(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/184 20060101AFI20220623BHJP
【FI】
B62D1/184
(21)【出願番号】P 2018236376
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000237307
【氏名又は名称】富士機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】藤村 統
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-190632(JP,A)
【文献】特開2017-177826(JP,A)
【文献】特開2017-171077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00-1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に設けられる第1部材と、
前記第1部材に対して車体前後方向に移動自在で、操舵部材が設けられる第2部材と、
車幅方向に延在し、前記第1部材に回転自在に設けられる軸部と、
前記軸部を回転操作する操作部と、
車体前方の端部が前記第1部材に保持され、中途部位が前記軸部の外周面に巻き回された状態で、後方の端部が前記軸部よりも前方で前記第2部材に連結されるワイヤ部材と、
前記第2部材に車体前後方向に沿って複数設けられ、前記ワイヤ部材の後方の端部が車幅方向から挿入されることで、前記第2部材の前記第1部材に対する前後方向の移動が規制されるワイヤ挿入孔と、
前記軸部に設けられ、前記操作部の操作による前記軸部の回転によって、前記ワイヤ部材を車幅方向外側に弾性変形させ、前記ワイヤ部材の後方の端部を前記ワイヤ挿入孔から離脱させるカム部と、を備えることを特徴とするステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記ワイヤ部材は、
前記第1部材に保持される保持部と、
前記保持部から車体後方へ向けて延出する左右一対の延出部と、
前記左右一対の延出部の後部に連続し、前記軸部に巻き回されて前記カム部の車幅方向外側に位置する左右一対の湾曲部と、
前記左右一対の湾曲部の前記延出部と反対側に連続し、車体前方に延出する左右一対の折り返し部と、
前記左右一対の折り返し部の前端から互いに接近する方向に延出して前記ワイヤ挿入孔に挿入される左右一対の挿入部と、を有することを特徴とする請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【請求項3】
前記カム部は、前記ワイヤ部材の挿入部が前記ワイヤ挿入孔に挿入された状態から、前記軸部と一体となって回転変位することで、前記ワイヤ部材の左右一対の折り返し部を互いに離れる方向に押圧する左右一対の押圧部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項4】
前記左右一対の押圧部は、前記軸部の外周面から直径方向の外側に行くに従って、互いに離れるように傾斜していることを特徴とする請求項3に記載のステアリングコラム装置。
【請求項5】
前記第1部材は、前記ワイヤ挿入孔の車体前方側で、かつ、前記ワイヤ部材の車幅方向外側に、下方に延びるガイド壁が設けられ、前記ガイド壁は、車体前後方向から見て前記ワイヤ部材の車幅方向外側に近接または接触する状態であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングコラムを前後方向に移動調整可能なステアリングコラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングコラムを前後方向に移動自在に構成したステアリングコラム装置が知られている(特許文献1参照)。ステアリングコラム装置は、車体側の取付ブラケットから垂下する左右の側板間に、ステアリングシャフトを支持するコラムジャケットを配置している。コラムジャケットはインナーチューブとアウターチューブとを有し、アウターチューブに固定したテレスコピック機構用のブラケットの左右の側板でコラムジャケットを挟持して固定することで、インナーチューブのアウターチューブに対する前後方向の移動が規制される。このとき、ブラケットの側板の外側に摩擦板を複数積層して配置し、側板及び複数の摩擦板をロック機構で締め込むことで、保持力を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアリングコラム装置のロック機構は、摩擦板を複数備えているため、部品点数が増加するとともに組み付け作業が複雑化する。
