(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】導電性高分子組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/10 20060101AFI20220623BHJP
C08G 77/442 20060101ALI20220623BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20220623BHJP
C08G 81/00 20060101ALI20220623BHJP
C09D 183/10 20060101ALI20220623BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20220623BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C08L83/10
C08G77/442
C08G61/12
C08G81/00
C09D183/10
C09D5/24
H01B1/12 E
H01B1/12 F
H01B1/12 C
H01B1/12 D
H01B1/12 G
H01B1/12 Z
(21)【出願番号】P 2018017408
(22)【出願日】2018-02-02
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】澤井 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】神戸 康平
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/093124(WO,A1)
【文献】特開2016-130314(JP,A)
【文献】特開2016-023288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08G 77/00- 77/62
C08G 61/00- 61/12
C08G 81/00- 81/02
H01B 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)との複合体であり、前記可溶化高分子(b)が、アニオン基および電子吸引基の少なくとも一方を有するとともに脂肪族系炭素-炭素二重結合を有し、該脂肪族系炭素-炭素二重結合の少なくとも一部に、SiH基を有するポリシロキサンが付加した、導電性高分子と、有機溶媒(c)を含み、
前記導電性高分子は前記有機溶媒(c)に分散されており、
固形分を除いた残りの媒体の総質量に対する前記有機溶媒(c)の含有量が50~100質量%である、導電性高分子組成物。
【請求項2】
前記有機溶媒(c)が非水溶性有機溶媒(c1)を含み、
前記有機溶媒(c)の総質量に対する非水溶性有機溶媒(c1)の含有量が10~100質量%である、請求項1に記載の導電性高分子組成物。
【請求項3】
前記導電性高分子組成物の総質量に対する、前記非水溶性有機溶媒(c1)の含有量が20質量%以上である、請求項2に記載の導電性高分子組成物。
【請求項4】
前記非水溶性有機溶媒(c1)が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、およびトリクロロエチレンからなる群から選ばれる1種以上である、請求項2または請求項3に記載の導電性高分子組成物。
【請求項5】
前記有機溶媒(c)に可溶な樹脂(d)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性高分子組成物。
【請求項6】
前記脂肪族系炭素-炭素二重結合が、ビニル基、ビニリデン基およびビニレン基からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の導電性高分子組成物。
【請求項7】
前記SiH基を有するポリシロキサンが、下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の導電性高分子組成物。
【化1】
(式中、R
1~R
5はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、フェニル基、または下記一般式(2)で表される基であり、RおよびR
6はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルコキシ基であり、R及びR
6が結合するケイ素原子が-Si-O-Si-を形成して下記一般式(3)に示す環を形成していてもよく、mは1以上の整数であり、nは0または1以上の整数である。
【化2】
(式中、R
11~R
16はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基またはフェニル基であり、R
17は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルコキシ基であり、p、rはそれぞれ独立に0または1以上の整数である。)
【化3】
【請求項8】
前記π共役系導電性高分子(a)が、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、およびポリチオフェンビニレン類からなる群から選択される1種以上を構成単位として有する重合体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性高分子組成物。
【請求項9】
前記π共役系導電性高分子(a)が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)またはポリピロールである、請求項8に記載の導電性高分子組成物。
【請求項10】
前記可溶化高分子(b)が、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリル酸アルキレンスルホン酸、および2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸からなる群から選択される1種以上に基づく単量体単位を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の導電性高分子組成物。
【請求項11】
アニオン基および電子吸引基の少なくとも一方を有するとともに、脂肪族系炭素-炭素二重結合を有する可溶化高分子(b’)と、
π共役系導電性高分子(a)と、を含有する前駆複合体を製造し、該前駆複合体にSiH基を有するポリシロキサンを付加し、導電性高分子を得て、
前記導電性高分子を有機溶媒(c)に分散させることにより、導電性高分子組成物を得ることを含む、導電性高分子組成物の製造方法。
【請求項12】
アニオン基を有する可溶化高分子前駆体(b’’)と、
π共役系導電性高分子(a)と、を含有する複合体を製造し、
該複合体と、オキシラン基を有するとともに脂肪族系炭素-炭素二重結合を有する化合物、およびオキセタン基を有するとともに脂肪族系炭素-炭素二重結合を有する化合物の少なくとも一方を反応させて前記脂肪族系炭素-炭素二重結合を導入することによって、前記前駆複合体を製造することを含む、請求項11に記載の導電性高分子組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子、その製造方法、導電性高分子組成物、導電性高分子組成物を含む帯電防止樹脂組成物、および帯電防止樹脂組成物を硬化してなる帯電防止樹脂皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性の皮膜を形成するための塗料として、ポリチオフェン等のπ共役系導電性高分子を水に分散させた導電性高分子水溶液が使用されている。
特許文献1には、導電性高分子水溶液の製造方法として、ポリスチレンスルホン酸の存在下、酸化剤を用いて、3,4-ジアルコキシチオフェンを化学酸化重合してポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)水溶液を得る方法が提案されている。
ところで、上記のような導電性高分子水溶液は、皮膜を形成する際の乾燥時間が長く、生産性が低いという問題がある。また、皮膜に耐水性、硬度、柔軟性、紫外線硬化性等を付与するために、導電性高分子水溶液に配合する反応性単量体、高分子、添加物等の配合物の中には、水に溶解しないものが多く、必要な配合が得られない場合がある。
【0003】
そこで、乾燥時間を短くし、水に溶解しない配合物を配合可能にするため、導電性高分子水溶液の溶媒である水を有機溶剤に置換した導電性高分子溶液が提案されている。
特許文献2には、導電性高分子水溶液に有機溶剤を添加し、エバポレータによって水を揮発させて除去する方法が開示されている。
