂から、PA、POM、PC等のエンプラ、PPS、PES、PER、PAI、PEEK等のスーパーエンプラ等を用いることができる。粒子54に樹脂を用い、第2の膜55に
図1(A)に示す粒子51と同様の材料を用い、第3の膜56に
図1(A)に示す第1の膜52と同様の材料を用いることで、
図1(A)に示す微粒子53に近い潤滑性能を発揮しつつ、
図1(A)に示す微粒子53に比べて材料コストを低減することができる。また、粒子54に250℃以上の耐熱性を有する樹脂を用いてもよい。
また、粒子54には、金属、セラミックス及び鉱物からなる群から選択された少なくとも一つを含む粒子を用いてもよい。
潤滑剤は、上記の微粒子53または微粒子57に、溶剤を含むとよい。例えば、沸点が40℃以上の溶剤を含むことにより、可動部材に潤滑剤を付着させ、その可動部材を40℃以上に加熱することで、溶剤を蒸発させて可動部材に微粒子53または微粒子57を付着させることができる。なお、この溶剤は有機溶剤であってもよい。
上記の溶剤は、炭酸水素系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、グリコール系、グリコールエステル系、グリコエーテル系、グライム系、ハロゲン系、特殊溶剤等の群から選択された少なくとも一つを含むとよい。
上記の潤滑剤は、種々のものの潤滑剤として用いることができ、例えば機械部品等の可動部材(例えば歯車等)の潤滑剤として用いることもできる。
<潤滑剤用品及び潤滑剤エアゾール>
上記の潤滑剤を容器に収容することで潤滑剤用品を作製することができる。なお、本明細書において「容器」とは、注射器を含む概念である。
潤滑剤エアゾールは、上記の潤滑剤と、有機溶剤と、噴射剤を充填した噴射容器を有している。詳細には、上記の潤滑剤と有機溶剤を混合し、その混合液を噴射剤と共に噴射容器に充填することにより、潤滑剤エアゾールを製造することができる。なお、有機溶剤の沸点は40℃以上であるとよい。
また、微粒子の粒径は、エアゾール製品としたとき目詰まりなく噴霧することができる大きさであれば良く、一般的には平均粒径が20μm以下であることが好ましい。
潤滑剤エアゾールは、使用時に容器を振って微粒子を均一な分散状態にするとよい。尚、容器を振ったときの攪拌効率を高めるために、容器内に攪拌ボールを入れておけば、一層簡単且つ容易に攪拌することができる。
特に、一定量の噴射が行える定量バルブを備えたエアゾール容器を用いることによって、必要量だけを噴射して塗布することができ、微粒子の無駄な消費を防ぐことが可能となる。なお、定量バルブは、一般に使用量の少ない香水や医薬品等に使用され、1回の作動ごとに一定容量を噴射するように設計されているバルブである。
例えば、一例として
図3に概略を示すように、定量バルブ2を備えた定量噴射型の容器1では、アクチュエーター3が押し下げられると、まず定量室2aとディップチューブ4との間が遮断され、更に押し下げると定量室2aが開いて内容物がノズル口5から大気中に噴射される。その後、アクチュエーター3を開放すると、最初に定量室2aから大気中への経路が遮断され、続いてディップチューブ4を通して内容物が定量室2aに供給されるようになっている。
また、容器1内には、溶剤を主成分とした潤滑剤と、これに液化炭化水素ガスやジメチルエーテルのような噴射剤が含まれた液相6が収容されている。液相6には複数の微粒子が分散しており、液相6中には微粒子53または微粒子57が沈降している。また、容器1内には、液化炭化水素ガスのような噴射剤からなる気相8と、撹拌効率を高めるための撹拌ボール9が収容されている。
<潤滑剤の製造方法>
図4(A)は、本発明の一態様に係る潤滑剤を製造する際に用いるプラズマCVD装置を示す断面図であり、
図4(B)は、
図4(A)に示す200-200線に沿った断面図である。このプラズマCVD装置は、粒子51の表面にDLC膜を被覆させるための装置である。
本実施の形態では、内部断面形状が多角形である容器に粒子51を収容し、この粒子51にDLC膜を被覆させるプラズマCVD装置について説明するが、容器の内部断面形状は多角形に限られず、容器の内部断面形状を円形又は楕円形にすることも可能である。内部断面形状が多角形の容器と円形又は楕円形の容器との違いは、円形又は楕円形の容器に比べて多角形の容器の方が粒径の小さい粒子にDLC膜を均一性よく被覆できる点である。
図4(A),(B)に示すように、プラズマCVD装置は円筒形状のチャンバー13を有している。このチャンバー13の一方端はチャンバー蓋21aによって閉じられており、チャンバー13の他方端はチャンバー蓋21bによって閉じられている。チャンバー13及びチャンバー蓋21a,21bそれぞれはアース(接地電位)に接続されている。
チャンバー13の内部には粒子51を収容する導電性の容器が配置されている。この容器は、円筒形状の第1容器部材29と、第2容器部材29aと、第1のリング状部材29bと、第2のリング状部材29cとを有している。第1容器部材29、第2容器部材29a、第1及び第2のリング状部材29b,29cそれぞれは導電性を有している。
