(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-23
(45)【発行日】2022-07-01
(54)【発明の名称】試料を封入するためのマイクロ流体デバイスのサイズ決定
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220624BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220624BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20220624BHJP
C12Q 1/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C12M1/00 A
G01N37/00 101
B81B1/00
C12Q1/00 Z
(21)【出願番号】P 2018521099
(86)(22)【出願日】2016-10-21
(86)【国際出願番号】 FR2016052728
(87)【国際公開番号】W WO2017068296
(87)【国際公開日】2017-04-27
【審査請求日】2019-10-04
(32)【優先日】2015-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】516065504
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ グルノーブル アルプ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】オネゲル ティボー
(72)【発明者】
【氏名】メゾネーヴ ブノワ
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0174994(US,A1)
【文献】特開2012-120474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒液中に浮遊した状態の細胞又は微粒子の少なくとも1つの集団を含む試料を封入するように意図されたマイクロ流体デバイス(10)の製造方法であって、前記マイクロ流体デバイス(10)は、
・ 前記試料を含む前記分散媒液を受け取るように適合された、直径D
inの円筒形入力タンクに対応する入力ゾーン(1)と、
・ 表面積S
ch及び長さL
chの円形基部(51)と、高さH
chの側壁(52)とを有し、前記試料の少なくとも一部を内部に封入し、長さL
in、高さH
in及び幅W
inの第1のチャネル(2)を通じて前記入力ゾーン(1)と連通する円筒形状の封入ゾーン(5)と、
・ 前記試料を含む前記分散媒液を放出するように適合され、直径D
outの円筒形出力タンクに対応し、長さL
out、高さH
out及び幅W
outの第2のチャネル(3)を通じて前記封入ゾーン(5)と連通する出力ゾーン(4)と、
を備え、
前記方法は、封入すべき細胞又は微粒子の選択された量の関数として前記デバイス(10)を製造することを含み、
A.前記長さL
chと、前記高さH
chによって定められるサイズを有する前記封入ゾーン(5)であって、前記長さL
chと、前記高さH
chは、封入すべき細胞又は微粒子の選択された量と、前記封入ゾーン(5)の前記基部(51)の前記細胞又は微粒子による選択されたカバー率φとの関数である、前記封入ゾーン(5)を形成するステップ
であって、該ステップAは、
A1)前記封入ゾーン(5)の前記基部の前記表面積S
ch
を以下のストークス式(5)に従って決定するステップを含み、
【数1】
式中、
- φは、前記基部(51)のカバー率であり、
- rは、粒子又は細胞の半径であり、
- Nは、以下の式(6)によって定義される、封入すべき神経細胞又は細胞の数であり、
【数2】
式中、
- φは、前記試料中の細胞又は神経細胞の濃度であり、
- Vは、以下の式(7)によって定義される、瞬間tにおいて前記マイクロ流体デバイス(10)に流入した前記試料の体積であり、
【数3】
式中、
- Qは、前記マイクロ流体デバイス(10)における前記試料の流量である、ステップAと、
B.前記第1のチャネル(2)及び前記第2のチャネル(3)のサイズを決定するステップと、
を含み、前記ステップBは、
・b1)前記封入すべき細胞又は微粒子の、微粒子又は細胞の沈降速度v
sediを計算するステップと、
・b2)前記封入ゾーン(5)における前記分散媒液の速度v
chを前記粒子又は細胞の沈降速度v
sediの関数として以下の式(1)に従って決定するステップと、
【数4】
・b3)前記入力ゾーン(1)と前記出力ゾーン(4)との間に注入される媒液の体積の関数として、前記デバイスにおいて、前記封入ゾーン(5)における適切な流れを確立するために必要な損失水頭ΔZを
以下の式(2)に基づいて決定するステップ
であって、
【数5】
式中のW、H及びLは、チャネルの幅、高さ及び長さを表し、Qは、分散媒液の体積流量を示し、gは重力加速度を示し、η及びρは、液体の動的粘度及び密度をそれぞれ示し、λは、以下の式に従って低レイノルズ数を概算する摩擦係数を示す、
【数6】
ステップと、
・b4)前記分散媒液のΔZ及び前記速度v
chから、
以下の式(2’)に基づいて、前記マイクロ流体デバイス(10)の前記第1のチャネル(2)及び前記第2のチャネル(3)の幾何学的パラメータを決定するステップであって、該幾何学的パラメータは、前記第1のチャネル(2)の前記長さL
in、前記高さH
in及び前記幅W
inと、前記第2のチャネル(3)の前記長さL
out、前記高さH
out及び前記幅W
outを含む、ステップ
であって、
【数7】
式中、
- Qは、以下の式(9)によって定義される、前記デバイス(10)における一定の流体流量であり、
【数8】
であるステップと、
を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記封入ゾーン(5)の前記サイズを決定するステップA
