(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニング材料及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20220624BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220624BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220624BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N15/12
C12N5/10 ZNA
C12M1/34 A
(21)【出願番号】P 2018549069
(86)(22)【出願日】2017-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2017039641
(87)【国際公開番号】W WO2018084221
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2016214685
(32)【優先日】2016-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】507125642
【氏名又は名称】株式会社チャネロサーチテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今泉 祐治
(72)【発明者】
【氏名】山村 壽男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良明
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 桂輔
(72)【発明者】
【氏名】成田 寛
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/002460(WO,A1)
【文献】第89回日本薬理学会年会要旨集,2016年03月,p.[3-O-03]
【文献】J. Biomol. Screen.,2012年,vol. 17, no. 6,pp. 773-784
【文献】J. Pharmacol. Sci.,2013年,vol. 123, no. 2,pp. 147-158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/02
C12N 5/10
C12N 15/00-15/90
C12M 1/34
G01N 33/15
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的イオンチャネルに対する作用剤又は阻害剤をスクリーニングする方法であって、
電位依存性Naイオンチャネルの変異体であって脱分極に伴う活動電位の持続時間が
1分以上であるNav1.5チャネルの変異体と、
静止膜電位
-50mV以下であるKイオンチャネルと、静止膜電位を負方向に深くすること及び/又は脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮することに寄与するイオンチャネルである標的イオンチャネルと、を備える細
胞を用い、
前記細胞に対して、
前記Kイオンチャネルに対する選択的阻害剤を供給する工程と、
前記細胞に対して、前記標的イオンチャネルを阻害する又は活性化する可能性のある被験化合物を供給する工程と、
前記被験化合物の供給による前記細胞の細胞死への影響を評価する工程と、
を備え
、
前記標的イオンチャネルは、前記選択的阻害剤によって惹起される前記細胞における脱分極又は該脱分極による前記細胞の細胞死を抑制するイオンチャネルである、方法。
【請求項2】
前記標的イオンチャネルは、前記Kイオンチャネルの前記選択的阻害剤に対する感受性が、前記細胞の前記選択的阻害剤による前記細胞死を抑制できる程度に低いイオンチャネルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Kイオンチャネルは、Kir2.1、Kir2.2、Kir3.X、Kir4.X、Kir4.X、Kir5.X及びKir6.X及びKir7.Xからなる内向き整流性Kイオンチャネル群、K2Pイオンチャネル群及びCaイオン活性化Kイオンチャネル群から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記Kイオンチャネルは、Kir2.1イオンチャネルである、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記標的イオンチャネルは、電位依存性イオンチャネル、リガンド依存性イオンチャネル、機械刺激依存性イオンチャネル、温度依存性イオンチャネル、漏洩チャネルイオンチャネル及びリン酸化依存性イオンチャネルからなる群から選択される、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
イオンチャネルに対する作用剤又は阻害剤をスクリーニングするためのキットであって、
電位依存性Naイオンチャネルの変異体であって脱分極に伴う活動電位の持続時間
が1分以上であるNav1.5チャネルの変異体と、静止膜電位が
-50mV以下であるKイオンチャネルと、静止膜電位を負方向に深くすること及び/又は脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮することに寄与するイオンチャネルである標的イオンチャネルと、を備える細
胞と、
前記Kイオンチャネルの選択的阻害剤と、
を備え
、
前記標的イオンチャネルは、前記選択的阻害剤によって惹起される前記細胞における脱分極又は該脱分極による前記細胞の細胞死を抑制できるイオンチャネルである、キット。
【請求項7】
前記標的イオンチャネルは、前記Kイオンチャネルの前記選択的阻害剤に対する感受性が、前記細胞の前記選択的阻害剤による前記細胞死を抑制できる程度に低いイオンチャネルである、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記標的イオンチャネルは、電位依存性イオンチャネル、リガンド依存性イオンチャネル、機械刺激依存性イオンチャネル、温度依存性イオンチャネル、漏洩チャネルイオンチャネル及びリン酸化依存性イオンチャネルからなる群から選択される、請求項6又は7に記載のキット。
【請求項9】
前記Kイオンチャネルは、Kir2.1イオンチャネルであり、
前記選択的阻害剤は、Baイオン含有化合物である、請求項6~8のいずれかにに記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニング材料及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンチャネルは生理的に重要な機能を有している。イオンチャネルを標的として、当該イオンチャネルに作用する作用剤や阻害剤を探索することで、有用な薬剤を提供することが期待されている。こうしたイオンチャネル、例えば、電位依存性イオンチャネルを標的とする薬剤のスクリーニング系の評価手法として、細胞における膜電位の変化を電位感受性蛍光色素で検出する蛍光膜電位測定法が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、本発明者らは、膜電位を検出する方法を改良した新たなスクリーニング系を開発している(特許文献2)。このスクリーニング系は、Na+イオンチャネル(以下、単にNaイオンチャネルという。)とK+イオンチャネル(以下、単にKイオンチャネルという。)を導入することにより、通常の状態では生存するが一旦細胞の脱分極が惹起されると細胞死が誘導される細胞死誘導系を備えるように構築した形質転換体(スクリーニング材料)を用いる。かかるスクリーニング材料によるスクリーニングの一種として、脱分極刺激を用いた標的イオンチャネルへの阻害剤のスクリーニングがある。かかるスクリーニングは、例えば、上記スクリーニング材料にさらに標的イオンチャネルを導入し発現させた上で、被験化合物と脱分極を惹起する電気刺激とをスクリーニング材料に付与する。そして、このスクリーニング材料の細胞死が抑制されるとき、被験化合物は標的イオンチャネルに対する阻害剤候補といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-126073号公報
【文献】国際公開第WO2012/002460号
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献2によるスクリーニング方法であっても、上記のように、被験化合物の標的イオンチャネルに対するスクリーニングにおいて、細胞の脱分極を惹起するための電気刺激を付与するという操作を要する場合が主であった。電気刺激の付与には、汎用でない電気刺激装置が必要であり、また操作を煩雑にするものであった。すなわち、脱分極付与のための電気刺激操作は、時間及び労力を要するものであった。したがって、効率的な大規模スクリーニングや一次スクリーニングに好適なスクリーニング系の確立が要請されている。
【0006】
本明細書は、脱分極の惹起により細胞死が誘導される細胞死誘導系を備えるスクリーニング材料のスクリーニング効率を一層向上させるスクリーニング方法及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、細胞死誘導系を備えるスクリーニング材料を用いるスクリーニング系において、脱分極の惹起に関連する要素の1つであるKイオンチャネル、特に内向き整流性Kイオンチャネルに着目した。かかるKイオンチャネルは、従来、細胞死誘導系を備えるスクリーニング材料では、静止膜電位を負の方向に深くして、脱分極による活動電位の持続時間を延長する電位依存性Naイオンチャネルの細胞死に向けた作用を通常状態で抑制して細胞としての生存を確保している。
【0008】
本発明者らは、このKイオンチャネルに対して特異的な阻害作用を示す阻害剤を供給することで脱分極を惹起し細胞死を誘導できることを見出した。さらに、本発明者らは、Kイオンチャネルに対する阻害剤の存在下でも、スクリーニング材料の静止膜電位を負の方向へ導くイオンチャネルを標的イオンチャネルとして発現させること、あるいは、活動電位の持続時間の短縮に寄与するイオンチャネルを標的イオンチャネルとして発現させることで、過分極状態を維持し脱分極を惹起しない定常状態では細胞死を抑制できることを見出した。さらに、本発明者らは、かかるスクリーニング材料の標的イオンチャネルに対する作用剤又は阻害剤を供給するなどして標的イオンチャネルの状態が変化すると、細胞内イオン環境が変化して、過分極の維持又は脱分極の惹起が生じて、こうした結果を、細胞生存又は細胞死としてそれぞれ検出できることを見出した。本明細書は、こうした知見に基づき以下の手段を提供する。
【0009】
(1) 標的イオンチャネルに対する作用剤又は阻害剤のスクリーニング材料であって、
脱分極に伴う活動電位の持続時間を延長する電位依存性Naイオンチャネルと、
