(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】Bacteroides由来のフコシダーゼおよびそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/24 20060101AFI20220623BHJP
C12N 9/26 20060101ALI20220623BHJP
C12N 15/56 20060101ALN20220623BHJP
【FI】
C12N9/24 ZNA
C12N9/26 Z
C12N15/56
(21)【出願番号】P 2016569720
(86)(22)【出願日】2015-05-27
(86)【国際出願番号】 US2015032744
(87)【国際公開番号】W WO2015184008
(87)【国際公開日】2015-12-03
【審査請求日】2018-05-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-17
(32)【優先日】2014-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ウォン, チ-フェイ
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ, ツン-イ
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】長井 啓子
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-217769(JP,A)
【文献】国際公開第2013/120066(WO,A1)
【文献】米国特許第07090973(US,B1)
【文献】Appl.Environ.Microbiol.,vol.40(1),pp.40-47(1980)
【文献】Lett.Appl.Microbiol.,vol.13(2),pp.97-101(1991)
【文献】Gene,vol.392,pp.34-46(2006)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N9/00
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus(JDreamIII)
CAPlus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むα-フコシダーゼ、および少なくとも1つのエンドグリコシダーゼを含む、糖タンパク質のコア脱フコシル化のための組成物。
【請求項2】
前記エンドグリコシダーゼが、エンド-ベータ-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、およびそれらの変異体からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記α-フコシダーゼが組換えBacteroides α-L-フコシダーゼである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記α-フコシダーゼが、複合糖質におけるN-および/またはO-結合型グリカン中に存在するα-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)結合型フコースを加水分解し得る、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記α-フコシダーゼが4~9の最適pHを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
糖タンパク質のコア脱フコシル化のための方法であって、前記糖タンパク質を、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むα-フコシダーゼ
、および、1つまたは複数のエンドグリコシダーゼと接触させることを含む方法。
【請求項7】
前記糖タンパク質が、α-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)結合型フコースから選択される1つまたは複数のフコースを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記α-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、および/またはα-(1,6)結合型フコースが、糖タンパク質におけるN-および/またはO-結合型グリカン中に存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コア
脱フコ
シル化が
、前記糖タンパク質からコアα-(1,3)結合型フコースまたはコアα-(1,6)結合型フコース
を除去する、請求項
6に記載の方法。
【請求項10】
前記1つまたは複数のエンドグリコシダーゼが、エンド-ベータ-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、およびそれらの変異体からなる群から選択される、請求項
6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2014年5月27日に出願された米国仮出願連続番号第(USSN)62/003,136号、2014年5月27日に出願されたUSSN 62/003,104号、2014年5月28日に出願されたUSSN 62/003,908号、2014年7月2日に出願されたUSSN 62/020,199号および2015年1月30日に出願されたUSSN 62/110,338号への優先権の利益を主張する。これらそれぞれの内容は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
フコースは、複合糖質の多くのO-またはN-結合型オリゴ糖構造体の重要な構成成分である。フコース含有グリカンは、発達およびアポトーシスを含めた多数の生物学的事象に関与しており、炎症、がん、および嚢胞性線維症の病理に関与している。複合糖質の脱フコシル化は、複合糖質の生物学的効果を理解するための重要なプロセスである。
【0003】
α-L-フコシダーゼ(α-フコシダーゼ)は、主にガラクトースまたはN-アセチルグルコサミンに付加されているフコースのα-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)結合を加水分解することによる、複合糖質の非還元末端からのフコース残基の除去を司るエキソグリコシダーゼである。
【0004】
