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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】熱源システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/85 20180101AFI20220623BHJP
   F24F 11/62 20180101ALI20220623BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
F24F11/85
F24F11/62
F24F5/00 101Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018042198
(22)【出願日】2018-03-08
(65)【公開番号】P2019158184
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田代 博一
【審査官】村山 美保
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-255985(JP,A)
【文献】特開2010-156478(JP,A)
【文献】特開平10-213339(JP,A)
【文献】特開2017-129340(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147780(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0022236(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/85
F24F 11/62
F24F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒に熱を供給する熱源機と、
熱媒から熱を受け取って空調空気を作り出す空調機と、
前記熱源機と前記空調機との間で熱媒を循環させる熱媒流路と、
該熱媒流路における前記熱源機の出口側から前記空調機の入口側までの間の位置に設置される往ヘッダと、
前記熱媒流路における前記空調機の出口側から前記熱源機の入口側までの間の位置に設置される還ヘッダと、
前記往ヘッダと前記還ヘッダとを連通し、熱媒を流通させるバイパス流路と、
前記熱媒流路の前記往ヘッダと前記還ヘッダを挟んで前記熱源機側を一次側、前記空調機側を二次側とした場合に、一次側における熱媒の流通を駆動する一次ポンプと、
二次側における熱媒の流通を駆動する二次ポンプとを備え、
一次側における熱媒の流量は、二次側における熱媒の流量を反映する値と、二次側における負荷熱量を反映する値とを変数として決定され、
且つ一次側における熱媒の流量に対する二次側における熱媒の流量または二次側における負荷熱量の寄与度は可変に設定されること
を特徴とする熱源システム。
【請求項2】
一次側における熱媒の流量に対する二次側における熱媒の流量または二次側における負荷熱量の寄与度は、任意の調整係数の設定値により決定されること
を特徴とする請求項1に記載の熱源システム。
【請求項3】
一次側における熱媒の流量は、以下の数式により決定されることを特徴とする請求項1に記載の熱源システム。
V1=(k/100)×XV2+{(100-k)/100}×XH2
ただし、
V1:一次熱媒流量比率(一次側における熱媒の流量の相対値)
V2:二次熱媒流量比率(二次側における熱媒の流量の相対値)
H2:二次熱媒熱量比率(二次側における負荷熱量の相対値)
k:調整係数(0以上100以下の任意の値)
【請求項4】
熱媒に熱を供給する熱源機と、
熱媒から熱を受け取って空調空気を作り出す空調機と、
前記熱源機と前記空調機との間で熱媒を循環させる熱媒流路と、
該熱媒流路における前記熱源機の出口側から前記空調機の入口側までの間の位置に設置される往ヘッダと、
前記熱媒流路における前記空調機の出口側から前記熱源機の入口側までの間の位置に設置される還ヘッダと、
前記往ヘッダと前記還ヘッダとを連通し、熱媒を流通させるバイパス流路と、
前記熱媒流路の前記往ヘッダと前記還ヘッダを挟んで前記熱源機側を一次側、前記空調機側を二次側とした場合に、一次側における熱媒の流通を駆動する一次ポンプと、
二次側における熱媒の流通を駆動する二次ポンプと
を備えた熱源システムの制御方法であって、
一次側における熱媒の流量は、二次側における熱媒の流量を反映する値と、二次側における負荷熱量を反映する値とを変数として決定し、且つ一次側における熱媒の流量に対する二次側における熱媒の流量または二次側における負荷熱量の寄与度は可変に設定すること
を特徴とする熱源システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調設備の熱源装置における熱負荷や熱媒の流量を制御するシステム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は空調設備における一般的な二次ポンプ方式の熱源システムの概略を示しており、ここでは冷房に係る構成を表示している。図7中、熱源機1の配置された下側が冷熱の供給側である一次側(熱源一次側)、空調機2の配置された上側が冷熱の消費側である二次側(空調二次側)に相当し、一次側と二次側との間で熱媒Wが循環するようになっている。こうした空調設備で冷房を行う場合、熱媒Wとしては例えば冷水が用いられる。
【0003】
一次側には熱媒(冷水)Wに熱(この場合、冷熱)を供給する複数の熱源機1が備えられる一方、二次側には冷水Wから熱(冷熱)を受け取って空調空気を作り出す複数の空調機2が備えられており、熱源機1と空調機2との間は熱媒流路3により密閉された環状に接続され、該熱媒流路3内を冷水Wが循環する。熱媒流路3における一次側の熱源機1と二次側の空調機2の間には、それぞれ往ヘッダ4と還ヘッダ5が設けられており、往ヘッダ4は熱源機1の出口側から空調機2の入口側までの間、還ヘッダ5は空調機2の出口側から熱源機1の入口側までの間にそれぞれ配置されている。言い換えれば、熱媒流路3の周辺に各種機器を配置して構成される熱源システムのうち、往ヘッダ4と還ヘッダ5を挟んで熱源機1側が一次側、空調機2側が二次側である。そして、冷水Wは、熱源機1から往ヘッダ4を経て空調機2に送られ、該空調機2から還ヘッダ5を経て熱源機1に還流するようになっている。
【0004】
往ヘッダ4と還ヘッダ5はそれぞれ一次ヘッダ4a,5aと二次ヘッダ4b,5bにより構成されており、一次ヘッダ4a,5aと二次ヘッダ4b,5bは、それぞれ連通路4c,5cにより連絡されている。
【0005】
各熱源機1の上流側の位置、及び各空調機2の上流側の位置には、それぞれ一次ポンプ6、二次ポンプ7が設置される。一次ポンプ6は熱媒流路3における各熱源機1の上流側の位置に設置され、二次ポンプ7は往ヘッダ4を構成する一次ヘッダ4aと二次ヘッダ4bの間の連通路4cに設置される。一次ポンプ6は一次側、二次ポンプ7は二次側における冷水Wの流通を駆動し、これらの働きにより、熱媒流路3において冷水Wが循環する。一次ポンプ6から送り出されて熱源機1で冷却された冷水Wは、往ヘッダ4の一次ヘッダ4aに流れ込み、連通路4cに備えられた二次ポンプ7により二次ヘッダ4bから各空調機2の備えられた各熱媒流路3に送り込まれる。さらに、空調機2から下流の熱媒流路3へ流れる冷水Wは、還ヘッダ5の二次ヘッダ5bに流れ込み、連通路5cから一次ヘッダ5aを介して一次ポンプ6の備えられた各熱媒流路3に分配され、熱源機1に還流する。
【0006】
ここで、往ヘッダ4の一次ヘッダ4aと還ヘッダ5の一次ヘッダ5aとの間はバイパス流路8により連通され、互いに熱媒流路3を介さずに冷水Wが流通できるようになっている。ここに示した例では、バイパス流路8により、往ヘッダ4の一次ヘッダ4aと還ヘッダ5の一次ヘッダ5aとが接続されている。そして、一次ポンプ6における合計流量と、二次ポンプ7における合計流量が食い違う場合には、往ヘッダ4の一次ヘッダ4aと、還ヘッダ5の一次ヘッダ5aとの間で冷水Wが融通し、一次側と二次側における冷水Wの流量の差を吸収するようになっている。
【0007】
熱源機1は、例えば冷凍機であり、その場合、各熱源機1には冷熱を供給するための冷却塔や冷却水配管、冷却水ポンプ等が接続されるが、ここでは図示を省略している。空調機2は、例えば冷水Wの流通する図示しないコイルを備えており、該コイルにおいて空気と冷水Wを熱交換させ、作り出した空調空気を対象空間へ送り出すようになっている。
【0008】
熱媒流路3や連通路4c、バイパス流路8の各所には、冷水Wの流量を検出する流量計9や、冷水Wの温度を検出する温度計10が備えられている。流量計9、温度計10の検出値は、それぞれ流量信号9a、温度信号10aとして制御装置11に入力される。こうして、各熱源機1別、各空調機2の系統別に、各所(各熱源機1や各空調機2の入口側や出口側、あるいは図示しないその他の位置)における冷水Wの温度や流量が制御装置11にて把握される。
【0009】
制御装置11は、熱源機1や空調機2、一次ポンプ6や二次ポンプ7といった装置により構成される熱源システム全体を監視し、制御を行う装置である。制御装置11は、流量計9や温度計10等から入力される流量信号9a、温度信号10aにより、各所における冷水Wの流通量や温度を計測するほか、各熱源機1における生成熱量や各空調機2における負荷熱量の算出、各熱源機1や各空調機2、各一次ポンプ6、各二次ポンプ7のオンオフの監視や制御、各一次ポンプ6、二次ポンプ7における冷水Wの流量の制御等を行う。各一次ポンプ6、二次ポンプ7はそれぞれインバータを備えており、該インバータにより変流量制御を行うことができるようになっている。熱源機1のオンオフ、一次ポンプ6や二次ポンプ7のインバータの周波数による変流量制御は、制御装置11から各装置へ出力される制御信号1a,6a,7aにより行われる。また、制御装置11は、図示しない冷却塔や、該冷却塔から各熱源機1に冷媒を送り込む冷却水ポンプ等、図7には図示していない装置や流路等の監視や制御をも行っている。また、各空調機2や各二次ポンプ7、図示しない冷却塔の運転は、図示しない操作装置からの入力により操作される。
