(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂成形方法および熱可塑性樹脂成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/18 20060101AFI20220623BHJP
B29C 45/24 20060101ALI20220623BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B29C45/18
B29C45/24
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2019186132
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501002024
【氏名又は名称】福井精機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(74)【代理人】
【識別番号】100142376
【氏名又は名称】吉村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 一蔵
(72)【発明者】
【氏名】湯通堂 大典
(72)【発明者】
【氏名】付 ▲よう▼
(72)【発明者】
【氏名】坂賀 太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤野 和之
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-513500(JP,A)
【文献】特開平04-022611(JP,A)
【文献】特開2002-361687(JP,A)
【文献】特開2010-012682(JP,A)
【文献】特開2007-136719(JP,A)
【文献】特開2013-018283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 - 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型の内部の熱可塑性樹脂が冷却される冷却工程と、
前記冷却工程の後、前記型から前記熱可塑性樹脂が取り出される取出工程とを備える熱可塑性樹脂成形方法であって、
前記熱可塑性樹脂の粒子の集合体と混合されると前記熱可塑性樹脂の粒子の集合体を流動化させる流動化材が前記熱可塑性樹脂の粒子の集合体を流動化させる効果を発揮するように前記熱可塑性樹脂の粒子の集合体と混合される混合工程と、
前記型の内部に
、前記混合工程における前記流動化材との混合によって流動化された前記熱可塑性樹脂の粒子の集合体が
、前記熱可塑性樹脂の融点未満の温度にて、前記流動化材ごと注入される注入工程と、
前記型の内部の前記流動化材と前記熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度となるまで加熱される加熱工程とをさらに備え
、
前記流動化材が、前記取出工程を経て前記熱可塑性樹脂の粒子が一体化した後に潤滑剤として機能することを特徴とする熱可塑性樹脂成形方法。
【請求項2】
前記注入工程に先立ち、前記流動化材と前記熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが前記熱可塑性樹脂の融点未満の
前記温度となるまで加熱される予熱工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形方法。
【請求項3】
前記型が、
前記流動化材と前記熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが収容される空間である熱可塑性樹脂収容空間を形成する熱可塑性樹脂収容空間形成部と、
前記型の前記内部の洗浄用の流体である洗浄用流体を前記型の前記内部へ注入するための注入路を形成する注入路形成部と、
前記洗浄用流体と前記流動化材と前記熱可塑性樹脂の粒子とを前記型の前記内部から排出するための排出路を形成する排出路形成部とを有しており、
前記熱可塑性樹脂成形方法が、
前記注入工程に先立ち、前記注入路から前記熱可塑性樹脂収容空間へ前記洗浄用流体が供給される流体供給工程と、
前記注入工程に先立ち、前記排出路を介して前記熱可塑性樹脂収容空間から前記洗浄用流体が吸引される吸引工程とをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形方法。
【請求項4】
前記排出路が、前記熱可塑性樹脂収容空間を挟んで前記注入路と対向するように形成されることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂成形方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は超高分子量ポリエチレンであり、
前記流動化材は、成分がいずれも前記超高分子量ポリエチレンの融点より沸点が高いことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂を素材とする成形品の成形に適した熱可塑性樹脂成形方法および熱可塑性樹脂成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1はウォームホイールの成形方法を開示する。特許文献1に開示されたウォームホイールの成形方法は、金型内に空間が形成される工程と、射出成形する工程と、成形品が取り出される工程とを備える。特許文献1に開示されたウォームホイールの成形方法によると、噛み合い精度の高いウォームホイールが成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたウォームホイールの成形方法には、分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂を用いた成形ができないという問題点がある。