(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】汚染土壌の処理方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/08 20060101AFI20220624BHJP
B09C 1/02 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
B09C1/08
B09C1/02 ZAB
(21)【出願番号】P 2018099311
(22)【出願日】2018-05-24
【審査請求日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2017170765
(32)【優先日】2017-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】山崎 将義
(72)【発明者】
【氏名】石渡 寛之
(72)【発明者】
【氏名】地井 直行
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-159583(JP,A)
【文献】特開2013-122010(JP,A)
【文献】特開昭51-069057(JP,A)
【文献】米国特許第06210078(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害物質で汚染された汚染土壌を処理する汚染土壌の処理方法であって、
前記汚染土壌にキレート剤を添加して洗浄する第1工程と、
前記第1工程後の前記汚染土壌に、鉄(III)及びマグネシウム(II)の少なくとも一方を含有する水溶液を添加して洗浄する第2工程と、
前記第2工程後の前記汚染土壌に水を添加して洗浄する第3工程と、を有し、
前記第3工程で添加する水が、緩衝液を用いて25℃におけるpHが6.0~8.0の範囲内に調整された水であることを特徴とする汚染土壌の処理方法。
【請求項2】
前記第2工程において、前記汚染土壌に、カルシウム(II)をさらに添加することを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項3】
有害物質で汚染された汚染土壌を処理する汚染土壌の処理方法であって、
前記汚染土壌にキレート剤を添加して洗浄する第1工程と、
前記第1工程後の前記汚染土壌に、鉄(III)を含有する水溶液を添加して洗浄する第2工程と、
前記第2工程後の前記汚染土壌に、酸化カルシウム(CaO)を
溶かした水溶液を添加して洗浄する第3工程と、を有することを特徴とする汚染土壌の処理方法。
【請求項4】
前記汚染土壌の原位置で行うことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項5】
前記第1工程を行う前に、前記汚染土壌が存在する地盤に遮水壁を設ける工程を有することを特徴とする請求項4に記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項6】
掘削されて盛土された前記汚染土壌に対して行うことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の汚染土壌の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、汚染土壌に含まれる重金属等の有害物質は、体内へ直接摂取あるいは地下水を汚染することにより生活用水を経て体内へ摂取されることで人体に重大な健康被害を及ぼすため、これを効率的に無害化する処理方法が求められている。重金属等による汚染土壌の処理方法としては、例えば、汚染土壌を高温で溶融させる方法や、植物を利用したファイトレメディエーション等が検討されているが、低コスト及び低エネルギーの観点から、キレート剤を用いて重金属等を液中に溶解させ、これを汚染土壌から除去する方法が好ましい。
【0003】
しかしながら、キレート剤を用いた処理を行うと、汚染土壌から目的の重金属等を一部除去することができるものの、洗浄後の汚染土壌は、当該目的の重金属等を介して土壌成分に結合していた他の物質等が溶出しやすい状態となってしまう。
【0004】
上記問題に対しては、例えば、キレート剤洗浄後の汚染土壌に対し、多価金属塩やセメント系化合物を添加することで、汚染土壌から溶出する他の物質を土壌成分に再付着させてそれらの溶出を確実に防止し、重金属等の溶出量を長期に亘り環境基準値以下に維持する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の技術によれば、水溶液中で陽イオンとして存在する鉛、カドミウム、水銀等の重金属を処理対象としており、水溶液中で陰イオンとして存在するヒ素、フッ素等の有害物質に対しては適用できない。
【0007】
そこで、本発明は、陰イオンとして存在する有害物質の汚染土壌からの溶出を抑制できる汚染土壌の処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
有害物質で汚染された汚染土壌を処理する汚染土壌の処理方法であって、
前記汚染土壌にキレート剤を添加して洗浄する第1工程と、
前記第1工程後の前記汚染土壌に、鉄(III)及びマグネシウム(II)の少なくとも一方を含有する水溶液を添加して洗浄する第2工程と、
前記第2工程後の前記汚染土壌に水を添加して洗浄する第3工程と、を有し、
前記第3工程で添加する水が、緩衝液を用いて25℃におけるpHが6.0~8.0の範囲内に調整された水であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の汚染土壌の処理方法において、
