IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン軽金属株式会社の特許一覧

特許7093611押出材用アルミニウム合金及びそれを用いた押出材並びに押出材の製造方法
<>
  • 特許-押出材用アルミニウム合金及びそれを用いた押出材並びに押出材の製造方法 図1
  • 特許-押出材用アルミニウム合金及びそれを用いた押出材並びに押出材の製造方法 図2
  • 特許-押出材用アルミニウム合金及びそれを用いた押出材並びに押出材の製造方法 図3
  • 特許-押出材用アルミニウム合金及びそれを用いた押出材並びに押出材の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】押出材用アルミニウム合金及びそれを用いた押出材並びに押出材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20220623BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220623BHJP
   C22F 1/053 20060101ALN20220623BHJP
【FI】
C22C21/10
C22F1/00 602
C22F1/00 604
C22F1/00 612
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/053
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2016233007
(22)【出願日】2016-11-30
(65)【公開番号】P2018090839
(43)【公開日】2018-06-14
【審査請求日】2019-10-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 朋夫
(72)【発明者】
【氏名】柴田 果林
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】平塚 政宏
【審判官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-119904(JP,A)
【文献】特開平9-310141(JP,A)
【文献】特開2010-179363(JP,A)
【文献】特開2009-13479(JP,A)
【文献】国際公開第2008/123184(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/165086(WO,A1)
【文献】特開2014-105389(JP,A)
【文献】特開平8-170139(JP,A)
【文献】特開昭56-87647(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1425520(CN,A)
【文献】国際公開第2017/169962(WO,A1)
【文献】特開2017-222920(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006816(WO,A1)
【文献】特許第2928445(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 - 21/18
C22F 1/04 - 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下質量%にて、Zn成分6.0~7.0%,Mg成分1.0~1.6%,Zr成分0.15~0.23%,Ti成分0.001~0.05%,Cu成分0.5%以下,Mn成分0.5%以下,Cr成分0.02%以下,Fe成分0.20%以下,Si成分0.10%以下で残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いたビレットであって、
前記ビレット断面の微細組織が光学顕微鏡測定にて平均結晶粒径250μm以下の鋳造組織であることを特徴とする押出材用アルミニウム合金ビレット
【請求項2】
請求項1記載の押出材用アルミニウム合金ビレットを用いて、前記ビレットを500~560℃にて均質化処理するステップと、
押出加工直後の形材温度が500~585℃になるように押出加工するステップと、
押出直後に冷却速度50~500℃/minにて空冷するステップと、85~110℃×2~6時間+110~160℃×2~12時間の2段人工時効処理を行うステップと、を有することを特徴とする高強度で靭性及び耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金押出材の製造方法。
【請求項3】
耐力380N/mm以上の高強度で、シャルピー衝撃値10J/cm以上の靱性を有することを特徴とする請求項2記載の高強度で靱性及び耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金押出材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靭性(衝撃吸収性)、耐応力腐食割れ性に優れ、押出生産性の高い高強度アルミニウム合金押出材に関し、特にそれに適したアルミニウム合金及び押出材の製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
