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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】インナーチューブ
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/012 20060101AFI20220624BHJP
   A61B 1/01 20060101ALI20220624BHJP
   G02B 23/24 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
A61B1/012
A61B1/01 511
G02B23/24 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018107080
(22)【出願日】2018-06-04
(65)【公開番号】P2019208836
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業」「先端医療機器の開発/高い安全性と更なる低侵襲化及び高難度治療を可能にする軟性内視鏡手術システムの研究開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】390029676
【氏名又は名称】株式会社トップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 則仁
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 卓也
(72)【発明者】
【氏名】日村 義彦
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/143142(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/070042(WO,A1)
【文献】特開平11-332823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00-1/32
G02B 23/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡及び処置具の体腔内への導入を補助する処置具挿入補助具に挿入されるとともに、該内視鏡及び処置具を内部に挿通可能なインナーチューブであって、
該インナーチューブの先端に設けられ、可撓性を有する屈曲可能な屈曲部と、
前記屈曲部の先端に一端が固定された第1のワイヤー部材と、
前記第1のワイヤー部材の他端が固定され、前記インナーチューブの外周を該インナーチューブの軸線方向に沿って摺動可能に取り付けられた第1の摺動部材と、
前記第1の摺動部材に調節ねじにより螺着され、前記調節ねじを操作することにより前記インナーチューブの外周を該インナーチューブの軸線方向に沿って摺動可能に取り付けられた第2の摺動部材と、
前記第1の摺動部材を前記インナーチューブの基端側に摺動させて前記屈曲部を屈曲させた状態で保持する保持機構とを備え、
該保持機構は、
前記第2の摺動部材に設けられ、前記軸線方向に交差する方向回転軸として、回動可能な掛止部材と、
前記インナーチューブの基端に設けられ、基端側に向かって回動された前記掛止部材が掛止される突起部とを有することを特徴とするインナーチューブ。
【請求項2】
請求項1記載のインナーチューブにおいて、
前記インナーチューブの軸線に対し前記第1のワイヤー部材と対称となる側で、前記屈曲部の先端に一端が固定された第2のワイヤー部材と、前記第2のワイヤー部材の他端が固定され、前記インナーチューブの外周を該インナーチューブの軸線方向に沿って摺動可能に取り付けられた第3の摺動部材と、前記第3の摺動部材を前記インナーチューブの基端側に付勢する弾性部材とを有することを特徴とするインナーチューブ。
【請求項3】
請求項1または2記載のインナーチューブにおいて、
前記突起部は、前記屈曲部を屈曲させるまで前記第1の摺動部材が摺動されたときに、前記第2の摺動部材が当接する位置に設けられていることを特徴とするインナーチューブ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインナーチューブにおいて、