前記第2工程において、前記汚染土壌に、カルシウム(II)をさらに添加することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、有害物質で汚染された汚染土壌を処理する汚染土壌の処理方法であって、
前記汚染土壌にキレート剤を添加して洗浄する第1工程と、
前記第1工程後の前記汚染土壌に、鉄(III)を含有する水溶液を添加して洗浄する第2工程と、
前記第2工程後の前記汚染土壌に、酸化カルシウム(CaO)を溶かした水溶液を添加して洗浄する第3工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の汚染土壌の処理方法において、
前記汚染土壌の原位置で行うことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の汚染土壌の処理方法において、
前記第1工程を行う前に、前記汚染土壌が存在する地盤に遮水壁を設ける工程を有することを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の汚染土壌の処理方法において、
掘削されて盛土された前記汚染土壌に対して行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、陰イオンとして存在する有害物質の汚染土壌からの溶出を抑制できる汚染土壌の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態における実施例1の結果を示すグラフである。
【
図2】本発明の第1の実施形態における実施例2の結果を示すグラフである。
【
図3】本発明の第1の実施形態における比較例1の結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の第2の実施形態の第1~第3工程を示すための模式図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態における実験1の(土壌試料1に対する)結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2の実施形態における実験1の(土壌試料1に対する)結果を示すグラフである。
【
図7】本発明の第2の実施形態における実験2の(土壌試料1に対する)結果を示すグラフである。
【
図8】本発明の第2の実施形態における実験3の(土壌試料2に対する)結果を示すグラフである。
【
図9】本発明の第2の実施形態における実験4の(土壌試料1に対する)結果を示すグラフである。
【
図10】本発明の第2の実施形態における実験4の結果を示すグラフであり、
図10(a)は土壌試料1に対する結果、
図10(b)は土壌試料2に対する結果である。
【
図11】本発明の第2の実施形態における実験5の(土壌試料2に対する)結果を示すグラフである。
【
図12】本発明の第2の実施形態における実験6の(土壌試料2に対する)結果を示すグラフである。
【
図13】本発明の第2の実施形態における実験7の(土壌試料2に対する)結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0017】
[第1の実施形態]
《汚染土壌の処理方法の概要》
本発明の第1の実施形態における汚染土壌の処理方法は、有害物質で汚染された汚染土壌を処理する汚染土壌の処理方法であって、汚染土壌にキレート剤を添加して洗浄する第1工程と、第1工程後の汚染土壌に鉄(III)及びマグネシウム(II)の少なくとも一方を含有する水溶液を添加して洗浄する第2工程と、第2工程後の汚染土壌に水を添加して洗浄する第3工程と、を有する。また、本発明の処理方法を汚染土壌の原位置で行う場合には、第1工程を行う前に、汚染土壌が存在する地盤に遮水壁を設ける工程(遮水壁設置工程)を行うことが好ましい。
【0018】
本発明において汚染土壌とは、水溶液中で陰イオンとして存在する、ヒ素、フッ素等を有害物質として含む土壌であり、鉛、カドミウム、水銀、六価クロム等の重金属を更に含むものであっても良いし、鉄(III)やマンガン等を更に含むものであっても良い。
【0019】
《遮水壁設置工程》
遮水壁設置工程では、汚染土壌が存在する地盤に対し、例えば、鋼矢板等の遮水壁を準不透水層まで到達するように設置して、浄化対象範囲を設定する。これにより、浄化対象範囲内の汚染土壌をより確実に洗浄処理することができ、有害物質の溶出をより確実に抑制できる。なお、遮水壁としては、設置された部分が遮水されればいずれであっても良く、鋼矢板に限られるものではない。
【0020】
《第1工程》
第1工程では、汚染土壌にキレート剤を添加して当該汚染土壌を洗浄する。
【0021】
洗浄工程において用いるキレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、イミノジ酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸及びこれらの塩等が挙げられる。また、環境への付加が小さいことから生分解性キレート剤を用いることが好ましく、当該生分解性キレート剤としては、例えば、3-ヒドロキシ-2,2′-イミノ二コハク酸(HIDS)、エチレンジアミン二コハク酸(EDDS)、L-グルタミン酸-N,N-二酢酸(GLDA)、メチルグリシン二酢酸及びこれらの塩等が挙げられる。これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
上記キレート剤は、水溶液の状態で汚染土壌に添加しても良いし、汚染土壌に十分に水が含まれている場合には単独で添加しても良い。
【0023】
