(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】コイン形二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20220623BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220623BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220623BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20220623BHJP
H01M 50/202 20210101ALN20220623BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M50/202 301
H01M50/202 501B
(21)【出願番号】P 2020553930
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2019042328
(87)【国際公開番号】W WO2020090802
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2018204398
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】由良 幸信
(72)【発明者】
【氏名】前田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】浦川 明
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/150679(WO,A1)
【文献】特開2001-202993(JP,A)
【文献】特開2004-079356(JP,A)
【文献】特開2007-005717(JP,A)
【文献】特開2012-190729(JP,A)
【文献】特開2004-327282(JP,A)
【文献】特開2012-204155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-0587
H01M 4/13-62
H01M 50/20-298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リフロー方式によるはんだ付け用のコイン形二次電池であって、
多孔質の正極と、
多孔質の負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられる多孔質のセパレータと、
前記正極、前記負極および前記セパレータに含浸される電解液と、
前記正極、前記負極、前記セパレータおよび前記電解液を収容する密閉空間を有する外装体と、
を備え、
前記コイン形二次電池が、リチウム二次電池であり、
前記電解液が、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種からなる非水溶媒中にホウフッ化リチウムを含む液であり、
前記電解液の量を、前記正極、前記負極および前記セパレータの空隙量の和で除して得られる値が、1.025~2.4である。
【請求項2】
請求項1に記載のコイン形二次電池であって、
前記外装体の容積を前記電解液の量で除して得られる値が、1.6~3.2である。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコイン形二次電池であって、
はんだリフロー前における前記コイン形二次電池のエネルギー密度が、35~200mWh/cm
3である。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のコイン形二次電池であって、
前記正極および前記負極のそれぞれが、焼結体である。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のコイン形二次電池であって、
前記正極の気孔率が20~60%であり、前記正極の平均気孔径が0.1~10.0μmである。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載のコイン形二次電池であって、
前記負極の気孔率が20~60%であり、前記負極の平均気孔径が0.08~5.0μmである。
【請求項7】
請求項1ないし
6のいずれか1つに記載のコイン形二次電池であって、
前記コイン形二次電池の厚さが0.7~1.6mmであり、前記コイン形二次電池の直径が10~20mmである。
【請求項8】
請求項1ないし
7のいずれか1つに記載のコイン形二次電池であって、
はんだリフロー後における前記コイン形二次電池の電池容量が、はんだリフロー前における前記コイン形二次電池の電池容量の65%以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフロー方式によるはんだ付け用のコイン形二次電池に関する。
[関連出願の参照]
本願は、2018年10月30日に出願された日本国特許出願JP2018-204398からの優先権の利益を主張し、当該出願の全ての開示は、本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
従来、様々なコイン形二次電池が利用されている。例えば、特許第4392189号公報(文献1)では、リフロー方式によるはんだ付け用のコイン型二次電池が開示されており、正極活物質としてリチウム含有マンガン酸化物が用いられる。当該コイン型二次電池では、電解液に含まれるリチウム塩濃度を1.5~2.5mol/lとすることにより、はんだリフローによる電解液とリチウム含有マンガン酸化物との反応を抑制し、良好なリフロー耐熱性が得られる。
【0003】
なお、特許第5587052号公報(文献2)では、リチウム二次電池の正極が開示されており、当該正極の正極活物質層として、厚さが30μm以上であり、空隙率が3~30%であり、開気孔比率が70%以上であるリチウム複合酸化物焼結体板が利用される。また、国際公開第2017/146088号(文献3)では、固体電解質を備えるリチウム二次電池が開示されており、配向焼結体板が正極として利用される。配向焼結体板は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)等のリチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が正極の板面に対して0°より大きく、30°以下である平均配向角度で配向している。特開2015-185337号公報(文献4)には、電極にチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)焼結体を用いた全固体電池が開示されている。
【0004】
既述のように、文献1では、電解液に含まれるリチウム塩濃度を所定範囲内に調整することにより、はんだリフローの熱による電解液と正極活物質との反応が抑制される。しかしながら、リフロー方式によるはんだ付け用のコイン形二次電池では、はんだリフローによる性能の低下が他の要因により生じることがある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、リフロー方式によるはんだ付け用のコイン形二次電池に向けられており、はんだリフローによる性能の低下が抑制された高性能のコイン形二次電池を実現することを目的としている。
【0006】
本発明に係るコイン形二次電池は、多孔質の正極と、多孔質の負極と、前記正極と前記負極との間に設けられる多孔質のセパレータと、前記正極、前記負極および前記セパレータに含浸される電解液と、前記正極、前記負極、前記セパレータおよび前記電解液を収容する密閉空間を有する外装体とを備え、前記コイン形二次電池が、リチウム二次電池であり、前記電解液が、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種からなる非水溶媒中にホウフッ化リチウムを含む液であり、前記電解液の量を、前記正極、前記負極および前記セパレータの空隙量の和で除して得られる値が、1.025~2.4である。