静止膜電位を負方向に深くするKイオンチャネルと、
静止膜電位を負方向に深くすること及び/又は脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮することに寄与するイオンチャネルである標的イオンチャネルと、
を備える細胞を含み、
前記Naイオンチャネルと前記Kイオンチャネルと前記標的イオンチャネルとが、前記Kイオンチャネルに対する阻害剤の存在下で脱分極の惹起により細胞死が誘導される細胞死誘導系を構築している、スクリーニング材料。
(2) 前記標的イオンチャネルは、前記細胞死誘導系によって誘導される細胞死に抑制的に作用する、(1)に記載のスクリーニング材料。
(3) 前記Kイオンチャネルに対する選択的阻害剤を用いる、(1)又は(2)に記載のスクリーニング材料。
(4) 前記標的イオンチャネルは、前記Kイオンチャネルの阻害剤に対する感受性が、前記Kイオンチャネルよりも低い、(3)に記載のスクリーニング材料。
(5) 前記標的イオンチャネルは、静止膜電位を負方向に深くすることに寄与するイオンチャネルであって、前記Kイオンチャネルとは異なる他のKイオンチャネルである、(1)~(4)のいずれかに記載のスクリーニング材料。
(6) 前記他のKイオンチャネルは、K2Pチャネルである、(5)に記載のスクリーニング材料。
(7) 前記標的イオンチャネルは、脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮することに寄与するイオンチャネルである、(1)~(6)のいずれかに記載のスクリーニング材料。
(8) 標的イオンチャネルに対する作用剤又は阻害剤をスクリーニングする方法であって、
脱分極に伴う活動電位の持続時間を延長する電位依存性Naイオンチャネルと、
静止膜電位を負方向に深くするKイオンチャネルと、静止膜電位を負方向に深くすること及び/又は脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮することに寄与するイオンチャネルである標的イオンチャネルと、を備える細胞であって、前記Naイオンチャネルと前記Kイオンチャネルと前記標的イオンチャネルとが、前記Kイオンチャネルに対する阻害剤の存在下で脱分極の惹起により細胞死が誘導される細胞死誘導系を構築している細胞を用い、
前記細胞に対して、前記阻害剤を供給する工程と、
前記細胞に対して、前記標的イオンチャネルを阻害する又は活性化する可能性のある被験化合物を供給する工程と、
前記被験化合物の供給による前記細胞の細胞死への影響を評価する工程と、
を備える、方法。
(9) 標的イオンチャネルに対する作用剤又は阻害剤をスクリーニングするためのキットであって、
脱分極に伴う活動電位の持続時間を延長する電位依存性Naイオンチャネルと、静止膜電位を負方向に深くするKイオンチャネルと、静止膜電位を負方向に深くすること及び/又は脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮することに寄与するイオンチャネルである標的イオンチャネルと、を備える細胞であって、前記Naイオンチャネルと前記Kイオンチャネルと前記標的イオンチャネルとが、前記Kイオンチャネルに対する阻害剤の存在下で脱分極の惹起により細胞死が誘導される細胞死誘導系を構築している細胞と、
前記阻害剤と、
を備える、キット。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本明細書に開示されるスクリーニング材料の概要を示す図である。
【
図2】本明細書に開示されるスクリーニング技術による標的イオンチャネル、例えば、4回膜貫通型及び2ポア型Kイオンチャネル(K2Pチャネル)に対する開口薬(作用剤)及び閉口薬(阻害剤)の作用を示す図である。
【
図3】各種疾患と関連するK2Pチャネルを示す図である。なお、斜字で示すイオンチャネルは阻害剤(閉口薬)が治療に有効な薬剤となるイオンチャネルを示し、斜字でないイオンチャネルは、作用剤(開口薬)が治療に有効な薬剤となるイオンチャネルを示す。
【
図4】K2Pチャネル非発現細胞に対するBa
2+イオン(以下、単にBaイオンという。)の作用の評価結果を示す図である。
【
図5】Baイオン感受性の高いKイオンチャネル変異体の作製例を示す図である。
【
図6】TREK-1(K2Pチャネルの一種である。)発現細胞における、Baイオン存在下でのTREK-1阻害薬による細胞死及びTREK-1の温度感受性を示す図である。
【
図7】TASK-1又はTASK-3(ともにK2Pチャネルの一種である。)発現細胞における、TASK-1及びTASK-3の阻害薬であるPK-THPP及びML365の用量作用曲線を示す図である。
【
図8】TASK-3(K2Pチャネルの一種である。)発現細胞におけるBaイオン誘発性の細胞死の抑制を示す図である。
【
図9】SK2及びSK4発現細胞におけるSKチャネル対する活性化剤(DCEBIO、NS309)及び阻害薬の作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書は、イオンチャネルを標的とするスクリーニング系に関する。具体的には、イオンチャネル(膜輸送タンパク質)に作用する化合物をスクリーニングするために用いることができる細胞を含むスクリーニング材料及び当該材料を利用したスクリーニング方法、並びにスクリーニング用キット等に関する。
【0012】
標的イオンチャネルに対する薬剤による細胞死を指標とするスクリーニングには、脱分極が惹起されない定常状態では生存しているが、脱分極が惹起されると細胞死に至るシステムの構築が必要である。本発明者らは、本発明者らがこれまでに開発した細胞死誘導系を備える細胞、すなわち、脱分極の惹起により発生する活動電位の持続時間が延長されているが、脱分極が惹起されない状態では膜電位を負の方向に深くすることによって生存している細胞においては、脱分極の惹起のために電気刺激を要していた。
【0013】
今回、本発明者らは、当該細胞の有する細胞死誘導系を脱分極が惹起できる系としても利用できることを初めて見出した。換言すると、本発明者らは、従来の細胞死誘導系自身に、電気刺激によらないで脱分極及び細胞死を制御できる仕組みを内在させることが可能であることを見出した。さらに、本発明者らは、標的イオンチャネルとして、電気刺激によらない脱分極を抑制できるようなイオンチャネルを用いることで、この種の標的イオンチャネル(以下、抑制的標的イオンチャネルともいう。)に対する被験化合物の作用を簡易に評価できる新たな細胞死誘導系(評価系)を構築できることを見出したことに基づいている。
図1に、本スクリーニング材料の概要を示す。
【0014】
図1には、本スクリーニング材料における、脱分極が惹起されない定常状態では生存しているが、脱分極が惹起されると細胞死に至るシステムを示す。
図1に示すように、本スクリーニング材料は、脱分極に伴って発生する活動電位の持続時間を延長するNaイオンチャネルと、静止膜電位を深くするKイオンチャネルと、を備えている。また、本スクリーニング材料は、静止膜電位を負方向に深くすること及び/又は脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮することに寄与するイオンチャネルである標的イオンチャネルを備えている。これらのNaイオンチャネルとKイオンチャネルと抑制的標的イオンチャネルとは、Kイオンチャネルに対する阻害剤の存在下で脱分極の惹起により細胞死が誘導される細胞死誘導系、換言すれば、Kイオンチャネルに対する阻害剤存在下での抑制的標的イオンチャネルに対する作用の評価系を構築している。
【0015】
図1においては、例えば、NaイオンチャネルとしてNav1.5 IFM/QQQを用いており、KイオンチャネルとしてKir2を用いており、また、抑制的標的イオンチャネルとしてK2Pイオンチャネルを用いている。
【0016】
このスクリーニング材料において、Kイオンチャネルを阻害する薬剤、例えばBaイオンが、Kイオンチャネルに作用することで、Kイオンチャネルの静止膜電位を深くする方向の作用が抑制されて脱分極が惹起されやすくなり、スクリーニング材料は細胞死に至る傾向が強くなる。一方、こうした阻害剤による脱分極に対して本来的に抑制するように作用する抑制的標的イオンチャネルが発現していることで、阻害剤による脱分極が抑制されて、スクリーニング材料の細胞死傾向が抑制される。その結果、細胞は生存可能となる。ここで、スクリーニング材料に抑制的標的イオンチャネルの作用を阻害する薬剤、例えば、阻害剤(閉口薬)が供給されると、抑制的標的イオンチャネルによる細胞死の抑制傾向が阻害されることになり、スクリーニング材料の細胞死傾向が強まり、細胞死が誘導される。また、標的イオンチャネルの作用を促進する薬剤、例えば作用剤(開口薬)が供給されると、抑制的標的イオンチャネルの細胞死の抑制傾向は維持されるか又は促進されるため、スクリーニング材料において細胞死は誘導されない。
【0017】
図2には、NaイオンチャネルとKイオンチャネルと抑制的標的イオンチャネルとを備える本スクリーニング材料と、NaイオンチャネルとKイオンチャネルとを備える細胞とを対比して、抑制的標的イオンチャネル、例えばK2Pチャネルに対する開口薬(作用剤)と閉口薬(阻害剤)の作用を示す。
【0018】
図2に示すように、抑制的標的イオンチャネルを備えない細胞では、Kイオンチャネルに対する阻害剤を供給すると、脱分極に抑制的に制御するイオンチャネルが存在しないか又はその活性が低いため、細胞膜の静止膜電位はもはや維持されずに脱分極が惹起され、それにより細胞死が誘導される。
【0019】
一方、Kイオンチャネルに対する阻害剤の存在下、抑制的標的イオンチャネルを備える細胞である本スクリーニング材料に、抑制的標的イオンチャネルに対する開口薬(作用剤)を供給すると、抑制的標的イオンチャネルの活性化によって、細胞膜の静止膜電位は維持されるか又は過分極方向に変化するため、脱分極は惹起されず細胞死は誘導されないで細胞は生存する。これに対して、抑制的標的イオンチャネルに対する閉口薬(阻害剤)を供給すると、抑制的標的イオンチャネルによる細胞死の抑制傾向が阻害されることにより、スクリーニング材料の細胞死傾向が強まり、細胞死が誘導される。
【0020】
すなわち、
図2に示すスクリーニング材料では、静止膜電位が維持されるか否か又はその程度によって、最終的に細胞の生存/細胞死という細胞の運命が決定される。
【0021】
このように、本明細書に開示される本スクリーニング材料は、細胞死誘導系を構成するNaイオンチャネル及びKイオンチャネルのほかに、この誘導系における脱分極に対して抑制的に作用する標的イオンチャネルを備えることで、Kイオンチャネルに対する阻害剤の細胞への供給による脱分極の惹起を利用して、抑制的標的イオンチャネルに対する薬剤の作用を評価し、阻害剤や作用剤をスクリーニングすることができる。
【0022】
