IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニヴェルシテイト ヘントの特許一覧

<>
  • 特許-フラーレン組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】フラーレン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20220623BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220623BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220623BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220623BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220623BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220623BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220623BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220623BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220623BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20220623BHJP
   A61K 33/44 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K3/04
A61K47/34
A61K47/32
A61K9/10
A61P25/28
A61P25/16
A61P35/00
A61P9/00
C08L101/02
A61K33/44
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020167300
(22)【出願日】2020-10-01
(62)【分割の表示】P 2017555369の分割
【原出願日】2016-04-22
(65)【公開番号】P2021006566
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】15164759.1
(32)【優先日】2015-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513008731
【氏名又は名称】ユニヴェルシテイト ヘント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT GENT
【住所又は居所原語表記】Sint-Pietersnieuwstraat 25, B-9000 Gent, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホーヘンボーム リシャルト
(72)【発明者】
【氏名】ファン ガイス ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】デ ラ ローサ フィクトル
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-120708(JP,A)
【文献】特許第6842425(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン-ポリマーコンプレックスからなり、
前記フラーレン-ポリマーコンプレックスが、1又は複数のフラーレンと、非共役の親水性又は両親媒性ポリマーとからなり、
前記非共役の親水性又は両親媒性ポリマーが、パイスタッキングによって前記1又は複数のフラーレンと相互作用する炭素-炭素パイ結合を含む官能基を含む少なくとも1個の置換基で置換されている、粒子
【請求項2】
前記官能基が、アリル、プロパルギル、フェニル、ナフチル、ピレニル、ビニル、エチニル、ベンジル、アントリル、インドリル、イミダゾリル、チエニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル及びトリアゾリルからなるリストから選択される、請求項1に記載の粒子
【請求項3】
前記非共役の親水性又は両親媒性ポリマーが直鎖ポリマーであり、前記直鎖ポリマーの少なくとも1つの鎖末端に前記官能基が設けられている、請求項1又は2に記載の粒子
【請求項4】
前記非共役の親水性又は両親媒性ポリマーが、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、環式イミノエーテルから製造されたポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)、デキストラン、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(オリゴエチレングリコールアクリラート)(POEGA)、ポリ(オリゴエチレングリコールメタクリラート)(POEGMA)、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](PHPMA)、及びそれらのコポリマーからなるリストから選択される、請求項1から3のいずれかに記載の粒子
【請求項5】
前記非共役の親水性又は両親媒性ポリマーがアミド結合をさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の粒子
【請求項6】
前記フラーレン-ポリマーコンプレックスからなる粒子の、動的光散乱によって測定される平均サイズが、25nm~100nmである、請求項1から5のいずれかに記載の粒子
【請求項7】
前記1又は複数のフラーレンが少なくとも90重量%のC60を含む、請求項1からのいずれかに記載の粒子
【請求項8】
医薬用である、請求項1からのいずれかに記載の粒子
【請求項9】
パーキンソン病、アルツハイマー病、循環器疾患及び癌を含む群から選択される酸化損傷関連の疾患及び障害の処置用である、請求項1からのいずれかに記載の粒子
【請求項10】
請求項1からのいずれかに記載の粒子の、抗酸化剤としての使用。
【請求項11】
請求項1から7のいずれかに記載の粒子を含む組成物であって、前記フラーレン-ポリマーコンプレックスからなる前記粒子が水性溶媒中で懸濁され、前記組成物が少なくとも1重量%の前記1又は複数のフラーレンを含む、組成物。
【請求項12】
(a)1又は複数のフラーレンと、非共役の親水性又は両親媒性ポリマーを準備するステップ、及び、
(b)前記1又は複数のフラーレン及び前記非共役の親水性又は両親媒性ポリマーをメカノケミカル処理し、それによって、フラーレン-ポリマーコンプレックスからなる粒子を得るステップ
を含み、
前記非共役の親水性又は両親媒性ポリマーが、パイスタッキングによって前記1又は複数のフラーレンと相互作用することができる炭素-炭素パイ結合を含む官能基を含む少なくとも1個の置換基で置換されており、
前記フラーレン-ポリマーコンプレックスが、前記1又は複数の前記フラーレンと、前記非共役の親水性又は両親媒性ポリマーとからなる、請求項1からのいずれかに記載の粒子を調製するための方法。
【請求項13】
前記ステップ(b)が、前記1又は複数のフラーレン及び前記非共役の親水性又は両親媒性ポリマーを、高速振動摩砕を使用して摩砕するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記官能基が、アリル、プロパルギル、フェニル、ナフチル及びピレニルからなるリストから選択される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(b)が溶媒のない状態で実施される、請求項12から14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において、フラーレン組成物、前記組成物の水溶液、及びそれを調製する方法が提供される。フラーレン組成物は、例えば、光線力学療法、神経保護のため、及び抗酸化剤として、治療に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
ヒトの生涯の過程にわたって、ヒトは酸化損傷の蓄積に直面する。この酸化損傷は、パーキンソン病、アルツハイマー病及びある種の癌などの顕性の年齢関連疾患を引き起こし得る。これらの疾患の防止は、身体の活性酸素種(ROS)の量を低下させることにより可能となり得る。これは、抗酸化剤の導入により部分的に達成することができる。バックミンスターフラーレン(C60)などのフラーレンは著しい抗酸化特性を有する。ムサら(Moussa et al.)(Biomaterials、2012、33、4936;Biomaterials、2012、33、6292)は、ラットの寿命がC60の規則的な投与によって2倍になり得ることを示した。最近の研究は、C60の投与が細胞中のラジカル連鎖を防止し得て、寿命を延ばし、癌及び神経変性障害を防止及び処置することができることを示唆する。
【0003】
