(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】サバ由来のペプチドを有効成分とするPAI-1阻害剤及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/05 20060101AFI20220624BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20220624BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20220624BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220624BHJP
C07K 5/062 20060101ALN20220624BHJP
C07K 5/078 20060101ALN20220624BHJP
【FI】
A61K38/05
A23L33/18
A61P7/02
A61P43/00 111
C07K5/062
C07K5/078
(21)【出願番号】P 2019129041
(22)【出願日】2019-07-11
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】507157045
【氏名又は名称】公立大学法人福井県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】309016588
【氏名又は名称】カワイマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003203
【氏名又は名称】弁理士法人大手門国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100111855
【氏名又は名称】川崎 好昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光史
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠一
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-147744(JP,A)
【文献】特許第5421257(JP,B1)
【文献】特開平7-070190(JP,A)
【文献】特開平6-184196(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002571(WO,A1)
【文献】Jpn. J. Thromb. Hemost. (2016) vol.27, no.3, p.349-357
【文献】J. Nutr. Sci. Vitaminol. (2015) vol.61, issue 1, p.84-89
【文献】平成28年度 日本水産学会中部支部大会講演要旨集 (2016) p.P8
【文献】日本水産学会誌 (2000) vol.66, no.6, p.1051-1058
【文献】J. Mol. Struct. (2007) vol.830, issue 1-3, p.106-115
【文献】Biochemistry (1989) vol.28, issue 4, p.1884-1891
【文献】J. Med. Chem. (1972) vol.15, no.4, p.378-380
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/05
A23L 33/18
C07K 5/062
C07K 5/078
A61P 7/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サバ由来のペプチドであるGly-Lys及びPro-Lysの少なくとも1つを有効成分とするPAI-1阻害剤。
【請求項2】
サバ由来のペプチドであるGly-Lys及びPro-Lysの少なくとも1つを有効成分として含有するPAI-1阻害用組成物。
【請求項3】
食品用組成物である請求項2に記載のPAI-1阻害用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスミノゲンアクチベータインヒビター-1(plasminogen activator inhibitor type 1;以下「PAI-1」と称する)の活性を阻害する作用を有するサバ由来のペプチドを有効成分とするPAI-1阻害剤及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内では血液外傷時の出血を止めるために血液を凝固させる作用が維持されているが、同時に過剰な血栓(血液凝固塊)が血管を閉塞せずに流動性を維持する必要がある。血液流動性を維持するために、血液凝固系及び線溶系と称する血管内での血栓を溶解する生体調節機構の2つの系の活性に関して偏りが生じないように調節されている。
【0003】
PAI-1は、線溶系に含まれる因子の1つであり、線溶系が過剰に作用しないように血栓に対する溶解酵素を抑制するブレーキとしての役割を担っていることが知られている。そのため、PAI-1活性を阻害する物質は、心筋梗塞、脳梗塞といった循環器系疾患の治療において線溶系活性を上昇させる血栓溶解薬として開発、研究が進められている。PAI-1阻害剤の開発では、PAI-1とがん幹細胞、PAI-1と多発性硬化症、PAI-1と老化、といった様々な生理作用との関連性が研究されており、幅広い疾患への臨床応用に向けた検討がなされている(非特許文献1参照)。
【0004】
