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特許7093778屈曲流路を内蔵したタンジェンシャルフロー分離エレメント
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】屈曲流路を内蔵したタンジェンシャルフロー分離エレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/06 20060101AFI20220623BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/28 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/30 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/46 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/50 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20220623BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220623BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B01D63/06
B01D69/00
B01D71/02
B01D71/26
B01D71/28
B01D71/30
B01D71/32
B01D71/42
B01D71/44
B01D71/46
B01D71/50
B01D71/56
B01D71/64
B01D71/68
B01D69/10
B01D69/12
C04B38/00 304Z
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2019533557
(86)(22)【出願日】2017-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 FR2017053537
(87)【国際公開番号】W WO2018115639
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】1663058
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512226871
【氏名又は名称】テクノロジ アバンセ エ メンブラン アンデュストリエレ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レコシュ, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】アンクティーユ, ジェローム
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/193574(WO,A1)
【文献】特表2016-530073(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024058(WO,A1)
【文献】特開昭48-19483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理流動媒体を濾過液と保持液とに分離するためのクロスフロー分離エレメントであって、上記分離エレメントは一体成形の剛性多孔質支持体(2)を含み、上記支持体の容積内には、上記被処理流動媒体の入口(6)と上記保持液の出口(7)との間で上記被処理流動媒体の流れを通過させるための少なくとも1本の流路(4i)が配置されており、上記一体成形の剛性多孔質支持体は、上記支持体を通過した上記濾過液を回収するための外面(3)を有し、少なくとも1本の流路(4i)は、基準軸(Ai)を中心にして曲線経路(Hi)に沿って生成平面断面(Si)をスイープすることで画定される屈曲流容積(Vi)を上記入口と上記出口との間に有し、上記基準軸(Ai)は上記生成断面(Si)と交差せず、上記多孔質支持体の容積内に含まれていることを特徴とするクロスフロー分離エレメント。
【請求項2】
少なくとも1本の流路(4i)の上記屈曲流容積(Vi)は、上記入口と上記出口との間のその長さの一部のみ、あるいはその入口から出口までのその全長に亘って画定されることを特徴とする請求項1に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項3】
上記一体成形の剛性多孔質支持体(2)は、上記支持体内に配置された複数本の流動媒体用流路(4i)を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項4】
少なくとも1本の流路(4)は、面積が一定又は可変の生成断面(Si)を有することを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項5】
少なくとも1本の流路(4i)は、形状が一定又は可変の生成断面(Si)を有することを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項6】
少なくとも1本の流路(4i)の生成断面は、一定の距離で上記基準軸(Ai)から離れていることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項7】
少なくとも1本の流路(4i)の生成断面は、可変の距離で上記基準軸(Ai)から離れていることを特徴とする請求項6に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項8】
上記基準軸(Ai)は、少なくとも1本の流路(4i)の生成断面に接していることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項9】
分離仕切り(11)によって互いに分離されるように適合された距離Rで上記基準軸(Ai)から離れている生成断面をそれぞれ有する少なくとも一連の複数の流路を備えることを特徴とする請求項1~8の何れかに記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項10】
少なくとも1本の流路(4i)の生成断面(Si)は、上記入口と上記出口との間の少なくとも一部に亘って一定又は可変の方向に平行移動する動きと、一定又は可変のピッチ(p)で上記基準軸(Ai)を中心に左回り又は右回りに回転する動きとを組み合わせて得られる経路に従うことを特徴とする請求項1~9の何れか一項に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項11】
上記経路のピッチpは0.1mm~250mmの範囲であり、上記曲線経路(H1)と上記基準軸(A1)との間の距離(R)は0.1mm~100mmの範囲であることを特徴とする請求項10に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項12】
上記入口と上記出口との間の少なくとも一部に亘る少なくとも1本の流路(4i)の生成断面(Si)は、螺旋経路(Hi)に従うことを特徴とする請求項1~11の何れか一項に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項13】
上記入口(6)及び上記出口(7)からの限られた一部に亘る少なくとも1本の流路(4i)の生成断面(Si)は、上記基準軸に平行な平行移動の動きから得られる経路(Hi)に従うことを特徴とする請求項1~12の何れか一項に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項14】
少なくとも1本の流路(4i)は、上記基準軸に対して垂直に又は平行に延在する生成断面(Si)を有することを特徴とする請求項1~13の何れか一項に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項15】
