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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】断熱壁構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20220624BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
E04B1/76 400C
E04B1/76 500F
E04B2/56 645B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022064396
(22)【出願日】2022-04-08
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】513002441
【氏名又は名称】株式会社サドル
(73)【特許権者】
【識別番号】516043317
【氏名又は名称】株式会社青和
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】奥山 誠司
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-221820(JP,A)
【文献】特開2000-303584(JP,A)
【文献】特開2005-336818(JP,A)
【文献】特開2016-94800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
E04B 2/56
E04C 2/00-2/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッキング構法により躯体に取り付けられた複数枚の壁パネルからなる壁材層と、前記壁材層の少なくとも一方の表面側に配置された断熱層と、を有する断熱壁構造であって、
前記断熱層は、厚さ方向に積層された複数枚の断熱板からなる断熱積層体を、少なくとも前記壁パネルの幅方向に複数枚有し、
前記断熱積層体の少なくとも一部が前記壁パネルに接着され、
前記壁パネルの幅方向において、前記壁パネルに接着された前記断熱積層体は、それぞれ1枚の前記壁パネルに接着されており、
前記壁パネルの幅方向の断面において、隣り合う2枚の前記断熱積層体の境界が非直線状であり、且つ、非接着であることを特徴とする断熱壁構造。
【請求項2】
前記断熱層は、前記壁パネルの幅方向の断面において、前記壁パネル側の断熱板の長さが、前記壁パネルから離れた側の断熱板の長さよりも長い第1の断熱積層体と、前記壁パネル側の断熱板の長さが、前記壁パネルから離れた側の断熱板の長さよりも短い第2の断熱積層体と、からなり、
前記壁パネルの幅方向において、前記第1の断熱積層体はそれぞれが1枚の前記壁パネルに接着され、隣り合う2枚の前記第1の断熱積層体の間に前記第2の断熱積層体が嵌合され、前記第2の断熱積層体は、隣り合う2枚の前記第1の断熱積層体の少なくとも一方と前記壁パネルと非接着であることを特徴とする請求項1に記載の断熱壁構造。
【請求項3】
前記断熱積層体は、前記壁パネルの幅と等しい幅の複数枚の断熱板からなることを特徴とする請求項1に記載の断熱壁構造。
【請求項4】
前記複数枚の断熱板は、前記壁パネルの幅方向において両端部が互いにずれていることを特徴とする請求項3に記載の断熱壁構造。
【請求項5】
前記壁パネルの幅方向において、前記断熱積層体は、一方の端部に凸部を、他方に前記凸部に対応する凹部を有し、前記凸部と前記凹部とが互いに嵌合していることを特徴とする請求項3に記載の断熱壁構造。
【請求項6】
前記壁パネルの幅方向において、前記断熱積層体は、両端部に凹部を有し、隣り合う2枚の前記断熱積層体にわたって、前記凹部に断熱ブロックが嵌合されていることを特徴とする請求項3に記載の断熱壁構造。
【請求項7】
前記壁材層側において、隣り合う2枚の前記断熱積層体の境界が、隣り合う2枚の前記壁パネルの境界に対応することを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一項に記載の断熱壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨などの構造躯体にロッキング構法で取り付けられた壁パネルと、断熱層と、を有する断熱壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート製やセメント製の壁パネルを建物の躯体に取り付けた外壁構造において、地震などによる建物の挙動、変形に壁面を追従させて、該壁面の損壊や倒壊を防ぐ手段として、ロッキング構法が知られている。