高強度アルミニウム合金としては、Al-Zn-Mg系合金が知られている。
例えば特許文献1には、自動車用衝撃吸収部材用の高強度アルミニウム押出材として、Zn:5.0~7.0wt%,Mg:1.0~1.5wt%,Cu:0.1~0.3wt%,Zr:0.05~0.2wt%,Ti:0.001~0.05wt%,Cr:0.03~0.2wt%,Mn:0.3wt%以下残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、表面再結晶層の厚さが肉厚の7%以下、表面結晶の平均粒径が150μm以下であるものを開示する。
同公報に開示する押出材の特徴は、結晶粒の微細化を目的にCr成分を0.03~0.2wt%含有することが必須となっている。
しかし、本発明者らの検討によれば、Cr成分は押出加工直後の冷却にて焼入れ感受性が強すぎることが明らかになった。
また、同公報に開示するアルミニウム合金は60×45mm,t=2mmの角パイプにて押出スピード3m/minと記載してあるように押出性がよくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2928445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、靭性及び耐応力腐食割れ性に優れるとともに押出性が高い高強度のアルミニウム合金押出材及びそれに適した押出材用アルミニウム合金並びに押出材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る押出材用アルミニウム合金は、以下質量%にて、Zn成分6.0~7.0%,Mg成分1.0~1.6%,Zr成分0.15~0.23%,Ti成分0.001~0.05%,Cu成分0.5%以下,Mn成分0.5%以下,Cr成分0.02%以下,Fe成分0.20%以下,Si成分0.10%以下で残部がAl及び不可避的不純物からなり、ビレットの微細組織が平均結晶粒径50μm以下の鋳造組織であることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る押出材用アルミニウム合金を用いることで、押出加工直後の空冷(ダイス端焼入れ)にて耐力(0.2%耐力値)が380N/mm以上の高強度でありながら、シャルピー衝撃値で10J/cm以上の靭性を得ることができる。
また、例えば、肉厚2mmの日字型中空断面にて6m/min以上の押出スピードで押出加工が可能である。
【0007】
本発明に係る押出材用アルミニウム合金は、Zn,Mg成分量を調整するとともにZr成分を0.15~0.23%添加することで押出加工直後の空冷(ダイス端焼入れと称される。)にて高強度で靭性,耐応力腐食割れ性を確保したが、押出に用いるビレットの鋳造組織が平均結晶粒径で250μm以下の微細組織にした点にも特徴がある。
【0008】
押出材用アルミニウムビレットは、上部から溶湯を円形鋳型に供給し、下方に向けて円柱状に連続鋳造するフロート式鋳造法、ホットトップ鋳造法等が採用されている。
この際に鋳造速度により、鋳造後のビレットにおける結晶粒の大きさが変化する。
本発明者らの検討によると8インチビレットにて鋳造速度を65mm/min以上にすると、平均結晶粒径が250μm以下になることが明らかになった。
【0009】
次に本発明に係るアルミニウム合金の組成について説明する。
<Zn,Mg成分>
Zn及びMgは、これらの金属間化合物形成による人工時効硬化性を有し、強度に大きく寄与する成分である。
本発明は以下、全て質量%にて、Zn成分6.0~7.0%,Mg成分1.0~1.6%の範囲に選定した。
Zn:6.0%未満,Mg:1.0%未満になると強度が目標以下になり、Zn:7.0%を超えると、特にMg:1.6%を超えると押出性が低下する。
<Zr成分>
Zr成分は結晶粒を微細化し、押出材の表面再結晶深さを抑制する。
本発明は、Zr:0.15~0.23%の範囲に選定し、特にCr成分を0.02%以下に抑える。
<Mn成分>
Mn成分は0.5%以下にする。
Mn成分も結晶粒の微細化効果があり、本発明は耐力380N/mm以上を目標としたが、さらに例えば、耐力480N/mmレベルを得るにはMn:0.15~0.5%添加する。
この場合にはZr+Mn=0.30~0.73%となる。
<Ti成分>
Ti成分はビレット鋳造時に組織の微細化効果があり、Ti成分は0.001~0.05%の範囲にて微量添加される。
<Cu成分>
本発明において、Cu成分は必須成分ではないが、微量の添加により粒界、粒内の電位差を緩和し、耐応力腐食割れ性を改善するので0.5%以下の範囲にて添加してもよく、好ましくは0.1~0.4%である。
<Fe,Si成分>
Fe及びSi成分は、アルミニウム合金ビレットの製造過程にて不純物として混入する恐れが高い成分であるが、靭性を悪化させる原因となるのでFe:0.20%以下,Si:0.10%以下に抑える。
