(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】パッカー及びそれを用いた地山補強工法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/04 20060101AFI20220624BHJP
【FI】
E21D9/04 B
E21D9/04 F
(21)【出願番号】P 2021208437
(22)【出願日】2021-12-22
【審査請求日】2022-01-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591140813
【氏名又は名称】株式会社カテックス
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】浅井 良倫
(72)【発明者】
【氏名】櫛原 博人
(72)【発明者】
【氏名】安田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】浅井 勉
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥三
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-164873(JP,A)
【文献】特開2002-294683(JP,A)
【文献】特開2007-170115(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105569727(CN,A)
【文献】特開2006-169930(JP,A)
【文献】特開平05-187185(JP,A)
【文献】特開2004-204522(JP,A)
【文献】特開2003-147760(JP,A)
【文献】特開昭62-082113(JP,A)
【文献】特開2012-047031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-9/14
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
E02D 1/00-3/115
E21B 1/00-19/24
E21B 44/00-44/10
E02D 17/00-17/20
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湧水を含んだ地山のトンネルの掘削に先立ってトンネル外周の前方地山に打設される長尺鋼管の末端部に挿入されるパッカーであって、
軸方向の両端部が開口した中空の筒体の外周に不透水性袋体と透水性袋体が連結して装着され
ており、
前記不透水性袋体及び前記透水性袋体のそれぞれは、前記長尺鋼管への挿入先側となる奥側端部と、前記長尺鋼管への挿入先側と反対側となる手前側端部と、を有し、
前記不透水性袋体の奥側端部と前記透水性袋体の手前側端部とが重なるように前記不透水性袋体は前記透水性袋体の手前側に装着されて
おり、
前記不透水性袋体の手前側端部は、金属製あるいは樹脂製の第1ベルトで前記筒体に対して締め付けられており、
前記透水性袋体の奥側端部は、金属製あるいは樹脂製の第2ベルトで前記筒体に対して締め付けられており、
前記筒体は、環状スペーサーが前記筒体の外周を長手方向に移動可能なように前記環状スペーサーに挿通されており、
前記環状スペーサーは、前記不透水性袋体の奥側端部と前記透水性袋体の手前側端部とのラップ部の内側に配置されており、
前記環状スペーサーと前記筒体との間に固結材が通過可能な隙間が形成されており、
前記環状スペーサーと前記筒体との隙間を介して前記不透水性袋体の内部と前記透水性袋体の内部とを連通するように、前記不透水性袋体の奥側端部と前記透水性袋体の手前側端部とのラップ部が金属製あるいは樹脂製の第3ベルトで前記環状スペーサーに対して締め付けられて前記ラップ部と前記環状スペーサーとが連結されており、
前記筒体には、前記不透水性袋体の内部と前記筒体の中空部とを連通する連通孔が形成されており、
前記連通孔には、前記筒体内に挿入される注入用チューブが接続されており、