なお、上記説明では、抑制的標的イオンチャネルとして、静止膜電位を負方向に深くするイオンチャネルについて説明したが、抑制的標的イオンチャネルとしては、脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮するイオンチャネルも包含する。すなわち、スクリーニング材料は、脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮するイオンチャネルを抑制的標的イオンチャネルとして備えることもできる。なお、静止膜電位を負方向に深くするイオンチャネルは、同時に脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮するイオンチャネルでもある。脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮するイオンチャネルを抑制的標的イオンチャネルとして備えるスクリーニング材料に、抑制的標的イオンチャネルに対する開口薬(作用剤)を供給しても、活動電位の持続時間の短縮が維持されるため細胞死は誘導されないで細胞は生存する。一方、抑制的標的イオンチャネルに対する閉口薬(阻害剤)を供給すると、もはや抑制的標的イオンチャネルによる活動電位の持続時間の短縮は維持されず持続時間は保持又は延長され、細胞死が誘導される。
【0023】
すなわち、こうしたスクリーニング材料によれば、活動電位の持続時間が短縮されるか否か又はその程度によって、最終的に細胞の生存/細胞死という細胞の運命が決定される。
【0024】
また、本明細書に開示されるスクリーニング材料によれば、Kイオンチャネルに対する阻害剤の濃度によって、スクリーニング材料の細胞死率を調整できる。このため、例えば、50%の細胞が死滅する阻害率で阻害剤を存在させて、被験化合物をスクリーニング材料に供給することで、被験化合物の標的イオンチャネルに対する開口薬(作用剤)か閉口薬(阻害剤)かの双方の評価を定性的にも定量的にも評価することができる。
【0025】
本明細書の開示のスクリーニング材料によれば、標的イオンチャネルに対する作用を、当該標的イオンチャネルを含めて構築された、Kイオンチャネル阻害剤を用いる評価系を備えることで、効率的なスクリーニングが可能となっている。
【0026】
以下、本開示の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本開示の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された「イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニング材料及びその利用」を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0027】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0028】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0029】
なお、本明細書において、イオンチャネルに対する作用剤とは、意図するイオンチャネルの本来的な機能を維持又は促進する薬剤(化合物やタンパク質など)をいう。また、イオンチャネルに対する阻害剤とは、意図するイオンチャネルの本来的な機能を少なくとも部分的に阻害する薬剤(化合物や生物由来製剤など)をいう。
【0030】
(スクリーニング材料)
本スクリーニング材料は、脱分極に伴う活動電位の持続時間を延長する電位依存性Naイオンチャネルを備えている。また、本スクリーニング材料は、静止膜電位を負方向に深くするKイオンチャネルを備えている。さらに、本スクリーニングは、静止膜電位を負方向に深くすること及び/又は脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮することに寄与するイオンチャネルである標的イオンチャネルを備えている。
【0031】
本スクリーニング材料の細胞は、イオンチャネルのスクリーニング用として用いることができるものであれば特に限定しないで、各種の動植物細胞を用いることができる。動物細胞としては、哺乳動物や昆虫など特にその種類は限定されない。細胞が、ヒトのほか、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、トリ、イヌ、ネコ、ウサギ等の細胞の場合には、これらの動物における疾患の予防又は治療のための薬剤のスクリーニング材料を取得できる。また、昆虫細胞を宿主とする場合には、昆虫を対象とする駆除薬等のスクリーニング材料を取得できる。また、細胞を植物細胞とするときは、農薬等のスクリーニング材料を取得できる。動物細胞としては、典型的には、ヒト胎児腎由来細胞(HEK細胞)、アフリカミドリザル腎由来細胞(COS細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、ベビーハムスター腎細胞(BHK細胞)及びアフリカツメガエル卵母細胞が用いられる。また、各種組織由来培養細胞を用いることもできる。
【0032】
(Naイオンチャネル)
本スクリーニング材料が備えるNaイオンチャネルは、脱分極に伴う活動電位の持続時間を延長する電位依存性Naイオンチャネルである。かかるNaイオンチャネルは、換言すれば、不活性化を抑制されたNaイオンチャネルということもできる。
【0033】
ここで電位依存性Naイオンチャネルとは、細胞膜の膜電位に依存して開口してNaイオンの受動拡散を媒介する細胞膜上のタンパク質である。本明細書において用いる電位依存性Naイオンチャネルは、特に限定しないで公知の各種電位依存性Naイオンチャネルを用いることができるが、好ましくは、Nav1.5チャネルである。Nav1.5チャネルは、心筋細胞などに分布しており、活動電位の発生と興奮伝導に関与していると考えられている。
【0034】
電位依存性Naイオンチャネルは、膜電位に依存してゲートが開きNaイオン透過性を発揮した後、不活性化機構が働いてNaイオン透過性を失う(不活性化)。これに対して、不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルは、こうした不活性化機構を抑制(消失)させたものである。すなわち、不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルは、膜電位に依存してゲートが開きイオン透過性を発揮した後、こうした不活性化が生じないNaイオンチャネルを意味している。不活性化を抑制された電位依存性Naイオンチャネルでは、細胞膜において脱分極が惹起されて当該イオンチャネル自身が活性化されるとイオンチャネルを開口してNaイオンの受動拡散を媒介しうる状態をとるが、イオンチャネル自身の不活性化が抑制されているため、イオンチャネルの開口した状態が維持される。この結果、不活性化が抑制された電位依存性Naイオンチャネルでは、刺激を受けて活動電位が一旦発生すると、イオンチャネルの不活性化が遅延されるため、活動電位が本来の電位依存性Naイオンチャネルより長く継続する。
【0035】
また、不活性が抑制されたNaイオンチャネルは、定常的若しくは比較的に深い静止膜電位でも活性化されやすくなっている(いわゆるウィンドウ電流が大きくなっている)。従ってかかるNaイオンチャネルを発現した細胞では、充分に深い負電位に静止膜電位を保持した場合にのみ、過剰なNaイオンの流入を防ぐことができる。かかる電位依存性Naイオンチャネルを充分に発現した細胞においては、脱分極により容易にNaイオンチャネル活性が増大し、1分以上、好ましくは2分以上、より好ましくは3分以上、さらに好ましくは5分以上程度、活動電位あるいは脱分極が維持される。このため細胞内への過剰なNa流入が生じて細胞を死に至らしめる。
【0036】
かかる不活性化の抑制は、電位依存性Naイオンチャネルのアミノ酸配列に対してアミノ酸変異を導入することによって適宜実現することができる。Nav1.5チャネルの不活性化を抑制するには、いくつかの具体的な手法が開示されている。たとえば、IFMモチーフを改変すること(Grant et al., Biophys. J., 79: 3019-3035, 2000)、406番目のアスパラギンをグルタミン酸やアルギニン、リシンに変異させること(McNulty et al., Mol. Pharmacol., 70: 1514-1523, 2006)、ドメインIII-IVをつなぐIFM部分を含むリンカー部位を欠損させること(Patton et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A , 89: 10905-10909, 1992、West et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89,: 10910 - 10914, 1992)、ドメインIVのセグメント4のアミノ酸を変異させること(Chen et al., J. Gen. Physiol., 108: 549-556, 1996)などが報告されている。アミノ酸配列に対する変異導入は、当業者であればこれらの文献や周知技術に基づいて適宜実施することができる。
【0037】
本スクリーニング材料は、こうしたNaイオンチャネル(天然タンパク質又は変異体タンパク質)をコードするDNA(以下、第1のDNAともいう。)を保持して発現していることが好ましい。本スクリーニング材料は、当該変異体、すなわち、不活性化が抑制された電位依存性Naイオンチャネルを定常的にあるいは一過性的に発現するものであってもよい。すなわち当該DNAは染色体上に組み込まれて娘細胞に伝達されるようになっていてもよいし、染色体外で自律的に増幅するが娘細胞には必ずしも伝達されないプラスミドに組み込まれていてもよい。DNAは、好ましくは、恒常的に作動するプロモーター(構成的プロモーター)の制御下に連結されている。このようなスクリーニング材料は、当業者であれば、周知の遺伝子工学技術及び形質転換体の作製技術に基づいて、DNAを含む発現ベクター等を構築し、これをスクリーニング材料の宿主に導入し形質転換することで、定常発現もしくは一過性発現細胞を適宜取得することができる。
【0038】
また、Naイオンチャネルの発現量は、第1のDNAを制御するプロモーターなどの制御領域の種類や、導入する第1のDNAを含む発現カセット数や、遺伝子導入後の細胞培養条件などを制御することで調整することができる。
【0039】
なお、電位依存性Naイオンチャネルが2以上のサブユニットからなる場合であって、不活性化のために有効な変異を含むサブユニットが全体の一部であるとき、当該一部のサブユニットのみをそれぞれコードするDNAを1又は2以上のDNAとしてスクリーニング材料に発現させることもできるし、当該Naイオンチャネルを構成する他のサブユニットも同時に共発現させるように、これらのサブユニットをコードするDNAをDNAとしてそれぞれ発現可能に保持させるようにしてもよい。さらに、発現される不活性化が抑制された電位依存性Naイオンチャネルを、より効果的に機能させるために必要な酵素や他のタンパク質、化合物などがあれば、これらの物質を適宜発現または供給するようにしてもよい。