【0010】
本発明に係るアルミニウム合金の特性を充分に活かすには、上記の押出材用アルミニウム合金を用いて、前記ビレットを500~560℃にて均質化処理するステップと、押出直後に冷却速度50~500℃/minにて空冷するステップとを有するようにするのが好ましい。
JIS7000系合金(Al-Zn-Mg系合金)において、日本工業規格ではビレットの鋳造後の均質化処理温度(HOMO温度)は、Zn成分の融点を考慮して500℃未満が好ましいとされている。
これに対して本発明は、空冷によるダイス端焼入れにて高強度が得られ、高い靭性を得るには均質化処理温度を500~560℃の範囲がよい。
また、ビレットを400~470℃にて予熱し、押出加工直後の形材温度が500~585℃になるように条件設定する。
押出加工直後は、50~500℃/minの冷却速度にて空冷(ダイス端焼入れ)を行う。
なお、ここで冷却速度は形材温度が100℃以下になるまでの平均冷却速度である。
次に、85~110℃×2~6時間+110~160℃×2~12時間の2段人工時効処理を行うことで、本発明が目標とする機械的特性及び品質特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明にて得られたアルミニウム合金押出材は、高強度、靭性及び耐応力腐食割れ性に優れるとともに押出性が良いので、ソリッド断面のみならず、ホロー断面からなるアルミニウム合金押出材が得られる。
用途としては、車両の衝撃吸収部材に適し、バンパーリィンホースメント,クラッシュボックス,ドアビーム等が具体例として挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】評価に用いたアルミニウム合金の組成(質量%)を示す。
図2】評価に用いた鋳造条件及び押出条件を示す。
図3】評価結果を示す。
図4】ビレットの組織写真例を示し、(a)は本実施例No.8、(b)は比較例No.10を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1の表に示した成分組成の各溶湯を調整し、図2の表に示した鋳造速度にて8インチビレットを鋳造した。
ビレットの鋳造速度は鋳造鋳型の水冷量にて調整した。
図4に実施例No.8と比較例No.10とのビレットの組織写真を示す。
本発明は、平均結晶粒径250μm以下を目標とした。
実施例No.8は平均結晶粒径180μm,比較例No.10は平均結晶粒径475μmであった。
なお、平均結晶粒径は試験片表面を鏡面研磨した後に、0.5%フッ化水素試薬でエッチングし、光学顕微鏡にて測定した。
図2の表中、HOMO保持温度はビレットの均質化処理条件を示す。
断面形状日字型(100mm×50mm,中リブ及び周囲の肉厚2mm)を表2の押出条件にて押出速度6~7m/minにて押出加工をした。
冷却条件は押出直後のファン冷却による。
次に95℃×4時間+150℃×7時間の2段人工時効処理をした。
評価結果を図3の表に示す。
表中に評価項目及び本発明に係る目標値を示す。
各評価項目の評価方法は次のとおりである。
靭性は、日本工業規格JIS Z 2242に基づいて試験片を作製し、JISに準じたシャルピー試験機にて行った。
機械的性質は、日本工業規格JIS Z 2241に準じて測定し、耐力は0.2%耐力値を示す。
耐応力腐食割れ性は、耐力80%相当の応力を試験片に負荷した状態で、次の条件を1サイクルとし、割れが発生するまでのサイクル数(cyc)とした。
なお、目標は720cyc以上である。
<1サイクル>
3.5%NaCl水溶液中に25℃,10min浸漬し、次に25℃,湿度40%中に50min放置し、その後に自然乾燥する。
【0014】
実施例No.1~No.8は、全ての項目において目標をクリアーした。
その中でも実施例No.7,8は、Zr:0.15~0.23%,Mn:0.15~0.5%の範囲になるようにしたもので、具体的にはZr:0.19%,Mn:0.25%である。
これにビレット組織平均結晶粒250μm以下としたことにより、耐力値がそれぞれNo.8:483N/mm,No.9:482n/mmと耐力480N/mmレベルの値が得られた。
【0015】
比較例No.9は、ビレット組織平均結晶粒径が粗大化したためと推定されるが靭性が悪く、No.10は押出材の表面にムシレが発生し、押出性がよくなかった。
比較例No.11,12は耐力が高いものの靭性が悪い。
これはMg成分が多いためと推定される。
比較例No.13~No.20が靭性を目標クリアーできなかったのは、Mg,Mnの一方又は両方の値が上限を超えていたためと推定される。
比較例No.22は押出後の冷却が悪く、耐力が目標をクリアーできず、比較例No.23は水冷によるダイス端焼入れをしたものであり、耐応力腐食割れ性が悪かった。
比較例No.24,25は、押出形材が高温になり過ぎ押出材の表面に欠陥が生じた。
比較例No.26は、靭性、耐応力腐食割れ性が悪い。
これは、Mg,Znが上限を超えていたためと推定される。
比較例No.27は、Zr成分が少なかったために耐応力腐食割れ性が悪化した。
図1
図2
図3
図4