(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】五塩化タングステンコンディショニング及び結晶相マニピュレーション
(51)【国際特許分類】
C01G 41/00 20060101AFI20220623BHJP
C23C 16/08 20060101ALI20220623BHJP
C23C 16/448 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C01G41/00 Z
C23C16/08
C23C16/448
(21)【出願番号】P 2020557938
(86)(22)【出願日】2019-04-30
(86)【国際出願番号】 US2019029969
(87)【国際公開番号】W WO2019213115
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2020-10-19
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】リ、フォン
(72)【発明者】
【氏名】プラザ、ソニア
(72)【発明者】
【氏名】ジラール、ジャンマルク
(72)【発明者】
【氏名】ブラスコ、ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】リゥ、ユーミン
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130745(WO,A1)
【文献】特開2019-104659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G41/00
C23C16/00-16/56
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCl
5のコンディショニング方法であって、前記方法が、WCl
5
を添加した容器をおよそ2時間~およそ48時間の範囲の時間、およそ190℃~245℃の範囲の温度に加熱して
、およそ10重量%~およそ40重量%の相1WCl
5を含むWCl
5-含有組成物を生成する
、
ここで、X線回折により測定される相1WCl
5
の結晶構造は、空間群12の単斜晶系であって、単位格子パラメータが、a=18.11Å、b=17.72Å、c=5.809Å、及びβ=90.35°である、
方法。
【請求項2】
前記容器がWCl
5と反応しないように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記容器がガラス又はガラス内張りである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記時間がおよそ24時間~およそ48時間の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記時間がおよそ40時間~およそ48時間の範囲である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記温度がおよそ215℃~240℃の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記温度がおよそ225℃~235℃の範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記WCl
5-含有組成物が、およそ10重量%~およそ35重量%の相1WCl
5を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記WCl
5-含有組成物が、およそ10重量%~およそ30重量%の相1WCl
5を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記WCl
5-含有組成物が、およそ10重量%~およそ25重量%の相1WCl
5を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特有の結晶相を形成するための五塩化タングステンのコンディショニングが開示される。この特有の結晶相は、蒸着及びエッチングプロセスの間中長時間にわたって安定した蒸気圧を可能にする。
【背景技術】
【0002】
WCl5は、W金属;WSi2;WX2(式中、Xは、S、Se、又はTeである);W-ドープの非晶質カーボン、WO3等などの、W含有フィルムを堆積するために使用されるCVD又はALD材料として注目を集めている(例えば、米国特許第9,595,470号明細書;同第9,230,815号明細書、及び同第7,641,886号明細書並びに米国特許出願公開第2003/190424号明細書及び同第2017/350013号明細書を参照されたい)。