は、
A2)前記マイクロ流体デバイス(10)のユーザが、前記高さH
chの壁部の前記高さH
chを前記封入ゾーン(5)における好ましい体積の量と関連する製造制約との関数として固定するステップをさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子又は細胞の沈降速度v
sediは、下位ステップb1)において以下のストークス式(8)に従って計算され、
【数9】
式中、
- rは、粒子又は細胞の半径であり、
- ηは、前記分散媒液の動的粘度であり、
- Δρは、前記封入すべき粒子又は細胞の密度と前記分散媒液の密度との間の密度差である、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記マイクロ流体デバイス(10)の前記幾何学的パラメータを決定する前記ステップb4)は、
・b41)前記マイクロ流体デバイス(10)の7つの幾何学的パラメータを8つの幾何学的パラメータD
in、H
in、W
in、L
in、D
out、H
out、L
out及びW
outの中から選択する下位ステップと、
・b42)残りの未知の幾何学的パラメータを前記分散媒液の損失水頭ΔZ及び前記速度v
chの関数として
上記式(2’)に基づいて計算する下位ステップと、
を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記未知のパラメータは、以下の式(4)に従って計算されるL
outである、
【数10】
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記試料は、細胞培養液中に浮遊した状態の、或いは塩水又は真水に関わらず水、溶媒、ヒドロゲル又は有機骨格、或いはポリマー中に浮遊した状態の神経細胞及び真核細胞から選択された細胞の集団から成る生体試料である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料は、金属微粒子から選択された、或いは半導体材料又はポリエチレングリコール(PEG)で形成された、塩水又は真水に関わらず水、溶媒、ヒドロゲル又は有機骨格、或いはポリマー中に浮遊した状態の微粒子の集団から成る非生体試料である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記封入ゾーン(5)は、少なくとも1つの単離チャンバ(7)内の前記試料を通過させて戻さない液圧抵抗を有する少なくとも1つのさらなるチャネル(6)を通じて前記単離チャンバ(7)に接続される、
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記単離チャンバ(7)は、さらなるマイクロ流体デバイスの封入ゾーンである、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記単離チャンバは、さらなる試料を含む、
請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法によって形成された、前記表面積S
ch、前記長さL
ch、前記高さH
chを有する前記封入ゾーン(5)と、前記長さL
in、前記高さH
in、前記幅W
inを有する前記第1のチャネル(2)と、前記長さL
out、前記高さH
out、前記幅W
outを有する前記第2のチャネル(3)とを有する、前記マイクロ流体デバイス(10)の、前記封入ゾーン(5)内の前記試料と前記単離チャンバ(7)内の前記さらなる試料との間の相互作用を研究するための、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を封入するためのマイクロ流体デバイスのサイズ決定方法に関する。
【0002】
本発明では、2種類の試料について検討する。この方法では、封入すべき試料が、
- 分散媒液中に浮遊した状態の細胞集団(例えば、細胞培養液中に浮遊した状態の神経細胞及び真核細胞におけるもの、この試料は生体試料である)又は微粒子集団のいずれか、
- 或いは細胞培養液に含まれる少なくとも1つの外植片から成る生体試料、
から成ることができる。
【0003】
本発明における生体試料とは、遺伝情報を含んで自力での生殖が可能な、又は生体系内での生殖が可能な試料を意味する。
【背景技術】
【0004】
神経工学における大きな難題の1つは、集団(n>100細胞/ml)内の神経細胞の細胞体(ソーマ)の、各ソーマの濃度、空間的位置決め及び位置決めの均一性に関する位置決めの制御である。この難題は、神経回路網のインビトロ研究を、より一般的には脳のラポール構造/機能の研究を著しく制限するものである。
【0005】
当業者であれば、細胞培養のためのソーマの位置決め技術を複数知っている。とりわけ、最も広く使用されている技術は、特にマイクロ流体チップを用いて神経細胞の位置決めとその後の培養とを行うことから成るが、細胞の位置決め及び密度を正確に制御できず、従って当業者の関心が限られている(文献[1]~[3])。
【0006】
また、当業者であれば、マイクロ流体チップのタイプによっては、2つの神経細胞集団を接続する(文献[4]、[5])ものもあれば、神経細胞集団を共に接続せずに細胞体と軸索とを分離する(文献[1]~[3])ものもあることも知っている。
【0007】
第2の神経細胞培養技術は、マイクロピラーを実装したマイクロ流体チップを用いて神経細胞を界面で分離する(文献[6])。マイクロピラーの位置決めによって細胞の位置決めも可能になるものの、神経細胞は個々に位置決めされ、従って集団全体を平均密度又は高密度で培養することが妨げられ、この技術についての関心も限られている。
【0008】
第3の神経細胞培養技術は、神経細胞が沈着したシリコンビーズを利用する。これらのボールを組み合わせることによって神経回路網が構築される。しかしながら、このような技術では神経細胞の数及び密度が制限され、神経回路網の構造が制御されず、細胞体が軸索によって分離されない(文献[6]、[8])。