【0005】
そこで、本発明は、ステアリングコラム装置のロック機構として、部品点数の増加を抑えるとともに、組み付け作業を簡素化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のステアリングコラム装置は、車体側に設けられる第1部材と、前記第1部材に対して車体前後方向に移動自在で、操舵部材が設けられる第2部材と、車幅方向に延在し、前記第1部材に回転自在に設けられる軸部と、前記軸部を回転操作する操作部と、車体前方の端部が前記第1部材に保持され、中途部位が前記軸部の外周面に巻き回された状態で、後方の端部が前記軸部よりも前方で前記第2部材に連結されるワイヤ部材と、前記第2部材に車体前後方向に沿って複数設けられ、前記ワイヤ部材の後方の端部が車幅方向から挿入されることで、前記第2部材の前記第1部材に対する前後方向の移動が規制されるワイヤ挿入孔と、前記軸部に設けられ、前記操作部の操作による前記軸部の回転によって、前記ワイヤ部材を車幅方向外側に弾性変形させ、前記ワイヤ部材の後方の端部を前記ワイヤ挿入孔から離脱させるカム部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ステアリングコラム装置のロック機構として、部品点数の増加を抑えるとともに、組み付け作業を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係わるステアリングコラム装置の車両左側から見た、一部断面を含む側面図である。
【
図2】
図1のステアリングコラム装置のロック機構を示す断面図である。
【
図3B】
図3Aに対しロック機構のロックが解除された状態を示す作用説明図である。
【
図5】
図2に示すアウターコラムの上下を逆にした状態での斜視図である。
【
図6A】ロック機構に使用するワイヤ部材を回転軸とともに示す斜視図である。
【
図6B】
図6Aに対しロック機構のロックが解除された状態でのワイヤ部材の形状変化を示す作用説明図である。
【
図7】ロック機構に使用するワイヤ係止部材をインナーコラムと共に示す斜視図である。
【
図8A】ワイヤ部材がワイヤ係止部材に係止した状態を示す斜視図である。
【
図8B】
図8Aに対しワイヤ部材がワイヤ係止部材から離脱してロックが解除された状態を示す作用説明図である。
【
図9】
図2の状態から、二次衝突時にインナーコラムがアウターコラムに対して前方へ移動した状態を示す作用説明図である。
【
図11】
図5に対し、二次衝突時にストッパ部材がアウターコラムから外れた状態を示す作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、以下の説明で、「前後方向」は車両の前後方向に対応し、「左右方向」は、車両の左右方向(車幅方向)に対応する。
図1において、「前後方向」の前側を矢印FR、車両上側を矢印UPRで示している。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係るステアリングコラム装置1は手動式である。ステアリングコラム装置1は、車体に固定される前側取付ブラケット3及び中央側取付ブラケット5を備えている。前側取付ブラケット3及び中央側取付ブラケット5には、車両上下方向に揺動自在に第1部材としてのアウターコラム7が支持される。アウターコラム7には第2部材としてのインナーコラム9が支持される。これにより、アウターコラム7及びインナーコラム9が車両上下方向に揺動するチルト機構を構成する。
【0011】
アウターコラム7は車両前方に配置され、インナーコラム9はアウターコラム7の車両後方側に配置され、アウターコラム7の内周側にインナーコラム9が挿入されている。これらアウターコラム7とインナーコラム9とでステアリングコラム10が構成される。前側取付ブラケット3は、アウターコラム7を揺動自在に軸支する軸支部11を備えている。
【0012】