第1容器部材29の一方端は閉じられており、第1容器部材29の一方端側にはチャンバー13の外側に延出した延出部29dが形成されている。第1容器部材29の他方端は開口されている。前記延出部29dはアースに接続されている。
第1容器部材29の内部には第2容器部材29aが配置されており、第2容器部材29aは、
図4(B)に示すようにその断面が六角形のバレル形状を有しており、
図4(B)で示す断面は重力方向11に対して略平行な断面である。なお、本明細書において「略平行」とは、完全な平行に対して±3°ずれているものも含む意味である。また、本実施の形態では、六角形のバレル形状の第2容器部材29aを用いているが、これに限定されるものではなく、六角形以外の多角形のバレル形状の第2容器部材を用いることも可能である。
第2容器部材29aの一方端は第1のリング状部材29bによって第1容器部材29の内部に取り付けられており、第2容器部材29aの他方端は第2のリング状部材29cによって第1容器部材29の内部に取り付けられている。言い換えると、第1のリング状部材29bは第2容器部材29aの一方側に位置しており、第2のリング状部材29cは第2容器部材29aの他方側に位置している。第1及び第2のリング状部材29b,29cそれぞれの外周は第1容器部材29の内面に繋げられており、第1及び第2のリング状部材29b,29cそれぞれの内周は第2容器部材29aの内面よりガスシャワー電極(対向電極)21側に位置されている。
第1のリング状部材29bと第2のリング状部材29cとの距離(即ち第2容器部材29aの一方端と他方端との距離)は、第1容器部材29の一方端と他方端との距離に比べて小さい。また、第1及び第2のリング状部材29b,29cそれぞれは第1容器部材29の内側に配置されている。そして、第2容器部材29aの内面と第1及び第2のリング状部材29b,29cによって囲まれたスペースにはコーティング対象物としての粉体(粒子)51が収容されるようになっている。言い換えると、第2容器部材29aにおける多角形を構成する内面129aとこの内面129aを囲む第1及び第2のリング状部材29b,29cそれぞれの面129b,129c(第1及び第2のリング状部材が互いに対向する面)とによって収容面が構成され、この収容面上に粒子51が位置されている。
なお、第2容器部材29aにおける多角形を構成する内面129aとこの内面129aを囲む第1及び第2のリング状部材それぞれの面129b,129cからなる収容面以外の容器の表面を、アース遮蔽部材(図示せず)によって覆ってもよい。第1容器部材29、第1及び第2のリング状部材29b,29cそれぞれと前記アース遮蔽部材とは5mm以下(好ましくは3mm以下)の間隔を有しているとよい。前記アース遮蔽部材は接地電位に接続されている。
また、プラズマCVD装置は、チャンバー13内に原料ガスを導入する原料ガス導入機構を備えている。この原料ガス導入機構は筒状のガスシャワー電極(対向電極)21を有している。このガスシャワー電極21は第2容器部材29a内に配置されている。即ち、第2容器部材29aの他方側には開口が形成されており、この開口からガスシャワー電極21が挿入されている。
ガスシャワー電極21は電源23に電気的に接続されており、電源23によって高周波電力がガスシャワー電極21に供給されるようになっている。電源23は、周波数が10kHz~1MHzの高周波電源を用いることが好ましく、より好ましくは周波数が50kHz~500kHzの高周波電源を用いることである。このように周波数の低い電源を用いることにより、1MHzより高い周波数の電源を用いた場合に比べて、ガスシャワー電極21と第2容器部材29aとの間より外側にプラズマが分散するのを抑制することができる。言い換えると、ガスシャワー電極21と第2容器部材29aとの間にプラズマを閉じ込めることができる。10kHz~1MHzのRFプラズマを用いると、このような閉じられたプラズマ空間内、すなわちバレル(第2容器部材29a)内で誘導加熱が起こりづらく、かつ成膜時に十分なV
DCが粒子51にかかるので、摩擦係数の低いDLC膜が容易に形成しやすい。逆に13.56MHzのようなRFプラズマを用いると、閉じられたプラズマ空間では、粒子51にV
DCがかかりづらいので摩擦係数の低いDLC膜が形成しにくい。
容器内に収容されている粒子51と対向する対向面以外のガスシャワー電極(対向電極)21の表面はアース遮蔽部材27aによって遮蔽されている。このアース遮蔽部材27aとガスシャワー電極21とは5mm以下(好ましくは3mm以下)の間隔を有している。
高周波電力が供給されるガスシャワー電極21をアース遮蔽部材27aで覆うことにより、第2容器部材29aの内側に高周波出力を集中させることができ、その結果、容器内に収容された粒子51に集中的に高周波電力を供給することができる。
ガスシャワー電極21の一方側の前記対向面には、単数又は複数の原料ガスをシャワー状に吹き出すガス吹き出し口が複数形成されている。このガス吹き出し口は、ガスシャワー電極21の底部(前記対向面)に配置され、第2容器部材29aに収容された粒子51と対向するように配置されている。即ち、ガス吹き出し口は第2容器部材29aの内面に対向するように配置されている。