フラーレンはまた、光線力学療法で使用される有望な光増感剤の候補である。光線力学療法において、光を用いる局部照射で一重項酸素を生み出す光増感剤が使用される。こういった一重項酸素種は、細胞への毒作用を有し、癌細胞を死滅させるために使用することができる。光線力学療法は腫瘍組織を選択的に標的とすることを可能にし、それによって、癌細胞への選択性を増強し、放射線療法及び化学療法と比較して副作用は少ない。食品医薬品局(FDA)によって承認された光増感剤の現行世代(Photofrin(登録商標)、Metvix(登録商標)及びLevulan(登録商標))は、皮膚の処置のみを認めるか、又は日光に誘発される光増感性を避けるために患者は屋内にとどまる必要がある。C60がUVA光を用いる照射を必要とするので、C60及び内視鏡的照射を使用して、初期段階の癌をなくすことができるが、付随的損害はUVA光の低い浸透深さ及びC60の抗酸化活性によって最小限にできる。さらに、UVA光の低い浸透深さ、及びヒト皮膚に存在するメラニンは、日光に誘発される光増感性を強く抑制する。したがって、C60は、現在使用されている赤外線に基づく光線力学療法と比較して、より選択的な光線力学療法を可能にし得る。
【0004】
フラーレンは抗酸化剤及び光増感剤として有望な生物医学的な用途を有しているが、これらの化合物の水溶性が非常に低い結果、生物学的利用能が乏しい。例えば、C60の水溶解性はわずか10-8ng/Lである。
【0005】
一般に、3つの手法がフラーレンの水溶解性を増加させるために使用される。
【0006】
第1の方法論は、フラーレンの親水性を改善する化学的改質である。しかし、これは、位置選択性を十分に制御できず困難で、芳香族性の破壊を引き起こし、それによってこれら化合物の本質的な有益な特性の低減を誘発する。
【0007】
第2の方法論は、有機溶媒及び水中でのフラーレンの共懸濁による、フラーレンの準安定な分散液の生成に基づき、それによって有機溶媒をゆっくりと除去した後、準安定なフラーレンクラスタが得られる。しかし、この方法論は時間がかかり、残留する有機溶媒が有毒であり得る。さらに、クラスタの生物学的活性はクラスタの大きさが増加するとともに減少し、その準安定態は比較的短時間の安定性しか与えない。
【0008】
第3の方法論は、水性環境でフラーレンを溶解又は分散させる水溶性担体を用いる。この手法は、残存溶媒によって引き起こされる毒性問題を回避し、フラーレンの化学的改質を必要としないが、その一方で追加の官能基を、担体を介して組み込むことができる。それにもかかわらず、この手法は、通常、最終製品の不安定性、又は製品の調製に使用される有機溶媒を除去する長い精製手順に悩まされる。さらに、一般に最終製品はフラーレン含有率が低い。
【0009】
したがって、上に述べた問題の少なくとも1つを軽減する、水性フラーレン組成物を調製するための改良方法に対する必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】ムサら(Moussa et al.)、Biomaterials、2012、33、4936
【文献】ムサら(Moussa et al.)、Biomaterials、2012、33、6292
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、驚いたことに、パイスタッキングによるフラーレンとの分子間相互作用を形成することができる1又は複数の官能基で官能化された親水性又は両親媒性の非共役ポリマーが、水性環境でフラーレンを分散させる担体として特に有効であることを見いだした。より詳しくは、本発明者らは、そのような非共役ポリマーとフラーレンの混合物のメカノケミカル処理が、非常に明確なナノ粒子の形態のフラーレン-ポリマーコンプレックスの生成をもたらすことができることを見いだした。
【0012】
したがって、本明細書において、少なくとも1個のフラーレン及び非共役の親水性又は両親媒性ポリマーを含むフラーレン-ポリマーコンプレックスを含む組成物が提供され、前記非共役のポリマーは、パイスタッキングによる前記フラーレンとの分子間相互作用を形成することができる官能基を含む少なくとも1個の置換基で置換されている。
【0013】
とりわけ、以下の態様が本明細書において提供される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
態様1。1又は複数のフラーレン及び非共役の親水性又は両親媒性ポリマーを含むフラーレン-ポリマーコンプレックスを含む組成物であって、前記非共役ポリマーが、パイスタッキングによって前記1又は複数のフラーレンと相互作用する、炭素-炭素パイ結合を含む官能基を含む少なくとも1個の置換基で置換されている、組成物。
【0015】
態様2。前記官能基が、アリル、プロパルギル、フェニル、ナフチル、ピレニル、ビニル、エチニル、ベンジル、アントリル、インドリル、イミダゾリル、チエニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル及びトリアゾリルからなるリストから選択される、態様1に記載の組成物。
【0016】
態様3。前記非共役ポリマーが直鎖ポリマーであり、前記直鎖ポリマーの少なくとも1つの鎖末端に前記官能基が設けられている、態様1又は2に記載の組成物。
【0017】
態様4。前記ポリマーが、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、環式イミノエーテルから製造されたポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)、デキストラン、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(オリゴエチレングリコールアクリラート)(POEGA)、ポリ(オリゴエチレングリコールメタクリラート)(POEGMA)、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](PHPMA)、及びそれらのコポリマーからなるリストから選択される、態様1から3のいずれかに記載の組成物。
【0018】
態様5。前記フラーレン-ポリマーコンプレックスが、動的光散乱によって測定される平均サイズが25nm~100nmである粒子として準備される、態様1から4のいずれかに記載の組成物。
【0019】
態様6。前記組成物内の前記1又は複数のフラーレンと前記ポリマーのフラーレン:ポリマーモル比が0.1~10の間にある、態様1から5のいずれかに記載の組成物。
【0020】
態様7。前記フラーレン-ポリマーコンプレックスが水性溶媒中で懸濁され、前記組成物が少なくとも1重量%の前記1又は複数のフラーレンを含む、態様1から6のいずれかに記載の組成物。
【0021】
態様8。前記1又は複数のフラーレンが少なくとも90重量%のC60を含む、態様1から7のいずれかに記載の組成物。
【0022】
態様9。医学用である、態様1から8のいずれかに記載の組成物。
【0023】
態様10。パーキンソン病、アルツハイマー病、循環器疾患及び癌を含む群から好ましくは選択される酸化損傷関連の疾患及び障害の処置用である、態様1から8のいずれかに記載の組成物。
【0024】
態様11。態様1から8のいずれかに記載の組成物の、好ましくは食品サプリメント、パーソナルケア製品、及び/又は化粧品における、抗酸化剤としての使用。
【0025】
態様12。
(a)1又は複数のフラーレンと非共役の親水性又は両親媒性ポリマーを準備するステップ;及び
(b)前記フラーレン及び前記非共役ポリマーをメカノケミカル処理し、それによってフラーレン-ポリマーコンプレックスを得るステップ
を含み、
前記非共役ポリマーが、パイスタッキングによって前記フラーレンと相互作用することができる炭素-炭素パイ結合を含む官能基を含む少なくとも1個の置換基で置換されている、態様1から8のいずれかに記載の組成物を調製するための方法。
【0026】
態様13。ステップ(b)が前記フラーレン及び前記ポリマーを摩砕するステップを含む、態様12に記載の方法。
【0027】
態様14。前記非共役ポリマーが直鎖ポリマーであり、前記直鎖ポリマーの少なくとも1個の鎖末端に前記官能基が設けられている、態様12又は13に記載の方法。
【0028】
態様15。前記官能基が、アリル、プロパルギル、フェニル、ナフチル及びピレニルからなるリストから選択される、態様12から14のいずれかに記載の方法。
【0029】
態様16。ステップ(b)が溶媒のない状態で実施される、態様12から15のいずれかに記載の方法。
【0030】
態様17。フラーレンの水中での溶解性を増加させるために、パイスタッキングによって前記フラーレンと相互作用することができる炭素-炭素パイ結合を含む官能基を含む少なくとも1個の置換基で置換されている、非共役ポリマーの使用。
【発明の効果】
【0031】
本明細書において記載されるフラーレン-ポリマー組成物を調製する方法は、水中での高い溶解性を有するフラーレン組成物の、単刀直入で、効果的で、溶媒フリーで、そして、高い再現性での調製を可能にすることができる。さらに、水中のフラーレン組成物の分散液は、数週間以上安定であることができる。このことは、これらの方法及び組成物を、生物医学的な目的のためのフラーレン製剤の調製にとって非常に魅力的にする。
【0032】
上記ならびに本明細書において記載される概念の他の特性、特色及び利点は、例として、本発明の原理を例証する、以下の詳細な記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本明細書において描かれた図面は、単に例示のためであり、いかなる特定の仕方であっても本発明を限定するものと見なしてはならない。
【0034】