上記多孔質支持体(2)は、ポリアミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリスチレン、アルミド、ポリフェニルスルホン、熱可塑性フッ化エラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、エポキシ、アクリレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエーテルイミド、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、及びこれらの混合物などの有機材料から;酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化ケイ素、サイアロン、グラファイトカーボン、炭化ケイ素、炭化タングステン、及びこれらの混合物などの無機材料から;アルミニウム、アルミニウム合金、コバルト-クロム合金、ニッケル合金、ニッケル-クロム合金、鋼及びステンレス鋼、チタン、チタン合金、銅-スズ合金、銅-スズ-アルミニウム合金、銅-亜鉛合金、及びこれらの混合物などの金属材料から選択される材料から作製されることを特徴とする請求項1~14の何れか一項に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項16】
上記クロスフロー分離エレメントは、多孔質支持体(2)と、各流路(4i)の内壁に連続して堆積した少なくとも1つの分離層とを含み、各分離層は、酸化物、窒化物、炭化物、他のセラミック材料、及びこれらの混合物から選択されるセラミックから、特に、他のセラミック材料と混合されていてもよい酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、又はこれらの混合物、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、又は炭化ケイ素から作製されることを特徴とする請求項1~15の何れか一項に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項17】
上記流路(4i)の水力直径は0.5mm~20mmの範囲であることを特徴とする請求項1~16の何れかに記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項18】
各流路(4i)の水力直径は一定又は可変であることを特徴とする請求項1~17の何れかに記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項19】
上記支持体(2)の平均孔径は4μm~100μmの範囲であることを特徴とする請求項1~18の何れかに記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項20】
上記平均孔径は、容積分布のd50値であって、全細孔容積の50%がこのd50値より小さい孔径を有する細孔が占める容積と一致する値に相当し、上記容積分布は、水銀圧入法、例えばISO規格15901-1:2005に記載の方法によって得られることを特徴とする請求項19に記載のクロスフロー分離エレメント。
【請求項21】
請求項1~20の何れかに記載のクロスフロー分離エレメントを製造する方法であって、上記支持体が、個々の層を形成し、順次互いに重ねて結合させることにより、請求項1~20の何れか一項に記載の少なくとも1本の屈曲流路(4i)が内部に配置された上記支持体の三次元形状を徐々に形成することによって作製されることを特徴とする方法。
【請求項22】
付加製造技術により上記支持体を作製することからなり、上記付加製造技術は、コンピュータ支援設計ソフトウェアを用いて、上記支持体の形状を薄片に分割し、以下の2つの工程を繰り返して該薄片を1枚ずつ個々の層として形成し、順次互いに重ねて結合させるものであり、上記2つの工程は、上記支持体を形成するための一定の厚みの均一で連続した粉末材料床であって、上記層として見たときに形成する上記多孔質体の断面より大きい面積を覆う粉末材料床を堆積させる工程と、堆積させた材料の一部を層ごとに所定のパターンに従って局所的に固化して個々の層を形成する工程とからなり、上記2つの工程は、各繰り返しにおいて、このように形成された個々の層を同時にその前に形成された層と結合させて、上記支持体の形状を徐々に形成するように繰り返されることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理流動媒体を濾過液と保持液とに分離するためのクロスフロー分離エレメント(一般に濾過膜と言われる)の技術分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、濾過液流を増やすことができ、及び/又は上記分離エレメントを用いた装置のエネルギー消費の削減に役立つ上記分離エレメントの新規な流路形状に関する。
【0003】
本発明はまた、付加製造技術により上記クロスフロー分離エレメントを製造する方法も提供する。
【背景技術】
【0004】
膜を使用した分離法は多くの分野で用いられている。具体的には、環境分野では飲料水の製造や工業廃水の処理に用いられており、化学、石油化学、製薬、及び農業食品工業やバイオテクノロジー分野でも用いられている。
【0005】
膜は、選択的バリアを構成し、移送力の影響下で被処理流動媒体中の特定の成分を透過させたり遮断したりする。各成分は、膜の孔径に対するそれらの大きさによって透過したり、遮断されたりするため、膜はフィルターとして機能する。このような技術は、孔径に応じて「精密濾過」、「限外濾過」又は「ナノ濾過」と呼ばれる。
【0006】
様々な構造及び組織を持つ膜が存在する。一般に、膜は多孔質支持体で構成されており、この多孔質支持体は膜に機械強度を付与すると共に、流路の数及び形状を画定して膜の総濾過面積を決定する。具体的には、これら流路の内壁に設けられた「分離層」、「濾過層」、「セパレーター層」、「活性層」、又は「スキン」と呼ばれる層が分離を行う。分離の際、濾過された流体は分離層を通って移動した後、支持体の多孔質構造を通って拡散して、多孔質支持体の外周面へと向かう。被処理流体のうち、このように分離層と多孔質支持体を通過したものは、「透過液」又は「濾過液」と呼ばれ、膜周辺に設けられた回収チャンバで回収される。残りのものは、「保持液」と呼ばれ、通常、循環ループによって膜の上流側の被処理流体中に再注入される。
【0007】
従来の方法では、支持体がセラミック材料から作製される場合、まず押出成形により支持体を所望の形状に形成した後、得られるセラミックが所望の開放型相互接続多孔質組織を保持しつつ必要な硬さを確保するのに十分な温度及び時間で焼結される。この方法は、1本以上の直線流路を形成することに限定され、その流路内には分離層を堆積して焼結する。従来、支持体は管状であり、支持体の中心軸に平行に配置された1本以上の直線流路を有する。一般に、流路の内面は平滑であり、凹凸は存在しない。
【0008】
しかしながら、このような形状を持つ支持体を用いて製造された濾過膜は、目詰まり、すなわち「ファウリング」という問題があり、その結果、処理量の点で性能が制限されることが分かっている。具体的には、小粒子と巨大分子が分離層表面に吸着したり、そこに堆積してゲル又は沈着物となったり、さらには細孔内に入り込んでその一部を閉塞してしまうことがある。
【0009】
濾過エレメントを用いた全ての膜分離、特にクロスフロー分離は、選択的移動の原理に基づいており、その有効性は、膜(活性層)の選択性と、濾過エレメント全体(支持体+活性層)としての透過性(流れ)とに依存する。選択性及び透過性は、単に活性層とその支持体の性質によって決定されるものではない。これらは、濃度分極、沈着、又は細孔の閉塞による目詰まりの発生によって低減又は制限され得るからである。
【0010】
濃度分極現象は、濾過操作中に被処理液体中に存在する巨大分子が膜/液界面で濃縮されると発生する。該界面において、巨大分子は、分離力に対抗する逆浸透圧を与えたり、フィックの法則に従って被処理液体の中心に拡散し戻ったりする。濃度分極現象は、保持された化合物が溶媒の透過によって膜付近に蓄積することにより生じる。
【0011】
濃縮相がゲル又は凝集沈着物として現れる程に膜表面での粒子濃度が上昇すると、膜の抵抗に加えて流体抵抗も生じる。
【0012】
細孔の孔径以下の粒径を有する粒子が侵入すると、細孔は閉塞されて濾過面積が減少する。
【0013】
目詰まり及びその可逆性又は不可逆性は、濾過エレメント、特に分離層、被処理液体、及び操作パラメータに依存する複雑な現象である。
【0014】
目詰まりは、濾過の経済的魅力を制限する主要な要因である。濾過装置の寸法を決める際に、処理量要件を満たそうとすると設置面積が増大してしまい、また、洗剤を用いた洗浄サイクルや定期的な逆洗など、事後に目詰まりを改善するための特定の技術的手段を実施することが必要になるからである。
【0015】
先行技術では、濾過エレメントの流路内に乱流状態を生じさせて目詰まり現象を低減することを目的として、濾過液の流れを増加させる様々な技術的解決手段が既に提案されている。
【0016】