【0003】
特許文献1には、ロッキング構法で躯体に取り付けたコンクリート成形板に断熱板を接着した断熱壁構造において、コンクリート成形板の幅方向において断熱板の両端に易圧縮部を設け、躯体の揺れによってコンクリート成形板が揺動又は変位した際に、相隣接する断熱板同士の押圧力を係る易圧縮部で吸収し、断熱板の剥離や損傷を防止した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-221820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された断熱壁構造は、断熱層として断熱板を1枚ずつコンクリート成形板に接着する構成であり、コンクリート成形板毎に断熱板が接着されるため、断熱板は接着されたコンクリート成形板の揺動又は変位に対して容易に追従する。
【0006】
図8は、従来の断熱壁構造の一例を模式的に示す、厚さ方向及び、壁パネルの幅方向の切断端面図である。図8中、60は壁材層、61は壁パネル、61aは壁パネル61の中空部、70は断熱層、71a,71bは断熱板、80a,80bは接着層である。
【0007】
断熱性能を高めるために、断熱板を複数枚積層して厚い断熱層を形成する場合、図8に示すように、壁パネル61側の1層目の断熱板71aは、壁パネル61毎に接着層80aを介して接着されるものの、2層目の断熱板71bについては、壁パネル61の幅方向(紙面左右方向)において隣り合う断熱板71bとの境界を1層目の境界からずらせて接着される。これは、壁パネル61の幅方向において隣り合う、壁パネル61,61間の境界、及び、断熱板71a,71a間の境界、71b,71b間の境界を介して、壁を挟んだ一方の空間から他方の空間へと湿気や水分が移動するのを防止するためである。
【0008】
図8のように、断熱板71a,71bを、1層目と2層目とで互い違いに積層した場合、1層目の断熱板71aの境界が2層目の断熱板71bで固定されてしまうため、壁パネル61が揺動又は変位した際に、1層目の断熱板71aが壁パネル61に追従しづらい。また、1層目の断熱板71aが壁パネル61に追従した場合には、境界を挟んで2枚の断熱板71aの端部が互いにずれるため、断熱板71aに接着層80bを介して接着された2層目の断熱板71bは、断熱板71aの境界付近で損傷するおそれがある。
【0009】
本発明の課題は、ロッキング構法で躯体に取り付けられた壁パネルからなる壁材層と、断熱層と、を有し、断熱層が断熱パネルを厚さ方向に複数枚積層してなる断熱壁構造において、壁の一方から他方への湿気や水分の移動を防止した上で、躯体の揺れに起因して壁パネルに揺動又は変位が発生した際の、断熱板の剥離や損傷を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ロッキング構法により躯体に取り付けられた複数枚の壁パネルからなる壁材層と、前記壁材層の少なくとも一方の表面側に配置された断熱層と、を有する断熱壁構造であって、
前記断熱層は、厚さ方向に積層された複数枚の断熱板からなる断熱積層体を、少なくとも前記壁パネルの幅方向に複数枚有し、
前記断熱積層体の少なくとも一部が前記壁パネルに接着され、
前記壁パネルの幅方向において、前記壁パネルに接着された前記断熱積層体は、それぞれ1枚の前記壁パネルに接着されており、
前記壁パネルの幅方向の断面において、隣り合う2枚の前記断熱積層体の境界が非直線状であり、且つ、非接着であることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、下記の構成を好ましい態様として含む。
〔1〕前記断熱層は、前記壁パネルの幅方向の断面において、前記壁パネル側の断熱板の長さが、前記壁パネルから離れた側の断熱板の長さよりも長い第1の断熱積層体と、前記壁パネル側の断熱板の長さが、前記壁パネルから離れた側の断熱板の長さよりも短い第2の断熱積層体と、からなり、