汚染土壌に対するキレート剤の添加濃度及び添加量としては、例えば、揚水等により不飽和状態とした汚染土壌に対して1~20mmol/Lのキレート剤水溶液を飽和状態となるまで添加する(汚染土壌をキレート剤で浸漬する)ことが好ましい。1mmol/L以上であると、汚染土壌から有害物質を十分に抽出することができ、20mmol/L以下であると、第1工程後の汚染土壌からの有害物質の溶出量を低く抑えることができる。
【0024】
具体的には第1工程は次のようにして行うことができる。
例えば、第1工程を、汚染土壌が存在する地盤で行う、すなわち汚染土壌の原位置で行う場合には、汚染土壌が存在する地盤に設けられた注水用の井戸からキレート剤水溶液を注入し、所定時間経過後に、当該地盤に設けられた揚水井戸から揚水してキレート剤水溶液を回収する。また、キレート剤水溶液の注入と揚水とを併行し、これを所定時間継続するものとしても良い。なお、汚染土壌が存在する地盤を掘削してこれを撹拌した後に、第1工程を行うものとしても良い。
また、例えば、掘削されて所定位置に盛土された汚染土壌に対して行う場合には、掘削した汚染土壌を所定位置に盛土し、当該汚染土壌に対してキレート剤水溶液を添加し、汚染土壌から浸出するキレート剤水溶液を排水処理設備等により回収する。なお、汚染土壌が盛土される位置は、汚染土壌が存在する地盤の近傍であっても良いし、当該地盤から離れた位置であっても良い。また、汚染土壌が盛土される地盤面には遮水シート等を敷設し、汚染の拡散を防止する。
【0025】
上記第1工程により、キレート剤が、汚染土壌中の鉄、鉛、六価クロム、カドミウム、水銀、マンガン等の各種金属とキレート錯体を形成し、当該各種金属が土壌粒子から離脱することで汚染土壌中の有害物質の一部が除去される。また、これらの各種金属とキレート錯体とが錯形成することにより、各種金属を介して土壌粒子表面に吸着しているヒ素等が脱離して水中に溶出し、その一部が除去される。これにより、汚染土壌中の有害物質濃度が低下するが、それらの金属を介して土壌成分に結合していた他の有害物質等が溶出しやすい状態となる。また、第1工程終了後には汚染土壌中にキレート剤が残留するため、上記各種金属の残留分も溶出しやすい状態となる。
【0026】
《第2工程》
第2工程では、第1工程後の汚染土壌に、鉄(III)及びマグネシウム(II)の少なくとも一方を含有する水溶液を添加して当該汚染土壌を洗浄する。
【0027】
鉄(III)を含有する水溶液としては、当該水溶液が汚染土壌に添加された後、当該汚染土壌のpHが中性側にシフトすることにより、水酸化鉄(III)を形成することができるものであればいずれであっても良い。例えば、塩化鉄(III)六水和物等の鉄(III)の金属塩を含有する水溶液等が挙げられる。また、鉄(III)を含有する水溶液としては、25℃におけるpHが2.0~4.0の範囲内であることが好ましく、3.0であることがより好ましい。
【0028】
また、マグネシウム(II)を含有する水溶液としては、汚染土壌中で水酸化マグネシウムを形成することができるものであればいずれであっても良い。例えば、塩化マグネシウム等のマグネシウム(II)の金属塩を含有する水溶液等が挙げられる。また、マグネシウム(II)を含有する水溶液としては、25℃におけるpHが6.0~8.0の範囲内であることが好ましく、7.0であることがより好ましい。
なお、第2工程では、汚染土壌に対し、鉄(III)とマグネシウム(II)をともに含有する水溶液を添加するものとしても良い。
【0029】
具体的には第2工程は、上記第1工程と同様にして行うことができる。
すなわち、例えば、上記第1工程を汚染土壌の原位置で行った場合には、汚染土壌が存在する地盤に設けられた注水用の井戸から鉄(III)及びマグネシウム(II)の少なくとも一方を含有する水溶液を注入し、所定時間経過後に、当該地盤に設けられた揚水井戸から揚水して当該水溶液を回収する。また、鉄(III)及びマグネシウム(II)の少なくとも一方を含有する水溶液の注入と揚水とを併行し、これを所定時間継続するものとしても良い。
また、例えば、上記第1工程を、掘削されて所定位置に盛土された汚染土壌に対して行った場合には、盛土された汚染土壌に対して鉄(III)及びマグネシウム(II)の少なくとも一方を含有する水溶液を添加し、汚染土壌から浸出する当該水溶液を排水処理設備等により回収する。
【0030】
上記第2工程により汚染土壌中に鉄(III)イオン又はマグネシウム(II)イオンが添加されることで、汚染土壌中に残留するキレート剤と錯形成する鉛等の各種金属を当該キレート剤から脱離させ、鉄(III)イオン又はマグネシウム(II)イオンと当該キレート剤が錯形成する。これにより、汚染土壌中に残留していたキレート剤は鉄(III)又はマグネシウム(II)とともに回収され、キレート剤の残留による有害物質の溶出作用を抑えることができる。また、第2工程終了後には汚染土壌中に鉄(III)又はマグネシウム(II)や、キレート剤から脱離された鉛等の各種金属が、汚染土壌中に残留する。
【0031】
また、第2工程においては、鉄(III)及びマグネシウム(II)の少なくとも一方を含有する水溶液に加えて、カルシウム(II)をさらに添加することが好ましい。これらは、上記鉄(III)及びマグネシウム(II)の少なくとも一方を含有する水溶液に含まれていても良いし、これとは別個に金属塩又は水溶液の状態で添加するものとしても良い。カルシウム(II)を添加することで、汚染土壌中に残留するキレート剤と錯体を形成し、後述する水酸化鉄(III)又は水酸化マグネシウムの形成を促進することができる。
【0032】
《第3工程》
第3工程では、第2工程後の汚染土壌に中性の水を添加して当該汚染土壌を洗浄する。ここで添加する水としては、緩衝液を用いて25℃におけるpHが6.0~8.0の範囲内に調整された水であることが好ましい。