第一の解決手段として、特許文献1又は非特許文献1に教示されているように、管状濾過エレメント内の流路に、乱流又は渦を発生させる螺旋構造又はスクリューを挿入することが提案されている。流路に挿入された螺旋構造は、定位置(通常、流路の入口)に保持する必要がある別個の取付部品である。そのような螺旋構造を各流路に挿入して各流路の入口に固定することは困難であることが分かる。さらに、挿入したり、必要ならば取り出したりできるように、螺旋構造の直径は、流路そのものの直径よりも小さい。その結果、隙間が残り、これにより螺旋構造は流路内で「浮遊」し自由に振動することができるため、活性層にこすり付けられ、活性層に不可逆的に損傷してしまう。また、隙間が存在すると、流体の螺旋流を短絡する横漏れが起こり、これにより螺旋構造の有効性が低下する。
【0017】
他の解決手段では、流路の内壁内又は内壁上に刻み目又は凸部を設けてフィルター表面付近の流動媒体を妨害することにより、物質が蓄積して目詰まりを起こすのを抑えている。特許文献2では、断面が流路の全断面の約25%である一条、二条、又は三条の螺旋溝を各流路の壁に設けることが提案されている。特許文献3では、支持体の周壁は平滑であるが、刻み目のある壁を有する単一流路を備える多孔質管を作製することが教示されている。このため、多孔質管は、その軸に沿って配置された円筒ピンを備える押出ダイにより成形されており、ダイの出口ピン又は型は回転するように取り付けられ、その断面は円形ではない。
【0018】
流路の内面に溝又は刻み目を形成しても、流動媒体の全てが螺旋経路に沿うわけではないため、上記解決手段の利点は制限される。さらに、このような分離エレメントを製造する技術は、特定の種類の刻み目、主に、分離エレメントの一端から他端まで連続しており、流路の流れ断面に変化を生じさせることができない刻み目に限定される。さらに、複数の内部流路を備える分離エレメントの製造には転用できない。しかしながら、多流路分離エレメントは、濾過表面積を大きくして性能を向上させることができるため、その需要が増え続けている。
【0019】
同様に、特許文献4には、被処理流動媒体を濾過液と保持液とに分離するためのクロスフロー分離エレメントが提案されている。この分離エレメントは、一体成形の剛性多孔質支持体を含み、該多孔質支持体は、入口と出口との間で被処理流動媒体の流れを通過させるための少なくとも1本の流路を備える。多孔質支持体は、支持体を通過した濾過液を回収するための外面を有する。
【0020】
この文献では、被濾過流体の流れに対する障害物を流路の内壁に設けることを提案している。上記障害物は、支持体の材料及び多孔質組織と連続性を有する。特許文献5によれば、少なくとも1本の流路は、特に、支持体の内壁に配置された螺旋の形態の障害物を有する。そのような障害物は、流体の流れを邪魔したり妨害したりするので、流体の流れは障害物を迂回しなければならないため、目詰まりを低減するのに有用な乱流が発生する。しかし、それにも関わらず、各障害物のすぐ下流には流体の速度がほとんどゼロになる無効領域が同時に生じてしまうという大きな欠点がある。
【0021】
他の解決手段は、有機限外濾過膜において目詰まりを低減し、透過液の流れを増加させるためにディーン渦を発生させることに関する。したがって、非特許文献2は、円形断面を有する螺旋状に曲がった有機中空繊維においてディーン渦の出現と局所的に引き起こされる速度の増加とについてデジタルシミュレーションを用いて理論的に論じている。それにも関わらず、上記円形断面の直径は最大で2ミリメートル(mm)に制限されるという大きな欠点がある。また、上記文献に記載されるように有機繊維を曲げる方式によって、巻きのピッチと直径との依存関係が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】米国特許第3648754号明細書
【文献】欧州特許第0813445号明細書
【文献】仏国特許出願公開第2736843号明細書
【文献】仏国特許出願公開第3024665号明細書
【文献】仏国特許出願公開第3024664号明細書
【非特許文献】
【0023】
【文献】A.L.Ahmad,A.Mariadas,M.M.D.Zulkali,“Reduction of membrane fouling using a helical baffle for cross-flow microfiltration”,School of Chemical Engineering,University Sains Malaysia,2003
【文献】F.Springer,E.Carretier,D.Veyret,P.Moulin,“Developing lengths in woven and helical tubes with Dean vortices flows”,Engineering Applications of Computational Fluid Mechanics,Vol.3,No.1,pp.123-134(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
この文脈において、本発明は、分離エレメントを用いた装置において濾過液の流れを増加させ、かつエネルギー消費を削減するような形状を有する単一流路又は多流路構造を有する新規な剛性濾過エレメントを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この目的を達成するため、本発明は、被処理流動媒体を濾過液と保持液とに分離するためのクロスフロー分離エレメントを提供する。上記分離エレメントは、一体成形の剛性多孔質支持体を含み、上記支持体の容積内には、上記被処理流動媒体の入口と上記保持液の出口との間で上記被処理流動媒体の流れを通過させるための少なくとも1本の流路が配置されている。上記一体成形の剛性多孔質支持体は、上記支持体を通過した上記濾過液を回収するための外面を有する。本発明によれば、少なくとも1本の流路は、基準軸を中心にして曲線経路に沿って生成平面断面をスイープすることで画定される屈曲流容積を上記入口と上記出口との間に有し、上記基準軸は上記生成断面と交差せず、上記多孔質支持体の容積内に含まれている。
【0026】
また、上記分離エレメントは、以下の追加の特徴のうち1つ以上を組み合わせて含む。
・少なくとも1本の流路の上記屈曲流容積は、上記入口と上記出口との間のその長さの一部のみ、あるいはその入口から出口までのその全長に亘って画定される。
・上記一体成形の剛性多孔質支持体は、上記支持体内に配置された複数本の流動媒体用流路を有する。
・少なくとも1本の流路は、面積が一定又は可変の生成断面を有する。
・少なくとも1本の流路は、形状が一定又は可変の生成断面を有する。
・少なくとも1本の流路の生成断面は、一定の距離で上記基準軸から離れている。
・少なくとも1本の流路の生成断面は、可変の距離で上記基準軸から離れている。
・上記基準軸は、少なくとも1本の流路の生成断面に接している。
・分離仕切りによって互いに分離されるように適合された距離Rで上記基準軸から離れている生成断面をそれぞれ有する一連の複数の流路。
・少なくとも1本の流路の生成断面は、上記入口と上記出口との間の少なくとも一部に亘って一定又は可変の方向に平行移動する動きと、一定又は可変のピッチで上記基準軸を中心に左回り又は右回りに回転する動きとを組み合わせて得られる経路に従う。
・上記経路のピッチpは0.1mm~250mmの範囲であり、上記曲線経路と上記基準軸との間の距離は0.1mm~100mmの範囲である。
・上記入口と上記出口との間の少なくとも一部に亘る少なくとも1本の流路の生成断面は、螺旋経路に従う。
・上記入口及び上記出口からの限られた一部に亘る少なくとも1本の流路の生成断面は、上記基準軸に平行な平行移動の動きから得られる経路に従う。
・少なくとも1本の流路は、上記基準軸に対して垂直に又は平行に延在する生成断面を有する。
・上記多孔質支持体は、ポリアミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリスチレン、アルミド、ポリフェニルスルホン、熱可塑性フッ化エラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、エポキシ、アクリレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエーテルイミド、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、及びこれらの混合物などの有機材料から;酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化ケイ素、サイアロン、グラファイトカーボン、炭化ケイ素、炭化タングステン、及びこれらの混合物などの無機材料から;アルミニウム、アルミニウム合金、コバルト-クロム合金、ニッケル合金、ニッケル-クロム合金、鋼及びステンレス鋼、チタン、チタン合金、銅-スズ合金、銅-スズ-アルミニウム合金、銅-亜鉛合金、及びこれらの混合物などの金属材料から選択される材料から作製される。