【0010】
制御装置11には、熱源システムを構成する各装置の運転状況や、各所における冷水Wの流量や温度等を表示する表示部12が備えられる。また、制御装置11には、熱源システムに対し各種の設定値や操作指令を外部から入力するための操作部13が設けられ、該操作部13から入力される設定値や操作指令に基づき、熱源システムを構成する各装置が稼働するようになっている。尚、表示部12と操作部13は、例えばタッチパネルのように一体に構成しても良い。
【0011】
そして、二次側における冷水Wの温度や流量等の運転状況に合わせ、熱源機1の稼働台数や、各一次ポンプ6における流量(尚、ここに示した例の場合、各一次ポンプ6のオンオフは、下流の熱源機1のオンオフと連動する)、各熱源機1における冷水Wの温度等、各装置の稼働状況が調整され、空調機2から適当な量や温度の空調空気が対象空間へ供給されるようになっている。
【0012】
また、還ヘッダ5の一次ヘッダ5aと二次ヘッダ5bを繋ぐ連絡流路5cには、補助冷却ライン14が接続されている。補助冷却ライン14は、空調機2から還ヘッダ5へ還流する冷水Wを補助冷却部15へ導く流路である。補助冷却部15は、空調機2の下流を流れる冷水Wに対し、フリークーリングを利用した補助的な冷却(予冷)を行うようになっており、図示しない熱交換器や冷却塔を備えている。補助冷却ライン14における補助冷却部15より上流側の位置には、冷水Wを補助冷却部15へ導く補助冷却ポンプ16が設置されている。また、補助冷却ライン14における補助冷却部15より上流側の位置に流量計9が、補助冷却部15の前後に10が、それぞれ設けられている。予冷を実行する場合には、二次ヘッダ5bに還流した冷水Wを連絡流路5cから補助冷却ライン14へ導き、補助冷却部15で冷却してから連絡流路5cへ戻し、一次ヘッダ5aから一次側の各熱媒流路3に分配することができる。
【0013】
この種の熱源システムに関連する先行技術文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2016-194386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述の如き熱源システムにおいて、空調機2における負荷熱量は、二次側における冷水Wの合計流量(Vとする)と、二次側における冷水Wの往還温度差(往き(空調機2の上流側)と還り(空調機2の下流側)の温度差。ΔTとする)により決まる。すなわち、冷水Wの流量Vと、温度差ΔTとを掛け合わせた積V×ΔTに所定の物理定数(熱媒である冷水Wの比重や比熱)を乗じた値が、空調機2において消費される熱量(すなわち、負荷熱量)に相当する(以下、これを負荷熱量Hとする)。
【0016】
ここで、対象空間における空調性能と省エネルギーを両立させるためには、温度差ΔTが一定に保たれることが望ましい。しかしながら、空調設備の運転状況によっては、必ずしも温度差ΔTを設計値に保つことができない場合がある。図8は実際の空調設備において、ある一年間における各測定日時にて実測された二次側の負荷熱量Hと、温度差ΔTとの関係の一例を示している。図8からは、空調機2に要求される負荷熱量Hが小さいほど、温度差ΔTは小さくなる傾向が読み取れる。すなわち、冷房を行う場合、負荷の高い夏季には温度差ΔTが保たれやすいが、夏季以外には温度差ΔTが小さくなる傾向がある。
【0017】
上述の如く、二次側における負荷熱量Hは温度差ΔTと流量Vの積により決まる。仮に、二次側における冷水Wの流量Vを一定とした場合、温度差ΔTが小さくなれば二次側の負荷熱量Hはその分だけ小さくなる。また、二次側における負荷熱量Hがある値となるには、温度差ΔTが小さければその分だけ二次側における流量Vが大きくなくてはならない。そして、二次側の流量Vが大きい場合、一次側における冷水Wの合計流量(Vとする)を二次側の流量Vに合わせて大きくすると、熱源機1から送り出される冷水Wは、熱源機1の出口での温度で二次側へ流れることになるため、空調機2における吹出温度は快適な温度に保たれるが、一次ポンプ6の出力が大きくなり、消費電力が嵩んでしまう。一方、二次側の流量Vよりも一次側の流量Vが小さいと、一次ポンプ6の消費電力は抑えられるものの、流量Vに対して流量Vが超過するので、余剰分の冷水Wが還ヘッダ5からバイパス流路8を通して往ヘッダ4へ流れることになる。つまり、空調機2を通って温められた冷水Wの一部が熱源機1を通過することなく、往ヘッダ4から空調機2へ向かう冷水Wに合流し、その結果、空調機2に供給される冷水Wの温度が上がり、空調機2における空調空気の吹出温度が高くなって快適性が損なわれる可能性がある。また、二次側において空調機2に供給される冷水Wの温度が一定以上に高くなると、熱源機1の稼働台数を増やす制御が行われる場合もあり、結果的に消費電力が増大する虞もある。
【0018】
このように、上述の如き熱源システムにおいては、温度差ΔTが設計値よりも小さい条件下において、空調性能と省エネルギー性を両立させることが難しい場合があった。
【0019】
本発明は、斯かる実情に鑑み、空調性能と省エネルギー性を少なくとも部分的に両立し得る熱源システム及びその制御方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、熱媒に熱を供給する熱源機と、
熱媒から熱を受け取って空調空気を作り出す空調機と、
前記熱源機と前記空調機との間で熱媒を循環させる熱媒流路と、
該熱媒流路における前記熱源機の出口側から前記空調機の入口側までの間の位置に設置される往ヘッダと、
前記熱媒流路における前記空調機の出口側から前記熱源機の入口側までの間の位置に設置される還ヘッダと、
前記往ヘッダと前記還ヘッダとを連通し、熱媒を流通させるバイパス流路と、
前記熱媒流路の前記往ヘッダと前記還ヘッダを挟んで前記熱源機側を一次側、前記空調機側を二次側とした場合に、一次側における熱媒の流通を駆動する一次ポンプと、
二次側における熱媒の流通を駆動する二次ポンプとを備え、
一次側における熱媒の流量は、二次側における熱媒の流量を反映する値と、二次側における負荷熱量を反映する値とを変数として決定され、
且つ一次側における熱媒の流量に対する二次側における熱媒の流量または二次側における負荷熱量の寄与度は可変に設定されること
を特徴とする熱源システムにかかるものである。
【0021】
本発明の熱源システムにおいて、一次側における熱媒の流量に対する二次側における熱媒の流量または二次側における負荷熱量の寄与度は、任意の調整係数の設定値により決定されることが好ましい。
【0023】
本発明の熱源システムを実施するにあたり、一次側における熱媒の流量は、以下の数式により決定することができる。
V1=(k/100)×XV2+{(100-k)/100}×XH2
ただし、
V1:一次熱媒流量比率(一次側における熱媒の流量の相対値)
V2:二次熱媒流量比率(二次側における熱媒の流量の相対値)
H2:二次熱媒熱量比率(二次側における負荷熱量の相対値)
k:調整係数(0以上100以下の任意の値)
【0024】
また、本発明は、熱媒に熱を供給する熱源機と、
熱媒から熱を受け取って空調空気を作り出す空調機と、
前記熱源機と前記空調機との間で熱媒を循環させる熱媒流路と、
該熱媒流路における前記熱源機の出口側から前記空調機の入口側までの間の位置に設置される往ヘッダと、
前記熱媒流路における前記空調機の出口側から前記熱源機の入口側までの間の位置に設置される還ヘッダと、
前記往ヘッダと前記還ヘッダとを連通し、熱媒を流通させるバイパス流路と、
前記熱媒流路の前記往ヘッダと前記還ヘッダを挟んで前記熱源機側を一次側、前記空調機側を二次側とした場合に、一次側における熱媒の流通を駆動する一次ポンプと、
二次側における熱媒の流通を駆動する二次ポンプと
を備えた熱源システムの制御方法であって、
一次側における熱媒の流量は、二次側における熱媒の流量を反映する値と、二次側における負荷熱量を反映する値とを変数として決定し、且つ一次側における熱媒の流量に対する二次側における熱媒の流量または二次側における負荷熱量の寄与度は可変に設定すること
を特徴とする熱源システムの制御方法にかかるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱源システム及びその制御方法によれば、空調性能と省エネルギー性を少なくとも部分的に両立し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明を適用した熱源システムにおいて、二次側における熱媒の温度差が設計値と一致している場合の熱媒の循環の様子の一例を示す概念図である。
図2】本発明を適用した熱源システムにおいて、二次側における熱媒の温度差が設計値より小さい場合の熱媒の循環の様子の一例を示す概念図であり、(a)は調整係数を0に設定した場合、(b)は調整係数を100に設定した場合、(c)は調整係数を0と100の間の値に設定した場合をそれぞれ示している。(d)は、(a)~(c)に示す各運転状態における省エネルギー性能及び快適性能を評価する表である。
図3】本発明を適用した熱源システムにおいて、二次側における熱媒の温度差が設計値より大きい場合の熱媒の循環の様子の一例を示す概念図であり、(a)は調整係数を0に設定した場合、(b)は調整係数を100に設定した場合、(c)は調整係数を0と100の間の値に設定した場合をそれぞれ示している。(d)は、(a)~(c)に示す各運転状態における省エネルギー性能及び快適性能を評価する表である。
図4】熱媒の流量や温度差と熱量との関係を表すグラフであり、(b)、(c)はそれぞれ(a)の一部を拡大して示している。
図5】本発明の熱源システムの制御方法の一例を説明するフローチャートである。
図6】本発明を適用した熱源システムにおいて、表示部に表示される操作画面の一例を示す図である。
図7】空調設備における熱源システムのシステム構成の一例を示す概念図である。
