IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱鉛筆株式会社の特許一覧

特許7093608フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物、それを用いたポリイミド、ポリイミドフィルム、およびそれらの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物、それを用いたポリイミド、ポリイミドフィルム、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20220623BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20220623BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220623BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220623BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220623BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220623BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20220623BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20220623BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20220623BHJP
   H01B 17/56 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C08L79/08 A
B32B15/088
B32B27/18 Z
B32B27/34
C08G73/10
C08J5/18 CFG
C08L27/12
H01B3/30 C
H01B3/44 C
H01B17/56 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2015205739
(22)【出願日】2015-10-19
(65)【公開番号】P2017078102
(43)【公開日】2017-04-27
【審査請求日】2018-08-29
【審判番号】
【審判請求日】2020-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 厚志
【合議体】
【審判長】杉江 渉
【審判官】加藤 友也
【審判官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-142572(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152240(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L79/08
C08G73/10
C08J5/18
C08L27/12
B32B15/088
B32B27/18
B32B27/34
H01B3/30
H01B3/44
H01B17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、非水系溶媒と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であることを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
【請求項2】
少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、ポリイミド前駆体溶液と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であることを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
【請求項3】
少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、非水系溶媒と、少なくとも含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
【請求項4】
少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、
ポリイミド前駆体溶液と、を少なくとも含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
【請求項5】
前記フッ素系樹脂のマイクロパウダーが、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化エチレン-プロピレン共重合体、パーフルオロアルコキシ重合体、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる1種以上のフッ素系樹脂のマイクロパウダーであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
【請求項6】
前記フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤が、少なくとも含フッ素基と親油性基を含有するフッ素系添加剤であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
【請求項7】
前記非水系溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2-ヘプタノン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソペンチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、シクロヘキシルアセテート、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジオキサン、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルモノグリシジルエーテル、エチルモノグリシジルエーテル、ブチルモノグリシジルエーテル、フェニルモノグリシジルエーテル、メチルジグリシジルエーテル、エチルジグリシジルエーテル、ブチルジグリシジルエーテル、フェニルジグリシジルエーテル、メチルフェノールモノグリシジルエーテル、エチルフェノールモノグリシジルエーテル、ブチルフェノールモノグリシジルエーテル、ミネラルスピリット、2-ヒドロキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4-ビニルピリジン、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ジメチルイミダゾリン、テトラヒドロフラン、ピリジン、フォルムアミド、アセトアニリド、ジオキソラン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、フェノール、N-メチル-2-ピロリドン,N-アセチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類、各種シリコーンオイル、からなる群から選ばれる1種類の溶媒、またはこれらの溶媒を2種以上含んでいることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を用いて得られることを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を用いて得られることを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルム。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を用いて得られることを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料。
【請求項11】
フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を少なくとも含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体を作製する工程と、
該フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、を少なくとも混合して、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、
該フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂含有ポリイミドを得る工程と、
を含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミドの製造方法。
【請求項12】
フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を少なくとも含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体を作製する工程と、
該フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、を少なくとも混合して、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、
該フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂含有ポリイミドを得る工程と、
を含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミドの製造方法。
【請求項13】
フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を少なくとも含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体を作製する工程と、
該フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、を少なくとも混合して、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、
該フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料を得る工程と、
を含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料の製造方法。
【請求項14】
請求項9に記載のフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムを用いたことを特徴とする回路基板。
【請求項15】
請求項9に記載のフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムを用いたことを特徴とするカバーレイフィルム。
【請求項16】
請求項10に記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料を用いたことを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物、それを用いたポリイミド、ポリイミドフィルム、およびそれらの製造方法に関し、更に詳しくは、誘電率や誘電正接を上げる要因となるポリイミド用の添加剤が含有されていても、ポリイミド作製時のイミド化反応において添加剤を充分に除去することができ、誘電率や誘電正接をより効果的に下げることができるフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物、この組成物により得られる、耐熱性、機械特性、電気特性(低誘電率、低誘電正接)、加工性に優れるポリイミド、ポリイミドフィルム、およびそれらの製造方法などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高速化、高機能化などが進むと共に、通信速度の高速化などが求められている。こうした中、各種電子機器材料の低誘電率化、低誘電正接化が求められており、特に絶縁材料や基板材料の低誘電率化、低誘電正接化などが求められている。
【0003】
従来、ポリイミドフィルムなどを含むポリイミドは、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性、機械特性などに優れることから、電気・電子用途に広く使用されてきている。例えば、ポリイミドをフィルムとして用いる場合は、電子回路材料の絶縁基材として用いられ、粘着フィルムや粘着テープに加工されて用いられることもある。また、コーティング剤として用いる場合は、ポリイミド前駆体溶液組成物を塗布乾燥後に熱処理してイミド化し、電子回路の絶縁層(多層配線基板の層間絶縁材料)、半導体素子の表層保護膜などとして用いられることもある。
【0004】
通常、ポリイミドフィルムは、接着剤を用いて銅箔と貼り合わせたり、蒸着法、メッキ法、スパッタ法、又はキャスト法などによりフィルム層と銅箔からなる積層板(銅箔付きポリイミドフィルム)に加工されたりして、フレキシブルプリント多層回路基板の基材フィルムとして使用されている。
この銅張積層板は、銅箔部分を加工して配線パターンなどが形成されて用いられるものであるが、この配線パターンは絶縁性のカバーレイフィルムによって被覆保護されるが、このカバーレイフィルムの基材も主にポリイミドフィルムが用いられている。
【0005】
特に、近年の高密度実装に伴う回路基板や半導体パッケージ用基材などにおいては、信号伝送の高速化を図るために低誘電率、低誘電正接の絶縁樹脂を層間絶縁膜として使用することなどが主流となってきており、ポリイミドフィルムなどを含むポリイミドにも、低誘電率、低誘電正接などの電気特性が求められ始めている。
そこで、この電気特性の改善のために、耐熱性が高く、電気特性に優れているフッ素系の樹脂とポリイミドとを組み合わせて用いる方法などが提案されてきている。
【0006】
従来において、フッ素系樹脂を含有してなるポリイミド組成物、ポリイミドフィルムとしては、例えば、1)フッ素樹脂粉末が、フッ素原子を有する界面活性剤化合物の存在下に、ビフェニルテトラカルボン酸類を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とから得られた芳香族ポリイミドが前記芳香族ポリイミドを溶解可能な有機極性溶媒に均一に溶解していることを特徴とするフッ素樹脂含有ポリイミド組成物及びその製造方法(例えば、特許文献1参照)、2)特定式で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂100重量部に対し、フッ素樹脂3~60重量部および芳香族ポリアミド樹脂3~60重量部を含むことを特徴とするポリイミド樹脂(例えば、特許文献2参照)、3)可溶性ポリイミドを揮発性有機溶媒に溶解させてポリイミド溶液を提供する工程、該ポリイミド溶液にフッ化炭素樹脂粒子を加え、均一に分散させてフッ化炭素樹脂分散ポリイミド溶液を提供する工程、該フッ化炭素樹脂分散ポリイミド溶液を基材に塗布する工程、及びこれを乾燥させる工程を包含する講習は電子部品用絶縁材料の製造方法(例えば、特許文献3参照)、4)単独でまたは多層構造の成分として電子用途または電気用途に有用である単一層基板であって、単一層基板は少なくともポリイミド成分および特定の平均粒径を有するフルオロポリマー微細粉末から誘導されるフルオロポリマー成分のポリマーブレンドを含み、単一層基板は外側表面と内部コアとを有し、外側表面は、内部コア中に存在するフルオロポリマー成分の量よりも多い量のフルオロポリマー成分を含み、内部コアは、外側表面中に存在するポリイミド成分の量よりも多い量のポリイミド成分を含み、特定範囲となる総厚を有し、前記ポリマーブレンドは、前記フルオロポリマー微細粉末をポリアミック酸中に組み込み、ポリアミック酸をイミド化プロセスで処理することにより作製することを特徴とする単一層基板(例えば、特許文献4参照)、5)ポリイミドとフッ素樹脂粒子とを含む混合物が成形され加熱硬化されたフィルムであって、前記フィルムの表層近傍に存在する少なくとも一部のフッ素樹脂粒子が、前記フィルムの片面又は両面に溶融流動して析出し、部分的に又は全面にフッ素樹脂被膜を形成していることを特徴とするポリイミド複合フィルム及びその製造方法(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1~5に記載のフッ素系樹脂粉末などを含有してなるポリイミド組成物及びその製造方法等において、フッ素系樹脂含有分散体などを添加したポリイミド材料は、フッ素系樹脂の効果により誘電率や誘電正接が下げることができるが、含まれる添加剤は一般的に誘電率や誘電正接を上げることが多く、充分に電気特性を改善することが難しいという課題がある。
また、このような添加剤の存在は、ポリイミド材料の接着剤、密着性、耐熱性などの面でも不具合を生じるという課題がある。
したがって、充分な電気特性や物理特性の改善には未だ技術的な課題や限界があり、電気特性や物理特性を更に改善したフッ素系樹脂を含有してなるポリイミド組成物、ポリイミドフィルムなどが求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平2-286743号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開平3-292365号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開2002-203430号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開2005-142572号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開2007-30501号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の課題及び現状等について、これを解消しようとするものであり、誘電率や誘電正接を上げる要因となるポリイミド用の添加剤が含有されていても、ポリイミド作製時のイミド化反応において添加剤を充分に除去することができ、誘電率や誘電正接をより効果的に下げることができるフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物、この組成物により得られる耐熱性、機械特性、摺動性、絶縁性、低誘電率化、低誘電正接化などの電気特性、加工性に優れるポリイミド、ポリイミドフィルム、および、それらの製造方法、並びに、そのポリイミドやポリイミドフィルムを用いた回路基板、カバーレイフィルム、絶縁膜、配線基板用層間絶縁膜などのポリイミド絶縁材料、これらを用いた電子機器などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記従来の課題等について、鋭意検討した結果、下記の第1発明乃至第16発明により、上記目的のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物、それを用いたポリイミド、カバーレイフィルムなどが得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
すなわち、本第1発明は、少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、非水系溶媒と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であることを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物である。
【0012】
本第2発明は、少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、ポリイミド前駆体溶液と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であることを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物である。
【0013】
本第3発明は、少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、非水系溶媒と、少なくとも含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物である。
【0014】
本第4発明は、少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、ポリイミド前駆体溶液と、を少なくとも含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物である。
【0015】
