(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】構造部材
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20220623BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20220623BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20220623BHJP
B60R 19/04 20060101ALI20220623BHJP
B62D 29/04 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B32B15/08 105Z
B29C65/48
B32B15/20
B60R19/04 M
B62D29/04 Z
(21)【出願番号】P 2016191624
(22)【出願日】2016-09-29
【審査請求日】2019-09-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2015255510
(32)【優先日】2015-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 寛規
(72)【発明者】
【氏名】吉田 朋夫
【合議体】
【審判長】久保 克彦
【審判官】山崎 勝司
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/10168(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 63/00-63/48
B29C 65/00-65/82
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
B60R 19/00-19/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1200mm以上の長さを有するバー状の構造部材であって、
全て質量%で、Zn:6.0~7.2%,Mg:1.0~1.9%,Cu:0.1~0.4%,Zr:0.15~0.25%,Ti:0.05%以下であって、残部がAlと不純物からなるアルミニウム合金を用いた展伸部材と、
当該展伸部材に表面側から圧縮曲げ荷重を受けた際に引張応力が発生する裏面側に
直接接着剤にて接着接合した炭素繊維強化樹脂部材とを有し、
前記炭素繊維強化樹脂部材は展伸部材の長手方向に配向した炭素繊維を体積率で50~70%含有するシート状の複合材であり、
かつ、接着面に炭素繊維が露出するように加工してあることを特徴とする構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金を用いた展伸部材と繊維強化樹脂材との複合化を図った構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の分野において、バンパーリインフォース,ドアビーム等の構造部材には軽量化,耐衝撃吸収性,高剛性等が要求される。
アルミニウム合金を用いた構造材は高強度の軽量部材ではあるが、近年さらなる軽量化,耐衝撃吸収性が要求される。
例えば、特許文献1には角パイプの4つの側面にそれぞれ溝を設けてCFRP平板を嵌合接着したCFRP補強パイプを開示する。
しかし、同公報に開示する複合部材は、捩り剛性の向上を目的としたものであり、曲げ剛性向上を目的としたものでないため、4つの側面全てにCFRPを嵌合接着することは製造工数が大きく、高価となる。
特許文献2には、衝撃荷重が作用する側が塑性変形容易な衝撃吸収材(アルミニウム合金)、その反対側が高強度軽量材(繊維強化プラスチック)からなるビーム状の部材を開示する。
しかし、同公報に開示する複合部材は、衝撃吸収材が塑性変形するように、引っ張り側に繊維強化プラスチックを用いたものであり、同公報に炭素繊維よりもガラス繊維で強化されたプラスチックの方がよいと明記されているとおり、ビーム部材の全長の撓みを大きくするのが目的である。
よって、ポール衝突等の局部的な衝撃には耐えられなく、ガラス繊維強化プラスチックが破断する恐れが高い。
特許文献3には、金属材と繊維強化プラスチック材とを粘着剤で粘着接合する複合部材を開示する。
しかし、同公報に開示する発明は、リサイクル時に2つの材料を分離しやすくするのが目的であり、高剛性の向上には不充分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-210937号公報
【文献】特開平6-101732号公報
【文献】特開2002-240658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、軽量で高剛性であるアルミニウム合金展伸部材と炭素繊維強化部材とを複合化した構造部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る構造部材は、所定の長さを有するバー状の構造部材であって、アルミニウム合金を用いた展伸部材と、展伸部材に表面側から圧縮曲げ荷重を受けた際に引張応力が発生する裏面側に接着剤にて接着接合した炭素繊維強化樹脂部材とを有し、前記炭素繊維強化樹脂部材は展伸部材の長手方向に配向した炭素繊維を体積率で50~70%含有するシート状の複合材であることを特徴とする。
ここで所定の長さを有するバー状の構造部材と表現したのは、車両や各種産業機械等の構造部材として使用できるだけの所定の長さを有するものをいう。
車両用の構造部材としては、バンパーリインフォース,ドアビーム等が例として挙げられる。
このような構造部材にポール衝突等の曲げ圧縮荷重が表面側に加わると、それが裏面側の炭素繊維強化樹脂部材に引張応力荷重として伝達される。
そこで本発明は、体積率で50~70%含有する炭素繊維を構造部材の長手方向に配向させた炭素繊維強化樹脂(CFRP)を用いた。
【0006】
本発明に係るアルミニウム合金からなる展伸部材は、0.2%耐力値で420MPa以上のものが好ましい。
高耐力の展伸部材を用いることで、軽量化を図ることができる。
ここで展伸部材は、押出材,引抜材等であってよく、アルミニウム合金の化学組成はJIS7000系であって、下記の範囲のものを用いることができる。
以下、全て質量%で、Zn:6.0~7.2%,Mg:1.0~1.9%,Cu:0.1~0.4%,Zr:0.15~0.25%,Ti:0.05%以下であって、残部がAlと不純物である。
ここで好ましくは、Zn:6.4~7.0%,Mg:1.05~1.60%,Cu:0.2~0.3%である。