特許文献3には、導電性高分子溶液を噴霧乾燥し、得られた固形物に有機溶剤とアミン化合物とノニオン界面活性剤を添加して分散する方法、導電性高分子水溶液に沈殿剤および有機溶剤を添加し、水を除去した後に、アミン化合物およびノニオン界面活性剤を添加して分散する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2636968号公報
【文献】特表2004-532292号公報
【文献】特開2008-45116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各種電子機器や精密機器、離型フィルム、保護フィルム、防汚塗料、耐熱性塗料、樹脂チューブ等の成型品に使用されるシリコーン系樹脂は疎水性が高く、一般にトルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒のような、極性が低い有機溶媒にしか溶解しない。このため、シリコーン系樹脂と、帯電防止等の用途で導電性高分子とを含有する塗料等を調製する場合には、上記の低極性の溶媒に分散できる導電性高分子が必要になる。
特許文献2に記載の方法では、有機溶剤としては、沸点が水よりも大幅に高く、水と混合し得るものを使用しなければならず、結果的に高極性の有機溶剤に分散した導電性高分子溶液しか得ることはできない。
特許文献3に記載の方法でも、水分が系中に多く残留する場合がある他、分散に用いる溶媒がメタノール、エタノール、メチルエチルケトンのような高極性の溶媒のみであり、低極性の溶媒に導電性高分子を分散する方法は開示されていない。
そこで、本発明は、低極性の有機溶媒にも分散可能な導電性高分子、その製造方法、導電性高分子組成物、帯電防止樹脂組成物、および帯電防止樹脂皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 脂肪族系炭素-炭素二重結合を有し、該脂肪族系炭素-炭素二重結合の少なくとも一部に、SiH基を有するポリシロキサンが付加した、導電性高分子。
[2] 前記脂肪族系炭素-炭素二重結合が、ビニル基、ビニリデン基、およびビニレン基からなる群から選ばれる1種以上である、[1]の導電性高分子。
[3] 前記SiH基を有するポリシロキサンが、下記一般式(1)で表される化合物である、[1]または[2]の導電性高分子。
【0007】
【0008】
(式中、R1~R5はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、フェニル基、または下記一般式(2)で表される基であり、RおよびR6はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルコキシ基であり、R及びR6が結合するケイ素原子が-Si-O-Si-を形成して下記一般式(3)に示す環を形成していてもよく、mは1以上の整数であり、nは0または1以上の整数である。
【0009】
【0010】
(式中、R11~R16はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基またはフェニル基であり、R17は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルコキシ基であり、p、rはそれぞれ独立に0または1以上の整数である。)
【0011】
【0012】
[4] 前記導電性高分子が、π共役系導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)との複合体であり、可溶化高分子(b)が、アニオン基および電子吸引基の少なくとも一方を有するとともに脂肪族系炭素-炭素二重結合を有し、該脂肪族系炭素-炭素二重結合の少なくとも一部に、SiH基を有するポリシロキサンが付加した、[1]~[3]のいずれかの導電性高分子。
[5] 前記π共役系導電性高分子(a)が、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、およびポリチオフェンビニレン類からなる群から選択される1種以上を構成単位として有する重合体である、[4]の導電性高分子。
[6] 前記π共役系導電性高分子(a)が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)またはポリピロールである、[5]の導電性高分子。
[7] 前記可溶化高分子(b)が、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリル酸アルキレンスルホン酸、および2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸からなる群から選択される1種以上に基づく単量体単位を有する、[4]~[6]のいずれかの導電性高分子。
[8] [1]~[7]のいずれかの導電性高分子と、有機溶媒(c)を含み、固形分を除いた残りの媒体の総質量に対する有機溶媒(c)の含有量が50~100質量%である、導電性高分子組成物。
[9] 前記有機溶媒(c)が非水溶性有機溶媒(c1)を含み、
前記有機溶媒(c)の総質量に対する非水溶性有機溶媒(c1)の含有量が10~100質量%である、[8]の導電性高分子組成物。
[10] 前記導電性高分子組成物の総質量に対する、前記非水溶性有機溶媒(c1)の含有量が20質量%以上である、[9]の導電性高分子組成物。
[11] 前記非水溶性有機溶媒(c1)が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、およびトリクロロエチレンからなる群から選ばれる1種以上である、[9]または[10]の導電性高分子組成物。
[12] 有機溶媒(c)に可溶な樹脂(d)を含む、[8]~[11]のいずれかの導電性高分子組成物。
【0013】
[13] アニオン基および電子吸引基の少なくとも一方を有するとともに、脂肪族系炭素-炭素二重結合を有する可溶化高分子(b’)と、
π共役系導電性高分子(a)と、を含有する前駆複合体を製造し、該前駆複合体にSiH基を有するポリシロキサンを付加する、ことを特徴とする導電性高分子の製造方法。
[14] アニオン基を有する可溶化高分子前駆体(b’’)と、
π共役系導電性高分子(a)と、を含有する複合体を製造し、
該複合体と、オキシラン基を有するとともに脂肪族系炭素-炭素二重結合を有する化合物、およびオキセタン基を有するとともに脂肪族系炭素-炭素二重結合を有する化合物の少なくとも一方を反応させて前記脂肪族系炭素-炭素二重結合を導入することによって、前記前駆複合体を製造する、[13]の導電性高分子の製造方法。
【0014】
[15] 前記[8]~[12]のいずれかの導電性高分子を含む、帯電防止樹脂組成物。
[16] 前記[15]の帯電防止樹脂組成物から有機溶媒を低減せしめ硬化して成る帯電防止樹脂皮膜。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性高分子は、主溶媒成分がトルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒のような低極性の有機溶媒にも分散可能であり、シリコーン樹脂のように一般的に低極性の溶媒にしか溶解しない樹脂と混合して用いることができる。
本発明の導電性高分子の製造方法によれば、低極性の有機溶媒にも分散可能な導電性高分子組成物を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<導電性高分子組成物>
本発明の導電性高分子は、脂肪族系炭素-炭素二重結合を有し、該脂肪族系炭素-炭素二重結合の少なくとも一部に、SiH基を有するポリシロキサンが付加した導電性高分子である。
本発明の導電性高分子組成物は、本発明の導電性高分子と有機溶媒(c)を含有する。さらに有機溶媒に可溶な樹脂(d)を含有してもよい。
導電性高分子は、脂肪族系炭素-炭素二重結合を含む残基(官能基)を有する導電性高分子前駆体に、SiH基を有するポリシロキサンを付加反応(ヒドロシリル化反応)させた反応生成物として得ることができる。該反応生成物は、炭素-炭素二重結合に由来する炭素原子にSiが付加したSi-C結合を有する。
【0017】
導電性高分子の好ましい態様は、π共役系導電性高分子(a)(以下、導電性高分子(a)ともいう。)と可溶化高分子(b)との複合体であり、可溶化高分子(b)は、アニオン基および電子吸引基の少なくとも一方を有するとともに脂肪族系炭素-炭素二重結合を有し、該脂肪族系炭素-炭素二重結合の少なくとも一部に、SiH基を有するポリシロキサンが付加したSi-C結合を有する。
可溶化高分子(b)は、可溶化高分子前駆体(b’’)に脂肪族系炭素-炭素二重結合が導入された二重結合含有高分子(b’)と、SiH基を有するポリシロキサンとの反応生成物として得られる。
【0018】
本態様の導電性高分子は、可溶化高分子(b)中のアニオン基および電子吸引基の一部が、導電性高分子(a)に配位して、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)とが複合体を形成したものである。