前記長尺鋼管に前記パッカーを挿入した状態で、前記注入用チューブにより前記連通孔を介して前記不透水性袋体の内部に固結材を注入し、前記固結材が前記不透水性袋体を膨張させたのち、前記環状スペーサーと前記筒体との隙間を通じて前記透水性袋体の内部に流入して前記透水性袋体を膨張させることで、前記筒体を前記長尺鋼管の内壁に固定し、前記長尺鋼管の外周に設けられた吐出孔から前記長尺鋼管内に流入する湧水を前記筒体の挿入先側となる一方の端部の開口から前記筒体の中空部に流入させ前記筒体の中空部を通じて前記筒体の挿入先側と反対側となる他方の端部の開口から排出することを特徴とするパッカー。
【請求項2】
湧水を含んだ地山のトンネルの掘削に先立ってトンネル外周の前方地山に削孔される長尺の裸孔の末端部に挿入されるパッカーであって、
軸方向の両端部が開口した中空の筒体の外周に不透水性袋体と透水性袋体が連結して装着され
ており、
前記不透水性袋体及び前記透水性袋体のそれぞれは、前記裸孔への挿入先側となる奥側端部と、前記裸孔への挿入先側と反対側となる手前側端部と、を有し、
前記不透水性袋体の奥側端部と前記透水性袋体の手前側端部とが重なるように前記不透水性袋体は前記透水性袋体の手前側に装着されて
おり、
前記不透水性袋体の手前側端部は、金属製あるいは樹脂製の第1ベルトで前記筒体に対して締め付けられており、
前記透水性袋体の奥側端部は、金属製あるいは樹脂製の第2ベルトで前記筒体に対して締め付けられており、
前記筒体は、環状スペーサーが前記筒体の外周を長手方向に移動可能なように前記環状スペーサーに挿通されており、
前記環状スペーサーは、前記不透水性袋体の奥側端部と前記透水性袋体の手前側端部とのラップ部の内側に配置されており、
前記環状スペーサーと前記筒体との間に固結材が通過可能な隙間が形成されており、
前記環状スペーサーと前記筒体との隙間を介して前記不透水性袋体の内部と前記透水性袋体の内部とを連通するように、前記不透水性袋体の奥側端部と前記透水性袋体の手前側端部とのラップ部が金属製あるいは樹脂製の第3ベルトで前記環状スペーサーに対して締め付けられて前記ラップ部と前記環状スペーサーとが連結されており、
前記筒体には、前記不透水性袋体の内部と前記筒体の中空部とを連通する連通孔が形成されており、
前記連通孔には、前記筒体内に挿入される注入用チューブが接続されており、
前記裸孔に前記パッカーを挿入した状態で、前記注入用チューブにより前記連通孔を介して前記不透水性袋体の内部に固結材を注入し、前記固結材が前記不透水性袋体を膨張させたのち、前記環状スペーサーと前記筒体との隙間を通じて前記透水性袋体の内部に流入して前記透水性袋体を膨張させることで、前記筒体を前記裸孔の内壁に固定し、前記裸孔内に流入する湧水を前記筒体の挿入先側となる一方の端部の開口から前記筒体の中空部に流入させ前記筒体の中空部を通じて前記筒体の挿入先側と反対側となる他方の端部の開口から排出することを特徴とするパッカー。
【請求項3】
湧水を含んだ地山のトンネルの掘削に先立ってトンネル外周の前方地山に長尺鋼管を打設し、前記長尺鋼管の内空を通じて前記前方地山内に固結材を注入して前記前方地山を補強する方法において、
前記長尺鋼管の末端部に請求項1に記載のパッカーを挿入したのちに前記パッカー内に固結材を注入して前記不透水性袋体と前記透水性袋体を膨張させることにより前記筒体を前記長尺鋼管の内壁に固定し、
前記長尺鋼管の外周に設けられた吐出孔から前記長尺鋼管内に流入する湧水を
前記筒体の挿入先側となる一方の端部の開口から前記筒体の中空部に流入させ前記筒体の中空部を通じて
前記筒体の挿入先側と反対側となる他方の端部の開口から排出することを特徴とする地山補強工法。
【請求項4】
湧水を含んだ地山のトンネルの掘削に先立ってトンネル外周の前方地山に長尺の裸孔を削孔し、前記裸孔の内壁面を通じて前記前方地山内に固結材を注入して前記前方地山を補強する方法において、
前記裸孔の末端部に請求項
2に記載のパッカーを挿入したのちに前記パッカー内に固結材を注入して前記不透水性袋体と前記透水性袋体を膨張させることにより前記筒体を前記裸孔の内壁に固定し、前記裸孔内に流入する湧水を
前記筒体の挿入先側となる一方の端部の開口から前記筒体の中空部に流入させ前記筒体の中空部を通じて
前記筒体の挿入先側と反対側となる他方の端部の開口から排出することを特徴とする地山補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパッカー及びそれを用いた地山補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱な不良地山に山岳トンネルを掘削する場合、例えば、