本発明者は、サバの発酵製品であるへしこ及びなれずしからの水抽出成分溶液(抽出物)がPAI-1活性に及ぼす影響をラットで調べ、抽出物はインビトロでPAI-1活性を直接阻害し、阻害活性は抽出物の消化酵素消化後に失われなかったことを報告している(非特許文献2参照)。
【0005】
こうしたPAI-1活性に影響を及ぼす物質に関しては、例えば、特許文献1には、 PAI-1中の374位のグリシン残基を含む9以下のアミノ酸残基からなる第1領域又はPAI-1の31位のアスパラギンから35位のセリンまでの領域を含む第2領域に結合可能な物質からなるPAI-1阻害剤が開示されている。また、特許文献2には、ヒト プラスミノーゲン活性化因子阻害物質1(PAI-1)由来のペプチドとして、アミノ酸配列(R1-Arg-Met-Ala-Pro-Glu-Glu-Ile-Ile-Met-Asp-Arg-Pro-Phe-Leu-Phe-Val-Val-Arg-R2)を有する単離されたペプチドであって、R1は、水素、アセチル、アルキル、およびアミノ保護基からなる群から選択され、R2はカルボキシル、アミド、アルコール、エステル、およびカルボキシル保護基からなる群から選択される単離されたペプチドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-147744号公報
【文献】特許第5421257号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】段 孝 外1名、「PAI-1阻害薬・そのポテンシャルと臨床への応用」、日本血栓止血学会誌、2015、26(3)、p.310-317
【文献】Koji ITO、 "Inhibitory effect of water extractive components from heshiko and narezushi on plasma PAI-1 activity in rats"、日本血栓止血学会誌、2016、27(3)、p.349-357
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上述したこれまでの知見に基づいて、サバの魚肉に着目してPAI-1活性を抑制する成分を特定する研究を進めてきている。こうした食品からPAI-1活性を抑制する成分を特定することで、有効性とともに安全性が高いPAI-1阻害剤を得ることができる。
【0009】
そこで、本発明は、サバ由来のPAI-1活性を抑制する成分を特定することで、安全性の高いPAI-1阻害剤及び組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るPAI-1阻害剤は、サバ由来のペプチドであるGly-Lys及びPro-Lysの少なくとも1つを有効成分とする。
【0011】
本発明に係るPAI-1阻害用組成物は、サバ由来のペプチドであるGly-Lys及びPro-Lysの少なくとも1つを有効成分として含有する。
【発明の効果】
【0012】
サバ由来のPAI-1活性を抑制する成分としてサバ由来のペプチドであるGly-Lys及びPro-Lysを特定することで、これらのペプチドの少なくとも1つを有効成分とする安全性の高いPAI-1阻害剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】抽出液について9時間まで加水分解した場合のペプチド濃度を示すグラフである。
【
図2】加水分解物によるPAI-1活性抑制作用の変化を示すグラフである。
【
図3】マサバ加水分解物に関するGPC画分のRPCによるペプチド分布を示すグラフである。
【
図4】加水分解物のGPC画分におけるPAI-1活性抑制作用を示すグラフである。
【
図5】マサバ加水分解物の親水性分画による画分のクロマトグラフである。
【
図6】タイセイヨウサバ加水分解物の親水性分画による画分のクロマトグラフである。
【
図7】ペプチドによる血漿の残存PAI-1活性を示すグラフである。
【
図8】ペプチドの濃度変化による残存PAI-1活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について詳述する。上述した非特許文献2に記載されているように、サバの発酵製品であるへしこ及びなれずしからの熱水抽出成分溶液(抽出物)がPAI-1活性を阻害する作用を有していることが確認されている。そこで、サバから採取した魚肉を酵素により人工的に加水分解してペプチドを含む抽出液を調製した。ここで、サバとしては、マサバ、ゴマサバ及びタイセイヨウサバといった魚種が挙げられる。得られた抽出液のペプチド量を測定し、所定の濃度の希釈液に調製してPAI-1活性抑制作用を測定した。そして、有効なPAI-1阻害活性を示す希釈液に関して高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いた分析手法により分子量分画、極性分画及び親水性画分分画を行い、ピークを示す画分について再度PAI-1活性抑制作用を測定した。こうして有効成分となる分子量画分のペプチドを絞り込み、有効成分として2種類のジペプチド(Gly-Lys、Pro-Lys)を同定した。
【0015】
同定されたジペプチドを合成してラットに継続投与してPAI-1阻害能を検証する動物実験を行ったところ、対照群とジペプチド投与群との間に明らかな活性値の差が見られたことから、その有効性を確認することができた。また、合成されたジペプチドを用いて試験管内でのPAI-1活性の直接阻害能を検証したところ、明確な阻害能を確認することができた。
【0016】