【0033】
具体的には第3工程は、上記第1工程及び第2工程と同様にして行うことができる。
すなわち、例えば、上記第1工程及び第2工程を汚染土壌の原位置で行った場合には、汚染土壌が存在する地盤に設けられた注水用の井戸から注水し、所定時間経過後に、当該地盤に設けられた揚水井戸から揚水する。また、注水と揚水とを併行し、これを所定時間継続するものとしても良い。
また、例えば、上記第1工程及び第2工程を、掘削されて所定位置に盛土された汚染土壌に対して行った場合には、盛土された汚染土壌に対して水を添加し、汚染土壌から浸出する水を排水処理設備等により回収する。
【0034】
上記第2工程にて鉄(III)を含有する水溶液を添加した場合には、第3工程にて汚染土壌中に水を添加することで、酸性化した汚染土壌のpHが中性側にシフトする。これにより汚染土壌中に残留する鉄(III)イオンが水酸化鉄(III)を形成する。水酸化鉄(III)は、ヒ素、フッ素、ホウ素、セレン等を吸着する性質を有するため、これらの有害物質を吸着して汚染土壌中に保持することができる。また、上記第2工程にてマグネシウム(II)を含有する水溶液を添加した場合も、これが汚染土壌中に添加されることで水酸化マグネシウムが形成され、ヒ素、フッ素、ホウ素、セレン等を吸着させることができる。これにより、それらの有害物質の溶出を抑制することができる。さらに、最終的な汚染土壌のpHは中性となるので、鉛等の有害物質の水に対する溶解度が低下し、それらが溶出しにくい状態となる。
【0035】
《第1の実施形態の汚染土壌の処理方法の効果》
以上、上記した第1の実施形態によれば、有害物質で汚染された汚染土壌を処理する汚染土壌の処理方法であって、汚染土壌にキレート剤を添加して洗浄する第1工程と、第1工程後の汚染土壌に、鉄(III)及びマグネシウム(II)の少なくとも一方を含有する水溶液を添加して洗浄する第2工程と、第2工程後の汚染土壌に水を添加して洗浄する第3工程と、を有するので、キレート剤の添加により汚染土壌中の各種金属を除去することができ、かつ鉄(III)又はマグネシウム(II)の添加により汚染土壌中に残留するキレート剤を除去することができる。さらに、汚染土壌中で水酸化鉄(III)又は水酸化マグネシウムを形成させることができるため、これにヒ素等の有害物質を吸着させて、有害物質の溶出を抑制することができる。
【0036】
また、第1工程を行う前に、汚染土壌が存在する地盤に遮水壁を設ける工程を有する場合には、より確実に汚染土壌の洗浄を行うことができ、有害物質の溶出をより確実に抑制することができる。
【0037】
また、第2工程において、汚染土壌に、カルシウム(II)をさらに添加する場合には、カルシウム(II)が汚染土壌中に残留するキレート剤と錯体を形成し、水酸化鉄(III)又は水酸化マグネシウムの形成を促進することができる。これにより、有害物質の溶出をより確実に抑制することができる。
【0038】
[第2の実施形態]
《汚染土壌の処理方法の概要》
本発明の第2の実施形態における汚染土壌の処理方法は、有害物質で汚染された汚染土壌を処理する汚染土壌の処理方法であって、前記汚染土壌にキレート剤を添加して洗浄する第1工程と、前記第1工程後の前記汚染土壌に、鉄(III)を含有する水溶液を添加して洗浄する第2工程と、前記第2工程後の前記汚染土壌に、カルシウム(II)を添加して洗浄する第3工程と、を有する。また、第2の実施形態においても、本発明の処理方法を汚染土壌の原位置で行う場合には、第1工程を行う前に、汚染土壌が存在する地盤に遮水壁を設ける工程(遮水壁設置工程)を行うことが好ましい。
第2の実施形態と前記第1の実施形態とでは、第2工程及び第3工程が相違し、その他の第1工程や前記遮水壁設置工程等については基本的に同様であるため、その説明は簡略化する。
【0039】
《遮水壁設置工程》
遮水壁設置工程では、
図4(a)に示すように、汚染土壌100が存在する地盤Gに対し、例えば、
図4(b)に示すように、鋼矢板等の遮水壁103を帯水層101から準不透水層102まで到達するように設置して、浄化対象範囲を設定する。なお、汚染土壌100が存在する地盤Gに揚水井戸104を設け、当該地盤G内の水を揚水井戸104から揚水しておくことが好ましい。
【0040】
《第1工程》
第1工程では、汚染土壌にキレート剤を添加して当該汚染土壌を洗浄する。
洗浄工程において用いるキレート剤としては、前記第1の実施形態で用いたキレート剤が挙げられ、生分解性キレート剤が好ましく用いられる。
【0041】
具体的には第1工程は次のようにして行うことができる。
例えば、第1工程を、汚染土壌が存在する地盤で行う、すなわち汚染土壌の原位置で行う場合には、
図4(c)に示すように、汚染土壌100が存在する地盤Gに設けられた注水用の注水井戸105からキレート剤水溶液を注入し、所定時間経過後に、当該地盤Gに設けられた揚水井戸104から揚水してキレート剤水溶液を回収する(
図4(d)参照。)。また、キレート剤水溶液の注入と揚水とを併行し、これを所定時間継続するものとしても良い。なお、汚染土壌が存在する地盤を掘削してこれを撹拌した後に、第1工程を行うものとしても良い。
また、第1の実施形態と同様に、掘削されて所定位置に盛土された汚染土壌に対して行ってもよい。
【0042】
上記第1工程により、キレート剤が、汚染土壌中の鉄、鉛、六価クロム、カドミウム、水銀、マンガン等の各種金属とキレート錯体を形成し、当該各種金属が土壌粒子から離脱することで汚染土壌中の有害物質の一部が除去される。また、これらの各種金属とキレート錯体とが錯形成することにより、各種金属を介して土壌粒子表面に吸着しているヒ素等が脱離して水中に溶出し、その一部が除去される。これにより、汚染土壌中の有害物質濃度が低下するが、それらの金属を介して土壌成分に結合していた他の有害物質等が溶出しやすい状態となる。また、第1工程終了後には汚染土壌中にキレート剤が残留するため、上記各種金属の残留分も溶出しやすい状態となる。
