(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】車両内装材の装着構造
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20220623BHJP
F16B 5/02 20060101ALI20220623BHJP
F16B 41/00 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B60R13/02 B
F16B5/02 R
F16B41/00 B
B60R13/02 C
(21)【出願番号】P 2018046346
(22)【出願日】2018-03-14
【審査請求日】2020-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000100366
【氏名又は名称】しげる工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】小川 辰二郎
(72)【発明者】
【氏名】谷島 孝洋
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-311233(JP,A)
【文献】特開2010-194620(JP,A)
【文献】特開平08-004736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
F16B 5/02
F16B 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内装材と一体をなして形成されたボルト固定部を備え、上記ボルト固定部を貫通するボルトにより、上記車両内装材が車体パネルに装着される構造において、
上記車両内装材がピラートリムであり、その下端部に上記ボルト固定部が形成されており、
上記ボルト固定部は、直線状に延びるスリットと、上記車両内装材の車室側の面に形成された一対の係合凸部とを有し、
上記スリットは、上下方向に延びその上端が開放端となり、延び方向の中途部に、上記ボルトの軸部の径より狭い幅の狭隘部を有し、
上記一対の係合凸部は、少なくとも
、上記スリット
の上記開放端からの延び方向の奥部
における上記スリットの両側縁近傍部に配置され、互いに対向する側に係合溝を有しており、
上記スリットは、上記ボルトの軸部を上記開放端から上記狭隘部を経て
上記奥部に受入れ可能であり、
上記ボルトの軸部が上記スリットの上記奥部に入り、上記ボルトの大径部が上記一対の係合凸部の係合溝に入ることにより、上記ボルトが上記ボルト固定部に仮保持され、
上記スリットの側縁近傍部における上記車両内装材の車室側の面には、上記スリットの開放端またはその延び方向中途部の位置に、隆起部が形成されていることを特徴とする車両内装材の装着構造。
【請求項2】
車両内装材と一体をなして形成されたボルト固定部を備え、上記ボルト固定部を貫通するボルトにより、上記車両内装材が車体パネルに装着される構造において、
上記ボルト固定部は、直線状に延びるスリットと、上記車両内装材の車室側の面に形成された一対の係合凸部と、上記係合凸部を補強する補強リブとを有し、
上記スリットは、一端が開放端となり、延び方向の中途部に、上記ボルトの軸部の径より狭い幅の狭隘部を有し、
上記一対の係合凸部は、少なくとも
、上記スリット
の上記開放端からの延び方向の奥部
における上記スリットの両側縁近傍部に配置され、互いに対向する側に係合溝を有しており、
上記係合凸部は、上記スリットに沿って延びるとともに断面L字形をなし、上記スリットの側縁から離れた位置で上記車両内装材の車室側の面から突出する起立部と、上記スリットの側縁近傍部と対向する対向部とを有しており、上記対向部と上記側縁近傍部との間に上記係合溝が形成されており、
上記補強リブは、上記起立部及び対向部の外側に設けられるとともに上記スリットに向かって傾斜する傾斜面を有しており、
上記スリットは、上記ボルトの軸部を上記開放端から上記狭隘部を経て
上記奥部に受入れ可能であり、
上記ボルトの軸部が上記スリットの上記奥部に入り、上記ボルトの大径部が上記一対の係合凸部の係合溝に入ることにより、上記ボルトが上記ボルト固定部に仮保持されることを特徴とする車両内装材の装着構造。
【請求項3】