以上の検証結果に基づいて、サバ由来のペプチドであるGly-Lys及びPro-Lysの少なくとも1つを有効成分とするPAI-1阻害剤を得ることができ、また、サバ由来のペプチドであるGly-Lys及びPro-Lysの少なくとも1つを有効成分として含有するPAI-1阻害用組成物を得ることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例について説明する。
【0018】
[実施例1]
<試料の調製>
マサバ及びタイセイヨウサバから採取し細切した魚肉(血合い肉含む;pHは概ね5.5~6)に蒸留水(重量比1.5倍量)を加え、pH7.5~8になるよう水酸化ナトリウム溶液を加えて原液を調製する。魚肉は内臓酵素の影響を省くため、魚肉のみとしたが、量産する場合には魚体丸ごとで処理しても問題ないと考えられる。
【0019】
市販プロテアーゼ6種(パパイン、サーモライシン、アルカラーゼ2.4L、アマノA、アマノM、アマノN)をあらかじめpH8に調整した蒸留水に懸濁させておき、各プロテアーゼを重量比1%の量で原液に添加して37℃で24時間まで加水分解させた。経時的にサンプリングし、pHを5に調整して活性を大きく低下させた後、さらに100℃の沸騰水中で15分間加熱することにより反応停止させ、加水分解物をフィルタ(孔径0.45μm)でろ過して固形物を除去し、試料溶液とした。
【0020】
<Lowry法によるペプチド濃度の測定>
Lowry法に必要な以下の溶液を準備した。
A液:0.1N水酸化ナトリウム溶液(1L)に対して20gの無水炭酸ナトリウムを溶解させた溶液
B液:硫酸銅5水和物0.5gと酒石酸塩1g(ナトリウム塩又はカリウム塩)を蒸留水に溶かしてpHを6.3に調製した後、最終容量を100mLとした溶液
C液:A液50mLに対してB液1mLを混合した溶液
D液:市販のフェノール試薬(Folin-Ciocalteu試薬)を蒸留水で2倍に希釈した溶液
測定手順は、試料溶液1.0mLに対してC液5.0mLを加えてよく撹拌した後、室温で10分以上静置し、D液0.5mLを加えて撹拌して30分後に紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製;UV-1240)により750nmの吸光度を測定した。得られた測定データを標準タンパク質で作成された検量線と比較することでペプチド濃度を定量的に測定した。
【0021】
<加水分解に伴うペプチド濃度の変化について>
マサバ及びタイセイヨウサバの魚種において原料となる生鮮魚肉では水溶性のペプチドは少なく、37℃で24時間静置した場合、マサバ及びタイセイヨウサバでは約4倍に増加した。マサバの魚肉に市販プロテアーゼ6種をそれぞれ添加して加水分解させた結果、1時間後には水溶性ペプチドが大きく増加し、9時間まで漸増した。
図1は、9時間まで加水分解した場合のペプチド濃度を示すグラフである。いずれのプロテアーゼを用いても加水分解時間9時間までに水溶性のペプチド量はほぼ最大量に達し、加水分解時間が24時間ではペプチド量にやや減少傾向が見られた。こうした結果をみると、加水分解時間は9時間とすることが望ましいことが確認された。
【0022】
<PAI-1活性抑制作用の測定>
市販の測定キット(ABCAM社製;PAI-1(SERPINE1)Rat ELISA Kit)を用いて以下の測定手順でPAI-1活性を測定した。
・測定キットの手順にしたがってTBS緩衝液に市販のウシ血清アルブミンを溶かして調製した3%溶液を用いて活性量10ng/mLのPAI-1標準液を準備する
・ペプチド濃度を測定した試料溶液(加水分解9時間)を希釈して10ng/mLの濃度の試料溶液を準備する
・準備した試料溶液とPAI-1標準液を等量混合して活性量5ng/mLの処理液を調製し、室温で10分間撹拌した後測定キットでPAI-1活性量を測定する
【0023】
<PAI-1阻害活性の変化について>
図2にPAI-1活性量の測定結果を示す。
図2に示すように、いずれの加水分解試料でもPAI-1活性量は5ng/mLを大きく下回り、活性の阻害作用が認められた。なお、加水分解1時間の試料溶液でもPAI-1活性の阻害作用が認められており、酵素の種類及び加水分解時間による明確な差は見られなかった。こうした測定結果をみると、魚肉の加水分解によりPAI-1阻害活性を有するペプチドが生成されていることを示唆している。
【0024】
<試料溶液中のペプチドの分画>
液体クロマトグラフ装置として、株式会社東ソー製の8020HPLCシステムを使用した。
(分子量による分画:ゲル濾過クロマトグラフィ(GPC))
市販のカラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製;Superdex 30 Increase)を用い、室温(25℃)下で0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む30%アセトニトリル(ACN)溶液を溶離液として用いて試料溶液中のペプチドの分離を行った。流速は0.5mL/分とし、214nmの吸光度をモニターして1分ごとに溶出液を採取した。
(極性による分画:逆相クロマトグラフィ(RPC))
分子量分画による画分を蒸発乾固させた後、蒸留水に再溶解させて逆相HPLCを以下の通り行った。
・カラムにはODS-80Ts(東ソー株式会社製;QAグレード、φ4.6×250mm)を用いる
・A液(0.1%TFAを含む1%ACN溶液及びB液(0.1%TFAを含む95%ACN溶液)を準備する
・流速1.0mL/分とし、214nm及び230nmの吸光度をモニターしながら所定の2液グラジェントプログラムにしたがってA液及びB液の割合を変化させて試料を溶離させる
【0025】