・多孔質支持体と、各流路の内壁に連続して堆積した少なくとも1つの分離層であって、各分離層は、酸化物、窒化物、炭化物、他のセラミック材料、及びこれらの混合物から選択されるセラミックから、特に、他のセラミック材料と混合されていてもよい酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、又はこれらの混合物、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、又は炭化ケイ素から作製される。
・上記流路の水力直径は0.5mm~20mmの範囲である。
・各流路の水力直径は一定又は可変である。
・上記支持体の平均孔径は4マイクロメートル(μm)~100μmの範囲である。
・上記平均孔径は、容積分布のd50値であって、全細孔容積の50%がこのd50値より小さい孔径を有する細孔が占める容積と一致する値に相当し、上記容積分布は、水銀圧入法、例えばISO規格15901-1:2005に記載の方法によって得られる。
【0027】
本発明はまた、クロスフロー分離エレメントを製造する新規な方法を提供する。該方法では、上記支持体が、個々の層を形成し、順次互いに重ねて結合させることにより、本発明における少なくとも1本の屈曲流路が内部に配置された上記支持体の三次元形状を徐々に形成することによって作製される。
【0028】
さらに、本発明の方法は、付加製造技術により上記支持体を作製することからなり、上記付加製造技術は、コンピュータ支援設計ソフトウェアを用いて、上記支持体の形状を薄片に分割し、以下の2つの工程を繰り返して該薄片を1枚ずつ個々の層として形成し、順次互いに重ねて結合させるものであり、上記2つの工程は、上記支持体を形成するための一定の厚みの均一で連続した粉末材料床であって、上記層として見たときに形成する上記多孔質体の断面より大きい面積を覆う粉末材料床を堆積させる工程と、堆積させた材料の一部を層ごとに所定のパターンに従って局所的に固化して個々の層を形成する工程とからなり、上記2つの工程は、各繰り返しにおいて、このように形成された個々の層を同時にその前に形成された層と結合させて、上記支持体の形状を徐々に形成するように繰り返される。
【0029】
他の様々な特徴は、本発明の実施形態を非限定的な例として示す添付の図面を参照した以下の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1A】本発明における分離エレメントの第一の実施形態を示す端面図である。
図1B図1Aに示す分離エレメントの透視図である。
図1C図1Aの線C-Cに沿った分離エレメントの縦断面である。
図1D図1Bに示す分離エレメントに配置された屈曲流路を構築するのに用いられる経路を示す透視図である。
図2A】本発明における分離エレメントの流路の屈曲流容積がどのように構築されるかを示す。
図2B】F1~F5の参照番号を付し、他の場所にも記載した考えられる実施形態の様々な形状を示す本発明における屈曲流容積の透視図である。
図3A】本発明における屈曲流容積を構築する一例を示しており、上記容積を生成するための平面断面を含む平面は基準軸に対して90°傾斜している。
図3B図3Aに示す構築技術を用いて得られる本発明における屈曲流容積を示す。
図4A】本発明における屈曲流容積を構築する一例を示しており、上記容積を生成するための断面を含む平面は基準軸も含む。
図4B図4Aに示す構築技術により得られる本発明における屈曲流容積を示す。
図5A】本発明における屈曲流容積を構築するより一般的な例を示しており、生成平面断面を含む平面は、境界を除き、基準軸に対して0°~90°の傾斜角度を有する。
図5B図5Aに示す構築技術を用いて得られる本発明における屈曲流容積を示す。
図6】本発明における屈曲流容積を形成する一例を示す透視図であり、生成平面断面と基準軸との距離は、基準軸が生成断面に接するような距離である。
図7】本発明における屈曲流容積を形成する一例を示す透視図であり、生成平面断面と基準軸との距離は変化する。
図8】本発明における屈曲流容積を形成する一例を示す透視図であり、生成平面断面と基準軸との距離は一定であり、ピッチも一定であり、基準軸は曲線状である。
図9A】本発明における屈曲流容積を形成する一例を示す透視図であり、左回り経路は、基準軸に対して平行な直線経路によって右回り経路につながっている。
図9B図9Aにおける屈曲流容積の実施形態を示す断面図である。
図10A】生成断面の形状が変化する本発明における屈曲流容積の一実施形態を示す透視図である。
図10B】基準軸を通る縦平面断面に沿った図であり、図10Aにおける屈曲流容積の実施形態を示す。
図11A】生成断面の面積が変化する本発明における屈曲流容積の一実施形態を示す透視図である。
図11B】基準軸を通る縦平面断面に沿った図であり、図11Aにおける屈曲流容積の実施形態を示す。
図12A】本発明における屈曲流容積の一部を示す透視図であり、左回り経路の部分と右回り経路の部分とが直接交互に配置されている。
図12B図12Aにおける屈曲流容積の実施形態を示す透視図である。
図13A】本発明における1対の流路を備える支持体の端面図である。
図13B図13Aに示す本発明における1対の流路を有する支持体を示す透視図である。
図13C図13Aの線C-Cに沿った支持体の縦断面図である。
図13D図13A図13Cに示す2本の流路のそれぞれについて本発明における屈曲流容積V1及びV2を別々に示す透視図である。
図13E図13A図13Dに示す2本の流路のそれぞれについて本発明における屈曲流容積V1及びV2の経路H1及びH2を別々に示す透視図である。
図14A図13A図13Eにおける流路対を7回複製した支持体の端面図である。
図14B図13A図13Eに示す本発明における屈曲流容積が単一の支持体内に7回複製されたものを示す透視図である。
図15A】3つのカテゴリーの流路からなる23本の流路を備える支持体の端面図である。
図15B図15Aの線B-Bに沿った支持体の縦断面図である。
図15C図15Aに示す中央流路の流容積を示す透視図である。
図15D】中間カテゴリーに属する6本の流路のうち1本について本発明における屈曲流容積を示す透視図である。
図15E】中央流路を取り囲む中間カテゴリーに属する6本の流路について本発明における屈曲流容積を示す透視図である。
図15F】周辺カテゴリーに属する16本の流路のうち1本について本発明における屈曲流容積を示す透視図である。
図15G】中間カテゴリーの流路を取り囲む16本の周辺流路のうち1本について本発明における屈曲流容積を示す透視図である。
図15H図15D図15Gに示す中央流路を取り囲む22本の流路について本発明における屈曲流容積を単一の支持体内に示す透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
予め、本発明の文脈で用いられる用語の定義をいくつか以下に示す。
【0032】
「平均粒径」とは、体積分布のd50値であって、全粒子体積の50%が、このd50値より小さい粒径を有する粒子が占める体積と一致する値を意味する。体積分布は、粒子の体積頻度を粒径の関数として表した曲線(解析関数)である。d50値は、頻度曲線下の面積を二等分する中央値に相当し、レーザー回折による粒度測定によって得られる。この方法は、平均粒径を測定するために本発明の文脈において採用した参考技術である。d50の測定方法としては、具体的には以下のものが挙げられる。
・レーザーによる粒度測定技術としてISO規格13320:2009
・分析対象の粉末のサンプリング技術としてISO規格14488:2007
・レーザーによる粒度測定を実行する前の液体中の粉末サンプルの再現性のある分散法としてISO規格14887:2000
【0033】
「平均孔径」とは、容積分布のd50値であって、全細孔容積の50%がこのd50値より小さい孔径を有する細孔が占める容積と一致する値を意味する。容積分布は、細孔の容積頻度を孔径の関数として表した曲線(解析関数)である。d50値は、頻度曲線下の面積を二等分する中央値に相当し、平均孔径が数ナノメートル(nm)程度の場合は水銀圧入法によって得られ、それ未満の孔径の場合はN等のガス吸着法によって得られる。これら2つの方法は、平均孔径を測定するために本発明の文脈において参考技術として用いられる。
【0034】
具体的には以下に記載する技術を用いることができる。
・水銀圧入法による測定技術についてはISO規格15901-1:2005
・ガス吸着法による測定技術についてはISO規格15901-2:2006及び15901-3:2007