図8に示すように、トンネル掘削に先立って前方地山Gに長尺鋼管Aを打設し、鋼管Aを通じて地山内に固結材を注入し、地山Gを補強する工法が採用されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、例えば、
図9(a)に示すように、注入時に複数の注入チューブ21を鋼管A内に挿入し、それぞれのチューブ21から固結材を注入する。鋼管A内に注入された固結材は鋼管Aの外周に設けられた吐出孔から地山の空隙や亀裂に浸透して地山Gを補強する。この注入チューブ21は、固結材の漏洩を防止するためにゴム製の逆止弁23を貫通しており、この逆止弁23は端末鋼管口元に設けられたネジ部24により固定される。しかしながら、例えば、
図9(b)に示すように、湧水Sが多い地山Gではゴム製逆止弁23があることにより鋼管A内に湧水Sが溜まり、このような状態で鋼管A内に注入された固結材は湧水Sによって希釈や分散されるため、固結材が硬化しないもしくは硬化しても所定の強度を発現できないことがあった。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、湧水を流出させながら固結材の注入が可能となる資材および地山補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
1.中空の筒体の外周に不透水性袋体と透水性袋体が連結して装着され、かつ前記不透水性袋体は前記透水性袋体の手前側に装着されていることを特徴とするパッカー。
2.前記不透水性袋体と前記透水性袋体の両端部が金属製あるいは樹脂製のベルトで前記筒体に対して締め付けられており、かつ前記不透水性袋体の奥側端部の内側には、前記筒体の外周を長手方向に移動可能で前記筒体との間に固結材が通過可能な隙間を有する環状スペーサーが設置されており、前記不透水性袋体の奥側端部と前記環状スペーサーと前記透水性袋体の手前側端部とが前記ベルトの締め付けにより連結されていることを特徴とする上記1.に記載のパッカー。
3.前記不透水性袋体の内部に注入された固結材が前記不透水性袋体を膨張させたのち、前記環状スペーサーと前記筒体との隙間を通じて前記透水性袋体の内部に流入することを特徴とする上記1.又は2.に記載のパッカー。
4.前記筒体には、前記不透水性袋体の内部と前記筒体の中空部とを連通する連通孔が形成されており、前記連通孔には、固結材を注入するための注入用チューブが接続されていることを特徴とする上記1.乃至3.のいずれか一項に記載のパッカー。
5.湧水を含んだ地山のトンネルの掘削に先立ってトンネル外周の前方地山に長尺鋼管を打設し、前記長尺鋼管の内空を通じて前記前方地山内に固結材を注入して前記前方地山を補強する方法において、
前記長尺鋼管の末端部に上記1.乃至4.のいずれか一項に記載のパッカーを挿入したのちに前記パッカー内に固結材を注入して前記不透水性袋体と前記透水性袋体を膨張させることにより前記筒体を前記長尺鋼管の内壁に固定し、前記長尺鋼管内に流入する湧水を前記筒体の中空部を通じて排出することを特徴とする地山補強工法。
6.湧水を含んだ地山のトンネルの掘削に先立ってトンネル外周の前方地山に長尺の裸孔を削孔し、前記裸孔の内壁面を通じて前記前方地山内に固結材を注入して前記前方地山を補強する方法において、
前記裸孔の末端部に上記1.乃至4.のいずれか一項に記載のパッカーを挿入したのちに前記パッカー内に固結材を注入して前記不透水性袋体と前記透水性袋体を膨張させることにより前記筒体を前記裸孔の内壁に固定し、前記裸孔内に流入する湧水を前記筒体の中空部を通じて排出することを特徴とする地山補強工法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、打設された鋼管又は削孔された裸孔内に流入する湧水を筒体の中空部を通じて排出することが可能となり、鋼管又は裸孔内に湧水が溜まることがないため、湧水による固結材の希釈、分散を防止することができる。
また、湧水が非常に大量である場合には、鋼管又は裸孔を水抜き孔として利用することができ、湧水量が減ってから注入をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部材を示す。
【
図1】実施形態に係るパッカーの斜視図であり、(a)は組付状態を示し、(b)は分解状態を示す。
【
図4】他の形態に係るパッカーを説明するための説明図であり、(a)は筒体の外周にスリットが形成された形態を示し、(b)環状スペーサーの内周にスリットが形成された形態を示す。
【