【0040】
(静止膜電位を負方向に深くするKイオンチャネル)
本スクリーニング材料が備えるKイオンチャネルは、静止膜電位が負の方向に深くなるように、換言すれば、より負の電位が大きくなるような機能(活性)を有するイオンチャネルである。すなわち、かかるKイオンチャネルによれば、その発現や活性によるKイオン透過性の亢進により深い静止膜電位を形成することができる。上記したNaイオンチャネルを備えると、細胞内外におけるNaイオンの濃度差により、Naイオンが細胞内に過剰に流入する状態となり、最終的には細胞内のNaイオン濃度が高まり細胞は死んでしまう。細胞をスクリーニング材料として用いるには、かかる細胞死誘導系が誘導されるまでは細胞が生存している必要がある。そこで、静止膜電位を深く(低く)するために、静止膜電位が負の方向に深くするKイオンチャネルを用いる。
【0041】
細胞の生存に影響しない範囲で静止膜電位は、負の方向に深いほど好ましい。膜電位は、好ましくは、-50mV、より好ましくは-60mV、さらに好ましくは-70mV程度、一層好ましくは-80mV程度とすることが適している。
【0042】
こうしたKイオンチャネルとしては、たとえば、内向き整流性Kイオンチャネル(Kirチャネル)、4回膜貫通型及び2ポア型Kイオンチャネル(K2Pチャネル)などが活性化している状態が挙げられる。4回膜貫通型及び2ポア型のKイオンチャネル(K2Pチャネル)は性質が異なる様々な種類が存在し、TWIK、TREK、TASK、TALK、THIK、TRESKなどに分類される。これらのイオンチャネルは電位及び時間依存性が殆どないことからリークチャネルとして機能している。漏洩チャネルの性質上、これらのKイオンチャネルは、細胞の静止膜電位の維持(固定)に働いている。
【0043】
内向き整流性Kイオンチャネルは、特に限定しないが、例えば、Kir2.1、2.2、2.3及び2.4などの各種Kir2xチャネルが挙げられる。Kir2.1は、2回膜貫通型構造を持つ内向き整流性Kイオンチャネル(Kirチャネル)である。電位依存性を持たず、膜電位をKイオンの平衡電位である-80mV付近に近づける性質を持つ。神経や心臓、骨格筋などに発現しており、静止膜電位の形成やその安定化及び維持を行なっている。Kir2.2は、Kir2.1と同様の内向き整流性Kイオンチャネル(Kirチャネル)であるがKir2.1よりも内向き整流性が強い。心臓や脳、骨格筋などにKir2.1とともに発現しており、ヒトの血管内皮細胞においては内向き整流性Kイオンチャネル(Kirチャネル)活性の中で主要な働きをしている。また、Kir2.2は、後述するように、例えば、Baイオンなどによって特異的に阻害される点において本スクリーニング材料に好適である。
【0044】
Kir.2.xイオンチャネルについては、Circ. Res. 94:1332-1339 (2004)及びAm. J. Physiol. Cell Physiol. 289:C1134-C1144 (2005)等に記載されている。例えば、ヒト由来のKir2.xチャネルをコードする遺伝子の塩基配列は、Kir2.1(GenBank accession No. U12507, NM#000891(Human KCNJ2))、Kir2.2(GenBank accession No. AB074970, NM#021012(Human KCNJ12))、Kir2.3(GenBank accession No. U07364, U24056, NM#152868(Human KCNJ4))、Kir2.4(GenBank accession No. AF081466, NM#013348(Human KCNJ14))等が挙げられる。
【0045】
同様に、G蛋白制御内向き整流性Kイオンチャネル(GIRKチャネル,Kir)が挙げられる。GIRKチャネル(Kir3)は、内向き整流性Kイオンチャネル(Kirチャネル)であるが、Kir2と異なりGタンパク質によって活性化されるKイオンチャネルである。これらのサブユニットには組織特異性があり心臓ではKir3.1/Kir3.4、中枢神経ではKir3.1/Kir3.2で構成する異種四量体を形成している。通常時には活性化せず、アゴニスト刺激により活性化する。しかし、イオンチャネルポアを形成する膜貫通ヘリックスのアミノ酸を変異させることで、常時イオンチャネルが開いたままになることがアフリカツメガエル卵母細胞の実験で報告されている(Claydon et. al., J. Biol. Chem. 278: 50654-50663,2003)。このことからこの変異体を利用することでKir2.1と同様に深い静止膜電位を形成できると考えられる。例えば、ヒト由来のKir3.xチャネルをコードする塩基配列は、Kir3.1 (GenBank accession No. NM#002239(Human KCNJ3))、Kir3.2 (GenBank accession No.NM#002240(Human KCNJ6))、Kir3.3(GenBank accession No. NM#004983(Human KCNJ9))、Kir3.4 (GenBank accession No.NM#000890(Human KCNJ5))が挙げられる。
【0046】
さらに、ATP感受性内向き整流性Kイオンチャネル(KATPチャネル、Kir6)が挙げられる。KATPチャネルはATPで抑制され、ADPで活性化される内向き整流性Kイオンチャネル(Kirチャネル)である。KATPチャネルは細胞の代謝状態に応じて細胞の興奮性を制御している。KATPチャネルは4個のKATPチャネルと4個のスルフォニルウレア受容体(SUR)から構成される異種8量体である。KATPチャネルのみでは機能をもたないがKATPチャネルのC末端を欠損させることでKATPチャネルのみで機能をもつようになることが報告されている(Tucker et. al., EMBO J. EMBO J 17: 3290-3296, 1998)。また、この欠損体にさらに変異をかけることでATP感受性を下げ、常時活性化させることができる。この変異体を用いることでも深い静止膜電位を形成できる。ヒト由来のKir6.xチャネルをコードする塩基配列は、Kir6.1(GenBank accession No. NM#004982(Human KCNJ8))、Kir6.2(GenBank accession No. NM001166290(Human KCNJ11))が挙げられる。
【0047】
また、4回膜貫通型及び2ポア型Kイオンチャネル(K2Pチャネル)としては、例えば、THIKチャネル(HEK293細胞に発現させると膜電位が深くなること;Campanucci et al., Neuroscience, 135: 1087-1094, 2005)、TASK-2チャネル(アフリカツメガエル卵母細胞に発現させると静止膜電位が深くなること;Kindler et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 306: 84-92, 2003.)、電位依存性Kチャネル(平滑筋組織で電位依存性Kチャネルが静止膜電位を深くすること;McDaniel et al., J. Appl. Physiol. (1985) 91: 2322-2333, 2001)などが知られている。
【0048】
4回膜貫通型及び2ポア型Kイオンチャネル(K2Pチャネル)は、TWIK、TREK、TASK、TALK、THIK及びTRESKの各サブファミリーに分類される。TWIKサブファミリーは、TWIK-1、TWIK-2チャネルを含んでいる(Lotshaw, Cell Biochem. Biophys. 47: 209-256, 2007)。TWIKチャネルは、ヒトでは多くの組織に存在している。例えば、ヒト由来のTWIKイオンチャネルは、TWIK-1(GenBank accession No.NM#002245(KCNK1))及びTWIK-2(GenBank accession No.NM#004823(KCNK6))が挙げられる。
【0049】
TREKサブファミリーは、TREK-1、TREK-2及びTRAAKチャネルを含んでいる。例えば、ヒト由来のTREKイオンチャネルは、TREK-1(GenBank accession No. NM#014217(KCNK2))、TREK-2(GenBank accession No. NM#138317(KCNK10))及びTRAAK(GenBank accession No. NM#033310(KCNK4))が挙げられる。
【0050】
TASKサブファミリーは、TASK-1、TASK-3及びTASK-5チャネルを含んでいる。例えば、ヒト由来のTASKイオンチャネルは、TASK-1(GenBank accession No. NM#002246(KCNK3))、TASK-3(GenBank accession No. NM#016601(KCNK9))及びTASK-5(GenBank accession No. NM#022358(KCNK15))が挙げられる。
【0051】
TALKサブファミリーは、TALK-1、TALK-2及びTASK-2チャネルを含んでいる。例えば、ヒト由来のTALKイオンチャネルは、TALK-1(GenBank accession No. NM#001135106(KCNK16))、TALK-2(GenBank accession No. NM#001135111(KCNK17))及びTASK-2(GenBank accession No. NM#003740(KCNK5))が挙げられる。
【0052】
THIKサブファミリーは、THIK-1、THIK-2チャネルを含んでいる。例えば、ヒト由来のTHIKイオンチャネルは、THIK-1(GenBank accession No. NM#022054(KCNK13))、THIK-2(GenBank accession No. NM#022055(KCNK12))が挙げられる。
【0053】
TRESKサブファミリーは、TRESK(GenBank accession No. NM#181840(KCNK18))が挙げられる。
【0054】
Kイオンチャネルは、こうした各種の天然のKイオンチャネルのほか、これらを改変したKイオンチャネル変異体を用いることもできる。本スクリーニング材料は、Kイオンチャネルに対する阻害剤の存在下で使用することが好適である。当該阻害剤は、Kイオンチャネルをできるだけ高い選択性で、できるだけ高い感度で(低濃度で)阻害できることが好ましい。したがって、阻害剤に対するより好適な選択性や感受性をKイオンチャネルに付与するため、Kイオンチャネルに適宜改変を加えることもできる。
【0055】
例えば、
