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特許7093772赤外線センサデバイス及びその製造方法並びに赤外線センサデバイス・ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】赤外線センサデバイス及びその製造方法並びに赤外線センサデバイス・ユニット
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20220623BHJP
   G01J 5/06 20220101ALI20220623BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
G01J1/02 C
G01J5/06
H01L23/02 C
H01L23/02 F
H01L23/02 J
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019523982
(86)(22)【出願日】2018-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2018021949
(87)【国際公開番号】W WO2018225840
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2017113745
(32)【優先日】2017-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000242633
【氏名又は名称】北陸電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】森田 健文
(72)【発明者】
【氏名】古越 亮平
(72)【発明者】
【氏名】松井 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】今村 徹治
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-159866(JP,A)
【文献】特開2003-315148(JP,A)
【文献】特開昭58-066028(JP,A)
【文献】特開2005-188970(JP,A)
【文献】特開2016-014622(JP,A)
【文献】特開平07-063617(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0016762(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0253194(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00-G01J 1/60
G01J 5/00-G01J 5/90
H01L 23/00-H01L 23/66
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面に開口部を有する周壁部と、前記開口部と対向する対向壁部と、前記開口部を囲む前記周壁部の端面に該端面に沿って延びる閉ループ状の半田付け可能な第1の接合パターンを備え、前記対向壁部に赤外線を透過する赤外線透過部が設けられたキャップ部材と、
前記第1の接合パターンに沿って形成された閉ループ状の半田層と、
前記赤外線透過部を透過した赤外線を受光する1以上の赤外線検知センサ素子及び前記1以上の赤外線検知センサ素子の出力の温度補償に用いる1以上の温度補償用センサ素子と、前記半田層により前記第1の接合パターンに接合される半田付け可能な第2の接合パターンを備えて前記開口部を塞ぐセンサ付き基板とを備え、
前記キャップ部材と前記センサ付き基板とによって囲まれた内部空間が真空状態に保持されている赤外線センサデバイスであって、
前記キャップ部材の前記対向壁部及び前記周壁部には、前記赤外線透過部から入射した赤外線が、前記1以上の温度補償用センサ素子に直接当たるのを阻止するように前記内部空間を仕切る1以上の仕切り壁が一体に設けられており、
前記1以上の仕切り壁と前記基板との間には、前記赤外線透過部から入射した前記赤外線の通過を阻止するが気体の流通は許容する隙間が形成されており、
前記キャップ部材の前記端面と前記仕切り壁の自由端部の端面は面一状態あり、
前記隙間の厚みが、前記半田層の厚みに依存していることを特徴とする赤外線センサデバイス。
【請求項2】
前記1以上の温度補償用センサ素子は、前記内部空間の温度を測定する内部空間温度センサと参照温度センサである請求項1に記載の赤外線センサデバイス。
【請求項3】
前記キャップ部材の前記周壁部及び前記対向壁部は、シリコンを主成分とする材料によって形成され一体に成形されたキャップ本体と、前記キャップ本体の少なくとも前記赤外線透過部及び内壁面を除いて前記キャップ本体の外面を覆う半田付け可能な金属薄膜層とから構成され、
前記第1の接合パターンは、前記金属薄膜層によって形成されている請求項1に記載の赤外線センサデバイス。
【請求項4】
前記センサ付き基板はシリコンを主体とする支持基板と、前記赤外線検知センサ素子及び前記1以上の温度補償用センサ素子をそれぞれ構成するために、前記支持基板上に積層された複数のMEMSセンサ素子とを備えており、
前記第2の接合パターンは、半田付け可能な金属薄膜層によって形成されている請求項1またはに記載の赤外線センサデバイス。
【請求項5】
前記半田層の厚みが100μm以下である請求項1に記載の赤外線センサデバイス。
