(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】銀被覆樹脂粒子
(51)【国際特許分類】
H01B 5/00 20060101AFI20220623BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20220623BHJP
C22C 5/06 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
H01B5/00 C
H01B1/02 Z
C22C5/06 Z
(21)【出願番号】P 2018019518
(22)【出願日】2018-02-06
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】赤池 寛人
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 和彦
(72)【発明者】
【氏名】影山 謙介
(72)【発明者】
【氏名】塚田 博一
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-082784(JP,A)
【文献】国際公開第2006/018995(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/00
H01B 1/02
C22C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にパラジウム、銀ナノ粒子または錫が析出した樹脂粒子と、前記樹脂粒子の表面に
接して設けられた銀被覆層とを有する銀被覆樹脂粒子であって、
前記銀被覆層が、
めっき層であり、Sn、Cu、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属を合計で100質量ppm以上10000質量ppm以下の範囲内で含有し、残部がAgおよび不可避不純物であることを特徴とする銀被覆樹脂粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂粒子と、この樹脂粒子の表面に設けられた銀被覆層とを有する銀被覆樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
銀被覆樹脂粒子は、銀粒子と同等の導電性を有し、かつ母粒子である樹脂粒子が銀粒子と比較して軟らかいため、変形させやすいという特性を有する。このため、銀被覆樹脂粒子は、TIM(Thermal Interface Material)材料や導電性スペーサなどの導電性材料の導電性フィラーとして利用されている。導電性フィラーとして利用する銀被覆樹脂粒子では、変形しても銀被覆層が樹脂粒子から剥離しないように、緻密性や密着性に優れていることが好ましい。
【0003】
特許文献1には、緻密性や密着性に優れた銀被覆層を有する銀被覆樹脂粒子として、球状樹脂の表面に設けられた錫吸着層と、錫吸着層の表面に被覆された銀を具備し、銀被覆樹脂粒子100質量部に対して、銀の量が2~80質量部であり、かつX線回折法により測定される銀の結晶子径が18~24nmである銀被覆樹脂粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銀被覆層中の銀の結晶子径を一定の範囲に制御することは、銀被覆樹脂粒子の銀被覆層の緻密性を向上させるためには有効な方法の一つである。しかしながら、前記特許文献1に記載されている銀の結晶子径の範囲においては、結晶粒界のエネルギーが不安定となり易く、銀被覆樹脂粒子が一定温度に加熱されると、銀被覆層の銀が再結晶し、結晶子径が粗大化するおそれがあった。銀被覆層の結晶子径が粗大化すると、銀被覆層が母粒子である樹脂粒子から剥離しやすくなり、また、銀被覆層が剥離すると、その剥離した部分の導通が損なわれるため、導電材料として用いた際には、電気抵抗や熱抵抗の増加を招き、導電性が低下するおそれがある。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高温環境下においても銀被覆層が樹脂粒子から剥離しにくく、かつ導電性に優れる銀被覆樹脂粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の銀被覆樹脂粒子は、表面にパラジウム、銀ナノ粒子または錫が析出した樹脂粒子と、前記樹脂粒子の表面に接して設けられた銀被覆層とを有する銀被覆樹脂粒子であって、前記銀被覆層が、めっき層であり、Sn、Cu、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属を合計で100質量ppm以上10000質量ppm以下の範囲内で含有し、残部がAgおよび不可避不純物であることを特徴としている。
【0008】