前記第2の摺動部材の回転軸から前記突起部までの距離より前記掛止部材の長さは小であり、
前記掛止部材は伸縮可能な弾性材からなることを特徴とするインナーチューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡と鉗子やメス等の処置具とを体腔内へ挿入する際に、その挿入を補助する処置具挿入補助具のインナーチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内視鏡と該内視鏡の観察下において使用される鉗子やメス等の処置具とを体腔内へ挿入して治療を行う手技が行われている。
【0003】
この種の手技を行うために、前記内視鏡と前記処置具とを夫々内部に進退自在に挿通可能である複数のインナーチューブと、前記インナーチューブを挿通可能であるアウターチューブとを備える処置具挿入補助具が知られている。
【0004】
この処置具挿入補助具の使用方法は、まず、前記アウターチューブの先端を被処置部に対向させる。次いで、該先端から前記インナーチューブの先端を突出させる。それから、前記先端にワイヤーを介して固定されると共に、前記インナーチューブに摺動可能に取り付けられた摺動部材を基端側に牽引することで、前記インナーチューブの先端を前記アウターチューブの軸線から離れる方向に向けて放射状に屈曲させる。このとき、前記摺動部材の裏面側に取り付けられた小さい楔状のスライドストッパーを、摺動部材とインナーチューブとの間に差し込むことで、該屈曲状態は保持される。
【0005】
さらに、内視鏡及び処置具を夫々前進させてインナーチューブから突出させた後、該内視鏡及び該処置具を前記アウターチューブの軸線に近づく方向に屈曲させて被処置部に対向させる。
【0006】
以上により、前記処置具挿入補助具は、十分な作業空間と視野を確保でき、距離感が掴み易くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開公報WO2016/143142号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記インナーチューブを屈曲状態で保持するためには、小さいスライドストッパーを操作しなければならないため、操作が容易ではないという問題がある。また、屈曲状態を解除するためには、差し込まれたスライドストッパーを摺動部材とインナーチューブとの間から、爪を引っ掛けて抜く操作を要するため、同様に操作が容易ではないという問題がある。
【0009】
前記問題を解決するために、前記摺動部材に前記ワイヤー部材の他端を固定するとともに、該摺動部材に前記インナーチューブの軸線方向に交差する方向を回転軸として回動可能な掛止部材を設けることが考えられる。前記掛止部材によれば、前記摺動部材を前記インナーチューブの基端側に摺動させたときに、該掛止部材を回動させて、前記インナーチューブに掛止することにより、前記屈曲部を屈曲させた状態で保持することができ、高い操作性を得ることができる。
【0010】
しかしながら、前記掛止部材によれば、前記屈曲部の屈曲角度を任意に調整することができず、さらに改良が望まれる。前記掛止部材を掛止する掛止部として、前記インナーチューブの基端側に階段状の突起部を設けることも考えられるが、このようにしても前記屈曲部の屈曲角度を段階的に調整することができるに過ぎない。
【0011】
上記の点に鑑み、本発明は、操作性が高く、屈曲部の屈曲角度を任意に調整できるインナーチューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明のインナーチューブは、内視鏡及び処置具の体腔内への導入を補助する処置具挿入補助具に挿入されるとともに、該内視鏡及び処置具を内部に挿通可能なインナーチューブであって、該インナーチューブの先端に設けられ、可撓性を有する屈曲可能な屈曲部と、前記屈曲部の先端に一端が固定された第1のワイヤー部材と、前記第1のワイヤー部材の他端が固定され、前記インナーチューブの外周を該インナーチューブの軸線方向に沿って摺動可能に取り付けられた第1の摺動部材と、前記第1の摺動部材に調節ねじにより螺着され、前記調節ねじを操作することにより前記インナーチューブの外周を該インナーチューブの軸線方向に沿って摺動可能に取り付けられた第2の摺動部材と、前記第1の摺動部材を前記インナーチューブの基端側に摺動させて前記屈曲部を屈曲させた状態で保持する保持機構とを備え、該保持機構は、前記第2の摺動部材に設けられ、前記軸線方向に交差する方向を回転軸として、回動可能な掛止部材と、前記インナーチューブの基端に設けられ、基端側に向かって回動された前記掛止部材が掛止される突起部とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明のインナーチューブは、屈曲部と第1の摺動部材とが第1のワイヤー部材を介して連結されているため、処置具挿入補助具の先端からインナーチューブを突出させた状態で、第1の摺動部材を基端側に牽引することで、屈曲部が屈曲される。このとき、第2の摺動部材は調節ねじにより前記第1の摺動部材に螺着されている。そこで、前記状態から、第2の摺動部材に設けられた掛止部材をインナーチューブの基端側に向かって回動させて突起部に掛止させることで、屈曲部が屈曲した状態を保持させる。
【0014】
従って、本発明のインナーチューブは、掛止部材を回転させて突起部に引っ掛ける・外すという操作によって屈曲状態の保持及び解除ができるため、高い操作性を得ることができる。
【0015】
また、掛止部材が突起部に掛止されて第2の摺動部材が固定されているときに、第1の摺動部材は調節ねじを操作することにより、第2の摺動部材に対して相対的に進退することができる。すなわち、第1の摺動部材は調節ねじを締めることにより第2の摺動部材に近接し、調節ねじを緩めることにより第2の摺動部材から離間する。この結果、本発明のインナーチューブは、第1の摺動部材により屈曲部に対して第1のワイヤー部材を進退させることができ、屈曲部の屈曲角度を任意に調整することができる。
【0016】
本発明のインナーチューブは、前記インナーチューブの軸線に対し前記第1のワイヤー部材と対称となる側で、前記屈曲部の先端に一端が固定された第2のワイヤー部材と、前記第2のワイヤー部材の他端が固定され、前記インナーチューブの外周を該インナーチューブの軸線方向に沿って摺動可能に取り付けられた第3の摺動部材と、前記第3の摺動部材を前記インナーチューブの基端側に付勢する弾性部材とを有することが好ましい。
【0017】
本発明のインナーチューブは、前記弾性部材を備えることにより、第1の摺動部材が第2の摺動部材から離間して、屈曲部の屈曲角度が小さくなるときに、第3の摺動部材をインナーチューブの基端側に付勢することができる。この結果、第3の摺動部材により第2のワイヤー部材が牽引されることとなり、屈曲部の屈曲角度を小さくする動作を円滑に行うことができる。
【0018】
本発明のインナーチューブにおいて、前記突起部は、前記屈曲部を屈曲させるまで前記第1の摺動部材が摺動されたときに、前記第2の摺動部材が接する位置に設けられていることが好ましい。
【0019】
これによれば、第2の摺動部材が突起部に接するまで第1の摺動部材を基端側に牽引するだけで、屈曲部が適度に屈曲するので、操作性が高い。
【0020】
本発明のインナーチューブにおいて、前記第2の摺動部材の回転軸から前記突起部までの距離より前記掛止部の長さは小であり、前記掛止部は伸縮可能な弾性材からなることを特徴とする。
【0021】
これによれば、掛止部を引っ張って伸ばしながら突起部に引っ掛けるという操作で、屈曲状態が緩むことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態の処置具挿入補助具を示す説明図。
図2図1における処置具挿入補助具のインナーチューブを示す説明図であって、伸展状態を示す斜視図。
図3図1における処置具挿入補助具のインナーチューブを示す説明図であって、伸展状態を一部破断して示す側面図。
図4図1における処置具挿入補助具のインナーチューブを示す説明図であって、屈曲状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態に係る処置具挿入補助具10について説明する。処置具挿入補助具10は、内視鏡並びに鉗子、メス等の処置具(図示せず)の体内への導入を補助するために用いられる。
【0024】