【請求項6】
前記仕切り壁の厚みが10μm以上である請求項1に記載の赤外線センサデバイス。
【請求項7】
前記1以上の仕切り壁が、間隔を開けて並ぶ二枚の仕切り壁から構成されており、
前記二枚の仕切り壁の間に形成されている第1のチャンバ内には、前記赤外線検知センサ素子が収納され、前記二枚の仕切り壁の一方の前記仕切り壁と前記周壁部との間に形成されている第2のチャンバ内には前記内部空間温度センサが収納され、前記二枚の仕切り壁の他方の前記仕切り壁と前記周壁部との間に形成されている第3のチャンバ内には前記参照温度センサが収納されている請求項に記載の赤外線センサデバイス。
【請求項8】
前記1以上の仕切り壁が、一枚の仕切り壁であり、
前記一枚の仕切り壁と前記周壁部との間に形成されている第1のチャンバ内には、2つの前記赤外線検知センサ素子が収納され、前記一枚の仕切り壁と前記周壁部との間に形成されている第2のチャンバ内には空間温度センサ素子と前記温度補償用センサ素子が収納されており、
前記2つの赤外線検知センサ素子、前記空間温度センサ素子及び前記温度補償用センサ素子は、それぞれ温度に依存する電気抵抗特性が同じ赤外線検出素子である請求項に記載の赤外線センサデバイス。
【請求項9】
請求項に記載の赤外線センサデバイスを備えて赤外線による温度上昇分の出力を発生する赤外線センサデバイス・ユニットであって、
前記2つの赤外線検知センサ素子の一方と前記空間温度センサ素子とが電気的に直列に接続された第1の直列回路と、
前記2つの赤外線検知センサ素子の他方と第1の負荷抵抗とが電気的に接続された第2の直列回路と、
前記温度補償用センサ素子と第2の負荷抵抗とが電気的に直列に接続された第3の直列回路とを備え、
前記第1の直列回路乃至第3の直列回路の一端が直流電源の一方の出力端子に電気的接続され、
前記第1の直列回路乃至第3の直列回路の他端が直流電源の他方の出力端子に電気的接続され、
前記第1の直列回路の中点から前記赤外線による温度上昇分に相当する信号が出力され、
前記第3の直列回路の中点から環境温度に相当する信号が出力されることを特徴とする赤外線センサデバイス・ユニット。
【請求項10】
前記第1の負荷抵抗及び前記第2の負荷抵抗が同じ抵抗値である請求項に記載の赤外線センサデバイス・ユニット。
【請求項11】
請求項に記載の赤外線センサデバイスを備えて赤外線による温度上昇分の出力と環境温度の出力とを発生する赤外線センサデバイス・ユニットであって、
前記2つの赤外線検知センサ素子の一方と前記空間温度センサ素子とが電気的に直列に接続された第1の直列回路と、
前記温度補償用センサ素子と前記2つの赤外線検知センサ素子の他方とが電気的に直列に接続された第2の直列回路とを備え、
前記第1の直列回路及び第2の直列回路の一端が直流電源の一方の出力端子に電気的接続され、
前記第1の直列回路及び第2の直列回路の他端が直流電源の他方の出力端子に電気的接続され、
前記第1の直列回路の中点から前記赤外線による温度上昇分に相当する一方の極性の信号が出力され、
前記第2の直列回路の中点から前記赤外線による温度上昇分に相当する他方の極性の信号が出力されることを特徴とする赤外線センサデバイス・ユニット。
【請求項12】
請求項1に記載の赤外線センサデバイスの製造方法であって、
前記キャップ部材の前記第1の接合パターン上または前記センサ付き基板の前記第2の接合パターンの一方の接合パターンの上に複数の半田ボールを前記一方の接合パターンに沿って配置し、
前記キャップ部材及び前記センサ付き基板との間に所定のスペースを開けた状態で、真空装置内で前記キャップ部材及び前記センサ付き基板を対向させ、
前記キャップ部材と前記センサ付き基板とを加熱しながら、前記真空装置を作動させて前記スペース内を所定の真空度にし、
前記複数の半田ボールが溶融状態になった後に、前記複数の半田ボールが溶融してできた溶融半田によって前記第1の接合パターンと前記第2の接合パターンの間に連続した溶融半田層を形成するように前記キャップ部材及び前記センサ付き基板を相対的に近付け、
その後前記加熱を停止して、前記連続した溶融半田層を凝固させることを特徴とする赤外線センサデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線センサデバイス及びその製造方法並びに赤外線センサデバイス・ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開平7-209089号公報(特許文献1)、特開平9-264784号公報(特許文献2)には、赤外線を透過する赤外線透過部が設けられたキャップ部材と、キャップ部材に設けた赤外線透過部を透過した赤外線を受光する赤外線検知センサ素子及び赤外線検知センサ素子の出力の温度補償に用いる1以上の温度補償用センサ素子を備えて、キャップ部材の開口部を塞ぐセンサ素子付き基板を備えた赤外線センサデバイスが開示されている。また特公昭62-57211号公報(特許文献3)には、第1乃至第3のサーミスタボロメータからなる赤外線検知センサ素子及び赤外線検知センサ素子の出力の温度補償に用いる1以上の温度補償用センサ素子が、採光窓部を備えたキャップ部材によって覆われた放射温度計等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-209089号公報
【文献】特開平9-264784号公報