上記係合凸部は、上記スリットに沿って延びるとともに断面L字形をなし、上記スリットの側縁から離れた位置で上記車両内装材の車室側の面から突出する起立部と、上記スリットの側縁近傍部と対向する対向部とを有しており、上記対向部と上記側縁近傍部との間に上記係合溝が形成されていることを特徴とする請求項
1に記載の車両内装材の装着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内装材の装着構造に関し、特に、車両内装材のボルト固定部を貫通するボルトを用いて、車両内装材を車体パネルに装着する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ピラートリム等の車両内装材は、ボルトが仮保持された状態で車両の組立工場に搬送され、組立工場において、仮保持されていたボルトを用いて車体パネルに取り付けられる。
下記特許文献1の
図6に従来技術として開示された車両内装材の装着構造では、車両内装材のボルト固定部にボルト挿通孔が形成され、ボルトは、ボルト挿通孔に挿通された状態で、車外側から軸部に抜け止めワッシャが装着されることにより、仮保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の
図6に開示された車両内装材の装着構造では、ボルトの仮保持のためにボルトの軸部に装着される抜け止めワッシャは、紙や樹脂で薄板状に作られているため、ボルトを保持する力は比較的弱い。そのため、車両内装材の装着時の衝撃等によりボルトが車両内装材から脱落することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両内装材の装着構造は、車両内装材と一体をなして形成されたボルト固定部を備え、上記ボルト固定部を貫通するボルトにより、上記車両内装材が車体パネルに装着される構造において、上記ボルト固定部は、直線状に延びるスリットと、上記車両内装材の車室側の面に形成された一対の係合凸部とを有する。
上記スリットは、一端が開放端となり、延び方向の中途部に、上記ボルトの軸部の径より狭い幅の狭隘部を有する。上記一対の係合凸部は、少なくとも上記スリットの上記奥部において上記スリットの両側縁近傍部に配置され、互いに対向する側に係合溝を有している。
上記スリットは、上記ボルトの軸部を上記開放端から上記狭隘部を経てその奥部に受入れ可能であり、上記ボルトの軸部が上記スリットの上記奥部に入り、上記ボルトの大径部が上記一対の係合凸部の係合溝に入ることにより、上記ボルトが上記ボルト固定部に仮保持される。
【0006】
上記構成によれば、スリットの狭隘部がボルトの軸部を係止するので、ボルトがスリットの開放端から抜けるのを防止でき、係合凸部の係合溝がボルトの大径部と係合するので、ボルトが軸方向に抜けるのを防止できる。その結果、ボルトをしっかりと仮保持でき、衝撃による脱落を防止できる。また、抜け止めワッシャを省くことができる。
【0007】
好ましくは、上記係合凸部は、上記スリットに沿って延びるとともに断面L字形をなし、上記スリットの側縁から離れた位置で上記車両内装材の車室側の面から突出する起立部と、上記スリットの側縁近傍部と対向する対向部とを有しており、上記対向部と上記側縁近傍部との間に上記係合溝が形成されている。
【0008】
好ましくは、上記車両内装材がピラートリムであり、その下端部に上記ボルト固定部が形成されており、上記スリットが上下方向に延びその上端が上記開放端となっており、上記スリットの側縁近傍部における上記車両内装材の車室側の面には、上記スリットの開放端またはその延び方向中途部の位置に、隆起部が形成されている。
上記構成によれば、例えば、ピラートリムの上方に配置されたカーテンエアバッグが展開する等して、ピラートリムに下方への衝撃が加わった時に、隆起部がボルトの大径部に当たり抵抗となるので、ボルトがスリットの開放端から抜けるのを防止でき、ひいては、ピラートリムが車体パネルから脱落するのを防止できる。
【0009】
好ましくは、上記ボルトは、上記軸部の一端に形成された上記大径部としてのフランジ部と、上記フランジ部に隣接して上記軸部の反対側に形成された六角形状の頭部とを有しており、上記頭部は、上記一対の係合凸部の上記対向部間に間隙を介して配置されている。