この方法以外の射出成形にも同様の問題がある。分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂を用いた射出成形ができないので、分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂を用いて複雑な形状を成形する際の製造効率は、射出成形に比べて大幅に低いものとなる。なお、分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂の例には、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解消するものである。その目的は、分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂を素材とする成形品であっても迅速な成形が可能な熱可塑性樹脂成形方法および熱可塑性樹脂成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
図面に基づいて本発明の熱可塑性樹脂成形方法および熱可塑性樹脂成形装置が説明される。なお、この欄で図中の符号を使用したのは、発明の内容の理解を助けるためであって、内容を図示した範囲に限定する意図ではない。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある局面に従うと、熱可塑性樹脂成形方法は、冷却工程S310と、取出工程S312とを備える。冷却工程S310において、型120の内部の熱可塑性樹脂が冷却される。取出工程S312において、冷却工程S310の後、型120から熱可塑性樹脂が取り出される。熱可塑性樹脂成形方法は、混合工程S302と、注入工程S306と、加熱工程S308とをさらに備える。混合工程S302において、流動化材が熱可塑性樹脂の粒子の集合体と混合される。流動化材は、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と混合されると熱可塑性樹脂の粒子の集合体を流動化させるものである。流動化材は、熱可塑性樹脂の粒子の集合体を流動化させる効果を発揮するように熱可塑性樹脂の粒子の集合体と混合される。注入工程S306において、型120の内部に、混合工程S302における流動化材との混合によって流動化された熱可塑性樹脂の粒子の集合体が、前記熱可塑性樹脂の融点未満の温度にて、流動化材ごと注入される。加熱工程S308において、型120の内部の流動化材と熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが熱可塑性樹脂の融点以上の温度となるまで加熱される。流動化材が、前記取出工程を経て前記熱可塑性樹脂の粒子が一体化した後に潤滑剤として機能する。
【0008】
分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂を素材とする場合に成形品の迅速な成形が困難なのは、そのような熱可塑性樹脂が加熱によって溶けたときも十分な流動性を有していないためである。これにより、型120へ熱可塑性樹脂を収容する作業に時間を要する。その作業に時間を要することが製造効率の低下につながる。混合工程S302において、流動化材が熱可塑性樹脂の粒子の集合体と混合されると、熱可塑性樹脂の粒子の集合体が流動化する。注入工程S306において、型120の内部に熱可塑性樹脂の粒子の集合体が流動化材ごと注入される。これにより、周知の射出成形と同様に型120への熱可塑性樹脂の注入が可能となる。そのような注入が可能になるので、そのような注入が不可能な場合に比べ、型120へ熱可塑性樹脂を収容する作業に要する時間を短縮できる。その結果、分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂を素材とする成形品であっても迅速な成形が可能となる。
【0009】
また、上述した熱可塑性樹脂成形方法が、予熱工程S304をさらに備えることが望ましい。予熱工程S304において、注入工程S306に先立ち、流動化材と熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが熱可塑性樹脂の融点未満の温度となるまで加熱される。
【0010】
予熱工程S304において、注入工程S306に先立ち、流動化材と熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが熱可塑性樹脂の融点未満の温度となるまで加熱される。これにより、予熱工程S304がない場合に比べて、注入工程S306の終了から加熱工程S308において型120の内部の流動化材と熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが熱可塑性樹脂の融点以上の温度となるまでの時間が短縮される。その結果、分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂を素材とする成形品であっても迅速な成形が可能となる。
【0011】
また、上述した型120が、熱可塑性樹脂収容空間形成部160,184と、注入路形成部162と、排出路形成部164とを有していることが望ましい。熱可塑性樹脂収容空間形成部160,184は、熱可塑性樹脂収容空間を形成する。熱可塑性樹脂収容空間は、流動化材と熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが収容される空間である。注入路形成部162は、注入路を形成する。注入路は、洗浄用流体を型120の内部へ注入するためのものである。洗浄用流体は、型120の内部の洗浄用の流体である。排出路形成部164は、排出路を形成する。排出路は、洗浄用流体と流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とを型120の内部から排出するためのものである。この場合、熱可塑性樹脂成形方法が、流体供給工程S330と、吸引工程S332とをさらに備えることが望ましい。流体供給工程S330において、注入工程S306に先立ち、注入路から熱可塑性樹脂収容空間へ洗浄用流体が供給される。吸引工程S332において、注入工程S306に先立ち、排出路を介して熱可塑性樹脂収容空間から洗浄用流体が吸引される。