【文献】特公昭62-57211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に示された従来の赤外線センサデバイスでは、赤外線透過部を透過した赤外線が内部空間内で反射して、1以上の温度補償用センサ素子にも当たるため、1以上の温度補償用センサ素子の出力を基準や補償にして温度補償精度を高めることに限界があった。
【0005】
本発明の目的は、検出精度が高い赤外線センサデバイス及びその製造方法並びに赤外線センサデバイス・ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の赤外線センサデバイスは、キャップ部材と、センサ付き基板と、キャップ部材とセンサ付き基板とを接合する半田層とを備えている。キャップ部材は、一面に開口部を有する周壁部と、開口部と対向する対向壁部と、開口部を囲む周壁部の端面に該端面に沿って延びる閉ループ状の半田付け可能な第1の接合パターンを備え、対向壁部に赤外線を透過する赤外線透過部が設けられている。半田層は、第1の接合パターンに沿って形成された閉ループ状を呈している。そしてセンサ付き基板は、赤外線透過部を透過した赤外線を受光する1以上の赤外線検知センサ素子及び該1以上の赤外線検知センサ素子の出力の温度補償に用いる1以上の温度補償用センサ素子と、半田層により第1の接合パターンに接合される半田付け可能な第2の接合パターンを備えて開口部を塞ぐ。そしてキャップ部材とセンサ付き基板とによって囲まれた内部空間が真空状態に保持されている。そして本発明では、キャップ部材の対向壁部には、赤外線透過部から入射した赤外線が、1以上の温度補償用センサ素子に直接当たるのを阻止するように内部空間を仕切る1以上の仕切り壁が一体に設けられている。そして1以上の仕切り壁とセンサ付き基板との間には、赤外線透過部から入射した赤外線の通過を阻止するが気体の流通は許容する隙間が形成されている。
【0007】
本発明によれば、仕切り壁を設けたことにより、赤外線が1以上の温度補償用センサ素子に直接当たるのを阻止することができる。その上仕切り壁とセンサ付き基板との間には、入射した赤外線の通過を阻止するが気体の流通は許容する隙間が形成されているので、この隙間を介して仕切り壁によって仕切られた隣り合う空間を同じ真空度に維持することができる。したがって赤外線が当たる条件を除いて、赤外線透過部を透過した赤外線を受光する赤外線検知センサ素子及び赤外線検知センサ素子の出力の温度補償に用いる1以上の温度補償用センサ素子を同じ環境下に置くことができる。その結果、1以上の温度補償用センサ素子を用いた温度補償を高い精度で実現することができ、検出精度が高い赤外線センサデバイスを提供できる。
【0008】
キャップ部材の端面と仕切り壁の自由端部の端面は面一状態あり、隙間の厚みが、半田層の厚みに依存しているのが好ましい。このようにすると、半田層の厚みが、仕切り壁の自由端部の端面とセンサ付き基板の上面との間の間隙の寸法を規定することになる。
【0009】
半田層の厚みは、100μm以下であるのが好ましい。この寸法範囲であれば、真空漏れを生じさせない連続した半田層を確実に形成することができる。
【0010】
1以上の温度補償用センサ素子は、内部空間の温度を測定する内部空間温度センサと参照温度センサである。
【0011】
キャップ部材の周壁部及び対向壁部は、シリコンを主成分とする材料によって形成され一体に成形されたキャップ本体と、キャップ本体の少なくとも赤外線透過部及び内壁面を除いてキャップ本体の外面を覆う半田付け可能な金属薄膜層とから構成されたものを用いるのが好ましい。この場合、第1の接合パターンは、金属薄膜層によって形成することができる。このような構成を採用すると小型化をすることができる。
【0012】
1以上の温度補償用センサ素子をそれぞれ構成するために、支持基板上に積層された複数のMEMSセンサ素子を備えており、第2の接合パターンは、半田付け可能な金属薄膜層によって形成されているのが好ましい。この構成によれば更に小型化をすることができる。
【0013】
仕切り壁の厚みが10μm以上であるのが好ましい。なお仕切り壁が、間隔を開けて並ぶ二枚の壁部から構成される二重構造を有していてもよい。この構造にすると、仕切り壁のトータルの厚みを薄くして、遮断効果を高めることができる。
【0014】
遮蔽効果を高めるためには、できるだけキャップ部材の壁の厚みや、仕切り壁の厚みを厚くするのが好ましい。
【0015】
1以上の仕切り壁が、間隔を開けて並ぶ二枚の仕切り壁から構成されている場合には、二枚の仕切り壁の間に形成されている第1のチャンバ内に、赤外線検知センサ素子が収納され、二枚の仕切り壁の一方の仕切り壁と周壁部との間に形成されている第2のチャンバ内には内部空間温度センサが収納され、二枚の仕切り壁の他方の仕切り壁と周壁部との間に形成されている第3のチャンバ内には参照温度センサが収納されているのが好ましい。このようにすると第1乃至第3のチャンバ内の温度の変化分を実質的に同じにすることができる。
【0016】
また1以上の仕切り壁が、一枚の仕切り壁である場合には、一枚の仕切り壁と周壁部との間に形成されている第1のチャンバ内には、2つの赤外線検知センサ素子を収納し、一枚の仕切り壁と周壁部との間に形成されている第2のチャンバ内には空間温度センサ素子と温度補償用センサ素子が収納し、2つの赤外線検知センサ素子、空間温度センサ素子及び温度補償用センサ素子として、それぞれ温度に依存する電気抵抗特性が同じ赤外線検出素子を用いるのが好ましい。このようにすると第1のチャンバに対して設けられる赤外線透過部の面積を大きくすることができ、2つの赤外線検知センサ素子の受光面を大きくすることができる。また第1のチャンバと第2のチャンバに同じ数のセンサ素子を配置すると、第1及び2のチャンバ内の温度の変化分を実質的に同じにすることができる。また4つのセンサ素子をブリッジ回路を構成することにより高感度化することが可能である。