また、
図4(B)に示すように、ガスシャワー電極21は、重力方向11に対して逆側の表面が前記逆側に凸の形状を有している。言い換えると、ガスシャワー電極21の断面形状は、底部以外が円形又は楕円形となっている。これにより、第2容器部材29aを回転させているときに円形又は楕円形とされた部分(凸形状の部分)に微粒子が乗っても、その微粒子をガスシャワー電極21から落下させることができる。
ガスシャワー電極21の他方側は真空バルブ26aを介してマスフローコントローラ(MFC)22の一方側に接続されている。マスフローコントローラ22の他方側は真空バルブ26b及び図示せぬフィルターなどを介して原料ガス発生源20aに接続されている。
また、ガスシャワー電極21の他方側は真空バルブ(図示せず)を介して図示せぬマスフローコントローラ(MFC)の一方側に接続されている。このマスフローコントローラの他方側はアルゴンガスボンベ(図示せず)に接続されている。
第1容器部材29には回転機構(図示せず)が設けられており、この回転機構によりガスシャワー電極21を回転中心として第1容器部材29及び第2容器部材29aを
図4(B)に示す矢印のように回転又は振り子動作させることで第2容器部材29a内の粒子51を攪拌あるいは回転させながら被覆処理を行うものである。前記回転機構により第1容器部材29及び第2容器部材29aを回転させる際の回転軸は、略水平方向(重力方向11に対して垂直方向)に平行な軸である。なお、本明細書において「略水平方向」とは、完全な水平方向に対して±3°ずれているものも含む意味である。また、チャンバー13内の気密性は、第1容器部材29の回転時においても保持されている。
また、プラズマCVD装置は、チャンバー13内を真空排気する真空排気機構を備えている。例えば、チャンバー13には排気口(図示せず)が複数設けられており、排気口は真空ポンプ(図示せず)に接続されている。
また、真空排気機構によって第1容器部材29内からチャンバー13外へガスが排気される経路における最小径又は最小隙間が5mm以下(好ましくは3mm以下)となるように、チャンバー13内には図示せぬアース部材が配置されている。ガスシャワー電極21から第2容器部材29a内に導入された原料ガスは、前記最小径又は最小隙間を通って排気口から排気されるようになっている。このとき、前記最小径又は最小隙間を5mm以下とすることにより、第2容器部材29a内に収容された粒子51の近傍にプラズマを閉じ込めることを妨げないようにすることができる。つまり、前記最小径又は最小隙間を5mmより大きくすると、プラズマが分散してしまったり、異常放電を起こすおそれがある。言い換えると、前記最小径又は最小隙間を5mm以下とすることにより、排気口側にDLC膜が成膜されてしまうことを抑制できる。
また、ガスシャワー電極21はヒーター(図示せず)を有している。また、プラズマCVD装置は、第2容器部材29aの内面に収容された粒子51に振動を加えるための打ち付け部材としてのアース棒(図示せず)を有していてもよい。つまり、アース棒は、その先端を、駆動機構(図示せず)によってチャンバー13に設けられた開口を通して第1容器部材29又はアース遮蔽部材に打ち付けることができるようになっているとよい。第1容器部材29とともに回転しているアース遮蔽部材にアース棒を連続的に打ち付けることにより、第2容器部材29a内に収容された粒子51に振動を加えることが可能となる。これにより、粒子51が凝集するのを防ぎ、粒子51の攪拌及び混合を促進することができる。尚、アース遮蔽部材と第1容器部材29とは図示せぬ絶縁部材によって繋げられており、アース遮蔽部材からの振動が前記絶縁部材を通して第1容器部材29に伝えられるようになっているとよい。
次に、潤滑剤の製造方法について詳細に説明する。
この潤滑剤の製造方法は、上記プラズマCVD装置を用いて粒子51にDLC膜を被覆するものである。
まず、複数の粒子51を第2容器部材29a内に収容する。粒子51の平均粒径は例えば20μm程度である。また、粒子51は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有する物質を含むとよい。
この後、真空ポンプを作動させることによりチャンバー13内を所定の圧力(例えば5×10
-5Torr程度)まで減圧する。これと共に、回転機構により第1容器部材29及び第2容器部材29aを回転させることで、第2容器部材29aの内部に収容された粒子51が容器内面において攪拌又は回転される。なお、ここでは、第1容器部材29及び第2容器部材29aを回転させているが、第1容器部材29及び第2容器部材29aを回転機構によって振り子動作させることも可能である。
次いで、原料ガス発生源20aにおいて原料ガスを発生させ、マスフローコントローラ22によって原料ガスを所定の流量に制御し、流量制御された原料ガスをガスシャワー電極21の内側に導入する。そして、ガスシャワー電極21のガス吹き出し口から原料ガスを吹き出させる。これにより、第2容器部材29a内を攪拌又は回転しながら動いている粒子51に原料ガスが吹き付けられ、制御されたガス流量と排気能力のバランスによって、CVD法による成膜に適した圧力に保たれる。