【0012】
注入路から熱可塑性樹脂収容空間へ洗浄用流体が供給され、かつ、排出路を介して熱可塑性樹脂収容空間から洗浄用流体が吸引されると、型120の内部に残っている流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とが洗浄用流体に巻き込まれて型120の内部から排出される。これにより、洗浄用流体が用いられないまま型120の内部に残っている流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とが吸引される場合に比べて、型120の内部に残っている流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とが型120の内部から排出される可能性が高くなる。その可能性が高くなると、型120の内部に残っている流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とのうち少なくとも一方が障害物として機能する可能性が低くなる。その可能性が低くなるので、型120の内部に残っている流動化材と熱可塑性樹脂の粒子との排出がない場合に比べ、注入工程S306にて型120の内部に新たに注入される流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とが型120の内部のいずれかの箇所で停滞する可能性が低くなる。その結果、型120の内部に残っている流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とのうち少なくとも一方が障害物として機能することに起因して成形された熱可塑性樹脂の形状が予定されていたものと異なる形となる可能性を低下させ得る。
【0013】
もしくは、上述した排出路が、熱可塑性樹脂収容空間を挟んで注入路と対向するように形成されることが望ましい。
【0014】
排出路が熱可塑性樹脂収容空間を挟んで注入路と対向すると、そうでない場合に比べ、注入路から排出路までの経路のうち最長のものと最短のものとの長さの差が小さくなる。その差が小さくなると、注入路から排出路までの経路が洗浄用流体に及ぼす抵抗のうち最大のものと最小のものとの差が小さくなる。その差が小さくなると、洗浄用流体が停滞し難い経路と停滞し易い経路とが生じる可能性が低下する。その可能性が低下すると、注入路から排出路までのいずれかの経路において、型120の内部に残っている流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とのうち少なくとも一方が洗浄用流体の供給後も引続き残る可能性が低下する。その可能性が低下すると、型120の内部に残っている流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とのうち少なくとも一方が障害物として機能する可能性が低くなる。その結果、成形された熱可塑性樹脂の形状が予定されていたものと異なる形となる可能性を低下させ得る。
【0015】
また、上述された熱可塑性樹脂は超高分子量ポリエチレンであることが望ましい。この場合、流動化材は、成分がいずれも超高分子量ポリエチレンの融点より沸点が高いことが望ましい。
【0016】
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂を素材とする成形品であっても迅速な成形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形装置の構成を示す概念図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる金型の構成を示す概念図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法の工程を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態にかかる排出工程での金型の状況を示す概念図である。
【
図5】本発明の一実施形態にかかる注入工程での金型の状況を示す概念図である。
【
図6】本発明の一実施形態にかかる冷却工程での金型の状況を示す概念図である。
【
図7】本発明の一実施形態にかかる取出工程での金型の状況を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態が説明される。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能は同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返されない。
【0020】
[構成の説明]
図1は、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形装置の構成を示す概念図である。
図1に基づいて、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形装置の構成が説明される。
【0021】
本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形装置には金型120が取付けられる。これにより、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形装置は、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法を実施できる。