図1】本明細書において記載される方法の特定の実施形態を試験するのに使用されるポリマーの種類(1-6)の幾つかの概要である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
特許請求の範囲のいずれの参照符号も、理解するための手引きとして役立つ可能性があるが、その範囲を限定するものと解釈されないものとする。
【0036】
本明細書において使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかに他のことを指示しない限り、単数及び複数の両方の概念を含む。
【0037】
本明細書において使用される用語「comprising(含むこと)」、「comprises(含む)」及び「comprised of(~で構成された)」は、「including(含むこと)」、「includes(含む)」、又は「containing(含有すること)」、「contains(含有する)」と同義であり、包括的又は拡張可能であり、追加の記述されないメンバー、要素又は方法のステップを除外しない。記述された成分、要素又は方法のステップを指す場合の用語「comprising」、「comprises」及び「comprised of」は、前記記述された成分、要素又は方法のステップだけからなる実施形態をも含む。
【0038】
さらに、本明細書及び特許請求の範囲において第1、第2、第3などの用語は、指定されない限り、同様の要素間を識別するために使用され、必ずしも順次又は時間順を記載するためではない。そのように使用される用語は好適な状況の下で交換可能であり、本明細書において記載される実施形態は、本明細書において記載又は図示される以外の順序で操作することができることは理解されるべきである。
【0039】
パラメータ、量、時間幅などの計測可能な値を指す場合に本明細書において使用される値は、そのような変量が本明細書において目論まれる技術的な効果の1つ又は複数を確実にするために好適である限り、所定値の、及びその所定値から+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、なおより好ましくは+/-0.1%以下の変量を包含するように意図される。本明細書において使用される各値がまた、それ自体で特異的であり、開示されることが好ましいことが理解されるはずである。
【0040】
エンドポイントによる数的範囲の記載は、記述されるエンドポイントだけでなく、それぞれの範囲内に包摂される数及び分数をすべて含む。
【0041】
本明細書中で引用された文書はすべて、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0042】
他に定義されない限り、本明細書において記載される概念を開示するのに使用される、技術及び科学用語を含む用語はすべて、当業者によって一般に理解されるような意味を有する。さらなる手引きによって、本記載において使用される用語に関する定義は、本開示の教示をよりよく認識するために含まれている。本明細書において使用される用語又は定義は、もっぱら本明細書において提供される教示の理解を助けるために提供される。
【0043】
本明細書において使用される用語「フラーレン」は、炭素原子が偶数存在し、通常ほぼ球形を有する、閉じた中空のかご状構造の頂点に配置された炭素の同素体を指す。例示のフラーレンは、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96及びC120を含むがこれらに限定されない。最も安定なフラーレンはC60及びC70である。C60は、12の五角形及び20の六角形を含み、切頂二十面体を形成する。本明細書において使用される用語「フラーレン」は、1又は複数の炭素原子が追加の原子又は官能基と結合されていてもよいフラーレンを含む。本明細書において使用される用語「フラーレン」はまた、金属フラーレン、すなわちフラーレン分子の内部に封入された1又は複数の金属原子で構成される化合物を含む。
【0044】
本明細書において使用される用語「親水性」は、化合物、ポリマー、ポリマーブロック又はモノマーが水に対して親和性を有し、蒸留水中1重量%の濃度で25℃で肉眼で見ることができる二相の溶液を形成することができないことを意味する。本明細書において使用される用語「親水性」はまた、水溶性を意味する。したがって、用語「水溶性」は、1重量%と等しい濃度で水に導入された場合、化合物、組成物、ポリマー、ポリマーブロック又はモノマーの、肉眼で見て均一溶液又は分散液をもたらす能力を指す。
【0045】
本明細書において使用される用語「疎水性」は、親水性物質と比較した場合、水中に不十分な溶解性を有する化合物、ポリマー、ポリマーブロック又はモノマーを指す。より詳しくは、用語「疎水性」は水への溶解性が1重量%未満であることを指す。
【0046】
本明細書において使用される用語「両親媒性ポリマー」は、少なくとも1つの親水性部分又はブロック及び少なくとも1つの疎水性部分又はブロックを含むポリマー、より詳しくはコポリマーを指す。
【0047】
本明細書において使用される場合、用語「懸濁液」、「溶液」及び「分散液」(フラーレンを含む水性組成物を指す場合)は、交換可能に使用される。
【0048】
本明細書において使用される用語「水性」は、50重量%(重量パーセント)を超える溶媒が水であることを意味する。水性組成物又は分散液は、水と混和性である有機液体をさらに含んでもよい。
【0049】
用語「C1-12アルキル」は、基又は基の一部として、式C2n+1のヒドロカルビル基を指し、式中、nは1~12の範囲の数である。一般に、アルキル基は1~12個の炭素原子、例えば1~6個の炭素原子を含む。本明細書において示されるように、アルキル基は直鎖でも分岐であってもよく、置換されていてもよい。本明細書において炭素原子に続いて下付き添字が使用される場合、下付き添字は、挙げられた基が含んでよい炭素原子の数を指す。したがって、例えば、C1-4アルキルは、1、2、3又は4個の炭素原子のアルキルを意味する。C1-6アルキル基の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル及びその鎖異性体、ヘキシル及びその鎖異性体である。
【0050】
単独で又は別の置換基の一部としての用語「C2-12アルケニル」は、1又は複数の炭素-炭素二重結合を含む、直鎖又は分岐の不飽和ヒドロカルビル基を指す。好ましいアルケニル基は、このように2~12個の間の炭素原子、好ましくは2~6個の間の炭素原子を含む。C2-12アルケニル基の非限定的な例には、エテニル、2-プロペニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-ペンテニル及びその鎖異性体、2-ヘキセニル及びその鎖異性体、2,4-ペンタジエニルなどが含まれる。
【0051】
単独で又は別の置換基の一部としての用語「C2-12アルキニル」は、1又は複数の炭素-炭素三重結合を含む、直鎖又は分岐の不飽和ヒドロカルビル基を指す。好ましいアルキニル基は、このように2~12個の間の炭素原子、好ましくは2~6個の間の炭素原子を含む。C2-12アルキニル基の非限定的な例には、エチニル、2-プロピニル、2-ブチニル、3-ブチニル、2-ペンチニル及びその鎖異性体、2-ヘキシニル及びその鎖異性体などが含まれる。
【0052】
本明細書において使用される場合、単独で又は別の置換基の一部としての用語「C3-6シクロアルキル」は、3~6個の炭素原子を含有する飽和又は部分的に飽和した環式アルキル基を指す。C3-6シクロアルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルを含む。本明細書において使用される場合、単独で又は別の置換基の一部としての用語「C3-6シクロアルケニル」は、3~6の炭素原子を含有する飽和又は部分的に飽和した環式アルケニル基を指す。C3-6シクロアルケニルの例は、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル及びシクロヘキセニルを含む。
【0053】
本明細書において使用される場合、単独で又は別の置換基の一部としての用語「C6-16アリール」は、通常6~16個の原子を含有する、単環(すなわち、フェニル)又は一緒に縮合した(例えばナフタレン)もしくは共有結合で連結された複数の芳香環を有するポリ不飽和芳香族ヒドロカルビル基を指す。ここで、少なくとも1つの環は芳香族である。アリール環は、非置換でも、環上で1~4個の置換基で置換されていてもよい。アリールは、ハロ、シアノ、ニトロ、ヒドロキシ、カルボキシ、アミノ、アシルアミノ、アルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、フェニル、アリールオキシ、アルコキシ、ヘテロアルキルオキシ、カルバミル、ハロアルキル、メチレンジオキシ、ヘテロアリールオキシ、又はその任意の組み合わせで置換されていてもよい。C6-10アリールの例は、フェニル、ナフチル、インダニル、1,2,3,4-テトラヒドロ-ナフチル及びピレニルを含む。
【0054】
本明細書において使用される場合、単独で又は別の置換基の一部としての用語「5~14員ヘテロアリール」は、環原子の1又は複数が、炭素以外の元素、例えば窒素、酸素、硫黄又はその組み合わせである、約5~約14の環原子、好ましくは約5~約10の環原子を含む芳香族単環式又は多環式の環系を指す。5~14員ヘテロアリールの例はトリアゾリル、インドリルを含む。
【0055】