また、第1容器部材29とともに回転しているアース遮蔽部材27に駆動機構によってアース棒を連続的に打ち付ける。これにより、第2容器部材29a内に収容された粒子51に振動を加え、粒子51が凝集するのを防ぎ、粒子51の攪拌及び混合を促進させることができる。
この後、ガスシャワー電極21に電源23から例えば150Wで250kHzのRF出力が供給される。この際、第1容器部材29、第1、第2のリング状部材29b,29c及び第2容器部材29aと粒子51はアースに接続されている。これにより、ガスシャワー電極21と第2容器部材29aとの間にプラズマが着火され、第2容器部材29a内にプラズマが発生され、DLC膜が粒子51の表面に被覆される。つまり、第2容器部材29aを回転させることによって粒子51を攪拌し、回転させているため、粒子51の表面全体にDLC膜を均一に被覆した微粒子を作製することが容易にできる。なお、上記のように粒子51の表面全体にDLC膜を被覆してもよいが、粒子51の表面に膜とならない程度のDLCを被覆させてもよい。このようにして被覆されたDLC膜は0.4以下の摩擦係数を有する。また、このようにして作製された微粒子の表面の水の接触角は60°以上であるとよい。
次に、上記のようにして作製した微粒子と、溶剤とを混合することで潤滑剤を製造する。この溶剤は、沸点が40℃以上であるとよい。
なお、本実施の形態では、微粒子と、溶剤とを混合した潤滑剤を製造しているが、微粒子により構成された潤滑剤を製造してもよい。
上記実施の形態によれば、粒子51を被覆する第1の膜52または物質が0.4以下(または0.05以上0.3以下、もしくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することで、
図1(A)に示す微粒子53を潤滑剤として機能させることができる。また、微粒子53の表面の水の接触角を60°以上とすることで、微粒子53の潤滑剤としての機能を高めることができる。また、粒子51が0.4以下の摩擦係数を有する物質を含むことで、可動部材に付着した後の微粒子53が潰されても、潤滑剤として機能させることができる。
また、本実施形態では、粒子54を被覆する第3の膜56または物質が0.4以下(または0.05以上0.3以下、もしくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することで、
図1(B)に示す微粒子57を潤滑剤として機能させることができる。また、微粒子57の表面の水の接触角を60°以上とすることで、微粒子57の潤滑剤としての機能を高めることができる。また、粒子54に被覆する第2の膜55が0.4以下(または0.05以上0.3以下、もしくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有することで、可動部材に付着した後の微粒子57が潰されても、潤滑剤として機能させることができる。
また、本実施の形態では、潤滑剤を塗布する対象の可動部材の大きさに関係なく、当該可動部材に潤滑剤を容易に塗布することができる。
また、本実施形態による潤滑剤には油を含んでいないため、半導体工場や食品工場などのクリーンルームで使用することが可能である。
また、本実施の形態では、ガスシャワー電極21に高周波電力を印加し、粒子51を収容する容器にアースを接続する装置構成とするため、ガスシャワー電極21にアースを接続し、容器に高周波電力を印加する場合に比べて、プラズマCVD装置の機械構造を簡素化でき、装置コストを低減できる。また、プラズマCVD装置の機械構造を簡素化できるため、メンテナンス性が良くなる。
また、本実施の形態では、ガスシャワー電極21に高周波電力を印加する装置構成とするため、容器に高周波電力を印加する場合に比べて、マッチングを取りやすく、チューニングを外れにくくすることができる。その理由は、容器に高周波電力を印加する構成とすると、容器の回転運動によりインピーダンスが常時変化するため、マッチングが取りにくく、チューニングが外れやすくなるからである。
また、本実施の形態では、六角形のバレル形状の第2容器部材29a自体を回転させることで粒子51自体を回転させ攪拌でき、更にバレルを六角形とすることにより、粒子51を重力により定期的に落下させることができる。このため、攪拌効率を飛躍的に向上させることができ、粉体(微粒子)を扱う時にしばしば問題となる水分や静電気力による粉体の凝集を防ぐことができる。つまり回転により、攪拌と、凝集した粒子51の粉砕を同時かつ効果的に行うことができる。したがって、粒径の非常に小さい粒子51にDLC膜を被覆することが可能となる。具体的には、粒径が10μm以下の粒子にDLC膜を被覆することが可能となる。