【0007】
本発明によれば、はんだリフローによる性能の低下が抑制された高性能のコイン形二次電池を実現することができる。
【0008】
本発明の一の好ましい形態では、前記外装体の容積を前記電解液の量で除して得られる値が、1.6~3.2である。
【0009】
本発明の他の好ましい形態では、はんだリフロー前における前記コイン形二次電池のエネルギー密度が、35~200mWh/cm3である。
【0010】
本発明の他の好ましい形態では、前記正極および前記負極のそれぞれが、焼結体である。
【0011】
本発明の他の好ましい形態では、前記正極の気孔率が20~60%であり、前記正極の平均気孔径が0.1~10.0μmである。
【0012】
本発明の他の好ましい形態では、前記負極の気孔率が20~60%であり、前記負極の平均気孔径が0.08~5.0μmである。
【0014】
本発明の他の好ましい形態では、前記コイン形二次電池の厚さが0.7~1.6mmであり、前記コイン形二次電池の直径が10~20mmである。
【0015】
本発明の他の好ましい形態では、はんだリフロー後における前記コイン形二次電池の電池容量が、はんだリフロー前における前記コイン形二次電池の電池容量の65%以上である。
【0016】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】配向正極板の断面におけるEBSD像を示す図である。
【
図4】EBSD像における一次粒子の配向角度の分布を示すヒストグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<コイン形二次電池>
図1は、本発明の一の実施の形態に係るコイン形二次電池1の構成を示す図である。コイン形二次電池1は、正極2と、負極3と、電解質層4と、外装体5とを備える。正極2および負極3は、多孔質である。電解質層4は、セパレータ41と、電解液42とを備える。セパレータ41は、正極2と負極3との間に設けられる。セパレータ41は、多孔質であり、電解液42は、セパレータ41に含浸される。電解液42は、正極2および負極3にも含浸される。外装体5は、内部に密閉空間を有する。正極2、負極3および電解質層4は、当該密閉空間に収容される。コイン形二次電池1では、内部に含まれる電解液42の量を、正極2、負極3およびセパレータ41の空隙量の和で除して得られる値(以下、「電解液/空隙比率」という。)が、1.025~2.4である。なお、正極2の空隙量は、正極2に含まれる気孔(空隙)の総体積である。負極3およびセパレータ41において同様である。電解液42の量の単位、並びに、正極2、負極3およびセパレータ41の空隙量の単位は同じであり、例えば、立方センチメートル(cm
3)である。
【0019】
コイン形二次電池1は、リフロー方式によるはんだ付け用であり、はんだリフローにより配線基板に電気的に接続されて実装される。ところで、はんだリフローの際には、コイン形二次電池1が所定時間の間、高温(例えば、200~260℃)に加熱される。このとき、電解液/空隙比率が1.00以下である比較例のコイン形二次電池では、電池性能が低下してしまう。はんだリフローによる性能の低下の理由は明確ではないが、はんだリフロー時の加熱により、正極、負極およびセパレータの気孔に含浸された電解液の一部が気化し、はんだリフローの終了後、コイン形二次電池の温度が低下しても、電解液が正極、負極およびセパレータの気孔内に十分に戻らないことが一因として考えられる。
【0020】
これに対し、電解液/空隙比率が1.025以上であるコイン形二次電池1では、はんだリフローによる性能の低下を抑制することが実現される。電解液/空隙比率が、上記比較例のコイン形二次電池に比べて大きいため、はんだリフローの終了後に電解液42が正極2、負極3およびセパレータ41の気孔内に戻りやすくなることが一因として考えられる。例えば、コイン形二次電池1では、はんだリフロー後における電池容量が、はんだリフロー前における電池容量の65%以上(典型的には、100%以下)である。好ましくは、はんだリフロー後における電池容量が、はんだリフロー前における電池容量の75%以上である。コイン形二次電池1において、はんだリフローによる性能の低下をより確実に抑制するには、電解液/空隙比率が1.05以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましい。
【0021】
また、仮に電解液/空隙比率が2.5以上である場合、はんだリフローの有無にかかわらず、コイン形二次電池の電池性能(例えば、電池容量)が想定よりも大幅に低くなる。これについては、電解液の過多により正極および負極と外装体(詳細には、後述の正極缶および負極缶)との間における導通状態が悪くなることが一因として考えられる。これに対し、電解液/空隙比率が2.4以下であるコイン形二次電池1では、想定通りの高い電池性能を実現することが可能となる。高性能のコイン形二次電池1をより確実に実現するには、電解液/空隙比率が2.2以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。
【0022】
コイン形二次電池1では、外装体5の容積を電解液42の量で除して得られる値(以下、「外装体/電解液比率」という。)が、1.6~3.2であることが好ましい。換言すると、外装体5の容積が電解液42の量の1.6~3.2倍であることが好ましい。外装体5の容積の単位は、電解液42の量の単位と同じであり、例えば、立方センチメートル(cm3)である。ここで、外装体5の内部(密閉空間)には、正極2、負極3およびセパレータ41等の固体部材および電解液42が存在する。また、電解液42の大部分は、原則として正極2、負極3およびセパレータ41の気孔内に充填される。したがって、外装体/電解液比率が小さい場合、外装体5の内部において、固体部材および電解液42が存在しない空き空間が小さいと考えられる。このように、外装体/電解液比率は、外装体5の内部における空き空間の大きさを示す指標と捉えることが可能である。外装体/電解液比率は、より好ましくは3.1以下であり、さらに好ましくは3.0以下である。
【0023】
コイン形二次電池1の厚さ(後述する正極缶51の平板部511の外面と、負極缶52の平板部521の外面との間の距離)は、例えば0.7~1.6mmである。コイン形二次電池1を実装した、後述の回路基板アセンブリの薄型化を図るには、コイン形二次電池1の厚さの上限値は、好ましくは1.4mmであり、より好ましくは1.2mmである。正極2および負極3においてある程度の厚さを確保して電池容量を大きくするという観点では、コイン形二次電池1の厚さの下限値は、好ましくは0.8mmであり、より好ましくは0.9mmである。
【0024】
コイン形二次電池1の直径(後述の正極缶51の平板部511の直径)は、例えば10~20mmである。コイン形二次電池1を実装した回路基板アセンブリの小型化を図るには、コイン形二次電池1の直径の上限値は、好ましくは18mmであり、より好ましくは16mmである。正極2および負極3においてある程度のサイズを確保して電池容量を大きくするという観点では、コイン形二次電池1の直径の下限値は、好ましくは10.5mmであり、より好ましくは11mmである。
【0025】
後述するように、好ましいコイン形二次電池1では、正極2としてリチウム複合酸化物焼結体板が用いられ、負極3としてチタン含有焼結体板が用いられる。これにより、リフロー方式によるはんだ付けを可能とする優れた耐熱性を有し、小型薄型でありながら高容量かつ高出力であり、しかも定電圧(CV)充電可能なコイン形リチウム二次電池が実現される。はんだリフロー前におけるコイン形二次電池1のエネルギー密度は、35mWh/cm3以上であることが好ましい。当該エネルギー密度の下限値は、より好ましくは40mWh/cm3であり、さらに好ましくは50mWh/cm3である。コイン形二次電池1のエネルギー密度の上限値は、特に限定されないが、例えば200mWh/cm3である。エネルギー密度が上記範囲内となるコイン形二次電池1では、正極2、負極3およびセパレータ41等が外装体5の密閉空間の大部分を占めており、既述の空き空間はほとんどないといえる。