このような構成とされた本発明の銀被覆樹脂粒子によれば、銀被覆層が、Sn、Cu、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属を合計で100質量ppm以上含有するので、銀被覆層のAgの再結晶温度が高くなる。このため、銀被覆層の銀の再結晶によるAg結晶の粗大化が抑制され、高温環境下においても銀被覆層が樹脂粒子から剥離しにくくなる。また、上記金属の含有量が合計で10000質量ppm以下とされているので、電子散乱による銀被覆層の抵抗率の上昇が抑えられ、導電性が高くなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温環境下においても銀被覆層が樹脂粒子から剥離しにくく、かつ導電性に優れる銀被覆樹脂粒子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る銀被覆樹脂粒子の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る銀被覆樹脂粒子の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
【0012】
[銀被覆樹脂粒子]
図1は、本発明の一実施形態である銀被覆樹脂粒子の断面図である。
図1において、銀被覆樹脂粒子10は、樹脂粒子11と、樹脂粒子11の表面に設けられた銀被覆層12とを有する。銀被覆層12は、Sn、Cu、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属を合計で100質量ppm以上10000質量ppm以下の範囲内で含有する。
【0013】
(樹脂粒子)
樹脂粒子11としては、例えば、シリコーン樹脂粒子、アラミド樹脂粒子、フッ素樹脂粒子、ポリスルホン樹脂粒子、ポリエーテル樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、ポリアミドイミド樹脂粒子、エポキシ樹脂粒子、フェノール樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、アクリル-スチレン共重合体粒子、ポリウレタン粒子、ゴム粒子、コアシェル構造を有する樹脂粒子を用いることができる。シリコーン樹脂粒子の例としては、ポリシルセスキオキサン(PSQ)樹脂粒子、ポリメチルシルセスキオサキサン(PMSQ)樹脂粒子が挙げられる。アラミド樹脂粒子の例としては、ポリメタフェニレンイソフタラミド(MPIA)樹脂粒子、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)樹脂粒子が挙げられる。フッ素系粒子の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂粒子、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-ビニリデンフルオライド(THV)樹脂粒子、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)系樹脂粒子、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)系樹脂粒子、クロロトリフルオロエチレン-エチレン(ECTFE)系樹脂粒子、テトラフルオロエチレン-エチレン(ETFE)系樹脂粒子、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)系樹脂粒子、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)系樹脂粒子等が挙げられる。ポリスルホン樹脂粒子の例としては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテル-スルホン(PES)樹脂等が挙げられる。ポリエーテル樹脂粒子の例としては、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)樹脂粒子、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂粒子等が挙げられる。フェノール樹脂粒子の例としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、またはそれらの一部を変性したフェノール樹脂等が挙げられる。ポリウレタン粒子としては、ポリエステル系ポリウレタン粒子、ポリオール系ポリウレタン粒子等が挙げられる。ゴム粒子の例としては、シリコーンゴム粒子、フッ素ゴム粒子等が挙げられる。コアシェル構造を有する樹脂粒子の例としては、アクリル樹脂コア-シリコーン樹脂シェルの樹脂粒子が挙げられる。アクリル樹脂コア-シリコーン樹脂シェルの樹脂粒子は、アクリル樹脂粒子にシリコーン樹脂膜を被覆することにより作製される。
【0014】
樹脂粒子11は、熱重量分析によって測定される5質量%質量減少温度が265℃以上であることが好ましい。なお、本実施形態において、5質量%質量減少温度とは、事前に物理吸着した水分を120℃で乾燥させた樹脂粒子を、不活性雰囲気中で熱重量分析した際に、25℃における初期重量から5質量%減少したときの温度を意味する。樹脂粒子11の5%質量減少温度が265℃未満である銀被覆樹脂粒子10を用いて、導電性フィラーとして含む導電性ペーストで導電膜を形成し、この導電膜をはんだ接合するときに、樹脂粒子11が熱分解して良好な導電膜を形成しにくくなるおそれがある。
【0015】
樹脂粒子11の形状は、特に制限はない。球状の粒子でもよく、球状でなく異形状、例えば扁平状、板状、針状でもよい。
【0016】
