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特許7093733非水電解質二次電池用極板群及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用極板群及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20220623BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220623BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20220623BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/13
H01M10/0587
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019027215
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020136045
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】上田 一輝
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-195406(JP,A)
【文献】特開2005-209411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05- 10/39
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板とがセパレータを挟んで対向配置される非水電解質二次電池用極板群であって、
前記負極板は、金属基板の表面に活物質を含む負極合剤層を有し、
前記負極合剤層は、前記セパレータを挟んで前記正極板の正極合剤層に対向する対向部と前記正極合剤層に対向しない縁部に非対向部とを有し、
前記負極合剤層の前記非対向部の少なくとも一部であって、前記非対向部の長手方向に対する幅が0.5mm以上で、かつ前記対向部を含まない部分の空隙率は、前記対向部の空隙率に比べて小さい
非水電解質二次電池用極板群。
【請求項2】
前記非対向部は、縁部のうちで二次電池の上下方向に延びている部分の空隙率が前記対向部の空隙率に比べて小さい
請求項1に記載の非水電解質二次電池用極板群。
【請求項3】
複数の前記正極板と複数の前記負極板とがそれぞれ前記セパレータを介して積層されている
請求項2に記載の非水電解質二次電池用極板群。
【請求項4】
長尺の前記正極板と長尺の前記負極板とが長尺の前記セパレータを介して積層されて長尺方向に捲回されている
請求項2に記載の非水電解質二次電池用極板群。
【請求項5】
前記対向部の空隙率と前記非対向部の空隙率との差が5%以上である
請求項1~4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用極板群。
【請求項6】
前記非水電解質二次電池は、リチウムイオン二次電池である
請求項1~5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用極板群。
【請求項7】
正極板と負極板とがセパレータを挟んで対向配置される極板群を有する非水電解質二次電池であって、
前記極板群が請求項1~6のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用極板群である
非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電が可能である非水電解質二次電池の非水電解質二次電池用極板群、及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の一つであるリチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であることから、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)等の駆動用電源として用いられている。リチウムイオン二次電池は、電極基材の両面に電極の活物質を含む電極合剤層を設けた正極板及び負極板をセパレータを介して積層した極板群を有し、正極板と負極板との間にセパレータを介して電解液を保持する。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、電極合材層及びセパレータに電解液が浸透しているが、電極合剤層において電解液が偏在すると電流集中を生じさせてリチウムの析出要因となる。そこで、電解液を均一に分布させる技術の一例が特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の非水電解質二次電池は、極板群と非水電解質とを備える。