【0017】
4つの赤外線センサデバイスを備えて赤外線による温度上昇分の出力と環境温度の出力とを発生する赤外線センサデバイス・ユニットを構成することができる。この赤外線センサデバイス・ユニットは、2つの赤外線検知センサ素子の一方と空間温度センサ素子とが電気的に直列に接続された第1の直列回路と、2つの赤外線検知センサ素子の他方と第1の負荷抵抗とが電気的に接続された第2の直列回路と、温度補償用センサ素子と第2の負荷抵抗とが電気的に直列に接続された第3の直列回路とを備えている。第1の直列回路乃至第3の直列回路の一端が直流電源の一方の出力端子に電気的接続され、第1の直列回路乃至第3の直列回路の他端が直流電源の他方の出力端子に電気的接続されている。そして第1の直列回路の中点から赤外線による温度上昇分に相当する信号が出力され、第3の直列回路の中点から環境温度に相当する信号が出力される。この赤外線センサデバイス・ユニットによれば、高い精度で赤外線による温度上昇分と環境温度を検出することができる。なお第1の負荷抵抗及び第2の負荷抵抗が同じ抵抗値であるのが好ましい。
【0018】
また赤外線センサデバイスを備えて赤外線による温度上昇分の出力だけを発生する赤外線センサデバイス・ユニットの場合には、2つの赤外線検知センサ素子の一方と空間温度センサ素子とが電気的に直列に接続された第1の直列回路と、温度補償用センサ素子と2つの赤外線検知センサ素子の他方とが電気的に直列に接続された第2の直列回路とを備え、第1の直列回路及び第2の直列回路の一端が直流電源の一方の出力端子に電気的接続され、第1の直列回路及び第2の直列回路の他端が直流電源の他方の出力端子に電気的接続された構成にすればよい。この構成では、第1の直列回路の中点から赤外線による温度上昇分に相当する一方の極性の信号が出力され、第2の直列回路の中点から赤外線による温度上昇分に相当する他方の極性の信号が出力される。この構成では、負荷抵抗等を用いることなく、赤外線による温度上昇分を検出することができる。
【0019】
本発明の赤外線センサデバイスの製造方法では、まずキャップ部材の第1の接合パターン上またはセンサ付き基板の第2の接合パターンの一方の接合パターンの上に、複数の半田ボールを一方の接合パターンに沿って配置する。そしてキャップ部材及びセンサ付き基板との間に所定のスペースを開けた状態で、真空装置内でキャップ部材及びセンサ付き基板を対向させる。次に、キャップ部材とセンサ付き基板とを加熱しながら、真空装置を作動させてスペーサ内を所定の真空度にする。次に、複数の半田ボールが溶融状態になった後に、複数の半田ボールが溶融してできた溶融半田によって第1の接合パターンと第2の接合パターンの間に連続した溶融半田層を形成するようにキャップ部材及びセンサ付き基板を相対的に近付ける。その後加熱を停止して、連続した溶融半田層を凝固させる。本発明によれば、複数の半田ボールが溶融してできた溶融半田によって第1の接合パターンと第2の接合パターンの間に連続した溶融半田層を確実に形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明に係る赤外線センサデバイスによると、赤外線検知センサ素子と温度補償用センサ素子を同じ環境下に置くことにより、高い検出精度を得ることができる。また本発明に係る赤外線センサデバイスの製造方法によると、検出精度の高い赤外線センサデバイスを高い歩留まりで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る赤外線センサデバイスの一つの実施の形態の構成を示す縦断面図であり、各層の厚さ等の寸法は説明のために適宜変更されている。
図2図1のII-II線に沿って切断したより詳細な端面図である。
図3】(A)は図1の実施の形態におけるセンサ付き基板と接合される前のキャップの周壁部の下端面を示す底面図であり、(B)は図3(A)に示したキャップ部材の一部をB-B線に沿って切断した拡大断面図であって、説明の便宜のために上下を反転して示してある。
図4】(A)(B)(C)(D)(E)(F)はそれぞれ、図1の赤外線センサデバイスの製造過程を示す縦断面図である。
図5図4に示した製造過程の各過程において設定されるトッププレートの温度及び荷重とボトムプレートの温度の経時変化を示す。
図6】本発明に係る赤外線センサデバイスの第2の実施の形態の構成を模式的に示す縦断面図である。
図7図6の実施の形態の赤外線センサデバイスを使用した赤外線出力検出用の回路の一例を示す回路図である。
図8図6の実施の形態の赤外線センサデバイスを使用した赤外線出力検出用の回路の他の例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る赤外線センサデバイスの一つの実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
[第1の実施の形態]
図1は本発明に係る赤外線センサデバイスの第1の実施の形態の構成を模式的に示す縦断面図であり、各層の厚さ等の寸法は説明のために適宜変更されている。また図2は、図1の第1の実施の形態をII-II線に沿って切断したより詳細な端面図であり、各部の厚み寸法は誇張して描いてある。図1に示すように、本実施の形態の赤外線センサデバイス1はキャップ部材10と、センサ付き基板20と、キャップ部材10とセンサ付き基板20とを接合する半田層30とを備えている。