【0026】
正極2は、例えば、板状の焼結体である。正極2が焼結体であるということは、正極2がバインダーや導電助剤を含んでいないことを意味する。これは、グリーンシートにバインダーが含まれていたとしても、焼成時にバインダーが消失または焼失するからである。正極2が焼結体であることにより、はんだリフローに対して正極2の耐熱性を確保することができる。また、正極2がバインダーを含まないことにより、電解液42による正極2の劣化も抑制される。既述のように、正極2は、多孔質である、すなわち、気孔を含む。
【0027】
好ましい正極2は、リチウム複合酸化物焼結体板である。リチウム複合酸化物は、コバルト酸リチウム(典型的にはLiCoO2であり、以下、「LCO」と略称する。)であることが特に好ましい。様々なリチウム複合酸化物焼結体板またはLCO焼結体板が知られており、例えば上記文献2(特許第5587052号公報)や上記文献3(国際公開第2017/146088号)に開示されるものを使用することができる。以下の説明では、正極2がリチウム複合酸化物焼結体板であるものとして説明するが、コイン形二次電池1の設計によっては、正極2は、他の種類の電極であってもよい。他の正極2の一例は、正極活物質、導電助剤およびバインダー等を含む正極合剤を塗布および乾燥させて作製した粉末分散型の正極(いわゆる塗工電極)である。
【0028】
上記リチウム複合酸化物焼結体板は、リチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が正極の板面に対して0°より大きく、30°以下である平均配向角度で配向している、配向正極板であることが好ましい。
【0029】
図2は、配向正極板の板面に垂直な断面SEM像の一例を示す図であり、
図3は、配向正極板の板面に垂直な断面における電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)像を示す図である。
図4は、
図3のEBSD像における一次粒子21の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムを示す図である。
図3に示されるEBSD像では、結晶方位の不連続性を観測することができる。
図3では、各一次粒子21の配向角度が色の濃淡で示されており、色が濃いほど配向角度が小さいことを示している。配向角度とは、各一次粒子21の(003)面が板面方向に対して成す傾斜角度である。なお、
図2および
図3において、配向正極板の内部で黒表示されている箇所は気孔である。
【0030】
配向正極板は、互いに結合された複数の一次粒子21で構成された配向焼結体である。各一次粒子21は、主に板状であるが、直方体状、立方体状および球状等に形成されたものが含まれていてもよい。各一次粒子21の断面形状は特に制限されるものではなく、矩形、矩形以外の多角形、円形、楕円形、または、これら以外の複雑形状であってもよい。
【0031】
各一次粒子21はリチウム複合酸化物で構成される。リチウム複合酸化物とは、LixMO2(0.05<x<1.10であり、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、Mは典型的にはCo、NiおよびMnの1種以上を含む。)で表される酸化物である。リチウム複合酸化物は層状岩塩構造を有する。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的にはα-NaFeO2型構造、すなわち立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。リチウム複合酸化物の例としては、LixCoO2(コバルト酸リチウム)、LixNiO2(ニッケル酸リチウム)、LixMnO2(マンガン酸リチウム)、LixNiMnO2(ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixNiCoO2(ニッケル・コバルト酸リチウム)、LixCoNiMnO2(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixCoMnO2(コバルト・マンガン酸リチウム)等が挙げられ、特に好ましくはLixCoO2(コバルト酸リチウム、典型的にはLiCoO2)である。リチウム複合酸化物には、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、BiおよびWから選択される1種以上の元素が含まれていてもよい。また、これらの元素は、正極内に均一に存在しても良いし、表面に偏在して存在しても良い。表面に存在する場合は、均一に覆っても良いし、島状に存在しても良い。表面に存在する場合は、電解液との反応を抑制する働きが期待される。この場合、特に好ましくは、Zr、Mg、Ti、Alである。
【0032】
図3および
図4に示されるように、各一次粒子21の配向角度の平均値、すなわち平均配向角度は0°より大きく、30°以下である。これにより、以下の様々な利点がもたらされる。第一に、各一次粒子21が厚み方向に対して傾斜した向きに寝た状態になるため、各一次粒子同士の密着性を向上させることができる。その結果、ある一次粒子21と当該一次粒子21の長手方向両側に隣接する他の一次粒子21との間におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができるため、レート特性を向上させることができる。第二に、レート特性をより向上させることができる。これは、リチウムイオンの出入りに際して、配向正極板では、板面方向よりも厚み方向における膨張収縮が優勢となるため、配向正極板の膨張収縮がスムーズになるところ、それに伴ってリチウムイオンの出入りもスムーズになるからである。
【0033】
一次粒子21の平均配向角度は、以下の手法によって得られる。まず、
図3に示されるような、95μm×125μmの矩形領域を1000倍の倍率で観察したEBSD像において、配向正極板を厚み方向に四等分する3本の横線と、配向正極板を板面方向に四等分する3本の縦線とを引く。次に、3本の横線と3本の縦線のうち少なくとも1本の線と交差する一次粒子21すべての配向角度を算術平均することによって、一次粒子21の平均配向角度を得る。一次粒子21の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、30°以下が好ましく、より好ましくは25°以下である。一次粒子21の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、2°以上が好ましく、より好ましくは5°以上である。
【0034】
図4に示されるように、各一次粒子21の配向角度は、0°から90°まで広く分布していてもよいが、その大部分は0°より大きく、30°以下である領域に分布していることが好ましい。すなわち、配向正極板を構成する配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子21のうち配向正極板の板面に対する配向角度が0°より大きく、30°以下である一次粒子21(以下、「低角一次粒子」という。)の合計面積が、断面に含まれる一次粒子21(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子21)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。これにより、相互密着性の高い一次粒子21の割合を増加させることができるため、レート特性をより向上させることができる。また、低角一次粒子のうち配向角度が20°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子21の総面積に対して50%以上であることがより好ましい。さらに、低角一次粒子のうち配向角度が10°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子21の総面積に対して15%以上であることがより好ましい。