導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の複合体は、おおよそ数十ナノメータの粒子径を持つ微粒子をなし、該微粒子が媒体中に分散された分散液は、可視光領域では透明であって媒体中に溶解しているように見える。したがって、本発明では分散液と溶液、分散媒と溶媒とは厳密には区別されないものとする。
【0019】
[π共役系導電性高分子(a)]
導電性高分子(a)は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば使用できる。例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、およびポリチオフェンビニレン類からなる群から選択される1種以上に基づく構成単位を有する単独重合体またはブロック共重合体が挙げられる。重合の容易さ、空気中での安定性の点からは、ポリピロール類、ポリチオフェン類およびポリアニリン類が好ましい。
導電性高分子(a)は無置換のままでも、充分な導電性を得ることができるが、置換基を有していてもよい。例えば、導電性をより高めるために、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基等の置換基が導入されていてもよい。
【0020】
ポリピロール類の例としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
【0021】
ポリチオフェン類の例としては、ポリ(チオフェン)、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)等が挙げられる。
【0022】
ポリアニリン類の例としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
ポリアセチレン類の例としては、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン等が挙げられる。
ポリフェニレン類の例としては、ポリパラフェニレン、ポリナフチレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリピレン、等が挙げられる。
ポリフェニレンビニレン類の例としては、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン等が挙げられる。
これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選ばれる1種以上に基づく構成単位を有する単独重合体またはブロック共重合体が、抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。
ポリピロール、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高い上に、耐熱性が向上する点から、より好ましい。
ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルチオフェン)のようなアルキル置換化合物は溶媒溶解性や、疎水性樹脂を添加した場合の相溶性及び分散性をより向上させるためより好ましい。アルキル基の中では導電性に悪影響を与えることが少ないため、メチル基が好ましい。
【0024】
[可溶化高分子(b)]
可溶化高分子(b)は、導電性高分子(a)と複合体を形成して、導電性高分子(a)の水分散性を高める高分子化合物である。具体的には、アニオン基及び電子吸引基の少なくとも一方を有するとともに、脂肪族系炭素-炭素二重結合を有し、該脂肪族系炭素-炭素二重結合の少なくとも一部に、SiH基を有するポリシロキサンが付加した高分子化合物である。
【0025】
[アニオン基を有する高分子化合物]
アニオン基を有する高分子化合物(以下、「ポリアニオン」という。)は、一分子中に複数のアニオン基を有する高分子化合物である。
本発明において、アニオン基と電子吸引基の両方を有する高分子化合物は、ポリアニオンに含まれるものとする。
【0026】
ポリアニオンは公知の方法で製造できる。例えば、アニオン基を有する単量体を重合する方法、またはアニオン基を有する単量体とアニオン基を有さない単量体を共重合する方法により得ることができる。これらの単量体は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、アニオン基を有さない高分子を得た後、硫酸、発煙硫酸、スルファミン酸等のスルホン化剤によりスルホン化することにより得ることもできる。さらに、アニオン基を有する高分子をいったん得た後に、さらにスルホン化することにより、アニオン基含量のより多いポリアニオンを得ることもできる。
【0027】
アニオン基を有する単量体は、重合可能な官能基と、アニオン基とを有する。
アニオン基としては、-O-SO3
-X+、-SO3
-X+、-COO-X+、-O-PO4
-X+、-PO4
-X+(各式においてX+は水素イオンまたはアルカリ金属イオンを表す。)等が挙げられる。これらの中でも、導電性高分子(a)へのドーピング効果に優れる点から、硫酸エステル基(-O-SO3
-X+)、スルホ基(-SO3
-X+)、カルボキシ基(-COO-X+)が好ましく、-SO3
-X+、-COO-X+がより好ましい。
アニオン基は、隣接して又は一定間隔をあけてポリアニオンの主鎖に配置されていることが好ましい。
アニオン基を有する単量体は、導電性高分子にドープされて複合体を形成するポリアニオンの単量体として公知のものを用いることができる。
【0028】
スルホ基を含有する単量体の好ましい例としては、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリル酸アルキレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸などが挙げられる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよく、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化ナトリウムなどの塩基で中和した塩の状態で使用してもよい。
【0029】
リン酸基を含有する単量体としては、例えば、3-クロロ-2-アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノ(2-ヒドロキシエチルアクリレート)アシッドホスフェート、モノ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)アシッドホスフェート、モノ(2-ヒドロキシプロピルアクリレート)アシッドホスフェート、モノ(2-ヒドロキシプロピルメタクリレート)アシッドホスフェート、モノ(3-ヒドロキシプロピルアクリレート)アシッドホスフェート、モノ(3-ヒドロキシプロピルメタクリレート)アシッドホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェートなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせていてもよく、塩基で中和された塩の状態で使用してもよい。
【0030】
カルボキシ基を含有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびそれらの酸無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;等を挙げることができる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよく、塩基で中和された塩の状態で使用してもよい。
【0031】
アニオン基を有する単量体と共重合可能な、アニオン基を含まない他の単量体は、公知の化合物を適宜使用できる。例えば国際公開第2014/125827号の段落[0038]に記載の単量体が挙げられる。
【0032】
ポリアニオンの中でも、スルホ基を含有する単量体に基づく単量体単位を有する単独重合体または共重合体が好ましい。
具体的には、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリル酸アルキレンスルホン酸、および2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸からなる群から選択される1種以上に基づく単量体単位を有する単独重合体または共重合体が好ましく、スチレンスルホン酸に基づく単量体単位を有する単独重合体または共重合体がより好ましく、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0033】
ポリアニオンは置換基を有してもよい。置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシル基等が好ましい。溶媒への溶解性、耐熱性及び樹脂への相溶性等を考慮すると、アルキル基、ヒドロキシ基、フェノール基、エステル基がより好ましい。