ヒト血清IgGと治療用抗体はいずれも重度にフコシル化されていることが周知である。抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、治療用抗体の臨床的有効性を司る重要なエフェクター機能の1つであることが見出された。ADCCは、抗体Fc領域へのリンパ球受容体(FccR)の結合が引き金になって開始される。ADCC活性は、α-(1,6)結合を介してN-結合型Fcオリゴ糖の最も内側のGlcNAcに付加されているフコースの量に依存する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明は、in vitroでのフコースの改善された酵素加水分解のための組成物および方法を提供する。特に、本発明は、糖タンパク質の変性も機能悪化も起こさずに、天然糖タンパク質におけるコアフコースを効率的に切断するのに有用である。本発明の組成物および方法は、Fc融合タンパク質または治療用抗体などの抗体のFc糖鎖工学を促進し得る。本発明によって、複合糖質上のフコース位置を識別するためのグリカン配列決定の応用を提供する。複合糖質は、糖脂質、糖タンパク質、オリゴ糖、または糖ペプチドであり得る。
【0006】
一態様では、本発明は、配列番号1との少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含むα-フコシダーゼに関する。一部の実施形態では、α-フコシダーゼは、配列番号1との少なくとも88%の配列同一性を有するポリペプチドを含む。一部の実施形態では、α-フコシダーゼは、配列番号1との配列同一性を有するポリペプチドを含む。ある特定の実施形態では、α-フコシダーゼは、配列番号2との配列同一性を有するポリペプチドを含む。配列番号1および2は、88%の配列同一性を共有する。
【0007】
本明細書で記載されたフコシダーゼは、1つまたは複数のα(1,2)、α(1,3)、α(1,4)、およびα(1,6)結合型フコースを加水分解し得る。フコースは、複合糖質におけるN-および/またはO-結合型グリカン中に存在し得る。ある特定の実施形態では、α-フコシダーゼは、組換えBacteroides α-フコシダーゼである。
【0008】
好ましい実施形態では、α-フコシダーゼは、4~9の最適pHを示す。
【0009】
別の態様では、本発明は、上記のα-フコシダーゼを含む組成物に関する。組成物は、少なくとも1つのグリコシダーゼをさらに含み得る。一部の実施形態では、グリコシダーゼは、エキソグリコシダーゼであり得る。エキソグリコシダーゼは、シアリダーゼ、ガラクトシダーゼ、アルファ-フコシダーゼ、およびそれらの変異体を含むが、これらに限定されない。一部の実施形態では、グリコシダーゼは、エンドグリコシダーゼであり得る。エンドグリコシダーゼは、エンド-ベータ-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、およびそれらの変異体を含むが、これらに限定されない。
【0010】
本発明の組成物は、in vitroでの複合糖質の脱フコシル化を行うのに有用である。特に、本明細書で記載された組成物は、in vitroでの糖タンパク質のコア脱フコシル化を行うのに有用である。一部の実施形態では、コア脱フコシル化は、コアα(1,6)脱フコシル化である。ある特定の実施形態では、コア脱フコシル化は、コアα(1,3)脱フコシル化である。脱フコシル化は、糖タンパク質の変性も機能悪化も起こさずに行われ得る。
【0011】
本発明の別の態様は、in vitroでの複合糖質の脱フコシル化を行うための方法を提供する。本発明の方法は、複合糖質を、上記の本発明のα-フコシダーゼと接触させるステップを含む。複合糖質は、α(1,2)、α(1,3)、α(1,4)、およびα(1,6)結合型フコースから選択される1つまたは複数のフコースを含む。フコースは、複合糖質におけるN-および/またはO-結合型グリカン中に存在し得る。
【0012】
一部の実施形態では、複合糖質は、糖タンパク質である。一部の実施形態では、糖タンパク質は、コアフコースを含む。一部の実施形態では、コアフコースは、コアα-(1,3)結合型フコースまたはコアα-(1,6)結合型フコースである。
【0013】
一部の実施形態では、本方法は、複合糖質を、少なくとも1つのグリコシダーゼと接触させることをさらに含む。ある特定の実施形態では、グリコシダーゼは、エンドグリコシダーゼである。エンドグリコシダーゼは、N-グリカンにおけるオリゴ糖の可変部分を切り取るために使用される。本明細書で使用されるエンドグリコシダーゼの例は、エンド-ベータ-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、およびそれらの変異体を含むが、これらに限定されない。エキソグリコシダーゼ
【0014】
コア脱フコシル化に関して、複合糖質は、逐次または同時にエンドグリコシダーゼおよびα-フコシダーゼで処理され得る。コア脱フコシル化は、コアα(1,3)脱フコシル化またはα(1,6)脱フコシル化であり得る。
【0015】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、以下の説明に記載されている。本発明の他の特性または利点は、以下の図面およびいくつかの実施形態の詳細な説明から、および添付の特許請求の範囲からも明らかとなろう。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
配列番号1または配列番号2との少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含むα-フコシダーゼ、および少なくとも1つのグリコシダーゼを含む組成物。
(項目2)
前記α-フコシダーゼが配列番号1または配列番号2との少なくとも88%の配列同一性を有する単離ポリペプチドを含む、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記α-フコシダーゼが配列番号1に記載されたアミノ酸配列を有する単離ポリペプチドを含む、項目1から2に記載の組成物。
(項目4)
前記α-フコシダーゼが配列番号2に記載されたアミノ酸配列を有する単離ポリペプチドを含む、項目1から2に記載の組成物。
(項目5)
前記グリコシダーゼがエンドグリコシダーゼである、項目1に記載の組成物。
(項目6)
前記エンドグリコシダーゼが、エンド-ベータ-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、およびそれらの変異体からなる群から選択される、項目4に記載の組成物。
(項目7)
前記グリコシダーゼがエキソグリコシダーゼである、項目1に記載の組成物。
(項目8)
前記酵素が組換えBacteroides α-L-フコシダーゼである、項目1に記載の組成物。
(項目9)