【0035】
本発明は、被処理流動媒体を濾過液と保持液とに分離するためのクロスフロー分離エレメントを提案する。上記クロスフロー分離エレメントは、1本以上の流路を備えた一体成形の多孔質支持体を含み、上記1本以上の流路は、被濾過流体の大部分又は全部に対して屈曲した波状の、好ましくは螺旋状の経路に沿った流れができるように選択された形状を有する。残りの流体は屈曲していない1本以上の流路を流れることができる。
【0036】
被濾過流体用の1本以上の流路は多孔質支持体内に配置されている。これら流路はそれぞれ入口と出口とを有する。一般に、流路の入口は、支持体の一端に位置し、この端部が被処理流動媒体の入口領域として機能する。出口は支持体の他端に位置し、保持液の出口領域として機能する。
【0037】
このような分離エレメントでは、支持体を構成する本体は多孔質の組織を有する。多孔質組織は、水銀圧入ポロシメトリーにより測定された分布から推定される平均孔径によって特徴付けられる。典型的には、多孔質支持体の平均孔径は4μm~100μmの範囲である。
【0038】
支持体の多孔質組織は開放されており、相互接続した細孔ネットワークを形成しているため、濾過分離層で濾過された流体は多孔質支持体を通過し、周辺で回収される。支持体の水透過率を測定して、支持体の流体抵抗を規定するのが慣例である。具体的には、多孔質媒体では、非圧縮性粘性流体の定常流はダルシーの法則に従う。仏国規格NF X45-101(1996年12月)などに従って測定できる「透過率」と呼ばれる特徴的パラメータによれば、細孔内の流体(透過液)の速度は圧力勾配に比例し、流体の動的粘度に反比例する。
【0039】
このようにして、透過液は多孔質支持体の周面から回収される。流路の壁は、被処理流動媒体の濾過を可能にする少なくとも1つの濾過分離層によって連続的に被覆されている。定義上、濾過分離層は、支持体よりも小さい平均孔径を有していなければならない。分離層は、被処理流体と接触するクロスフロー分離エレメントの表面を画定しており、この面に沿って被処理流体が流れる。
【0040】
濾過分離層の厚みは、典型的には1μm~100μmの範囲である。当然ながら、分離機能を果たし、活性層として機能するためには、各分離層の平均孔径は支持体の平均孔径よりも小さい。通常、濾過分離層の平均孔径は、支持体の平均孔径の1/3以下、好ましくは1/5以下である。
【0041】
精密濾過、限外濾過、及びナノ濾過分離層の概念は当業者によく知られている。一般には以下のように理解されている。
・精密濾過分離層の平均孔径は0.1μm~10μmの範囲である。
・限外濾過分離層の平均孔径は10nm~0.1μmの範囲である。
・ナノ濾過分離層の平均孔径は0.5nm~10nmの範囲である。
【0042】
「活性」層と呼ばれる精密濾過層又は限外濾過層は、多孔質支持体に直接堆積させるか、あるいはより小さい平均孔径を有する中間体層を多孔質支持体に直接堆積させ、その中間層上に堆積させることができる。
【0043】
一例では、分離層は、酸化物、窒化物、炭化物、他のセラミック材料、及びこれらの混合物から選択されるセラミックから、特に、他のセラミック材料と混合してもよい酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、又はこれらの混合物、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、又は炭化ケイ素から構成されていてもよい。
【0044】
一例では、分離層は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスチレン(PS)、ポリスチレンスルホネート(PSS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、酢酸セルロース、又は他の重合体などの1種以上の重合体によって構成されていてもよい。
【0045】
図1A図1Dは、本発明におけるクロスフロー分離エレメント1の第一の実施形態を示す。クロスフロー分離エレメント1は、長尺状に形成された多孔質支持体2を含み、これにより多孔質支持体は「直線状」であると言える。図1A図1Dに示す多孔質支持体2は、円形の横断面を有するため、円筒形の外面3を有する。しかしながら、この横断面は任意の形状であってもよく、多角形であってもよい。本発明の好ましい一実施形態の特徴において、支持体の外面又は周面3は一定の外形を有する。換言すれば、外面3には、材料や用いた成形方法に伴う表面粗さによるもの以外、表面にいかなる凹凸もない。したがって、外面3には変形や刻み目がない。
【0046】
多孔質支持体2は、少なくとも1本の流路を含み、一般には、流動媒体を通過させるための複数の流路4iを含み、それぞれが多孔質支持体2内に配置されている(指数iは、一般に支持体が有するある特徴を表すために用いられ、実施形態に記載された特徴の数に応じて1、2、3、…という値を取ってもよい)。
【0047】
図1A図1Dに示す第一の実施形態では、多孔質支持体2は1本の流路4を有する。図13Aに示す第二の実施形態では、多孔質支持体2は2本の流路4及び4を有する。図14Aに示す第三の実施形態では、多孔質支持体2は14本の流路を有し、図15Aに示す第四の実施形態では、多孔質支持体2は、3つのカテゴリーの流路4、4、及び4として配置された23本の流路を有する。
【0048】
各流路4iは、多孔質支持体2において多孔質材料を含まない領域であって、壁5によって多孔質支持体内に画定されている領域に相当する。壁5は、流路内を流れる被処理流動媒体に接触する少なくとも1つの分離層により被覆されている。流動媒体の一部は、多孔質支持体2の壁5に堆積させた分離層を通過し、この処理流体(「透過液」と言う)は多孔質支持体の外面3へ流出する。被処理流動媒体は、入口6と出口7との間の流路内を矢印fで表す流れ方向へと流れる。入口6は、多孔質支持体の一端に位置し、出口7は多孔質支持体の他端に位置する。
【0049】
本発明によれば、多孔質支持体2は、少なくとも1本の流路4iを備え、流路4iは、濾過液の処理量を増加させるような形状になっている。この形状は、各流路4iが入口6と出口7との間に少なくとも1つの屈曲流容積Viを有するということにより画定される。この容積は、基準軸Aiを中心として曲線経路Hiに沿って生成断面Siをスイープすることで画定される。生成断面Siは平面P(「基準」平面と言う)に位置する。さらに、基準軸Aiは上記生成断面Siと交差せず、多孔質支持体2の容積内に含まれている。
【0050】
本発明における流路4iは、上述したような少なくとも1つの屈曲流容積Viを有することを理解すべきである。当然ながら、この屈曲流容積Viは、多孔質支持体2において多孔質材料を含まない領域であって、流路の壁によって画定されている領域に相当する。多孔質支持体2において、その外面3と選択した流路の壁5との間の平面Pに沿った厚みは変動することに留意されたい。
【0051】
本発明における上記屈曲流容積Viは入口6と出口7との間に画定される。この屈曲流容積Viは、入口6と出口7との間の流路長の一部のみに亘って存在していてもよく、あるいはその入口と出口との間の流路の全長に亘って存在していてもよい。当然ながら、多孔質支持体2は、本発明における屈曲流容積Viを有さない少なくとも1本の被処理流動媒体用流路を備えていてもよい。
【0052】
本発明における流容積Viを有する屈曲流路を構築するための一般的な原理は、特に図2Aによく例示されている。屈曲流路を構築するための一般的な原理は、生成平面断面Siを、点Mの動きにより流容積Viの両端の間に構築される曲線経路Hiに従わせることからなる。点Mは生成平面断面に属し、基準軸Aiから距離Rの位置にある。この点Mの動きは、基準軸Aiを中心に回転すると同時に、その基準軸に沿って平行移動するものである。回転は一定又は可変であってもよい。同様に、平行移動は一定又は可変であってもよい。また、距離Rも一定又は可変であってもよい。点Mは、基準平面Pにある生成断面Siの任意の点である。したがって、流容積Viの曲線経路Hiは、実際に、少なくともこの流容積の長さに亘って流路に屈曲性を付与している。
【0053】
上記記載から分かるように、流路の屈曲流容積Viは非常に多種多様な幾何学的特徴を有することができる。図2Bに示す通り、基準軸Aiは、尖った部分のない直線状及び/又は曲線状であってもよい。基準軸Aiは、屈曲流容積Viの全長又はその一部に沿って直線状であってもよい。同様に、基準軸Aiは、屈曲流容積Viの全長又はその一部に沿って曲線状であってもよい。この基準軸Aiは生成断面Siと交差していない、すなわち常に屈曲流容積Viの外側にある。したがって、この基準軸Aiは生成断面Siに接していてもよく、あるいは可変又は一定であってもよい所定の距離で生成断面Siから離れていてもよい。