アルキル基は、極性溶媒又は非極性溶媒への溶解性及び分散性、樹脂への相溶性及び分散性等を高くすることができ、ヒドロキシ基は、他の水素原子等との水素結合を形成しやすくでき、有機溶媒への溶解性、樹脂への相溶性、分散性、接着性を高くすることができる。また、シアノ基及びヒドロキシフェニル基は、極性樹脂への相溶性、溶解性を高くすることができ、しかも、耐熱性も高くすることができる。
上記置換基の中では、アルキル基、ヒドロキシ基、エステル基、シアノ基が好ましい。
【0034】
[電子吸引基を有する高分子化合物]
電子吸引基を有する高分子化合物は、電子吸引基を有する単量体に基づく単量体単位を有する単独重合体または共重合体である。電子吸引基として、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、カルボニル基、アセチル基から選ばれる少なくとも1種を有することが好ましい。特にシアノ基は極性が高く、導電性高分子(a)の溶媒溶解性をより高めることができる点で好ましい。また、バインダ樹脂との相溶性、分散性をより高くできる点で好ましい。
電子吸引性基を有する高分子化合物の具体例としては、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ヒドロキシ基あるいはアミノ基含有樹脂をシアノエチル化した樹脂(例えば、シアノエチルセルロース)、ポリビニルピロリドン、アルキル化ポリビニルピロリドン、ニトロセルロースなどが挙げられる。
【0035】
可溶化高分子(b)の分子量は、脂肪族系炭素-炭素二重結合が導入される前の状態(可溶化高分子前駆体(b’’))で2万~100万が好ましい。上記下限値以上であると導電性高分子(a)の可溶化効果が充分に得られやすく、上限値以下であると優れた導電性が得られやすい。
【0036】
本発明の導電性高分子組成物において、可溶化高分子(b)中のアニオン基および電子吸引基の合計の含有量は、可溶化高分子前駆体(b’’)におけるアニオン基および電子吸引基の合計が、導電性高分子(a)の単量体単位1モルに対して0.1~20モルの範囲であることが好ましく、1~12モルの範囲であることがより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、導電性高分子(a)の可溶化効果が充分に得られやすい。一方、上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子(a)の相対的な含有量が充分に確保でき、優れた導電性が得られやすい。
ここで、導電性高分子(a)の単量体単位とは、導電性高分子(a)の構成単位を形成する繰り返し単位を意味する。例えば、導電性高分子(a)が「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」に基づく構成単位からなる重合体である場合、導電性高分子(a)の単量体単位の1モルは、「3、4-エチレンジオキシチオフェン」に基づく単位の1モルである。
【0037】
[脂肪族系炭素-炭素二重結合の導入]
可溶化高分子(b)には、脂肪族系炭素-炭素二重結合が導入されている。
脂肪族系炭素-炭素二重結合としては、SiH基との反応性の点から、ビニル基、ビニリデン基およびビニレン基からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0038】
例えば、脂肪族系炭素-炭素二重結合を含む単量体と、アニオン基を有する単量体、または、アニオン基を有する単量体および電子吸引基を有する単量体とを共重合することで、可溶化高分子前駆体(b’’)に脂肪族系炭素-炭素二重結合が導入された二重結合含有高分子(b’)を得ることができる。
【0039】
また、可溶化高分子前駆体(b’’)に、脂肪族系炭素-炭素二重結合を導入する方法としては、可溶化高分子前駆体(b’’)のアニオン基に、オキシラン基を有するとともに脂肪族系炭素-炭素二重結合を有する化合物、およびオキセタン基を有するとともに脂肪族系炭素-炭素二重結合を有する化合物の少なくとも一方(以下、「二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物ともいう。)を反応させる方法が好ましい。
オキシラン基および/またはオキセタン基は、可溶化高分子前駆体(b’’)のアニオン基に開環付加し、可溶化高分子前駆体(b’’)に脂肪族系炭素-炭素二重結合が導入される。
二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物としては、一分子中に、脂肪族系炭素-炭素二重結合と、オキシラン基若しくはオキセタン基を有する化合物であればよい。1分子中に1個のオキシラン基またはオキセタン基を有することが、凝集やゲル化を低減しやすい点で好ましい。
二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物の分子量は、有機溶媒への分散性向上効果に優れる点で、50~2,000が好ましく、70~300がより好ましい。
【0040】
二重結合を有するオキシラン基含有化合物の例としては、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシ-1-メチル-4-イソプロペニルシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロヘキセン、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、2,3-エポキシ-5-ビニルノルボルナン、1,2-エポキシ-3-ブテン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、1,2-エポキシ-9-デセン、2,6-ジメチル-2,3-エポキシ-7-オクテンが挙げられる。これらの中でも、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、1,2-エポキシ-9-デセンがより好ましい。
二重結合を有するオキセタン基含有化合物の例としては、オキセタン-2-イルメタノールアリルエーテル、オキセタン-2-イルメタノールビニルエーテル等が挙げられる。
前記オキシラン基含有化合物は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。前記オキセタン基含有化合物は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。前記オキシラン基含有化合物の1種以上と前記オキセタン基含有化合物の1種以上とを併用してもよい。
【0041】
反応に使用する量は、可溶化高分子前駆体(b’’)に対して、二重結合を有するオキシラン基とオキセタン基含有化合物の合計が、質量比で1.0~200倍であることが好ましく、5.0~100倍がより好ましい。
また可溶化高分子前駆体(b’’)中のアニオン基の当量に対して、付加した化合物中のオキシラン基とオキセタン基の合計の当量比が、0.05~20倍であることが好ましく、0.1~10倍がより好ましい。
二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物の使用量または付加量が上記範囲の下限値以上であると、有機溶媒への分散性向上効果に優れ、上限値以下であると、余剰の二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物が除去しやすい。
【0042】
また、可溶化高分子前駆体(b’’)に、二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物を反応させる際に、長鎖アルキル基を有するオキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物の1種以上を反応させてもよい。長鎖アルキル基をさらに導入することにより導電性高分子の疎水性をより高め、低極性の有機溶媒との親和性をより高めることができる。長鎖アルキル基は炭素数4~30が好ましく、6~18がより好ましい。
【0043】
長鎖アルキル基を有するオキシラン基含有化合物としては、C12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテル(アルコールの炭素数が12であるものと13であるものの混合物)、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジルステアレート等が挙げられる。
【0044】
可溶化高分子前駆体(b’’)と反応させる、長鎖アルキル基を有するオキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物の量は、可溶化高分子前駆体(b’’)に対して、質量比で1.0~200倍が好ましく、5.0~100倍がより好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、有機溶媒への分散性向上効果にさらに優れ、上限値以下であると、余剰の長鎖アルキル基を有するオキシラン基含有化合物を除去しやすい。