極板群は、正極集電体上に所定の幅の正極活物質層が形成されている長尺状の正極板と、負極集電体上に正極活物質層を超える幅の負極活物質層が形成されている長尺状の負極板とが積層され捲回されている。正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも一方の空隙率(体積%)は、捲回軸方向の中心を含む中央領域と捲回軸方向の両端部を含む一対の端部領域とで異なっていて、端部領域の空隙率が中央領域の空隙率よりも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-207201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非水電解質二次電池は、負極板に電解液が浸透しているが、充放電に伴って極板群に生じる膨張及び収縮により、例えば高電流負荷時には負極板から電解液が排出される。負極板から排出される電解液の速さや流量は不均一である。このため、負極板内における電解液の不均一化によって塩濃度の不均一が生じて、負極板と正極板との間を流れる電流密度が偏る。この結果、負極板において電流の集中する部分でリチウムが析出して容量劣化が生じたり、電流の流れ難い部分で抵抗が増加したりするおそれがある。
【0007】
例えば、特許文献1に記載の技術は、負極板の端部領域で空隙率が大きいため、極板群の膨張や収縮で電解液が排出されやすく、塩濃度の不均一化による容量劣化や抵抗増加のおそれがある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、負極板における電解液分布の不均一化を抑制することのできる非水電解質二次電池用極板群、及び非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する非水電解質二次電池用極板群は、正極板と負極板とがセパレータを挟んで対向配置される非水電解質二次電池用極板群であって、前記負極板は、金属基板の表面に活物質を含む負極合剤層を有し、前記負極合剤層は、前記セパレータを挟んで前記正極板の正極合剤層に対向する対向部と前記正極合剤層に対向しない縁部に非対向部とを有し、前記負極合剤層の前記非対向部の少なくとも一部の空隙率は、前記対向部の空隙率に比べて小さい。
【0010】
上記課題を解決する非水電解質二次電池は、正極板と負極板とがセパレータを挟んで対向配置される極板群を有する非水電解質二次電池であって、前記極板群が上記記載の非水電解質二次電池用極板群である。
【0011】
極板群には電解液が保持されているが、極板の膨張によって極板群から電解液が排出されると電解液の分布及び塩濃度の不均一化が生じる。この点、このような構成によれば、高電流負荷時に負極板から電解液が排出されようとしても、空隙率の小さい非対向部が電解液を排出させる流れを堰き止めて、電解液を負極板の対向部に保持させる。これにより、負極板において塩濃度の不均一化、いわゆる電解液分布の不均一化が抑制されるようになる。
【0012】
好ましい構成として、前記非対向部は、縁部のうちで二次電池の上下方向に延びている部分の空隙率が前記対向部の空隙率に比べて小さい。
電解液は、重力の影響を受ける極板群の上側や、電解液に浸かっている極板群の下側からよりも極板群の側面から流出しやすい。この点、このような構成によれば、二次電池の上下方向に延びている非対向部の空隙率を小さくすることで電解液の流出を抑制することができる。
【0013】
好ましい構成として、複数の前記正極板と複数の前記負極板とがそれぞれ前記セパレータを介して積層されている。
積層型は、上側や底部に近接している下側からは電解液が排出され難い。そこで、この構成によるように、二次電池の上下方向に延びている非対向部の空隙率を小さくすることで電解液の流出が抑制される。
【0014】
好ましい構成として、長尺の前記正極板と長尺の前記負極板とが長尺の前記セパレータを介して積層されて長尺方向に捲回されている。
捲回型は、未開放部からは電解液が排出されない。そこで、この構成によるように、二次電池の捲回軸方向に開放部が延びているとき、開放部における非対向部の空隙率を小さくすることで電解液の流出を抑制することができる。
【0015】
好ましい構成として、前記対向部の空隙率と前記非対向部の空隙率との差が5%以上である。
このような構成によれば、非対向部により対向部からの電解液の排出が堰き止められる。よって、対向部に電解液が保持されることで電解液の分布が均一化される。
【0016】
好ましい構成として、前記空隙率の小さい前記非対向部は、前記非対向部の長手方向に対する幅が0.5mm以上である。
このような構成によれば、非対向部は、対向部からの電解液の排出を堰き止められる。
【0017】
好ましい構成として、前記非水電解質二次電池は、リチウムイオン二次電池である。