【0035】
各一次粒子21は、主に板状であるため、
図2および
図3に示されるように、各一次粒子21の断面はそれぞれ所定方向に延びており、典型的には略矩形状となる。すなわち、配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子21のうちアスペクト比が4以上である一次粒子21の合計面積が、断面に含まれる一次粒子21(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子21)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。これにより、一次粒子21同士の相互密着性をより向上することができ、その結果、レート特性をより向上させることができる。一次粒子21のアスペクト比は、一次粒子21の最大フェレー径を最小フェレー径で除した値である。最大フェレー径は、断面観察した際のEBSD像上において、一次粒子21を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最大距離である。最小フェレー径は、EBSD像上において、一次粒子21を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最小距離である。
【0036】
配向焼結体を構成する複数の一次粒子の平均粒径が0.5μm以上であるのが好ましい。具体的には、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子21の平均粒径が、0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.7μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上である。これにより、リチウムイオンが伝導する方向における一次粒子21同士の粒界数が少なくなって全体としてのリチウムイオン伝導性が向上するため、レート特性をより向上させることができる。一次粒子21の平均粒径は、各一次粒子21の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各一次粒子21と同じ面積を有する円の直径のことである。
【0037】
正極2(例えば、リチウム複合酸化物焼結体板)では、気孔率が20~60%であるのが好ましく、より好ましくは25~55%、さらに好ましくは30~50%、特に好ましくは30~45%である。気孔による応力開放効果および高容量化が期待できるとともに、配向焼結体の場合、一次粒子21同士の相互密着性をより向上できるため、レート特性をより向上させることができる。焼結体の気孔率は、正極板の断面をCP(クロスセクションポリッシャ)研磨にて研磨した後に1000倍率でSEM観察して、得られたSEM画像を2値化することで算出される。配向焼結体の内部に形成される各気孔の平均円相当径は特に制限されないが、好ましくは8μm以下である。各気孔の平均円相当径が小さいほど、一次粒子21同士の相互密着性をさらに向上することができ、その結果、レート特性をさらに向上させることができる。気孔の平均円相当径は、EBSD像上の10個の気孔の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各気孔と同じ面積を有する円の直径のことである。配向焼結体の内部に形成される各気孔は、正極2の外部につながる開気孔であってもよいが、正極2を貫通していないことが好ましい。
【0038】
正極2(例えば、リチウム複合酸化物焼結体板)では、平均気孔径は0.1~10.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.2~5.0μm、さらに好ましくは0.3~3.0μmである。上記範囲内であると、大きな気孔の局所における応力集中の発生を抑制して、焼結体内における応力が均一に開放されやすくなる。
【0039】
正極2の厚さは60~450μmであるのが好ましく、より好ましくは70~350μm、さらに好ましくは90~300μmである。このような範囲内であると、単位面積当りの活物質容量を高めてコイン形二次電池1のエネルギー密度を向上するとともに、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に抵抗値の上昇)を抑制できる。
【0040】
負極3は、例えば、板状の焼結体である。負極3が焼結体であるということは、負極3がバインダーや導電助剤を含んでいないことを意味する。これは、グリーンシートにバインダーが含まれていたとしても、焼成時にバインダーが消失または焼失するからである。負極3が焼結体であることにより、はんだリフローに対して負極3の耐熱性を確保することができる。また、負極3にバインダーが含まれず、負極活物質(後述のLTOまたはNb2TiO7等)の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率を得ることができる。既述のように、負極3は、多孔質である、すなわち、気孔を含む。
【0041】
好ましい負極3は、チタン含有焼結体板である。チタン含有焼結体板は、チタン酸リチウムLi4Ti5O12(以下、「LTO」という。)またはニオブチタン複合酸化物Nb2TiO7を含むのが好ましく、より好ましくはLTOを含む。なお、LTOは典型的にはスピネル型構造を有するものとして知られているが、充放電時には他の構造も採りうる。例えば、LTOは充放電時にLi4Ti5O12(スピネル構造)とLi7Ti5O12(岩塩構造)の二相共存にて反応が進行する。したがって、LTOはスピネル構造に限定されるものではない。LTO焼結体板は、例えば上記文献4(特開2015-185337号公報)に記載される方法に従って製造することができる。以下の説明では、負極3がチタン含有焼結体板であるものとして説明するが、コイン形二次電池1の設計によっては、負極3は、他の種類の電極であってもよい。他の負極3の一例は、負極活物質、導電助剤およびバインダー等を含む負極合剤を塗布および乾燥させて作製した粉末分散型の負極(いわゆる塗工電極)である。
【0042】
上記チタン含有焼結体板は、複数の(すなわち多数の)一次粒子が結合した構造を有している。したがって、これらの一次粒子がLTOまたはNb2TiO7で構成されるのが好ましい。
【0043】
負極3の厚さは、70~500μmが好ましく、好ましくは85~400μm、より好ましくは95~350μmである。LTO焼結体板が厚いほど、高容量および高エネルギー密度の電池を実現しやすくなる。負極3の厚さは、例えば、負極3の断面をSEM(走査電子顕微鏡)によって観察した場合における、略平行に観察される板面間の距離を測定することで得られる。
【0044】
負極3を構成する複数の一次粒子の平均粒径である一次粒径は1.2μm以下が好ましく、より好ましくは0.02~1.2μm、さらに好ましくは0.05~0.7μmである。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性および電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0045】
負極3は気孔を含む。負極3が気孔、特に開気孔を含むことで、電池に組み込まれた場合に、電解液を負極3の内部に浸透させることができ、その結果、リチウムイオン伝導性を向上することができる。これは、負極3内におけるリチウムイオンの伝導は、負極3の構成粒子を経る伝導と、気孔内の電解液を経る伝導の2種類があるところ、気孔内の電解液を経る伝導の方が圧倒的に速いためである。
【0046】
負極3の気孔率は20~60%が好ましく、より好ましくは30~55%、さらに好ましくは35~50%である。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性および電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0047】
