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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】混練方法および混練物
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/465 20190101AFI20220623BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20220623BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20220623BHJP
   B29B 7/42 20060101ALI20220623BHJP
   B29C 48/395 20190101ALI20220623BHJP
【FI】
B29C48/465
C08J3/20 Z CES
B29B7/48
B29B7/42
B29C48/395
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018109050
(22)【出願日】2018-06-06
(65)【公開番号】P2019181913
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2018074785
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】長田 華穂
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-227052(JP,A)
【文献】特開平10-272624(JP,A)
【文献】特開平11-310667(JP,A)
【文献】特開2007-276321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/465
C08J 3/20
B29B 7/48
B29B 7/42
B29C 48/395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機のスクリュによって、原料を混練しつつ搬送し、生成された混練物を連続的に吐出する混練方法であって、
前記スクリュは、
前記原料の搬送方向に沿った直線状の軸線を中心に回転するスクリュ本体と、
前記スクリュ本体の軸方向に沿って設けられ、前記スクリュ本体の回転に伴って、前記原料を前記スクリュ本体の周方向に亘る外周面に沿って軸方向に搬送する搬送部と、
前記スクリュ本体に設けられ、前記搬送部と隣り合った位置で前記原料の軸方向の搬送を制限する障壁部と、
前記スクリュ本体の内部に前記障壁部を跨ぐように設けられ、前記スクリュ本体の外周面に開口された入口と出口とを連通する通路と、
を有し、
前記原料を、搬送路に沿って搬送する搬送路搬送工程と、
前記原料が、前記障壁部によって前記搬送部による搬送を制限されることで圧力が高められ、
圧力が高められた前記原料を、前記搬送部に位置する前記入口から、前記通路に流入させ、
前記通路に流入した原料を、前記出口に向かって、前記搬送部による搬送方向と同方向に流通させ、
前記通路を流通した原料を、前記出口より前記スクリュ本体の外周に流出させる通路流通工程と、
を含み、
前記スクリュの周速度が、0.5m/s以上3.0m/s以下であり、
前記原料が、ポリプロピレンとオレフィンゴムとを含有するポリプロピレン系樹脂組成物であり、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物は、
ポリプロピレンを25質量%以上90質量%以下、オレフィンゴムを0.1質量%以上40質量%以下、タルクを5質量%以上55質量%以下含む、熱可塑性樹脂であって、
ポリプロピレンの分散度が21%以上となり、シャルピー衝撃強度が18.5kj/m 以上となるように混練する、
混練方法。
【請求項2】
複数の前記搬送部と前記障壁部とが前記スクリュ本体の軸方向に交互に並べて配置され、前記原料が、前記混練物として吐出するまでに、前記搬送路搬送工程と前記通路流通工程とが複数回繰り返される、
請求項1に記載の混練方法。
【請求項3】
前記通路の内径が、1mm以上8mm以下である、
請求項1または請求項2に記載の混練方法。
【請求項4】
請求項1~請求項の何れか1項に記載の混練方法によって混練された、ポリプロピレン系樹脂組成物を含む混練物であって、
ポリプロピレンからなる第1相と、オレフィンゴムを含む第2相と、が相互に連結した相互連結構造を示す、混練物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、混練方法および混練物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、機械的性質が優れていることから、各種工業分野で広く用いられている。例えば、高い剛性や衝撃強度が求められる自動車外装部材等には、エチレン・プロピレン・ジエンゴムやタルク等を含有するポリプロピレン樹脂が使われている。
【0003】
樹脂や添加剤などを混練することで樹脂組成物を作製する技術として、予備混練された溶融原料を連続して混練することで、樹脂組成物を作製する技術が開示されている(特許文献1)。特許文献1には、原料を混練しながら搬送するスクリュが、原料の搬送方向に沿った軸線を中心に回転するスクリュ本体と、スクリュ本体の外周面とシリンダの内周面との間に形成された搬送路の原料を搬送方向に搬送するための搬送部と、搬送部による原料の搬送方向への搬送を制限する障壁部と、スクリュ本体の内部に設けられスクリュ本体の外周面に開口された入口から流入した原料が出口へ向かって流通する通路と、を備えた構成が開示されている。また、通路は、スクリュ本体の内部に障壁部を跨いで設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-227052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記樹脂を原料として用い、上記特許文献1の図5図11に示されるスクリュを用いて混練すると、原料が流通する通路が大幅に長くなり、流動抵抗が大きくなって、原料に対する伸長作用が十分に働かず、機械的物性の高い混練物を作製することは困難であった。
【0006】
また、上記樹脂を原料として用い、上記特許文献1の図19図27に示されるスクリュを用いて混練すると、障壁部を越えた際にかかるせん断作用により、原料の劣化が促進され、機械的物性の高い混練物を作製することが困難であった。
【0007】