本第5発明は、前記フッ素系樹脂のマイクロパウダーが、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化エチレン-プロピレン共重合体、パーフルオロアルコキシ重合体、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる1種以上のフッ素系樹脂のマイクロパウダーであることを特徴とする本第1発明乃至本第4発明のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物である。
【0016】
本第6発明は、前記フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤が、少なくとも含フッ素基と親油性基を含有するフッ素系添加剤であることを特徴とする本第1発明乃至本第5発明のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物である。
【0017】
本第7発明は、前記非水系溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2-ヘプタノン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソペンチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、シクロヘキシルアセテート、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジオキサン、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルモノグリシジルエーテル、エチルモノグリシジルエーテル、ブチルモノグリシジルエーテル、フェニルモノグリシジルエーテル、メチルジグリシジルエーテル、エチルジグリシジルエーテル、ブチルジグリシジルエーテル、フェニルジグリシジルエーテル、メチルフェノールモノグリシジルエーテル、エチルフェノールモノグリシジルエーテル、ブチルフェノールモノグリシジルエーテル、ミネラルスピリット、2-ヒドロキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4-ビニルピリジン、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ジメチルイミダゾリン、テトラヒドロフラン、ピリジン、フォルムアミド、アセトアニリド、ジオキソラン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、フェノール、N-メチル-2-ピロリドン,N-アセチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類、各種シリコーンオイル、からなる群から選ばれる1種類の溶媒、またはこれらの溶媒を2種以上含んでいることを特徴とする本第1発明乃至本第6発明のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物である。
【0018】
本第8発明は、本第1発明乃至本第7発明のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を用いて得られることを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド。
【0019】
本第9発明は、本第1発明乃至本第7発明のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を用いて得られることを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルム。
【0020】
本第10発明は、本第1発明乃至本第7発明のいずれか一つに記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を用いて得られることを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料。
【0021】
本第11発明は、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を少なくとも含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体を作製する工程と、該フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、を少なくとも混合して、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、該フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂含有ポリイミドを得る工程と、を含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミドの製造方法である。
【0022】
本第12発明は、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を少なくとも含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体を作製する工程と、該フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、を少なくとも混合して、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、 該フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂含有ポリイミドを得る工程と、を含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミドの製造方法である。
【0023】
本第13発明は、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を少なくとも含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体を作製する工程と、該フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、を少なくとも混合して、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、該フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料を得る工程と、を含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料の製造方法である。
【0024】
本第14発明は、本第9発明に記載のフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムを用いたことを特徴とする回路基板である。
【0025】
本第15発明は、本第9発明に記載のフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムを用いたことを特徴とするカバーレイフィルムである。
【0026】
本第16発明は、本第10発明に記載のフッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料を用いたことを特徴とする電子機器である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤を用いることにより、誘電率や誘電正接を上げる要因となるポリイミド用の添加剤が含有されていても、ポリイミド作製時のイミド化反応において添加剤を充分に除去することができ、誘電率や誘電正接をより効果的に下げることができるフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物、この組成物により得られる耐熱性、機械特性、摺動性、絶縁性、低誘電率化、低誘電正接化などの電気特性、加工性に優れるポリイミド、ポリイミドフィルム、および、それらの製造方法、並びに、そのポリイミドやポリイミドフィルムを用いた回路基板、カバーレイフィルム、絶縁膜、配線基板用層間絶縁膜などのポリイミド絶縁材料、これらを用いた電子機器などが提供される。
【0028】
また、本発明のポリイミド、ポリイミドフィルム等は、接着性や密着性などの低下などを抑制することができ、しかも、ポリイミド材料は湿度などの影響を受けやすいが、その影響を低減することも可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物は、下記第1発明~第4発明にてそれぞれ構成されるものである。
本第1発明は、少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、非水系溶媒と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であることを特徴とするものであり、第2発明は、少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、ポリイミド前駆体溶液と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であることを特徴とするものであり、第3発明は、少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、非水系溶媒と、少なくとも含むことを特徴とするものであり、第4発明は、少なくとも、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を含み、水分量が2000ppm以下であり、分散された状態の該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径が0.32μm以下であるフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、ポリイミド前駆体溶液と、を少なくとも含むことを特徴とするものである。
以下に、本第1発明~第4発明ごとに、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を詳述する。なお、各発明に共通する成分は、最初の第1発明等で詳述し、第2発明等以降では共通である旨を記載し、その詳述を省略する。
【0030】
〔第1発明:フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物〕