前記酵素が、複合糖質におけるN-および/またはO-結合型グリカン中に存在するα-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)結合型フコースを加水分解し得る、項目1に記載の組成物。
(項目10)
前記α-フコシダーゼが4~9の最適pHを有する、項目1に記載の組成物。
(項目11)
複合糖質における1つまたは複数のフコースを除去するための方法であって、前記複合糖質を、配列番号1または配列番号2との少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含むα-フコシダーゼと接触させることを含む方法。
(項目12)
前記α-フコシダーゼが、配列番号1に記載されたアミノ酸配列を有する単離ポリペプチドを含む、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記α-フコシダーゼが、配列番号2に記載されたアミノ酸配列を有する単離ポリペプチドを含む、項目10に記載の方法。
(項目14)
前記複合糖質が、α-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)結合型フコースから選択される1つまたは複数のフコースを含む、項目10に記載の方法。
(項目15)
前記α-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、および/またはα-(1,6)結合型フコースが、複合糖質におけるN-および/またはO-結合型グリカン中に存在する、項目12に記載の方法。
(項目16)
前記複合糖質が糖脂質、糖タンパク質、オリゴ糖、または糖ペプチドである、項目10に記載の方法。
(項目17)
前記複合糖質が糖タンパク質である、項目14に記載の方法。
(項目18)
前記糖タンパク質がコアフコースを含む、項目15に記載の方法。
(項目19)
前記コアフコースがコアα-(1,3)結合型フコースまたはコアα-(1,6)結合型フコースである、項目16に記載の方法。
(項目20)
1つまたは複数のエンドグリコシダーゼをさらに含む、項目10に記載の方法。
(項目21)
1つまたは複数のエンドグリコシダーゼが、エンド-ベータ-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、およびそれらの変異体からなる群から選択される、項目18に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、BfFucHの生化学的性質を示す。
【0017】
【
図2】
図2(a)は、BfFucHのpHプロファイル、(b)は、BfFucHの酵素活性に及ぼす温度効果、(c)は、BfFucHの酵素活性に及ぼす金属イオン効果を示す。
【0018】
【
図3】
図3は、リツキサンに関するBfFucH処理の時間経過を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
非フコシル化抗体は、著しく増加した親和性でFcgRIIIα受容体に結合するので、Fcグリカンにコアフコース残基が無いことによって、IgGのADCC活性が実質的に増加することが公知である。FcgRIIIα結合およびADCCを改善するために、α-(1,6)フコシルトランスフェラーゼの発現レベルを無効にするまたは低減させる産生細胞株の開発を含めた、いくつかの戦略が、IgGのフコシル化を低減させるために開発された。フコシル化を低減させるための代替の戦略は、RNAiを使用してα-(1,6)フコシルトランスフェラーゼ遺伝子をサイレンシングすることを含む。しかしながら、N-グリカンのコア脱フコシル化は、in vitroで酵素的に達成されることができていないが、これは、主に、N-グリカンが2つのFcドメイン間に埋め込まれているからである。酵素脱フコシル化効率は、立体障害によりはるかに低い。すなわち、フコース残基へのα-フコシダーゼの接近は、Fcドメインの部分によってブロックされている。
【0020】
いくつかのα-フコシダーゼが当技術分野で公知である。例は、Turbo cornutus、Charonia lampas、Bacillus fulminans、Aspergillus niger、Clostridium perfringens、ウシの腎臓(Glyko)、ニワトリの肝臓(Tyagarajanら、1996年、Glycobiology 6巻:83~93頁)からのα-フコシダーゼおよびXanthomonas manihotis(Glyko、PROzyme)からのα-フコシダーゼIIを含む。また、一部のフコシダーゼは、市販されている(特に、Glyko、Novato、Calif.;PROzyme、San Leandro、Calif.;Calbiochem-Novabiochem Corp.、San Diego、Calif.)。これらのα-フコシダーゼのいずれも、まず糖タンパク質を変性させることなしには、N-結合型グリカンからコアフコースを効率的に切断することができない。
【0021】
WO2013/12066は、ウシの腎臓からのα-フコシダーゼによる(Fucαl,6)GlcNAc-リツキシマブの脱フコシル化を開示した。WO2013/12066に記載されているように、(Fucαl,6)GlcNAc-リツキシマブの反応混合物を、37℃で20日間、ウシの腎臓からのα-フコシダーゼ(Prozymeから市販されている)とインキュベートすることで、(Fucαl ,6)GlcNAc-リツキシマブにおけるフコースを完全に除去した。免疫グロブリンの熱不安定は、当技術分野で公知である(Vermeerら、Biophys J. Jan 78巻:394~404頁(2000年))。Fab断片は、加熱処理に最も感受性である一方、Fc断片は、pHの減少に最も感受性である。WO2013/12066に記載されているような、37℃で20日間などの長期の熱処理後に抗体がCD20への結合親和性を著しく失うことになると考えられている。
【0022】
現在公知のα-フコシダーゼの制約は、いくつかのN-結合型グリカンの効果的な操作を妨げた。したがって、ヒト治療学の発達のためのFc融合タンパク質または抗体のFc糖鎖工学に適した新規なα-フコシダーゼが依然として必要とされている。
【0023】
本開示は、N-結合型グリカンからコアフコースを効率的に切断することができる細菌α-フコシダーゼの予想外の発見に関する。
【0024】
本開示は、N-結合型グリカンから複数のコアフコースを効率的に切断することができる細菌α-フコシダーゼの予想外の発見に関する。
【0025】
一部の例では、α-フコシダーゼは、Bacteroides fragilisからのα-フコシダーゼ(BfFucH)であり得る。一部の例では、α-フコシダーゼは、Bacteroides thetaiotaomicronからのα-フコシダーゼ(BtFucH)であり得る。α-フコシダーゼは、細菌、酵母、バキュロウイルス/昆虫、または哺乳動物細胞から発現され得る。一部の実施形態では、α-フコシダーゼは、組換えBacteroides α-フコシダーゼであり得る。一部の実施形態では、α-フコシダーゼは、E.coliから発現される組換えBacteroides α-フコシダーゼであり得る。