図8】空調設備の熱源システムにおいて、ある一年間における各測定日時にて実測された空調機の負荷熱量と、二次側における熱媒の往還温度差との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(I)システム構成
【0028】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。本実施例の熱源システムは、熱源機1や空調機2、熱媒流路3、往ヘッダ4、還ヘッダ5、一次ポンプ6、二次ポンプ7、バイパス流路8、流量計9、温度計10、制御装置11といった構成については上に従来例として説明した図7の熱源システムと同様であるため、以下では必要に応じて図7をも参照しながら説明することとする。
【0029】
尚、図7では熱源機1を4台図示し、空調機2の系統を3個のブロックとして図示しているが、これはあくまで模式的な一例である。実際の空調設備においては、空調機2の系統数や各系統における台数は空調対象とする空間の大きさや形状等によって変動し得、また、熱源機1の台数も要求される生成熱量等の性能によって変動し得る。一次ポンプ6や二次ポンプ7の台数、熱媒流路3の流路構成、往ヘッダ4や還ヘッダ5、制御装置11等の構成についても、実施する際の各種の条件によって適宜変更し得る。例えば、ここでは一次ポンプ6と二次ポンプ7の全台にインバータが装備されている場合を例示したが、一次ポンプ6や二次ポンプ7は一次側または二次側における流量を好適に操作し得るようになっていれば良く、それぞれ複数台が設置された一次ポンプ6、二次ポンプ7のうち、一部のみ変流量が可能に構成されていても良い。また、制御装置11は1個のブロックとして図示しているが、実際の構成はこれに限定されず、一次側の制御を行う制御装置と、二次側の制御を行う制御装置に分けて設置しても良い。あるいは、表示部12、操作部13にあたる装置を遠方に設置し、制御装置11との通信によりシステムを操作するようにしても良い。
【0030】
また、ここでは熱源システムに関して冷房に係る構成のみを例示したが、冬季等に同じ熱源システムの空調機2において対象空間の暖房をも行う場合には、二次側に温熱を供給するための別の熱源機を一次側に設置し、該熱源機にて温めた熱媒Wを往ヘッダ4から空調機2へ送り込むようにすれば良い。図示は省略するが、暖房に係る熱源機や流路、ポンプ等の配置構成については、図7に例示した一次側の構成と概ね同様である。ただし、暖房に係る熱源機には冷却塔や冷却水配管、冷却水ポンプ等が不要であること、熱媒Wとしては冷水ではなく例えば温水が使われること、以下に説明する制御を行う場合には、各所における温度の関係が逆になる(つまり、熱媒の温度は、熱源機(一次側)の入口側よりも出口側で高くなり、また、空調機(二次側)の入口側よりも出口側で低くなる)こと、等が異なる。
【0031】
(II)制御内容
【0032】
本実施例では、二次側における冷水Wの流量Vの計測値や、負荷熱量Hの算出値に応じて一次側の流量Vの目標値を決定でき、且つ、一次側の流量Vに対する二次側の流量Vや、負荷熱量Hの寄与度(重みづけの度合)を可変に設定できるようにしたことに特徴がある。また、この際、二次側における流量Vの相対値と、負荷熱量Hの相対値との間で流量Vの相対値を設定するようにしている。以下、説明する。
【0033】
図1図3は、図7に示す如き熱源システムに関し、本発明を適用した場合のそれぞれ特定の条件における流量制御の様子を説明する模式図である。ここでは説明のために図を簡略化し、熱源機1、空調機2、往ヘッダ4、還ヘッダ5、一次ポンプ6、二次ポンプ7をそれぞれ1個のブロックにて示し、一次側及び二次側の熱媒流路3やバイパス流路8もそれぞれ1本ずつ示しているが、あくまで概念図であって、実際の熱源システムは例えば図7と同等の構成を有するものである。また、本節((II)制御内容)および次節((III)制御の具体例)では説明の便宜のため、補助冷却部15による冷却は考慮しないものとする。
【0034】
以下、一次側において熱源機1に戻される冷水Wの温度と、熱源機1から送り出される冷水Wの温度をそれぞれt,t、二次側において空調機2に供給される冷水Wの温度と、空調機2から戻される冷水Wの温度をそれぞれt,tとする。また、熱源機1の前後における冷水Wの温度差、すなわち|t-t|を一次側の温度差(往還温度差)ΔTとし、空調機2の前後における冷水Wの温度差、すなわち|t-t|を二次側の温度差(往還温度差)ΔTとする。
【0035】
また、一次側における冷水Wの合計流量(すなわち一次ポンプ6の合計流量)を一次側の流量V、二次側における冷水Wの合計流量(すなわち二次ポンプ7の合計流量)を二次側の流量Vとする。また、バイパス流路8を往ヘッダ4から還ヘッダ5へ向かう冷水Wの流量を流量Vとする。尚、冷水Wの流れが還ヘッダ5から往ヘッダ4へ向かう場合、流量Vの値は負となる。
【0036】
一次側における生成熱量(すなわち熱源機1の合計生成熱量)をH、二次側における負荷熱量(すなわち空調機2の合計負荷熱量)をHとすると、生成熱量H、負荷熱量Hは、以下の式1により表される。尚、aは物理定数によって決まる所定の係数であり、熱媒(この場合は冷水)Wの比重と比熱を乗じた値である。
[式1]
=a×V×ΔT
=a×V×ΔT
=H
【0037】
さらに、本実施例では、二次側における流量V、温度差ΔT、負荷熱量Hについて、それぞれ二次熱媒流量比率XV2、二次熱媒温度差比率XT2、二次熱媒熱量比率XH2という相対値を定義する。
【0038】
二次熱媒流量比率XV2は、二次側における冷水Wの流量Vの相対値であり、ある基準値(例えば、二次ポンプ7の最大合計流量。以下、この基準値を流量基準値SV2と称する)に対する現在の流量Vの比率と定義することができる。すなわち、二次熱媒流量比率XV2は、例えば百分率で以下の式により表される。尚、この他にも、流量Vを相対値として定義し得る限り、流量基準値SV2や二次熱媒流量比率XV2としては種々の値を設定し得る。
[式2]
V2=100×V/SV2
【0039】
二次熱媒温度差比率XT2は、二次側の温度差ΔTの相対値であり、温度差ΔTの設計値に対する実際の温度差ΔTの比率として定義される。すなわち、例えば温度差ΔTの設計値が5[℃]であるのに対し、実際の温度差ΔTが4[℃]である場合、二次熱媒温度差比率XT2を百分率で表すと、XT2=80[%]である。また、温度差ΔTの設計値が5[℃]であり、実際の値も5[℃]であれば、XT2=100[%]である。
【0040】
二次熱媒熱量比率XH2は、二次側における負荷熱量Hの相対値であり、二次熱媒流量比率XV2と二次熱媒温度差比率XT2とを掛け合わせて得られる。二次熱媒流量比率XV2、二次熱媒温度差比率XT2、二次熱媒熱量比率XH2をそれぞれ百分率で表す場合、以下の式が成り立つ。
[式3]
H2=XV2×XT2/100
【0041】
そして、本実施例では、さらに調整係数kと称する値を定義し、この調整係数kに基づき、二次側における流量Vや負荷熱量Hの計測値に応じた一次側の流量Vの目標値を決定する。調整係数kは比率として与えられ、例えば百分率として定義する場合、0以上100以下の任意の値を選択することができる。
【0042】
ここで、一次側における流量Vの相対値として、一次熱媒流量比率XV1と称する値を定義する。この一次熱媒流量比率XV1は、二次熱媒流量比率XV2の定義において流量Vの基準として用いられる流量基準値SV2に対する流量Vの比率を表す。すなわち、流量Vは[式2]と同じ流量基準値SV2を用い、以下の式により表される。
[式4]
=(XV1/100)×SV2
【0043】
そして、一次熱媒流量比率XV1は、調整係数kを用い、以下の式により決定される。
[式5]
V1=(k/100)×XV2+{(100-k)/100}×XH2
【0044】
一次熱媒流量比率XV1を決定するにあたり、調整係数kが大きいほど二次熱媒流量比率XV2の影響が大きくなり、調整係数kが小さいほど二次熱媒熱量比率XH2の影響が大きくなる([式5]参照)。一次熱媒流量比率XV1の値は、流量Vに直接反映される([式4]参照)。つまり、調整係数kとは、一次側の流量Vを決定するにあたり、二次側における流量Vおよび負荷熱量Hにそれぞれどの程度重み付けするか、つまり、流量Vと負荷熱量Hとの間で流量Vに対する重み付けをどう配分するか、を決定する値であると言うことができる。そして、この調整係数kの設定により、流量Vに対する二次側の流量Vと負荷熱量Hそれぞれの寄与度を、簡便に決定することができる。
【0045】
また、このとき、流量V,Vと負荷熱量Hとは次元の異なる値であるので、これらの橋渡しをするために、一次熱媒流量比率XV1、二次熱媒流量比率XV2、二次熱媒温度差比率XT2、二次熱媒熱量比率XH2といった無次元の相対値を百分率で設定している。こうして、互いに次元の異なる値を相対値として規格化することで、四則演算を可能としている。尚、百分率の相対値として定義される上述の各値や調整係数kのうち、少なくとも一部については運転条件や定義等(後述するように、各値の定義は上に述べた例に限定されず、適宜変更することができる)により、100を超えることもあり得ることに注意されたい。
【0046】
(III)制御の具体例
【0047】
調整係数kによる一次熱媒流量比率XV1ないし流量Vの決定の手順について、具体的な値を仮定して説明する。まず前提として、熱源システムにおける二次側の往還温度差ΔTの設計値を5[℃]とする。つまり、ΔT=5[℃]のときにXT2=100[%]である。また、一次側および二次側の最大流量をそれぞれ604.2[m/h]と想定する。この場合、温度差ΔTが設定値(5[℃])のときに一次ポンプ6及び二次ポンプ7を最大流量(604.2[m/h])で運転すると、一次側の生成熱量、及び二次側の負荷熱量は1000[RT]となる。流量基準値SV2は、二次側における最大流量(604.2[m/h])とする。この場合、各機器の運転状況に対し、各相対値は以下の通りとなる。尚、本明細書において、[RT]は米国冷凍トンを意味するものとする。
・一次側の流量V=604.2[m/h]のとき、一次熱媒流量比率XV1=100[%]。