このような構成によれば、リチウムイオン二次電池の負極板からの電解液の排出が抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、負極板における電解液分布の不均一化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】非水電解質二次電池の極板群及び非水電解質二次電池の一実施形態を示す概略図。
図2】同実施形態において極板群の断面図。
図3】同実施形態において負極板の正面図。
図4】同実施形態において負極板の上面図。
図5】同実施形態において空隙率の差と、容量維持率との関係を示すグラフ。
図6】同実施形態において空隙率の差と、抵抗増加率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1図6に従って、非水電解質二次電池用極板群、及び、非水電解質二次電池の一実施形態を説明する。なお、本実施形態では、非水電解質二次電池はリチウムイオン二次電池である。以下、説明の便宜上、非水電解質二次電池を二次電池と記す。
【0021】
本実施形態の二次電池は、バスバーで複数が接続されることにより組電池を構成する。組電池は、電気自動車もしくはハイブリッド自動車に搭載され、電動モータ等に電力を供給する。二次電池は、外形が直方体形状の密閉式電池である。
【0022】
図1に示すように、二次電池10は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11と、電池ケース11の開口部を封止する蓋体12と、電池ケース11の内部に収容される非水電解質二次電池用極板群としての極板群20と、電池ケース11内に注入された液体状の非水電解質としての電解液27とを備える。電池ケース11及び蓋体12はアルミニウム合金等の金属で構成されている。二次電池10は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。また二次電池10は、蓋体12に、電力の充放電に用いられる2つの外部端子13を備えている。
【0023】
極板群20は、正極板21と負極板22とが交互にそれらの間にセパレータ23を挟んで積層方向(図1の紙面に垂直な方向)に積層されることで形成されている。本実施形態では、極板群20は、正極板21、負極板22及びセパレータ23がそれぞれ平面状に維持されたまま積層されることで積層型極板群を構成する。極板群20は、長手方向の一端側(図1において右側)に正極板21がはみ出た先端部分としての正極のリード部21Aと、同長手方向の他端側(図1において左側)に負極板22がはみ出た先端部分としての負極のリード部22Aとを有する。
【0024】
正極のリード部21Aは、極板群20の長手方向において正極板21の端部のみが配置されている部分であって、正極板21の端部が積層方向に機械的及び電気的に集合されている。また、正極のリード部21Aは、極板群20の短手方向に沿って、外部端子13に接続される集電板14が溶接されている。
【0025】
負極のリード部22Aは、極板群20の長手方向において負極板22の端部のみが配置されている部分であって、負極板22の端部が積層方向に機械的及び電気的に集合されている。また、負極のリード部22Aは、極板群20の短手方向に沿って、外部端子13に接続される集電板14が溶接されている。
【0026】
セパレータ23は、正極板21及び負極板22の間に電解液27を保持するための多孔性ポリオレフィン膜、及び多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。
【0027】
(電解液)
電解液27は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0028】
(正極板)
図2を参照して、正極板21は、電極芯体である金属基板としての正極基材211の各表面211Aにそれぞれ正極合剤が塗布された正極合剤層212を有している。正極基材211は、正極板21の長手方向に長さL211を有し、導電性の良好な金属からなる導電性材料としてのアルミニウム合金からなる薄膜(箔)である。よって正極板21は、正極合剤層212と、正極合剤が未塗布であるリード部21Aとを有している。リード部21Aは、正極板21の長手方向に範囲L212を有している。
【0029】
正極合剤は、正極活物質を含む。正極活物質は、遷移金属元素(すなわち、Ni、Co、及びMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種または複数種の元素を含有し得る。
【0030】
また、正極合剤は、導電材を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0031】
正極板21は、正極活物質、導電材、溶媒、及び結着剤(バインダー)等を混練し、混練後に正極合剤層212を含んで生成される電極用スラリーを正極基材211に塗布して乾燥された正極合剤層212を有して作製される。ここで、溶媒としては、例えばNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