樹脂粒子11の平均粒子径は、0.1μm以上30μm以下の範囲内にあることが好ましく、0.5μm以上10μm以下の範囲内にあることがより好ましい。樹脂粒子11の平均粒子径が0.1μm未満である場合では、樹脂粒子11が凝集し易く、また樹脂粒子11の表面積が大きくなり、導電性フィラーとして必要な導電性を得るための銀の量を多くする必要があり、また良好な銀被覆層12を形成しにくくなるおそれがある。一方、樹脂粒子11の平均粒子径が30μmを超えると、銀被覆層12の表面平滑性が低下するおそれがあり、また銀被覆樹脂粒子10同士の接触割合が減少し抵抗値が増大するなどの不具合を生じるおそれがある。なお、本明細書において、樹脂粒子11の平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 型式名:S-4300SE)を用いて、ソフトウェア(品名:PC SEM)により、倍率5000倍で、300個の樹脂粒子の直径(粒子径)を測定し、算出された平均値をいう。樹脂粒子11が球形状以外の場合は、樹脂粒子11の長辺を平均した値を平均粒子径という。
【0017】
(銀被覆層)
銀被覆層12は、Sn、Cu、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属を合計で100質量ppm以上10000質量ppm以下の範囲内で含有し、残部がAgおよび不可避不純物である。Sn、Cu、Bi及びSbは、銀被覆層12のAgの再結晶温度を上昇させて、銀被覆層12の銀の再結晶による銀結晶の粗大化を抑制する作用がある。
銀被覆層12の上記再結晶温度上昇用の添加金属(Sn、Cu、Bi、Sb)の合計含有量が100質量ppm未満であると上記の効果が得られにくくなるおそれがある。一方、上記金属の合計含有量が10000質量ppmを超えると、不純物による電子散乱のため、銀被覆層12の抵抗率が上昇して、導電性が低下するおそれがある。
以上の理由から、本実施形態では、上記金属の合計含有量を100質量ppm以上10000質量ppm以下の範囲内と設定している。上記金属の合計含有量は300質量ppm以上3000質量ppm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0018】
銀被覆層12に含まれる不可避不純物は、原料及び製造工程から不回避的に混入する不純物である。不可避不純物としては、例えば、樹脂粒子の加水分解物や無電解銀めっき時における還元剤や錯体形成材料および添加剤に由来する有機物が挙げられる。具体的な元素としては、C(炭素)、H(水素)、N(窒素)、O(酸素)が挙げられる。その他には、前処理工程や無電解銀めっき時において混入する塩類が挙げられ、具体的な成分としては、Li、Na、K、NH4、F、Cl、Br、SO4及びNO3などが挙げられる。銀被覆層12の不可避不純物の合計含有量は、Ag(銀)に対して、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0019】
銀被覆樹脂粒子10の銀被覆層12の含有量、すなわち銀被覆樹脂粒子10の銀の含有量は、25質量%以上90質量%以下の範囲内にあることが好ましい。銀の含有量が25質量%未満であると、銀被覆層12に欠損が生じるおそれがある。一方、銀の含有量が90質量%を超えると、銀被覆樹脂粒子の比重が大きくなりすぎて、TIM材料や導電性スペーサなどの導電性材料に均一に分散させにくくなるおそれがある。また、銀の含有量が90質量部を超えると銀被覆層12の導電性が飽和するため、それ以上の銀を含有させることは工業的に不利となるおそれがある。
【0020】
[銀被覆樹脂粒子の製造方法]
次に、本実施形態の銀被覆樹脂粒子の製造方法を説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る銀被覆樹脂粒子の製造方法を示すフロー図である。
本実施形態の銀被覆樹脂粒子の製造方法は、
図2に示すように、母粒子となる樹脂粒子の表面に、無電解めっきによって銀を析出させ易くするための処理を行う前処理工程S01と、樹脂粒子に無電解銀めっきにより銀被覆層を形成する無電解銀めっき工程S02を有する。
【0021】
(前処理工程)
前処理工程S01では、樹脂粒子の表面に触媒を吸着させて触媒吸着樹脂粒子を得る、あるいは置換層を吸着させて置換層吸着樹脂粒子を得ることが好ましい。触媒としては、パラジウム、銀ナノ粒子を用いることができる。置換層の材料としては錫などの銀より卑な金属またはその化合物を用いることができる。
【0022】
パラジウム触媒吸着樹脂粒子は、例えば、樹脂粒子を分散させたスラリーに、パラジウム化合物と塩酸と、還元剤を加えて、樹脂粒子の表面にパラジウムを析出させることによって得ることができる。パラジウム化合物としては塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、及びパラジウムアンミン錯塩などの錯塩等を用いることができる。
【0023】
錫置換層吸着樹脂粒子は、例えば、樹脂粒子を分散させたスラリーに、錫化合物と塩酸とを加えて、樹脂粒子の表面にSnを析出させることによって得ることができる。錫化合物としては、塩化第一錫、フッ化第一錫、臭化第一錫、ヨウ化第一錫等を用いることができる。
【0024】
必要に応じて、前処理工程S01を行う前に樹脂粒子に対して、プラズマ処理、オゾン処理、酸処理、アルカリ処理、酸化剤処理、シラン処理などにより表面改質を行ってもよい。これらの表面改質により、樹脂粒子の表面が活性化し、触媒または置換層および銀被覆層と、樹脂粒子との密着性が向上する。
【0025】
(無電解銀めっき工程)