【0009】
第4の技術は、マイクロ流体構成内で分離できる適合した骨格内でこれらの骨格の層流を通じて神経細胞の培養を行った後に冷凍することから成る(文献[9])。しかしながら、これらの技術は、培養物中の流体の均質性に起因して細胞共培養を行うのが困難であり、最終的な神経回路網のアクセス可能なサイズが限られるという理由で限界がある。
【0010】
最後に、第5の技術は、マイクロチャンバ内で神経細胞の培養を行って神経スフェロイドを形成し、これらの神経スフェロイドを組織ブロックに組み合わせて培養物を作り直した後に、この培養物を他のブロックに組み合わせることから成る。しかしながら、この技術には、時間が掛かるとともに複数の培養レベルが必要であるという不利点がある。また、この技術では、神経細胞の密度の制御及び軸索の細胞体の分離もできない(文献[10])。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、神経細胞が初代細胞であるか、それとも細胞株であるかに関わらず、その細胞体の集団全体の規模での、マイクロ流体チャンバ内での、制御された表面密度又は体積密度での制御された位置決めを可能にすることによって上記の不利点を排除することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のために、本出願人は、分散媒液中に浮遊した状態の神経細胞などの細胞の流れを最適化するためのマイクロ流体デバイス(又はマイクロ流体チップ)のサイズ決定方法を開発した。
【0013】
封入すべき試料が、分散媒液中に浮遊した状態の細胞又は微粒子の集団から成る場合には、
・ 試料を含む分散媒液を受け取るように適合された、直径Dinの円筒形入力タンクに対応する入力ゾーンと、
・ 面積Sch及び長さLchの基部と、高さHchの側壁とを有し、試料の少なくとも一部を内部に封入し、長さLin、高さHin及び幅Winの第1のチャネルを通じて入力ゾーンと連通する封入ゾーン(又は沈着チャンバ)と、
・ 試料を含む分散媒液を放出するように適合され、直径Doutの円筒形出力タンクに対応し、長さLout、高さHout及び幅Woutの第2のチャネルを通じて封入ゾーンと連通する出力ゾーンと、
を含むマイクロ流体デバイス(又はマイクロ流体チップ)を使用する。
【0014】
利点として、封入ゾーンは、Lch=Dchであるような直径Dchの円形基部を含む円筒形状を有することができる。しかしながら、他の幾何学的形状も可能である。
【0015】
従って、この場合、本発明の目的は、このようなマイクロ流体デバイスのサイズ決定方法であって、
A.封入ゾーンを特徴付ける表面D
chと高さH
chとを定めるように、封入すべき細胞又は微粒子の好ましい量と、封入ゾーンの基部の細胞又は微粒子による好ましいカバー率φとの関数として封入ゾーンのサイズを決定するステップと、
B.第1のチャネル及び第2のチャネルのサイズを決定するステップと、
を含み、このステップBが、
・b1)粒子又は細胞の沈降速度v
sediを計算するステップと、
・b2)封入ゾーンにおける分散媒液の速度v
chを粒子又は細胞の沈降速度v
sediの関数として以下の式(1)に従って決定するステップと、
【数1】
・b3)入力ゾーンと出力ゾーンとの間に注入される、封入ゾーンにおける適切な流れを構築するために必要な媒液の体積ΔZの関数として、デバイスにおける
損失水頭を決定するステップと、
・b4)分散媒液のΔZ及び速度v
chから、マイクロ流体デバイスの幾何学的パラメータを決定するステップと、
を含む、方法である。
【0016】
本発明において、マイクロ流体デバイスの幾何学的パラメータとは、上述したマイクロ流体デバイスの形態及び寸法を特徴付けるパラメータであるDin、Hin、Win、Lin、Dout、Hout、Lout及びWoutを意味する。
【0017】
本発明において、十分な流れとは、細胞又は粒子を前記出力ゾーンに引き寄せることなく、又はこの時点で出力ゾーンに出て行く細胞の損失を最小化することなく、封入ゾーン内における細胞又は粒子の沈着を可能にする流れを意味する。ここでは、十分な流れが入力タンクと出力タンクとの間の体積差によって引き起こされる。流れを可能にするために、外部ポンプシステムを使用することもできる。
【0018】
本発明による方法の最初のステップは、封入ゾーンを特徴付ける面積Dchと高さHchとを定めるように、封入すべき細胞又は微粒子の好ましい数と、封入ゾーンの基部の細胞又は微粒子による好ましいカバー率φとの関数として封入ゾーン(又は沈着チャンバ)のサイズを決定するステップである。
【0019】
本発明において、封入ゾーンの基部のカバー率φとは、封入ゾーンの基部の全表面に対する、基部に沈着した粒子によって覆われた表面の比率φを意味する。
【0020】
その他の点では、封入ゾーンのサイズが、選択された用途の関数として決定される。このサイズは、半径及び高さが数十マイクロメートルから数ミリメートルまで様々とすることができる。
【0021】
利点として、このサイズ決定ステップAは、
A1)封入ゾーンの基部の表面S
chを以下のストークス式(5)に従って決定するステップを含み、
【数2】
式中、
- φは、基部のカバー率φであり、
- rは、粒子又は細胞の半径であり、
- Nは、以下の式によって定義される、封入すべき神経細胞又は細胞の数であり、
【数3】
式中、
- φは、前記試料中の細胞又は神経細胞の(実験の開始時に測定された)濃度であり、
- Vは、以下の式によって定義される、瞬間tにおいて前記マイクロ流体デバイスに流入する試料の体積であり、
【数4】
式中、
- Qは、前記マイクロ流体デバイスにおける試料の流量であり、
このステップAは、
A2)マイクロ流体デバイスのユーザが、高さH
chの壁部の高さH