処置具挿入補助具10は、図1に示すように、主として、インナーチューブ20、アウターチューブ30から構成される。アウターチューブ30の内部に1本又は複数本のインナーチューブ20が挿入される。
【0025】
アウターチューブ30は、可撓性を有する屈曲可能な筒状体であり、内壁面に先端側から基端側にかけて軸方向に延設された複数の案内部(図示せず)を備えている。案内部は、例えば、アウターチューブ30の内壁面に形成された蟻溝であり、内壁面に円周方向に等間隔に形成されている。
【0026】
アウターチューブ30の基端側には、ガイドパイプ32、空気漏れ防止リング33と、バルブシート(図示せず)が取り付けられている。
【0027】
ガイドパイプ32は、アウターチューブ30と空気漏れ防止リング33とを接続する部材であり、ステンレス等の金属や樹脂などの硬質材から形成されている。空気漏れ防止リング33はバルブシートと接着されている。空気漏れ防止リング33は、ガイドパイプ32に対して着脱可能に取り付けられている。バルブシートには、インナーチューブ20が挿通される複数の孔が形成されている。
【0028】
図2及び図3に示すように、インナーチューブ20は、可撓性を有する筒状体であり、内視鏡並びに鉗子やメス等の処置具を内部に挿通可能となっている。インナーチューブ20は外周面に親水性加工が施されている。
【0029】
インナーチューブ20は、本実施形態では、外径が同じものが4本取り付けられているが、外径が異なるものを取り付けてもよい。
【0030】
インナーチューブ20は、ポリプロピレン、塩化ビニル等の軟性プラスチック、ゴム等の軟質材からなる軟質部20aと、軟質部20aより硬質であってABS、ポリカーボネートなどの硬性プラスチックや硬質ゴムなどの硬質材からなる硬質部20bとが軸方向に交互に結合されて構成されている。
【0031】
インナーチューブ20は、外周面の先端から基端に亘って、アウターチューブ30の案内部に係合して摺動可能とする係合部21と、挿入深さを把握するための目盛(図示せず)とを備えている。
【0032】
インナーチューブ20の係合部21は、本実施形態では、インナーチューブ20の外周面に突出する蟻ほぞ状の突起であるが、アウターチューブ30の案内部に対して係合可能であれば任意の形状とすることができる。
【0033】
インナーチューブ20の係合部21は、インナーチューブ20の先端から基端に亘る部分の一部に断続的に設けられている。本実施形態では、先端側と中央部の硬質部20bに夫々設けられている。この2つの係合部21が、アウターチューブ30の案内部に挟み込まれることで、インナーチューブ20はアウターチューブ30に取り付けられる。
【0034】
したがって、インナーチューブ20では、硬質部20bに設けられた係合部21によって、アウターチューブ30に対して確実に取り付けることができる。
【0035】
また、インナーチューブ20は、硬質部20bに挟まれた領域が屈曲可能な軟質部20aで構成されているので、アウターチューブ30を屈曲させたときに、インナーチューブ20が屈曲の妨げとならない。
【0036】
さらに、インナーチューブ20が係合部21を介して、アウターチューブ30の案内部を摺動可能であるので、アウターチューブ30を屈曲させたとき、各インナーチューブ20が夫々摺動しながら追従できるので、この構成からもアウターチューブ30の屈曲を妨げない。
【0037】
インナーチューブ20の先端には、屈曲可能な首振りパイプ22とノーズカバー23とが取り付けられている。具体的には、先端側の硬質部20bに対して首振りパイプ22の基端が取り付けられ、該首振りパイプ22の先端にノーズカバー23が取り付けられている。
【0038】
首振りパイプ22は、薄肉のリング状部材を多関節状に連結し、任意の一方向にのみ屈曲可能な可撓性を備えたパイプであり、例えばステンレス管の加工品として構成され、伸展状態から一方向にのみ曲がる屈曲機構として構成することができる。また、首振りパイプ22は、可撓性を有する軟質材からなるパイプで構成され、或いは、ABSやポリカーボネート等の硬質プラスチック材からなるリングを連結することで構成することもできる。なお、首振りパイプ22が本発明における屈曲部に相当する。
【0039】