<ペプチドの分離とPAI-1活性抑制作用について>
加水分解9時間の試料で酵素の種類によるペプチドのGPC及びRPCによる分子量分布の比較を行ったところ、
図3に示すように、アマノNによるマサバの加水分解物については、明確なペプチドの存在が確認された。アマノN以外の加水分解物についてもペプチドの存在が確認されているが、加水分解物でのペプチド量及び分子量分画による低分子量のペプチドの可能性といった観点からアマノNによる加水分解物について以後の分析を行った。
【0026】
また、GPC画分(Fr34~Fr37;分子量200~450)についてPAI-1活性抑制作用の測定を行ったところ、
図4に示すように、マサバ及びタイセイヨウサバの画分にPAI-1活性抑制作用が確認されたが、ニシンでは明確に確認されなかった。
【0027】
以上の測定結果からみると、サバの抽出液を加水分解したペプチドにPAI-1活性抑制作用を有するものが含まれていることが確認された。
【0028】
[実施例2]
次に、サバの抽出液の加水分解物からPAI-1活性抑制作用を有するペプチドを同定する分析を行った。
【0029】
<試料の調製>
マサバ及びタイセイヨウサバを用いて実施例1と同様に試料溶液を作製した。プロテアーゼとしてアマノNを用い、加水分解9時間で処理した。
【0030】
<試料溶液中のペプチドの分画及び同定>
実施例1と同様に、試料溶液に対して分子量による分画を行った。実施例1で得られた検証結果からGPC画分で分子量200~450に絞り込んで分画を行うことになるが、このGPC画分では親水性が強いピークが量的に多いと考えられることから、以下の親水性画分分画を行った。
・カラムにはZIC-HILIC(Merck社製;SeQuant、φ4.6×150mm)を用いる
・溶離液(30%ギ酸アンモニウムを含む70%ACN溶液;pH6.2)を準備する
・流速1.0mL/分とし、230nmの吸光度をモニターしながら所定の2液グラジェントプログラムにしたがって水び溶離液の割合を変化させて試料を溶離させる
【0031】
親水性画分分画により、マサバについては、
図5に示すように、Fr37-4から2画分、タイセイヨウサバについては、
図6に示すように、Fr37-4から3画分が分画された。溶離液に酢酸アンモニウムが含まれているため、予め脱塩処理してRPC分画を行った後表れた画分について液体クロマトグラフ質量分析計(Applied Biosystems社製API2000)を用いて分子量解析を行った。
【0032】
分子量解析の結果複数の成分の集合であることが確認できたため、ピークとなる画分についてアミノ酸配列分析(ABI社製procise491HTを使用)を行うとともに塩酸加水分解後のアミノ酸組成分析(日本電子株式会社製JLC-500/V2を使用)を行った。その結果、マサバ及びタイセイヨウサバのいずれからも2種類のジペプチド(Gly-Lys、Pro-Lys)が同定された。
【0033】
[実施例3]
<動物実験によるPAI-1阻害作用の検証>
次に、これらのジペプチドのPAI-1阻害作用を検討するために、同定されたペプチドを合成し、脂質負荷飼育したWistarラット(日本SLC株式会社製)に継続投与するとともに、実施例1と同様のPAI-1活性抑制作用の測定を行ってPAI-1阻害能を検討した。
【0034】
まず、動物試験では、9週齢のWistarラットを購入し室温23±1℃、湿度55±5%、明暗周期12時間(明期8・20時)の環境下で市販餌料(CE-2、日本クレア株式会社製)を与えて2週間予備飼育を行った後、実験用脂質負荷餌料(QuickFat、日本クレア株式会社製)に切り替えてさらに2日間予備飼育を行った後、ラットを3群に分けて投与試験を開始した。
【0035】
投与用ペプチド試料は、まず1mg/mLとなるようにペプチドを蒸留水に溶解して調製した。予備飼育から投与直前まで飲水量と体重を定期的に測定し、1日当たりの飲水量からペプチド投与量が10mg/kgとなるように適宜希釈して用いた。10日間の投与終了後に開腹して採血し、3.2%クエン酸酸ナトリウム溶液を10%含まれるように添加し、遠心分離して血漿を調製した。得られた血漿について実施例1と同様のPAI-1活性抑制作用の測定を行った。測定結果を
図7に示す。
【0036】
図7では、対照群に比べてペプチド投与群ではPAI-1活性の低下が明確に認められており、ペプチドのPAI-1阻害作用が確認された。
【0037】
<invitroでの直接阻害能の検証>
今回試料として用いたのはいずれもジペプチドであり、このサイズであれば腸管でそのまま吸収されることが知られている。そこで、PAI-1活性の直接阻害能について検討した。
【0038】
まず、PAI-1活性量5ng/mL対してペプチド含有量が0.05~50ng/mLとなるように混合し、常温で10分間撹拌した。次に、得られた処理液について残存PAI-1活性を実施例1で使用した測定キットを用いて測定した。
【0039】
図8は測定結果を示すグラフである。
図8では、2ng/mL以下の濃度でも残存活性値が4ng/mL以下となることが示されており、明確な阻害能が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、血漿中のPAI-1活性を低下させ、線溶系の亢進を誘導することにより、血栓形成を抑制させる効果を持つことが確認された。しかしながら、ペプチドとPAI-1との結合はさほど強くなく、濃度依存性が明確には認められなかったことから、その作用は医薬品ほど強くないものと考えられる。そのため、血栓症発症時の治療薬としての効能は不明であるものの、長期間継続して摂取することにより、血管梗塞の予防として作用することが期待される。