負極3の平均気孔径は、例えば0.08~5.0μmであり、好ましくは0.1~3.0μm、より好ましくは0.12~1.5μmである。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性および電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0048】
セパレータ41は、セルロース製またはセラミック製のセパレータであるのが好ましい。セルロース製のセパレータは安価でかつ耐熱性に優れる点で有利である。また、セルロース製のセパレータは、広く用いられている、耐熱性に劣るポリオレフィン製セパレータとは異なり、それ自体の耐熱性に優れるだけでなく、耐熱性に優れる電解液成分であるγ-ブチロラクトン(GBL)に対する濡れ性にも優れる。したがって、GBLを含む電解液を用いる場合に、電解液をセパレータに(弾かせることなく)十分に浸透させることができる。一方、セラミック製のセパレータは、耐熱性に優れるのは勿論のこと、正極2および負極3と一緒に全体として1つの一体焼結体として製造できる利点がある。セラミックセパレータの場合、セパレータを構成するセラミックはMgO、Al2O3、ZrO2、SiC、Si3N4、AlNおよびコーディエライトから選択される少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくはMgO、Al2O3およびZrO2から選択される少なくとも1種である。セパレータ41の厚さは3~50μmであるのが好ましく、より好ましくは5~40μm、さらに好ましくは10~30μmである。セパレータ41の気孔率は30~90%が好ましく、より好ましくは40~80%である。
【0049】
電解液42は特に限定されず、コイン形二次電池1がリチウム二次電池である場合は、有機溶媒等の非水溶媒中にリチウム塩を溶解させた液等、リチウム電池用の市販の電解液を使用すればよい。特に、耐熱性に優れた電解液が好ましく、そのような電解液は、非水溶媒中にホウフッ化リチウム(LiBF4)を含むものが好ましい。この場合、好ましい非水溶媒は、γ-ブチロラクトン(GBL)、エチレンカーボネート(EC)およびプロピレンカーボネート(PC)からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはECおよびGBLからなる混合溶媒、PCからなる単独溶媒、PCおよびGBLからなる混合溶媒、または、GBLからなる単独溶媒であり、特に好ましくはECおよびGBLからなる混合溶媒、または、GBLからなる単独溶媒である。非水溶媒はγ-ブチロラクトン(GBL)を含むことで沸点が上昇し、耐熱性の大幅な向上をもたらす。かかる観点から、ECおよび/またはGBL含有非水溶媒におけるEC:GBLの体積比は0:1~1:1(GBL比率50~100体積%)であるのが好ましく、より好ましくは0:1~1:1.5(GBL比率60~100体積%)、さらに好ましくは0:1~1:2(GBL比率66.6~100体積%)、特に好ましくは0:1~1:3(GBL比率75~100体積%)である。非水溶媒中に溶解されるホウフッ化リチウム(LiBF4)は分解温度の高い電解質であり、これもまた耐熱性の大幅な向上をもたらす。電解液42におけるLiBF4濃度は0.5~2mol/Lであるのが好ましく、より好ましくは0.6~1.9mol/L、さらに好ましくは0.7~1.7mol/L、特に好ましくは0.8~1.5mol/Lである。
【0050】
電解液42は添加剤としてビニレンカーボネート(VC)および/またはフルオロエチレンカーボネート(FEC)および/またはビニルエチレンカーボネート(VEC)をさらに含むものであってもよい。VCおよびFECはいずれも耐熱性に優れる。したがって、かかる添加剤を電解液42が含むことで、耐熱性に優れたSEI膜を負極3表面に形成させることができる。
【0051】
図1の外装体5は、典型的には、正極缶51と、負極缶52と、ガスケット53とを備える。正極缶51は、平板部511と、周壁部512とを備える。平板部511は、円板状である。周壁部512は、平板部511の外周縁から突出する。正極缶51は、正極2を収容する容器である。負極缶52は、平板部521と、周壁部522とを備える。平板部521は、円板状である。周壁部522は、平板部521の外周縁から突出する。負極缶52は、負極3を収容する容器である。コイン形二次電池1では、負極3がセパレータ41を挟んで正極2と対向するように、負極缶52が正極缶51に対して配置される。正極缶51および負極缶52は、金属製である。例えば、正極缶51および負極缶52は、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属板をプレス加工(絞り加工)することにより形成される。
【0052】
図1のコイン形二次電池1では、正極缶51の周壁部512が、負極缶52の周壁部522の外側に配置される。ガスケット53は、絶縁性であり、周壁部512と周壁部522との間に設けられる環状部材である。外側に配置された周壁部512を塑性変形させる、すなわち、周壁部512をかしめることにより、正極缶51がガスケット53を介して負極缶52に対して固定される。これにより、上記密閉空間が形成される。コイン形二次電池1では、負極缶52の周壁部522が、正極缶51の周壁部512の外側に配置されてもよい。ガスケット53は、内側の周壁部522と正極2等との間にも充填されることが好ましい。これにより、既述の空き空間を小さくすることができる。ガスケット53は、例えばポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、パーフルオロアルコキシアルカン、ポリクロロトリフルオロエチレン等の絶縁樹脂製である。中でも耐熱性に優れるポリフェニレンサルファイド、パーフルオロアルコキシアルカンが好ましい。ガスケット53は、他の絶縁材料により形成される部材であってもよい。
【0053】
コイン形二次電池1は、正極集電体62および/または負極集電体63をさらに備えているのが好ましい。正極集電体62および負極集電体63は特に限定されないが、好ましくは銅箔やアルミニウム箔等の金属箔である。正極集電体62は正極2と正極缶51との間に配置されるのが好ましく、負極集電体63は負極3と負極缶52との間に配置されるのが好ましい。また、正極2と正極集電体62との間には接触抵抗低減の観点から正極側カーボン層621が設けられるのが好ましい。同様に、負極3と負極集電体63との間には接触抵抗低減の観点から負極側カーボン層631が設けられるのが好ましい。正極側カーボン層621および負極側カーボン層631はいずれも導電性カーボンで構成されるのが好ましく、例えば導電性カーボンペーストをスクリーン印刷等により塗布することにより形成すればよい。その他の手法として、金属やカーボンを電極集電面にスパッタにて形成してもよい。金属種として、Au、Pt、Alなどが一例として挙げられる。
【0054】
<正極の製造方法>
好ましい正極2、すなわちリチウム複合酸化物焼結体板はいかなる方法で製造されたものであってもよいが、一例では、(a)リチウム複合酸化物含有グリーンシートの作製、(b)所望により行われる過剰リチウム源含有グリーンシートの作製、並びに(c)グリーンシートの積層および焼成を経て製造される。
【0055】
(a)リチウム複合酸化物含有グリーンシートの作製
まず、リチウム複合酸化物で構成される原料粉末を用意する。この粉末は、LiMO2なる組成(Mは前述したとおりである。)の合成済みの板状粒子(例えばLiCoO2板状粒子)を含むのが好ましい。原料粉末の体積基準D50粒径は0.3~30μmが好ましい。例えば、LiCoO2板状粒子の作製方法は次のようにして行うことができる。まず、Co3O4原料粉末とLi2CO3原料粉末とを混合して焼成(500~900℃、1~20時間)することによって、LiCoO2粉末を合成する。得られたLiCoO2粉末をポットミルにて体積基準D50粒径0.2μm~10μmに粉砕することによって、板面と平行にリチウムイオンを伝導可能な板状のLiCoO2粒子が得られる。このようなLiCoO2粒子は、LiCoO2粉末スラリーを用いたグリーンシートを粒成長させた後に解砕する手法や、フラックス法や水熱合成、融液を用いた単結晶育成、ゾルゲル法等、板状結晶を合成する手法によっても得ることができる。得られたLiCoO2粒子は、劈開面に沿って劈開しやすい状態となっている。LiCoO2粒子を解砕によって劈開させることで、LiCoO2板状粒子を作製することができる。