従って、従来のスクリュを用いた混練方法では、樹脂組成物の混練物の機械的物性向上を図る事は困難であった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、機械的物性の高い混練物を提供することができる、混練方法および混練物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の混練方法は、押出機のスクリュによって、原料を混練しつつ搬送し、生成された混練物を連続的に吐出する混練方法であって、前記スクリュは、前記原料の搬送方向に沿った直線状の軸線を中心に回転するスクリュ本体と、前記スクリュ本体の軸方向に沿って設けられ、前記スクリュ本体の回転に伴って、前記原料を前記スクリュ本体の周方向に亘る外周面に沿って軸方向に搬送する搬送部と、前記スクリュ本体に設けられ、前記搬送部と隣り合った位置で前記原料の軸方向の搬送を制限する障壁部と、前記スクリュ本体の内部に前記障壁部を跨ぐように設けられ、前記スクリュ本体の外周面に開口された入口と出口とを連通する通路と、を有し、前記原料を、搬送路に沿って搬送する搬送路搬送工程と、前記原料が、前記障壁部によって前記搬送部による搬送を制限されることで圧力が高められ、圧力が高められた前記原料を、前記搬送部に位置する前記入口から、前記通路に流入させ、前記通路に流入した原料を、前記出口に向かって、前記搬送部による搬送方向と同方向に流通させ、前記通路を流通した原料を、前記出口より前記スクリュ本体の外周に流出させる通路流通工程と、を含み、前記スクリュの周速度が、0.5m/s以上3.0m/s以下であり、前記原料が、ポリプロピレンとオレフィンゴムとを含有するポリプロピレン系樹脂組成物であり、前記ポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレンを25質量%以上90質量%以下、オレフィンゴムを0.1質量%以上40質量%以下、タルクを5質量%以上55質量%以下含む、熱可塑性樹脂であって、ポリプロピレンの分散度が21%以上となり、シャルピー衝撃強度が18.5kj/m 以上となるように混練する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態の混練方法を実現するための、高せん断加工装置(混練装置)を示す模式図である。
図2図2は、第1の押出機の断面図である。
図3図3は、第1の押出機の二本のスクリュが互いに噛み合った状態を示す斜視図である。
図4図4は、第3の押出機の断面図である。
図5図5は、第2の押出機の断面図である。
図6図6は、バレルおよびスクリュを共に断面で示す第2の押出機の断面図である。
図7図7は、図6のF7-F7線に沿う断面図である。
図8図8は、筒体の斜視図である。
図9図9は、スクリュに対する原料の流動方向を示す側面図である。
図10図10は、スクリュが回転した時の原料の流動方向を示す第2の押出機の断面図である。
図11図11は、評価結果を示す図である。
図12図12は、実施例1で作製した混練物の画像である。
図13図13は、材料の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、本実施形態の混練方法を詳細に説明する。
【0012】
まず、本実施形態の混練方法を実現するための混練装置について説明する。図1は、本実施形態の混練方法を実現するための、高せん断加工装置1000の一例を示す模式図である。
【0013】
高せん断加工装置1000は、第1の押出機(処理機)2、第2の押出機3、および第3の押出機(脱泡機)4を備える。第1の押出機2、第2の押出機3、および第3の押出機4は、互いに直列に接続されている。
【0014】
第1の押出機2は、例えば二種類の非相溶性の樹脂などの材料を予備的に混練し、溶融するための処理機である。二種類の樹脂は、例えば、ポリプロピレン(PP)とオレフィンゴムである。オレフィンゴムは、具体的には、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)である。なお、第1の押出機に投入する材料は、更に、他の材料を含んでいてもよい。例えば、タルク(含水珪酸マグネシウム(MgSi10(OH)))、水珪酸マグネシウム(MgSi10(OH)))等を含んでいてもよい。
【0015】
なお、第1の押出機2には、各材料を供給してもよいし、少なくとも2つの材料を含むペレットの形態で材料を供給してもよい。
【0016】
本実施形態では、供給された材料の混練・溶融の度合いを強化するため、第1の押出機2として同方向回転型の二軸押出機を用いる。
【0017】
図2および図3は、二軸押出機の一例を示す模式図である。二軸押出機は、バレル6と、バレル6の内部に収容された二本のスクリュ7a,7bと、を備える。バレル6は、二つの円筒を組み合わせた形状を有するシリンダ部8を含む。供給された上記材料は、バレル6の一端部に設けた供給口9からシリンダ部8に連続的に供給される。さらに、バレル6は、供給された上記材料に含まれる樹脂を溶融するためのヒータを内蔵している。
【0018】
スクリュ7a,7bは、互いに噛み合った状態でシリンダ部8に収容されている。スクリュ7a,7bは、図示しないモータから伝わるトルクを受けて互いに同方向に回転される。図3に示すように、スクリュ7a,7bは、それぞれ、フィード部11、混練部12およびポンピング部13を備える。フィード部11、混練部12およびポンピング部13は、スクリュ7a,7bの軸方向に沿って一列に並んでいる。
【0019】
フィード部11は、螺旋状に捩じれたフライト14を有している。スクリュ7a,7bのフライト14は、互いに噛み合った状態で回転するとともに、供給口9から供給された材料を混練部12に向けて搬送する。
【0020】
混練部12は、スクリュ7a,7bの軸方向に並んだ複数のディスク15を有する。スクリュ7a,7bのディスク15は、互いに向かい合った状態で回転するとともに、フィード部11から送られた原料を予備的に混練する。混練された原料は、スクリュ7a,7bの回転によりポンピング部13に送り込まれる。
【0021】
ポンピング部13は、螺旋状に捩じれたフライト16を有している。スクリュ7a,7bのフライト16は、互いに噛み合った状態で回転するとともに、予備的に混練された原料をバレル6の吐出端から押し出す。
【0022】
このような二軸押出機によると、スクリュ7a,7bのフィード部11に供給された材料は、スクリュ7a,7bの回転に伴うせん断発熱およびヒータの熱を受けて溶融する。二軸押出機での予備的な混練により溶融された樹脂を含む材料は、ブレンドされた原料を構成する。原料は、図1に矢印Aで示すように、バレル6の吐出端から第2の押出機3に連続的に供給される。
【0023】
本実施の形態では、第2の押出機3に供給される原料は、溶融されて、予備的に混練されたポリプロピレン系樹脂組成物である。