ノーズカバー23は、首振りパイプ22と同様、或いはこれより軟質のプラスチック、例えば塩化ビニル等の軟性プラスチック、ゴム等からなっている。ノーズカバー23は軟質材からなるので、組織と接触しても組織に損傷を与えることがない。
【0040】
以下では、ノーズカバー23側からインナーチューブ20をその軸線方向に沿って見たときに、首振りパイプ22が屈曲する方向を上方向、屈曲状態から伸展状態に戻る方向を下方向、該上下方向に直交する方向を左右方向と定義して説明する。
【0041】
インナーチューブ20の基端には、スライドパイプ24、スライドノブ25a,25b、スライドストッパー26及び脱気防止弁27が取り付けられている。スライドパイプ24、スライドノブ25a,25b、スライドストッパー26及び脱気防止弁27は、硬質部20bと同様の硬質材で形成されている。
【0042】
スライドパイプ24は、概略円筒形であって、外周には、レール部24a,24bが、軸線を挟んで上下対称に設けられている。レール部24aは、左右方向にそれぞれ突起しつつ軸線方向に沿って延びる一対の条部によって構成されている。同様に、レール部24bも、左右方向にそれぞれ突起しつつ軸線方向に沿って延びる一対の条部によって構成されている。
【0043】
スライドノブ25aは、インナーチューブ20から上方向に起立する平面視コ字状の壁状部材であり、基端側に開口を有している。スライドノブ25aの底側面は、スライドパイプ24の上側面に対応するように湾曲されて凹んでおり、スライドパイプ24のレール部24aに噛合する溝25cが形成されている。
【0044】
壁状部材であるスライドノブ25aの内側には支持部25dが配設されており、支持部25dは基端側を除く三方がスライドノブ25aに囲まれている。支持部25dは、スライドノブ25aの先端面25eを貫通する調節ねじ25fによりスライドノブ25aの基端側に螺着されており、調節ねじ25fを操作することによりインナーチューブ20の外周を軸線方向に沿って摺動可能とされている。また、調節ねじ25fは支持部25dを貫通しており、支持部25d側の端部に抜け止めリングを備えている。
【0045】
調節ねじ25fは支持部25dに螺合される部分の外周面に雄ねじ部を備えており、支持部25dは調節ねじ25fが螺合されるねじ穴の内周面に、調節ねじ25fの雄ねじ部と噛合する雌ねじ部を備えている。一方、スライドノブ25aは調節ねじ25fを操作したときに、調節ねじ25fの頭部に随従するように構成されている。
【0046】
スライドノブ25aは調節ねじ25fの頭部に随従するために、調節ねじ25fが貫通する貫通孔が、内周面にねじ部を備えていない単なる孔部であってもよく、内周面にねじ部を備えていてもよい。前記貫通孔が内周面にねじ部を備えている場合、該ねじ部は調節ねじ25fの外周面に備えられた螺旋状の雄ねじ部と噛合する雌ねじ部でもよく、調節ねじ25fの外周面に備えられたねじ部が螺旋状ではなく同心円状に形成されたものである場合にはこれに噛合する同心円状の雌ねじ部であってもよい。
【0047】
支持部25dの先端面は、湾曲することで指が掛けやすい指掛部として形成されている。支持部25dの左右側面には、一対の穴部25gが設けられており、穴部25gにストッパーリング25hが取り付けられている。
【0048】
ストッパーリング25hは、ステンレス線材、またはゴムなどの弾性部材等からなる。ストッパーリング25hは、概略C字形状であって両端部を一対の穴部25gにそれぞれ挿入することで、一対の穴部25gを回転軸として回動可能である。なお、一対の穴部25gは連通した貫通孔であってもよい。
【0049】
一方、スライドノブ25bは、概略直方体であって、その底側面は、スライドパイプ24の底面側に対応するように湾曲されて凹んでいるとともに、スライドパイプ24のレール部24bに噛合する溝25cが形成されている。
【0050】
なお、スライドノブ25aは本発明の第1の摺動部材に相当し、支持部25dは本発明の第2の摺動部材に相当する。また、スライドノブ25bは本発明の第3の摺動部材に相当する。
【0051】
スライドストッパー26は、スライドパイプ24の外周に嵌合可能な概略筒状体である。スライドストッパー26の上面側には、上方向に延びるセイル状突起部26aが先端から基端側に向かって一体成形によって設けられており、下面側には平板状突起部26bが先端から基端側に向かって一体成形によって設けられている。