また、二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物と長鎖アルキル基を有するオキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物の量は、二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物100質量部に対して、長鎖アルキル基を有するオキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物が1.0~10000質量部であることが好ましく、5.0~2000質量部であることがより好ましい。
上記範囲の下限値以上であると長鎖アルキル基による有機溶媒への分散性向上効果に優れ、上限値以下であるとSiH基を有するポリシロキサンと反応させる二重結合が確保できる。
また可溶化高分子前駆体(b’’)中のアニオン基の当量に対して、二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物中、および長鎖アルキル基を有するオキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物中の、オキシラン基とオキセタン基の合計の当量比が、0.05~20倍であることが好ましく、0.1~10倍がより好ましい。
【0045】
[SiH基を有するポリシロキサン]
可溶化高分子(b)において、脂肪族系炭素-炭素二重結合の少なくとも一部は、SiH基を有するポリシロキサンの付加反応(ヒドロシリル化反応)により、Si-C結合を形成している。
SiH基を有するポリシロキサンとしては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0046】
【0047】
一般式(1)において、R1~R5はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、フェニル基、または下記一般式(2)で表される基である。
一般式(2)において、R11~R16はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基またはフェニル基であり、R17は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルコキシ基である。p、rはそれぞれ独立に0または1以上の整数である。
一般式(1)において、RおよびR6はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルコキシ基であり、R及びR6が結合するケイ素原子が-Si-O-Si-を形成して下記一般式(3)に示す環を形成していてもよい。mは1以上の整数であり、nは0または1以上の整数である。
【0048】
【0049】
【0050】
RまたはR6としてのアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、直鎖状が好ましい。炭素数は1~20であり、1~6が好ましい。アルキル基の置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子等が例示できる。
RまたはR6としての芳香族炭化水素基の炭素数は6~20であり、6~10が好ましい。芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子等が例示できる。
RまたはR6としてのアルコキシ基は直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、直鎖状が好ましい。炭素数は1~20であり、1~6が好ましい。アルキル基の置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子等が例示できる。
Rは、水素原子、メチル基、フェニル基が特に好ましい。
R6は、水素原子、メチル基、フェニル基が特に好ましい。
【0051】
R17の好ましい態様は、R6の好ましい態様と同様である。R11~R16はそれぞれ独立に水素原子、メチル基またはフェニル基が好ましい。
R11~R16のうちR12のみが水素原子で、かつpが2以上の整数である場合、複数のR11は互いに同じであっても異なってもよい。
p=0かつr=0でもよい。R11~R16のうちR12のみが水素原子で、かつpが1以上である場合、r/(r+p)は0.01~0.95が好ましく、0.05~0.80がより好ましい。
【0052】
R1~R5はそれぞれ独立にメチル基またはフェニル基が好ましい。
mが2以上の整数である場合、複数のR1は互いに同じであっても異なってもよい。
n/(n+m)は0.01~0.95が好ましく、0.05~0.80がより好ましい。
【0053】
SiH基を有するポリシロキサンの分子量は、200~100000が好ましく、200~10000がより好ましい。該分子量が上記範囲の下限値以上であるとポリシロキサンによる有機溶媒への分散性向上効果に優れ、上限値以下であると導電性高分子組成物の粘度が上がりすぎるのを防ぐことができる。
nが1以上である場合、-(SiHR1)-で表される単位、および-(SiR2R3)-で表される単位の結合の順序は限定されない。mまたはnの少なくとも一方が2以上である場合、ランダム結合でもよく、ブロック結合でもよい。
nが2以上の整数である場合、複数のR2は互いに同じであっても異なってもよく、複数のR3は互いに同じであっても異なってもよい。
付加反応させる際の、SiH基を有するポリシロキサンの使用量は、二重結合含有高分子(b’)と導電性高分子(a)とを含有する前駆複合体の1質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.2~5.0質量部がより好ましい。SiH基を有するポリシロキサンの使用量が上記範囲の下限値以上であると有機溶媒への分散性が良好になりやすい。上限値以下であると未反応のポリシロキサンの残存が少なくなりやすい。
【0054】
[有機溶媒(c)]
本発明の導電性高分子組成物は、本発明の導電性高分子のほかに、有機溶媒(c)を主成分とする媒体(溶媒または分散媒)を含む。
有機溶媒(c)を主成分とするとは、固形分(非揮発成分)を除いた残りの媒体の総質量に対する有機溶媒(c)の含有量が50~100質量%であることを意味する。
導電性高分子組成物が媒体(溶媒または分散媒)を含む場合、導電性高分子組成物中の導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は、導電性高分子組成物の総質量に対して0.05~5.0質量%であることが好ましい。導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計含有量が0.05質量%以上であると、導電性高分子組成物を塗布後に形成される皮膜の導電性が優れたものになりやすい。5.0質量%以下であると、均一性に優れた導電性皮膜が得られやすい。
【0055】
有機溶媒(c)として、非水溶性有機溶媒(c1)および非水溶性有機溶媒以外の有機溶媒(c2)の、一方または両方を用いることができる。
非水溶性有機溶媒とは、20℃における水100gに対する溶解量が2g以下の有機溶媒を意味する。
非水溶性有機溶媒は、低極性の有機溶媒であり、シリコーン樹脂等の疎水性の高い樹脂を溶解させることができるものである。
一方、水溶性有機溶媒とは、20℃における水100gに対する溶解量が2g超の有機溶媒を意味する。
疎水性の高い樹脂を溶解させる場合には、有機溶媒(c)が、非水溶性有機溶媒(c1)を含むことが好ましい。例えば、有機溶媒(c)の総質量に対する非水溶性有機溶媒(c1)の含有量が10~100質量%であることが好ましく、20~100質量%がより好ましい。
【0056】
非水溶性有機溶媒(c1)としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系有機溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂肪族炭化水素系有機溶媒;クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン系有機溶媒が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
非水溶性有機溶媒(c1)が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、およびトリクロロエチレンからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