無電解銀めっき工程S02では、前処理工程S01で得られた触媒吸着樹脂粒子または置換層吸着樹脂粒子に無電解銀めっきにより銀被覆層を形成する。無電解銀めっきにより銀被覆層を形成する方法としては、(1)錯化剤、還元剤等を含む水溶液中に、触媒吸着樹脂粒子または置換層吸着樹脂粒子を投入してスラリーを調製し、このスラリーに再結晶温度上昇用の添加金属(Sn、Cu、Bi、Sb)またはその塩を含有する銀塩水溶液を滴下する方法、(2)再結晶温度上昇用の添加金属またはその塩と錯化剤とを含む銀塩水溶液中に、触媒吸着樹脂粒子または置換層吸着樹脂粒子を投入してスラリーを調製し、このスラリーに還元剤水溶液を滴下する方法、(3)再結晶温度上昇用の添加金属またはその塩と、錯化剤と、還元剤とを含む銀塩水溶液に、金属触媒吸着樹脂粒子を投入してスラリーを調製し、このスラリーに苛性アルカリ水溶液を滴下する方法が挙げられる。
【0026】
銀塩としては、硝酸銀あるいは銀を硝酸に溶解したもの等を用いることができる。再結晶温度上昇用の添加金属またはその塩は、銀塩水溶液に溶解していることが好ましい。錯化剤としては、アンモニア、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、ニトロ三酢酸、トリエチレンテトラアンミン六酢酸、チオ硫酸ナトリウム、コハク酸塩、コハク酸イミド、クエン酸塩又はヨウ化物塩等の塩類を用いることができる。還元剤としては、ホルマリン、ブドウ糖、イミダゾール、ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム)、ヒドラジン及びその誘導体、ヒドロキノン、L-アスコルビン酸又はギ酸等を用いることができる。還元剤としては、ホルムアルデヒドが好ましく、少なくともホルムアルデヒドを含む2種以上の還元剤の混合物がより好ましく、ホルムアルデヒドとブドウ糖を含む還元剤の混合物が最も好ましい。
【0027】
必要に応じて、得られた銀被覆粒子に対して、表面処理を実施してもよい。表面処理剤としては、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの脂肪酸、マレイン酸、コハク酸などのジカルボン酸、ポリアクリル酸などのカルボン酸系高分子、ドデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアミン化合物、ポリエーテルアミン等のアミン系高分子、オクタデシルジスルフィドなどのスルフィド化合物、ドデカンチオールなどのチオール化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。銀被覆粒子に対して表面処理を実施することで、後述する用途において導電性フィラーとして用いられる際に、バインダとの親和性を向上することができる。
【0028】
[用途]
本実施形態の銀被覆樹脂粒子10は、導電性フィラーとして優れており、特に、導電性接着剤、導電性フィルム(シート)、導電性ゴム(エラストマー)、導電性粘着剤、放熱シートや放熱グリス等のTIM(Thermal Interface Material)材料、または導電性スペーサなどの導電性材料の導電性フィラーとして最適に適用できる。
【0029】
(導電性接着剤)
導電性接着剤は、等方性の導電性接着剤(ICA:Isotropic Conductive Adhesive)と異方性の導電性接着剤(ACA:Anisotropic Conductive Adhesive)に区分される。また、バインダの形態によってペースト状、フィルム状、インク状の形態を有する。等方性の導電性接着剤は、バインダ硬化時にバインダが収縮することで、縦方向、横方向、斜方向ともにフィラーが互いに接触し、これにより接続したい導電物とフィラーが接触して導電性が得られる。等方性の導電性接着剤にてシートを形成することも可能である。異方性の導電性接着剤は、バインダ中にフィラーが分散していて接続したい導電物同士の間に異方性の導電性接着剤を挟み込む。これを縦方向に加圧することで、接続したい導電物の間のフィラーと接続したい導電物が縦方向に接触し導電性が得られる。一方、加圧されていない部分は絶縁物であるバインダを介してフィラー同士が横方向に配置され、互いに接触しないので導電性は得られない。
【0030】
導電性接着剤としては、例えば、異方性又は等方性の導電性ペースト、異方性又は等方性の導電性インキなどが挙げられる。導電性接着剤は、銀被覆樹脂粒子10と絶縁性のバインダ樹脂とを遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して調製される。導電性接着剤では、絶縁性のバインダ樹脂中に銀被覆樹脂粒子10が均一に分散する。銀被覆樹脂粒子10の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダ樹脂100質量部に対して0.5~5質量部の範囲内が好ましい。
【0031】
導電性接着剤における絶縁性のバインダ樹脂としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂や、硬化性樹脂組成物などの熱や光によって硬化する組成物などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、アクリル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。硬化性樹脂組成物としては、グリシジル基を有するエポキシ系モノマーやオリゴマーと、イソシアネートなどの硬化剤とを含有する樹脂組成物が挙げられる。