chを封入ゾーンにおける好ましい体積の量と関連する製造制約との関数として固定するステップをさらに含むことができる。
【0022】
本発明による方法の第2のステップb2)は、第1及び第2のチャネルのサイズを決定するステップである。このステップBは、いくつかの下位ステップを含む。
【0023】
最初の下位ステップは、粒子又は細胞の沈降速度vsediを計算するステップb1)である。
【0024】
利点として、粒子又は細胞の沈降速度v
sediは、以下のストークス式(8)に従って計算することができ、
【数5】
式中、
- rは、粒子又は細胞の半径であり、
- ηは、前記分散媒液の動的粘度であり、
- Δρは、封入すべき粒子又は細胞の密度と分散媒液の密度との間の密度差である。
【0025】
第2の下位ステップは、前記封入ゾーンにおける分散媒液の速度V
chを計算するステップb2)である。この決定は、下位ステップb1)において計算された沈降速度v
sediから、以下の式(1)に従って行われる。
【数6】
【0026】
実際には、試料全体を封入ゾーンに封入するには、式1に従って、封入ゾーンにおける分散媒液の流速Vchが、沈降速度vsediに封入ゾーン(又はチャンバ)の高さHchと長さDchとの比率を乗じたもの以下でなければならないことが分かっている。
【0027】
式(1)は、本発明によるマイクロ流体デバイスの3つの動作形態を決定する。本発明によるマイクロ流体デバイスの(後述するような)
損失水頭を決定するための幾何学的特性と動作条件(試料の入力体積及び細胞又は微粒子の濃度)とを考慮すると、デバイスは、生体試料の一部のみをチャンバ5に封入するよう、
【数7】
或いは本発明の目的のように生体試料全体を封入ゾーンに均一に封入するよう、
【数8】
又は不均一に封入するよう、
【数9】
に設計することもできる。
【0028】
第3の下位ステップは、入力ゾーンと出力ゾーンとの間に注入される、封入ゾーンにおける適切な流れを構築するために必要な媒液の体積ΔZの関数として、本発明によるマイクロ流体デバイスにおける損失水頭を決定するステップb3)である。この損失水頭は、本発明によるマイクロ流体デバイスの使用中に注入される分散媒液の量によって設定される。
【0029】
第4の下位ステップは、分散媒液のΔZ及び速度vchから、前記マイクロ流体デバイスの幾何学的パラメータであるDin、Hin、Win、Lin、Dout、Hout、Lout及びWoutを決定するステップb4)である。
【0030】
この決定のために考慮される損失水頭は、一般的な損失水頭である。本発明において、特殊な損失水頭は無視される。
【0031】
一般的な損失水頭は、第1及び第2のチャネルの壁部に対する液体の摩擦と密接に関連する。マイクロ流体デバイス全体を通じて液体流が層状である低レイノルズ数(Re<<1)を有する形態では、これらの形態の
一般的な損失水頭が、以下の一般式(2)によって大まかに推定され、
【数10】
式中のW、H及びLは、チャネルの幅、高さ及び長さを表し、Qは、分散媒液の体積流量を示し、gは重力加速度を示し、η及びρは、液体の動的粘度及び密度をそれぞれ示し、最後にλは、以下の式に従って低レイノルズ数を概算する摩擦係数を示し、
【数11】
この摩擦係数λは、本発明によるマイクロ流体デバイスのチャネル毎に計算される。
【0032】
また、
特殊な損失水頭は基本的に配管事故に起因し、マイクロ流体デバイスの異なる要素間の形状の変化に関連する。通常、これらの
損失水頭は以下の式によって推定される。
【数12】
【0033】
この式では、vが、関連する区分内の液体の速度を表し、gが、重力加速度を示し、Kが、特殊な損失水頭のタイプに依存するパラメータである。なお、パラメータKは、配管事故のタイプ(突然の収縮、突然の拡張、突然の屈曲、湾曲など)の関数として推定され、このパラメータKの推定は、配管事故のタイプの関数とは異なる、当業者に周知の公式によって行われる。
【0034】
上述した式(2)及び(2の2)から明らかなように、損失水頭は、マイクロ流体デバイスのチャネルの寸法のみならず、一般的な損失水頭に関連する、液体の体積流量、動的粘度及び密度、並びに特殊な損失水頭及びこれらの特殊な損失水頭のタイプに関連する区分内の液体の速度にも依存する。
【0035】
下位ステップb4)の、本発明によるマイクロ流体デバイスの幾何学的パラメータを決定するステップは、
・B41)マイクロ流体デバイスの7つの幾何学的パラメータを8つの幾何学的パラメータDin、Hin、Win、Lin、Dout、Hout、Lout及びWoutの中から(封入ゾーンの幾何学的形状の関数として)選択するステップと、
・B42)残りの未知の幾何学的パラメータを分散媒液のΔZ及び速度vchの関数として計算する下位ステップと、
によって有利に行うことができる。
【0036】
本発明の範囲内では、特殊な損失水頭が無視され、マイクロ流体デバイス内の分散媒液の流れが層状であるという仮定が出発点である。
【0037】
このように、この点(分散媒液の
一般的な損失水頭ΔZ及び層流)については、下位ステップb42)において、一般式(2)から導出された以下の式(2’)から未知のパラメータを計算することができ、
【数13】
式中、
- Qは、以下の式(9)によって定義される、デバイスにおける一定の流体流量であり、
【数14】
- gは、重力加速度を示し、
- ηは、分散媒液の動的粘度を示し、
- ρは、分散媒液の密度を示し、
- L
chは、封入ゾーンの幅を示し(封入ゾーンが円形形状である場合には、L
ch=W
ch=D
chである)、
- λは、以下の式(3)に従って低レイノルズ数について計算された摩擦係数を示す。
【数15】
【0038】
未知のパラメータをL
outとする選択が行われた(他のパラメータであるD
in、H
in、W
in、L
in、D
out、H
out及びW
outは確定している)場合には、以下の式(4)に従ってL
outを計算することができる。
【数16】
【0039】