本明細書において使用される用語「トリアゾリル」は2H-1,2,3-トリアゾリルを指す。トリアゾリルは、ハロ、シアノ、ニトロ、ヒドロキシ、カルボキシ、アミノ、アシルアミノ、アルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、フェニル、アリールオキシ、アルコキシ、ヘテロアルキルオキシ、カルバミル、ハロアルキル、メチレンジオキシ、ヘテロアリールオキシ又はそれらの任意の組み合わせで置換されていてもよい。
【0056】
「一実施形態」又は「ある実施形態」への、本明細書の全体にわたる言及は、その実施形態に関して記載される具体的な特色、構造、又は特性が、本明細書において目論まれる少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の全体にわたる様々な場所での、語句「一実施形態において」又は「ある実施形態において」の出現は、すべて同じ実施形態を指しても指さなくてもよい。さらに、1つ又は複数の実施形態において本開示から当業者に明らかなように、具体的な特色、構造又は特性が、何らかの適切な方式で組み合わせられてもよい。さらに、本明細書に記載される幾つかの実施形態は幾つかの特色を含むが、他の実施形態に含まれる他の特色は含まないにもかかわらず、異なる実施形態の特色の組み合わせもまた本明細書において目論まれ、当該技術分野で理解されるように異なる実施形態を形成する。例えば、特許請求の範囲において、クレームの実施形態の特色のいずれもがいかなる組み合わせにおいても使用することができる。
【0057】
本明細書においてフラーレン組成物及びそれを調製する方法が提供される。本組成物及び方法は、パイスタッキングによってフラーレンとの分子間相互作用を形成することができる1又は複数の官能基で官能化された親水性又は両親媒性の非共役ポリマーが、驚いたことに、水性環境でフラーレンを分散させる担体として、特にメカノケミストリーによるフラーレン-ポリマー組成物を調製した場合、有効であるという、本発明者らによる発見に基づく。
【0058】
とりわけ、本出願は、
(a)1又は複数のフラーレン及び非共役の親水性又は両親媒性ポリマーを準備するステップ、及び、
(b)フラーレン及びポリマーをメカノケミカル処理し、それによってフラーレン-ポリマーコンプレックスを得るステップ
を含み、前記非共役ポリマーがパイスタッキングによって前記フラーレンと分子間相互作用を形成することができる官能基を含む少なくとも1個の置換基で置換されている、フラーレン-ポリマー組成物の調製のための方法を提供する。
【0059】
これは本明細書においてさらに下記に説明される。
【0060】
本明細書において記載される方法は1又は複数のフラーレンを準備するステップを含む。したがって、本方法は1つの型のフラーレン又は異なるフラーレンの混合物を準備するステップを含んでもよい。フラーレンを調製する方法は当該技術分野で周知である。例えば、クレッチマーら(Kratschmer et al.)(Nature、1990、347、354-358)によって開示されるように、フラーレンは、反応器中、ヘリウム雰囲気でグラファイトを蒸発させ凝縮することにより製造することができる。
【0061】
可能性のあるフラーレンは、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96及びC120を含むがこれらに限定されない。好ましいフラーレンは最も安定な形態のC60及びC70である。特定の実施形態において、1又は複数のフラーレンは、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%又は少なくとも99重量%のC60、C70又はその混合物を含む。ある種の実施形態において、1又は複数のフラーレンは、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%又は少なくとも99重量%のC60を含む。
【0062】
場合によって、フラーレン(複数可)は、1又は複数の置換基、例えばC1-20アルキル、C1-20アルコキシ、C1-10アリールから選択される置換基で置換されていてもよく、これはアミノ又はヒドロキシルなどの1又は複数の官能基でさらに官能化されていてもよい。
【0063】
本明細書において記載される方法は、官能基を含む少なくとも1個の置換基を含む又はそれで置換された、ホモポリマーでもコポリマーであってもよい非共役ポリマーを準備するステップをさらに含み、ここで、前記官能基は、パイスタッキング(π-スタッキング)によってフラーレン(複数可)と分子間相互作用を形成することができる。これは、官能基が、フラーレンのパイ結合と相互作用することができるパイ結合(π結合)を含み、それによってポリマーとフラーレンとの間で分子間引力相互作用(結合)を形成することを意味する。好ましくは、パイ結合は2個の炭素原子間のパイ結合である。
【0064】
有利には、本明細書において目論まれる前記非共役ポリマーは、ポリマー骨格又はポリマー主鎖、特にポリマーを構成する複数の繰り返し単位(モノマー)が、共役系を形成又は含有しない柔軟なポリマーである。言い換えれば、ポリマーを構成するモノマー(複数可)又は繰り返し単位(複数可)が少なくとも1個の二重結合を含む場合、1個のモノマー又は繰り返し単位の前記少なくとも1個の二重結合は、当該二重結合、又は隣接するモノマー(複数可)又は繰り返し単位(複数可)中の二重結合から分離されている。
【0065】
特定の実施形態において、パイ結合を含む官能基は、さらなる置換基で置換されていてもよい、C2-12アルケニル、C2-12アルキニル、C6-16アリール、5~14員ヘテロアリール、及びC3-6シクロアルケニルからなる群より選択される。特定の実施形態において、官能基はC2-6アルケニル及びC6-16アリールから選択される。
【0066】
適切な官能基の非限定的な例は、アリル(2-プロペニル)、プロパルギル(2-プロピニル)、フェニル、ナフチル、ピレニル、ビニル、エチニル、ベンジル、アントリル、インドリル、イミダゾリル、チエニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル及びトリアゾリルを含むがこれらに限定されない。場合によって、パイ結合がなおフラーレンと相互作用することができるのであれば、これらの官能基は置換基をさらに含んでもよい。
【0067】
特定の実施形態において、官能基はアリル、プロパルギル、フェニル、フェニル、ナフチル及びピレニルから選択される。
【0068】
当業者は、パイ結合を含む官能基が、パイスタッキングによってフラーレンと相互作用するために利用可能なように、非共役ポリマーに位置決めされるべきであることを理解する。本発明者らは、ポリマーの少なくとも1つの鎖末端(すなわちα及び/又はω末端)に上記のパイ結合を含む官能基が設けられた、直鎖(すなわち非分岐)非共役ポリマーを使用した場合、特に好結果が得られることを見いだした。そのようなポリマーは、本明細書において目論まれるパイ結合を含む官能基を担持する開始剤及び/又は重合停止剤を使用する重合によって調製されてもよい。特定の実施形態において、直鎖非共役ポリマーの1つの鎖末端のみに、上記のパイ結合を含む官能基が設けられる。
【0069】
加えて又は代替として、1又は複数の官能基はポリマーの他の位置に設けられてもよく、ここで、非共役ポリマーを構成する異なるモノマー又は繰り返し単位に位置する複数の官能基は共役系を形成しない。ある種の実施形態において、(コ)ポリマーは、パイ結合を含む官能基が(コ)ポリマーの繰り返し単位の一部となるように、隣接する繰り返し単位の前記官能基が共役系を形成しないのであれば、官能基を含むモノマーを使用して調製されてもよい。しかし、これは本方法にとって重要ではない。実際は、本明細書において記載されるパイ結合を含む単一の官能基は十分になり得る。したがって、本明細書において目論まれる非共役ポリマーは、上記のパイ結合を含む官能基を担持する1又は複数の置換基で置換されたポリマーであってもよいが、しかし、ここで、繰り返し単位(複数可)はそれ自体、上記の官能基を担持しない。
【0070】
したがって、ある種の実施形態において、本明細書において目論まれる非共役ポリマーは、(コ)ポリマーの繰り返し単位当たり、本明細書において目論まれるパイ結合を含む最大1個の官能基を含む。好ましくは、本明細書において目論まれる非共役ポリマーは、(コ)ポリマー分子当たり1~50個の間、例えば1~40個の間、又は1~30個の間の前記官能基を含む。特定の実施形態において、直鎖非共役ポリマーの1つの鎖末端のみに、上記のパイ結合を含む官能基が設けられる。
【0071】
非共役ポリマーに上記の1又は複数の官能基が設けられるので、ポリマー及びフラーレンは、分子間相互作用を、とりわけパイスタッキングによって形成することができ、それによって、フラーレン-ポリマーコンプレックスを形成する。これは、もっぱら電荷移動などの他の相互作用に基づく、又は、ポリマーによって形成されたミセルにフラーレンが取り囲まれている、当該技術分野で公知のフラーレン-ポリマーコンプレックスとは異なる。
【0072】
親水性又は両親媒性ポリマーを選ぶことによって、コンプレックスの安定な水性分散液を形成することができるように、フラーレン-ポリマーコンプレックスが十分に親水性になることを確実にすることができる。本明細書において目論まれる非共役ポリマーが両親媒性の場合、パイ結合を含む官能基は、好ましくはポリマーの疎水性部分に設けられる。このことにより、フラーレンとの疎水性部分(複数可)間の相互作用を促進し、それによって、フラーレン-ポリマーコンプレックスの形成を可能にしているが、両親媒性ポリマーの親水性部分(複数可)がコンプレックスの外側に残されていて、それによりコンプレックスを水溶性にする。