【0022】
本実施形態において用いられる熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。望ましくは、本実施形態において用いられる熱可塑性樹脂は、分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂である。より望ましくは、本実施形態において用いられる熱可塑性樹脂は、超高分子量ポリエチレンである。
【0023】
本実施形態において、熱可塑性樹脂の粒子が用いられる。後述される金型120への注入に差し支えない限り、その熱可塑性樹脂の粒子の形状および粒径は特に限定されない。
【0024】
本実施形態において、流動化材が用いられる。本実施形態における流動化材とは、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と混合されることにより、その粒子の集合体を流動化させる物質である。本実施形態における流動化とは、粒子の集合体において粒子間の摩擦が抑えられることを意味する。本実施形態における流動化材の成分がいずれも高沸点物質であることが望ましい。本実施形態における高沸点物質とは、熱可塑性樹脂の融点より沸点が高い物質のことである。本実施形態における流動化材は、次に述べられる性質を有することがより望ましい。第1の性質は、金型120の隅々まで熱可塑性樹脂の粒子を運び得る程度の流動性を有するという性質である。第2の性質は、金型120が出す熱を十分に熱可塑性樹脂の粒子に伝え得る程度の熱伝導率を有するという性質である。本実施形態における流動化材は、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法を経て熱可塑性樹脂の粒子が一体化した後、潤滑剤として機能するという性質を有する。このような性質を有する流動化材の例は、グリースである。グリースのうち、本実施形態における流動化材として適しているものの例は、リチウムグリースである。
【0025】
本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形装置は、型締部30と、射出部32と、予熱部34と、型加熱部36と、型冷却部38と、排出部40と、制御部42とを備える。
【0026】
型締部30は、金型120を動作させる。型締部30は、開閉部60と、樹脂取出部62とを有する。開閉部60は、金型120を開いたり閉じたりする。樹脂取出部62は、熱可塑性樹脂を金型120から取り出す。開閉部60および樹脂取出部62の具体的な構成は周知の射出成型機と同様である。したがって、ここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0027】
射出部32は、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物を射出する。射出部32は、貯蔵部80と、混合注入部82と、移動部84とを有する。貯蔵部80は、熱可塑性樹脂の粒子と流動化材とをそれぞれ貯蔵する。本実施形態の場合、混合注入部82は、図示されないホッパの対と図示されないスクリュとを有している。ホッパの対の一方には貯蔵部80から熱可塑性樹脂の粒子が供給される。ホッパの対の一方は熱可塑性樹脂の粒子をスクリュに連続的に供給する。ホッパの対の他方には貯蔵部80から流動化材が供給される。ホッパの対の他方は流動化材をスクリュに連続的に供給する。スクリュは、熱可塑性樹脂の粒子と流動化材とを混合する。スクリュは排出端を有する。スクリュは、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物をそれらのホッパから排出端へ移送する。熱可塑性樹脂の粒子と流動化材との混合物は、その排出端から排出される。移動部84は、スクリュの排出端が金型120のスプルーに接触するようにスクリュを移動させる。これにより、混合注入部82が、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物を金型120の内部に注入することとなる。
【0028】
予熱部34は、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物を加熱する。この混合物は、混合注入部82において移送されている途中のものである。本実施形態の場合、予熱部34は、周知のバンドヒータによって実現される。そのバンドヒータは、上述された混合注入部82のスクリュの外周に巻き付けられる。これにより、予熱部34が混合注入部82の周囲に配置されることとなる。本実施形態の場合、予熱部34は、そのスクリュを介して上述された混合物を加熱する。これにより、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材とが熱可塑性樹脂の融点未満の温度となるまで加熱される。
【0029】
型加熱部36は、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物を加熱する。この混合物は、金型120内のものである。本実施形態の場合、型加熱部36は、周知のヒータによって実現される。型加熱部36は、金型120を加熱する。加熱された金型120は、その中の上述された混合物を加熱する。
【0030】
型冷却部38は、金型120内の熱可塑性樹脂製成形品を冷却する。本実施形態の場合、型冷却部38は、図示されない冷却装置と図示されない冷却管とを有する。その冷却装置は周知の冷媒を冷却する。その冷却装置は、その冷却された冷媒を冷却管に供給する。その冷却管は金型120に接続されている。その冷却管内をその冷媒が流れると、その冷媒によって金型120が冷却される。冷却された金型120は、その中の上述された熱可塑性樹脂製成形品を冷却する。