・二次側の流量V=604.2[m/h]のとき、二次熱媒流量比率XV2=100[%]。
・一次側における冷水Wの温度差ΔT=5[℃](一次熱媒温度差比率XT1=100[%])且つ一次側における冷水Wの流量V=604.2[m/h])(一次熱媒流量比率XV1=100[%])のとき、生成熱量H=1000[RT]。
・二次側における冷水Wの温度差ΔT=5[℃](二次熱媒温度差比率XT2=100[%])且つ二次側における冷水Wの流量V=604.2[m/h])(二次熱媒流量比率XV2=100[%])のとき、H=1000[RT]。このとき、二次熱媒熱量比率XH2=100[%]。
【0048】
このようなシステムにおいて、二次側における負荷熱量Hの計測値が600[RT]となる運転状態を考える。温度差ΔTが5[℃]である場合、600[RT]の負荷熱量Hとなるには、二次側における冷水Wの合計流量Vとして約362.5[m/h]が必要であるが(上記[式1]参照)、この流量Vは、流量基準値SV2(ここでは、二次ポンプ7の最大合計流量=604.2[m/h])の60[%]に相当する。つまり、合計流量V=362.5[m/h]の場合、二次熱媒流量比率XV2=60[%]である (上記[式2]参照)。
【0049】
実際の温度差ΔTが設計値である5[℃]のとき、二次熱媒温度差比率XT2=100[%]である。このとき、負荷熱量H=600[RT]となる二次熱媒流量比率XV2は60[%]であるので、[式3]より、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]である。
【0050】
以上の仮定に基づき、二次側の温度差ΔTが設計値と一致している場合、設計値より小さい場合、設計値より大きい場合について、順に説明する。
【0051】
(III-i)二次側の温度差ΔTが設計値と一致している場合
【0052】
図1は、二次側の温度差ΔTが設計値と一致する場合の熱源システムにおける冷水Wの循環の一例を示している。この場合、温度差ΔT=5[℃]であり、二次熱媒温度差比率XT2=100[%]である。二次熱媒流量比率XV2=60[%]、二次側における冷水Wの流量V=362.5[m/h]とすれば、負荷熱量H=600[RT]となる。このとき、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]である。
【0053】
空調機2の入口側における冷水Wの温度tを7[℃]と仮定する。温度差ΔT=5[℃]であるので、出口側における冷水Wの温度tは12[℃]である。
【0054】
この場合、二次熱媒流量比率XV2と二次熱媒熱量比率XH2は等しいので、調整係数kとしてどのような値を設定しても、一次熱媒流量比率XV1は二次熱媒流量比率XV2と二次熱媒熱量比率XH2の両方に等しく、60[%]となる(上記[式5]参照)。つまり、温度差ΔTが設定値と一致する場合、調整係数kの値にかかわらず、XV1=XV2=XH2となる。すなわち、一次側の流量Vの目標値は、二次側の流量Vと等しい値となり、この場合、V=V=362.5[m/h]と決定される(上記[式4]参照)。このとき、バイパス流路8における冷水Wの流量Vは0[m/h]となる。
【0055】
二次側と同じ冷水Wの流量(V=V=362.5[m/h])で、二次側の負荷熱量H=600[RT]と同じ負荷熱量Hとなる一次側の温度差ΔTは、二次側の温度差ΔTと同じ5[℃]である。熱源機1の出口側における温度tを7[℃]とすれば、入口側における冷水Wの温度tは12[℃]となる。つまり、t=t、t=tとなり、熱源機1における出口温度と同じ温度の冷水Wを空調機2に供給し、空調機2において快適な吹出温度を保つことができる。また、一次側における冷水Wの流量Vと二次側における流量Vが一致し、一次側を流通する冷水Wの二次側に対する余剰分がバイパス流路8に流れて一次ポンプ6を駆動するエネルギーが浪費されるようなことがなく、ポンプ動力に関しエネルギーの無駄がない運転が可能である。
【0056】
(III-ii)二次側の温度差ΔTが設計値より小さい場合
【0057】
次に、二次側の温度差ΔTが設計値より小さい場合を説明する。図2(a)~(c)は、温度差ΔTの設計値が5[℃]であるのに対し、実際の温度差ΔTが4[℃]である場合の熱源システムにおける冷水Wの循環の様子を示している。このとき、二次熱媒温度差比率XT2=80[%]である。
【0058】
二次側では、温度差ΔTが設計値より小さいため、負荷熱量Hがある値となる冷水Wの流量Vは大きくなる。具体的には、負荷熱量H=600[RT]となるには、温度差ΔTの実測値が設計値と同じ5[℃]である場合と比較して、流量Vが100/80倍とならなくてはならない。すなわち、二次熱媒流量比率XV2=75[%]となり、二次側の流量V=453.2[m/h]となる。このように二次側が運転された場合、負荷熱量H=600[RT]、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]となる。
【0059】
このような二次側の運転状況に応じ、一次側における運転状況を決定する。本実施例の熱源システムでは、上述の如く調整係数kの変更により、一次熱媒流量比率XV1ないし流量Vの目標値を調整できるようになっている。以下、図2(a)ではk=0[%]、図2(b)ではk=100[%]、図2(c)ではk=40[%]の場合をそれぞれ例示する。
【0060】
(III-ii-a)調整係数k=0の場合(図2(a)参照)
【0061】
調整係数kを0[%]に設定した場合、[式5]より一次熱媒流量比率XV1=XH2=60[%]、[式4]より流量V=(60/100)×SV2=362.5[m/h]である。熱源機1の出口側における冷水Wの温度tは、7[℃]とする。
【0062】
このとき、一次側の流量V(362.5[m/h])は、二次側の流量V(453.2[m/h])に対して不足する。この不足分の冷水Wは、バイパス流路8を還ヘッダ5から往ヘッダ4に向かって流れる。すなわち、流量V=V-V=-90.7[m/h]である。
【0063】
還ヘッダ5においては、空調機2から還ヘッダ5に還流した冷水Wが一次側の熱媒流路3とバイパス流路8とに分かれて流れる一方、往ヘッダ4においては、熱源機1から送り出される冷水Wに、還ヘッダ5から、熱源機1を経て冷却されることなくバイパス流路8に流れた冷水Wが合流することになる。このため、往ヘッダ4から空調機2へ流れる冷水Wの温度tは、熱源機1から送り出される冷水Wの温度tよりも上がる。具体的には、t=7[℃]に対し、t=8[℃]となる。ΔT=4[℃]であるので、空調機2の出口側における冷水Wの温度tは12[℃]であり、また、熱源機1には空調機2から還ヘッダ5へ還流した冷水Wの一部が流れるので、熱源機1の入口側における冷水Wの温度tは温度tと一致し、12[℃]である。熱源機1においては、温度差ΔT=t-t=5[℃]であり、流量V=362.5[m/h]であるので、上記[式1]より、生成熱量Hは、二次側の負荷熱量Hと同じ600[RT]である。
【0064】
空調機2においては、供給される冷水Wの温度tが上述の図1の場合と比較して上がるため(図1ではt=7[℃]に対し、図2(a)ではt=8[℃])、吹出口の空気温度が高くなる可能性がある。
【0065】
(III-ii-b)調整係数k=100の場合(図2(b)参照)
【0066】
温度差ΔTの設定値が5[℃]であるのに対し、実際の温度差ΔTが4[℃]である場合において、調整係数kを100[%]に設定したときの冷水Wの循環の様子を図2(b)に示す。このとき、二次熱媒温度差比率XT2=80[%]であり、二次熱媒流量比率XV2=75[%]、二次側の冷水Wの流量V=453.2[m/h]、二次側の負荷熱量H=600[RT]、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]である。
【0067】
調整係数k=100[%]とすると、[式5]より一次熱媒流量比率XV1=XV2=75[%]、[式4]より流量V=(75/100)×SV2=453.2[m/h]である。熱源機1の出口側における冷水Wの温度tは、7[℃]とする。
【0068】
このとき、一次側の流量Vは二次側の流量Vと等しくなるので、t=t、t=tと設定でき、t=7[℃]、ΔT=4[℃]であるので、t=t=7[℃]、t=t=11[℃]となる。一次側の温度差ΔT=ΔT=4[℃]であり、流量Vも流量Vと等しいので、一次側の生成熱量Hも二次側の負荷熱量Hと等しく、H=H=600[RT]である。尚、バイパス流路8における流量V=0[m/h]である。
【0069】
空調機2においては、供給される冷水Wの温度が上述の図1の場合と同様となり(t=7[℃])、空調空気の吹出温度を低く保つことができる一方、一次ポンプ6に要求される流量Vが大きくなる。
【0070】
(III-ii-c)調整係数k=40の場合(図2(c)参照)
【0071】
温度差ΔTの設定値が5[℃]であるのに対し、実際の温度差ΔTが4[℃]である場合において、調整係数kを40[%]に設定したときの冷水Wの循環の様子を図2(c)に示す。このとき、二次熱媒温度差比率XT2=80[%]であり、二次熱媒流量比率XV2=75[%]、二次側の冷水Wの流量V=453.2[m/h]、二次側の負荷熱量H=600[RT]、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]である。
【0072】
調整係数k=40[%]とすると、[式5]より一次熱媒流量比率XV1=66[%]、[式4]より流量V=(66/100)×SV2=398.8[m/h]である。熱源機1の出口側における冷水Wの温度tは、7[℃]とする。
【0073】
このとき、一次側の流量V(398.8[m/h])は、二次側の流量V(453.2[m/h])に対して不足し、不足分の冷水Wは、バイパス流路8を還ヘッダ5から往ヘッダ4に向かって流れる。すなわち、流量V=V-V=-54.4[m/h]である。
【0074】