【0073】
生物学的適合性ポリマーを選ぶことによって、コンプレックスは治療に使用されてもよい。
【0074】
ある種の実施形態において、非共役ポリマー、好ましくは直鎖ポリマーは、本明細書において目論まれるように、少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90又は100の重合度を有する。
【0075】
したがって、本方法で使用される非共役ポリマーは、親水性また両親媒性であり、好ましくは生物学的適合性である。好ましい実施形態において、ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、環式イミノエーテルから製造されたポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)、デキストラン、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(オリゴ(エチレングリコール)アクリラート)(POEGA)、ポリ(オリゴ(エチレングリコール)メタクリラート)(POEGMA)及びそのコポリマーから選択される。特定の実施形態において、ポリマーは、PVP、PEG、環式イミノエーテルから製造されたポリマー、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(PHPMA)]及びそのコポリマーから選択される。
【0076】
特定の実施形態において、非共役ポリマーはコポリマーであってもよい。適切なコポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー又は傾斜コポリマーであってもよい。特定の実施形態において、異なる親水性を含む2つの部分を有し、最も疎水性の部分にパイスタッキングの可能な1又は複数の官能基が設けられたブロックコポリマー又は傾斜コポリマーが使用されてもよい。官能基(複数可)を含む、より疎水性の部分は、フラーレン/ポリマーコンプレックスを得るために必要とする、ポリマーとフラーレンとの間の相互作用を与えることができるが、より親水性部分は水性媒体中のコンプレックスの分散を容易にし得る。より詳しくは、疎水性部分にパイスタッキングの可能な1又は複数の官能基が設けられた両親媒性コポリマーが使用されてもよい。
【0077】
特定の実施形態において、非共役ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、環式イミノエーテルから製造されたポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)、デキストラン、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(オリゴ(エチレングリコール)アクリラート)(POEGA)、ポリ(オリゴ(エチレングリコール)メタクリラート)(POEGMA)及びポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](PHPMA)を含むリストから選択される少なくとも1つのセグメントを含むコポリマーである。他のセグメントが親水性セグメント及び/又は疎水性セグメントを含み、それによって親水性又は両親媒性ポリマーを得てもよい。
【0078】
特に好ましい実施形態において、本明細書において目論まれる非共役ポリマーはアミド結合をさらに含む。有利には、本明細書において目論まれるパイ結合を含む官能基及びアミド結合(特にパイ結合を含む前記官能基に近接したアミド結合)の両方を含む非共役ポリマーは、フラーレンに対してより高い親和性がある。
【0079】
「ポリビニルピロリドン」すなわち「PVP」は、本明細書において少なくとも50重量%のビニルピロリドンモノマーを含むポリビニルピロリドンを意味する。PVPは最大50重量%のコモノマーを含んでもよい。PVPがコポリマーである実施形態において、コポリマーは、好ましくはブロックコポリマー又は傾斜コポリマーである。特定の実施形態において、PVPは少なくとも75、80又は90重量%のビニルピロリドンモノマーを含む。特定の実施形態において、PVPはホモポリマーである。特別の実施形態において、PVPは式(I)のホモポリマーである:
【0080】
【化1】


(式中、nは重合度であり、R及びRの少なくとも1つは、パイスタッキングによってフラーレンと相互作用することができる官能基を含む。)。特定の実施形態において、重合度は10~500の間、例えば約50又は100である。
【0081】
本明細書において使用される用語「環式イミノエーテルから製造されたポリマー」は、2-置換2-オキサゾリンなどの環式イミノエーテル、例えば2-エチル-2-オキサゾリン又は2-メチル-2-オキサゾリンに由来する、好ましくは開環重合によるポリマーを指す。とりわけ、そのようなポリマーは、典型的には式(II)の少なくとも50重量%の環式イミノエーテルから調製される:
【0082】
【化2】


(式中、mは2~5の範囲の整数であり;
は、好ましくはC1-4アルキル、C1-4アルケニル、C1-4アルキニル、C6-16アリール、C3-6シクロアルキル又は水素から選択される。)。特定の実施形態において、Rは、C1-3アルキル、C1-3アルケニル、C1-3アルキニル及びC6-10アリール及び水素から選択される。特定の実施形態において、Rはメチル又はエチルである。その結果、水溶性のポリマー又はポリマー部分がもたらされる。特定の実施形態において、Rはブテニル又はブチニルである。これは、パイスタッキングによるフラーレンと相互作用することができるパイ結合をもたらす。
【0083】
好ましい実施形態において、mは2又は3であり、特に好ましい実施形態において、mは2である。mが2である場合、結果として得られるポリマーはポリオキサゾリンである。mが3である場合、結果として得られるポリマーはポリオキサジンである。
【0084】
特定の実施形態において、環式イミノエーテルから製造されるポリマーの重合度は、10~500の間、例えば、約50又は100である。
【0085】
本方法で使用される環式イミノエーテルから製造されたポリマーは、異なる置換基Rを有する式(II)のモノマーの混合物から調製されてもよく、又はすべてのモノマーに同じ置換基Rが設けられてもよい。
【0086】
本明細書において使用される用語「環式イミノエーテルから製造されたポリマー」は、また式(II)の少なくとも50重量%の環式イミノエーテルから調製されたポリマーを含む。式中、m及びRは上記と同じであり、(CH)m部分の1又は複数の水素原子はそれぞれ独立してC1-4アルキル、C1-4アルケニル、C1-4アルキニル、C6-16アリール及びC3-6シクロアルキルから選択される置換基と置き換えられてもよい。
【0087】
環式イミノエーテルから製造されたポリマーは最大50重量%のコモノマーを含んでもよい。環式イミノエーテルから製造されたポリマーがコポリマーである実施形態において、コポリマーは好ましくはブロックコポリマー又は傾斜コポリマーである。特定の実施形態において、環式イミノエーテルから製造されたポリマーは、少なくとも75、80又は90重量%の式(II)のモノマーから製造される。特定の実施形態において、環式イミノエーテルから製造されたポリマーはホモポリマーである。特別の実施形態において、環式イミノエーテルから製造されたポリマーは式(III)のホモポリマーである:
【0088】
【化3】


(式中、nは重合度であり;ここで、m及びRは上記と同じ意味を有し;R、R及びRの少なくとも1つは、パイスタッキングによってフラーレンと相互作用することができる官能基を含む。)。特定の実施形態において、重合度は10~500の間、例えば約50又は100である。
【0089】
本明細書において「ポリ(エチレングリコール)」すなわち「PEG」は、少なくとも50重量%のエチレングリコールモノマーから調製されたPEGを意味する。PEGは最大50重量%のコモノマーを含んでもよい。PEGがコポリマーである実施形態において、コポリマーは好ましくはブロックコポリマー又は傾斜コポリマーである。特定の実施形態において、PEGは少なくとも75、80又は90重量%のエチレングリコールモノマーを含む。特定の実施形態において、PEGはホモポリマーである。特別の実施形態において、PEGは式(IV)のホモポリマーである:
【0090】
【化4】


(式中、nは重合度であり、R及びRの少なくとも1つは、パイスタッキングによってフラーレンと相互作用することができる官能基を含む。)。特定の実施形態において、重合度は10~500の間、例えば約50又は100である。
【0091】
フラーレン(複数可)及び非共役ポリマー(複数可)は、好ましくはフラーレン:ポリマーモル比が0.1~10の間で与えられる。特定の実施形態において、フラーレン:ポリマーモル比は0.2~5の範囲である。ある種の実施形態において、フラーレン:ポリマーモル比は0.5~2の範囲である。最適なフラーレン:ポリマーモル比は、ポリマーの型、重合度、及びパイスタッキングのできる官能基の量などの様々なパラメータに依存し得る。
【0092】