【0024】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレンとオレフィンゴムとを含有する。例えば、ポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン(PP)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)と、を主成分とする熱可塑性樹脂である。言い換えると、ポリプロピレン系樹脂組成物は、EPDMを連続相とし、該連続相中にPPの分散された組成物である。具体的には、ポリプロピレン系樹脂組成物は、PPを25質量%以上90質量%以下、エチレン・プロピレン・ジエンゴムを0.1質量%以上40質量%以下、タルク(含水珪酸マグネシウム(MgSi10(OH)))を5質量%以上55質量%以下含む、熱可塑性樹脂である。
【0025】
このため、第1の押出機2に供給される材料は、上記ポリプロピレン系樹脂組成物である上記原料の構成材料であればよい。
【0026】
なお、第1の押出機2を二軸押出機として構成することで、該第1の押出機2に供給された材料に含まれる樹脂を溶融させるだけでなく、当該樹脂にせん断作用を付与することができる。このため、第1の押出機2によって混練されて第2の押出機3に供給される原料は、第2の押出機3に供給される時点で、第1の押出機2での予備的な混練により溶融されて最適な粘度に保たれる。また、第1の押出機2を二軸押出機として構成することで、第2の押出機3に連続して原料を供給する際、単位時間当たりに、所定量の原料を安定して供給することができる。したがって、原料を本格的に混練する第2の押出機3の負担を軽減することができる。
【0027】
第2の押出機3は、原料の高分子成分がナノ分散化された微視的な分散構造を有する混練物を生成するための要素である。本実施形態では、第2の押出機3として単軸押出機を用いている。
【0028】
単軸押出機は、バレル20と、一本のスクリュ21と、を備える。スクリュ21は、溶融された原料にせん断作用および伸長作用を繰り返し付与する機能を有している。スクリュ21を含む第2の押出機3の構成に関しては、後で詳細に説明する。
【0029】
第3の押出機4は、第2の押出機3から吐出された混練物に含まれるガス成分を吸引・除去するための要素である。本実施形態では、第3の押出機4として単軸押出機を用いている。図4に示すように、単軸押出機は、バレル22と、バレル22に収容された一本のベントスクリュ23と、を備える。バレル22は、真っ直ぐな円筒状のシリンダ部24を含む。第2の押出機3から押し出された混練物は、シリンダ部24の軸方向に沿う一端部からシリンダ部24に連続的に供給される。
【0030】
バレル22は、ベント口25を有している。ベント口25は、シリンダ部24の軸方向に沿う中間部に開口されているとともに、真空ポンプ26に接続されている。さらに、バレル22のシリンダ部24の他端部は、ヘッド部27で閉塞されている。ヘッド部27は、混練物を吐出させる吐出口28を有する。
【0031】
ベントスクリュ23は、シリンダ部24に収容されている。ベントスクリュ23は、図示しないモータから伝わるトルクを受けて一方向に回転される。ベントスクリュ23は、螺旋状に捩じれたフライト29を有する。フライト29は、ベントスクリュ23と一体的に回転するとともに、シリンダ部24に供給された混練物をヘッド部27に向けて連続的に搬送する。混練物は、ベント口25に対応する位置に搬送された時に、真空ポンプ26のバキューム圧を受ける。すなわち、真空ポンプによってシリンダ部24内を負圧に引くことで、混練物に含まれるガス状物質やその他の揮発成分が混練物から連続的に吸引・除去される。ガス状物質やその他の揮発成分が取り除かれた混練物は、ヘッド部27の吐出口28から連続的に吐出される。
【0032】
次に、第2の押出機3について詳細に説明する。
【0033】
図5および図6に示すように、第2の押出機3のバレル20は、真っ直ぐな筒状であって、水平に配置されている。バレル20は、複数のバレルエレメント31に分割されている。
【0034】
各バレルエレメント31は、円筒状の貫通孔32を有している。バレルエレメント31は、それぞれの貫通孔32が同軸状に連続するように、ボルト締結により一体的に結合されている。バレルエレメント31の貫通孔32は、互いに協働してバレル20の内部に円筒状のシリンダ部33を規定している。シリンダ部33は、バレル20の軸方向に延びている。
【0035】
バレル20の軸方向に沿う一端部には、供給口34が形成されている。供給口34は、シリンダ部33に連通するとともに、当該供給口34に第1の押出機2でブレンドされた原料が連続的に供給される。
【0036】
バレル20は、図示しないヒータを備えている。ヒータは、バレル20の温度が原料の混練に最適な値となるようにバレル20の温度を調整する。さらに、バレル20は、例えば水あるいは油のような冷媒が流れる冷媒通路35を備えている。冷媒通路35は、シリンダ部33を取り囲むように配置されている。冷媒は、バレル20の温度が予め決められた上限値を超えた時に冷媒通路35に沿って流れ、バレル20を強制的に冷却する。
【0037】
バレル20の軸方向に沿う他端部は、ヘッド部36で閉塞されている。ヘッド部36は、吐出口36aを有している。吐出口36aは、供給口34に対しバレル20の軸方向に沿う反対側に位置されるとともに、第3の押出機4に接続されている。
【0038】
図5および図6に示すように、スクリュ21は、スクリュ本体37を備える。本実施形態のスクリュ本体37は、一本の回転軸38と、複数の円筒状の筒体39と、で構成されている。
【0039】
回転軸38は、第1の軸部40および第2の軸部41を備える。第1の軸部40は、バレル20の一端部の側である回転軸38の基端に位置されている。第1の軸部40は、継手部42およびストッパ部43を含んでいる。継手部42は、図示しないカップリングを介してモータのような駆動源に連結される。ストッパ部43は、継手部42に同軸状に設けられている。ストッパ部43は、継手部42よりも径が大きい。
【0040】
第2の軸部41は、第1の軸部40のストッパ部43の端面から同軸状に延びている。第2の軸部41は、バレル20の略全長に亘る長さを有するとともに、ヘッド部36と向かい合う先端を有している。第1の軸部40および第2の軸部41を同軸状に貫通する真っ直ぐな軸線O1は、回転軸38の軸方向に水平に延びている。
【0041】
第2の軸部41は、ストッパ部43よりも径が小さいソリッドな円柱状である。図7に示すように、第2の軸部41の外周面に一対のキー45a,45bが取り付けられている。キー45a,45bは、第2の軸部41の周方向に180°ずれた位置で第2の軸部41の軸方向に延びている。
【0042】
図6および図7に示すように、各筒体39は、第2の軸部41が同軸状に貫通するように構成されている。筒体39の内周面に一対のキー溝49a,49bが形成されている。キー溝49a,49bは、筒体39の周方向に180°ずれた位置で筒体39の軸方向に延びている。
【0043】