空調機2から還ヘッダ5に還流した冷水Wは、一次側の熱媒流路3とバイパス流路8とに分かれて流れ、熱源機1から空調機2に供給される冷水Wには、還ヘッダ5から熱源機1を経ることなくバイパス流路8に流れた冷水Wが合流する。このため、往ヘッダ4から空調機2へ供給される冷水Wの温度tは、熱源機1から送り出される冷水Wの温度tよりも上がり、t=7[℃]に対し、t=7.5[℃]となる。ΔT=4[℃]であるので、空調機2の出口側における冷水Wの温度tは11.5[℃]であり、また、熱源機1の入口側における冷水Wの温度tは温度tと等しく、11.5[℃]となる。熱源機1においては、温度差ΔT=t-t=4.5[℃]であり、流量V=398.8[m/h]であるので、上記[式1]より、生成熱量Hは、二次側の負荷熱量Hと同じ600[RT]である。
【0075】
ここで、バイパス流路8における冷水Wの流量Vの絶対値(54.4[m/h])は、図2(a)に例示した場合(調整係数k=0[%])における流量Vの絶対値(90.7[m/h])よりは小さい。このため、一次ポンプ6に要求される流量Vは、図2(a)に示した場合よりは小さくなる(図2(a)ではV=453.2[m/h]に対し、図2(c)ではV=398.8[m/h])。
【0076】
一方、空調機2においては、供給される冷水Wの温度t図2(b)の場合(調整係数k=100[%])と比較して上がるものの(図2(b)ではt=7[℃]に対し、図2(c)ではt=7.5[℃])、図2(a)の場合(t=8[℃])よりは低いので、空調機2における空調空気の吹出温度も低く保つことができ、快適性を損ねるリスクは緩和される。
【0077】
以上に説明した各運転状況を図2(d)にまとめる。図2(a)に示す如き運転状況(k=0[%])では、一次側の流量Vを二次側の流量Vに合わせることをせず、流量Vは小さいままであるため、省エネルギーであると言える。一方、空調機2における吹出口温度が高くなり、快適性が損なわれる可能性がある。また、図2(b)に示す如き運転状況(k=100[%])では、空調空気の吹出温度を低く保てるため快適性は保たれるが、一次ポンプ6に要求される流量Vが大きくなり、省エネルギー性の点では劣る。このように、二次側の温度差ΔTが設計値より小さい場合、調整係数kを0[%]または100[%]とすると、それぞれ省エネルギー性または空調性能のいずれかを選択することになる。そこで、図2(c)に示す如く、調整係数kを0[%]と100[%]の間の値に設定すると(ここではk=40[%])、省エネルギー性と空調性能のいずれをもある程度満足することができるのである。
【0078】
(III-iii)二次側の温度差ΔTが設計値よりも大きい場合
【0079】
次に、二次側の温度差ΔTが設計値より大きい場合を説明する。図3(a)~(c)は、温度差ΔTの設計値が5[℃]であるのに対し、実際の温度差ΔTが6[℃]である場合の熱源システムにおける冷水Wの循環の様子を示している。このとき、二次熱媒温度差比率XT2=120[%]である。
【0080】
二次側では、温度差ΔTが設計値より大きいので、その分、負荷熱量Hが所定の値となるための冷水Wの流量Vが小さくなる。具体的には、負荷熱量H=600[RT]となるには、温度差ΔTの実測値が設計値と同じ5[℃]である場合と比較して、流量Vは100/120倍で足りる。すなわち、二次熱媒流量比率XV2=50[%]とし、二次側の流量V=302.1[m/h]とする。このように二次側を運転すれば、負荷熱量H=600[RT]、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]となる。
【0081】
このような二次側の運転状況に応じ、一次側における運転状況を決定する。以下、図3(a)ではk=0[%]、図3(b)ではk=100[%]、図3(c)ではk=40[%]の場合をそれぞれ例示する。
【0082】
(III-iii-a)調整係数k=0の場合(図3(a)参照)
【0083】
調整係数kを0[%]に設定した場合、[式5]より一次熱媒流量比率XV1=XH2=60[%]、[式4]より流量V=(60/100)×SV2=362.5[m/h]である。熱源機1の出口側における冷水Wの温度tは、7[℃]とする。
【0084】
このとき、一次側の流量V(362.5[m/h])は、二次側の流量V(302.1[m/h])を超過する。この超過分の冷水Wは、バイパス流路8を往ヘッダ4から還ヘッダ5に向かって流れる。すなわち、流量V=V-V=60.4[m/h]である。
【0085】
この場合、往ヘッダ4においては熱源機1から送り出される冷水Wが二次側の熱媒流路3とバイパス流路8とに分かれて流れる一方、還ヘッダ5においては、空調機2から還ヘッダ5に還流した冷水Wに、往ヘッダ4から空調機2を経ることなくバイパス流路8に流れた冷水Wが合流することになる。このため、還ヘッダ5から熱源機1へ流れる冷水Wの温度tは、空調機2の出口側における冷水Wの温度tよりも下がる。
【0086】
空調機2には、熱源機1から往ヘッダ4へ流れた冷水Wの一部が供給されるので、空調機2の入口側における冷水Wの温度tは温度tと一致し、7[℃]である。ΔT=6[℃]であるので、空調機2の出口側における冷水Wの温度tは13[℃]である。還ヘッダ5では、空調機2の下流を流れる温度tの冷水Wに、往ヘッダ4からバイパス流路8を通って流れる温度tの冷水Wが混合するので、熱源機1の入口側における冷水Wの温度tは温度tより下がり、例えば12[℃]となる。
【0087】
熱源機1においては、温度差ΔT=t-t=5[℃]であり、流量V=362.5[m/h]であるので、上記[式1]より、生成熱量Hは、二次側の負荷熱量Hと同じ600[RT]である。
【0088】
この場合、空調機2においては、供給される冷水Wの温度が上述の図1の場合と変わらない。
【0089】
(III-iii-b)調整係数k=100の場合(図3(b)参照)
【0090】
温度差ΔTの設定値が5[℃]であるのに対し、実際の温度差ΔTが6[℃]である場合において、調整係数kを100[%]に設定したときの冷水Wの循環の様子を図3(b)に示す。このとき、二次熱媒温度差比率XT2=120[%]であり、二次熱媒流量比率XV2=50[%]、二次側の冷水Wの流量V=302.1[m/h]、二次側の負荷熱量H=600[RT]、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]である。
【0091】
調整係数k=100[%]とすると、[式5]より一次熱媒流量比率XV1=XV2=50[%]、[式4]より流量V=(50/100)×SV2=302.1[m/h]である。熱源機1の出口側における冷水Wの温度tは、7[℃]とする。
【0092】
このとき、一次側の流量Vは二次側の流量Vと等しくなるので、t=t、t=tと設定でき、t=7[℃]、ΔT=6[℃]であるので、t=t=7[℃]、t=t=13[℃]となる。一次側の温度差ΔT=ΔT=6[℃]であり、流量Vも流量Vと等しいので、一次側の生成熱量Hも二次側の負荷熱量Hと等しく、H=H=600[RT]である。尚、バイパス流路8における流量V=0[m/h]である。
【0093】
この場合も、空調機2に供給される冷水Wの温度tは上述の図1図3(a)の場合と等しくなる。また、一次側の流量Vを二次側の流量Vに合わせて小さくしているので、一次ポンプ6に要求される出力が小さくなる。
【0094】
(III-iii-c)調整係数k=40の場合(図3(c)参照)
【0095】
温度差ΔTの設定値が5[℃]であるのに対し、実際の温度差ΔTが6[℃]である場合において、調整係数kを40[%]に設定したときの冷水Wの循環の様子を図3(c)に示す。このとき、二次熱媒温度差比率XT2=120[%]であり、二次熱媒流量比率XV2=50[%]、二次側の冷水Wの流量V=302.1[m/h]、二次側の負荷熱量H=600[RT]、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]である。
【0096】
調整係数k=40[%]とすると、[式5]より一次熱媒流量比率XV1=56[%]、[式4]より流量V=(56/100)×SV2=338.4[m/h]である。熱源機1の出口側における冷水Wの温度tは、7[℃]とする。
【0097】
このとき、一次側の流量V(338.4[m/h])は、二次側の流量V(302.1[m/h])を超過し、超過分の冷水Wは、バイパス流路8を往ヘッダ4から還ヘッダ5に向かって流れる。すなわち、流量V=V-V=36.3[m/h]である。
【0098】
空調機2の入口側における冷水Wの温度tは温度tと一致し、7[℃]である。ΔT=6[℃]であるので、空調機2の出口側における冷水Wの温度tは13[℃]である。還ヘッダ5では、空調機2の下流を流れる冷水Wに、往ヘッダ4からバイパス流路8を通って流れる冷水Wが混合するので、熱源機1の入口側における冷水Wの温度tは、12.4[℃]となる。
【0099】
熱源機1においては、温度差ΔT=t-t=5.4[℃]であり、流量V=338.4[m/h]であるので、上記[式1]より、生成熱量Hは、二次側の負荷熱量Hと同じ600[RT]である。
【0100】
この場合も、やはり空調機2に供給される冷水Wの温度は上述の図1図3(a)、(b)の場合と等しく、空調性能を変わらず保つことができる。一次側の流量Vについては、図3(a)の場合と比較すると小さく、一次ポンプ6の出力を節減できるが、図3(b)の場合よりは大きい。
【0101】
以上に説明した各運転状況を図3(d)にまとめる。図3(a)~(c)に示す各運転状況において、空調機2の入口側における冷水Wの温度tは調整係数kの値によって変わることはない。つまり、ここに示した各運転条件のいずれにおいても、空調空気の吹出温度は十分に低く保つことができ、空調性能は保たれる。一方、一次側の流量Vは調整係数kに応じて変わり、kが大きいほど二次側の流量Vに合わせて小さくなるので、一次ポンプ6に要求される出力は小さく、省エネルギーとなる。このように、二次側における冷水Wの温度差ΔTが設計値よりも大きい場合、空調性能に関しては調整係数kの値にかかわらず確保することができる一方、調整係数kの値を高く設定する(すなわち、一次側における冷水Wの流量Vを二次側における流量Vに近づける)ほど省エネルギー性を高めることができる。