【0024】
そして図2に具体的に示すように、キャップ部材10は、一面に開口部11を有する周壁部12と、開口部11と対向する対向壁部13と、開口部11を囲む周壁部12の下端面に該下端面に沿って延びる閉ループ状の半田付け可能な金属薄膜(本実施の形態では金のスパッタ膜)を成膜してパターニングした第1の接合パターン14[図3(A)]を備えている。対向壁部13には、赤外線を透過する赤外線透過部15が設けられている。
【0025】
キャップ部材10の本体は、上端面と下端面に絶縁膜16,17を被覆したシリコン単結晶体18にエッチングが施されて、一体に成形されている。図2に示すように、赤外線透過部15は、赤外線が対向壁部13のシリコン単結晶18を透過できるように、対向壁部13の他の部分よりも厚みが薄く形成されている。そしてこの赤外線透過部15の上の絶縁膜16は除去されている。絶縁膜16,17はSiN/SiO2膜であり、絶縁膜16の上には、薄膜層からなる赤外線遮断膜19が形成されている。絶縁膜16,17はSiN/SiO2膜であり、赤外線遮断膜19はスパッタリングまたはメッキにより形成されたNiCr/Au層である。第1の接合パターン14は、スパッタリングにより形成されたTi/Au(若しくはこれらの合金)薄膜により形成されている。
【0026】
半田層30は、第1の接合パターン14に沿って形成された閉ループ状を呈している。半田層30は高融点半田である金錫(AuSn)等の合金製であり、第1の接合パターン14に半田層30に対して半田濡れ性が高い材料が選択されている。
【0027】
シリコン基板にエッチングを施して形成されたセンサ付き基板20の上には、キャップ部材10の赤外線透過部15を透過した赤外線を受光する赤外線検知センサ素子21、内部空間の温度を測定する空間温度センサ素子22及び温度補償用センサ素子23が設けられている。空間温度センサ素子22及び温度補償用センサ素子23は、いずれも赤外線検知センサ素子21の出力の温度補償に用いる。これらのセンサ素子21,22及び23は、MEMS技術により形成されており、各センサ素子21,22及び23の下方には基板20からの熱的影響を抑制するために、空洞部20Aがエッチングにより形成されている。センサ素子21,22及び23は、同じ温度に対して、同様に変動する抵抗値、熱容量、熱伝導性を有しており、センサ素子21,22及び23をそれぞれ抵抗素子とするブリッジ回路(図示していない)を形成することにより、赤外線検知センサ素子21の出力に温度補償を施すことができる。
【0028】
センサ付き基板20の上面の周縁近くには、半田層30によりキャップ部材10の第1の接合パターン14に接合される半田付け可能な金属薄膜層である第2の接合パターン24が形成されている。キャップ部材10の下端面の第1の接合パターン14とセンサ付き基板20の上面の第2の接合パターン24との間を半田層30で接合することにより、キャップ部材10の開口部11を塞ぐ。これにより、キャップ部材10とセンサ付き基板20とによって囲まれた内部空間は外部に対して気密状態となり、キャップ部材10とセンサ付き基板20とが真空雰囲気で接合された場合、大気圧の下でも内部空間は真空状態に保持される。第2の接合パターン24もTi/Au薄膜により形成されている。
【0029】
キャップ部材10の対向壁部13及び周壁部に2つの仕切り壁31,32が一体に設けられている。各仕切り壁31,32は対向壁部13及び周壁部12とともに、キャップ部材10の内部空間を分けた3つのチャンバCH1~CH3を構成している。図1において、中心のチャンバCH1には赤外線検知センサ素子21が収容され、そして左のチャンバCH2には空間温度センサ素子22が、右のチャンバCH3には温度補償用センサ素子23がそれぞれ収容される。赤外線透過部15から入射する赤外線IRは各仕切り壁31,32によって遮断され、空間温度センサ素子22及び温度補償用センサ素子23に直接当たることがない。なお各仕切り壁31,32は、キャップ部材10の内部のシリコンを外壁を残して除去することにより内部空間を形成する際に、同時に形成すれば工数を増やさずに済む。赤外線を遮断できるように、仕切り壁31,32の厚みは、10μm以上に設定されている。なお仕切り壁31,32のチャンバCH1と対向する側面を、赤外線を反射する金属薄膜層で覆うようにしてもよい。
【0030】
他の実施の形態においては、キャップ部材10の周壁部12及び対向壁部13は、例えば単結晶シリコンのようなシリコンを主成分とする材料によって一体に成形されたキャップ本体と、キャップ本体の少なくとも赤外線透過部15及び内壁面を除いてキャップ本体の外面を覆う半田付け可能なTi/Au薄膜のような金属薄膜層とから構成されたものを用いる。この場合、第1の接合パターンは、金属薄膜層によって形成することができる。このような構成を採用すると小型化をすることができる。
【0031】
キャップ部材10とセンサ付き基板20とが接合された状態では、仕切り壁31,32の自由端部の端面31A,32Aとセンサ付き基板20の上面20Bとの間には、赤外線透過部15から入射した赤外線の通過を阻止するが気体の流通は許容する隙間gが形成されている。キャップ部材10の下端面10Aと仕切り壁31,32の自由端部の端面31A,32Aは面一に形成されているので、隙間gの厚みは半田層30の厚みに依存している。このようにすることで、半田層30の厚みが、仕切り壁31,32の自由端部の端面31A,32Aとセンサ付き基板20の上面20Bとの間の隙間gの寸法を規定する。本実施の形態における隙間gの寸法=半田層の厚みは、100μm以下である。
