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特許7093891塗布方法、塗布バーヘッドおよび塗布装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-22
(45)【発行日】2022-06-30
(54)【発明の名称】塗布方法、塗布バーヘッドおよび塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20220623BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20220623BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20220623BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D3/00 F
B05C5/00 101
B05C11/10
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021510477
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2019035560
(87)【国際公開番号】W WO2021048924
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】内藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】信田 直美
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 三長
(72)【発明者】
【氏名】齊田 穣
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-155114(JP,A)
【文献】特開2016-174992(JP,A)
【文献】特開2016-174989(JP,A)
【文献】特開2013-202455(JP,A)
【文献】特開2000-279860(JP,A)
【文献】特開昭62-117666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00-21/00
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布バーヘッドと基材との間に塗布液を供給してメニスカスを形成させ、前記基材を移動させることによって前記基材表面に塗膜を形成させる塗布方法であって、
前記塗布バーヘッドの長手方向に垂直方向の断面が、外周部に、
(a)前記バーヘッドの前記基材に対向する柱面に対応する、外側に凸の曲線部と、
(b)前記曲線部の両末端に、前記柱面の長手方向に平行な端部に対応する二つの折れ曲がり点と
を有しており、かつ前記断面における前記曲線部の曲率半径が10~100mmである塗布方法。
【請求項2】
前記曲線部が円弧である、請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
前記塗布バーヘッドと前記基材との最小間隔が80~600μmである、請求項1または2に記載の塗布方法。
【請求項4】
前記2つの折れ曲がり点の少なくとも一方の、折れ曲がり角度が90~150°である、請求項1~3のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項5】
前記2つの折れ曲がり点の間の曲線部の長さが5~30mmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項6】
前記基材が、前記メニスカスの形成部分において、前記塗布バーヘッドに向かって凸となるように湾曲しており、
前記塗布バーヘッドの前記断面における前記曲線部の曲率半径をr、前記基材の湾曲部における曲率半径をrとしたとき、
= 1/[(1/r)+(1/r)]
で表わされるrが20~80mmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項7】
>r、 または
≧200mm
を満たす、請求項6記載の塗布方法。
【請求項8】
前記塗布バーヘッドが水平に固定され、前記基材が、前記メニスカスの形成部分において重力方向の下方から上方へと搬送される、請求項1~7のいずれか1項に記載の塗布方法。
【請求項9】
前記塗布バーヘッドと前記基材との間の上方から塗布液を供給する、請求項8に記載の塗布方法。
【請求項10】
塗布バーヘッドと基材との間に塗布液を供給してメニスカスを形成させ、前記基材を移動させるメニスカス塗布用バーヘッドであって、
前記塗布バーヘッドの長手方向に垂直方向の断面が、外周部に、
(a)前記バーヘッドの前記基材に対向する柱面に対応する、外側に凸の曲線部と、
(b)前記曲線部の両末端に、前記柱面の長手方向に平行な端部に対応する二つの折れ曲がり点と
を有しており、かつ前記断面における前記曲線部の曲率半径が10~100mmである塗布バーヘッド。