【0043】
《第2工程》
第2工程では、第1工程後の汚染土壌に、鉄(III)を含有する水溶液を添加して当該汚染土壌を洗浄する。
鉄(III)を含有する水溶液としては、前記第1の実施形態で説明した鉄(III)を含有する水溶液と同様のものを用いることができる。
具体的に第2工程は、前記第1の実施形態で説明した前記第2工程と同様にして行うことができる。
すなわち、例えば、前記第1工程を汚染土壌の原位置で行った場合には、
図4(e)に示すように、汚染土壌100が存在する地盤Gに設けられた注水井戸105から鉄(III)を含有する水溶液(リンス液ともいう。)を注入し、所定時間経過後に、当該地盤Gに設けられた揚水井戸104から揚水して当該水溶液を回収する(
図4(f)参照。)。また、鉄(III)を含有する水溶液の注入と揚水とを併行し、これを所定時間継続するものとしても良い。
また、例えば、前記第1工程を、掘削されて所定位置に盛土された汚染土壌に対して行った場合には、盛土された汚染土壌に対して鉄(III)を含有する水溶液を添加し、汚染土壌から浸出する当該水溶液を排水処理設備等により回収する。
【0044】
前記第2工程により汚染土壌中に鉄(III)イオンが添加されることで、汚染土壌中に残留するキレート剤と錯形成する鉛等の各種金属を当該キレート剤から脱離させ、鉄(III)イオンと当該キレート剤が錯形成する。これにより、汚染土壌中に残留していたキレート剤は鉄(III)とともに回収され、キレート剤の残留による有害物質の溶出作用を抑えることができる。また、第2工程終了後には汚染土壌中に鉄(III)や、キレート剤から脱離された鉛等の各種金属が、汚染土壌中に残留する。
【0045】
《第3工程》
第3工程では、第2工程後の汚染土壌にカルシウム(II)を添加して洗浄する。カルシウム(II)を添加することで、汚染土壌中に残留するキレート剤と錯体を形成し、また、水酸化鉄(III)の形成を促進することができる。
ここで添加するカルシウム(II)は、金属塩又は水溶液の状態で添加するものとしてもよく、例えば、酸化カルシウム(CaO)を含有する水溶液や、カルシウム(II)を含有するセメントとして添加することが好ましく、特に酸化カルシウムを含有する水溶液として添加することが、キレート剤との錯体、及び、水酸化鉄(III)を形成しやすい点で好ましい。
【0046】
具体的に第3工程は、上記第1工程及び第2工程と同様にして行うことができる。
すなわち、例えば、上記第1工程及び第2工程を汚染土壌の原位置で行った場合には、
図4(g)に示すように、汚染土壌100が存在する地盤Gに設けられた注水井戸105からカルシウム(II)を含有する溶液(リンス液ともいう。)を注水する。また、注水と揚水とを併行し、これを所定時間継続するものとしても良い。
また、例えば、上記第1工程及び第2工程を、掘削されて所定位置に盛土された汚染土壌に対して行った場合には、盛土された汚染土壌に対して水を添加し、汚染土壌から浸出する水を排水処理設備等により回収する。
【0047】
第3工程にて汚染土壌中にカルシウム(II)を添加することで、酸性化した汚染土壌のpHが中性側にシフトする。これにより汚染土壌中に残留する鉄(III)イオンが水酸化鉄(III)を形成する。水酸化鉄(III)は、ヒ素、フッ素、ホウ素、セレン等を吸着する性質を有するため、これらの有害物質を吸着して汚染土壌中に保持することができる。さらに、最終的な汚染土壌のpHは中性となるので、鉛等の有害物質の水に対する溶解度が低下し、それらが溶出しにくい状態となる。
なお、第3工程後は、
図4(h)に示すように、遮水壁103を撤去し、復水することが好ましい。
【0048】
《第2の実施形態の汚染土壌の処理方法の効果》
以上、上記した第2の実施形態によれば、有害物質で汚染された汚染土壌を処理する汚染土壌の処理方法であって、汚染土壌にキレート剤を添加して洗浄する第1工程と、第1工程後の汚染土壌に、鉄(III)を含有する水溶液を添加して洗浄する第2工程と、第2工程後の汚染土壌に、カルシウム(II)を添加して洗浄する第3工程と、を有するので、キレート剤の添加により汚染土壌中の各種金属を除去することができ、かつ、鉄(III)の添加により汚染土壌中に残留するキレート剤を除去することができる。さらに、カルシウム(II)の添加により、汚染土壌中で水酸化鉄(III)を形成させることができるため、これにヒ素等の有害物質を吸着させて、有害物質の溶出を確実に抑制することができる。
特に、第2工程で鉄(III)を含有する水溶液を添加して、第3工程でCa(II)を含有する水溶液を添加することで、第1の実施形態のように第3工程で水を添加する場合に比べて、少量の水で、汚染土壌中の有害物質の溶出量を低減することができ、かつ、溶出液のpHを中性域に回復させることができる。また、第1の実施形態で水として、pHが調整された緩衝液を用いていたが、第3工程でCa(II)を含有する水溶液を用いることで、緩衝液を多量に使用する必要がないことから、コストを低減することができる。
【0049】
また、第1工程を行う前に、汚染土壌が存在する地盤に遮水壁を設ける工程を有する場合には、より確実に汚染土壌の洗浄を行うことができ、有害物質の溶出をより確実に抑制することができる。
【実施例】
【0050】
以下、上述した第1及び第2の実施形態に対応する実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
1.第1の実施形態
[実施例1]