【0031】
排出部40は、金型120の内部に残っている流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とを排出する。本実施形態の場合、排出部40は、流体供給部100と、吸引部102とを有している。流体供給部100は、後述される注入路から後述される熱可塑性樹脂収容空間へ洗浄用流体を供給する。吸引部102は、後述される排出路を介して熱可塑性樹脂収容空間から洗浄用流体を吸引する。なお、洗浄用流体とは、金型120の内部を洗浄するために用いられる流体を意味する。どのような流体が洗浄用流体として用いられるかという点は本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形装置の設計者が任意に設定すべきものである。したがって、洗浄用流体の具体的な組成は特に限定されない。本実施形態の場合、洗浄用流体は空気である。
【0032】
制御部42は、型締部30と、射出部32と、予熱部34と、型加熱部36と、型冷却部38と、排出部40とを制御する。制御部42は、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法の各工程を実施するためにこれらを制御する。これらの制御を実現するための具体的な手段そのものは周知である。したがって、ここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0033】
図2は、本実施形態にかかる金型120の構成を示す概念図である。
図2に基づいて、本実施形態にかかる金型120の構成が説明される。
【0034】
本実施形態にかかる金型120は、コア140と、キャビティ142と、移動側取付体144と、固定側取付体146と、移動側コイルばね148と、固定側コイルばね150とを有している。
【0035】
コア140およびキャビティ142はアルミニウム製である。コア140およびキャビティ142は、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物を収容する。移動側取付体144は鋼製である。移動側取付体144には、移動側コイルばね148を介してコア140が取付けられる。移動側取付体144も鋼製である。移動側取付体144は、開閉部60によって移動させられる。これにより、移動側取付体144は、コア140を移動させることとなる。固定側取付体146には、固定側コイルばね150を介してキャビティ142が取付けられる。本実施形態の場合、移動側取付体144および固定側取付体146の双方に、型加熱部36と型冷却部38の冷却管とが接続されている。
【0036】
コア140は、コア側空間形成部160と、注入路形成部162と、排出路形成部164とを有している。コア側空間形成部160は、空間を形成する。注入路形成部162は、注入路を形成する。この注入路は、洗浄用流体の注入路である。この注入路に流体供給部100が接続される。排出路形成部164は、排出路を形成する。この排出路は、洗浄用流体の排出路である。この排出路に吸引部102が接続される。
【0037】
キャビティ142は、スプルー形成部180と、ランナー形成部182と、キャビティ側空間形成部184とを有している。スプルー形成部180は、混合注入部82から注入された上述の混合物が通過する通路を形成する。この通路は「スプルー」と称される。ランナー形成部182は、スプルーを通過した混合物が分岐するための通路を形成する。この通路は「ランナー」と称される。キャビティ側空間形成部184は、空間を形成する。
【0038】
開閉部60がコア140をキャビティ142に密着させると、コア140のコア側空間形成部160とキャビティ142のキャビティ側空間形成部184とは空間を形成する。この空間には、ランナーを通過した上述の混合物が流入する。これにより、この空間には、流動化材と熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが収容されることとなる。本実施形態において、この空間は「熱可塑性樹脂収容空間」と称される。したがって、コア140のコア側空間形成部160とキャビティ142のキャビティ側空間形成部184とは、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂収容空間形成部である。
【0039】
[工程の説明]
図3は、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法の工程を示す図である。
図3に基づいて、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法の工程が説明される。
【0040】
本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法は、排出工程S300と、混合工程S302と、予熱工程S304と、注入工程S306と、加熱工程S308と、冷却工程S310と、取出工程S312とを備える。
【0041】
排出工程S300において、排出部40は、金型120の内部に残っている流動化材と熱可塑性樹脂の粒子とを排出する。
【0042】