【0032】
(導電性フィルム(シート))
導電性フィルムとしては、フィルム状に成形された異方性又は等方性の導電性フィルムがある。導電性フィルムは、先ず銀被覆樹脂粒子10が絶縁性のバインダ樹脂中に分散された樹脂組成物を作製し、次いでこの樹脂組成物をPET等の支持フィルムの表面に塗布することにより作製される。この樹脂組成物は銀被覆樹脂粒子10と絶縁性のバインダ樹脂とを遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して調製される。導電性フィルムでは、支持体フィルム上で絶縁性のバインダ樹脂中に銀被覆樹脂粒子10が均一に分散する。導電性フィルムにおける絶縁性のバインダ樹脂としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂などの樹脂またはそれらの混合物を主成分として含む樹脂組成物が挙げられる。導電性フィルムにおける樹脂組成物中の銀被覆樹脂粒子10の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダ樹脂100質量部に対して0.5~90質量部の範囲内が好ましい。
【0033】
(導電性ゴム(エラストマー))
導電性ゴムとしては、シート状や直方体状に成形された導電性ゴムがあり、放熱シートや導電コネクタとして使用できる。導電性ゴムは、まずバインダゴムと、加硫剤と、銀被覆樹脂粒子10とを二軸ロール等を用いて混練し、次いで加熱プレス機や乾燥機を用いて加熱や加圧を実施することにより加硫および成型することで作製される。導電性ゴムにおけるバインダゴムとしては、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。導電性ゴムにおける組成物中の銀被覆樹脂粒子10の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダゴム100質量部に対して0.5~90質量部の範囲内が好ましい。
【0034】
(導電性粘着剤)
導電性粘着剤としては、シート状や直方体状に成形された導電性粘着剤または導電性ゲルがあり、電気接点材料、放熱シート及び電極として使用できる。導電性粘着剤は、先ず銀被覆樹脂粒子10が絶縁性のバインダとなる粘着剤中に分散された粘着性組成物を作製し、次いでこの粘着性組成物をPET等の支持フィルムの表面に塗布することにより作製される。導電性粘着剤におけるバインダ粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられる。導電性粘着剤における組成物中の銀被覆樹脂粒子10の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダゴム100質量部に対して0.5~90質量部の範囲内が好ましい。
【0035】
(放熱グリス)
放熱グリスとしては、不揮発性の基油、銀被覆樹脂粒子10を混合したものがあり、放熱材料として用いることができる。放熱グリスは基油と銀被覆樹脂粒子10を遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して調製される。放熱グリスに用いられる基油としては、シリコーンオイル系基油、鉱油系基油、合成炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル系基油及びグリコール系基油又はそれらの組合せなどを挙げることができる。放熱グリスにおける組成物中の銀被覆樹脂粒子10の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダゴム100質量部に対して0.5~90質量部の範囲内が好ましい。
【0036】
(導電性スペーサ)
導電性スペーサは、液晶表示装置において、液晶物質を挟む上下2枚の基板の配線部分を電気的に上下に接続し、かつ基板の間隙を所定の寸法に保持して使用される。導電性スペーサは、先ず銀被覆樹脂粒子10を熱硬化性樹脂や紫外光硬化型接着剤などの絶縁性のバインダ樹脂に添加した後、銀被覆樹脂粒子10とバインダ樹脂とを遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して樹脂組成物を調製し、次いで上下2枚の基板の配線部分のいずれか一方又は双方に上記樹脂組成物を塗布して2枚の基板を貼り合わせることにより作製される。銀被覆樹脂粒子10の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダ樹脂100質量部に対して2~10質量部の範囲内が好ましい。
【0037】
本実施形態の銀被覆樹脂粒子10を含むTIM材料や導電性スペーサは、銀被覆樹脂粒子10と絶縁性のバインダ樹脂との混合物を混練するときに高いせん断力をかけても、銀被覆層12に亀裂若しくは割れ又は銀被覆層12の樹脂粒子11からの剥離が生じにくく、その導電性がより向上する。これにより、本実施形態の銀被覆樹脂粒子10を例えば異方性の導電性接着剤に用いた場合、異方導電(横方向)の短絡を回避でき、信頼性が向上する。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態である銀被覆樹脂粒子10によれば、銀被覆層12が、Sn、Cu、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属を合計で100質量ppm以上10000質量ppm以下の範囲内で含有するので、銀被覆層12のAgの再結晶温度が高くなる。このため、銀被覆層12の銀の再結晶によるAg結晶の粗大化が抑制され、高温環境下においても銀被覆層12が樹脂粒子11から剥離しにくくなる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例により説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0041】