上述したように、封入すべき試料は、分散媒質中に浮遊した状態の細胞又は微粒子の集団から成る。この試料は、非生体試料とすることも、又は生体試料とすることもできる。
【0040】
この本発明による方法の実施形態の第1の変形形態によれば、試料は、細胞培養液中に浮遊した状態の、或いは塩水又は真水に関わらず水、溶媒、ヒドロゲル又は有機骨格、或いはポリマー中に浮遊した状態の神経細胞及び真核細胞から選択された細胞の集団から成る生体試料とすることができる。利点として、生体試料は、ミリリットル当たり100細胞~ミリリットル当たり1010細胞に及ぶ細胞の集団を含むことができる。生体試料内の細胞のタイプに関わらず、細胞の沈降速度は、ブラウン運動によって誘発される速度よりも速くなければならない。
【0041】
この本発明による方法の実施形態の第2の変形形態によれば、試料は、金属微粒子から選択された、或いは半導体材料又はポリエチレングリコール(PEG)で形成された、塩水又は真水に関わらず水、溶媒、ヒドロゲル又は(例えば、コラーゲンタイプの)有機骨格、或いはポリマー中に浮遊した状態の微粒子の集団から成る非生体試料とすることができる。
【0042】
利点として、封入ゾーンは、単離チャンバ内の試料を通過させて戻さない液圧抵抗を有する少なくとも1つのさらなるチャネルを通じて少なくとも1つの単離チャンバに接続することができる。
【0043】
利点として、この単離チャンバは、さらなるマイクロ流体デバイスの封入ゾーンとすることができる。
【0044】
利点として、この単離チャンバは、さらなる試料を含むことができる。この場合、このようにしてサイズ決めされたマイクロ流体デバイスを、封入ゾーン内に配置された初期試料と単離チャンバ内のさらなる試料との間の相互作用の研究に使用することができる。
【0045】
本発明によるサイズ決定法は、様々な分野で使用することができる。例えば、試料が生体試料である場合、本発明による方法は、生体試料が神経細胞集団を含む場合には神経科学の分野において、或いは生体試料が癌細胞集団を含む場合には癌腫学の分野において使用することができる。試料が非生体試料である場合、本発明による方法は、例えば非生体試料が金属粒子集団を含む場合には光通信学の分野において使用することができる。
【0046】
試料が、細胞培養液中に含まれる少なくとも1つの外植片から成る生体試料である場合には、第1の実施形態において使用されるものとは異なる、試料の性質に合わせて特に適合されたマイクロ流体デバイス(又はマイクロ流体チップ)が使用される。このようなデバイスは、
・ 試料を含む細胞培養液を受け取るように適合された、直径Dinの円筒形入力タンクに対応する入力ゾーンと、
・ 内部に封入ゾーンが配置され、一方で前記入力ゾーンと連通し、他方で以下の第2のチャネルと連通する、長さLin、高さHin及び幅Winの第1のチャネルと、
・ 一方で前記第1のチャネルと連通し、他方で前記試料を含む液体を放出するように適合された出力ゾーンであって、直径Doutの円筒形出力タンクに対応する出力ゾーンと連通する、長さLout、高さHout及び幅Woutの第2のチャネルと、
を含む。
【0047】
この場合、本発明の目的は、このようなマイクロ流体デバイスのサイズ決定方法であって、
A.前記マイクロ流体デバイスに封入すべき外植片を選択するステップと、
B.前記外植片を生存のために必要な量の分散媒液と共に導入できるように前記入力ゾーンのサイズを決定するステップと、
C.試料の少なくとも一部が第1のチャネルの前記封入ゾーンに封入され、入力ゾーンに導入された細胞培養液が第1のチャネル、封入ゾーン、第2のチャネルを通じて出力ゾーンに向かって流れることができるように、第2のチャネルの幅Wout及び/又は高さHoutが第1のチャネルの幅Win及び/又は高さHinよりもそれぞれ小さくなるように前記第1及び第2のチャネルのサイズを決定するステップと、
を含む方法である。
【0048】
利点として、第2のチャネルの幅Wout及び/又は高さHoutは、外植片の寸法よりも小さくすることができる。
【0049】
利点として、第1のチャネルの幅Win及び/又は高さHinは、外植片の寸法よりも少なくとも1%だけ大きくすることができる。
【0050】
利点として、マイクロ流体デバイスの出力ゾーンは、計画する用途にとって培養液の流れが十分になるように、前記細胞培養液の吸引を可能にするように適合することができる。
【0051】
本発明のこの実施形態において、十分な流れとは、出力吸引による流れを意味する。流れを容易にするために、外部ポンプシステムを利用することもできる。
【0052】
この本発明による第2のサイズ決定法において生体試料として使用できる外植片の特定の例は、組織、網膜、神経節又は海馬である。
【0053】
添付図及び対応する実施例を参照しながら非限定的な例として示す以下の説明から、本発明のその他の利点及び特定の特徴が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明の方法の第1の実施形態に従ってサイズ決めされたマイクロ流体デバイスの一例の概略断面図、及びこの同じデバイスの平面図である。
【
図2】
図1に示すマイクロ流体デバイスの封入ゾーン(又は沈着チャンバ)の写真である。
【
図3】本発明の方法の第2の実施形態に従ってサイズ決めされたマイクロ流体デバイスの一例の概略断面図及び概略平面図である。
【
図4】外植片が神経節である場合の
図3のマイクロ流体デバイスの封入ゾーンの写真である。
【
図5】外植片が海馬である場合の
図3のマイクロ流体デバイスの封入ゾーンの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1~
図8に示す同一の要素は、同一の参照番号によって識別する。実施例1では、
図1及び
図2についてさらに詳細に解説し、実施例2では、
図3~
図5についてさらに詳細に解説する。
【実施例1】
【0056】
第1の実施形態:神経細胞の沈着に使用することを考慮した(
図1及び