まず、直径9mm、軸方向長さ10mmの円筒形カラムに、ヒ素溶出量が0.036mg/L(環境基準値:0.01mg/L)である汚染土壌を0.5g充填した。当該汚染土壌としては、関東地方で採取した上総層群の泥岩を破砕・ふるい分けして平均粒径が2mm以下となるよう前処理したものを用いた。上記カラムに対して、蠕動ポンプを用いて、10mMのキレート剤水溶液25mLを25分間かけて通液した。キレート剤水溶液としては、3-ヒドロキシ-2,2′-イミノ二コハク酸(HIDS)を水に溶解させ、酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液を用いて25℃におけるpHを3.0に調整した溶液を用いた。
【0052】
次いで、上記カラムに対して、蠕動ポンプを用いて、10mMの鉄(III)水溶液5mLを5分間かけて通液した。鉄(III)水溶液としては、塩化鉄(III)(FeCl3)を水に溶解させ、酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液を用いて25℃におけるpHを3.0に調整した溶液を用いた。通液された鉄(III)水溶液5mLの全てが上記カラムから排出される直前に、カラムから排出される溶液のヒ素濃度を測定した。
【0053】
次いで、上記カラムに対して、蠕動ポンプを用いて、25℃におけるpHが7.0の水20mLを20分間かけて通液した。当該水としては、0.1mol/L-HEPES緩衝液を用いてpHを7.0に調整したものを用いた。また、当該水の通液の際に、5分間経過するごとに、カラムから排出される溶液のヒ素濃度を測定した。
実施例1において、カラムから排出される溶液のヒ素濃度及びpHの通液量に対する推移を
図1に示す。
【0054】
[実施例2]
上記実施例1において、10mMの鉄(III)水溶液の代わりに、10mMのマグネシウム(II)水溶液を用いた以外は同様にして、汚染土壌の洗浄処理を行った。マグネシウム(II)水溶液としては、塩化マグネシウム(MgCl
2)を1mol/L-HEPES緩衝液に添加し、硝酸と水酸化ナトリウムを用いて25℃におけるpHを7.0に調整し、さらに、マグネシウム(II)濃度が10mMとなるように精製水を添加したものを用いた。
実施例2において、カラムから排出される溶液のヒ素濃度及びpHの通液量に対する推移を
図2に示す。
【0055】
[比較例1]
上記実施例1において、カラムに対し鉄(III)水溶液の通液を行わなかった以外は同様にして、汚染土壌の洗浄処理を行った。
比較例1において、カラムから排出される溶液のヒ素濃度及びpHの通液量に対する推移を
図3に示す。
【0056】
図1に示すように、実施例1の処理方法によれば、鉄(III)水溶液5mLと、水5mLとを計10分間かけて通液することで、カラム中の汚染土壌から溶出するヒ素の濃度を環境基準値である0.01mg/L未満とすることができる。同様に、
図2に示すように、実施例2の処理方法によれば、マグネシウム(II)水溶液5mLと、水5mLとを計10分間かけて通液することで、カラム中の汚染土壌から溶出するヒ素の濃度を0.01mg/L未満とすることができる。一方で、比較例1の処理方法によれば、
図3に示すように、カラム中の汚染土壌から溶出するヒ素の濃度を0.01mg/L未満とするためには、水20mLを20分間かけて通液する必要があることが分かる。したがって、本発明の処理方法によれば、汚染土壌からのヒ素の溶出を抑制することができるといえる。
【0057】
2.第2の実施形態
[土壌試料]
ヒ素の土壌溶出量(以下、As溶出量ともいう。)が指定基準を超過した下記表Iに示す2種類の土壌を試料として用いた。各土壌試料は乾燥後、粒径2mm以下に篩い分けし、下記の各実験に供した。
【0058】
【0059】
[キレート剤水溶液]
キレート剤として、アミノポリカルボン酸系キレート剤(薬剤1)及び生分解性キレート剤2種類(薬剤2、薬剤3)の3種類を用意した。また、各キレート剤はpH緩衝剤を用いて濃度を10mMに、25℃におけるpHを3、7及び11に調製し、キレート剤水溶液(キレート剤洗浄液ともいう。)とした。
なお、薬剤1~3は具体的には下記のとおりである。
薬剤1:エチレンジアミン四酢酸(EDTA)
薬剤2:3-ヒドロキシ-2,2′-イミノジコハク酸(HIDS)
薬剤3:L-グルタミン酸-N,N-二酢酸(GLDA)
【0060】
[リンス液]
キレート剤洗浄後の土壌試料を洗浄するためのリンス液として、下記に示すものを用意した。
・精製水(pH調整なし)
・10mMの鉄(III)塩水溶液(以下、「Fe」ともいう。)
・0.1Mの酢酸ナトリウム水溶液(以下、「AcONa」ともいう。)
・8.4×10-3Mの次亜塩素酸ナトリウム水溶液(以下、「NaClO」ともいう。)
・0.1~10mMの生石灰水溶液(以下、「CaO」ともいう。)
・10mg/Lの普通ポルトランドセメント水溶液(以下、「セメント」ともいう。
【0061】
[実験方法]
以下に示す実験1~7は、下記カラム法又は浸漬法で行った。また、下記表IIに、各実験1~7で採用した方法を具体的に示す。
(カラム法)
カラム法は、カラムに一定の充填密度で充填した土壌試料中にキレート剤水溶液を所定時間通液した後、土壌試料中のAs溶出量と、キレート剤水溶液中のヒ素濃度を分析した。
【0062】
(浸漬法)
浸漬法は、カラムに土壌試料を一定の充填密度で充填し、キレート剤水溶液を土壌試料に対して一定量(液固比)で浸漬させた後、土壌試料とキレート剤水溶液をそれぞれ回収し、土壌試料中のAs溶出量と、キレート剤水溶液中のヒ素濃度を分析した。
なお、カラム法及び浸漬法において、カラムに充填する土壌試料の充填密度は、各実験毎に下記表IIに示すとおりとした。