混合工程S302において、流動化材が熱可塑性樹脂の粒子の集合体と混合される。そのために、本実施形態の場合、貯蔵部80は混合注入部82のホッパの対の一方に熱可塑性樹脂の粒子を供する。そのホッパの対の一方は熱可塑性樹脂の粒子を混合注入部82のスクリュに供給する。貯蔵部80は、ホッパの対の他方に流動化材を供給する。そのホッパの対の他方は流動化材をスクリュに供給する。スクリュは、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材とを混合する。スクリュは、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物を金型120へ移送する。この混合にあたり、流動化材は、熱可塑性樹脂の粒子の集合体を流動化させる効果を発揮するように熱可塑性樹脂の粒子の集合体と混合される。そのような混合のための具体的な手段は特に限定されない。そのような手段の例は、熱可塑性樹脂の粒子の集合体に対する流動化材の量を十分に多くするというものである。熱可塑性樹脂の粒子の集合体に対する流動化材の量が十分に多ければ、熱可塑性樹脂の粒子の間に流動化材が十分に行き渡る。熱可塑性樹脂の粒子の間に流動化材が十分に行き渡ると、粒子の集合体において粒子間の摩擦が抑えられる。これにより、熱可塑性樹脂の粒子の集合体を流動化させる効果が発揮される。例えば、熱可塑性樹脂が超高分子量ポリエチレンであって流動化材がリチウムグリースであるとする。この場合、熱可塑性樹脂の粒子の集合体を流動化させる効果を発揮するように熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材とを混合するための具体的手段の例は、リチウムグリースの重量を超高分子量ポリエチレンの粒子の重量の3分の2以上とすることである。熱可塑性樹脂が超高分子量ポリエチレンであって流動化材がリチウムグリースである場合、超高分子量ポリエチレンの粒子の重量に対するリチウムグリースの重量比は、1.5以下であることが望ましい。超高分子量ポリエチレンの粒子の重量に対するリチウムグリースの重量比が大きすぎると、成形後の熱可塑性樹脂の強度が低くなり過ぎるためである。
【0043】
予熱工程S304において、予熱部34は、制御部42の制御に基づいて、混合注入部82のスクリュを介して熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物を加熱する。本実施形態の場合、この加熱により、その混合物の温度は、予め設定された温度まで上昇する。その温度は、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形装置の操作者が任意に設定する温度である。ただし、その温度は熱可塑性樹脂の融点より低い温度である。また、型加熱部36は、金型120を加熱する。
【0044】
注入工程S306において、移動部84は、混合注入部82のスクリュの排出端が金型120のスプルーに接触するようにスクリュを移動させる。熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物は、その排出端から排出される。これにより、その混合物は、スプルーを経由して熱可塑性樹脂収容空間に入る。これにより、金型120の内部に熱可塑性樹脂が注入されることとなる。
【0045】
加熱工程S308において、型加熱部36は、制御部42の制御に基づいて、金型120を加熱する。予熱工程S304において金型120は既に加熱されている。熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物が熱可塑性樹脂収容空間に入った時以降も、金型120は引き続き加熱される。これにより、金型120の内部の流動化材と熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが加熱されることとなる。本実施形態の場合、この加熱により、その混合物の温度は、予め設定された温度まで上昇する。その温度は、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形装置の操作者が任意に設定する温度である。ただし、本実施形態の場合、その温度は熱可塑性樹脂の融点より高い温度である。また、その温度は、流動化材の各成分の沸点のうち最も低いものより低い温度であることが望ましい。もちろん、流動化材の各成分の沸点のうち最も低いものが熱可塑性樹脂の融点より低ければ、その温度は流動化材の各成分の沸点のうち最も低いものより高い温度であってもよい。金型120の内部の流動化材と熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが予め設定された温度まで上昇するように加熱されると、熱可塑性樹脂の粒子は溶ける。溶けた熱可塑性樹脂の粒子の集合体は、熱可塑性樹脂の塊となる。その塊には、流動化材が巻き込まれている。その塊の形状は、熱可塑性樹脂収容空間の形状に概ね一致する。
【0046】
冷却工程S310において、型冷却部38の冷却装置は冷媒を冷却する。その冷却装置は、その冷却された冷媒を冷却管に供給する。その冷却管内をその冷媒が流れると、その冷媒によって金型120が冷却される。その後、開閉部60が、移動側取付体144を少し移動させる。これに伴い、コア140も少し移動する。コア140が少し移動したことに伴い、移動側取付体144は、コア140から少し離れる。キャビティ142は、固定側取付体146から少し離れる。これにより、コア140およびキャビティ142から周囲へ熱が放出されることとなる。熱が放出されるので、コア140およびキャビティ142の温度はさらに下がる。それらの温度が下がることに伴い、金型120の内部の熱可塑性樹脂の塊が冷却されることとなる。冷却された熱可塑性樹脂の塊が成形品200である。
【0047】
取出工程S312において、開閉部60は、移動側取付体144を移動させる。これに伴い、コア140も移動する。移動したコア140は、キャビティ142から離れる。これにより、成形品200が露出する。成形品200が露出すると、樹脂取出部62は、金型120から成形品200を取り出す。これにより、金型120から熱可塑性樹脂の塊が取り出されることとなる。
【0048】
本実施形態の場合、排出工程S300は、流体供給工程S330と、吸引工程S332とを有している。
【0049】