【0003】
WCl5の結晶構造は、Acta Crystallogr.(1978)B34,pp.2833-2834に報告されている。その粉末X線回折パターンは、国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Data)Powder Diffraction File(PDF)カード#04-005-4302として集められた。Okamotoは、W-Cl状態図を報告した。Journal of Phase Equilibria and Diffusion,Vol.31,No.4(2010)。
【0004】
JX金属株式会社に付与される国際公開第2017/130745号パンフレットは、高純度五塩化タングステン合成方法を開示している。
【0005】
L’Air Liquide,Societe Anyonyme pour l’Etude et l’Exploitation des Procedes Georges Claudesに付与される国際公開第2017/075172号パンフレットは、例えば、容器中に含有される、金属ハロゲン化物などの、材料の汚染を防ぐためにその中の内部湿潤性表面を1つ以上のバリア層でコートされている容器を開示している。
【0006】
WCl5は、固体の、低蒸気圧前駆体であることに悩まされている。WCl5のような固体の、低蒸気圧前駆体から十分なフラックスを加工室に提供することは困難である。別の課題は、WCl5含有パッケージが激減しつつある時に前駆体の安定したフラックスを維持することである。両態様は、全ての固体に共通しており、固体に特有のパッケージングを使用することによって対処され得る(例えば、米国特許出願公開第2009/0181168号明細書及び同第2017/0335450号明細書を参照されたい)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
WCl5蒸気の安定した及び再現性のあるフラックスを長時間にわたって蒸着又はエッチングプロセス室に供給することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
X線回折により測定されるようにおよそ10重量%~およそ40重量%の相1WCl5を含むWCl5含有組成物を生成するためのWCl5のコンディショニング方法が開示される。WCl5の容器は、およそ2時間~およそ48時間の範囲の時間、およそ190℃~245℃の範囲の温度に加熱される。開示される方法は、以下の態様の1つ以上を含み得る:
・ 容器が、WCl5に反応しないように選択されること;
・ 容器が、ガラスであること;
・ 容器が、ガラス被覆容器であること;
・ 容器が、WCl5とステンレス鋼との間の直接接触を防ぐように設計されること;
・ 時間が、およそ24時間~およそ48時間の範囲であること;
・ 時間が、およそ40時間~およそ48時間の範囲であること;
・ 温度が、およそ205℃~240℃の範囲であること;
・ 温度が、およそ215℃~235℃の範囲であること;
・ WCl5-含有組成物が、およそ10重量%~およそ35重量%の相1WCl5を含むこと;
・ WCl5-含有組成物が、およそ10重量%~およそ30重量%の相1WCl5を含むこと;
・ WCl5-含有組成物が、およそ10重量%~およそ25重量%の相1WCl5を含むこと。
【0009】
上に開示された方法によってコンディショニングされたWCl5-含有組成物もまた開示される。WCl5-含有組成物は、X線回折により測定されるようにおよそ10重量%~およそ40重量%の相1WCl5を有する。開示されるWCl5-含有組成物は、以下の態様の1つ以上を含有し得る:
・ WCl5-含有材料が、およそ10重量%~およそ35重量%の相1WCl5を有すること;
・ WCl5-含有材料が、およそ10重量%~およそ30重量%の相1WCl5を有すること;
・ WCl5-含有材料が、およそ10重量%~およそ25重量%の相1WCl5を有すること。
【0010】
X線回折により測定されるようにおよそ10重量%~およそ40重量%の相1WCl5を含むWCl5-含有組成物を昇華させることによって、ある時間にわたってWCl5の安定した蒸気圧を提供する方法もまた開示される。上に開示された方法によってコンディショニングされたWCl5-含有組成物が、固体前駆体蒸発器へ導入される。固体前駆体蒸発器は、半導体加工室に連結され、WCl5蒸気の定常的供給をデリバリーするための時間、ある温度に加熱される。開示された方法は、以下の態様の1つ以上を含み得る:
・ 容器が、WCl5と反応しないように選択されること;
・ 容器が、ガラスであること;
・ 容器が、ガラス被覆容器であること;
・ 容器が、WCl5とステンレス鋼との間の直接接触を防ぐように設計されること;
・ 温度が、およそ100℃~150℃の範囲であること;
・ 時間が、およそ60分~およそ16時間の範囲であること;
・ 時間が、およそ24時間~およそ48時間の範囲であること;
・ 時間が、およそ40時間~およそ48時間の範囲であること;
・ WCl5-含有組成物が、およそ10重量%~およそ35重量%の相1WCl5を含むこと;
・ WCl5-含有組成物が、およそ10重量%~およそ30重量%の相1WCl5を含むこと;
・ WCl5-含有組成物が、およそ10重量%~およそ25重量%の相1WCl5を含むこと。
【0011】
表記法及び命名法
ある種の略語、記号、及び用語が、以下の説明及び特許請求の範囲の全体にわたって用いられ、以下が含まれる:
【0012】
本明細書で用いるところでは、不定冠詞「1つの(a、an)」は、1つ以上を意味する。
【0013】
本明細書で用いるところでは、用語「およそ」又は「約」は、述べられた値の±10%を意味する。
【0014】
本明細書で用いるところでは、用語「含む(comprising)」は、包括的である又は制約がなく、追加の、列挙されていない材料又は方法工程を排除せず;用語「から本質的になる」は、明記される材料又は工程並びに特許請求される発明の基本的な及び新規な特性に実質的に影響を及ぼさない追加の材料又は工程にクレームの範囲を制限し;用語「からなる」は、クレームに明記されないいかなる追加の材料又は方法工程も排除する。
【0015】
本明細書で用いるところでは、略語「RT」は、室温又はおよそ18℃~およそ25℃の範囲の温度を意味する。
【0016】
本明細書で用いるところでは、略語「XRD」はX線回折を意味し、「PXRD」は粉末X線回折を意味する。
【0017】
本明細書で用いるところでは、略語「ALD」は原子層堆積を意味し、「CVD」は化学蒸着を意味する。
【0018】
本明細書で用いるところでは、WX5へのいかなる言及も、単量体WX5、二量体W2X10、及びそれらの組み合わせを含む。
【0019】
元素の周期表からの元素の標準的な略語が本明細書では用いられる。元素がこれらの略語によって言及され得ることは理解されるべきである(例えば、Wはタングステンを言い、Siはケイ素を言い、Cは炭素を言う等)。
【0020】
本明細書に列挙される任意の及び全ての範囲は、用語「包括的に」が用いられるかどうかに関わらず、それらの終点を含む(すなわち、x=1~4又は1~4のx範囲は、x=1、x=4、及びx=間の任意の数を含む)。
【0021】
本発明の本質及び目的を更に理解するために、下記の添付図面と併用される、以下の詳細な説明に言及されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】相1WCl
5の%相対強度対°2θ位のX線回折(XRD)グラフ(銅放射)である。
【
図2】相2WCl
5の%相対強度対°2θ位のXRDグラフ(銅放射)である。
【
図3】異なる結晶相WCl
5試料についての120℃での%質量損失対時間を示すグラフである。
【
図4】質量損失%/分単位での昇華速度対相1WCl
5の百分率のグラフである。
【
図5】2つの異なる結晶相WCl
5試料についての昇華速度(Δ質量/Δ時間)対時間を示すグラフである。
【
図6】実施例6が行われた模範的な設備の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
出願人らは、普通の工業的昇華条件にさらされるWCl5からの昇華速度が徐々に低下し、WCl5蒸気を利用するプロセスにおいて性能ドリフトをもたらすことを発見した。言い換えれば、新しいキャニスターを使用するプロセス速度(すなわち、堆積又はエッチング速度)は、同じキャニスターの一部が使用されてきた後のプロセス速度よりも速い。
【0024】
更なる解析は、性能の変化が、WCl5の結晶相の相対的分率の変化に起因することを実証する。より具体的には、実施例1において示されるように、新たに昇華されたWCl5の結晶相は、95%超の1つのWCl5結晶相(「相1」)を含む傾向がある。しかしながら、蒸着及び/又はエッチングプロセスの間中、WCl5のキャニスターは、およそ150℃の温度に加熱される(例えば、PCT特許出願公開国際公開第2017/075172号パンフレットの実施例3を参照されたい)。本出願の実施例3において示されるように、相1WCl5の百分率は120℃で120日後におよそ35%まで下がる。
【0025】
出願人が知る限りでは、相1の結晶構造は報告されていない。WCl