【0026】
α-フコシダーゼは、1つまたは複数のα(1,2)、α(1,3)、α(1,4)、およびα(1,6)結合型フコースを加水分解し得る。フコースは、複合糖質におけるN-および/またはO-結合型グリカン中に存在し得る。フコースは、コアα-(1,3)フコースまたはコアα-(1,6)フコースであり得る。
【0027】
スキーム1は、様々なフコース含有複合糖質を示す。
【化1】
【0028】
前記酵素に適した基質の例は、乳オリゴ糖、グロボHなどのがん関連炭水化物抗原、ルイス血液型(a、b、x、y)、ならびにシアリルルイスa(SLea)およびx(SLex)を含むが、これらに限定されない。当技術分野で公知の報告とは異なり、前記α-フコシダーゼは、末端シアル酸を切断することなく、シアリルルイスa(SLea)およびx(SLex)を加水分解し得る。乳オリゴ糖は、α-(1,2)、α-(1,3)および/またはα-(1,4)結合型フコースを有し得る。
組成物
【0029】
本発明は、上記のα-フコシダーゼの組成物にも関する。α-フコシダーゼは、配列番号1との少なくとも85%の配列同一性を有するポリペプチドを含む。一部の実施形態では、α-フコシダーゼは、配列番号1との少なくとも88%の同一性を有するポリペプチド、またはその機能的変異体を含む。一部の実施形態では、α-フコシダーゼは、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。一部の実施形態では、α-フコシダーゼは、配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。配列番号2は、配列番号1との88%の配列同一性を有する。
【0030】
本明細書に記載の変異ポリペプチドは、アミノ酸配列が配列番号1または2におけるものとは異なるが、配列番号1または2のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む酵素の同じまたは類似した機能を示すものである。
【表1】
【0031】
本明細書では、配列に関するパーセント(%)配列同一性は、必要な場合、配列をアラインし、ギャップを導入して、最大パーセント配列同一性を達成した後、参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基の百分率として定義される。パーセント配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当技術分野の範囲内である様々な方法で、例えば、BLAST、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピューターソフトウェアを使用して達成され得る。当業者は、比較される配列の全長にわたる最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含めた、アラインメントを測定するための適切なパラメーターを決定し得る。
【0032】
本発明のα-フコシダーゼのポリペプチドは、それらの単離または精製を補助するために誘導体化または修飾され得ることが理解されよう。したがって、本発明の一実施形態では、本発明における使用のためのポリペプチドは、分離手段に直接的または特異的に結合する能力があるリガンドを加えることによって誘導体化または修飾される。あるいは、ポリペプチドは、結合対のうちの1つのメンバーを加えることによって誘導体化または修飾され、分離手段は、結合対の他のメンバーを加えることによって誘導体化または修飾される試薬を含む。任意の適した結合対が使用され得る。本発明における使用のためのポリペプチドが結合対のうちの1つのメンバーを加えることによって誘導体化または修飾される好ましい実施形態では、ポリペプチドは、好ましくは、ヒスチジンタグをつけられているまたはビオチンタグをつけられている。典型的に、ヒスチジンまたはビオチンタグのアミノ酸コード配列は、遺伝子レベルで含まれており、タンパク質は、E.coliにおいて組換えで発現される。ヒスチジンまたはビオチンタグは、ポリペプチドの一端に、N末端にまたはC末端に典型的に存在する。ヒスチジンタグは、6ヒスチジン残基から典型的になる(配列番号19)が、それは、典型的に最大7、8、9、10または20アミノ酸のようにこれよりも長くても、または例えば5、4、3、2または1アミノ酸のように短くてもよい。さらに、ヒスチジンタグは、1つまたは複数のアミノ酸置換、好ましくは上記で定義した保存的置換を含有し得る。
組成物の適用
【0033】
本発明の組成物は、in vitroでの複合糖質の脱フコシル化を行うために使用され得る。本発明の方法は、複合糖質を、上記の本発明のα-フコシダーゼと接触させるステップを含む。複合糖質は、α-(1,2)、α-(1,3)、α-(1,4)、およびα-(1,6)結合型フコースから選択される1つまたは複数のフコースを含む。フコースは、複合糖質におけるN-および/またはO-結合型グリカン中に存在し得る。
【0034】
一部の実施形態では、複合糖質は、糖タンパク質である。一部の実施形態では、糖タンパク質は、コアフコースを含む。一部の実施形態では、コアフコースは、コアα-(1,3)結合型フコースまたはコアα-(1,6)結合型フコースである。
【0035】
一部の実施形態では、本方法は、複合糖質を、少なくとも1つのグリコシダーゼと接触させることをさらに含む。ある特定の実施形態では、グリコシダーゼは、エンドグリコシダーゼである。エンドグリコシダーゼは、N-グリカンにおけるオリゴ糖の可変部分を切り取るために使用される。本明細書で使用されるエンドグリコシダーゼの例は、エンド-ベータ-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)、EndoA、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、およびそれらの変異体を含むが、これらに限定されない。
【0036】
コア脱フコシル化に関して、複合糖質は、逐次または同時にエンドグリコシダーゼおよびα-フコシダーゼで処理され得る。コア脱フコシル化は、コアα(1,3)脱フコシル化またはα(1,6)脱フコシル化であり得る。
【0037】