【0052】
スライドノブ25bの基端側は弾性部材としてのコイルバネ28を介して平板状突起部26bの先端側と接続されている。この結果、スライドノブ25bは、コイルバネ28により平板状突起部26b方向に付勢されている。コイルバネ28は、平板状突起部26bに連設されたハウジング26cに収容されている。
【0053】
ストッパーリング25hの一対の穴部25gから露出している範囲の内周の長さは、前記一方の穴部25gからセイル状突起部26aの基端面側を周って他方の穴部25gまで達する距離と同等か、若干長く設計されている。なお、ストッパーリング25hは、本発明の掛止部に相当する。
【0054】
脱気防止弁27は、インナーチューブ20から体腔、例えば腹腔から空気漏れが生じることを防ぐものである。
【0055】
さらに、インナーチューブ20の先端側から基端側に渡って、ワイヤー部材29a,29bが取付けられている。ここで、ワイヤー部材29bは、インナーチューブ20の軸線に対しワイヤー部材29aと対称となる側に配設されている。また、軟質部20a及び硬質部20bの各周壁には、このワイヤー部材29a,29bを挿通可能な一対の内部通路(図示せず)が軸線方向に沿って設けられている。該内部通路は、その内部をワイヤー部材29a,29bが摺動できるように、ワイヤー部材29a,29bより若干大径に形成されている。
【0056】
ワイヤー部材29a,29bは、先端がノーズカバー23に固定され、首振りパイプ22の外側を通過し、先端側の硬質部20b、先端側の軟質部20a、中央部の硬質部20b、後端側の軟質部20aの順に軸方向に沿って挿通され、基端がスライドノブ25a,25bに固定されている。これにより、スライドノブ25a,25bは、スライドパイプ24のレール部24a,24bに沿って摺動可能に構成されている。
【0057】
インナーチューブ20の操作方法を説明する。
【0058】
まず、インナーチューブ20を空気漏れ防止リング33のバルブシートからアウターチューブ30に挿入し、アウターチューブ30の先端から首振りパイプ22が露出するまで前進させる。
【0059】
このとき、基端側の軟質部20aの一部は、図1に示すように、アウターチューブ30の基端から露出する。該軟質部20aは屈曲可能であることから、インナーチューブ20の基端側は径方向外側に屈曲させることができ、操作時に内視鏡や鉗子が干渉することを防止できる。
【0060】
次いで、図4に示すように、スライドノブ25aを基端側に摺動させていくと、ノーズカバー23がワイヤー部材29aを介して基端側に牽引されていく。このとき、首振りパイプ22は、屈曲可能であり、かつ、ワイヤー部材29aがその外側を通過しているため、アウターチューブ30の軸線から遠ざかる方向に屈曲されていく。
【0061】
そして、スライドノブ25aを支持部25dがセイル状突起部26aに当接するまで摺動させると、首振りパイプ22の屈曲角度が最大となり屈曲状態が完成する。
【0062】
この状態で、ストッパーリング25hを跳ね上げて基端側に回転させ、突起部26aに掛止する。このとき、上述の通り、ストッパーリング25hの方が突起部26aの基端面までの長さと同等か若干長く設計されているので、跳ね上げるだけで、ストッパーリング25hを突起部26aに掛止することができる。これにより、首振りパイプ22を最大の屈曲角度で屈曲させた状態で、保持することができる。また、このとき、スライドノブ25bは、首振りパイプ22の屈曲に伴い、ワイヤー部材29bによりコイルバネ28の付勢力に抗して平板状突起部26bから離間する方向に牽引されている。
【0063】
次に、所望により調節ねじ25fを緩める方向(支持部25から抜く方向)に操作すると、スライドノブ25aは前述のように調節ねじ25fの頭部に随従するように構成されているので、スライドノブ25aを支持部25dから相対的に離間する方向、換言すれば先端側に移動させることができる。このようにすると、ワイヤー部材29aが緩むので、首振りパイプ22の屈曲角度を小さくすることができる。このとき、スライドノブ25bはコイルバネ28により平板状突起部26b方向に付勢されているので、ワイヤー部材29aの緩みに対応して平板状突起部26b方向に移動することができ、首振りパイプ22の屈曲角度を円滑に変化させることができる。