5の相1は、C2/mのような空間群12の単斜晶系である。単位格子パラメータは、a=18.11Å、b=17.72Å、c=5.809Å、及びβ=90.35°である。WCl
5の相1は、報告された化合物NbCl
5(PXRDパターン:ICDD PDF Card #04-0005-4229、構造については参考文献Acta Crystallogr.1958,11,pp.615-619を参照されたい)及びTaCl
5(PXRDパターン:ICDD PDF Card #04-109-4194、構造については参考文献Anorg Allg Chem.,2001,627,pp.180-185を参照されたい)と同形である。相1についての結晶構造は、NbCl
5又はTaCl
5の単位格子パラメータを、PXRDデータから得られた上記の単位格子パラメータで修正することによって生み出され得る。対応するNb又はTa原子が次にW原子で置き換えられる。シミュレートされたPXRDデータは、Mercury又はCrystDiffractソフトウェアなどのソフトウェアを使用して生み出され得る。
図1は、Mercuryソフトウェアを使用して生み出された相1のシミュレートされたPXRDスペクトルである。
【0026】
WCl
5の相2のPXRDパターン及び結晶構造は、ICDD PDF Card #04-005-4302及びActa Crystallogr.1978,B34,pp.2833-2834において以前に報告されている。相1と同様に、相2は、C2/mのような空間群12の単斜晶系である。単位格子パラメータは、a=17.438(4)Å、b=17.706Å、c=6.063(1)Å、β=95.51(2)°である。
図2は、その結晶構造からの相2のシミュレートされたPXRDスペクトルである。
図2のシミュレートされたPXRDパターンは、ICDDデータベースに堆積されたものと同一である。
【0027】
【0028】
固体状態において、両結晶相は、WCl5の二量体(すなわち、W2Cl10)を含有する。各タングステン原子は、4つの非共有Cl原子及び2つの共有Cl原子に結合した擬八面体構造にある。結果として、相1から相2への相変換は無拡散変態である。言い換えれば、結晶構造の大きい再編成は全く観察されない。無拡散変態において、原子は、それらの位置を、元の結合の遮断なしに比較的協調的にわずかに変える(例えば、D.A.Porterら,Phase transformations in metals and alloys,Chapman & Hall,1992,p.172を参照されたい)。より具体的には、相1WCl5と相2WCl5との間の相変換は、他の単位格子パラメータに関するわずかな歪みと共に、単位格子のβ角の変化を主に伴う。
【0029】
次に続く実施例において示されるように、異なる百分率の相1及び相2を含有するWCl5を調製するために異なる方法が用いられた。粉末X線回折(PXRD)測定は、Rigaku Miniflex回折計(Cu Kα放射、λ=1.5406Å)で行われた。当業者は、PXRD測定値がまた、Co、Mo、Cr、Ni等を含むが、それらに限定されない、他のアノードを使用して測定され得ることを認めるであろう。回折計は、空気に敏感な材料が空気/湿気暴露なしに取り扱われるように窒素充満グローブボックス中に収納された。試料が受け取られ、グローブボックス中へ移された。WCl5を含有するバイアルが次に開かれ、材料が瑪瑙乳鉢及び乳棒で細かい粉末へすり潰された。標準試料ホルダーが使用された。X線出力は450Wであり、検出器はシンチレーションカウンターであった。粉末パターンは、θ-θスキャンモード(範囲2θ=8°~50°、0.02°のステップサイズ)を用いて集められた。
【0030】
図1及び2のリートベルト法及び基準結晶構造物が、様々なWCl
5試料における各結晶相の百分率を決定するために使用された。より具体的には、バックグラウンドが測定され、各データセットから取り除かれた。残りの回折ピークが、相組成百分率を決定するために
図1及び2の参照パターンにマッチさせられた。具体的に言うと、相1/相2WCl
5混合物について、XRDデータからの回折ピークが、相2WCl
5(PDF #04-005-4302)及びTaCl
5(PDF #04-019-4194、未報告の相1WCl
5と同形の、TaをW原子で置換されたい、及び相1WCl
5の結晶構造をもたらすために単位格子パラメータを調整されたい)についての参照パターンにマッチさせられた。XRDデータが、次に、各試料中の2つの結晶相の相対相分率を決定するために用いられた。精緻化試料モデルからの計算された回折強度の生XRDデータへのファイナルフィットが行われた。コンピューター発生データは、実験データによくマッチする。精緻化相分率は、MDI-Jade 2010などの、ソフトウェアを用いて得られ得る。