【0056】
上記板状粒子を単独で原料粉末として用いてもよいし、上記板状粉末と他の原料粉末(例えばCo3O4粒子)との混合粉末を原料粉末として用いてもよい。後者の場合、板状粉末を配向性を与えるためのテンプレート粒子として機能させ、他の原料粉末(例えばCo3O4粒子)をテンプレート粒子に沿って成長可能なマトリックス粒子として機能させるのが好ましい。この場合、テンプレート粒子とマトリックス粒子を100:0~3:97に混合した粉末を原料粉末とするのが好ましい。Co3O4原料粉末をマトリックス粒子として用いる場合、Co3O4原料粉末の体積基準D50粒径は特に制限されず、例えば0.1~1.0μmとすることができるが、LiCoO2テンプレート粒子の体積基準D50粒径より小さいことが好ましい。このマトリックス粒子は、Co(OH)2原料を500℃~800℃で1~10時間熱処理を行なうことによっても得ることができる。また、マトリックス粒子には、Co3O4のほか、Co(OH)2粒子を用いてもよいし、LiCoO2粒子を用いてもよい。
【0057】
原料粉末がLiCoO2テンプレート粒子100%で構成される場合、または、マトリックス粒子としてLiCoO2粒子を用いる場合、焼成により、大判(例えば90mm×90mm平方)でかつ平坦なLiCoO2焼結体板を得ることができる。そのメカニズムは定かではないが、焼成過程でLiCoO2への合成が行われないため、焼成時の体積変化が生じにくい、または、局所的なムラが生じにくいことが予想される。
【0058】
原料粉末を、分散媒および各種添加剤(バインダー、可塑剤、分散剤等)と混合してスラリーを形成する。スラリーには、後述する焼成工程中における粒成長の促進ないし揮発分の補償の目的で、LiMO2以外のリチウム化合物(例えば炭酸リチウム)が0.5~30mol%程度過剰に添加されてもよい。スラリーには造孔材を添加しないのが望ましい。スラリーは減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000~10000cPに調整するのが好ましい。得られたスラリーをシート状に成形してリチウム複合酸化物含有グリーンシートを得る。こうして得られるグリーンシートは独立したシート状の成形体である。独立したシート(「自立膜」と称されることもある)とは、他の支持体から独立して単体で取り扱い可能なシートのことをいう(アスペクト比が5以上の薄片も含む)。すなわち、独立したシートには、他の支持体(基板等)に固着されて当該支持体と一体化された(分離不能ないし分離困難となった)ものは含まれない。シート成形は、原料粉末中の板状粒子(例えばテンプレート粒子)にせん断力を印加可能な成形手法を用いて行われるのが好ましい。こうすることで、一次粒子の平均傾斜角を板面に対して0°より大きく、30°以下にすることができる。板状粒子にせん断力を印加可能な成形手法としては、ドクターブレード法が好適である。リチウム複合酸化物含有グリーンシートの厚さは、焼成後に上述したような所望の厚さとなるように、適宜設定すればよい。
【0059】
(b)過剰リチウム源含有グリーンシートの作製(任意工程)
所望により、上記リチウム複合酸化物含有グリーンシートとは別に、過剰リチウム源含有グリーンシートを作製する。この過剰リチウム源は、Li以外の成分が焼成により消失するようなLiMO2以外のリチウム化合物であるのが好ましい。そのようなリチウム化合物(過剰リチウム源)の好ましい例としては炭酸リチウムが挙げられる。過剰リチウム源は粉末状であるのが好ましく、過剰リチウム源粉末の体積基準D50粒径は0.1~20μmが好ましく、より好ましくは0.3~10μmである。そして、リチウム源粉末を、分散媒および各種添加剤(バインダー、可塑剤、分散剤等)と混合してスラリーを形成する。得られたスラリーを減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を1000~20000cPに調整するのが好ましい。得られたスラリーをシート状に成形して過剰リチウム源含有グリーンシートを得る。こうして得られるグリーンシートもまた独立したシート状の成形体である。シート成形は、周知の様々な方法で行いうるが、ドクターブレード法により行うのが好ましい。過剰リチウム源含有グリーンシートの厚さは、リチウム複合酸化物含有グリーンシートにおけるCo含有量に対する、過剰リチウム源含有グリーンシートにおけるLi含有量のモル比(Li/Co比)が好ましくは0.1以上、より好ましくは0.1~1.1とすることができるような厚さに設定するのが好ましい。
【0060】
(c)グリーンシートの積層および焼成
下部セッターに、リチウム複合酸化物含有グリーンシート(例えばLiCoO2グリーンシート)、および、所望により過剰リチウム源含有グリーンシート(例えばLi2CO3グリーンシート)を順に載置し、その上に上部セッターを載置する。上部セッターおよび下部セッターはセラミックス製であり、好ましくはジルコニアまたはマグネシア製である。セッターがマグネシア製であると気孔が小さくなる傾向がある。上部セッターは多孔質構造やハニカム構造のものであってもよいし、緻密質構造であってもよい。上部セッターが緻密質であると焼結体板において気孔が小さくなり、気孔の数が多くなる傾向がある。必要に応じて、過剰リチウム源含有グリーンシートは、リチウム複合酸化物含有グリーンシートにおけるCo含有量に対する、過剰リチウム源含有グリーンシートにおけるLi含有量のモル比(Li/Co比)が好ましくは0.1以上、より好ましくは0.1~1.1となるようなサイズに切り出して用いられるのが好ましい。
【0061】
下部セッターにリチウム複合酸化物含有グリーンシート(例えばLiCoO2グリーンシート)を載置した段階で、このグリーンシートを、所望により脱脂した後、600~850℃で1~10時間仮焼してもよい。この場合、得られた仮焼板の上に過剰リチウム源含有グリーンシート(例えばLi2CO3グリーンシート)および上部セッターを順に載置すればよい。
【0062】
そして、上記グリーンシートおよび/または仮焼板をセッターで挟んだ状態で、所望により脱脂した後、中温域の焼成温度(例えば700~1000℃)で熱処理(焼成)することで、リチウム複合酸化物焼結体板が得られる。この焼成工程は、2度に分けて行ってもよいし、1度に行なってもよい。2度に分けて焼成する場合には、1度目の焼成温度が2度目の焼成温度より低いことが好ましい。こうして得られる焼結体板もまた独立したシート状である。
【0063】
<負極の製造方法>
好ましい負極3、すなわちチタン含有焼結体板はいかなる方法で製造されたものであってもよい。例えば、LTO焼結体板は、(a)LTO含有グリーンシートの作製および(b)LTO含有グリーンシートの焼成を経て製造されるのが好ましい。
【0064】
(a)LTO含有グリーンシートの作製
まず、チタン酸リチウムLi4Ti5O12で構成される原料粉末(LTO粉末)を用意する。原料粉末は市販のLTO粉末を使用してもよいし、新たに合成してもよい。例えば、チタンテトライソプロポキシアルコールとイソプロポキシリチウムの混合物を加水分解して得た粉末を用いてもよいし、炭酸リチウム、チタニア等を含む混合物を焼成してもよい。原料粉末の体積基準D50粒径は0.05~5.0μmが好ましく、より好ましくは0.1~2.0μmである。原料粉末の粒径が大きいと気孔が大きくなる傾向がある。また、原料粒径が大きい場合、所望の粒径となるように粉砕処理(例えばポットミル粉砕、ビーズミル粉砕、ジェットミル粉砕等)を行ってもよい。そして、原料粉末を、分散媒および各種添加剤(バインダー、可塑剤、分散剤等)と混合してスラリーを形成する。スラリーには、後述する焼成工程中における粒成長の促進ないし揮発分の補償の目的で、LTO以外のリチウム化合物(例えば炭酸リチウム)が0.5~30mol%程度過剰に添加されてもよい。スラリーは減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000~10000cPに調整するのが好ましい。得られたスラリーをシート状に成形してLTO含有グリーンシートを得る。こうして得られるグリーンシートは独立したシート状の成形体である。独立したシート(「自立膜」と称されることもある)とは、他の支持体から独立して単体で取り扱い可能なシートのことをいう(アスペクト比が5以上の薄片も含む)。すなわち、独立したシートには、他の支持体(基板等)に固着されて当該支持体と一体化された(分離不能ないし分離困難となった)ものは含まれない。シート成形は、周知の様々な方法で行いうるが、ドクターブレード法により行うのが好ましい。LTO含有グリーンシートの厚さは、焼成後に上述したような所望の厚さとなるように、適宜設定すればよい。