アウターコラム7は、筒形状を有し、車両前後方向及び車両上下方向に沿って配設される。アウターコラム7は、前端部分に軸支受部13を備えており、軸支受部13が、前側取付ブラケット3の軸支部11に軸支されることで、アウターコラム7及びインナーコラム9が軸支部11を回転中心として車両上下方向に揺動する。インナーコラム9は、筒形状を有し、アウターコラム7の筒内を軸方向に移動自在に挿入される。
【0013】
インナーコラム9とアウターコラム7の筒内には、ステアリングシャフト15が軸支される。ステアリングシャフト15は、アウターコラム7内に軸支されるロアシャフト15Lと、インナーコラム9内に軸支されるアッパーシャフト15Uとで構成されている。アッパーシャフト15Uとロアシャフト15Lとは、互いにスプライン連結することで、軸周りには一体に回転し、軸方向にはアッパーシャフト15Uがロアシャフト15Lに対して移動自在となる。これにより、アッパーシャフト15U(インナーコラム9)をロアシャフト15L(アウターコラム7)に対して車両前後方向に移動自在に保持するテレスコピック機構を構成する。アッパーシャフト15Uの後端には、図示しない操舵部材としてのステアリングホイールが取り付けられる。
【0014】
図2は、
図1のインナーコラム9がアウターコラム7に対して車両前後方向に移動自在とする構成を拡大して示している。なお、
図2では、アッパーシャフト15U及びロアシャフト15Lを省略している。アウターコラム7の後方側の下部には、
図2、
図3Aに示すように、車幅方向両側から下方に延びる左右一対の側壁17,19が形成されている。
【0015】
側壁17,19の前方のアウターコラム7の下部には、
図2、
図4、
図5に示すように、左右一対のガイド壁18,20が下方に向けて突出している。ガイド壁18,20は、側壁17,19と平行に前後方向に延在している。
図4に示すように、ガイド壁18,20相互の間隔W1は、側壁17,19相互の間隔W2よりも小さい(W1<W2)。ガイド壁18,20相互の間隔W1は、
図6A,
図8Aのように、後述するワイヤ部材23のワイヤ挿入部23eがワイヤ挿入孔35aに挿入された状態でのワイヤ部材23の車幅方向の幅、特に折り返し部23dの幅Lに対し、略同等か僅かに大きい(W1≧L)。このとき、左右一対のガイド壁18,20の互いに対向する部位は、ワイヤ部材23(折り返し部23)の車幅方向外側に近接または接触した状態となっている。
【0016】
側壁17,19には、車幅方向に延びる軸部としての回転軸21が回転自在に軸支されている。回転軸21の軸方向の端部には、回転軸21を回転操作するための操作部としての操作レバー22が取り付けられている。回転軸21は、
図3A,
図6Aに示すように、側壁17,19に支持される回転支持部21a,21bと、回転支持部21a,21b相互間の軸方向中央に位置して回転支持部21a,21bよりも大径な大径部21cと、を備えている。回転支持部21a,21bと大径部21cとの間には、直径が回転支持部21a,21bよりも大きく、大径部21cよりも小さいワイヤ巻回部21d,21eが形成されている。
【0017】
大径部21cの外周部には、カム部21fが形成されている。大径部21c、ワイヤ巻回部21d,21e及びカム部21fは、側壁17,19相互間に位置している。カム部21fは、
図2に示すように、取り付け状態で、大径部21cの鉛直方向の直下に対してやや後方側に位置している。カム部21fは、
図3Aに示すように、車幅方向外側の端部に傾斜面21f1,21f2を備えている。傾斜面21f1,21f2は、大径部21cの軸方向端部の外周部から、大径部21cの直径方向外側に行くに従って車幅方向外側に向けて傾斜しており、押圧部を構成している。
【0018】
ワイヤ巻回部21d,21eにワイヤ部材23が巻き回されている。ワイヤ部材23は、
図4、
図6Aに示すように、金属製の線条材を折り曲げて形成した、平面視で略U字形状となっている。ワイヤ部材23は、車両前後方向に延在する左右一対の延出部23aを備え、延出部23aの前端部は、車幅方向に延在される連結部23bにより連結されている。
【0019】
図2、
図4に示すように、連結部23bに対応する位置付近のアウターコラム7の下部には、第1突片25及び第2突片27が下方に向けて突出している。第1突片25は、第2突片27の前方に間隔をあけて設けられている。第1突片25及び第2突片27は、
図4、
図5に示すように、ワイヤ部材23を間にして左右両側にそれぞれ一対設けられている。なお、
図5は、
図2に対し上下が逆となっている。
【0020】