【0031】
出願人らは、WCl
5の相1及び相2結晶相が異なる蒸気圧を有することを発見した。
図3は、異なる結晶相WCl
5試料について120℃で60分にわたって%質量損失を示すを示すグラフである。
図3において、実線(-)は、96%相1WCl
5についての0.0311%質量損失/分を示し;長い破線-点線(-・)は、83%相1WCl
5についての0.029%質量損失/分を示し;短い破線-点線(-・)は、67%相1WCl
5についての0.0261%質量損失/分を示し;長い破線-長い破線(- -)は、40%相1WCl
5についての0.0248%質量損失/分を示し;短い破線-短い破線(- -)は、39%相1WCl
5についての0.0239%質量損失/分を示し、点線(・)は、22%相1WCl
5についての0.0223%質量損失/分を示す。96%相1WCl
5についての0.0311%質量損失/分対22%相1WCl
5についての0.0223%質量損失/分の間の差は、相変化が蒸気供給及び随伴プロセス速度に対して有し得る影響を実証する。
【0032】
図4は、質量損失%/分単位での昇華速度対相1WCl
5の百分率のグラフである。分かるように、昇華速度は、結晶相材料の百分率に一次比例する。
【0033】
図5は、2つの異なる結晶相WCl
5試料についての昇華速度(Δ質量/Δ時間)対時間を示すグラフである。黒色三角形は、22%相1/78%相2WCl
5についての昇華速度が直線であることを示す。このグラフは、昇華速度が16時間の昇華中にほんのわずかに低下することを示す。対照的に、クリアダイアモンドは、96%相1/4%相2WCl
5についての昇華速度がほぼ直ちに急速に低下し始めることを示す。
【0034】
図3~5から分かるように、より高い濃度の相2を含有する試料は、より高い濃度の相1を含有する試料と比較してより低い昇華速度を有する。それ故、相1は、相2よりも高い蒸気圧を有する。相1及び相2結晶性材料の混合物を含有するWCl
5の供給は、いかなる相変換の不在でさえも、相1が相2よりも速く激減する(すなわち、相1がより高い蒸気圧を有する)ので、経時的に蒸気圧ドリフトを引き起こすであろう。その上、実施例3において示されるように、相1は、蒸着又はエッチングプロセス中に相2に変換する。この変換は、蒸気圧ドリフトを更に深刻にする。
【0035】
半導体プロセス中の蒸気圧の差及び相2WCl5への相1WCl5の変換は、WCl5材料の短縮された使用と、蒸着ツールへのWCl5蒸気の安定した供給を維持することができるために設備パラメータを調整する必要性とをもたらす。言うまでもなく、半導体製造中のパラメータの調整は望ましくない。
【0036】
経時的に安定した蒸気圧を維持するために、相1:相2比は、できるだけ元の相比の近くに維持されるべきである。その上、出願人らは、室温での貯蔵下で又は247℃以下の温度に加熱された後に相2材料は相1に変換して戻らないことを発見した。結果として、相2WCl5からの蒸気は、結晶相を変えることなく様々な温度で供給され得る。それ故、相2の蒸気圧は相1のそれよりも低いけれども、WCl5蒸気の安定した供給は、より高い濃度の相2WCl5を使用して提供され得る。WCl5蒸気の安定した供給は、蒸着又はエッチングなどの、半導体プロセスにとって有益である。不幸にも、出願人らは、100%相2WCl5を生み出すことはできなかった。
【0037】
WCl5は、それを主に相1材料から主に相2材料(すなわち、融点=248℃)に変換するためにその融点のすぐ下の温度に加熱され得る。相変換は、より高い温度でより速く(すなわち、210℃でよりも240℃でより速く)起こる。出願人らは、Cuアノードを使用するPXRDによって測定されるようにおよそ10重量%~およそ40重量%の相1WCl5を含有する、好ましくはおよそ10重量%~およそ35重量%の相1WCl5を含有する、より好ましくはおよそ10重量%~およそ25重量%の相1WCl5を含有するWCl5組成物を生成することができた。
【0038】
興味深いことに、WCl5は、実施例4において示されるように、それが溶融させられ、冷却されるときに、相1材料のより高い百分率(すなわち、30%超)を維持する。同様に、実施例3において示されるように、相1材料のおよそ35%が120℃で120日にわたる消費後に残る。
【0039】