筒体39は、キー溝49a,49bを第2の軸部41のキー45a,45bに合わせた状態で第2の軸部41の先端の方向から第2の軸部41の上に挿入される。本実施形態では、第2の軸部41の上に最初に挿入された筒体39と第1の軸部40のストッパ部43の端面との間に第1のカラー44が介在されている。さらに、全ての筒体39を第2の軸部41の上に挿入した後、第2の軸部41の先端面に第2のカラー51を介して固定ねじ52がねじ込まれている。
【0044】
このねじ込みにより、全ての筒体39が、第1のカラー44と第2のカラー51との間で第2の軸部41の軸方向に締め付けられ、隣り合う筒体39の端面が隙間なく密着されている。
【0045】
このとき、全ての筒体39が第2の軸部41上で同軸状に結合されているとともに、当該各筒体39と回転軸38とが一体的に組み立てられた状態となる。これにより、各筒体39を回転軸38とともに軸線O1を中心に回転させること、すなわち、スクリュ本体37を、軸線O1を中心に回転させることが可能となる。
【0046】
かかる状態において、各筒体39は、スクリュ本体37の外径D1(図7参照)を規定する構成要素となる。すなわち、第2の軸部41に沿って同軸状に結合された各筒体39は、その外径D1が互いに同一に設定されている。スクリュ本体37(各筒体39)の外径D1は、回転軸38の回転中心である軸線O1を通って規定される直径である。
【0047】
これにより、スクリュ本体37(各筒体39)の外径D1が一定値であるセグメント式のスクリュ21が構成される。セグメント式のスクリュ21は、回転軸38(すなわち、第2の軸部41)に沿って、複数のスクリュエレメントを、自由な順番および組み合わせで保持させることができる。スクリュエレメントとしては、例えば、少なくとも後述するフライト84,86の一部が形成された筒体39を、1つのスクリュエレメントとして規定することができる。
【0048】
このように、スクリュ21をセグメント化することで、例えば、当該スクリュ21の仕様の変更や調整、あるいは、保守やメンテナンスについて、その利便性を格段に向上させることができる。
【0049】
さらに、セグメント式のスクリュ21は、バレル20のシリンダ部33に同軸状に収容されている。具体的には、複数のスクリュエレメントが回転軸38(第2の軸部41)に沿って保持されたスクリュ本体37が、シリンダ部33に回転可能に収容されている。この状態において、回転軸38の第1の軸部40(継手部42、ストッパ部43)は、バレル20の一端部からバレル20の外に突出されている。
【0050】
さらに、この状態において、スクリュ本体37の周方向に沿う外周面と、シリンダ部33の内周面との間には、原料を搬送するための搬送路53が形成されている。搬送路53は、シリンダ部33の径方向に沿う断面形状が円環形であり、シリンダ部33の軸方向に延びている。
【0051】
図5図8に示すように、スクリュ本体37は、原料を搬送するための複数の搬送部81と、原料の流動を制限するための複数の障壁部82と、を有する。すなわち、バレル20の一端部に対応するスクリュ本体37の基端に複数の搬送部81が配置され、バレル20の他端部に対応するスクリュ本体37の先端に複数の搬送部81が配置されている。さらに、これら搬送部81の間において、スクリュ本体37の基端から先端に向かって、搬送部81と障壁部82とが軸方向に交互に並べて配置されている。
【0052】
なお、バレル20の供給口34は、スクリュ本体37の基端の側に配置された搬送部81に向けて開口している。
【0053】
各搬送部81は、螺旋状に捩じれたフライト84を有している。フライト84は、筒体39の周方向に沿う外周面から搬送路53に向けて張り出している。フライト84は、スクリュ本体37の基端から見てスクリュ21が逆時計回りに左回転した時に、当該スクリュ本体37の基端から先端に向けて原料を搬送するように捩じれている。すなわち、フライト84は、当該フライト84の捩じれ方向が右ねじと同じように右に捩じれている。
【0054】
各障壁部82は、螺旋状に捩じれたフライト86を有している。フライト86は、筒体39の周方向に沿う外周面から搬送路53に向けて張り出している。フライト86は、スクリュ本体37の基端から見てスクリュ21が逆時計回りに左回転した時に、スクリュ本体37の先端から基端に向けて原料を搬送するように捩じれている。すなわち、フライト86は、当該フライト86の捩じれ方向が左ねじと同じように左に捩じれている。
【0055】
各障壁部82のフライト86の捩じれピッチは、搬送部81のフライト84の捩じれピッチと同じか、それより小さく設定されている。さらに、フライト84,86の頂部とバレル20のシリンダ部33の内周面との間には、僅かなクリアランスが確保されている。この場合、障壁部82の外径部(フライト86の頂部)と、シリンダ部33の内周面との間のクリアランスは、0.1mm以上かつ2mm以下の範囲に設定することが好ましい。さらに好ましくは、当該クリアランスを、0.1mm以上かつ0.7mm以下の範囲に設定する。これにより、原料が当該クリアランスを通過して搬送されるのを確実に制限することができる。
【0056】
ここで、スクリュ本体37の軸方向に沿う搬送部81の長さは、原料の種類、原料の混練度合い、単位時間当たりの混練物の生産量などに応じて適宜設定される。搬送部81とは、少なくとも筒体39の外周面にフライト84が形成された領域のことであるが、フライト84の始点と終点との間の領域に特定されるものではない。
【0057】
すなわち、筒体39の外周面のうちフライト84から外れた領域も搬送部81とみなされることがある。例えば、フライト84を有する筒体39と隣り合う位置に円筒状のスペーサあるいは円筒状のカラーが配置された場合、当該スペーサやカラーも搬送部81に含まれることがあり得る。
【0058】
さらに、スクリュ本体37の軸方向に沿う障壁部82の長さは、例えば、原料の種類、原料の混練度合い、単位時間当たりの混練物の生産量等に応じて適宜設定される。障壁部82は、搬送部81により送られる原料流動を堰き止めるように機能する。すなわち、障壁部82は、原料の搬送方向の下流側で搬送部81と隣り合うとともに、搬送部81によって送られる原料がフライト86の頂部とシリンダ部33の内周面との間のクリアランスを通過するのを妨げるように構成されている。
【0059】
さらに、上記したスクリュ21において、各フライト84,86は、互いに同一の外径D1(図7参照)を有する複数の筒体39の外周面から搬送路53に向けて張り出している。このため、各筒体39の周方向に沿う外周面は、当該スクリュ21の谷径を規定する。スクリュ21の谷径は、スクリュ21の全長に亘って一定値に保たれている。
【0060】
図5図6、および図9に示すように、スクリュ本体37は、スクリュ本体37の軸方向に延びる複数の通路88を有している。言い換えると、スクリュ本体37の内部には、軸方向に沿った原料の搬送方向(図9中、矢印X方向参照)に沿って、複数の通路88が所定間隔を隔てて直列に配置されている。