【0032】
赤外線検知センサ素子21、空間温度センサ素子22及び温度補償用センサ素子は、センサ付き基板20上に積層された複数のMEMSセンサ素子として構成されることにより、さらに小型化が図られている。すなわち各センサ素子21,22及び23は、センサ付き基板20の本体である単結晶シリコン層25上に、酸化、拡散、エッチング、薄膜堆積、フォトリソグラフィ、めっき等のMEMS技術を用いることにより形成されたMEMSセンサ素子である。
【0033】
図2に詳細に示す実際の構造では、単結晶シリコン層25の両面はSiN/SiO2膜である絶縁膜26,27が形成されている。絶縁膜26の上にTa/Pt薄膜製の電極層28、Ti/Au/Pt/Au薄膜製のリード層29、赤外線を検知するサーミスタ膜33、サーミスタ膜33を絶縁するシリコンジオキサイド(SiO2)製の絶縁膜34、及びシリコンオキシナイトライド(SiON)製の表面保護層35から構成される赤外線検知センサ素子21は、単結晶シリコン層25の上面をエッチングにより掘り下げて設けた空洞部20Aとキャップ部材10の内部空間の間に架橋したマイクロブリッジ構造を有している。これにより赤外線検知センサ素子21は超低熱容量を実現している。なお図2は端面図であるため、仕切り壁31は図示していない。
【0034】
図3(A)に示す第1の接合パターン14は、周壁部12の下端面のほぼ全面を覆って形成されている。第1の接合パターン14と第2の接合パターン24とを半田層30により接合する際には、ごく微小な部品への加工であるため、第1の接合パターン14の上に図3(B)のような複数の半田ボール37を設けている。第1の接合パターン14と第2の接合パターン24との間に半田ボール37を挟んだ状態で、これら半田ボール37を加熱して溶融し、溶融した半田材料を第1の接合パターン14と第2の接合パターン24との間に全体的に流動させて閉ループ状の溶融半田層を形成した後、これを冷却することにより半田層30を形成する方法が採用されている。この過程については後に詳しく述べる。
【0035】
図3(A)の第1の接合パターン14上には、四角形の角及び辺の中間に、合計8個の半田ボール37が配置されている。半田ボール37は金錫合金製であり、半田ボール37が第1の接合パターン14と第2の接合パターン24との間で溶融して冷却したときに、内部空間と外部との間に十分に気密性が保持できる厚さになり、且つ仕切り壁31,32の自由端部とセンサ付き基板20との間の隙間gが十分に気体を流通できる寸法になるように、半田ボール37の適正な大きさ及び実装される個数が選択されている。
【0036】
デバイスの小型化やコストダウンのためには半田層30の厚さ及び各接合パターンの幅はできる限り小さくすることが好ましい。しかしながら、半田ボール37の接合部の大きさは、技術上の制限があり、図3(B)に示すように第1の接合パターン14の幅W1とほぼ等しい140μmとするのが好ましい。
【0037】
次に、図1の実施の形態の製造過程について、図4及び図5を参照しつつ説明する。キャップ部材10とセンサ付き基板20との接合に先立って、キャップ部材10の第1の接合パターン14上(他の実施の形態ではセンサ付き基板の第2の接合パターン上に、複数の半田ボール37を第1の接合パターン14に沿って配置する。
【0038】
まず図4(A)に示すように、キャップ部材10及びセンサ付き基板20との間に所定のスペースを開けた状態で、真空装置内でキャップ部材10及びセンサ付き基板20を対向させる。所定のスペースは、キャップ部材10の半田ボール37の下端とセンサ付き基板20の第2の接合パターン24の上面との間に挟まれたスペーサSにより確保される。キャップ部材10の上方には、数cmの間隔を空けて、トッププレートTPが配置されている。センサ付き基板20はボトムプレートBPの上に載置されている。
【0039】
トッププレートTPは常温から半田ボール37が溶融する温度まで温度を上げることができ、また下方に移動して荷重を加えることができる。ボトムプレートBPも昇温可能であり、且つボトムプレートBPの下方に空気を流して放熱することにより常温まで冷却可能である。
【0040】
図4(A)の状態では、トッププレートTPもボトムプレートBPも常温であり、トッププレートTPとキャップ部材10との間には間隔が空いていて荷重をかけていない。このときの状態は、図5では(A)の期間である。
【0041】
次に、トッププレートTPとボトムプレートBPの昇温を開始し、キャップ部材10とセンサ付き基板20とを加熱しながら、真空装置を作動させてスペーサによって形成したスペース内を所定の真空度にする(図4(B)、図5の(B)の区間)。
【0042】
トッププレートTP及びボトムプレートBPの温度が半田ボール37の溶融温度近く(約250℃)に達したら約20分間予備加熱を行う(図4(C)、図5の(C)の区間)。続いてさらに両プレートの温度を320℃まで上昇させる(図4(D)、図5の(D)の区間)と半田ボール37が溶融を始める。半田ボール37の一部が溶融状態になった後、スペーサを抜き取り、トッププレートTPを下降させて、所定の荷重(2000N)になるまで加圧し、その後加圧を保持する(図4(E)、図5の(E)の区間)。
【0043】