また、本実施の形態では、容器内に収容されている粒子51と対向する対向面以外のガスシャワー電極21の表面をアース遮蔽部材27aによって遮蔽している。このため、第2容器部材29aの内面とそれに対向するガスシャワー電極21との間にプラズマを発生させることができる。つまり、第2容器部材29aの内側に高周波出力を集中させることができ、その結果、第2容器部材29aの内面に収容された粒子51(即ち前記収容面上に位置された粒子51)に集中的に高周波電力を供給することができ、高周波電力を効果的に粒子51に供給することができる。したがって、第2容器部材29aの内面と第1、第2のリング状部材29b,29cとで囲まれた粒子51を収容するスペース以外の部分(前記収容面以外の容器の表面)にDLC膜が付着するのを抑制することができる。また、高周波電力量を従来のプラズマCVD装置に比べて小さくすることができる。
また、本実施の形態では、容器またはアース遮蔽部材にアース棒を連続的に打ち付けることにより、第2容器部材29a内に収容された粒子51の攪拌及び混合を促進させることができる。したがって、より小さい粒径を有する粒子51に対しても均一性良くDLC膜を被覆することが可能となる。
また、上記実施の形態において容器の内部断面形状を円形にする場合は、例えば、
図4(A),(B)に示すプラズマCVD装置から第2容器部材29aを無くした装置に変更することにより実施することが可能となる。
また、上記実施の形態において容器の内部断面形状を楕円形にする場合は、例えば、
図4(A),(B)に示すプラズマCVD装置から第2容器部材29aを無くし、さらに第1容器部材29の内部断面形状を楕円形にした装置に変更することにより実施することが可能となる。
また、上記実施の形態では、第1容器部材29にプラズマ電源23を接続し、ガスシャワー電極21に接地電位を接続する構成としているが、これに限定されるものではなく、次のように変更して実施することも可能である。例えば、第1容器部材29にプラズマ電源23を接続し、ガスシャワー電極21に第2のプラズマ電源を接続する構成とすることも可能である。
なお、本実施形態では、上記プラズマCVD装置を用いて粒子51にDLC膜を被覆しているが、上記プラズマCVD装置を用いて
図1(B)に示す粒子54に銀等の第2の膜55を被覆し、その後、第2の膜55にDLC膜を上記プラズマCVD装置を用いて被覆することも可能である。詳細には、チャンバー13内に第1の原料ガスを導入し、チャンバー13内の粒子を攪拌あるいは回転させながらプラズマCVD法により、該粒子の表面に0.4以下の摩擦係数を有する第2の膜55を被覆し、その後、第1の原料ガスのチャンバー13内への導入を停止し、チャンバー13内に第2の原料ガスを導入し、チャンバー13内の粒子を攪拌あるいは回転させながらプラズマCVD法により、該粒子の第2の膜55の表面にDLC膜を被覆することで微粒子を作製することができる。このようにして被覆された第2の膜55及びDLC膜それぞれは0.4以下の摩擦係数を有する。また、このようにして作製された微粒子の表面の水の接触角は60°以上であるとよい。
また、本実施形態では、上記プラズマCVD装置を用いて粒子51にDLC膜を被覆しているが、粒子51に
図1(A)に示す第1の膜52として前述した材料を含む膜を被覆することも可能である。
また、本実施形態では、粒子51に膜を被覆する際にプラズマCVD装置を用いているが、これに限定されるものではなく、他の乾式の成膜装置、例えばスパッタリング装置を用いることも可能である。
以下に、
図5に示す多角バレルスパッタ装置を用いて粒子51に膜を被覆する例について説明する。
まず、多角バレルスパッタ装置について説明する。
多角バレルスパッタ装置は、粒子51に超微粒子又は薄膜を被覆させる真空容器31を有しており、この真空容器31は直径200mmの円筒部31aとその内部に設置された断面が六角形のバレル(六角型バレル)31bとを備えている。ここで示す断面は、重力方向に対してほぼ平行な断面である。なお、本実施の形態では、六角形のバレル31bを用いているが、これに限定されるものではなく、六角形以外の多角形のバレル(例えば4~12角形)を用いることも可能である。
真空容器31には回転機構(図示せず)が設けられており、この回転機構により六角型バレル31bを矢印のように回転または反転させたり、或いは振り子のように揺することで該六角型バレル31b内の粒子51を攪拌あるいは回転させながら被覆処理を行うものである。前記回転機構により六角型バレルを回転させる際の回転軸は、ほぼ水平方向(重力方向に対して垂直方向)に平行な軸である。また、真空容器31内には円筒の中心軸上にスパッタリングターゲット32が配置されており、このターゲット32は角度を自由に変えられるように構成されている。これにより、六角型バレル31bを回転または反転させたり、或いは振り子のように揺すりながら被覆処理を行う時、ターゲット32を粒子51の位置する方向に向けることができ、それによってスパッタ効率を上げることが可能となる。なお、ターゲット32を構成する物質は粒子51を被覆する膜の物質である。
真空容器31には配管34の一端が接続されており、この配管34の他端には第1バルブ42の一方側が接続されている。第1バルブ42の他方側は配管35の一端が接続されており、配管35の他端はターボ分子ポンプ(TMP)40の吸気側に接続されている。ターボ分子ポンプ40の排気側は配管36の一端に接続されており、配管36の他端は第2バルブ43の一方側に接続されている。第2バルブ43の他方側は配管37の一端に接続されており、配管37の他端はポンプ(RP)41に接続されている。また、配管34は配管38の一端に接続されており、配管38の他端は第3バルブ44の一方側に接続されている。第3バルブ44の他方側は配管39の一端に接続されており、配管39の他端は配管37に接続されている。