【0054】
屈曲流路は多孔質支持体2の容積内に必ず含まれていなければならないので、曲線経路Hi及び基準軸Ai自体は多孔質支持体2の容積内に含まれるということになる。
【0055】
曲線経路Hiは、距離Rの値と、同時に起こる回転及び平行移動とに応じて非常に多種多様な幾何学的特徴を有していてもよい。
【0056】
屈曲流路の形態は、基準軸Ai、曲線経路Hiの他、生成断面Siの寸法及び形状、並びに曲線経路Hiと基準軸Aiとに対する生成断面Siの位置に依存する。より正確には、図3A及び図3Bには、直線状基準軸Aiに垂直な平面に含まれる円形断面Siが、基準軸Aiを中心とする螺旋経路Hiに従う事例が示されている。この例では、円形断面Siを含む基準平面Pは、直線状基準軸Aiに垂直である。直線状基準軸Aiを中心とした円形断面Siの回転と、直線状基準軸Aiに沿った円形断面Siの平行移動とを組み合わせると、屈曲流路を得ることができ、得られたコルク栓抜き様幾何学的形状は「ソロモン」又は「大麦糖」円柱として知られている。図3A及び図3Bには、2つの円形断面S1及びS2のみが例示されているが、それぞれ、直線状基準軸Aiに垂直な平面P1、P2に含まれている。
【0057】
図4A及び図4Bには、直線状基準軸Aiも含む基準平面に含まれる円形断面Siが、基準軸Aiを中心とする螺旋経路Hiに従う事例が示されている。この例では、円形断面Siを含む基準平面Pは、直線状基準軸Aiに平行である。直線状基準軸Aiを中心として円形断面Siを回転させつつ、直線状基準軸Aiに沿って円形断面Siを平行移動させると、屈曲流路を得ることができ、得られた螺旋階段形状は「サン・ジルの螺旋階段」として知られている。図4A及び図4Bには、2つの円形断面S1及びS2のみが例示されているが、それぞれ、直線状基準軸Aiに平行な平面P1、P2に含まれている。
【0058】
図5A及び図5Bには、直線状基準軸Aiに対する傾斜角度が0°~90°である平面に含まれる円形断面Siが、基準軸Aiを中心とする螺旋経路Hiに従うより一般的な中間の事例が示されている。直線状基準軸Aiを中心として円形断面Siを回転させると同時に、直線状基準軸Aiに沿って円形断面Siを平行移動させると、屈曲流路を得ることができ、得られたコイル様幾何学的形状は「蛇行状」として知られている。典型的には、管を円筒の回りに巻き付けて得られる幾何学的形状である。図5A及び図5Bには、2つの円形断面S1及びS2のみが例示されているが、それぞれ、直線状基準軸Aiに対して傾斜した平面P1、P2に含まれている。
【0059】
これら3つの例の特徴を以下の表1にまとめて示す。
【0060】
【表1】
【0061】
一般に、ピッチp、すなわち基準軸Aiを中心とした生成断面Siの回転値は、異なる値を取ってもよい。螺旋経路Hiでは、基準軸Aiを中心とした生成断面Siの回転値は、(複数の巻きを有する螺旋構造の場合)2πラジアンの倍数に等しく、(一巻き未満の螺旋構造の場合)2πラジアンの分数に等しい。
【0062】
図3A図3B図4A図4B、及び図5A図5Bから分かるように、これら3つの例に示した曲線経路Hiはピッチ値pが一定である。当然ながら、曲線経路Hiのピッチ値pは可変であってもよい。というのは、ピッチ値pは回転及び平行移動の値に依存するからである。
【0063】
曲線経路Hiは、屈曲流容積Viの全長又はその一部に亘って一定のピッチpを有しているか、あるいは屈曲流容積Viの全長又はその一部に亘って可変のピッチpを有している。
【0064】
図2Bにおいて、F2区間は、ピッチpが可変ではない場合を具体的に示し、F3区間は、ピッチpが可変である場合を具体的に示している。
【0065】
図2Bは、本発明における屈曲流路を画定する際に関与する他の様々なパラメータを示していることに留意されたい。したがって、F4区間は、直線流路部Trによって分離された左回り回転及び右回り回転が交互に現れる場合を具体的に示しており、F5区間は、断面Siの形態が可変である場合を具体的に示し、F1区間は、距離Rが可変である場合を具体的に示している。
【0066】
基準軸Aiは、屈曲流容積Viの全長又はその一部に亘って可変ではない距離R(図3A図3B図4A図4B、及び図5A図5B)で、あるいは図7に示すように屈曲流容積Viの全長又はその一部に亘って変動する距離で曲線経路Hiから離れていてもよい。図7では、距離Rは規則的に変動するが、もちろん不規則に変動してもよい。この例では、流路は螺旋渦巻き状経路に従う。
【0067】
なお、距離Rは、基準軸Aiが生成断面Siに接するような距離であってもよい。図1A図1Dに示す例では、基準軸Aiは生成断面S1から離れているが、図6の例に示すように生成断面S1が基準軸A1に接することも考えられる。この場合、基準軸A1は、多孔質支持体の縦対称軸でもある。
【0068】
図6は、容積を生成するための平面断面Si(この例では三角形)を含む平面が、上記三角形生成平面断面(この例では三角形の頂点の1つ)に接する基準軸Aiに対して90°の角度で傾斜している特定の場合を示していることに留意されたい。この図は、直線状基準軸Aiに垂直な平面Piに含まれる三角形平面断面Siが、上記三角形生成平面断面に接する基準軸Aiを中心とした螺旋経路Hiに従う場合を示している。この例では1点で接している直線状基準軸Aiを中心とした三角形断面の回転と、この三角形断面Siの直線状基準軸Aiに沿った平行移動とを組み合わせると、「アルキメデスの螺旋」として知られる幾何学的形状を有する屈曲流路を得ることができる。容積を生成するための平面断面を含む平面が、上記生成平面断面に1点以上で接している基準軸Aiに平行である特殊な場合でも、容積を生成するための平面断面を含む平面が、上記生成平面断面に1点で接している基準軸Aiに対して任意の角度で傾斜しているより一般的な場合でも、「アルキメデスの螺旋」としても知られる幾何学的形状の屈曲流路が得られることに留意されたい。
【0069】
曲線経路Hiは、ピッチp及び距離Rが同時に一定である場合(図3B図4B図5B)に螺旋状であると言える。この曲線経路Hiは、屈曲流容積Viの全長又はその一部に亘って基準軸Aiを中心として反時計方向(右回り)及び/又はその反対方向(左回り)に回転してもよい。したがって、曲線経路Hiは単一方向に作成してもよく、あるいは同じ又は異なる長さとなるように選択してもよい複数の区間に亘って対向する2つの方向に交互に作成してもよい。
【0070】
図8に示す例では、生成断面は、曲線状基準軸Aiを中心とし、一定のピッチpを有する右回りの螺旋経路Hiに従う。
【0071】
図9A図9Bに示す例では、左回り経路H1は、基準軸Aiに平行な直線経路Trによって右回り経路H2につながっており、図10A図10Bに示す例では、経路H1は左回りであり、左回り経路H2に直接つながっている。
【0072】
曲線経路Hiは、例えば同じ長さであってもよい複数の区間に亘って右回りと左回りとが交互に現れることが有利である(図12A~12B)。
【0073】
この屈曲流容積Viの生成断面Siは任意の種類の外形を有していてもよい。
【0074】
生成断面Siの形態又は形状は、屈曲流容積Viの全長又はその一部に亘って一定であってもよく、あるいは屈曲流容積Viの全長又はその一部に亘って変動してもよい。非限定的な例では、この流容積のための生成断面Siの形態は、多角形、円形、半円形、又は楕円形であってもよい。図10A図10Bは、生成断面Siの形態が変動する場合を示している。
【0075】
生成断面Siの面積は、屈曲流容積Viの全長又はその一部に亘って一定であってもよく、あるいは屈曲流容積Viの全長又はその一部に亘って変動してもよい。図11A図11Bは、生成断面Siの面積が変動する場合を示している。
【0076】
上記図に示した屈曲容積例の特徴を以下の表2にまとめて示す。
【0077】
【表2】
【0078】
以下では、本発明における屈曲流容積Viを有する流路4iを備える多孔質支持体2の好ましい実施形態を記載するが、本発明は該実施形態に限定されない。
【0079】
図1A図1Dに示す例において、生成断面S1は円盤の一部であり、基準軸A1は多孔質支持体の縦対称軸に一致する直線である。曲線状支持体H1は螺旋状である、すなわち、曲線経路H1と基準軸A1との間の距離Rは一定であり、螺旋状ピッチpも同様に一定である。基準軸A1は生成断面S1を通過しておらず、生成断面S1は、図示の例では、軸から所定の距離にある。当然ながら、生成断面S1は基準軸A1に接していてもよい。
【0080】
流路4の屈曲流容積V1は、流路長の一部のみに沿って流路の入口6と出口7との間に延在する。図1Bでより明らかであるように、流路の屈曲流容積V1は、多孔質支持体2の全長よりも短い多孔質支持体の長さLに亘って配置されている。