本明細書において「ポリビニルアルコール」すなわち「PVA」は、少なくとも50重量%のビニルアルコールモノマーを含むポリビニルアルコールを意味する。PVAは最大50重量%のコモノマーを含んでもよい。PVAがコポリマーである実施形態において、コポリマーは好ましくはブロックコポリマー又は傾斜コポリマーである。特定の実施形態において、PVAは少なくとも75、80又は90重量%のビニルアルコールモノマーを含む。特定の実施形態において、PVAはホモポリマーである。特定の実施形態において、重合度は10~500の間、例えば約50又は100である。
【0093】
本明細書において「ポリグルタミン酸」すなわち「PGA」は、少なくとも50重量%のグルタミン酸モノマーを含むポリグルタミン酸を意味する。PGAは最大50重量%のコモノマーを含んでもよい。PGAがコポリマーである実施形態において、コポリマーは、好ましくはブロックコポリマー又は傾斜コポリマーである。特定の実施形態において、PGAは少なくとも75、80又は90重量%のグルタミン酸モノマーを含む。特定の実施形態において、PGAはホモポリマーである。特定の実施形態において、重合度は10~500の間、例えば約50又は100である。
【0094】
本明細書において「ポリ(オリゴ(エチレングリコール)アクリラート)」すなわち「POEGA」は、少なくとも50重量%のオリゴ(エチレングリコール)アクリラートモノマーを含むポリ(オリゴ(エチレングリコール)アクリラート)を意味する。POEGAは最大50重量%のコモノマーを含んでもよい。POEGAがコポリマーである実施形態において、コポリマーは、好ましくはブロックコポリマー又は傾斜コポリマーである。特定の実施形態において、POEGAは少なくとも75、80又は90重量%のオリゴ(エチレングリコール)アクリラートモノマーを含む。特定の実施形態において、POEGAはホモポリマーである。特定の実施形態において、重合度は10~500の間、例えば約50又は100である。
【0095】
本明細書において「ポリ(オリゴ(エチレングリコール)メタクリラート)」すなわち「POEGMA」は、少なくとも50重量%のオリゴ(エチレングリコール)メタクリラートモノマーを含むポリ(オリゴ(エチレングリコール)メタクリラート)を意味する。POEGMAは最大50重量%のコモノマーを含んでもよい。POEGMAがコポリマーである実施形態において、コポリマーは、好ましくはブロックコポリマー又は傾斜コポリマーである。特定の実施形態において、POEGAは少なくとも75、80又は90重量%のオリゴ(エチレングリコール)メタクリラートモノマーを含む。特定の実施形態において、POEGMAはホモポリマーである。特定の実施形態において、重合度は10~500の間、例えば約50又は100である。
【0096】
本明細書において「ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]」すなわち「PHPMA」は、少なくとも50重量%のN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドモノマーを含むポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]を意味する。PHPMAは最大50重量%のコモノマーを含んでもよい。PHPMAがコポリマーである実施形態において、コポリマーは、好ましくはブロックコポリマー又は傾斜コポリマーである。特定の実施形態において、PHPMAは少なくとも75、80又は90重量%のN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドモノマーを含む。特定の実施形態において、PHPMAはホモポリマーである。特定の実施形態において、重合度は10~500の間、例えば約50又は100である。
【0097】
本明細書において「デキストラン」は、場合によってα-1,3分岐を有する、主にα-1,6グリコシド結合によって連結したグルコースモノマーで構成される多糖類群のメンバーを意味する。
【0098】
特定の実施形態において、フラーレン(複数可)及び非共役ポリマー(複数可)は、フラーレン:ポリマーの重量比1:100~3:20の間で与えられる。
【0099】
本方法において、上記のフラーレン(複数可)及び非共役ポリマー(複数可)は、フラーレン-ポリマーコンプレックスを得るためにメカノケミカル処理される。したがって、フラーレン-ポリマーコンプレックスは機械的作用(のみ)によって得られる。メカノケミカル処理は均質なフラーレン-ポリマー混合物を得ることを可能にする。パイスタッキングによってフラーレン(複数可)と相互作用する、非共役ポリマーの可能性により、フラーレン-ポリマーコンプレックスはより特異的に粒状のフラーレン-ポリマーコンプレックスが得られる。
【0100】
本明細書において記載されるフラーレン及びポリマーのメカノケミカル処理の利点は、フラーレン-ポリマーコンプレックスを得るために、溶媒を必要としないということである。これは、毒性、廃棄物及びコストなどの溶媒の使用と関係する潜在的な問題をなくすことを可能にする。したがって、好ましい実施形態において、本方法のステップ(b)は、溶媒のない状態で、より詳しくは液体のない状態で実施される。これは、メカノケミカル処理の前に又はその間に、好ましくは、フラーレン(複数可)及びポリマー(複数可)に溶媒は添加されないことを意味する。
【0101】
好ましくは、フラーレン(複数可)及びポリマー(複数可)のメカノケミカル処理は、フラーレン-ポリマー混合物の粉砕又は摩砕を含む。粉砕又は摩砕は、粒子の形態の非常に均質なフラーレン-ポリマー組成物を得ることを可能にする。一般に、粒子は、200nm未満の大きさ(以下を参照)を有するナノ粒子である。
【0102】
本発明者らは、粉砕又は摩砕時間を初期に増やすと粒子収率が上がるが、粉砕又は摩砕を延ばした後は、収率の向上が鈍くなるか、収率の低下さえ起こすことを見いだした。一般に、摩砕又は摩砕は、1分~24時間の間、とりわけ2分~60分の間の期間にわたって実施される。最適な粉砕又は摩砕時間は、装置及び振動数に依存し得る。
【0103】
特に好ましい実施形態において、フラーレン-ポリマー混合物を調製するためのメカノケミカル処理はボール摩砕を含む。一般に、ボール摩砕は、必要量の粉砕ボール(又は、他の形状を有する粉砕媒体)が容器に閉じ込められるミルを使用して実施されてもよい。とりわけ、ボール摩砕は、その軸の回りを回転する中空の円筒胴を含む従来のボールミルを使用して、又は、振動式又は遊星式のボール摩砕などの他の型の粉砕又は摩砕装置において、実施されてもよい。特別の実施形態において、メカノケミカル処理は振動摩砕、とりわけ高速振動摩砕(HSVM)を含んでいてもよい。本発明者らは、振動摩砕が特に好結果を与え、100nm未満の大きさを有する粒子をもたらすことを見いだした。HSVMに関しては、1分~4時間の間の摩砕時間が、最も良好な結果をもたらすことを見いだした。好ましくは、5~60分の間、例えば約10分の粉砕又は摩砕時間が選ばれる。
【0104】
ある種の実施形態において、フラーレン(複数可)及び非共役ポリマー(複数可)のメカノケミカル処理は、フラーレン-ポリマー混合物の押出加工、例えばいわゆる「ミニ押出機」の使用を含む。
【0105】
メカノケミカル処理は明確な大きさを有するナノ粒子を得ることを可能にすることができるが、本明細書において記載される方法は、上記のメカノケミカル処理によって得られたフラーレン-ポリマーコンプレックスを精製するステップ(c)をさらに含んでもよい。
【0106】
好ましい実施形態において、機械的処理によって得られたフラーレン/ポリマー組成物は、所望の水性媒体(例えば水)中で分散する。水性媒体への組成物の分散は、振盪、超音波処理又は当該技術分野で公知の他の技法によって容易にすることができる。安定な分散液の形成には大きすぎる粒子又は粒子クラスタは、分散液からこれらの粒子を沈殿させることにより取り除き、続いて沈殿物(大きすぎる粒子を含む)と上澄み(より小さなナノ粒子を含む)を分離してもよい。沈殿は、当該技術分野で公知のように遠心分離によって容易にすることができる。
【0107】
加えて又は代替として、フラーレン-ポリマーコンプレックスは、好ましくは0.5μm未満、例えば約0.2μmの孔径を有する多孔質膜フィルターを使用して濾過されてもよい。これによって、フラーレン-ポリマー粒子の大きな凝集体を取り除くことが可能になる。一般に、液体(水性媒体)中で分散した場合、濾過は粒子について実施される。
【0108】
さらに本明細書において、上記の方法を使用して得ることができるフラーレン-ポリマー組成物が提供される。とりわけ本明細書において、上記の少なくとも1つのフラーレン及び非共役親水性ポリマーを含むフラーレン-ポリマーコンプレックスを含む組成物が提供される。粒子中で、フラーレン(複数可)及びポリマー(複数可)はパイスタッキングによって相互作用する。
【0109】
特定の実施形態において、組成物内のフラーレン(複数可)及びポリマー(複数可)のフラーレン:ポリマーモル比は0.1~10の間、好ましくは0.2~5の間にある。
【0110】
特定の実施形態において、粒子は10nm~200nmの間の数平均粒径を有する。さらなる実施形態において、粒子は50nm~100nmの間の数平均粒径を有する。特定の実施形態において、粒子の少なくとも90%は100nm未満の粒径を有する。本明細書において言及される粒径は、動的光散乱(DLS)によって測定される流体力学的大きさである。大きさの測定に関しては、粒子は、好ましくは当業者に公知の適切な粒子濃度、例えば約1.0g/Lで25℃で(蒸留)水中で懸濁される。