流体供給工程S330において、開閉部60が、移動側取付体144を移動させる。これに伴い、コア140も移動する。移動したコア140は、キャビティ142に押し付けられる。コア140がキャビティ142に密着すると、コア140のコア側空間形成部160とキャビティ142のキャビティ側空間形成部184とは熱可塑性樹脂収容空間を形成する。熱可塑性樹脂収容空間が形成されると、流体供給部100は、コア140に形成されている注入路から熱可塑性樹脂収容空間へ洗浄用流体を供給する。これにより、金型120の注入路から熱可塑性樹脂収容空間へ洗浄用流体が供給されることとなる。
【0050】
吸引工程S332において、吸引部102は、コア140に形成されている排出路を介して熱可塑性樹脂収容空間から洗浄用流体を吸引する。これに伴い、熱可塑性樹脂収容空間に残っていた流動化材および熱可塑性樹脂の粒子も吸引される。
【0051】
[動作の説明]
図4は、本実施形態にかかる排出工程S300での金型120の状況を示す概念図である。
図5は、本実施形態にかかる注入工程S306での金型120の状況を示す概念図である。
図6は、本実施形態にかかる冷却工程S310での金型120の状況を示す概念図である。
図7は、本実施形態にかかる取出工程S312での金型120の状況を示す概念図である。
図4乃至
図7に基づいて、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法が実施されている際の金型120の動作が説明される。この場合、熱可塑性樹脂の粒子として超高分子量ポリエチレンの粒子が用いられることとする。流動化材としてリチウムグリースが用いられることとする。このリチウムグリースの成分はいずれも高沸点物質であることとする。洗浄用流体として空気が用いられることとする。
【0052】
図4に示されるように、コア140がキャビティ142に密着している。この状態で、コア140の注入路から熱可塑性樹脂収容空間へ空気が供給される(S330)。吸引部102は、コア140の排出路を介して熱可塑性樹脂収容空間からその空気を吸引する(S332)。これに伴い、熱可塑性樹脂収容空間に残っていたリチウムグリースおよび超高分子量ポリエチレンの粒子が空気と共に排出される。
【0053】
熱可塑性樹脂収容空間に残っていたリチウムグリースおよび超高分子量ポリエチレンの粒子が吸引されると、リチウムグリースが超高分子量ポリエチレンの粒子の集合体と混合される(S302)。それらが混合されると、リチウムグリースと超高分子量ポリエチレンの粒子の集合体との混合物がスクリュにおいて加熱される(S304)。
【0054】
その後、
図5に示されるように、リチウムグリースと超高分子量ポリエチレンの粒子の集合体との混合物は、金型120の内部に注入される(S306)。その混合物が金型120の内部に注入されると、それらは加熱される(S308)。これにより、超高分子量ポリエチレンの粒子は溶ける。溶けた超高分子量ポリエチレンの粒子の集合体は、超高分子量ポリエチレンの塊となる。その塊には、リチウムグリースが巻き込まれている。
【0055】
超高分子量ポリエチレンの粒子の集合体が超高分子量ポリエチレンの塊になると、
図6に示されるように、金型120の内部の熱可塑性樹脂が冷却される(S310)。熱可塑性樹脂が冷却されると、
図6に示されるように、金型120から成形品200が取り出される(S312)。
【0056】
[効果の説明]
本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法によれば、分子量が極めて大きい熱可塑性樹脂を素材とする成形品200であっても迅速な成形が可能となる。
【0057】
また、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法によれば、成形品200の形状が予定されていたものと異なる形となる可能性を低下させ得る。
【0058】
また、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂成形方法において、流動化材の成分がいずれも高沸点物質であり、かつ、加熱工程S308において流動化材と熱可塑性樹脂の粒子の集合体とが高沸点物質の沸点より低い温度に達するまで加熱されることとする。この場合、加熱工程S308において流動化材のいずれかの成分が気化することを防ぎつつ熱可塑性樹脂を溶融させることが可能となる。その結果、気化した流動化材の成分による熱可塑性樹脂を素材とする成形品200への気泡の痕の形成が防止される。
【0059】
今回開示された実施形態はすべての点で例示である。本発明の範囲は上述した実施形態に基づいて制限されるものではない。もちろん、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更をしてもよい。
【0060】
例えば、混合工程S302は、上述された熱可塑性樹脂成形装置によって実施されなくてもよい。この場合、熱可塑性樹脂の粒子の集合体と流動化材との混合物は予め貯蔵部80に貯蔵されており、混合注入部82のスクリュはその混合物を金型120の内部に注入することとなる。
【0061】
また、型加熱部36の構成は上述したものに限定されない。型加熱部36は、金型120のうち少なくとも熱可塑性樹脂の粒子と接触する箇所が熱可塑性樹脂の融点以上の温度となるまで金型120を加熱するものであればよい。
【符号の説明】
【0062】
30…型締部
32…射出部
34…予熱部
36…型加熱部
38…型冷却部
40…排出部
42…制御部
60…開閉部
62…樹脂取出部
80…貯蔵部
82…混合注入部
84…移動部
100…流体供給部
102…吸引部
120…金型
140…コア
142…キャビティ
144…移動側取付体
146…固定側取付体
148…移動側コイルばね
150…固定側コイルばね
160…コア側空間形成部
162…注入路形成部
164…排出路形成部
180…スプルー形成部
182…ランナー形成部
184…キャビティ側空間形成部