本装置は、真空容器31内の粒子51を直接加熱するためのヒータ47aと、間接的に加熱するためのヒータ47bを備えている。また、本装置は、真空容器31内の粒子51に振動を加えるためのバイブレータ48を備えている。また、本装置は、真空容器3の内部圧力を測定する圧力計49を備えている。また、本装置は、真空容器31内に窒素ガスを導入する窒素ガス導入機構45を備えていると共に真空容器31内にアルゴンガスを導入するアルゴンガス導入機構46を備えている。また反応性スパッタリングを行えるように、酸素等を導入できるガス導入機構50も備えている。また、本装置は、ターゲット32と六角型バレル31bとの間に高周波を印加する高周波印加機構(図示せず)を備えている。尚、ターゲット32と六角型バレル31bとの間には直流も印加できるようになっている。
次に、上記多角バレルスパッタ装置を用いて、粒子51の表面に第1の膜または物質を被覆する方法について説明する。
まず、六角型バレル31b内に粒子51を導入する。次いで、ターボ分子ポンプ40を用いて六角型バレル31b内に高真空状態を作り、六角型バレル内を減圧する。その後、アルゴンガス導入機構46又は窒素ガス導入機構45によりアルゴン又は窒素などの不活性ガスを六角型バレル31b内に導入する。そして、回転機構により六角型バレル31bを回転させることで、六角型バレル31b内の粒子51を回転させ、攪拌させる。その際、スパッタリングターゲット32は粒子51の位置する方向に向けられる。
その後、高周波印加機構によりターゲット32と六角型バレル31bとの間に高周波を印加することでスパッタリングする。これにより、粒子51の表面に第1の膜または物質を被覆する。
次に、上記のようにして作製した微粒子と、溶剤とを混合することで潤滑剤を製造する。この溶剤は、沸点が40℃以上であるとよい。
なお、本実施の形態では、微粒子と、溶剤とを混合した潤滑剤を製造しているが、微粒子により構成された潤滑剤を製造してもよい。
また、上記の例では、上記バレルスパッタ装置を用いて粒子51に第1の膜を被覆しているが、上記バレルスパッタ装置を用いて
図1(B)に示す粒子54に第2の膜55を被覆し、その後、第2の膜55に第3の膜56または物質を上記バレルスパッタ装置を用いて被覆することも可能である。
<潤滑剤付き部材>
図6(A)は本発明の一態様に係る潤滑剤付き部材の一部を示す断面図である。
図6(A)に示す潤滑剤付き部材は、可動部材58の表面に前述した潤滑剤を供給することで、可動部材58の表面の微小な凹凸の隙間に微粒子53が入り込んで付着したものである。微粒子53は、粒子51と、粒子51を被覆する第1の膜52または物質を有し、第1の膜52または物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有するとよい。
上記潤滑剤付き部材によれば、表面に微粒子53を付着させることで、可動部材58の表面の摩耗を低減することができる。
図6(B)は、本発明の他の一態様に係る潤滑剤付き部材の一部を示す断面図である。
図6(B)に示す潤滑剤付き部材は、可動部材59の表面に前述した潤滑剤を供給し、可動部材59の表面に微粒子53aが付着した後に、その微粒子53aが可動部材59の表面で潰されたものである。微粒子53aは、粒子51aと、粒子51aを被覆する第1の膜52aまたは物質を有し、第1の膜52aまたは物質は、0.4以下(好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.05以上0.2以下)の摩擦係数を有するとよい。微粒子53aが潰されているため、
図6(B)に示すように、粒子51a及び第1の膜52aまたは物質が変形している。
図6(B)では、微粒子53aが変形しても粒子51aが露出していない部分を示しているが、粒子51aが部分的に露出してもよい。
上記潤滑剤付き部材によれば、表面に微粒子53aを付着させた後に、その微粒子53aが潰されても、可動部材59の表面の摩耗を低減することができる。
なお、
図6(A),(B)では、可動部材の表面に
図1(A)に示す微粒子53を付着させているが、これに限定されるものではなく、
図1(B)に示す微粒子57を可動部材の表面に付着させてもよい。
<潤滑剤付き可動部材の製造方法>
図7は、本発明の一態様に係る潤滑剤付き可動部材の製造方法を説明するための断面図である。
まず、
図1(A)に示す微粒子53または
図1(B)に示す微粒子57を有する潤滑剤を用意する。また、第1の可動部材61及び第2の可動部材62を用意する。なお、
図7では、第1及び第2の可動部材61,62それぞれは歯車であるが、第1及び第2の可動部材として他の可動部材を用いてもよい。