【0111】
本明細書において記載される方法に従って調製されたフラーレン-ポリマーコンプレックスは、水性媒体中で安定な分散液を形成するために使用することができる。本明細書において使用される場合、用語「安定な分散液」は、1重量%未満の分散粒子が約25℃で少なくとも1日間、好ましくは少なくとも5日間で沈殿する分散液又は懸濁液を指す。
【0112】
したがって、特定の実施形態において、フラーレン-ポリマーコンプレックス(粒子の形態の)は、水性媒体中、とりわけ水性液中で分散又は懸濁し、それにより水性組成物を形成する。特定の実施形態において、水性組成物は少なくとも1重量%のフラーレン、好ましくは少なくとも1.5重量%、より好ましくは少なくとも2重量%のフラーレン、例えば約5重量%のフラーレンを含む。
【0113】
ある種の実施形態において、水性組成物は、少なくとも50重量%の水、とりわけ少なくとも75%、及び好ましくは少なくとも90重量%の水を含む。
【0114】
特定の実施形態において、本明細書において目論まれる水性組成物は、
-少なくとも2重量%のフラーレンと;
-本明細書において目論まれるパイ結合を含む官能基を含む、少なくとも1重量%の非共役ポリマーと;
-少なくとも75重量%の水とを含む。
【0115】
好ましい実施形態において、フラーレンは少なくとも50重量%のC60を含む。
【0116】
本明細書において記載されるフラーレン-ポリマーコンプレックスを含む組成物は、医学で有用であり得る。例えば、フラーレンは光増感剤として機能することができるということを考慮すると、本明細書において記載される組成物は、光線力学療法で、例えば癌の処置に対して有用であり得る。さらなる例として、活性酸素種を捕捉するフラーレンの能力により、本組成物は、パーキンソン病、アルツハイマー病、循環器疾患、関節炎及び癌などの酸化ストレスに関連した疾患の処置又は防止のために使用されてもよい。本明細書において記載される組成物を使用して、処置又は防止されてもよい循環器疾患の例は、アテローム性動脈硬化症、高血圧症及び心不全を含むがこれらに限定されない。
【0117】
本明細書において記載される特別のフラーレン-ポリマーコンプレックスは、優れた安定性及び生物学的適合性を可能にし、それは、上述の治療の処置に対してその中に含まれるフラーレンの有効性を増加させることができる。目論まれる処置に応じて、それを必要とする患者への組成物の投与は、局所用、静脈内、又は経口であってもよい。
【0118】
さらに本明細書において、水性媒体、とりわけ水中のフラーレンの溶解性を増加させるための、本明細書において記載される非共役ポリマーの使用が提供される。水中でのフラーレンの可溶化は、生物医学的な用途のフラーレンの使用にとって特に重要である。
【0119】
水中のフラーレンの可溶化は、抗酸化剤としてのフラーレンの使用にはさらに重要である。したがって、本明細書において、抗酸化剤として、例えば、スキンクリームなどのパーソナルケア製品、化粧用途及び食品添加物において本明細書に記載される組成物の使用がさらに提供される。
【0120】
本明細書において、パーソナルケア製品、化粧用途及び食品添加物における、本明細書において記載される組成物の使用がさらに提供される。
【実施例
【0121】
以下の実施例はクレームの方法及び適用を例証する目的で提供され、本発明の範囲を限定するようには決して意味せず、決して解釈されるべきでない。
【0122】
実施例1-パイ結合を含む官能基を有するポリオキサゾリンポリマー
1.1 材料及び方法
High Speed Vibration Milling(高速振動摩砕機、HSVM)を、直径15mmのステンレス鋼製粉砕ボールを含む10mLのステンレス鋼製粉砕ボウル中でFritsch Mini-Mill Pulverisette 23を使用して実施した。典型的には、10分の摩砕時間を用いた。
【0123】
動的光散乱(DLS)測定を、Zetasizer Nano-ZS Malvern装置(Malvern Instruments Ltd)で、使い捨てのキュベットを使用して実行した。励起光源は633nmのHeNeレーザーであり、散乱光の強さを173°の角度で測定した。測定した分散液はすべて、脱イオン水中1.0mg/mLの濃度であり、測定前にMillipore膜(孔径0.2μm)によって濾過した。試料を少なくとも120秒間インキュベートして平衡に到達した。Sartopore 2150(0.45+0.2μmの孔径)カートリッジフィルタを有するSartorius Arium 611を使用して、18.2MΩ.cm未満の抵抗率を有する脱イオン水を調製した。
【0124】
この方法で強度の変動速度を測定し、粒子の大きさはストークス-アインシュタイン式によって求められる。
【0125】
UV可視スペクトルは、Cary温度及び撹拌の制御を装備したVarian Cary 100 Bio UV-VIS分光光度計で記録した。200~700nmの波長領域で1.0cmの路長を有する石英製又は使い捨てのキュベットのいずれかで試料を測定した。各試料の濃度は、milliQ水(超純水)中、1.0mg/mlであった。
【0126】
凍結乾燥を、Martin Christ凍結乾燥装置、モデルAlpha 2-4 LSCplusで実施した。
【0127】
1260オンライン脱ガス機と、1260 ISOポンプと、1260自動液体試料採取器(ALS)と、直列に2本のPLgel 5μm mixed-Dカラム及び1本のプレカラム、1260ダイオードアレー検出器(DAD)及び1260屈折率検出器(RID)を装備し、50℃に温度調節したカラム室(TCC)とを装備したAgilent 1260シリーズHPLCシステムで、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を実施した。使用した溶離液は、流速0.500ml/分のLiCl50mMを含有するDMAであった。スペクトルはGPCに付属するAgilent Chemstationソフトウェアを使用して分析した。モル質量値及びD(多分散度)値は、PSSからPMMA標準に対して計算した。
【0128】
プロトン核磁気共鳴スペクトル(H NMR)を、Bruker Avance 300又は400MHz分光計を用いて、室温で記録した。化学シフトはTMSに対して百万分率(δ)で与えられる。化合物は、Eurisotopからの、CDCl、DO又はDMSO-d6いずれかに溶解した。
【0129】
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分光法(MALDI-TOF MS)を、2mのリニア及び3mのリフレクタ飛行管、ならびに355nmのBlue Lion Biotech Marathon固体レーザー(3.5nsのパルス)を装備したApplied Biosystems Voyager De STR MALDI-TOF質量分光計で実施した。質量スペクトルはすべて、20kVの加速電位を用い、陽イオンモード、及びリフレクトロン又はリニアモードのいずれかで得られた。
【0130】
重合は、単一モードマイクロ波Biotage initiator sixty(IR温度センサー)(Biotage, Uppsala, Sweden)中、封鎖したバイアル中で実施した。
【0131】
試料をGCで測定して、モノマー及び反応溶媒からの積分の比からモノマー変換率を求めた。GCは、VWR Carrier-160水素発生器、及び長さ30m直径0.320mmのAgilent HP-5カラムを装備したAgilent 7890Aシステムで実施した。FID検出器を使用し、入口は250℃に設定し、25:1の比でスピリット注入した。水素をキャリアガスとして2mL/分の流速で使用した。オーブン温度は、20℃/分で50℃から120℃に、続いて50℃/分の傾斜で300℃に上昇させた。
【0132】
他に明示しない限り、化学薬品はすべて受領したままで使用した。HPLC等級の溶媒はすべて、Sigma-Aldrichから購入した(アセトン、ジエチルエーテル、DMA、酢酸エチル、ジクロロメタン、メタノール、アセトニトリル)。C60(純度99、5%)はSigma-Aldrichから購入した。
【0133】
1.2 ポリオキサゾリンの合成
ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)及びポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)をカチオン環重合によって調製した。カチオン環重合によるポリオキサゾリンの調製は、当該技術分野では、例えば、フィーテンら(Fijten et al.)(Macromol.Chem.Phys.、2008、209、1887-1895)によって周知である。重合は、プロパルギル含有開始剤、より詳しくはトシル酸プロパルギル及びベンゼンスルホン酸プロパルギルを使用して実施した。重合反応は、テトラメチルアンモニウムヒドロオキシドの添加によって終了し、結果としてヒドロキシル末端基が得られた。
【0134】
PAOxポリマーを、アセトニトリル中、4Mのモノマー溶液の調製により不活性雰囲気下で20、50又は100繰り返し単位を含むポリマーの調製のために適正な開始剤量を用いて調製した。次に、モノマー溶液を、biotageマイクロ波中で140℃に3.5、8又は16分間加熱してほぼ完全なモノマー変換率に達した。重合の後、わずかに過剰の重合停止剤を添加してポリマーに所望の官能基を導入した。次に、ポリマーをジエチルエーテルから単離し、その後、水に溶解し、凍結乾燥した。ポリマーはMALDI-TOF-MS、SEC及びHNMRで特性評価した。