本発明の方法は、モノクローナル抗体からFc糖鎖工学的に操作するのに有用であり得る。工学的に操作する例示的な方法は、例えば、その内容が参照によって本明細書に組み込まれているWongら、USSN12/959,351において記載されている。好ましくは、モノクローナル抗体は、治療用モノクローナル抗体である。一部の例では、均一にグリコシル化されたモノクローナル抗体を作製するための方法は、(a)モノクローナル抗体を、α-フコシダーゼおよび少なくとも1つのエンドグリコシダーゼと接触させ、それによって単一のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する脱フコシル化抗体をもたらすステップ、および(b)炭水化物部分を適した条件下でGlcNAcに加えるステップを含む。ある特定の実施形態では、グリカンは、エンド-GlcNACaseおよび例示的なフコシダーゼ、次いで、それに続く例示的なエンド-S変異体およびグリカンオキサゾリンでの処理によって調製され得る。
【0038】
特定の例では、本発明の方法によるモノクローナル抗体は、リツキシマブである。ある特定の実施形態では、本発明の方法による炭水化物部分は、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc、Sia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc、Sia(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc、Sia(α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia(α2-6)GalGlcNAc2Man3GlcNAc、Sia(α2-3)GalGlcNAc2Man3GlcNAc、Sia(α2-6)GalGlcNAc3Man3GlcNAc、Sia(α2-3)GalGlcNAc3Man3GlcNAc、Gal2GlcNAc2Man3GlcNAcおよびGal2GlcNAc3Man3GlcNAcからなる群から選択される。
【0039】
一部の実施形態では、炭水化物部分は、糖オキサゾリンである。
【0040】
本発明の方法におけるステップ(b)は、糖鎖伸長につながり得る。糖鎖伸長のためのある方法は、酵素触媒グリコシル化反応によるものである。グリコシル化反応は、付加反応であり、酸、水などのいかなる付随的な排除もなく進むので、酵素触媒グリコシル化反応の中で糖ドナーとして糖オキサゾリンを使用したグリコシル化がオリゴ糖を合成するのに有用であることは当技術分野で周知である。(Fujitaら、Biochim. Biophys. Acta 2001年、1528巻、9~14頁)
【0041】
ステップ(b)における適した条件は、少なくとも20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分または100分、好ましくは60分未満の反応混合物のインキュベーションを含む。インキュベーションは、好ましくは室温で、より好ましくは約20℃、25℃、30℃、35℃、40℃または45℃で、最も好ましくは約37℃で行われる。
【0042】
本明細書では、「フコース」および「L-フコース」という用語は、互換的に使用される。
【0043】
本明細書では、「コアフコース」および「コアフコース残基」という用語は、互換的に使用され、アスパラギン結合N-アセチルグルコサミンに結合したα1,3-位またはα1,6-位におけるフコースを指す。
【0044】
本明細書では、「α-(1,2)フコシダーゼ」という用語は、オリゴ糖からのα-(1,2)結合型L-フコース残基の加水分解を特異的に触媒するエキソグリコシダーゼを指す。
【0045】
本明細書では、「α-(1,4)フコシダーゼ」という用語は、オリゴ糖からのα-(1,4)結合型L-フコース残基の加水分解を特異的に触媒するエキソグリコシダーゼを指す。
【0046】
本明細書では、「グリカン」という用語は、多糖、オリゴ糖または単糖を指す。グリカンは、糖残基のモノマーまたはポリマーであり得、直鎖状または分枝状であり得る。グリカンは、天然糖残基(例えば、グルコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、ガラクトース、マンノース、フコース、ヘキソース、アラビノース、リボース、キシロースなど)および/または修飾糖(例えば、2’-フルオロリボース、2’-デオキシリボース、ホスホマンノース、6’スルホN-アセチルグルコサミンなど)を含み得る。
【0047】
本明細書では、「N-グリカン」、「N-結合型グリカン」、「N-結合型グリコシル化」、「Fcグリカン」および「Fcグリコシル化」という用語は、互換的に使用され、Fc含有ポリペプチドにおけるアスパラギン残基のアミド窒素に結合したN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)によって付加されたN-結合型オリゴ糖を指す。「Fc含有ポリペプチド」という用語は、Fc領域を含む、抗体などのポリペプチドを指す。
【0048】
本明細書では、「グリコシル化パターン」および「グリコシル化プロファイル」という用語は、互換的に使用され、酵素的または化学的に糖タンパク質または抗体から放出され、次いで、例えば、LC-HPLC、またはMALDI-TOF MSなどを使用して、それらの炭水化物構造に関して分析されるN-グリカン種の特徴的な「フィンガープリント」を指す。例えば、その全体が参照によって本明細書に組み込まれたCurrent Analytical Chemistry、1巻、1号(2005年)、28~57頁における総説を参照されたい。
【0049】
本明細書では、「糖鎖工学的に操作されたFc」という用語は、本明細書で使用される場合、酵素的または化学的に改変されたまたは操作されたFc領域上のN-グリカンを指す。本明細書では、「Fc糖鎖工学」という用語は、糖鎖工学的に操作されたFcを作製するために使用される酵素プロセスまたは化学プロセスを指す。
【0050】
Fc領域のグリコシル化プロファイルの文脈における「均一な」、「一様な」、「一様に」および「均一性」という用語は、互換的に使用され、微量の前駆N-グリカンも有さない1つの望ましいN-グリカン種によって表された単一のグリコシル化パターンを意味することが意図されている。
【0051】
本明細書では、「IgG」、「IgG分子」、「モノクローナル抗体」、「免疫グロブリン」、および「免疫グロブリン分子」という用語は、互換的に使用される。本明細書では、「分子」は、抗原結合断片も含み得る。
【0052】
本明細書では、「複合糖質」という用語は、本明細書では、少なくとも1つの糖部分が少なくとも1つの他の部分に共有結合している全ての分子を包含する。用語は、例えばN-結合型糖タンパク質、O-結合型糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどを含めた、共有結合的に付加された糖部分を有する全ての生体分子を特に包含する。
【0053】