【0065】
(b)LTO含有グリーンシートの焼成
セッターにLTO含有グリーンシート載置する。セッターはセラミックス製であり、好ましくはジルコニア製またはマグネシア製である。セッターにはエンボス加工が施されているのが好ましい。こうしてセッター上に載置されたグリーンシートを鞘に入れる。鞘もセラミックス製であり、好ましくはアルミナ製である。そして、この状態で、所望により脱脂した後、焼成することで、LTO焼結体板が得られる。この焼成は600~900℃で0.1~50時間行うのが好ましく、より好ましくは700~800℃で0.3~20時間である。こうして得られる焼結体板もまた独立したシート状である。焼成時の昇温速度は100~1000℃/hが好ましく、より好ましくは100~600℃/hである。特に、この昇温速度は、300℃~800℃の昇温過程で採用されるのが好ましく、より好ましくは400℃~800℃の昇温過程で採用される。
【0066】
(c)まとめ
上述のようにしてLTO焼結体板を好ましく製造することができる。この好ましい製造方法においては、1)LTO粉末の粒度分布を調整する、および/または、2)焼成時の昇温速度を変えるのが効果的であり、これらがLTO焼結体板の諸特性の実現に寄与するものと考えられる。
【0067】
<回路基板アセンブリ>
図5は、上記コイン形二次電池1を含む回路基板アセンブリ8を示す側面図である。回路基板アセンブリ8は、配線基板81と、無線通信デバイス82と、他の電子部品83とをさらに含む。配線基板81は、いわゆるプリント配線基板であり、上面に導電性の配線を有する。配線は、配線基板81の内部や下面に設けられてもよい。
図5では、1枚の配線基板81を示しているが、配線基板81は、複数の部分的な配線基板が組み立てられた構造を有してもよい。
【0068】
コイン形二次電池1は、負極缶52が配線基板81に対向する姿勢で配線基板81上に固定される。コイン形二次電池1には、予め正極缶51にリード191が電気的に接続されており、負極缶52にリード192が電気的に接続されている。リード191,192のコイン形二次電池1から最も離れた端部は、配線基板81の配線にはんだ811により接続される。リード191,192と配線との接続は、リフロー方式によるはんだ付けにより行われる。換言すれば、コイン形二次電池1は、はんだリフローにより配線基板81に電気的に接続される。コイン形二次電池1は、正極缶51が配線基板81に対向する姿勢で配線基板81上に固定されてもよい。
【0069】
無線通信デバイス82は、アンテナや通信回路を含む電気回路モジュールである。無線通信デバイス82の端子は、配線基板81の配線とはんだにより接続される。無線通信デバイス82の端子と配線との接続は、リフロー方式によるはんだ付けにより行われる。換言すれば、無線通信デバイス82は、はんだリフローにより配線基板81に電気的に接続される。無線通信デバイス82は、電波にて通信を行うデバイスである。無線通信デバイス82は、送信専用のデバイスであってもよく、送受信が可能なデバイスであってもよい。
【0070】
配線基板81に実装された他の電子部品83には、送信する信号を生成する回路、受信した信号を処理する回路、センサ、各種測定デバイス、外部からの信号が入力される端子等が適宜含まれる。
【0071】
回路基板アセンブリ8は、好ましくは、IoTデバイスの一部として利用される。「IoT」とは物のインターネット(Internet of Things)の略であり、「IoTデバイス」とはインターネットに接続されて特定の機能を呈するあらゆるデバイスを意味する。
【0072】
従来、ソケットをはんだリフローにて配線基板上に実装した後、コイン形二次電池をソケットに装着する工程が行われてきた。回路基板アセンブリ8では、コイン形二次電池1は、はんだリフローにて配線基板81に実装されるため、実装工程を簡素化することができる。好ましくは、配線基板81上には、はんだリフロー後に装着された電子部品は存在しない。これにより、はんだリフロー後における回路基板アセンブリ8の取り扱いが簡素化される。ここで、「はんだリフロー後に装着された」には、外部配線の回路基板への接続は含まれないものとする。さらに好ましくは、配線基板81上において、配線基板81の配線に接続される全ての電子部品と配線との電気的接続が、はんだリフローにより行われる。このような処理は、コイン形二次電池1をはんだリフローにより配線基板81上に実装することにより実現可能となる。
【0073】
<実施例>
次に、実施例について述べる。ここでは、表1中に示す実施例1~6、並びに、比較例1,2のコイン形二次電池を作製し、評価した。以下の説明において、LiCoO2を「LCO」と略称し、Li4Ti5O12を「LTO」と略称するものとする。
【0074】
【0075】
<実施例1>
(1)正極の作製
まず、Li/Coのモル比が1.01となるように秤量されたCo3O4粉末(正同化学工業株式会社製)とLi2CO3粉末(本荘ケミカル株式会社製)を混合後、780℃で5時間保持し、得られた粉末をポットミルにて体積基準D50が0.4μmとなるように粉砕および解砕してLCO板状粒子からなる粉末を得た。得られたLCO粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LCOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LCOグリーンシートを形成した。乾燥後のLCOグリーンシートの厚さは、240μmであった。
【0076】
PETフィルムから剥がしたLCOグリーンシートをカッターで50mm角に切り出し、下部セッターとしてのマグネシア製セッター(寸法90mm角、高さ1mm)の中央に載置した。LCOシートの上に上部セッターとしての多孔質マグネシア製セッターを載置した。上記LCOシートをセッターで挟んだ状態で、120mm角のアルミナ鞘(株式会社ニッカトー製)内に載置した。このとき、アルミナ鞘を密閉せず、0.5mmの隙間を空けて蓋をした。得られた積層物を昇温速度200℃/hで600℃まで昇温して3時間脱脂した後に、800℃まで200℃/hで昇温して5時間保持することで焼成を行った。焼成後、室温まで降温させた後に焼成体をアルミナ鞘より取り出した。こうして厚さ220μmのLCO焼結体板を得た。LCO焼結体板を、レーザー加工機で直径10mmの円形状に切断して、正極板を得た。
【0077】
(2)負極の作製
まず、LTO粉末(石原産業株式会社製)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた負極原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LTOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LTOグリーンシートを形成した。乾燥後のLTOグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが250μmとなるような値とした。
【0078】