前記壁パネルの幅方向において、前記第1の断熱積層体はそれぞれが1枚の前記壁パネルに接着され、隣り合う2枚の前記第1の断熱積層体の間に前記第2の断熱積層体が嵌合され、前記第2の断熱積層体は、隣り合う2枚の前記第1の断熱積層体の少なくとも一方と前記壁パネルと非接着である。
〔2〕前記断熱積層体は、前記壁パネルの幅と等しい幅の複数枚の断熱板からなる。
〔3〕前記〔2〕において、前記複数枚の断熱板は、前記壁パネルの幅方向において両端部が互いにずれている。
〔4〕前記〔2〕において、前記壁パネルの幅方向において、前記断熱積層体は、一方の端部に凸部を、他方に前記凸部に対応する凹部を有し、前記凸部と前記凹部とが互いに嵌合している。
〔5〕前記〔2〕において、前記壁パネルの幅方向において、前記断熱積層体は、両端部に凹部を有し、隣り合う2枚の前記断熱積層体にわたって、前記凹部に断熱ブロックが嵌合されている。
〔6〕前記〔3〕乃至〔5〕において、前記壁材層側において、隣り合う2枚の前記断熱積層体の境界が、隣り合う2枚の前記壁パネルの境界に対応する。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、断熱層が、複数枚の断熱パネルを積層してなる断熱積層体を複数枚用いることで構成され、隣り合う2枚の断熱積層体の界面が非直線状であるため、壁の一方から他方への湿気や水分の移動が防止される。また、壁パネルに接着された複数の断熱積層体は、個々が1枚の壁パネルにのみ接着され、隣り合う2枚の断熱積層体の界面が非接着であるため、壁パネルの揺動又は変位に対して、該壁パネルに接着された断熱積層体が容易に追従し、剥離や破損のおそれがない。
よって、本発明によれば断熱性能及び耐震性が高く、且つ湿気や水分の遮断性においても優れた断熱壁構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の断熱壁構造の一実施形態の構成を模式的に示す、壁パネルの幅方向の切断端面図と、該断熱壁構造を構成する断熱積層体の、壁パネルの幅方向の切断端面図である。
図2図1の断熱壁構造の製造工程を示す、壁パネルの幅方向の切断端面図である。
図3】本発明の断熱壁構造の他の実施形態の構成を模式的に示す、壁パネルの幅方向の切断端面図と、該断熱壁構造を構成する断熱積層体の、壁パネルの幅方向の切断端面図である。
図4】本発明の断熱壁構造の他の実施形態の構成を模式的に示す、壁パネルの幅方向の切断端面図と、該断熱壁構造を構成する断熱積層体の、壁パネルの幅方向の切断端面図である。
図5】本発明の断熱壁構造の他の実施形態の構成を模式的に示す、壁パネルの幅方向の切断端面図と、該断熱壁構造を構成する断熱積層体の、壁パネルの幅方向の切断端面図である。
図6図4図5に示した壁断熱構造の断熱積層板の端部の形状の他の例を模式的に示す、壁パネルの幅方向の切断端面図である。
図7】ロッキング構法により建物の躯体に取り付けた外壁パネルの、躯体の挙動・変形に追従する様子を模式的に示す図である。
図8】従来の断熱壁構造の構成を模式的に示す、壁パネルの幅方向の切断端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の断熱壁構造は、ロッキング構法により躯体に取り付けられた複数枚の壁パネルからなる壁材層と、複数枚の断熱板からなる断熱層と、を有する。そして、断熱層は、厚さ方向に積層された複数枚の断熱積層体を、少なくとも壁パネルの幅方向に複数枚有し、該断熱積層体の少なくとも一部が壁パネルに接着されて、断熱層と壁材層とが一体化している。さらに、壁パネルに接着された断熱積層体は、それぞれが1枚の壁パネルに接着され、隣り合う2枚の断熱積層体の境界は、積層方向において非直線状であり、且つ、非接着であることを特徴とする。
【0015】
以下、本発明の断熱壁構造について図面を参照して詳細に説明する。尚、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対して適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に含まれる。また、本明細書に添付の図面においては、本発明にかかる主要な構成部材のみを示し、他の構成部材については便宜上図示を省略する。
【0016】
〔実施形態1〕