本明細書では、「糖脂質」という用語は、1つまたは複数の共有結合した糖部分(すなわち、グリカン)を含有する脂質を指す。糖部分は、単糖、二糖、オリゴ糖、および/または多糖の形であり得る。糖部分は、糖残基の単一の分岐していない鎖を含み得るか、または1つもしくは複数の分岐した鎖から構成され得る。ある特定の実施形態では、糖部分は、硫酸基および/またはリン酸基を含み得る。ある特定の実施形態では、糖タンパク質は、O-結合型糖部分を含有し;ある特定の実施形態では、糖タンパク質は、N-結合型糖部分を含有する。
【0054】
本明細書では、「糖タンパク質」という用語は、そこに共有結合的に付加された1つまたは複数のオリゴ糖鎖(例えば、グリカン)を含むアミノ酸配列を指す。例示的なアミノ酸配列は、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質を含む。例示的な糖タンパク質は、グリコシル化抗体および抗体様分子(例えば、Fc融合タンパク質)を含む。例示的な抗体は、モノクローナル抗体および/またはその断片、ポリクローナル抗体および/またはその断片、ならびにFcドメイン含有融合タンパク質(例えば、IgG1のFc領域、またはそのグリコシル化部分を含有する融合タンパク質)を含む。
【0055】
本明細書では、「N-グリカン」という用語は、複合糖質から放出されたが、窒素結合を介して複合糖質に以前は結合していた糖のポリマーを指す(以下のN-結合型グリカンの定義を参照されたい)。
【0056】
本明細書では、「O-グリカン」という用語は、複合糖質から放出されたが、酸素結合を介して複合糖質に以前は結合していた糖のポリマーを指す(以下のO-結合型グリカンの定義を参照されたい)。
【0057】
本明細書では、野生型酵素の機能的変異体は、野生型対応物と同じ酵素活性を有し、例えば、野生型対応物のアミノ酸配列と少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であり、高アミノ酸配列相同性を典型的に共有する。2つのアミノ酸配列の「パーセント同一性」は、Karlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻:5873~77頁、1993年において修正された、Karlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87巻:2264~68頁、1990年のアルゴリズムを使用して決定される。かかるアルゴリズムは、Altschulら J. Mol. Biol. 215巻:403~10頁、1990年のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。BLASTタンパク質探索が、目的のタンパク質分子と相同であるアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、語長=3で行われ得る。ギャップが2つの配列間に存在する場合、Gapped BLASTがAltschulら、Nucleic Acids Res. 25巻(17号):3389~3402頁、1997年において記載されたように利用され得る。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターが使用され得る。機能的変異体は、1つまたは複数のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換を含めた、様々な変異を有し得る。かかる変異体は、野生型酵素の酵素活性に必須ではない領域における変異をしばしば含有し、機能的ドメインにおける変異を含有し得ないか、または保存的アミノ酸置換のみを含有し得る。当業者は、保存的アミノ酸置換が、機能的に同等の変異体を提供するためにリポ酸リガーゼミュータントにおいて行われ得る、すなわち、変異体は、特定のリポ酸リガーゼミュータントの機能的能力を保持することを理解するはずである。
【0058】
本明細書では、「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸置換が行われるタンパク質の相対的電荷またはサイズ特徴を改変しないアミノ酸置換を指す。変異体は、かかる方法をまとめている参考文献、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual、J. Sambrookら、eds.、Second Edition、 Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989年、またはCurrent Protocols in Molecular Biology、F.M. Ausubelら編、John Wiley & Sons、Inc.、New Yorkにおいて見出されるものなどの当業者に公知のポリペプチド配列を改変するための方法に従って調製され得る。アミノ酸の保存的置換は、以下の群内のアミノ酸間で行われる置換を含む:(a)M、I、L、V;(b)F、Y、W;(c)K、R、H;(d)A、G;(e)S、T;(f)Q、N;および(g)E、D。脱グリコシル系に関与する酵素の任意のものは、通例のテクノロジーによって調製され得る。一例では、酵素は、天然供給源から単離される。他の例では、酵素は、通例の組換えテクノロジーによって調製される。必要な場合、標的酵素のコード配列は、酵素を作製するために使用される宿主細胞に基づいてコドン最適化に供され得る。例えば、E.coli細胞が組換えテクノロジーによって酵素を作製するための宿主として使用される場合、その酵素をコードする遺伝子は、それがE.coliにおいて共通して使用されるコドンを含有するように修飾され得る。本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、以下の説明に記載されている。本発明の他の特性または利点は、以下の図面およびいくつかの実施形態の詳細な説明から、および添付の特許請求の範囲からも明らかとなろう。
【0059】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれている。以下の実施例において開示された技法は、本発明の実行においてよく機能することが本発明者によって発見された技法を表し、したがって、その実行のための好ましいモードを構成すると考えられ得ることが当業者によって認識されるはずである。しかしながら、当業者は、本開示を考慮して、開示されている特定の実施形態に多くの変更を加えることができ、そうしても本発明の精神および範囲から逸脱することなく同じまたは類似した結果を得ることを認識すべきである。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
タンパク質発現構築物