【請求項11】
前記2つの折れ曲がり点の少なくとも一方の、折れ曲がり角度が90~150°である、請求項10に記載の塗布バーヘッド。
【請求項12】
前記2つの折れ曲がり点の間の曲線部の長さが5~30mmである、請求項10または11に記載のバーヘッド。
【請求項13】
塗布バーヘッドと、基材搬送部材と、塗布液供給部材とを有し、これらの各部材が前記バーヘッドと前記基材搬送部材によって搬送される基材との間に塗布液を供給された場合にメニスカスが形成されるように配置されている塗布装置であって、
前記塗布バーヘッドの長手方向に垂直方向の断面が、外周部に、
(a)前記バーヘッドの前記基材に対向する柱面に対応する、外側に凸の曲線部と、
(b)前記曲線部の両末端に、前記柱面の長手方向に平行な端部に対応する二つの折れ曲がり点と
を有しており、かつ前記断面における前記曲線部の曲率半径が10~100mmである、塗布装置。
【請求項14】
前記基材が、前記メニスカスの形成部分において、前記塗布バーヘッドに向かって凸となるように湾曲しており、
前記塗布バーヘッドの前記断面における前記曲線部の曲率半径をr、前記基材の湾曲部における曲率半径をrとしたとき、
= 1/[(1/r)+(1/r)]
で表わされるrが20~80mmである、請求項13に記載の塗布装置。
【請求項15】
>r、 または
≧200mm
を満たす、請求項14記載の塗布装置。
【請求項16】
前記塗布バーヘッドが水平に固定され、前記基材搬送部材が、前記基材を前記メニスカスの形成部分において重力方向の下方から上方へと搬送するものである、請求項13~15のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項17】
前記塗布バーヘッドと前記基材との間の上方に塗布液供給ノズルが配置された、請求項16に記載の塗布装置。
【請求項18】
前記塗布バーヘッドと前記基材との距離を測定し、制御する手段をさらに具備する、請求項13~17のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項19】
前記塗布バーヘッドを洗浄する洗浄部材をさらに具備する、請求項13~18のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項20】
塗布時に余剰の塗布液を回収する部材をさらに具備する、請求項13~19のいずれか1項に記載の塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、塗布方法、塗布バーヘッドおよび塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体を用いた有機薄膜太陽電池や有機/無機ハイブリッド太陽電池は、活性層の形成に安価な塗布法を適用できることから、低コストの太陽電池として期待されている。有機薄膜太陽電池や有機/無機ハイブリッド太陽電池を低コストで実現するためには、有機活性層やその他の層を形成する塗布材料を均一に塗布することが求められる。各層の膜厚は数nmから数100nm程度であり、そのような非常に薄い層を大面積で均一性よく形成することが求められる。例えば、低コストで大面積に極薄い層を塗布可能なロール・ツー・ロール(R2R)塗布法のひとつとしてメニスカス塗布法が知られている。しかしながら従来のメニスカス塗布法では、高速で塗布した場合に基材と塗布バーヘッドとの間の距離が変動しやすいため塗布厚が変動しやすい。一般的な太陽電池モジュールのように、均一な塗布厚が要求される場合、塗布厚の変動が少ないことが求められるため、高速で塗布した場合にも均一な塗布厚が得られる、改良されたメニスカス塗布法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5981594号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、高速でメニスカス塗布しても塗布膜厚が変動しにくい塗布方法、ならびにその塗布方法を実現することができる塗布バーヘッドおよび塗布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の塗布方法は、
塗布バーヘッドと基材との間に塗布液を供給してメニスカスを形成させ、前記基材を移動させることによって前記基材表面に塗膜を形成させる塗布方法であって、
前記塗布バーヘッドの長手方向に垂直方向の断面が、外周部に、
(a)前記バーヘッドの前記基材に対向する柱面に対応する、外側に凸の曲線部と、
(b)前記曲線部の両末端に、前記柱面の長手方向に平行な端部に対応する二つの折れ曲がり点と
を有しており、かつ前記断面における前記曲線部の曲率半径が10~100mmであるものである。
【0006】
また、実施携帯による塗布バーヘッドは、塗布バーヘッドと基材との間に塗布液を供給してメニスカスを形成させ、前記基材を移動させるメニスカス塗布用バーヘッドであって、
前記塗布バーヘッドの長手方向に垂直方向の断面が、外周部に、