[本発明例1]
母粒子として、平均1次粒子径が6μmである球状シリコーン樹脂粒子を用いた。
【0042】
(前処理工程)
上記のシリコーン樹脂粒子10質量部をイオン交換水200質量部に分散させ、シリコーン樹脂粒子スラリーを調製した。このシリコーン樹脂粒子スラリー210質量部に対して、35質量%塩酸水溶液6質量部と、塩化ナトリウム30質量部、パラジウム触媒含有溶液(メルテックス社製、製品名:エンプレートアクチベータ444)10質量部とを加えて、30℃に設定した水浴中で15分撹拌して、シリコーン樹脂粒子の表面にパラジウム触媒を吸着させた。次いで、スラリーをろ過して、パラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子を回収した。回収したパラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子を、8質量%硫酸水溶液で洗浄し、その後水洗した。
【0043】
(無電解銀めっき工程)
上記前処理工程で得たパラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子10質量部を、イオン交換水200質量部に分散させて、パラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを調製した。次いで、パラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子スラリー210質量部に対して、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(錯化剤)15質量部と37質量%ホルムアルデヒド水溶液(還元剤)40質量部とを加えて、撹拌して、錯化剤及び還元剤を含むパラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを調製した。
また、別に、硝酸銀24質量部と、硝酸銅(II)0.2質量部と、クエン酸アンモニウム12質量部と、25質量%アンモニア水20質量部と、イオン交換水40質量部とを加えて、Cu含有硝酸銀水溶液を調製した。
【0044】
上記の錯化剤及び還元剤を含むパラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを撹拌しながら、このスラリーに、上記のCu含有硝酸銀水溶液を滴下して、シリコーン樹脂粒子の表面にCu含有銀被覆層を形成して、Cu含有銀被覆樹脂粒子スラリーを得た。得られたスラリーを水洗した後、ろ過、乾燥してCu含有銀被覆樹脂粒子を得た。
【0045】
[本発明例2]
母粒子として、平均1次粒子径が2μmである球状シリコーン樹脂粒子を用いた。
【0046】
(前処理工程)
上記のシリコーン樹脂粒子10質量部をイオン交換水300質量部に分散させ、シリコーン樹脂粒子スラリーを調製した。このシリコーン樹脂粒子スラリー310質量部に対して、35質量%塩酸水溶液5質量部と、塩化第一錫5質量部とを加えて、30℃に設定した水浴中で15分撹拌して、シリコーン樹脂粒子の表面に錫置換層を吸着させた。次いで、スラリーを水洗した後、ろ過、乾燥して錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子を得た。
【0047】
(無電解銀めっき工程)
上記前処理工程で得た錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子10質量部を、イオン交換水500質量部に分散させて、錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを調製した。次いで、錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子スラリー510質量部に対して、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(錯化剤)20質量部と37質量%ホルムアルデヒド水溶液(還元剤)20質量部、D-グルコース50質量部とを加えて、撹拌して、錯化剤及び還元剤を含む錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを調製した。
また、別に、硝酸銀89.5質量部と、硝酸錫(IV)0.2質量部と、25質量%アンモニア水72質量部と、イオン交換水300質量部とを加えて、Sn含有硝酸銀水溶液を調製した。
【0048】
上記の錯化剤及び還元剤を含む錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを撹拌しながら、このスラリーに、上記のSn含有硝酸銀水溶液を滴下して、シリコーン樹脂粒子の表面にSn含有銀被覆層を形成して、Sn含有銀被覆樹脂粒子スラリーを得た。得られたスラリーを水洗した後、ろ過、乾燥してSn含有銀被覆樹脂粒子を得た。