図5に示すように、Kir2.2のアミノ酸配列を、Kir2.1のアミノ酸配列とアライメントしたとき、Kir2.2のアミノ酸配列においてKir2.1のE125に対応するQ(グルタミン)をE(グルタミン酸)、アルパラギン酸(D)などの酸性アミノ酸残基に置換することで好適なBaイオン感受性が得られると考えられる。なお、Kirチャネルタンパク質については、膜貫通領域やポア領域など種々の領域が既に特定されている(Scharm et al., Cardiovasc. Res. 59: 328-338, 2003等)。また、Kir2.1のE125は、BaイオンとKirチャネルとの相互作用を補助していることも既に知られている(Alagem et al., J. Physiol. 534: 381-393, 2001)。
【0056】
なお、公知のタンパク質について、意図した機能を付与又は削除、増強又は減弱等するために改変する技術は当業者において公知である。目的のタンパク質について、特に、イオンチャネルなどに関しては膜貫通領域やポア領域などよく研究されていることから、タンパク質のアミノ酸配列のアラインメントを利用して、適切な改変可能部位をある程度特定することは当業者における日常的な作業である。そして、改変可能部位についてのアライメント情報に基づいて可能性あるアミノ酸残基の置換を検討して変異体を取得し、当該変異体の機能を評価することも当業者の日常的な作業である。
【0057】
本スクリーニング材料においては、こうしたKイオンチャネルによって静止膜電位を深くする目的で、1又は2以上適宜組み合わせて用いることができる。
【0058】
本スクリーニング材料は、Naイオンチャネルと同様に、こうしたKイオンチャネル(天然タンパク質又は変異体タンパク質)をコードするDNA(以下、第2のDNAともいう。)を保持して発現していることが好ましい。本スクリーニング材料は、天然体又は当該変異体であるKイオンチャネルを定常的にあるいは一過性的に発現するものであってもよい。すなわち当該DNAは染色体上に組み込まれて娘細胞に伝達されるようになっていてもよいし、染色体外で自律的に増幅するが娘細胞には必ずしも伝達されないプラスミドに組み込まれていてもよい。また、第1のDNAと同様、第2のDNAは、好ましくは、恒常的に作動するプロモーター(構成的プロモーター)の制御下に連結されている。さらに、Kイオンチャネルが2以上の異なるサブユニットからなる場合には、Naイオンチャネルにおけるのと同様の態様が適用される。また、Kイオンチャネルの発現量も、第1のDNAの場合と同様に調整することができる。
【0059】
本スクリーニング材料は、上記Naイオンチャネルを及び上記Kイオンチャネルを、それぞれ、細胞膜上等に備えることで、不活性化の抑制された変異型電位依存性Naイオンチャネルを有していても、脱分極が惹起されるまでは、Naイオンの細胞内流入による細胞死が回避された細胞となっている。すなわち、細胞死誘導系を備えているが、脱分極の惹起を待って作動する細胞死誘導系が待機した状態となっている。
【0060】
(抑制的標的イオンチャネル)
本スクリーニング材料が備えることができる抑制的標的イオンチャネルは、静止膜電位を負方向に深くすること及び/又は脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮することに寄与するイオンチャネルである。抑制的標的イオンチャネルは、本スクリーニング材料が備える、Kイオンチャネルに対して阻害的に作用して、細胞死誘導系において脱分極を惹起して細胞死を誘導できる阻害剤(以下、Kイオンチャネル阻害剤ともいう。)による脱分極の惹起や細胞死誘導に抑制的に作用することができる。抑制的標的イオンチャネルは、当該阻害剤とは独立して当該阻害剤による作用、すなわち、脱分極の惹起やそれによる細胞死誘導を抑制することができる。こうしたイオンチャネルを選択することで、当該イオンチャネルに関する効率的な評価系を構築できる。
【0061】
(Kイオンチャネル阻害剤)
Kイオンチャネル阻害剤は、Kイオンチャネルの作用を阻害して、静止膜電位を負方向に深くすることを抑制する。こうした阻害剤は、例えば、Kイオンチャネルの種類によっても異なる。公知情報から、Kイオンチャネル阻害剤を取得できるほか、種々のKイオンチャネルを含む細胞死誘導系を備える細胞を準備して、この細胞に対して、可能性あるKイオンチャネル阻害剤を供給して脱分極の惹起や細胞死が誘導されるか否かを評価することで、取得することができる。
【0062】
例えば、Kir2.xに対する阻害薬としては、Baイオンが公知である。Baイオンに対する、本評価系の他の要素、例えば、NaイオンチャネルであるNav1.5や当該変異体、又は後述する標的イオンチャネルとしてのK2Pチャネルの感受性が低いことが好ましい。より具体的には、細胞死誘導系のKイオンチャネル以外の他のイオンチャネルの50%阻害濃度が、細胞死誘導系のKイオンチャネルの50%阻害濃度よりも、好ましくは5倍以上、より好ましくは7倍以上、さらに好ましくは10倍以上、なお好ましくは15倍以上、一層好ましくは20倍以上高いことが好ましい。このような選択阻害性を有することで、高い感度で抑制的標的イオンチャネルに対する被験化合物の作用を検出し評価できる。なお、こうした阻害濃度等も、本明細書に開示される細胞死誘導系を備える細胞を用いて測定することができる。
【0063】
抑制的標的イオンチャネルは、細胞死誘導系におけるKイオンチャネル阻害剤の存在下で、当該阻害剤による細胞死の誘導を抑制することができるイオンチャネルを選択する。選択するための指標は、Kイオンチャネル阻害剤による50%阻害濃度が、例えば、上記Kイオンチャネル(以下、第1のKイオンチャネルともいう。)よりも十分に高いこと、第1のKイオンチャネルに対する阻害剤の作用を抑制できる、が挙げられる。50%阻害濃度のほか、第1のKイオンチャネルに対する阻害剤の作用を抑制して細胞死を抑制できるか否かも既述の細胞死誘導系に種々の可能性ある標的イオンチャネルを発現させることで評価できる。
【0064】
抑制的標的イオンチャネルは、静止膜電位を負方向に深くすること及び/又は脱分極に伴う活動電位の持続時間を短縮することに寄与するイオンチャネルであればよく、各種公知のイオンチャネルから、細胞死誘導系におけるKイオンチャネルの種類やそれに対して用いる阻害剤に応じて、適宜選択される。
【0065】
抑制的標的イオンチャネルにおけるイオンの種類としては、Naイオン、Kイオン、Ca2+イオン(以下、単にCaイオンという。)、Cl-イオン(以下、単にClイオンという。)等が挙げられる。イオンチャネルには、その開閉の制御性により、電位依存性、リガンド依存性、機械刺激依存性、温度依存性、漏洩チャネル、リン酸化依存性等が挙げられる。本明細書の開示によれば、スクリーニング材料の生死で、抑制的標的イオンチャネルに対する作用(作動性と阻害性)を検出できるため、広くイオンチャネル全般を標的とすることができる。なお、本明細書において、イオンチャネルとは、電位依存性であるかリガンド依存性であるかなどその開閉の制御形式を問うものではない。また、イオンチャネルとしては、電位発生的なイオン輸送を行う細胞膜および核膜やその他の細胞内小器官膜などを含む生体膜の輸送体、イオン交換体(Na+-Ca2+交換体など)、イオンポンプ(Na+-K+ポンプなど)なども包含している。スクリーニング材料における標的イオンチャネルを選択することで、当該標的イオンチャネルが関連する疾患の予防又は治療のためのスクリーニング材料が提供されることになる。
【0066】
標的イオンチャネルとしては、まず、各種のイオンチャネル一体型薬物受容体が挙げられる。かかる受容体としては、ニコチン様アセチルコリン受容体、イオンチャネル型ATP受容体(P2X受容体)、イオンチャネル型グルタミン酸受容体、イオンチャネル型γ-アミノ酪酸(GABAA)受容体、イオンチャネル型グリシン受容体、3型セロトニン受容体などが挙げられる。また、各種のTRP(Transient Receptor Potential)チャネル(非選択性陽イオンチャネル)が挙げられる。また、OraiおよびSTIM分子などで構成されるストア作動性Caイオンチャネルが挙げられる。また、標的イオンチャネルとしては、各種の電位依存性イオンチャネルが挙げられる。例えば、全ての電位依存性Caイオンチャネル、全ての電位依存性Kイオンチャネル(hERGチャネルを含む)、全ての電位依存性Naイオンチャネル、全ての電位依存性Clイオンチャネルなどが挙げられる。なお、その他のリガンド依存性のCaイオンチャネル、Naイオンチャネル、プロトンイオンチャネル、カルシウム依存性(Caイオン活性化)Kイオン(KCa)チャネルなどのKイオンチャネル、Clイオンチャネルなどが挙げられる。さらに、電位、温度、pH、張力、浸透圧、容積、シグナル分子などの刺激を感受して開閉する全てのイオンチャネルが挙げられる。
【0067】
標的イオンチャネルとしては、なかでも、疾患や病態に関連深いとされている標的イオンチャネルが好ましい。例えば、Naイオンチャネルとしては、Nav1.1~1.3及び1.5~1.9が挙げられる。これらは、てんかん、神経因性疼痛、不整脈、疼痛などに関連しており、これらを治療又は予防する薬剤のスクリーニングが可能となる。また、Caイオンチャネルとしては、Cav1.1、1.2、1.3、1.4、2.1、2.2、2.3、3.1、3.2及び3.3が挙げられる。これらは、循環器疾患、アルツハイマー病、疼痛、てんかん、高血圧などに関連しており、これらを治療又は予防する薬剤のスクリーニングが可能となる。また、Kイオンチャネルとしては、Kv1.1~1.5、2.1、3.2、4.3、7.1~7.5、10.1、11.1(hERGを含む)、12.1~12.3、SKが挙げられる。これらは、多発性硬化症、自己免疫疾患、疼痛、心房細動、糖尿病、てんかん、神経痛、アルツハイマー病、尿失禁、不整脈、ガン等に関連しており、これらを予防又は治療する薬剤のスクリーニングが可能となる。また、Clイオンチャネルとしては、CLC-1、5、7、Ka及びKbは、筋硬直症、腎疾患、骨代謝疾患、高血圧などに関連しており、これを予防又は治療する薬剤のスクリーニングが可能となる。
【0068】
また、例えば、hERG Kイオンチャネルを標的イオンチャネルとすることが好ましい。このイオンチャネルは、6回膜貫通型構造を持ち4量体を形成する電位依存性Kイオンチャネルの1つである。他の電位依存性Kイオンチャネルとの違いとして内向き整流性を示すことが挙げられる。これはC型不活性化が非常に速く起こることに起因する。心臓における活動電位の第3相である再分極相で強く働いている。再分極相において膜電位を過分極させる働きを持つため不整脈と、また癌とも関わりが強いイオンチャネルとして知られている。hERG Kイオンチャネルを阻害すると致死性の高いQT延長症候群が誘発されるため、現在、全ての種類の薬剤の候補化合物において、心毒性としてのhERG Kイオンチャネル阻害作用による催不整脈作用の検討が求められる。このため、標的イオンチャネルをhERG Kイオンチャネルとするスクリーニング材料の有用性は高い。スクリーニング材料にhERG Kイオンチャネルを発現させた場合、例えば電気刺激により発生する活動電位が短縮されるため、細胞死が生じにくくなる。hERGKイオンチャネル阻害作用を有する、もしくは有することを疑われる化合物を加えることにより、その阻害程度に依存してスクリーニング材料の細胞死が生じ易くなるため、hERGKイオンチャネルに対する阻害効果が定量的に評価できる。hERGとしては、例えば、GenBank accession No.NM#000238が挙げられる。