蒸着プロセス中に(すなわち、およそ150℃の温度で)典型的に起こる相変換は、190℃~245℃で起こる相変換よりもはるかにゆっくり起こる。蒸着プロセスの間中、WCl5の蒸気は、典型的には、およそ150℃の温度に加熱された固体前駆体蒸発器を使用して発生させられる。例えば、L’Air Liquide,Societe Anyonyme pour l’Etude et l’Exploitation des Procedes Georges Claudesに付与される国際公開第2017/075172号パンフレットを参照されたい。固体前駆体蒸発器は、典型的には、遮断弁に連結された入口及び出口を少なくとも備えた、ステンレス鋼容器である。材料を相1から相2に変換するために固体前駆体蒸発器を長時間150℃の温度に加熱すると、Cr、Fe、Ni等などの、任意のステンレス鋼要素によりWCl5の腐食及び汚染がもたらされ得る。
【0040】
当業者は、固体前駆体蒸発器を蒸着室又はエッチング室に連結するいかなるラインも、前駆体の気相を維持するために加熱される必要があることを認めるであろう。そうしないと、ライン上への固体前駆体の沈澱がもたらされるであろう。コスト、安全性、及びメンテナンス理由で、半導体製造業者は、固体前駆体蒸発器及び蒸発器を加工室に連結するいかなるラインをもより低い温度に(好ましくは室温に)維持することを好む。これは、もちろん、上で考察された昇華問題(すなわち、より高い蒸気圧相1材料の激減及び任意の残った相1材料の相2への遅い変換)を更に深刻にする。
【0041】
およそ190℃~245℃の範囲の温度で別個の容器中で相変換を行うと、蒸気デリバリープロセス中に起こるいかなる変換よりも速い相変換が可能になる。容器は、加熱されたときに材料及びその特性の両方に耐えるように選ばれる。容器はまた、任意の不純物をWCl5に与えるというリスクを制限するように選ばれる。好適な容器には、ガラス容器、石英容器、ガラス被覆容器等が含まれる。WCl5が大部分の相2材料に変換された後に、それは、蒸着プロセスでの使用のために、固体前駆体蒸発器へ充填され得る。
【実施例】
【0042】
以下の非限定的実施例は、本発明の実施形態を更に例示するために提供される。しかしながら、実施例は、全て包括的であることを意図せず、本明細書に記載される本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0043】
実施例1:真空昇華
設備:ガラス昇華装置セット(底部部分、コールドフィンガー、Oリング、クランプ、チラー)
粗WCl5をガラス昇華装置セットの底部に加えた。昇華装置を次に加熱マントル中へ入れ、適切に組み立てた。チラーをおよそ6℃~およそ25℃のクーラント温度に維持した。加熱マントルをおよそ200℃~およそ220℃に維持した。加熱した後、加熱マントルのスイッチを切り、冷ます。昇華装置セットを注意深く分解し、コールドフィンガー上に凝縮した材料を次に集める。試料をXRD分析に供して結晶相を定量化する。
【0044】
この方法は、昇華物が空冷又は水冷によって回収される、JX金属株式会社に付与される国際公開第2017/130745号パンフレットに開示されているものに似ている。出願人らは、コールドフィンガーの冷却表面又は他の冷却された表面上に相1WCl5が生じると考える。
【0045】
【0046】
実施例2:キャリアガス支援昇華
粗WCl5を昇華システムの被覆ステンレス鋼底部ケトルにロードした。蓋をクランプでケトルに固定した。加熱マントルを蓋上に置いた。ステンレス鋼チュービングの1つのKF45ジョイントを、KF45 Kalrezガスケットで蓋に連結し、クランプで固定した。ステンレス鋼チュービングの別個のKF45ジョイントを蓋の入口ポートに連結した。真空ラインを蓋の出口ポートに連結した。N2キャリアガスラインを昇華装置のパージングポートに連結した。
【0047】
システムの漏洩試験後に、温度コントローラーを次の通りセットした:
・ 底部:210±10℃
・ 蓋:220±10℃
・ 移動チュービング:230±10℃
・ 受取ポット蓋:240±10℃
・ N2流れ:100±10℃
【0048】
N2についての流量計を0.200L/分にセットした。
【0049】
加熱後に、加熱マントルのスイッチを切った。昇華装置を80℃よりも下に冷却し、次いでキャリアガスN2の流れを止めた。受取ポットを注意深く分解し、固体材料を集める。試料をXRD分析に供して結晶相を定量化する。
【0050】
【0051】
分かるように、この方法は、実施例1の方法よりも少ない相1WCl5を生成する。出願人らは、冷却温度が最終WCl5生成物の結晶化度に影響を及ぼすと考える。言い換えれば、出願人らは、相対的に低い温度がより多くの相1WCl5を生成すると考える。実施例2の凝縮温度は、外部冷却源が全く使用されなかったので実施例1のそれよりも高い。それ故、相1材料の百分率は、実施例2よりも実施例1において高い。