先ず、ロッキング構法について説明する。ロッキング構法とは、躯体の揺れに伴って揺動又は変位可能に壁パネルを取り付ける方法である。壁パネルは一般的に長方形であり、長手方向を垂直方向に平行に配置する縦張りと、水平方向に平行に配置する横張とが有る。以下、壁パネルを縦張りにして、基礎と梁とに取り付ける構成を例に説明する。
【0017】
壁パネルの長手方向を垂直方向として、上下それぞれの端部或いは端部近傍の水平方向の中央部の一箇所にZクリップを取付ける。一方、アングルを基礎と梁のそれぞれに取り付ける。そして、壁パネルに取り付けたZクリップと壁パネルとの隙間にアングルの自由端側を差し込むことで、基礎上に複数枚の壁パネルを配置する。尚、アングルを取り付ける躯体は、壁パネルを配置する場所により適宜選択される。
【0018】
図7はロッキング構法により躯体に取り付けた壁パネルが、躯体の挙動・変形に追従する様子を模式的に示す図であり、図中の51は躯体、52は壁パネル、53a,53bは、躯体51への壁パネル52の取付け部、即ち、上記したZクリップと壁パネルとの間にアングルが差し込まれた部位を示す。図7(a)に示すように、複数の壁パネル52は、長手方向の両端部において躯体51に取り付けられている。この状態で、地震などにより躯体51に挙動・変形が生じた場合、取付け部53a,53bにおいては、上記したように、アングル、即ち躯体51に対して壁パネル52が面内方向に動くことができるため、図7(b)に示すように、壁パネル52は躯体51の挙動・変形に追従し、壁面の損壊や倒壊が防止される。
【0019】
図7は、壁パネル52を長手方向が垂直方向となるように縦張りにした構成を示したが、壁パネル52の長手方向を水平方向にした横張り構成は、上記縦張り構成を90°回転させた以外、同様である。
【0020】
次に、本実施形態の断熱壁構造について、具体的に説明する。
図1(a)は、本発明の断熱壁構造の好ましい一実施形態の一部の構成を模式的に示す、壁パネルの幅方向の切断端面図であり、図1(b)、(c)は、係る断熱壁構造の構成部材の切断端面図であり、図1(b)は第1の断熱積層体を、図1(c)は第2の断熱積層体を示す。また、図2は、図1の断熱壁構造の製造工程を示す、壁パネルの幅方向の切断端面図である。尚、本発明において、壁パネルは、図7に例示したように、主面が長方形の板状であり、幅方向とは短手方向を意味する。
【0021】
図1(a)に示すように、本発明の断熱壁構造は、複数枚の壁パネル11からなる壁材層10と、該壁材層10の一方の表面側に配置された断熱層20を有しており、断熱層20は厚さ方向に積層された複数枚の断熱板からなる断熱積層体を、少なくとも壁パネル11の幅方向に複数枚有する。即ち、断熱層20は、断熱板が厚さ方向に複数枚積層されてなる。そして、断熱積層体の少なくとも一部が壁パネル11に接着される。
【0022】
本発明に係る壁パネル11としては、断熱板を取り付ける基材としての機能を有する板状の部材であればよく、コンクリート成形板やセメント成形板が好ましく用いられ、より具体的には、中空押出成形コンクリートパネル、軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)、プレキャストコンクリートパネル(PCパネル)、ガラス繊維強化セメントパネル(GRCパネル)、押出成形セメント板(ECP)などが好ましく用いられる。図1(a)に例示した壁パネル11は、中空押出成形コンクリートパネルであり、長手方向に沿った中空部11aを有している。また、壁パネル11としては、一般的に壁材として用いられる耐火パネルや耐熱パネルなども好ましく用いられる。
【0023】
また、本発明に係る断熱板としては、好ましくは合成樹脂発泡体製の板材であり、例えばポリスチレン系発泡体、ポリエチレン系発泡体、ポリプロピレン系発泡体、ポリウレタン系発泡体、フェノール樹脂系発泡体などを用いることができる。中でも、吸水性が低く、断熱性に優れることから、ポリスチレン発泡体が好ましく、ビーズ発泡成形体、押出発泡成形体のいずれであってもよいが、耐圧性に優れることから、押出発泡成形体が好ましい。押出発泡成形体では、良好に成形できる断熱板の厚さに上限が有り、該上限を超える厚さの断熱層20を形成する上で、本発明は好ましく適用される。
【0024】