図5】実施形態に係る地山補強工法を説明するための説明図であり、(a)は鋼管内にパッカーを挿入した状態を示し、(b)は不透水性袋体が膨張した状態を示し、(c)は固結材が透水性袋体に流入した状態を示し、(d)は透水性袋体が膨張した状態を示す。
【
図7】他の形態に係る地山補強工法を説明するための説明図である。
【
図8】一般的な長尺鋼管フォアパイリングを説明するための説明図である。
【
図9】従来の地山補強工法を説明するための説明図であり、(a)は鋼管口元の構成を示し、(b)は鋼管内に湧水が溜まった状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
以下、図面を用いて実施形態により本発明を具体的に説明する。なお、本実施形態では、鋼管A(又は裸孔B)内にパッカー1を挿入するときに、先に挿入される側を奥側とし、該奥側よりも後に挿入される側を手前側とする。
【0011】
本実施形態に係るパッカー1は、
図1~
図3に示すように、中空の筒体2と、筒体2の外周に連結して装着される不透水性袋体3及び透水性袋体4と、を備えている。これら各袋体3、4は、不透水性袋体3の奥側端部3aと透水性袋体4の手前側端部4bとが重なるように筒体2の長手方向に並んで配置されている(
図2参照)。さらに、パッカー1は、発泡性能を有するウレタン系の固結材Uを注入するための注入用チューブ5を備えている。
【0012】
筒体2は、ポリ塩化ビニルなどの軽量な中空構造を持つ素材で構成されている。この筒体2の軸方向の両端部は開口している。また、筒体2の外径は、鋼管Aの内径より小さい必要があり、例えば、外径φ114.3mm、内径φ102.3mmの鋼管Aに挿入する場合にはVP65(外径φ76mm、内径φ67mm)であることが好ましい。また、筒体2には、不透水性袋体3の内部と筒体2の中空部2aとを連通する連通孔7が形成されている。この連通孔7には、筒体2内に挿入された注入用チューブ5の先端部が接続されている。
【0013】
不透水性袋体3は、筒体2に対して透水性袋体4の手前側に装着されている。この不透水性袋体3は、筒体2が挿通可能なように軸方向の両端部が開口された筒袋状に形成されている。また、不透水性袋体3は、固結材Uの流入により膨張可能であるとともに、固結材Uが外部に染み出し不能に構成されている。具体的に、不透水性袋体3の材質は、布製や樹脂製であってもよいが、ゴム製のように高伸縮性を有する材質が好適である。さらに、不透水性袋体3の長さは200~400mm、厚さは2~5mmであることが好適である。
なお、不透水性袋体3の各端部3a、3bの外周には、ベルト13、15を装着するための凹部17が形成されている(
図2参照)。
【0014】
不透水性袋体3の奥側端部3aの内側には、筒体2の外周を長手方向に移動可能な環状スペーサー11が設置されている。この環状スペーサー11の材質は金属製、樹脂製が選択できる。また、環状スペーサー11の内径は筒体2の外径よりも大きく、環状スペーサー11と筒体2の間にはウレタン系の固結材Uが通過できるだけの隙間12が形成さている(
図3参照)。この隙間12の幅Wは0.5mm以上であることが好適である。
【0015】
なお、環状スペーサー11は、筒体2との間に固結材Uが流入するだけの隙間12があり、かつ筒体2の外周を長手方向に移動可能な構造であれば上記の構成に限定するものではない。例えば、筒体2の外周や環状スペーサー11の内周に固結材Uが通過できるスリット(隙間)12を形成して構成してもよい(
図4参照)。
【0016】
透水性袋体4は、筒体2に対して不透水性袋体3の奥側に装着されている。この透水性袋体4は、筒体2が挿通可能なように軸方向の両端部が開口された筒袋状に形成されている。また、透水性袋体4は、固結材Uの流入(発泡)により膨張可能であるとともに、固結材Uが外部に染み出し可能に構成されている。具体的に、透水性袋体4は、布製であり、袋体4内部に注入された固結材Uが反応によって膨張する時点で袋体4から染み出すことが望ましい。さらに、透水性袋体4は、膨張可能なように部分的に折り畳まれた状態で筒体2に装着されている。
なお、透水性袋体4の材質は、例えば、多数の貫通孔が形成された樹脂製やゴム製であってもよい。
【0017】
不透水性袋体3の両端部3a、3bと透水性袋体4の両端部4a、4bは、金属製や樹脂製などのベルト13、14、15で筒体2に対して締め付けられている。このベルト13~15としては、例えば、加締め、ネジ締め、爪係合などにより締め付け可能なものを利用できる。