本第1発明に用いるフッ素系樹脂のマイクロパウダーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化エチレン-プロピレン共重合体(FEP)、パーフルオロアルコキシ重合体(PFA)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、テトラフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(TFE/CTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)からなる群から選ばれる少なくとも1種のフッ素系樹脂のマイクロパウダーが挙げられ、これらは一次粒子径が1μm以下となるものが好ましい。
上記フッ素系樹脂のマイクロパウダーの中でも、特に、低比誘電率、低誘電正接の材料として、樹脂材料の中で最も優れた特性を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE、比誘電率2.1)の使用が望ましい。
このようなフッ素系樹脂のマイクロパウダーは、乳化重合法により得られるものであり、例えば、ふっ素樹脂ハンドブック(黒川孝臣編、日刊工業新聞社)に記載されている方法など、一般的に用いられる方法により得ることができる。そして、前記乳化重合により得られたフッ素系樹脂のマイクロパウダーは、凝集・乾燥して、一次粒子径が凝集した二次粒子として微粉末として回収されるものであるが、一般的に用いられている各種微粉末の製造方法を用いることができる。
【0031】
フッ素系樹脂のマイクロパウダーの一次粒子径としては、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法、画像イメージング法などによって測定される体積基準の平均粒子径(50%体積径、メジアン径)が1μm以下であることが非水系溶媒中で安定に分散する上で好ましく、望ましくは、0.5μm以下、さらに望ましくは、0.3μm以下とすることにより、さらに均一な分散体となる。
このフッ素系樹脂のマイクロパウダーの一次粒子径が1μmを超えるものであると、非水系溶媒中で沈降しやすくなり、安定して分散することが難しくなるため、好ましくない。また、上記平均粒子径の下限値は、低ければ低い程良好であるが、製造性、コスト面等から、0.05μm以上が好ましい。
なお、本発明におけるフッ素系樹脂の一次粒子径は、マイクロパウダーの製造段階においてレーザー回折・散乱法や動的光散乱法などによって得られた値を指し示すものであるが、乾燥して粉体状態にしたマイクロパウダーの場合には、一次粒子同士の凝集力が強く、容易に一次粒子径をレーザー回折・散乱法や動的光散乱法などによって測定することが難しいため、画像イメージング法によって得られた値を指し示すものであってもよい。測定装置としては、例えば、FPAR-1000(大塚電子株式会社製)による動的光散乱法や、マイクロトラック(日機装株式会社製)によるレーザー回折・散乱法や、マックビュー(株式会社マウンテック社製)による画像イメージング法などを挙げることができる。
【0032】
本第1発明においては、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物全量(以下、単に「組成物全量」という)に対して、フッ素系樹脂のマイクロパウダーが5~70質量%含有されるものであることが好ましく、より好ましくは、10~50質量%含有されることが望ましい。
この含有量が5質量%未満の場合には、後述する非水系溶媒の量が多くなり、極端に粘度が低下するためにフッ素系樹脂のマイクロパウダー微粒子が沈降しやすくなるだけでなく、ポリイミド前駆体溶液組成物中において非水系溶媒の量が多いことによる不具合、例えば、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の粘度が極端に低くなることや、非水系溶媒の除去に時間を要することになるなど好ましくない状況を生じることがある。一方、70質量%を超えて大きい場合には、フッ素系樹脂のマイクロパウダー同士が凝集しやすくなり、微粒子の状態を安定的に、流動性を有する状態で維持することが極端に難しくなるため、好ましくない。
【0033】
本第1発明に用いるフッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤(以下、これらの特性を単に「熱分解特性」という場合がある)は、ポリイミド作製時のイミド化反応において添加剤を充分に除去することができ、誘電率や誘電正接をより効果的に下げることができ、また、ポリイミドは湿度などの影響を受けやすいが、その影響を低減することも可能になり、接着性や密着性、耐熱性の低下などを抑制することができるものである。
上記熱分解特性を有しない添加剤、すなわち、280℃までの温度で10%を超える重量減少を示すような添加剤の場合は、溶剤が揮発している段階やイミド化が不十分な段階で、添加剤が分解や蒸発などによりフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物から除去されてしまい、フッ素系樹脂の分散系が壊れてパウダー粒子同士が凝集してしまったりして、ポリイミド中に均一に微分散な状態を形成することができなくなり、誘電率や誘電正接を効果的に下げることができなくなったり、得られるポリイミドやポリイミドフィルムなどの表面が荒れてしまうなどして好ましくない。また、このような凝集は強度の面で悪影響を及ぼし、引っ張りや裂傷を入れた場合に凝集したフッ素系樹脂マイクロパウダーを起点としてフィルム等の破壊が起きやすくなるため好ましくない。
一方で、380℃以上で423℃までの温度で90%以上の重量減少率を示さないような、分解温度や揮発温度が高い添加剤の場合、イミド化反応の熱処理の際に充分に添加剤を除去することができず、残った添加剤が誘電率や誘電正接を上げてしまうなどするため、好ましくない。
【0034】
本第1発明に用いる添加剤、すなわち、フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤において、好ましくは、用いるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物との反応も考慮して決定することが望ましい。
また、本第1発明では、後述するようにポリイミド前駆体溶液組成物から溶媒が除去された後、加熱などによりイミド化反応が進むわけであるが、溶媒除去の段階では添加剤の分解が生じていない方が、フッ素系樹脂のマイクロパウダーが凝集するのを抑制する上で好ましい。
用いることができる上記熱分解特性を示す添加剤としては、該熱分解特性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは、少なくとも含フッ素基と親油性基を有するものが望ましく、この他に親水性基が含有されているものであってもよい。
上記熱分解特性を有し、少なくとも含フッ素基と親油性基を有するフッ素系添加剤を用いることにより、更に、組成物中又は分散体中では、分散媒となる後述する非水系溶媒の表面張力を低下させ、フッ素系樹脂のマイクロパウダー表面に対する濡れ性を向上させてフッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、含フッ素基がフッ素系樹脂のマイクロパウダー表面に吸着し、親油性基が溶媒となる非水系溶媒中に伸長し、この親油性基の立体障害によりフッ素系樹脂のマイクロパウダーの凝集を防止して分散安定性を更に向上させるものとなり、また、当該添加剤は、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までであるので、上記作用後においては、上述の如く、ポリイミド作製時のイミド化反応において充分に除去することができるため、添加剤による誘電率や誘電正接を上げる要因を排除でき、電気特性を更に改善することができるものとなる。
【0035】
含フッ素基としては、例えば、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルケニル基などが挙げられ、親油性基としては、例えば、アルキル基、フェニル基、シロキサン基などの1種又は2種以上が挙げられ、親水性基としては、例えば、エチレンオキサイドや、アミド基、ケトン基、カルボキシル基、スルホン基などの1種又は2種以上が挙げられる。
具体的に用いることできる上記熱分解特性を有し、少なくとも含フッ素基と親油性基を有するフッ素系添加剤としては、市販のパーフルオロアルキル基含有のメガファックシリーズ(DIC社製)の中では、メガファックF-558,メガファックF-561、メガファックF-563など、パーフルオロアルキル基含有のフタージェントシリーズ(ネオス社製)の中では、フタージェント710FMなどを用いることができる。
これらの熱分解特性等を有する添加剤は、上述の如く、用いるフッ素系樹脂のマイクロパウダーと溶媒の種類によって、適宜最適なものが選択されるものであるが、1種類、または2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。これらは、用いるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物との反応も考慮して決定することが望ましい。
【0036】
前記熱分解特性を有する添加剤の含有量は、フッ素系樹脂のマイクロパウダーの質量に対して、0.1~50質量%含有されるものであるが、望ましくは、5~35質量%、さらに望ましくは、15~25質量%含有されることが好ましい。
この含有量がフッ素系樹脂のマイクロパウダーの質量に対して、0.1質量%未満では、フッ素系樹脂のマイクロパウダー表面を充分に油性溶剤などの非水系溶媒に濡らすことができず、また、熱分解特性を発揮することができず、一方、50質量%超過では分散体の泡立ちが強くなって分散の効率が低下し、分散体自体の取扱いやその後に樹脂材料などと混ぜ合わせる際にも不具合を生じることなどがあり、好ましくない。
【0037】
本第1発明に用いるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体としては、例えば、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、また、前記テトラカルボン酸二無水物の誘導体であるテトラカルボン酸二無水物と同一の骨格を有するテトラカルボン酸、そのテトラカルボン酸の酸塩化物、そのテトラカルボン酸と炭素数1~4の低級アルコールとエステル等が挙げられ、これらは、単独でも2種以上混合しても用いることができる。
好ましくは、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)の使用が望ましい。