α-フコシダーゼを、それぞれ、Bacteroides fragilis NCTC9343ゲノムDNA(ATCC 25285)およびBacteroides Thetaiotaomicron VPI-5482(ATCC 29148)からPCRによって増幅し、内部AcTEVプロテアーゼ切断部位を有するN末端ポリヒスチンを有するpET47b+(EMD Biosciences,San Diego,CA)中にクローニングした。EndoF1(GenBank:AAA24922.1)、EndoF2(GenBank:AAA24923.1)、EndoF3(GenBank:AAA24924.1)、EndoH(GenBank:AAA26738.1)およびPNGase F(Genbank:GenBank:J05449.1)などの研究に使用された他の酵素をE.coliにコドン最適化し、それぞれ、N末端においてMBP融合を有するpET28a中にクローニングした。クローンの全ての配列をApplied Biosystems 3730 DNA Analyzerによって最初に確認した。
【0061】
E.coliにおけるタンパク質発現構築物に使用されたプライマーを以下の表に列挙する。
【表2-1】
【表2-2】
【0062】
a各遺伝子のコード配列を増幅するためのフォワード(F)およびリバース(R)PCR反応のための一対のプライマー。
【0063】
b太字を有する下線は、制限酵素認識部位を意味する。
【0064】
cE.coliに関するコドン最適化。例えば、Puigboら、Nucleic Acids Research(2007年)35巻(S2号):W126~W130頁を参照されたい。
タンパク質発現および精製
【0065】
タンパク質発現構築物を、16℃で24時間、0.2mMイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を使用して、タンパク質発現のためにBL21(DE3)(EMD Biosciences,San Diego,CA)に形質転換した。細胞をマイクロフルイダイザーによって破壊し、次いで、遠心分離した。上清を収集し、Ni-NTAアガロースカラム(QIAGEN GmbH,Hilden,Germany)上にロードし、10倍の洗浄緩衝液(リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、300mM塩化ナトリウム、および10mMイミダゾール)で洗浄した。溶出を2倍の溶出緩衝液(リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、300mM塩化ナトリウム、および250mMイミダゾール)によって行い、その後、Amicon Ultra-15 10K(EMD Millipore Chemicals,Billerica,MA)によって反応緩衝液への緩衝液交換を行った。タンパク質純度をSDS-PAGEによって調べ、定量的タンパク質濃度をQubit(登録商標)Protein Assay Kits(Invitrogen,Carlsbad,CA)によって測定した。Ni-NTAカラム精製が後に続き、hisタグを有する組換えフコシダーゼは、95%を超える純度で60mg/Lの収量をもたらした。タンパク質濃度を、標準としてウシ血清アルブミンを用いたBrandford(Protein Assay;Bio-Rad,Hercules,CA,USA)の方法によって決定した。酵素の純度および分子質量をSDS-PAGEによって調べた。
【0066】
Bacteroides fragilisからの精製フコシダーゼは、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)において、47.3kDaの理論上の分子量に近い、約50kDaの分子質量を示した。
(実施例2)
酵素アッセイ
酵素の特徴
【0067】
酸性条件(pH4.0~6.0)における最適pHを有する、哺乳動物または細菌からのフコシダーゼとは異なり、BfFucHは、緩やかな条件(pH7.0~7.5)で事前によく形成された。さらに、BfFucHは、いくつかの二価金属イオンによって影響されず、金属イオンを外から加えても活性に影響しなかった。しかしながら、Ni2+は、酵素活性を60%劇的に低減させ得る。また、Zn2+およびCu2+は、酵素活性を完全に無効にし得る。キレート剤EDTAは、酵素活性に及ぼす効果を示さず、これは、金属イオンが触媒反応に関与しないことを示している。酵素は、室温および4℃で機能的に活性かつ安定である。
N-結合型グリカン(glycas)に及ぼす酵素活性
【0068】
本明細書で記載されたフコシダーゼは、N-グリカンにおけるフコース位置を決定するために使用され得る。種々の位置で付加された様々なフコースを有するN-グリカンに及ぼすBfFucH加水分解活性を評価した。2つの合成糖ペプチド、0800Fおよび0823Fを調製した。両方の糖ペプチドは、グリコシル化部位で外側のGlcNAcおよび最も内側のGlcNAcに結合したフコースをそれぞれ有する。
【0069】
酵素アッセイは、フコースが試料0800Fにおける外側のGlcNAcからのみ放出され、フコースが最も内側のGlcNAcに結合している糖ペプチド0823Fにおいては放出されないことを明らかにした。この結果は、N-グリカンにおけるG0構造の立体障害がフコースをフコシダーゼ加水分解から遮蔽かつ保護し得ることを示した。対照的に、0823Fがワンポット反応において同時にBfFucHおよびエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(EndoM)で処理された場合、コアフコースは、容易に除去される。この結果は、α-フコシダーゼがグリカンに結合したフコースの位置を識別するために使用され得ることを示した。
オリゴ糖に及ぼす酵素活性
【0070】
E.coli株の血清型O86、0128、およびO111のリポ多糖(LPS)は、様々な単糖、例えば、Gal、GalNAc、およびフコースを含有する。ホルムアルデヒド脱水素酵素(FDH)共役アッセイによって、本発明者らは、BfFucHがL-フコースをE.coli O128:B12株のLPSから用量依存的に遊離させ得ることを確認した。本発明者らは、2’-フコシルラクトース(2’FL)、3’-フコシルラクトース(3’FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNPTI)、グロボH、ルイスa(Lea)、ルイスx(Lex)、ルイスb(Leb)、ルイスy(Ley)、シアリルルイスa(SLea)、シアリルルイスx(SLex)、およびpNP(パラ-ニトロフェノール)-α-L-フコシドを含めた様々な基質に及ぼす酵素の酵素活性も試験した。結果は、α-フコシダーゼが全ての基質を加水分解することができることを示した。
(実施例3)
糖タンパク質のコア脱フコシル化
【0071】