【0069】
抑制的標的イオンチャネルとしては、既に説明した内向き整流性Kイオンチャネル(Kirチャネル)や静止膜電位を深くすること(固定すること)に寄与するKイオンチャネルやClイオンチャネルが好適である。Kイオンチャネルは、開口により、細胞を過分極方向に誘導し、閉口により、それを阻害するイオンチャネルである。Clイオンチャネルは、開口により、細胞を脱分極方向に誘導し、閉口により、それを阻害するイオンチャネルである。抑制的標的イオンチャネルとしてのKイオンチャネルを、阻害剤の作用対象であるKイオンチャネルと区別するために第2のイオンチャネルと称する。第2のイオンチャネルとしては、Kイオンチャネルでは、例えば、既述のK2Pチャネル、Kvチャネル、Kirチャネル等が挙げられる。また、Clイオンチャネルとしては、CLCチャネルなどが挙げられる。
【0070】
なかでも、4回膜貫通型及び2ポア型Kイオンチャネル(K2Pチャネル)が好適である。K2Pチャネルは、現在、抗疼痛薬、抗炎症薬、抗ガン薬などの創薬標的として有望視されている。K2Pチャネルとしては、
図3に示すように、現在17種類が知られている。
図3において、阻害剤(閉口薬)によって疾患に対する治療又は予防効果を期待できるものは斜字で、作用剤(開口薬)によって疾患に対する治療又は予防効果を期待できるものを通常の字体で示す。
【0071】
K2Pチャネルは、静止膜電位を形成するイオンチャネルであって、Baイオン感受性がKir2.xと比べて十分に低い(例えば、20倍以上、30倍以上等)ことが知られており、Baイオン感受性が低いことにおいても有利である。なかでも、
図3に提示する各種K2Pイオンチャネルが好適であり、Baイオン感受性の観点から、さらにTREK-1などのTREK系イオンチャネル、TASK-1、TASK-3などのTASK系イオンチャネル、TRAAKイオンチャネルが好適である。
【0072】
また、抑制的標的イオンチャネルとしては、K2PチャネルやKirチャネルのほか、Caイオン活性化Kイオン(KCa)チャネル、ATP依存性Kイオンチャネルなども好適である。これらも静止膜電位を深くする抑制的イオンチャネルであるからである。
【0073】
例えば、Caイオン活性化Kイオンチャネルには、大(Big)コンダクタンスCaイオン活性化カリウム(BK)チャネルと、小(Small)コンダクタンスCaイオン活性化カリウム(SK)チャネルと、これらの中間のコンダクタンスを有する中間(Intermediate)コンダクタンスCaイオン活性化カリウム(IK)チャネル等が挙げられる。SKチャネルとしては、例えば、SK1、SK2及びSK3チャネル等が挙げられる。SK2チャネルはsmallconductancecalciumactivatedpotassiumchanneltype2(SK2;KCNN2;KCa2.2)であり、IKチャネルは別名SK4(KCNN4;KCa3.1)である。SK1,SK2,SK3,IK(SK4)は遺伝子的に同類に属するカルシウム活性化カリウムチャネルであるが、IK(SK4)はSK1、SK2、SK3と比べ、カリウムイオン透過性(K+ conductance)が若干大きい。
【0074】
例えば、SK2、SK4はカルシウム活性化Kイオンチャネルの一種であり、K2Pチャネルとは異なるファミリーに属するKチャネルである。K2Pチャネル同様、スクリーニング材料に抑制的標的イオンチャネルとしてSKチャネルを発現させることで、SKチャネル作用薬の評価が可能となる。活性化剤(例えば、既知のDCEBIOやNS309)存在下で、細胞内Ca2+濃度を上昇させるためにCa2+イオノフォアのionomycinを供給することでSKチャネルが強く活性化される。このため、Ba2+添加によりスクリーニング材料のKir2.Xが抑制されても脱分極は惹起されず細胞死は誘導されない。これに対して、さらにSKチャネルに対する閉口薬(阻害剤)を加えて供給すると、細胞死の抑制が阻害されることにより、スクリーニング材料の細胞死が誘導される。この方法で活性化薬・阻害薬のどちらも評価できる。
【0075】
本スクリーニング材料は、このような抑制的標的イオンチャネルを機能的に備えていればよい。好ましくは、本スクリーニング材料は、抑制的標的イオンチャネルを特異的発現あるいは高発現している。より精度及び感度の良好なスクリーニングのためである。イオンチャネルは特定の細胞に分布していることが多いため、スクリーニング材料の親株として、予め標的とするイオンチャネルを高発現している細胞を選択することもできる。また、スクリーニング材料において標的イオンチャネルを発現させるには、スクリーニング材料が、当該標的イオンチャネルをコードするDNA(第3のDNA)を保持し、発現していることが好ましい。第3のDNAは、好ましくは、恒常的に作動するプロモーター(構成的プロモーター)の制御下に連結され、定常的に抑制的標的イオンチャネルが発現されるようになっている。抑制的標的イオンチャネルについても既述のとおり、当業者であれば、周知の遺伝子工学技術及び形質転換体の作製技術に基づいて、第3のDNAを含む発現ベクター等を構築し、これをスクリーニング材料の宿主に導入し形質転換することで、所望の定常発現もしくは一過性発現細胞を適宜取得することができる。また、抑制的標的イオンチャネルの発現量も、第1のDNAの場合と同様に調整することができる。
【0076】
本スクリーニング材料は、上記Naイオンチャネル、上記Kイオンチャネル及び上記抑制的標的イオンチャネルを備えることで、Kイオンチャネルに対する阻害剤存在下での細胞死誘導系(細胞死の誘導可能状態で待機する細胞の生存状態)を構築することができる。この細胞死誘導系は、それ自体、抑制的標的イオンチャネルに対する作用剤及び阻害剤の評価系を構成する。すなわち、Kイオンチャネルに対する阻害剤の存在によって、静止膜電位を負方向に深くすることが阻害されるが、抑制的標的イオンチャネルによって、脱分極の惹起が抑制された状態となっている。こうした状態から、抑制的標的イオンチャネルに対する被験化合物の阻害作用や促進作用を簡易に効率的に評価することができる。
【0077】
(スクリーニング方法)
本明細書に開示されるスクリーニング方法(以下、本スクリーニング方法ともいう。)は、標的イオンチャネルに対する作用剤及び阻害剤をスクリーニングする方法である。本スクリーニング方法は、本スクリーニング材料に対して、Kイオンチャネルの作用を阻害するようにKイオンチャネルの阻害剤を供給する工程と、本スクリーニング材料に対して、抑制的標的イオンチャネルを阻害する又は活性化する可能性のある被験化合物を供給する工程と、被験化合物の供給による本スクリーニング材料の細胞死への影響を評価する工程と、を備えることができる。本スクリーニング方法によれば、Kイオンチャネルの阻害剤を供給してKイオンチャネルを阻害することで、抑制的標的イオンチャネルに対する被験化合物の作用を簡易に評価することができる。例えば、電気刺激を用いなくてもスクリーニング材料の脱分極を惹起することができる。この結果、効率的なスクリーニングが可能となっている。
【0078】
また、Kイオンチャネル阻害剤によってKイオンチャネルによる作用を抑制する一方、Kイオンチャネル阻害剤による細胞死誘導作用を抑制する抑制的標的イオンチャネルによっても細胞死誘導系が制御されているため、Kイオンチャネル阻害剤の濃度を調節することで、意図する被験化合物の性質、すなわち、抑制的標的イオンチャネルに対する阻害剤か作用剤かによって、好適なスクリーニング環境を構築できる。例えば、細胞死率が50%よりも低くなるようにKイオンチャネル阻害剤を供給することで、抑制的標的イオンチャネルに対する阻害剤に好適なスクリーニング環境を構築できる。また、例えば、細胞死率が50%を超えるようにKイオンチャネル阻害剤を供給することで、抑制的標的イオンチャネルに対する作用剤に好適なスクリーニング環境を構築できる。
【0079】
さらに、例えば、細胞死率が50%近傍となるようにKイオンチャネル阻害剤を供給することで、抑制的標的イオンチャネルに対する被験化合物が阻害剤であっても作用剤であっても定性的にかつ定量的に評価することができる。
【0080】
例えば、細胞死率が50%近傍となる濃度のBaイオンをスクリーニング材料に供給した場合、K2Pチャネル開口薬が存在すれば、細胞死率の割合が50%近傍よりも減少し、すなわち生き残る細胞の割合は50%近傍よりも増加する。一方、K2Pチャネル閉口薬が存在すれば、細胞死の割合が50%近傍よりも増加する、すなわち生き残る細胞の割合は50%近傍よりも減少する。この手法により、スクリーニング材料の細胞死/細胞の生存、すなわち細胞の死亡率(又は生存率)によって、被験化合物の抑制的標的イオンチャネルに対する作用(作用剤か阻害剤か)を検出し評価できる。
【0081】
スクリーニングにあたっては、1又は2以上の被験化合物をスクリーニング材料に供給することができる。単一の被験化合物を用いて当該化合物による作用を検出してもよいし、2以上の被験化合物を用いてこれらの化合物の複合作用あるいは相加作用、相乗作用を検出してもよい。抑制的標的イオンチャネルに対する作用をスクリーニング材料の細胞死(率)によって検出するにあたっては、被験化合物を供給しなかった場合のスクリーニング材料の細胞死(率)を対照群とすることができる。また、抑制的標的イオンチャネルに対する作用が既知である化合物を対照群としてもよい。こうした対照群との比較によって、被験化合物の抑制的標的イオンチャネルに対する作用の有無や、さらにその作用の程度を検出することができる。
【0082】
被験化合物は、特に限定しない。低分子化合物であるほか、タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドなどの核酸(DNA、RNA)、オリゴ糖、多糖類、脂質等であってもよい。
【0083】
スクリーニング材料には、必要に応じて、被験化合物のほか、各種刺激が付与されてもよい。これらの刺激との組み合わせで作用が促進又は抑制される場合もあるからである。また、刺激の存在下で活性化するあるいは不活性化する標的イオンチャネルへの作用を評価することもできる。こうした刺激としては、例えば、温度変化(高温、低温)、pH変化、O2/CO2濃度変化、浸透圧変化、容積変化などが挙げられる。
【0084】
本スクリーニング方法では、標的イオンチャネルの種類に応じて適宜スクリーニング方法の態様が選択される。より具体的には、標的イオンチャネルの制御様式やその機能に応じて適宜選択される。例えば、標的イオンチャネルの制御様式(電位依存性、リガンド依存性、機械刺激依存性、温度依存性、漏洩チャネル、リン酸化依存性等)に応じ、標的イオンチャネルの活性化(又は不活性化)のための刺激の有無や刺激の種類が選択される。また、標的イオンチャネルの機能に応じて、細胞死(率)を指標とした評価態様(標的イオンチャネルに対して作動性か阻害性か等)が選択される。例えば、標的イオンチャネルが電位依存性イオンチャネルの場合には、活性化(所定の膜電位による活性化)により各種の機能が発現されることが知られている。具体的には、活動電位の発生、興奮伝導(以上、Naイオンチャネル)、神経伝達物質の遊離、神経及び心筋での活動電位の発生(以上、Caイオンチャネル)、膜電位の維持、興奮性の制御、活動電位の再分極(以上、Kイオンチャネル)、膜電位の安定化、興奮性の制御、イオンの輸送、細胞容積の調節(以上、Clイオンチャネル)が挙げられる。