このテトラカルボン酸二無水物及び/その誘導体の含有量は、製造性、ポリイミドの用途、要求特性等に応じて変動するものである。
【0038】
本第1発明に用いるジアミン化合物としては、例えば、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3-メチルヘプタメチレンジアミン、4,4-ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11-ジアミノドデカン、1,2-ビス-3-アミノプロポキシエタン、2,2-ジメチルプロピレンジアミン、3-メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘプタメチレンジアミン、3-メチルへプタメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、2,4-ジアミノトルエン、ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェニル)メタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,4-ビス(β-アミノ-第三ブチル)トルエン、ビス(p-β-アミノ-第三ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-6-アミノフェニル)ベンゼン、ビス-p-(1,1-ジメチル-5-アミノ-ペンチル)ベンゼン、1-イソプロピル-2,4-m-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、ジ(p-アミノシクロヘキシル)メタン、2,17-ジアミノエイコサデカン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,10-ジアミノ-1,10-ジメチルデカン、1,12-ジアミノオクタデカン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられ、これらは、単独でも2種以上混合しても用いることができる。
好ましくは、p-フェニレンジアミン(PPD)、ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェニル)メタン(MBAA)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を用いることが望ましい。
このジアミン化合物の含有量は、製造性、ポリイミドの用途、要求特性等に応じて変動するものである。
【0039】
本第1発明において、上記テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物の組合せとしては、好ましくは、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)と4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、s-BPDAとp-フェニレンジアミン(PPD)等の組合せが挙げられる。
【0040】
本第1発明に用いる非水系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2-ヘプタノン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソペンチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、シクロヘキシルアセテート、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジオキサン、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルモノグリシジルエーテル、エチルモノグリシジルエーテル、ブチルモノグリシジルエーテル、フェニルモノグリシジルエーテル、メチルジグリシジルエーテル、エチルジグリシジルエーテル、ブチルジグリシジルエーテル、フェニルジグリシジルエーテル、メチルフェノールモノグリシジルエーテル、エチルフェノールモノグリシジルエーテル、ブチルフェノールモノグリシジルエーテル、ミネラルスピリット、2-ヒドロキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4-ビニルピリジン、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ジメチルイミダゾリン、テトラヒドロフラン、ピリジン、フォルムアミド、アセトアニリド、ジオキソラン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、フェノール、N-メチル-2-ピロリドン,N-アセチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類、各種シリコーンオイル、からなる群から選ばれる1種類の溶媒、またはこれらの溶媒を2種以上含んでいるものが挙げられる。
これらの非水系溶媒の中で、好ましくは、用いるポリイミドの用途等により変動するものであるが、フォルムアミド、アセトアニリド、ジオキソラン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、N-メチル-2-ピロリドン,N-アセチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類、キシレン、アセトンが挙げられる。
この非水系溶媒の含有量は、上記各成分の残部となるものである。
【0041】
〔第1発明:フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の調製〕
本第1発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物は、少なくとも、上述のフッ素系樹脂のマイクロパウダーと、上記熱分解特性を示す添加剤と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物とを混合することなどにより調製することができ、フッ素系樹脂のマイクロパウダーを組成物中に凝集や沈降することなく均一に混合することができるものであれば、その添加、混合の順番は限定されるものではなく、公知の方法や所定の条件などを好適に採用することができる。
この調製における重合反応の際のモノマー濃度、すなわち、溶媒中のテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体、及びジアミン化合物の合計の濃度は、種々の条件に応じて設定されるものであるが、通常、反応させる組成物全量において5~30質量%程度が好ましい。
この濃度が5質量%未満であると、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体、及びジアミン化合物の反応性が悪く、反応が進行するまでに時間を要したり、または製膜時に除去する溶媒量が増えるなど経済的でなくなり、一方、濃度が30質量%超過であると、重合時の粘度が高くなりすぎたり、あるいは析出などの問題が生じてくる。また、反応温度は80℃以下、特に、5~50℃に設定することが好ましい。反応温度を上記温度5℃より低すぎると、反応が進行しない、あるいは反応が進行するまでに時間がかかりすぎ、一方、反応温度が80℃を超えて高すぎると、イミド化が進行してしまうなどの問題が生じてくる。反応時間は、好ましくは、1~100時間程度である。
【0042】
〈第2発明:フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物〉
本第2発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物は、少なくとも、上記フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、上記熱分解特性を示す添加剤と、ポリイミド前駆体溶液と、を含むことを特徴とするものであり、上記各成分等の詳述は上記第1発明と同様であるので、その説明を省略する。
この第2発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物では、予め調製したポリイミド前駆体溶液に、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと上記熱分解特性を示す添加剤ととを所定量を添加、混合することにより、組成物中にフッ素系樹脂のマイクロパウダーを凝集や沈降することなく均一に分散することができるものとなる。
【0043】
本第2発明に用いるポリイミド前駆体溶液は、少なくとも、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、非水系溶媒とを含むものであり、その調製はテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物を非水系溶媒の存在下で反応させることなどにより得られる。なお、本第2発明において、「ポリイミド前駆体溶液」は、使用する非水系溶媒を含有する概念である。
用いるポリイミド前駆体溶液の調製は、公知の方法や所定の条件などを好適に採用することができ、例えば、上述の非水系溶媒に所定の組成比となる上述のテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物を加え、撹拌することにより調製することができる。ポリイミド前駆体溶液中におけるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体、及びジアミン化合物の合計の濃度は、上記第1発明と同様に、種々の条件に応じて設定されるが、通常、反応溶液全量(ポリイミド前駆体溶液全量)において5~30質量%が好ましい。これらを撹拌する際の反応条件は、特に限定されないが、反応温度は80℃以下、特に5~50℃に設定することが好ましい。反応温度が低すぎると反応が進行しない、あるいは反応が進行するまでに時間がかかりすぎ、高すぎるとイミド化が進行してしまうなどの問題が生じてくる。また、反応時間は1~100時間であることが好ましい。
【0044】
〔第3発明:フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物〕