上記構成よれば、ボルトの頭部と係合凸部の対向部との間隙に、ボルト締め付け用工具の先端を挿入することができるので、ボルト固定部に保持されたボルトの頭部に工具を嵌め、工具を用いてボルトを車体パネルにねじ込むことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、仮保持されたボルトの脱落を防止した、車両内装材の装着構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両内装材の装着構造を適用したピラートリムを車室側からみた正面図であって、ピラーパネルに装着された状態を示す。
【
図2】ピラーパネルに装着された状態の同ピラートリムにおけるボルト固定部を車室側前方から見た拡大斜視図である。
【
図3】同ピラートリムのボルト固定部を車室側から見た拡大正面図である。
【
図4】ボルトを仮保持させた状態の同ピラートリムにおけるボルト固定部を車室側から見た拡大正面図である。
【
図6】同ピラートリムのボルト固定部の
図5と同様の切断部端面図であって、ピラートリムのピラーパネルへの装着過程において、ボルト締め付け用の工具をボルトの頭部に嵌めようとする場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態をなす車両内装材の装着構造について、
図1~
図6を参照して説明する。この実施形態の装着構造は、車両のピラートリムをピラーパネルに装着する構造に適用したものである。
【0013】
図1に示す、この実施形態で例示するピラートリム1(車両内装材)は、右座席側のものであって、ピラートリム本体10と、ジャンプ台20を備え、
図5、
図6にのみ示すピラーパネル2(車体パネル)の車室側に沿って上下方向に延びている。
以下、特に断らない限り、ピラートリム1はピラーパネル2に装着された状態であるものとする。
【0014】
ジャンプ台20は、ピラートリム本体10の上部に設けられている。この実施形態のジャンプ台20は、例えばポリプロピレン等の樹脂を射出成形することによって、ピラートリム本体10とは別体に形成され、ピラートリム本体10に組み付けられている。ジャンプ台20は、ピラートリム本体10と一体に形成されてもよい。
【0015】
ジャンプ台20は案内壁21を有しており、案内壁21は、車外側から車室側(
図1において紙面奥側から手前側)へ向かうにしたがって下方へ傾く斜面になっている。案内壁21の上方には、図示しないカーテンエアバッグが折り畳まれた状態で車長方向に延びて配置されている。車両の側面衝突の際、カーテンエアバッグにガスが注入され、カーテンエアバッグは、膨張しながら、案内壁21に案内されて、図示しないルーフライニングを押し開き、車室内にカーテン状に展開される。
【0016】
ピラートリム本体10は、例えばポリプロピレン等の樹脂を射出成形することによって形成され、車幅方向(
図1の紙面と直交する方向)を向く正面壁11と、この正面壁11に連なり車長方向前方を向く前壁12と、正面壁11に連なり車長方向後方を向く後壁13とを有しており、横断面がコ字形をなしている。ピラートリム10の下端部10Aでは、正面壁11が車幅方向の車外側(
図1において紙面奥側)に後退し、前壁12及び後壁13が内側に後退している。
【0017】
図1に示すように、ピラートリム本体10の下端部10Aにおいて、正面壁11には、車長方向に離れた2つの係合孔部11a,11bが形成され、前壁12及び後壁13には、それぞれ切欠き部12a,13aが形成されている。これら係合孔部11a,11b及び切欠き部12a,13aは、ピラートリムロア部材(図示しないが、説明の便宜上符号30を付す)との連結に用いられる。連結の際、ピラートリムロア部材30の上端部が、ピラートリム本体10の下端部10Aに車室側から重ねられる。係合孔部11a,11bには、ピラ-トリムロア部材30に設けられた係合突起が挿入され、ピラートリム本体10に対してピラートリムロア部材30が位置決めされる。切欠き部12a,13aには、ピラートリムロア部材30に設けられた掛止爪部が掛止され、ピラートリム本体10とピラートリムロア部材30が連結される。
【0018】
ピラートリム本体10の下端部10Aにおいて、上記係合孔部11a,11bの下方には、車長方向の前側と後側に離間した位置に、それぞれ下方に突出する前側脚部40と後側脚部50がピラートリム本体10と一体をなして設けられている。
【0019】
上記構成のピラートリム1のピラーパネル2への装着構造では、ピラートリム1の裏面(車幅方向の車外側の面)において、上部の一箇所と、下部における前側脚部40及び後側脚部50の二箇所を、ピラーパネル2に固定している。