図1は、断熱パネルが厚さ方向に2層重なって断熱層20を構成した例であり、第1の断熱積層体21と第2の断熱積層体22とが、壁パネル11の幅方向(紙面左右方向)に互い違いに配置して断熱層20を構成している。第1の断熱積層体21は、図1(b)に示すように、幅方向の断面において互いに長さの異なる断熱板21aと21bとが接着層31bを介して一体化され、壁パネル11側の断熱板21aの長さL3が、壁パネル11から離れた側の断熱板21bの長さL4よりも長く、断熱板21bの両端部から断熱板21aの両端が突出している。一方、第2の断熱積層体22は、図1(c)に示すように、幅方向の断面において互いに長さの異なる断熱板22aと22bとがからなり、第1の断熱積層体21とは逆に、壁パネル11側の断熱板22aの長さL6が、壁パネル11から離れた側の断熱板22bの長さL7よりも短い。そして、断熱板21aの長さL3と断熱板22aの長さL6の和、及び断熱板21bの長さL4と断熱板22bの長さL7の和がそれぞれ、壁パネル11の長さL2に相当する。
【0025】
図2に示すように、第1の断熱積層体21は、接着層31aを介して断熱板21aを壁パネル11に接着することで、壁パネル11に固定される。この時、断熱板21aは、2枚の壁パネル11,11に渡って接着されることがないよう、1枚の壁パネル11にのみ接着される。そして、隣り合う第1の断熱積層体21,21間の間隙に、第2の断熱積層体22が嵌合される。この時、第2の断熱積層体22は嵌め込むだけで、壁パネル11には接着されない。また、隣り合う2枚の第1の断熱積層体21,21との境界についても、少なくとも一方とは接着されない。図1(a)では、第2の断熱積層体22は、隣り合う2枚の第1の断熱積層体21,21のいずれにも非接着である構成を示した。
【0026】
図1の実施形態においては、複数の第1の断熱積層体21がそれぞれ、1枚の壁パネル11にのみ接着固定され、隣接する第2の断熱積層体22とは非接着であるため、壁パネル11の揺動又は変位に対して、第1の断熱積層体21と第2の断熱積層体22との境界で互いの側面同士が摺動してずれることで、第1の断熱積層体21が個々に壁パネル11の揺動又は変位に容易に追従する。また、第2の断熱積層体22は第1の断熱積層体21及び壁パネル11に非接着であるため、壁パネル11が揺動又は変位を生じても、第1の断熱積層体21及び壁パネル11との境界において、自身の表面が摺動してずれることで、壁パネル11や第1の断熱積層体21から受ける応力を緩和することができる。
【0027】
よって、本実施形態においては、地震等による躯体の揺れに起因して壁パネル11が揺動又は変位を生じても、断熱層20の破損が抑制される。
【0028】
また、本実施形態においては、第1の断熱積層体21と第2の断熱積層体22との境界において、それぞれの側面が段差を有し、壁パネル11の幅方向の断面において、該境界は非直線状となっている。よって、本実施形態の断熱壁構造を挟んだ一方の空間から他方の空間への湿気や水分の移動が抑制される。
【0029】
本実施形態の応用形態として、壁パネル11の幅方向において第2の断熱積層体22に隣り合う2枚の第1の断熱積層体21,21のうち、一方の第1の断熱積層体21と第2の断熱積層体22とは接着していてもかまわない。
【0030】
また、本実施形態において、壁パネル11の幅方向において、隣り合う2枚の壁パネル11,11の境界11bは、第2の断熱積層体22の壁パネル11側の断熱板22a内に位置していればよく、該境界11bが断熱板22aの一方の側面と一致していても良い。しかしながら、湿気や水分の移動を阻止する上で、該境界11bと、断熱板22aの両側面とが離れている方が好ましく、該境界11bと、断熱板22aの両側面それぞれとの距離が等しく、L1=L6/2であることが好ましい。また、断熱板22aの長さL6は、本発明の効果が得られる範囲で設定すればよく、特に限定されないが、例えば、80mm~120mm程度とすればよい。
【0031】
さらに、壁パネル11の幅方向において、第1の断熱積層体21の断熱板21bの端部より突出する断熱板21aの端部の長さL5、即ち、第2の断熱積層体22の断熱板22aの端部より突出する断熱板22bの端部の長さL8は、湿気や水分の移動を阻止し得る範囲の段差を形成できればよく、特に限定されないが、例えば、30mm~70mm程度とすればよい。また、第1の断熱積層体21の壁パネル11の揺動又は変位への追従と、該揺動又は変位によって断熱層20内に生じる応力の偏りを低減する上で、断熱板21bの端部より突出する断熱板21aの端部の長さは、両端部で等しくすることが好ましい。