【0102】
(IV)グラフに基づく説明
【0103】
図4は、本発明の熱源システムの制御方法について、熱媒(冷水W)の流量や温度差と熱量との関係を表す曲線に基づき説明するグラフである。上記[式1]に示すように、熱量は熱媒の流量と温度差との積によって決定されるので、座標平面をなす二軸の一方に温度差、他方に流量を取った場合、一定の熱量を表す点の集合は双曲線上にプロットされる。つまり、図7に示す如き熱源システムにおいて、一次側または二次側で熱量H,Hが所定の値(例えば600[RT])となる場合、一次側または二次側における温度差ΔT,ΔTに対する流量V,Vは、一定の熱量H,Hを示す曲線(双曲線の第一象限側の一部)に沿って決定されることになる。
【0104】
図4(a)は横軸に一次側又は二次側における温度差ΔT,ΔTの相対値を、縦軸に一次側又は二次側における流量L,Lの相対値を取り、一次側の生成熱量H又は二次側の負荷熱量Hを一定(例えば、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]に相当する値)とする場合の温度差と流量との関係を示している(尚、ここでは横軸及び縦軸に取る相対値として、上述の各例(図1図3参照)で説明した二次熱媒温度差比率XT2及び二次熱媒流量比率XV2の値を援用しつつ説明する)。二次側の温度差ΔTが設計値である場合、二次熱媒温度差比率XT2=100[%]、二次熱媒流量比率XV2=60[%]とすれば、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]となる(図中に点Pとして示す)。温度差ΔTが設計値より小さくなれば、二次熱媒温度差比率XT2の値が左へ移るのに従い、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]となる二次熱媒流量比率XV2は、双曲線に沿って上昇する(図中に点Pとして示す)。温度差ΔTが設計値より大きくなれば、二次熱媒温度差比率XT2の値が右へ移るのに従い、二次熱媒熱量比率XH2=60[%]となる二次熱媒流量比率XV2は、双曲線に沿って下降する(図中に点Pとして示す)。
【0105】
図4(b)は、温度差ΔTが設計値より小さい場合、すなわち図4(a)における点Pから左上の領域を拡大して示している。上述の図2を用いて説明したように、二次熱媒温度差比率XT2=80[%]である場合、二次側においては二次熱媒流量比率XV2=75[%]とすれば二次熱媒熱量比率XH2=60[%]になる(この状態が、点Pの位置に相当する)。ここで、調整係数kを0[%]に設定すると、一次側においては、点Pの位置に相当する状態で運転を行うことになる。図1図2に例示した場合に即した数値で説明すると、二次側では温度差ΔT=4[℃]、流量V=453.2[m/h]であるのに対し、一次側では温度差ΔT=5[℃]、流量V=362.5[m/h]である(図2(a)参照)。
【0106】
また、調整係数kを100[%]に設定すると、一次側における運転状態を点Pの位置に合わせることになる。すなわち、二次側における温度差ΔT=4[℃]、流量V=453.2[m/h]に合わせ、一次側でも温度差ΔT=4[℃]、流量V=453.2[m/h]にて運転が行われる(図2(b)参照)。
【0107】
そして、調整係数kを0[%]と100[%]の間に設定すると、一次側における運転状態は、点Pと点Pの間に位置することになる(図4(b)中に点Qとして示す)。例えば、調整係数k=40[%]とした場合、二次側における温度差ΔT=4[℃]、流量V=453.2[m/h]に対し、一次側では温度差ΔT=4.5[℃]、流量V=398.8[m/h]にて運転が行われる(図2(c)参照)。
【0108】
つまり、温度差ΔTが設計値より小さい場合、一次側の運転状態を表す点Qの位置が一定の熱量を表す曲線に沿って点Pから点Pへ近づくほど、一次側の流量Vが増えて省エネルギー性は損なわれる一方、二次側の空調機2に供給される冷水Wの温度tは熱源機1の出口側における温度tに近くなり、空調機2において快適性を損ねるリスクが低減されるのである。
【0109】
図4(c)は、温度差ΔTが設計値より大きい場合、すなわち図4(a)における点Pから右下の領域を拡大して示している。上で図3を用いて説明したように、二次熱媒温度差比率XT2=120[%]である場合、二次側においては二次熱媒流量比率XV2=50[%]とすれば二次熱媒熱量比率XH2=60[%]になる(この状態が、点Pの位置に相当する)。ここで、調整係数kを0[%]に設定すると、一次側においては、点Pの位置に相当する状態で運転を行うことになる。すなわち、二次側では温度差ΔT=6[℃]、流量V=302.1[m/h]であるのに対し、一次側では温度差ΔT=5[℃]、流量V=362.5[m/h]である(図3(a)参照)。
【0110】
調整係数kを100[%]に設定すると、一次側における運転状態を点Pの位置に合わせることになる。すなわち、二次側における温度差ΔT=6[℃]、流量V=302.1[m/h]に合わせ、一次側も温度差ΔT=6[℃]、流量V=302.1[m/h]にて運転が行われる(図3(b)参照)。
【0111】
調整係数kを0[%]と100[%]の間に設定すると、一次側における運転状態は、点Pと点Pの間に位置することになる(図4(c)中に点Qとして示す)。調整係数k=40[%]とした場合、二次側における温度差ΔT=6[℃]、流量V=302.1[m/h]に対し、一次側では温度差ΔT=5.4[℃]、流量V=338.4[m/h]にて運転が行われる(図3(c)参照)。
【0112】
つまり、温度差ΔTが設計値より大きい場合、一次側の運転状態を表す点Qの位置が双曲線に沿って点Pから点Pへ近づくほど、一次側の流量Vが減少し、省エネルギー性が図られる。空調機2に供給される冷水Wの温度tについては、調整係数kの設定値にかかわらず熱源機1の出口側における温度tと同じである。
【0113】
調整係数kは、このように、二次側における温度差ΔTが設計値からずれ、二次側の運転状態(温度差ΔTや流量V)が点Pの位置から点Pや点Pの位置へ移動した場合に、一次側の運転状態(温度差ΔTや流量V)を点Pの位置からどれだけ点Pや点Pの位置へ近づけるかを設定する数値であるとも言える。
【0114】
そして、上述の如く調整係数kを用いて一次側の制御を行う場合、各一次ポンプ6の出力を適宜変更することで一次側における冷水Wの流量Vを制御し、これを通じて二次側の空調機2の入口側における冷水Wの温度t等を制御することもできる。例えば、二次側の温度差ΔTが設定値より小さい場合(図2参照)において温度tが上昇した際には、調整係数kの設定値を変更することで一次側における冷水Wの流量Vを上げ、これによって二次側の冷水Wの温度tを下げることができる。この場合には、熱源機1の出口側における冷水Wの温度tを変更する必要は必ずしもないので、制御が簡素化されると共に、冷水Wの温度が安定し、省エネルギー性も向上する。
【0115】
尚、図1図3及び図4にて説明した運転状況は説明の便宜のために簡略化した一例であって、実際の運転状況は各装置の運転効率や外部からの入熱、熱媒流路3における圧損その他の状況により様々に変動し得る。よって、例えば空調機2における空調空気の吹出温度が上昇した際には、上述の如き調整係数kによる流量Vの操作に加え、例えば熱源機1における生成熱量Hをも操作して出口における冷水Wの温度tを調整する等、他の操作や制御をも併せて実行しても良い。
【0116】
また、上では二次側の負荷熱量Hの全量を一次側の熱源機2で賄う(したがって、熱媒流路3中での熱損失等を無視すれば、理論上、二次側における負荷熱量Hと熱源機1での生成熱量Hが一致する)場合を例に説明したが、例えば二次側において還り側(空調機2の下流側)の冷水Wに対し、補助冷却部15による予冷を行うような場合には、負荷熱量Hから予冷分を差し引いた熱量が生成熱量Hとして必要となる。こういった場合、上記[式3]の如く負荷熱量Hを二次熱媒温度差比率XT2と二次熱媒流量比率XV2の積で表すのでは、調整係数kやその他の値による操作がやりづらい場合がある。二次側において測定される冷水Wの温度差の値が、還り側における温度の計測位置によって異なるので、いずれを温度差ΔTとして採用するかを適切に決定する必要があるからである。そこで、二次熱媒熱量比率としては、上記[式3]の如き定義に代えて、例えば以下の定義を採用することができる。
[式6]
H2=100×H/SH2
【0117】
ここで、SH2は二次側における負荷熱量Hの基準値(例えば、空調機2の各設計負荷熱量の合計値)である。そして、二次熱媒熱量比率XH2を、基準値SH2に対する現在の負荷熱量Hの比率として定義している。このようにすれば、二次熱媒熱量比率XH2を、上記[式3]の如く二次熱媒温度差比率XT2と二次熱媒流量比率XV2の積で表すのではなく、負荷熱量Hの値から直接求めることができ、補助冷却部15による予冷分の熱量を差し引く場合等、負荷熱量H2や二次熱媒熱量比率XH2に対して何らかの演算を加える必要がある場合に適している。また、例えば図7に示す如く二次側に空調機2を備えた系統を複数備えている場合に、個別の系統毎に二次熱媒熱量比率XH2や負荷熱量Hを算出したいような時にも、上記[式6]の如き定義を採用すれば、各数値の取扱いを単純化できる。
【0118】
尚、ここでは補助冷却部15により冷水Wの予冷を行う場合を例に説明したが、「負荷熱量H2や二次熱媒熱量比率XH2に対して何らかの演算を加える必要がある場合」とは、補助冷却部15による予冷に限らず、その他の各種の場合を含み、上記[式6]により定義される二次熱媒熱量比率XH2は必要に応じて適宜用いて良い。また、補助冷却部15における冷水Wの冷却方式は、フリークーリングによるものに限らず、例えば熱回収チラーにより冷水Wを冷却する方式としても良い。また、暖房を行うにあたって本発明を実施する場合には、例えばコージェネレーションシステムにより熱媒としての温水を補助的に温める際に、二次熱媒熱量比率XH2の定義として、上記[式6]に準じた数式を用いると良い。