導電性高分子組成物が、非水溶性有機溶媒(c1)を含む場合、疎水性の高い樹脂をより容易に溶解させるためには、導電性高分子組成物の総質量に対する非水溶性有機溶媒(c1)の含有量が20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。
【0057】
有機溶媒(c2)は、非水溶性有機溶媒以外の有機溶媒であり、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の極性溶媒;クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等の鎖状エーテル類;3-メチル-2-オキサゾリジノン等の複素環化合物;アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物;等が挙げられる。
【0058】
[有機溶媒に可溶な樹脂(d)]
導電性高分子組成物が有機溶媒(c)を含有する場合、さらに、導電性高分子組成物中の有機溶媒(c)に可溶な樹脂(d)を含有してもよい。
例えば、バインダの機能を持つ樹脂(以下、バインダ樹脂ともいう。)を導電性高分子組成物に含有させると、導電性皮膜の耐傷性や硬度を高くし、皮膜と基材との密着性を向上させることができる。
バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂でもよく熱可塑性樹脂でもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマ-、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂;エポキシ樹脂;キシレン樹脂;アラミド樹脂;ポリイミドシリコーン;ポリウレタン;ポリウレア;メラミン樹脂;フェノール樹脂;ポリエーテル;アクリル樹脂;シリコーン樹脂;ウレタン樹脂;およびこれらの共重合体や混合物が挙げられる。
これらの中でも、ポリウレタン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリイミドシリコーン、シリコーン樹脂のいずれか1種以上が好ましい。アクリル樹脂は、高硬度で透明性に優れるため、光学フィルタの用途に特に適している。
【0059】
本発明の導電性高分子組成物は、非水溶性有機溶媒(c1)以外の有機溶媒には溶解しにくい樹脂とも良好な混和性が得られる。かかる樹脂としては、例えばシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0060】
[その他の成分]
導電性高分子組成物は、媒体の一部として水を含んでもよい。水の含有量は、導電性高分子組成物中の、固形分を除いた残りの媒体の総質量に対して50質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。ゼロでもよい。
導電性高分子組成物は、導電性高分子(a)、可溶化高分子(b)、有機溶媒(c)、樹脂(d)、および水のほかに、さらに、公知の添加剤の1種以上を含んでもよい。
添加剤の合計の含有量は、導電性高分子(a)、可溶化高分子(b)および樹脂(d)の合計100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0061】
<導電性高分子の製造方法>
本発明の導電性高分子は、導電性高分子(a)と、二重結合含有高分子(b’)とを含有する前駆複合体を製造し、該前駆複合体にSiH基を有するポリシロキサンを付加する方法で製造できる。
前駆複合体において、二重結合含有高分子(b’)中のアニオン基および電子吸引基の一部は、導電性高分子(a)に配位している。
【0062】
前駆複合体は、以下の方法によって製造することができる。
(1)導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体を分散させた水分散液(または水溶液)からの製造方法。
導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体を分散させた水分散液は、導電性高分子(a)を構成する単量体(a’)と、可溶化高分子前駆体(b’’)とを含む水溶液または水分散液中で、酸化剤の存在下で単量体(a’)を重合させることで得られる。
市販品の導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体の水分散液を用いてもよい。市販品の例としては、Heraeus社のPEDOT/PSS水分散液(商品名:Clevios)、アグファ社のPEDOT/PSS水分散液(商品名:Orgacon)などを挙げることができる。
【0063】
前駆複合体を得る方法としては、例えば、上記水分散液に、二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物を溶剤と共に添加し、可溶化高分子前駆体(b’’)のアニオン基に、二重結合を有するオキシラン基および/またはオキセタン基を開環付加反応させる。このとき、開環付加によって生じたヒドロキシ基にさらにオキシラン基および/またはオキセタン基が開環付加してもよい。
上記反応で得られた反応液を濃縮、濾別あるいは乾固して、濃縮物または固体の前駆複合体が得られる。その後、好適には、得られた濃縮物あるいは固体を、有機溶媒(c)に溶解または分散させて前駆複合体分散液を得る。
【0064】
(2)凍結乾燥された導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体の固形物からの製造方法。
前記固形物に、二重結合を有するオキシラン基(オキセタン基)含有化合物が溶解する溶剤、および水の一方または両方を適量添加後、可溶化高分子前駆体(b’’)のアニオン基に、二重結合を有するオキシラン基および/またはオキセタン基を開環付加反応させる。この反応で前駆複合体が生成する。
その後は上記(1)の方法と同様にして、前駆複合体分散液を得る。
【0065】
前駆複合体への、SiH基を有するポリシロキサンの付加反応は、公知の白金等の触媒を用いたヒドロシリル化反応により行うことができる。ヒドロシリル化反応は溶媒中で行うことが好ましい。
前駆複合体分散液中でSiH基を有するポリシロキサンを付加させることにより、有機溶媒中に導電性高分子を含有する導電性高分子組成物が得られる。さらに、有機溶媒中での導電性高分子の分散性を保ち、高い導電性を得るため、ホモジナイザや高圧ホモジナイザで処理してもよく、他の有機溶媒を加えてもよい。
【0066】
上記の製造方法によれば、前駆複合体に、ポリシロキサン構造を導入することにより疎水性が増し、非水溶性有機溶媒(低極性の有機溶媒)にも分散可能な導電性高分子となる。したがって、非水溶性有機溶媒を主溶媒成分とする溶媒に、導電性高分子が分散した導電性高分子組成物が得られる。このような導電性高分子組成物は、シリコーン樹脂のように一般的に低極性の溶媒にしか溶解しない樹脂に配合して用いることができる。
特に脂肪族系炭素-炭素二重結合を導入するための化合物として、オキシラン基含有有機化合物および/またはオキセタン基含有有機化合物を用いると、導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体に、オキシラン基および/またはオキセタン基が導入されることにより該複合体の疎水性が増す効果と、さらに脂肪族系炭素-炭素二重結合にポリシロキサン構造を導入することにより疎水性が増す効果の両方が得られ、導電性高分子の非水溶性有機溶媒(低極性の有機溶媒)への分散性を充分に向上させることができる。
また特に、導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体として、ポリスチレンスルホン酸とポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の複合体(以下、「PEDOT-PSS」ともいう。)を用いると、組成物の熱安定性が高く、塗膜成形後の透明性が高い点で好ましい。
【0067】
<帯電防止樹脂組成物>
本発明の導電性高分子と有機溶媒(c)を含む導電性高分子組成物は、帯電防止皮膜を形成するための帯電防止樹脂組成物(塗料)として好適に用いることができる。
上記導電性高分子(a)、可溶化高分子(b)、有機溶媒(c)および樹脂(d)を含む導電性高分子組成物は、帯電防止皮膜を形成するための帯電防止樹脂組成物(塗料)として好適に用いることができる。この帯電防止樹脂組成物は、導電性高分子(a)、可溶化高分子(b)および有機溶媒(c)を含む溶液または分散液と、有機溶媒(c)および樹脂(d)を含む樹脂溶液を混合して製造することができる。
【0068】
<帯電防止樹脂皮膜>
本発明の実施の形態に係る帯電防止樹脂皮膜は、上述の帯電防止樹脂組成物から有機溶媒を低減せしめ硬化して成る膜である。導電性高分子組成物が固形の場合には、それを、有機溶媒を主とする溶媒中に可溶若しくは分散させた溶液から帯電防止樹脂組成物(塗料)を調製する。また、導電性高分子組成物が既に有機溶媒を主とする溶媒中に可溶若しくは分散させた状態の溶液である場合には、そのまま若しくは有機溶媒でさらに希釈して帯電防止樹脂組成物(塗料)を調製する。