第1突片25と第2突片27との間には、車幅方向に長い直方体形状のストッパ部材29が配置されている。ストッパ部材29は、インナーコラム9を最も前方へ位置調整したときに、インナーコラム9の下部の前端9aが当接して前方への移動を規制する。なお、ストッパ部材29は、第1突片25及び第2突片27に対し上下方向に移動自在である。
【0021】
ストッパ部材29には、ワイヤ部材23の延出部23aが挿入されるスリット29aが形成されている。スリット29aは、
図5に示すように車幅方向に長い長孔となっており、前後方向に貫通している。左右一対の第1突片25には、車幅方向に延在する前部保持ピン31が取り付けられている。
【0022】
ワイヤ部材23は、スリット29aに挿入された状態でスリット29aよりも前方側の延出部23aが、前部保持ピン31に下方から弾性的に当接している。前部保持ピン31よりもやや前方側に連結部23bが位置している。ストッパ部材29の後方側近傍の延出部23aは、左右一対の第2突片27相互間に位置している。ワイヤ部材23は、スリット29aに挿入された状態で前部保持ピン31に下方から当接していることで、延出部23aの前方側の連結部23b近傍が、アウターコラム7に保持される保持部となる。すなわち、延出部23aは、連結部23b近傍の保持部から車両後方へ向けて延出している。
【0023】
ワイヤ部材23の延出部23aの後方側は、回転軸21のワイヤ巻回部21d,21eに巻き回される湾曲部23cとなっている。
図2、
図4に示すように、側壁17,19相互間における回転軸21よりも前方側下部には、車幅方向に延在する後部保持ピン33が設けられている。後部保持ピン33は、前部保持ピン31よりもやや下方に位置し、延出部23aが上方から弾性的に当接している。
【0024】
ワイヤ部材23は、ばね性を有しているため、前部が前部保持ピン31に対して上方に向けて押し付ける一方、下部が後部保持ピン33に対して下方に向けて押し付けている。左右一対の湾曲部23cは、ワイヤ巻回部21d,21eに巻き回された状態で、大径部21cの軸方向外側の側面に接触している。
【0025】
ワイヤ部材23は、湾曲部23cの延出部23aと反対側に左右一対の折り返し部23dを連続して備えている。折り返し部23dは、湾曲部23cから前方斜め上方に向けて延びている。折り返し部23dの湾曲部23cと反対側の端部には、挿入部としての左右一対のワイヤ挿入部23eが連続して形成されている。左右一対のワイヤ挿入部23eは、互いに接近する方向に延びており、先端の端部相互は互いに離間している。
【0026】
図2に示すように、インナーコラム9の外周側の下部には、ワイヤ係止部材35が取り付けられている。ワイヤ係止部材35は、
図7に示すように、前後方向に長く、かつ、左右方向にやや長い略直方体形状となっている。ワイヤ係止部材35の上面は、インナーコラム9の外周面の円形に対応して凹状の円弧形状となっていて、インナーコラム9の外周面に密接するようにして固定され一体化している。
【0027】
ワイヤ係止部材35の左右両側面に、ワイヤ挿入孔35aが前後方向に沿って複数設けられている。前後方向に複数設けられたうちの左右一つずつのワイヤ挿入孔35aに、
図8Aに示すように、ワイヤ部材23の左右一対のワイヤ挿入部23eがそれぞれ挿入される。ワイヤ部材23は、ワイヤ挿入部23eがワイヤ挿入孔35aに挿入された状態で、一対の折り返し部23d周辺がワイヤ係止部材35を左右両側から挟み込むようにして押し付ける。
【0028】
これにより、ワイヤ挿入部23eがワイヤ挿入孔35aに挿入された状態をより確実に保持することができ、インナーコラム9のアウターコラム7に対する前後調整位置でのロック固定をより確実にできる。
【0029】
インナーコラム9をアウターコラム7に対して前後位置の調整を行う際には、
図1に示す操作レバー22を回転操作して回転軸21を回転させる。回転軸21が、
図2、
図3A、
図6A、
図8Aの状態から
図2中で左回り方向に回転すると、
図2中で回転軸21の右下に位置するカム部21fも回転軸21と一体となって同方向に回転変位し、
図3B、
図6B、
図8Bの状態となる。
【0030】
カム部21fの
図2中で左回り方向への回転変位により、カム部21fの傾斜面21f1,21f2が、湾曲部23c及び折り返し部23dを軸方向外側へ徐々に押し広げるように弾性変形させる。このとき、湾曲部23cは大径部21cの軸方向外側の側面に接触した状態から徐々に離れる。