【0063】
【0064】
なお、表IIにおいて、「液固比」とは、土壌試料1gに対する精製水、キレート剤水溶液、又は各リンス液の量(mL)を表す。
また、表IIにおいて、「(*2)1段階リンス処理の場合は、液固比30とした。」とは、「CaO」のみ、「セメント」のみのリンス処理のときの液固比を30とし、それ以外のCaを用いた2段階処理は液固比20としたことを意味する。
【0065】
[実験1]:キレート剤洗浄によるヒ素抽出効果
<実験1-1>
前記カラム法において、前記土壌試料1と、前記3種類の薬剤1~3を用いたキレート剤水溶液を用い、25℃におけるpH3、7、11の各条件におけるキレート剤水溶液による洗浄を行い、カラムから排出されるキレート剤水溶液中のヒ素濃度を測定した。測定結果を
図5(a)~(c)に示した。
これらの結果より、各キレート剤水溶液のいずれもpH3の洗浄条件で、ヒ素の抽出効果が高く、その中でも薬剤2を用いたキレート剤水溶液が最も高い抽出効果を示していることが分かる。薬剤2を用いたキレート剤水溶液は、洗浄1時間後も通液中のヒ素濃度が漸増する傾向にあったが、薬剤1及び3を用いたキレート剤水溶液は、ヒ素濃度が平衡となった。
【0066】
<実験1-2>
また、前記薬剤2においては濃度を100mMに高めると、
図6に示すようにヒ素除去量が倍増した。ここで言う、ヒ素除去量とは、カラムから排出されるキレート剤水溶液中のヒ素濃度である。
なお、下記に示す実験では、洗浄効果が最も優れている薬剤2を用いたキレート剤水溶液を使用した。
【0067】
[実験2]:キレート剤洗浄における通液速度の影響
前記カラム法において、土壌試料1に対して、薬液2を用いた10mLのキレート剤水溶液を、速度を0.5mL/min、1mL/min、2mL/min、5mL/minに変えて通液した場合のキレート剤洗浄への影響(ヒ素除去量)を確認した。その結果を
図7に示した。
この結果より、通液速度が1mL/min、2mL/min、5mL/minではヒ素除去量に大きな差はないが、0.5mL/minでは、1mL/minと比較して約1.5倍のヒ素が除去された。よって、土壌とキレート剤の接触時間を長くすることで、より高いヒ素除去効果が得られることが分かる。このことから、一度に揚水(処理後排水)した後に、キレート剤水溶液を注水し、対象地盤を浸漬させる浸漬式の工法が適するといえる。
【0068】
[実験3]:キレート剤洗浄の効果
前記浸漬法において、土壌試料2に対して、薬剤2を用いたキレート剤水溶液で洗浄を行った際の土壌試料中のAs溶出量及びキレート剤水溶液(洗浄液)中のヒ素濃度を経時的に測定した。測定結果を
図8に示した。
これらの結果より、浸漬1時間でキレート剤水溶液中のヒ素濃度は0.32mg/Lで、浸漬6時間までは大きな違いはなかった。浸漬24時間では0.47mg/Lとなり、浸漬1時間よりも約1.5倍に増加した。
一方、As溶出量は浸漬1時間で0.011mg/L、浸漬6時間で0.010mg/Lとなり、僅かに減少する傾向にあるものの、浸漬24時間でも0.011mg/Lであり、指定基準に適合しなかった(
図8参照。)。これは、キレート剤の土壌表面への吸着とそれに伴う表面電位の変化に基づくヒ素の複雑な吸脱着による影響と考えられるため、キレート剤洗浄後の残存キレート剤の影響を消失させる処理(以下、リンス処理ともいう。)が必要である。そこで、キレート剤洗浄後のリンス処理について下記のとおり検討を行った。
なお、土壌試料1に対しても、上記と同様に、薬剤2を用いたキレート剤水溶液で洗浄を行った際の土壌試料中のAs溶出量及び水溶液中のヒ素濃度を経時的に測定したところ、キレート剤水溶液中のヒ素濃度が浸漬時間を長くするほど増加する傾向を確認できた。
【0069】
[実験4]:リンス処理の効果
(精製水の場合)
実験3において、土壌試料1の前記キレート剤水溶液による洗浄後、前記カラム法を用いて、精製水(pH調整なし)をリンス液に用いたリンス処理を行った。その結果を
図9に示す。当該リンス処理後の精製水(洗浄液)中のヒ素濃度は通液量が増すにつれ減少し、土壌試料量の60倍量(液固比60)の通液で定量下限値未満となった。リンス処理後の精製水のpHは通液量が増すにつれ上昇し、液固比60の通液で5弱となり、その後はほぼ一定であった。なお、
図9中、「ND」とは不検出又は検出限界以下を意味する。
【0070】
(Fe+CaOの場合)本発明
実験3の前記キレート剤による洗浄後、前記カラム法を用い、リンス液として「Fe(液固比10)」でリンス処理を行った後(本願の第2工程)、「CaO(液固比20)」のリンス液でリンス処理を行った(本願の第3工程)。
【0071】
(Fe+セメントの場合)本発明
実験3の前記キレート剤による洗浄後、前記カラム法を用い、リンス液として「Fe(液固比10)」のリンス液でリンス処理を行った後(本願の第2工程)、「セメント(液固比20)」のリンス液でリンス処理を行った(本願の第3工程)。
【0072】
(Fe+ACoNaの場合)比較例
実験3の前記キレート剤による洗浄後、前記カラム法を用い、リンス液として「Fe(液固比10)」」のリンス液でリンス処理を行った後、「ACoNa」のリンス液でリンス処理を行った。
【0073】
(Fe+NaClOの場合)比較例
実験3の前記キレート剤による洗浄後、前記カラム法を用い、リンス液として「Fe(液固比10)」」のリンス液でリンス処理を行った後、「NaClO」のリンス液でリンス処理を行った。
【0074】
(CaOの場合)比較例
実験3の前記キレート剤による洗浄後、前記カラム法を用い、リンス液として「CaO」のリンス液でリンス処理を行った。
【0075】
(セメントの場合)比較例
実験3の前記キレート剤による洗浄後、前記カラム法を用い、リンス液として「セメント」のリンス液でリンス処理を行った。