【0032】
〔実施形態2〕
図3(a)は、本発明の断熱壁構造の好ましい他の実施形態の一部の構成を模式的に示す、壁パネルの幅方向の切断端面図であり、図3(b)は、係る断熱壁構造に用いられる断熱積層体の切断端面図である。本実施形態については、先に説明した実施形態1と異なる部分についてのみ説明する。
【0033】
本実施形態において用いられる断熱積層体23は、接着層31dを介して2枚の同じ長さL9の断熱板23a,23bを接着してなるが、壁パネル11の幅方向において、両端部を互いにL10だけずらせて接着する。断熱板23a,23bの長さL9は、壁パネル11の長さL2に相当し、接着層31aを介して壁パネル11側の断熱板23aを壁パネル11に接着することで、断熱積層体23が壁パネル11に固定される。この時、壁パネル11の幅方向において、複数の断熱積層体23は、それぞれが1枚の壁パネル11に接着され、1枚の断熱積層体23が2枚の壁パネル11,11にわたって接着されないようにすることで、断熱積層体23は、壁パネル11の揺動又は変位に容易に追従し、断熱層20の損傷が防止される。また、断熱積層体23は側面に段差を有し、壁パネル11の幅方向の断面において、隣り合う2枚の断熱積層体23の境界は非直線状となるため、断熱壁構造を挟んだ一方の空間から他方の空間への湿気や水分の移動が抑制される。
【0034】
本実施形態において、壁パネル11の幅方向において、断熱板23aの端部から断熱板23bの端部までの距離L10は、湿気や水分の移動を阻止し得る範囲の段差を形成できればよく、特に限定されないが、例えば、30mm~70mm程度とすればよい。
【0035】
また、本実施形態においては、断熱積層体23を壁パネル11に接着する際に、壁パネル11の幅方向において、壁パネル11側の断熱板23aの端部と、互いに隣り合う2枚の壁パネル11,11の境界11bとは、図3(a)に示すように、互いに一致していることが作業の容易性の観点で好ましい。
【0036】
尚、湿気や水分の移動を阻止しうる観点から、壁パネル11側の断熱板23aの端部と、壁パネル11,11の境界11bとを離しても良いが、その場合には、断熱板23aが接着される壁パネル11の端部より、隣接する壁パネル11側に突出する該断熱板23aの端部については、該隣接する壁パネル11には接着しないようにする必要がある。
【0037】
〔実施形態3〕
図4(a)は、本発明の断熱壁構造の好ましい他の実施形態の一部の構成を模式的に示す、壁パネルの幅方向の切断端面図であり、図4(b)は、係る断熱壁構造に用いられる断熱積層体の切断端面図である。本実施形態については、先に説明した実施形態1、2と異なる部分についてのみ説明する。
【0038】
本実施形態において用いられる断熱積層体24は、接着層31eを介して2枚の同じ長さL11の断熱板24a,24bを接着してなるが、壁パネル11の幅方向において、一方の端部に凸部24cが、他方の端部に凹部24dが形成されている。凸部24cと凹部24dはそれぞれ、壁パネル11の長手方向(紙面に直交する方向)に連続している。凸部24cの高さ(壁パネル11の幅方向の長さ)L12は凹部24dの深さ(壁パネル11の幅方向の長さ)L13に相当し、凸部24cの厚さT1は、凹部24dの開口部の距離(断熱板24a,24bの厚さ方向の距離)T2に相当し、凸部24cは凹部24dに嵌合する。断熱板24a,24bの長さL11は、壁パネル11の長さL2に相当し、接着層31aを介して壁パネル11側の断熱板24aを壁パネル11に接着することで、断熱積層体24が壁パネル11に固定される。1枚の断熱積層体24を壁パネル11に接着したら、接着済の断熱積層体24の凸部24c又は凹部24dに、隣り合う未接着の断熱積層体24の凹部24d又は凸部24cを嵌合しつつ、該断熱積層体24を、接着済みの断熱積層体24が接着された壁パネル11に隣接する壁パネル11に接着する。壁パネル11の幅方向において、複数の断熱積層体24は、それぞれが1枚の壁パネル11に接着され、1枚の断熱積層体24が2枚の壁パネル11,11にわたって接着されないようにすることで、断熱積層体24は、壁パネル11の揺動又は変位に容易に追従し、断熱層20の損傷が防止される。また、断熱積層体24は側面に凸部24c又は凹部24dによる段差を有し、壁パネル11の幅方向の断面において、隣り合う2枚の断熱積層体24の境界は非直線状となるため、断熱壁構造を挟んだ一方の空間から他方の空間への湿気や水分の移動が抑制される。