【0061】
本実施形態では、通路88は、一つの障壁部82と、当該障壁部82を挟んだ二つの搬送部81と、を一つのユニットとした時に、双方の搬送部81の筒体39と障壁部82の筒体39との間に跨って形成されている。この場合、通路88は、スクリュ本体37の軸方向に沿った同一の直線上において、所定の間隔(例えば、等間隔)で一列に整列されている。
【0062】
さらに、通路88は、筒体39の内部において、回転軸38の軸線O1から偏心した位置に設けられている。言い換えると、通路88は、軸線O1から外れており、スクリュ本体37が回転した時に、軸線O1の回りを公転するようになっている。
【0063】
図7に示すように、通路88は、例えば円形の断面形状を有する孔である。当該通路88の内径は、例えば、1mm以上かつ8mm未満、好ましくは1mm以上かつ5mm未満、更に好ましくは、3mmである。
【0064】
搬送部81および障壁部82の筒体39は、孔を規定する筒状の壁面89を有している。すなわち、通路88は、中空の空間のみから成る孔であって、壁面89は、中空の通路88を周方向に連続して取り囲んでいる。これにより、通路88は、原料の流通のみを許容する中空の空間として構成されている。換言すると、通路88の内部には、スクリュ本体37を構成する他の要素は一切存在しない。さらに、壁面89は、スクリュ本体37が回転した時に、軸線O1を中心に自転することなく軸線O1の回りを公転する。
【0065】
図5図6図9、および図10に示すように、各通路88は、入口91、出口92、入口91と出口92との間を連通する通路本体93を有している。入口91および出口92は、一つの障壁部82の両側に接近して設けられている。言い換えると、入口91と出口92とを連通する通路本体93は、スクリュ本体37の内部において、障壁部82を跨いで配置されている。別の捉え方をすると、隣り合う二つの障壁部82の間に隣接した一つの搬送部81において、入口91は、当該搬送部81の下流端の付近の外周面に開口されているとともに、出口92は、当該搬送部81の上流端の付近の外周面に開口されている。
【0066】
通路本体93は、スクリュ本体37の軸方向に沿って、途中で分岐することなく、一直線状に延びている。一例として図面には、通路本体93が軸線O1と平行に延びている状態が示されている。通路本体93の両側は、軸方向に閉塞されている。
【0067】
そして、1つの通路88の出口92は、原料の搬送方向(矢印X方向参照)の下流側に隣接する他の通路88の入口91より上流側に配置されている。
【0068】
詳細には、入口91は、通路本体93の一方側、すなわち、スクリュ本体37の基端寄りの部分に設けられている。この場合、入口91は、通路本体93の一方側の端面からスクリュ本体37の外周面に開口させるようにしてもよいし、あるいは、通路本体93の一方側の端面寄りの部分、すなわち端面の手前の部分からスクリュ本体37の外周面に開口させるようにしてもよい。なお、入口91の開口方向は、軸線O1に直交する方向に限らず、軸線O1を交差する方向でもよい。この場合、通路本体93の一方側から複数方向に開口し、これにより、複数の入口91を設けるようにしてもよい。
【0069】
出口92は、通路本体93の他方側(一方側とは反対側)、すなわち、スクリュ本体37の先端寄りの部分に設けられている。この場合、出口92は、通路本体93の他方側の端面からスクリュ本体37の外周面に開口させるようにしてもよいし、あるいは、通路本体93の他方側の端面寄りの部分、すなわち端面の手前の部分からスクリュ本体37の外周面に開口させるようにしてもよい。なお、出口92の開口方向は、軸線O1に直交する方向に限らず、軸線O1を交差する方向でもよい。この場合、通路本体93の一方側から複数方向に開口し、これにより、複数の出口92を設けるようにしてもよい。
【0070】
これら入口91と出口92との間を結ぶ通路本体93は、前記一つのユニット毎に障壁部82を横切るとともに、当該障壁部82を挟んだ二つの搬送部81の間に跨る長さを有している。この場合、通路本体93の口径は、入口91および出口92の口径よりも小さく設定してもよいし、同一の口径に設定してもよい。いずれの場合でも、当該通路本体93の口径によって規定される通路断面積は、上記した円環形の搬送路53の径方向に沿う円環断面積よりも遥かに小さく設定されている。
【0071】
本実施形態において、フライト84,86が形成された複数の筒体39を回転軸38から取り外してスクリュ21を分解した際に、少なくともフライト84,86の一部が形成された筒体39は、スクリュエレメントと言い換えることができる。
【0072】
そうすると、スクリュ21のスクリュ本体37は、回転軸38の外周上にスクリュエレメントとしての複数の筒体39を順次配置することで構成することができる。このため、例えば原料の混練度合いに応じて搬送部81および障壁部82の交換や組み換えが可能であるとともに、交換・組み換え時の作業を容易に行なうことが可能となる。
【0073】
さらに、複数の筒体39を第2の軸部41の軸方向に締め付けて隣り合う筒体39の端面を互いに密着させることで、通路88の通路本体93が形成され、当該通路本体93を介して通路88の入口91から出口92までが一体的に連通される。このため、スクリュ本体37に通路88を形成するに当たっては、スクリュ本体37の全長に比べて長さが大幅に短い個々の筒体39に加工を施せばよい。よって、通路88を形成する際の作業性および取扱いが容易となる。
【0074】
このような構成の高せん断加工装置1000によると、第1の押出機2は、複数の樹脂を予備的に混練する。この混練により溶融された樹脂は、流動性を有する原料となって、第1の押出機2から第2の押出機3へ連続的に供給される。
【0075】
第2の押出機3に供給された原料は、図9に矢印Cで示すように、スクリュ本体37の基端の側に位置された搬送部81の外周面に投入される。このとき、スクリュ本体37の基端から見てスクリュ21が逆時計回りに左回転すると、搬送部81のフライト84は、当該原料を、図9に実線の矢印で示すように、スクリュ本体37の先端に向けて搬送方向(矢印X方向)に連続的に搬送する。
【0076】
このとき、搬送路53に沿って旋回するフライト84とシリンダ部33の内周面との間の速度差によって生じるせん断作用が、原料に付与されるとともに、フライト84の微妙なねじれ具合により原料が攪拌される。この結果、原料が本格的に混練され、原料に含まれる高分子成分(ポリプロピレン)の分散化が進行する。
【0077】