(a)前記バーヘッドの前記基材に対向する柱面に対応する、外側に凸の曲線部と、
(b)前記曲線部の両末端に、前記柱面の長手方向に平行な端部に対応する二つの折れ曲がり点と
を有しており、かつ前記断面における前記曲線部の曲率半径が10~100mmであるものである。
【0007】
また、実施形態による塗布装置は、塗布バーヘッドと、基材搬送部材と、塗布液供給部材とを有し、これらの各部材が前記バーヘッドと前記基材搬送部材によって搬送される基材との間に塗布液を供給された場合にメニスカスが形成されるように配置されている塗布装置であって、
前記塗布バーヘッドの長手方向に垂直方向の断面が、外周部に、
(a)前記バーヘッドの前記基材に対向する柱面に対応する、外側に凸の曲線部と、
(b)前記曲線部の両末端に、前記柱面の長手方向に平行な端部に対応する二つの折れ曲がり点と
を有しており、かつ前記断面における前記曲線部の曲率半径が10~100mmであるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態による塗布方法を示す概念図である。
図2】実施形態による塗布バーヘッドの斜視図である。
図3】塗布バーヘッドの断面形状を示す図である。
図4】塗布バーヘッドと平面状基材、およびその間に形成されるメニスカスの関係を示す断面図である。
図5】実施形態に示す塗布装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0011】
図1は、実施形態による塗布方法を示す概念図(断面図)である。この塗布方法は、塗布バーヘッド1の、基材2に対向する湾曲面1aと、移動している基材2との間に塗布液3を供給することによって、基材表面2aに連続的に塗膜6が形成される。図1に示される実施形態では、基材2が鉛直方向の下から上へ移動しており、基材表面2aに、塗布バーヘッドの湾曲面が対向するように配置されている。そして、塗布バーヘッドの湾曲面に、塗布液供給ノズル5から塗布液3が供給され、塗布バーヘッドの湾曲面と基材との間に、塗布液の表面張力によってメニスカス4が形成される。
【0012】
実施形態において、塗布バーヘッドは特定の形状を有している。図2に実施形態に用いられる塗布バーヘッドの斜視図を、図3に塗布バーヘッドの長手方向に垂直方向の断面図を、図4に、塗布バーヘッド1と平面状である基材2との間に塗布液6が導入され、メニスカス4を形成している状態を示す図をぞれぞれ示す。図2に示されるように、塗布バーヘッドの、基材に対向する面1aが外側に凸の柱面である。そして、その柱面の長手方向に平行な端部に稜線8および9を有している。
この塗布バーヘッドの形状は、長手方向に垂直方向の断面の形状によって特徴付けることができる。その断面の形状は、外周部に、
(a)前記バーヘッドの前記基材に対向する柱面に対応する、外側に凸の曲線部と、
(b)前記曲線部の両末端に、前記柱面の長手方向に平行な端部に対応する二つの折れ曲がり点と
を有している。そして、前記断面における前記曲線部の曲率半径が10~100mmである。
【0013】
塗布バーヘッド1の基材2に対向する面1aに対応する部分は曲線部7である。曲線部7は、外側に凸の形状をなしている。曲線部7の両端には、稜線8および9に対応する折れ曲がり点8aおよび9aを有する。曲線部7は、典型的には単一円の円弧であり、図3においては、曲率半径rの円弧である。
【0014】
また、折れ曲がり点8aおよび8bにおける折れ曲がり角度はθおよびθであり、折れ曲がり点8aおよび8bの間の距離はdである。
【0015】
また、塗布バーヘッド1と基材2との間の最小ギャップはGであり、塗布バーヘッド1と基材2との間に形成される塗布液層の最大厚さはGであり、塗布液層の幅はbである。
【0016】
本発明者らは、これらの各パラメータと塗布膜厚の関係を詳細に調べ、最小ギャップGや曲率半径rとメニスカスの液量Lが変動した時の塗布膜厚の関係を調べた。その結果、塗布バーヘッドの面1aが外側に凸の柱面(可展面)である、すなわち、塗布バーヘッドの断面において、柱面に対応する部分が外側に凸の曲線であると、最小ギャップGが変動した場合に塗布膜厚の変動が小さいことを見出した。メニスカス塗布法によって、R2Rの高速塗布を行う場合、振動等により塗布バーヘッドと基材とのギャップが変動しやすいが、特定形状の塗布バーヘッドを用いることによってその影響を低減することができる。
【0017】
また、塗布バーヘッドを円柱状ではなく、基材に対向する面1aの両側に稜線8および9を設けること、すなわち、断面における曲線部7の両端に折れ曲がり点8aおよび8bを設けることによって、メニスカスの位置がピニング効果によって安定し、塗布膜厚の変動が抑制される。従来のメニスカス塗布では円柱状のバーを用いているため、曲率の大きな円形バーを用いると、塗布装置を大きくする必要があり、また塗布液を導入するためのノズル等の形状や位置が制限されて操作性が悪い。塗布バーヘッドの柱面の両端に稜線を有することによりバーヘッドを小型化することができて、操作性が改善される。
【0018】
以下に各パラメータについて具体的に説明する。
【0019】