【0119】
また、上では調整係数kを百分率で表し、同じく百分率で表した一次熱媒流量比率XV1への寄与度を、百分率で表した二次熱媒流量比率XV2と二次熱媒熱量比率XH2との間で調整係数kを用いて按分する数式(上記[式5])を例示したが、本発明の熱源システムの制御方法を実施するにあたり、用い得る数式はこれに限定されるものではない。本発明の肝要な点は、「一次側の流量Vの目標値を決定するにあたり、二次側の流量Vを反映する値または二次側の負荷熱量Hを反映する値の少なくとも一方を一次側の流量Vの変数として用い、且つ一次側の流量Vに対する二次側の流量Vまたは二次側の負荷熱量Hの寄与度を可変に設定する」という点であり、この点を満足する限りにおいて、制御に用いる数式の内容は適宜変更し得る。
【0120】
例えば、本実施例では一次側の流量Vの相対値である一次熱媒流量比率XV1を決定するための変数として、二次熱媒流量比率XV2や二次熱媒熱量比率XH2を採用しているが、これに限定されるものではない。本発明を実施するにあたっては、二次側の流量Vまたは二次側の負荷熱量Hを何らかの形で反映した値を変数の少なくとも1つとして用いることが要件であり、二次側の流量Vまたは二次側の負荷熱量Hを反映した値であれば、二次熱媒流量比率XV2や二次熱媒熱量比率XH2以外の何らかの値を一次側の流量Vの決定に用いても良い。尚、ここでいう「流量Vを反映した値」や「負荷熱量Hを反映した値」とは、流量Vや負荷熱量Hそのものをも含む。
【0121】
また、本実施例では、調整係数kを用い、一次側の流量Vに対する二次側の流量Vまたは二次側の負荷熱量Hの寄与度を二次熱媒流量比率XV2と二次熱媒熱量比率XH2の2項間で配分しているが(上記[式5]参照)、例えば、この[式5]の右辺の各項には、二次熱媒流量比率XV2や二次熱媒熱量比率XH2以外に何らかの条件に基づき決定した定数を用いても良いし、また、別の変数を計算に加えても良い。流量Vや一次熱媒流量比率XV1を決定するための式を3項以上で構成しても良い。
【0122】
また、一次側の流量Vに対する二次側の流量Vや負荷熱量Hの寄与度は調整係数kの設定値により任意に設定されるが、この際、流量Vや負荷熱量Hの寄与度は[式5]の如く調整係数kに応じて比例配分する方式に限らず、例えば流量Vに対する流量Vの寄与度を調整係数kの2乗に比例して配分するなど、調整係数kに対し何らかの処理を加えた数値に応じて配分しても良い。
【0123】
勿論、調整係数kや一次熱媒流量比率XV1、二次熱媒流量比率XV2、二次熱媒熱量比率XH2といった相対値を用いる場合、各値は百分率以外の形式で表しても良い。また、最終的に用いる変数の種類によっては、必ずしも温度差ΔTや流量V、Vといった各値を相対値に変換する必要もない。例えば、一次側の流量Vを決定するための式として、下記の如き数式を使用することも可能である。
[式7]
=(k/100)×V+C
あるいは、下記の如き数式を用いても良い。
[式8]
={(100-k)/100}×(XH2/100)×SV2+C
【0124】
尚、上記[式7][式8]において、CやCは例えば運転状況や季節その他の条件により定められた定数である。CやCの値は、制御部11の記憶部にマップとして格納しておき、制御部11において必要に応じて読み出して使用すれば良い。
【0125】
[式7]では、一次側の流量Vを二次側の流量Vに応じて決定するようにしており、その際、流量Vの寄与度を調整係数kにより規定するようにしている。[式7]におけるVの定義としては、例えば上記[式2]を変形した式を用いることができる。
【0126】
また、[式8]では、一次側の流量Vを二次側の負荷熱量Hに応じて決定するようにしており、その際、負荷熱量Hの寄与度を調整係数kにより規定するようにしている。ここで、負荷熱量Hは流量Vと次元が異なる値であるので、負荷熱量Hを反映した相対値である二次熱媒熱量比率XH2を、流量Vと次元が一致する流量基準値SV2に乗じた値を項の一つに採用している。
【0127】
無論、上記[式5]や[式7]、[式8]はそれぞれあくまで一例であって、これ以外にも、本発明を実施するにあたっては種々の数式を採用して良い。
【0128】
(V)制御フロー
【0129】
制御装置11における上述の如き熱源システムの制御方法の一例を、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0130】
制御装置11では、まずステップS0として、熱源機1、一次ポンプ6や二次ポンプ7、図示しない冷却塔、その他各種機器の運転に係る定数(例えば物理定数や、各種機器の最大流量や最大熱量といった、運転状況によって変化しない数値)を読み込む。次に、ステップS1として、熱源機1、一次ポンプ6や二次ポンプ7、図示しない冷却塔、その他各種機器の稼働台数や出力等に関する設定値を読み込む。この設定値には、調整係数kが含まれる。
【0131】
次に、ステップS2として、各所の流量計9や温度計10の検出値から、冷水Wの流量や温度といった計測値を実測値として取得する。例えば、二次側における冷水Wの流量Vや、冷水Wの温度t,tといった値が取得される。ステップS3では、二次側における合計流量Vから、上記[式2]より二次熱媒流量比率XV2を算出する。ステップS4では、二次側における冷水Wの流量V、温度t,tに基づき、空調機2における負荷熱量を算出する。
【0132】
ステップS5においては、補助冷却部15における生成熱量が算出される。補助冷却部15における生成熱量は、補助冷却ライン14へ流れる冷水Wの流量や、補助冷却ライン14の前後における冷水Wの温度差等から算出できる。補助冷却部15による冷却を行わない場合、この値はゼロである。さらに、ステップS6において、ステップS4で算出された負荷熱量から、ステップS5で算出された生成熱量を引いた値を、有効負荷熱量として算出する。ここで算出された有効負荷熱量を、以下の工程において二次側の負荷熱量Hとして使用することができる。
【0133】
次に、ステップS7にて、ここまでの各ステップにおいて計測あるいは算出された各値から、二次熱媒熱量比率XH2を算出する。二次熱媒熱量比率XH2の算出には、例えば上記[式3]または[式6]を用いることができる。ステップS8にて、さらに調整係数kを用い、上記[式5]により一次熱媒流量比率XV1を算出する。
【0134】
続くステップS9~ステップS15では、一次側の運転状態、すなわち熱源機1および一次ポンプ6の稼働台数や出力といった値が決定され、これらに基づいて熱源機1や一次ポンプ6の運転が制御される。
【0135】
熱源機1の稼働台数は、二次側の負荷熱量Hや、一次側において必要な生成熱量Hに応じ、例えば以下のように決定することができる。
【0136】
一次側に熱源機1を4台備えており、1台目~4台目の熱源機1の生成熱量の設計値が、それぞれHm1,Hm2,Hm3,Hm4であるとし、その合計量をHとする(つまり、H=Hm1+Hm2+Hm3+Hm4である)。そして、変数Aの値に応じ、熱源機1のオンオフを下記のように決定する。変数Aの定義については後に説明するが、例えば二次熱媒熱量比率XH2を変数Aとして使用することができる。
a)Aが増加傾向にある場合
A≦95×Hm1/H のとき 1台目をオン
95×Hm1/H<A≦95×(Hm1+Hm2)/H のとき 1、2台目をオン
95×(Hm1+Hm2)/H<A≦95×(Hm1+Hm2+Hm3)/H のとき 1~3台目をオン
95×(Hm1+Hm2+Hm3)/H<A≦100 のとき 全台オン
b)Aが減少傾向にある場合
A≦90×Hm1/H のとき 1台目をオン
90×Hm1/H<A≦90×(Hm1+Hm2)/H のとき 1、2台目をオン
90×(Hm1+Hm2)/H<A≦90×(Hm1+Hm2+Hm3)/H のとき 1~3台目をオン
90×(Hm1+Hm2+Hm3)/H<A≦100 のとき 全台オン
【0137】
つまり、要求される生成熱量が増加し、稼働させる熱源機1を増やす場合には、「全熱源機1の生成熱量の設計値の合計に対する、稼働中の熱源機1の生成熱量の設計値の合計の割合」に95%を乗じた値を、Aの値が越えた段階で次の熱源機1をオンにする。逆に、要求される生成熱量が減少し、稼働させる熱源機1を減らす場合には、Aの値が「全熱源機1の生成熱量の設計値の合計に対する、稼働中の熱源機1のうち1台をオフとした場合における生成熱量の設計値の合計の割合」に90%を乗じた値以下となった段階で、一台の熱源機1をオフにする。このようにすると、時々刻々変化する負荷熱量Hに応じ、必要な生成熱量Hに対して生成可能な熱量に幾分余裕を持たせるよう、熱源機1の稼働台数を制御することができる。
【0138】
ただし、このように熱源機1の稼働台数に余裕を持たせるような運転を行っていても、Aにあたる値として二次熱媒熱量比率XH2のみを用いた場合には、二次側における運転状況の変化に、一次側が追いつかなくなる場合も考えられる。例えば、2台の熱源機1が稼働している時に二次側における温度差ΔTが小さくなり、負荷熱量Hを補うために二次側の流量Vが増大したとする。このとき、条件によっては、二次側における流量Vに応じて一次側の流量Vを増大させないと、空調機2の入口側における冷水Wの温度tが上昇し、快適性が損なわれる可能性が生じる。ところが、各一次ポンプ6のオンオフは熱源機1のオンオフと連動しているので、仮に二次側の負荷熱量Hに対して一次側の生成熱量Hが十分であったとしても、二次側の流量Vに対しては一次側の流量Vが不足するという事態が生じ得る。つまり、生成熱量Hや負荷熱量Hのみに追従して熱源機1および一次ポンプ6の稼働台数を決定することで、流量Vの操作に遅れが生じるのである。これを防ぐためには、一次側の生成熱量Hだけでなく、流量Vに関しても、ある程度二次側の運転状況に対して余裕を持たせ、二次側への追従性を確保する必要がある。
【0139】
そこで、変数Aとして用いるパラメータを例えば以下の式により選択することができる。
[式9]
A=MAX(XH2,XV1