せん断作用を受けた原料は、搬送路53に沿って搬送部81と障壁部82との間の境界に達する。障壁部82のフライト86は、スクリュ21が左回転した時に、原料をスクリュ本体37の先端から基端に向けて搬送するように左方向に捩じれている。この結果、当該フライト86によって原料の搬送が堰き止められる。言い換えると、障壁部82のフライト86は、スクリュ21が左回転した時に、フライト84によって搬送される原料の流動を制限することで、原料が障壁部82とシリンダ部33の内周面との間のクリアランスを通り抜けるのを妨げる。
【0078】
このとき、搬送部81と障壁部82との間の境界で原料の圧力が高まる。具体的に説明すると、図10には、搬送路53のうちスクリュ本体37の搬送部81に対応した箇所の原料の充満率がグラデーションで表されている。すなわち、当該搬送路53において、色調が濃くなる程に原料の充満率が高くなっている。図10から明らかなように、搬送部81に対応した搬送路53において、障壁部82に近づくに従い原料の充満率が高まっており、障壁部82の直前で、原料の充満率が100%となっている。
【0079】
このため、障壁部82の直前で、原料の充満率が100%となる「原料溜まりR」が形成される。原料溜まりRでは、原料の流動が堰き止められたことで、当該原料の圧力が上昇している。圧力が上昇した原料は、図9および図10に破線の矢印で示すように、搬送部81の下流端に開口された入口91から通路本体93に連続的に流入し、当該通路本体93内を、スクリュ本体37の基端から先端に向けて連続的に流通する。
【0080】
なお、スクリュ21の周速度は、0.5m/s以上3.0m/s以下が好ましく、0.63m/s以上2.51m/s以下がさらに好ましい。
【0081】
スクリュ21の周速度とは、スクリュ本体37に設けられたフライト84の先端面の任意の1点の周速度を示す。フライト84の先端面とは、シリンダ部33の内周面と対向するフライト84の面である。詳細には、スクリュ21の周速度とは、スクリュ本体37のフライト84の先端面の任意の1点が、単位時間当たりに進む速さ(m/s)を示す。なお、以下では、スクリュ本体37に設けられたフライト84の先端面の任意の1点の周速度を、単に、スクリュ21の周速度と称して説明する。
【0082】
ここで、上記したように、通路本体93の口径によって規定される通路断面積は、シリンダ部33の径方向に沿う搬送路53の円環断面積よりも遥かに小さい。別の捉え方をすると、通路本体93の口径に基づく広がり領域は、円環形状の搬送路53の広がり領域よりも遥かに小さい。このため、入口91から通路本体93に流入する際に、原料が急激に絞られることで、当該原料に伸長作用が付与される。
【0083】
さらに、通路断面積が円環断面積よりも十分に小さいため、原料溜まりRに溜まった原料が消滅することはない。すなわち、原料溜まりRに溜まった原料は、その一部が連続的に入口91に流入する。この間、新たな原料が、フライト84によって、障壁部82に向けて送り込まれる。この結果、原料溜まりRにおける障壁部82の直前の充満率は、常に100%に維持される。このとき、フライト84による原料の搬送量に多少の変動が生じたとしても、その変動状態が、原料溜まりRに残存した原料で吸収される。これにより、原料を、連続して安定的に通路88に供給することができる。よって、当該通路88において、原料に対し、途切れること無く連続的に伸長作用を付与することができる。
【0084】
通路本体93を通過した原料は、図10に実線の矢印で示すように、出口92から流出する。これにより、当該原料は、障壁部82に対しスクリュ本体37の先端の側で隣り合う他の搬送部81の外周面上に連続的に帰還する。帰還した原料は、他の搬送部81のフライト84によってスクリュ本体37の先端の方向に連続的に搬送され、この搬送の過程で再びせん断作用を受ける。せん断作用を受けた原料は、搬送方向下流側に隣接する次の通路本体93の入口91から通路本体93に連続的に流入するとともに、当該通路本体93を流通する過程で再び伸長作用を受ける。
【0085】
すなわち、第2の押出機3では、スクリュ21の回転による原料の混練と、原料の通路88の流通と、を搬送方向(矢印X方向)に沿って連続して繰り返す、混練工程が実行される。
【0086】
本実施形態では、複数の搬送部81および複数の障壁部82がスクリュ本体37の軸方向に交互に並んでいるとともに、複数の通路88がスクリュ本体37の軸方向に間隔を存して並んでいる。このため、供給口34からスクリュ本体37に投入された原料は、図9および図10に示すように、せん断作用および伸長作用を交互に繰り返し受けながらスクリュ本体37の基端から先端の方向に連続的に搬送方向(矢印X方向)に搬送される。よって、原料の混練の度合いが強化され、原料の高分子成分(ポリプロピレン)の分散が促進される。
【0087】
そして、スクリュ本体37の先端に達した原料は、十分に混練された混練物となって、吐出口36aから第3の押出機4に連続的に供給され、当該混練物に含まれるガス状物質やその他の揮発成分が混練物から連続的に除去される。
【0088】
以上、本実施形態によれば、第2の押出機3では、第1の押出機2から供給された原料がスクリュ本体37の軸方向(矢印X方向)に搬送され、この搬送の過程で原料にせん断作用および伸長作用が繰り返し付与される。すなわち、本実施形態の第2の押出機3は、スクリュ21の回転による原料の混練と、原料の通路88の流通と、を搬送方向(矢印X方向)に沿って連続して繰り返す、混練工程を実行する。詳細には、混練工程は、原料を、搬送路に沿って搬送する搬送路搬送工程と、原料が、障壁部82によって搬送部81による搬送を制限されることで圧力が高められ、圧力が高められた原料を、搬送部81に位置する入口91から、通路に流入させ、通路に流入した原料を、出口92に向かって、搬送部81による搬送方向と同方向に流通させ、通路を流通した原料を、出口92よりスクリュ本体の外周に流出させる通路流通工程と、を含んだ工程である。このため、本実施形態の混練方法では、上記第2の押出機3を用いた混練工程によって、機械的物性の高い混練物を作製することができる。
【0089】
すなわち、本実施形態の混練方法では、上記混練工程によって、搬送方向Xに搬送される原料に対して、せん断作用および伸長作用を連続して繰返し付与する。
【0090】
このため、原料には、途切れることなく連続的に、せん断作用および伸長作用が繰返し付与されることとなる。よって、原料の混練の度合いが強化され、原料に含まれるPP(ポリプロピレン)の分散が促進されると考えられる。
【0091】
そして、原料に含まれるPPの分散が促進されることで、混練物中におけるPP結晶がナノオーダーで、より緻密に配向された結晶構造が実現され、機械的物性の高い混練物が得られると考えられる。
【0092】
また、本実施形態の第2の押出機3では、原料がスクリュ本体37の外周面上の同一の箇所で何回も循環することがないので、原料を第2の押出機3から第3の押出機4に間断なく供給することができる。
【0093】