図2に示す)マイクロ流体チップのサイズ決定。
【0057】
デバイス
本発明による方法(第1の実施形態)に従ってサイズ決めされたマイクロ流体デバイス10を神経細胞の沈着に使用する。
【0058】
図1には、とりわけ本発明の方法の第1の実施形態に従ってサイズ決めされたマイクロ流体デバイス10の例を(断面図及び平面図で)示す。
図2は、神経細胞の沈着の場合に使用する沈着チャンバ5の写真である。
【0059】
このマイクロ流体デバイス10は、生体試料を含む液体を受け取るように適合された入力ゾーン1と、この液体を放出するように適合された出力ゾーン4とを含む。入力ゾーン1及び出力ゾーン4は、同じ直径と異なる高さ(入力ゾーン1の高さの方が出力ゾーン4の高さよりも低い)とを有する円筒形タンクに対応する。具体的に言えば、入力ゾーン1に対応するタンクの直径Dinは、出力ゾーン4に対応するタンクの直径Doutと同じである。しかしながら、入力ゾーン1及び出力ゾーン4は、異なる直径を有することもできる。また、入力ゾーン1及び/又は出力ゾーン4は、円筒形以外の形態(例えば、正方形)を有することもできる。
【0060】
なお、入力ゾーン1の寸法(高さ及び断面)は、入力ゾーン1内に導入される生体試料に関連して選択され、入力ゾーン1の寸法は神経細胞のインビトロ研究を行うためにこれらの神経細胞が封入ゾーン(又は沈着チャンバ)において12時間~48時間に及ぶ期間(ただしこれらの期間に限定されるわけではない)にわたって生き残るために必要な、細胞培養液に含まれる全ての栄養素を蓄積できるようなものであることが好ましい。
【0061】
図1のマイクロ流体デバイス10は、生体試料を封入する封入ゾーン(又は沈着チャンバ)5をさらに含む。具体的に言えば、
図1の例では、チャンバ5が、長さD
chと高さH
chとを有する円筒形を有する。なお、
図1の例では、(円筒形チャンバの直径に対応する)長さD
chが、入力ゾーン1の直径D
in及び出力ゾーン4の直径D
outよりも小さい。しかしながら、長さD
chは、入力ゾーン1の直径D
in及び出力ゾーン4の直径D
out以上とすることもできる。また、チャンバ5は、例えば細長い形、三角形、正方形又は五角形などの他の形態を有することもできる。
【0062】
また、チャンバ5の寸法(高さ及び長さ)は、入力ゾーン1によって受け取られてこのチャンバ5に封入すべき液体の体積の関数として決定され、数マイクロメートルから数センチメートルまで様々とすることができる。
【0063】
また、
図1には、チャンバ5が第1のチャネル2と第2のチャネル3との間に配置され、第1のチャネル2が入力ゾーン1とチャンバ5とを接続し、第2のチャネル3がチャンバ5と出力ゾーン4とを接続していることも示す。第1のチャネル2は、高さH
in、長さL
in及び幅W
inを有し、第2のチャネル3は、高さH
out、長さL
out及び幅W
outを有する。第1及び第2のチャネルは、入力ゾーン1及び出力ゾーン4の高さよりも低い高さを有し、入力ゾーン1によって受け取られた液体が第1のチャネル2、チャンバ5、第2のチャネル3を通じて出力ゾーン4に向かって流れるように互いに相対的に配置される。
【0064】
なお、
図1のマイクロ流体デバイス内の液体の流れは、入力ゾーン1の残りの量の液体を除去するか、或いは出力ゾーン4に同等の量の液体を追加するかによっていつでも停止することができる。
【0065】
また、
図1の例では、第1のチャネル2の高さH
in及び幅W
inが、第2のチャネル3のそれぞれの高さH
out及び幅W
outよりも大きく、第1のチャネル2の長さL
inが、第2のチャネル3の長さL
outと同じである。なお、別の例では、第1のチャネル2の高さH
in及び幅W
inを、第2のチャネル3のそれぞれ高さH
out及び幅W
out以下にし、第1のチャネル2の長さL
inを、第2のチャネル3の長さL
outよりも長く又は短くすることもできる。
【0066】
図1のマイクロ流体デバイス10の封入ゾーン(チャンバ5)の上流に第1のチャネル2が存在して下流に第2のチャネル3が存在することにより(「上流」及び「下流」という用語は、入力ゾーン1によって受け取られた液体の上述した流れの方向に関連して決定される)、具体的にはこれらの2つのチャネルの寸法(すなわち、高さ、長さ及び幅)を十分に適合させることにより、封入ゾーンに封入される生体試料の空間分布を制御することによってこの封入ゾーンに生体試料の少なくとも一部が封入されることが分かっている。とりわけ、第1のチャネル2及び第2のチャネル3のそれぞれの寸法をマイクロ流体デバイス10内の
損失水頭の関数として適合させることで、チャンバ5内の液体流の速度を制御できるとともに、この速度の制御により、このチャンバ5内の生体試料の空間分布を液体流の最中に制御できるようなマイクロ流体デバイス10が得られることが分かっている。なお、チャンバ5内の液体流の速度は、マイクロ流体デバイス10の入力ゾーン1内の液体の体積と出力ゾーン4内の液体の体積との差分に依存する。このように、チャンバ5内の液体流の速度の制御は、この入力ゾーン1における液体の体積と出力ゾーン4における液体の体積との差分によって行うことができる。
この液体の体積差の制御は、入力ゾーン1又は出力ゾーン4から一定量の液体を除去するか、或いはこれらのゾーンに一定量の液体を追加するかによって行うことができる。
【0067】
試料
この例において実装した試料は、
- Neurobasal、b27、L-システイン及びPen/Strepを含む細胞培養液
- の中に浮遊した状態の5.107神経細胞/mL、
を含む神経細胞の培地である。
【0068】
図1及び図2のマイクロ流体チップの試料の関数としてのサイズ決定
図1のマイクロ流体デバイス10の沈着チャンバ5に神経細胞集団を封入した例を
図2の写真によって示しており、このチップ10では、入力ゾーン1の直径と出力ゾーン4の直径とが同じではない。
【0069】
具体的に言えば、