【0135】
この方法で、1つの鎖末端にプロパルギル官能基を設け、他の鎖末端にヒドロキシル官能基を設けたポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)及びポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)が得られた。プロパルギル含有鎖末端はフラーレンに対して高い親和性があり、それにより本明細書において記載されるフラーレン-ポリマーコンプレックスを調製するためのポリマーの使用が可能になる。これらのポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)及びポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)ポリマーを、本明細書においてさらにそれぞれ「プロパルギル-PEtOx-OH」及び「プロパルギル-PMEtOx-OH」と称する。
【0136】
同様に、パイ結合を有する開始剤又は重合停止剤を使用せずに、ポリオキサゾリンポリマーを調製した。適切な調製法は、ホーヘンボームら(Hoogenboom et al.)(J.Polym.Sci.A Polym.Chem.、2007、45、416-422;及びMacromolecules、2008、41、1581-1583)によって記載されている。パイスタッキングを可能にするために、これらのポリマーはパイ結合を含む官能基を有するモノマーから調製した。より詳しくは、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)(重合度75)及びポリ(2-フェニル-2-オキサゾリン)(重合度25)を含むブロック及び傾斜コポリマーを調製した。
【0137】
1.3 C60ナノ粒子の調製及び分析
60ポリマーナノ粒子(NPs)を以下の方式で調製した。まず、C60及びポリマーを秤量し、混合容器に1:2、1:1又は2:1いずれかのモル比で注いだ。次に、固体混合物を50Hzで10分間摩砕し、その後褐色から黒色の固体が得られた。C60ポリマーNPsを抽出するために、2mlの水を混合容器に添加し、その後、50Hzで2分間もう一度摩砕して暗色の溶液が得られた。次いで、この溶液を200nm孔径のフィルターを介して濾過して、溶解しないC60をすべて除去した。次いで、得られた溶液を凍結乾燥し、NPsをUV可視分光法及び動的光散乱によって特性評価した。
【0138】
60含有率を分析するために、この試料でUV可視分光法を実施した。この目的のために、miliQ水中の1mg/mlのC60ポリマーNPsのストック溶液を調製し、次いで、これを5又は10倍のいずれかに希釈して吸収度単位0~2の範囲の吸収が得られた。ブランクに対する補正後、濃度を、文献から既知の吸光係数(ε=49000)を用いランベルト-ベール則を使用して計算した。
【0139】
動的光散乱を、1mg/mlのC60ポリマーNPs溶液で実施した。溶液調製後、溶液を濾過し測定した。測定は、溶媒としてmiliQ水又はPBS緩衝液のいずれかを用いて実施した。平衡化時間は180秒であり、温度は25℃であった。各試料について3回ランを実施した。
【0140】
1.4結果及び考察
フラーレン-ポリマーナノ粒子(NPs)組成物を、異なるポリマー及びフラーレン:ポリマー比を使用して、HSVMによって調製した。本実施例で使用したポリオキサゾリンポリマー(1~5)の基本構造を図1に示す。ポリマー1~5はそれぞれ、パイスタッキングによってフラーレンと相互作用することができる1又は複数の官能基(プロパルギル、エテニル、フェニル)を含む。そのような官能基を含まないポリマー6は対照として使用した。
【0141】
変化させたパラメータは、ポリオキサゾリンポリマーの重合度(DP)、及びフラーレン対ポリマーモル比を含む。表1は、実施した実験の概要を提供する。
【0142】
各実験に対して、DLSによって、得られた粒子の大きさ、水中で分散させることができるC60(重量%)の量、粒子収率(すなわち0.2μm孔径フィルターを介して濾過した後、水相中に残る粒子の分画)、粒子の分散度、及び粒子の安定性を測定した。分散度は、粒径の分散度を与えるDLSによって評価した。4か月の期間にわたって7日間隔で溶液を再測定することによって、ナノ粒子の安定性を調査した。
【0143】
結果を表1に提供する。ポリマー1~5の実験はすべて、良好な粒子分散度(<0.3)を有する100nm未満の平均粒径(すなわち非常に明確なNPsの個体数)を有するポリマーナノ粒子:フラーレンをもたらすこと、そして、1.5重量%から8.7重量%までの水中C60濃度を得ることを可能にすることを見いだした。そのような高い濃度でさえ、分散液は数週間から数か月の間安定であった。
【0144】
対照的に、パイ結合含有官能基を含まないポリマー6を用いて安定な分散液を形成することはできなかった。このことは、明らかに、パイスタッキングの可能なパイ結合含有基を有するポリマーが、メカノケミストリーを使用する、水性フラーレン分散液の調製に対してはるかに良好な結果を与えることを示す。
【0145】
【表1】

【0146】
MTT毒性アッセイでは、ポリマーの1つの末端にナフチル又はピレニル官能基を含むポリオキサゾリンポリマーと複合体形成したC60を含むNPsが、フラーレンを含まないポリオキサゾリンポリマーとして細胞生存率に同様の影響があったことを示した。アリル、プロパルギル又はフェニル官能基を含むポリオキサゾリンポリマーと複合体形成したC60を含むNPsは、最大約20~50μΜのC60濃度に対して少なくとも80%の細胞生存率を示した。
【0147】
1.5 C70-ポリオキサゾリンナノ粒子の調製及び分析
70ポリマーナノ粒子(NPs)を、上記1.3項と同様の手順を使用して調製した。C70及びポリオキサゾリンポリマーを秤量し、2:1モル比で混合容器に注いだ。
【0148】
次に、固体混合物を50Hzで10分間摩砕し、その後、褐色から黒色の固体が得られた。C70ポリオキサゾリンNPsを抽出するために、2mlの水を混合容器に添加し、その後、50Hzで2分間もう一度摩砕し暗色の溶液が得られた。次いで、この溶液を200nm孔径のフィルターを介して濾過してすべての溶解しないC70を除去した。次いで、上記1.3項に記載したように、得られた溶液を凍結乾燥し、NPsはUV可視分光法及び動的光散乱で特性評価した。
【0149】
結果を表2に示す。
【0150】
【表2】

【0151】
実施例2-PEGの改質
使用する材料及び方法は、全体として上記実施例1の1.1項の通りであった。
【0152】
パイ結合を有する官能基を含む改質PEGを合成するために、市販のモノメチルエーテルポリエチレングリコール(PEG)を使用した。2つの手順を使用した。第1の手順は、乾燥THF中NaH1.6モル当量を使用する、PEGのヒドロキシル官能基のプロトン脱離、続いて3モル当量の所望の臭素化官能基の滴下を伴う。
【0153】
第2の手順は、ジクロロメタン中のポリマーの塩基性溶液へのトシルクロリドの13モル当量の添加による、ヒドロキシル官能基の各トシラートへの変換を必要とする。ジエチルエーテル中での沈殿によって改質PEGポリマーを単離し、次いで、トシル化ポリマーを、所望の官能基の10モル当量のアルコキシドと一晩反応させた。
【0154】
最終ポリマーをすべてジエチルエーテル中での沈殿によって単離し、続いて水中で再懸濁し、次いで、少なくとも3日間透析した。最後に、ポリマーはMALDI-TOF-MS、SEC及びHNMRで特性評価した。
【0155】
改質PEGを含むC60ポリマーナノ粒子を調製し(C60:ポリマー比1:2で)、上記実施例1の1.3項の通りに分析した。結果を表3に示す。
【0156】
【表3】

【0157】
このことは、明らかに、パイスタッキング(列1~3)が可能なパイ結合含有基を有するポリマーが、メカノケミストリーを使用する、水性フラーレン分散液の調製にとってはるかに良好な結果を提供することを示す。
【0158】
実施例3-PVPポリマー
使用する材料及び方法は、全体として上記実施例1の1.1項の通りであった。
【0159】
N‐ビニルピロリドンは、重合の前に蒸留した。次に、アニソール中でモノマーを希釈することによって3Mのモノマー(M)溶液を調製し、続いて以下のモル比[M]:[CTA]:[AIBN]=150:1:0.3で連鎖移動剤(CTA)及び開始剤(AIBN)を添加した。次いで、重合混合物は、少なくとも3回の凍結融解サイクルの実施により脱気した。次に、重合混合物を70℃に加熱し、所望の変換率に到達するまでガスクロマトグラフィーで変換率を追跡し、その後、重合混合物を冷却し、大気に開放した。次いで、ポリマーをジエチルエーテル中での沈殿によって単離し、続いて水中で再懸濁し、透析した。
【0160】
PVPポリマーを含むC60ポリマーナノ粒子を調製し(C60:PVP比2:1)、上記実施例1の1.3項のように分析した。結果を表4に示す。
【0161】
【表4】

【0162】
芳香族基を含まないPVPポリマーとは対照的に、芳香族基を含むPVPポリマーは、良好な粒子分散度(<0.3)を有する100nm未満の平均粒径をもつフラーレン:ポリマーナノ粒子を高い収率で得ることを可能にした。このことは、明らかに、パイスタッキングの可能なパイ結合含有基を有するポリマーが、メカノケミストリーを使用する、水性フラーレン分散液の調製にとってはるかに良好な結果を与えることを示す。
図1