本第2発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物は、少なくとも、上記フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、上記熱分解特性を示す添加剤と、非水系溶媒と、を含むフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、非水系溶媒と、を少なくとも含むことを特徴とするものであり、上記各成分等の詳述は上記第1発明と同様であるので、その説明を省略する。
本第3発明では、上記第1発明に較べ、予め、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、上記熱分解特性を示す添加剤と、非水系溶媒とを含むフッ素系樹脂のマイクロパウダー分散体を調製したものを用いるものであり、この分散体に、上記第1発明のテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、非水系溶媒を所定量添加、混合することなどによりフッ素系樹脂のマイクロパウダーが組成物中に凝集や沈降することなく均一に分散したフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物が得られるものである。
本第3発明の上記フッ素系樹脂のマイクロパウダー分散体は、分散状態においてフッ素系樹脂のマイクロパウダーのレーザー回折・散乱法または動的光散乱法による平均粒子径が、1μm以下となるものである。一次粒子径が1μm以下のフッ素系樹脂のマイクロパウダーを用いた場合であっても、通常、一次粒子が凝集し、二次粒子として粒子径が1μm以上のマイクロパウダーとなっている。このフッ素系樹脂のマイクロパウダーの二次粒子を1μm以下の粒子径となるように分散することにより、例えば、超音波分散機、3本ロール、湿式ボールミル、ビーズミル、湿式ジェットミル、高圧ホモジナイザーなどの分散機を用いて分散することにより、低粘度で長期保存した場合でも安定な分散体を得ることができるものである。
【0045】
〔第4発明:フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物〕
本第4発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物は、少なくとも、上述のフッ素系樹脂のマイクロパウダーと、上記熱分解特性を示す添加剤と、上記非水系溶媒と、を含むフッ素系樹脂のマイクロパウダー分散体と、ポリイミド前駆体溶液と、を少なくとも含むことを特徴とするものであり、上記各成分等の詳述は上記第1発明と同様であるので、その説明を省略する。
本第4発明では、上記第3発明の予め調製したフッ素系樹脂のマイクロパウダー分散体と、上記第2発明の予め調製したポリイミド前駆体溶液とを用いるものであり、この分散体と、ポリイミド前駆体溶液を所定量添加、混合することなどによりフッ素系樹脂のマイクロパウダーが組成物中に凝集や沈降することなく均一に分散したフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物が得られるものである。
【0046】
本発明では、上記第1発明~第4発明の各発明を実施等することにより、フッ素系樹脂のマイクロパウダーが組成物中に凝集や沈降することなく均一に微粒子分散したフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物が得られるものである。好ましくは、作業性、微粒子分散に優れ、粘度変化が少ない点、第2発明~第4発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の使用が望ましく、更に好ましくは、第4発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物である。
また、上記第1発明~第4発明においては、上記非水系溶媒を用いるものであるが、他の溶媒と組み合わせて用いることや他の溶媒を用いることもできるものであり、用いるポリイミドの用途(回路基板、カバーレイフィルム、絶縁材料など)により好適なものが選択される。
【0047】
更に、用いる非水系溶媒の極性によっては水との相溶性が高いものが考えられるが、水分量が多いとフッ素系樹脂のマイクロパウダーの溶媒中、または、組成物中への分散性を阻害し、粘度上昇や粒子同士の凝集を引き起こすことがある。
上記第1発明~第4発明においては、用いる非水系溶媒、フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体、また、得られるフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物は、カールフィッシャー法による水分量が、それぞれ、5000ppm以下〔0≦水分量≦5000ppm〕となることが好ましい。本発明(後述する実施例を含む)において、カールフィッシャー法による水分量の測定は、JIS K 0068:2001に準拠するものであり、例えば、MCU-610(京都電子工業社製)により測定することができる。用いる非水系溶媒、分散体、得られる組成物の各水分量を5000ppm以下に調整することで、更に、微粒子径で低粘度、保存安定性に優れたフッ素系樹脂のマイクロパウダーの非水系分散体とすることができ、また、得られるフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物も更に微粒子分散されいるので、微粒子径で低粘度、保存安定性に優れたものとなる。
更に好ましくは、各水分量は、3000ppm以下、より好ましくは、2500ppm以下、特に2000ppm以下とすることが望ましい。なお、上記水分量以下の調整としては、一般的に用いられている油性溶剤などの溶媒の脱水方法を用いることが可能であるが、例えば、モレキュラーシーブスなどを用いることができる。また、上記第3発明又は第4発明のフッ素系樹脂マイクロパウダー非水系分散体は、加熱や減圧などによる脱水を行うことで充分に水分量を下げた状態で使用することができる。さらに、フッ素系樹脂の非水系分散体を作製した後に、モレキュラーシーブスや膜分離法などを用いて水分除去することも可能であるが、上記した方法以外であっても、フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体の水分量を下げることができるものであれば、特に限定されることなく用いることができる。
フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体においては、用いるフッ素系樹脂のマイクロパウダーの平均粒子径、または、分散状態における平均粒子径が小さくなるほどに水分の影響を受けやすくなる。特に、1μm以下となる場合には分散体の保存安定性が著しく悪くなるだけでなく、ポリイミド前駆体溶液との混合、添加時において、フッ素系樹脂マイクロパウダーが凝集、沈降するなどしやすくなり、フッ素系樹脂マイクロパウダーを均一に分散させた状態を維持することが困難になり、保存時の粘度上昇が大きくなるなどの不具合を生じることがある。さらには、溶媒が除去される段階におけるフッ素系樹脂のマイクロパウダーの凝集が進みやすくなり、最終的に得られるポリイミドやポリイミドフィルムの物理特性、電気特性などに悪影響を及ぼすことにもなる。
【0048】
上記第1発明~第4発明において、上記非水系溶媒には、さらに、シリコーン系消泡剤を含有させることができる。特に、フッ素系樹脂のマイクロパウダーを70質量%であったりと、高濃度で使用する場合や、第3発明~第4発明のように予めフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体の調製などする際に、分散体の泡立ちが分散体の製造工程、安定性、樹脂材料などとの混合の際に問題を引き起こすことにつながる場合がある。
用いることができる消泡剤としては、シリコーン系のエマルジョン型、自己乳化型、オイル型、オイルコンパウンド型、溶液型、粉末型、固形型などがあるが、用いる非水系溶媒との組合せで、適宜最適なものが選択されることになる。特に、非水系溶媒とPTFE等のフッ素系樹脂との界面よりも、非水系溶媒と空気との界面に存在させるために、例えば、親水性や水溶性のシリコーン系消泡剤を用いることが好ましいが、これらに限定されることなく、用いることができるものである。消泡剤の含有量は、フッ素系樹脂のマイクロパウダーの含有量(濃度)等により変動するものであるが、組成物全量に対して、好ましくは、有効成分として1質量%以下である。
【0049】
〔第1発明~第4発明の各フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物より得られるポリイミド、ポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料の調製、その製造方法〕
本発明のポリイミド、ポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料は、上記で調製した第1発明~第4発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、誘電率や誘電正接をより効果的に下げ、耐熱性、機械特性、摺動性、絶縁性、低誘電率化、低誘電正接化などの電気特性、加工性に優れるポリイミド、ポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料が得られることとなる。
上記で調製した第1発明~第4発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中には、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤が含有されているので、誘電率や誘電正接を上げる要因となるポリイミド用の添加剤が含有されていても、ポリイミド作製時のイミド化反応において添加剤を充分に除去することができ、誘電率や誘電正接をより効果的に下げることができ、また、ポリイミドは湿度などの影響を受けやすいが、その影響を低減することも可能になり、接着性や密着性、耐熱性の低下などを抑制することができるものとなる。
【0050】
本発明のフッ素系樹脂含有ポリイミドの製造方法としては、例えば、フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を少なくとも含むフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体を作製する工程と、該フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、を少なくとも混合して、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、
該フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂含有ポリイミドを得る工程と、を含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミドの製造方法が挙げられ、また、本発明のフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムの製造方法としては、例えば、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を少なくとも含むフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体を作製する工程と、該フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、を少なくとも混合して、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、該フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムを得る工程と、を含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムの製造方法が挙げられ、本発明のフッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料の製造方法としては、例えば、フッ素系樹脂のマイクロパウダーと、該フッ素系樹脂のマイクロパウダーの分散性を向上させると共に、窒素雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で、初期の固形分重量に対し10%の重量減少率を示す温度が280℃以下で、かつ、90%の重量減少率を示す温度が380℃以上で423℃までである添加剤と、非水系溶媒と、を少なくとも含むフッ素系樹脂マイクロパウダー分散体を作製する工程と、該フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体と、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミン化合物と、を少なくとも混合して、フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を作製する工程と、該フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料を得る工程と、を含むことを特徴とするフッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料の製造方法が挙げられる。なお、上記各製造方法において、イミド化の方法(硬化処理)は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0051】
例えば、フッ素系樹脂が分散されたポリイミド、ポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料を作製する場合、ポリイミド用基材、ポリイミドフィルム用基材の表面に上記で得られたフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を塗布して膜状物(塗膜)を形成させ、該膜状物を加熱処理して、溶媒を除去、イミド化反応を行うことにより上記熱分解特性を示す添加剤が除去されたフッ素系樹脂が分散されたポリイミド、ポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料を得ることができる。
用いることができる基材としては、例えば、液体や気体を実質的に透過させない程度の緻密構造を有していれば、形状や材質で特に限定されるものではなく、通常のフィルムを製造する際に用いられるそれ自体公知のベルト、金型、ロール、ドラムなどのフィルム形成用基材、その表面にポリイミド膜を絶縁保護膜として形成する回路基板などの電子部品や電線、表面に皮膜が形成される摺動部品や製品、ポリイミド膜を形成して多層化フィルムや銅張積層基板を形成する際の一方のフィルムや銅箔などを好適に挙げることができる。
【0052】
また、これらの基材に、ポリイミド前駆体溶液組成物を塗布する方法としては、例えばスプレー法、ロールコート法、回転塗布法、バー塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、スリットコート法などのそれ自体公知の方法を適宜採用することができる。
この基材に塗布されて形成されたポリイミド前駆体溶液組成物からなる膜状物、フィルム、絶縁材料等は、例えば、減圧下又は常圧下で室温以下など比較的低温で加熱する方法で脱泡しても構わない。
【0053】
基材上に形成されたポリイミド前駆体溶液組成物からなる膜状物などは、加熱処理することによって、溶媒を除去し、かつイミド化されてポリイミド、ポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料が形成される。加熱処理は、いきなり高温で加熱処理するよりも最初に140℃以下の比較的低温で溶媒を除去し、次いで最高加熱処理温度まで温度を上げてイミド化する加熱処理が好適である。最高加熱処理温度はポリイミド種、ポリイミド用途、熱分解性の添加剤により変動するが、600℃以下の温度が採用できるが、好ましくは500℃以下、より好ましくは350~450℃の温度範囲で加熱処理することができる。また、加熱処理と併用してアミン系化合物などの触媒を用いてイミド化反応を進めることもできる。さらにまた、イミド化の過程において発生した水を速やかに除去するための脱水剤としてカルボン酸無水物などを用いることもできるものである。
ポリイミド、ポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料は用途に応じて、その厚さが適宜調整され、例えば、厚みが0.1~200μm、好ましくは3~150μm、より好ましくは5~130μmのポリイミド膜、フィルムが好適に用いられる。加熱温度が250℃よりも低い場合イミド化が十分に進行せず、450℃を超えると熱分解などにより機械特性の低下などの問題が生じてくる。また、膜厚が200μmを超えると溶媒を十分に揮発させることができずに機械特性の低下、あるいは熱処理中に発泡を生じるなどの問題が起こる場合がある。
【0054】
上記第1発明~第4発明の各フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミド膜、ポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料中のフッ素系樹脂のマイクロパウダー濃度は、特に限定されるものではないが、ポリイミドの質量に対して好ましくは、1~70質量%、より好ましくは、5~50質量%、更に好ましくは、10~35質量%程度が好適である。フッ素系樹脂のマイクロパウダー濃度が小さすぎるとフッ素系樹脂のマイクロパウダーの添加効果がなく、また、フッ素系樹脂のマイクロパウダー濃度が大きすぎるとポリイミドの機械特性などが低下することになる。
【0055】
〔回路基板〕
本発明の回路基板は、上記第1発明~第4発明の各フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミドフィルムを用いたことを特徴とするものである。
本発明の回路基板は、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)では、上記フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物から得られる絶縁性のフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムと金属箔をエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂などの接着剤組成物で貼り合わせて金属箔積層板(CCL)を作製し、その金属箔に回路を施すことで製造することができる。
前記絶縁性のフッ素系樹脂含有フィルムとなる本発明のポリイミドフィルムの厚さは、十分な電気絶縁性と金属箔積層板の厚さ、および柔軟性などを勘案して、好適な範囲で選択可能であり、好ましくは、5~50μm、より好ましくは、7~45μmが望ましい。
前記接着剤組成物の厚さは、ポリイミドフィルムとの界面密着性、積層板の柔軟性、接着強度などの点から、好ましくは、1~50μm、より好ましくは、3~30μmが望ましい。
前記金属箔としては、導電性を有する金属箔を有するものが挙げられ、例えば、金、銀、銅、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、これらの合金などが例示される。導電性、取扱いの容易性、価格等の観点から、銅箔やステンレス箔が好適に用いられる。銅箔としては、圧延法や電解法によって製造されるいずれのものでも使用することができる。
金属箔の厚さは、電気伝導性、絶縁性フィルムとの界面密着性、積層板の柔軟性、耐折り曲げ性の向上や、回路加工においてファインパターンを形成しやすいという点、配線間の導通性の点などを勘案して好適な範囲が設定でき、例えば、1~35μmの範囲内が好ましく、より好ましくは5~25μmの範囲内、特に好ましくは8~20μmの範囲内である。
また、使用する金属箔は、マット面の表面粗さRz(十点平均粗さ)が0.1~4μmの範囲内であることが好ましく、0.1~2.5μmの範囲内がより好ましく、特に、0.2~2.0μmの範囲内であることが好ましい。
【0056】
このように構成される本発明の回路基板は、絶縁性フィルムとして、上記第1発明~第4発明の各フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミドフィルムを用いることにより、比誘電率と誘電正接が低く、耐熱性、電気絶縁性や機械特性に優れる回路基板が得られるものとなる。
【0057】
〔カバーレイフィルム〕
次に、本発明のカバーレイフィルムは、上記第1発明~第4発明の各フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物により得られた絶縁性のフッ素系樹脂含有ポリイミドフィルムと、該ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に接着剤層が形成されたことを特徴とするものである。