【0031】
折り返し部23dが左右方向の外側に押し広げられることで、先端のワイヤ挿入部23eも左右方向の外側に変位する。その結果、ワイヤ挿入部23eがワイヤ挿入孔35aから抜け、ワイヤ挿入部23eとワイヤ挿入孔35aとの係止状態(ロック状態)が解除されてアンロック状態となる。アンロック状態で、インナーコラム9はアウターコラム7に対して前後方向に移動自在となり、前後の位置調整が行える。
【0032】
インナーコラム9の前後の位置調整を行った後で、操作レバー22を上記とは逆方向に回転操作することで、回転軸21が
図2中で右回り方向に回転し、カム部21fが
図2、
図3A、
図6A、
図8Aの位置に戻る。これにより、ワイヤ挿入部23eがワイヤ挿入孔35aに挿入されてロック状態となる。
【0033】
このとき、ワイヤ挿入部23eがワイヤ挿入孔35aに挿入せず、ワイヤ挿入孔35a相互間のワイヤ係止部材35に当接してしまうことが考えられる。しかし、左右一対のワイヤ挿入部23eは互いに接近する方向に弾性的に常時押し付けられているため、インナーコラム9を前後に少し移動させることで、ワイヤ挿入部23eをワイヤ挿入孔35aに容易に挿入することができる。
【0034】
次に、車両が衝突したときの二次衝突の際に、衝撃荷重によって、インナーコラム9がアウターコラム7に対し前方へ移動することで、衝撃エネルギーを吸収する機能について説明する。
【0035】
図2のロック機構がロックした状態で、インナーコラム9が前方へ衝撃荷重を受けると、インナーコラム9がアウターコラム7に対して前方へ移動する。このときワイヤ部材23は、ワイヤ挿入部23eがワイヤ挿入孔35aに挿入されて係止しているため、インナーコラム9により前方へ引っ張られる方向に荷重を受ける。その際ワイヤ部材23は、延出部23aが後部保持ピン33に下方から支持されながら、回転軸21のワイヤ巻回部21d,21eに巻き付けられる部分(湾曲部23c)が、
図2、
図4の状態から徐々に連結部23b側に近づくように、しごかれながら変形し、
図9、
図10の状態となる。
【0036】
このときワイヤ部材23は、前方の連結部23b側が前部保持ピン31から離れ、さらにスリット29aからも抜ける。これにより、ストッパ部材29が下方に移動して落下し、インナーコラム9はストッパ部材29が配置された位置よりも前方に移動可能となる。これにより、衝撃吸収能力がより向上する。
図11は、
図5と同様に上下関係が逆となっているが、ストッパ部材29がアウターコラム7から離脱した状態を示している。
【0037】
インナーコラム9が衝撃荷重を受けてアウターコラム7に対して前方へ移動するときには、
図10に示すように、ワイヤ係止部材35がガイド壁18,20相互間に入り込む。このとき、ワイヤ部材23のワイヤ挿入部23e及び折り返し部23dもガイド壁18,20相互間に入り込む。このとき、左右一対のガイド壁18,20の互いに対向する面は、ワイヤ部材23(折り返し部23)の車幅方向外側に近接または接触した状態となっている。このため、ガイド壁18,20相互間に入り込んだワイヤ挿入部23e及び折り返し部23周辺のワイヤ部材23は、ガイド壁18,20の互いに対向する内側面に略接触して左右両側から押さえられた状態となる。
【0038】
このため、インナーコラム9が衝撃荷重を受けてアウターコラム7に対して前方へ移動する過程では、ワイヤ挿入部23eがワイヤ挿入孔35aから抜けるのをガイド壁18,20によって抑えられる。この場合、ワイヤ挿入部23eがワイヤ挿入孔35aに挿入されたままインナーコラム9が前方へ移動するので、ワイヤ部材23のしごき変形が継続してなされ、衝撃吸収機能も継続して発揮される。
【0039】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0040】
本実施形態のステアリングコラム装置1は、車体側に設けられるアウターコラム7と、アウターコラム7に対して車体前後方向に移動自在で、ステアリングホイールが設けられるインナーコラム9と、車幅方向に延在し、アウターコラム7に回転自在に設けられる回転軸21と、回転軸21を回転操作する操作レバー22と、を有する。
【0041】