【0049】
[本発明例3]
母粒子として平均長径が10μmの扁平状アクリル-スチレン共重合体粒子を用いた。
【0050】
(前処理工程)
シリコーン樹脂粒子の代わりに上記の扁平状アクリル-スチレン共重合体粒子を用いたこと以外は、本発明例1と同様の処理を行って、パラジウム触媒吸着アクリル-スチレン共重合体粒子を得た。
【0051】
(無電解銀めっき工程)
上記前処理工程で得たパラジウム触媒吸着アクリル-スチレン共重合体粒子10質量部を、イオン交換水300質量部に分散させて、パラジウム触媒吸着アクリル-スチレン共重合体粒子スラリーを調製した。
また、別に、ムデンシルバーKSS-1(銀含有液、奥野製薬工業製)25質量部と、ムデンシルバーKSS-2(錯化剤含有液、奥野製薬工業製)100質量部と、40質量%ビスマス水溶液0.05質量部とを混合して、Bi含有無電解銀めっき液を調製した。
さらに、別に、硝酸銀12.8質量部をイオン交換水50質量部に溶解して、銀塩含有溶液を調製した。
【0052】
上記のパラジウム触媒吸着アクリル-スチレン共重合体粒子スラリーを撹拌しながら、このスラリーに、上記のBi含有無電解銀めっき液を混合した後、ムデンシルバーKSS-3(還元剤含有液、奥野製薬工業製)1600質量部と、上記の銀塩含有溶液62.8質量部を同時に滴下し、シリコーン樹脂粒子の表面にBi含有銀被覆層を形成して、Bi含有銀被覆樹脂粒子スラリーを得た。得られたスラリーを水洗した後、ろ過、乾燥してBi含有銀被覆樹脂粒子を得た。
【0053】
[本発明例4]
母粒子として粒子径30μmの球状ノボラック型フェノール樹脂粒子を用いた。
【0054】
(前処理工程)
シリコーン樹脂粒子の代わりに上記の球状フェノール樹脂粒子を用いたこと以外は、本発明例2と同様の処理を行って、錫置換層吸着フェノール樹脂粒子を得た。
【0055】
(無電解銀めっき工程)
上記前処理工程で得た錫置換層吸着フェノール樹脂粒子10質量部を、イオン交換水3500質量部に分散させて、錫置換層吸着フェノール樹脂粒子スラリーを調製した。次いで、錫置換層吸着フェノール樹脂粒子10質量部に対して、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(錯化剤)15質量部と37質量%ホルムアルデヒド水溶液(還元剤)15質量部とを加えて、撹拌して、錯化剤及び還元剤を含む錫置換層吸着フェノール樹脂粒子スラリーを調製した。
また、別に、硝酸銀6.8質量部、酸化アンチモン(III)0.1質量部、コハク酸イミド20質量部、炭酸水素ナトリウム1質量部、イオン交換水50質量部を混合してSb含有硝酸銀水溶液を調製した。
【0056】
上記の錯化剤及び還元剤を含む錫置換層吸着フェノール樹脂粒子スラリーを撹拌しながら、このスラリーに、上記のSb含有硝酸銀水溶液を滴下して、フェノール樹脂粒子の表面にSb含有銀被覆層を形成して、Sb含有銀被覆フェノール樹脂粒子スラリーを得た。得られたスラリーを水洗した後、ろ過、乾燥してSb含有銀被覆樹脂粒子を得た。
【0057】
[本発明例5]
(前処理工程)
母粒子として、平均1次粒子径が0.5μmである球状シリコーン樹脂粒子を用いたこと以外は、本発明例2と同様にして錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子を得た。
【0058】
(無電解銀めっき工程)
上記前処理工程で得た錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子10質量部を、イオン交換水500質量部に分散させて、錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを調製した。次いで、錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子スラリー510質量部に対して、クエン酸アンモニウム(錯化剤)30質量部と、37質量%ホルムアルデヒド水溶液(還元剤)40質量部と、ロッシェル塩(錯化剤)50質量部とを加えて、撹拌して、錯化剤及び還元剤を含む錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを調製した。
また、別に、硝酸銀142質量部と、硝酸銅0.05質量部と、25質量%アンモニア水130質量部と、イオン交換水300質量部とを加えて、Cu含有硝酸銀水溶液を調製した。
【0059】
上記の錯化剤及び還元剤を含む錫置換層吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを撹拌しながら、このスラリーに、上記のCu含有硝酸銀水溶液を滴下して、シリコーン樹脂粒子の表面にCu含有銀被覆層を形成して、Cu含有銀被覆樹脂粒子スラリーを得た。得られたスラリーを水洗した後、ろ過、乾燥してCu含有銀被覆樹脂粒子を得た。
【0060】
[本発明例6]
母粒子として、平均1次粒子径が5μmである球状シリコーンゴム粒子を用いた。
【0061】
(前処理工程)
上記のシリコーンゴム粒子10質量部に対して、大気プラズマ装置(SKIp-ZKB、魁半導体社製)を用いて表面改質を行った。表面改質を実施したシリコーンゴム粒子を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、パラジウム触媒吸着シリコーンゴム粒子を得た。
【0062】