次いで、第1の可動部材61と第2の可動部材62を互いに接触させて動かしながら、潤滑剤を第1の可動部材61と第2の可動部材62との接触部に供給する。このときの供給方法は、例えば潤滑剤エアゾールを用いて潤滑剤60をスプレーしてもよい。このようにして、第1の可動部材61及び第2の可動部材62それぞれの表面に微粒子を付着させる。この際、表面に付着した微粒子は第1の可動部材61と第2の可動部材62が接触することで押し潰されてもよい。
つまり、微粒子が潰された状態で第1及び第2の可動部材61,62に付着しても、その微粒子は潤滑剤として機能する。その理由は、
図1(A)の微粒子53を用いた場合、その微粒子53が、粒子51と、粒子51を被覆する第1の膜52または物質を有し、第1の膜52または物質は0.4以下の摩擦係数を有するためである。また、粒子51が0.4以下の摩擦係数を有する物質を含むと、より潤滑性を高めることができる。また、微粒子53の表面の水の接触角が60°以上であると、より潤滑性を高めることができる。また、
図1(B)の微粒子57を用いた場合、その微粒子57が、粒子54と、粒子54を被覆する第2の膜55と、第2の膜55を被覆する第1の膜56または物質を有し、第1の膜56または物質が0.4以下の摩擦係数を有し、第2の膜55が0.4以下の摩擦係数を有するためである。また、微粒子57の表面の水の接触角が60°以上であると、より潤滑性を高めることができる。
【実施例1】
【0008】
図8は、実施例1の微粒子のSEM(Scanning Electron Microscope)画像である。
図9は、
図8に示す微粒子に加工用保護膜を被覆し、その微粒子の切断面を撮像したSEM画像である。
この微粒子は
図1(B)に示す構造のものである。詳細には、この微粒子は、粒径が5μmの銀粒子(
図1(B)の粒子54に相当)に密着膜(第2の膜55に相当)が被覆され、その密着膜にDLC膜(第3の膜56に相当)が被覆されたものである。密着膜は、Siを含む物質を含む膜であって、銀粒子とDLC膜との密着性を高めるための中間膜である。
密着膜の成膜条件は以下のとおりである。
成膜装置:
図4に示すプラズマCVD装置
粒子基材:Ag粒子(φ5μm)
原料ガス:SiとCを含むガス
膜種:Siを含むカーボン膜
膜厚:0.2μm
DLC膜の成膜条件は以下のとおりである。
成膜装置:
図4に示すプラズマCVD装置
粒子基材:Ag粒子(φ5μm)に密着膜を被覆した微粒子
原料ガスとその比率:C
7H
8/Ar=7/20cc
膜種:DLC
膜厚:0.3μm
DLC膜と密着膜は共に絶縁性材料のため、
図9に示すSEM画像ではDLC膜と密着膜を分離して観察できなかった。DLC膜と密着膜を合わせた膜厚は240nm程度であった。
【実施例2】
【0009】
図10は、実施例2の微粒子のSEM画像である。
図11は、
図10に示す微粒子に加工用保護膜のPt膜とW膜を被覆し、その微粒子の切断面を撮像したSEM画像である。
この微粒子は
図1(A)に示す構造のものである。詳細には、この微粒子は、粒径がおよそ50μmのPMMA(Polymethyl methacrylate)粒子(
図1(A)の粒子51に相当)にDLC膜(第1の膜52に相当)が被覆されたものである。
DLC膜の成膜条件は以下のとおりである。
成膜装置:
図4に示すプラズマCVD装置
粒子基材:PMMA微粒子(φ50μm)
膜種:DLC=0.1μm
高周波電源の周波数:250kHz
原料ガスとその比率:C
7H
8/Ar=7/20cc
図10に示すように、微粒子は球形を保ち、DLC膜の剥離がほとんど無いことが分かる。
図12は、
図10に示す粒径50μmのDLC膜付PMMA微粒子を含む潤滑剤のサンプルを示す写真である。この潤滑剤は、
図10に示す微粒子を5wt%と、エタノールを65wt%、IPA(イソプロピルアルコール)を20wt%、エチレングリコールを10wt%混合して作製したものである。
【実施例3】
【0010】
本実施例では、粒子にDLC膜を被覆した微粒子の表面の水の接触角を測定した。但し、微粒子の表面の水の接触角を直接測定することができないため、ガラス基板上にDLC膜を成膜し、そのDLC膜の水の接触角を測定し、その測定値を微粒子の表面の水の接触角の測定値とした。
なお、本明細書において「微粒子の表面の水の接触角」とは、微粒子表面に被覆されている膜をガラス基板上に成膜し、その膜の水の接触角を測定した値を意味するものとする。
本実施例のサンプルは、以下の成膜条件で成膜されたものである。
成膜装置 :
図4に示すプラズマCVD装置
基材 : ガラス基板
膜種 : DLC=2.4μm
成膜時間 : 30分
攪拌条件 : 攪拌なし
高周波電源の周波数:250kHz
原料ガスとその比率:C
7H
8/Ar=7/20cc
成膜圧力:10Pa
高周波出力:250W
なお、基材が粒子である場合とガラス基板である場合とでは、適した成膜時間と攪拌条件が異なるため、上記の成膜時間と攪拌条件は基材が粒子である場合と異なるが、成膜時間と攪拌条件以外の成膜条件は基材が微粒子である場合と同様の条件を用いる。
次に、上記のサンプルの接触角を以下の方法で測定した。比較のためにガラス基板の接触角も同様の方法で測定した。接触角の測定装置を表1に示し、試料を表2に示し、測定条件を表3に示し、測定結果を表4に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