【0064】
また、首振りパイプ22の屈曲角度が最大よりも小さいときに、調節ねじ25gを締める方向(支持部25から抜く方向)に操作すると、スライドノブ25aを支持部25dに近接する方向、換言すれば基端側に移動させることができる。このようにすると、ワイヤー部材29aが緊張するので、首振りパイプ22の屈曲角度を大きくすることができる。
【0065】
したがって、本発明のインナーチューブ20では、首振りパイプ22の屈曲角度が任意の角度になるように調整することができる。
【0066】
反対に、首振りパイプ22の屈曲状態を解消するときは、ストッパーリング25hを持ち上げて先端側に回転させ、突起部26aから外し、ワイヤー部材29aをフリーにする。このようにすると、スライドノブ25bはコイルバネ28の付勢力により平板状突起部26b方向、換言すれば基端側に摺動する。これによりノーズカバー23は、ワイヤー部材29bを介して基端側に牽引されるので、首振りパイプ22を屈曲していない伸展状態に回復させることができる。
【0067】
以上説明したとおり、インナーチューブ20は操作が容易であるため、片手で操作することもできる。例えば、一方の手の親指と人差し指で把持し、該親指の爪上にストッパーリング25hを乗せた状態で、該親指の腹をスライドノブ25aの上側面及び支持部25dの先端面(指掛部)に乗せて、スライドノブ25aを支持部25dがセイル状突起部26aに当接するまで摺動させ、ストッパーリング25hを跳ね上げて基端側に回転させてセイル状突起部26aに掛止することで、首振りパイプ22を屈曲状態で保持させる。
【0068】
反対に、屈曲状態を解消するときは、ストッパーリング25hを人差し指で持ち上げて先端側に回転させ、セイル状突起部26aから外すことで、首振りパイプ22を伸展状態に回復させる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、構成や形態は適宜変更可能である。
【0070】
例えば、セイル状突起部26aは、ストッパーリング25hが掛止可能であれば足りるため、上方向に突起する形状に限られず、先端がインナーチューブ20の軸線に直交する面より基端側に向かって延びていればよく、上方向から基端側に湾曲するフックでもよい。
【0071】
例えば、ストッパーリング25hは、コの字状であって左右一方側が開口していてもよい。また、ストッパーリング25hは、支持部25dの穴部25gに挿入されることで回動可能となっているが、支持部25dに一対の円柱状の軸部を設けて、ストッパーリング25hの一対の先端面に該軸部に対応する挿入孔を設けてもよい。
【0072】
また、ストッパーリング25hの素材は、軟質のプラスチック、例えば塩化ビニル等の軟性プラスチック、ゴム等であって伸縮可能にすることもできる。この場合には、さらに、ストッパーリング25hの一対の穴部25gから露出している範囲の内周の長さが、前記一方の穴部25gからセイル状突起部26aの基端面に沿って他方の穴部25gまで達する距離と同等か、若干短く設計されていることが好ましい。
【0073】
これによれば、ストッパーリング25hを引っ張って伸ばしながらセイル状突起部26aに掛止させることで、首振りパイプ22を屈曲させた状態から緩むことを防止することができる。
【0074】
また、コイルバネ28はスライドノブ25bを平板状突起部26b方向に付勢するものであれば足りるため、コイルバネ28に代えて板状ゴム等の弾性部材を用いるようにしてもよい。
【0075】
また、本実施形態では、支持部25dがスライドノブ25aの基端側に螺着されるとして説明しているが、支持部25dはスライドノブ25aの先端側に螺着されていてもよい。
【符号の説明】
【0076】
10…処置具挿入補助具、20…インナーチューブ、22…屈曲部(首ふりパイプ)、25a…第1の摺動部材(スライドノブ)、25b…第3の摺動部材(スライドノブ)、25d…第2の摺動部材(支持部)、25h…掛止部材(ストッパーリング)、26a…セイル状突起部、26b…平板状突起部、28…弾性部材(コイルバネ)、29a,29b…ワイヤー部材。
図1
図2
図3
図4