【0085】
本スクリーニング方法における抑制的標的イオンチャネルが、漏洩チャネルなど、スクリーニング材料の細胞膜などの脱分極及び/又は活動電位を抑制する(過分極を促進する)イオンチャネルの場合、以下のような評価工程の態様が挙げられる。すなわち、被験化合物及びKイオンチャネル阻害剤の存在下で、被験化合物の作用をスクリーニング材料の生死を指標として評価することが挙げられる。この場合、被験化合物の非存在下では、標的イオンチャネルは恒常的に作動して、脱分極を抑制しあるいは活動電位を抑制している。このため、Kイオンチャネル阻害剤の存在下でも、活動電位が発生しない、あるいは延長しない。この結果、スクリーニング材料は生存する。一方、このスクリーニング材料に、被験化合物とKイオンチャネル阻害剤とを付与したとき、スクリーニング材料の細胞死が促進される。かかる態様を示したとき、当該被験化合物は、標的イオンチャネルに対して阻害性を有する阻害剤として判定できる。
【0086】
また、標的イオンチャネルが、hERG Kイオンチャネルなど、活性化によりスクリーニング材料の細胞膜などの生体膜の脱分極及び/又は活動電位を抑制する(過分極を促進する)イオンチャネルであるときには、以下のような評価工程におけるスクリーニング態様が挙げられる。すなわち、被験化合物及びKイオンチャネル阻害剤の存在下で、被験化合物の作用をスクリーニング材料の生死を指標として評価することが挙げられる。より具体的には、被験化合物をスクリーニング材料に付与すると同時又はその後にKイオンチャネル阻害剤を供給したとき、スクリーニング材料の細胞死が抑制されたのであれば、当該被験化合物は、標的イオンチャネルに対する作動性を有する作用剤であると判定できる。一方、スクリーニング材料の細胞死が促進されたときは、当該被験化合物は、標的イオンチャネルに対して阻害性を有する阻害剤であると判定できる。
【0087】
以上のように、本スクリーニング方法によれば、Kイオンチャネルに対する阻害剤を用いることでスクリーニング材料の生死を指標として簡易に標的イオンチャネルに対する作用剤及び阻害剤をスクリーニングできる。本スクリーニング方法は、迅速性が求められるスクリーニング系のほか、構造設計が困難なイオンチャネルを標的とする薬剤のスクリーニング、特に、ハイスループット性が求められる一次スクリーニングなどにも適している。
【0088】
(評価方法)
本スクリーニング方法は、標的イオンチャネルに対する被験化合物の作用の評価方法としても実施できる。本評価方法によれば、簡易かつ迅速に、被験化合物の標的イオンチャネルへの作用(作用性や阻害性)を測定できる。したがって、被験化合物に一定以上の作用が求められる場合における迅速かつ簡易な評価方法として有用である。本評価方法には、すでに説明した本スクリーニング方法における各種態様をそのまま適用することができる。
【0089】
(スクリーニングキット)
本明細書に開示されるキットは、標的イオンチャネルに対する作用剤又は阻害剤をスクリーニングするためのキット(以下、本キットともいう。)である。本キットは、本スクリーニング材料と、Kイオンチャネルの作用を抑制する阻害剤と、を備えることができる。本キットによれば、標的イオンチャネルに作用する化合物のスクリーニングを容易にかつ効率的に行うことができる。本キットは、本スクリーニング材料と阻害剤のほか、細胞死の測定用の試薬を備えていてもよい。また、本スクリーニング材料に適した培地を備えていてもよい。また、標的イオンチャネルの発現や活性を制御する化合物や、必要に応じて行う電気刺激用の装置などの機材を備えていてもよい。なお、本キットは、被験化合物の標的イオンチャネルに対する作用を評価するためのキットとしても用いることができる。
【0090】
(Kイオンチャネルに対する阻害剤のスクリーニング方法)
本明細書は、Kイオンチャネルに対する阻害剤のスクリーニング方法(以下、阻害剤スクリーニング方法ともいう。)も開示する。阻害剤スクリーニング方法によれば、本スクリーニング材料におけるKイオンチャネルに対する好適な阻害剤、すなわち、用いるKイオンチャネルに対して特異性がより高く、感受性のより高い阻害剤をスクリーニングすることができる。
【0091】
阻害剤スクリーニング方法は、例えば、本スクリーニング材料におけるNaイオンチャネル及びKイオンチャネルを備える細胞を準備し、当該細胞に対してKイオンチャネルに対する阻害剤候補である被験化合物を供給する工程と、前記細胞の細胞死又は細胞死と同視できる細胞状態を検出してKイオンチャネルに対する被験化合物の阻害作用を評価する工程と、を備えることができる。阻害剤スクリーニング方法によれば、用いるKイオンチャネルを低い濃度でも阻害できる阻害剤を容易にスクリーニングできる。また、阻害剤の好適な阻害濃度や50%阻害濃度(細胞死率50%濃度)も取得できる。この阻害剤スクリーニング方法は、本発明者らによる特許文献2に開示されるスクリーニング用細胞をそのまま用いることができる。また、細胞死の検出や細胞死と同視できる細胞状態の検出に関しても、特許文献2における関連する態様をそのまま用いることができる。
【0092】
阻害剤スクリーニング方法は、例えば、本スクリーニング材料におけるNaイオンチャネル及び被験KイオンチャネルとしてのKイオンチャネルを備える被験細胞を準備し、当該細胞に対してKイオンチャネルに対する阻害剤を供給する工程と、前記細胞の細胞死又は細胞死と同視できる細胞状態を検出して被験細胞の被験Kイオンチャネルに対する阻害剤の阻害作用を評価する工程と、を備えることができる。この阻害剤スクリーニング方法によれば、各種のKイオンチャネルをそれぞれ備える被験細胞を準備することで、特定の被験Kイオンチャネルに対して特異性が高い阻害剤を容易にスクリーニングできる。この阻害剤スクリーニング方法についても、本発明者らによる特許文献2に開示される各種態様を適用することができる。特に、抑制的標的イオンチャネルとしてKイオンチャネル(第2のKイオンチャネル)を用いるとき、被験Kイオンチャネルとして、抑制的標的イオンチャネル候補を適用することで、第1のKイオンチャネルに特異的で感度が高く、第2のKイオンチャネルには感度が低い、阻害剤をスクリーニングすることができる。
【0093】
例えば、Kイオンチャネルの阻害剤のスクリーニング方法は、以下の態様で実施することができる。すなわち、培地を測定用バッファに置換し、Kir2.1_イオンチャネル# mutated Nav発現細胞等に被験化合物としてのKイオンチャネルの阻害剤候補を添加する。その後、細胞を37℃、大気圧、5% CO
2条件下で約12時間インキュベートして細胞死を観察することでKイオンチャネルの阻害剤のスクリーニングが可能である。例えば、KイオンチャネルとしてKir2.1を採用したとすると、Kir2.1の阻害薬であるBaイオン(BaCl
2として添加)の用量作用曲線を
図4Bに示している。なお、測定用バッファの組成(単位はmM)は、137 NaCl, 5.9 KCl, 2.2 CaCl
2, 1.2 MgCl
2, 14 glucose, 10 HEPES (pH 7.4 with NaOH)とすることができる。
【0094】
(Naイオンチャネルに対する阻害剤及び活性化剤のスクリーニング方法)
本明細書は、Naイオンチャネルに対する阻害剤及び活性化剤のスクリーニング方法も開示する。脱分極に伴う活動電位の持続時間を延長する電位依存性Naイオンチャネルの当該作用を阻害する阻害剤や当該作用を活性化する活性化剤は、いずれも、本明細書において開示される標的イオンチャネルに対する作用剤等のスクリーニング系に有用であるからである。
【0095】
阻害剤のスクリーニング方法は、例えば、以下の態様で実施できる。すなわち、培地を測定用バッファに置換し、Kir2.1# mutated Nav発現細胞等に200 μM Baイオン(BaCl2として添加)及び、被験化合物としてのNaイオンチャネル阻害剤候補化合物を添加する。その後、細胞を37℃、大気圧、5% CO2条件下で約12時間インキュベートする。被験化合物が阻害剤候補であるとき、細胞死が抑制されると考えられる。
【0096】
また、活性化剤のスクリーニング方法は、例えば、以下の態様で実施できる。すなわち、培地を測定バッファに置換し、Kir2.1# mutated Nav発現細胞に、被験化合物としての活性化剤候補化合物を添加する。その後、細胞を37℃、大気圧、5% CO2条件下で約12時間インキュベートする。被験化合物が活性化剤であるとき、細胞死が誘発されると考えられる。
【実施例】
【0097】
以下、本明細書の開示を具現化した実施例につき説明するが、本明細書の開示はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0098】
(Nav1.5チャネル不活性化部位IFMモチーフ変異体の作製)
Nav1.5チャネルの不活性化を制御しているIII-IVリンカー領域中に存在する疎水性アミノ酸配列Ile-Phe-Met(IFMモチーフ)をすべてGlnに変異させることとした。変異後のアミノ酸配列(部分)を以下に示す。
【0099】
hNav1.5アミノ酸配列(変異対象となるIFMを含む領域のみ表示)(配列番号1)
1470-IDNFNQQKKKLGGQDIFMTEEQKKYYNAMKK-1500
(下線部のIFMをQQQに変異)
【0100】
ヒト由来のNav1.5 (GenBank Accession Number: NM#198056.)をpcDNA3.1(+)(Invitrogen)にサブクローニングしたpcDNA3.1/Nav1.5を鋳型として、以下に示す特異的なPCRプライマー及びQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、不活性化変異体Nav1.5 IFM/QQQを作製した。得られたクローンのDNA配列はBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)、蛍光キャピラリーシークエンサー(ABI PRISM 3100 Avant Genetic Analyzer、Applied Biosystems)を用いて確認し、プラスミドDNAをPureLink Hipure Plasmid Maxiprep Kit(Invitrogen)を用いて大量精製した。
【0101】
プライマー
5'-GTTAGGGGGCCAGGACCAACAACAGACAGAGGAGCAGAAG-3’(配列番号2)
5’-CTTCTGCTCCTCTGTCTGTTGTTGGTCCTGGCCCCCTAAC-3’(配列番号3)
【実施例2】
【0102】
(細胞培養及び遺伝子導入)