塗料は、紙、プラスチック、鉄、セラミックス、ガラスに代表される基体上に供給される。供給方法としては、刷毛やバーコーターを使う塗布法、塗料中に基体を浸漬するディップ法、塗料を基体上に滴下して基体を回転させて塗料を拡げるスピンコート法などの種々の手法を例示できる。基体上の塗料の硬化法は、加熱により有機溶媒を除去する方法の他、紫外線などの光や電子線を照射して硬化する方法などを例示できる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
<製造例>
(製造例1)・・・ポリスチレンスルホン酸(可溶化高分子前駆体(b’’))の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、その溶液を12時間攪拌した。得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形物を得た。得られたポリスチレンスルホン酸についてGPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)システムを用いて、昭和電工製プルランを標準物質として重量平均分子量を測定した結果、分子量は30万であった。
【0071】
(製造例2)・・・PEDOT-PSS水溶液の製造
14.0gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。これにより得られた混合溶液を20℃に保ち攪拌を行いながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.6gの過硫酸アンモニウムと2.8gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくりと添加し、6時間攪拌して反応させた。
本例において反応に用いた、3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体単位1モルに対して、ポリスチレンスルホン酸中のアニオン基は2モルであった。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。次に、得られた溶液に、200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.2質量%の青色のPEDOT-PSSの水溶液を得た。
【0072】
<前駆複合体の製造>
(製造例3)
製造例2で得られた100gのPEDOT-PSSの水溶液と、100gのメタノールと、25gの1,2-エポキシ-5-ヘキセン(分子量98.15)とを混合し、スターラーを用いて60℃にて4時間攪拌した。析出した固形物を濾過回収し、得られた固形物に150gのメチルエチルケトンを加え、高圧分散して0.5質量%の前駆複合体分散液を得た。
本例において、PEDOT-PSS中のポリスチレンスルホン酸の質量に対して、用いた1,2-エポキシ-5-ヘキセンの質量は約29倍である。
また、回収した前駆複合体の重量から、1,2-エポキシ-5-ヘキセンの付加量を推定すると、PEDOT-PSSを構成するポリスチレンスルホン酸中のアニオン基の当量に対して、付加した1,2-エポキシ-5-ヘキセン中のオキシラン基の当量は約0.8倍であった。
【0073】
(製造例4)
製造例3の1,2-エポキシ-5-ヘキセンを1,2-エポキシ-9-デセン(分子量154.25)に変えた以外は、製造例3と同じ条件にて、0.5質量%の前駆複合体分散液を得た。
本例において、PEDOT-PSS中のポリスチレンスルホン酸の質量に対して、用いた1,2-エポキシ-9-デセンの質量は約29倍である。
また、回収した前駆複合体の重量から、1,2-エポキシ-9-デセンの付加量を推定すると、PEDOT-PSSを構成するポリスチレンスルホン酸中のアニオン基の当量に対して、付加した1,2-エポキシ-9-デセン中のオキシラン基の当量は約0.7倍であった。
【0074】
(製造例5)
製造例3の1,2-エポキシ-5-ヘキセンの25gを、C12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテルの20gおよび1,2-エポキシ-9-デセンの10gに変えた以外は、製造例3と同じ条件にて、0.5質量%の前駆複合体分散液を得た。
本例において、PEDOT-PSS中のポリスチレンスルホン酸の質量に対して、用いた1,2-エポキシ-9-デセンの質量は約12倍である。
また、回収した前駆複合体の重量から、1,2-エポキシ-9-デセン及びC12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテルの合計の付加量を推定すると、PEDOT-PSSを構成するポリスチレンスルホン酸中のアニオン基の当量に対して、付加した1,2-エポキシ-9-デセン及びC12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテル中のオキシラン基の当量は約1.0倍であった。
【0075】
(製造例6)
製造例3の1,2-エポキシ-5-ヘキセンの25gを、C12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテルの25gおよび1,2-エポキシ-9-デセンの5gに変えた以外は、製造例3と同じ条件にて、0.5質量%の前駆複合体分散液を得た。
本例において、PEDOT-PSS中のポリスチレンスルホン酸の質量に対して、用いた1,2-エポキシ-9-デセンの質量は約5.8倍である。
また、回収した前駆複合体の重量から、1,2-エポキシ-9-デセン及びC12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテルの合計の付加量を推定すると、PEDOT-PSSを構成するポリスチレンスルホン酸中のアニオン基の当量に対して、付加した1,2-エポキシ-9-デセン及びC12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテル中のオキシラン基の当量は約1.0倍であった。
【0076】
<実施例>
(実施例1)
製造例3で得た前駆複合体分散液100gにトルエン100gを加え、ロータリーエバポレーターで約100gの溶媒を留去した。再びトルエン100gを加え、ロータリーエバポレーターで約100gの溶媒を留去したのち、トルエンを加えて全量を100gとした。こうして得たトルエン溶液を三口フラスコに移し、撹拌装置、温度計及び還流冷却器を取り付け、HMS-H271(商品名、Gelest社製、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、水素末端)の0.5gを加え、窒素気流下、80℃まで昇温し、CAT-PL-50T(商品名、信越化学工業社製、白金触媒)の0.1mLを加え、3時間加熱した。高圧ホモジナイザ(吉田機械興業社製ナノヴェイタ)で処理し、メチルエチルケトンで2倍に希釈し、導電性高分子組成物182gを得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.5質量%、有機溶媒(c)の総質量に対するトルエン(非水溶性有機溶媒(c1))の含有量は約50質量%である。
本例におけるSiH基を有するポリシロキサンの使用量は、前駆複合体(導電性高分子(a)と二重結合含有高分子(b’)の合計)の1質量部に対して1.0質量部である。
【0077】
(実施例2)
製造例3で得た前駆複合体分散液を製造例4で得た前駆複合体分散液に代えた他は、実施例1と同様な操作を行い、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.5質量%、有機溶媒(c)の総質量に対するトルエン(非水溶性有機溶媒(c1))の含有量は約50質量%である。
本例におけるSiH基を有するポリシロキサンの使用量は、前駆複合体(導電性高分子(a)と二重結合含有高分子(b’)の合計)の1質量部に対して1.0質量部である。
【0078】
(実施例3)
製造例3で得た前駆複合体分散液を製造例5で得た前駆複合体分散液に代えた他は、実施例1と同様な操作を行い、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.5質量%、有機溶媒(c)の総質量に対するトルエン(非水溶性有機溶媒(c1))の含有量は約50質量%である。
本例におけるSiH基を有するポリシロキサンの使用量は、前駆複合体(導電性高分子(a)と二重結合含有高分子(b’)の合計)の1質量部に対して1.0質量部である。
【0079】
(実施例4)
製造例3で得た前駆複合体分散液を製造例6で得た前駆複合体分散液に代えた他は、実施例1と同様な操作を行い、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.5質量%、有機溶媒(c)の総質量に対するトルエン(非水溶性有機溶媒(c1))の含有量は約50質量%である。