ステアリングコラム装置1は、車体前方の端部がアウターコラム7に保持され、中途部位の湾曲部23cが回転軸21の外周面に巻き回された状態で、後方の端部が回転軸21よりも前方でインナーコラム9に連結されるワイヤ部材23と、インナーコラム9に車体前後方向に沿って複数設けられ、ワイヤ部材23の後方の端部が車幅方向から挿入されることで、インナーコラム9のアウターコラム7に対する前後方向の移動が規制されるワイヤ挿入孔35aと、を備える。
【0042】
ステアリングコラム装置1は、回転軸21に設けられ、操作レバー22の操作による回転軸21の回転によって、ワイヤ部材23を車幅方向外側に弾性変形させ、ワイヤ部材23の後方の端部のワイヤ挿入部23eをワイヤ挿入孔35aから離脱させるカム部21fと、を備える。
【0043】
上記構成のステアリングコラム装置1は、インナーコラム9をアウターコラム7に対して前後方向の移動を規制するロック機構として、ワイヤ部材23のワイヤ挿入部23eをワイヤ挿入孔35aに挿入するようにしている。このため、ステアリングコラム装置1のロック機構として、摩擦板を複数備える構成に比較して、部品点数が少なくて済み、組み付け作業についても、複数の摩擦板を組み付ける場合に比較して、ワイヤ部材23を取り付ければよいので、簡素化したものとなる。
【0044】
本実施形態のワイヤ部材23は、アウターコラム7に保持される保持部(延出部23aの前方側)と、保持部から車体後方へ向けて延出する左右一対の延出部23aと、一対の延出部23aの後部に連続し、回転軸21に巻き回されてカム部21fの車幅方向外側に位置する左右一対の湾曲部23cと、一対の湾曲部23cの延出部23aと反対側に連続し、車体前方に延出する左右一対の折り返し部23dと、一対の折り返し部23dの前端から互いに接近する方向に延出してワイヤ挿入孔35aに挿入される左右一対の挿入部23eと、を有する。
【0045】
このように、ワイヤ部材23は1本の線状部材を折り曲げて形成したものであるため、製造が容易でありコスト低下に寄与することができる。
【0046】
本実施形態のカム部21fは、ワイヤ部材23のワイヤ挿入部23eがワイヤ挿入孔35aに挿入された状態から、回転軸21と一体となって回転変位することで、ワイヤ部材23の左右一対の折り返し部23dを互いに離れる方向に押圧する左右一対の傾斜面21f1,21f2を備える。
【0047】
この場合、回転軸21の回転に伴ってカム部21fが回転変位することにより、傾斜面21f1,21f2が一対の折り返し部23dを左右に押し広げることになる。このため、ワイヤ挿入部23eをワイヤ挿入孔35aから容易に離脱させることができ、ロック解除作業が容易となる。
【0048】
本実施形態の左右一対の傾斜面21f1,21f2は、回転軸21の外周面から直径方向の外側に行くに従って、互いに離れるように傾斜している。このため、回転軸21の回転に伴うカム部21fの回転変位時に、傾斜面21f1,21f2がワイヤ部材23を徐々に押し広げることになり、ワイヤ挿入部23eのワイヤ挿入孔35aからの離脱が円滑になされる。
【0049】
本実施形態のアウターコラム7は、ワイヤ挿入孔35aの車体前方側で、かつ、ワイヤ部材23の車幅方向外側に、下方に延びる左右一対のガイド壁18,20が設けられている。左右一対のガイド壁18,20の互いに対向する部位は、車体前後方向から見てワイヤ部材23の車幅方向外側に近接または接触した状態である。
【0050】
このため、インナーコラム9が衝撃荷重を受けてアウターコラム7に対して前方へ移動する過程では、ガイド壁18,20がワイヤ部材23を左右両側から支持することになり、ワイヤ挿入部23eのワイヤ挿入孔35aからの抜けを抑制できる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は本発明の理解を容易にするために記載された単なる例示に過ぎず、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的範囲は、上記実施形態で開示した具体的な技術事項に限らず、そこから容易に導きうる様々な変形、変更、代替技術なども含む。
【符号の説明】
【0052】
7 アウターコラム(第1部材)
9 インナーコラム(第2部材)
18,20 ガイド壁
21 回転軸(軸部)
21f カム部
21f1,21f2 カム部の傾斜面(押圧部)
22 操作レバー(操作部)
23 ワイヤ部材
23a ワイヤ部材の延出部(保持部)
23c ワイヤ部材の湾曲部
23d ワイヤ部材の折り返し部
23e ワイヤ部材の挿入部(ワイヤ挿入部)
35a ワイヤ挿入孔