これによって、キャップ部材10とセンサ付き基板20が相対的に近付き、各半田ボール37が溶融してできた溶融半田によって第1の接合パターン14と第2の接合パターン24の間に連続した溶融半田層を形成する。その後トッププレートTP及びボトムプレートBPの加熱を停止して、トッププレートTPは自然冷却、ボトムプレートBPは空冷により、連続した溶融半田層を冷却して凝固させて、半田層30が形成される(図4(F)、図5の(F)の区間)。さらにその後、両プレートが所定の温度(常温近く)に達したら、トッププレートTPによる加圧を解除し、真空装置内を大気開放する。
【0044】
本実施の形態の製造方法によれば、複数の半田ボール37が溶融してできた溶融半田によって第1の接合パターン14と第2の接合パターン24の間に連続した溶融半田層を確実に形成することができる。
【0045】
次に本実施の形態の作用について説明する。
【0046】
本実施の形態によれば、キャップ部材10の内部空間に仕切り壁31,32を設けたことにより、赤外線透過部15を透過した赤外線IRが空間温度センサ素子22及び温度補償用センサ素子23に直接当たるのを阻止することができる。その上仕切り壁31,32の下端とセンサ付き基板20の上面との間には、入射した赤外線IRの通過を阻止するが気体の流通は許容する隙間gが形成されているので、この隙間gを介して仕切り壁31,32によって仕切られた隣り合うチャンバを同じ真空度に維持することができる。
【0047】
したがって赤外線IRが当たる条件を除いて、赤外線透過部15を透過した赤外線IRを受光する赤外線検知センサ素子21、赤外線検知センサ素子の出力の温度補償に用いる空間温度センサ素子22、及び温度補償用センサ素子23を同じ環境下に置くことができる。その結果、空間温度センサ素子22及び温度補償用センサ素子23を用いた温度補償を高い精度で実現することができ、検出精度が高い赤外線センサデバイスを提供できる。
【0048】
(変形例)
上記実施の形態では、仕切り壁31,32をそれぞれ1枚の壁部で構成している。この場合、厚みを増すことにより赤外線の遮断能力は増大する。しかし仕切り壁31,32を、間隔を開けて並ぶ二枚の壁部から構成される二重構造にしてもよいのは勿論である。
【0049】
また遮断効果を高めるためには、できるだけキャップ部材の壁の厚みや、仕切り壁の厚みを厚くするのが好ましい。
【0050】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明に係る赤外線センサデバイスの第2の実施の形態の構成を模式的に示す縦断面図であり、各層の厚さ等の寸法は説明のために適宜変更されている。図6には、図1の第1の実施の形態と同様の部分には、図1に付した符号の数に100の数を加えた数の符号を付して説明を省略する。
【0051】
本実施の形態では、一枚の仕切り壁131によってキャップ部材10の内部空間を第1のチャンバCH1と第2のチャンバCH2とに仕切っている。本実施の形態でも、キャップ部材110とセンサ付き基板120とが接合された状態では、仕切り壁131の自由端部の端面131Aとセンサ付き基板20の上面20Bとの間には、赤外線透過部115から入射した赤外線の通過を阻止するが気体の流通は許容する隙間gが形成されている。隙間gの厚みは半田層130の厚みに依存している。本実施の形態における隙間gの寸法=半田層の厚みは、100μm以下である。
【0052】
またシリコン基板にエッチングを施して形成されたセンサ付き基板120の上には、キャップ部材110の赤外線透過部115を透過した赤外線を受光する赤外線検知センサ素子121A及び121B、内部空間の温度を測定する空間温度センサ素子122及び温度補償用センサ素子123が設けられている。空間温度センサ素子122及び温度補償用センサ素子123は、いずれも赤外線検知センサ素子121A及び121Bの出力の温度補償に用いる。これらのセンサ素子121A及び121B,122及び123も、MEMS技術により形成されており、センサ素子121A及び121Bと,センサ素子122及び123の下方には基板120からの熱的影響を抑制するために、空洞部120Aがエッチングにより形成されている。各センサ素子121A及び121B,122及び123は、同じ温度に対して、同様に変動する抵抗値、熱容量、熱伝導性を有している。
【0053】
本実施の形態では、第1のチャンバCH1には2つの赤外線検知センサ素子121A及び121Bが収容されており、第2のチャンバCH2には空間温度センサ素子122及び温度補償用センサ素子123が収容されている。赤外線透過部115から入射する赤外線は仕切り壁131によって遮断され、空間温度センサ素子122及び温度補償用センサ素子123に直接当たることがない。赤外線を遮断できるように、仕切り壁131の厚みは、10μm以上に設定されている。
【0054】
このようにすると第1のチャンバCH1に対して設けられる赤外線透過部115の面積を大きくすることができ、2つの赤外線検知センサ素子121A及び121Bの受光面を大きくすることができる。また本実施の形態のように、第1のチャンバCH1と第2のチャンバCH2に同じ数のセンサ素子を配置すると、第1及び2のチャンバ内の温度の変化分を実質的に同じにすることができる。
【0055】
図7には、図6の実施の形態の赤外線センサデバイス101を使用した赤外線センサデバイス・ユニットの回路の一例が示されている。図7では、枠によって囲まれた部分が、赤外線センサデバイス1の回路部分である。各センサ素子121A及び121B,122及び123は、同じ温度に対して、同様に変動するほぼ同じ抵抗値(Rs=Rd=Rr=Rref)、同じ熱容量、同じ熱伝導性を有する赤外線検出素子(ボロメータ)である。図7においてRLは、センサ外部に作成された第1及び第2の負荷抵抗RL1及びRL2であり、同じ抵抗値のものが用いられている。