図2の写真は、200μmの長さのスケールバー11と、チャンバ5(封入ゾーン)に封入された細胞とを示すものである。これらの細胞は、約10μmの寸法及び95%の表面密度の神経細胞である。
【0070】
図2のように、封入ゾーンは4つのゾーン(
図2のゾーン(A)、(B)、(C)、(D)を参照)に分離される。
【0071】
図2に示すように、神経細胞は、封入ゾーンの表面を均一に覆う。なお、この封入ゾーンにおける均一な封入を得るために、第1のチャネル及び第2のチャネルの寸法は、チャンバ5内の液体の流速v
chを制御できるマイクロ流体デバイス10を提供するように適合されている。とりわけ、
図2の例の均一な封入の場合には、チャンバ5内の液体の流速v
chが、生体試料の沈降速度v
sediにチャンバ5の高さH
chと長さD
chとの割合を乗じたもの以下になるように(式1に従って)制御される。
【0072】
なお、第1のチャネル及び第2のチャネルの寸法の適合は、上述した式(2’)及び(4)の損失水頭と、神経細胞の濃度及び寸法と、入力ゾーン1、出力ゾーン4及びチャンバ5の寸法とを考慮して行ったものである。
【0073】
具体的に言えば、
図1に示すマイクロ流体チップ10は、
- 流入チャネル2が、100μmの高さH
inと、120μmの幅W
inと、1500μmの長さL
inとを有し、
- 流出チャネル3が、20μmの高さH
outと、120μmの幅W
outとを有し、
- 沈着チャンバ5も円筒形であって、100μmの高さと、500μmの直径とを有し、
- 入力ゾーン1も円筒形であって、5mmの高さD
inと、4mmの直径とを有し、出力ゾーン4も円筒形であって、4mmの高さと、4.5mmの直径D
outとを有する、
という特徴を有する。
【0074】
Loutは、式(2’)から開始する本発明によるサイズ決定法に従って計算される。
【0075】
この例では、最初に確定したパラメータが、Din、Hin、Win、Lin、Dout、Hout及びWoutであった。
【0076】
しかしながら、Loutとは異なる別の未知のパラメータを計算して他の7つの残りのパラメータを確定することもできる。
【0077】
沈着チャンバ5内の細胞培養液の流速は41・10-5m/sであり、この速度は、入力ゾーン1に20μLの体積の液体を導入することによって得られたものである。
【0078】
なお、Taylor他による公表文献[1]のマイクロ流体デバイスには、本発明に従ってサイズ決定されるマイクロ流体デバイス10に存在するような、Taylor封入ゾーン(培養チャンバ)に接続された第1のチャネル及び第2のチャネル等が存在しない。
Taylorのデバイスでは、封入ゾーンにおける試料の空間分布を制御することによってこの封入ゾーン内に試料を封入することができない。
【0079】
チャンバ5における液体流の速度を制御すると、このチャンバ5における生体試料の空間分布を液体流の最中に制御できるようになる。
【0080】
実験プロトコル
細胞の成長には、あらゆる形の汚染を避けるために無菌培地が必要である。マイクロ流体チップは、組み立てると無菌ではなくなり、従って使用前に滅菌する必要がある。
【0081】
このため、この神経細胞の沈着例において使用するマイクロ流体チップ10(
図2に示すのはその沈着チャンバ5である)を(無菌層流を含むフードなどの)無菌環境に導入し、チャネル2、3及び沈着チャンバ5内の水に取って代わるように充填ゾーンにエタノールを導入する。次に、エタノールを無菌水で3回すすいだ後に、チップ10を30分にわたってUVに曝す。
【0082】
次に、細胞の培養を促すために沈着チャンバの表面を官能化することができる。
【0083】
チップ10の準備が整うと、予め定めた体積の試料(0.5mL~10mL)を充填ゾーン(入力ゾーン1)内に堆積させ、流れを生じさせて細胞の沈着を開始する。
【0084】
この流れは、入力ゾーン1に残っている量の液体を除去するか、或いは出力ゾーンに同等の量を追加するか(入力と出力との間で静水圧を均等化すること)によっていつでも停止することができる。
【実施例2】
【0085】
第2の実施形態:外植片の沈着に使用することを考慮した(
図3~
図5に示す)マイクロ流体チップのサイズ決定。
【0086】
デバイス
本発明による方法(第2の実施形態)に従ってサイズ決めされたマイクロ流体デバイス10を外植片の沈着に使用する。
【0087】
図3には、とりわけ本発明の方法の第2の実施形態に従ってサイズ決めされたマイクロ流体デバイス10の例を(断面図及び平面図で)示す。
【0088】
図3に示すように、マイクロ流体デバイス10は、生体試料を含む液体を受け取るように適合された入力ゾーン1と、この液体を放出するように適合された出力ゾーン4とを含む。入力ゾーン1及び出力ゾーン4は、同じ直径と同じ高さとを有する円筒形タンクに対応する。具体的に言えば、入力ゾーン1に対応するタンクの直径D
inは、出力ゾーン4に対応するタンクの直径D
outと同じである。
【0089】
しかしながら、入力ゾーン1及び出力ゾーン4は、異なる直径及び/又は高さを有することもできる。また、入力ゾーン1及び/又は出力ゾーン4は、円筒形以外の形態(例えば、正方形)を有することもできる。
【0090】
なお、入力ゾーン1の寸法(高さ及び直径)は、
図1のマイクロ流体デバイス10の入力ゾーン1の場合と同様に、生体試料がこの入力ゾーン1を通じて
図3のマイクロ流体デバイス10に流入できるように、この入力ゾーン1によって受け取られる外植片(特に、神経節又は海馬)の寸法に関連して選択される。
【0091】
また、
図1のマイクロ流体デバイス10の入力ゾーン1の場合と同様に、
図3のマイクロ流体デバイス10の入力ゾーン1の寸法は、細胞のインビトロ研究を行うために外植片が封入ゾーンにおいて12時間~48時間とすることができる期間(ただしこれらの期間に限定されるわけではない)にわたって生き残るために必要な、液体に含まれる多くの栄養素を蓄積できるように十分なものであることが好ましい。
【0092】