【0052】
実施例3:その場相変化
新たに真空昇華したWCl5を、固体前駆体デリバリー装置に添加し、およそ120℃の温度に維持する。実施例1において示されたように、そのような新たに昇華したWCl5は、90%超の相1WCl5を含有する。表4は、相1材料の百分率が蒸着又はエッチング処理条件のために低下することを実証する。より具体的には、材料の50%超が蒸着又はエッチングプロセス中に消費されてしまった後に、たったの35~51%の相1WCl5が残る。しかしながら、35%未満の相1WCl5を含有するWCl5は、蒸着プロセス中に生成しなかった。標準昇華条件は高い量の相2WCl5を生成するのに十分ではないと出願人らは考える。
【0053】
【0054】
実施例4:溶融
グローブボックス中で、実施例2の方法によって生成した15グラムの新たに昇華されたWCl5(71%P1及び29%P2の)を、100mLの厚肉ガラス圧力容器に添加した。圧力容器を密封し、グローブボックスから取り出した。WCl5をその融点(すなわち、248℃)よりも上に加熱するために圧力容器の底部を260℃の予熱された砂浴に沈めた。一旦固体WCl5が完全に溶融すると、材料を更に5分間加熱し、引き続き異なる条件下で冷却した。圧力容器をグローブボックス中へ戻した。WCl5生成物を集め、XRD分析に供して結晶相を定量化した。
【0055】
【0056】
分かるように、溶融及び冷却は、迅速であろうとよりゆっくりであろうと、相1=30~40%;相2=70~60%を生成する。
【0057】
実施例5:小規模コンディショニング
グローブボックス中で、実施例2の方法によって生成した15グラムの新たに昇華されたWCl5固体(71%P1及び29%P2の)を、100mLの厚肉ガラス圧力容器に添加した。圧力容器を密封し、グローブボックスから取り出した。圧力容器の底部を、ある時間190℃又は220℃の予熱された砂浴に沈めた。圧力容器を次に砂浴から取り出し、30分間で室温まで冷ました。大きい輝くケーキが観察され、それは、圧力容器を振盪することによって輝く結晶性粉末へ容易に壊すことができた。圧力容器をグローブボックス中へ戻した。生成物を集め、XRD分析に供して結晶相を定量化した。
【0058】
【0059】
16%及び22%相1WCl5を有する試料が、蒸着又はエッチングプロセスの間中WCl5蒸気の安定した蒸気供給を提供するのに好適であろう。
【0060】
実施例6:大規模コンディショニング
図6は、この実施例が行われた模範的な設備の略図である。当業者は、この略図が原寸に比例していない(すなわち、250mLのフラスコは、4Lのシリンダー反応器と同じサイズではない)ことを認めるであろう。当業者は、設備の供給業者を更に識別するであろう。構成部品のいくつかのレベルの特注は、所望の温度範囲、圧力範囲、地方条例等に基づいて必要とされ得る。
【0061】
グローブボックス中で、実施例2の方法によって生成した550g(±50g)グラムの新たに昇華されたWCl5(17~44重量%相2の)を4Lの厚肉ガラスシリンダー反応器100に添加した。蓋102を反応器100に固定した。セキュリティーフラスコ103を安全目的のために蓋102に連結した。より具体的には、セキュリティーフラスコ103は、過熱又は他の安全性の問題のために反応器100から逃れる可能性があるいかなるWCl5も捕捉する。反応器100を、加熱マントル101を使用して44(±4)時間230℃で加熱した。温度コントローラー(示されていない)のスイッチを切り、加熱マントル101の内側で100℃よりも下まで反応器100をゆっくり冷ました。反応器100を次に加熱マントル101から取り出した。蓋102を分解し、反応器100の底部上の大きい輝く黒色ケーキをガラス乳鉢に注ぎ込んだ。ガラス乳鉢及び乳棒で粗くすり潰すことによって結晶性粉末を得た。生成物を集め、XRD分析に供して結晶相を定量化した。表7は、この方法が、およそ70重量%の相2材料を有する生成物を繰り返して生成することを実証する。
【0062】
【0063】
これらの材料は、蒸着又はエッチングプロセスの間中WCl5蒸気の安定した蒸気供給を提供するのに好適であろう。
【0064】
本発明の実施形態が示され、記載されてきたが、それらの修正は、本発明の趣旨又は教示から逸脱することなく当業者によって行うことができる。本明細書に記載される実施形態は、模範的なものであるにすぎず、限定的なものではない。組成及び方法の多くの変形及び修正が可能であり、本発明の範囲内にある。したがって、保護の範囲は、本明細書に記載される実施形態に限定されず、その範囲がクレームの主題の全ての同等のものを包含するものとする、次に続くクレームによって限定されるにすぎない。