本例におけるSiH基を有するポリシロキサンの使用量は、前駆複合体(導電性高分子(a)と二重結合含有高分子(b’)の合計)の1質量部に対して1.0質量部である。
【0080】
(実施例5)
HMS-H271を0.5gから1.0gに変えた他は、実施例1と同様な操作を行い、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.75質量%、有機溶媒(c)の総質量に対するトルエン(非水溶性有機溶媒(c1))の含有量は約50質量%である。
本例におけるSiH基を有するポリシロキサンの使用量は、前駆複合体(導電性高分子(a)と二重結合含有高分子(b’)の合計)の1質量部に対して2.0質量部である。
【0081】
(実施例6)
HMS-H271を0.5gから1.0gに変えた他は、実施例4と同様な操作を行い、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.75質量%、有機溶媒(c)の総質量に対するトルエン(非水溶性有機溶媒(c1))の含有量は約50質量%である。
本例におけるSiH基を有するポリシロキサンの使用量は、前駆複合体(導電性高分子(a)と二重結合含有高分子(b’)の合計)の1質量部に対して2.0質量部である。
【0082】
(実施例7)
HMS-H271の0.5gを、HMS-151(商品名、Gelest社製、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキシ末端、分子量1900~2000)の0.5gに代えた他は、実施例4と同様な操作を行い、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.5質量%、有機溶媒(c)の総質量に対するトルエン(非水溶性有機溶媒(c1))の含有量は約50質量%である。
本例におけるSiH基を有するポリシロキサンの使用量は、前駆複合体(導電性高分子(a)と二重結合含有高分子(b’)の合計)の1質量部に対して1.0質量部である。
【0083】
(実施例8)
HMS-H271の0.5gを、HMS-501(商品名、Gelest社製、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキシ末端、分子量900~1200)の0.5gに代えた他は、実施例4と同様な操作を行い、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.5質量%、有機溶媒(c)の総質量に対するトルエン(非水溶性有機溶媒(c1))の含有量は約50質量%である。
本例におけるSiH基を有するポリシロキサンの使用量は、前駆複合体(導電性高分子(a)と二重結合含有高分子(b’)の合計)の1質量部に対して1.0質量部である。
【0084】
(実施例9)
HMS-H271の0.5gを、HMS-082(商品名、Gelest社製、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキシ末端、分子量5500~6500)の0.5gに代えた他は、実施例4と同様な操作を行い、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.5質量%、有機溶媒(c)の総質量に対するトルエン(非水溶性有機溶媒(c1))の含有量は約50質量%である。
本例におけるSiH基を有するポリシロキサンの使用量は、前駆複合体(導電性高分子(a)と二重結合含有高分子(b’)の合計)の1質量部に対して1.0質量部である。
【0085】
(比較例1)
本例は、前駆複合体にSiH基を有するポリシロキサンを付加させなかった例である。
製造例3で得た前駆複合体分散液100gにトルエン100gを加え、ロータリーエバポレーターで約100gの溶媒を留去した。再びトルエン100gを加え、ロータリーエバポレーターで約150gの溶媒を留去したのち、トルエンを加えて全量を50gとした。高圧ホモジナイザ(吉田機械興業社製ナノヴェイタ)で処理し、メチルエチルケトンで2倍に希釈し、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.5質量%、有機溶媒(c)の総質量に対するトルエン(非水溶性有機溶媒(c1))の含有量は約50質量%である。
【0086】
<評価>
[実施例1~9及び比較例1の導電性組成物とそれらを用いて形成した皮膜の評価方法]
(1)表面抵抗率
各実施例で得た導電性高分子組成物溶液をPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)T60)上に#12バーコーターで塗布した後、熱風乾燥機を用いて100℃×1分間の条件で乾燥した。得られたフィルムの表面抵抗値は、ハイレスタ(三菱化学アナリテック社製: ハイレスタGP MCP-HT450)を用いて、印加電圧10Vの条件で測定した。
(2)透過率
表面抵抗値の測定に用いたフィルムの透過率を、ヘイズメーターNDH5000(日本電色社製)を用いて測定した。
(3)溶液安定性(1)((c1)/(c2)=1/1の溶媒中)
各例において、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量が0.4質量%となるようにトルエン/メチルエチルケトン=1/1(質量比)の等量混合液を添加して得られた導電性高分子組成物をサンプルとした。サンプル各6gを23℃で24時間静置後、沈降の有無で評価した。本評価において、サンプル中の溶媒における(c1)/(c2)の質量比は、(c1)/(c2)=約1/1となる。
(4)溶液安定性(2)((c1)/(c2)=5/1の溶媒中)
非水溶性有機溶媒(c1)を多く含む溶液中での安定性を調べるために、溶液安定性(1)と同様に調製したサンプル2gに、非水溶性有機溶媒(c1)としてヘプタン4gを混合し、23℃で24時間静置後、沈降の有無で評価した。本評価において、サンプル中の溶媒における(c1)/(c2)の質量比は、(c1)/(c2)=約5/1となる。
【0087】
[評価結果]
表1に、各実施例および各比較例にて得られた導電性高分子組成物の、溶液安定性およびそれを用いて形成した皮膜の評価を示す。表1において、溶液安定性の「安定」とは、沈降物等が無く溶液中で分散安定化している状態を、「沈降」とは、沈降物が存在しており溶液中で分散安定化してしない状態をそれぞれ意味する。
表1には、各実施例および各比較例にて得られた導電性高分子組成物中の、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量(表には固形分濃度と記載する。)、溶媒の種類と、溶媒における(c1)/(c2)の質量比を示す。
【0088】
【0089】
表1の結果に示されるように、実施例1~9では、非水溶性有機溶媒(c1)を多く含む低極性の有機溶媒中でも、導電性高分子の沈降が生じず、優れた分散性を示した。
一方、前駆複合体にSiH基を有するポリシロキサンを反応させなかった比較例1では、低極性の有機溶媒中で導電性高分子の沈降が生じた。
かかる効果が得られる理由は以下のように考えられる。
製造例3~6で得られた前駆複合体は、ポリアニオンに、脂肪族系炭素-炭素二重結合を有するオキシラン基含有化合物を付加開環して得られたものである。従って、該前駆複合体は、脂肪族系炭素-炭素二重結合を多数含有すると考えられる。
実施例1~9では、SiH基を有するポリシロキサン中のSiH基が、上記脂肪族系炭素-炭素二重結合と付加反応し、ポリシロキサン構造を含有する複合体が生成し、そのため、表1に示すように、より疎水性の溶媒への分散が可能になったと考えられる。
また、実施例1~9の導電性高分子からなる皮膜の導電性および透明性は、比較例1と比べて遜色なく、良好な性能を維持していることがわかる。
【0090】
(実施例10)
本例は、実施例1で得られた導電性高分子組成物に、さらに樹脂(d)として光重合性樹脂を添加して塗料を調製した例である。
実施例1にて得られた導電性高分子組成物10gに、メチルエチルケトン2g、ペンタエリスリトールトリアクリレート1g、光重合開始剤としてイルガキュア127(製品名、BASF社製)を0.02g添加し、塗料を作製した。
得られた塗料を、#16のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布して、110℃にて約1分間乾燥後、高圧水銀灯にて400mJ/cm2のUV照射を行い、皮膜を形成した。
実施例10にて作製した皮膜は、透明性に優れ、かつ6×107Ω/□の表面抵抗値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、例えば、剥離紙、帯電防止フィルム、導電性塗料、タッチスクリーン、有機LED、有機EL、リチウム二次電池、有機薄膜太陽電池、導電性高分子繊維などに有効に利用できる。