(無電解銀めっき工程)
上記前処理工程で得たパラジウム触媒吸着シリコーンゴム粒子10質量部を、イオン交換水200質量部に分散させて、パラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを調製した。次いで、パラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子スラリー210質量部に対して、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(錯化剤)20質量部と37質量%ホルムアルデヒド水溶液(還元剤)20質量部とを加えて、撹拌して、錯化剤及び還元剤を含むパラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを調製した。
また、別に、硝酸銀30質量部と、無水塩化錫(IV)0.5質量部と、クエン酸アンモニウム15質量部と、25質量%アンモニア水22質量部と、イオン交換水70質量部とを加えて、Sn含有硝酸銀水溶液を調製した。
【0063】
上記の錯化剤及び還元剤を含むパラジウム触媒吸着シリコーン樹脂粒子スラリーを撹拌しながら、このスラリーに、上記のSn含有硝酸銀水溶液を滴下して、シリコーン樹脂粒子の表面にSn含有銀被覆層を形成して、Sn含有銀被覆樹脂粒子スラリーを得た。得られたスラリーを水洗した後、ろ過、乾燥してSn含有銀被覆樹脂粒子を得た。
【0064】
[比較例1]
本発明例1の無電解銀めっき工程において、硝酸銀水溶液に硝酸銅を添加しなかったこと以外は、本発明例1と同様にして銀被覆樹脂粒子を作製した。
【0065】
[比較例2]
本発明例3の無電解銀めっき工程において、Bi含有無電解銀めっき液に添加する40質量%ビスマス水溶液の量を0.005質量部としたこと以外は、本発明例3と同様にして銀被覆樹脂粒子を作製した。
【0066】
[比較例3]
本発明例1の無電解銀めっき工程において、硝酸銀水溶液に硝酸銅の代わりに硫酸銅五水和物を添加し、かつその添加量を0.6質量部としたこと以外は、本発明例1と同様にして銀被覆樹脂粒子を作製した。
【0067】
[評価]
本発明例および比較例で得られた銀被覆樹脂粒子について、以下の評価を行った。その結果を下記の表1に示す。
【0068】
(銀および再結晶温度上昇用の添加金属(Sn、Cu、Bi、Sb)の含有量)
銀被覆樹脂粒子と希硝酸とを混合して、銀被覆層を溶解させ、ろ過し、樹脂粒子を除去した。得られた銀被覆層溶解液に含まれているAgおよびSn、Cu、Bi、Sbの量を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置により測定し、銀被覆層の再結晶温度上昇用の添加金属の含有率を定量した。
【0069】
(銀被覆層の再結晶性の評価)
銀被覆層の再結晶性を評価するために、加熱前の銀被覆樹脂粒子と、加熱後の銀被覆樹脂粒子について、銀被覆層の未被覆率と圧粉粉体抵抗とを下記の方法により測定した。なお、銀被覆樹脂粒子の加熱は、銀被覆樹脂粒子10gを窒素雰囲気中280℃で15分間加熱することにより行った。
【0070】
(銀被覆層の未被覆率)
銀被覆樹脂粒子表面のSEM画像解析により、銀被覆層の未被覆率を測定した。具体的には、倍率3000倍で撮影した銀被覆樹脂粒子表面の写真図について、画像解析ソフト(Mountech社 Mac-View)により銀被覆層で被覆されていない未被覆部分の面積を割り出し、その割合[(未被覆部分の面積/写真図に銀被覆樹脂粒子表面の面積)×100]を算出した。なお、表1に示す値は、上記写真図に映し出された任意の銀被覆樹脂粒子100個について上記割合を算出し、これらを平均した値である。
【0071】
(圧粉粉体抵抗)
銀被覆樹脂粒子を圧力容器に入れて、印加圧力200MPaにて圧縮し、この圧粉の体積抵抗率を抵抗率計[三菱化学社製、ロレスタ-GP(型式:UV-3101PC)]を用いて測定した。
【0072】
【0073】
銀被覆層が添加金属を含まない比較例1の銀被覆樹脂粒子は、加熱後の未被覆率が顕著に大きくなり、また、加熱後の圧粉体抵抗率も高くなった。これは、加熱によって、銀被覆樹脂粒子の銀被覆層の銀が再結晶し、結晶が粗大化したためであると考えられる。
また、銀被覆層のBi含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例2の銀被覆樹脂粒子は、加熱後の未被覆率が顕著に大きくなり、また、加熱後の圧粉体抵抗率も高くなった。これは、Biによる銀被覆層の銀が再結晶温度を上昇させる効果が低く、Ag結晶の粗大化を十分に抑制できなかったためであると考えられる。
さらに、銀被覆層のCu含有量が本発明の範囲よりも多い比較例3の銀被覆樹脂粒子は、加熱後の圧粉体抵抗率が高くなった。これは、Cu(不純物)による電子散乱が起きたためであると考えられる。
【0074】
これに対して、銀被覆層がSn、Cu、Bi及びSbを本発明の範囲で含む本発明例1~6の銀被覆樹脂粒子は、いずれも加熱後の未被覆率が小さく、また、加熱後の圧粉体抵抗率も低くなった。
以上のことから、本発明によれば、高温環境下においても銀被覆層が樹脂粒子から剥離しにくく、かつ導電性に優れる銀被覆樹脂粒子を提供することが可能となることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
10 銀被覆樹脂粒子
11 樹脂粒子
12 銀被覆層