なお、不純物としては、Si:0.1%以下,Fe:0.25%以下が好ましい。
また、Crは0.001~0.05%、Mnは0.3%以下の範囲にて含まれていてもよい。
展伸部材の断面形状としては、コ字形状等異形状のソリッド断面形状や口字形状,日字形状,目字形状等の中空断面形状であってもよい。
【0007】
本発明において、炭素繊維強化樹脂部材は、接着面に炭素繊維が露出するように加工してあってもよく、このように接着面に炭素繊維を例えばショットブラスト等にて露出させることで接着剤による密着性が向上する。
また、上記露出面の面粗さは、Rz=5~50μmの範囲、好ましくはRz=20~30μmの範囲である。
【0008】
本発明において、接着剤は接着剪断力15MPa以上であるのが好ましい。
また、接着剤の伸びは、75%以上で250%以下が好ましい。
これにより、アルミニウム合金からなる展伸部材の曲げ変形に追随しつつ、補強効果が発現する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る構造部材にあっては、アルミニウム合金の展伸部材に押し込み方向の曲げ荷重が負荷されると反対側のCFRP部材に引張応力として伝達されるので、全体として変形量を抑えつつ耐荷重が向上し、軽量化を図るのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】評価に用いたアルミニウム合金の化学組成を示す。
【
図2】評価に用いた展伸部材(押出形材)の製造条件及び物性値を示す。
【
図3】評価に用いた炭素繊維強化樹脂(CFRP)の物性値を示す。
【
図4】評価に用いた接着剤及びその接着条件を示す。
【
図5】構造部材の性能(強度,剛性)の評価結果を示す。
【
図8】(a)~(c)は本発明に係る構造部材の断面形状例を示す。
【
図9】(a)~(c)はCFRP材の接着位置の例を示す。
【
図11】CFRP材を部分的に貼付した構造部材の例を(a),(b)に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各種条件にて構造部材を製作し評価したので、説明する。
図1の表に示した化学組成のアルミニウム合金の溶湯を調整し、直径8インチの円柱ビレットを鋳造した。
鋳造したビレットを
図2の表中、HOMO保持温度にて均質化処理した。
なお、均質化処理温度は500~540℃の範囲が好ましい。
断面目字形状の押出形材を押出成形した。
押出条件を
図2の表に示す。
なお、ビレットの温度は490~530℃の範囲、押出時のダイス温度は440~500℃の範囲が好ましい。
押出直後にファン冷却を行うことで冷却速度を80℃/min以上、好ましくは100℃/min以上にするのがよい。
その後に50~140℃+140~200℃の二段人工時効処理をした。
押出形材の物性値を
図2の表に示す。
本発明において、耐力420MPa以上、伸び10%以上を目標とした。
表中、<靭性>はJIS Z 2242「金属材料のシャルピー衝撃試験方法」に従って試験を行った。
目標は12J/cm
2以上とした。
<SCC>は、JIS H 8711「アルミニウム合金の応力腐食割れ試験方法」に従って行い、3点曲げ治具にて40%応力値を負荷した状態で試験をした。
再結晶を起える亀裂が発生するまでの時間を評価した。
なお、目標は72hr以上とした。
<再結晶率>は押出形材の断面積に対する再結晶層の面積比率を求めた。
目標は20%以下とした。
評価に用いたCFRP部材の物性値を
図3に示す。
なお、表中CF繊維方向0°とは、長手方向に配向していることを意味する。
アルミニウム合金の押出形材とCFRP部材との接着条件を
図4の表に示す。
なお、比較例13は、CFRP部材を貼り合せてない構造部材である。
評価に用いたサンプルの断面を
図7に示す。
接着層の厚みは50μm~1mmの範囲で剛性に顕著な差は現れなかった。
【0012】
図6に構造部材の評価方法を示す。
構造部材10の全長は1200mmで、ポール2による押し込み荷重Fを荷重する側(表面)に展伸部材(押出形材)11,その反対側の裏面に接着接合したCFRP部材12が位置するように、スパン880mmの支点1,1間に載置した。
ポール直径は203.2mmであり、下方に向けて一定速度で押し込み、曲げ剛性(kN/mm)と全塑性モーメントによる強度(kNm)を測定した。
その結果を
図5の表に示す。
本発明においては、剛性4.1kN/mm以上,強度60kNm以上を目標としたが、実施例1~6はそれらをクリアーした。
なお、実施例7~9は上記目標値をクリアーできなかったが、それに近い値を示し、実用的には問題ないレベルであった。
【0013】
評価結果の内容について、具体的に説明する。
図9(a)に示すようにCFRP材12の貼付方法として、展伸部材(アルミ押出材)11の中空断面のリブを有する裏面側に沿って部分的に貼付したもの(
図4の接着範囲にて補強率60%)と、裏面側全面(補強率100%)とを比較する。
実施例3と4は、
図9(b),
図10に示す補強長さ中央部を中心に、L
1=500mmと同じで展伸部材の耐力が同等であることから、CFRP材を部分的に貼付しても目標をクリアーできることが明らかになった。
【0014】
次に
図9(b),
図10に示すように、CFRP材12を展伸部材11の中央部にその中心から、L
0=1000mmのもの(実施例2)と、L
1=500mmのもの(実施例3)とを比較すると、L
1=500mmとL
0=1000の半分でも強度及び剛性が目標をクリアーすることが分かる。
【0015】
接着剤の伸びは、展伸材の曲げ変形に追随させるのに必要であり、実施例1~9の結果及び比較例18,19の結果から75%以上有するのが好ましく、より好ましくは実施例1~5に示すように75~120%の範囲がよい。
【0016】
比較例13はCFRP材のないものであり、比較例10,12は展伸部材の耐力が420MPa未満であり、構造部材の強度,剛性が目標をクリアーできなかった。
比較例11,12は接着剤の伸びが悪く、比較例15は接着剤の接着剪断強度が低い例である。
【0017】
本発明に係る構造材の断面形状例を
図8及び
図11に示す。
図8は、裏面側に中央部を中心に幅方向の全体にわたってCFRP材を接着した例であり、
図12はリブ付近の裏面側に部分的にCFRP材を接着した例である。
この場合に、
図9(c)に示すようにCFRP材12は、展伸部材11の断面肉厚が厚い11aよりも相対的に薄い11b側に接着するのが好ましい。
【符号の説明】
【0018】
1 支点
2 ポール
10 構造部材
11 展伸部材
12 CFRP部材