ピラートリム1の上部の上記一箇所とピラーパネル2との固定では、図示しない周知の固定手段が用いられている。この固定手段としては、一般的なクリップ、ボルト等が使用されてもよい。
【0020】
次に、前側脚部40のピラーパネル2への固定について説明する。
図1に示すように、前側脚部40はクリップ60によりピラーパネル2に固定されている。前側脚部40には、車幅方向の車外側(
図1において紙面奥側)に突出するクリップ座41が設けられ、その先端側の座板部42には、その中央部から下部に渡ってクリップ装着孔42aが形成されている。クリップ装着孔42aには、その下方から周知のクリップ60が取り付けられ、上端部で固定されている。このクリップ60の先端側(車幅方向の車外側)がピラーパネル2のクリップ係止孔(図示せず)に周知の態様で嵌め込まれることにより、ピラーパネル2に固定されている。
【0021】
次に、後側脚部50のピラーパネル2への固定について説明する。
図1に示すように、後側脚部50はボルト70によりピラーパネルに固定されている。
図2、
図5、
図6に示すように、この実施形態で用いられるボルト70は六角形状をなす頭部71と軸部72を有している。軸部72は、頭部71側の基端から先端に向かって、フランジ部72a(大径部)と、胴部72bと、ねじ部72cとを有している。フランジ部72aは、頭部71より径が大きい。軸部72の径は、フランジ部72a、胴部72b、ねじ部72cの順に小さくなっている。
【0022】
後側脚部50について説明する。
図1に示すように、後側脚部50は、上脚部50Aと下脚部50Bとを有しており、前側脚部40よりも下方に延びている。下脚部50Bは、前側脚部40のクリップ座41よりも下方に位置している。下脚部50Bにおける薄板状の部分がボルト固定部51となっている。
図5に示すように、上脚部50Aの下端面50xは、その車幅方向の車外側の端部がボルト固定部51と連なっている。下端面50xには、その上方(
図5において紙面奥側)からボルト固定部51側にボルト70を通すための開口50yが形成されている。
【0023】
図3に示すように、ボルト固定部51には、その車長方向の中間部を車幅方向に貫通するスリット52が形成され、上下方向に直線状に延びている。スリット52の上端は開放端52aとなっており、下端は半円弧状をなしている。スリット52の幅は、上記ボルト70の胴部72bを受け入れ可能な大きさに形成されている。
【0024】
図2に示すように、ボルト固定部51において、スリット52の車室側の開口縁は、車室側に突出しており、座面支持部53をなしている。
図3に示すように、車長方向に互いに対向する、スリット52の側壁52b,52bには、それぞれ、上下方向の中途部に車長方向になだらかに張り出した膨出部52c,52cが設けられている。これら膨出部52c,52cの間は、スリット52において、幅の狭くなった狭隘部52dとなっている。狭隘部52dはボルト70の胴部72bの径より狭く形成されている。
【0025】
図2、
図3に示すように、ボルト固定部51の車室側の面には、一対の係合凸部54,54が設けられている。係合凸部54,54は、それぞれスリット52の車室側の両側縁から車長方向の前方及び後方に離れた位置に設けられている。各係合凸部54は、スリット52に沿って上下方向に延びて、スリット52の開放端52aより上方に延びるとともに、スリット52の下端とほぼ同じ位置まで達している。
【0026】
各係合凸部54は、
図5に示すように断面L字形をなしており、上記ボルト固定部51の車室側の面から車室に向かって突出する起立部54aと、この起立部54aの車室側の先端部からボルト固定部51の車長方向の中央方向に向かって突き出る対向部54bとを有している。各対向部54bは、起立部54aの車長方向外側とスリット52との間の領域である側縁近傍部51aと対向している。対向部54bと側縁近傍部51aとの間に係合溝54cが形成されている。2つの係合溝54c,54cは、車長方向に互いに対向しており、それぞれボルト70のフランジ部72aを受け入れ可能に形成されている。
【0027】
図2、