表4の測定結果によれば、微粒子の表面の水の接触角を60°以上とすることが可能であることが確認された。
【実施例4】
【0011】
本実施例では、粒子にDLC膜を被覆した微粒子における当該DLC膜の摩擦係数を測定した。但し、微粒子のDLC膜の摩擦係数を直接測定することができないため、SUS304の基材上にDLC膜を成膜し、そのDLC膜の摩擦係数を測定し、その測定値を微粒子のDLC膜の摩擦係数の測定値とした。
なお、本明細書において「粒子を被覆する膜の摩擦係数」とは、粒子に被覆される膜をSUS304の基材上に成膜し、その膜の摩擦係数を測定した値を意味するものとする。
本実施例のサンプルは、以下の成膜条件で成膜されたものである。
成膜装置 :
図4に示すプラズマCVD装置
基材 : SUS304
膜種 : DLC=2.0μm
成膜時間 : 30min
攪拌条件 : 攪拌なし
高周波電源の周波数:250kHz
高周波出力:300W
なお、基材が粒子である場合とSUS304である場合とでは、適した成膜時間と攪拌条件が異なるため、上記の成膜時間と攪拌条件は基材が粒子である場合と異なるが、成膜時間と攪拌条件以外の成膜条件は基材が微粒子である場合と同様の条件を用いる。
上記の成膜条件で成膜された2つのサンプルを
図13及び
図14に示す。
次に、上記の2つのサンプルの摩擦係数を以下の方法で測定した。
SUS304の基材上に成膜されたDLC膜の摩擦・摩耗特性を、ボールオンディスク型摩擦・摩耗試験機を用いて、測定荷重5N、ボールSUJ2、無潤滑にて測定した。その結果、2つのサンプルの摩擦係数は、0.17~0.2の範囲内であった。
なお、以下の文献に記載された他の材料の摩擦係数を比較例として以下に記載する。
文献:(社)日本潤滑学会 (1987) 『改訂版 潤滑ハンドブック』 養賢堂 P28
シリコン(ケイ素):0.58
アルミニウム :0.82
チタン :0.58
【実施例5】
【0012】
図15(A)は、マイカ粒子にDLC膜を被覆した微粒子を含む潤滑剤のスプレーサンプルを示す写真である。
DLC膜の成膜条件は以下のとおりである。
成膜装置:
図4に示すプラズマCVD装置
粒子基材:マイカ粒子(φ4.0μm)
膜種:DLC=0.1μm
高周波電源の周波数:250kHz
原料ガスとその比率:C
7H
8/Ar=7/20cc
成膜時間:1時間
成膜圧力:10Pa
高周波出力:250W
バレル揺動:±75°、3rpm
この潤滑剤は、揮発性有機溶媒を主成分とし、上記の微粒子を10wt%以下混合して作製したものである。
図15(B)は、
図15(A)の潤滑剤でコピー用紙に塗布しようとしている状態を示す写真であり、
図15(C)は、
図15(B)に示すコピー用紙を拡大した写真であり、
図15(D)は、
図15(B)に示す状態から潤滑剤をコピー用紙にスプレーにより塗布した後を示す写真である。
図16は、粒径3.0μmのアパタイト粒子にDLC膜を被覆した微粒子を含む潤滑剤をコピー用紙にスプレーにより塗布した後を示す写真である。DLC膜の成膜条件は上記のマイカ粒子の成膜条件と同様である。
【実施例6】
【0013】
図17(A)は、
図15(A)に示す実施例5の潤滑剤(DLC被覆マイカ微粒子)を
図18(A)に示すガラス基板にスプレーにより塗布した後を示す写真である。
図17(B)は、
図17(A)に示すガラス基板に塗布した潤滑剤の表面の水の接触角を測定した様子を示す写真である。この接触角の測定方法は実施例3と同様である。
図18(A)は、ガラス基板を示す写真であり、
図18(B)は、比較例として
図18(A)のガラス基板の表面の水の接触角を測定した様子を示す写真である。この接触角の測定方法は実施例3と同様である。
上記の接触角の測定結果は表5に示すとおりである。
【表5】
【符号の説明】
【0014】
1…容器
2…定量バルブ
2a…定量室
3…アクチュエーター
4…ディップチューブ
5…ノズル口
6…液相
8…気相
9…撹拌ボール
11…重力方向
13…チャンバー
20a…原料ガス発生源
21…ガスシャワー電極
21a,21b…チャンバー蓋
22…マスフローコントローラ(MFC)
23…電源
26a,26b…真空バルブ
27a…アース遮蔽部材
29…第1容器部材
29a…第2容器部材
29b…第1のリング状部材
29c…第2のリング状部材
29d…延出部
31…真空容器
31a…円筒部
31b…六角型バレル
32…ターゲット
34~39…配管
40…ターボ分子ポンプ(TMP)
41…ポンプ(RP)
42~44…第1~第3バルブ
45…窒素ガス導入機構
46…アルゴンガス導入機構
47a,47b…ヒータ
48…バイブレータ
49…圧力計
50…ガス導入機構
51,51a…粒子
52,52a…第1の膜
53,53a…微粒子
54…粒子
55…第2の膜
56…第3の膜
57…微粒子
58,59…可動部材
60…潤滑剤
61…第1の可動部材
62…第2の可動部材
129a…第2容器部材における多角形を構成する内面
129b…第1のリング状部材の面
129c…第2のリング状部材の面