ヒト胎児腎由来細胞(HEK293細胞)はヒューマンサイエンス研究資源バンク(HSRRB)から購入した。10% FBS(Fatal Bovine Serum; Gibco)を添加し、100 U/ml ペニシリン(和光純薬)、100μg/ml ストレプトマイシン(明治製菓)を加えたD-MEM(Dulbeco’s Modified Eagle Medium)培地(和光純薬)中で37℃、5% CO2条件下で培養した。ヒト由来のKir2.1(NM#000891)をpcDNA3.1(+)(Invitrogen)にサブクローニングしたpcDNA3.1/Kir2.1をLipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いて遺伝子導入し、上記のD-MEM培地に0.2 mg/ml Zeocin(Invitrogen)を加えた培地で培養し、Zeocin耐性細胞をクローニングし、Kir2.1定常発現細胞(HEK#Kir)を作製した。また同様の方法でKir2.1定常発現細胞に不活性化変異体Nav1.5 IFM/QQQを遺伝子導入した(HEK#Kir#mutated Nav)。
【0103】
さらに、上記と同様にして、ヒト由来K2Pチャネルの一種であるhTREK-1(GenBank Accession Number: NM#001017424)を、pcDNA3.1(+)にサブクローニングし、先に作製したKir2.1# mutated Nav細胞に遺伝子導入してhTREK-1#Kir2.1# mutated Nav細胞(以下、TREK-1試験細胞という。)を作製した。
【0104】
TREK-1試験細胞において、培地を測定用バッファ(137mM NaCl, 5.9mM KCl, 2.2mM CaCl
2, 1.2mM MgCl
2, 14mM glucose, 10mM HEPES (pH 7.4 with NaOH)、以下、同様。)に置換して、Kir2.1の阻害剤であるBaイオンを200 μMとなるようにBaCl
2を添加した。その後、細胞を37℃、大気圧、5% CO
2条件下で約12時間インキュベートして細胞死について観察した。なお、細胞死は、TREK-1阻害剤である、8-Br-cAMPを供給して観察した。なお、細胞死の測定は本発明者らによる論文(Yamazaki, D., et. al., Am J Physiol Cell Physiol 300, C75-86, 2011)を参考にMTT法を用いて行った。結果を
図6に示す。
【0105】
図6Aに示すように、TREK-1試験細胞に対してBaイオンを全量で200μMを供給しても細胞死は生じないが、Baイオンの存在下、TREK-1の阻害剤を供給したところ、細胞死が生じた。また、
図6Bに示すように、培養温度を27℃に下げることで、細胞死が誘発された。これは、TREK-1の温度感受性によるものと考えられた(Maingret et al., EMBO J., 19, 2483-2491, 2000)。すなわち、TREK-1は室温(27℃)では活性が低いため、細胞死の抑制効果も弱くなる一方、高温(37℃)ではTREK-1が活性化するため、細胞死抑制効果が室温の場合と比較して有意に高くなったためと考えられた。
【実施例3】
【0106】
ヒト由来K2Pチャネルの一種であるhTASK-1(野生型は細胞膜に移行しにくいため、電流が小さく、測定が難しいという問題があったため、Δi20変異体を用いた。本変異体は膜へ移行しやすいことが報告されている。Renigunta et. al., Traffic 7: 168-181, 2006)及びhTASK-3(GenBank Accession Number: NM#001282534)を、ウイルスベクターであるバキュロウイルスベクターにサブクローニングし、実施例2で作製したKir2.1# mutated Nav細胞に遺伝子導入してhTASK-1及びhTASK-3を一過的に発現するTASK-1#Kir2.1# mutated Nav細胞及びhTASK-3#Kir2.1# mutated Nav細胞(以下、TASK-1試験細胞及びTASK-3試験細胞という。)を作製した。なお、バキュロウイルスベクター作製用培地としては、Sf-900 III SFM (Thermo Fisher Scientific)を用い、試験細胞用培地としては、10% FBS(Fatal Bovine Serum)添加D-MEM(Dulbeco’s Modified Eagle Medium)培地を用いた。
【0107】
TASK-1試験細胞及びTASK-3試験細胞につき、培地を測定用バッファに置換して、200 μM BaイオンとなるようにBaCl
2を添加しても細胞死は生じなかった。一方、
図7Aに示すように、同量のBaイオン存在下に、TASK1-及びTASK-3選択的阻害剤であるTK-PHPPを加えたところ、用量依存的に細胞死の誘発が観測された。TK-THPPのIC
50値は、それぞれ2.36nM及び34.7nMであった。TASK-3については、文献値35nM(Coburn et al., Chem Med Chem., 7(1), 123-33, 2012)と同等であった。
【0108】
また、
図7Bに示すように、TASK-1の選択的阻害剤であるML365(Flaherty et al., Bioorg Med Chem Lett., 15; 24(16): 3968-3973, 2014)を使用した場合にも、濃度依存的な細胞死が観察された。そして、TASK-1試験細胞については、11.5nM、TASK-3試験細胞については、100nMを超えた点から急激に細胞死が誘発された。報告されているTASK-1及びTASK-3 に対するML365 のIC
50値はそれぞれ、12nM及び480nMである(Zou et al., Probe Reports from the NIH Molecular Libraries Program, 2010)。したがって、TASK-1試験細胞及びTASK-3試験細胞を用いることで、パッチクランプ法と同等の結果が得られることが明らかとなった。
【実施例4】
【0109】
実施例3に準じて、ヒト由来K2Pチャネルの一種であるhTASK-3をサブクローニングしたウイルスベクターであるバキュロウイルスの導入量を3倍(培地の2.5%、同5%、同10%)までの範囲において、実施例2で作製したKir2.1# mutated Nav細胞に遺伝子導入して3種類のTASK-3試験細胞を作製し、ウイルス感染24時間後に、Baイオンを供給して細胞死試験に供した。
【0110】
これら3種のTASK-3試験細胞に、実施例3に準じてBaイオンを供給して、細胞死を観察した。結果を
図8に示す。
【0111】
図8に示すように、TASK-3 の細胞死抑制効果は、その導入量と相関性が認められた。この事実は探索標的イオンチャネルの発現レベルを調節すれば、過剰なBaイオン投与による細胞死の割合を変えられることを示している。発現量をある一定以上高くすればBaイオンにより完全にKir2.x を抑制しても細胞死は100%に達しない。この場合は標的イオンチャネルの阻害薬スクリーニングに適する。以上のことから、適度な定常発現状態の試験細胞と適切なBaイオン濃度を選択することにより、Baイオン投与によりほぼ50%の細胞死が生じる条件を設定することができ、阻害剤も作用剤も最も感度の高い条件下でスクリーニングすることが可能となることがわかった。
【実施例5】
【0112】
ヒト由来Caイオン活性化イオンチャネルの一種であるhSK2及びhSK4をウイルスベクターであるバキュロウイルスベクターにそれぞれサブクローニングし、実施例2で作製したKir2.1# mutated Nav細胞に遺伝子導入してhSK2及びhSK4を一過的に発現するKir2.1+IFM/QQQ+SK2細胞(以下、SK2試験細胞という。)及びKir2.1+IFM/QQQ+SK4細胞(以下、SK4試験細胞という。)を作製した。なお、バキュロウイルスベクター作製用培地としては、Sf-900 III SFM (Thermo Fisher Scientific)を用い、試験細胞用培地としては、10% FBS(Fatal Bovine Serum)添加D-MEM(Dulbeco’s Modified Eagle Medium)培地を用いた。
【0113】
SK2試験細胞及びSK4試験細胞につき、培地を測定用バッファに置換して、Caイオン(100nM)、SK/IK活性化剤、SK阻害剤、IK選択的阻害剤を適宜加えて培養して、細胞死を判定した。結果を、
図9に示す。
【0114】
図9Aに示すように、SK2試験細胞にCaイオン100nM存在下で、SK/IK活性化剤であるNS309(3-オキシム-6,7-ジクロロ-1H-インドール-2,3-ジオン)を併存させると、SK2試験細胞の細胞死が抑制された。すなわち、NS309のようなSK活性化剤の作用を確認することができた。また、さらに、SK/IK活性化剤であるNS309及びSK阻害剤であるUCL1684を併存させると、NS309による細胞死の抑制が解消された。以上のことから、この評価系によると、SKイオンチャネルも標的イオンチャネルとすることができるとともに、当該イオンチャネルに対する活性化剤及び阻害剤の作用を評価できることがわかった。
【0115】
また、
図9Bに示すように、SK4試験細胞にCaイオン100nM存在下で、SK/IK活性化剤であるDCEBIO(5,6-ジクロロ-1-エチル-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾイミダゾール-2- オン)を併存させると、SK4試験細胞の細胞死が抑制された。すなわち、DCEBIOのようなSK活性化剤の作用を確認することができた。また、さらに、SK/IK活性化剤であるDCEBIO及びIK選択的阻害剤であるTRAM34を併存させると、DCEBIOによる細胞死の抑制が解消された。以上のことから、この評価系によると、SK4(IK)イオンチャネルも標的イオンチャネルとすることができるとともに、当該イオンチャネルに対する活性化剤及び阻害剤の作用を評価できることがわかった。
【0116】
このように、本スクリーニング材料はK2Pチャネル以外のイオンチャネル、例えばSKチャネルやナトリウム活性化カリウムチャネルのSlackチャネル(KCNT1)やSlickチャネル(KCNT2)にも適しており、さらには他の多くのカリウムチャネルやクロライドチャネルに対する作用薬の探索にも用いることができることがわかった。
【0117】
以下、本明細書に開示される技術に関連する文献を示す。以下の文献は、参照により本明細書の一部に組み込まれるものとする。
1. Alagem N, Dvir M, and Reuveny E. Mechanism of Ba2+ block of a mouse inwardly rectifying K+ channel: differential contribution by two discrete residues. J Physiol 534: 381-393, 2001.
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