【0032】
(負極板)
次に、負極板22は、電極芯体である金属基板としての負極基材221の各表面221Aにそれぞれ負極合剤が塗布された負極合剤層222を有している。負極基材221は、負極板22の長手方向に長さL221を有し、従来の二次電池の構成要素と同様の構成要素を用いることができ、導電性の良好な金属からなる導電性材料が好ましく用いられる。例えば、負極基材221は、銅やニッケルあるいはそれらの合金からなる薄膜(箔)である。よって負極板22は、負極合剤層222と、負極合剤が未塗布であるリード部22Aとを有している。
【0033】
負極合剤は、負極活物質30(図4参照)を含む。負極活物質30(図4参照)は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いることができる。そして、負極板22は、負極活物質30(図4参照)、溶媒、及びバインダー等を正極板21と同様に混練し、混練後に負極合剤層222を含んで生成される電極用スラリーを負極基材221に塗布して乾燥された負極合剤層222を有して作製される。バインダーは正極板21と同様の材料を用いることができる。
【0034】
(極板の対向関係)
図2に示すように、極板群20において、正極板21は負極板22よりも右側に突出されるようにリード部21Aが積層されており、負極板22は正極板21よりも左側に突出されるようにリード部22Aが積層される。セパレータ23は、正極板21と負極板22との短絡を防止するように、正極板21と負極板22とが直接対向する範囲と同じか、又は広い範囲となるように、正極板21と負極板22との間に配置されている。
【0035】
正極板21と負極板22とは、対向配置されているが、負極板22の負極合剤層222の範囲L223が、正極板21の正極合剤層212の範囲L213を含み、かつ、それよりも広範囲となるように積層される。
【0036】
よって、負極合剤層222の範囲L223は、正極合剤層212に対向する範囲L225と、正極合剤層212に対向しないリード部22A側の縁部としての範囲L224と、正極合剤層212に対向しないリード部22Aの反対側の縁部としての範囲L226とを有している。正極合剤層212の範囲L213よりも長く確保される負極合剤層222の範囲L223は、負極板22の範囲L224及び範囲L226の部分にそれぞれ非対向長さ、例えば0.5mm以上の長さを有する。
【0037】
(負極合剤層の空隙率)
図3及び図4を参照して、負極板22の負極合剤層222の空隙率について説明する。
図3に示すように、負極板22は、図において左右方向である長手方向に、リード部22Aから順に、第1非対向部224、対向部225、及び第2非対向部226を有している。
【0038】
リード部22Aは、負極基材221の各表面221Aが露出した部分であり、範囲L222である。第1非対向部224は、正極合剤層212に対向しない部分であって、負極合剤層222の範囲L223のうちの範囲L224である。対向部225は、正極合剤層212に対向する部分であって、負極合剤層222の範囲L223のうちの範囲L225である。第2非対向部226は、正極合剤層212に対向しない部分であって、負極合剤層222の範囲L223のうちの範囲L226である。
【0039】
対向部225は、対向する正極板21の正極合剤層212との間でリチウムイオンの授受が行われるため二次電池10の充放電性能に大きな影響を及ぼす部分である。一方、第1非対向部224及び第2非対向部226は、対向していない正極板21の正極合剤層212との間でリチウムイオンの授受が行われ難いため二次電池10の充放電の性能に対する影響が相対的に小さい部分である。
【0040】
図4に示すように、負極合剤層222は、対向部225の空隙率と、第1非対向部224及び第2非対向部226の空隙率とが相違する。なお、図示の便宜上、負極合剤層222は、負極合剤に含まれる負極活物質30のみ図示し、バインダー等の他の物質の図示を割愛する。空隙率は、負極合剤層中の単位面積(断面積)当たりの負極合剤の間にある空間(空隙)の割合を示しており、負極合剤の密度が小さいと空隙率が大きくなり、逆に、負極合剤の密度が大きいと空隙率が小さくなる。本実施形態では、対向部225の空隙率に対して、第1非対向部224及び第2非対向部226の空隙率が小さくなっている。例えば、対向部225の空隙率と、第1非対向部224及び第2非対向部226の空隙率との間には、5%以上の差、好ましくは10%以上の差がある。または、対向部225の空隙率は、第1非対向部224及び第2非対向部226の空隙率に対して0.9倍以下である。
【0041】
例えば、第1非対向部224及び第2非対向部226は、負極合剤の塗布回数が対向部225への塗布回数よりも多くなること、例えば二度塗りすることによって空隙率が小さくなる。
【0042】