【0081】
有利な一実施形態の特徴によると、入口6及び出口7からの限られた一部に亘る生成断面S1は、基準軸A1に平行な平行移動から得られる経路に従う。したがって、流路4は、入口6及び出口7から、それぞれ直線状の入口及び出口流容積Ve及びVsをそれぞれ有し、これら入口及び出口流容積は、基準軸A1に平行であり、流路の屈曲流容積V1と連通する。したがって、流路4は、その入口6と出口7との間に入口流容積Ve、屈曲流容積V1、及び出口流容積Vsを有する。
【0082】
図13A図13Eに示す例では、多孔質支持体2は円形断面を有する管状であり、2本の流路4及び4を備える。これら2本の流路は生成断面S1及びS2を有し、生成断面S1及びS2は、分離仕切り11によって互いに分離されている。これら生成断面S1及びS2は、同じ円盤の一部からなる形状を有し、同様に同じ面積を有する。
【0083】
流路4及び4はそれぞれ、基準軸A1、A2を中心として回転する螺旋状曲線経路H1、H2に沿って延在する屈曲流容積V1、V2を有する。曲線経路H1、H2は一定の同じピッチを有し、互いに平行である。基準軸A1及びA2は、共通の直線、有利には多孔質支持体の縦対称軸に相当する共通の直線に一致する。曲線経路H1、H2はそれぞれ、一定の同じ距離Rで基準軸A1、A2から離れており、その結果、各流路は、互いに入れ子状に重なり合うようにして共通の基準軸に対して対称的に延在する。
【0084】
図13A図13Eに示す例では、2本の流路は、互いに平行な経路を有しているが、平行又は実際には平行ではない経路を有する2本を超える複数の流路からなる一連の流路を設けてもよいことは明らかである。平行でない場合、当然ながら、各流路は、分離仕切り11によって互いに分離されるように適合された距離Rで基準軸Aiから離れている生成断面をそれぞれ有する。
【0085】
図1A図1Dに示す実施形態と同様に、流路の屈曲流容積V1、V2は、流路の入口6と出口7との間で流路長の一部のみに亘って延在する。したがって、流路4及び4はそれぞれ、その入口6と出口7との間に、直線経路の入口流容積Ve、屈曲流容積V1、V2、及び直線経路の出口流容積Vsを有するが、本発明では、特定の流れ方向を強いるものではなく、入口と出口は区別なく互いに入替可能であることを理解すべきである。
【0086】
図13A図13Eに示す例では、多孔質支持体2は2本の流路4及び4を有するが、分離仕切り11によって互いに分離されるように、共通又は非共通の基準軸の周りに対称的又は非対照的に配置されたより多くの数の流路を有していてもよいことは明らかである。
【0087】
この入れ子状流路4及び4の構造体は、図14A及び図14Bに示す例のように複製してもよいことに留意されたい。上記例では、多孔質支持体2は一連の7つの構造体を有し、各構造体は、図13A図13Eに示すような2本の流路4及び4を有する。したがって、図14A及び14Bに示すこの実施形態では、多孔質支持体2は14本の流路を有する。しかしながら、異なる数の流路を有する多孔質支持体も考えられることは明らかである。
【0088】
図15A図15Hに示す実施形態では、多孔質支持体2は、23本の流路4を有し、これらの流路は、多孔質支持体の中心から周辺に同心円状に配置された3つのカテゴリーに分かれている。この実施形態において、多孔質支持体2は円形断面を有する管状であり、第一のカテゴリーでは、多孔質支持体2の縦対称軸A1に中心が置かれた直線状の中央流路4を有する。この中央流路4は、本発明における屈曲特徴を持たない流容積V1を有する(図15C)。
【0089】
第二のカテゴリー(中間カテゴリーと言う)では、多孔質支持体2は一連の6本の流路4を有し、これらの流路は、多孔質支持体2の縦対称軸A1を中心とした環状に配置されている。各流路4は、形状及び面積が同じである生成断面S2を有する。この例では、各生成断面S2は、一般的には円形ではない形状を有する。各流路4は、一定のピッチ及び一定の距離Rを有する螺旋状曲線経路H2に沿って延在する屈曲流容積V2を有しており、曲線経路H2は、縦対称軸A1に相当する基準軸を中心に回転している(図15D)。
【0090】
各屈曲流容積V2は、中央流路4の周りに所定の距離で配置されている。図15Eに示されるように、中間カテゴリーの1組の流路4の各屈曲流容積V2は、縦対称軸A1に相当する基準軸を中心として同じピッチ及び同じ距離Rを有する螺旋状曲線経路H2に沿って延在する。6本の流路4は、互いに入れ子状に重なり合うようにして共通の基準軸A1に対して対称的に延在する。
【0091】
図1A図1Dに示す実施形態と同様に、流路の屈曲流容積V2は、流路の入口6と出口7との間で流路長の一部のみに亘って延在する。したがって、中間カテゴリーの各流路4は、その入口6と出口7との間に、直線経路に従う入口流容積Veと、屈曲流容積V2と、直線経路に従う出口流容積Vsとを有する。
【0092】
第三のカテゴリー(「周辺」と言う)では、多孔質支持体2は一連の16本の流路4を有し、これらの流路は、多孔質支持体2の縦対称軸A1を中心とした環状に配置され、第二のカテゴリーの流路4環の周りに同心円状に延在する。この第三のカテゴリーの各流路4は、形状及び面積が同じである生成断面S3を有する。この例では、各生成断面S3は、一般的には等脚台形の形状を有する。各流路4は、螺旋経路H3に沿って延在する屈曲流容積V3を有し、この曲線経路H3は、縦対称軸A1に相当する基準軸を中心に回転している(図15F)。各屈曲流容積V3は、第二のカテゴリーの流路4の周りに所定の距離で配置されている。図15Gに示されるように、第三のカテゴリーの流路4の各屈曲流容積V3は、縦対称軸A1に相当する基準軸を中心として同じピッチ及び同じ回転半径を有する螺旋状曲線経路H3に沿って延在する。16本の流路4は、互いに入れ子状に重なり合うようにして共通の基準軸A1に対して対称的に延在する。
【0093】
図1A図1Dに示す例と同様に、各流路の屈曲流容積V3は、流路の入口6と出口7との間で流路長の一部のみに亘って延在する。したがって、周辺カテゴリーの各流路4は、その入口6と出口7との間に、直線経路に従う入口流容積Veと、屈曲流容積V3と、直線経路に従う出口流容積Vsとを有する。
【0094】
図15Hには、内部に3つのカテゴリーの流路4、4、及び4が配置され、かつ図15C図15Gに示すような屈曲流容積を有する多孔質支持体2が示されている。当然ながら、本発明は、異なる数のカテゴリーに分かれた異なる数の流路を有する多孔質支持体を用いて実施してもよい。
【0095】
図13A図13Eに示す実施形態に適用されたような数値流体力学(CFD)のデジタルシミュレーションから、同じ水力直径を有する直線流路と比較して性能及びエネルギー消費について以下の結果が得られた。これらは、被処理流体として赤ワインを膜間圧1.5bar、カットオフ閾値0.2μmで単一の直線状円形流路に流して行った実験による測定結果を元に確立したデジタルモデルを用いて行われたシミュレーションの結果である。
【0096】
以下の表3では、透過液体積流量Qp(立方メートル/時(m/h))と、供給される被処理流体の体積流量Qa(m/h)との比率Qp/Qa(%)を用いることで、同じ膜間圧(TMP)及び同じカットオフ閾値(μm)において同じ水力直径(Dh)を有する直線流路と比較して屈曲流路の固有の性能を評価する。
【0097】
この種の屈曲流路を有する濾過エレメントを含む濾過装置のエネルギー効率自体は、流路に被処理流体を流すのに必要なエネルギーのキロジュールあたりの抽出透過液の立方メートル(m/KJ)として表される。対応する流路での平均速度(メートル/秒(m/s))を例示として表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
この図1A図1Dに示す螺旋状屈曲流路の例では、上記表に示された結果は、同じ水力直径を有する直線流路を有する濾過エレメントと比較して以下のことを示している。
・螺旋ピッチが24mmである場合、濾過エレメントの固有の性能は、直線流路を有する濾過エレメントに対して17倍、そのエネルギー効率は5倍である。
・螺旋ピッチが12mmである場合、濾過エレメントの固有の性能は26倍、そのエネルギー効率は8倍である。
【0100】
本発明の有利な特徴によれば、本発明における屈曲流路4iは、曲線経路H1と基準軸A1との間の距離Rの値とは独立した値であるピッチpを有していてもよい。したがって、小さい値のピッチpと小さい値の距離Rとを組み合わせた屈曲流路を作製することができる。典型的には、1mm~250mmの範囲のピッチpと、0.1mm~100mmの範囲の距離Rとを有する屈曲流路が考えられる。さらに、有利な特徴によれば、本発明の屈曲流路は、0.5mm~20mmの範囲の水力直径を有する。なお、水力直径DhはDh=4A/P(式中、Aは流路の流断面の面積であり、Pはこの断面の浸辺長である)である。