【0018】
具体的に、不透水性袋体3の手前側端部3bは、袋体3の膨張時に筒体2の長手方向に移動不能なようにベルト13で筒体2に固く締め付けられている。また、透水性袋体4の奥側端部4aは、袋体4の膨張時に筒体2の長手方向に移動可能なようにベルト14で筒体2に緩く締め付けられている。さらに、不透水性袋体3の奥側端部3aの外周に透水性袋体4の手前側端部4bの内周が重ねられており、不透水性袋体3の奥側端部3aと環状スペーサー11と透水性袋体4の手前側端部4bとがベルト15の締め付けにより連結(一体化)されている。この構造によって環状スペーサー11と筒体2との間の隙間12を通じて、不透水性袋体3の内部と透水性袋体4の内部が連通する。
【0019】
次に、上記構成のパッカー1を用いた地山補強工法について説明する。地山G内に既知の方法で長尺鋼管Aを打設し(
図8参照)、長尺鋼管Aの末端部にパッカー1を挿入する(
図5(a)参照)。次に、パッカー1に設置した注入用チューブ5により不透水性袋体3内にウレタン系固結材Uを注入し、この注入により袋体3が膨張する(
図5(b)参照)。この不透水性袋体3の膨張に伴って、ベルト15で連結された各袋体3、4の端部3a、4b及び環状スペーサー11が筒体2の長手方向に沿って手前側に移動する。
【0020】
その後、不透水性袋体3が鋼管Aの内壁に接するまで膨張すると、ウレタン系固結材Uは環状スペーサー11と筒体2の隙間12を通じて、不透水性袋体3と連通した透水性袋体4内に流入する(
図5(c)参照)。この透水性袋体4内に流入したウレタン系固結材Uは、袋体4内で発泡して袋体4を膨張させる。この透水性袋体4の膨張に伴って、透水性袋体4の奥方端部4aが筒体2の長手方向に沿って手前側に移動する。また、ウレタン系固結材Uは、透水性袋体4を通じて筒体2と鋼管Aの間に染み出して発泡硬化し、筒体2と鋼管A内壁の間に不透水性の固結体U’を形成する(
図5(d)参照)。
【0021】
その後、鋼管A内へ固結材を注入する。この注入は従来技術と同様に複数の注入チューブ21によって行う。この注入チューブ21は、パッカー1を鋼管A内に挿入したのちに、パッカー1の筒体2を通じて設置する方法(
図5(a)中に仮想線で示す。)と、あらかじめ注入チューブ21をパッカー1の外側に沿わせて鋼管A内に挿入する方法(
図5(a)中に破線で示す。)が選択できる。
【0022】
湧水Sが多い地山Gでは、鋼管A内の湧水Sがパッカー1の筒体2の中空部2aを通じて排出されながら鋼管A内への固結材の注入が行われる。ここで、筒体2の長さは約1mで、注入チューブ21はそれよりも2m以上奥側に配置されるので、注入チューブ21から吐出される固結材は、鋼管A内で固結もしくは鋼管Aに形成された吐出孔から吐出され、筒体2の中空部2a内に流れることはない。さらに、固結材が流出するほどの湧水量である場合には、ある程度湧水を抜いてから注入を開始するという方法も採用できる。
【0023】
以上より、本実施形態のパッカー1では、中空の筒体2の外周に装着される不透水性袋体3と、それに連結する透水性袋体4を備え、それぞれの袋体3、4の内部に連続して発泡性能を有するウレタン系の固結材Uを注入し、それぞれの袋体3、4を膨張させることに加えて、透水性袋体4の膨張および袋体4から染み出た固結材Uが袋体4と鋼管Aの間で発泡することで筒体2を鋼管A内に固定することができる。この構成によって湧水Sが多い地山でも筒体2が湧水によって流されることがなく固定される。
さらに、不透水性袋体3と透水性袋体4が膨張することで、鋼管Aと筒体2の間の隙間を閉塞することができ、鋼管A内の湧水を筒体2の内部を通じて排出することにより、湧水を排出しながら固結材Uを注入することが可能となり、固結材Uが湧水によって希釈、分散することがなくなるため確実な地山改良効果が期待できる。
なお、不透水性袋体3と透水性袋体4のうちの一方のみを備えるパッカーでは、鋼管Aに対してパッカーを安定的に固定できない。
【0024】
また、本実施形態では、不透水性袋体3と透水性袋体4の両端部3a、3b、4a、4bがベルト13~15で筒体2に対して締め付けられており、かつ不透水性袋体3の奥側端部3aの内側には、筒体2の外周を長手方向に移動可能で筒体2との間に固結材Uが通過可能な隙間12を有する環状スペーサー11が設置されており、各袋体3、4の端部3a、4b及び環状スペーサー11がベルト15の締め付けにより連結されているので、パッカー1を簡易且つ安価に構成できるとともに、不透水性袋体3と透水性袋体4を円滑且つ効果的に膨張させることができる。