Aleuria aurantiaは、フコースに関する特異的プローブとして広く使用されているフコース特異的レクチン(AAL)を有する。AALは、複合オリゴ糖および複合糖質上のフコースおよび末端フコース残基を認識し、これに特異的に結合する。AALは、コア脱フコシル化を決定するために使用され得る。エンドグリコシダーゼは、N-グリカンにおけるオリゴ糖の可変部分を切り取るのに有用である。エンドグリコシダーゼ(EndoF1、EndoF2、EndoF3およびEndoH)のカクテルの処理後、抗体(ヒュミラまたはリツキサン)は、高AAL-ブロッティングシグナルを示し、これは、抗体におけるコアフコースの存在を示している。しかしながら、エンドグリコシダーゼ(EndoF1、EndoF2、EndoF3およびEndoH)のカクテルおよびBfFucHの組合せの処理後、抗体(ヒュミラまたはリツキサン)は、コアフコースの加水分解によりAAL-ブロッティングシグナルを失った。これらの結果は、BfFucHがコア脱フコシル化に活性であることを実証した。
材料および方法
【0072】
他に断らない限り、全ての化合物および試薬をSigma-AldrichまたはMerckから購入した。抗腫瘍壊死因子-アルファ(TNFα)抗体、アダリムマブ(Humira(登録商標))を(North Chicago,IL)から購入した。抗ヒトCD20マウス/ヒトキメラIgG1リツキシマブ(Rituxan(登録商標))をGenentech,Inc.(South San Francisco,CA)/IDEC Pharmaceutical(San Diego,CA)から購入した。TNF受容体-Fc融合タンパク質エタネルセプト(Enbrel(登録商標))をWyeth Pharmaceuticals(Hampshire,UK)から購入した。エポエチンベータ(Recormon(登録商標))をHoffmann-La Roche Ltd(Basel,Switzerland)から購入した。インターフェロンβ1a(Rebif(登録商標))をEMD Serono,Inc.(Boston,MA)から購入した。
【0073】
パラ-ニトロフェニルα-またはβ-単糖、ルイス糖、血液型糖および人乳オリゴ糖をCarbosynth Limited.(Berkshire,UK)から購入した。IgG Fc領域に対する一次抗体、Recormon(登録商標)、およびRebif(登録商標)をChemicon(EMD Millipore Chemicals,Billerica,MA)から購入した。ビオチン化Aleuria Aurantiaレクチン(AAL)およびHRPコンジュゲートストレプトアビジンをVector Laboratory(Burlingame,CA)から購入した。タンパク質ブロット上の化学発光をImageQuant LAS 4000生体分子撮像システムを使用して可視化し、定量化した。
BfFucH活性分析方法
【0074】
酵素活性を、標準アッセイ条件として、基質としてpNP-α-L-Fuc(p-ニトロフェニル-α-L-Fuc)を使用して、50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.0において25℃で測定した。α-L-フコシダーゼ活性の1つの単位を25℃での50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.0における1分あたりのpNP-α-L-Fucからの1μmolのpNPおよびFucの形成として定義した。ミカエリス定数(Km)、代謝回転数(Kcat)およびVmaxの値を、GraphPad Prism v5ソフトウェア(La Jolla,CA)によって非線形回帰分析によって、ミカエリスメンテン式からpNP-α-L-Fucに関して計算した。
BfFucHの最適pHの活性測定
【0075】
フコシダーゼ活性に関する最適pHを、酢酸ナトリウム、MES、MOPS、HEPES、トリス-HCl、CHES緩衝液を含めたpH範囲4.0~10.0において上記の標準酵素アッセイにおいて決定した。全ての反応を統計的評価のために三連で行った。
BfFucHの最適二価金属イオンの活性測定
【0076】
金属要求性に関するアッセイを標準アッセイ条件において行った。酵素を、EDTAの存在および非存在下で、5mMの最終濃度で金属イオン(Mg2+、Mn2+、Ca2+、Zn2+、Co2+、またはNi2+、Fe2+、Cu2+)と混合した。全ての反応を統計的評価のために三連で行った。
BfFucHの最適温度の活性測定
【0077】
酵素の活性に及ぼす温度の効果を、十分な量の精製フコシダーゼをリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)においてpNP-α-L-Fucとインキュベートすることによって決定した。アッセイ構成を保持するために、全ての構成成分をよく混合し、10分間アッセイ温度で予熱し、反応を酵素を加えることによって開始し、一定温度において多モードプレートリーダー(SpectraMax M5,Molecular Devices)によって記録した。温度は、4から80℃にわたった。全ての反応を、統計的評価のために三連で行った。
フコース脱水素酵素に基づく(FDH)アッセイ
【0078】
フコース脱水素酵素に基づくアッセイを以前の報告からわずかに修正した。NADP+とのみ活性であり反応する、Sigma-Aldrichによって販売されているPseudomonas spからの他のフコース脱水素酵素とは異なり、Mesorhizobium lotiからのFDHの組換え型は、NAD+とのみ機能性である。形成されたNADHを、25℃で多モードプレートリーダー(SpectraMax M5,Molecular Devices)によって340nmで励起した際、約450nmでのNADPH蛍光によって測定した。この方法を使用することによって、ルイス糖および人乳オリゴ糖(HMO)などの様々なオリゴ糖におけるフコシル-コンジュゲートを5分以内に定量化した。
免疫グロブリンG、Fc-融合タンパク質、EPO、インターフェロン(IFNβ1a)およびインフルエンザ血球凝集素(HA)のモノ-GlcNAcまたはGlcNAc-(Fuc α-1,6)の生成
【0079】
全ての糖タンパク質を反応緩衝液50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)によって緩衝液交換した。最初に、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoHおよびEndoS(1mg/mL)を含むエンドグリコシダーゼカクテル溶液を、糖タンパク質のAsnに結合したGlcNAcを除く全てのN-グリカン鎖を除去するために加え、その後、適した量のフコシダーゼを加えた。糖タンパク質のGlcNAcに結合したコア-フコースを完全に除去するために、37℃で48時間インキュベートする。
【配列表】