【0101】
各流路は、一定又は可変であってもよい水力直径を有することが有利である。
【0102】
本発明の文脈では、多孔質支持体2、さらには実際にはクロスフロー分離エレメント全体は付加製造技術を用いて作製される。本発明の方法は、個々の層を形成し、順次互いに重ねて結合させて支持体の三次元構造を徐々に形成することにより、支持体の三次元構造を作製することからなる。
【0103】
従来技術と比較して、この技術は、工具や機械加工を必要としない単一の製造工程で支持体を作製するという利点、したがって、より多くの種類の支持体形状を利用でき、流路内の障害物の形状及び寸法を変化させることができるという利点を有する。
【0104】
粉末などの固体材料を使用する場合、粉末床の厚み、したがって連続して固化した各層の厚みは、エネルギーを加えたり、液体を噴霧したりすることでその下の層と結合できるように比較的薄くなっている。特に、粉末は20μm~200μmの範囲の厚みで堆積され、この厚みは選択した付加製造技術に依存する。
【0105】
2工程からなる工順を繰り返すことで、所望の三次元形状を一層ずつ構築することができる。固化パターンは、層ごとに異なっていてもよい。所望の三次元形状は、選択した形成方向に沿って形成する。
【0106】
堆積粉末の粒径は、各粉末床の最少厚みと共に、最終的に得られる平均孔径も決定する因子の1つである。特に、支持体を構成する材料の粉末、例えば金属酸化物粉末又はその前駆体の1種の粉末が用いられる。一例では、セラミック支持体において約10μmの平均孔径を得るために、堆積粉末の平均粒径は約35μmであってもよい。
【0107】
本出願人は、材料の選択、所定の材料に対して用いる粉末の平均粒径、所定の材料及び粒径に対して一層ずつ繰り返される粉末床の厚みなどの各種パラメータを調節し、さらに固化のために選択した技術に特有の各種パラメータを調節することによって、相互接続した残留多孔質組織を固化モノリシック材料内に形成し、制御することができることを確認した。残留多孔質組織は、粉末粒子を制御しながら焼結又は接着結合して粒子間に相互接続した空隙を残すことにより得られたものである。
【0108】
エネルギービームを用いる場合、作用し得る主要パラメータは、エネルギービームの焦点、すなわち粉末床に衝突するビーム径、光子又は電子ビームによって粉末床をスキャンする速度、あるいは層構築時のエネルギービームの衝突面の重複率である。
【0109】
液体噴霧を用いる場合、作用し得る主要パラメータは、液滴の重量、滴下頻度、液滴の「噴射」によって粉末床をスキャンする速度、あるいはパス間の重複率である。
【0110】
また、本出願人は、上述した各種パラメータを調節することにより、細孔の孔径分布を調節でき、所定の細孔群のそれぞれに対して細孔の数及び屈曲度を制御できることを確認した。
【0111】
選択した領域で粉末が凝集したら、凝集していない粉末材料粒子を任意の適当な技術で除去する。この操作は、使用した粉末の初期流動性を利用すれば容易になる。空気流技術(吸引)、水流技術、又は振動を利用して、屈曲流路や造形物の壁に最終的に残留した微量の粉末を除去することができる。
【0112】
通常は、バインダーの除去(脱バインダー)及び/又は材料自体の焼結を目的とした熱による後処理を1回以上行うことによって、濾過エレメントを最終的に固化し、最終的な多孔質組織を得る。このような最終焼結に選択する温度は、用いる無機材料の性質及び用いる粉末粒子の平均粒径に依存する。
【0113】
したがって、支持体、さらにはクロスフロー分離エレメント全体は1層ずつ形成される。このため、前もって、コンピュータ支援設計ソフトウェアを用いて、作製する支持体又はクロスフロー分離エレメントの三次元構造を薄片に分割する。したがって、作製する三次元仮想オブジェクトを非常に厚みの薄い二次元の薄片に分割する。次いで、これらの薄片を1枚ずつ個々の層として形成し、互いに重ねて結合させて、所望の三次元形状を徐々に形成する。
【0114】
この三次元構造は、
・多孔質支持体を形成するための固体材料(有機又は無機粉末)又は液体材料(有機又は無機であってもよい粉末が分散した液体又は有機前駆体)床であって、層として見たときに多孔質支持体の断面より大きい面積に亘って厚みが一定である床を形成する工程と、
上記材料の一部を層ごとに所定のパターンに従って局所的に固化して個々の層を形成すると同時に、得られた個々の層をその前の層と結合させる工程と
を繰り返すこと、あるいは
・層ごとに所定のパターンに従ってレーザービームで投影した有機又は無機粉末を溶融させて形成した材料の連続ビードを作製すること、あるいは
・熱溶融性固体前駆体の糸を連続的又は不連続的(滴下)に溶融すること
によって作製される。前駆体が単独で使用される熱溶融性有機重合体である場合、支持体は有機性であり、有機性の層を堆積させるためにすぐに使用できる。前駆体が熱溶融性有機重合体とセラミック又は金属無機粉末との混合物である場合、バインダーとして使用した重合体を除去し、無機粉末粒子を焼結してしまえば、上記支持体は無機性である。
【0115】
一般に、第一の場合、用いる材料は固体又は液体であり、エネルギーを加えたり、液体を微細な液滴として噴霧したりすることで個々の層を固化する。指向性光線(LED又はレーザー)、指向性電子線、又はCADで選択したパターンに従って粉末床に焦点を合わせてスキャンすることができる任意のエネルギー源のいずれかを用いてエネルギーを局所的に提供してもよい。そして、エネルギーと材料とが相互作用して、材料の性質及び用いたエネルギー源の性質に応じて材料の焼結、溶融・凝固、あるいは光重合又は光架橋が起こる。
【0116】
圧電システムを用いて形成された微小液滴によって液体を粉末床に局所的に提供してもよい。上記微小液滴は、必要に応じて電磁場で帯電及び指向させてもよい。その場合、液体は、セラミック粉末に予め添加しておいたバインダー又はバインダー活性剤である。
【0117】
本発明の文脈で想定される付加製造技術を用いると、従来技術と比較して、第一に、製造処理量及び信頼性を向上させることができ、第二に、支持体に対して選択できる形状と、支持体内の流路に形成できる凹凸の形状とを多様なものとすることができる。
【0118】
本発明の文脈では、三次元形状を設計するために、様々な付加製造技術を用いてもよい。例えば、選択的レーザー焼結(SLS)又は選択的レーザー溶融(SLM);3Dプリント又はバインダー噴霧;リソグラフィー系セラミックス製造(LCM);熱溶解積層法(FDP);及び/又は光造形装置(SLA)等が挙げられる。
【0119】
本発明の文脈では、クロスフロー濾過により流動媒体を分離するための分離エレメント(一般に濾過膜と言う)が提供される。このような分離エレメントは、有機又は無機であってもよい材料から作製される多孔質支持体を含む。
【0120】
有機多孔質支持体の場合、ポリアミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリスチレン、アルミド(Alumide)、ポリフェニルスルホン、熱可塑性フッ化エラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、エポキシ、アクリレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエーテルイミド、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、及びこれらの混合物といった有機材料から選択することが考えられるが、これらに限定されない。
【0121】
非金属(セラミック)無機多孔質支持体の場合、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化ケイ素、サイアロン、グラファイトカーボン、炭化ケイ素、炭化タングステン、及びこれらの混合物といった無機材料から選択することが考えられるが、これらに限定されない。
【0122】
金属(金属及び合金)無機多孔質支持体の場合、アルミニウム、アルミニウム合金、コバルト-クロム合金、ニッケル合金、ニッケル-クロム合金、鋼及びステンレス鋼、チタン、チタン合金、銅-スズ合金、銅-スズ-アルミニウム合金、銅-亜鉛合金、及びこれらの混合物といった金属材料から選択することが考えられるが、これらに限定されない。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図14A
図14B
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図15F
図15G
図15H