また、本実施形態では、第1の押出機2で予備的に混練された原料が途切れることなく第2の押出機3に供給され続ける。このため、第1の押出機2の内部で原料の流れが一時的に滞ることはない。これにより、混練された原料が第1の押出機2の内部に滞ることで生じる樹脂の温度変化、粘度変化あるいは相変化を防止することができる。この結果、常に品質が均一の原料を、第1の押出機2から第2の押出機3に供給することができる。
【0094】
さらに、本実施形態によれば、見かけ上の連続生産では無く、混練物の完全連続生産が可能となる。すなわち、第1の押出機2から第2の押出機3および第3の押出機4に亘って、原料を絶え間なく連続的に搬送しながら、第2の押出機3において原料に対してせん断作用と伸長作用とを交互に付与することができる。かかる構成によれば、第1の押出機2から第2の押出機3には、溶融状態の原料が安定して供給される。
【0095】
また、本実施形態によれば、原料に伸長作用を付与する通路88は、スクリュ本体37の回転中心となる軸線O1に対し偏心した位置でスクリュ本体37の軸方向に延びているので、通路88は、軸線O1の回りを公転する。言い換えると、通路88を規定する筒状の壁面89は、軸線O1を中心に自転することなく軸線O1の回りを公転する。
【0096】
このため、原料が通路88を通過する際に、原料が通路88の内部で活発に攪拌されることはない。よって、通路88を通過する原料がせん断作用を受け難くなり、通路88を通過して搬送部81の外周面に帰還する原料が受けるのは主に伸長作用となる。したがって、本実施形態のスクリュ21においても、原料にせん断作用を付与する箇所および原料に伸長作用を付与する箇所を明確に定めることができる。
【実施例
【0097】
以下に本発明をさらに詳細に説明するための実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、符号は、上記実施形態で説明した高せん断加工装置1000の構成と対応している。
【0098】
まず、第1の押出機2に供給される材料として、小島産業株式会社製の複合強化PP(タルク)グレード、型式GT5Aを用いて、以下の実験を行った。なお材料形態は、ポリプロピレンにエチレン・プロピレン・ジエンゴムとタルクが練り込まれたペレットである。
【0099】
(実施例1)
本実施例1では、高せん断加工装置1000における第1の押出機2に、材料を投入し、第1の押出機2で予備混練された原料を第2の押出機3で混練し、第3の押出機(脱泡機)4で脱泡することで、混練物を得た。
【0100】
なお、第2の押出機3には、図1図10を用いて説明した構成の第2の押出機3を用いた。
【0101】
また、本実施例1では、以下の装置条件の第2の押出機3を用いて、以下の混練条件で混練を行った。
【0102】
<装置条件および混練条件>
・スクリュ21の径(外径):48mm
・スクリュ21の有効長(L/D):6.25
・スクリュ21の周速度:0.63m/s
・通路88の内径:3mm
・通路88の数:2本
・第2の押出機3への原料供給量(押出質量):5kg/h
・バレル設定温度:200℃
・なお、第1の押出機2には、東芝機械製二軸押出機 TEM-26SX(スクリュ呼び径26mm)を使用し、スクリュ7a、7bのフライト14、ディスク15、フライト16は、材料の溶融を主とする構成とした。
【0103】
<混練工程>
上記装置条件および混練条件で、第2の押出機3により原料を混練することで、混練物1を作製した。
【0104】
<評価>
<機械的物性の評価>
本実施例1で作製した混練物1について、機械的物性の評価を行った。なお、機械的物性の評価では、第2の押出機3を用いて上記装置条件および上記混練条件で作製した混練物1について、第3の押出機(脱泡機)4によって脱泡した後の混練物1を用いて、機械的物性の評価を行った。
【0105】
機械的物性の評価には、材料および混練物1の成形品を用いた。材料および混練物1の各々の成形品とは、材料および脱泡後の混練物1の各々を、射出成形機を用いてシリンダ温度200℃、射出速度40mm/sの条件で成形したものを示す。
【0106】
本実施例では、機械的物性として、シャルピー衝撃強度を測定した。
【0107】
シャルピー衝撃強度は、材料および脱泡後の混練物1の各々の成形品に切削工具にてノッチを入れ、JIS-K7111に規定する3.0mm厚さのシャルピー衝撃試験片を作製した。この試験片を用いて、衝撃値をJIS-K7111に準拠した方法で測定した。10回の測定を行い、その平均値を採用した。
【0108】
また、材料の成形品のシャルピー衝撃強度を基準値“1”としたときの、脱泡後の混練物1の成形品のシャルピー衝撃強度の相対値を測定した。材料の成形品のシャルピー衝撃強度は、18.28kj/mであった。
【0109】
評価結果を、図11に示した。
【0110】
<PPの分散度評価>
本実施例1で作製した混練物1における、PPの分散度を評価した。PPの分散度の評価は、画像解析により行った。
【0111】
具体的には、脱泡後の混練物1を、電子顕微鏡を用いて倍率50000で撮影した画像における、PPの占める面積の割合を算出した。そして、この操作を、混練物1における撮影位置を変えて合計3箇所について行い、PPの占める面積の割合の平均値を、分散度として算出した。図12に、本実施例1で作製した、脱泡後の混練物1の画像を示した。本実施例1で作製した、脱泡後の混練物1におけるPPの分散度は、61.0%であった。
【0112】
(実施例2)
実施例1におけるスクリュ本体37の周速度を1.26m/sとした点以外は、実施例1と同じ装置条件および混練条件で第2の押出機3を用いて原料を混練し、混練物として、混練物2を作製した。そして、実施例1と同様に、第3の押出機(脱泡機)4によって脱泡した後の混練物2を用いて、実施例1と同じ条件で、機械的物性の評価を行った。評価結果を図11に示した。
【0113】
(実施例3)
実施例1におけるスクリュ本体37の周速度を1.88m/sとした点以外は、実施例1と同じ装置条件および混練条件で第2の押出機3を用いて原料を混練し、混練物として、混練物3を作製した。そして、実施例1と同様に、第3の押出機(脱泡機)4によって脱泡した後の混練物3を用いて、実施例1と同じ条件で、機械的物性の評価を行った。評価結果を図11に示した。
【0114】
(実施例4)
実施例1において、第2の押出機3の押出質量を10kg/hとし、スクリュ本体37の周速度を2.51m/sとした点以外は、実施例1と同じ装置条件および混練条件で第2の押出機3を用いて原料を混練し、混練物として、混練物4を作製した。そして、実施例1と同様に、第3の押出機(脱泡機)4によって脱泡した後の混練物4を用いて、実施例1と同じ条件で、機械的物性の評価を行った。評価結果を図11に示した。
【0115】
(比較例1)