【0039】
本実施形態において、凸部24cの高さL12及び凹部24dの深さL13や、凸部24cの厚さT1及び凹部24dの開口部の距離T2は、湿気や水分の移動を阻止し得る範囲の段差を形成できればよく、特に限定されないが、例えば、L12,L13は30mm~70mm程度、T1,T2は30mm~70mm程度とすればよい。
【0040】
また、本実施形態においては、断熱積層体24を壁パネル11に接着する際に、壁パネル11の幅方向において、壁パネル11側の断熱板24aの端部と、互いに隣り合う2枚の壁パネル11,11の境界11bとは、図4(a)に示すように、互いに一致していることが作業の容易性の観点で好ましい。
【0041】
尚、湿気や水分の移動を阻止しうる観点から、壁パネル11側の断熱板24aの端部と、壁パネル11,11の境界11bとを離しても良いが、その場合には、断熱板24aが接着される壁パネル11の端部より、隣接する壁パネル11側に突出する該断熱板24aの端部は、該隣接する壁パネル11に接着しないようにする必要がある。
【0042】
〔実施形態4〕
図5(a)は、本発明の断熱壁構造の好ましい他の実施形態の一部の構成を模式的に示す、壁パネルの幅方向の切断端面図であり、図5(b)、(c)は、係る断熱壁構造を構成する構成部材を示す切断端面図であり、図5(b)は断熱積層体を、図5(c)は断熱ブロックをそれぞれ示す。本実施形態については、先に説明した実施形態1~3と異なる部分についてのみ説明する。
【0043】
本実施形態において用いられる断熱積層体25は、接着層31fを介して2枚の同じ長さL14の断熱板25a,25bを接着してなるが、壁パネル11の幅方向において、両端部に凹部25c,25dが形成されている。凹部25c,25dはいずれも壁パネル11の長手方向(紙面に直交する方向)に連続している。凹部25cの深さ(壁パネル11の幅方向の長さ)L15と凹部25dの深さL16は、互いに異なっていても良いが、等しいことが望ましい。また、凹部25c,25dのそれぞれの開口部の距離(断熱板25a,25bの厚さ方向の距離)T3,T4は互いに等しく、壁パネル11の幅方向において隣り合う2枚の断熱積層体25,25の境界において、凹部25cと25dとは互いに対向する。そして本実施形態においては、壁パネル11の幅方向において隣り合う2枚の断熱積層体25,25の境界において、凹部25cと25dとで形成される空間に断熱ブロック26が隙間なく嵌合される。断熱ブロック26は、断熱板25a、25bと同じ材料で形成され、壁パネル11の幅方向の長さL17と厚さT5とが、凹部25cと25dとで形成される空間の長さL15+L16と厚さ方向の距離T3,T4に相当する。
【0044】
断熱板25a,25bの長さL14は、壁パネル11の長さL2に相当し、接着層31aを介して壁パネル11側の断熱板25aを壁パネル11に接着することで、断熱積層体25が壁パネル11に固定される。そして、1枚の断熱積層体25を壁パネル11に接着したら、接着済の断熱積層体25の凹部25c又は25dに断熱ブロック26の一端を嵌合し、次いで隣り合う未接着の断熱積層体25の凹部25d又は25cに、上記断熱ブロック26の他端を嵌合しつつ、該断熱積層体25を、接着済みの断熱積層体25が接着された壁パネル11に隣接する壁パネル11に接着する。即ち、壁パネル11の幅方向において、複数の断熱積層体25は、それぞれが1枚の壁パネル11に接着され、1枚の断熱積層体25が2枚の壁パネル11,11にわたって接着されないようにすることで、断熱積層体25は、壁パネル11の揺動又は変位に容易に追従し、断熱層20の損傷が防止される。また、断熱積層体25は側面に凹部25c,25dと断熱ブロック26による段差を有し、壁パネル11の幅方向の断面において、隣り合う2枚の断熱積層体25の境界は非直線状となるため、断熱壁構造を挟んだ一方の空間から他方の空間への湿気や水分の移動が抑制される。
【0045】
本実施形態において、断熱ブロック26の長さL17や厚さT5は、湿気や水分の移動を阻止し得る範囲の段差を形成できればよく、特に限定されないが、例えば、30mm~70mm程度とすればよい。
【0046】