塗布膜厚は、塗布バーヘッド1と基材2との間に存在する塗布液層の厚さGと幅bが大きいと大きくなる。したがって、塗布時にこれらが安定であると、塗布膜厚も均一になる。しかし、一般的に塗布時にはノズルから供給される塗布液は一定であるため、厚さGまたは最小ギャップGが変動すると幅bも変動し、塗布膜厚が不均一になりやすい。このような変動による影響を最小限にするためには、曲率半径r1を調整することが有効である。実施形態において、厚さG、最小ギャップG、または幅bを安定させ、均一な塗膜を形成させるために曲率半径rは、10~100mmであり、好ましくは20~80mmである。曲線部7は、単一円の円弧である必要は無く、部分的に曲率半径が異なっていてもよい。そのような場合には、平均曲率半径が上記の範囲内であることが好ましい。このような場合には平均曲率半径を便宜的に曲率半径と称する。
【0020】
また、塗布バーヘッドと基材の最小ギャップGを80~600μmとすることが好ましく、100~500μmとすることがより好ましく、150~400μmとすることが特に好ましい。最小間隔が上記範囲より小さいと筋ムラが出やすく、上記範囲より大きいと膜厚が厚くなりすぎると共に乾燥の不均一によって塗布膜厚も不均一になりやすい。最小ギャップはアクチュエータやギャップリング等を用いて制御することができる。
【0021】
折れ曲がり点における角度θおよびθが90~150°であることが好ましく、100~130°であることがより好ましい。角度θおよびθが上記範囲より小さいと塗布液が柱面1aから稜線を超えてしまった時に戻りにくくなる。上記範囲より大きいと、塗布液層の位置を安定させる効果(ピニング効果)が弱くなる傾向にある。ここで、折れ曲がり点8aおよび8bは、「点」である必要はなく、例えば面取りされていたり、曲面処理されていてもよい。しかし、曲面処理されている場合、その部分の曲率半径が大きいと、ピニング効果などが弱くなるので、折れ曲がり点の曲率半径は1mm以下であることが好ましい。
【0022】
また、図3ではθおよびθが異なっており、バーヘッド断面は、塗布面に垂直な方向を軸として非対称となっているが、バーヘッド断面は対称であってもよい。
【0023】
折れ曲がり点間の曲線部の長さdが5~30mmであることが好ましく、7~25mmであることがより好ましい。上記範囲より小さいとメニスカスが不安定になりやすくなる。上記範囲より大きいと膜厚が大きくなりすぎる傾向があると共にヘッドが大きくなり液供給がしにくくなる傾向がある。
【0024】
塗布バーヘッド表面は鏡面でもよいし、凹凸のある曇り面でもよい。曇り面の方が塗布液の濡れ性がよくなる傾向がある。また、表面は濡れ性の違う複数の面の組み合わせであってもよい。例えば塗布液が供給される面1aの濡れ性がよく、稜線8および9を境界にして接する側面の濡れ性が悪いとピニングの効果が大きくなるので好ましい。
【0025】
また塗布バーヘッドの短手方向に仕切りの溝があってもよい。これにより短冊状の塗膜の形成が可能となる。
【0026】
基材の移動方向は特に限定されないが、基材を下から上に搬送しながら塗布することが好ましい。例えば、図1に示されるように、基材を鉛直方向に下から上へ移動することによって、メニスカス部に重力がかかるため、より高速で塗布しても均一な膜を形成しやすい。しかしながら、装置の構成や塗布液の物性などに応じて、移動方向は調整することができ、一般的には鉛直方向から±30°の範囲とされる。
【0027】
図1においては、基材が平板状である場合が示されているが、基材が塗布バーヘッド側に凸であるように湾曲していてもよい。すなわち、基材の塗布バーヘッドとは反対側にローラーなどを備えることで、基材表面がメニスカスの形成部分において塗布バーヘッド側に突き出るように湾曲させることができる。
【0028】
この場合、塗布バーヘッドの曲線部の曲率半径をr、基材の湾曲部分の曲率半径rとしたとき、
= 1/[(1/r)+(1/r)]
で表わされるrが20~80mmであることが好ましく、40~60mmであることがより好ましい。さらに、
>r、 または
≧200mm
を満たすことが好ましい。
【0029】
基材の湾曲部の曲率半径rが大きい方が基材にかかる応力が少なく、歪みも小さくなる。基材が脆い膜を有する場合には、rが非常に大きいことが好ましい。
図5は塗布装置10の概念図であり、塗布バーヘッド1と、基材2を搬送する基材搬送部材としてローラー11と、塗布バーヘッド1に塗布液3を供給する塗布液供給部材としてノズル5とノズルにチューブ12を介してタンク13から塗布液を供給するポンプ14を具備する。塗布幅が広い場合、すなわち塗布バーヘッドの長手方向の長さが長い場合にはノズルは塗布バーヘッドの長手方向に並列に複数設置されること望ましい。ノズルは個別に着脱可能で、またノズル間の距離を変えることが可能であることが、メンテナンスを容易にして、塗布液の物性に応じて均一膜を得るために好ましい。またノズルは一つのスリットであってもよい。この場合はスリット内部は液供給を均一化するための液溜めや凹凸構造、流路等を持つことが好ましい。
【0030】