得られたグリーンシートを25mm角にカッターナイフで切り出し、エンボス加工されたジルコニア製セッター上に載置した。セッター上のグリーンシートをアルミナ製鞘に入れて500℃で5時間保持した後に、昇温速度200℃/hにて昇温し、765℃で1時間焼成を行なった。得られたLTO焼結体板を、レーザー加工機で直径10.2mmの円形状に切断して、負極板を得た。
【0079】
(3)コイン形二次電池の作製
図1に模式的に示されるようなコイン形二次電池1を以下のとおり作製した。
【0080】
(3a)負極板と負極集電体の導電性カーボンペーストによる接着
アセチレンブラックとポリイミドアミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを調製した。負極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した。未乾燥の印刷パターン(すなわち導電性カーボンペーストで塗布された領域)内に収まるように上記(2)で作製した負極板を載置し、60℃で30分間真空乾燥させることで、負極板と負極集電体とがカーボン層を介して接合された負極構造体を作製した。なお、カーボン層の厚さは10μmとした。
【0081】
(3b)カーボン層付き正極集電体の準備
アセチレンブラックとポリイミドアミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを調製した。正極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した後、60℃で30分間真空乾燥させることで、表面にカーボン層が形成された正極集電体を作製した。なお、カーボン層の厚さは5μmとした。
【0082】
(3c)コイン形二次電池の組立
電池ケース(外装体)を構成することになる正極缶と負極缶との間に、正極缶から負極缶に向かって、正極集電体、カーボン層、LCO正極板、セルロースセパレータ、LTO負極板、カーボン層および負極集電体がこの順に積層されるように収容し、電解液を充填した後に、ガスケットを介して正極缶と負極缶をかしめることによって封止した。こうして、直径12mm、厚さ1.0mmのコインセル形のリチウム二次電池(コイン形二次電池1)を作製した。このとき、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)およびγ-ブチロラクトン(GBL)を1:3の体積比で混合した有機溶媒に、LiBF4を1.5mol/Lの濃度となるように溶解させた液を用い、表1の「電解液量」に示す量だけ注入した。
【0083】
(4)評価
(4a)空隙量および外装体容積の測定
コイン形二次電池の組立の前に、上記サイズに加工された焼成後の正極板および負極板、並びに、セパレータの重量測定を行った。そして、測定した重量と、体積および比重とを用いることで、正極板、負極板およびセパレータの空隙量をそれぞれ算出し、これらの空隙量を足して得た値を、表1に示す「空隙量の和」とした。また、作製したコイン形二次電池の寸法を、3D形状測定機(株式会社キーエンス製VR3200)にて測定した。そして、外装体5の板厚分を除きつつ、表1に示す「外装体容積」を算出した。表1ではさらに、「電解液量」を「空隙量の和」で除して得た値を「電解液/空隙比率」として示し、「外装体容積」を「電解液量」で除して得た値を「外装体/電解液比率」として示している。
【0084】
(4b)リフロー試験前後の容量比率の測定
コイン形二次電池の電池容量を以下の手順で測定した。すなわち、2.7Vで定電圧充電した後、放電レート0.2Cで放電することにより初期容量の測定を行い、得られた初期容量を初期電池容量として採用した。また、リフロー試験後にも同様の測定を実施し、リフロー試験後の電池容量を測定した。リフロー試験後の電池容量を初期電池容量で除することで、表1に示す「リフロー試験前後の容量比率」を算出した。ここで、リフロー試験では、リフロー装置(アントム株式会社製UNI-5016F)を用い、260℃で30秒間の加熱を行った。
【0085】
(4c)電池初期性能値の算出
上記初期電池容量を活物質重量から計算される電池の設計容量で除することで、表1に示す「電池初期性能値」を求めた。
【0086】
<実施例2~6>
表1に示すように、実施例2~6のコイン形二次電池では、電解液量を実施例1と相違させた。実施例2~4では、外装体、正極板および負極板は、実施例1と同様とした。実施例5では、直径が20mm、厚さが1.0mmの外装体を用い、正極板を直径16.5mmの円形にレーザ加工し、負極板を直径16.8mmの円形にレーザ加工した。実施例6では、直径が6mm、厚さが2.0mmの外装体を用い、焼成後の厚さが650μmである正極板を、直径4mmの円形にレーザ加工し、焼成後の厚さが780μmである負極板を、直径4.05mmの円形にレーザ加工した。上記以外については、実施例2~6のコイン形二次電池は、実施例1のコイン形二次電池と同様とした。実施例2~6のコイン形二次電池に対して、実施例1のコイン形二次電池と同様の評価を行った。
【0087】
<比較例1,2>
比較例1,2のコイン形二次電池では、電解液量のみを実施例1と相違させた。具体的には、表1に示すように、比較例1の電解液量は実施例1よりも少なくし、電解液/空隙比率は1.00であった。また、比較例2の電解液量は実施例1よりも多くし、電解液/空隙比率は2.5であった。電解液量以外については、比較例1,2のコイン形二次電池は、実施例1のコイン形二次電池と同様とした。比較例1,2のコイン形二次電池に対して、実施例1のコイン形二次電池と同様の評価を行った。
【0088】
電解液/空隙比率が1.00である比較例1のコイン形二次電池では、リフロー試験前後の容量比率が50%であり、はんだリフローにより性能が低下した。また、電解液/空隙比率が2.5である比較例2のコイン形二次電池では、電池初期性能値が60%であり、コイン形二次電池の性能が想定よりも大幅に低くなった。一方、電解液/空隙比率が1.025~2.4の範囲内である実施例1~6のコイン形二次電池では、リフロー試験前後の容量比率が比較例1よりも十分に高くなり、はんだリフローによる性能の低下が抑制された。また、実施例1~6のコイン形二次電池では、電池初期性能値が比較例2よりも十分に高くなり、想定通りの高い電池性能が実現された。なお、実施例1~6のコイン形二次電池では、外装体/電解液比率が1.6~3.2の範囲内であった。また、実施例1~6、並びに、比較例1,2のいずれのコイン形二次電池においても、正極板の気孔率が20~60%、平均気孔径が0.1~10.0μmであり、負極板の気孔率が20~60%、平均気孔径が0.08~5.0μmであった。
【0089】
電解液量のみが相違する実施例1~4のコイン形二次電池では、実施例1のリフロー試験前後の容量比率が、他の実施例2~4に比べて低くなった。したがって、はんだリフローによる性能の低下をさらに抑制するには、電解液/空隙比率が1.05以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましいといえる。また、実施例4のコイン形二次電池と比較例2のコイン形二次電池とを比較することにより、高性能のコイン形二次電池1をより確実に実現するには、電解液/空隙比率が2.2以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましいといえる。
【0090】
上記コイン形二次電池1では様々な変形が可能である。
【0091】
上記実施の形態では、コイン形二次電池1がリチウム二次電池である場合について主として説明したが、はんだリフローによる性能の低下が抑制された高性能のコイン形二次電池1は、リチウム二次電池以外であってもよい。
【0092】
リフロー方式によるはんだ付け用の上記コイン形二次電池1は、IoTデバイスでの利用に特に適しているが、もちろん、他の用途に利用されてもよい。
【0093】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0094】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【符号の説明】
【0095】
1 コイン形二次電池
2 正極
3 負極
5 外装体
41 セパレータ
42 電解液