実施例1で用いた第2の押出機3について、通路88を備えない構成の第2の押出機3を用い、且つ、スクリュ本体37の周速度を0.38m/sとした点以外は、実施例1と同じ装置条件および混練条件で第2の押出機3を用いて原料を混練し、比較混練物1を作製した。そして、実施例1と同様に、第3の押出機(脱泡機)4によって脱泡した後の比較混練物1を用いて、実施例1と同じ条件で、機械的物性の評価を行った。評価結果を図11に示した。
【0116】
(比較例2)
実施例1で用いた第2の押出機3について、通路88を備えない構成の第2の押出機3を用い、且つ、スクリュ本体37の周速度を0.63m/sとした点以外は、実施例1と同じ装置条件および混練条件で第2の押出機3を用いて原料を混練し、比較混練物2を作製した。そして、実施例1と同様に、第3の押出機(脱泡機)4によって脱泡した後の比較混練物2を用いて、実施例1と同じ条件で、機械的物性の評価を行った。評価結果を図11に示した。
【0117】
(比較例3)
実施例1で用いた第2の押出機3について、通路88を備えない構成の第2の押出機3を用い、且つ、スクリュ本体37の周速度を1.26m/sとした点以外は、実施例1と同じ装置条件および混練条件で第2の押出機3を用いて原料を混練し、比較混練物3を作製した。そして、実施例1と同様に、第3の押出機(脱泡機)4によって脱泡した後の比較混練物3を用いて、実施例1と同じ条件で、機械的物性の評価を行った。評価結果を図11に示した。
【0118】
(比較例4)
実施例1で用いた第2の押出機3について、通路88を備えない構成の第2の押出機3を用い、且つ、スクリュ本体37の周速度を1.88m/sとした点以外は、実施例1と同じ装置条件および混練条件で第2の押出機3を用いて原料を混練し、比較混練物4を作製した。そして、実施例1と同様に、第3の押出機(脱泡機)4によって脱泡した後の比較混練物4を用いて、実施例1と同じ条件で、機械的物性の評価を行った。評価結果を図11に示した。
【0119】
(比較例5)
実施例1で用いた第2の押出機3について、通路88を備えない構成の第2の押出機3を用い、且つ、スクリュ本体37の周速度を2.51m/sとした点以外は、実施例1と同じ装置条件および混練条件で第2の押出機3を用いて原料を混練し、比較混練物5を作製した。そして、実施例1と同様に、第3の押出機(脱泡機)4によって脱泡した後の比較混練物5を用いて、実施例1と同じ条件で、機械的物性の評価を行った。評価結果を図11に示した。
【0120】
(比較例6)
材料を、比較例6の比較混練物6として用いた。そして、実施例1と同じ条件で、機械的物性の評価を行った。評価結果を図11に示した。
【0121】
<評価結果の比較>
図11に示すように、実施例1~実施例4で作製した混練物1~混練物4は、比較例1~比較例3で作製した比較混練物1~比較混練物3および材料である比較混練物6に比べて、シャルピー計測値およびシャルピー衝撃強度の相対値が高かった。詳細には、比較混練物1のシャルピー計測値が18.49kj/mであるのに対して、実施例1~実施例4で作製した混練物1~混練物4のシャルピー計測値は、全て、比較混練物1のシャルピー計測値を越える18.5kj/m以上の値を示した。なお、比較混練物4および比較混練物5は、混練工程において原料の温度が実施例1~実施例4に比べて急激に上昇して熱劣化し、シャルピー衝撃強度を測定することは出来なかった。
【0122】
このため、実施例1~実施例4で作製した混練物1~混練物4は、比較例1~比較例5で作製した比較混練物1~比較混練物5および材料である比較混練物6に比べて、機械的物性の高い混練物が得られたことが確認できた。
【0123】
また、実施例1で作製した混練物1におけるPPの分散度は、上述したように、61.0%であった(図12参照)。また、図12に示すように、実施例1で作製した混練物1は、ポリプロピレン系樹脂組成物を含む混練物であって、PPからなる第1相(図12中、黒色部分)と、EPDMを含む第2相(図12中、白色および灰色部分)と、が相互に連結した相互連結構造を示すことが確認できた。また、図12に示すように、実施例1で作製した混練物1は、第1相と第2相との海島構造は確認出来なかった。
【0124】
一方、材料である比較混練物6におけるPPの分散度を、混練物における分散度の算出と同じ方法を用いて算出した。図13に、材料の画像を示した。その結果、材料におけるPPの分散度は、20.5%であった。また、図13に示すように、材料は、EPDMを含む第2相(図13中、白色および灰色部分)を海相とし、ポリプロピレンからなる第1相(図13中、黒色部分)を島相とする、海島構造が確認され、これらの第1相と第2相の相互連結構造は確認出来なかった。
【0125】
このため、実施例1で作製した混練物1におけるPPの分散度の向上および相互連結構造を確認することができた。また、PPの分散度についても、材料におけるPPの分散度が20.5%であるのに対して、実施例1で作製した混練物1におけるPPの分散度は、材料におけるPPの分散度を超える21%以上の値を示した。
【0126】
また、本発明の混練方法は、例えば二種類の非相溶性の樹脂などを含む材料を、従来の二軸押出機で混練することにより作製され、一般的に市販されているバージンペレットの樹脂組成物に対して、物性向上のための再混練方法とも言うことができる。
【0127】
通常、バージンペレットの樹脂組成物を、従来の二軸混練機で再混練すると、熱劣化が生じ、作製された混練物の物性は、バージンペレットの時点の物性よりも低下し易い。しかし、材料のバージンペレットの射出成形品よりも、本発明の混練方法により、そのバージンペレットを再混練して得られた実施例1から実施例4の混練物の射出成形品の方が、物性が向上している。
【0128】
このことより、本発明の混練方法によるバージンペレットの再混練は、アップグレード混練と捉えることができ、アップグレード混練により作製されて、バージンペレットよりも物性が向上したペレットをアップグレードペレットと捉えることができる。
【0129】
さらに、本発明の混練方法によるアップグレード混練を、例えば回収された樹脂組成物を粉砕し、溶融して再生ペレットなどの再生原料を作製するプラスチックリサイクルに適用することも可能である。本発明の混練方法による粉砕材料のアップグレード混練により、作製された再生ペレットは、粉砕材料の時点よりも物性が向上したアップグレード再生ペレットとなることは容易に理解される。
【0130】
なお、上記には、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0131】
3 第2の押出機
21 スクリュ
37 スクリュ本体
81 搬送部
82 障壁部
88 通路
53 搬送路
図1
図2
図3
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図5
図6
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図10
図11
図12
図13