このように、変数Aとして二次熱媒熱量比率XH2と一次熱媒流量比率XV1のうち大きい方の値を用いるようにすれば、二次側における運転状況に対し、熱源機1および一次ポンプ6の稼働台数にさらに余裕を持たせることができるのである。
【0140】
また、各一次ポンプ6のオンオフは、その下流に位置する各熱源機1のオンオフと連動するが、稼働している各一次ポンプ6における冷水Wの流量(Vとする)は、例えば以下の式により決定することができる。
[式10]
=(Vmi/Vmo)×V
【0141】
miは、その一次ポンプ6の設計流量値であり、Vmoは、現在稼働中の一次ポンプ6の各設計流量の合計値である。つまり、上記[式10]は、一次側の合計流量Vを稼働中の一次ポンプ6で分担する際、それぞれの設計流量Vmiに応じて各一次ポンプ6の個別流量Vを比例的に分配するのである。例えば、3台の一次ポンプ6を稼働させるとして、各一次ポンプ6の設計流量が5:5:3であったとすると、実際の流量も同じ5:5:3の割合で各一次ポンプ6に分配するのである。尚、上述の熱源機1、一次ポンプ6の稼働台数や各一次ポンプ6の出力の決定方式は一例であって、この他にも各種の方式を採用し得る。例えば、各熱源機1の効率を考慮して、一次側全体におけるエネルギー効率がなるべく良くなるよう、各一次ポンプ6における流量の配分を調整しても良い。また、各一次ポンプ6における出力を決定するにあたっては、各熱源機1における流量の上下限値の仕様等も考慮される。
【0142】
一次側の運転状態を決定するにあたっては、まずステップS9として、上記[式9]により変数Aとして用いる値を選択する。続くステップS10では、熱源機1の稼働台数の制御に関し、制御周期の判定を行う。前回、次のステップS11を実行してから所定の時間(例えば、15分)が経過したか否かを判定する。所定の時間が経過していれば次のステップS11に移り、上に説明したように変数Aに基づき熱源機1の稼働台数の制御を行う。このとき、熱源機1のオンオフと連動して一次ポンプ6のオンオフも切り替えられる。
【0143】
ステップS10において、前にステップS11を実行してからの経過時間が所定の時間未満であると判定された場合は、ステップS11を飛ばしてステップS12へ移る。各熱源機1のオンオフは時々刻々制御されるのではなく、所定の周期毎に必要に応じて行うことが好ましいため、ステップS10で制御の実行周期を制御しているのである。
【0144】
ステップS12では、一次ポンプ6の流量の制御に関し、制御周期の判定を行う。前回、続くステップS13~S15を実行してから所定の時間(例えば、5分)が経過したか否かを判定する。所定の時間が経過していれば次のステップS13に移る。
【0145】
ステップS13では、現在における各一次ポンプ6の稼働状態を読み込む。ステップS14では、要求される一次側の流量Vに合わせ(一次側における合計流量Vの目標値は、ステップS8にて算出された一次熱媒流量比率XV1から上記[式8]により算出できる)、各一次ポンプ6における目標流量値Vを上記[式10]により算出する。この目標流量値Vに基づき、次のステップS15において、各一次ポンプ6に対し編流量制御を行う。
【0146】
ステップS15の後、ステップS1に戻り、続く各ステップを繰り返して各機器の稼働状況の調整を行いながらシステムの運転を継続する。また、ステップS12において、所定の時間が経過していいと判定された場合は、ステップS13~S15を飛ばしてステップS1に戻る。
【0147】
こうして、制御装置11においては、二次側の運転状態や調整係数kを含む各変数の設定値等に基づき、一次側における流量Vの目標値を設定し、熱源機1のオンオフやこれに連動した一次ポンプ6のオンオフの監視や制御、各一次ポンプ6のインバータの周波数の制御等を行う。
【0148】
(VI)調整係数kの入力
【0149】
図6は表示部12(図7参照)に表示される操作入力画面の一例を示しており、ここでは一次側の各部における冷水Wの流量や温度、各装置の稼働状態等を表示する画面を例示している。ここに示す操作入力画面では、一次側のシステム構成が模式的に表示されており、各所に配置された表示ボックス12aには、システムの各所における冷水Wの流量や温度の実測値、流量と温度の積である熱量、各一次ポンプ6の稼働状態等が表示される。
【0150】
また、熱源機1に関しては、各熱源機1を示すアイコンの近傍にそれぞれ入力ボックス12bが表示されており、該熱源機1の出口側における冷水Wの温度tの設定値を操作部13から入力できるようになっている(図7および図1図3参照)。制御部11(図7参照)では、この入力ボックス12bに入力された数値を、図示しない冷却塔や熱源機1の稼働台数や稼働状態に反映し、各熱源機1の出口側における冷水Wの温度tを調整する。
【0151】
さらに、操作画面中の右側には、調整係数kの表示ボックス12aおよび入力ボックス12bが表示されており、表示ボックス12aには調整係数kの現在値が表示され、入力ボックス12bには操作部13から調整係数kの設定値を手動入力することができるようになっている。制御部11(図7参照)では、調整係数kの設定値を読み込み、一次ポンプ6の稼働状態に反映させる。
【0152】
こうした操作入力画面を表示する表示部12と操作部13を空調設備の管理室に設置することで、熱源システムの各部の状態を監視しつつ、必要に応じて各入力ボックス12bに設定値を入力し、熱源システムを構成する各装置を操作することができる。
【0153】
調整係数kの入力ボックス12bに設定値を入力するにあたっては、例えばここに示すような操作画面とは別の画面により二次側における冷水Wの温度t,tや温度差ΔTを計測し、例えば温度tに上昇傾向が見られた際には調整係数kの設定値を大きくするといった操作が可能である。また、ΔTが小さくなりがちな時季や条件下においては調整係数kの設定値を0から100までの間で適宜調整して空調性能と省エネルギー性のバランスを図り、ΔTが大きくなりがちな時季や条件下においてはkを100にして一次側の流量Vの目標値を二次側の流量Vの計測値に一致させ、省エネルギー性を図るような操作を行っても良い。
【0154】
尚、ここでは調整係数kを手動で入力可能な操作画面を例示したが、ここに示す以外にも、調整係数kの設定に関しては種々の方法を採用することができる。例えば、季節や運転状況に応じた調整係数kの設定値を予め定めておき、制御装置11にてその都度適当な調整係数kの値を読み出して使用しても良い。あるいは、AI制御により調整係数kを決定する方法を取り入れても良い。
【0155】
以上のように、上記本実施例の熱源システムは、熱媒(冷水)Wに熱を供給する熱源機1と、熱媒Wから熱を受け取って空調空気を作り出す空調機2と、熱源機1と空調機2との間で熱媒Wを循環させる熱媒流路3と、該熱媒流路3における熱源機1の出口側から空調機2の入口側までの間の位置に設置される往ヘッダ4と、熱媒流路3における空調機2の出口側から熱源機1の入口側までの間の位置に設置される還ヘッダ5と、往ヘッダ4と還ヘッダ5とを連通し、熱媒Wを流通させるバイパス流路8と、熱媒流路3の往ヘッダ4と還ヘッダ5を挟んで熱源機1側を一次側、空調機2側を二次側とした場合に、一次側における熱媒Wの流通を駆動する一次ポンプ6と、二次側における熱媒Wの流通を駆動する二次ポンプ7とを備え、一次側における熱媒Wの流量V は、二次側における熱媒Wの流量V を反映する値X V2 と、二次側における負荷熱量H を反映する値X H2 とを変数として決定され、且つ一次側における熱媒Wの流量Vに対する二次側における熱媒Wの流量Vまたは二次側における負荷熱量Hの寄与度は可変に設定される。このようにすると、二次側の温度差ΔTが設計値より小さい場合、調整係数kを適宜調整することで、省エネルギー性と空調性能のいずれをもある程度満足することができる。一方、二次側における熱媒Wの温度差ΔTが設計値より大きい場合には、調整係数kの値を高く設定することで省エネルギー性を高めることができる。また本実施例の熱源システムにおいて、一次側における熱媒Wの流量V は、二次側における熱媒Wの流量V を反映する値X V2 と、二次側における負荷熱量H を反映する値X H2 とを変数として決定されるので、一次側における熱媒Wの流量V を決定するにあたり、二次側の流量V と二次側の負荷熱量H を計算に入れることができる。
【0156】
本実施例の熱源システムにおいて、一次側における熱媒Wの流量Vに対する二次側における熱媒Wの流量Vまたは二次側における負荷熱量Hの寄与度は、任意の調整係数kの設定値により決定されるので、一次側における熱媒Wの流量Vを決定するにあたり、二次側の流量Vの寄与度を調整係数kの設定により簡便に決定することができる。
【0158】
本発明の熱源システムにおいて、一次側における熱媒Wの流量Vは、具体的には以下の数式により決定される。
V1=(k/100)×XV2+{(100-k)/100}×XH2
ただし、
V1:一次熱媒流量比率(一次側における熱媒Wの流量Vの相対値)
V2:二次熱媒流量比率(二次側における熱媒の流量Vの相対値)
H2:二次熱媒熱量比率(二次側における負荷熱量Hの相対値)
k:調整係数(0以上100以下の任意の値)
【0159】
したがって、上記本実施例の熱源システム及びその制御方法によれば、空調性能と省エネルギー性を少なくとも部分的に両立し得る。
【0160】
尚、本発明の熱源システム及びその制御方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではない。例えば、上述の実施例では空調システムにて冷房を行う場合を例示したが、これに限らず、暖房を行う場合の一次側における流量制御にも同様に適用し得る(この場合、熱媒としては例えば温水を用いる)。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0161】
1 熱源機
2 空調機
3 熱媒流路
4 往ヘッダ
5 還ヘッダ
6 一次ポンプ
7 二次ポンプ
8 バイパス流路
W 熱媒(冷水)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8