図3のマイクロ流体デバイス10は、外植片を封入する封入ゾーン5をさらに含む。この封入ゾーンは、第1のチャネル2の空間に対応し(例えば、以下の
図4及び
図5の例における第1のチャネル2の下流の空間を参照)、この封入ゾーン5の寸法は、数マイクロメートルから数センチメートルまで様々とすることができる。
【0093】
また、マイクロ流体デバイス10は、入力ゾーン1及び出力ゾーン4の高さよりもそれぞれ低い高さを有する第1のチャネル2及び第2のチャネル3も含む。また、
図3に示すように、第1のチャネル2は、高さH
in、長さL
in及び幅W
inを有し、第2のチャネル3は、高さH
out、長さL
out及び幅W
outを有する。
【0094】
また、
図3のマイクロ流体デバイス10の第1のチャネル2及び第2のチャネル3は、入力ゾーン1を通じて導入された外植片を含む細胞培養液が第1のチャネル2、封入ゾーン、第2のチャネル3を通じて出力ゾーン4に向かって流れるように互いに相対的に配置される。
【0095】
なお、
図3のマイクロ流体デバイス内の液体の流れは、入力ゾーン1に残っている量の液体を除去するか、或いは出力ゾーン4に同等の量の液体を追加するかによっていつでも停止することができる。
【0096】
また、出力ゾーン4は、マイクロ流体デバイス10内の液体の速度を高めるため、液体を吸引することができるように適合させることもできる。とりわけ、この液体の吸引は、ピペット、ノズル又は吸引毛管を用いて行うことができ、出力ゾーン4の寸法は、ピペット、ノズル又は吸引毛管の寸法に対応するように適合される。
【0097】
なお、
図1のマイクロ流体デバイス10の場合と同様に、
図3のマイクロ流体デバイス10の第1のチャネル2及び第2のチャネル3のそれぞれの寸法は、液体流の最中に生体試料の少なくとも一部が封入ゾーン5に封入され、この封入ゾーン5内の生体試料の空間分布が制御されるように適合される。具体的に言えば、第2のチャネル3の幅W
out及び/又は高さH
outは、第2のチャネル3が生体試料のための物理的障壁として機能し、従って、上述したように第1のチャネル2の空間内で生体試料の封入が行われるように、第1のチャネル2のそれぞれの幅W
in及び/又は高さH
inよりも小さい。1つの例によれば、第2のチャネル3の幅W
out及び/又は高さH
outは、第1のチャネル2のそれぞれの幅W
in及び/又は高さH
inよりも小さい以外に、第2のチャネル3が生体試料の特定の寸法に適合する改善された物理的障壁を提供して第2のチャネル3における生体試料の通過をより効果的に阻止するように、生体試料の寸法よりも小さい。
【0098】
また、第1のチャネル2の幅及び/又は高さの適合は、外植片の寸法に依存するとともに、生体試料が損傷を伴わずに第1のチャネル2を通過できるように、あらゆる場合において浮遊状態の生体試料の寸法よりも少なくとも1%大きいことが好ましい。
【0099】
また、第1のチャネル2の長さについては、外植片を第1のチャネル2に導入して経路上のアクシデント(封入ゾーンに到達する前の第1のチャネル2の壁部への望ましくない外植片の付着)を防ぐようにできるだけ短いことが好ましい。
【0100】
図3の例では、封入ゾーンにおける空間分布を制御することによって生体試料の少なくとも一部を封入ゾーン5に封入する決定的な要素が、上述したマイクロ流体デバイス10の特定の構造であり、
図1の例のような
損失水頭ではない。このように、
図3のマイクロ流体デバイス10内に第1のチャネル2及び第2のチャネル3が存在することにより、具体的にはこれらの2つのチャネル2、3のそれぞれの寸法を上述したように十分に適合させることにより、封入ゾーンにおける生体試料の空間分布を制御することによって、封入ゾーン内の液体流の速度を制御して生体試料の少なくとも一部をこの封入ゾーンに封入できるようなマイクロ流体デバイス10が得られることが分かっている。なお、この
図3の例では、上述した液体吸引によって封入ゾーン内の液体流の速度を制御することもできる。
【0101】
試料
この例において実装した試料の一方(
図4の場合)は、
- Neurobasal、b27、L-システイン及びPen/Strepを含有する細胞培養液
- の中に浮遊した状態の神経節、
を含む生体試料である。
【0102】
この例において実装した他方の試料(
図5の場合)も生体試料であるが、この試料は、 - Neurobasal、b27、L-システイン及びPen/Strepを含有する細胞培養液
- の中に浮遊した状態の海馬、
を含む生体試料である。
【0103】
図4及び図5のマイクロ流体チップの外植片のサイズの関数としてのサイズ決定
図4及び
図5には、
図3に概略的に示すマイクロ流体デバイス10の封入ゾーンの平面図に相当する写真をそれぞれ示しており、
-
図4では、封入された外植片12が250μmの直径の神経節であり、
-
図5では、封入された外植片13が3mmの長さ及び200μmの幅の海馬である。
【0104】
図4及び
図5で明らかなように、封入ゾーン5は第1のチャネル2の下流の空間に対応し、第2のチャネル3の高さは、第2のチャネル3における外植片の通過が妨げられるようなものである。なお、
図4及び
図5の例では、入力チャネル2が、1.2mmの高さ、2.3mmの幅及び3mmの長さを有し、チャネル出力3が、100μmの高さ、100μmの幅及び4mmの長さを有する。また、
図4及び
図5の例では、(
図4及び
図5には示していない)入力ゾーンが円筒形であって5mmの高さと4mmの直径とを有し、(
図4及び
図5には示していない)出力ゾーンも円筒形であって5mmの高さと2mmの直径とを有する。
【0105】
図4及び
図5の例では、入力ゾーン1を通じて導入される液体の体積が40μLであり、封入ゾーン内の液体の流速が吸引によって引き起こされる。
【0106】
参考文献一覧
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