本実施形態では、空隙率は、サンプルの断面において50平方μmにおける空隙面積の割合と定義した。また、サンプル数は10とした。つまり、各サンプルにおいて測定した断面SEM(走査型電子顕微鏡)の明るさを所定の閾値で二値化することで活物質等の占める面積(物質面積)を取得してから、各空隙率を「(50平方μm-物質面積)/50平方μm×100%」で算出し、これらの平均を空隙率とした。
【0043】
このように、対向部225の空隙率に対して、第1非対向部224及び第2非対向部226の空隙率を小さくすることによって対向部225に浸透している電解液27の負極板22からの排出が抑制される。
【0044】
(作用)
詳述すると、負極合剤層222は、負極合剤の間の空隙に電解液27が流動可能に浸透している。空隙率が大きくて負極合剤の配置が疎であると、負極合剤層222中の流路が広くなるため電解液27の流動抵抗が低くなる。逆に、空隙率が小さくて負極合剤の配置が密であると、負極合剤層222中の流路が狭くなるため電解液27の流動抵抗が高くなる。
【0045】
一般に、負極合剤層222は、電解液27の浸透が充分であることが好ましい。しかし、放電による縮小と、充電による膨張とを繰り返す負極合剤層222は、膨張による加圧で空隙率が小さくなり浸透している電解液27が排出される一方、収縮による減圧で空隙率が大きくなり外部の電解液27が浸透する。このとき、負極合剤層222から電解液27が排出される速度の方が、電解液27が浸透する速度よりも早いため、電解液27が排出されるとその後の充電時に電解液27の分布の不均一や電解液27の不足を生じる。電解液27の不足は、電解液27の浸透に時間を要する負極板22の中心で大きくなるおそれがある。また、電解液27の分布の不均一は、電池性能の低下を生じさせたり、電解液27のあるところに集中する大電流がリチウム析出による短絡を生じさせたりするおそれがある。
【0046】
本実施形態では、対向部225の空隙率に対して、第1非対向部224及び第2非対向部226に配置されている負極合剤の空隙率を小さくした。これにより、電解液27が対向部225から第1非対向部224及び第2非対向部226への流れを抑制して、負極板22から電解液27が排出されることを抑制した。これにより、電解液27の分布の不均一や電解液27の不足の発生が抑制されるようになる。
【0047】
図5及び図6を参照して、本実施形態の効果について説明する。
図5を参照して、負極合剤層222における対向部225の空隙率と第1非対向部224及び第2非対向部226の空隙率との差である空隙率の差と、二次電池10の容量維持率との関係について説明する。二次電池10の容量維持率は、二次電池10の当初の放電容量に対する、所定の条件で使用後の二次電池10の放電容量の割合である。ここで所定の条件は、環境温度20℃において、SOC(State of Charge:充電状態)0%から100%まで電流2Cで充電し、SOC100%から0%まで電流2Cで放電することを1サイクルとし、このサイクルを所定回数、例えば1500回行うことである。
【0048】
図5のプロットL5に示すように、容量維持率の測定結果は、空隙率の差が0.0%のとき83%であり、空隙率の差が2.6%のとき87%である。また、容量維持率の測定結果は、空隙率の差が5.0%のとき95%であり、空隙率の差が5.8%のとき94%であり、空隙率の差が8.0%のとき95%である。
【0049】
つまり、容量維持率は、空隙率の差が5.0%以上であるとき、空隙率の差が0.0%である場合に比べて12%大きく、空隙率の差が2.6%である場合に比べて8%大きい。よって、空隙率が5.0%以上であるとき、容量劣化が抑えられて、容量維持率が大きく維持されるようになる。
【0050】
図6を参照して、空隙率の差と、二次電池10の抵抗増加率との関係について説明する。なお、二次電池10の抵抗増加率は、二次電池10の当初の直流に対する内部抵抗(DC-IR)に対する、所定の条件で使用後の二次電池10の内部抵抗の割合である。ここで所定の条件は、環境温度20℃において、SOC50%から10秒間、電流7Cの定電流充電(CC充電)し、充放電しない状態を10分間維持した後、電流1Cで定電流定電圧放電(CCCV放電)し、充放電しない状態を10分間の維持することを1サイクルとし、このサイクルを所定回数、例えば300回行うことである。内部抵抗は、二次電池10の直流電流と直流電圧との測定に基づいて測定される。
【0051】
図6のプロットL6に示すように、抵抗増加率の測定結果は、空隙率の差が0.0%のとき135%であり、空隙率の差が2.6%のとき127%である。また、抵抗増加率の測定結果は、空隙率の差が5.0%のとき111%であり、空隙率の差が5.8%のとき110%であり、空隙率の差が8.0%のとき112%である。
【0052】
つまり、抵抗増加率は、空隙率の差が5.0%以上であるとき、空隙率の差が0.0%である場合に比べて33%~35%小さく、空隙率の差が2.6%である場合に比べて25%~27%小さい。よって、空隙率が5.0%以上であるとき、抵抗増加率が小さく維持されるようになる。
【0053】