【0025】
さらに、本実施形態では、不透水性袋体3の内部に注入された固結材Uが不透水性袋体3を膨張させた状態で、環状スペーサー11と筒体2との隙間12を通じて透水性袋体4の内部に流入するので、不透水性袋体3と透水性袋体4を円滑且つ効果的に膨張させることができる。
【0026】
尚、本発明においては、実施形態に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更することができる。すなわち、上記実施形態では、前方地山に打設された長尺鋼管A内にパッカー1を設置する地山補強工法を例示したが、これに限定されず、例えば、
図7に示すように、前方地山に削孔された長尺の裸孔B内にパッカー1を設置する地山補強工法としてもよい。この場合であっても、略同様の作用効果を奏する。
【0027】
また、上記実施形態では、鋼管A(又は裸孔B)内に設置するパッカー1の数量を1としたが、パッカー1の数量はこれに限定されるものではなく、複数のパッカー1を長手方向に連続して挿入することも可能である。
【0028】
また、上記実施形態では、透水性袋体4の奥側端部4aを筒体2の長手方向に移動可能に設ける形態を例示したが、これに限定されず、例えば、透水性袋体4の膨張性能によっては、透水性袋体4の奥側端部4aを筒体2の長手方向に移動不能に設けるようにしてもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、不透水性袋体3及び透水性袋体4の各端部3a、3b、4a、4bを本体2にベルト13~15で締め付ける形態を例示したが、これに限定されず、例えば、不透水性袋体3の端部3bや透水性袋体4の端部4aを接着材や溶着などで筒体2に接合したり、不透水性袋体3の端部3aと透水性袋体4の端部4bと環状スペーサー11とを接着剤や溶着などで接合したりしてもよい。
【0030】
さらに、上記実施形態では、筒体2の外周に長手方向に移動可能で且つ筒体2との間に隙間12を形成する環状スペーサー11を備える形態を例示したが、これに限定されず、例えば、環状スペーサー11を備えず、不透水性袋体3の奥側端部3aが筒体2の外周に長手方向に移動可能で且つ筒体2との間に隙間12を形成するようにしてもよい。
【0031】
さらに、上記実施形態では、筒体2の手前側が閉塞されていないパッカー1を例示したが、これに限定されず、例えば、湧水圧が高いなどの理由で湧水量が減少しない場合などにおいて、筒体2の手前側にバルブを設けて筒体2の手前側を閉塞可能なパッカー1としてもよい。この場合、鋼管Aあるいは裸孔B内に固結材を注入する前に、パッカー1内への固結材Uの注入により筒体2と鋼管Aの間、あるいは筒体2と裸孔Bの間を閉塞した上で、前記バルブを閉じて、筒体2内に湧水Sを滞留させた上で、鋼管Aあるいは裸孔B内に地山に作用する湧水圧以上の圧力で固結材を注入することで、固結材が湧水Sにより大きく希釈されることなく、また、湧水Sが固結材を含んだ状態で孔外に流出することもなく、効果的に固結材を注入し、地山を補強することが可能になる。
【0032】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、トンネルの施工に関する技術として広く利用される。
【符号の説明】
【0034】
1;パッカー、2;筒体、2a;中空部、3;不透水性袋体、3a;奥側端部、3b;手前側端部、4;透水性袋体、4a;奥側端部、4b;手前側端部、5;注入用チューブ、7;連通孔、11;環状スペーサー、12;隙間、13~15;ベルト、A;鋼管、B裸孔、U;固結材。
【要約】
【課題】湧水を流出させながら固結材の注入が可能となるパッカーを提供する。
【解決手段】本パッカー1は、中空の筒体2の外周に不透水性袋体3と透水性袋体4が連結して装着され、かつ不透水性袋体は透水性袋体の手前側に装着されている。不透水性袋体と透水性袋体の両端部がベルト13~15で筒体に対して締め付けられており、かつ不透水性袋体の奥側端部の内側には、筒体の外周を長手方向に移動可能で筒体との間に固結材Uが通過可能な隙間12を有する環状スペーサー11が設置されており、不透水性袋体の奥側端部3aと環状スペーサー11と透水性袋体の手前側端部4bとがベルト15の締め付けにより連結されていることが好ましい。
【選択図】
図2