また、本実施形態においては、断熱積層体25を壁パネル11に接着する際に、壁パネル11の幅方向において、壁パネル11側の断熱板25aの端部と、互いに隣り合う2枚の壁パネル11,11の境界11bとは、図5(a)に示すように、互いに一致していることが作業の容易性の観点で好ましい。
【0047】
尚、湿気や水分の移動を阻止しうる観点から、壁パネル11側の断熱板25aの端部と、壁パネル11,11の境界11bとを離しても良いが、その場合には、断熱板25aが接着される壁パネル11の端部より、隣接する壁パネル11側に突出する該断熱板25aの端部は、該隣接する壁パネル11に接着しないようにする必要がある。
【0048】
上記実施形態3、4では、壁パネル11の幅方向の断面において、断熱積層体24の端部の凸部24c、凹部24d、及び断熱積層体25の端部の凹部25c、25d、断熱ブロック26の形状が矩形の場合を示したが、本発明においては、係る形状に限定されるものではない。図6は、実施形態3,4の応用例を示す、壁パネル11の幅方向の、壁パネル11,11の境界付近の切断端面図である。実施形態3において、断熱積層体24の端部の凸部24cの形状は、図6(a)に示す半円形、図6(b)に示す三角形、図6(c)に示す台形であってもよい。また、実施形態4において、断熱ブロック26の形状は、図6(d)に示す円形、図6(e)に示すひし形であってもよく、また、図6(f)に示すように、凹部25c、25dを台形とした形状としてもよい。
【0049】
また、上記実施形態1~4においては、断熱積層体21~25がいずれも2枚の断熱板を積層した2層構成の形態を示したが、本発明においては、3層以上積層した構成であっても良い。3層以上とする場合、実施形態1,2においては、隣り合う断熱積層体の境界が階段状であればよい。また、実施形態3においては、隣り合う断熱積層体の境界に少なくとも一つの、凸部24cと凹部24dとの組み合わせがあればよく、3層以上では、中間の断熱板の端部をずらせることで、凸部24c、凹部24dを設けることができる。また、実施形態4においては、隣り合う断熱積層体の境界に少なくとも一つの断熱ブロック26が嵌合配置されていればよく、中間の断熱板の長さを短くすることで、凹部25c、25dを設けることができる。
【0050】
本発明の断熱壁構造においては、壁材層10及び断熱層20のそれぞれの表面にさらに、他の部材を積層してもよく、例えば隣接する2枚の断熱板の境界を覆う防湿材を接着することで、該境界を介した湿気や湿度の移動が抑制されるため、好ましい。
【0051】
上記実施形態1~4においては、壁材層10の一方の表面にのみ断熱層20を設けた構成を示したが、本発明において、断熱層20は、壁材層10の両方の表面に設けても良い。その場合、一方の表面側の断熱層と、他方の表面側の断熱層の構成は同じでも異なっていても良い。また、本発明の断熱壁構造は、建物の外壁としても、屋内の間仕切り壁としても用いられる。
【符号の説明】
【0052】
10:壁材層、11:壁パネル、11a:中空部、11b:境界、20:断熱層、21~25:断熱積層体、21a~25b:断熱板、24c:凸部、24c,25c,25d:凹部、26:断熱ブロック、31a~31f:接着層、51:躯体、52:壁パネル、53a,53b:取り付け部、60:壁材層、61:壁パネル、61a:中空部、70:断熱層、71a,71b:断熱板、80a,80b:接着層
【要約】
【課題】ロッキング構法で躯体に取り付けられた壁パネルからなる壁材層と、断熱層と、を有し、断熱層が断熱パネルを厚さ方向に複数枚積層してなる断熱壁構造において、壁の一方から他方への湿気や水分の移動を防止した上で、躯体の揺れに起因して壁パネルに揺動又は変位が発生した際の、断熱板の剥離や損傷を抑制する。
【解決手段】壁パネル11の幅方向において長さの異なる断熱板21a,21bを厚さ方向に積層してなる第1の断熱積層体21の、壁パネル11側の断熱板21aを壁パネル11に接着し、隣り合う2枚の第1の断熱積層体21,21間の間隙に、壁パネル11の幅方向において長さの異なる断熱板22a,22bを厚さ方向に積層してなる第2の断熱積層体22を、第1の断熱積層体21及び壁パネル11に対して非接着で嵌合した断熱層20を構成する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
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図8