【0076】
上記各リンス液でリンス処理した後の土壌試料1中のAs溶出量及び溶出液(リンス処理後のリンス液)の25℃におけるpHを測定した。測定結果を
図10(a)に示す。また、土壌試料1の代わりに、土壌試料2についても上記各リンス液でリンス処理した後の土壌試料2中のAs溶出量及び溶出液のpHを測定した。測定結果を
図10(b)に示す。
【0077】
図10(a)及び(b)の結果より、「Fe+CaO」で2段階のリンス処理を行った場合(本発明)と、「Fe+セメント」で2段階のリンス処理を行った場合(本発明)には、土壌試料1及び2のいずれにおいても、As溶出量が相対的に最も低減した。土壌試料1のAs溶出量(リンス処理前0.050mg/L)は、リンス処理後に0.001mg/L以下、土壌試料2のAs溶出量(リンス処理前0.016mg/L)は、リンス処理後に0.004mg/Lとなり、土壌試料1及び2のいずれも指定基準(0.010mg/L)以下を満たした。また、このときの溶出液の25℃におけるpHは、土壌試料1で5~6、土壌試料2で8程度であった。また、「Fe+CaO」と「Fe+セメント」の2段階のリンス処理では、リンス液量は精製水のみの場合の1/2の量でAs溶出量が指定基準以下となり、かつ、pHも中性域に回復させることができた。
したがって、「Fe+CaO」又は「Fe+セメント」の2段階のリンス処理が、重金属等に対する原位置浄化技術の一つである原位置土壌洗浄(ソイルフラッシングともいう。)のキレート剤洗浄条件として有効であることが分かる。
【0078】
[実験5]:キレート剤洗浄及びリンス処理による洗浄効果
前記浸漬法において、土壌試料2について、キレート剤洗浄のみ(第1工程のみ)(比較例)、キレート剤洗浄+「Fe」リンス処理(第1及び第2工程)(比較例)、キレート剤洗浄+「Fe」リンス処理+「CaO」リンス処理(第1~第3工程)(本発明)をそれぞれ行った。使用したキレート剤水溶液及びリンス液は以下のとおりである。
・キレート剤水溶液:薬剤2(10mM、pH3)
・「Fe」リンス液:鉄(III)塩水溶液(10mM)
・「CaO」リンス液:1mMの生石灰水溶液
各工程の浸漬時間はそれぞれ3時間に設定し、各工程における洗浄効果(As溶出量、抽出液中のヒ素濃度及び抽出液中のpH)の結果を
図11(a)~(c)に示した。これらの結果より、本発明のように第1~第3工程までを行うことによって、As溶出量(原土0.010mg/L)は0.005mg/Lを示し、指定基準を満たすことが分かる(
図11(a)参照。)。また、抽出液中のヒ素濃度は、0.10mg/Lを示し、排水基準を満たした(
図11(b)参照。)。さらに、抽出液のpHは25℃において5弱程度であった(
図11(c)参照。)。
【0079】
[実験6]:キレート剤洗浄後の残存ヒ素の形態
酢酸(2M)を溶媒とし、薬液2を用いたキレート剤水溶液で洗浄した場合と、酢酸(2M)のみで洗浄(以下、酢酸洗浄ともいう。)した場合の、土壌試料2中のヒ素の化学形態分析結果を
図12に示す。土壌試料中のヒ素の化学形態分析は、Tessierらの方法(Tessier A., Campbell PGC,: Bisson M., Sequential Extraction Procedure for the Speciation of Particulate Trace Metals. Anal Chem. Vol. 51, pp. 844-851, 1979.)を適用し、化学的逐次抽出法に基づいてイオン交換態、炭酸塩態、鉄-マンガン(Fe-Mn)酸化物態、有機物態及び残渣態の5つの化学形態毎に分画し、定量した。
図12に示す結果より、原土(洗浄前)のヒ素の化学形態組成は、イオン交換態0.3%、炭酸塩態1.7%、Fe-Mn酸化物態22%、有機物態8.0%、残渣態68%であり、ヒ素の全含有量は56.4mg/kgであった。
上記の化学形態のうちイオン交換態と炭酸塩態は他の形態に比べて水に溶出しやすいことが知られている。そして、キレート剤洗浄又は酢酸洗浄によって、イオン交換態はそれぞれ54%、81%抽出され、また炭酸塩態はそれぞれ58%、39%抽出された。キレート剤洗浄は酢酸洗浄と比較して、多くのヒ素を抽出した一方で、最も水に溶出しやすい形態であるイオン交換態が洗浄後に残存する割合が大きくなった。これは洗浄後に残存するキレート剤の影響によってヒ素が溶出しやすい形態となることが原因と考えられ、キレート剤洗浄後にリンス処理を行う必要性が示された。
【0080】
[実験7]:リンス処理後の残存ヒ素形態の安定化
原土(洗浄前)、キレート剤洗浄後(第1工程後)、キレート剤洗浄+リンス処理(Fe、CaO)後(第1~第3工程後)、リンス処理(Fe+CaO)後(第2及び第3工程後)のヒ素の化学形態を上記実験6と同様にして分析し、その結果を
図13に示す。
図13に示す結果より、キレート剤洗浄によって、イオン交換態と炭酸塩態が低減され、化学的に安定で溶出しにくい化学形態が卓越する状態に変化していることが分かった。さらに、本発明のようにリンス処理(第2及び第3工程)を行うことによって、キレート剤洗浄後に残存したイオン交換態はさらに低減した。一方、キレート剤洗浄を行わずにリンス処理のみ(第2及び第3工程のみ)実施した場合(比較例)、原土と比較してヒ素の化学形態に大きな変化はなかった。
これらのことから、キレート剤洗浄に加え、(Fe+CaO)の2段階のリンス処理を行うことで、キレート剤洗浄後に残存するヒ素を化学的に安定で水に溶出しにくい化学形態に変えることができたといえる。
【符号の説明】
【0081】
100 汚染土壌
101 帯水層
102 準不透水層
103 遮水壁
104 揚水井戸
105 注水井戸
G 地盤