用いる接着剤層としては、前記回路基板に用いたエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂などの接着剤組成物が使用される。
本発明のカバーレイフィルムは、フレキシブルプリント配線板(FPC)用などの表面保護フィルム等として用いるものであり、得られるポリイミドフィルム上に、接着剤層が形成されたものであり、接着剤層上に保護層となる紙やPETフィルムなどのセパレーター(剥離フィルム)が接合されたものである。なお、このセパレーター(剥離フィルム)は、作業性、保存安定性などを勘案して、必要に応じて、設けられるものである。
前記ポリイミドフィルムの厚さは、十分な電気絶縁性と保護性、および柔軟性などを勘案して、好適な範囲で選択可能であり、好ましくは、5~200μm、より好ましくは、
7~100μmが望ましい。前記接着剤組成物の厚さは、絶縁性フィルムとの界面密着性、接着強度などの点から、好ましくは、1~50μm、より好ましくは、3~30μmが望ましい。
【0058】
このように構成される本発明のカバーレイフィルムは、上記第1発明~第4発明の各フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物より得られるポリイミドフィルム上に、コンマロールコーター、リバースロールコーターなどを用いて塗布により接着剤組成物からなる接着剤層を形成させ、乾燥して半硬化状態(組成物が乾燥した状態またはその一部で硬化反応が進行している状態)にし、次に、上述の保護層となるセパレーター(剥離フィルム)を積層することにより比誘電率と誘電正接が低く、耐熱性、寸法安定性、電気特性などにも優れた特性を有するカバーレイフィルムを製造することができる。
【0059】
〔電子機器〕
本発明の電子機器は、上記第1発明~第4発明の各フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物より得られるフッ素系樹脂含有ポリイミド絶縁材料を用いたことを特徴とするものであり、例えば、優れた電気特性(低比誘電率、低誘電正接)、電気絶縁性が要求される各種電子機器、例えば、薄型携帯電話、ゲーム機、ルーター装置、WDM装置、パソコン、テレビ、ホーム・サーバー、薄型ディスプレー、ハードディスク、プリンター、DVD装置をはじめ、各種電子機器の本体や部品などの絶縁材料などに用いることができる。
【0060】
本発明では、上述の第1発明~第4発明のポリイミド前駆体溶液組成物により得られる耐熱性、機械特性、摺動性、絶縁性、低誘電率化、低誘電正接化などの電気特性、加工性に優れるポリイミドやポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料を用いた上記回路基板、カバーレイフィルム、電子機器以外にも、これらのポリイミドやポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料を用いて、絶縁膜、配線基板用層間絶縁膜、表面保護層、摺動層、剥離層、繊維、フィルター材料、電線被覆材、ベアリング、塗料、断熱軸、トレー、シームレスベルトなどの各種ベルト、テープ、チューブなどの用途に好適に用いることができる。
【実施例
【0061】
以下に、本発明について、更に実施例、比較例を参照して詳しく説明する。なお、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0062】
〔実施例1~4及び比較例1~2〕
〔フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体の調製〕
下記表1に示す配合処方にて、非水系溶媒中に上記熱分解特性を示す添加剤を充分に攪拌混合、溶解した後、フッ素系樹脂のマイクロパウダーとしてPTFEマイクロパウダーを添加して、さらに攪拌混合を行った。その後、得られたPTFE混合液を、横型のビーズミルを用いて、0.3mm径のジルコニアビーズにて分散し、各分散体を得た。
熱分解特性を示す添加剤の10%減量温度、90%減量温度の測定は、重量減少は熱分析装置TG-DTA8120(リガク社製)を用い、毎分20℃の昇温速度で、窒素雰囲気中で測定した。
得られた各分散体におけるPTFEの平均粒子径をFPAR-1000(大塚電子株式会社製)による動的光散乱法で測定した。
下記表1に分散体1~6の配合処方、用いた各添加剤の10%減量温度、90%減量温度、得られた分散体におけるPTFEの平均粒子径を示す。また、得られた各分散体の水分量を測定したところ、カールフィッシャー法による各水分量は、それぞれ、500~1300ppmの範囲内であった。
【0063】
【表1】
【0064】
〔フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の調製〕
<実施例1>
(a)ポリイミド前駆体溶液の調製
攪拌機と窒素ガス配管を有するガラス製容器に、N,N-ジメチルホルムアミドを400質量部、p-フェニレンジアミンを27質量部、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を73質量部、を添加、混合し、充分に撹拌して、固形分濃度18質量%のポリイミド前駆体溶液を得た。
(b)フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体は、上記表1の分散体1を用いた。
【0065】
(c)フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物の製造
上記(a)で調製したポリイミド前駆体溶液に分散体1(PTFE含有量:30質量%)を18質量部添加し、10分間攪拌、混合し、樹脂成分に対してPTFEが30質量%含有されるフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
(d)フッ素系樹脂を含有するポリイミド膜の製造
上記(c)で得られたフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物を、基材となるガラス板上にバーコーターによって塗布し、減圧下25℃で50分、脱泡及び予備乾燥した後、常圧、窒素雰囲気下で、120℃で45分、150℃で30分、200℃で15分、250℃で10分、400℃で10分加熱処理をして、厚さが50μmのポリイミド膜(1)を形成した。
【0066】
<実施例2>
フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体として、上記表1の分散体2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、ポリイミド膜(2)を形成した。
【0067】
<実施例3>
フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体として、上記表1の分散体3を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、ポリイミド膜(3)を形成した。
【0068】
<実施例4>
フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体として、上記表1の分散体4を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、ポリイミド膜(4)を形成した。
【0069】
<比較例1>
フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体として、上記表1の分散体5を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、ポリイミド膜(5)を形成した。
【0070】
<比較例2>
フッ素系樹脂マイクロパウダー分散体として、上記表1の分散体6を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて、ポリイミド膜(6)を形成した。
【0071】
〔評価〕
上記実施例1~6及び比較例1において得られたフッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物のPTFEの平均粒子径を下記方法で測定すると共に、ポリイミド膜(1)~(6)の状態、比誘電率と誘電正接の各評価を下記各方法により行った。
これらの結果を下記表2に示す。
【0072】
(フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物中のフッ素樹脂粒子の平均粒子径の測定方法)
フッ素系樹脂含有ポリイミド前駆体溶液組成物をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いて希釈し、FPAR-1000(大塚電子株式会社製)による動的光散乱法でPTFEの平均粒子径を測定し、凝集状態を評価した。
【0073】
(ポリイミド膜の状態の評価方法)
ポリイミド膜の状態を目視にて観察し、下記各評価基準で状態を官能評価した。
ポリイミド膜の状態の評価基準
○:PTFEの凝集物などの異物がなく、平滑な表面が形成されている
△:PTFEの凝集物などの異物が確認される
×:PTFEの凝集物や気泡など、表面が荒れている。
【0074】
(ポリイミド膜の比誘電率と誘電正接の測定方法)
実施例1~4及び比較例1~2において得られたポリイミド膜をガラス板から剥がし、JIS C6481-1996の試験規格に準じて、インピーダンス分析器(Impedence Analyzer)を用いて、25℃、1kHzの周波数で、比誘電率と誘電正接を測定した。
【0075】
【表2】
【0076】
上記表2の結果から明らかなように、実施例1~4はポリイミド膜の表面状態も平滑で、誘電率も誘電正接も低い値を示しているが、比較例1,2は、フッ素樹脂のマイクロパウダーの凝集が見られ、若干平滑性が悪い部分が見られ、誘電率、誘電正接の値も、実施例に比べ高い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
耐熱性、機械特性、摺動性、絶縁性、低誘電率化、低誘電正接化などの電気特性、加工性に優れるポリイミド、ポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料、そのポリイミドやポリイミドフィルムを用いた回路基板、カバーレイフィルム、また、絶縁膜、配線基板用層間絶縁膜などのポリイミド絶縁材料を用いた電子機器、並びに、これらのポリイミド、ポリイミドフィルム、ポリイミド絶縁材料を用いた表面保護層、摺動層、剥離層、繊維、フィルター材料、電線被覆材、ベアリング、塗料、断熱軸、トレー、シームレスベルトなどの各種ベルト、テープ、チューブなどに好適に利用される。