基材搬送部材は、基材を下から上へと搬送するものであることが好ましく、塗布液供給部材は、塗布バーヘッドの上部から塗布液を供給するものであることが好ましい。これによりメニスカス部に重力がかかりより高速に塗布することができる。塗布バーヘッドの上部から塗布液を供給することにより液だれを抑制することができる。
【0031】
塗布装置10は、塗布バーヘッドと基材との距離(GまたはG)を測定し、制御する部材をさらに具備することができる。この部材により塗布膜厚の均一性をより高くすることができる。
【0032】
塗布装置10は、塗布バーヘッドを洗浄する部材をさらに具備することができる。これにより定期的に塗布バーヘッドを洗浄し、雰囲気から混入する不純物や塗布液から析出する固体物を除くことができる。具体的には、水などの溶媒を噴霧または放射する部材、超音波を印加する部材などが挙げられる。
【0033】
塗布装置10は、余剰の塗布液を回収する部材をさらに具備することができる。この部材により、塗布終了後の塗布液の逆流や高価な塗布液のロスを防ぐと共に溶媒等の環境への放出を防止しやすい。
【0034】
(実施例1)
実施例1では、図5に示した塗布装置10を用いて、以下のようにして塗布材料の塗布工程を実施した。まず、図3に示す塗布バーヘッド断面において曲率半径rが40mm、折れ曲がり点の角θが120°、θが90°、折れ曲がり点間の曲線部の長さが25mm、塗布幅方向の長さが100mmのSUS303製の塗布バーヘッドを製作する。
【0035】
モノクロロベンゼン1mLに、8mgのPTB7([ポリ{4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル-1t-alt-3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェン-4,6-ジイル}]/p型半導体)と、12mgのPC70BM([6,6]フェニルC71ブチル酸メチルエスター/n型半導体)とを分散させることによって、太陽電池の有機活性層の形成材料である塗布液を調製する。塗布液供給部材は、5本のノズルを備え、それにより塗布バーヘッドと基材との間に塗布液を供給する。ノズルには一つのタンクから5本のチューブで窒素の圧力をタンクにかけて供給する。各ノズルの間隔は20mmとする。ノズルはステンレス製のニードルである。塗布対象物としては、PETフィルムロールの塗布面側にインジウムスズ酸化物(ITO)を設けた基材を使用する。塗布バーヘッドとPET基材との最小間隙距離が150μmとなるように、アクチュエータを用いて塗布バーヘッドを配置する。それぞれの塗布バーヘッドにそれぞれのノズルから40μLの塗布液を供給してメニスカス柱を形成する。ノズルの角度と間隙距離を制御しながら、PET基材上に塗布液を塗布することによって塗膜を得る。PET基材の移動速度は83mm/sで一定とする。ノズルから連続的に液供給を行い、20mの長さで塗布を行い、中央18mの乾燥後膜厚を吸収スペクトルから測定し、ウェット状態での塗布膜厚を求めた。その結果、塗布膜厚は10.5±0.1μmである。
【0036】
(実施例2)
曲率半径が10mmのSUS303製の塗布バーヘッドを用いることを除いては実施例1と同様に塗布を行う。塗布膜は11.2±0.3μmである。
【0037】
(実施例3)
曲率半径が100mmのSUS303製の塗布バーヘッドを用いることを除いては実施例1と同様に塗布を行う。塗布膜は9.5±0.3μmである。
【0038】
(実施例4)
最小隙間距離Gが550μmであり、それぞれのノズルから600μLの塗布液を供給してメニスカス柱を形成することを除いては実施例1と同様に塗布を行う。塗布膜は25.0±0.3μmである。
【0039】
(実施例5)
塗布バーヘッドに対向して曲率半径が200mmのローラーを設置して基材をバーヘッドに対して凸に湾曲させ、曲率半径が80mmのSUS303製の塗布バーヘッドを用いることを除いては実施例1と同様に塗布を行う。合成した曲率半径rは57mmである。塗布膜は10.0μmであり、塗布膜ムラは0.1μm未満である。
【0040】
(比較例1)
底面が平坦のSUS303製の塗布バーヘッドを用いることを除いては実施例1と同様に塗布を行う。塗布膜は12.0±1.0μmである。
【0041】
(比較例2)
曲率半径が8mmのSUS303製の塗布バーヘッドを用いることを除いては実施例1と同様に塗布を行う。塗布膜は13.0±0.7μmである。
【0042】
(比較例3)
曲率半径が110mmのSUS303製の塗布バーヘッドを用いることを除いては実施例1と同様に塗布を行う。塗布膜は9.2±0.6μmである。
【0043】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1…塗布バーヘッド、2…基材、3…塗布材料、4…メニスカス、5…ノズル、6…塗布膜、7…曲面、8…折れ曲がり点、9…折れ曲がり点、10…塗布装置、11…ローラー、12…チューブ、13…タンク、14…ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5