図3に示すように、各係合凸部54には、上下方向の中間部と下部に補強リブ55,56が設けられている。補強リブ55,56は、それぞれ、対向部54bと起立部54aの外側と、ボトル固定部51とを連ねている。補強リブ55は、スリット52側に傾斜面55aを有している。補強リブ56は、スリット52側に傾斜面56aを有している。
傾斜面55a,56aは、車長方向においてスリット52に向かうにしたがって、車幅方向の車外側に向かうように傾斜している。
【0028】
上記構成の後側脚部50における、ボルト70の仮保持と、ボルト70によるピラーパネル2への固定について説明する。
図4に示すように、後側脚部50では、ピラートリム1のピラーパネル2への装着作業を円滑かつ容易に行うことができるように、ボルト70を予めボルト固定部51に仮保持させておくことができる。
【0029】
ボルト70を仮保持させるために、ボルト70は、後側脚部50の上脚部50Aの裏側(車幅方向の車外側)からその下端面50xの開口50yを介して(
図5参照)、ボルト固定部51に組み付けられる。このとき、
図4の想像線で示すように、スリット52にはその開放端52aからボルト70の胴部72bが受け入れられる。また、一対の係合凸部54の係合溝54cには、ボルト70のフランジ部72aが受け入れられる。
【0030】
図4に示すように、ボルト70をスリット52の奥部に向かって移動させると、ボルト70の胴部72bが膨出部52cを滑りながら奥部に近づく。このとき、ボルト固定部51が弾性変形してスリット52が広げられる。ボルトの胴部72bが、膨出部52c,52cの間の狭隘部52dを通過したときに、ボルト固定部51は弾性復帰し、ボルト固定部51へのボルト70の組み付けが完了する。狭隘部52dの幅及びボルト固定部51の弾性は、作業者がボルト70を指で組み付けられる程度に設定されている。ボルト固定部51にボルト70が組み付けられた状態(
図5参照)において、ボルト70の頭部71は、一対の係合凸部54,54の対向部54b,54bの間に間隙g,gを介して配置されている。
【0031】
図4に示すように、ボルト70の胴部72bがスリット52の奥部に達した状態で、ボルト70はボルト固定部51に仮保持される。従来技術とは異なり、抜け止めワッシャは不要である。
【0032】
後側脚部50におけるボルト70によるピラーパネル2への固定は、ボルト固定部51でなされている。
図1、
図2、
図5に示すように、ボルト70の胴部72bが、スリット52の狭隘部52d(
図3参照)よりもスリット52の奥側にあり、かつフランジ部72aの、胴部72b側にある座面が座面支持部53に当接して、ボルト70が支持された状態で、ボルト70のねじ部72cがピラーパネル2の螺合部2aにねじ込まれている。これにより、ボルト固定部51がピラーパネル2に固定され、ひいては後側脚部50がピラーパネル2に固定されている。
【0033】
図2~
図3に示すように、ボルト固定部51におけるスリット52の側縁近傍部51a,51aであって、上記座面支持部53の車室側の面には、スリット52の開放端52aの位置に一対の隆起部57,57が設けられている。各隆起部57は、座面支持部53よりも車室側に突出している。各隆起部57の突出高さは、ボルト70をボルト固定部51に組み付ける際に、係合溝54cに係合されるフランジ部72aと干渉しない高さに設定されている。
図2に示すように、隆起部57の下縁57aは、ピラーパネル2にねじ込まれたボルト70のフランジ部72aの外周縁から僅かに離間している。下縁57aは、フランジ部72aの外周形状に近似させた傾斜をなしている。
【0034】
例えば、上記ジャンプ台20の上方にあるカーテンエアバッグ(図示せず)が展開する等、ピラートリム1に下方への強い衝撃が加わった場合には、ピラートリム1が下方に押し下げられる。このとき、上記隆起部57の下縁57aがボルト70のフランジ部72aの外周縁に当たり、抵抗となる。これにより、ボルト70がスリット52から抜け出て、ピラートリム1がピラーパネル2から脱落するのを防止できる。
【0035】
次に、上記ピラートリム1のピラーパネル2への装着作業について説明する。
通常は、装着作業が行われる組立工場へのピラートリム1の搬送前に、上述した方法によりピラートリム1にボルト70を仮保持させる。
組立工場では、先ずピラートリム1の上部を上述した固定手段(図示せず)により、ピラーパネル2に固定する。次に、ピラートリム1の下端部10Aを、前側脚部40、後側脚部50の順にピラーパネル2に固定する。
【0036】