本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)極板群20には電解液27が保持されているが、負極板22の膨張によって極板群20から電解液27が排出されると電解液27の分布及び塩濃度の不均一化が生じる。よって、高電流負荷時に負極板22から電解液27が排出されようとしても、空隙率の小さい第1非対向部224及び第2非対向部226で電解液27の排出が抑えられ、電解液27を負極板22の対向部225に保持させる。これにより、負極板22において塩濃度の不均一化、いわゆる電解液分布の不均一化が抑制されるようになる。
【0054】
(2)電解液27は、重力の影響を受ける極板群20の上側や、電解液に浸かっている極板群20の下側からよりも極板群20の側面から流出しやすい。よって、二次電池10の上下方向に延びている第1非対向部224及び第2非対向部226の空隙率を小さくすることで電解液27の流出を抑制することができる。
【0055】
(3)積層型は、上側や底部に近接している下側からは電解液27が排出され難い。そこで、二次電池10の上下方向に延びている第1非対向部224及び第2非対向部226の空隙率を小さくすることで電解液27の流出が抑制される。
【0056】
(4)対向部225の空隙率と第1非対向部224及び第2非対向部226の空隙率との差を5%以上とすることで、第1非対向部224及び第2非対向部226により対向部225からの電解液27の排出が堰き止められる。よって、対向部225には電解液27が保持されることで電解液27の分布が均一化される。
【0057】
(5)第1非対向部224及び第2非対向部226は、第1非対向部224及び第2非対向部226の長手方向に対する幅が0.5mm以上であるので、対向部225からの電解液27の排出を堰き止められる。
【0058】
(6)リチウムイオン二次電池の負極板22からの電解液27の排出が抑制される。
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0059】
・上記実施形態では、極板群20は、正極板21及び負極板22をセパレータ23を介して積層した積層型の構造である場合について例示した。しかしこれに限らず、二次電池の形状や使用目的に応じて適宜変更してもよい。例えば、長尺の正極板及び長尺の負極板を長尺のセパレータを介して扁平に捲回した捲回型の構造であってもよい。扁平に捲回された極板群は、四方のうち、捲回される正極板等の長尺方向は電極基材で覆われている未開放部なので電解液は排出されず、積層断面が開放されている捲回軸方向両端の開放部から電解液が排出される。よって、負極板の捲回軸方向両端になる非対向部の空隙率を小さくすることで負極板からの電解液の流出を抑制し、電解液分布の不均一化を抑制することができる。
【0060】
・上記実施形態では、第1非対向部224の空隙率と、第2非対向部226の空隙率とが同じである場合について例示したが、これに限らず、空隙率は、対向部の空隙率よりも小さければ、相違していてもよい。
【0061】
・上記実施形態では、第1非対向部224の空隙率や、第2非対向部226の空隙率が一定である場合について例示したが、これに限らず、対向部225の空隙率に比べて小さければ、第1非対向部において複数の空隙率があったり、第2非対向部において複数の空隙率があったりしてもよい。
【0062】
・上記実施形態では、第1非対向部224の空隙率や、第2非対向部226の空隙率が対向部225の空隙率よりも小さい場合について例示したが、これに限らず、第1非対向部の一部の空隙率や第2非対向部の一部の空隙率が対向部225の空隙率に比べて小さくてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、第1非対向部224の空隙率、及び第2非対向部226の空隙率が対向部225の空隙率よりも小さい場合について例示したが、これに限らず、第1非対向部の空隙率及び第2非対向部の空隙率のいずれか一方の空隙率のみが対向部の空隙率より小さくてもよい。
【0064】
・二次電池10は、電気自動車もしくはハイブリッド自動車に搭載されなくてもよい。例えば、二次電池10は、ガソリン自動車やディーゼル自動車等の車両に搭載されてもよい。また二次電池10は、鉄道、船舶、及び航空機等の移動体や、ロボットや、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…二次電池、11…電池ケース、12…蓋体、13…外部端子、14…集電板、20…極板群、21…正極板、21A…リード部、22…負極板、22A…リード部、23…セパレータ、27…電解液、30…負極活物質、211…正極基材、211A…表面、212…正極合剤層、221…負極基材、221A…表面、222…負極合剤層、224…第1非対向部、225…対向部、226…第2非対向部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6