【0056】
この赤外線センサデバイス・ユニットは、赤外線検知センサ素子121Aと空間温度センサ素子122とが電気的に直列に接続された第1の直列回路と、赤外線検知センサ素子121Bと第1の負荷抵抗RL1とが電気的に接続された第2の直列回路と、温度補償用センサ素子123と第2の負荷抵抗RL2とが電気的に直列に接続された第3の直列回路とを備えている。第1の直列回路乃至第3の直列回路の一端が直流電源DCのプラスの出力端子に電気的接続され、第1の直列回路乃至第3の直列回路の他端が直流電源のマイナスの出力端子に電気的接続されている。そして第1の直列回路の赤外線検知センサ素子121Aと空間温度センサ素子122の接続点(中点)から赤外線による温度上昇分に相当する信号が出力される。また第3の直列回路の温度補償用センサ素子123と第2の負荷抵抗RL2の接続点(中点)から環境温度に相当する信号が出力される。この赤外線センサデバイス・ユニットによれば、高い精度で赤外線による温度上昇分と環境温度を検出することができる。
【0057】
センサ素子の抵抗値が変化する要因として以下の条件が考えられる。
【0058】
T1・・・赤外線を受光することでの温度変化
T2・・・ボロメータに電流が流れることで発生する熱による温度変化
T3・・・周辺温度の変化による温度変化
第1のチャンバCH1のみがT1の温度変化を捉えることが可能であり、T3の温度変化は全てのセンサ素子に一様に作用する。T2の影響について考えると、赤外線検知センサ素子121A及び空間温度センサ素子122には電流IaによりTaの温度上昇が発生する。センサ素子121Bには電流IbによりTbの温度上昇が発生する。温度補償用センサ素子123には電流IcによりTcの温度上昇が発生する。ここで、第1のチャンバCH1及び第2のチャンバCH2の電流による温度上昇の総和はそれぞれ
第1のチャンバの温度上昇の総和T2=Ta+Tb
第2のチャンバの温度上昇の総和T2=Ta+Tc
となる。ここで電流Ibと電流Icは、センサ素子121Bと温度補償用センサ素子123が同じ特性を有していることから、電流Ibと電流Icとは実質的に同じであると考えることができ、同様に温度変化TbとTcはほぼ同じであるといえる。
【0059】
このように回路を形成することで電流による温度上昇分は第1のチャンバCH1と第2のチャンバCH2で実質的に同じにすることができる。実際には各センサ素子の細かいバラつきや、赤外線検知センサ素子121Bが受ける赤外線の影響等によって完全に第1のチャンバCH1の温度上昇の総和T2と第2のチャンバCH2の温度上昇の総和T2が完全に同じになることはないが、この回路では第1のチャンバCH1と第2のチャンバCH2のそれぞれのT2の差分を限りなく小さくすることが可能である。これにより赤外線検知センサ素子121Aと空間温度センサ素子122を直列に配置しその中点出力を読み取ることで、赤外線による温度上昇分の出力(IR出力)、すなわち赤外線を受光することでの温度変化T1のみをとらえることが可能となる。またこの回路では、温度補償用センサ素子123と負荷抵抗RLとの中点出力が環境温度出力となる。
【0060】
図8は、図6の実施の形態の赤外線センサデバイス101を使用した赤外線センサデバイス・ユニットの回路の他の例が示されている。図8では、枠によって囲まれた部分が、赤外線センサデバイス1の回路部分である。この回路では、赤外線検知センサ素子121Aと空間温度センサ素子122とが電気的に直列に接続された第1の直列回路と、温度補償用センサ素子123との赤外線検知センサ素子121Bとが電気的に直列に接続された第2の直列回路とを備えている。第1の直列回路及び第2の直列回路の一端が直流電源DCのプラス出力端子に電気的接続され、第1の直列回路及び第2の直列回路の他端が直流電源のマイナスの出力端子に電気的接続されている。この構成では、第1の直列回路の外線検知センサ素子121Aと空間温度センサ素子122の接続点(中点)から赤外線による温度上昇分に相当する一方の極性(+)の信号が出力され、第2の直列回路の温度補償用センサ素子123との赤外線検知センサ素子121Bの接続点(中点)から赤外線による温度上昇分に相当する他方の極性(-)の信号が出力される。それぞれの中点出力の差分、すなわちIR出力+とIR出力-の差分を読み取ることで、より効率良く赤外線による温度変化T1を取り出すことができる。また電流による温度変化量T2の影響については、各素子にはIaの電流が流れるため、第1のチャンバの温度上昇の総和T2と第2のチャンバの温度上昇の総和T2はほぼ等しくなる。第1のチャンバの温度上昇の総和T2=第2のチャンバの温度上昇の総和T2=Taとなる。
【0061】
なお本実施の形態の赤外線センサデバイスの使用方法は、上記回路を用いることに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0062】
1,101 赤外線センサデバイス
10,110 キャップ部材
11,111 開口部
12,112 周壁部
13,113 対向壁部
14 第1の接合パターン
15,115 赤外線透過部
20,120 センサ付き基板
21,121 赤外線検知センサ素子
22,122 空間温度センサ素子
23,123 温度補償用センサ素子
24 第2の接合パターン
30,130 半田層
31,C32,131 仕切り壁
IR 赤外線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8