前側脚部40をクリップ60によりピラーパネル2に固定するために、クリップ座41に取り付けられたクリップ60をピラーパネル2のクリップ係止孔(図示せず)に嵌め込む。このとき、前側脚部40におけるクリップ座41の形成箇所が車室側からピラーパネル2に向かって叩き込まれる。
【0037】
前側脚部40のクリップ座41の形成箇所への叩き込みにより生じる衝撃力は、クリップ座41から正面壁11を経て、車長方向後方の後側脚部50に至り、ボルト固定部51に伝わる。このとき、ボルト固定部51に仮保持されたボルト70が上方に移動したとしてもスリット52の狭隘部52dがボルト70の胴部72bを係止するので、ボルト70がスリット52の開放端52aから抜け出ることを防止することができる。また、ボルト70のフランジ部72aが係合凸部54の係合溝54cと係合しているので、ボルト70がその軸方向に抜け出ることを防止することができる。
【0038】
クリップ60による前側脚部40の固定作業が終了した後、ピラートリム1の後側脚部50を、ボルト70を用いてピラーパネル2に固定する。ピラートリム1の上部と前側脚部40とがピラーパネル2に固定された状態では、
図6に示すように、ピラートリム1にねじれ変形が生じることにより、後側脚部50とピラーパネル2との間にわずかに隙間Gが生じている。
ボルト固定部51に仮保持されたボルト70を、
図4に示すスリット52の奥部から上方の
図2に示すボルト70の固定位置まで移動させる。このとき、ボルト50のねじ部72cは、後側脚部50とピラーパネル2との隙間G(
図6)を通る。
【0039】
図6に示すように、上記ボルト70の固定位置において、ボルト70をピラーパネル2に向かって押しつつ、ピラーパネル2の螺合部2aにねじ込む。このとき、ボルト70の頭部71と係合凸部54の対向部54bとの間には間隙gが形成されているので、間隙gにボルト締め付け用工具3の先端を挿入させて頭部71に嵌め、工具3を用いてボルト70をねじ込むことができる。また、補強リブ55の傾斜面55aは、スリット52に向かって傾斜しているため、工具3の先端がボルト70の頭部71に向けて案内されることになり、工具3は頭部71に嵌りやすくなっている。ボルト70をピラーパネル2の螺合部2aにねじ込むことにより、後側脚部50のボルト固定部51はピラーパネル2に固定され、ひいては、ピラートリム1がピラーパネル2に装着される。
【0040】
ピラートリム1をピラーパネル2に装着した後、上述した方法により、ピラートリム1の下端部10Aに、図示しないピラートリムロア部材30の上端部が車室側から重ねられて連結される。これにより、ピラートリム1の下端部10Aに配置されたクリップ座41及びボルト固定部51は、ピラートリムロア部材30によって車室と遮蔽され、車室内からは目視されない。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において各種の変形例を採用することができる。
一対の係合凸部54,54は、少なくとも、スリット52の奥部におけるスリットの両側縁近傍部51a,51aに配置する必要がある。
上記実施形態では、座面支持部53において、隆起部57をスリット52の開放端52aの位置に設けたが、スリット52の延び方向の中途部に設けてもよい。
ボルトは、上記実施形態に限られず、係合凸部54の係合溝54cに係合する大径部と、スリット52に受け入れられる軸部を有していればよい。
前側脚部にボルト固定部を設け、後側脚部にクリップ座を設けてもよい。
ボルト固定部をピラートリムにおける下端部以外の端部に設けてもよい。
車両内装材は、ピラートリムに限られず、ルーフサイドトリム、ドアトリム、インストルメントパネル等の種々の車両内装材であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、車両内装材を車体パネルに装着する構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 ピラートリム(車両内装材)
2 ピラーパネル(車体パネル)
10A ピラートリム本体の下端部
51 ボルト固定部
51a 側縁近傍部
52 スリット
52a 開放端
52d 狭隘部
54 係合凸部
54a 起立部
54b 対向部
54c 係合溝
57 隆起部
70 ボルト
71 頭部
72 ボルトの軸部
72a フランジ部(ボルトの大径部)
g 間隙